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従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第15回】「定年後再雇用における業務内容の変更と再雇用の拒絶の可否」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第15回】 「定年後再雇用における業務内容の変更と再雇用の拒絶の可否」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社においては定年を60歳とし、雇用期間を1年とする定年後再雇用制度を採用して65歳までの雇用確保措置を講じています。今年定年を迎える従業員Aが定年後再雇用制度の利用を希望していますが、当社において、現在従業員Aが従事している業務は縮小傾向にあることから、当社は、従業員Aに対して、従業員Aが定年前に従事していた業務とは異なる業務での再雇用を提案しました(なお、賃金額は変更後の業務内容等に見合ったものになります。)。 すると、従業員Aは「会社は、定年前と同じ業務内容で再雇用する義務があるのだから、定年前と同じ業務内容で再雇用しなければ、違法な再雇用拒否に当たる。」などと主張し、当社の提案を拒絶しました。 当社は従業員Aに対して定年前と同じ業務内容での再雇用を提案しなければならないのでしょうか。 【Answer】 定年後の業務内容が、従業員Aが定年前のキャリアを活かすことが極めて難しいような、定年前の業務内容を抜本的に変更するものであったり、従業員Aに屈辱感を与えるおそれのあるようなものに当たらなければ、定年前の業務内容を変更することは可能です。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 事業者は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引上げ、継続雇用制度(定年後再雇用等)の導入、定年の定めの廃止のいずれかを講じなければならない(高年齢者雇用安定法9条1項)。 近年、これらの措置のうち、定年の引上げを採用する事業者が増加傾向にあり、継続雇用制度(定年後再雇用等)を採用する事業者は減少傾向にあるものの、いまだ後者を採用する事業者の割合が最も多い(前者を採用する事業者の割合につき約28.7%、後者につき67.4%)。(※1) (※1) 厚生労働省『令和6年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果』 近時の人手不足を受けて、高年齢者の雇用に積極的な事業者は多いが、AI技術の発展によるホワイトカラー業務の減少などに伴い、定年後再雇用に際して、当該従業員が従前に従事していた業務と異なる業務を提案したいというニーズも多いと思われる。 そこで、本稿においては、定年後再雇用に際して、当該従業員が定年前に担当していた業務と異なる業務を提示することの可否及び範囲について論じるものとする。   2 定年後再雇用と法規制 定年後再雇用については、主に以下の法規制が存在する。 (1) 高年齢者雇用安定法(高年法)9条1項 事業者は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、定年の引上げ、継続雇用制度(定年後再雇用等)の導入、定年の定めの廃止のいずれかを講じなければならない。 (2) 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パート有期法)8条 有期雇用労働者の待遇について、無期雇用労働者との間の待遇の相違があることを前提に、①職務の内容(業務内容、業務に伴う責任の程度)、②職務の内容及び配置の変更の範囲(配置転換や昇進等の人材活用の仕組み)、③その他の事情に照らして不合理であることを禁止する。 (3) パート有期法9条 有期雇用労働者の待遇について、無期雇用労働者と、上記①及び②が同一である場合は、差別的取扱い(労働条件に相違を設けること)を禁止する。 パート有期法8条は、業務内容等に相違があることを前提に、相違が不合理であることを禁止するものであり、また、パート有期法9条は業務内容等に相違がないことを前提とするものであって、いずれも基本的に業務内容等に相違を設けること自体を問題とするものではない。 よって、以下においては、高年法9条1項に違反せずに業務内容等を変更できる範囲について論じるものとする(なお、賃金額は、変更後の業務内容等に見合ったものであるとのことなので、賃金について、パート有期法8条及び9条には抵触しないことを前提とする。)。   3 高年法9条1項 上記のとおり、高年法9条1項は、事業者に、65歳までの安定した雇用の確保の措置の導入を求めているが、定年前の労働条件を維持することまで求めているわけではない。 一方、高年法の趣旨に照らして、事業者は合理的な裁量の範囲の労働条件を提示する必要があると解されているが、事業者が合理的な裁量の範囲の労働条件を提示していれば、労使間で合意が成立せず、その結果、継続雇用が実現しなくても、雇用確保措置義務違反とはならないと解されている。 そして、労働条件の提示が「合理的な裁量の範囲」内であると認められるためには、定年前後で労働条件の継続性・連続性を一定程度確保する必要があり、これに欠ける(あるいは乏しい)場合にはこれを正当化する合理的な理由が必要であると解されている(※2)。 (※2) 九州総菜事件(福岡高判平成29年9月7日)は、「継続雇用制度(高年法9条1項2号)は、高年齢者の65歳までの「安定した」雇用を確保するための措置の一つであり、「当該定年の引上げ」(同1号)及び「当該定年の定めの廃止」(同3号)と単純に並置されており、導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ、後二者は、65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり、当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち、当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており、仮に、当該定年の前後で、労働者の承諾なく労働条件を変更するためには、別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当であり、このように解することが上記趣旨(高年齢者の65歳までの安定雇用の確保)に合致する。」と判示した。 いかなる場合に「労働条件の継続性・連続性」が一定程度確保されていると認められるかについては、定年後再雇用契約が新たな契約のまき直しではあるものの定年前後で「継続性・連続性」が確保されることが求められていることに照らすと、雇用期間中の業務内容等の変更(配置転換等)の有効性の判断基準(※3)を参考にすることも可能であると思われる。 (※3) 事業者による配置転換権の行使につき、①業務上の必要性がない場合、②不当な動機・目的をもってなされた場合、③労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものである場合などには、権利濫用に当たり、無効となる(東亜ペイント事件・最判昭和61年7月14日)。 このような観点から、以下の参考裁判例に照らすと、定年前後での業務内容等の相違が以下①や②のような場合には、「継続性・連続性」が確保されていないものとして、高年法9条1項に違反するおそれがあるのではないかと思われる。 (※4) 安藤運輸事件(名古屋高判令和3年1月20日)等、従前と全く異なる職種への配転命令につき、キャリア形成への期待を害するものであり従業員に与える不利益が大きいなどとして無効としたものがある。 (了)

#No. 644(掲載号)
#柳田 忍
2025/11/13

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第24回】「成年後見制度と報酬」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第24回】 「成年後見制度と報酬」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 顧客の依頼で成年後見人になることが予定されています。実際のところ報酬はいくらくらいになるのでしょうか。顧客も気にしていますし、私も事務所の経営を考えると事前に知っておきたいところです。 【A】 法定後見制度を利用している場合、 報酬は成年後見人等が「報酬付与の申立て」を家庭裁判所に行い、家庭裁判所が本人の財産や成年後見人の活動内容を考慮して決定します。具体的金額は家庭裁判所の裁量になりますが、めやすが公表されており参考になります。 任意後見制度を利用している場合は、任意後見契約に報酬を定めることになります。契約で自由に報酬を決めることができますが、社会通念上妥当と思われる金額にすべきです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ●   1 法定後見制度を利用している場合の報酬 法定後見制度を利用している場合、報酬を求める成年後見人等は家庭裁判所に対して「報酬付与の申立て」を行います。家庭裁判所は「後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる」(民法862条)とされており、報酬付与の申立てを受けた家庭裁判所は本人の財産や成年後見人等が行った業務内容を考慮して報酬を決定することになります。 つまり家庭裁判所の裁量で決まることになりますが、報酬の予測ができなければ法定後見制度を利用したい人も、成年後見人等として活動をしたい人も見通しが立たず、利用を躊躇してしまうため、参考情報として報酬の「めやす」が開示されています。 成年後見人等の報酬は「基本報酬」と「付加報酬」に分けられます。基本報酬とは、財産管理をしていることについて認められる報酬で、付加報酬とは特別困難な事情がある事案の場合や、成年後見人等が本人のために不動産売却や遺産分割、訴訟等の特別な行為を行った場合に認められる報酬です。 【成年後見人等の報酬のめやす】 (出典:東京家庭裁判所資料) 税理士の顧客の場合、これよりも管理財産が高額になることも多いと思います。「想定していたよりも報酬が高かった」などと、トラブルになることもあり得るため、説明をしっかりと行うことが求められます。   2 報酬付与のタイミング 成年後見人等が報酬付与の申立てを行うタイミングについて決まりはありませんが、年1回の後見等事務報告書の提出のタイミングで行うことが一般的です。 家庭裁判所から報酬付与の審判がされたら、本人の口座等から報酬の引き出しを行うことになります。   3 任意後見制度を利用している場合の報酬 任意後見制度を利用している場合の報酬額と支払時期は、任意後見契約において定めることになります。報酬額等について自由に決めることができますが、事後的に本人や親族、任意後見監督人から疑問を持たれるような金額は避けるべきであると思われます。多額の財産を持つ顧客も存在しうると思いますが、先に紹介した【成年後見人等の報酬のめやす】を参考に検討を行うとよいでしょう。 なお、任意後見監督人については、報酬を求める場合には報酬付与の申立てを行う必要がありますが、開示されているめやすは以下のとおりとなっています。 【任意後見監督人の報酬のめやす】 (※) 付加報酬も認められる。 (出典:東京家庭裁判所資料)   4 成年後見制度改正における報酬の議論 報酬については成年後見制度の改正のなかでも議論されており、家庭裁判所が報酬を決定する場合に考慮する要素を明確にすることや、報酬額の具体的な算定基準を設けること、報酬の前払いを認めることなど、様々な観点で検討がなされています。改正後においては現在の規律も変更があり得るため、注目が必要です。 (了)

#No. 644(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/11/13

《速報解説》 ASBJよりバーチャルPPAに関する会計上の取扱いを規定する「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」が公表される

《速報解説》 ASBJよりバーチャルPPAに関する会計上の取扱いを規定する 「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理 に関する当面の取扱い」が公表される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年11月11日、企業会計基準委員会は、「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第47号)を公表した。 これにより、2025年3月11日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、いわゆるバーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement)(バーチャルPPA)に関する会計上の取扱いを規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 範囲 非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売(子会社又は関連会社への融通を除く)が想定されておらず、発電事業者から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうちおおむね次の特徴を有するものに適用する(2項)。 上記(2項)に加えて、実務対応報告は、非化石価値取引において需要家による非化石価値の転売が想定されておらず、特定卸供給事業者等から需要家に電力の取引を伴わずに非化石価値を移転する契約のうち次の特徴を有するものに適用する(3項)。 「需要家」とは、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者のうち、非化石価値を自己使用目的で購入する者をいう(5項(2))。 ただし、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者が、その子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合において、当該子会社又は関連会社が非化石価値を自己使用目的で取得するときは、2項又は3項に掲げる特徴を有する契約を締結する者を「需要家」として取り扱う。 2 非化石価値を受け取る権利及び対価の支払義務に関する会計処理等 次のように会計処理する(6項~8項)。 「対価の支払義務に係る負債」の計上時の表示科目を明確にすべきとのコメントに対しては、次のように対応が記載されている(コメントNo.2)。 また、非化石価値を受け取る権利に係る費用が製造原価となることの確認のコメントに対しては、次のように対応が記載されている(コメントNo.3)。 そのほか、決算日後に国による電力量の認定が行われた場合の取扱いの明確化のコメント(コメントNo.6)を受けて、BC29項が記載されている。 3 子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合の子会社又は関連会社との間の取引についての取扱い 需要家がその子会社又は関連会社に融通する目的で非化石価値を購入する場合(5項(2)ただし書き)、当該需要家とその子会社又は関連会社との間の取引については、両者の合意内容に基づき会計処理を行う。   Ⅲ 適用時期等 2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、公表日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)

#阿部 光成
2025/11/12

《速報解説》 監査役協会、「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表~アンケート調査をもとに今後のグループ監査活動の取り組みに関する提言を取りまとめ~

《速報解説》 監査役協会、「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表 ~アンケート調査をもとに今後のグループ監査活動の取り組みに関する提言を取りまとめ~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年11月11日、日本監査役協会ケース・スタディ委員会は、「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」を公表した。 2020年に「企業集団における不祥事防止を切り口とした監査体制強化のあり方」という報告書の公表後における社会情勢や経営環境の変化を受けて、改めてグループ会社のガバナンスと監査について考察し、今後のグループ監査活動の取り組みに関する提言を取りまとめたものである。会員企業を対象としたアンケート調査を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ グループ・ガバナンスを検討するための視点 グループ・ガバナンスを検討するための視点として、次の視点から検討している。   Ⅲ グループ・ガバナンスの監査に向けた提言 複雑化する事業環境において、グループ・ガバナンスは企業価値向上のための戦略的な取り組みとして不可欠な要素となっているとし、アンケート結果をもとに、グループ・ガバナンスへの関与と監査のために重要となる事項として、次の事項をあげている。 (了)

#阿部 光成
2025/11/12

【重要】プロフェッションジャーナル掲載の連載第1回の無料公開開始について

【重要】 プロフェッションジャーナル掲載の 連載第1回の無料公開開始について 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 当社が運営しております税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)は、当社プレミアム会員様への有料サービスとなっておりますが、このたび、会員2万人の突破を記念して、本誌の『試し読み』という位置づけで、2025年10月1日(水)午前11時より、本誌掲載の連載第1回をすべて無料公開とさせていただきました。 なお、連載第1回の無料公開に関する詳細については下記のQ&Aをご覧ください。 ◆   ◇   ◆ Q どの記事が無料で読めますか? A 本誌で掲載されている連載の第1回が会員登録不要ですべて無料でお読みいただけるようになります(※1回読み切りの記事は除きます。)。 Q 無料公開されている記事はどこで確認できますか? A 「無料公開記事」のページにまとめられていますので、そちらからご興味のある記事をご選択の上、閲覧ください。 Q どれくらいの記事を無料で読むことができますか? A 本誌に収録されている約9,400記事のうち、約490記事を無料でお読みいただけます。なお、現在連載中の連載(60本)及び終了した連載(427本)については「連載記事一覧」からご確認いただけます(10月1日時点)。 Q 無料公開記事が多くてどれを読めばいいのか迷ってしまいます。 何かオススメの連載があれば教えてください。 A プロフェッションジャーナルの人気連載の一部を下記にご紹介いたします。ご興味のある連載バナーをクリックの上、閲覧ください(バナーをクリックすると連載の第1回が別ページで開きます。)。 【税務】 【会計】 【労務】 【法務】 Q 連載の第2回以降を読むためにはどうしたらいいのでしょうか? A 本誌掲載記事の大半を占める連載の第2回以降の閲覧につきましては、プレミアム会員の方のみがご覧いただけますので、過去掲載分も含め、プロフェッションジャーナルのすべての記事が閲覧可能なプレミアム会員へのご登録を、ぜひご検討ください。 会員特典・会員制度のご案内はコチラ ◆   ◇   ◆ 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

#Profession Journal 編集部
2025/11/07

プロフェッションジャーナル No.643が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年11月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.643を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/11/06

monthly TAX views -No.153-「高市政権、新メンバーの下で税制議論はどうなる」

monthly TAX views -No.153- 「高市政権、新メンバーの下で税制議論はどうなる」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   高市早苗総理は、自民党税制調査会(以下、党税調)について、「スタイルそのものをガラッと変えて欲しい」と、財務省出身者が税調幹部に重用されてきたことを暗に批判し、メンバーを一新した。 会長は宮沢洋一参議院議員から小野寺五典前政調会長に変わり、「インナー」と呼ばれる幹部に、山際大志郎元経済再生担当大臣、西村康稔元経済産業大臣、松島みどり総理補佐官などが就任、森山裕前幹事長は退任した。 かつて党税調は、山中貞則会長の下で総理をもしのぐ力があった。しかし第2次安倍政権下では、2度の消費税増税延期が党税調の議論を経ずに決定されるなど、官邸主導で行われ、党税調の力は大きく低下した。その後の菅政権、岸田政権下では往年の力が復活し、「103万円の壁」の議論では、財源問題と税の論理が重視され、安易な減税は排除された。 *  *  * 今回これを官邸主導に戻すというのは、論理として間違った話ではない。 わが国の予算の決定方式は、歳出予算と歳入予算とで大きな差異がある。歳出予算は財務省主計局と各省と党政務調査会との協議で決まるが、財務省が大きな力を持つ。一方歳入予算(税制)は、租税法律主義の下で税法が国会議決になることもあり、党税調が独占的な決定権を持ってきた。 党税調のメンバーは、長年の税制改正にかかわり、数年で交代する役人よりはるかに豊富な専門的知識を持つ政治家に限定されてきた。重要な資質は、業界の個別利害から離れ、専門的知識に基づく大局的判断ができるという点だ。税制要望に〇×をつけ、党税調の権威を保ちつつ公平な税制を構築してきた歴史の積み重ねがある。 財政面への目配りもきちんと行われてきた。減税を考える際には、その経済効果や将来財源などもきちんと議論されてきた。一例を挙げれば、安倍総理(当時)が推進した法人税減税である。税率の引下げは課税ベースの拡大とセットの「税収中立」で行われ、これが今日法人税の大きな増収効果が出る要因となっている。 昨年の「103万円の壁」の議論を振り返ってみると、自民党税調が問題にしたのは「財源」だけではない。「税制の在り方」として、所得制限を付けないままの基礎控除の引上げは高所得者ほど恩恵が大きく、税制の所得再分配機能を損ない格差の拡大を招くという点であった。そこで、ほぼ国民全員に2~4万円程度の減税となるような改正が行われたのであるが、この点について国民への説明が十分でなかったのは残念だ。 *  *  * さて、来年度改正の焦点の1つは、租税特別措置をいかに合理化できるかという点だ。 維新との連立合意書(2025年10月20日)には、「租税特別措置及び高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。そのための事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する。」とされている。 EBPM(証拠重視の政策)の知見を活用しながらメリハリをつけた大胆な取捨選択が必要となる。重点分野へ絞った集中的な減税は必要だが、一方で、例えば7,000億円の減収となっている賃上げ促進税制については、企業が人材確保の観点から賃上げをせざるを得ない状況にある中、減税してまで支援をする必要があるのか、立ち止まって考える必要がある。十分な賃上げをしない企業には、かつて安倍政権下で導入したペナルティー(租特の適用停止)を考えてもいいのではないか。 新たな税調メンバーが、個別業界の利害を超えて租特の整理統合を行うことができるかどうか、試金石として注目される。 (了)

#No. 643(掲載号)
#森信 茂樹
2025/11/06

〈令和7年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「改正事項が年末調整実務へ及ぼす影響」

〈令和7年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「改正事項が年末調整実務へ及ぼす影響」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   第2回(本稿)は、第1回で取り上げた令和7年度税制改正事項が令和7年分の年末調整実務に及ぼす影響について、各申告書のチェックポイントとして具体的に解説する。 なお、本稿では、特に指定のない限り、令和7年12月1日以後に行う年末調整を前提とする。   【1】 扶養控除等申告書のチェックポイント 給与所得控除の見直し及び同一生計配偶者や扶養親族等の所得要件の見直しにより、新たに扶養控除及び障害者控除の対象となる親族を有することになったり、所得者本人について寡婦控除、ひとり親控除及び勤労学生控除を適用できるようになる場合がある。 このような場合には、異動内容を記載した扶養控除等申告書の提出を受ける必要がある。 (※1) 扶養控除等申告書の「異動月日及び事由」欄には、「令和7年12月1日 改正」等と記載する。 (改正に伴う異動の例) 〈参考〉給与所得のみの場合の扶養親族等の金額要件   【2】 基礎控除申告書のチェックポイント 基礎控除の見直しが行われているため、役員及び従業員(以下、従業員等という。)から提出された基礎控除申告書に、合計所得金額に応じた改正後の基礎控除の額が記載されているか確認する。 (例)   【3】 配偶者控除等申告書のチェックポイント 給与所得控除の見直し及び同一生計配偶者の所得要件の見直しにより、配偶者に給与所得がある場合には、配偶者控除等申告書に、改正後の給与所得控除額により算出した合計所得金額に応じた配偶者控除又は配偶者特別控除の額が記載されているか確認する。 なお、同一生計配偶者の所得要件が見直しされていることにも注意が必要である。 (例)     【4】 特定親族特別控除申告書のチェックポイント 特定親族特別控除の創設により、特定親族(年齢19歳以上23歳未満で、合計所得金額が58万円超123万円以下の親族(※2))を有する従業員等は、特定親族特別控除の適用を受けることができることとなった。 (※2) 配偶者及び青色事業専従者等を除く。 年末調整において特定親族特別控除の適用を受けようとする従業員等がいる場合には、当該従業員等から特定親族特別控除申告書(※3)の提出を受ける必要がある(所法195の3)。 (※3) 特定親族特別控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書及び所得金額調整控除申告書との兼用様式となっている。 (例) 給与収入158万円の子の場合 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 なお、特定親族特別控除の適用に関する注意点は、次のとおりである(所法84の2②、85⑥、所令217の3①)。 *  *  * 最終回(第3回)は、令和7年度の改正事項を中心として、年末調整実務における疑問点等をQ&A方式で解説する予定である。   (了)   

#No. 643(掲載号)
#篠藤 敦子
2025/11/06

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例80】「毛皮製品の輸入及び販売業を営む株式会社に対する推計課税の是非」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例80】 「毛皮製品の輸入及び販売業を営む株式会社に対する推計課税の是非」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は昨年地元の銀行を退職し、その後すぐに近畿地方のとある県の人口第二の都市に本社を置き、アパレル製品の輸入及び販売業を営むX株式会社(資本金2,000万円の3月決算法人)に再就職し、現在総務部長を務めております。 わが社の社長は、私がかつて勤めていた銀行の大口取引先であった中堅建設業の創業者であり、地方財界の有力者でもあるY氏の次男で、長男が建設業を継いだため、残った次男である社長は自分の趣味であるファッションとかかわる仕事がしたいということで、X社を立ち上げて今年で10年目を迎えたところです。 社長は甘やかされて育った二世特有の、変なプライドの高さが妙に鼻につくのですが、私には未だ自宅の住宅ローンと大学に通う娘の学費負担があるため、面従腹背の心持ちで日々勤務に当たっております。 さて、社長の相手以外は特に問題がなかった総務部長としての私の職務に、突然新たな難題が飛び込んできました。それは、先週から税務署の調査官が国税局の実査官を引き連れてわが社に税務調査のためやってきて、驚くべき事実が明らかになったためです。 調査官の言うところによれば、社長がわが社以外にもう一社(Z株式会社)を設立し、そこを通じてわが社の扱う製品の一部を販売しているようなのですが、わが社とZ社間の取引に関しては簡単な帳簿書類が作成されているのみで、売上や仕入れに関してそれを裏付けるような証憑が保存されていないなど、所得に関する直接的な情報が判然としないため、特にZ社の所得がどの程度であるのか分からないという事実でした。 そのため、まずはZ社の青色申告を取り消して、その後推計課税を行うしかない、と宣告されたわけです。 私のこれまでの経験上、青色申告の取消しなどというのは、脱税するような悪質な企業に限られ、わが社やZ社のような優良企業には無縁だと考えており、ましてやその後推計課税を行うなどというのはあり得ないことで、調査官の主張は極端であると憤慨しているのですが、どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 申告納税制度の下では、当然のことながら、税務調査においても、課税庁の質問検査権に基づき、納税者が作成した帳簿書類を確認し、それを裏付ける証憑を探索して、所得の実額を把握し、申告内容と齟齬がないか確認するのが基本となります。 しかし、帳簿書類が作成・保存されていないなど、納税者が作成すべき直接資料につき不備がある場合には、課税庁は、納税者の実態に即した合理的な方法により、推計課税を行うことが認められているものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 推計課税の意義 推計課税とは、一般に、税務署長が所得税又は法人税について更正・決定を行う場合において、帳簿書類や証憑といった「直接資料」によらずに、各種の間接的な資料を用いて所得を認定する方法をいう(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)982頁参照。 現金商売をしている業種においては、自らの財務内容に関する帳簿書類を作成せず、領収書や納品書といった証憑書類をも発行しなかったり、取引先が発行したそれらの書類につき保存せず破棄してしまう企業・事業者が、多くはないながらも存在するのが現状である。申告納税制度の下では、当然のことながら、帳簿書類や証憑といった直接資料に基づき経営実態を反映した申告書を作成し、それに基づき納税することが前提となっているのであるから、税務調査においても、質問検査権に基づき、納税者が作成した帳簿書類を確認し、それを裏付ける証憑を探索して、所得の実額を把握し、申告内容と齟齬がないか確認する姿勢が、課税庁に対して求められる。しかし、そうしたくてもできないのが、直接資料につき不備がある上記のような現金商売等を行っている事業者である。 この場合、課税庁は、直接資料がないからといって、正確な所得に基づく課税を放棄することは、公平負担の原則からいって適当であるとは言えない(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書982-983頁参照。 このような場合に課税庁に認められる課税手法が、「推計課税」であるといえる。推計課税は従来、その明文の規定がなくとも用いられてきたが、昭和25年に所得税法(所法156)及び法人税法(法法131)に明文の規定が置かれた。 なお、青色申告制度の趣旨から、課税庁が青色申告を行っている納税者に対して更正処分を行う場合には、推計課税は認められていない(所法156、法法131)。 推計課税が認められるケースは、一般に以下の3つに限定され、それ以外の場合に推計課税を行ったときには、違法になるものと解されている(※3)。 (※3) 金子前掲(※1)書984頁参照。   (2) 推計課税の方法 推計課税の方法であるが、所得税法では、納税義務者の財産又は債務の増減の状況、収入又は支出の状況、生産量・販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計することを認めている(所法156)。 法人税法では推計課税の方法について、上記所得税のケースと同種の資料を用いて法人税の課税標準又は欠損金額を推計することを認めている(法法131)。 推計課税の具体的な方法として裁判例等で支持されているものとしては、以下の3つの方法が挙げられており、②と③のいずれか、または両者を併用しながら算定されることが多い(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)書984-986頁参照。 ① 純資産増減法 課税期間の期首と期末の純資産を比較し、その増加額を計算することで、所得を推計する方法である。個人の場合、そのバリエーションとして、消費支出額から所得金額を推計する消費高法がある。 ② 比率法 仕入金額、売上金額、収入金額等、所得金額の算定の要素となる金額に一定の比率を適用して所得金額を推計する方法である。収入金額に比準同業者(※5)の所得率や経費率を適用して所得金額を推計する方法がその一例である。 (※5) 一般に、推計課税の対象となる納税者の近隣の同規模・同業種の青色申告者を指す。金子前掲(※1)書985頁参照。 ③ 効率法 推計課税される納税者の電力使用量、従業員数、販売個数等に、比準同業者の調査から得られた、これらの指標1単位当たりの所得金額の平均値(同業者単位額)を乗じて所得金額を推計する方法である。   (3) 毛皮製品の輸入及び販売業を営む株式会社に対する推計課税の是非が争われた事例 それでは本件と同様に、アパレル製品(毛皮製品)の輸入及び販売業を営む株式会社に対する推計課税の是非が争われた事例(大阪地裁平成23年3月24日判決・税資261号-60(順号11650)、TAINSコード:Z261-11650)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、甲事件原告(以下「原告A」)の昭和60年4月1日から昭和61年3月31日までの事業年度(以下「昭和61年3月期」)及び昭和62年3月期から平成元年3月期までの各事業年度(以下「本件A各事業年度」)の法人税、乙事件原告(以下「原告B」)の昭和61年9月期から昭和63年9月期までの各事業年度(以下「本件B各事業年度」といい、本件A各事業年度と併せて「本件各事業年度」という)の法人税について、原告らが処分行政庁からそれぞれ更正処分を受け、さらに、重加算税の賦課決定処分を受けたことから、これらの各処分(ただし、原告Bの昭和61年9月期に係る更正処分及び重加算税の賦課決定処分については、国税不服審判所が平成20年12月10日付けでした決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求める事案である(以下、原告らに対する上記各更正処分を併せて「本件各更正処分」、原告らに対する上記重加算税の各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各処分」という)。 本件各事業年度当時、原告Aは、原毛皮及び毛皮製品の輸入及び仕入れ等を業としていた株式会社であり、原告Bは、主として毛皮製品等の加工、販売を業としていた株式会社である。また、原告Aは、登記簿上は大阪市を本店所在地としていたが、実際には、原告Bの本店所在地である大阪市所在の「Aビル」の9階に事務所を置き、そこで営業活動を行っていた。 ② 事案の争点 原告らの売上総利益の額、貸倒損失の損金算入の可否及び本件各賦課決定処分の適法性であり、具体的には、推計課税の必要性及び被告主張の推計方法の合理性である。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが棄却され(大阪高裁平成24年2月24日判決・税資262号-41(順号11891)、TAINSコード:Z262-11891)、確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 申告納税制度の下では、帳簿書類やそれを裏付ける証憑類により各年度の申告書を作成するのが大原則であるため、それを「無視」して、課税庁が所得を「推測」して課税する推計課税は例外的な措置であると解されている。 実務においても、所得税や法人税に関し推計課税がなされる事例を経験することはなかなかないものと思われるが、現金商売を行っており帳簿書類の作成を怠りがちな業種や、税務調査により意図的な脱税が把握され、帳簿書類等の信頼性が疑われたことから、青色申告の取消しがなされたケースにおいては、推計課税が行われることも珍しくないようである。 推計課税については、これまでの裁判例でその手法の「合理性」が争われたケースが多くある。「推計」というのは所詮「推計」であり「実額」ではないため、本来の所得金額とは乖離せざるを得ないが、それでも推計課税が正当化されるのは、適正な申告を行うべく帳簿書類を作成し保存しているまじめな納税者との「公平性」を確保するためである。そうなると、やはり推計課税は代替的とはいえ適切な手法によることが求められ、それは「合理的な」手法ということになる。 本裁判例においては、裁判所は売上(収入・益金)については、「原告らの業務は渾然一体となっていたというのである。このことからすると、原告らの売上げ及び売上原価の算定に関しては、原告らを一体として扱うよりほかに方法はなく、かつ、それが原告らの実体(ママ)に即しているというべきである」と判示しており、事業の実態に即して判断することが「合理的」としている。 また、費用(損金)等については、「販売費及び一般管理費並びに営業外収入等は、経理担当者において、銀行勘定帳等を基におおむね正確に把握されていたのであり、これらを原告ら個別に認定することは可能」であるとして、実額を使用することとしている。その結果、本裁判例の推計課税の方法としては、「売上高及び売上原価の関係について両社一体として扱い、原告ら合算の売上総利益を算出した上で、これを原告らに案分して原告ら個別の売上総利益を算出し、これに原告ら個別の販売費及び一般管理費、営業外損益並びに特別損益をそれぞれ加減算して原告ら個別の所得の金額を推計するという手法は、一定の合理性を有する」としている。合理性の判断基準は、納税者の「実態」に即して考えることとなり、ケースバイケースとなるのであろう。   (4) 本件へのあてはめ 申告納税制度の下では、当然のことながら、税務調査においても、課税庁の質問検査権に基づき、納税者が作成した帳簿書類を確認し、それを裏付ける証憑を探索して、所得の実額を把握し、申告内容と齟齬がないか確認するのが基本となる。しかし、帳簿書類が作成・保存されていないなど、納税者が作成すべき直接資料につき不備がある場合には、課税庁は、納税者の実態に即した合理的な方法により、推計課税を行うことが認められているものと考えられる。   (了)

#No. 643(掲載号)
#安部 和彦
2025/11/06

金融・投資商品の税務Q&A 【Q99】「外国親会社株式を外国の証券会社で保管している場合の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q99】 「外国親会社株式を外国の証券会社で保管している場合の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 外国の証券会社で保管している上場株式の課税上の取扱い (1) 配当に係る源泉徴収と申告区分 外国の法人が発行した株式に係る配当も、国内の法人が発行する株式に係る配当と同様に、配当所得として取り扱われますが、支払いの方法により課税上の取扱いが異なります。日本の証券会社で保管されている株式である場合、証券会社(国内における支払の取扱者)が、配当金を交付する際に支払いを受けるべき金額(外国所得税が課されている場合は控除後の金額)に対し、20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率で源泉徴収します。 これに対して、外国の証券会社で保管されている株式に係る配当金で、国内における支払の取扱者を通じないで受領するものは、日本では源泉徴収が行われません。源泉徴収が行われないため、上場株式に係る配当であっても、外国の証券会社で保管されている株式に係るものである場合には、総合課税(最高税率約56%)又は申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の対象として確定申告する必要があり、申告不要制度を選択することはできません。 (2) 譲渡損の取扱い 上場株式等の譲渡から生じる所得については、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得として、申告分離課税が適用され、この点については証券会社が外国か国内かによる差異はありません。 ただし、上場株式等が証券会社等の特定口座(源泉徴収選択口座)で保管されている場合には、確定申告は不要となりますが、外国の証券会社で保管されている場合、その証券口座は特定口座には該当しませんので、原則として申告が必要となります。 また、上場株式等について譲渡損が生じた場合には、上場株式等の配当所得等の金額(申告分離課税を選択したもの)との通算や、翌年以降3年間にわたって損失を繰り越す特例が認められています。 しかしながら、これらの特例を適用するためには、上場株式等の譲渡が、金融商品取引法第2条第9項に規定する金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限ります)又は同法第2条第11項に規定する登録金融機関への売委託による譲渡など一定のものであることが要件とされており、外国の証券会社に売委託をしたものは特例の適用が認められていません。   2 本件へのあてはめ インセンティブ報酬として交付された外国親会社の株式を外国の証券会社で保管しているとのことですので、配当を受領する際には日本での源泉徴収が行われません。上場株式であるものの、国内の証券会社を通じて受領する場合と異なり、確定申告する必要がありますので注意が必要です。なお、適用税率は、国内の証券会社を通じて受領する場合と同じですので、税負担に差異はありません。 また、外国の証券会社に売委託をしたことにより生じた譲渡損失の額は、上場株式等の配当所得等の金額(申告分離課税を選択したもの)との通算や繰越控除の特例が認められませんので、この点については、国内の証券会社を通じて譲渡する場合と税負担に差異が生じることが考えられます。   (了)

#No. 643(掲載号)
#西川 真由美
2025/11/06
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