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《速報解説》 基礎控除等の特例を織り込んだ税制改正関連法案の修正案が公表される~令和7年分・令和8年分は合計所得金額655万円以下に4段階で加算~

《速報解説》 基礎控除等の特例を織り込んだ 税制改正関連法案の修正案が公表される ~令和7年分・令和8年分は合計所得金額655万円以下に4段階で加算~   Profession Journal編集部   3月3日(月)、衆議院ホームページにおいて基礎控除等の特例の創設等が織り込まれた所得税法等の一部を改正する法律案の「修正案2」が公表された。 自民・公明両党は野党との「年収103万円の壁」に関する協議を経て、昨年末にまとめた政府・与党案から修正する案を示した。 修正案では基礎控除等の特例(措法案41の16の2)を設けることで、令和7年分及び令和8年分については合計所得金額655万円(給与収入850万円)以下の場合に4段階で控除額の上乗せ(加算)を行うこととし、令和9年分以後については合計所得金額132万円(給与収入200万円)以下の場合に37万円の上乗せ(加算)を行うこととされる。 これにより課税最低限が、当初の政府・与党案である123万円(基礎控除の最高額58万円+給与所得控除の最低保障額65万円)から160万円(基礎控除の最高額95万円+給与所得控除の最低保障額65万円)に引き上げられる。 【参考】〈給与所得控除の額(改正案)〉 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/03/03

《速報解説》 グローバル・ミニマム課税制度に対応した会社計算規則の一部を改正する省令が公布される

《速報解説》 グローバル・ミニマム課税制度に対応した 会社計算規則の一部を改正する省令が公布される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年2月28日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第5号)が公布された。これにより、2024年12月6日から意見募集されていた法務省令案が確定することになる。法務省令案に対する意見の概要及び意見に対する法務省の考え方も公表されている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものなどである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容   Ⅲ 施行期日等 公布の日(2025年2月28日)から施行する。 改正後の会社計算規則の規定は、2024(令和6)年4月1日以後開始する事業年度に係る計算書類及び連結計算書類について適用し、同日前に開始する事業年度に係るものについては、なお従前の例による。 (了)

#阿部 光成
2025/02/28

プロフェッションジャーナル No.608が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年2月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.608を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/02/27

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第46回】「所得税における「時間」」-生命保険年金二重課税訴訟・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第46回】 「所得税における「時間」」 -生命保険年金二重課税訴訟・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、生命保険年金二重課税訴訟・最判平成22年7月6日民集64巻5号1277頁(以下「平成22年最判」という)を取り上げ、所得税における「時間」という観点に着目してこの判決を検討してみたい。 筆者の知る限りでは、平成22年最判ほど「時間」が問題になった判決はこれまでなかったように思われる。平成22年最判の実体的判断内容に関わる「時間」の問題は後のⅡ・Ⅲで検討することにして、ここでは、平成22年最判は、昭和43年に所得税個別通達「家族収入保険の保険金に関する課税について」(昭和43年3月官審(所)2、官審(資)9)が発遣されその後40年以上の長年にわたって生命保険年金(年金方式により受け取る生命保険金)について行われてきた課税実務の取扱いを違法とした結果、過去にその取扱いを受けてきた他の事案にも広範かつ甚大な影響を及ぼすことになり、平成23年度[6月]税制改正による特別還付金支給制度(令和元年度税制改正前措置法97条の2)及び特別還付金に係る更正の請求の特例(同41条の20の2)の創設につながったことを指摘しておく。このことは、還付請求権の消滅時効(税通74条1項)を実質的に10年に延長するのと同じ結果をもたらした。   Ⅱ 従前の課税実務の取扱いとその意義 1 従前の課税実務の取扱いに関する理解(篠原論文) さて、生命保険年金に係る前記の従前の課税実務の取扱いについて、次のような興味深い理解が示されている(篠原克岳「相続税と所得税の関係について-『生保年金二重課税事件』を素材とした考察-」税大論叢74号(2012年)1頁、36-37頁。下線筆者。以下この論文を「篠原論文」といい、括弧内の頁は同論文の頁とする。なお、【図10】及び【図11】については篠原論文より抜粋)。 篠原論文は、上記の解説に続けて、「従前の取扱い」について、「被相続人が保険料を負担していた場合の生命保険金の取扱いは、一時金受取の場合は相続課税のみ、年金受取の場合は相続課税と所得課税の両方が課されるという歪な状態となり、その不均衡が夙に指摘されていた。」(35頁。下線筆者)と述べた上で、「このような不均衡が生じる根本的な原因は、生命保険金を一時金で受け取る場合には所得と相続が同時に発生する、、、、、、、、、、、、、ため、所得税法9条1項16号が経済的価値の移転としての所得A+α(=相続)と資産価値の増加としての所得α(=受取保険金-支払保険料)の両方に適用されてしまう、、、、、、、、、、、ことにある。」(38頁。傍点原文・下線筆者)との分析を示している。 「従前の取扱い」に関する篠原論文の以上の理解についてまず疑問に思われるのは、「一時金受取の場合」には、相続の時点で、「受取保険金A+α」(みなし相続財産)に対する相続税の課税と、これと同一の経済的価値をもつ「経済的価値の移転としての所得A+α(=相続)」(以下「経済的価値移転所得」という)に対する所得税法9条1項16号(現行17号)の規定(以下「本件非課税所得規定」という)の適用を認めるのに対して、「年金受取の場合」には、相続の時点で、「年金受給権の価値A+αの時価」に対する相続税の課税は認めるが、これと同一の経済的価値をもつ経済的価値移転所得に対する本件非課税所得規定の適用を「認めない」のはなぜか、である。 この点については、篠原論文の本文・脚注をみても、また、【図10】を【図11】と対比してみても、上記の点に関する明示的な言及がないので、「認めない」ように思われるだけかもしれないが、ただ、次の指摘(古田孝夫「判解」最判解民事篇(平成22年度(下))431頁、448頁。下線筆者)は傾聴に値するように思われる(この指摘をも踏まえた検討についてはⅤ参照)。 2 篠原論文の問題意識 とはいえ、前記のような疑問は、篠原論文の問題意識を的確に理解していないが故に生ずる疑問であるのかもしれない。篠原論文は、「一時金受取の場合」においては本件非課税所得規定が経済的価値移転所得と「資産価値の増加としての所得α(=受取保険金-支払保険料)」(以下「資産価値増加所得」という。なお、Ⅲ以下ではこの言葉を、生命保険の場合を離れて「資産価値の増加としての所得」という一般的な意味で用いることもある)の「両方に適用されてしまう、、、、、、、、、、、」(38頁。傍点原文)ことを、「従前の取扱い」の「不均衡が生じる根本的な原因」(同頁)として問題にしているが、同論文の問題意識は、むしろ、この点にあるように思われる。 篠原論文のこのような問題意識は、「従前の取扱い」のうち、「年金受取の場合」には「所得課税においては受取年金に対応する支払保険料が必要経費として按分控除され、α+β相当額[=資産価値増加所得]が雑所得として課税される一方、相続課税においては年金受給権の価値A+αの時価が評価され課税されていた」(36頁)という取扱いを、「所得税と相続税の『棲み分け』の観点からは理論整合的な取扱い」(同頁)として捉える立場に基づくものと考えられる。このような立場からすれば、「一時金受取の場合」にも「理論的にはα相当額(相続時点でβは生じていないのでαのみ)を所得課税すべき筈である」(37頁)ということになるのであるから、「一時金受取の場合」における資産価値増加所得(α)に対する本件非課税所得規定の適用こそが「従前の取扱い」の「不均衡が生じる根本的な原因」(38頁)ということになろう。 そうすると、「年金受取の場合」における経済的価値移転所得に対する本件非課税所得規定の適用は篠原論文の問題意識の「外」にあり、これを認めるか否かは同論文においてはブランクであると考えてよいように思われる。同論文の問題意識は、むしろ、「一時金受取の場合」にも資産価値増加所得(α)に対する所得課税の確保にあったと考えるのが相当である。このように考えると、篠原論文の次の叙述(38頁。傍点原文・下線筆者)にいう「法の欠陥」は、「一時金受取の場合」において資産価値増加所得(α)に対する所得課税ができないことを意味すると理解することができよう。 しかしながら、そうだからといって、篠原論文の問題意識及びこれに基づく分析が、生命保険金に対する本件非課税所得規定の解釈適用について有意義であったようには思われない。むしろ、後でみる平成22年最判が認めた本件非課税所得規定の適用対象を誤解し、これを経済的価値移転所得(A+α)ではなく資産価値増加所得(α)と捉える誤り(42頁参照)につながったようにさえ思われるのである。 本件非課税所得規定については、篠原論文の問題意識の「外」にあったように思われるところの、相続時点での経済的価値移転所得に対する所得課税を検討すべきであると考えるが、その検討を正面から行ったのが平成22年最判であるので、次のⅢでは、同最判の判断内容を検討することにする。 なお、その検討に入る前に、篠原論文の前記の問題意識の基礎にあると考えられる、「生保一時金に関しては被相続人死亡という同一原因により相続A+αと所得αが同時に発生する、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、」(38頁。傍点原文)という本件非課税所得規定の適用対象の捉え方に関する次のような疑問、すなわち、経済的価値移転所得(の一部)としてのαも、資産価値増加所得としてのαも、相続の時点においては、別個の所得ではなく、同一の経済的価値をもつ一時金受取保険金(A+α)の一部として1個の所得を構成するのではないか、という疑問について検討しておきたい。 確かに、αに相当する所得については、保険契約の締結に基づく保険料支払の開始から保険事故=被相続人の死亡までの期間は、①時間の経過に伴う資産価値の増加としての性質が課税上問題になり得るのに対して、被相続人の死亡の時点においては、②相続による経済的価値の移転としての性質も課税上問題になり得るが、ただ、本件非課税所得規定に関しては、後者の性質(②)のみが問題にされている。つまり、生命保険金に係る相続による経済的価値の移転については、本件非課税所得規定は、当該生命保険金を相続財産とみなして相続税の課税物件とすること(相税3条1項1号)を前提として、当該生命保険金に対する相続税と所得税との二重課税を排除するために当該生命保険金を非課税所得として定めているのである。 このように考えると、篠原論文が「一時金受取の場合」において経済的価値移転所得(A+α)とは別に資産価値増加所得(α)の存在を観念し「両者」(38頁)を本件非課税所得規定の適用対象として想定した上で同規定の解釈論を立論しようとするのは、妥当でないといえよう。しかもそのような解釈論に基づき同規定に「法の欠陥」を見出すことも妥当ではないように思われる。 篠原論文における本件非課税所得規定の解釈論に対する上記の検討結果を所得税における「時間」の観点からみて言い換えると、篠原論文は本件非課税所得規定については、課税上「時間」の経過を前提にして㋐相続開始までの期間と㋑相続の時点において、性質を異にする別個の所得(前記①の性質をもつ資産価値増加所得と前記②の性質をもつ経済的価値移転所得)を想定した上で解釈論を立論しようとするものであるが、それは、「一時金受取の場合」にはαが1個の一時金受取保険金(A+α)の構成部分であるという経済実体(経済的価値の実体)に適合しない解釈論であるだけでなく、そもそも、資産価値増加所得も、㋐相続開始までの期間に被相続人の下で生じていた所得(被相続人固有の所得)であり、それが㋑相続の時点で相続人に移転されたのであるから、経済的価値移転所得といえると考えると、そのような所得の「出自」に適合した解釈論(古田・前掲「判解」448頁[前記引用部分]のほかⅤ参照)ともいえないであろう。 要するに、篠原論文の問題意識の基礎にあると考えられる、「一時金受取の場合」における本件非課税所得規定の適用対象の捉え方は成り立たないように思われるのである。   Ⅲ 平成22年最判の判断内容とその意義 1 本件非課税所得規定の趣旨と適用対象 平成22年最判は、まず、本件非課税所得規定の趣旨について次のとおり判示した(下線筆者)。 このように、平成22年最判は、本件非課税所得規定について、相続税の対象をⓐ「相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのもの」として捉えることを前提として、同規定の対象をⓑ「当該財産の取得によりその者に帰属する所得」として捉え、かつ、両者(ⓐとⓑ)が「当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値」という「同一の経済的価値」を有するとの理解に基づき、同規定の趣旨を「同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したもの」と解している。 ここで、平成22年最判は本件非課税所得規定の適用対象をⓑ「当該財産の取得によりその者に帰属する所得」として捉えているが、この点について篠原論文との対比で注目すべきは、ⓑは篠原論文にいう「経済的価値の移転としての所得」(経済的価値移転所得)に相当する所得であり、同論文にいう「資産価値の増加としての所得」(資産価値増加所得)を平成22年最判は本件非課税所得規定に関して問題にしていない、ということである。 このことは、平成22年最判が本件非課税所得規定による二重課税の排除の対象を「当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値」として相続の時点でのみ捉え、その前後の時間の経過を同規定に関して問題にしていないことを意味する。換言すれば、平成22年最判は、本件非課税所得規定に関して、前記①の性質をもつ所得のうち、①-1相続の時点までの時間の経過に伴う資産価値の増加としての性質をもつ所得(資産価値増加所得)を篠原論文とは異なり問題にしていないだけでなく、①-2相続の時点以後の時間の経過に伴う資産価値の増加としての性質をもつ所得(資産価値増加所得)をも問題にしていないのである。このこと(①-2を問題にしていないこと)は、下記の判示(下線筆者)が「当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額」(2つ目の下線部)を本件非課税所得規定の適用対象から除外していることからして、明らかである。 2 平成22年最判における「時間」の意義と同最判の射程 以上の検討によると、平成22年最判は本件非課税所得規定の解釈論を、相続の時点にのみ着目しいわば「時間の経過しない世界」で、立論したものといってよかろう。もっとも、同最判は、生命保険金に係る年金受給権のうち有期定期金債権(相税24条1項1号)に当たるものについて、「当該年金受給権の取得の時における時価(同法22条)」を「将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額の合計額」として評価することとし、その際その評価方法として割引現在価値の計算方法(ただし相税24条の法定評価方法)という、あたかも「将来にわたって経過した時間を巻き戻す」かのような仮定法的方法を用いており、そのような意味で「時間の経過」を問題にしてはいるが、ただ、それは、財産評価という事実認定(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【56】参照)の場面で「時間の経過」を問題にしているにすぎず、本件非課税所得規定の解釈論において「時間の経過」を問題にするものではないのである。 そうすると、平成22年最判の判断内容は、相続の時点での生命保険金に対する相続税と所得税の課税に関しては、同最判の判断対象である「年金受取の場合」に妥当するだけでなく、「一時金受取の場合」にも妥当すると考えられる。というのも、「一時金受取の場合」には、相続税の課税対象とされる一時金が、「年金受取の場合」とは異なり何らかの財産評価作業を介することなく、直ちに、その金額において当該一時金と「同一の経済的価値」の所得として本件非課税所得規定の適用対象となるだけのことであるからである。 このような平成22年最判の考え方によれば、所得税と相続税の「棲み分け」は、「年金受取の場合」であれ「一時金受取の場合」であれ、相続の時点では、「相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのもの」に対する相続税の課税と、「同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除」する本件非課税所得規定の適用による「当該財産の取得によりその者に帰属する所得」に対する所得税の非課税とによって、図られているといえよう。 換言すれば、平成22年最判の射程内における所得税と相続税の「棲み分け」には、資産価値増加所得に対する所得課税は関係がないといえよう。篠原論文は、既にみたように、「年金受取の場合」には年金受取の時点における資産価値増加所得(36頁の【図10】ではα+β)に対する所得課税を前提にして所得税と相続税の「棲み分け」を論じているが、そのような「棲み分け」は平成22年最判の射程外の問題である。 もっとも、平成22年最判の射程は限定されたものであると考えられる。すなわち、「本判決が、相続税法24条の解釈を軸に展開されていることに鑑みれば、同判決は、同条によって評価がなされる相続財産を直接の射程としているものと考えられる。」(最高裁判決研究会「『最高裁判決研究会』報告書~『生保年金』最高裁判決の射程及び関連する論点について~」(平成22年10月22日)平成22年度第8回税制調査会(11月9日)資料3頁)と説かれるように、平成22年最判の射程は、相続税の課税物件が有期定期金債権(相税24条1項1号)に当たる年金受給権である場合に限られており、しかも所得税における「時間」の観点からみても、その射程は相続の時点での年金受給権と「同一の経済的価値」の所得(経済的価値移転所得)に対する非課税に限定されると考えられる。したがって、その射程外で、篠原論文の説く所得税と相続税の「棲み分け」を検討する余地は、むしろ広いといえよう(Ⅴも参照)。 なお、平成22年最判の下記の判示(下線筆者)からすると、同最判も第2回目以後の年金のうち「運用益」という資産価値増加所得(雑所得)に対する所得課税を認めるものと解されるが(古田・前掲「判解」446頁、最高裁判決研究会・前掲報告書4頁等参照)、ここでいう「運用益」は、「将来にわたって受け取るべき年金の金額を被相続人死亡時の現在価値に引き直した金額」を「元本とした場合の運用益」であり、篠原論文のように受取年金から支払保険料を必要経費として按分控除して算出される運用益(資産価値増加所得)ではないことに注意すべきである。 そうすると、「運用益」に対する所得課税を視野に入れたとしても、平成22年最判の考え方に基づく所得税と相続税の「棲み分け」は、篠原論文における所得税と相続税の「棲み分け」とは異なるものになろう。すなわち、平成22年最判の上記の判示から導き出される前記の所得課税(第2回目以後の年金のうち「運用益」部分に対する所得課税)を視野に入れ、しかも「一時金受取の場合」における当該非課税一時金の額を元本とする「運用益」に対する所得課税を想定して所得税と相続税の「棲み分け」を考えることにすれば、その「棲み分け」については、篠原論文が問題にしたような「不均衡」は生じないことになろう。この点については次の解説(古田・前掲「判解」447頁)がされているところである。   Ⅳ おわりに 今回は、所得税における「時間」という観点に着目して平成22年最判を検討することとし、その検討に入る前に、従前の課税実務の取扱いに関する篠原論文の理解を検討し、これと対比しながら平成22年最判の検討を行った。 その検討の結果、従前の課税実務の取扱い(に関する篠原論文の理解)は、相続の時点から年金受取の時点までの期間の年金受給権(みなし相続財産)に係る「資産価値の増加としての所得」(資産価値増加所得)に対する雑所得課税を認めるものであるのに対して、平成22年最判は、相続の時点のみに着目し年金受給権(相続財産)と「同一の経済的価値」の所得(経済的価値移転所得)に対する本件非課税所得規定の適用を認めるものであるとの理解を示した。この理解によれば、前者(資産価値増加所得)は、いわば「時間の経過する世界」で観念される所得であるのに対して、後者(経済的価値移転所得)は、いわば「時間の経過しない世界」で観念される所得であるといってよかろう。 そうすると、従前の課税実務の取扱い(に関する篠原論文の理解)と平成22年最判とは、いわば「別世界」で観念される所得を対象にするものであったといえよう。このような「世界観」に照らして実定所得税法の規定を眺めてみると、前記の雑所得課税を定める規定と本件非課税所得規定とは「別世界」で解釈適用されるということになろう。このことを一般化すれば、所得税法は、非課税所得について本件非課税所得規定も含め第1編第3章の中だけで完結的に規定しているのに対して、同章で規定している課税所得(7条)については、編を改めながらも連続性をもって金額的表現のための規定(課税標準規定)を第2編第2章で定める、といういわば「別世界」構造(非課税所得規定と課税所得規定の「別世界」構造)を採用していると考えることができよう(前掲拙著【194】参照)。   Ⅴ 補論-平成22年最判の射程外の所得課税- 最後に、補論として、今回の検討結果及びこれに関するⅣの整理を踏まえ、平成22年最判の射程(相続税の課税物件が有期定期金債権[相税24条評価対象資産]に当たる年金受給権である場合における相続の時点での当該年金受給権と「同一の経済的価値」の経済的価値移転所得に対する非課税)の外部の「時間の経過する世界」で観念される資産価値増加所得に対する所得課税について、以下の2つの点を指摘しておきたい。 1つは、平成22年最判の射程外にある相続財産に係る資産価値増加所得に対する所得課税については、❶所得税法59条1項1号及び❷同法60条1項1号並びに❸同法67条の4がそれぞれ一定の措置を講じている、という点である。 ❶所得税法59条1項1号は、前記①-1相続の時点までの時間の経過に伴う資産価値の増加としての性質をもつ所得(資産価値増加所得)に対して、相続時点での被相続人に対する所得課税(みなし譲渡課税)を定めるのに対して、この規定の適用要件が充足されない場合について❷同法60条1項1号は、相続人による被相続人の取得費の引継ぎを定め、もって相続時点での相続人に対する上記所得の課税を繰り延べ(課税の繰延べ)、後に当該相続人が相続財産を譲渡した時点において、上記の所得(資産価値増加所得)と前記①-2相続の時点以後の時間の経過に伴う資産価値の増加としての性質をもつ所得(資産価値増加所得)とを合算して課税することとしている。 平成22年最判の当時は、上記の❶及び❷の措置が明文で定められていただけであったが、その後、同最判を受けて、当該措置の対象となる相続財産(居住者である被相続人の有する山林所得又は譲渡所得の基因となる資産)以外の相続財産に係る資産価値増加所得に対する課税について、次のような問題提起及び提言(最高裁判決研究会・前掲報告書6-7頁。下線筆者。古田・前掲「判解」457頁(注23)も参照)がされた。 この提言を受けて平成23年度[6月]税制改正で新設されたのが、❸所得税法67条の4である。このことを同条の趣旨として大阪地判令和3年11月26日訟月70巻9号929頁は次の判示(下線筆者)で確認し、同控訴審・大阪高判令和6年1月18日訟月70巻9号910頁がこれを引用している。 もう1つは、平成22年最判が本件非課税所得規定による排除の対象とした相続税と所得税の二重課税は、最高裁判決研究会・前掲報告書の前記引用部分や上記大阪地判の引用判示で議論ないし疑義の対象とされている二重課税とは異なる、という点である。 後者の二重課税は、前記❷又は❸(で確認された従前の課税実務)の措置の対象となる相続財産に対する相続税の課税と、当該相続財産に係る未実現の資産価値増加所得(課税繰延所得)に対する実現時(❷については当該相続財産の譲渡時、❸については既経過利子・配当等の支払時)における所得税の課税とによる二重課税であるが、❷又は❸に係る二重課税のいずれもが、平成22年最判が本件非課税所得規定による排除の対象とした二重課税とは異なり、したがって本件非課税所得規定に反する違法な二重課税ではない。このことは、以下のとおり、裁判例でも認められている。 前記❷に係る二重課税については、東京高判平成26年3月27日税資264号順号12443頁が次のとおり判示し(下線筆者)、また、前記❸(で確認された従前の課税実務)に係る二重課税については、前記大阪地判が次のとおり判示し(下線筆者)、その判示を前記大阪高判も引用している。 前記東京高判は所得の「経済的価値」の観点から、また、前記大阪地判は所得の「帰属主体」の観点から、前記❷又は❸に係る二重課税について本件非課税所得規定に係る二重課税との「同一性」を否定しているが、筆者としては、今回検討してきた所得税における「時間」の観点からも、その「同一性」を否定することができると考えるところである。すなわち、平成22年最判が本件非課税所得規定による排除の対象とした二重課税は相続時点での二重課税(同時二重課税)であるのに対して、前記❷又は❸に係る二重課税は相続時点と所得実現時点での二重課税(異時二重課税)であるので、両者に「同一性」はないと考えられるのである(前掲拙著【194】のほか拙著『税法創造論』(清文社・2022年)420頁以下[初出・2014年]も参照)。 (了)

#No. 608(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/02/27

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第62回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第62回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   (ウ) 「金銭信託で、共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」及び「信託」等該当性 下図のとおり、本信託は、合同運用信託の定義のうち「金銭信託で、共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」という部分も満たさないと解される。 「共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」という部分に関して補足すると、ここでいう委託者は信託法2条3項の委託者を念頭に置いた概念であり、信託を設定する者を意味すると解される。 例えば、信託契約の方法により信託を設定する場合には、「特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(信託契約)を締結する方法」により、信託をする者が委託者に該当する(信託2④、3一。信託宣言の場合は信託3三)。 このことに、日本のETFの仕組みも併せ考慮すると、本信託の委託者は信託を設定し、管理しているスポンサー(Bitwise Investment Advisers, LLC)であるという見方が出てくる(※)。このような理解が正しいとすると、本信託は「共同しない多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」に該当しないことになる。 (※) 本連載第47回の「米国ビットコインETF比較表」で示した11銘柄の目論見書や信託契約書においては、「settlor」、「trustor」、「donor」、「creator」などの語が使用されておらず(米国連邦所得税法上のグランタートラストの課税関係の文脈で「grantor」という語が使われているにすぎない)、どの当事者が委託者に該当するのかという点が問題となる。なお、ARK 21Shares Bitcoin ETFについては、信託契約書において、スポンサーが合計1ドルを本信託に移転し(assigns, transfers, conveys and sets over to the Trust)、受託者がこれを信託として受領したことを認め、これが最初の信託財産を構成することが明記されている。 仮に、バスケットの購入を通じて、本信託に信託財産として現金を拠出している指定参加者(又はシードキャピタル投資家)を委託者であると解した場合であっても、現時点では指定参加者は3社(シードキャピタル投資家は1社)のみである。 また、指定参加者になることができるのは、SECに登録されたブローカー・ディーラー、証券取引に従事するための登録の必要がない銀行その他の金融機関であり、かつ、DTCの参加者に限定されている。 そうすると、本信託の関係者で「共同しない多数」の者となりうるのは一般の投資家(受益者)のみであるが、目論見書や信託契約書においては、投資家が本信託の委託者であるという記述はなく、他に「共同しない多数の委託者」が存在することを示唆するような記述も見当たらない。 これらのことからすれば、本信託は、共同しない「多数の委託者の信託財産を合同して運用するもの」に該当しない。 ただし、デラウェア州法定信託やその委託者の意義、日本法における信託や委託者の概念との適合性についてさらに検討する余地はある。 オ 「信託」該当性 上記とも関連することであるためここで論及しておくが、本稿では、デラウェア州法信託は、わが国の租税法上の信託と考えられるのかという論点には深入りせず、本信託が租税法上の信託に該当することを前提として考察を進めてきたものの、そもそも、そのような前提が成り立つのか、デラウェア州法定信託その他のビジネストラストが日本の租税法上の法人や人格のない社団等に該当するかという点を精査すべきではないかという指摘もありえよう。 デラウェア州の法定信託は、法人ではないが(「an unincorporated association」ではあるが)(デラウェア州法定信託法3801(ⅰ))、「a separate legal entity」であり(同法3801(ⅰ)、3810(a)(2))、訴訟当事者にもなることができる(同法3804(a))。 このことに加えて、本信託も権利義務の帰属主体として、自己の名で取引をすることが可能であることや受託者に信託財産の権利を移転する必然性はないことなども考慮すると、本信託について、日本の租税法上の信託該当性にとどまらず、法人や人格のない社団等該当性を検討すること、さらにいえば、各当事者の日本の租税法上の委託者、受託者、受益者該当性を検討することには理由がある。 信託財産が受託者ではなく本信託の名義で所有されており、受託者自体は名目的な存在であり、各取引は本信託の名義で行われているとするならば、本信託そのものではなく、その受託者(受託法人)を各法人課税信託の信託財産等及び固有資産等ごとにそれぞれ別の者とみなして課税する法人課税信託の制度(法法4の2)及びその趣旨(本連載第58回参照)に適合するのかという検討視点を持つことも重要になってくる。 結局、デラウェア州法定信託法の規律内容、目論見書や信託契約書等の内容も含めて、さらに検討が必要となる。 カ 本信託の法人課税信託該当性とその効果 以上、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」(法法2二十九の二イ)には、少なくとも社債等振替法の振替制度に類似した振替式を採用し、(電磁的方式により)受益権を発行する定めのある外国信託も含まれるとする見解が解釈論として成り立つことを前提とするならば、本信託は、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に該当し、集団投資信託に該当しないことから、法人課税信託に該当する。 この場合、受託者(受託法人)、受益者及び委託者に対する所得税法の適用上、法人課税信託(法人税法2条29号の2ロに掲げる信託を除く)の委託者がその有する資産の信託をした場合には、受託法人に対する出資があったものとみなされる(所法6の3六、措法2の2②)。 法人課税信託の受益権(公募公社債等運用投資信託以外の公社債等運用投資信託の受益権及び社債的受益権を除く)は株式又は出資とみなされ、法人課税信託の受益者は株主等に含まれる。この場合において、その法人課税信託の受託者である法人の株式又は出資は当該法人課税信託に係る受託法人の株式又は出資でないものとみなし、当該受託者である法人の株主等は当該受託法人の株主等でないものとされる(所法6の3四、措法2の2②)。 (5) 「株式等で金融商品取引所に上場されているものに類するもの」 株式等で金融商品取引所に上場されているもの及びこれに類するもの(店頭売買登録銘柄として登録された株式等や外国金融商品市場において売買されている株式等)は、本件分離課税特例の対象となる上場株式等に該当する(措法37の11②、措令25の9②)。 この場合の外国金融商品市場とは、金融商品取引法2条8項3号ロに規定する外国金融商品市場、すなわち「取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するもの」である。 本件持分は、「取引所金融商品市場に類似する市場で外国に所在するもの」に該当すると解されるNYSE Arcaに上場されている。よって、本件持分は、株式等で金融商品取引所に上場されているものに類するものに該当する。 (6) 本件分離課税特例(分離課税)の適用の可否 以上のとおり、検討ないし精査すべき点は残されているものの、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」(法法2二十九の二イ)には、少なくとも社債等振替法の振替制度に類似した振替式を採用し、(電磁的方式により)受益権を発行する定めのある外国信託も含まれるとする見解が解釈論として成り立つことを前提とするならば、本信託は法人課税信託に該当する可能性がある。 この場合、本件持分は株式又は出資とみなされ、本件分離課税特例の対象である株式等に該当するとともに、金融商品取引所に上場されているものに類するものに該当することから、日本の居住者が本件持分を米国の市場で購入し、譲渡した場合には、その譲渡に係る所得に対して、本件分離課税特例の適用があることになる。   (了)

#No. 608(掲載号)
#泉 絢也
2025/02/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第46回】「雑損控除の対象となる損失は物理的損害に基因するものであり、物理的な被害から直接生じたものではない損害に基因するものについては雑損控除が認められなかった事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第46回】 「雑損控除の対象となる損失は物理的損害に基因するものであり、物理的な被害から直接生じたものではない損害に基因するものについては雑損控除が認められなかった事例」   税理士 菅野 真美   ▷雑損控除 雑損控除とは、居住者やその者と生計を一にする配偶者その他の親族の有する資産について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合において、その損失額のうち、一定の限度額を超える部分については、その者の総所得金額等から控除されることが認められるものである(所法72)。 現在の制度の源流は、シャウプ勧告において「損失を受けた納税者で、彼の純所得(中略)の10%を超過する損失を蒙ったものに限り、その限りにおいて損失の控除を許す」(※1)といった勧告があり、これを受けた昭和25年度の税制改正で雑損控除が採用されたことによるものである。 (※1) 武田昌輔監修『DHC コンメンタール 所得税法』§§57の3~151(第一法規・加除式)4643頁 このような制度を採用することにより「納税者は、特別な考慮を税務署から受けるため陳情することをしないでも、彼のはっきりした申請をなして、減免を与えられることになろう。同時に税務行政に当たっている者は、少額の控除申請にわずらわされないであろう。」(※2)というように災害等による損失に伴い担税力が減少した事態に対応する制度として、納税者の負担と課税庁の負担が少なくなる方法を創設したと考えられる。 (※2) 武田・前掲(※1)4643頁 雑損控除の金額を算定するためには、控除対象となる損失の額の算定が不可欠となるが、その控除対象となる損失をどのように算定するかについては、所得税基本通達72-2において次のように定められている。 ◆所得税基本通達72-2(資産について受けた損失の金額の計算) (1)は時価に基づくものであり(2)は簿価に基づくものであるが、物理的な価値に基づいて損失額を算定するものと考えられる。では、この損失の金額には、損害を受けた資産の物理的な価値部分だけではなく、風評被害等による価値の下落部分も含まれるのだろうか。 今回は、台風の被害により共用部分に損害が生じたマンションにおける被害後の一室の市場価値の下落部分についても雑損控除が認められるか否かで争われた事例を検討する。   ▷どのような事例か 納税者は、鉄筋コンクリート造の建物(以下「本件マンション」という)の一室を所有していた。台風の被害が本件マンションの地下発電設備に生じたことから、本件マンションの共用部分の一部に設置された電気、電話、通信及び給排水等設備等について修繕が必要となった。この修繕費(資産を台風前の状態に戻すための支出と災害関連支出)の合計額は、3億2,665万8,244円となったが、保険金補填額が3億3,333万1,868円となり、この支出に係る納税者の負担はなかった。さらに、納税者の所有する専有部分については物理的な被害に関する記録はなかった。 しかし納税者は、台風により本件マンションの価値が減少したとして、被災直前の時価額4,044万4,263円から鑑定評価額による被災直後の時価額3,060万円を差し引いた984万4,263円を損失額として雑損控除を算出して申告をした。これに対して課税庁は、雑損控除の適用はないとして更正処分等を行った。納税者はこの更正処分等を不服として審査請求をしたところ却下されたため、訴えを提起したのが本事例である。   ▷争点は 争点はいくつかあるが、本稿では、所得税法72条1項の「損失」の意義及び雑損控除対象損失金額の算定について検討する。   ▷地裁の判断は 地裁は、所得税法72条1項の「損失」の意義及び雑損控除対象損失金額の算定について、主に次のように判示した。 ◎所得税法72条1項の「損失」の意義 ◎雑損控除対象損失金額の算定 *   *   * このように雑損控除の対象について、物理的な被害から直接生じたものではない損失は認められないと判断した。 なお、本稿は雑損控除のうち災害による損失に関する事案であったが、雑損控除の対象は、災害のほかにも盗難や横領のように本人が注意を払っても生じてしまった不可抗力による損失も適用範囲に含まれるが、詐欺による損失は認められないとされている(※3)。 (※3) 国税庁質疑応答事例「詐欺による損失」(令和7年2月14日筆者閲覧) (了)

#No. 608(掲載号)
#菅野 真美
2025/02/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例143(所得税)】 「障害者1級となった義母を扶養に入れられないか相談を受けたが同居する義父の年金収入があったため扶養に入れず申告していたが、依頼者自身で税務署に出向いて申告したところこれが認められたことから、過年度分につき損害賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例143(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆納税者が2人以上いる場合の扶養控除の所属の変更(所令219①) 2人以上の居住者の扶養親族に該当する者をいずれの居住者の扶養親族とするかは、これらの居住者が提出するその年分の申告書等(予定納税額の減額承認申請書、確定申告書(期限後申告を含む)、給与所得者の扶養控除等申告書、従たる給与についての扶養控除等申告書又は公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)に記載されたところによる。 また、いったんその申告書等により所属が定められた後でも、改めてその所属の異なる記載をした申告書等を提出することによりその所属をさらに変更することはできるが、その場合には、扶養親族を増加させようとする者及び減少させようとする者全員が、その所属の異なる記載をした申告書等を提出しなければならない。 なお、この場合の申告書等には、「修正申告書」及び「更正の請求書」は含まれないため、いずれかの居住者がいったん確定申告書を提出している場合には、扶養親族の所属の変更はできない。 ◆扶養親族等の所属の変更(所基通85-2) 扶養親族等の所属を変更しようとする場合には、自己の扶養親族等を増加させようとする者及び減少させようとする者の全員がその所属の変更を記載した申告書等を提出しなければならないことに留意する。 したがって、確定申告書の提出によりその所属を変更しようとする場合には、自己の扶養親族等を減少させようとする者のうちに確定申告書の提出を要しない者がいるときであっても、その者を含めた全員が確定申告書を提出しなければならない。 ◆扶養親族(所法2①三十四) 扶養親族とは、その年の12月31日(納税者が年の中途で死亡し又は出国する場合は、その死亡又は出国の時)の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる者をいう。 ◆「生計を一にする」の意義(所基通2-47) 法に規定する「生計を一にする」とは、必ずしも同一の家屋に起居していることをいうものではないから、次のような場合には、それぞれ次による。       (了)

#No. 608(掲載号)
#齋藤 和助
2025/02/27

学会(学術団体)の税務Q&A 【第14回】「複数の学会が合同で学術集会を開催する場合の参加料の税務上の取扱い」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第14回】 「複数の学会が合同で学術集会を開催する場合の参加料の税務上の取扱い」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 合同開催の学術集会の参加料の課税区分 学会によっては、関連する学会と合同で学術集会を開催することがある。学会の参加料の課税区分に関しては、会員であれば不課税取引となり、非会員であれば課税取引となるため、A学会・B学会いずれも会員の場合は不課税取引となり、A学会・B学会いずれも非会員の場合は課税取引となるが、A学会又はB学会のいずれかで会員の場合(いずれかで非会員の場合)、参加料の課税区分をどのように考えるのかについて疑問が生じるが、いずれかの学会で会員であれば、不課税取引になると考える。 なぜなら、いずれかの学会で会員の立場で参加している以上、参加料の中には対価性の判定が困難な部分が含まれていることになるため、消費税法基本通達5-5-3に基づき、不課税取引に該当すると考えられるためである。 その結果、A学会又はB学会のいずれかの学会で会員の場合(いずれの学会も会員の場合も含む)、不課税取引となるため、インボイスではない領収書を交付することになる。他方で、A学会・B学会いずれの学会も非会員である場合は、課税取引となるため、インボイスとなる領収書を交付することになる。 〈会員区分とインボイス交付の要否〉   2 合同開催の学術集会においてインボイスを交付するための要件 複数の学会が合同で学術集会を開催する場合、当該学術集会は、任意組合に該当すると考える。そのため、合同の学術集会(任意組合)でインボイスを交付するためには、次の要件を満たす必要がある(消法57の6①、消令70の14①・②)。 なお、合同開催の学術集会でインボイスを交付する場合は、原則として、それぞれの学会名及びインボイス番号を記載することになる。   (了)

#No. 608(掲載号)
#岡部 正義
2025/02/27

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第66回】「みずほ銀行事件(地判令3.3.16、高判令4.3.10、最判令5.11.6)(その2)」~旧租税特別措置法66条の6第1項、旧租税特別措置法施行令39条の16第1項・2項1号~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第66回】 「みずほ銀行事件 (地判令3.3.16、高判令4.3.10、最判令5.11.6) (その2)」 ~旧租税特別措置法66条の6第1項、 旧租税特別措置法施行令39条の16第1項・2項1号~   税理士 松田 祐弥     4 当事者の主張 (1) Xの主張 ◎措置法施行令39条の16第1項及び第2項1号の解釈 (2) Yの主張   5 判決(※2) (※2) 木山泰嗣「措置法施行令に委任範囲の逸脱はないとしてオーバー・インクルージョン(過剰包摂)に対してタックス・ヘイブン対策税制を適用することが認められた事例」税経通信79巻5号(2024年)158頁 最高裁は、「本件では、・・・本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となる」と問題提起した上で、以下の通り判示した。 ◎本件規定の内容が一般に委任規定の趣旨に適合するか ◎本件に本件規定を適用することが委任の範囲を逸脱するか 最高裁は、以上のように判示して、本件規定を適用することができないとした東京高裁の判断には本件委任規定の解釈適用を誤った違法があるとし、Xの処分取消しの訴えを棄却した。   6 評釈 ◎最高裁判決の判断及び意義について (※3) 神山弘行「タックス・ヘイブン対策税制の趣旨と委任命令の適法性」ジュリスト1601号(2024年)120頁 (※4) 木山・前掲(※2)163頁 (※5) 宮本十至子「タックス・ヘイブン対策税制における請求権勘案保有株式等保有割合の判定」新・判例解説Watch184号(2024年)3頁 ◎事業年度終了日を基準日とする規定について (※6) 宮本・前掲(※5)3頁 (※7) 一高龍司「タックス・ヘイブン対策税制における委任命令の適用が肯定された判例」ジュリスト1594号(2024年)11頁 ◎最高裁判決が論拠とした回避可能性について (※8) 一高・前掲(※7)11頁 (※9) 長島弘「ケイマン諸島ダブルSPCに関するTH課税事件(その3)」税務事例55巻12号(2023年)46頁 ◎政令への委任について (※10) 長島・前掲(※9)45頁 (※11) 木山・前掲(※2)164頁   7 私見 平成21年度税制改正において、タックス・ヘイブン対策税制は、従来の留保所得金額に対して課税をする仕組みから発生所得金額に対して課税をする仕組みに変更した(※12)。また課税所得と納税資金は必ずしも一致するものではない点はしばしば問題となるものの、納税者の資金繰りと課税が別次元で行われることを考慮すると、本件における課税は妥当なものと考える。 (※12) 霞晴久氏・朝長英樹氏によると、本件は、平成17年度税制改正によって課税されるようになったものではなく、同改正後の平成21年度税制改正によって課税されるようになったものであるから、平成21年度税制改正による発生所得金額に課税をするという仕組みに改める法律改正自体の内容を争点とし、違憲立法審査を求めるべきであった(日本税制研究所「みずほ銀行事件の検証」)。 一方で、草野耕一裁判長が補足意見の中で述べているように、「本件委任規定を受けて設けられた本件規定について子細にみてみると、いささか精緻さに乏しいとの見方ができることは否定し難い。」との指摘も重要である。特に、本件においてX社は、偶然生じた状況により、実質的な利益を得ていないにもかかわらず、形式的な基準に基づいて課税が行われたことは、やや過酷な結果を招いたことも否定できない。タックス・ヘイブン対策税制が、租税回避の防止を目的とするものである以上、形式的な基準ではなく、実質的な担税力を基準に課税が行われるべきである。 租税法律主義の下、租税法においては厳格な文理解釈が要求される以上、本件のような不合理な結果を回避するために、発生所得と留保所得の概念をより精緻に区別したうえで、納税者の実質的な担税力に基づく課税が行われるよう、立法による救済措置が必要であると考える。 (了)

#No. 608(掲載号)
#松田 祐弥
2025/02/27

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第165回】株式会社プロトコーポレーション「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2024年12月10日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第165回】 株式会社プロトコーポレーション 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2024年12月10日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社プロトコーポレーション特別調査委員会の概要】   【株式会社プロトコーポレーションの概要】 株式会社プロトコーポレーション(以下「プロト社」と略称する)は、1977(昭和52)年10月創業、会社設立は1979年6月。設立時の社名は株式会社プロジェクトエイト。1991年2月、現社名に商号変更。新車・中古車、パーツ・用品等をはじめとしたモビリティ関連情報並びに生活関連情報サービスの提供を主たる事業とする。 グループ会社は、国内連結子会社9社、持分法適用関連会社1社となっている。連結売上高115,548百万円、連結経常利益8,274百万円、資本金1,849百万円。従業員数1,523名(2024年3月期実績)。本店所在地は愛知県名古屋市中区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、有限責任あずさ監査法人名古屋事務所(以下、「あずさ監査法人」と略称する)。   【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 プロト社は2024年5月、Pc事業部に所属する課長職の社員であったX氏(同年11月30日付けで懲戒解雇。以下「元社員X氏」という)による一部取引において、売掛金が未回収となる事案が発生したことを受けて、元社員X氏に事情を確認し、事実関係の確認を進めた結果、元社員X氏が2016年頃より架空取引(役務提供の裏付けができないままに取引先等と送受金がなされている取引)を行い、プロト社において一定の規模で取引先に対する架空の売上及び売上原価が計上されている疑いがあることを把握した。 プロト社は、社内調査によって本件事案の概要が判明してきたものの、本件事案の全容解明の必要性や同種又は類似事案の確認の必要性の観点から、さらに徹底して網羅的な調査を行うため、2024年10月18日開催の取締役会の決議によって、利害関係を有さない弁護士及び公認会計士により構成される特別調査委員会を設置した。 同日付で適時開示した、「特別調査委員会設置及び2025年3月期第2四半期決算発表延期に関するお知らせ」において、プロト社は、その時点において、本件事案に係る期間は2016年7月から2024年3月、本件事案に係る架空の売上は1,831百万円、架空の売上原価は1,978百万円と認識していると公表している。 2 特別調査委員会が認定した事実関係による調査結果の概要 (1) 調査結果の概要 特別調査委員会は、本件事案を調査した結果、元社員X氏が中古車領域の事業に関連して2013年1月頃から長期間にわたりA社に対する架空売上を計上する取引を継続し、同取引の外注先への支払いの名目で支出した資金を原資としてA社に対する売掛金の回収を偽装するスキームによる不正(本件不正)を行っていた事実を認めるとともに、元社員X氏以外に本件不正に関与した役職員は存在せず、本件不正は、元社員X氏が単独で実行した不正であり、組織的な不正とは認められないという判断を示した。 さらに社内調査により、プロト社は、本件事案に係る期間は2016年7月から2024年3月、本件事案に係る架空の売上は1,831百万円、架空の売上原価1,978百万円と認識していたが、特別調査委員会は、プロト社の会計帳簿及び銀行口座取引明細上で確認することができる本件不正の開始時期は2014年8月であり、架空売上は1,959百万円、架空売上原価は2,130百万円であると認定した。 (2) 本件不正のスキーム 特別調査委員会の調査によれば、元社員X氏は、従前からA社を担当していて良好な関係を構築していたこと、既存の正常な取引の規模が大きく、他に担当者がおらず不正が露見しにくいことなどから、A社からの印刷物等の受注案件の名目で架空売上を計上することとして、元社員X氏は、Pa事業部から印刷物等を外注する大口の外注先として良好な関係を構築していたB社に対して、外注先への支払いの名目で支出した資金をプロト社に還流させることによって、A社に対する架空売上の売掛金の回収を偽装することとした。 しかし、A社の受注案件の外注先の支払いの名目で支払った資金について、A社の振込名義でB社が直接プロト社に振り込んで返金する資金移動は不自然であることから、懇意にしていたC社のC1氏に本件不正を告げずに資金移動の協力を相談し、B社に対して当社が支出した資金をB社からC社を介在させてA社の名義でプロト社に振り込むことにより、A社に対する売掛金の回収を偽装することとした。 具体的な手順は次のとおりである。 以上の方法により、プロト社のA社に対する架空売上の売掛金の回収を偽装し、売上計上から翌々月に資金の回収を図っていた。 3 特別調査委員会による発生原因の分析(調査報告書45ページ以下) 特別調査委員会は、本件不正の発生原因の分析として、不正のトライアングル理論に基づく分析を行うとともに、本件不正が長期間に及んで継続されたことを踏まえ、本件不正の未然防止及び早期発見を妨げた要因の観点からの原因分析を行っている。 (1) 不正のトライアングル理論に基づく分析 ① 動機 特別調査委員会は、元社員X氏に対するヒアリング結果をもとに、本件不正の動機について、Pa事業部の売上予算達成のプレッシャーを感じた元社員X氏が売上予算の達成を意図して実行したものであり、Pc事業部に異動後は発覚を免れるために継続したものと認められるとしたものの、本件不正の動機の背景として、プロト社全体において、売上予算達成に対する「過度」なプレッシャーが存在して、営業部門による不正や非倫理的行為を誘発するような組織風土的な土壌が形成されていたとまでは認めがたい、という判断を示している。 ② 機会 特別調査委員会は、元社員X氏が本件不正を実行することができた機会について、次の3点を指摘している。 ③ 正当化事由 特別調査委員会は、元社員X氏は、本件不正で売上を嵩上げする取引が許されないことは理解しながらも、当社における売上予算達成の強いプレッシャーやストレスから逃れるための手段として、本件不正を正当化したと分析したうえで、元社員X氏が売上予算達成のプレッシャーを感じていたことは否定しがたいものの、営業部門による不正や非倫理的行為を誘発するような組織風土的な土壌が形成されていたとまでは認めがたいとの判断を繰り返し述べている。 (2) 未然防止・早期発見を妨げた要因の分析 次いで、特別調査委員会は、元社員X氏による本件不正が長く続いた原因分析として、以下の3点を挙げている。 この中では、②売上と支払いの紐づけの問題について、特別調査委員会の分析を見ておきたい。特別調査委員会は、プロト社a支社経理担当者は、2022年3月期からの会計上の新しい収益認識基準の適用に向けた検討の過程において、経理が売上と仕入を紐づけて把握できる範囲において、本件事案の売上金額が大きいにもかかわらず、利益率が低い取引に見える点などに問題意識を持ち、元社員X氏がPa事業部の事業部長を務めていた頃から、質問等を行っていたことを挙げて、売上と支払いとの紐づけが完全にできていれば本件事案は明らかな異常取引としてより早期に事実確認等が行われて本件不正の早期発見に至った可能性があると指摘している。 4 特別調査委員会による再発防止策の提言(調査報告書49ページ以下) 特別調査委員会は、上記の原因分析を踏まえて、以下の8項目からなる再発防止策を提言している。 具体的な提言内容をいくつか見ておきたい。 まず、「(5)経理・財務部門の牽制機能の強化」として、特別調査委員会は、現状でも、利益率の低い取引のモニタリングは行われているところであるが、よりモニタリングの実効性を向上させるため、請求書チェックリストの売上と仕入の紐づけを厳格に行う仕組みの導入を検討すべきであるとしたうえで、さらに、経理が仮想口座への入金時に顧客以外の第三者からの振込みを抽出して振込元の妥当性の確認を行う手続を導入することも検討に値するとして、再発防止の観点では、経理部門のリスク管理の第2線としての牽制機能を強化するための取組みを行うことが重要であるとまとめている。 次いで、「(6)内部監査の体制強化」として、特別調査委員会は、本件事案について、ガバナンス統括室が実施する内部監査が懸念事項として指摘・指導等を行った形跡はなく、本件不正のような外部の取引先が関与したスキームの不正を内部監査の手続で発見することは容易ではないと指摘したうえで、本件事案の発覚時において、ガバナンス統括室で内部監査に従事する専任者は1名のみであり、リソースが十分とは言いがたい状況にあったと分析して、リソースの十分性について継続的な検証を行ったうえ、必要に応じて内部監査のさらなる体制強化を検討することが望ましいとしたうえで、外部専門家の支援を得ながら監査手法を開発するなどして一定の知見を蓄積してから社内の人員で自走するといった方法で内部監査を強化することも考えられると提言している。 さらに、「(7)リスク情報の集約と分析の高度化」については、特別調査委員会は、本件不正の発覚までの経緯では、2024年5月に元社員X氏が行方不明になって以降、事業部の事実確認や管理部門の調査を経て、同年7月下旬には、本件事案による売上・売上原価の金額の概要が把握されて経理・財務担当の取締役や執行役員への報告も行われたが、同年10月にあずさ監査法人に報告が行われるまでに相当な時間が経過していると指摘し、上場会社として決算や監査の対応への影響は金額が固まってからという発想で後手に回ったことは否定できず、この点は、リスク情報の集約・共有や分析が必ずしも十分でなかったとも評価したうえで、プロト社では、各部門にリスク管理責任者が置かれてリスク管理体制を構築しているが、リスク管理が分断化されて全社的なリスク管理としては十分に機能していない可能性が考えられるため、リスク情報を集約して分析する専門の部署を設置することも検討に値するという提言を行っている。   【調査報告書の特徴】 プロト社のサイトにある「企業概要」では、正規雇用労働者の採用者数に占める中途採用者数の割合である「中途採用比率」が過去3年分明記され、2023年度は78.9%になるなど、ほぼ80%前後で推移していることが紹介されている。 今回、売掛金の未回収発生をきっかけに不正が発覚した元社員X氏もまた、1998年10月、プロト社に一般社員として中途入社した後、2015年9月には事業部長にまで昇格している。特別調査委員会は、元社員X氏による不正の始期を2014年8月としているが、その時期は、X氏が課長から事業部長へ昇進するための実績が必要であった時期と重なっているようである。 特別調査委員会の原因分析によれば、売上予算達成のプレッシャーを感じた元社員X氏が売上予算の達成を意図して実行した架空取引は、その後は発覚を免れるために10年近くも継続していたものであるが、他方で、特別調査委員会による調査を通じて、横領や着服等は認められなかったとのことで、めずらしい不正となっている。 特別調査委員会による原因分析のうち、元社員X氏による本件不正が長く続いた原因について、筆者なりに補足してみたい。本件不正の特徴と、特徴から考えられる架空取引が長く続いた理由は、以下のとおりまとめられるのではないか。 調査報告書公表後のプロト社の対応をまとめておきたい。 1 プロト社による再発防止策 プロト社は2024年12月20日、「特別調査委員会の調査結果を受けた再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会の提言にほぼ即した形で、再発防止策を公表した。 特別調査委員会の再発防止策の提言で取り上げた項目について、プロト社の取組み姿勢を検証しておきたい。 まず、「(4)経理・財務部門の牽制機能の強化」については、プロト社は、毎月実施する「①請求書チェックリストの運用強化」として、経理財務部は、請求書チェックリストの情報を集約・一覧化したうえで、事業部に対して採算面で是正すべき取引がないかの確認を行い、毎月、事後的に請求書チェックリストの記載の正確性について検証を行うこと、さらに「②売掛金回収時の振込元の妥当性確認」として、経理財務部は、四半期毎に、取引先からの振込情報を集約し、疑義のある振込を認識した場合は、個別に取引先への確認を行うこととしている。 次いで「(5)内部監査の体制強化」については、プロト社は内部監査を担当するガバナンス統括室において、2024年12月1日付で営業に精通した人材を専任者として1名増員(現在専任者2名)し、より多面的・立体的に内部監査を行える体制をすでに構築しており、また、新たな内部監査の取組みとして、取引実績や取引状況等を勘案して抽出した大口取引先に関し、担当者にヒアリング等を行い、複数担当者の取組みが適切に運用されているかどうかのチェックを実施すること、購買取引について、役務提供の証跡となる取引証憑等の収集・保管が確実に行われているかをもチェック対象とすること及び経理財務部で集約・一覧化された請求書チェックリストの情報及び個別の請求書チェックリストに基づき、極端に採算性が低い取引や赤字となっている取引、売上と紐づかない費用で内容が不明なものについて、個別に状況の確認をすることを内部監査業務として追加するとともに、ガバナンス統括室のリソース・知見の十分性については継続的な検証を行うこととしている。 なお、特別調査委員会が提言した「(7)リスク情報の集約と分析の高度化」に直接関係する再発防止策について、プロト社の再発防止策には言及がない。 2 役員報酬の自主返上と役員人事 プロト社は、再発防止策の公表と同日において、「役員報酬の一部返上に関するお知らせ」をリリースして、創業者である代表取締役会長横山博一氏及び代表取締役社長神谷健司氏については、2025年1月から2025年3月までの3ヶ月、月額報酬の30%を返上することをはじめ、他の社内取締役6名についても、役員報酬の一部を返上することを公表した。 3 特別調査費用引当金の繰入れ 上記のリリースと同日、プロト社が公表した「2025年3月期第2四半期(中間期)決算短信」によると、損益計算書の特別損失として、特別調査費用等引当金繰入額336百万円が計上され、貸借対照表の流動負債の部にも、同額の特別調査費用等引当金が計上されている。この金額は、2025年2月4日公表の「第3四半期決算短信」では、損益計算書における特別損失の特別調査費用が368百万円と増額されているが、貸借対照表の流動負債の部には引当金等の記載はないことから、調査費用等の支払は完了しているようである。 4 MBO実施の判断 プロト社は、第3四半期決算短信の公表と同日、「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」をリリースして、プロト社取締役会が、マネジメントバイアウトの一環として、創業者であり、プロト社の代表取締役会長横山博一氏一族の資産管理会社であり、プロト社株式を33.70%所有する株式会社夢現の100%子会社であり、横山博一氏が代表取締役を務める株式会社フォーサイトを公開買付者とするプロト社の普通株式の買付けに関して、賛同の意見を表明するとともに、株主に対して公開買付けへの応募を推奨することについて決議したことを公表した。 マネジメントバイアウトにより株式の上場を廃止することに至った理由は、同リリースでさまざまに説明されているが、気になった項目を1つだけ抜粋しておきたい(同リリース9ページ)。 あらためて、何を目的に、誰のために、株式の上場を維持するのかを考えさせられる記述である。 (了)

#No. 608(掲載号)
#米澤 勝
2025/02/27
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