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Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第17回】「〔第4表〕複数事業の場合の業種区分の判定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第17回】 「〔第4表〕複数事業の場合の業種区分の判定」   税理士 柴田 健次   Q A社の直前期末以前1年間の取引金額の内訳は下記の通りとなりますが、この場合における類似業種比準価額の計算で使用する業種目は、取引金額が最も多い不動産賃貸業の業種で考えればいいのでしょうか。 【A社の直前期末以前1年間の取引金額の内訳】 A 類似業種比準価額の計算で使用する業種目の判定は、下記の①から③の手順により行います。取引金額のうちに2以上の業種目がある場合において、業種目別の取引金額の割合が50%を超える業種目がない場合には、評価通達181-2(1)~(5)により業種目を決定するため、本問の場合には、中分類である「その他の宿泊業・飲食サービス業(業種目番号104)」に該当することになります。なお、業種目が中分類である場合には、その業種目の属する大分類も選択することができますので、「宿泊業・飲食サービス業(業種目番号99)」を選択することもできます。 一方で、第1表の2の会社規模の判定をする場合の業種区分(「卸売業」、「小売・サービス業」、「卸売業・小売・サービス業以外」)は、取引金額が最も多い金額により判定を行います(評価通達178(4))ので、不動産賃貸業の「卸売業、小売・サービス業以外」の業種区分により判定することになります。 【類似業種比準価額の計算で使用する業種目の判定手順】  ◆  ◆  ◆ ① 直前期末以前1年間の取引金額を日本標準産業分類に基づき区分 A社の直前期末以前1年間の取引金額を「日本標準産業分類(平成25年10月・第13回改定)」に基づき区分すると、下記の通りとなります。   ② 対比表を基に業種目を確認 「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)」の区分に当てはめて業種目を確認します。業種目の確認を行った後に第1表の1を下記の通り記載します。 【第1表の1(一部抜粋)】 【日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)(一部抜粋)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ③ 業種目を決定 業種目別の取引金額の割合が50%を超える業種目がありませんので、評価通達181-2(1)~(5)により判定します。上記の業種目のうち、旅館、ホテルと喫茶店は同じ大分類(宿泊業、飲食サービス業)に該当し、類似する中分類に属しますので、大分類の中にある「その他の宿泊業・飲食サービス業(業種目番号104)」を使用することになります。類似するかしないかについては、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」(下記参照)の分類の一番下に「その他の〇〇業」があるか否かで判断することになります。 【類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等(令和2年分)(一部抜粋)】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 「その他の〇〇」の〇〇については、包括的な例示を意味します。例えば、「飲食店その他の宿泊業、飲食サービス業」とある場合には、「宿泊業、飲食サービス業」の1つの例として「飲食店」が該当することを意味するため、「飲食店」と「宿泊業、飲食サービス業」は類似する中分類の業種目に該当することになります。 なお、納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目、類似業種が中分類による業種目にあってはその業種目の属する大分類の業種目を、それぞれ類似業種とすることができる(評価通達181)とされていますので、大分類である「宿泊業・飲食サービス業(業種目番号99)」を選択することもできます。   ☆実務上のポイント☆ 評価会社の取引金額を日本標準産業分類の区分ごとに分けることが実務上のポイントとなります。 (了)

#No. 390(掲載号)
#柴田 健次
2020/10/15

相続税の実務問答 【第52回】「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告」

相続税の実務問答 【第52回】 「遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告」   税理士 梶野 研二   [答] 未分割財産については、分割済みの財産の価額と合わせて法定相続分相当額となるように分割したものとして各相続人の相続税の課税価格を計算します。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産が未分割の場合の相続税の申告 相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算することとされています(相法55)。   2 遺産の一部が未分割の場合の課税価格の計算 遺産の全部が未分割である場合には、当該財産を各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除きます)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することに疑義はありません。 しかしながら、遺産の一部が分割され、残りの遺産が未分割である場合には、相続税の課税価格の計算方法について、次の2つの方法が考えられます。 【例】 相続人は、甲乙丙の3名で、法定相続分が各人3分の1とします。 遺産総額は150で、一部分割により甲が15、乙が20、丙が25の財産を取得しました。 この場合の、①及び②の計算は、次のとおりとなります。 未分割財産について遺産分割が行われ、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合には、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、相続税の修正申告書を提出し、若しくは相続税法第32条第1項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることができることとされています(相法55ただし書き)。したがって、上記①又は②のいずれの方法を採用したとしても、いわば分割が完了するまでの間の仮計算ともいえますので、納税者の選択に委ねるということも考えられるところです。 しかしながら、仮計算とはいえ、その結果、算出された相続税額は各共同相続人又は包括受遺者が納付しなければならない税額であり、共同相続人間又は包括受遺者との間に争いがあるため遺産分割ができないようなケースも少なくないことから、共同相続人間及び包括受遺者との間の公平な扱いが求められます。相続財産の一部が分割されたとしても、そのことによって、相続財産全体に対する各共同相続人又は包括受遺者の法定相続分又は包括遺贈の割合が変更されるわけではありませんので、各共同相続人又は包括受遺者は、他の共同相続人又は包括受遺者に対し、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張することができます。 そうすると、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する」とは、各共同相続人又は包括受遺者が相続財産全体に対する自己の相続分又は包括遺贈の割合に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、「穴埋方式」により課税価格を計算すべきと解するのが相当であると考えられます。 (参考判決)平成19年10月24日裁決(裁決事例集No.74・274頁) (注) 平成20年5月29日裁決(裁決事例集No.75・546頁)、平成27年6月3日裁決(裁決事例集No.99)も穴埋方式によることが相当であるとしています。   3 ご質問の場合 未分割である自宅土地建物7,000万円及びその他の財産500万円(合計7,500万円)については、次表のとおり「穴埋方式」により、母が4,200万円、姉が1,000万円、あなたが2,300万円の財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算すべきであると考えられます。 (了)

#No. 390(掲載号)
#梶野 研二
2020/10/15

給与計算の質問箱 【第10回】「令和3年分源泉徴収税額表の変更点」

給与計算の質問箱 【第10回】 「令和3年分源泉徴収税額表の変更点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 令和3年分源泉徴収税額表は、令和2年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 源泉徴収税額表自体の変更点はない。ただし、令和3年分源泉徴収税額表の19ページの「2 税額表の使い方」(2)、20ページ(注)7の表現が変更になっているので、以下で解説する。 * * 解 説 * * 1 “寡婦、ひとり親”への変更 源泉徴収税額表19ページ「2 税額表の使い方」(2)について、令和2年分では“寡婦(特別の寡婦を含みます。)、寡夫”なのに対し、令和3年分では“寡婦、ひとり親”になっている。以下、引用部分の赤色の下線は筆者による。 ◎令和2年分源泉徴収税額表の記載 ◎令和3年分源泉徴収税額表の記載   2 「なお書き」の追加 源泉徴収税額表20ページ(注)7について、令和2年分では、なお書きが無いのに対し、令和3年分ではなお書きが追加されている。 ◎令和2年分源泉徴収税額表の記載 ◎令和3年分源泉徴収税額表の記載   3 上記下線部の未婚のひとり親に対する税制上の措置及び寡婦(寡夫)控除の見直し これらの改正は、令和2年分以後の所得税について適用される。具体的には、令和2年分の年末調整及び確定申告から適用開始になる。ひとり親に該当する場合はひとり親控除として35万円、寡婦に該当する場合は寡婦控除として27万円の所得控除が適用される。 月々の源泉徴収は令和3年1月1日以後に支払う給与から適用開始になる。ひとり親又は寡婦に該当する場合は、扶養親族等の数に1人加えて源泉所得税を計算する。 令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書では「ひとり親」の項目が追加されている。 ◎令和2年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部 ◎令和3年分給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の一部 (了)

#No. 390(掲載号)
#上前 剛
2020/10/15

基礎から身につく組織再編税制 【第21回】「適格分割(支配関係)」

基礎から身につく組織再編税制 【第21回】 「適格分割(支配関係)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は「完全支配関係」がある場合の適格分割の要件を確認しました。今回は「支配関係」がある場合の適格分割の要件について解説します。 なお、支配関係の定義については、本連載の【第3回】を参照してください。   1 支配関係がある場合の適格分割の要件 支配関係がある場合の適格分割の要件は、次の6つです。 それぞれの要件について、以下で詳しく見ていきます。   2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十一)。 ただし、下記の①から④を交付しても、金銭等不交付要件に抵触しません。 (①から④の内容は前回解説した「完全支配関係がある場合の適格要件」と同様のため、解説を省略します)   3 支配関係継続要件 「支配関係継続要件」とは、支配関係がある法人同士の分割の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3⑦)。 前回確認した「完全支配関係がある場合の適格要件(完全支配関係継続要件)」の「完全支配関係」を「支配関係」と読み替えて適用します。   4 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十一ロ(2))。 (2) 「分割承継法人の業務」について ① 分割承継法人と完全支配関係にある法人がある場合 分割承継法人の業務には、分割承継法人との間に完全支配関係がある法人の業務も含まれます。 下図のように、従業者が分割承継法人の業務だけでなく、100%グループ内の法人(P社、B社)の業務に従事していれば80%判定に含めてもよいとされています。 ② 分割後に適格合併を行うことが見込まれている場合 分割後に行われる適格合併により分割事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 上図の合併法人C社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 「従業者」とは 従業者引継要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、分割の直前において分割事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人が選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、分割事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。   5 事業継続要件 「事業継続要件」とは、分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十一ロ(3))。 ① 分割承継法人と完全支配関係にある法人がある場合 分割事業が、分割承継法人と完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 分割後に適格合併を行うことが見込まれている場合 分割後に行われる適格合併により分割事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合に、その適格合併に係る合併法人において分割事業が引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。   6 主要資産負債引継要件 「主要資産負債引継要件」とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます(法法2十二の十一ロ(1))。 分割事業に係る資産及び負債が主要なものかどうかは、分割法人がその事業を行う上でのその資産及び負債の重要性のほか、その資産及び負債の種類、規模、事業再編計画の内容等を総合的に勘案して判定するものとされています(法基通1-4-8)。 分割事業に係る主要な資産及び負債の分割承継法人への移転が求められていますが、継続保有は求められていません。   7 按分型要件 「按分型要件」とは、分割型分割の場合に、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式が、分割法人の株主の有する分割法人株式の数の割合に応じて交付されることをいいます(法法2十二の十一)。   8 従業者引継要件の具体例 〔前提〕 〔従業者引継要件の判定〕 分割法人であるB社の分割事業の従業者のうち、A社では5割しか受け入れていませんが、A社と完全支配関係があるC社で残りの5割を受け入れており、分割承継法人の業務には完全支配関係がある法人の業務も含まれることから、分割法人であるB社の分割事業の従業者すべてが分割承継法人の業務に従事することが見込まれていることとなります。 〔結論〕 従業者引継要件を満たします。   ◆支配関係がある場合の適格分割の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件により、原則、株式以外の対価を交付しないことが求められています。 支配関係継続要件は完全支配関係継続要件を読み替えて適用します。 従業者引継要件は分割法人の従業者ではなく、分割事業にかかる従業者で判定します。 合併と違い、分割は事業単位で移転することを確認するため主要資産負債引継要件が求められています。   (了)

#No. 390(掲載号)
#川瀬 裕太
2020/10/15

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第39回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第39回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   〈更なる検討〉 ~返品調整引当金を廃止した理由~ 出版業、医薬品ないし化粧品の製造業又は卸売業など、一定の対象事業を営む法人のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、「販売先からの求めに応じ、その販売した棚卸資産を当初の販売価額によって無条件に買い戻すこと」、「販売先において、販売元の法人から棚卸資産の送付を受けた場合にその注文によるものかどうかを問わずこれを購入すること」を内容とする特約を結んでいるものについては、返品調整引当金(繰入額)の損金算入が認められていた。 すなわち、上記の法人が、その棚卸資産のその特約に基づく買戻しによる損失の見込額として、各事業年度終了時において損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れた金額については、一定の返品調整引当金繰入限度額に達するまでの金額は、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することが認められていた(旧法法53、旧法令99、100)。 平成30年度改正により、一定の経過措置が施された上で、この返品調整引当金の規定は廃止された。その趣旨について、立案担当者は次のように説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』272頁 また、参考として、平成30年2月23日の衆議院財務金融委員会において、星野次彦主税局長(当時)は、所得税法に「返品調整引当金という条項がありましたけれども、これが削除されておりますが、この理由を確認させていただければと思っております。」という質問に答える形で次のように説明している。 収益認識に関する会計基準の導入を「契機として」、平成8年の政府税制調査会法人課税小委員会報告を踏まえ、返品調整引当金制度を廃止することとしたというのである。同報告では、引当金について、企業会計の費用収益対応の考え方に基づき、法人税の課税所得を合理的に計算するために設けられているものであるため、制度自体を政策税制と考えることは適当でないが、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」との観点を踏まえ、改めてその基本的あり方を検討するものとしていた。 もっとも、すべての法人に収益認識会計基準が適用されるわけではないにもかかわらず、同基準の制定を契機として返品調整引当金を廃止する理由はどこにあるのか、貸倒引当金が存置される理由はどこにあるのかなど、疑問も残る。 上記立案担当者又は星野主税局長の説明は、次のような鋭い批判と向き合うべきであろう。平成8年の政府税制調査会法人課税委員会報告に従って、引当金を縮減していくという方向性が確認されていたとしても、なぜ、その縮減が返品調整引当金の廃止を意味するのか、法人税法に特有の問題があるから返品調整引当金を廃止したのだという積極的な説明が必要である、という批判である(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ〔第2版〕』186頁(中央経済社2018)参照)。 少なくとも上記各説明では、説明不足の感は否めない。もっとも、その責任は立案担当当局に帰するのか、やはり立法機関である国会に帰するのか、という問題もある。 なお、返品債権特別勘定の設定は引き続き認められることとなった(法基通9-6-4)。その趣旨については、次のように説明されている(国税庁「平成30年5月30日付課法2-8ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」104頁参照)。 上記通達のような取扱いを法令ではない通達限りで認めることは租税法律主義に抵触しないのか、上記通達適用の前提となる特約や業界特有の慣行又は事情に照らして、検討する余地は残る。 上記通達について、売上額の調整勘定である点で本会計基準の取引価格の算定上の調整要素となり、本会計基準との調整は可能であること、及び廃止するとなると返品調整引当金の廃止と異なり、週刊誌等を発行する出版業界への影響が大きいことを考慮したものであるという見解が示されている(藤曲武美『収益認識の税務』106頁(中央経済社2018)参照)。   (了)

#No. 390(掲載号)
#泉 絢也
2020/10/15

〈ツボを押さえて理解する〉仕訳のいらない会計基準 【第4回】「会計基準のプロフィール紹介(中編)」-財務諸表の表示科目に関係する会計基準、財務諸表の注記を伴う会計基準-

〈ツボを押さえて理解する〉 仕訳のいらない会計基準 【第4回】 「会計基準のプロフィール紹介(中編)」 -財務諸表の表示科目に関係する会計基準、財務諸表の注記を伴う会計基準-   公認会計士・税理士 荻窪 輝明 3回にわたって見ていく会計基準のプロフィール紹介ですが、今回は(中編)です。 前回に続き、第2回「会計基準の世界を俯瞰する」で分けたジャンルを踏まえて、その会計基準がどのジャンルにどの程度の割合で属しているかイメージを付しました。あくまで個人の見解によるものですが参考にしてください。 今回は5つに分けたジャンルのうち「」と「」を見ていきます。 〔ジャンル属性の説明〕 *  *  * 3回にわたる会計基準のプロフィール紹介も次回で最後です。次回は「」と「」を見ていきます。 (了)

#No. 390(掲載号)
#荻窪 輝明
2020/10/15

値上げの「理屈」~管理会計で正解を探る~ 【第7回】「埋没原価を正しくとらえる」~ものは言いよう~

値上げの「理屈」 ~管理会計で正解を探る~ 【第7回】 「埋没原価を正しくとらえる」 ~ものは言いよう~   公認会計士 石王丸 香菜子   登場人物 *  *  * 同じ品物やサービスでも、状況によって異なる価格が設定されていることがあります。「お盆の時期の飛行機代が高い」、「美容室で新規のお客は特別割引になる」、「飲み屋さんで早い時間帯はビールが半額になる」、「遊園地内で買うペットボトルが妙に高い」などなど・・・。顧客の種類や時間、場所などの要素に応じて、同じ品物やサービスを複数の価格で販売することは、「価格差別」と呼ばれます。 *  *  * 数日前にハナダ店長が、切り花120本を1本当たり100円で仕入れたとします。1本当たり170円の定価で販売していましたが、120本のうち20本は売れ残り、今後の定価販売は難しいとしましょう(簡略化のため、固定費は考慮しないとします)。 管理会計では、「」という考え方があります。どのような意思決定をするとしても、変わりなく存在するので、意思決定上考慮する必要がないコストを指します。 数日前に仕入れた切り花について考えると、その時点で12,000円のコストがすでに発生しています。今後(将来に向かって)、売れ残りの20本をいくらで販売しようと、コストが12,000円発生したことに変わりはありません。つまり、仕入値12,000円は埋没原価になるので、今後の意思決定においては考慮する必要がないことになります。 ですから、仕入値のことは忘れて、売れる値段で売ればよいのですね。20本を廃棄すれば何も得られませんが、どんな安値でも販売できれば追加でいくらかの収益を得ることができるというわけです。 損益を考えるときには、コストが発生する前なのか、コストが発生した後なのかに注意しましょう。損益分岐点売上高などを求める損益分岐点分析(詳しくは【第3回】を参照)は、あくまでも「事前」の分析です。実際に商品を仕入れた後や製品を製造した後では、すでに発生してしまった仕入値や製造原価は埋没原価になります。簡単な例では理解しやすいのですが、多数のデータや選択肢がある意思決定の場面では、埋没原価に惑わされがちです。 *  *  * 発生したコストが埋没原価であることだけを考えれば、リミちゃんの言うとおり、大幅に値引き販売することになったとしても、売れずに廃棄するよりはましです。ただし、会計以外の側面についても、立ち止まって考えてみる必要がありそうです。 閉店間際に値引き販売を行うと、本来なら定価で購入してくれるはずだったお客さんまで、値引き価格で購入する状況が生じやすくなります。夕方5時以降に値引き価格で販売する場合、4時50分ごろに来たお客さんはおそらく・・・ これでは、本来得られるはずだった利益をみすみす逃してしまうことになりますね。 それだけでなく、商品の価格には品質を表すバロメーターとしての側面もあるので、安易に値引きしてしまうと、商品の品質に対するイメージを損なうおそれがあります。また、値引き価格で購入した経験のあるお客さんは、その商品に対して値引き価格の印象を持つので、次回以降、定価で購入するのは割に合わないと感じ、定価購入したいと思わなくなることもあるでしょう。値引き販売を行わない方針のブランドショップや高級果物店などは、こうした側面を重視しているのです。 管理会計上の埋没原価を正しくとらえることは不可欠ですが、会計上の数値に現れない潜在的な側面も、価格を決める際には熟慮したいですね。 同じ商品を異なる価格で販売する「価格差別」を成功させるには、いくつかの条件があります。①顧客や市場を、ニーズが異なるいくつかのカテゴリーに何らかの要素によって分けることができ、②カテゴリー間で再販売できない状況では、価格差別がうまくいくことが多いようです。顧客のカテゴリー間で大きな不公平感が生まれない工夫が必要なこともあります。 値引き販売を検討する場合には、安易にただ値引きを行うのではなく、こうした条件を満たし、価格差別を通じて潜在的な需要を掘り起こせるような方法を探してみるとよいですね。 (了)

#No. 390(掲載号)
#石王丸 香菜子
2020/10/15

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第10回】「更地の評価が建付地の評価より高いとは限らない」~鑑定評価の常識も変化する~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第10回】 「更地の評価が建付地の評価より高いとは限らない」 ~鑑定評価の常識も変化する~   不動産鑑定士 黒沢 泰     1 更地とは (1) 更地の意味 不動産鑑定評価基準では、更地について次の定義を設けています。 ここで留意すべきは、更地とは、物理的にみて建物等の定着物がない土地を対象とすることはもちろんですが、それだけではまだ更地とは呼ばないということです。 その理由は、更地の定義からも明らかなとおり、対象地上に建物等が存在しないだけでなく、その土地の所有者の使用収益を制約する他人(第三者)の権利が付いていない土地であることが前提となるからです。 例えば、対象地上に建物が存在しなくても、そこに通行地役権が設定されていて第三者の通行を認めている場合には、所有者といえども自由に土地の利用形態を変更することはできません。また、このような状態で土地が売買された場合、これを購入した人は地役権の設定されている部分には建物を建てることができず、大きな制約を受けることになります。 したがって、更地と呼ぶ場合には、あくまでも土地所有者が自ら自由に使用・収益・処分できる土地でなければならないといえます。 (2) 更地価格の評価に当たっての基本的な考え方 このように、更地は(都市計画法や建築基準法等の公法上の規制は受けるものの)所有者の自由がきく土地であること、いつでも最有効使用の建物を建築できる状態にあることから、(一般的には)築年の古い建物が建っている土地や最有効使用のなされていない土地に比べて価値が高いといえます。 ここで「最有効使用」とは、その不動産の効用を最高度に発揮できる可能性に富む使用方法を指します。例えば、その不動産の属する地域が閑静な住宅地域であれば戸建住宅の敷地としての使用が、収益性を重視する商業地域にあれば店舗等の敷地としての使用がこれに該当します。 不動産の取引においては、建物の建っている土地で、仮にその建物が補修すればまだ使用できる状態にある場合でも、買手の都合等により更地価格から撤去費を控除した価格で売買されることも珍しくありません。 しかし、鑑定評価においては必ずしもこのような考え方を適用するわけではなく、客観的な視点からものの価値を捉えていきます。 すなわち、更地価格を評価する場合には、更地の取引事例に基づく比準価格だけでなく、建物及びその敷地の取引事例の中からその建物が最有効使用の状態にある敷地の事例を選択して比準価格を求めることが基本となります。 (この他に収益還元法を適用する場合には、対象地上に最有効使用の建物を新築して、そこから得られると期待される純収益を基に収益価格を求めることになります。)   2 建付地とは (1) 建付地の意味 不動産鑑定評価基準では、建付地について次の定義を設けています。 現行の不動産鑑定評価基準は平成26年に改正されましたが(施行は同年11月1日)、改正前の基準では、建物等及びその敷地が同一の所有者に属しているだけでなく、同一の所有者によって使用されていることが建付地の要件となっていました。しかし、同年の改正により、所有者が使用していることが要件から外され、貸家及びその敷地の敷地部分も建付地と呼ぶこととされました(下図を参照)。 〔建付地の概念の拡大〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 そのため、建付地の価格を評価するに当たっても、以下のように、これに合わせて考え方の転換が図られています。 (2) 建付地価格の評価に当たっての基本的な考え方 ① 原則 建付地は、上記基準の定義にもあるとおり、現に建物等の用に供されている敷地を指すため、その敷地の建物等が最有効使用の状態にあるか否かが、建付地の価値を左右する重要な要因となります。 すなわち、用途面での近隣環境との不適合や建物配置の非効率さなど、現存する敷地上の建物が最有効使用の状態にない場合、その建付地の価格は、最有効使用の状態にある建物が存する敷地(=更地価格と一致)に比べて低くなるのが通常です。 一方、敷地上の建物が最有効使用の状態にない建付地の価格は、いつでも最有効使用を実現できる更地の価格から減価する(=建付減価)必要があります。 以上の内容を要約すれば、建付地の価格を捉える場合には、原則的に次の考え方を念頭に置く必要があるといえます。 (ア) 当該土地上に存する建物が最有効使用の状態にある場合 建付地の価格 = 更地価格 (イ) 当該土地上に存する建物が最有効使用の状態にない場合 建付地の価格 = 更地価格 - α(建付減価) すなわち、従来の不動産鑑定評価基準の常識からいえば、建付地の価格は更地価格を上限とするということになります。 ② 例外 しかし、既に述べたとおり平成26年の基準改正で建付地の概念が拡大したことから、例外的な現象も考慮に入れる必要が生じました。 それは、建物が賃貸され安定的に稼働している不動産では、土地建物一体の複合不動産から生み出される純収益を基に求めた収益価格が積算価格を上回る現象が、一部の地域で生じているからです(特に都心部の高度商業地において顕著です)。 なお、積算価格とはコスト面からアプローチした土地建物の価格であり、敷地上の建物が最有効使用の状態にある場合は、その建付地の価格は更地価格を適用します。 その結果、建付地の価格が更地価格を上回る(=建付増価)こともあり得るという、従来の不動産鑑定評価基準の範疇では想定されていなかった視点が、平成26年の基準改正時に盛り込まれています(※1)。 (※1) 公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会監修、鑑定評価基準委員会編『要説 不動産鑑定評価基準と価格等調査ガイドライン』(2015年、住宅新報社)p321 最後に、簡素化した設例により上記内容の検証を行っておきます。 【設例】 鑑定評価の手法によって求められた「建物及びその敷地」の価格を以下のとおりとします。 ・積算価格:965,000,000円 ・収益価格:1,150,000,000円 ※現に賃貸されている高層事務所ビルを想定 ※敷地面積:500㎡ 最有効使用の状態を前提とした場合の積算価格の構成割合(※2)を、土地価格60%、建物価格40%とすれば、1㎡当たりの土地価格(更地価格相当額)は、 965,000,000円 × 60% ÷ 500㎡ ≒ 1,158,000円/㎡ となります。 (※2) 厳密には積算価格を求める過程で土地建物に係る付帯費用も考慮に入れて一体としての複合不動産の価格を求めるため、土地建物の単独価格の構成割合のみでは内訳価格の詳細を反映できない面がありますが、本稿では煩雑さを避けるため簡素化しました。 一方、収益価格の内訳としての土地価格(建付地価格)は、上記と同じ構成割合を適用した場合、 1,150,000,000円 × 60% ÷ 500㎡ ≒ 1,380,000円/㎡ となり、建付地価格 > 更地価格という逆転現象が生じることになります。 ◆  ◆  ◆ なお、対象地上に古い建物が建っている場合でも、それが最有効使用の状態にあり、効用を発揮していてこの先まだ使用できると判断されるときには、建物が古いという理由だけでは、建付地であっても減価の対象とはならないと考えられます。 (了)

#No. 390(掲載号)
#黒沢 泰
2020/10/15

〈Q&A〉消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第7回】「消費税転嫁対策特措法・下請法が禁止する「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」」

〈Q&A〉 消費税転嫁対策特措法・下請法のポイント 【第7回】 (最終回) 「消費税転嫁対策特措法・下請法が禁止する 「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」」   のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 福塚 侑也   はじめに 最終回となる第7回では、消費税転嫁対策特措法と下請法のそれぞれが規制する「商品購入、役務利用又は利益提供の要請」について解説する。 下請法及び消費税転嫁対策特措法は、いずれも、商品購入や役務利用を強制したり、不当に経済上の利益の提供を要請したりすることを禁止している(下請法における購入・利用強制の禁止及び不当な経済上の利益の提供要請の禁止、消費税転嫁対策特措法における商品購入、役務利用又は利益提供の要請の禁止)。 下請法が禁止する不当な経済上の利益の提供要請に対しては、度々勧告・社名公表がなされており、購入・利用強制に対しても、勧告・社名公表がなされた例がある。 また、本稿執筆時点において、消費税転嫁対策特措法が禁止する商品購入、役務利用又は利益提供の要請を行ったとして勧告・社名公表がなされた事例は現れていないものの、公取委は平成25年10月から令和2年8月末までの間に94件の指導を行っており、注意を要する。 そこで、以下、下請法及び消費税転嫁対策特措法がそれぞれ禁止する商品購入、役務利用又は利益提供の要請について、対比しつつ述べることとしたい。   1 下請法の禁止する購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請 (1) 商品を「強制して」購入させるとは 【Q】 当社は食品スーパーを営んでいますが、クリスマスケーキの販売目標を達成するため、PB(プライベートブランド)商品の製造を委託している下請事業者に、クリスマスケーキの購入をお願いしようと考えています。当社の外注担当者から、PB商品の発注に関する打合せの際に購入を持ちかけようと思いますが、購入するかどうかはあくまで任意ですので、問題ないでしょうか。   【A】 貴社としては任意のつもりであっても、外注担当者から要請した結果、下請事業者がクリスマスケーキを購入した場合、正当な理由がなく商品を強制して購入させたものとして、購入・利用強制の禁止に違反する可能性があります。   下請法は、親事業者が、下請事業者に対し、下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るために必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させることを禁止している(購入・利用強制の禁止)。 購入・利用強制の禁止の対象には、親事業者の製品・サービスはもちろんのこと、親事業者のグループ会社や顧客の製品・サービス等が幅広く含まれる。 また、「強制して」とは、物の購入や役務の利用を取引の条件とする場合や、要請を拒否した場合に取引額削減などの不利益を与える場合はもちろんのこと、下請取引における力関係を背景に、事実上、物の購入や役務の利用を余儀なくさせていると認められる場合も含まれる。「強制して」に当たるか否かの判断においては、押し付ける側である親事業者の目線よりも、押し付けられる側である下請事業者の目線が重要であり、親事業者としては任意のつもりであっても、下請事業者にとっては、その要請を拒否することが難しく、事実上購入や利用を余儀なくさせていると判断される場合があることに注意する必要がある。 そこで、下請事業者に物の購入や役務の利用を要請する場合には、下請事業者の立場に立って、「自分が下請事業者であったら、この要請を断れるだろうか」と自問自答してみることが有益であろう。 例えば、以下のような場合は、下請事業者において要請を拒否することが容易ではないため、「強制して」商品を購入させ、又は役務を利用させていると判断されるおそれがある。 (2) 下請事業者との合意に基づく利益提供は問題か 【Q】 当社はホームセンターを営んでいますが、今般、新たな店舗のオープンに際し、PB商品の製造を委託している下請事業者に、協賛金の提供や、オープン準備作業のための従業員派遣をお願いしようと考えています。新店がオープンすれば、下請事業者の売上・利益も増えますので、下請事業者との合意の上で実施すれば問題ないでしょうか。   【A】 貴社が、下請事業者に対し、協賛金の提供や従業員派遣によりどれだけの利益が見込めるか合理的根拠を示して明らかにし、それが協賛金提供や従業員派遣に伴う不利益を上回ることを明確に説明できない限り、不当な経済上の利益の提供要請として下請法に違反する可能性が高いといえます。   下請法は、親事業者が、下請事業者に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害することを禁止している(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)。 不当な経済上の利益の提供要請の禁止の対象には、協賛金などの金銭や、下請事業者の従業員の派遣等はもちろんのこと、下請代金の支払とは独立して行われる金銭の提供、金型等の保管、発注内容に含まれない役務の提供など、あらゆる経済上の利益が含まれる。 もっとも、下請事業者が、自らの「直接の利益」になるものとして、自由な意思により経済上の利益を提供する場合には、下請事業者の利益を不当に害すると認められず、不当な経済上の利益の提供要請には該当しない。 しかしながら、公取委の担当官が執筆した書籍において、「親事業者が協力金の提供を要請するのであれば、下請事業者に対し、協力金を提供させる目的、協力金の額、その算出根拠等を明確にする必要がある。すなわち、親事業者としては、下請事業者が金銭や労務の提供を行うことにより、どれだけの利益が見込めるか合理的根拠を示して明らかにし、それが金銭等を提供することによって発生する不利益を上回ることを明確に示す必要がある。」(鎌田明編著『下請法の実務〔第4版〕』(公正取引協会、2017年)172頁)と解説されていることに注意が必要である。 この点、協賛金の提供や従業員の派遣により、下請事業者の利益がどれだけ増加するかは、予測困難な将来の事情であるし、親事業者の知りえない下請事業者の収益構造にも関わるため、親事業者において、下請事業者にどれだけの利益が見込めるかを合理的根拠を示して明らかにすることは、極めて困難と考えられる。 したがって、協賛金等の提供要請や、従業員の派遣要請は、現実の社会では小売業の店舗等を中心に幅広く行われていると考えられるものの、いざ公取委の調査を受けた際には、上記のとおり厳しい基準により判断されることになると考えておく必要があるだろう。   2 消費税転嫁対策特措法の禁止する商品購入、役務利用又は利益提供の要請 【Q】 当社は、ホームセンターを営んでいます。2019年10月に消費税率が10%に引き上げられた際、お客様への影響を最小限にしたいと考え、多くの商品について本体価格を引き下げ、税込み販売価格を据え置きましたが、消費税転嫁対策特措法の趣旨を踏まえ、納入業者から商品を購入する際の本体価格は据え置き、消費税率引上げ分を当社が負担することとしました。 しかしながら、思うように売上が伸びずに苦慮しているため、納入業者に対し、協賛金を提供してもらいたいと考えているのですが、問題ないでしょうか。   【A】 消費税率引上げ分を上乗せする代わりに、経済上の利益を提供させたものとして、消費税転嫁対策特措法に違反する可能性が高いといえます。   消費税転嫁対策特措法は、特定事業者が、特定供給事業者から供給を受ける商品・役務について、消費税率引上げ分の全部又は一部を上乗せする代わりに、特定供給事業者に商品を購入させたり、役務を利用させたり、経済上の利益を提供させることを禁止している(商品購入、役務利用又は利益提供の要請の禁止)。 商品購入、役務利用又は利益提供の要請の禁止の対象には、特定事業者の供給する商品・サービスはもちろんのこと、特定事業者のグループ企業や顧客の供給する商品・役務も広く含まれる。また、提供させる経済上の利益には、協賛金や協力金など、名目を問わず行われる金銭の提供や、労務の提供等が幅広く含まれる。 商品を購入、役務を利用又は経済上の利益を提供「させる」とは、消費税の転嫁を受け入れる代わりに商品を購入させるなどする場合や、商品を購入しないことなどに対して取引額の削減等の不利益を与える場合はもちろんのこと、事実上、商品購入・役務利用・経済上の利益提供を余儀なくさせていると認められる場合も含まれる。 以上の考え方は、下請法における購入・利用強制の禁止及び不当な経済上の利益の提供要請の禁止と同様である。そのため、商品購入・役務利用・経済上の利益の提供要請が消費税率引上げと無関係に行われた場合には下請法違反、消費税率引上げと紐付いた形で行われた場合には消費税転嫁対策特措法違反になると考えておけばよいであろう。 (連載了)

#No. 390(掲載号)
#大東 泰雄、福塚 侑也
2020/10/15

老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話 【第12回】「二次相続をめぐる続きのお話」~Hさんのその後~

老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【12回】 「二次相続をめぐる続きのお話」 ~Hさんのその後~   財務コンサルタント 木山 順三   〔コロナ禍でのHさんからの相談依頼〕 なかなか収束の兆しが見えないコロナ禍の中で、筆者のコンサル業も講演会の中止や事務所(大阪市内中心部)への通勤回数をやや抑え気味にするなど影響が続いています。 何しろ後期高齢者ですので、自分自身の相続問題になれば笑いものとなります。 そんな中、この連載の【第9回】でご紹介したHさんから相談依頼がありました。 どうやら遺言書作成等、最低限の事前準備の必要性を感じ始めたようです。 ここで今一度、Hさんの家族状況等を振り返ってみましょう。 そこで筆者としては、将来の揉めごとをなくすべく、できれば居宅を売却して介護付きホームへ行き、残った金融資産でスムーズな遺産分割処理を行うようお勧めしてきた次第です。   〔今回の対応における注意点〕 以上をもとに、筆者から当家の問題点及び具体的行動の必要性を説明しました。   〔ネックになったのは体力?〕 Hさんの相続対策を行動に移すに際し、次のようなネックが判明してきました。   〔まずは遺言書を!〕 上記のような相続対策におけるネックは、超高齢化社会の我が国における大半の人の例と言っても過言ではありません。 すなわち理屈ではわかっているのですが、高齢になってからの財産整理は限りなく力仕事に近いものがあり、また精神的負担もあるため、とても無理だということです。 ましてや独居老人の場合、言うまでもありません。 このことから、相続対策は夫婦とも元気なうちに、独身の場合も心身とも元気な折になさねばなりません。 H家の財産については居宅の占める割合が大きく、遺産分割においては遺留分を考慮した財産分割を考える必要がありました。 結論としては、まず長男へ、喫緊で最低限必要となる手続きを依頼しました。 すなわち、至急、遺言書作成することです。 急な相続が発生した場合に備え、紛争防止のための対策といえます。 これについては後日長男より電話があり、筆者の指導通りの遺言をHさんに書かせるつもりとのお話がありました。また遺言者が高齢者なので、極力簡単な案文を考えてほしいとのことでした(長男いわく、前回の相続の際に苦労した経験から貸金庫契約は解約したとのこと)。   〔遺言書サンプルは様々なケースを想定して〕 長男からの依頼により、改めて筆者は遺言書のサンプルを作成しました。 なお作成にあたっては、その折のHさんの健康状態を考慮し、①公正証書遺言、②自筆遺言の法務局保管制度、③家裁による検認制度のいずれにも対応できるよう、極力遺言文言の簡素化を図りました。   〔老コンサルタントのつぶやき〕 結果として、居宅処分により金融資産のみで遺産分割を行うという筆者の提案通りにはならず、現有資産のまま自筆証書遺言書を作成することになりました。 しかしながら、これはこれで当家にとって大いなる一歩といえます。 遺言書の内容も遺留分の侵害がなく、すべての金融資産は長男を除く他の代襲相続人に行き、居宅(不動産)は長男が単独で相続するというものでした。 つまりH家のこれからの先祖供養・祭祀については長男が行うことになり、家族構成から見ても何らおかしくないものです。仮に相続後において長男がこの不動産を売却しても、すでに相続手続きの後であり、ある意味割り切って考えるべきものでしょう。 Hさんの場合は立派な不動産ですが、中には数年前から言われているように「負動産」として後始末に困るものもあり、現に私自身も数件の対応を経験しました。 すなわち、山林や雑種地、市街化調整区域外物件(しかも遠隔地)が多く、相続人の誰もが引き受けない不動産です。やむなく私のクライアントで多くの不動産を所有しており今更このくらいなら管理・保管も苦にならないという方に引き受けてもらいました。 このように不動産を含む「相続事案」は難しいものもありますが、コンサルタントとしてはやりがいのあるものです。 筆者としては、当家が揉めることなくスムーズな相続手続きの下、これからも円満な親戚づきあいをしてくれることが一番の願いであり、Hさんのケースでは今回、その第一段階がクリアされたものと思っています。 (了)

#No. 390(掲載号)
#木山 順三
2020/10/15
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