事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第17回】 「保険の不適正募集-経営陣が不祥事を把握できなかった理由」 弁護士 原 正雄 2018年4月24日、NHKの「クローズアップ現代+」が郵便局員による保険の不適正募集の問題を取り上げた。その後、2019年6月24日の朝日新聞の記事を経て多くの報道がなされ、不適正募集の問題が明らかとなった。 金融庁は、2019年9月11日、K生命とN郵便に立入検査し、12月27日、保険業法に基づいて3ヶ月間の業務停止命令を出した。親会社のN郵政にも業務改善命令を出した。 K生命とN郵便で生じた保険の不適正募集の問題は、2020年1月5日に至って、親会社のN郵政を含め3社の社長が揃って辞任する結果となった。 本件は、不祥事を発生させないためにどうすればよいか、発生した不祥事を迅速に把握するためにどうすればよいか、さらにはグループコンプライアンスをどう確立すべきかの観点から、学ぶべき点が多い。 この問題については、2019年12月18日、第三者委員会の調査報告書が提出され、さらに2020年3月26日、追加報告書が提出された。そこで、これら報告書を基に報道等も参考にしつつ、本件を分析する。 1 不適正募集の概要 問題となった保険は、K生命の個人向け保険である。K生命は保険の販売をN郵便に委託しており、郵便局に所属する「募集人」に販路を依存していた。 本件で問題になった「不適正募集」は、乗換契約が中心である。乗換契約とは、既保険を解約させて新保険に乗り換えさせることをいう。契約を乗り換えた結果、例えば以下の問題が発生する。 また、高齢者に意向確認が不十分なまま契約を締結していた事実や、経済合理性の乏しい保険契約を同一人との間で繰り返し締結していた事実も判明した。 K生命が15万5,746件を確認したところ、1万3,396件(約8.6%)が「違反疑い事案」であった。関与した募集人の人数は、5年間で合計9,653人に上った。 K生命やN郵便は2007年に民営化しているところ、第三者委員会によれば、保険募集を巡る不正行為や不適正な話法は、民営化前から比較的広範に行われていたとのことである。民営化後、保険業法上の生命保険会社として金融庁の監督下に置かれて約10年を経て、大きな問題として発覚するに至った。 2 不適正募集の原因-過大な営業目標と技術交流 不適正募集の原因は複合的で複雑である。その一つとして、実力に見合わない営業目標が課されていたことが指摘されている。 例えば2017年度に保険の募集目標を達成した郵便局は、全体の約30%しかなかった。2018年度には、目標を達成した郵便局はその半分近くまで減少した。そのため郵便局では、2017年頃から、募集実績が「優秀」とされる募集人が近隣の局へ技術を伝達する「技術交流」を開始した。その結果、不適正募集が各郵便局に広がったとのことである。 また、適正な募集のためのルールは策定されていたものの、禁止事項を例示列挙するのみであった。多くの募集人が「禁止された事項以外は許容される」と受け止め、ルールを潜脱する形で不適正募集を行う結果を招いてしまった。 管理者等の一部は、自局内の一部の募集人(特に高実績者)が不適正な募集をしていることを認識していた。しかし、募集目標を達成することを優先して実効的な指導を行わず、むしろ厚遇する傾向が見られたとのことである。 3 会社が不適正募集を把握できなかった理由 K生命やN郵便は不適正募集を把握できなかった。その理由として、特に以下の6つに注目したい。 上記について、以下詳述する。 (1) 不適正募集をチェックして防止する体制が構築されていなかった 募集人の受け付けた保険は、募集人の在籍する各郵便局で契約を受理する。本来はその段階でチェックを実施し、不適正募集については受付を拒絶すべきであった。 ところが実際は、5年間で合計2,921の郵便局が「違反疑い事案」を受理していた。これは郵便局総数の約14.5%に達する。郵便局における審査は、申込関係書類の不備を確認すること等の形式チェックだけで、顧客に不利益があるか等はチェックしておらず、不適正募集を防止できるものではなかった。 郵便局が受理した後、K生命で引受手続が実施される。ここでも同様に、チェックは形式的なものであって不適正募集を防止できるものではなかった。 以上のとおり、N郵便とK生命は不適正募集をチェックして防止する体制を構築していなかった。 (2) 苦情の分析をしていなかった 不適正募集がなされた場合、顧客から苦情が出ることがある。実際、契約加入に関する苦情の件数は、2011年度から増加傾向にあった。ところが、こうした苦情は2017年度から減少に転じていた。これは、2017年4月に「苦情範囲の見直し」、2018年4月に「苦情分類の精緻化」をそれぞれ行い、苦情の分類や数え方を変更したためであった。その結果、K生命やN郵便は苦情の件数が減ったと安心し、苦情を分析して問題を把握するチャンスを失った。 こうした点について第三者委員会は、苦情件数の削減それ自体が目的化しており、顧客の不満の根本的な原因を分析し、除去しようとする姿勢・態勢が十分ではなかったと評価している。 一般に数件の苦情の背後には、数多くの問題が潜んでいる。苦情は氷山の一角に過ぎない。苦情の分析はリスクマネジメントの基本である。本件でも苦情の内容、例えば、締結した契約の内容、募集人は誰か、当該募集人が過去に受けた苦情の数や内容、顧客は誰か、当該顧客の属性、当該顧客との過去の契約履歴などについて精査していれば、不適正募集の問題を把握できていた可能性があった。役員の中にも「今になって振り返ると、顕在化した事象があったならば、それと類似した事案が伏在している可能性は十分にあるはずで、そこに思いを致し、広く深い調査を実施すべきであった」と反省の弁を述べる者がいたとのことである。 (3) 個々の違反疑い事案について調査をせず、または十分な調査をしていなかった 第三者委員会によれば、K生命は、「契約書面に顧客の署名と押印があれば法令違反と断定できないので、顧客に不利益が生じても適正募集の確保に問題はない」と考えていた。社内役員の中には、第三者委員会に対してさえ、「法令等に適合する手続を定め、所定の必要な契約関係書面について、顧客に説明をし、署名・押印を得ていたのであるから、郵便局における募集については大きな問題があると思っていない」旨を述べた者が複数いたとのことである。 そのため、K生命では、苦情がなければ調査をしないという状況があった。本来は、顧客からの苦情があろうとなかろうと、多数回にわたり解約と新規契約締結を繰り返して顧客に不利益を生じさせた募集人がいたのであれば、他にも同様の行為をしていないか積極的・能動的に調査し、顧客の不利益の回復を図るべきであった。 また、苦情を受けて調査をする場合も「不適正募集の根絶(ゼロ件)」を目標としていたことが、かえって十分な調査を避ける結果を招いてしまった。調査に対して募集人が自認しなければ不適正募集とは取り扱わず、処分も行わず、引き続き募集活動を行うことを許容していた。 以上のとおり、K生命では違反疑い事案があっても調査をしない、または十分な調査をしないという問題があった。 (4) 関係部署に苦情が適正に引き継がれていなかった K生命では、不適正募集に関わる苦情は「お客さまサービス室」に集約される。「お客さまサービス室」が対応困難と判断した場合、苦情をさらに「お客さま相談室」に引き継ぐ。「お客さま相談室」は、引き継いだ苦情を随時、執行役、監査委員会事務局、コンプライアンス統括部、募集管理統括部などの関係部署に共有することになっていた。 ところが、「お客さまサービス室」から「お客さま相談室」への引継ぎの要否については具体的な基準がなかった。そのため、「お客さま相談室」へ引き継がれた苦情は、「お客さまサービス室」が受け付けた苦情のわずか1%にも満たなかった。不適正募集に関わる苦情が、執行役、監査委員会事務局、コンプライアンス統括部、募集管理統括部などの関係部署にまで上がることは、ほとんどなかった。 (5) 内部通報制度が十分に機能していなかった N郵政グループの内部通報制度における通報件数は、年約1,200件から約2,100件で、増加傾向にある。これだけ見ると、内部通報制度は機能しているように思える。 ところが、不適正募集に関する通報に目を向けると、年10件前後にとどまっていたとのことである。その理由として、各郵便局では内部通報に使用するコンピュータ端末が共用であったことや、通報者を特定しようとする幹部がいるとして従業員が疑心暗鬼になっていたことなどが指摘されている。不適正募集は、郵便局という比較的小さく隔離された組織で発生するため、通報のハードルが特に高かったことが分かる。また、N郵便の社員がK生命の窓口に不適正募集を通報したのに、K生命が通報をN郵便に移送してしまった事案もあった。 これらを理由としてN郵政グループでは、内部通報制度が十分に機能していなかった。 (6) 取締役会に適正な報告をしていなかった K生命では、社外取締役が過半数を占める指名委員会等設置会社という先進的な統治機構を有していた。取締役会では一見、多様で活発な議論が行われていた。 ところが実際は、取締役会に上がる前に担当部署で情報を閉じて議論し、結論だけを取締役会に上げ、問題の本質が伝わるような報告はしない風土があったとのことである。 そのため、2018年秋から、不適正募集に関して金融庁から指導を受けていたにもかかわらず、取締役会等には報告されなかった。2019年5月28日に金融庁から報告を求められた後も、詳細な説明はなされなかった。不適正募集が取締役会で開示されたのは、2019年6月24日の朝日新聞等の報道を見た社外取締役らが、監査委員会を通じて臨時取締役会の招集を要請した後のことであった。 4 グループとしての対応が遅れた理由 N郵政は、K生命の64.48%の株式を有する親会社である。ところが、N郵政が不適正募集について正式な報告を受けたのは、K生命の社外取締役が臨時取締役会の招集を要請した後のことであった。それまでK生命は、N郵政に正式な報告をしていなかった。その結果、不適正募集についてグループとして迅速に対応する機会を失してしまった。 N郵政は、K生命との間で「N郵政グループ協定」と「グループ運営のルールに関する覚書」等を締結し、金融庁からの指導やコンプライアンス違反事案について報告事項と定めていた。ところが、報告時期について定めていなかったため、K生命は適時の報告をしなかった。N郵政グループでは、グループコンプライアンス協定が不十分であった。結果としてグループとしての対応が遅れることになった。 5 結語 上述のとおり、経営陣は実力に見合わない営業目標を設定し、不適正募集が拡散するきっかけを作ってしまった。また、適正なコンプライアンス体制を構築しなかったため、こうした問題を把握することができなかった。さらに、グループとしてのコンプライアンス体制にも不備があった。 郵便局という制度は、国民にとって生活を支える重要なインフラであり、国民からの信頼を獲得している。これは、郵便業務を行ってきた先人たちが、長年にわたる知恵と汗で築き上げたものである。今回の不適正募集問題は、こうした郵便局への信頼を悪用した極めて重大な事件である。今回の事件を糧として、N郵政グループが再度、信頼の獲得に向けて歩みを進めることを願う。 (了)
〔新型コロナウイルスの感染拡大に伴う〕 中小企業の資金繰り支援策の紹介とポイント 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 新型コロナウイルスの感染が拡大し、4月7日には緊急事態宣言が発令された。外出の自粛等により経済が停滞し、中小企業の資金繰りは急速に悪化している。政府もそのような状況に対応すべく、様々な資金繰り支援措置を公表している。 本稿では、資金繰り支援措置のうち中小企業に関連するものを取り上げ、支援措置の内容や対象事業者、適用要件等について解説を行う。なお、本稿は4月7日に公表された緊急経済対策の支援内容に基づいており、令和2年度の補正予算の成立を前提としているもの等も含まれている。今後、措置の内容が変更される可能性もあることにご留意いただきたい。 【1】 資金繰り支援措置の概要 企業の資金繰りに対しては、信用保証制度及び融資制度の両面から支援が行われる。融資枠の拡大、据置期間の延長(最長5年)、利子補給による当初3年間実質無利子化、保証料の減免、無担保融資が支援の中心となっている。 支援措置の概要は、以下のとおりである。 (※) 経済産業省ホームページより 【2】 信用保証制度による支援 (1) 信用保証制度とは 信用保証制度とは、信用保証協会(※)が、中小企業や小規模事業者(以下、中小企業者という)の資金調達を円滑にするため、中小企業者の金融機関からの借入等について保証をする制度である。信用保証協会の保証により、中小企業者は金融機関から借入をしやすくなる。 (※) 信用保証協会法に基づいて設立・運営される公的機関で、全国に51ある。 対象となる中小企業者の範囲は、中小企業信用保険法に定められており、業種や規模に制限がある。 なお、信用保証制度の対象となる中小企業者については以下を参照していただきたい。 (2) 新型コロナウイルス感染症対応①-セーフティネット保証- セーフティネット保証とは、経営の安定に支障が生じている中小企業者に対し、信用保証協会が、一般保証(※1)(保証限度額2.8億円)とは別枠で借入債務の保証をする制度である。 (※1) 様々な資金使途(運転資金、設備資金)に利用可能な通常時の保証制度。 セーフティネット保証は1号から8号まであるが、今回、4号(※2)の対象事由として新型コロナウイルス感染症が指定され、対象地域も47都道府県すべてが指定された。また、5号(※3)の対象業種が緊急的に追加指定された。 (※2) 災害等の突発的事由により相当数の中小企業者が経営の安定に支障を生じている場合に、地域を指定して中小企業者に対し資金供給の円滑化を図るための措置。 (※3) 全国的に業績が悪化している業種に属する中小企業者に対し、資金供給の円滑化を図るための措置。 保証限度額は、4号と5号合計で2.8億円であり、保証割合は4号100%、5号80%である。 本制度は、売上高等(※4)の減少率が要件となっており、4号では前年同期比20%以上の減少、5号では前年同期比5%以上の減少が要件とされている。なお、売上高等の減少について、市区町村長の認定が必要である。 (※4) 売上高等:売上高又は販売数量、建設業の場合には完成工事高又は受注残高 (3) 新型コロナウイルス感染症対応②-危機関連保証- 危機関連保証とは、金融秩序の混乱等の事象が突発的に生じた時に、信用保証協会が一般保証及びセーフティネット保証とは別枠で借入債務の保証をする制度である。今回、新型コロナウイルス感染症に係る中小企業者対応策として発動された。保証限度額は2.8億円、保証割合は100%である。 本制度も売上高等の減少率が要件となっており、その率は前年同期比15%以上の減少である。なお、売上高等の減少について、市区町村長の認定が必要である。 (4) 制度の比較 (※) セーフティネット保証5号の指定業種は、下記を参照。 (5) 認定基準の緩和(前年実績がない場合等) 新型コロナウイルス感染症の影響を受けているが、前年実績がない又は前年以降事業を拡大した事業者についても、セーフティネット保証4号・5号及び危機関連保証が利用できるよう認定基準が緩和された。 売上高等を前年と比較するのではなく、新型コロナウイルスの影響を受ける前と比較することにより制度を利用することができる。 (6) 信用保証付き融資における保証料・利子減免(令和2年度補正予算の成立が前提) 売上高等について一定の減少率を満たせば、保証料補助と利子補給が行われる。また、信用保証付きの既往債務も、要件を満たせば実質無利子融資への借換が可能となる。 制度の詳細については、下記の経済産業省のパンフレット(p.11)を参照されたい。 【3】 政府系金融機関による融資 政府系金融機関による融資では、新型コロナウイルス感染症対応として以下の支援が実施される。各制度に係る手続については、日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫及び商工組合中央金庫のホームページを参照されたい。 (1) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、危機対応融資 (※1) 日本政策金融公庫には、個人事業や小規模事業者向けに融資する国民生活事業と、中小企業(業種・規模の制限あり)向けの長期事業資金を融資する中小企業事業、農林漁業等向けの長期事業資金を融資する農林水産事業があり、それぞれの事業について、各種の融資制度(一般貸付、セーフティネット貸付、新企業育成貸付等)が設けられている。 (※2) 新型コロナウイルス対策マル経融資、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (2) 新コロナウイルス対策マル経融資 ① 小規模事業者経営改善資金融資(マル経)の概要 小規模事業者経営改善資金融資(マル経)は、商工会議所・商工会・都道府県商工会連合会の経営指導員による経営指導を受けた小規模事業者に対して、日本政策金融公庫等が無担保・無保証人で融資を行う制度である。 ② 新型コロナウイルス感染症対応 新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少した小規模事業者に対し、別枠1,000万円の融資枠を設定し、当初3年間の金利を0.9%引き下げる。また、据置期間を運転資金3年以内(通常1年以内)、設備資金4年以内(通常2年以内)に延長する。 (※1) 別枠1,000万円部分が対象。 (※2) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (3) 特別利子補給制度(令和2年度補正予算の成立が前提) 「新型コロナウイルス感染症特別貸付」、「危機対応融資」、「新型コロナウイルス対策マル経融資」により借入を行った中小企業者等のうち、売上高が急減した事業者等に対し、利子補給が実施される。 制度の詳細については、下記、経済産業省のパンフレット(p.15)を参照されたい。 (4) セーフネット貸付の要件緩和 ① セーフネット貸付の概要 ② 新型コロナウイルス感染症対応 2月14日より①の要件を緩和し、数値要件(売上高前期比5%以上減少等)にかかわらず、今後の影響が見込まれる事業者も融資対象とされた。 (5) 衛生環境激変特別貸付 (※1) 業歴1年未満の場合は、過去直近3ヶ月間の平均売上高。 (※2) 「振興事業に係る資金証明書」の添付がある場合は、基準利率△0.9%。 (6) 生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付 (※) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策マル経融資、新型コロナウイルス対策衛経との合計で3,000万円。 (7) 新型コロナウイルス対策衛経 ① 生活衛生関係営業経営改善資金特別貸付(生活衛生改善貸付)の概要 生活衛生改善貸付とは、生活衛生関係事業を営む小規模事業者が、生活衛生同業組合等の経営指導を受けることにより、経営改善に必要な資金の融資を無担保、無保証人で受けることができる制度である。 ② 新型コロナウイルス感染症対応 新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少した小規模事業者に対し、別枠1,000万円の融資枠を設定し、当初3年間の金利を0.9%引き下げる。また、据置期間を運転資金3年以内(通常1年以内)、設備資金4年以内(通常2年以内)に延長する。 (※1) 別枠1,000万円部分が対象。 (※2) 新型コロナウイルス感染症特別貸付、新型コロナウイルス対策マル経融資、生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付との合計で3,000万円。 (8) 特別利子補給制度(生活衛生版)(令和2年度補正予算の成立が前提) 「生活衛生新型コロナウイルス感染症特別貸付」及び「新型コロナウイルス対策衛経」により借入を行った中小企業者等のうち、売上高が急減した事業者等に対し、利子補給が実施される。また、公庫の既往債務の借換も実質無利子化の対象になる。 制度の詳細については、下記、経済産業省のパンフレット(p.20)を参照されたい。 【4】 その他 資金繰りに直接関係するものではないが、給付金や補助金も数多く用意されている。また、税制面においても納税の猶予の特例や申告・納付期限の延長等が措置されている。詳細は割愛するが、主なものは次のとおりである。 各制度の詳細については、経済産業省等のホームページをご参照いただきたい。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例46】 株式会社島忠 「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」 (2020.4.9) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社島忠(以下、「島忠」という)が2020年4月9日に開示した「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」である。同社は、同日、「当社全従業員に対する、特別支援金の支給決定に関するお知らせ」も併せて開示している。 2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が出され、その影響やそれへの対応に関する開示が数多くなされているが、今回取り上げる開示も、緊急事態宣言への対応に関するものである。 2 賃料請求せず 「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業及びテナント事業者支援についてのお知らせ」では、最初に次のように記載されている。 そして、2020年の4月11日から5月6日までの間、緊急事態宣言対象地域の家具売場を休業するとしたうえで、テナント事業者に対して、休業期間中の賃料を一切請求しないとしている。 また、島忠のほかにも、イオンモール株式会社が、2020年4月2日、適時開示ではないが、ホームページ上に「テナント賃料減免について」を掲載し、3月と4月、テナントの賃料算定における月間最低保証売上高を撤廃するとしている(売上高に一定率を乗じて賃料を算定するうえでの最低保証売上高を撤廃するので、この場合も、休業で売上がゼロになれば、賃料もゼロになる)。 3 アルバイトにも支給 「当社全従業員に対する、特別支援金の支給決定に関するお知らせ」では、次のような目的から、全従業員に対して(定時社員やアルバイト社員にも)、総額452百万円の特別支援金を2020年4月24日(4月分給与支給日と同日)に支給するとしている。 島忠の2019年8月期の有価証券報告書によると、2019年8月末現在の従業員数は1,559人、2019年8月期1年間の平均臨時従業員数は2,899人である。それらの合計4,458人で452百万円を割ると、101,390円となるため、従業員1人当たり約10万円の特別支援金が支給されるようである。従業員にとって、かなり励みになるのではないだろうか。 このほか、役員報酬を減額することにした企業も多数ある。例えば、株式会社ラウンドワンは、2020年4月7日に「取締役報酬の自主返上に関するお知らせ」を開示し、2020年の4月から6月までの3月間、社外取締役・非常勤取締役を除く取締役の月額報酬の10%を減額するとしている。同社は、2020年の4月4日から5月6日までの間、国内の全ての店舗(緊急事態宣言対象地域以外も)を休業するとしている(2020年4月3日に「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う当社全103店舗臨時休業のお知らせ」を、4月7日に「新型コロナウイルス感染拡大防止に伴う臨時休業(全103店舗)、休業期間延長のお知らせ」を開示)。 4 戦争が終わった後 戦後生まれの筆者は戦争を経験したことがないが、現在の状況は戦時と似ているのかもしれない。最初の頃は皆が早く終わるだろうと思っていたが、なかなか終わらず、しかも状況はどんどんと悪くなっていく。『孫子』の中に「兵は拙速を聞く。未だ巧みの久しきを賭ず」という言葉があるが、政府はこの戦争を短期間で終わらせるよう努めるべきだった。長期戦に持ち込んでしまった政府の責任は重すぎる。 島忠は緊急事態宣言の2日後にこれらの開示を行っている。同社の2019年8月期の当期純利益は6,049百万円であり、特別支援金の総額452百万円は、同社にとって決して低い額ではない。短期間でかなり思い切った判断を下したと思う。比較するのはおかしいかもしれないが、政府とは対照的である。 もしかしたら、同社の株主の中には、同社のこうした対応は同社の利益を減らすことになるので、眉をひそめる者がいるかもしれない(いないだろうと思うが)。しかし、短期的にはそうであっても、長期的に見れば、同社の対応は間違いなく正しい。事業を継続するうえで最も大切なことは、利害関係者との信頼関係である。利害関係者には、取引先や従業員のほか、消費者や株主なども含まれる。 この戦争が終わった後、復活することができる企業、更に成長することができる企業は、そうした信頼関係を維持し続けられる企業だろう。自社だけが良ければという姿勢の企業や、工夫すれば、従業員の在宅勤務が可能であるのに、その検討すらしないような企業は、この戦争を機に淘汰されてしまうだろう。 (了)
《速報解説》 債権法改正に伴う「国税通則法基本通達(徴収部関係)」及び 「国税徴収法基本通達」の一部改正について 弁護士 下尾 裕 本稿においては、国税庁が令和2年4月1日付(ホームページ公表は4月7日)で公表した「国税通則法基本通達(徴収部関係)」(以下「通基通」という)及び「国税徴収法基本通達」(以下「徴基通」という)の一部改正の概要について解説を行う。 これら基本通達の改正は、基本的に令和2年4月1日より全面施行された民法(債権法)改正(平成29年法律第44号に基づく民法改正。以下「債権法改正」といい、改正前の民法を指して「改正前民法」という)、並びに、債権法改正を前提に改正された国税通則法(以下「通法」という)及び国税徴収法の各内容を踏まえ、各通達の内容をこれらの法改正に沿ったものに変更するとともに、数字や接続詞の表記を一部改めたものである。 債権法改正の多くは、これまで判例・通説により形成されてきた民法上の考え方を法律において明記するものであることから、上記通達においても実質的改正にわたるものは多くない。そこで、以下においては、実質的な改正を含む箇所に重点を置いて、その概要を解説する。 なお、各通達の改正後も、令和2年3月31日以前に生じた権利及び納税義務等については、なお従前の例によることとされている。 1 通基通関係 (1) 連帯納税義務における相対効の原則 国税の連帯納付義務については民法における連帯債務等の規定が準用されるところ(通法第8条)、債権法改正においては、連帯債務者のうち1人の債務者に生じた債務の消滅、請求、消滅時効完成等の効力は他の連帯債務者にも影響を及ぼすものとされていた改正前民法の考え方を改め、債務履行による債務消滅以外の事由については、原則として他の債権者に影響を及ぼさないこととされた(相対効の原則)。 これを踏まえ、通基通第8条関係から第9条の3関係等においては、連帯納税義務においても相対効が原則となることを明らかにするとともに、これに伴う改正が行われた。 (2) 債権者代位権等の取扱い 国税の徴収においては、債権者代位権及び詐害行為取消権に関する民法の規定が準用されるところ(通法第42条)、債権法改正においては、従前の判例により確立した考え方を明文化するとともに、従前、争いのあった事項について一定の整理がなされた。また、特に債権者取消権の行使要件については、同様の制度である破産法上の否認権の要件に沿って行使要件を整備するなどの改正が行われた。 これを踏まえ、通基通第42条関係においては、これら債権法改正の内容を踏まえた改正が行われた。 (3) 保証人に対する通知等 国税の保証人についても民法の保証に関する定めの適用があるところ、債権法改正においては、保証人保護の観点から、保証人からの請求があった場合や個人保証の主債務者が期限の利益を喪失した場合に、債権者からの一定の情報提供を行うべき義務に関する規定が新設された。 これを踏まえ、通基通においても、第49条関係、第50条関係及び第52条関係において、当該情報提供義務を踏まえた改正が行われた。 (4) 国税の徴収権の消滅時効に関する概念等の整理 国税の徴収権の消滅時効については、消滅時効に関する民法の規定が準用されているところ(通法第72条第3項)、債権法改正においては、改正民法における時効の中断及び停止の概念を整理した上、新たに時効の完成猶予及び更新の定めを設けるなどの改正が行われた。 これを踏まえ、通基通においては、第72条関係及び第73条関係において、時効の完成猶予及び更新の定めを踏まえた改正を行った。 2 徴基通関係 徴基通においては、上記連帯債務に関する改正(第62条関係)、債権者代位権等に関する改正(第47条関係)、及び、消滅時効に関する改正(第19条関係、第24条関係等)、並びに、債権法改正において瑕疵担保責任が「契約不適合」による責任と整理されたこと等による所要の改正(第15条関係21等)のほか、主に以下の改正がなされている。 なお、徴基通においては、相続法改正(平成30年法律第72号に基づく民法改正)により配偶者居住権が新設されたことによる改正(第106条関係)も一部盛り込まれている。 (1) 譲渡禁止特約付債権の譲渡に関する規律 改正前民法においては、債権譲渡禁止特約に反する債権の効力は悪意・重過失の譲受人との関係では無効と解されていたが、債権法改正により当該譲渡自体は有効と整理された上、悪意・重過失の譲受人に対しては弁済を拒絶できるに過ぎないものとされた(民法第466条第2項及び第3項)。 これを踏まえ、徴基通第62条関係(13及び14)では、上記内容を踏まえた改正が行われた。 (2) 債権取立てに係る履行時間 改正前民法は、債権取立ての履行時間について特段の定めを置いていなかったところ、債権法改正により、法令等に取引時間の定めがある場合にはその時間内に限り取立て等を行うことができる旨の定めが新設された(民法第484条第2項)。 これを踏まえ、徴基通第67条関係(9ー2)では、上記内容を踏まえた改正が行われた。 (了)
《速報解説》 監査基準委員会報告書510「初年度監査の期首残高」等 5つの報告書が意見募集を経て改正される ~各監査報告書文例の「限定付適正意見の根拠」に限定付適正意見とした理由等を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月9日付けで(ホームページ掲載日は2020年4月17日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。 これにより、2020年2月25日から意見募集していた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対して特段のコメントは寄せられなかったとのことである。 これは、2019年9月3日付けの監査基準改訂の内容を反映させるために、主として、各監査基準委員会報告書の監査報告書の文例における限定付適正意見の根拠区分に、除外事項に関し重要性はあるが広範性はないと判断し限定付適正意見とした理由の記載を追加する改正である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「除外事項付意見の監査報告書の文例」において、「この影響は・・・・・・・である。したがって、財務諸表に及ぼす影響は重要であるが広範ではない。」という記載が追加されている。 当該記載に関して、「・・・・・・・」には、重要ではあるが広範ではないと判断し、不適正意見ではなく限定付適正意見とした理由又は意見不表明ではなく限定付適正意見とした理由を、財務諸表利用者の視点に立って分かりやすく具体的に記載すると説明されている。 広範性の判断の記載に当たっては、監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」Q1-6「除外事項の重要性と広範性及び除外事項の記載上の留意点」を参照する。 Ⅲ 適用時期等 2020年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 2020年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間監査から適用する(監査基準委員会報告書570「継続企業」)。 (了)
《速報解説》 会計士協会「監査ツール」の改正(公開草案)を公表 ~監査上の主要な検討事項(KAM)の解説を追加、様式の新設も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月17日、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設及び関連する監査基準委員会報告書の改正(2019年2月)並びに監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」の改正及び同315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」等の改正(2019年6月)を受けたものである。 意見募集期間は2020年5月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 監査上の主要な検討事項(KAM)に関する見直し 監査上の主要な検討事項(KAM)について、解説を本文80項から86項に集約及び追加するとともに、様式11として「監査上の主要な検討事項と監査上の対応の立案」を新設する。 2 監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」及び同315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」 監査基準委員会報告書610「内部監査人の作業の利用」について、本文46項及び様式3-9を全面的に見直している。 監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」について、本文46項にその旨を追加するとともに、様式3-1の見直しを行っている。 監基報315等の改正より、財務諸表における注記事項の重要性の高まりを踏まえて、本文及び様式について見直しを行っている。 (了)
《速報解説》 国税庁、法人税基本通達等の改正により コロナ被災の取引先支援に自然災害時の取扱いを適用する旨を追記 Profession Journal編集部 新型コロナウイルス感染拡大やそれを受け発令された政府の緊急事態宣言によって、経営の見通しが立たず苦境に陥る企業や事業者が多い中、国税庁は4月13日付けで法人税基本通達等を一部改正し、取引先支援を行った法人に対し災害時の取扱いが適用されることを明らかにした。 通常、得意先等の取引先(※)に対する売掛債権等を免除した場合には、その免除による損失は寄附金や交際費等とみなされるが、自然災害を受けた取引先に対し、その復旧を支援することを目的とした免除については、寄附金や交際費等に該当しないものとして取り扱うことができる。また、被災した取引先への災害見舞金や、下請企業の従業員等のために支出する見舞金品も交際費等には該当しないとされる。 (※) 「得意先等の取引先」には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められる者を含む。 具体的には下記の通達によってこれらの取扱いが示されている。 上記の項目は阪神・淡路大震災が発生した平成7年の通達改正で創設されたものだが、今回の改正では、各項目に注書きとして以下のような追加が行われた(連結納税関係も同様)。 これにより今回の感染症の影響で経営危機に陥っている取引先に対し、売掛金、未収請負金、貸付金などの全部又は一部を免除したことによる損失は、寄附金や交際費等に該当しないこととされる。 一部地域のみ甚大な影響を及ぼす自然災害とは異なり、感染症の影響は全国に及んでいるため、この状況下で経営の安定している企業自体限られるかもしれないが、金融機関からの追加融資や政府からの資金援助が実行されるまで一定の時間を要する中、売掛債権等の免除による取引先支援を行うことは、結果的に自社の経営の安定につながるとも考えられよう。 (了)
《速報解説》 金融庁、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会について 柔軟かつ適切な対応を求める声明を公表 ~継続会開催による対応を提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年4月15日、金融庁に設置された新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会は、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表した。 これは、2020(令和2)年4月14日の「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」に続くものであり、主に、3月期決算の場合に通常6月末に開催される株主総会の運営に関するものである。 また、同日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その3)」を公表し、上記の金融庁の公表に関する注意喚起を行っている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 株主総会運営 新型コロナウイルス感染症の拡大下における決算業務及び監査業務に際して、当初予定したスケジュールの形式的な遵守に必要以上に拘泥することは、関係法令が確保しようとした実質的な趣旨をかえって没却することにもなりかねないとの危機意識から、以下の点を踏まえつつ、柔軟かつ適切に対応していくことを求めている。 Ⅲ 企業及び監査法人 企業及び監査法人においては、有価証券報告書、四半期報告書等の提出期限について、9月末まで一律に延長する内閣府令改正が行われること等を踏まえ、従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算及び監査の業務を遂行していくことが求められている。 Ⅳ 投資家 投資家においては、投資先企業の持続的成長に資するよう、平時にもまして、長期的な視点からの財務の健全性確保の必要性などに留意することが求められるとともに、各企業の決算や監査の実施に係る現下の窮状を踏まえ、上記の定時株主総会・継続会の取扱い等についての理解が求められている。 (了)
2020年4月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.365を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第78回】 「緊急経済対策における税制上の措置」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇過去最大規模の緊急経済対策 4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されるとともに、事業規模は過去最大の108兆円にのぼる新型コロナウイルス感染症緊急経済対策が閣議決定された。 これは新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、I.感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発、Ⅱ.雇用の維持と事業の継続、Ⅲ.次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復、Ⅳ.強靭な経済構造の構築、Ⅴ.今後への備え、を5つの柱として、様々な施策が盛り込まれている。 今回の経済対策に盛り込まれている税制上の措置では、新型コロナウイルス感染症のわが国社会経済に与える影響が甚大なものであることに鑑み、感染症及びその蔓延防止のための措置の影響により厳しい状況に置かれている納税者に対し、緊急に必要な税制上の措置を講ずることとしている。 具体的には、国税に関しては、納税の猶予制度の特例、欠損金の繰戻しによる還付の特例、テレワーク等のための中小企業の設備投資税制、住宅ローン控除の適用要件の弾力化、文化芸術・スポーツイベントを中止等した主催者に対する払戻請求権を放棄した観客等への寄附金控除の適用、消費税の課税事業者選択届出書等の提出に係る特例、特別貸付けに係る契約書の印紙税の非課税が盛り込まれた。 また地方税に関しては、国税と同様の措置(納税猶予、寄附金控除、住宅ローン)の他、中小事業者等が所有する償却資産及び事業用家屋に係る固定資産税及び都市計画税の軽減措置、生産性革命に向けた固定資産税の特例措置の拡充・延長、自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減の延長、耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化が盛り込まれた。 なお、本特例の実施については、関係法案が国会で成立すること等が前提となる。 〇納税の猶予 イベントの自粛要請や入国制限措置など、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための措置に起因して多くの事業者の収入が急減しているという状況を踏まえ、収入に相当の減少があった事業者の国税・地方税及び社会保険料について、無担保かつ延滞税なしで1年間、納付を猶予する特例を設けることとされた。 現行制度においても、一定期間(原則1年)において大幅な赤字が発生した場合に納税を猶予する制度はあるが、適用を受けるには、原則として担保の提供が必要であり、延滞税は軽減される(1.6%)ものの支払いが必要である。 今回の特例措置では、具体的には、本年(2020年)2月以降の一定期間(1ヶ月以上)において収入が前年同期比で概ね20%以上減少した場合、法人税や消費税、固定資産税など基本的に全ての税目及び社会保険料について、無担保かつ延滞税なしで1年間納税を猶予する措置を実施することとされている。 〇欠損金の繰戻し還付の特例 納税猶予と同様の趣旨から、資本金1億円超10億円以下の企業に生じた欠損金について、欠損金の繰戻しによる法人税等の還付制度の適用を可能とする。 現行法では、中小企業(資本金1億円以下)のみが繰戻し還付の対象であるところ、中堅企業(資本金1億円超10億円以下)の法人について繰戻し還付を認める(2020年2月1日から2022年1月31日までに終了する事業年度)。 〇テレワーク等のための中小企業の設備投資税制 新型コロナウイルス感染症の拡大により顕在化した社会的課題に対応する非対面・非接触ビジネスを促進するため、平成31年度税制改正で2年延長された中小企業経営強化税制に新たな類型を追加する措置が講じられる。 新たな類型として、事業プロセスの遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能とする設備を取得した場合、即時償却又は7%(資本金3,000万円以下の法人は10%)の税額控除ができる。 対象設備の金額要件は、機械・装置は160万円以上、工具は30万円以上、器具備品も30万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウェアは70万円以上である。 〇チケットの払戻請求権放棄について寄附金控除の対象化 政府の自粛要請を踏まえて一定の文化芸術・スポーツイベントを中止等した場合に、当該イベントの入場料等について、観客等が払戻請求権を放棄した場合は、当該放棄した金額について、所得税の寄附金控除(所得控除又は税額控除)の対象とする(住民税でも対応)。なお、この特例を用いた寄附金控除の対象金額は20万円を上限とする。 また、この適用を受けるには、確定申告の際、特例対象のイベントであることを証明するものと払戻請求権を放棄したことを証明するものを添付する必要がある。 〇住宅ローン控除の適用要件の弾力化 従前の住宅ローン控除制度は、毎年末の住宅ローン残高又は住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が10年間にわたり所得税の額から控除され、所得税からは控除しきれない場合には、住民税からも一部控除されることとなっていた。加えて、消費税率10%が適用される住宅の取得をして、2019年10月1日から2020年12月31日までの間に入居した場合には、控除期間が3年間延長されている。 今回の措置では、新型コロナウイルス感染症の影響による住宅建設の遅延等への対応として、本年(2020年)12月末までに入居できなかった場合でも、①新型コロナウイルス感染症の影響によって新築住宅、建売住宅、中古住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと、②一定の期日(新築の場合は2020年9月まで、建売住宅・中古住宅の取得、増改築等の場合は2020年11月末まで)に契約を行っていること、③2021年12月末までに②の住宅に入居していること、という3要件を満たせば、控除期間が13年に延長されている制度を適用できることとされている。 〇耐震改修した住宅に係る不動産取得税の特例措置の適用要件の弾力化 現行制度では、耐震基準不適合既存住宅について、その取得の日から6ヶ月以内に耐震改修を行い、耐震基準に適合することにつき証明を受け、かつ入居した場合に、当該住宅が新築された時点に応じて一定の額に税率を乗じて得た金額を減額することとされている。 今回の措置では、前記住宅ローン控除と同様に、新型コロナウイルス感染症の影響によって入居の時期が遅れた場合を念頭に、①新型コロナウイルス感染症の影響によって耐震改修した住宅を居住の用に供することとなった日が取得の日から6月を経過する日後になったこと、②耐震改修に係る工事の請負契約を住宅取得の日から5月を経過する日又は法律の施行の日から2月を経過する日のいずれか遅い日までに締結していること、③耐震改修に係る工事の終了後6月以内に当該住宅を居住の用に供すること、という3要件を満たせば、2021年度末入居分まで、この不動産取得税の特例が適用されることとされている。 〇固定資産税・都市計画税の軽減措置 中小事業者の税負担を軽減するため、本年2月~10月までの任意の3ヶ月間の売上高が、前年の同期間と比べて、50%以上減少している中小事業者について、その有するすべての償却資産と事業用家屋を対象に、その2021年度の固定資産税及び都市計画税の全額を免除(売上高の減少が30%~50%の場合、1/2を免除)することとされた。なお、すでに課税が行われている2020年度の固定資産税及び都市計画税については、前記の納税猶予で対応する。 このような制度創設とともに、既存の制度の拡充も行われる。 現在、中小企業が新たに投資した設備(一定の生産性向上に資する機械装置・器具備品・工具・建物附属設備)については、自治体の定める条例に沿って、投資後3年間、固定資産税が免除ないし2分の1まで軽減することとされている。本年2月末現在で、この制度の適用の前提となる導入促進基本計画を策定し国の同意を受けた市町村は全国で1646自治体を数え、このうち1642自治体が固定資産税を免除している。 今回の特例では、この制度の対象に、事業用家屋(取得価額の合計額が300万円以上の先端設備とともに導入されたもの)と構築物(旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上するもの)を追加するとともに、適用期限を2年延長する(2021年3月末→2023年3月末)。 〇自動車税・軽自動車税環境性能割の臨時的軽減措置の延長 消費税率10%引上げに伴う臨時措置として、2019年10月から2020年9月末までに購入された自家用自動車・軽自動車については、自動車税・軽自動車税の環境性能割の税率1%分を引き下げる措置が講じられているところである。 今回の措置ではこの臨時措置について、国内の自動車需要を支える観点から、軽減期間を2021年3月まで6ヶ月延長することとされた。 (了)