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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第43回】「租税法律主義の基礎理論」-「上からの租税法律主義」と法律による行政の原理-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第43回】 「租税法律主義の基礎理論」 -「上からの租税法律主義」と法律による行政の原理-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 本連載は「税法の基礎理論」と題して租税法律主義を基軸に据えて、税法の制定及び解釈適用に関する総論的な問題について、そのときどきの筆者の問題関心によりトピックを取り上げ検討してきたが(第1回Ⅰ参照)、今回からは「租税法律主義の基礎理論」を主題として、租税法律主義それ自体の「総論的」検討を行うことにする。 このような検討は、これまでにも若干言及したが(第34回Ⅰ・前回Ⅲ2参照)、昨年、公益財団法人日本税務研究センターの「憲法と租税法」共同研究会において行った租税法律主義に関する「総論的」検討をベースとするものである。その成果は日税研論集77号(近刊)で拙稿「租税法律主義(憲法84条)」として公表することになっている。 筆者は、従来から、「税法の基礎理論」(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)第1編)では、「とりわけ租税法律主義を基軸に据えて、税法の制定および(特に税務行政による)解釈適用に関する総論的な問題について体系的に解説を加える。」(同【1】)こととしてきたが、租税法律主義それ自体について本格的に「総論的」検討を加えたのは、上記の拙稿が初めてであった。 ここでは、今回から租税法律主義それ自体の「総論的」検討を行うに当たって、前記の拙稿の目次を以下に掲げておこう。 このうちⅠでは、わが国における租税法律主義の展開を概観しながら租税法律主義の法的性格・法的構成を検討したが、今回は、その1で検討したわが国における租税法律主義の「起源」に関連して、明治憲法下における「上からの租税法律主義」(齊藤稔『租税法律主義入門』(中央経済社・1992年)28頁。太字筆者)としての性格づけ及び「法律による行政の原理」という基本的性格について検討しておこう。   Ⅱ 「上からの租税法律主義」 わが国における租税法律主義の「起源」は、既に第34回Ⅱ2でみたとおり、明治憲法が第6章(「会計」)の冒頭で「新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ」(62条1項)と定めたことにあるが、この規定について、伊藤博文(宮沢俊義校註)『憲法義解』(岩波書店・2019年)という「半官的な逐条説明書」(同書7頁校註者はしがき)は次のとおり解説していた(122頁。下線筆者)。 ここでいう「立憲政」は、英米仏等の諸外国における立憲主義とは異なり、欽定憲法たる明治憲法の下では、外見的立憲主義を意味し、したがって、租税法律主義も「上からの租税法律主義」として性格づけられるべきものであったのである。   Ⅲ 法律による行政の原理(特に法律の留保の原則)の確立 『憲法義解』の前記解説(特に第1文)によれば、租税法律主義が租税の賦課・徴収に関する法治主義を意味するものとして捉えられていたことは、明らかであるが、この点については、既に第34回Ⅱ2でみたとおり、「租税の賦課が政府の専断に依ることを得ず必ず議会の協賛を要することは、一般の法治主義の原則から生ずる当然の事理で、敢て本条の規定を待たない」(美濃部達吉『逐条憲法精義』(有斐閣・1927年)622頁)と述べられていたところである。 ここでいう「法治主義」は、次の見解(美濃部達吉『日本行政法 上巻』(有斐閣・1936年/復刻版1986年)68-70頁。下線筆者)にみられるように、明治憲法下では、「法治行政の原則」すなわち法律による行政の原理として捉えられ、その内容のうち特に法律の留保の原則が重視されていた。 法律による行政の原理の内容及びイデオロギー的基礎については、次のとおり述べられている(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)77-78頁。下線筆者)。   Ⅳ おわりに 以上でみたように、明治憲法下では、租税法律主義は「上からの租税法律主義」として性格づけられ、租税の賦課に係る法治主義すなわち法律による行政の原理として、特に法律の留保の原則として確立されていた。そのイデオロギー的基礎は自由主義的政治思想にあり、その意味で、明治憲法下での租税法律主義は自由主義的憲法原理としての基本的性格を有していたのである。 現行憲法における租税法律主義については、憲法原理の転換に伴い、「上からの租税法律主義」としての性格は失われたが、今日でも、基本的には、「近代法治主義の、租税の賦課・徴収の面における現われ」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)79頁)であると考えられていることからすると、前記のような基本的性格は、明治憲法で租税法律主義が宣明されて以来、維持されていると理解することができよう。 筆者は、今回の冒頭に掲げた拙稿「租税法律主義(憲法84条)」において、Ⅰの1で明らかにした上記の理解を出発点にして、わが国における租税法律主義のその後の展開を概観しながら租税法律主義の法的性格・法的構成を検討したが、Ⅰの2で検討した財政民主主義の具体化を目的とする租税法律主義の民主主義的再構成については、第34回Ⅱで租税法律主義の「自律的」厳格さ(第3回Ⅱ)の補論として租税法律主義の厳格化の観点から課税要件法定主義を検討し、また、Ⅰの3で検討した行政裁量統制の徹底を目的とする租税法律主義の債務関係説的再構成については、既に第3回Ⅲで租税法律主義の「他律的」厳格さを検討し、これに加えて、第34回Ⅲでは、課税要件法定主義を構成するための理論的基礎としても検討したところである。 そこで、次回は、前掲拙稿のⅠの4「租税法律主義の機能的考察-法の支配による租税法律主義のコーティング-」をベースにして、租税法律主義の法的性格・法的構成を検討することにする。 (了)

#No. 385(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/09/10

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第12回】「〔第1表の2〕使用人兼務役員・みなし役員がいる場合の従業員数の算定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第12回】 「〔第1表の2〕使用人兼務役員・みなし役員がいる場合の従業員数の算定」   税理士 柴田 健次   Q A社の従業員及び役員に関する労働時間等の状況は、下記の通りとなります。 A社の会社規模を判定する場合における従業員数は、何人になりますでしょうか。 【役員に関する事項】 なお、A社は指名委員会等設置会社には、該当していません。 【従業員に関する事項】 A 継続勤務従業員数は31人(1人+30人)、継続勤務従業員以外の従業員数は4.5人{(960時間+7,160時間)/1,800時間}となるため、35.5人で35人超の区分に該当することになります。  ◆  ◆  ◆ ① 従業員数の算定 非上場株式の会社規模判定における従業員数の算定は、次の算式により求めた人数となります(評価通達178(2))。 継続勤務従業員数とは、直前期末以前1年間においてその期間継続して評価会社に勤務していた従業員で、かつ、就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が30時間以上の従業員をいいます。 直前期末以前1年間の途中で入社した場合や退社した場合又は週30時間未満のアルバイト等の従業員については、従業員1人当たりの平均的な年間労働時間数を1,800時間として考え、継続勤務従業員以外の従業員の年間労働時間の合計時間数を1,800時間で除して計算します。 ◎ 従業員算定上の留意点   ② 本問への当てはめ ◇甲、乙、丙の判定 法人税法施行令71条1項1号、2号及び4号に掲げる役員に該当しますので、従業員数には含まれません。 ◇丁の判定 丁は専務、常務等の職制上の地位を有する役員には該当しておらず、1週間当たりの労働時間が30時間以上となりますので、継続勤務従業員数に含めて判定します。 ◇戊の判定 法人税法上は、純然たる使用人である場合においても、同族会社の使用人のうち、法人税法施行令71条1項5号イからハまで(使用人兼務役員とされない役員)の規定中「役員」とあるのを「使用人」と読み替えた場合に同号イからハまでに掲げる要件の全てを満たしている者で、その会社の経営に従事しているものについては、役員とみなされます(法令7)。 上記の法人税法施行令7条1項2号に該当する戊は、法人税法施行令71条1項5号に該当することになりますので、使用人兼務役員になれない者に該当します。 評価通達178(2)における従業員数については、法人税法施行令71条(使用人兼務役員とされない役員)1項1号、2号及び4号に掲げる役員は含まないこととされていますが、法人税法施行令71条1項5号に掲げる役員については、除外されていません。すなわち、法人税法施行令71条1項5号に該当する戊は、従業員数から除外される役員には該当しないことになります。 なお、従業員の範囲について国税庁の質疑応答事例では、下記の通り解説がなされています。 (出典) 国税庁・質疑応答事例「従業員の範囲」 したがって、戊は使用者の指揮命令を受けて経理という労働に従事しており、かつ、労働時間も決まっていますので、従業員に含めて判定することが相当であると考えられます。また、1週間当たりの労働時間が30時間未満となりますので、継続勤務従業員以外の従業員として判定することになります。   ☆実務上のポイント☆ 役員でも指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役には該当せず、かつ、専務や常務などの職制上の地位を有していない場合には、従業員数に含めて判定することになりますので、留意しておきましょう。 (了)

#No. 385(掲載号)
#柴田 健次
2020/09/10

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第2回】「完全支配関係の範囲を拡大することの問題点」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第2回】 「完全支配関係の範囲を拡大することの問題点」   公認会計士 佐藤 信祐 3 グループ通算制度の範囲を拡大することの問題点 連結納税制度に関する専門家会合「連結納税制度の見直しについて」10頁(令和元年)では、100%未満の会社に対してもグループ通算制度の範囲を拡大することについて、「そのグループ内の法人間での損益通算による税額の増減に相当する額を各法人間で適正に分配しなければ、少数株主の利益が害されることとなる。」としたうえで、「少数株主の利益が害されないような制度を目指せば、制度の複雑化は避けられない。また、会社法上、子法人の少数株主を保護するための親法人の責任や代表訴訟によるその責任の追及に関する規定が設けられていない中で、税法上、子法人の少数株主と親法人との利益が相反する構造が内在する損益通算を容認することについては、慎重な検討が必要と考えられる。」とすることで、グループ通算制度の範囲を連結納税制度と同様に、「発行済株式又は出資の全部を保有する関係」に限定することにしている。 個人的には、損益通算による税額の増減に相当する金額を通算法人間で精算すれば済む話のように思えるが、諸外国の税制を参考にすると、やや複雑な議論になるようである。アカデミックな見地からすれば、諸外国の税制を分析したうえで、この問題をどのように解決するのかという点にまで踏み込むべきであるが、本連載はそこまで踏み込むことを目的にするものではない。 この問題を先送りするとすれば、グループ法人税制の範囲のみを発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との取引に拡大することになる。そして、単なる資産の譲渡であっても譲渡損益が繰り延べられるのであるから、発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成に対しては、事業単位の移転であることを要求する必要がなくなる。 すなわち、以下のような改正を行うことにより、組織再編税制とグループ法人税制及びグループ通算制度との整合性を保つことができるようになる。 その結果、組織再編税制において事業単位の移転であることが要求されるのは、共同事業を行うための組織再編成のみとなり、「発行済株式又は出資の全部を保有する関係」が求められるのは、グループ通算制度と後述する受贈益の益金不算入(法法25の2)のみとなる。中長期的には、グループ通算制度の範囲も拡大すべきであると思われるが、短期的には、そのような改正であってもやむを得ないと思われる。   4 受贈益の益金不算入 平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入されたことによって、法人による完全支配関係がある場合には、贈与を受けた法人において生じた受贈益は、その全額が益金の額に算入されず(法法25の2①)、贈与を行った法人において生じた寄附金は、その全額が損金の額に算入されないことになった(法法37②)。なお、受贈益の益金不算入の適用を法人による完全支配関係がある場合に限定している理由は、相続税・贈与税の回避に利用される恐れがあるからである(※)。 (※) 佐々木浩ほか『平成22年版改正税法のすべて』206-207頁(大蔵財務協会、平成22年)。 もし、「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人」との取引に対して受贈益の益金不算入を適用してしまうと、株主間贈与を容易に行うことができるという問題があることから、100%未満のグループにまで受贈益の益金不算入を拡大すべきではないと考えられる。 なお、本連載では、帳簿価額修正をグループ法人税制に取り込むことができるか否かについても分析を行う予定である。もし、帳簿価額修正をグループ法人税制に取り込むことができるのであれば、寄附修正事由(法令9①七、法令119の3⑥、119の4①)の規定は不要ということになる。 第1回で解説したように、①グループ通算制度のうち相当程度をグループ法人税制に取り込む必要があると考えており、かつ、②グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件及び事業継続要件を課さないようにすべきであると考えている。 このうち、①については、帳簿価額修正だけでなく、グループ通算制度の加入又は離脱における時価評価課税をグループ法人税制に取り込むことが可能かどうかについて検討する予定である。そして、②については、完全支配関係内の組織再編成だけでなく、支配関係内の組織再編成を容認したことによる弊害について分析する予定である。 しかしながら、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の問題点はそれだけではない。思いつくところを挙げると、みなし配当と株式譲渡損が両建てになる場面があるという点が挙げられる。平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、令和2年度税制改正により特定関係子法人から受ける配当等の額が株式等の帳簿価額の10%を超える場合の特例が導入されたが、みなし配当と株式譲渡損が両建てになる事案のすべてを防止できているわけではない。当時の実務で行われていた節税手法を知っている者からすれば、優れた改正であることは否定しないが、依然として抜け穴が残っていることも否定できず、根本的な改正が必要になると考えられる。 さらに、グループ法人税制が適用される範囲についても問題がある。法人税法62条の9に規定されている非適格株式交換等又は非適格株式移転に係る時価評価課税の例外として、「株式交換又は株式移転の直前に当該内国法人と当該株式交換に係る株式交換完全親法人又は当該株式移転に係る他の株式移転完全子法人との間に完全支配関係があった場合における当該株式交換及び株式移転」が挙げられているが、単独株式移転については他の株式移転完全子法人がいないことから、非適格株式移転に該当してしまうと時価評価課税の対象になってしまう。 単独株式移転では、同一の者による完全支配関係が要求されておらず、当事者間の完全支配関係のみが要求されていることから、株式移転の直後に当事者間の完全支配関係(株式移転完全子法人と株式移転完全親法人との間における当該株式移転完全親法人による完全支配関係)が成立しているのであれば、時価評価課税の対象から除外すべきであると考えられる。 本連載では、このような問題意識から、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の問題点を検討していくことを予定している。連載を重ねる中で新たな問題点が発見されるかもしれないし、第1回、第2回で述べた私見が変わるかもしれないが、その点についてはご容赦願いたい。 *   *   * 次回では、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度を理解するうえで重要になる「移転資産に対する支配の継続」という概念について解説を行う予定である。 (了)

#No. 385(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/09/10

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第21回】「財団法人の設立」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第21回】 「財団法人の設立」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私Zは電気メーカーBを経営しています。事業をグローバルに展開し、大手企業の省人化投資の波に乗り、近年大きく業績を伸ばしています。10年前は株式上場を考えましたが、上場すると短期の業績を求められ、じっくり事業を育てることが難しくなる可能性があるので、非上場企業のままとすることを決めました。 ところで、私は来年70歳になるので数年内に社長職を息子Yに譲り、私は会長に就任し経営の一線から退く予定です。会長になれば時間に余裕ができるので、今までお世話になった地域、社会への恩返しとしての活動を行いたいと考えています。 そこで、企業オーナーとして財団法人を設立し、その法人を通して社会貢献活動を行いたいと考えていますが、財団法人とはどのような法人なのでしょうか。また、どのように設立できるのでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ 財団には「一般財団法人」と「公益財団法人」とがあります。公益財団法人になるためには、まず一般財団法人を設立し、行政庁(内閣府又は都道府県)の認定を受ける必要があります。 [1] 一般財団法人の設立 (1) 設立方法 一般財団法人は、株式会社等の通常の法人と同様の手続きで設立することができます。 大きな流れとしては、公証人による定款認証 ⇒ 拠出財産の振込 ⇒ 必要書類の法務局への提出となり、決めるべき主な事項は以下の通りです(定款・登記書類の作成は司法書士等の専門家に依頼することをお勧めします)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 非営利法人としての設立 上記のように一般財団法人は登記により設立できますが、法人税法上は普通法人に該当し、通常通り法人税が課税されます。しかし、以下の要件のすべてに該当する法人は、非営利性が徹底された法人として収益事業以外の事業に法人税は課税されません(法2九の二イ、法令3①、国税庁「新たな公益法人関係税制の手引き」)。つまり、一般財団法人が受け取る寄附、利息、配当には法人税が課税されません。 (注) 非営利性が徹底された法人は、理事においてのみ親族等の割合が3分の1以下であることが要件となっていますが、公益法人への移行や株式の寄附を検討している場合は、設立当初から理事・監事・評議員のすべてについて親族・会社関係者の割合を3分の1以下としておくほうが良いでしょう。 (3) 財団法人の機関 財団法人は理事・監事・評議員から構成され、それぞれ次の役割があります。以下の通り、財団法人の代表は理事から選出されますが、その理事は評議員から選ばれることから、評議員の人選が重要になります。 (4) 財源 企業オーナーが社会貢献のために設立する一般財団で収益事業を行うことはほとんどなく、B社からの寄附金や、オーナーから寄附されたB社株式から生ずる配当を事業費に充当するのが一般的です。したがって、設立前に財源について一定の目途をつけておく必要があります。 (5) 事業 事業については財源の問題とともに考慮する必要があります。寄附や配当等により事業活動を行う場合は人件費等のコストがかかる事業を行うのではなく、限られた財源を最大限社会貢献に生かせる事業として、学生への奨学金給付事業や研究者等に対する助成事業が多く選ばれています。 また、将来的にB社の株式を財団へ寄附するのであれば、議決権をもつ財団を適切に保全・管理していく必要があるので、次世代が財団の運営に関与していかなければなりません。そういった観点からも、シンプルな事業を選択し次世代以降の負担軽減に配慮することが必要です。   [2] 結論 持ち分の定めのない法人は、その特徴により、事業承継対策の選択肢の1つとなり得ます。一方で、持分のない法人は出資を通じた支配ができませんので、理事会・評議員会を通じて財団法人を管理・運営していく必要があります。今回は財団法人の概要のみしかご説明しませんでしたが、次回以降に公益認定の取得方法や、スキーム事例、税の取扱いについて説明したいと思います。 実際の手続きに際しては、司法書士・税理士等の専門家に相談することをお勧めします。   (了)

#No. 385(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/09/10

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第63回】「自動車税減免申請事件」~最判平成22年7月6日(集民234号181頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第63回】 「自動車税減免申請事件」 ~最判平成22年7月6日(集民234号181頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 385(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/09/10

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《経過勘定-前払費用》編 【第1回】「短期の前払費用の取扱い」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《経過勘定-前払費用》編 【第1回】 「短期の前払費用の取扱い」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに 前払費用、前受収益、未払費用、未収収益については、経過勘定項目として処理するのが原則ですが、前払費用については、法人税基本通達が短期の前払費用として一定の要件を満たす場合、支払時点での費用処理を認めています(法基通2-2-14)。 また「中小企業会計指針」においても、この通達の取扱いを適用可能としています(中小企業会計指針31)ので、今回はこの短期の前払費用の取扱いをご紹介します。 【設例1】 (1) A社(9月30日決算)が、新規取得した配送トラックの自動車損害保険料(保険期間:X2年10月1日~X3年9月30日の1年間)120,000円を、X2年9月30日に一括年払しました。 (2) 上記(1)のケースから少し変えて、決算期を9月30日決算でなく8月31日決算とし、保険期間がX2年10月1日からX3年9月30日の1年間の保険料120,000円を、期末日のX2年8月31日に一括年払したケース。 (3) 上記(1)のケースから少し変えて、新規取得したトラックではなく1年早いX1年10月1日に取得したトラックとし、これに係るX1年10月1日からX2年9月30日の1年間の保険料120,000円を前期末のX1年9月30日に一括年払した際、その全額をX2年9月期に保険料計上していたとして、同トラックに係る次のX2年10月1日からX3年9月30日の1年間の保険料120,000円を、X2年9月30日に同じく一括年払したケース。 1 A社の配送トラックの自動車損害保険料に係る仕訳 (1)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年9月30日〉 〈X3年9月30日〉 法人税基本通達(短期の前払費用)の取扱いによると、下記の会計処理も可能です。 〈X2年9月30日〉 (2)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年8月31日〉 〈X3年8月31日〉 〈X4年8月31日〉 法人税基本通達(短期の前払費用)の取扱いについては、その適用要件を満たしません。 (3)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年9月30日〉 〈X3年9月30日〉 法人税基本通達(短期前払費用)の取扱いについては、その適用要件を満たしません。 *  *  * 前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対して支払われた対価をいい、前払利息、前払保険料、前払家賃、前払保証料等が該当します(中小企業会計指針30)。原則的な処理では、費用については発生したものを損益計算書に計上しなければならず、当期の費用でない前払費用は当期に損益計算書から除去するための経過勘定項目として貸借対照表に計上します(中小企業会計指針31)。前払費用のうち、事業年度の末日後1年を超えて費用となる部分は長期前払費用として表示します(中小企業会計指針32)。 重要性の乏しいものについては、経過勘定として処理しないことができますが、中小企業会計指針では、このほかに、前払費用のうち当期末においてまだ提供を受けていない役務に対する前払費用の額で、支払日から1年以内に提供を受ける役務に対応する金額については、継続適用を条件に費用処理することができるとされています(中小企業会計指針31)。 これは、中小企業の会計実務で浸透している法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)の取扱いをそのまま取り入れたものと考えられます。同通達では、支払った日の属する事業年度に損金の額に算入することも適用要件とされています。 ◎ 設例への当てはめ (1)のケースでは、原則的な処理によると、支払日であるX2年9月30日現在ではまだ保険期間が開始されていないため、いまだ役務が提供されていない段階であり費用が発生していません。したがって、X2年9月期では、120,000円全額を当期に損益計算書から除去するための経過勘定項目として貸借対照表に前払費用を計上します。 法人税基本通達における短期の前払費用の取扱いは、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める(法基通2-2-14)というものです。 (1)のケースでは、同保険について次年度以降も年払日に保険料を計上し続けるとすれば、この通達の要件をすべて満たすので、支払日(X2年9月30日)を含むX2年9月期に120,000円全額を費用計上することができます。 しかし、(2)のケース(8月31日決算)では、保険期間が同じ1年であっても、その終了日(X3年9月30日)が支払った日(X2年8月31日)から1年を超えるため、この通達の要件を満たしておらず、適用されません。 また、(3)のケースでは、X1年9月30日に一括年払した120,000円全額を原則的な処理により支払日に前払費用計上(して翌年度のX2年9月期に保険料計上)したため、X2年9月30日に一括年払した120,000円を同日(支払日)の保険料として計上することは、継続して支払った日の属する事業年度に損金の額に算入しているという通達の要件を満たしておらず、これもまた適用されません。 以上のように、前払費用を支払日に費用計上する際には、上記の法人税基本通達の要件に留意する必要があります。   2 (1)のケースに係る部分の決算書の金額 (1)のケースに係る部分の決算書の金額は、次のとおりです。 X2年9月30日決算期 (了)

#No. 385(掲載号)
#前原 啓二
2020/09/10

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第104回】学校法人明浄学院「第三者委員会調査報告書(2019年12月30日付)」、株式会社プレサンスコーポレーション「外部経営改革委員会調査報告書(2020年3月1日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第104回】 学校法人明浄学院 「第三者委員会調査報告書(2019年12月30日付)」、 株式会社プレサンスコーポレーション 「外部経営改革委員会調査報告書(2020年3月1日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【横領事件の概要】 2019年12月5日、学校法人明浄学院(以下「明浄学院」と略称する)の元理事長大橋美枝子氏(以下「元理事長」と略称する)と明浄学院の元理事で、株式会社プレサンスコーポレーション(以下「プレサンス」と略称する)の前代表取締役山岸忍氏(以下「山岸前社長」と略称する)ら6人が、業務上横領容疑で、大阪地方検察庁に逮捕されるというニュースが伝えられた。本稿では、100年の歴史を有する学校法人から21億円という巨額の資金を横領したとされる事件を調査した2つの委員会の調査報告書を検討したい。 新聞報道によれば、元理事長はかねてから学校経営に意欲を示しており、多額の資金提供によって、2016年4月に明浄学院の副理事長に就任し、翌年には理事長となる。明浄学院の経営に参画するための巨額の資金(18億円)を元理事長に提供していたのが、山岸前社長であり、山岸前社長も、その後、明浄学院の理事に就任している。 2017年7月、明浄学院は、運営する高等学校の敷地の一部について、株式会社ピア・グレース(以下「ピア・グレース」と略称する)を通じて、プレサンスに売却するため、ピア・グレースとの間で売買契約を締結して21億円の手付金を受け取った。この手付金は、元理事長の指示により、株式会社サン企画(以下「サン企画」と略称する)に預けられたが、この資金が、株式会社ティー・ワイエフを通じて山岸前社長に還流しているものと見られている。 新聞報道及び今回取り上げた調査報告書をもとに、契約関係、資金の流れを図示すると、次のようであったと考えられる。   【学校法人明浄学院第三者委員会の概要】   【学校法人明浄学院の概要】 明浄学院は、1921(大正10)年開校した明浄高等女学校が前身であり、財団法人を経て、1951(昭和26)年3月に学校法人へと組織変更した。傘下に大阪観光大学と明浄学院高等学校を有する。両校合わせて、学生数は1,233名、教職員数は99名(2019年5月1日現在)。本部所在地は、大阪府泉南郡熊取町。   【株式会社プレサンスコーポレーション外部経営改革委員会の概要】   【株式会社プレサンスコーポレーションの概要】 プレサンスは、1997(平成9)年10月設立(当時の商号は株式会社日経プレステージ)。2002年4月、現商号に変更。マンションの企画開発及び販売を主たる事業とする不動産会社。連結子会社12社、持分法適用会社3社を有する。売上高224,011百万円、経常利益31,985百万円、従業員数665名(いずれも2020年3月期連結実績)。東証1部上場。本店所在地は大阪市中央区。会計監査人はEY新日本有限責任監査法人大阪事務所。   【明浄学院第三者委員会調査報告書の概要】 明浄学院について、2020年3月16日、大阪地方裁判所に対して、民事再生手続開始と保全管理命令の申立てがなされ、保全管理人として弁護士の中井康之氏が選任された。その後、19日になって、明浄学院が調査を委嘱していた第三者委員会の調査報告書が公開された。 まず、この調査報告書の概要をまとめておきたい。 1 第三者委員会設置の経緯 調査報告書によると、2019年7月2日に新聞社が、「大学の資金流用指示」などの見出しをもとに、明浄学院の理事長が大学の運営資金1億円を関連会社に振り込むよう指示し、仮想通貨の購入に流用した疑いがあることを報道した。その後、同月20日には、新聞社が「21億円不明疑い」との見出しで、高校の士地の一部を売却する契約を結んだ際に明浄学院が受け取った手付金21億円の所在が不明になっている疑いがあるとの報道が続き、同年9月1日に第三者委員会が発足し、調査を開始した。 2 1億円問題 2018年4月17日、元理事長は自らが起案者として「決裁伺」を作成し、資金不足を解消するために明浄学院が株主である株式会社明浄(以下「明浄」と略称する)に対して、1億円を資金移動する旨記載して、法人本部長、財務課長の承認印を得て理事長として決裁し、同月20日に明浄の銀行口座に1億円が送金された。 同日、明浄学院のD理事は、明浄の代表取締役であったG氏から同社口座のある銀行において現金で1億円を受領し、新幹線で東京に行き、株式会社d及び株式会社eの代表取締役のR氏に1億円の現金を渡すとともに、D理事は自己所有のスマートフォンにアプリケーションをダウンロードする方法で個人名義仮想通貨の口座を開設し、1億円の現金の交付と引き換えに42万SWE(1SWE=2USドルの計算)が送られた。 明浄学院の会計処理では、明浄に支出した1億円は、他の入金を充当し、又は相殺処理を行うなどして、明浄から回収したように処理が行われていた。 調査報告書によれば、明浄学院D理事が投資した仮想通貨SWEの現在価値は3、4万円程度であり、D理事は、d社及びR氏に保証の履行を求めたものの、明浄への支払は165万円に止まっているということである。 3 21億円問題 2017年7月6日、明浄学院は、ピア・グレース(報告書上は「b社」)との間で「土地売買契約書」により売買代金約32億円(手付金21億円)で、明浄学院所有土地及び国有地払下げ取得予定地の一部(契約面積約7,300㎡)を売却する旨の売買契約を締結した。 これに先立ち、同月4日、元理事長は、自ら起案者としてb社から受領する手付金21億円につき、サン企画(報告書上は「c社」)に全額を預ける旨の「決裁伺」を作成し、翌5日、理事会の承認を得ることなく理事長として決裁した。この決裁を受けて、明浄学院は、同月6日、b社から手付金として21億円を受領した直後にc社に同額を振り込んで預けた。その後、明浄学院は、c社に対し21億円の返還を求めたが、c社は返還に応じていない。 4 ガバナンス体制の問題点とその原因(報告書49ページ以下) 第三者委員会は、明浄学院のガバナンス体制の問題点とその原因について、次のようにまとめている。 5 改善提案(報告書51ページ以下) こうした問題点を改善するために、第三者委員会は、次の提案を行っている。 第三者委員会は、「常勤の監査部門の設置と三様監査の実施」を求める理由として、明浄学院の監事2人が、元理事長に対して理事会決議が必要であることを述べながら積極的に理事会決議を要請しなかった事実を指摘して、その要因の1つとして、監事が非常勤であるために継続して要請できなかったと分析している。 そこで、改善策として、常勤の監査担当者や担当部門を設置するべきであり、最も望ましいのは常勤の監事を置くことであるとコメントしている。また、内部監査室などの監査担当部門を設置する場合には、理事長の独断的行為に対する牽制になることが期待できるよう、少なくともレポートライン(報告経路)として監事を含めることを検討することが必要であると述べている。さらに、監事及び会計監査人は元理事長の独断的な運営に対して是正が必要であると考えていたことが認められるが、両者が協働していなかったことから、元理事長は行動を改めることがなかったとして、三様監査の実施が必要であるとまとめている。 さらに、第三者委員会は、明浄学院の従業員が、元理事長の独断的行為や理事会の機能不全を認識して是正の必要があると感じ、行動しようとする場合には、内部通報制度が整備されていて独立性の高い外部窓口が設置されていることは非常に重要であるし、内部の自浄作用により問題の是正を図ることのできる唯一の方法といえるかもしれないとして、「内部通報制度の整備」の必要性を強調している。   【プレサンス外部経営改革委員会調査報告書の概要】 プレサンス外部経営改革委員会は、プレサンスが大阪地方検察庁から一部証拠の仮還付等を受けた資料につきその内容を検討したが、依然として全ての証拠資料を把握・検討するには至っていないうえ、調査期間中、山岸前社長は勾留状態にあり、十分なヒアリングを実施するには至っていないことなどから、本件横領事件に関する事実認定を行うことは困難であると前置きしたうえで、収集・精査した資料及び電子メールデータ等から客観的に認められる事実の概要並びに関係者に対するヒアリング結果の概要を調査報告書としてまとめている。 本稿では、東証1部上場会社の現職代表取締役社長が逮捕された事件が、なぜ発生したのか、なぜ防止できなかったかについて、外部経営改善委員会が指摘した「ガバナンス上の問題点」と「ガバナンス改革上の提言」について見ておきたい。 1 ガバナンス上の問題点(報告書41ページ以下) 外部経営改革員会は、プレサンスの「ガバナンス上の問題点」を次のように指摘している。 外部経営改革委員会は、本項目の冒頭に掲げた「巨大化した個人商店」について、プレサンスの特徴を一言で言い表すならば、「巨大化した個人商店」であり、本件調査・検証の結果浮かび上がったガバナンス上の問題点のほとんどは、プレサンスが「巨大化した個人商店」であったことに起因すると結論づけている。 1997年に設立したプレサンスは、山岸前社長のリーダーシップのもと、営業エリアを大阪中心から東海地区へと拡大しながら、10年後に東証2部に上場。さらに、2013年には、東京地区への進出と東証1部上場を果たしている。しかし、業容の拡大に、管理部門の整備は追いついておらず、とくに、「監査体制の脆弱さ」と指摘されているように、内部監査は課長職の社員1人が担当する体制となっていたり、社外取締役を有効活用してガバナンスを充実させる体制がとられていなかったことが、創業者で大株主でもある山岸前社長の利益相反行為を抑止することができなかった原因といえよう。 2 ガバナンス改革上の提言(報告書55ページ以下) プレサンスのガバナンス上の問題点を改革するために、外部経営改革委員会は、次のように提言をまとめている。 提言の冒頭、外部経営改革委員会は、何よりもまずプレサンスが「個人商店」から脱却すべきであると説き、そのためには、取締役の意識改革が必要であることを強調している。その理由として、東証1部上場を果たし、グループ全体で約700名の従業員を抱えるプレサンスは、もはや山岸前社長の家業ではなく、数多くのステークホルダーを抱える企業であり、プレサンスの取締役は、これらステークホルダーに対して、プレサンスを永続的に維持・発展させる責任を負っていることを自覚し、今後、プレサンスをどのように経営していくべきか、真摯に議論・検討する必要があると続けている。 さらに、外部経営改革委員会は、役員の意識改革において重要な役割を果たすのが、社外取締役の存在であるとして、社外取締役が、社外の知見を活用しつつ、継続的に経営を監督し、時宜に適った助言を行うことで、プレサンスのガバナンス体制の改革を着実に前に進めることが可能となると提言している。プレサンスにとっての喫緊の課題であるガバナンス体制の改革に関して、取締役会においても、その進捗状況について定期的に議論を行い、特に社外取締役においては、社外の目線を踏まえた忌憚のない意見を出し、取締役会の議論を活性化する必要性を説いている。 そのうえで、プレサンスにおいては、社外取締役にその本来の機能を十分に発揮してもらうための仕組み作りも急務であり、サポートする人員の整備を含め、社外取締役に対して十分な情報提供を行う体制を整えることは必須であると提言している。   【調査報告書の特徴】 明浄学院の第三者委員会調査報告書によれば、新聞報道を検証するための第三者委員については、明浄学院は、大阪弁護士会及び日本公認会計士協会近畿会に対し、委員を推薦するよう依頼して、選任されたということである。第三者委員会の独立性・中立性に疑問符がつけられる事案が多い中、こうした選任プロセスが一般化するかどうか、注目される。 一方のプレサンス外部経営改革委員会は、委員長が裁判官経験者、2人の委員は元検事という構成になっている。こうしたバックボーンを有しながら、弁護士としてはもっぱら企業法務の分野で活躍している委員を選任したことは、プレサンスの創業者で、前代表取締役社長が刑事被告人となっているという状況を考えれば、この委員会組成にも頷けるところである。 1 学校法人の監事の責任 明浄学院第三者委員会は、2人の監事について、「監事は、期中においては月に1回、理事会の前に約2時間監査をする程度であり、公認会計士、税理士として事務所を経営している者としては限界があったことは当然である」と、非常勤の職にあることから監事の職務に限界があったことには一定の理解を示している。 その一方で、問題点として、「1億円送金に問題がなかったかについて十分な監査をしたとは言い難く、善管注意義務違反が認められる」とコメントし、また、手付金21億円を第三者に預けることについても、「理事会決議が必要であることを理事会に報告する義務があったが、この義務を果たしておらずこの点において善管注意義務違反が認められる」と評価している。 明浄学院のサイトで公開されている「監事監査報告書(令和2年6月25日)」を読む限り、2人の監事は、元理事長による不正が行われていた期間、監査結果について、「業務及び財産状況は適切であり、不正の行為又は法令若しくは寄附行為に違反する重大な事実はない」と適正意見を出し続けてきたことの責任は免れないのではないかと思料するが、現在公開されている「役員一覧(令和2年6月30日現在)」でも監事の職に留まっているようである。 2 高等学校敷地問題の解決 4月9日、明浄学院は、「明浄学院高等学校敷地を巡る問題の解決のご報告」というリリースで、以下のとおり、問題が解決したことを管財人名で公表した。 山岸前社長が「道義的責任」を取る格好で、21億円を負担することによって、売買契約が合意解除できたということで、これは学校法人関係者、在校生とその保護者にとっては、大変な朗報であろう。 3 東京証券取引所による改善報告書の徴求及び公表措置 2020年6月24日、東京証券取引所は、プレサンスに対して改善報告書の徴求及び公表措置を実施することを公表した。公表措置の根拠となる条文は有価証券上場規程第502条第1項第2号(企業行動規範の遵守すべき事項違反)であり、プレサンスの外部経営改革委員会調査報告書をもとに、次の事項が判明したとしている。 また、その原因として、次の点を挙げている。 プレサンスは、業務の適正を確保するために必要な体制を適切に運用していなかったことにより企業行動規範の遵守すべき事項に違反していることを認め、東京証券取引所は、その経緯及び改善措置を記載した報告書の提出を求めることにしたと説明している。 (了)

#No. 385(掲載号)
#米澤 勝
2020/09/10

税効果会計を学ぶ 【第12回】「財務諸表上の一時差異等の取扱い」

税効果会計を学ぶ 【第12回】 「財務諸表上の一時差異等の取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回(第12回)は、財務諸表上の一時差異等(個別財務諸表)について解説する。関連する繰延税金資産の回収可能性については、本シリーズの第7回から第11回までを参照願いたい。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財務諸表上の一時差異等の取扱い 1 その他有価証券の評価差額 2 繰延ヘッジ損益 3 土地再評価差額金 4 租税特別措置法上の諸準備金等に係る将来加算一時差異 5 連結会社間における資産(子会社株式等を除く)の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い 6 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の個別財務諸表における取扱い (了)

#No. 385(掲載号)
#阿部 光成
2020/09/10

令和2年 年金制度改正のポイント 【第3回】「在職中の年金受給の在り方の見直し等」

令和2年 年金制度改正のポイント 【第3回】 (最終回) 「在職中の年金受給の在り方の見直し等」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   第3回は、在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ、年金額の定時改定の導入及び老齢年金の繰下げ受給年齢の引上げについて解説します。   1 在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ 【2022年4月施行】 在職老齢年金とは、老齢厚生年金(60歳台前半に支給される特別支給の老齢厚生年金を含む)を受給している人が在職し、厚生年金保険に加入した場合、老齢厚生年金の額(以下「年金月額」といいます)と総報酬月額相当額(注)(以下「報酬等」といいます)により、受け取る年金額の全部又は一部が停止されるものをいいます。現在、60歳台前半と60歳台後半では、この支給停止基準が異なっています。 (注) 総報酬月額相当額=該当月の標準報酬月額+(該当月以前1年間の標準賞与額の合計÷12) (1) 60歳台前半(60歳から65歳未満) 年金月額と報酬等の合計額が28万円を超えた場合は、その年金の全部又は一部が停止されています。改正により、この28万円の基準が47万円(令和2年度額)になります。 したがって、年金月額と報酬等の合計額が47万円までは老齢厚生年金は減額されず、改正前よりかなり減額の幅が緩和されます。 (2) 60歳台後半(65歳から70歳未満) 65歳からは、老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されますが、在職中であっても老齢基礎年金は減額されず全額支給されます。 しかし、老齢厚生年金は、在職中、年金月額と報酬等を合計した額が47万円を超えた場合には、その超えた額の2分の1に相当する額が停止されています。この47万円の基準は、改正後も変更されません。   2 年金額の定時改定の導入【2022年4月施行】 在職中の老齢厚生年金(65歳以上)の額は、退職時又は70歳到達時に改定されていますが、2022年4月以後は、毎年1回改定される定時改定が導入されます。 老齢厚生年金の受給権者が9月1日(以下「基準日」といいます)に在職(厚生年金保険に加入)している場合の老齢厚生年金の額は、基準日の属する月前の加入期間をその計算の基礎として、基準日の属する月の翌月(10月)から、年金額が改定されます。   3 老齢年金の繰下げ受給年齢の引上げ(受給開始時期の選択肢の拡大)【2022年4月施行】 老齢年金は、国民年金から老齢基礎年金が、厚生年金保険から老齢厚生年金が65歳から支給されますが、66歳以降に繰り下げて受給をすることもできます。老齢基礎年金及び老齢厚生年金の両方を繰り下げることも、どちらか一方を繰り下げることも可能です。繰下げした年金は、一定の割合で増額されます。 現在、繰下げ受給は70歳までとなっていますが、改正により75歳まで拡大されます。 繰下げ受給は、繰下げ1ヶ月あたりの年金額が0.7%増額されています。改正後は、増額率は変わりませんので、最大で84%増額されることになります。 66歳以降に繰下げをした年齢に応じて、下表のとおり年金額が割増になります。 例えば、老齢基礎年金781,700円(満額)の人が、65歳からではなく70歳から受給した場合には、781,700円×1.42=1,110,014円ですが、75歳から繰り下げて受給した場合は、781,700円×1.84=1,438,328円になり、かなり増額されます。 〈繰下げ受給の増額率〉 (注) 色網掛け部分が改正により追加されます。 (連載了)

#No. 385(掲載号)
#佐竹 康男
2020/09/10

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第6回】「ハラスメントの事実認定と加害者の処分等における留意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第6回】 「ハラスメントの事実認定と加害者の処分等における留意点」   弁護士 柳田 忍   厚生労働省の指針等に基づき、会社は、ハラスメントの相談等を受けた場合、事実関係を迅速に確認し、ハラスメントの事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う必要がある。 そこで、ハラスメントの事実調査を終えた後は、収集した証拠に基づいて事実認定を行い、認定した事実に基づいて加害者の処分等を実施することになるが、本稿においては、これらに関する留意点について説明する。   1 ハラスメントの事実認定 事実認定は、事実調査において収集した物的証拠と人的証拠を総合的に勘案して行うことになるが、事実認定に際して最も困る、かつ、よく直面するのが、収集した証拠の中に決定的な物的証拠がなく、供述(人的証拠)の内容が食い違っているという事態である。 このような場合、ハラスメントの事実は確認できなかったと結論づける会社もあるようであるが、単に、決定的な物的証拠がなく、供述の内容が食い違っているというだけで事実認定を放棄して何事もなかったことにしてしまうと、職場環境配慮義務や安全配慮義務等の違反の責任を問われる可能性がある。そこで、このような場合にも、供述の信用性を判断したうえで、可能な限り事実認定を試みることが重要である。 供述の信用性を判断する基準は以下のとおりである(裁判所も下記のような基準に従って供述の信用性を判断し、事実認定を行っている)。 上記基準に従って綿密に供述の信用性を判断し、その過程を説明できるようにしておくことにより、かかる供述に基づいた事実認定や加害者の処分等が適切であると判断される可能性を高めることができると思われる。   2 加害者の処分等 上記のとおり、会社は、ハラスメントの相談等を受けた場合、事実関係を迅速に確認し、ハラスメントの事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行う必要があるとされている。 ここでいう「行為者に対する措置」として、必ずしも懲戒処分を科さなければならないというわけではなく、注意や指導に留めるべき場合もあろう。しかし、特定の従業員や特定の事案についてのみ重い懲戒処分を科す場合、平等原則に違反するものとして当該懲戒処分は無効となりうることから、懲戒処分をした場合は当該懲戒処分が、懲戒処分をしない場合は懲戒処分をしなかったという事実が、同種事案に関する今後の処分基準となることを考慮にいれたうえで、加害者の処分を検討すべきである。 また、就業規則等に懲戒処分に際して従業員に弁明の機会を付与する旨の定めがある場合には、弁明の機会を与えずに行われた懲戒処分は無効となる可能性が高い。一方、そのような定めがない場合は、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分が必ずしも無効となるものではないが、弁明の機会を与えた方が懲戒処分が有効と判断される可能性が高まるのではないかと思われる。 なお、弁明の機会は、懲戒処分の決定に先立ち、懲戒対象事実を具体的に示して行うべきものだが、事実認定後、改めて弁明の機会を与えなくても、事実調査(事情聴取)において弁明の機会が与えられたと評価できる場合も多いと思われる。 懲戒処分の種類については、軽い方から、けん責又は戒告、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などを定めている企業が多いものと思われるが、懲戒処分を行うとの判断に至った場合、どの種類の懲戒処分を選択すべきかというのが最も悩ましいところであろう。 懲戒処分の種類を決定するに際しては、ハラスメント行為の態様や動機、結果、加害者の職責、過去の非違行為の有無等、様々な事情を考慮して決めるべきであるが、ハラスメントが犯罪行為に該当するような場合や長期間にわたり執拗になされている場合、会社から指導を受けたのに何度もハラスメントに及んだ場合等には、懲戒解雇や諭旨解雇などの雇用契約を解消するタイプの懲戒処分を検討することになろう。また、以下の人事院の「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職68)(国家公務員の懲戒処分の量定を掲げたもの)も参考になる。 (注) 人事院規則10-16第2条のパワー・ハラスメントとは、職務に関する優越的な関係を背景として行われる、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であって、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなものをいう。 さらに、懲戒処分とは別に、人事上の処分としての降格、減給、配置転換や、被害者から引き離すための配置転換等の実施も考慮すべきであろう。 (了)

#No. 385(掲載号)
#柳田 忍
2020/09/10
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