〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例51】 株式会社リソー教育 「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する調査結果および再発防止策について」 (2020.8.21) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社リソー教育(以下「リソー教育」という)が2020年8月21日に開示した「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する調査結果および再発防止策について」である。 同社は、分配可能額を超えて配当を支払っていたことが判明したため、その原因を解明するために調査委員会を設置していた(2020年7月15日に「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する調査委員会設置のお知らせ」を、同年7月20日に「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する社内調査委員会および外部調査委員会設置完了のお知らせ」を開示)。今回の開示には、その調査結果と再発防止策が記載されている。 2 原因は? なぜリソー教育は、分配可能額を超えて配当を支払ってしまったのだろうか。まず配当額を決める過程において、分配可能額が計算されていなかった。今回の開示に添付された調査報告書には、次のように記載されている。 次に取締役会においても、配当額が分配可能額の範囲内に収まっているかについて確認されていなかった。調査報告書の記載は次のとおりである。 また、監査役会においても、確認はなされていなかった。調査報告書の記載は次のとおりである。 分配可能額を超えて配当を支払ってしまった事例としては、本連載の【事例30】において、nmsホールディングス株式会社の「分配可能額を超えた平成29年3月期末の配当金について」を取り上げている。その事例の原因は、会社の皆の「知識不足」と「無責任」であった。 今回の事例の原因も、以上のとおり、同様に「知識不足」と「無責任」であるとされている。確かにそうかもしれない。しかし、それだけなのだろうか。それで片付けていいのだろうか。 3 誰への利益還元? リソー教育の「第35期有価証券報告書」の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の中に、次のような記載がある。 このように記載するだけあり、同社は、株主に対して可能な限り多くの配当を支払おうとする会社のようである。2017年2月期から2019年2月期にかけては、毎期、配当性向が100%を超えている。そうした姿勢が行き過ぎて、分配可能額を超えた配当へとつながったのだろうか。 当然だが、持株比率の最も高い株主が最も多くの配当を受け取る。同社の場合、その株主は、同社の創業者であり、現在、同社取締役会長の岩佐実次氏(以下「岩佐氏」という)である。2020年2月末時点で21.66%の同社株式を保有している。 同社が2020年7月20日に開示した「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する社内調査委員会および外部調査委員会設置完了のお知らせ」によると、分配可能額を超えた配当の額は約11億円とのことである。したがって、今回、岩佐氏は2億円超の違法配当を受け取ったことになる。 岩佐氏は、単なる同社の筆頭株主ではない。配当額の決定に加担した取締役でもある。分配可能額を超えた配当を受け取った株主は、会社に対してそれを返還する義務を負うのだが(会社法462条1項)、岩佐氏は2億円超の違法配当を同社に返還しないのだろうか。また、同社は岩佐氏に対して返還を請求しないのだろうか。開示にそれに関する記載はない。 同社にとっての経営上の重要課題は、株主への利益還元なのだろうか。それとも、岩佐氏への利益還元なのだろうか。 4 売上至上主義から配当至上主義へ? 岩佐氏は、現在、リソー教育の代表取締役ではなく、単なる取締役である。しかし、もともとは代表取締役だった。岩佐氏が代表取締役を辞任したのは2015年10月1日だが(同年9月17日に「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」を開示)、その原因となったのは、同社の粉飾決算である。それに関連する開示を時系列に並べると、次のようになる。 ご覧のように、特設注意市場銘柄指定が解除されず、同社が上場廃止寸前となったときに(表の8、9)、岩佐氏は代表取締役を辞任している(表の10)。そして、同社は上場廃止を免れている(表の12)。同社の特設注意市場銘柄指定解除には、岩佐氏の代表取締役辞任が必要とされていたかのように見える。 そのように見えても不思議でないのは、粉飾決算の根本原因が岩佐氏だったからである。2014年2月10日に開示された「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」に添付された「報告書(要約)」には、次のような記載がある。「A会長」とは、岩佐氏のことである。 岩佐氏が絶大な権力を持っていたことがうかがえる。しかし、代表取締役を辞任し、単なる取締役となることによって、岩佐氏の力はそがれたのだろうか。そのように考える方は、おそらくいないだろう。取締役として残っていれば、取締役会の意思決定は依然として岩佐氏主導で行われていたのではないだろうか。岩佐氏に対して誰も何も言えない雰囲気だったのではないだろうか。 5 また別の不祥事が? リソー教育は、今回の開示において、次のような再発防止策を掲げている。確かに、今後、分配可能額を超えた配当が支払われることは、なくなるかもしれない。しかし、また何か別の不祥事が生じるのではないだろうか。 なお、同社は、2019年5月24日に開示した「代表取締役の異動(社長交代)に関するお知らせ」において、岩佐氏の役職を「取締役相談役」から「取締役会長」へ変更するとしている。もうしばらくしたら、「代表取締役会長」に戻るつもりなのだろうか。取締役であろうと代表取締役であろうと、岩佐氏の同社内での影響力に変化はないだろうが。 (了)
2020年9月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.386を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第83回】 「税務手続のデジタル化」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 新型コロナウイルス感染症の拡大により、わが国の経済・社会の脆弱性が浮き彫りにされてきた。特に行政におけるデジタル化・オンライン化の遅れは、ポストコロナ時代に向けた新たなスタートの遅れにもつながりかねない。 本年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(いわゆる「骨太の方針」)では、次のような指摘がなされている。 こうした問題意識から、「骨太の方針」では、次のように、全ての行政手続きを対象に書面・押印・対面主義を見直すことが掲げられている。 〇進む税務手続の電子化 国・地方を通じた業務改革・業務標準化とデジタル化が徹底されるべきであり、「骨太の方針」では「全ての行政手続」を対象に書面・押印・対面主義からの脱却が提示されていることは心強い。「全ての行政手続」ということは、税務手続も当然その対象となるということである。 幸い、近年、税務手続のデジタル化が進められている。この流れをさらに加速していくことが重要である。 例えば、昨年10月に地方税共通納税システムが、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)の機能の1つとして導入された。このシステムにより、全ての地方公共団体へ一括して電子納税することが可能となった。ただし、対象となる税目は法人住民税、法人事業税等に限られており、今後対象税目の拡大(例えば固定資産税)が期待されるところである。 また、平成30年度税制改正により、「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、一定の法人が行う申告は、e-Tax(国税電子申告・納税システム)により提出しなければならないこととされた(いわゆる「法人税等に係る電子申告の義務化」)。この制度の対象税目は、法人税、地方法人税、消費税、地方消費税であり、地方税においても法人住民税、法人事業税について電子申告が義務化された。この制度は、まさに今年度(令和2年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間))から適用される。 同じく平成30年度税制改正により、令和2年分の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等について、勤務先へ電子データにより提供できるよう手当されたことなどを受けて、本年10月には、従業員が控除証明書等データを活用して簡便に作成し、勤務先に提出する電子データ又は書面を作成する機能を持つソフトウェアが国税庁からリリースされる予定である。 ただし、年末調整申告書データを利用して年税額の計算等を行うためには、勤務先の給与システム等が年末調整申告書データの取込みに対応する必要がある。 〇マイナポータルの一層の活用 年末調整手続の電子化に関しては、マイナポータルを活用して、控除証明書等の必要書類のデータを一括取得し、各種申告書への自動入力を行うことが可能とされており(マイナポータル連携)、この仕組みを利用すれば、電子化による利便性はさらに高まる。 また、与党の令和2年度税制改正大綱で、給与所得に係る個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化について、個々の納税義務者に電子的に送付することができる体制を有する特別徴収義務者(企業)に対して、eLTAXを経由し送付する仕組みの導入に向けた取組みを進めることが明記されている。この仕組みの早期の導入が待たれるところであるが、将来的には、特別徴収義務者(企業)を介さずとも、各人のマイナポータルに特別徴収税額通知が直接届けられるようになることも期待される。 マイナポータルの活用の前提としてマイナンバーカードの普及が不可欠となるが、「骨太の方針」では「2021年に必要な法制上の対応を行い、2022年を目途に、マイナンバーカードを活用して、生まれてから職場等、生涯にわたる健康データを一覧性をもって提供できるよう取り組むとともに、当該データの医療・介護研究等への活用の在り方について検討する」とされている。 (了)
これからの国際税務 【第21回】 「OECDによる『シェアリングエコノミー及びギグエコノミーの デジタル・プラットフォーム情報の通告ルール』の採択」 千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二 1 OECDによる情報通告ルールの意義 近年、Airbnbなどの物をシェアするシェアリングエコノミーに加え、Uberなど人的サービス(家事・介護・育児・送迎など)をCtoCで個別に提供するギグエコノミーが、その規模を拡大してきている。 これらの取引から得られる収益は、もともと狭いコミュニティ内で現金決済で行われる小規模取引が多く、把握漏れが生じやすかったため、同種の業務を事業として展開している法人や個人事業者と比べて、課税漏れによる納税者間の税負担の不平等感が指摘されていたものの、規模から見て課税上の弊害が大きくないためか、制度的に把握を保障する方策が、未開発であった。 しかし、経済のデジタル化は、このような業務をインターネットを利用して仲介するプラットフォームビジネスを発展させ、ユーザーの規模も拡大したことから、把握の必要性が顕在化している。この点に着目し、我が国は平成31年度改正でプラットフォーム事業を運営する企業等に対し、不特定のユーザーの納税関係情報について、任意照会、強制照会の二段階で行う権限を課税庁に付与する国税通則法改正を行った(詳細は、【第12回】の拙稿を参照)。 2020年7月、OECDが主導するBEPSプロジェクトの電子経済課税のフォーラム(包摂的枠組)が公表した「シェアリングエコノミー及びギグエコノミーのデジタル・プラットフォーム情報の通告ルール」は、国境を越えたユーザーをクライアントとするプラットフォーム運営者が、取引の仲介をする場合を念頭に置き、プラットフォーム運営者に、売主であるユーザー情報のデータを提供することを課税庁が求め、それにより得られた情報を、売主の居住地国の課税当局へ、租税条約の情報交換で通知するという仕組みに関するモデルルールである。 BEPS対応の一環であり、執行サイドがDX(デジタルトランスフォーメーション)モデルを活用するものと位置付けられる施策と考えられるので、以下に紹介する。なお、同文書には、OECD税務長官会議が付加した、プラットフォーム運営者に対する行動規範も付随しているが、ここでは割愛する。 2 モデルルールの概要 モデルルールは4部構成になっているが、そのうち手続き規定を除くエッセンスとなる3部は、以下のとおりである。 ① 定義等 ここでは、報告義務を負うプラットフォーム運営者の定義と、報告対象となる販売者の定義が確認されている。詳細は以下の通り。 ② デューデリジェンス手続き この中には、検討対象ではない販売者に係る情報の収集義務などを含めて、収集すべき販売者情報(納税者番号を含む)が列記されており、販売者の居住地認定の手順や、賃貸不動産の情報、デューデリジェンス手続きの期限等が記載されているが、詳細は③の報告必要事項と共通するため省略する。 ③ 報告必要事項 3 モデルルールの意義と課題 以上の通り、通常の第三者報告要件の対象とはならない、シェアリング及びギグ経済への参加者についての報告義務(従来は各国がバラバラに設定)を統一し、しかも租税条約に基づく自動的情報交換(非居住者口座情報の交換で、実績を上げつつある)と同レベルの情報を入手できるようにするとの、画期的な構想である。 DX環境下での税務行政での先進的取組の例ともいえるが、現在のシェアリング及びギグ経済の規模を考えると、行政コストとの関係では比例原則に沿った制度設計が必要であり、報告義務の対象となる取引の範囲や閾値設定など限定的にスタートすべきとも考えられる。また我が国においては、マイナンバーカードの普及問題に取り組む必要があり、また、平成31年度改正により導入した照会権限規定との間の整理も必要と思われる。 なお、本情報は所得課税のみならず消費税など間接税にも有用な情報と思われるので、より広い用途に資するものとすべきとのビジネスサイドからの要望も出されている。 最後に、本モデルは今後の検討のビルディングブロックになるものとされており、運営方法や実施上の課題に関しては、詳細なコメンタリーが付加されている。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第18回】 「役員給与・役員退職給与に係る未払金計上」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 定期同額給与の場合 資金繰りの都合で定期同額給与が一時的に未払金となることは、実務上、最も多いケースといえよう。この場合の取扱いにつき、短期間かつ合理的理由があれば、通常通り損金算入が認められてきた。これは、債務確定主義を採る法人税法において、法法34条に定める「支給」は、実際のキャッシュアウトを要求しておらず、確定した時点で「支給」したとされることが根拠とされる。 短期間かつ合理的理由があることが必要とされているのは、長期に及んだり理由なき未払であったりするケースにおいて、定期同額給与の要件を充足しなくなる可能性があるからである。したがって、定期同額給与につき一時的な資金繰りの都合で未払金計上をすること自体は問題ないが、短期的な返済をすべきことに留意すべきである。 平成18年度税制改正以前ではあるが、このようなリスクが具現化し、損金算入性が否定された事例がある(※1)。この事例では、役員報酬の一部を未払金として経理した上で、その未払金を一般の賞与支給時期に支払っていたことにつき、当該未払金に相当する金額は、臨時的な給与として役員賞与に該当すると示されている。 (※1) 国税審判所平成6年4月15日裁決。TAINS:J47-3-25。 (2) 事前確定届出給与の場合 これに対して、事前確定届出給与は所定の時期に確定した額の金銭等を支給することで恣意性が排除され、届出書を提出している場合に損金算入が認められるものである(【前回】等参照)。したがって、その一部でも未払金として計上があれば、全額が損金不算入となるのかどうかという問題が生じる。 この点、国税庁は、債務として確定したものであるから未払金計上も支給した金額に含まれるという考えも示しながら、未払を見込んで事前に決定することはあり得ないため確定した額とはいえないとし、「所轄税務署長へ届け出た金額が確定額であったのかどうか、更には、そもそも『その役員の職務につき所定の時期に確定した金額の金銭を支給する定め』が存していたのかどうかなどについて、個々に判断していくこととなろう」と説いている(※2)。 (※2) 国税庁「平成19年3月13日付課法2-3ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」における法基通9-2-14の解説箇所。 したがって、事前確定届出給与に係る未払金が資金繰りの一時的な悪化等の理由で偶発的に発生した場合、恣意性の排除等の観点から個別判断がなされ、是認される可能性も大いに考えられる(※3)。 (※3) 業績悪化改定事由について示す法基通9-2-13が、一時的な資金繰りの都合は該当しないと示していることからは、未払金を計上することで対応することが示唆されているようにも思われる。 なお、(1)及び(2)のいずれの場合においても、当該役員給与に係る社会保険や源泉所得税は、本来の額を支給日当日に源泉徴収しておくことは最低限必要であり、未払金計上に至った資金繰りの都合等の事情や理由を説明可能にしておくべきである。そして、当該未払金の速やかな解消が望まれることは当然である。 (3) 退職・分掌変更による役員退職給与の場合 役員退職給与は、法法34条1項において損金算入を認めない役員給与の対象から除かれているため、損金算入が可能である。したがって、【第3回】で触れた書類の具備・実質基準を充足し、不相当に高額でなければ損金算入自体は認められるという点で明快である。 問題となるのはその損金算入時期である。法基通9-2-28にて示されているため、以下参考に掲載する。 この通達に拠れば、債務確定主義に基づき、株主総会の決議等により支給すべき額が確定していれば損金算入が可能となり、同時に未払金計上も事実上可能となる。また、ただし書き以下において、損金経理を行った上で実際に支給した日の属する事業年度において損金算入が可能とも示されているため、分割して支払う都度、損金算入することも可能と解されている。したがって、役員退職給与を支給する場合にはいずれかの選択が可能である。なお、役員退職給与の未払金計上は、上記(1)及び(2)と同様、短期間での支払いが求められるだろう。 ここで、対象役員が実際に退職するのではなく、いわゆる分掌変更を理由として役員退職給与を支給する場合の取扱いを確認したい。分掌変更は対象役員が法人に留まるが、その多くは後継の指導に当たることが目的である。したがって、自身の退職金については法人の資金繰りに影響を与えたくないという想いから、未払金計上や分割支給が好まれる傾向にあるといえる。 分掌変更によるケースにおいて役員退職給与を支給する場合、まずは法基通9-2-32に依拠することとなるため、以下参考に記載する。 本通達の注書きのように、分掌変更の場合には、実際にキャッシュアウトした役員退職給与のみがその対象となることが原則であるが、資金繰り等の都合による一時的な未払金計上までを排除する趣旨ではないという国税庁の解説がある(※4)。 (※4) 国税庁・前掲(※2)における法基通9-2-32の解説箇所。 ここで、分掌変更役員への退職給与の分割支給については、法基通9-2-28が「退職した役員」という文言となっているため、分掌変更役員に対しては適用がなく、分割支給する場合にただし書きが適用できないとも考えられる。この点、参考となるのが東京地裁平成27年2月26日判決である(※5)。当該事例は、分掌変更役員に対し、その都度損金経理をする形で複数の事業年度にかけ、2度にわたり役員退職給与を分割で支給した事例である。所轄税務署長は2度目の支給を賞与として更正処分等を行ったが、裁判所は、法基通9-2-28は、実質的には退職したと同様の事情があると認められる場合も含まれることを示し、いわゆる公正処理基準に照らしても認められる旨を示している。 (※5) 税務訴訟資料265号順号12613、TAINS:Z265-12613。 この事例の意義は、分掌変更の場合でも法基通9-2-28のただし書き適用が認められることを明らかにしたことにある。したがって、分掌変更による役員退職給与を支給する場合においては、一時的な未払金計上や分割による支給も認められることとなる(※6)。 (※6) なお、分割支給をする場合の源泉徴収税額は、所基通183~193共-1、同201-3に拠ることとなる。 (了)
組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第3回】 「移転資産に対する支配の継続」 公認会計士 佐藤 信祐 5 移転資産に対する支配の継続 組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の多くが「移転資産に対する支配の継続」という概念で説明することができるが、このような包括的に説明できる概念は、結局のところ何も説明していないことが多く、「移転資産に対する支配の継続」についての下位概念がそれぞれ必要になってくる(※1)。 (※1) 佐藤信祐「組織再編税制における『移転資産に対する支配の継続』概念について」ビジネス法務18巻4号143-148頁(中央経済社、平成30年)。 税制適格要件のうち、支配関係内の適格組織再編成については「支配株主が事業を行う実態の継続」、共同事業を行うための適格組織再編成については「両当事者が事業を行う実態の継続」を下位概念として位置づけることができる(※2)。 (※2) 佐藤前掲(※1)144頁、青木孝徳ほか『平成19年版改正税法のすべて』271頁(大蔵財務協会、平成19年)参照。 これに対し、完全支配関係内の適格組織再編成については、完全支配関係内の資産の譲渡に対して、支配株主による資産に対する支配が実質的に継続していることを理由として、平成22年度税制改正により譲渡損益の繰延べ(法法61の13)が導入されたことを考えると、「支配株主が事業を営む実態の継続」として捉える必要はなく、「支配株主による資産に対する支配の継続」として捉えれば足りると思われる(※3)。もちろん、平成22年度税制改正により導入された譲渡損益の繰延べについても、「支配株主による資産に対する支配の継続」を下位概念として位置づけることができる。 (※3) 平成22年度税制改正前の事件であるが、東京高判令和元年12月11日TAINSコード:Z888-2287(TPR事件)では、従業者従事要件及び事業継続要件という具体的要件を緩和しただけであって、基本的な理念からすれば、完全支配関係内の適格合併であっても、事業単位の移転が必要であると判示している。本判決は、平成22年度税制改正における適格現物分配(法法62の5)、残余財産の確定に伴う繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)、事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資又は適格現物分配に対する繰越欠損金の使用制限及び特定保有資産譲渡等損失額の損金不算入の特例計算(法令113⑤~⑦、123の9⑨~⑪)と明らかに整合していないことから、平成22年度税制改正後の事件には影響を与えないと考えられる(拙稿「〈検証〉TPR東京地裁判決」「〈検証〉TPR東京高裁判決」参照)。 みなし共同事業要件については、グループ内の適格組織再編成の要件を満たしつつ、共同事業を行うための適格組織再編成の要件を満たすものについて、繰越欠損金の引継制限・使用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金不算入(法法57③④、62の7)を課さないようにするために導入された概念であることから(※4)、「両当事者が事業を行う実態の継続」を下位概念として位置づけることができる。 (※4) 経済団体連合会経済本部税制グループ『新しい企業組織再編税制』53頁(税務研究会出版局、平成13年)。 平成19年度税制改正により導入された三角組織再編成に係る金銭等不交付要件の緩和については、吸収合併を例に挙げると、被合併法人の株主が合併親法人株式を取得すれば、合併親法人を通じて合併法人に移転した資産に対する支配を継続することができると説明されている(※5)。たしかに、共同事業を行うための組織再編成であれば、そのような説明も可能なのかもしれないが、支配関係内の組織再編成を行った場合には、合併親法人が合併法人及び被合併法人の両方を支配していることから、被合併法人の少数株主に対して合併親法人株式を交付することが、移転資産に対する支配の継続に影響を与えるとは思えない。 (※5) 青木ほか前掲(※2)272頁。 これに対し、平成29年度税制改正による金銭等不交付要件の緩和により、合併法人が被合併法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を有する場合には、金銭等不交付要件が課されないことになった。すなわち、第1回で解説したように、グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、グループ内の適格組織再編成のすべてに対して金銭等不交付要件を緩和してしまえば、三角組織再編成の議論は共同事業を行うための組織再編成のみとなるため、「被合併法人の株主による合併親法人を通じた合併法人に移転した資産に対する支配の継続」を下位概念として位置づけることができるようになる。 平成29年度税制改正により導入されたスピンオフ税制については、「グループ最上位の法人(支配株主のない法人)の実質的な支配者はその法人そのものであり、その法人自身の分割であるスピンオフについては、単にその法人が2つに分かれるような分割であれば、移転資産に対する支配が継続している」と説明されている(※6)。 (※6) 藤田泰弘ほか『平成29年度税制改正の解説』317-318頁(国立国会図書館HP、平成29年)。 この点については、かなり強引な解釈であり、あまり賛同したくはないが、「最上位の法人による移転資産に対する支配の継続」を下位概念として整理することになると思われる。しかしながら、本来であれば、スピンオフ税制は、租税特別措置法に規定されるべきものだったと考えられる。 そして、平成29年度税制改正により導入されたブート税制の制度趣旨として、吸収合併を例に挙げれば、少数株主に対して金銭等が交付されたとしても、被合併法人の支配株主である合併法人が株式の所有を通じて被合併法人の資産を支配する関係から当該資産が合併法人に引き継がれることにより直接に資産を支配する関係に変わっただけであることから、移転資産に対する支配が継続していると説明されている(※7)。 (※7) 藤田ほか前掲(※6)318頁。 もし、第1回で解説したように、グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、グループ内の適格組織再編成のすべてに対して金銭等不交付要件を緩和した場合には、金銭等が対価として資産が譲渡されたとしても、支配株主による資産に対する支配が実質的に継続していることを理由として、譲渡損益の繰延べ(法法61の13)が認められていることから、グループ内の適格組織再編成において金銭等不交付要件を課す必要がないという整理になろう。 このように、スピンオフ税制だけはうまく説明できないが、それ以外の概念については、グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、グループ内の適格組織再編成のすべてに対して金銭等不交付要件を緩和してしまえば、かなりすっきりした説明になると思われる。 * * * 次回では、無対価組織再編成について解説を行う予定である。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第13回】 「〔第1表の2〕出向社員・派遣社員がいる場合の従業員数の算定」 税理士 柴田 健次 Q A社の従業員及び役員に関する労働時間等の状況は、下記の通りとなります。 A社の会社規模を判定する場合における従業員数は、何人になりますでしょうか。 【従業員に関する事項】 【役員に関する事項】 A社の役員は、代表取締役、副社長、常務取締役の3名であり、いずれも職制上の地位を有する役員に該当します。 A 継続勤務従業員数は67人(40人+27人)、継続勤務従業員以外の従業員数は3.9人{(900時間+3,200時間+3,000時間)/1,800時間}となるため、70.9人で70人超の区分に該当することになります。 ◆ ◆ ◆ ① 従業員数の算定 非上場株式の会社規模判定における従業員数の算定は、次の算式により求めた人数となります(評価通達178(2))。 継続勤務従業員数とは、直前期末以前1年間においてその期間継続して評価会社に勤務していた従業員で、かつ、就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が30時間以上の従業員をいいます。 直前期末以前1年間の途中で入社した場合や退社した場合又は週30時間未満のアルバイト等の従業員については、従業員1人当たりの平均的な年間労働時間数を1,800時間として考え、継続勤務従業員以外の従業員の年間労働時間の合計時間数を1,800時間で除して計算します。 ◎ 従業員算定上の留意点 ② 出向中の者の判定(甲及び乙) 従業員は、原則として評価会社との雇用関係がある者を従業員に含むものとされています。甲はA社との間に雇用関係が継続してある者に該当しますので、継続勤務従業員としてカウントすることになります。 乙については、雇用関係が直前期において喪失していますが、直前期末以前1年間の間にA社との雇用関係がありますので、継続勤務従業員以外の従業員としてカウントされることになります。 ③ 派遣社員の判定 派遣社員はA社との間で雇用関係がありませんので、原則として従業員に含めないでカウントすることになりますが、派遣労働者も契約社員、アルバイト等と同様に勤務している実態もあることから、派遣社員を継続勤務従業員と継続勤務従業員以外の者に区分してカウントしても差し支えないこととされています。 上記の取り扱いについては、国税庁の質疑応答事例において、下記の通り解説がなされています。 (出典) 国税庁・質疑応答事例「従業員の範囲」 ☆実務上のポイント☆ 継続勤務従業員以外の従業員については、労働時間の集計が必要になりますので、会社へ従業員の時間集計を依頼することが重要となります。 (了)
相続税の実務問答 【第51回】 「遺言の無効を主張している相続人がいる場合の相続税の申告」 税理士 梶野 研二 [答] お姉様が、遺言の無効を主張していたとしても、あなたが有効な遺言であると判断したならば、遺言どおりに財産を取得したものとして、相続税の計算をして、申告をすべきです。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 無効な遺言 遺言は、遺言者の自由な最終的意思を確保するための制度です。しかしながら、遺言の内容が明らかにされるのは、遺言者の死亡後ですから、その時に遺言者の真意を直接確認することはできません。そのため、民法は、遺言者に慎重に意思表示をさせることにより、その遺言が遺言者の最終的意思であることを担保するとともに偽造を防止するために遺言には厳格な方式を求めており、民法に定められた方式に従っていない遺言は無効な遺言とされます。 また、遺贈など遺言による財産の処分については、民法の一般的な規定に従い無効や取消の問題が生じます。遺言者が財産を遺贈する内容の遺言書を作成していたとしても、その遺言を行った時に意思能力を欠いていたと認められれば、その遺贈は無効となります。 2 遺贈と相続税の申告 相続又は遺贈により財産を取得した者は、当該財産の価額を基に相続税の課税価格を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければなりません。この場合、相続財産の全部又は一部について分割が完了し、又は特定遺贈があったことにより特定の者に帰属することが確定している財産の価額は、その取得者の課税価格に算入されることとなります。 しかし、相続税の申告書を提出する場合又は相続税について更正若しくは決定が行われる場合において、被相続人の財産について特定遺贈の対象となっておらず、共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない財産があるときは、その財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとされています(相法55)。 特定遺贈をする旨の遺言が無効である場合には、その財産は相続人の共有状態にある財産となりますので、遺産分割によりその帰属を決めなければなりません。分割が完了するまでは、上記のとおり各共同相続人又は包括受遺者が民法の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算しなければなりません。 3 ご質問の場合 (1) お父様に認知症の兆候が見られたとのことですが、遺言書を作成した時にお父様が意思能力を欠いていたかどうかは俄かには判断できません。しかしながら、お父様の遺言が形式要件を具備しており、かつ、明らかに意思能力を欠いていたと認められない限り、遺言は有効であると推定すべきでしょう。そして、お父様の遺言書には、自宅建物などお父様の主要な財産はあなたに遺贈すると記載されていたとのことですから、あなたは、その財産を遺贈(特定遺贈)により取得したものとして相続税の申告をする必要があります。 なお、お姉様は、この遺言が無効であると主張されており、この主張に基づけば、お父様の遺産はあなたとお姉様との共有状態にあるということになりますから、相続税法第55条の規定に従い、あなたとお姉様とが民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分の割合(各2分の1)に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとなります。 お二人の主張が異なることから、あなたの相続税の申告とお姉様の相続税の申告とでは、同じ財産に重複して相続税が課されるという状態が生じてしまいます。仮に、将来、訴訟等の場でこの遺言が無効であることが確認された場合には、遺言書にあなたに遺贈すると記載されていた財産は分割が完了するまでは、お二人の共有となります。その結果、あなたが申告した相続税額が過大となれば、あなたは相続税の更正の請求をすることができます(相法32①、相令8②一)。 (2) 特定遺贈に係る受遺者は、その遺贈をいつでも放棄することができることとされます。したがって、あなたはお父様の遺言が有効なものであると考えていたとしても、姉妹間での争いを避けるために、特定遺贈の全部又は一部を放棄することができます。遺贈を放棄した財産は、未分割の状態にあることとなりますので、相続税の申告にあたっては、相続税法第55条の規定に従い、法定相続分により取得したものとして相続税の課税価格を計算することとなります。その後、お姉様との間で遺産分割が完了したならば、その分割結果に基づき、相続税の修正申告をし、又は更正の請求を行うこととなります。 (3) また、現時点では、お姉様は、遺言の無効を主張していますが、今後、お姉様から民法第1046条の規定に基づく遺留分侵害額の請求をされることも考えられます。遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金額が確定した場合には、あなたは相続税の更正の請求をすることができます(相法32①三)。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第20回】 「適格分割(完全支配関係)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は組織再編税制における「分割」に関する基本的な考え方を解説しました。今回からは数回にわたり各場合における適格分割の要件について整理していきます。今回は「完全支配関係」がある場合の適格分割の要件について確認します。 なお、完全支配関係の定義については、本連載の【第2回】を参照してください。 1 完全支配関係がある場合の適格分割の要件 完全支配関係がある場合の適格分割の要件は、次の3つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。 2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件には抵触しません。 以下で1つずつ確認していきましょう。 ① 剰余金の配当としての金銭 剰余金の配当として金銭その他の資産を株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ② 反対株主の買取請求に基づく対価としての金銭 買取請求に基づく対価として金銭その他の資産を分割に反対する株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ③ 1株未満の端株相当の金銭 分割で交付する分割承継法人株式に1株未満の端数が生じたために、その1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し、その代金を株主に交付したときは、1株未満の株式に相当する株式を株主に交付したのと同様であることから、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています(法令139の3の2②)。 ただし、交付された金銭が、交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的にその株主に対して支払う分割の対価であると認められるときは、分割の対価として金銭が交付されたものとして取り扱います(法基通1-4-2)。 ④ 分割承継親法人株式 分割法人の株主に分割承継親法人株式(※)を交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 (※) 「分割承継親法人株式」とは、分割の直前に分割承継法人と分割承継法人以外の法人との間にその法人による直接完全支配関係があり、かつ、分割後に分割承継法人とその法人(親法人)との間にその親法人による直接完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその親法人の株式をいいます。平成31年度税制改正前は直接保有に限定されていましたが、改正後は間接保有の分割承継親法人株式を対価として交付する場合についても適格分割となります(法令4の3⑤)。 なお、下図のように分割承継親法人株式を交付する分割を「三角分割」といいます。分割承継親法人株式の1株未満の端数相当の金銭についても④と同様に取り扱います(法令139の3の2②)。 3 完全支配関係継続要件 「完全支配関係継続要件」とは、完全支配関係がある法人同士の分割の場合に、再編後においても完全支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3⑥)。 (1) 当事者間の完全支配関係 ① 吸収分割の場合 (ア) 吸収分割(分割型分割)のうち、分割前に分割法人と分割承継法人との間に分割承継法人による完全支配関係があるものは、完全支配関係の継続は求められていません。 上図の場合、分割後の完全支配関係の継続は求められていません。 (イ) (ア)以外の吸収分割のうち、分割前に分割法人と分割承継法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係があるものは、分割後に分割法人と分割承継法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人による完全支配関係が継続することが求められます。 ② 新設分割の場合 (ア) 単独新設分割のうち、単独新設分割後に分割法人と分割承継法人との間に分割法人による完全支配関係があるものは、分割後に完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人による完全支配関係が継続することが求められます。 (イ) 複数新設分割のうち、分割前に分割法人と他の分割法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係があるもので、他方の分割法人が分割により交付を受けた分割対価の全部をその株主等に交付したときは、分割後に一方の分割法人と分割承継法人との間に一方の分割法人による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人Aと分割承継法人との間に分割法人Aによる完全支配関係が継続することが求められます。分割法人Aと分割法人Bとの間に分割法人Aによる完全支配関係の継続は求められていません。 (ウ) (イ)以外の複数新設分割のうち、分割前に分割法人と他の分割法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係があるものは、分割後に他方の法人と分割承継法人との間に一方の分割法人による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人Bと分割承継法人との間に分割法人Aによる完全支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 ① 吸収分割の場合 (ア) 吸収分割(分割型分割)のうち、分割前に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があるものは、分割後に同一の者と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、同一の者と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが求められます。同一の者と分割法人との間に同一の者による完全支配関係の継続は求められていません。 (イ) (ア)以外の吸収分割のうち、分割前に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があるものは、分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが求められます。 ② 新設分割の場合 (ア) 単独新設分割(分割型分割)のうち、単独新設分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があるものは、分割後に同一の者と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、同一の者と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが求められます。同一の者と分割法人との間に同一の者による完全支配関係の継続は求められていません。 (イ) (ア)以外の単独新設分割のうち、単独新設分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があるものは、分割後に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが求められています。 (ウ) 複数新設分割のうち、複数新設分割前に分割法人と他の分割法人との間に同一の者による完全支配関係があるものは、分割後に分割法人及び他の分割法人(分割対価の全部をその株主に交付したものを除く)並びに分割承継法人と同一の者との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の分割後は、分割法人Aと分割承継法人と同一の者との間に同一の者による完全支配関係が継続することが求められています。同一の者と分割法人B(分割対価の全部をその株主に交付したもの)との間に同一の者による完全支配関係の継続は求められていません。 4 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。 ◆完全支配関係がある場合の適格分割の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件により、原則、株式以外の対価を交付しないことが求められています。 完全支配関係継続要件がどの法人間で求められるものなのかを検討する必要があります。 按分型要件は分割型分割のみ求められます。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第37回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 6 法人税法22の2第4項・5項 (1) 法人税法22条の2第4項の概要 ア 時価による益金算入 法人税法22条の2第4項は次のとおり定めている。 法人税法22条の2第4項は、大雑把にいえば、資産の販売等に係る収益の額として、1項又は2項により益金の額に算入する金額について、時価ないし適正な価額であることを明らかにしている。 かような法人税法22条の2第4項は、同法22条2項について、資産の譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにした規定であると判示した南西通商株式会社事件の最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(民集49巻10号3121頁)を彷彿させる。 条文上は、資産の販売等に係る収益の額として益金の額に算入する額は、「その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額」とするとしている。法人税法22条の2第4項は、必ずしも契約金額(契約で定められた対価の額)ないし当該取引に係るインプットの金額を収益の額としているわけではないことが注目される。 法人税法22条の2第4項の主語である「益金の額に算入する金額」に対応する述語は、末尾の「相当する金額」である。「その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額」と「その提供をした役務につき通常得べき対価の額」の両方がこの「相当する金額」に掛かっていく。後者のみではない。よって、図で表すと次のようになる。 上述のとおり、法人税法22条の2第4項は、益金の額に算入される時価ないし適正な価額が、単にインプットとしての対価の額そのものではなく、アウトプットとしての譲渡した資産又は提供した役務に係る時価であることを明らかにしている。「流入」するものの“時価”そのものに着眼するのではなく、「流出」するものの“時価”に着眼するものであると言い換えてもよい。 すると、無償により資産を譲渡する場合、つまりインプットとしての対価の額が零の場合にも有償(時価)により資産を譲渡した場合と同様の益金算入額となり、無償取引と有償取引の公平が確保される。 従来から、資産の販売等に係る収益の額はアウトプットである資産又は役務の時価相当額で計上すべきであると解されていた。法文に明記されていなかったが、そのような解釈が支持されていた(本連載第8回参照)。この意味では、従来の解釈を法文で明記したものといえる。 いずれにせよ、例えば、法人税法22条の2第4項は、現実に収受する対価の額そのものに着目するものではないため、支払者側の支払能力等を考慮して時価を算定するような理解には結び付かない(後で見る法人税法22条の2第5項参照)という次なる議論が視界に入って来る。時価よりも高額で譲渡する場合における時価と実際の対価の額との差額については益金算入額に含まれないのか、という疑問も惹起されるが、条文操作はどうであれ、この場合にも法人税法22条2項でいう収益の額があるのは明らかであって、別段の定めがない限り、差額部分も当然に益金の額に算入される。 なお、法人税法22条の2第4項は、第1項と異なり、「目的物」の引渡しではなく、「資産」の引渡しの時における価額となっているが、このような文言の違いを採用した趣旨は必ずしも明らかではない。 イ 適用対象 法人税法22条の2第4項は収益の額の規定であるが、「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」(資産の販売等)に係る収益の計上時期の規律である第1項又は第2項の適用があるものに限定して適用される。「無償による資産の譲受けその他の取引」には適用がない。これは、法人税法22条の2第4項が「流出」するものの“時価”に着眼するものであるため「無償による資産の譲受け」には馴染まないためか、「無償による資産の譲受け」には収益認識会計基準の適用がないためか、という議論に発展する(この点については、本連載第13回も参照) かように、明文の定めができた「資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供」と未だ明文の定めのない「無償による資産の譲受け」に係る各収益計上額は、前者が「流出」するものの“時価”、後者が「流入」するものの“時価”に着眼する点で相違があるが、“時価”という共通項でくくることは可能である。ただし、文理解釈が選好される租税法領域において、前者に法人税法22条の2第4項という明文の定めができたことの影響は小さくない。同項の解釈論は同項の文言に縛られるからである。よって、今後も上記の共通項が維持されるかという論点が浮上する。 法人税法22条の2第4項は、「第1項又は第2項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額」について定めており、3項への言及はない。これは、3項については、同項自体が独立して適用されるというよりも、2項を通じた近接日基準による益金算入のために適用されるものであることに由来する(本連載第30回参照)。 (了)