〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第13回】 「退職した税理士との業務委託契約」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 枝廣 恭子 〔質 問〕 当事務所で勤務していた税理士が都合により退職することとなりました。長年勤務していたこともあって、担当していた顧客からの信頼も厚く、新たな担当者への引き継ぎができるまで、当面の間、一部の顧客を引き続き担当してもらいたいと考えています。 業務を委託する契約を締結しようと思いますが、どのような点に注意すればよいのでしょうか。 〔回 答〕 ➤ 守秘義務に関する条項、顧客の引抜防止のための条項、中途で業務が終了した場合の報酬に関する条項等を定めておくことが重要です。 ➤ 債権法の改正において、業務委託に関連する項目にも改正があったため、これまでに使用している業務委託契約書の内容を確認し、場合によっては改定を検討することも必要です。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 契約を締結する際の注意点 (1) 業務委託契約の類型 特定の業務を他の企業や個人に委託する業務委託契約は、実務において広く利用されている契約の形態であるが、法律上「業務委託契約」という類型の契約は存在しない。一般に業務委託契約と呼ばれているものは、契約の内容に応じて分類され、税理士(又は税理士法人)と外注先の税理士との間の契約は、税務代理といった法律行為が内容である場合は「委任型」の業務委託契約、その他の業務(法律行為以外の業務)を内容とする場合は「準委任型」の業務委託契約に該当する(民法643条、656条)。 そして、税理士と顧問先や顧客(以下「顧客等」という)との間でも委任契約又は準委任契約を締結するが、税理士が受任した業務を他の税理士に「再委任」をするには、委任者の承諾又はやむを得ない事情があることが必要である(民法644条の2第1項、656条)。 したがって、事務所に所属しない税理士に業務を外注することを検討する際は、顧客等との間の契約において再委任が許容されているか、あるいは再委任をする際に条件が付されているとして、その条件をクリアしているか(顧客等の承諾が必要である旨が規定されている場合はあらかじめその承諾を得ること)の確認が必要である。顧客等との契約に再委任に関する規定がなければ、法律の規定に則り、再委任をすることについて、原則として顧客等(委任者)の承諾を得ることが必要である。 (2) 守秘義務 税理士は、税理士法上、守秘義務を負っている(税理士法38条。「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は窃用してはならない。」)。また、顧客等との間の契約にも、守秘義務に関する条項が設けられているのが一般的である。 そして、外部の税理士に業務を委託する場合、必然的に顧客等の秘密情報を開示することとなる。仮に、顧客等との間の契約に再委託を許容するような条項が含まれていれば、その前提として再委託先に対する秘密情報の開示も含まれていると考え得る。他方で、再委任をする際には、法律と同様に承諾を得ることが求められている、あるいは再委任が禁止されているような契約の場合は、顧客から再委任の承諾を得るが、その際に、合わせて守秘義務を解除することについても十分に説明し、同意を得るべきである。 (3) 顧客の引抜防止対策 外注先の税理士との業務委託契約を終了した後に、あるいは場合によっては業務委託契約が継続している間に、外注先の税理士が顧客等を勧誘し、その結果として、顧客等が外注先の税理士との直接契約に切り替えてしまうおそれがある。そこで、外注先の税理士による顧客等の引抜きを防止するための条項を定めておくことが重要である。具体的には、引抜行為や勧誘行為、あるいは、委任元の税理士(税理士事務所)を誹謗中傷したり、その社会的評価を下げたりするような行為を禁止する条項を定めておく。 また、仮に契約に違反して引抜行為が行われた場合であっても、実際には顧客等を取り戻すことは難しく、損害賠償の問題となる場合が多いが、その場合も、損害額の算定や立証は困難である。そこで、一定の牽制の意味も含めて、損害賠償の予定額や計算方法を定めておく方法もある(ただし、あまりに高額な損害賠償の予定額を定める条項は無効と認定されるおそれがあるので注意が必要である)。 (4) 報酬の定め 民法の改正により、委任契約(準委任契約)が中途で終了した場合に、受任者に帰責事由がある場合であっても、履行の割合に応じて報酬を請求できることが明文化された(民法648条第3項)。したがって、外注先の税理士の責任によって業務委託契約が中途で終了した場合、たとえ契約には割合的に報酬を請求できる旨の規定がなくても、外注先の税理士は履行の割合に応じて報酬を請求することができる。そこで、中途で終了した場合の報酬の額について争いにならないよう、報酬の定め方について可能な範囲で基準を定めて明確にしておくとよいであろう。 なお、成果に対して報酬を支払う成果型報酬の方式で契約を締結した場合で、業務が中途で終了して成果が一部分であったとしても、割合的な報酬の支払いを請求できるので注意が必要である(民法648条の2第2項)。 2 民法改正に合わせた業務委託契約書の見直し 上記のとおり、委任契約(準委任契約)に関連する条文の改正もなされたので、これを機会に、従前の業務委託契約書を見直す、あるいは新たに締結する際には、関連する条項を改定するとよい。 (了)
《速報解説》 社債の利子について「同族会社との間に法人を介在させた場合」も総合課税(累進税率)の対象に ~令和3年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 利子所得は、利子の支払を受ける際、利子所得の金額に一律15.315%(他に地方税5%)の税率による所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、これにより課税関係が完結する源泉分離課税の対象とされている。また、特定公社債(※)の利子については、その支払を受ける際に税率15.315%(他に地方税5%)の税率で所得税・復興特別所得税が源泉徴収されるが、申告分離課税により確定申告をして源泉徴収税額の還付を受けることができる。 (※) 特定公社債とは、国債、地方債、外国国債、公募公社債、上場公社債、平成27年12月31日以前に発行された公社債(同族会社が発行した社債を除く)等の一定の公社債や公社債投資信託等をいう。 このように社債の利子については原則分離課税とされている。 ただし、特定公社債以外の公社債の利子で、その利子の支払をした法人が同族会社に該当するときにおける、その判定の基礎となる一定の株主(「特定個人」という)及びその親族等が支払を受けるものについては、源泉徴収(上記と同様、国税15.315%・地方税5%)が行われた上で、総合課税(累進税率が適用され、最高で国税45.945%・地方税10%)の対象となる(措法3①四、措令1の4③)。 これは、少数株主による会社支配が可能な同族会社について、本来、総合課税(累進税率)が適用されるべき所得(役員報酬等)を、源泉分離課税(一定税率)の適用を受ける利子所得に転換することによって税負担を軽減する事例がみられたため、これを適正化する観点から、平成25年度税制改正によって上記の取扱いとされた(財務省「平成25年度 税制改正の解説」P86)。 ここで、総合課税の対象となる特定個人及びその親族等(措令1の4③)には法人が含まれていないことから、下図のように個人が同族会社との間に、その個人が支配する法人を介在させることで、総合課税の対象となる所得を分離課税へ転換することが容易となる。 このため、令和3年度税制改正大綱では、同族会社が発行した社債の利子で、その同族会社の判定の基礎となる株主である法人と特殊の関係のある個人及びその親族等が支払を受けるものについて、総合課税の対象とされることが明記された。また、個人及びその親族等が支払を受けるその同族会社が発行した社債の償還金についても、総合課税の対象とされる。 なお上記の「法人と特殊の関係のある個人」とは、法人との間に発行済株式等の50%超の保有関係がある個人等をいう。 この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受けるべき社債の利子及び償還金について適用される。 (了)
《速報解説》 緊急事態宣言の発令に伴い、 ⾦融庁から有価証券報告書等の提出期限の取扱いが公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年1月8日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2021(令和3)年1月7日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことに伴うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融庁の公表 次のことについて記載している。 (了)
《速報解説》 コロナ禍による令和2年7月~12月分の路線価等補正対応、 大幅な地価下落が予想される地域を1月末に公表、 対象地に係る贈与税申告の個別の期限延長を認める Profession Journal編集部 新型コロナウイルス感染症の感染拡大による地価下落を考慮した路線価の補正判断については、既報のとおり、令和2年1月から6月までの相続等については補正を行わない旨、昨年10月に国税庁が明らかにしていたが、続いて同年7月から12月分に係る対応方針が明らかにされている。 上記によると、「令和2年7月から9月まで」の期間への対応方針については「本年1月下旬」に公表が予定されており、「令和2年10月から12月まで」の期間については「本年4月」に公表が予定されている。ただし、令和2年分の贈与税の申告・納付期限は令和3年3月15日となっているため、令和2年10月から12月の贈与分について、4月に対象地域に関する補正の方針が示されたとしても、すでに期限を過ぎてしまっている。 このため国税庁は、令和2年10月から12月までの期間については、先行して1月下旬に「路線価等が時価を上回る(大幅な地価下落の)可能性がある地域」を公表したうえで、対象地域に所在する土地等の贈与を受けた者は、個別の期限延長により、その贈与税の申告・納付期限について、上記本年4月の公表日から2ヶ月以内の申告・納付を認めるとした(令和2年1月から9月までの間に贈与を受けた場合の申告・納付期限は、令和3年3月15日で変更なし)。 なお、路線価等の補正の公表前に申告を行い、その後、路線価等の補正の公表を受けて改めて計算した結果、納付すべき税額が過大であったことが判明した場合は、更正の請求が認められる。また、上記大幅な地価下落があるとして1月下旬に公表された地域以外で、4月に、新たに路線価等が時価を上回る地域として公表された場合は、その地域に所在する土地等の贈与を受け申告された者についても更正の請求をすることができる。 (了)
2021年1月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.401を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.96- 「2021年度税制改正、キャリードインタレストの取扱いに注目」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 昨年暮れに決定された2021年度(令和3年度)税制改正大綱は、わが国が現在直面する3つの課題、「ポストコロナの経済再生」「経済のデジタル化」「グリーン社会の実現」について、租税特別措置でそれなりに対応したもので、一定の評価が与えられよう。 今回取り上げたいのは、国際金融都市に向けた税制上の措置として、役員給与(業績連動給与)損金算入要件の弾力化や、ファンドマネージャーが運用成果に応じファンドから受け取る利益(キャリードインタレスト)の分配について課税上の解釈を明確化することが盛り込まれたことである。これらは香港問題をにらんでの措置である。 * * * キャリードインタレストとは、ファンドマネージャーが、出資持分を有するファンド(株式譲渡等を事業内容とする組合)から、運用成果に応じてその出資割合を超えて受け取る組合利益の分配である。 その課税方式については、原則「役務提供の対価」として総合課税(累進税率、国税・地方税計で最高55%)の対象となるのだが、一定の場合には、「株式譲渡益等」として分離課税(国税・地方税計で一律20%)の対象となる。その基準を、金融庁が国税庁に文書で照会することにより明確化する。つまり税制改正ではなく、解釈の明確化と位置付けられている。 譲渡益となる具体的要件については、ファンドマネージャーがファンドの組合員であること(組合員として組合に金銭を出資)、キャリードインタレストは実現益で構成されること(評価益は含まれない)、組合利益の分配割合に「経済的合理性」があること(利益の配分が恣意的でないこと)、一般的な商慣行等に基づいていること(一般的な分配割合は、ファンドマネージャー20%:その他の投資家80%)が例示されている。 * * * 筆者は、この問題を考えるにあたって、3つの視点が重要と考える。 1点目は、所得を勤労所得と金融所得に二分したうえで、勤労所得には通常の累進税率を課し、金融所得には分離して一定率(勤労所得の最低税率)で課税するという二元的所得税への理解である。 二元的所得税は、1990年代にスウェーデンなどの北欧所得で考えられ導入された税制であり、公平性と効率性のバランスをとるという考え方に基づいている。効率性とは、資金移動の自由度の高い金融所得に累進税率を課すと、金融自由化の下で資本が国外に逃避してしまうため、これを防止したいという考え方である。わが国でも、利子・配当・株式譲渡益の大部分が分離課税となっており、事実上、二元的所得税を採用しているが、これも同様の考え方によるものである。 したがって、キャリードインタレストを分離課税とするには、金融所得として位置付けることになるので、前述した要件が必要ということになる。 2点目に、累進税率である勤労所得を、低率(国税・地方税計で20%)の分離課税の適用となる金融所得に「転換」する租税回避を防ぐ必要があるということだ。これが前述した「経済的合理性」のある分配かどうかという要件である。一般的な商慣行に基づく恣意的でない分配が必要ということだ。 最後に、格差拡大の叫ばれる今日、キャリードインタレストを含む金融所得の税率が、現在の20%のままでよいのかという問題がある。この問題について(与党)税制改正大綱では、「基本的考え方」の中で「所得再分配機能の回復の観点からの個人所得課税の検討を進める」と記されており、今後議論されることになると思われる。 このようにキャリードインタレストの課税問題は、単なる香港問題というより、わが国の税制の本質に迫る大きな問題を内包しているのである。 (了)
令和2年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「令和2年分の申告から適用される改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 -はじめに- 令和2年分の確定申告の受付は、令和3年2月16日(火)から3月15日(月)まで行われる。還付申告は、令和3年2月15日(月)以前でも行うことができる。 なお、e-Taxを利用する場合は、令和3年1月4日(月)から3月15日(月)の間であれば、メンテナンス時間(3月15日を除く毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き、24時間(※)申告書を送信することが可能である。 (※) 1月4日(月)は8時30分から、3月15日(月)は24時まで。 今回から3回シリーズで、令和2年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回は、令和2年分の申告から適用される改正事項のうち次の①から⑥を取り上げる。 なお、確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。 【1】 給与所得控除と公的年金等控除の見直し (1) 給与所得控除の見直し 令和2年分以後の所得税においては、給与所得控除額が一律10万円引き下げられ、上限額も給与等の収入金額850万円に適用される195万円に引き下げられた(所法28③)。 〈参考〉令和元年分以前と令和2年分以後の給与所得控除額 (2) 公的年金等控除の見直し 公的年金等控除についても、次のとおり見直しが行われている(所法35④)。 《公的年金等控除の見直し》 令和元年分以前と令和2年分以後の公的年金等控除額の比較については下記をご参照いただきたい。 【2】 配偶者、扶養親族等の所得要件の調整 給与所得控除と公的年金等控除の引下げに伴い、扶養親族等の合計所得金額要件の調整が行われている(所法2①三十二~三十四)。 下表の「備考」欄に記載しているとおり、給与の収入金額でみると改正前後で金額は変わっていない。 (※) ここでは省略しているが、公的年金等についても収入金額でみると改正前後で金額は変わらない。 【3】 基礎控除の見直し 給与所得控除額と公的年金等控除額が一律10万円引き下げられた一方、基礎控除の控除額は一律10万円引き上げられた。ただし、その年分の合計所得金額が2,400万円を超えると段階的に引き下げられ、合計所得金額が2,500万円を超えるとゼロとなる(所法86①)。 令和元年分以前と令和2年分以後の基礎控除の控除額を比較すると、次のとおりである。 【4】 所得金額調整控除の創設 (1) 所得金額調整控除とは 【1】の給与所得控除と公的年金等控除の見直しにより、次の①又は②に該当する人は、見直し前と比べて課税の対象となる所得金額が増加する。 (※) 2つの所得の合計額が10万円を超える場合。 ①に該当する場合には子育て等に対する配慮から、また②に該当する場合には給与所得控除及び公的年金等控除の見直しにより負担増が生じないようにするため、新たに所得金額調整控除が措置された。 所得金額調整控除には、①子ども等を有する場合の調整と②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整の2つがある(措法41の3の3①②)。 (2) 子ども等を有する場合の調整 給与等の収入金額が850万円を超える居住者のうち、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当するものは、給与所得の金額から下記[調整額]の金額が控除される(措法41の3の3①)。 (3) 給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整 給与と公的年金等に係る雑所得の両方を受給している居住者のうち、給与所得と公的年金等に係る雑所得の合計額が10万円を超えるものについては、給与所得の金額(※)から下記[調整額]の金額が控除される(措法41の3の3②)。 (※) 上記(2)の適用がある場合には、(2)の[調整額]を控除した後の金額。 なお、調整額の計算例等については、次の拙稿をご参照いただきたい。 【5】 ひとり親控除の創設と寡婦(寡夫)控除の見直し (1) 見直しの概要 令和2年度税制改正により、婚姻歴に関係なくすべてのひとり親を対象とするひとり親控除が創設された。ひとり親控除の創設により、寡夫控除及び特別の寡婦に対する加算は廃止され、男性のひとり親と女性のひとり親は同じ扱いとなった(所法2①三十一、81)。 また、寡婦の範囲からひとり親が除かれるとともに、すべての寡婦に所得制限(合計所得金額500万円以下)が設けられた(所法2①三十)。 (2) ひとり親控除とは ひとり親控除とは、居住者がひとり親に該当する場合に、その年分の総所得金額等から35万円を控除する制度である(所法81)。 ひとり親とは、次の要件を満たす者をいう(所法2①三十一)。 (※1) 総所得金額等48万円以下の子(他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く)。 (※2) 住民票に一定の記載がされている事実婚の夫や妻をいう(所規1の3)。 ◇ 納税者本人が世帯主である場合:同一世帯に属する者の住民票に、世帯主との続柄が未届の夫その他世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる記載がされた者。 ◇ 納税者本人が世帯主ではない場合:その者の住民票に、世帯主との続柄が未届の妻その他世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる記載がされているときの世帯主。 (3) 寡婦控除の見直し 見直し後の寡婦とは、次の要件を満たす者でひとり親に該当しないものをいう(所法2①三十)。 上記(ア)と(イ)のいずれにおいても、合計所得金額500万円以下と事実婚の状況にないことの2つが要件とされていることに注意しておきたい。 【6】 その他の改正項目 (1) 青色申告特別控除 正規の簿記の原則に従って取引を記録している者に係る青色申告特別控除の控除額が55万円(改正前65万円)に引き下げられた(措法25の2③)。 ただし、次の要件のいずれかを満たすものの控除額は65万円となる(措法25の2④、措規9の6②~⑤)。 《控除額65万円の要件》 (2) 特定支出控除の拡充 特定支出の範囲に、勤務する場所を離れて職務を遂行するために直接必要な旅費等で通常要する支出が加えられた(所法57の2②二、所令167の3②)。 また、単身赴任者の帰宅旅費について、1ヶ月に4往復を超えた旅費を対象外とする制限が撤廃され、帰宅に要する自動車等の使用に係る燃料費及び有料道路の料金が加えられた(所令167の3⑤)。 * * * 次回(第2回)は、新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律における主な措置と、令和2年分から一部変更されている確定申告書の様式について解説を行う予定である。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第11回】 「居住用家屋の跡地の一部の譲渡」 -居住用家屋の敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、30年前に取得した家屋とその敷地300㎡を居住の用に供していましたが、その家屋が老朽化したことなどから、昨年1月、その家屋を取り壊し、同年3月、その家屋と一体として利用してきた庭部分100㎡を売却しました。 その売却にあたっては多額の譲渡損失が発生し、銀行で住宅ローンを組んで、残地部分に新たな家屋を取得し、昨年12月から居住の用に供しています。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡ついて、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 居住用家屋を取り壊し、その家屋の敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合において、その譲渡した土地等が次に掲げる要件の全てを満たすときは、居住用家屋の敷地の一部の譲渡であっても、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます(措通41の5-5(居住用土地等のみの譲渡)、措通41の5-9(居住用家屋の敷地の一部の譲渡))。 ただし、その家屋を引き渡して、その土地等を譲渡している場合には、特例の適用を受けることができません。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例25】 「事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性と寄附金課税」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関東地方でいくつかの業態の飲食店チェーンを経営する株式会社Aにおいて、経営企画室長をしております。これまで当社グループは、創業の居酒屋チェーンを中心に、M&Aにより順調に事業を拡大してきましたが、中には伸び悩む業態もあり、特にファーストフード系の子会社であるB・Cの2社の業績が低迷しておりました。当該子会社の親会社であるA社は、これまで役員の派遣や低利融資などにより援助してきましたが、同業者との激しい競争に打ち勝てず、赤字体質からの脱却が困難な情勢が続いていました。 そこで、親会社であるA社は、子会社B社及びC社の2社の事業をグループ会社のD社に事業譲渡を行うとともに、当該子会社(いずれも事業譲渡後に清算)に対する金銭債権について債権放棄を行い、その金額をA社の法人税の申告上、損金に算入しました。法人税法には債権放棄や貸倒損失の損金性に関する特定の規定はないことから、当該金額が損金に算入されるのか会社内で議論はありましたが、A社を創業したオーナー社長による「債務免除しないとやっていけない会社への債権放棄なんて、わが社の損金じゃなかったら何なんだ!」という鶴の一声で、全額損金算入したというところです。なお、当該債権放棄は、子会社2社の特別清算手続において、A社と子会社2社との間の契約により行われたものです。 ところが、先日税務調査でA社を訪れた国税局の調査官は、A社が行った子会社2社に対する債権放棄は法人税基本通達の定める要件を満たしていないことから、損金算入可能な貸倒損失ではなく、むしろ法人税法第37条に規定される寄附金に該当するものと指摘してきました。社長はその主張に対して大層ご立腹で、最高裁まで争うと息巻いておりますが、私としましては勝ち目のない争いは避けるべきと考えております。社長をどのように説得すべきか、アドバイスをお願いします。 〇 取引関係図 【A】 法人税法には、確かに債権放棄や貸倒損失の損金性に関する規定はありませんが、債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえます。しかし、債権が消滅したという事実の認定は容易ではなく、実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられます。この場合、法律上の金銭債権が消滅した場合の貸倒れは、法人税基本通達9-6-1に照らして判断することとなりますが、本件のように、当該債権放棄が子会社2社の特別清算手続において、A社と子会社2社との間の契約により行われたものであるときには、個別和解によるものと解され、特別清算協定の認可の決定によるものではないことから、通達の定める要件には該当しないものと考えられます。 また、寄附金に該当するか否かについては、子会社の財務状況に関し単に赤字体質からの脱却が見通せないというだけでは不十分で、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いと考えられることから、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当するものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 債権放棄の損金性 取引先等に対する(金銭)債権が回収できない場合には、一般に、当該債権が法的に消滅したものとして貸倒損失を計上することとなる。問題は、どのような場合に貸倒損失を計上するのかの判断基準であるが、法人税法にはそれに関する明文の規定は存在しない。しかし、法人税法第22条第3項で規定される損金は、原則としてすべての費用及び損失を含む広い観念と理解すべきものと解されていることから(※)、債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえるだろう。 (※) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)342-343頁参照。 しかし、貸付債権といった金銭債権が消滅したり回収不能となったという事実の認定は、実際には容易ではなく、 実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられる。法人税基本通達では、このような貸倒れの損金算入につき、以下の区分により判断するとしている。 ① 法律上の金銭債権の消滅(法基通9-6-1) 更生計画認可の決定(会社更生法)又は再生計画認可の決定(民事再生法)があった場合や、特別清算に係る協定認可の決定(会社法)があった場合、債権者集会の協議決定で合理的なもの、公正な第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で合理的なものは、それらに基づき切り捨てられた金額が貸倒損失として損金の額に算入される。 同様に、債務者の債務超過が相当期間継続し、弁済不能であるため、書面により明らかにされた債務免除額も貸倒損失として損金の額に算入される。 当該通達の趣旨は、後掲東京地裁平成29年1月19日判決・税資267号-13(順号12962)(TAINSコード:Z267-12962)によれば、 とされている。 なお、①に該当する場合については、「損金経理」要件が付されていない。したがって、法人がその確定した決算で上記金額に関して貸倒処理を行うか否かに関わらず、損金に算入されることとなる。 ② 回収不能の金銭債権の貸倒れ(法基通9-6-2) 債務者の資産状況や支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合に、その金額を貸倒れとして損金経理することができる。なお、貸倒れとして損金経理することができるのは、担保物があるときはその処分後、保証債務は履行後であることが要件とされている。 ②に該当する場合は、法人が債務者に対する金銭債権の全額が回収できないと認識したときに、原則として損金経理を行うことで貸倒処理を行うというものである。ただし、あくまで損金経理することが「できる」のであり、損金経理が条件ではないという点には留意すべきであろう。 ③ 売掛債権の特例(法基通9-6-3) 金銭債権のうち売掛債権等については、債務者との取引停止後1年以上経過等の要件に該当した場合、その金額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、それが認められる。 (2) 事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性が争われた裁判例 それでは本件のように、事業譲渡に伴って行った債権放棄については、貸倒損失として損金算入ができるのであろうか。そのような場合における貸倒損失該当性が争われた裁判例(東京高裁平成29年7月26日判決・税資267号-89(順号13038)、TAINSコード:Z267-13038、控訴棄却・確定)があるので、以下で検討したい。 ① 事案の概要 本件は、控訴人が、控訴人の子会社であるB株式会社に対して有していた貸付金等債権3億5,155万3,294円(ただし、正確な合計額は3億5,201万7,720円)につき、B社が仙台地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において、同裁判所の許可を得て、平成22年3月1日、前記債権を放棄する旨の契約を締結し、控訴人の別の子会社である株式会社Cに対して有していた短期貸付金債権6億4,277万7,926円について、B社が青森地方裁判所に対して申し立てた特別清算手続において、同裁判所の許可を得て、同年3月3日、前記債権を放棄する旨の契約を締結し、前記各債権の放棄をし、放棄されたB社に対する3億5,201万7,720円及びC社に対する6億4,277万7,926円の各債権の合計額9億9,479万5,646円を「その他の特別損」勘定として損金の額に算入し、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度に係る法人税の確定申告をしたところ、青森税務署長(処分行政庁)から、本件債権放棄額は本件子会社2社に対する法人税法第37条の寄附金の額に該当するとして、法人税の更正処分を受けた。 そこで、控訴人は被控訴人に対し、本件処分のうち、控訴人主張の所得金額マイナス11億8,294万6,785円を超える部分及び控訴人主張の繰越欠損金額マイナス11億8,294万6,785円を下回る部分の取消しを求める事案である。 ② 本件の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 (ア) 法基通9-6-1(4)(債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債務の弁済を受けることができないと認められる場合の債務免除額)について (イ) 法基通9-6-1(2)(特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額に係る貸倒れ)について 争点2 (ア) 法基通9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)について (イ) 法基通9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)について ④ 本裁判例からいえること 本裁判例の前提事実として、本件債務放棄は、原告・控訴人の臨時取締役会の決議において決定され、特別清算手続における「個別和解」によるものであり、裁判所の特別清算協定認可の決定を経たものではないと認められる点が重要である。このことから一審の東京地裁平成29年1月19日判決・税資267号-13(順号12962)(TAINSコード:Z267-12962)において裁判所は、本件債務放棄は、特別清算に係る協定の認可の決定を要件とする法人税基本通達9-6-1(2)の適用を受けるものではないと判断した。また、子会社2社の資産状況や支払能力等の債務者側の事情に照らし、直ちに本件債権放棄に係る債務の全額が回収不能であったとはいい難く、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債務の弁済を受けることができないと認められる場合を適用要件とする法人税基本通達9-6-1(4)の適用を受けるものでもないため、損金算入を認めることはできないとした。 また、寄附金に該当するか否かについては、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いとし、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当しないものとは認められないと判断したところである。 上記判断は基本的に控訴審でも維持されている。 (3) 本件への当てはめ 確かに法人税法には、債権放棄や貸倒損失の損金性に関する規定はないが、(金銭)債権が消滅したという事実が認定できれば、その金額は法人税法第22条第3項第2号にいう損金の額に算入すべき金額にほかならないといえる。しかし、債権が消滅したという事実の認定は容易ではなく、 実務上、法人税基本通達の定める基準に該当するかどうかで判断するケースが大半であると考えられる。 この場合、法律上の金銭債権が消滅した場合の貸倒れは法人税基本通達9-6-1に照らして判断することとなるが、本件のように、当該債権放棄が子会社2社の特別清算手続において、当事者であるA社と子会社2社との間の契約により行われたものであるときには、個別和解によるものと解され、特別清算協定の認可の決定によるときのような、合意内容の合理性が客観的に担保される状況の下での合意がされたものとはいえないことから、通達の定める要件には該当しないものと考えられる。 また、寄附金に該当するか否かについては、子会社の財務状況に関し単に赤字体質からの脱却が見通せないというだけでは不十分で、本件債権放棄が経済的合理性の観点から特段の必要性があったとは認め難いと考えられることから、法人税基本通達9-4-1にいう「相当な理由」があったとはいえず、寄附金に該当するものと考えられる。 (了)