事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第37回】 「AI事業会社の架空売上」 弁護士 原 正雄 2024年10月に東証グロースに上場したO社において、翌2025年4月、売上が過大計上されている可能性が浮かび上がった。証券取引等監視委員会の調査がきっかけである。 ただちに第三者委員会が設置され、同年7⽉25⽇、調査報告書が提出され、同月28日、その公表版が公表された。その結果、過去3年半で売上が合計119億円、過大計上されていたことが明らかになった。O社が受け取っていた代金は、O社が広告代理店に提供した金額が戻ってきただけであり、売上としての実態を伴っていなかった。 同年10月29日、法人としてのO社とY社長ら4名が、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載など)の罪で起訴された。2026年5月25日、O社に罰金3億円、2名に懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決が言い渡された。他方、Y社長ともう1名は、同日時点で公判がまだ始まっていない。 以下、第三者委員会の調査報告書を中心に、O社の不正について分析する。 1 O社の概要と売上 O社は、2014年11月設立で、会議等の発言を「文字起こし」して議事録などを自動作成するAIプロダクト(以下、本AIサービス)を提供する会社であった。 資本金約23億円、従業員数75人(連結)、売上約60億円で、売上のうち本AIサービス分が約53億円であった。本AIサービスと有料アカウント数は、下表のとおり急成長を遂げていた(2024年12月期有価証券報告書)。もっとも、実際は、そのほとんどが架空売上であった(2025年7月28日「第三者委員会の調査報告書(公表版)公表に関するお知らせ」)。 2 売上過大計上 (1) 本AIサービス提供開始と、同額取引の開始 O社が本AIサービスの提供を開始したのは、2020年1月である。前年4月の人工知能展示会に出展し、大きな反響を得たことがきっかけであった。 しかし、売上は計画を大きく下回った。普通預金残高が1,000万円を切る等、資金繰りは逼迫した。資金調達のため、売上実績を作ることが課題となった。 本AIサービスの売上は、ユーザーにアカウントを発行した時点で計上する。ただし、「スーパーパートナー」と称する販売店(以下、SP)には、アカウントを一定量まとめて販売しており、その販売時点で売上を計上していた。SPはアカウントをユーザーに転売するが、転売できなくてもSPの責任であり、O社の売上には影響しない。 そのため、SPに広告宣伝費などの名目で資金を提供し、その資金を元手にSPにアカウントを購入させれば、ユーザーが存在しなくても売上計上できる。Y社長は、売上を確保できるなら売上と同額の広告費を支払ってよい、との意向を示すようになった。ある営業担当は、広告代理店等に対して「Y社長曰く、たとえばですが、1億円の売上成果が出るのであれば、1億円近くの広告費用をかけても良い、というスタンスです」などと説明していた。 2020年6月下旬、O社は、以下の取引を開始した。 (2) 本件SPスキームの形成 O社は、上場を目指していた。そのため、2020年11月、AW監査法人と監査契約を締結して会計監査を受けるようになった。また、2021年3月、証券会社AVを主幹事とする新規上場アドバイザリー契約を締結した。 そうしたところ、AW監査法人から、上記J社との取引について「アカウント利用料1,500万円については、実質的な負担は貴社が行っていることから、売上計上はできない」と指摘されてしまった。O社は、売上先と外注先が同一で同額の取引は、監査法人が売上と認めないと認識した。 以後、O社は、売上先と外注先を分けるようになった。 2021年6月、O社は、以下の取引を開始した(以下、本件SPスキーム)。 その後、O社は、本件SPスキームに関与する広告代理店やSPの数を増やしていった。Y社長は、Googleスプレッドシートを用いて本件SPスキームによる資金移動のスケジュールを管理し、架空の売上を作っていた。 3 監査法人などの対応 (1) 監査法人の交代 2022年2月頃、AW監査法人の監査によって、O社の外注先である広告代理店と販売店であるSPとの間で、代表取締役や本店所在地が同一であったり、同一グループに属していたりするケースが複数存在することが判明した。 AW監査法人は、循環取引の可能性があると指摘し、同年7月、前事業年度(2021年12月期)の監査を完了できず、進行期(2022年12月期)の監査契約も締結できないと告げた。 O社は、会計監査人を、AW監査法人から監査法人SDに交代することになった。 (2) 後任の監査法人SDの対応 ① AW監査法人からの引継ぎと、監査法人SDによる確認 監査法人SDは、AW監査法人から「広告宣伝の取引先と本AIサービスの販売先とが同一グループ内の会社であることが判明し、その広告宣伝費と売上とがほぼ同様の増加推移を示していることから、循環取引の疑念が生じた」と引継ぎを受けた。 そこで、監査法人SDは、O社に対し、監査契約を締結する条件として、問題視された広告代理店との契約を解消するよう申し入れた。2022年8月頃、O社は、当該広告代理店への広告宣伝費の支払を停止した。 それを確認した監査法人SDは、2022年9月、O社と監査契約を締結し、2022年12月期の会計監査を行うことになった。 監査法人SDは、監査において、当該広告代理店への支払終了後も、対応するSPへの売上が減っていないことを確認した。この確認は、仮に循環取引が行われていた場合、広告代理店への支払停止によって資金が回らず、当該SPの売上も減るはず、という前提によるものであった。 ② 「広告宣伝費」の支払先の変更 もっとも、O社は、当該広告代理店への支払を停止した金額を、別の広告代理店A社への「広告宣伝費」に上乗せしていた。すなわち、SPへの資金提供の経路がA社に代わっただけであった。SPの売上が減らないのは当然であった。 例えば、2022年7月、A社へのテレビCM 費用として広告宣伝費4,290万円が計上されている。しかし、ここで実際の広告宣伝費は、1,430万円にすぎなかった。残りの2,860万円は、A社からSPに提供され、SPによる本AIサービスのアカウント購入費用に充てられていた。 なお、監査法人SDは、A社への広告宣伝費についても監査していた。しかし、上記テレビCMについては、対象番組(ニュース番組)や放送日などが具体的に記載された資料の提出を受けたため、整合性を確認できたと判断してしまった。 ③ 監査法人SDによる売上の実在性の確認 監査法人SDは、SPへの本AIサービスの売上も監査していた。 しかし、監査法人SDは、SPとの契約書、発注書、納品書、請求書の提出を受け、それらが整合していることを確認した。銀行入金明細の提出を受け、SPからの入金が実在することも確認した。資料「議事録利用量ランキング」において、各SPがランキングに掲載されていることや、O社がエンドユーザー数を把握していることも確認した。そのため、実在性を確認できたと判断してしまった、とのことである。 他方、ユーザー管理用データベース等を見ていれば、SPへ発行したアカウントが稼働していないことを確認できた。しかし、監査法人SDは、そうした資料の提出は求めていなかった。 (3) 社外取締役や監査役の対応 上記のとおりO社は、AW監査法人から循環取引の疑いを指摘されていた。 会計監査人がAW監査法人から監査法人SDに交代した直後の2022年8月、O社は「重要事項の共有説明会」を開催し、株主への説明を行った。また、取締役会でも、社外取締役や監査役らに説明をした。 社外取締役や監査役らは、O社の説明に納得するとともに、その後の監査法人SDからの監査報告を受け、循環取引の疑義は解消されたと認識した、と説明している。 もっとも、報道によれば、同年9月1日に中途入社した経営企画部長が、すぐに循環取引の疑いに気付いてY社長ら経営陣や常勤監査役に報告し、対応を促した。しかし、対応する様子がなかったため、同月末に退職した。後に証券取引等監視委員会がO社へ調査に入ったのは、同部長の退職後の告発がきっかけのようである(日経新聞2025年10月10日)。 上記のとおり、常勤監査役は、経営企画部長から、循環取引の疑いについて報告を受けていた。にもかかわらず、同年10月17日、常勤監査役は、全株主に対し、メールで「調査報告書」と題する書面を送付し、①循環取引の疑いについて自ら資料を確認したこと、②AW監査法人に提出した資料は十分であったこと、③2021年12月度の監査役会監査報告に変更がないこと、を伝えた。本件SPスキームを主導していた取締役CFOから、株主に説明をしてほしいと依頼を受けたことが理由であった。 4 新規上場 2024年1月、主幹事証券であるAVが、引受審査を開始した。 同年6月、O社は東証に新規上場を申請した。JPX上場審査部は、主幹事証券のAVの引受審査の結果を確認したうえで、会計監査人や役員らとの面談、事業所等の実査等を行った。 同年9月5日、O社は上場を承認されたが、直後の同月10日、主幹事証券のAVから、販売先と外注先が同じ取引が存在しており調査が必要、と伝えられた。O社は、資料を改ざんして虚偽の報告を行い、当該状況を乗り越え、翌10月11日、東証グロース市場への上場を果たした。第三者委員会は、これを「悪質な偽装工作」と評価している。 なお、同月17日、社外監査役の一人が、取締役会において、今後は循環取引と疑われる取引が発生しないよう気を付けるように、と進言した。しかし、その後の監査計画において、循環取引が重点監査項目にされた事実はない。 5 再発防止策と内部通報制度 以上のとおり、本件では複数のアラートが表示されていた。にもかかわらず、経営陣の暴走を止めることができなかった。そうした中、どのような再発防止策をとるべきか。 本件では、Y社長ら経営トップにおいて誠実性が欠如していた。そのため、再発防止策としては、経営トップに対する牽制機能(ガバナンス)の強化が不可欠である。社外役員や監査役による牽制機能の強化である。 また、内部監査は社長が直轄することが多いため、社長自身の不正については機能しない。そこで、内部監査部門からの報告先に、社外役員も追加すべきである。 さらに、O社では内部通報制度が設けられていたが、利用実績がなかった。そこで、内部通報制度について改めて周知し、不正は通報されるという認識を共有すべきである。調査も、内部調査ではなく、外部の者が行う体制にすることも一案、とされている。 なお、本件を受けて、上場審査の在り方も見直され、内部通報制度の整備状況をより厳格に確認すべきことになった(2025年12月12日/IPO連携会議「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」、2026年3月18日/日本証券業協会「新規上場時の会計不正事例を踏まえた引受審査に関するガイドライン」)。 (了)
〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第6話 義足の浅川審判官② 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・措置法施行令37条の5第2項は、次のように規定しています・・・」 そう言うと、永途は、ゆっくりと読み上げる。 「・・・このように『通常要する費用』とは規定していますが、通達の述べている『通常会議を行う場所』とは、法令のどこにも書いてありません・・・」 永途の声が少し大きくなったので、何人かの審理部の職員が顔を上げて、振り向く。 「・・・そうだなあ・・・」 葛本審査官は、スクッと立ち上がり、自分の席に戻る。 そして、ロッカーから一冊の本を持ってくる。 『法人税関係:措置法通達逐条解説』(6訂版:財経詳報社)である。 「・・・平成2年の発刊の本で古いけど・・・『会議に関して通常要する費用の例示』についての解説では、次のように書かれている・・・」 葛本審査官は、ページ(476頁)を開き、小さな声で読み上げる。 「・・・こんなふうに書いていますが、永途さんは、これをどう読みますか?」 葛本審査官は、微笑みながら、永途に問いかける。 「・・・そうですねえ・・・私の担当の審査請求人は、ドイツからバイヤーが来て、その取扱商品のドイツにおける宣伝について、審査請求人と打ち合わせをしていたと主張しています・・・ただ・・・場所は・・・会社の近くのスナックということだけど・・・」 永途は、思案顔になる。 そのとき、ドアの方から、再び、床を叩くような音が響く。 永途が振りかえると、先ほどの初老の老人である。 そのとき、葛本審査官が立ち上がる。 「・・・浅川審判官・・・ちょっと教えて下さい・・・」 葛本審査官は、浅川審判官に椅子を差し出し、永途を紹介する。 「・・・今年、審判所に配属された永途審査官です・・・今、交際費についての質問を受けていたのですが、浅川審判官のご意見をお聞きしようと思って・・・」 葛本審査官は、ニコニコしながら、先ほどから、永途に聞いた事件の概要を簡単に説明する。 「・・・そうですねえ・・・私は、交際費のことは・・・あまり知りませんけれど・・・それに関する判例がいくつかあったと思います・・・」 そう言うと、浅川審判官は、引きずるような音を響かせながら、自分の席に行く。 ノート型のパソコンを開き、判例を検索しているようである。 しばらくして、浅川審判官は、印刷したコピーを持ってくる。 「・・・これは神戸地裁平成4年11月25日判決だが・・・その支出の内容は・・・実質的にも会議としての実体を備えたものでないと判断されているから・・・永途さんには、余り参考にならないかも知れない」 と浅川審判官は言って、永途に判例を見せる。 「はい・・・『開催場所は、焼鳥屋、焼肉店、ステーキハウス、割烹店等であって、通常会議が行われるには相応しくない場所』と述べていても、それだけで会議費を否定しているのではなく、この事件では、会議費としての実体がないという事実認定で、会議費を否定している・・・もし、会議費としての実体がある場合、その会議の場所がどこであっても、認められるのではないかと思うのです・・・この判決でも・・・」 永途は、再び、声が高くなる。 「・・・確かにそうかも知れない・・・ドイツから取引先のバイヤーが来て、ビールを飲みたいと言うので、会社の近くのスナックで、ビールを飲みながら、取扱商品のマーケティングについて協議をしたというのであれば・・・会議費として処理しても良いかもしれないが・・・しかし、それは、通達の考え方と異なるからなあ・・・」 浅川審判官は、腕を組んで、正面にいる永途をみる。 (つづく)
《速報解説》 国税庁が令和8年分の路線価を公表 ~全国平均路線価は5年連続上昇も上昇地域と下降地域の二極化が進行~ Profession Journal編集部 令和8年7月1日付けで国税庁は、相続税及び贈与税の算定基準となる令和8年分の路線価(1月1日時点)を公表した。 令和8年分の全国平均路線価は前年に比べて2.9%のプラスとなり、5年連続の上昇となった。昨年の令和7年分は2.7%のプラスであり、コロナ禍の影響で下落した令和3年分以降、4年連続の上昇となっていた。今年はその上昇傾向がさらに加速した形となる。 都道府県別で見ると、36都道府県で上昇し、8県で下落となった。昨年は東京都の平均上昇率が8.1%と最も大きく、全国平均と比べても大きな伸び率となっていたが、今年も国内外の投資マネーの流入、インバウンド(訪日客)や都市部のマンション需要などから昨年を超え、9.4%の上昇となった。 なお、地点別の路線価最高額は、今年も東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり5,336万円を記録し、41年連続で全国路線価トップとなっている。昨年は4,808万円であり、前年比11%のプラスとなった。 〇顕著な上昇が見られる地域と二極化の進行 コロナ禍後のインバウンド需要の拡大や海外投資家の動向は、引き続き特定エリアの地価を牽引している。 今年の調査においても、前年比の上昇率で見ると長野県白馬村(32.7%プラス)、同県野沢温泉村(31.3%プラス)、北海道富良野市(28.0%プラス)、東京都浅草(27.5%プラス)が大きな上昇率を示した地域となり、いずれも主に観光需要によるものと考えられる。 一方で、こうした恩恵を受けられていない地方エリア等については路線価の下落が続いている地域も少なくない。都市部や有名観光地が上昇を続ける半面、それ以外の地域との二極化はますます鮮明なものとなっている。思わぬ税負担が生じる地域と、資産価値の目減りが続く地域が混在しているため、実務においては対象地域の最新の傾向を見極める必要がある。 〈参考:各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 (了)
《速報解説》 会計士協会、「品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度)」等を公表 ~自律的なPDCAサイクル促進の重要性やリスク・アプローチの徹底等について言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年6月30日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これらは、監査事務所に関する監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査事務所である。 しかしながら、これらに記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあり、実務の参考になるものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度) すでに、上場会社等監査人登録制度が導入されているところ、2026年度から2028年度までにおいては、登録後の品質管理システムが実態を伴うよう、自律的なPDCAサイクルを促進していくことも重要であるとしている。 監査事務所の品質管理の取組の一層の向上につながるよう、引き続き指導・監督機能の発揮に努めること、リスク・アプローチの徹底、中小監査事務所(登録上場会社等監査人)の監査品質の向上などについて記載している。 Ⅲ 2026年度品質管理レビュー方針 当年度は、登録上場会社等監査人に対して、監査事務所のリスク評価プロセスのデザインと適用並びにモニタリング及び改善プロセスの運用の状況の確認を通して、監査事務所の品質管理システムの整備及び運用並びに評価が適切に行われているかを確認することにより、品質管理基準の適用状況を確認する。 登録上場会社等監査人に対する品質管理レビューにおける重点的実施項目として、業務管理体制、監査事務所における品質管理、監査業務における品質管理について記載している。 Ⅳ 2025年度品質管理レビュー事例解説集Ⅰ部・Ⅱ部 繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、収益認識などについての改善勧告事項について解説している。 これらの改善勧告事項は、一般の事業会社における会計処理等に際しても、参考になるものと考えられる。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和8年度改正等に伴う法人税基本通達等の一部改正通達を公表 ~関連者間取引書類の整理保存特例の創設・研究開発税制の委託試験研究の取扱い等を整備~ Profession Journal編集部 国税庁は、「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)を公表した。 本改正は、令和8年度税制改正等に伴い、法令改正に対応した取扱いの整備及び明確化を図るためのものであり、改正の対象は、第1「法人税基本通達関係」、第2「租税特別措置法関係通達(法人税編)関係」及び第3「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)関係」の3編にわたる。 以下、主な改正点を整理する。 Ⅰ 法人税基本通達関係 1 関連者間取引に係る書類の整理保存の特例(法令改正対応) 令和8年度税制改正により、青色申告法人が、その関連者との間で関連者間取引を行った場合の書類の整理保存に係る特例が創設された。 具体的には、青色申告法人が関連者間取引に関して受領し、又は作成した注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類(取引関連書類等)に、当該取引に係る対価の額を算定するために必要な事項(特定事項)の記載又は記録がないときは、特定事項を明らかにする書類(特定事項記載書類)を、その取引を行った事業年度の申告書の提出期限までに取得し、又は作成し、起算日から7年間、納税地等に保存しなければならないこととされた。内国法人である普通法人等についても、同様の特例が創設されている。 これに伴い、運用上の取扱いとして、以下の通達が新設された。 基通 17-3-4 工業所有権等の意義 基通 17-3-5 取引を行った場合の意義 基通 17-3-6 特定事項記載書類の性質 基通 17-3-7 特定事項記載書類の取得等を要しない場合 基通 17-3-8 反復継続取引 基通 17-3-9 費用分担等に係る事業活動の例示 基通 17-3-10 経営の管理又は指導等に係る役務提供の例示 基通 17-3-11 普通法人等への準用 これらの通達では、特定事項記載書類について、関連者間取引の内容の全てを記載する必要はなく、特定事項が明らかにされていれば足りること(基通17-3-6)、複数の取引関係書類を総合して必要記載事項を確認できる場合には特定事項記載書類の取得等を要しないこと(基通17-3-7)、同一内容の貸付け又は役務の提供が反復継続して行われ取引条件等に変更がないことが確認できるときは一の特定事項記載書類の取得又は作成で差し支えないこと(基通17-3-8)などが明らかにされている。 Ⅱ 租税特別措置法関係通達(法人税編)関係 1 研究開発税制(法令改正対応) 研究開発税制について、控除対象となる試験研究費の額の範囲の見直し等が行われたことに伴う通達整備が行われた。 令和8年度税制改正により、他の者に委託する試験研究(その委託に基づく試験研究が国外において行われるものに限る。)に係る試験研究費の額について、①医薬品等に係る臨床試験の委託に係る試験研究費の額はその全額が、②それ以外の試験研究費の額はその50%相当額が、それぞれ税額控除の対象とされた。 ②については、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度は70%相当額、令和9年4月1日から令和10年3月31日までの間に開始する事業年度は60%相当額とする経過措置が設けられている。また、中小企業向けの措置について繰越税額控除制度が追加された。 これに伴い、他の者に委託する試験研究が国外において行われるかどうかの判定(措通42の4(1)-7 新設)等が整備され、当該判定は、受託者が内国法人か外国法人か等にかかわらず、試験研究が行われる場所が国外であるかどうかにより判定することが明らかにされた。このほか、中小企業者であるかどうかの判定の時期(措通42の4(3)-1 改正)、被合併法人等が有する繰越税額控除限度超過額(措通42の4(4)-7 新設)が整備されている。 2 外国子会社合算税制の見直し(法令改正対応) 外国関係会社の本店所在地国の外国法人税の税率が所得の額に応じて高くなる場合に最高税率を用いて租税負担割合を計算することができる特例について、本特例を適用することが著しく不適当であると認められる場合には適用できないこととする等の改正が行われた。 これに伴い、累進税率の場合の特例の適用(措通66の6-27 改正)が改正され、本特例を適用できないこととされる事情に該当する具体例が留意的に明らかにされた。 Ⅲ 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律関係通達(法人税編)関係 震災特例法関係通達についても、特別償却又は法人税額の特別控除に係る取扱い等について、所要の改正が行われている。 (了)
令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
令和6年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和6年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 証券取引等監視委員会が「開示検査事例集(令和7年度)」を公表 ~固定資産売却益の過大計上や暗号資産の評価をめぐる虚偽記載事例を取り上げる~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 証券取引等監視委員会(以下、「監視委」と略称する)事務局は、2026年6月23日、「開示検査事例集(令和7年度)」(以下、「事例集」と略称する)を公表した。昨年度の事例集から、表記が「事務年度」から「年度」に改められており、今回の事例集の対象期間は「令和7(2025)年4月から令和8(2026)年3月」となっている。 令和7年度版の「開示検査事例集」では、新たに、令和6年4月から令和7年3月までの間に開示検査を終了し、開示規制違反について課徴金納付命令勧告を行った7事例について、概要が紹介されている。 令和4事務年度から始まった、課徴金納付命令勧告を受けた上場会社の実名公表は継続されているが、過去の検査事例(事例8から事例51)については、これまでどおり、課徴金納付命令勧告を受けた上場会社の実名の表記はない。 本稿では、公表された事例集のうち、最近の開示検査の動向を知るうえで参考になると思われる、ⅠからⅢまでを中心にその内容をご紹介したい。なお、「Ⅱ 開示検査の実績とその内容」については、令和5事務年度から、タイトルにあった「最近の」という言葉がなくなるとともに、内容が大幅に拡充されており、令和7年度の特徴と過去5年度分の特徴が比較分析されていたり、また、イメージ図やグラフなども多く挿入されていたりと、継続してわかりやすさを追求した記述となっていると評価できる。 Ⅰ 最近の開示検査の取組みについて 事例集「Ⅰ 最近の開示検査の取組み」の冒頭に掲げられた文章は、令和5事務年度版で大幅に修正された文章が、令和7年度版でもそのまま踏襲されている。 参考まで、令和4事務年度事例集までの表現は次のとおりである。 監視委は、令和5事務年度以降、開示規制違反の態様が多様化していることを強調しているようである。そのうえで、監視委の取組みについて、以下の3項目を挙げている(赤字記載部分は、令和5事務年度から表現が改められている箇所を意味している)。 (※) 令和4事務年度版までは、「情報力の強化」と説明されていた。 Ⅱ 最近の開示検査の実績とその内容 令和7年度(令和7年4月~令和8年3月)に、監視委が行った開示検査は24事案で、前年実績(22事案)を上回っている。そのうち、検査が終了した8事案(前事務年度実績は13事案)のうち、開示書類における重要な事項につき虚偽の記載がある等の開示規制違反が認められた7事案について課徴金納付命令勧告を行うとともに、うち1事案については、訂正報告書等の提出命令勧告を合わせて行っている。 監視委は、令和7年度の特徴的な勧告事案として、次の2事例を挙げている。 監視委は、事例2について、違反行為者は、債務超過を解消するため、会長が実質的に支配していた会社に対する固定資産売却取引について、本来行うべき内部取引の相殺消去を行わず、連結財務諸表も作成しないことにより、固定資産売却益等を過大に計上したものであると説明するとともに、事例7については、違反行為者は、「活発な市場が存在しない暗号資産」の評価について、元取締役2名による取引で吊り上げられた価格である暗号資産交換所における期末の終値を基に「処分見込価額」を算定することにより、暗号資産評価損を計上しなかったものであること等と説明している。 監視委は、令和7年度に課徴金納付命令勧告を行った事案において認められた、開示規制違反の背景・原因として共通した主な項目について、次のように列挙している。 なお、「開示規制違反の背景・原因として共通した主な項目」については、令和6年度と同じ分類となっており、多くの会計不正=開示規制違反に共通する要因であると言えよう。 Ⅲ 最新の課徴金納付命令勧告事例 事例集に記載された「令和7年度における課徴金勧告事案の一覧」(事例集22頁)7事例については、下表のとおりである。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 なお、事例2の「株式会社アルファクス・フード・システム」は、2020年6月26日においても、「売上の前倒し等」を理由に、監視委から課徴金納付命令勧告を受けており(その際の課徴金額は3,577万円)、2度目の勧告となった。なお、同社は、2025年9月6日に上場廃止となっている。また、事例1の株式会社創建エースも、2025年9月19日付で、上場廃止となっている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国民会議が、給付付き税額控除等に関する 「中間とりまとめ(案)」を公表 ~令和9年4月から2年間、飲食料品の消費税率を1%に引下げ、 令和11年度に新給付制度を本格導入~ Profession Journal編集部 2026年6月24日(水)、「社会保障国民会議 給付付き税額控除等に関する実務者会議(第16回)」が開催され、その中で示された「中間とりまとめ(案)」が同日、内閣官房ホームページにおいて公表された。 中間とりまとめ(案)ではこれまでの給付付き税額控除等に係る議論を踏まえ、「所得に連動したきめ細かな給付」(以下「所得連動型給付」という)を行う新制度を早期導入すべきとの結論を得たうえで、本格導入は令和11年度としている。また、新制度導入までの経過措置(つなぎ)として、消費税率引下げと所得連動型給付の先行導入を組み合わせることを適当としている。 以下では、案の段階で示された新制度の基本的設計と制度導入までの経過措置(つなぎ)について主に概観する。 1 制度の基本的設計 所得連動型給付導入の目的は、主に次の2つに対応することとしている。 これらに対応することを念頭に、制度導入のための環境を整えた上で、令和11年度に本格導入する。 (1) 給付対象 就労インセンティブの向上や、いわゆる「年収の壁」への効果的な対応の観点等を踏まえ、給付の対象は「個人単位」とし、単身者も対象とする。また、一定の勤労性の所得(※1)があり、一定の税・社会保険料負担がある者を対象(※2)。 (※1) 勤労性の所得には、事業所得及び給与所得に加え、近年の多様な働き方に鑑み、業務に係る雑所得も含めることとし、個人事業者、フリーランスも対象とする。その際、事業所得と業務に係る雑所得は、就労とみなせるような一定額以上の場合に含めることとする。 (※2) 就労し、税・社会保険料負担から年金受取額を差し引いた純負担が現役並みである中低所得の高齢者も対象。 (2) 給付額 原則として、所得に応じた給付額とする。就労促進の観点から、勤労性の所得が一定の水準に達するまで給付額を逓増させ、その後は定額とし、総所得が一定額を超える場合、公平性の観点から、総所得に応じて逓減・消失させる。また、年収の壁を超えた対象者に一定の給付額を上乗せする。 なお、こどもを扶養している者については、18歳以下のこどもの人数に応じた加算を行うとしている。 〈参考:制度設計のイメージ〉 (※) 内閣官房ホームページ「給付付き税額控除のイメージ(中間とりまとめに向けた議論の整理(給付付き税額控除))((令和8年5月27日)資料2)」より抜粋 2 経過措置(つなぎ) 所得連動型給付については、公平性などの観点から、追加的な情報確保の仕組み等の環境整備が必要なことで令和11年度の本格導入が予定されている。その間に限った経過措置(つなぎ)として、飲食料品に係る消費税率の引下げと、所得連動型給付の先行導入を組み合わせることが適当との意見があったとしている。 これに伴い、経過措置(つなぎ)の内容としては主に下記の①から③が示された。 (※) 本格導入時には行われる世帯のうち配偶者の所得を勘案する一定の例外措置を設けず、18歳以下のこどもの人数に応じた加算に代えて 15 歳以下のこどもの人数に応じた加算を行うなど経過的な措置を講じる。 なお、仕入税額控除の還付が受けられない農業従事者等への対応検討及び外食産業等についても影響を見極めた上で、資金繰り支援等のための予算措置を検討するとしている。また、飲食料品に係る税率の変更に伴い、レジ・会計システムの改修や価格表示の見直し等、事業者および顧問税理士に広範な実務対応が生じることが見込まれる。 3 将来的な方向性 今回、短期的には給付への1本化が望ましいことから所得連動型給付の導入が示された一方、将来的には税額控除と給付の組合せとするべきとの考え方も強く示されたため、「給付付き税額控除」の実施も踏まえ、今後、税制に関しては人的控除の在り方の見直しを含む所得税の抜本的な改革について、着実に検討を進めるとしている。 なお、本稿は実務者会議の「中間とりまとめ(案)」段階の内容であり、今後の与党税制調査会・政府における立法プロセスを経て確定するものである点に留意されたい。 (了)
2026年6月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.674を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。