〈注記事項から見えた〉 減損の深層 【第4回】 「歯科器材メーカーが減損に至った経緯」 -コロナの陰に隠された本当の問題- 公認会計士 石王丸 周夫 〈はじめに〉 今回はのれんの減損事例です。新型コロナウイルスの影響もあって減損に至ったのですが、実はその2年前に、同じのれんを減損していました。果たして何があったのか、減損注記から読み解いていきましょう。 〈今回の注記事例〉 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 〈のれんとして計上されたシナジー効果〉 この事例の減損の原因は3つあります。 ①は減損の理由としてはオーソドックスなもので、減損対象も通常の事業用資産です。②と③は、のれん及び無形固定資産の減損で、理由もこの会社特有のものです。以下では、②と③を見ていきます。 まず②ですが、買収した連結子会社の事業計画が狂い、その連結子会社の売上高が想定よりも減少したと解されます。詳細をつかむため、この連結子会社を買収した2016年3月期の有価証券報告書の企業結合等関係の注記で、取得の理由を確認しておきましょう。 (出所:有価証券報告書) (※) 下線は筆者 少し長い文章ですが、要は、「高いブランド力」と「直販ルート」を持っている会社があり、その会社を子会社化することで「シナジー」が期待できるので、取得することにしたというものです。シナジーというのは、企業の経営多角化の論理として知られる考え方で、日本語で言えば「相乗効果」のことです。シナジーにより「2+2が5になる」といった説明のされ方もします。具体的には、開発、生産、販売の3つの面でシナジーが創出されると読め、業績に直結する販売に関しては、販売網を相互に開放することにより、両社ともに販売の拡大が図れるということだと解されます。 会計的には、この取得に際して「顧客関連資産」「商標権」「特許・技術関連資産」「のれん」といった無形固定資産を計上していることが、当該企業結合等関係の注記の他の箇所からわかります。今回減損の対象となったのはそうした資産です。そして、このうち「のれん」は、企業結合による「シナジー」に対応する内容と見ても間違いではなさそうです。 〈減損は二度目だった〉 ところで、過年度の有価証券報告書を見るとわかるのですが、この連結子会社取得時に発生したのれんについては、今回が初めての減損ではありませんでした。すでに2018年3月期に一度減損されており、今回が二度目なのです。 2020年3月期の連結貸借対照表を見ると、のれんの残高はもうありませんので、結局、この連結子会社の買収時に見込んでいた超過収益力(シナジーか?)はゼロになったというわけです。当初、のれんの償却期間は13年としていましたが、結果的には、5年経過後に超過収益力部分は消滅しました。13年かけて投資を回収するという計画は、大幅に狂ってしまったようです。 一体なぜそうなってしまったのでしょうか。 創出されたシナジーは消えてしまったのでしょうか。あるいは、そもそもシナジーの創出などなかったのでしょうか。この会社の減損処理で確認すべきはそこでしょう。減損処理を行っても、それは会計的な手続きが済んだだけで、根本の解決とは別です。読み手としては、当初の償却期間の半分以下の期間でのれんが消滅してしまったことに、注意を向けなければなりません。 〈新型コロナウイルスを過大視しない〉 減損原因の③は、新型コロナウイルスの影響が上述の②に追い打ちをかけたという話です。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、歯科受診が減ったという話はよく聞きます。「元の水準に戻るまで1~2年を要する」という仮定も不自然ではなく、会社が減損に踏み切った判断は適切だったと思います。しかし、③の理由が示されたことによって、②の理由が埋もれてしまったようにも感じられます。 この事例にかかわらず、新型コロナウイルスの影響は、会社が抱えている本来の問題を隠してしまうことにつながりやすいです。注記を作成した会社側にそのつもりはないでしょうが、注記を読む側としては、わかりやすくて印象に残るところに目が行ってしまうものです。その点は注意しなければなりません。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《税金費用・税金債務》編 【第2回】 (最終回) 「消費税」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 消費税に関しては、中小企業会計指針においても、上場企業等の会計処理の取扱いと同様に、税抜経理方式が原則とされています。今回はこの消費税の原則的な会計処理を、法人税法上の取扱いも含めて紹介します。 【設例2】 A社(3月31日決算)の当期(X2年4月1日~X3年3月31日)における消費税及び地方消費税(以下「消費税等」とします)に関する資料は、次のとおりです。 (1) 課税売上790,000,780円(消費税等79,000,078円)、非課税売上210,000,208円。 (2) 課税仕入れ500,000,000円(消費税等50,000,000円)。このうち固定資産は、機械及び装置10,000,000円(消費税等1,000,000円)1台と1,500,000円(消費税等150,000円)の車両運搬具1台のみ。交際費は2,000,000円(消費税等200,000円)。 (3) A社は、消費税等の経理処理については、すべて税抜経理方式を採用。 (4) A社は、控除対象仕入税額の算定については、一括比例配分方式を採用。 (5) 当期中の消費税等の予定納付額は、20,000,000円であり、決算整理前試算表上、仮払金残高に含まれています。 (6) A社は、繰延消費税額等についての法人税の取扱いと同じ会計処理をしています。 1 A社の消費税等に係る決算整理仕訳 A社の消費税等に係る決算整理仕訳は、次のとおりです。 〈X3年3月末日〉 (1) 税抜経理方式を原則とする理由 中小企業会計指針では、消費税等については、原則として税抜経理方式を適用し、事業年度の末日における未払消費税等(又は未収消費税等)は、未払金(又は未収入金)に計上し、その金額の重要性が高い場合には、未払消費税等(未収消費税等)として別に表示することとされます(中小企業会計指針61)。この設例では、税抜経理方式を採用しています。 税抜経理方式が原則とされるのは、消費税の仕組みが、資産の譲渡等の都度その対価の額に課税され、各段階の消費税納税者である企業等はその前段階に課税された消費税額を控除して消費税納税額を算定するという方式であるため、仕入れ等に係る消費税は一種の仮払金ないし売上等に係る消費税から控除される一種の通過支出であり、各企業等は消費税の会計処理が損益計算に影響を及ぼさない方式である税抜経理方式を採用することが適当と考えられるためです。 ただし、非課税売上が主である企業等は、消費税の最終負担者となる部分が多いため、また、簡易課税制度を採用した企業等は、売上等に係る消費税から控除される仕入れ等に係る消費税がその前段階に課税された消費税額とは無関係に算定されるため、税込経理方式を採用することができるとされています。 (2) 消費税等の当期末確定申告による納付税額の算定過程 A社は、毎期7億円から8億円ぐらいの課税売上があり、原則課税により消費税等を納付していることとします。消費税等の当期末確定申告による納付税額は、次のように算定します。 ① 課税売上割合 ② 一括比例配分方式を適用した控除対象仕入税額の算定 当該課税期間の課税売上が5億円以下、かつ、課税売上割合が95%以上の場合には、課税仕入れの消費税等の全額を控除できます(消法30①)。 一方、当該課税期間の課税売上が5億円を超える場合、又は課税売上割合が95%未満の場合には、個別対応方式か一括比例配分方式により控除対象仕入税額を計算します(消法30②)。一括比例配分方式を選択した場合には、2年間継続適用が必要です。この設例では、一括比例配分方式を適用して控除対象仕入税額を算定します。 ③ 繰延消費税額等 税抜経理処理を適用している場合に、当該事業年度において生じた資産に係る控除対象外消費税額等についての法人税法上の取扱いは、次のとおりです(法令139の4)。 この設例では、機械及び装置10,000,000円に係る消費税等1,000,000円のうちの控除対象外消費税額等210,000円(上記㋐)が繰延消費税額等に該当するので、これを長期前払消費税等に計上し、上記損金算入限度額だけ当期に費用計上します。 車両運搬具1,500,000円に係る消費税150,000円のうちの控除対象外消費税額等は20万円未満のため、その額を損金経理すれば、繰延消費税額等に該当しないので、当期の租税公課に含めて計上します。 ④ 交際費等に係る控除対象外消費税額等 法人税法上、税込経理方式の場合、交際費等に係る消費税等の全額が交際費等の額に含まれます。しかし、税抜経理方式の場合、交際費等に係る消費税等の額のうち、仕入税額控除の対象となる消費税等は交際費等の額に含まれず、控除対象外消費税額等が交際費等の額に含まれます(平元直法2-1通達12)。 この設例は、後者の場合であり、交際費に係る消費税額等200,000円のうちの控除対象外消費税額等42,000円(上記㋑)だけを交際費等の額に含めます。 ⑤ 控除対象仕入税額 ⑥ 消費税等の年税額 ⑦ 消費税等の当期末確定申告による納付税額 税抜経理方式の場合、課税期間の終了の時における仮受消費税額等から仮払消費税額等(控除対象外消費税額等を除く)を控除した金額と、当該課税期間に係る納付税額(又は還付税額)とに差額が生じたときは、その差額は、当該課税期間を含む事業年度において益金の額又は損金の額に算入します(平元直法2-1通達6)。この設例では、この差額が78円(上記㋔)生じているので、雑収入計上しています。 2 決算書の金額 決算書の金額は、次のとおりです。 X3年3月31日決算期 〈当期末貸借対照表〉 〈当期損益計算書〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 この設例のケースは、会計処理を法人税法上の取扱いと一致させているために両者の差異がなく、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整はありません。 ただし、例えば上記の消費税等に係る決算整理仕訳を行う以前に、交際費等が法人税法上の損金算入限度額を超えている場合には、上記仕訳により増加した交際費等42,000円も、加算調整して課税所得を算定する必要があります。 (《税金費用・税金債務》編 終了)
〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第5回】 「調達をめぐる「三権分立」の仕組み」 ~「発注」「検収」「支払」の分離による相互牽制~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 はじめに ものづくりの会社を訪れると、たいてい資材や調達に関する部門が設置されています。これらの部門は、製品や商品を製造するための原材料を外部から調達することが主な仕事です。製造に際して、安価で良質な原材料を安定的に提供できる取引先を見出すことはとても大切なことです。製造にあたり、どこに発注したら安価で良質な原材料を入手できるのか、それを一番熟知しているのが、資材、調達あるいは仕入部門になります。 原材料の調達には、材料の品質などに関わる専門的かつ実務的な知識の習熟が求められるため、一朝一夕にそれらの知識を身につけることは困難です。そのため、ローテーションが比較的難しい部門に分類されるため、調達に関わる会社の仕組み作りには注意が必要になります。 《1》 調達に関わる仕組みを考える 「発注と検収は同一担当者が兼務した方が効率的ではないか」と一般的には考えがちです。なぜならば、発注を行った担当者が検収も併せて行えば、発注内容を熟知しているため、検収も円滑に効率よく進むのではないかということに加えて、余計な人員を必要とせず、手間を省くことができるとも思われるからです。 ◎ 【事例】を分析する 《2》 資材や調達部門における三権分立 「発注」、「検収」そして「支払」の3つの働きを全て分離させ、お互いに牽制を働かせる仕組みがあります。これを一般的に資材や調達部門の現場では、「三権分立」と呼称しています。これら3つの働きを踏まえ、それぞれの機能を分離独立させ、担当者や責任者同士が、互いの部門を牽制する仕組みです。 《3》 三権分立の必要性について 発注と検収を分離して、相互に牽制する必要があることは既に述べましたが、さらに支払をつかさどる経理(財務)部門も牽制の対象とする必要があります。たとえば、発注や検収を担当する者と支払担当者が同一人であった場合、調達に伴って架空の支払や水増しによる支払が起きるおそれがあることは明らかです。こうした調達をめぐる仕組み作りの際には、必ず「発注」、「検収」そして「支払」の3つの働きを全て分離させ、お互いに牽制を働かせる必要があります。 《4》 具体的な制度設計について 三権分立を仕組みとして構築する場合、次の点に留意しましょう。 《5》 例外的な取扱いについて 人材の不足などにより、発注と検収の兼務がどうしても避けられない場合もあると思います。そのような場合は、たとえば調達を依頼した部門の担当者などが検収に立ち会い、兼務に対して牽制を働かせるという対応も考えられます。このように他部門からの支援という視点も相互牽制を実現させるうえで大切です。 ◆今回の重要ポイント◆ 調達をめぐる三権分立の仕組みを理解する。 三権分立を実現させる重要なポイントを掴む。 他部門からの支援を得ることで、例外的な取扱いにも相互牽制を働かせる。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第9回】 (最終回) 「デジタル通貨×ブロックチェーン」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 1 地域通貨等 地域の実体経済を考慮した景気対策として、地域振興券やプレミアム付商品券など個人消費喚起型の事業があり、利用期間と場所が限定されていることから、地域の経済活性化が期待される。一方、一時的な経済対策は消費の前倒しや日常の買い物の代替にとどまり、効果は限定的との評価もあり、また、商品券等の流通に伴う偽造や不正利用のほか、発行・運用にかかるコスト負担が課題となっているのが現状である。このような地域通貨を、ブロックチェーン上で流通・管理することで、上記課題の解決に寄与できる可能性がある。 例えば、一定の手続を経て住民に地域通貨が付与され、それを地域内の商店や公共サービス等での支払いに利用する。住民から住民へ譲渡可能であり、店舗が支払いで受け取った地域通貨を利用(地域内での原材料の調達に利用、地域内に在住する従業員への給与として支給するなど)できるであろう。地域通貨で納税した場合には、税の優遇も認めるといったことも可能である。 また、利用期限を設け、徐々に価値が減衰していく設定(減価)にすることも可能であり、これらを総合的に組み合わせることで、地域通貨の流通量を上げることが可能となる。 2 ポイントサービス・電子クーポン 日本においては、Tポイント、楽天スーパーポイント、Pontaポイントなど多数のポイントが存在し、各社が顧客囲い込みのために様々なサービスを提供している状況にある。利用者がポイントを換えたいと思ったときにリアルタイムで応えることができず、交換するときに一定のコストがかかってしまうのが現状の課題となっており、特に、異なる種類のポイントを利用者間で交換することが可能となれば、ブロックチェーンを利用するメリットをより享受できる。 また、飲食店、小売店等が発行する電子クーポンについても、ほぼ同様の仕組みで発行と利用の管理が可能であると考えられる。特に、クーポンの転々流通を認めるような場合に、中央集権型のシステムではなく、ブロックチェーンを利用するメリットが見込めるであろう。 3 国際送金 世界銀行によると、国際送金業界は、2017年には8.8%、2018年には9.6%という大きな成長をしている。多くの発展途上国の経済は、出稼ぎ労働者による海外から流入する現金に大きく依存しているので、そのような国の経済にとって国際送金は重要である。 しかしながら、国際送金は、高額の手数料に加えて、多くの国際送金ソリューションは「コルレス契約」という送金方法を用い、第三者サービスと金融機関に頼っており、複数の仲介業者が必要になるため、送金に数日、又は数週間かかってしまうというのが現状となっている。すなわち、現在のシステムはかなり非効率的である。 ブロックチェーンを活用することで、上述した国際送金業界が直面している高額な手数料や、取引完了に必要な時間が長い等の問題を解決することが可能となる。また、ブロックチェーン技術を用いた送金サービスは、送金の対象は自ずと全世界となり、法定通貨の送金にとどまらず、地域通貨や様々な暗号資産など、あらゆる価値情報の授受に利用可能となる。 4 証券取引 現在の証券取引においては、注文が約定し取引が成立してから、照合・清算・決済という3つのステップを踏んでいることになる。 【図9-1】証券取引の要素 トレード処理については、株式等の売買は主に取引所の売買システムを介して行われているが、近年における電子取引等の普及・進展に伴い、高速性や処理件数の面で高い性能が求められるため、ブロックチェーンと比較して従来技術の優位性が引き続き高いと考えられている。 一方で、ポストトレード処理は、売買で発生した約定通知をもとに、異なる企業間で情報を確認・連携しながら、最終的に決済期日において資金と証券を決済して記録するという処理フローとなっている。また、複数の企業間での情報の確認・連携が必要になることから、ブロックチェーンとの親和性が比較的高いと考えられる。 電子化された証券は、ブロックチェーンを活用して取引を行いやすく、取引頻度の比較的低い社債などから、ブロックチェーンへの対応が進む可能性がある。 (連載了)
《速報解説》 会計士協会から「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する 監査に関する実務指針」の公開草案が公表される ~監査業務の受嘱、監査人交代時の対応、監査意見の表明等に係る留意事項等示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月22日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、訂正報告書の提出が必要となる状況における監査人の対応について、昨今の監査基準等の改訂も踏まえて検討したものである。 意見募集期間は2021年6月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 公開草案は、目次を含めて87ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説する。 付録として、次のものが記載されている。 1 適用 訂正後の財務諸表に対する監査業務の受嘱は、新規の監査契約の締結であり、訂正後の財務諸表全体の監査が必要であるため、すべての監査基準委員会報告書等に準拠することになる(3項)。 このため、次のことに注意する。 2 監査契約の締結 訂正後の財務諸表に対する監査業務は、たとえ訂正対象期間又は年度(過年度又は当年度)に監査契約を締結していたとしても、締結済みの監査契約に含まれてはいないので、監査基準委員会報告書210「監査業務の契約条件の合意」及び品質管理基準委員会報告書第1号第25項に従って、監査契約の新規の締結を行う(A1項)。 次のケースの留意事項が記載されている。 3 訂正対象年度の監査人が交代している場合 監査人が交代した後に、交代以前の会計年度に虚偽表示が発覚した場合、法令上、訂正後の財務諸表に対する監査を行うべき監査人は定められていないが、実務上は、元監査人又は現監査人が監査を実施することが多い(A15項、A16項)。 「元監査人」とは、訂正対象年度の監査人が交代している場合の訂正前の財務諸表等に対して監査証明を行った監査人をいい、「現監査人」とは、過年度の不正又は誤謬による虚偽表示が発覚した年度の監査人をいう(8項(6)(7))。 次のケースの留意事項が記載されている。 4 訂正により財務諸表数値が変更された結果として影響を受ける事項 訂正により財務諸表数値が変更された結果として影響を受ける事項として、次のものが例示されている(A47項)。 5 財務諸表の訂正が当時の会計上の見積りに与える影響 訂正前の財務諸表における会計上の見積りについて、訂正後の財務諸表に対する監査を行う時点において、取引、事象又は状況が最終的に確定している場合がある。 会計上の見積りの確定額と訂正前の財務諸表における認識額との差異があったとしても、必ずしも訂正後の財務諸表において確定額を反映しなければならないわけではない(A49項)。 しかしながら、例えば、訂正前の財務諸表の確定時に経営者が利用可能であった情報や、当該財務諸表の作成及び表示時に入手及び考慮しておくことが合理的に期待される情報から差異が生じている場合には、訂正する必要があることを示していることがある(A49項)。 6 訂正後の財務諸表における後発事象 訂正後の財務諸表は、当初提出した有価証券報告書等に記載した訂正前の財務諸表を訂正したものであることから(金商法24条の2第1項で準用する同法7条(四半期報告書及び半期報告書の訂正についても同条準用))、訂正後の財務諸表に反映させる後発事象は、訂正前の財務諸表に対する監査報告書日までに発生していた事象である(A68項)。 訂正前の財務諸表に対する監査報告書日後に発生した事象については、その訂正対象年度の翌年度(翌四半期)以降の有価証券報告書等の開示書類において反映されると考えられる(A69項)。 7 第三者委員会の調査報告書の利用の可否及び利用する場合 第三者委員会は、その専門性を有していることを考慮すると訂正後の財務諸表を作成する上での経営者の利用する専門家として位置付けられる(A91項)。 第三者委員会の調査を利用する場合は、第三者委員会の調査報告書のみをもって十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断することは適切ではない(A93項)。 第三者委員会の調査の目的と訂正後の財務諸表に対する監査の目的は異なるため、第三者委員会の調査手続及び範囲と監査人の立案した監査手続の種類及び範囲は必ずしも一致しないので、第三者委員会の調査結果の利用の程度に応じて、監査人自らが第三者委員会の入手した証拠の閲覧、第三者委員会の調査に対する再実施等を行うことに留意する(A93項)。 8 監査意見形成に必要な監査証拠を入手できない場合 例えば、複数の取引先との共謀による長期間の架空売上計上のように、すべて遡って事後的に検証することが困難な場合や、経営者による監査範囲の制約や経営者による不正が判明し、監査の前提条件となる経営者の誠実性に疑義が生じている場合があり得る。 このような場合、通常、監査人は、監査報告書において監査範囲の制約に伴う限定付適正意見の表明又は意見不表明とすることを検討する(A110項。監査人が限定付適正意見の表明又は意見不表明とする場合には、監査基準委員会報告書705「独立監査人の監査報告書における除外事項付意見」の要求事項に従う)。 9 財務諸表が訂正された場合の内部統制監査 内部統制報告制度においては、「「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)」1-1に記載されているとおり、訂正内部統制報告書に対して監査証明は必要とされていないため、監査人は、過年度の内部統制報告書の訂正報告書に対する内部統制の監査を実施することは求められていない(A134項)。 10 会社法監査における訂正事項の取扱い 会社法においては、株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとされ(会社法431条)、上場会社に適用される過去の誤謬の訂正に関する企業会計の慣行とは、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)である。 過年度遡及会計基準では、過去の財務諸表に誤謬が発見された場合には修正再表示することを定めており(過年度遡及会計基準21項)、単年度表示となる会社法の計算書類においては当事業年度の期首剰余金を修正することになる(A136項)。 「誤謬の訂正に関する注記」(会社計算規則102条の5)において、誤謬の訂正をした場合、当該誤謬の内容、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額の注記を行う(A138項)。 (了)
《速報解説》 会計協、「監査基準の改訂に関する意見書」の「その他の記載内容」の改訂等を受け、「農業協同組合法に基づく会計監査に係る監査上の取扱い及び監査報告書の文例」等の改正(公開草案)を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月22日、日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2020年11月6日、企業会計審議会)及び「監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」」(2021年1月14日)等を受けたものである。 意見募集期間は2021年5月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「監査基準の改訂に関する意見書」において、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容、すなわち「その他の記載内容」について、監査人の手続を明確にするとともに、 監査報告書に必要な記載を求める改訂が行われた。 監査報告書では、「その他の記載内容」又は他の適切な見出しを付した区分を設けて記載する(監基報720第20項)。 そこで、各公開草案において、「その他の記載内容」に関する規定を設け、「付録 独立監査人の監査報告書の文例」を改正する内容となっている。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度(会計年度)に係る監査から適用する。 ただし、2021年3月31日以後終了する事業年度(会計年度)に係る監査から適用することができる。 (了)
《速報解説》 会計士協会がリモートワークに伴う各企業の課題や 監査上の課題の整理を目的とした取りまとめを公表 ~労務管理、メンタルケア、OJTなど監査人側の問題にも指摘~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月22日、日本公認会計士協会は、「リモートワークを俯瞰した論点・課題(提言)」を公表した。 これは、リモートワークに伴う各企業の課題や監査上の課題の整理を目的とするものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業活動に関連して監査人の理解すべきリモートワークの課題 次の2つに分けて考察し、クラウド会計システムを利用したデジタライゼーション、在外子会社とのシステムの共通化、電子署名等の活用などについて述べている。 Ⅲ 監査人におけるリモートワークの課題 監査人はリモートワークによる内部統制の変化及びその重要な虚偽表示リスクに与える影響について、ウォークスルーなどを通じ、過去の理解にとらわれずに慎重に評価することが重要である。 リモートワークを背景とした証憑の電子化は、証憑の改竄を容易にするため、原資料の真正性の確保や検証可能性の確保、電子署名等の活用によるなりすまし・改竄防止の必要性といった課題がある。 リモートワーク拡大に伴い、監査チームも各々が遠隔地で業務する形が定着してきていることから、次の監査人側の問題が指摘されている。 Ⅳ 情報セキュリティに関する課題 監査法人におけるサイバー攻撃への対応などの情報セキュリティに関する課題が指摘されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「新型コロナウイルス感染症に関連する 監査上の留意事項(その5-2)」を公表 ~電子形式で経営者確認書の原本を入手する際の留意点を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年4月23日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5-2)」を公表した。 これは、電子形式によって経営者確認書の原本を入手する場合の留意点を示すものである。 2020年5月の「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その5)」は、紙媒体により経営者確認書を入手する場合に、日付と署名又は記名のある経営者確認書を改竄不能なPDF等で入手し、後日、署名又は記名捺印のある経営者確認書の原本を紙媒体によって入手する方法を示していた。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 PDF等電子形式で経営者確認書を入手する場合には、経営者確認書に記された提出者である経営者本人が記載内容について承知したものであること(本人識別性)及び作成後に記載内容の変更が生じていないこと(非改竄性)が確保されていること等に留意する必要がある。 本人識別性及び非改竄性が確保されていれば電子形式により経営者確認書を入手することができ、その場合には改めて紙媒体により経営者確認書を入手する必要はないと考えられるとしている。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和2年10~12月までの路線価等の補正対象地域及び地価変動補正率を公表 ~1月下旬公表時から対象地域の追加・除外も~ Profession Journal編集部 国税庁はコロナ禍を受けた地価下落により、地価変動補正率による路線価の補正が必要な地域として、既報のとおり本年1月26日に、令和2年7~9月までの路線価等の補正を行う地域及びその地価変動補正率を公表していたが、4月23日付けで、それに続く「令和2年10~12月までの路線価等の補正を行う地域及びその地価変動補正率」を明らかにした。 この期間(令和2年10~12月)において、対象地域に所在する土地等を相続、遺贈又は贈与により取得した場合には、路線価に地価変動補正率を乗じた価額に基づき評価額を算出する。また、贈与による取得の場合は、個別の期限延長により、今回の公表日(令和3年4月23日)から2ヶ月以内の贈与税の申告・納付が認められる。 なお、この対象地域については、1月公表時に路線価を補正する可能性がある地域とされていたものから、新たに大阪府(大阪市中央区)の「心斎橋筋1丁目」が追加され、愛知県(名古屋市中区)の「錦3丁目」が対象から外れている。ただし「錦3丁目」についても対象地域と同様、申告・納付期限の延長を認めるとしている。 7月~9月分を含む対象地域及びその地価変動補正率は以下のとおり。 〔令和2年分 地価変動補正率表〕 (※) 国税庁ホームページより (了)
2021年4月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.416を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。