〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《経過勘定-前払費用》編 【第2回】 (最終回) 「前払費用と前払金等との勘定科目の使い分け」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」において、前払費用と前払金、前受収益と前受金、未払費用と未払金、未収収益と未収金はそれぞれ区別しなければならないとされています(中小企業会計指針30)。 今回は、それらの中から、前払費用と前払金を取り上げることで、それらの勘定科目の使い分けのニュアンスをつかみましょう。 【設例2】 A社(3月31日決算)は、様々な商品を仕入して販売する会社です。X2年2月末日に、次のような支払を行いました。 (1) 社宅家賃1,200,000円(X2年3月1日からX2年5月31日までの3ヶ月分、@400,000円/月、原則的な処理を適用) (2) 販売目的の新商品B20,000,000円(税抜)を仕入するために、仕入先への買付手付金2,000,000円及び消費税10%(X2年4月30日に商品Bを仕入納品して検収)を支払。 (3) A社の新倉庫(取得価額100,000,000円(税抜))建設のために、工事請負契約を建設会社と締結して、契約時払として10,000,000円及び消費税10%(X3年4月1日に完成引渡、残金支払)を支払。 1 A社の支払時の仕訳 (1)についての仕訳は、下記となります。 〈X2年2月末日〉 〈X2年4月1日〉 (2)についての仕訳は、下記となります。 〈X2年2月末日〉 〈X2年4月30日〉 (3)についての仕訳は、下記となります。 〈X2年2月末日〉 〈X3年4月1日〉 * * * 前払費用は、前払金とは区別しなければならないとされています。前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対して支払われた対価をいい、前払利息、前払保険料、前払家賃、前払保証料等が該当します。これに対して、前払金は、このような役務提供契約以外の契約等による対価の支払です(中小企業会計指針30)。 ◎ 設例への当てはめ 設例のうち(1)が前払費用を用いるケースです。前払費用の原則的な処理では、費用については発生したものを損益計算書に計上しなければならず、当期の費用でない前払費用は当期に損益計算書から除去するための経過勘定項目として貸借対照表に計上します(中小企業会計指針31)。X2年2月末日に支払った1,200,000円は、X2年3月1日からX2年5月31日までの3ヶ月分であり、そのうち3月1日から3月31日までの1ヶ月分の400,000円はX2年3月期の支払家賃としてその期の損益計算書に含め、4月1日から5月31日の2ヶ月分800,000円(=400,000円/月× 2ヶ月)はX3年3月期の支払家賃としてその期の損益計算書に含めるため、X2年3月期の貸借対照表に前払費用800,000円を計上します。 設例のうち(2)は前払金を用いるケースです。X2年2月末日支払の2,000,000円及び消費税10%は納品受領以前に支払われた買付手付金であり、その時点では納品されていないので、納品受領するまでは、2,200,000円を貸借対照表の前払金に計上します。その後、実際に納品・検収をした日(X3年4月30日)に、受領した金額(20,000,000円(税抜))をもって、仕入計上します。この際、税込22,000,000円のうち2,200,000円は既に手付金として支払済みなので、残額の19,800,000円が未決済の買掛金として計上されます。 なお、設例(3)は、A社自身の固定資産としての建物を取得するケースです。建物取得の計上時期は完成引渡日(X3年4月1日)なので、それ以前の工事請負契約締結時(X2年2月末日)の支払額10,000,000円及び消費税10%は、完成引渡日まで貸借対照表の建設仮勘定という固定資産の科目に計上します。 2 設例のX2年2月末日の支払に係る部分の決算書の金額 設例のX2年2月末日の支払に係る部分の決算書の金額は、次のとおりです。 X2年3月31日決算期 〈当期末貸借対照表〉 〈当期損益計算書〉 (《経過勘定-前払費用》編 終了)
値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第6回】 「限界利益を目標に使う」 ~Xデーを知る~ 公認会計士 石王丸 香菜子 登場人物 * * * ライバルが値下げしたら、どのように対応するべきでしょうか。値下げされたら倍返しの値下げでやり返す(!)のも一案ですが、値下げ合戦は良い結果を生まないことも多いようです。 経済学では、2つの企業が、ライバルの価格を前提として自社の利益を最大にするように価格決定すると考える、「ベルトラン競争」というモデルがあります。仮に2つの企業が結託せず、全く同じ商品を販売しているとすると、ライバルより1円でも安い価格を付ければ、ライバルから全ての顧客を奪い取ることができます。そのため、どちらの企業もライバルよりも少しでも低い価格を付けようとします。結果として、利益がほぼゼロになる水準まで値下げ競争を繰り広げることになるのです。 数年前に牛丼チェーン各社で繰り広げられた熾烈な値下げ競争は、これに近い状況と考えることができそうです。値下げ競争に踏み込むと、お互いに利益がゼロになる「Xデー」が訪れる可能性があることを頭に入れておきたいですね。 * * * 固定費は、個別固定費と共通固定費とに細分することができます。特定の事業や部門などに直接紐づけることができるのが個別固定費、直接紐づけることができないのが共通固定費です。 特定の事業や部門からの撤退を検討する時は、個別固定費と共通固定費の違いに着目しましょう。個別固定費は、その事業から撤退した場合に削減できる可能性が高いですが、共通固定費は、1つの事業から撤退しても発生し続けます。 仮に球根事業から撤退した場合、駅前店全体の損益はどうなるでしょうか。球根事業から撤退すると、個別固定費は削減できますが、共通固定費は現状のままとします。 球根事業は、割り当てられた共通固定費の全てを回収していたわけではないものの、共通固定費の一部を回収することに貢献していたのですね。損益データを次のような形にすると、理解しやすくなります。 限界利益から個別固定費を差し引いた利益は、(部門利益)と呼ばれることがあります。貢献利益を計上している事業は、共通固定費の回収に貢献していることになるので、球根事業から直ちに撤退しなければならないわけではありません。 また、他の事業における貢献利益の合計で共通固定費を回収できる状況なら、球根事業の最低限の目標を、「貢献利益をマイナスにしない」すなわち「個別固定費を回収できる140千円の限界利益を死守する」こととしてもかまいません(もちろん、全ての事業においてこのような状態では、全体で共通固定費を回収できないので、その場合にはビジネス全体の根本的な見直しが必要です)。 このように、個別固定費を区別して、限界利益について最低限の目標額を明らかにすると、価格戦略や販売方針を決める際に参考になります。 * * * 利益がゼロになる「Xデー」を迎えるような値下げ競争を避けるには、どうしたらよいのでしょうか。1つの方策として、自社商品とライバル商品の「違い」を明確にして差別化を図ることが挙げられます。 ライバル商品にない特長が自社商品にあり、顧客がそれを納得して購入しているならば、ライバルが多少値下げしても、顧客の全てがライバルに流れる事態は生じません。顧客ロイヤルティ(顧客が商品などに対して持つ愛着や信頼)という言葉がありますが、顧客ロイヤルティが高い場合、顧客はその商品に強い愛着を持って購入しているため、多少値上げしても引き続き購入してくれることが多いものです。 一方、値下げするために品質を落とすと、こうした貴重な「ごひいきさん」は一気に離れてしまいます。値下げによって新たな顧客を一時的に獲得しても、安い価格につられた顧客は自社商品へのロイヤルティが高いわけではないので、さらに低価格で販売するライバルがあれば、そちらへ容易に流れてしまうでしょう。 値下げという土俵で正面から勝負せず、ライバルとの違いを打ち出して、あえて値上げする案も検討してみるとよいですね。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第161回】 収益認識基準⑥ 「履行義務への取引価格の配分」 仰星監査法人 公認会計士 小林 清人 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) ◆X1年4月 〔機械設備の引渡し時〕 (※1) 独立販売価格300 - 値引きの配分額100 × 300 ÷ 500 ◆X1年5月 〔据付工事完了時〕 (※2) 独立販売価格150 - 値引きの配分額100 × 150 ÷ 500 ◆X2年3月 〔決算時〕 (※3) (独立販売価格50 - 値引きの配分額100 × 50 ÷ 500)× 12ヶ月 ÷ 24ヶ月 ◆X3年3月 〔決算時〕 (※3) 同上。 〈会計処理の解説〉 今回取り上げた事例は、値引きがある場合の処理です。具体的には、独立販売価格の合計は500であるものの、実際の販売価格は400であり、100の値引きがあります。値引きがある場合は、下記の通り、値引き部分を独立販売価格で配分して、会計処理します。 ここでいう「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(会計基準9項)。本事例では、それぞれの商品やサービスを単独で顧客に販売した場合の価格として、設定されています(前提条件(ア)参照)。 値引きをそれぞれの履行義務に対して比例的に配分すると、以下の通りとなります。 (表1) (※4) 独立販売価格50 - 値引きの配分額100 × 50 ÷ 500 上記の値引き配分比率の算出方法は、以下の通りです。 値引き額(b)は、値引きの総額△100にそれぞれの値引き配分比率を乗じて算出します。 本事例では、機械設備は引渡し時点、据付工事は工事完了時点、保守サービスは契約期間にわたり履行義務を充足するとされているため、それぞれ下記の時点で収益を認識します。 (表2) なお、保守サービスは、契約期間(引渡し時点より2年間)にわたり収益を認識するため、期間按分する必要がある点に留意します((※3)参照)。 * * * 〈会計処理の補足〉 上記事例では、値引きについて独立販売価格をもとに比例的に配分しています。ただし、会計基準の71項で求められる要件をすべて充たした場合は、特定の履行義務に値引きを配分します。 以下では、前述の(ア)~(ク)の前提に、下記の(ケ)の前提を追加した場合の事例を考えます。 この場合、値引きの対象は機械設備と据付工事であることが明らかです。独立販売価格と組み合わせた時の販売価格及び値引き額の内訳を検討すると、下記(表3)の通りです。すなわち、機械設備と据付工事という特定の履行義務にかかる値引きであり、保守サービスにかかるものではないことがわかります。 (表3) このとき、値引き額は機械設備と据付工事に配分し、保守サービスには配分しません(下記(表4)参照)。 (表4) 上記の値引き配分比率の算出方法は、以下の通りです。 値引き額(e)は、値引きの総額△100にそれぞれの値引き配分比率を乗じて算出します。 なお、この場合、保守サービスは値引きが配分されないため、独立販売価格50が実際の販売価格と一致します。 会計基準71項の要件を事例にあてはめると、以下の通りです。 * * * (了)
給与計算の質問箱 【第9回】 「厚生年金保険における標準報酬月額の上限の改定」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和2年8月14日付の官報で公布された厚生年金保険に関する改正について教えてください。 A 令和2年9月分(10月納付分)から厚生年金保険の標準報酬月額の等級区分に、新たに第32等級が追加された。 * * 解 説 * * 1 標準報酬月額の等級区分の上限【改定前】 令和2年8月分(9月納付分)までは厚生年金保険の標準報酬月額の等級区分は第31等級が上限であり、第31等級(報酬月額605,000円以上)の厚生年金保険料は113,460円(会社と本人が56,730円ずつ折半で負担)であった(下図参照)。 〔令和2年8月分(9月納付分)までの厚生年金保険の標準報酬月額の等級区分の上限〕 【改定前】 (出典:日本年金機構ホームページ) 2 標準報酬月額の等級区分の上限【改定後】 令和2年9月分(10月納付分)からは厚生年金保険の標準報酬月額の等級区分は第32等級が上限となり、第32等級(報酬月額635,000円以上)の厚生年金保険料は118,950円(会社と本人が59,475円ずつ折半で負担)となった(下図参照)。 〔令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険の標準報酬月額の等級区分の上限〕 【改定後】 (出典:日本年金機構ホームページ) * * * 以下では、具体例を用いて改定前後の給与計算の違いを確認する。 ◎8月31日締め9月25日支給の振込額【改定前】 ◎9月30日締め10月25日支給の振込額【改定後】 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第9回】 「汚染土地の評価手法は原価法が現実的」 ~鑑定評価と相続税・固定資産税の相違点~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 汚染物質を含んだ土地と鑑定評価 汚染物質を含む土地の鑑定評価については、現時点で確定的な手法は存在しませんが、実務では、土壌汚染がないものとした場合の価格から措置費用及び心理的嫌悪感による減価(スティグマ)を控除して土地価格を求める手法が多く用いられています。 ただし、【第7回】で説明したような、鑑定評価における本来あるべき手法(費用性・市場性・収益性という三面性からアプローチする方法)も視野に入れておく必要がありますので、まずは理論的に考え得る手法を解説した上で、その後に現段階で実務的に適用し得る手法を取り上げておきます。 ここで【第7回】に掲載した図表の一部を再掲します。 (1) 理論的に考え得る手法 現行の不動産鑑定評価基準でも、汚染物質を含んだ土地の評価手法については、格別の定めはありません。そのため、このような土地の評価に際しては、(【第7回】に述べた「価格の三面性」に基づく)以下の方法が考えられます。 ① 原価法 汚染物質を含んだ土地の価格は、これを含まないものとした場合の価格から、措置費用(浄化費用等)及び心理的嫌悪感による減価(スティグマ)を控除して求めます。また、対策措置の内容により土地の利用制限(使用収益の制限)を伴う場合には、これによる減価分を控除することも必要です。 ▷特徴と問題点 ア 汚染物質を含まないものとした場合の価格は通常の鑑定評価手法(取引事例比較法等)で求められますが、浄化費用等に関しては現在のところ標準的なものがなく、土壌調査専門機関の見積りに頼らざるを得ません(しかもその結果には幅が生ずると考えられます)。しかし、この方法は控除額を定量的に捉えることができるため、実務的には適用しやすいといえます。 その反面、浄化費用等がきわめて多額となり、汚染前の土地価格を上回るというケースも生じ得ます(その場合でもマイナスの評価額というものは考えにくく、この手法による下限値はゼロといえます)。 イ 心理的嫌悪感(スティグマ)は人間の心理的要素に関わるものであるだけに、定量化が難しいという問題があります。 ウ 浄化措置でなく封じ込め措置を前提とした価格を求める場合の問題点 汚染処理に当たり、浄化措置でなく、封じ込め措置(※1)等を前提とする場合は、汚染のない場合の価格から、上記算定式のとおり、少なくともその措置を適用することによって生ずる土地利用阻害による減価を考量する必要があるとされています。 その理由は、封じ込め措置等を実施した場合、その措置の機能を維持するために土地の利用制限が生ずることから、これに見合う減価を織り込む必要があることによります。 (※1) 封じ込め措置の場合、工法上有害物質は敷地内から除外されないため対策費用は浄化措置よりも割安となります。 ② 取引事例比較法 汚染物質を含んだ土地の取引事例を収集し、これと対象地の価格形成要因を比較することにより、土壌汚染地としての価格を求める手法です。 ▷特徴と問題点 汚染物質を含んだ状態での土地の取引事例を収集することは、現実的に難しいといえます。それは、売買に伴う土壌調査の際、仮に汚染物質が発見された場合には、土地所有者は汚染処理を実施した上で売却及び引渡しを行うことが多いと考えられるためです。 また、通常の土地取引と異なり、汚染物質を含んだ土地の取引が社会に与える影響等を鑑みれば、このような土地の取引情報の収集には限界があると考えられます。 ③ 収益還元法 収益還元法では、建物の賃貸によって得られるであろうと期待される総収益からこれに係る諸経費(総費用)を控除して土地建物に帰属する純収益を求め、これから建物に帰属する純収益を控除した残余(これにより「土地に帰属する純収益」が求められます)を「土地の還元利回り」で除して土地の収益価格を求めます(この場合、汚染物質を含む土地上にある建物を賃貸することを想定した家賃を査定することとなります)。 ▷特徴と問題点 ア 土壌汚染地上の建物の賃貸事例やその相場を把握することは、現実的に困難です。 イ また、賃貸に伴う必要諸経費の査定に当たっても、汚染土地上に存する建物の入居率、環境関連の特別経費の計上の有無や程度を織り込むことが必要となりますが、現時点では客観的な指標がありません。 ウ さらに、汚染物質を含む土地の還元利回りを客観的に捉えることも現時点では困難です。 (2) 実務的に適用可能な手法 以上述べたことから、現時点では上記(1)①の原価法が実務的に適用可能な手法といえます。 この手法により汚染物質を含んだ土地価格を算定した例を以下に示します。 (※2) 上記の算定例では、対象地が工業専用地域内にあることや、浄化措置による汚染対策を前提としていること等から、心理的嫌悪感による減価(スティグマ)及び利用制限による減価は織り込んでいません。 2 相続税と土壌汚染 相続税の財産評価においては原価方式を採用し、土壌汚染地の価額については、土壌汚染がないものとした場合の評価額から浄化費用相当額等を控除して評価することとされています(「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」(平成16年7月5日付国税庁課税部資産評価企画官情報第3号、資産課税課情報第13号)によります)。 その際、汚染がないものとした場合の評価額が公示価格の80%レベルに設定されていることから、控除する浄化費用相当額等も見積額の80%相当額とする旨併せて示されています(国税不服審判所令和元年11月12日裁決(※3)においても上記考え方が適用されています)。 (※3) 国税不服審判所ホームページ掲載資料によります(「土地の評価に当たり控除すべき土壌汚染の浄化費用に相当する金額は、土壌汚染対策工事見積金額の80%とするのが相当であると判断した事例」)。 3 固定資産税と土壌汚染 汚染物質を含む土地の評価に関しては、固定資産評価基準には何らの規定も置かれていません。 固定資産税の評価においては、市町村長による「所要の補正」で汚染土地の評価額を減額しているケースもありますが、全国一律の適用ではなく、地域の実情による要素が強いように思われます。 ちなみに、筆者が市町村のホームページを検索したところ、次の例が目に留まりました。参考として掲げておきます。 〇A市の例 土壌汚染土地を評価する場合の補正率を次の算式により求めています。 〈商業地区又は住宅地区に存する土地の補正率〉 〈工業地区に存する土地の補正率〉 なお、対象地が都市計画法に定める工業専用地域等に存する場合は、土壌汚染対策法に定める要措置区域又は形質変更時要届出区域の指定を受ける部分の地積を、その指定を受けていない地積として扱うことも併せて規定されています(A市固定資産評価実施要領)。 〇B市の例 土壌汚染の発生している土地など外観では判断できない減価要因については、所有者による申し出により固定資産税評価額に反映させる制度を採用しています(所有者が「固定資産税土地評価額変更申請書」をB市に提出し、B市が調査、検証の上、評価額に影響があると判断した場合に翌年度から評価に反映させる仕組みとなっています)。 (了)
〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第6回】 「消費税転嫁対策特措法・下請法が禁止する「減額」とその典型例」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也 はじめに 第6回は、消費税転嫁対策特措法と下請法のそれぞれが規制する「減額」について解説する。 下請法が禁止する「減額」については、第2回で見たように、勧告・指導件数が特に増えている違反類型の1つであり、平成30年度の勧告事例7件中6件が、また、平成29年度の勧告事例9件のすべてが「減額」に関するものである。このように下請代金の減額は、圧倒的に勧告・公表のリスクが高い違反類型であるため、企業においては下請代金の減額を絶対に行わないよう最大限の注意を払わなければならない。 また、消費税転嫁対策特措法が禁止する「減額」についても、第5回で見た買いたたき事例ほどではないものの、勧告・公表がなされた事例もあり、企業として十分な注意を払わなければならないことはいうまでもない。 そこで以下、まずは下請代金の減額について、基本的な考え方及び問題となる典型例を確認した上、消費税転嫁対策特措法の減額の規制についての考え方及び典型例を下請代金減額の場合と対比しながら述べることとしたい。 1 下請代金の減額 下請法においては、親事業者が、発注時に決定した下請代金を下請事業者の責に帰すべき理由がないのに発注後にこれを減額することが禁止されている。 第4回で見たように、買いたたきに当たるか否かについては、個別事案の事情に応じて総合的に判断される。しかし、下請代金の減額に当たるか否かについては、このような個別事案の事情は基本的には勘案されず、3条書面(※)に記載されている下請代金の金額から減額がなされているか否かにより、形式的に判断される。これは、下請事業者との合意があっても同様であるため、3条書面に記載した下請代金の額は絶対に減じないという運用を徹底しなければならない。 (※) 「3条書面」とは、親事業者が下請事業者に発注するに際して、下請法3条により交付が義務付けられている書面のこと。 【Q】 下請代金の額を減ずることが許される「下請事業者の責に帰すべき理由」とはどのようなものでしょうか。 【A】 下請代金の額を減ずることが許されるのは、下請事業者の給付に瑕疵や納期遅れ等があり、受領拒否又は返品することが下請法に違反しない場合に、 ① 受領拒否又は返品をして、その給付に係る下請代金の額を減ずるとき ② 受領拒否又は返品をせずに、親事業者自ら手直しをしたとき ③ 給付の価値の低下が明らかであったが、受領又は返品をせずに、そのまま給付を受領したとき が挙げられます。もっとも、減額ができる範囲は、いずれの場合も、瑕疵や納期遅れ等が認められる給付にかかる部分やこれにかかる費用として客観的に相当と認められる範囲に限られることには注意が必要です(「下請取引適正化推進講習会テキスト」52頁参照)。 上記のとおり、下請代金の減額に当たるか否かは、極めて形式的に判断される。そのため、下請事業者の責に帰すべき理由により減額をする場合でも、そのことをきちんと記録上証明できるようにしておかなければならない。 例えば、下請事業者の給付に瑕疵や納期遅れ等が生じたことを記録しておくほか、このような瑕疵や納期遅れ等に基づいて下請事業者と代金の減額を交渉していることを示す面談記録やメール等を残しておくことが考えられる。 ◎下請代金の減額に当たる典型例 【Q】 当社の業界では、「歩引き」や「手数料」といった名目で、下請事業者に支払う下請代金の金額から一定額を差し引くことが慣行となっており、下請事業者もこれに合意しています。このような行為も下請代金の減額に当たるのでしょうか。 【A】 業界において慣行として行われているもので、下請事業者との合意も得られているとしても、減額の名目、方法、金額の多少等にかかわらず、発注時に決定した下請代金の金額を発注後に減ずる場合には、下請代金の減額に当たります。 下請代金の減額の判断において、減額の名目は一切考慮されないことに注意が必要である。これまで下請代金の減額に当たるものとされた減額の名目は、「歩引き」、「事務手数料」、「協賛割戻金」、「特別協力金」、「新店協賛金」、「販売奨励金」、「年間リベート」など多岐にわたる(「下請取引適正化推進講習会テキスト」52頁参照)。 このような、支払代金の一部を支払人に割り戻すような、いわゆる「リベート」の類は、下請代金の減額事例としてもっとも典型的なものであり、その多くが勧告・公表されている。 また、業界において慣行として行われているということや、下請事業者との合意が得られているということも、下請代金の減額における判断においては一切考慮されない。そのため、思わぬところで下請代金の減額を指摘される可能性がある。企業としては、このような理解を周知することで、従来、このようなリベート等が行われていないか、スクリーニングをかける必要がある。 【Q】 下請事業者との間で、毎年1月頃から、4月1日以降に発注される商品に適用される単価の改定につき交渉しているところ、今年は妥結が5月10日になったため、両者合意の上、4月1日以降に発注された商品についてさかのぼって安くなった新単価を適用することとしました。このような行為も下請代金の減額に当たるのでしょうか。 【A】 下請事業者との合意の上であったとしても、安くなった新価格を遡及的に適用して値引きすることは、下請代金の減額に当たります。下請代金の減額とならないようにするため、新価格の適用は、新価格の妥結がなされた5月10日以降に発注された商品に対してのみとしなければなりません。 下請代金の減額の判断においては、その減額の方法も一切考慮されないため、このような遡及値引きは、下請代金の減額事例の典型的なものとして、多くの勧告・公表事例が挙げられている。 また、このような遡及値引きのほかにも、一旦発注した後、下請代金の総額をそのままにして納入すべき数量を増加させること等も下請代金の減額として問題となるため、下請事業者との減額交渉を行うにあたっては、下請代金の減額に該当しないかについて常に注意を払わなければならない。 2 消費税転嫁対策特措法にいう減額 消費税転嫁対策特措法においては、特定事業者が、商品又は役務について、合理的な理由なく既に取り決められた対価から事後的に減じて支払うことにより特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むことが禁止されている。 対価から消費税率引上げ分の全部又は一部を減じる場合や既に支払った消費税率引上げ分の全部又は一部を次に支払うべき対価から減じる場合、本体価格に消費税額分を上乗せした額を商品の対価とする旨契約していたにもかかわらず、対価を支払う際に、消費税率引上げ分の全部又は一部を対価から減じる場合などに、減額が問題となる(「公取委ガイドライン」第1部第1の2(5)参照)。 勧告・公表がされた事例を見ても、消費税増額分の全部又は一部が減じられたと認められるものが、消費税転嫁対策特措法における減額として規制されており、減額と消費税額との関連が認められるか否かによって、下請代金の減額との守備範囲に違いがあるといえる。 【Q】 商品又は役務の対価を減ずることが許される「合理的な理由」とは、どのようなものでしょうか。 【A】 商品又は役務の対価を減ずることが許されるのは、 ① 商品に瑕疵がある場合や、納期に遅れた場合等、特定供給事業者の責に帰すべき理由により、相当と認められる金額の範囲内で対価の額を減じる場合 ② 一定期間内に一定数量を超えた発注を達成した場合には、特定供給事業者が特定事業者に対して、発注増加分によるコスト削減効果を反映したリベートを支払う旨の取り決めが従来から存在し、当該取り決めに基づいて、取り決められた対価の額から事後的にリベート分の額を減じる場合 などが挙げられます(「公取委ガイドライン」第1部第1の2(3)参照)。 「合理的な理由」が認められる場合に、減額には当たらないと判断される点は、第5回で見た買いたたきの場合と同様であるが、「合理的な理由」に該当する事情は、買いたたきの場合に認められるものとは異なることに注意が必要である。 これは、買いたたきが価格決定前の価格交渉の場面で生じるのに対して、減額は価格決定後の事後的なものであるため、既に決まっていた価格を減じるべき合理的な理由と、事前の価格交渉の場面で値引きすべき合理的な理由は、当然に異なってくると考えられるためである。企業としては、買いたたきと減額の問題となる場面の違いに留意しなければならない。 下請代金の減額が極めて形式的に判断されることは上記のとおりであるのに対して、消費税転嫁対策特措法における減額においては、より取引の実態に照らした「合理的な理由」の判断がされ得るものとなっている。 もっとも、消費税転嫁対策特措法と下請法の両方の適用を受けるような取引については、消費税転嫁対策特措法の「合理的な理由」の判断だけでは、下請法に違反するおそれが残ってしまうため、消費税転嫁対策特措法上の合理的な理由の判断だけでは不十分である点に注意しなければならない。 ◎消費税転嫁対策特措法における減額に当たる典型例 【Q】 当社では、取引先(特定供給事業者)と合意の上、「販売協力金」という名目で、発注時に定められた対価から、一定額を差し引くこととしています。差し引く分については、消費税分の減額であることは一切示していないのですが、このような場合も消費税転嫁対策特措法上の「減額」に当たるのでしょうか。 【A】 消費税転嫁対策特措法においても、減額の名目についてはその判断において一切考慮されません。そのため、消費税分の減額であることを示していなかったとしても、その減額に合理的な理由が認められない限りは、消費税転嫁対策特措法上の「減額」にあたることになります。 消費税転嫁対策特措法にいう減額の方法としては、消費税相当分を支払わないことだけではなく、支払時にリベートや協力金等、名目のいかんを問わず、対価の一部を徴収すること又は対価の一部を差し引いて支払うこと、が挙げられており、下請代金の減額と同様に、その減額の名目は考慮されない。 したがって、下請法適用取引のみならず、取引先との減額交渉を行うにあたっては、下請代金の減額、消費税転嫁対策特措法における減額に該当しないか、常に注意を払わなければならない。 (了)
《速報解説》 経営者保証解除スキームの新設など中小企業の事業承継支援等を目的とした「中小企業成長促進法」、施行は原則2020年10月1日 Profession Journal編集部 9月14日(月)に帝国データバンクが公表した「事業承継に関する企業の意識調査(2020年)」によると、事業承継を経営上の問題と認識している企業は67.0%と回答企業の3社に2社にのぼることが明らかとなった。中小企業の事業承継問題は新型コロナウイルス感染症の影響で倒産や休廃業のリスクが高まることで、より注目が集まることも想定される。 このような中、中小企業の事業承継の円滑化を中心とした支援措置の拡充を図る「中小企業成長促進法」(中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律)の施行日を令和2年(2020年)10月1日(一部は令和3年(2021年)4月1日)とすることが、施行日政令の公布(9月16日付け官報特別号外第98号)によって確定された。 本年6月19日に公布された中小企業成長促進法は、①中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)、②中小企業等経営強化法、③地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律、④産業競争力強化法、⑤独立行政法人中小企業基盤整備機構法、それぞれの改正法からなり、中小企業の事業承継を含む経営支援の拡充が盛り込まれているが、特に経営承継円滑化法では、事業承継のネックとなっている経営者保証について新たな対策が採られている。 具体的には、事業承継時において、その企業に現経営者の経営者保証のある融資が行われている場合、事業承継によって経営者候補にも経営者保証を求められる可能性があることで、スムーズな承継のネックとなっていた。「後継者候補はいるが承継を拒否しているケースの約7割が、経営者保証を理由に承継を拒否」しているとのアンケート結果も公表されている。 この問題に対しては本年4月から、経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」(保証限度額2億8,000万円(うち無担保8,000万円))の運用が始まっているが、この一般枠ではカバーできない融資に対し、さらに経営者保証を不要とする信用保証の特別枠として「経営承継借換関連保証」(保証限度額2億8,000万円(うち無担保8,000万円))が創設される(一般枠と異なり経営承継円滑化法による経済産業大臣の認定が必要)。さらに、一般枠・特別枠共に、新型コロナウイルス感染症の影響により条件変更を行った事業者に限り、「返済緩和中であること」の要件が特別に除外される。 〔事業承継特別保証と経営承継借換関連保証の概要〕 (※) 中小企業庁ホームページ これらの制度を利用することで、現経営者の経営者保証付き融資について、経営者保証なし融資への借換えを実施することができ、経営者候補の心理的な負担軽減が期待される。 〔解除スキーム(保証なし債務への借換支援)のイメージ図〕 (※) 中小企業庁ホームページ なお、事業承継時の経営者保証解除に向けた施策としては、今回の法改正の他にも、事業承継時に原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないとする「経営者保証に関するガイドライン」の特則が施行(本年4月)されるなどの対策がとられている。 中小企業成長促進法では他に、第三者承継を行う者に対する保証制度(経営承継準備関連保証、経営力向上関連保証)の拡充や、みなし中小企業者特例の整備(中小企業が増資や従業員増加により中小企業要件から外れても、地域経済牽引事業計画の実施期間(5年以内)は中小企業とみなす措置)等の措置が規定されている。 〔中小企業成長促進法の概要〕 (※) 中小企業庁ホームページ (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 ASBJ、「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表 ~基本はストック・オプション会計基準に準ずるも適用範囲等には注意~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年9月11日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、会社法202条の2 において、金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないと規定されたことを受けたものである。 基本的に、ストック・オプション会計基準に準じた会計処理を提案している。 意見募集期間は2020年11月11日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案) 1 適用範囲 実務対応報告案は、会社法202条の2に基づく、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とする(3項)。 ここで注意すべきことは、実務対応報告案は、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する場合には適用されないことである(3項、25項)。 そして、適用範囲に含まれない取引に関して、これまでの実務で行われている会計処理及び開示に影響を与えることを意図してもいない(25項)。 2 事前交付型の会計処理 事前交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い(会社法における割当日)、権利確定条件が達成された場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引をいう(無償取得することが確定することを「没収」という。4項(7)(16))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて会計処理を規定している。 3 事後交付型の会計処理 事後交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる(会社法における割当日)取引をいう(4項(8))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて規定しており、純資産の部の株主資本以外の項目に「株式引受権」が新設される。このため、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」等において、株式引受権を新設する。 なお、2020年9月1日に、法務省から「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集」が公表されており、会社計算規則改正案2条3項34号において、「株式引受権」が新たに定義されている。 4 注記 次の注記項目を定める(20項)。 5 1株当たり情報 6 関連当事者との取引 関連当事者との取引に関する開示は要しない(54項)。 7 適用時期等 (了)
2020年9月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.385を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第91回】 「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その1)」 ~所管事項の原則~ 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 租税法が法である限り法解釈・適用の一般原則が適用されることになる。しかし、ときとして、租税法律主義の支配する租税法領域においては、租税実体法を前提とした議論の展開が重視され過ぎるがゆえに、必ずしも法解釈・一般適用の原理が強く意識されているとは限らない。 そこで、租税法の個別具体の問題解決場面、すなわち租税法の解釈適用が、いかに法解釈・適用の一般原理を前提として展開されているか検証を行うこととしたい。 本稿では、特に、法令相互間の適用原則たる「所管事項の原則」について関心を寄せることとしよう。 Ⅰ 所管事項の原則 1 概観 法令の「所管事項の原則」とは、法令の種類ごとに所管事項を定め、所管事項以外のことはその法形式では規定できないこととし、法令間に矛盾抵触が生じないようにするという考え方である。 仮に所管事項を外れた規定をすれば、それは無効になる。 この点、法律以下の各種の法令の種類ごとにそれぞれの専属的な所管事項を設けることは事実上不可能であって、実際問題としても、2つ以上の種類の法令の所管事項が競合する例はきわめて多いとはいわれているものの、例えば、所得税法に殺人の規定がないというようなことを意味する所管事項の原則は、いわば、当たり前のことを述べているだけであって、解釈論に何らかの影響があるのであろうか。 以下では、租税法における所管事項の原則が解釈論において議論された、同族会社等の行為又は計算等の否認規定に関するいわゆる「対応的調整」の問題について触れてみたい。 (※) この際、例えば、「関係行政機関が所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則」(内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省令第1号)とか、「財務省が関係行政機関に属する行政機関として所管する法令に基づく手続等及び財務省が他の行政機関と共同で所管する公益法人の設立又は監督に関する手続等のうち、関係行政機関が所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則を適用する範囲を定める件の一部を改正する件」(財務350)といった告示が示す「所管法令」というものは、各省庁が所掌する法令のことを指す用語であるから、ここにいう「所管事項の原則」とは別である。 2 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》の適用 同族会社等の行為計算の否認とは、同族会社等を使って所得税や法人税などの負担を不当に減少させようとする行為を否認する税務署長の更正、決定権限のことをいう。 例えば、次の図のように、不動産所得者Aが不動産を貸し付けて年間500万円の所得を得ていた場合を想定しよう。 ここでAが不動産管理会社(同族会社)を設立し、かかる不動産管理会社を経由して、賃借人に同額の賃料で不動産の貸付けを行うこととすれば、同社に利益がプールされ、Aが負担する所得税の累進課税を軽減させることができるのである。 また、当該不動産管理会社で家族従業員に給与を支払えば(図表2の場合350万円)、その支払は同法人の損金となることから、法人税を軽減することも可能となる。また、この場合、不動産管理会社を経由しない場合にはAの不動産所得が500万円であるのに対して(図表1)、不動産管理会社を経由する取引をすれば不動産所得が50万円となる(図表2)。 〔出典:酒井克彦『スタートアップ租税法〔第3版〕』216頁(財経詳報社2015)〕 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》は、税務署長に同族会社等の行為や計算を無視した更正や決定の権限を付与している。 すなわち、同条1項は、「税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者・・・の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、・・・金額を計算することができる。」と規定する。 3 対応的調整と所管事項の原則 そこで、所轄税務署長が、所得税法157条1項を適用して、例えば、Aが不動産管理会社から受ける不動産所得の計算に係る収入金額を450万円と認定して更正処分を行うことがあり得る。 これは、所得税法157条1項の適用問題であるが、他方で、かかる更正処分が別の問題を惹起することになるのである。すなわち、そのような所得税法上の更正処分の反射として、不動産管理会社に係る法人税の金額の計算に修正を加えるべきか否かという問題がある。 具体的にいえば、不動産管理会社は、法人税の計算において、益金(収益)の額が500万円、損金(費用)の額が給与350万円+Aへの賃料の支払額50万円で400万円であったことから、500万円-400万円=100万円という法人所得を確定申告していたはずであるが、上記の所得税法上の更正処分を前提とすれば、不動産管理会社からAへの支払は50万円ではなく、450万円が正しかったということになりはしないであろうか。 そうであるとすると、現在の法人税の申告において計上されている賃料の支払額を50万円から450万円として減額更正されるべきであるように思われる。 このことを、「対応的調整」と呼ぶが、これまで、対応的調整による法人税に係る減額更正が認められるべきか否かについて、長らく議論されてきた。 上記の架空の事例においては、所得税法157条1項の適用があったわけであるが、従来は、法人税法に対応的調整の規定が存在しなかった。法人税法に規定がない以上、所得税法上の処理の反射として、法人税の減額更正を行うべきことは、所管事項の原則の見地からすれば立法上不可能であって、所得税法と法人税法が別々の法律であるからには、対応的調整はできないことになろう。 上記事例でいえば、あくまでも税務署長が同族会社等の行為計算の否認を行う権限を所得税法において付与されたのは、Aの所得税の計算に関するものだけであるはずである。そうであるとすれば、不動産管理会社の法人税の計算においては、実際に同社がAに支払った金額の50万円以上の支払賃貸料を計上することはできないはずであると解されていたのである。 まさに、所管事項の原則が所得税法157条1項の適用における法人税の減額更正を阻むこととなり、「対応的調整」が否定されてきた直接の理由となってきたのである。 もっとも、平成18年度税制改正において、所得税法157条1項の適用があった場合に、次のように法人税法132条《同族会社等の行為又は計算の否認》1項の適用を許容する対応的調整規定(法法132③)が設けられたことによって、この解釈問題には一定の決着がつけられた。 なお、この対応的調整に関する規定(法法132③)は、所得税法と法人税法との間の調整のみならず、相続税法や地価税法における同族会社等の行為計算の否認規定の適用に関しても適用される条文として創設されている。 その逆も同じく、法人税法132条1項の適用があった場合の所得税の減額更正処理を行うための「対応的調整」として、同時に、所得税法157条3項が次のように設けられている。ここでも、所得税法と法人税法間のみならず、相続税法や地価税法が射程範囲に含まれていることに留意したい。 (続く)