《速報解説》 国税庁、改正電帳法を受けた改正個別通達やQ&A等を公表 Profession Journal編集部 税務署長の事前承認制度の廃止や検索要件の緩和など大幅な見直しが行われる改正電子帳簿等保存制度の施行(令和4年1月1日~)まで半年を切る中、国税庁は7月16日に下記の情報を公表、改正後の制度について周知を図っている。 今回公表されたのは、まず本制度に係る個別通達の改正通達「「電子帳簿保存法取扱通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」で、通達全体にわたって項目の追加削除等が行われている。また、この改正通達の趣旨説明「令和3年7月9日付課総10-10ほか7課共同「『電子帳簿保存法取扱通達の制定について』の一部改正について」(法令解釈通達)等の趣旨説明について」についても合わせて公表されている。 次に「電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係」「スキャナ保存関係」「電子取引関係」に分冊されている本制度の「Q&A(一問一答)」についても、それぞれ見直しが行われている。 なお本制度の様式関係の改正通達「「電子帳簿保存法関係申請書等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」も同日に公表されているが、こちらは押印義務の廃止による見直しが行われている。 冒頭のとおり新制度の見直しは来年からとなっているため、国税庁ホームページには現制度のQ&A等情報も引き続き公表されている。このため各資料の確認にあたっては新旧制度いずれのものか留意の上、本制度全般については「電子帳簿保存法関係」から、令和3年度税制改正関係の資料は「令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しについて」から、それぞれ閲覧されたい。 (了)
《速報解説》 会計士協会、監基報810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正を確定 ~監査人にその他の記載と要約財務諸表の間の重要な相違の有無について検討を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月10日付で(ホームページ掲載日は2021年7月16日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書810「要約財務諸表に関する報告業務」の改正について」を公表した。これにより、2021年4月14日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正を反映させるためのものである。 なお、公開草案に対して特段の意見は寄せられなかったとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 報告書は、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を実施した監査人が、監査済財務諸表を基礎として作成された要約財務諸表に関して報告業務を行う場合における監査人の責任について、実務上の指針を提供するものである(1項)。 「要約財務諸表」とは、一定時点における企業の経済的資源もしくは義務又は一定期間におけるそれらの変動に関して、財務諸表ほど詳細ではないが、それと整合する体系的な情報を提供するために、財務諸表を基礎として作成された過去財務情報である(3項(4))。 1 「その他の記載」の定義 「その他の記載」とは、要約財務諸表を含む開示書類のうち、当該要約財務諸表と要約財務諸表に対する報告書とを除いた部分の記載をいう(3項(2))。 2 「その他の記載」の検討 監査人は、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載を通読し、その他の記載と要約財務諸表の間に重要な相違があるかどうかを検討しなければならない(13項)。 そして、監査人は、重要な相違を識別した場合には、当該事項について経営者と協議し、要約財務諸表及びその要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類の要約財務諸表又はその他の記載を修正する必要があるかどうかを判断しなければならない(14項)。 13項及び14項では、要約財務諸表及び要約財務諸表に対する報告書が含まれる開示書類におけるその他の記載に関連する監査人の責任を扱っており、ここでのその他の記載には、次のものが含まれる場合がある(A12項)。 3 要約財務諸表に対する報告書 監査基準の改訂及び監査報告に関する国際監査基準(ISA)の改訂を受けた監査基準委員会報告書の改正に対応し、「要約財務諸表に対する報告書」の記載内容を整理するとともに、「監査済財務諸表に対する監査報告書への参照」について詳細に規定している(15項~19項)。 18項は、監査済財務諸表に対する監査報告書において、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に従った監査上の主要な検討事項の報告が含まれている場合には、その旨を要約財務諸表に対する報告書に含めることを監査人に要求している(A21項)。 しかしながら、監査人は要約財務諸表に対する報告書において、監査上の主要な検討事項を個別に記載することは要求されていない(A21項)。 報告書の19項により要求される記述は、このような事項に注意を喚起することを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書を代替するものではない。また、この記述は、当該事項の内容を伝えることを意図したものであり、監査済財務諸表に対する監査報告書の関連する文章を繰り返して記載する必要はない(A22項)。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する事業年度に係る要約財務諸表に関する報告業務から適用する。 (了)
2021年7月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.428を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第93回】 「産業競争力強化法等の改正法案成立」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案が6月9日参議院本会議で可決成立した。この改正法の施行の日は、同法の公布の日(6月16日)から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日とされている。 今回の改正は、新型コロナウイルス感染症の影響、急激な人口の減少等の短期及び中長期の経済社会情勢の変化に適切に対応して、「新たな日常」に向けた取組を先取りし、長期視点に立った企業の変革を後押しするため、ポストコロナにおける成長の源泉となる①「グリーン社会」への転換、②「デジタル化」への対応、③「新たな日常」に向けた事業再構築、④中小企業の足腰強化等を促進するための措置を講じるべく、産業競争力強化法、中小企業等経営強化法、地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律、下請中小企業振興法、独立行政法人中小企業基盤整備機構法の6つの法律を改正するものである。 この改正法に関する税制上の措置としては、カーボンニュートラル実現に向けた事業者の計画の主務大臣による認定を前提とした、脱炭素化効果が高い製品の生産設備・生産工程等の脱炭素化を進める設備に対する設備投資税制、デジタル技術を活用した全社レベルのビジネスモデルの変革の計画の主務大臣による認定を前提としたDX投資促進税制、「新たな日常」に向けた事業再構築の計画の主務大臣による認定を前提とした繰越欠損金の控除上限の引上げ、事業承継に先立ち実施するデューデリジェンス等を経営力向上計画の対象とした中小企業経営資源集約化(M&A)税制(M&A後のリスクに備える準備金・設備投資・雇用確保の促進)、が措置されている。 税制上の措置の他、産業競争力強化法では、経済産業大臣及び法務大臣の確認を前提として上場会社がバーチャルオンリー株主総会の開催を特例的に可能とする措置、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律では、一部株主が所在不明であるため事業承継が困難となっている旨の認定を受けた中小企業者について、所在不明株主からの株式買取り等の手続きに必要な期間を5年から1年に短縮する措置、下請中小企業振興法では、発注者と中小企業との間に入り、中小企業の強みを活かした取引機会等を創出する事業者の認定制度を創設するとともに、金融支援等を行う措置も盛り込まれている。 〇繰越欠損金の控除上限の特例 今回の産業競争力強化法の改正を踏まえて、令和3年度税制改正では、同法の規定する「成長発展事業適応」を行う「認定事業適応事業者」(強化法21の28①)を対象に、繰越欠損金の控除上限の特例が講じられている(措法66の11の4)。 具体的には、青色申告書を提出する法人で、産業競争力強化法の改正法の施行の日から同日以後1年を経過する日までの間に、同法の事業適応計画について同法の認定を受けたもののうち、上記「認定事業適応事業者」であるものの適用事業年度(その認定事業適応計画に記載された実施時期内の日を含む各事業年度であって、一定の要件を満たす事業年度に限る(黒字転換後最大5年間(令和8年4月1日以前に開始する事業年度)))において欠損金の繰越控除制度を適用する場合において、特例欠損事業年度において生じた欠損金額があるときは、超過控除対象額に相当する金額を欠損金の繰越控除制度において損金算入することができる金額に加算することとされている。 なお、特例欠損事業年度とは、特例事業年度において生じた欠損金のうちこの制度の要件を満たすものがある場合の特例事業年度を指しており、特例事業年度自体は財務省令で定めることとされているが、その内容は今後定められる予定である。 〇事業適応の実施に関する指針案 上記からもわかるように、この特例の適用を受けるには、「認定事業適応事業者」であることが必須である。この「認定」を受けるための手続・要件は今回の改正法に提示されている。 経済産業大臣及び財務大臣は、事業適応の実施に関する指針(以下「実施指針」という)を定め(強化法21の13)、さらに主務大臣は、実施指針に基づき、所管に係る事業分野のうち、当該事業分野の特性に応じた事業適応を図ることが適当と認められるものを指定し、当該事業分野に係る事業適応の実施に関する指針(以下「事業分野別実施指針」という)を定め(強化法21の14)、主務大臣は実施指針及び事業分野別実施指針に基づき事業適応計画の認定を行う(強化法21の15④)。主務大臣の認定を受けた事業適応計画は「認定事業適応計画」と呼ばれ(強化法21の16②)、計画の認定を受けた事業者は「認定事業適応事業者」と呼ばれる(強化法21の16①)。 改正法の成立を受け、すでに実施指針案がパブリックコメントに付されている。欠損金の繰越上限の特例に関する実施指針は、「成長発展事業適応」の部分であるが、実施指針案では次の第1、第2の目標のいずれかを達成することが見込まれることが求められている。 第1(生産性の向上に関する目標) 第2(新たな需要の開拓に関する目標) 〇主務大臣による確認 税制上の措置の適用を受けるには、まずは「認定事業適応事業者」(強化法21の16①)となる必要があるが、それだけでは、適用要件のすべてを満たしているわけではない。税制上の特例措置の適用を受ける「認定事業適応事業者」(強化法21の28①)は別物である。 すなわち、主務大臣による計画の認定に加えて一定の事項に関する「確認」を得ることが求められていることに注意が必要である。繰越欠損金の控除上限の特例においては、経済社会情勢の著しい変化に対応して行うものとして主務大臣が定める基準に適合することについての主務大臣の「確認」が必要とされている(強化法21の28①)。この「主務大臣が定める基準」については、今後定められる予定である。 (了)
令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】 「研究開発税制の拡充(その1)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [4] 研究開発税制の拡充 連結納税制度においても、厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業について、2年間の時限措置として、税額控除の上限を引き上げる(改正前:25%→30%)とともに、研究開発投資の増加インセンティブを強化する観点から、控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(改正前:6%→2%)を行うこととしている。 連結納税制度における研究開発税制は、連結グループ全体を1つの計算単位として税額控除額が計算され、連結法人税額から控除し、その連結グループ全体の税額控除額を各連結法人の試験研究費の発生額の比で配分して個別帰属額が計算される。 具体的には以下の取扱いとなる(新措法68の9、新措令39の39)。 なお、令和3年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(令和3年所法等改正法附則1、43)。 1 試験研究費の総額に係る税額控除制度(一般型) (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第28回】 「『役員報酬』と『第二次納税義務』」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 第二次納税義務の趣旨 第二次納税義務を定める国税徴収法は、昭和34年の全面改正にて大きく生まれ変わっている。具体的には、財産処分の方法として「譲渡」のみを第二次納税義務の対象としていた旧国税徴収法からその範囲が拡充され、いわゆる無償譲渡等が加えられた(※1)。 (※1) 吉国二郎他編『国税徴収法精解 第20版』(大蔵財務協会、2021)380頁。「無償譲渡等」の意義は以下要件1となる。 この無償譲渡等に関する第二次納税義務については、現在は国税徴収法39条に規定されており、以下に掲げる4要件の充足により第二次納税義務が適用されるとされている。 (※2) 「債務の免除その他第三者に利益を与える処分」は「必要かつ合理的理由」が必要であり、その判断は、本来の納税者と同一の責任を負わせるに値しないと評価できる別の法的理由の有無が分水嶺となると考えられる。拙著「再生計画に基づいて債務免除された法人に第二次納税義務が生じると示された事例」税務事例53巻7号(2021)93頁。 この趣旨は、財産の無償譲渡等が詐害行為に該当するケースが多いところ、訴訟手続きに拠らずとも手続きの簡略化が可能な点にある(※3)。また、上記全面改正時において、租税徴収制度調査会が答申にて、「形式的に第三者に財産が帰属している場合であつても、実質的には納税者にその財産が帰属していると認めても、公平を失しないときにおいて、形式的な権利の帰属を否認して、私法秩序を乱すことを避けつつ、その形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることにより、徴税手続の合理化を図るために認められている制度である」と示している(※4)。 (※3) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019)166頁。 (※4) 租税徴収制度調査会「租税徴収制度調査会答申-附参考資料-」(1958)12・13頁。 すなわち、第二次納税義務は、国税を滞納する者が事実上納付不可能となっても、無償譲渡等を受けた者に第二次納税義務を負わせることによって、迅速かつ公平な税収の確保を図る制度であるといえよう。 (2) 役員給与との関係 役員給与が関係しうるケースでいえば、財務内容の悪化等により国税を滞納している法人が、役員に対して、交際費等や低額譲渡等により経済的利益を与えたり、役員退職給与として高額な支給を行ったり等のケースにおいて検討すべき問題となる。 というのも、役員報酬は職務執行の対価として支給されることが大前提ではあるが(【第20回】参照)、いわゆる「認定賞与」等に代表される(※5)、法人税の課税所得計算上において損金算入が認められない支給については、その職務執行の対価性が認められないものも存在し得るからだ。 (※5) 「認定賞与」は法律上の用語ではない。詳細は【第21回】参照。 この点、認定賞与と第二次納税義務の関係について、認定賞与が役員からの役務提供の対価とみる場合と、贈与の性格を持つと認められる場合があるとした上で、贈与の性格が認められる場合には国税徴収法39条による第二次納税義務が賦課されるという解説がある(※6)。 (※6) 橘素子『第二次納税義務制度の実務』(大蔵財務協会、2013)159頁。 なお、国税庁が公表する個別通達「第二次納税義務関係事務提要の制定について(以下、「個別通達」という)」は、役員に対する認定賞与と第二次納税義務の関係を明らかにしており、以下のように事実関係を重視する旨が示されているので、以下に確認する。 このように、役員に対して報酬を支給した場合、国税徴収法39条の適用の有無は、その支給の内容に拠って判断されることとなる。以下に、実際に役員給与を受けた第二次納税義務について争われた裁判例・裁決例を数点紹介したい。 (3) 取締役に対して第二次納税義務が賦課された事例 ① 解散を前提として取締役に多大な退職金を支給したところ、支給された取締役に第二次納税義務が賦課された事例(東京地裁平成9年8月8日判決(※7)) (※7) 判例タイムズ977号111頁、TAINS:Z888-0213。 本件は、問題となった退職金の金額について、取締役としての職務執行及び功労との対価的均衡を著しく欠くことから、国税徴収法39条の著しく低額の対価による財産の処分に該当するとされたものである。すなわち、地裁が行った退職金額の決定経緯に鑑みた判断は、上記個別通達と同様の判断であるといえるだろう。 なお、裁決例においても役員退職給与が争点となった事例がある。国税不服審判所平成29年5月10日裁決(※8)では、租税を滞納する法人が取締役に対して役員退職給与を支給した結果、当該法人が債務超過となったことを受け、債務超過相当額については無償譲渡に当たるとして第二次納税義務を賦課されている。 (※8) 裁決事例集未登載、TAINS:F0-8-071。 ② 役員賞与とされたものについて無償譲渡等とも認定し、第二次納税義務を課することは矛盾しないとされた事例(国税不服審判所昭和49年9月27日裁決(※9)) (※9) 裁決事例集9集31頁、TAINS:J09-4-01。 本件は、法人税法上賞与とされたものが国税徴収法上では無償譲渡等とされることにつき、矛盾しないと示された事例である。すなわち、賞与とされるものの中には対価性がなく贈与の性格を有するものもあることを示している。 本件は、現在でも認定賞与を検討する場面で参考となる裁決例である。 * * * 総じて、法人が取締役等の役員に支給する役員給与・役員退職給与に関して、職務執行の対価であるという性質が見出せないものについて、その法人に滞納国税があるような場合では、国税徴収法39条の適用可能性にも留意すべきであるといえよう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第30回】 「適格分社型分割を行った場合の分割法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は、適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて確認しました。 今回は、適格分社型分割を行った場合の分割法人の取扱いについて解説します。 1 資産・負債の譲渡 適格分社型分割があった場合の分割法人から分割承継法人への資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡とされ、分割法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の3①)。 2 適格分社型分割により譲渡した「減価償却資産」の取扱い 分割法人が、適格分社型分割により分割承継法人に減価償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その減価償却資産について分割の日までの減価償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法31②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 3 適格分社型分割により譲渡した「繰延資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分社型分割により分割承継法人に繰延資産を移転する場合において、分割事業年度に、その繰延資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法32②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への移転 適格分社型分割により分割承継法人に移転することができる繰延資産は、次のとおりです(法法32④二、⑤、法令66、法規22)。 4 適格分社型分割により譲渡した「一括償却資産」の取扱い (1) 償却費の損金算入 分割法人が、適格分社型分割により分割承継法人に一括償却資産を移転する場合において、分割事業年度に、その一括償却資産について分割の日までの償却費を計上したときは、その期中損金経理額のうち分割の日の前日を事業年度終了の日として計算した償却限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法令133の2②)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 (2) 分割承継法人への移転 適格分社型分割により分割承継法人に移転することができる一括償却資産は、次のとおりです(法令133の2⑦、法規27の19)。 5 適格分社型分割により移転する「貸倒引当金」の取扱い 分割法人が、適格分社型分割により分割承継法人に貸倒引当金を移転する場合において、分割事業年度に、期首から分割の日までの期間に貸倒引当金を計上したときは、その期中損金経理額のうちその期間の繰入限度額に達するまでの金額は、分割法人で損金の額に算入されます(法法52⑤⑥)。 ただし、期中損金経理額を損金の額に算入するためには、分割の日から2ヶ月以内に一定の届出が必要となります。 6 適格分社型分割があった場合に減少する「資本金等の額」、「利益積立金額」 適格分社型分割があった場合には、分割法人において資本金等の額及び利益積立金額は増減しません。 7 分割承継法人株式の取得価額 適格分社型分割により、分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額は、分割直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①七)。 8 具体例 〔前提〕 〔分割法人の移転仕訳〕 〇資産・負債 適格分社型分割の場合は簿価で移転することとなります。 〇減少する資本金等の額、利益積立金額 適格分社型分割の場合、資本金等の額、利益積立金額は減少しません。 〇分割承継法人株式の取得価額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算して計算します。 ◆適格分社型分割を行った場合の分割法人の取扱いのポイント◆ 資産等の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡をしたものとされ、分割法人において譲渡損益は生じません。 事業年度の中途に適格分社型分割があった場合に、減価償却費等の期中損金経理額を分割法人において損金の額に算入するためには、一定の届出が必要となります。 分割法人において資本金等の額及び利益積立金額は増減しません。 適格分社型分割により、分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額は、分割直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に付随費用を加算した金額です。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第24回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等の借家権控除の適用の可否」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲が甲株式を令和3年9月に後継者である乙に贈与する予定ですが、課税時期前3年以内に取得した土地及び家屋の状況は、下記の通りとなります。 (※1) 物件の所有者(オーナー)が、賃借人を維持したまま不動産の所有権を移転させること。 (※2) 税務上の耐用年数に基づき計算した減価償却累計額を控除した後の価額。 この場合において、甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等」及び「3年以内取得家屋等」の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになるのでしょうか。 なお、甲株式会社は3月決算であり、消費税の計算においては税抜方式を採用しています。純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等」及び「3年以内取得家屋等」の内訳は、下記の通りとなります。 ◆ ◆ ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 課税実務上は、帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合(買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合)を除き、帳簿価額を基に評価することになります。帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合には、不動産鑑定評価額等の合理的な方法によって時価を求めることになります。 ② 借家権控除の必要性 平成25年7月1日の裁決事例(TAINSコード:F0-3-394)において借家権控除の適用について、「借家権の設定に伴う建物及びその敷地利用の制約は、評価基本通達185括弧書に定める『通常の取引価額に相当する金額』の算定においても、同様に考慮することが合理的であると考えられることから、『通常の取引価額に相当する金額』を算定する場合においても、対象の土地及び建物が貸家建付地及び貸家に該当し、上記制約を考慮する必要があるときは、評価基本通達26及び93と同様の方法で貸家建付地及び貸家の価額を評価することが相当である」として、課税時期において現実に貸し付けられている場合には、借家権控除の必要性を説明しています。 また、東京国税局課税第一部 資産課税課 資産評価官の「資産税審理研修資料」(平成27年7月作成)の財産評価の審理上の留意点では、下記の通り記載がされています。 したがって、取得時の利用区分が自用地・自用家屋で課税時期の利用区分が貸家建付地・貸家である場合には、借家権控除を行うことができます。 ③ A土地及び家屋の計上金額 A土地及び家屋は、3年以内取得土地等及び家屋等に該当することになりますので、相続税評価額ではなく、通常の取引価額により評価を行います。したがって、直前期末の帳簿価額(土地100,000千円・建物47,872千円)を基に評価を行うことになりますが、帳簿価額は新築で購入した金額であり、自用地としての通常の取引価額となります。A土地及び家屋は、課税時期において貸し付けられており、貸家の制約を考慮する必要があるため、貸家建付地及び貸家の評価として、借家権部分を減額します。 したがって、A土地及び家屋の相続税評価額に計上する金額は、下記の通りとなります。 ④ B土地及び家屋の計上金額 B土地及び家屋は、3年以内取得土地等及び家屋等に該当することになりますので、相続税評価額ではなく、通常の取引価額により評価を行います。したがって、直前期末の帳簿価額(土地60,000千円・建物19,574千円)を基に評価を行うことになります。 B土地及び家屋は、オーナーチェンジにより購入したマンションであり、購入時の価額は、貸家建付地及び貸家としての価額であり、既に借家権控除が帳簿価額に反映されているため、A土地及び家屋のように減額はせずに帳簿価額をそのまま計上することになります。 ☆実務上のポイント☆ 3年以内取得土地等及び家屋等の計上金額を決定するためには、帳簿価額が通常の時価として認められない事情があるかどうか、購入時の利用区分が自用地・自用家屋又は貸家建付地・貸家のいずれであるかを確認することが重要となります。 (了)
相続税の実務問答 【第61回】 「相続開始の年に被相続人から贈与を受けた場合の贈与税の申告(相続税額が算出されない場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 被相続人から相続開始の年に財産の贈与を受けた場合、その贈与を受けた人が、その被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得したときには、その贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算され、贈与税の課税価格には算入されません。 あなたは、令和3年3月にお母様から現金200万円の贈与を受けましたが、5月にお母様がお亡くなりになられ、お母様の遺産を相続されたとのことです。あなたの場合、お母様から贈与を受けた現金200万円は相続税の課税価格に加算されることとなり、一方、贈与税の課税価格には算入されません。したがって、納付すべき相続税額が算出されないことから相続税の申告書を提出しないとしても、贈与税の申告の必要はありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 贈与税の申告義務と相続税における相続開始前3年以内の贈与加算の関係 前回説明したように、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該被相続人の相続開始の日前3年以内に当該被相続人から財産の贈与を受けた場合には、相続税法第19条第1項の規定により当該贈与財産の価額は、相続税の課税価格に加算されるとともに、当該財産の贈与に対して課された贈与税額は相続税額から控除することとされています。 一方、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年に当該相続に係る被相続人から贈与により取得した財産の価額で相続税法第19条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、同法第21条の2第4項の規定により贈与税の課税価格に算入しないこととされています。 この相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年に当該相続に係る被相続人から贈与により取得した財産の価額で相続税法第19条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、贈与税の課税価格に算入しないとの相続税法第21条の2第4項の定めは、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した上で相続税額を計算した場合に、相続税の課税価格の合計額が相続税法第15条第1項に定める遺産に係る基礎控除額を下回ることから、相続税額が算出されないときにおいても適用されます。 なお、相続税の申告書の提出は同法第21条の2第4項の規定の適用要件とはされていませんので、納付すべき相続税額を0円とする相続税の申告書を提出する必要もありません。 2 ご質問の場合 あなたは、令和3年3月にお母様から現金200万円の贈与を受けましたので、この贈与について(この他にあなたが令和3年中に贈与を受けた財産があれば、その価額も合計したところで)、令和4年2月1日から3月15日までの間に令和3年分の贈与税の申告を行い、算出された贈与税を納付しなければならないはずでした(仮に、令和3年中にあなたが贈与を受けた財産の価額が200万円だけであるとすると、納付すべき贈与税額を90,000円とする贈与税の申告が必要となります)。 しかしながら、お母様が令和3年5月にお亡くなりになり、あなたはその相続によりお母様の財産を相続することとなりました。 したがって、あなたが、お母様の相続開始前3年以内である令和3年3月にお母様から贈与された現金200万円は、相続税法第19条第1項の規定により相続税の課税価格に加算されます。あなたの場合、この200万円を相続財産の価額に加算したとしても、相続税の課税価格の合計額が基礎控除額3,600万円(3,000万円 + 600万円 × 1人)に達しないため納付すべき相続税額は算出されないとのことですが、その場合であっても、お母様の相続開始の年である令和3年中にお母様から受けた贈与については、相続税法第21条の2第4項の規定により、贈与税の申告は必要ありません。つまり、お母様から現金200万円の贈与を受けたことに対する相続税及び贈与税の負担は生じません。 なお、同法第21条の2第4項の規定を適用するために、あえて納付すべき相続税額を0円とする相続税の申告書を提出する必要はありません。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第38回】 「新築分譲マンションの場合の取得日とその所有期間」 -所有期間5年超要件に係る取得日の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、6年前の3月1日に建築中の分譲マンションの売買契約を締結し、マンション完成直後の5年前の3月2日に引渡しを受けました。 親子3人で居住の用に供していたものの、子供が成長し、そのマンションは手狭となったことから、本年4月5日に譲渡しました。多額の譲渡損失が発生し、銀行で住宅ローンを組み、本年8月に新たに戸建を購入しました。 譲渡物件に係る所有期間5年超以外の他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 譲渡年である本年1月1日における所有期間が5年以下のため、Xは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」は、譲渡年の1月1日においてその所有期間が5年を超えるものであることが、その適用要件の1つとされています(措法41の5⑦一) 本事例における譲渡マンションの取得日は、契約締結日なのか、それとも引渡し日なのかで、その所有期間5年超要件に係る是非が分かれることになります。 資産の取得の日については、契約締結日に存在しない資産又は売主が所有していない資産については、その契約締結日をもって資産の取得の日と解することはできません。(所基通33-9(資産の取得の日))。 したがって、本事例の場合、当該マンションの引渡しを受けた日が取得の日となり、譲渡年である本年1月1日における所有期間が5年以下ですから、Xは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができません。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡資産の所有期間に係る5年超要件が同様に定められています(措法41の5の2⑦一)。 おって、戸建の請負契約の場合も、その契約締結日に存在しない資産であることから、新築分譲マンションの場合の取得の日と同様に判定されることに注意が必要です。 (了)