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monthly TAX views -No.84-「マイナポイントを軽減税率廃止につなげよう」

monthly TAX views -No.84- 「マイナポイントを軽減税率廃止につなげよう」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   東京オリンピック後の経済活性策・消費喚起策として、マイナンバーカードを取得しキャッシュレス決済で買い物した場合に、一定額のポイントが付与される「マイナポイント制度」が始まる。 カードを取得し民間のキャッシュレス決済を申し込めば、2万円の支払に対して5,000円のポイントがカードのICチップに付与されるという。 この制度の真の狙いはマイナンバーカードの取得促進だ。マイナンバー制度が導入されカードが交付されてから5年になるが、発行枚数は1,850万枚、国民の2割にも満たない状況である。政府はデジタル・ガバメントを提唱しているが、このようなカード普及率では絵に描いた餅になる。 カード普及のためには、2020年度から開始が予定されている健康保険証としての利用などカード利用のメリットを作り国民に訴えることが王道だろう。 *  *  * マイナポイント制度の導入で筆者が思い出すのは、「日本型軽減税率」である。もう忘れた方も多いと思われるが、2015年9月、財務省が提言した消費税逆進性対策である。 この案は、「買い物時に消費者は10%を支払うが、一定所得以下の者の飲食料支出には後から2%分を払い戻す」という内容で、軽減税率の代案である。 会計の際にマイナンバーカードを店舗の端末にかざし、カードに記載されたICチップを読み取り本人確認をしてポイントを還付、後日現金に変えて本人の口座に振り込む。マイナンバーカードを所得情報と結びつけることができるので、対象者を一定の所得以下に絞り、還付金額も一定額の範囲内にすることができる。高所得者にまで適用となる軽減税率より財源面ではるかに効果的だ。実際、低所得者に限定する財務省案の財源規模は、現行の軽減税率(1兆円の減収)に比べて3分の1程度といわれていた。 現行の消費税軽減税率は、卸段階も含めあらゆる取引段階で区分が必要だが、この案では消費段階だけなので、事業者のコスト負担ははるかに少ない。外食サービスも対象に含めていたので、イートインやテイクアウトの相違に伴う混乱は生じない。 当時は、マイナンバーカードの普及が十分ではないことや、カードをかざすとマイナンバーが漏れる可能性があるという国民のプライバシー上の不安(番号を使うわけではないのでこれは誤解)などから反対があったが、新聞業界が「還付制度では新聞は買わない」と反対したことなども、つぶれた原因だ。 *  *  * 今回のキャッシュレス・ポイント還元で、多くの小売店はレジを高度化した。加えて国民一人一人が持つマイナンバーと紐づけたカードにポイントを付与する制度も出来上がる。 カードが普及すれば、事業者・消費者に多大なコストをかけている軽減税率を廃止して、低所得者だけにポイントを付与する、逆進性対策が可能になる。 (了)

#No. 351(掲載号)
#森信 茂樹
2020/01/09

令和元年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「注意しておきたい最近の改正事項②」

令和元年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「注意しておきたい最近の改正事項②」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   前回に引き続き、最近の改正事項のうち確定申告実務に影響のある主要な項目を取り上げる。      【1】 住宅借入金等特別控除の改正(令和元年10月以後居住開始分) 消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅を取得等して令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に居住の用に供した場合には、住宅借入金等特別控除の控除期間が3年延長され13年間となる(措法41⑬~⑰)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 改正内容の詳細については、下記拙稿をご参照いただきたい。 なお、下記国税庁ホームページに、新しい住宅借入金等特別控除額の計算明細書の様式や記載例が掲載されているので、参考にされたい。   【2】 居住用財産(空き家)の譲渡特例の拡充(平成31年4月以後譲渡分) 相続又は遺贈により取得した被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合、一定の要件を満たしていれば譲渡所得の特別控除(居住用財産の3,000万円控除の特例、以下「特例」という)の適用を受けることができる(措法35①③)。 改正前は、譲渡された空き家が、相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていたことが要件とされていた。よって、被相続人が老人ホーム等に入所したまま相続が発生した場合には、特例の適用を受けることができなかった。 しかし、令和元年度税制改正により、平成31年4月1日以後の譲渡については、被相続人が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入居していた場合(相続開始直前に居住していなかった場合)も、特例の対象とされた(措法35③④⑤、措令23⑥、R1改正法附則34⑥)。 ただし、老人ホーム等に入居中、次の要件を満たしていなければならない(措令23⑦)。 なお、特例の適用を受ける場合には、空き家の所在地を管轄する市区町村長から、上記①、②をはじめとする一定の要件を満たすことを証した「被相続人居住用家屋等確認書」(下記、国土交通省ホームページ参照)の交付を受け、申告書に添付する必要がある(措規18の2②二イ(3))。   【3】 仮想通貨に係る措置(令和元年分以後) 仮想通貨に係る税務上の取扱いが規定された。 (1) 評価の方法及びその選定 仮想通貨につき事業所得又は雑所得の計算上必要経費に算入する金額の算定において、算定の基礎となるその年12月31日において有する仮想通貨の価額は、仮想通貨について選定した評価の方法(「総平均法」又は「移動平均法」、評価方法を選定しなかった場合には「総平均法」)により評価した金額とされた(所法48の2①、所令119の2①、119の5①)。 評価の方法は、仮想通貨の種類ごと(例:ビットコイン、イーサリアム等)に選定しなければならない(所令119の3①)。また、評価の方法を選定する場合には、仮想通貨を新たに取得した日の属する年分の確定申告期限までに「所得税の仮想通貨の評価方法の届出書」を所轄税務署長に提出することとされている(所令119の3②)。 なお、上記の取扱いを定める法律の施行日は平成31年4月1日であり、同日の前から仮想通貨を有している場合には、令和元年分の確定申告期限(令和2年3月16日)までに届出書を提出する必要がある。 〇所得税の仮想通貨の評価方法の届出書の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (出典) 国税庁ホームページ「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和元年12月20日)」 (2) 5%概算取得費の容認 売却した仮想通貨の取得価額が不明な場合等には、売却価額の5%相当額を取得価額として事業所得又は雑所得の金額を計算できることとされた(所基通48の2-4)。   【4】 控除証明書等の電子的交付(平成30年分以後) 平成30年分以後の確定申告で生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除の適用を受ける場合には、書面により交付を受けた控除証明書や受領証だけでなく電磁的記録印刷書面(※)(QRコード付控除証明書等)を申告書に添付又は提示することができる(所法120③一、所令262①四~六・②、所規47の2④)。 (※) 保険会社や寄附先等から電磁的方法により交付された控除証明書や受領証を、国税庁長官の定める方法によって出力することにより作成した書面。 なお、確定申告書をe-Taxで送信する場合には、保険会社や寄附先等から電磁的方法により交付された控除証明書等を添付して提出(送信)することができる。   【5】 確定申告書の記載事項の見直し、添付書類の簡素化 (1) 確定申告書の記載事項の見直し(令和元年分以後) 年末調整を受けた納税者が確定申告書を提出する場合、年末調整で適用を受けた所得控除については、以下のとおり記載事項が見直し(簡素化)された(所法120①、122③、125④、127④、所令263①、所規47①②④、48②)。 なお、見直しに伴い、確定申告書Bの様式が一部変更されている(所得控除の部分)。 (2) 確定申告書の添付書類の簡素化 平成31年4月1日以後に確定申告書を提出する場合、次の書類は申告書に添付又は提示することを要しないこととされた(旧所法120③四、旧所令262⑤、旧措令4の2⑨⑪、25の9⑭⑮、25の11の2⑳、25の12の2㉔)。   【6】 スマートフォン等からのe-Tax送信(令和2年1月31日以後) 令和2年1月31日から、スマートフォンやタブレット(マイナンバーカード対応のもの)とマイナンバーカードを用い、確定申告書をスマートフォンやタブレットからe-Taxにより送信できるようになる。 詳細は、国税庁の下記ホームページをご参照いただきたい。 *  *  * 次回(最終回)は、人的控除を中心に確定申告実務において判断に迷う事項をQ&A形式でまとめる予定である。 (了)   

#No. 351(掲載号)
#篠藤 敦子
2020/01/09

相続空き家の特例 [一問一答] 【第45回】「第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生しその相続人が1人の場合」-第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生した場合-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第45回】 「第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生しその相続人が1人の場合」 -第一次相続が未分割のままで第二次相続が発生した場合-   税理士 大久保 昭佳   Q 本年1月にY(父)が死亡し、その際の相続人は、Z(母)及びX(子)の計2名でしたが、Yに遺言はなく、遺産分割協議を行う前、同年3月にZが続いて死亡しました。 Zが自己の居住の用に供していた家屋(昭和56年5月31日以前に建築)及びその敷地は、その全部がY名義のままでした。 この度、Zの死亡に伴い、Xは、その家屋を取り壊して更地にし、その敷地を売却することを考えています。 Zの相続開始直前までは、その家屋にZが一人で暮らしていました。この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」を受けることができるでしょうか。 A Xはその譲渡所得のうち、Zの法定相続分である2分の1について、「相続空き家の特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 被相続人の配偶者は、常に相続人となるとされ(民法第890条)、被相続人と最も深いつながりがある立場としてその相続権は尊重されることとなっています。ただ、配偶者は、通常、被相続人と年齢が近いことが多いことなどから、被相続人に係る遺産分割協議を行う前にその配偶者が死亡される場合もよくあります。 相続が発生して、相続人が複数いる場合は、遺言があれば遺言どおりに、遺言がなければ遺産分割協議によってその遺産を配分することとなりますが、その協議を行う前の遺産は、民法上、相続人全員の共有となっていて、これを「共同相続」といいます。 この「共同相続」は過渡的なものですが、遺産分割協議によりその配分が確定するまでは、その遺産の共有状態が続くこととなります。 本事例の場合にあてはめると、Yの遺産に係る分割協議が行われる前に、Zが死亡しているため、Y名義の家屋及び敷地は、ZとXの法定相続分(Zの持分:2分の1、Xの持分:2分の1)による共有による所有となります。そして、Zの死亡後に、改めてZの相続分をXが相続により取得したこととなります。 したがって、Xは、その家屋及びその敷地のうち、Yの死亡後に一人暮らしとなったZの法定相続分である2分の1について、他の要件を満たす場合には、本特例の適用を受けることができることとなります。 (了)

#No. 351(掲載号)
#大久保 昭佳
2020/01/09

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例13】「従業員への慰安目的で実施する「感謝の夕べ」に要する費用の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例13】 「従業員への慰安目的で実施する「感謝の夕べ」に要する費用の損金性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は九州地方の政令指定都市で、食品の製造販売を行っている資本金5億円の株式会社Aで総務部長兼経理部長を務めております。わが社は一昨年に創業50周年を迎え、ここ数年は業績も堅調であったことから、昨年3月の決算期前の週末に、全従業員(子会社を含め概ね500名程度)を対象に大分県の温泉旅館を貸し切って一泊2日の「感謝の夕べ」を開催しました。 当該「感謝の夕べ」においては、「従業員こそわが社の最大の資産」という現社長の考えから、日ごろの従業員の労苦に報いるとともに、リフレッシュして翌期以後の更なる業績向上につなげる目的で、バスをチャーターして温泉旅館を訪れ、温泉につかったあと夜は山海の珍味に舌鼓を打ちながらプロの芸人によるコントやものまねのショーが執り行われました。また、翌日は旅館で朝食をとった後、バスで会社に戻り解散するというスケジュールとなりました。当日の参加者は全従業員の9割を超え、帰社後にとったアンケートの回答の多くは「仕事へのモチベーション向上につながった」と肯定的なものであったため、福利厚生を担当する総務部長としても、今回の「感謝の夕べ」は大成功であったと自負しております。 わが社においては、昨年3月期の法人税の申告に関し、上記「感謝の夕べ」に要した諸費用をすべて福利厚生費として損金算入しておりました。ところが、先日受けた税務調査で調査官は、従業員は租税特別措置法第61条の4第4項にいう「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」に該当し、かつ、その金額が総額約1,200万円と高額であることから、同条第3項の「通常要する費用」の範囲を超えているため、交際費等に該当するとして、全額損金不算入となる旨言い渡されました。 私は入社以来経理一筋で30年のキャリアがありますが、これまでの経験と同業者との勉強会等で得た知識から、わが社が行うような全従業員を対象とした慰安目的の「感謝の夕べ」は、まさに福利厚生費そのものであり、交際費と解する余地はないものと認識しております。また、金額が高額であることを問題としているようですが、総額は確かに1,200万円と目立つ支出といえますが、参加者1人当たりに直せば約24,000円に過ぎず、交通費を含めた一泊旅行としては比較的リーズナブルといえます。したがって、当該支出は「通常要する費用」の観点からも交際費には該当しないものと考えられますが、いかがでしょうか。   【A】 租税特別措置法第61条の4で損金算入が制限されている交際費は、従来からその隣接費用との区別が問題となってきましたが、本件のように「感謝の夕べ」のような行事に関する交際費と福利厚生費との区分を判断する際には、法人の規模や事業内容等を踏まえた上で、社会通念上福利厚生費として認められるかどうか、行事の目的、参加者の構成、規模や内容、効果、参加者1人当たりの費用等を総合的に勘案して判断することとなります。 当該基準を本件に当てはめると、従業員全体を対象に、日頃の労苦に報いるとともに、リフレッシュして翌期以後の更なる業績向上につなげる目的で行った当該行事は「専ら従業員の慰安のために行われるもの」と認定すべきものであり、また、参加者1人当たり約24,000円という金額も「通常要する費用」を超えているとは言い難いことから、「感謝の夕べ」にかかる費用は福利厚生費と解するのが妥当であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 交際費の意義 法人税の税務調査において、調査官と企業の担当者・税理士との間でしばしば議論となるのは、交際費と隣接費用との区分の問題である。ここではまず交際費の意義についてみておく。 法人税法(実際には租税特別措置法に規定がある)上の交際費とは、交際費・接待費・機密費その他の費用で、法人がその得意先・仕入先その他事業に関係のある者に対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(措法61の4④)。交際費は企業会計上、費用となるのであるが、法人の課税所得計算において、仮にその損金算入を無制限に認めると、いたずらに法人の冗費・濫費を増大・助長させる恐れがあるため、租税特別措置法で、資本金が1億円を超える法人について、原則として全額損金不算入としている(措法61の4②)。 法人における交際費の損金不算入規定は、昭和29年度の税制改正で導入された制度であるが、平成18年度の税制改正で中小法人(資本金1億円以下の一定の法人)に係る定額控除限度額制度(当初600万円が平成25年度の改正で800万円に引上げ)により要件が相当程度緩和され(措法61の4②)、さらに平成26年度の税制改正で接待飲食費の額の50%相当額までは損金に算入されることとなった(措法61の4①)(※1)。 (※1) 令和2年度税制改正では、接待飲食費の額の損金算入特例の対象法人から資本金の額等が100億円を超える法人が除外される予定である。 なお、上記接待飲食費は、専ら法人の役員、従業員又はそれらの親族に対する接待等のために支出するものは除かれるため(措法61の4④)、本件のように従業員を対象とする宿泊付きの宴会等は対象外となる。   (2) 交際費と福利厚生費との区分を巡る裁判例 交際費と隣接費用との区分を巡る問題については、これまで議論を尽くされてきた論点であり、解釈の基準も確立されているためもはや新しい論点はないとされがちであるが、最近の裁判例を見てみると必ずしもそうとはいないものもある。 そこで、以下でその内容を確認していきたい(福岡地裁平成29年4月25日判決・税資257号順号13015、TAINSコード:Z267-13015、確定)。 ① 事案の概要 本件は、養鶏事業、食肉等食料品の販売事業等を営んでいる原告が、平成20年3月期から平成24年3月期の5事業年度分の法人税に関して、 1)従業員等に対する「感謝の集い」と名付けられた行事に係る費用の一部、及び、 2)原告の工場内の下請企業の従業員に対して支給した「表彰金」と名付けられた金員に係る費用 を損金の額に算入した上で確定申告をしたところ、処分行政庁が、上記各費用につき、いずれも租税特別措置法第61条の4第3項に規定する「交際費等」に当たり、損金の額に算入することはできないとの判断に基づき、平成25年5月27日付けで平成20年3月期から平成24年3月期の5事業年度分の法人税の更正処分(再更正を含む)及び過少申告加算税の賦課決定処分を行い、さらに、平成25年9月9日付けで平成21年3月期から平成24年3月期の4事業年度の法人税の再更正処分(再々更正を含む)及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、原告が本件各更正処分等の取消しを求める事案である。 なお、処分行政庁は、本件訴訟の提起後、平成28年1月27日付けで、原告に対し、本件各事業年度の「表彰金」に係る費用を「原告の工場内等において原告の「従業員とともに経常的に従事している協力会社の従業員に対する支払であること」などから、「交際費等」には該当しないと認められるとして」、それぞれ損金の額に算入するとともに、関連する事業税等の金額を調整し、所得金額及び納付すべき税額を減額する再更正処分(再々更正及び再々々更正を含む)並びに過少申告加算税を減額する変更決定処分を行っている(※2)。 (※2) なお、本件訴訟代理人の判例評釈によれば、当該減額更正の理由は、原告の主張した理由をそっくり是認したものだということから、課税庁側の課税処分が慎重さに欠けるものだったということが推認される。山本洋一郎「措置法61の4(交際費等の損金不算入)の適用の限界」『税法学』578号196頁参照。 ② 本裁判例の争点 本件各福利厚生費は租税特別措置法第61条の4第1項の「交際費等」に該当するのか。具体的には、 の2点である。 ③ 裁判所の判断 〈交際費課税の趣旨〉 〈交際費と福利厚生費との区別〉 〈「感謝の集い」の損金性〉   (3) 福利厚生費と交際費の区分を巡る学説 福利厚生費と交際費の区分については、交際費等から除外される、、、、、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」の解釈が問題となるが、特に交際費等の支出の相手方に自社の従業員が含まれるかどうか(「除外規定」の解釈)を巡る学説としては、2つの見解がある。 1つは、役員や一部の従業員に対してのみ行った支出を交際費等とし、全従業員を対象とした慰安費用は福利厚生費として交際費等には該当しないというものである(確認的規定説(※3))。もう1つは、支出の相手方には従業員を含み、従業員に対する慰安費用は交際費等に該当する可能性があることに照らし、除外規定は、当該支出が通常要する費用であれば、交際費等から除外されることを定めた創設的規定であるとするものである(創設的規定説(※4))。 (※3) 宮本十至子「従業員等に対する「感謝の集い」の交際費等該当性」『最新租税基本判例70』(日本税務研究センター・2019年)157頁。 (※4) 宮本前掲(※3)評釈157頁。 上記(2)の裁判例で裁判所は、「措置法61条の4第3項が、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」について、損金不算入の取扱いを受ける「交際費等」から除外したのは(中略)、従業員も「事業に関係のある者等」に含まれ、交際費の支出の相手方となるものの、専ら従業員の慰労のために行われる諸活動のために「通常要する費用」は、従業員の福利厚生費として法人が負担するのが相当であり、その全額につき損金算入を認めても法人の冗費・濫費抑制等の目的に反しないからであると解される」と判示しており、支出の相手方には従業員を含む「創設的規定説」を採用しているものと考えられる。これは、例えば措置法通達61の4(1)-22で交際費等の支出の相手方には「当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意する」としている課税実務とも整合的である。   (4) 裁判例の評価 その上で、当該「感謝の集い」に係る費用が社会通念上福利厚生費として認められる程度(通常要する費用)を超えて交際費等に該当するか否かについて、裁判所は、「交際費等の損金不算入制度の趣旨及び目的に鑑み、当該法人の規模や事業状況等を踏まえた上で、当該行事の目的、参加者の構成(すなわち、従業員の全員参加を予定したものか否か)、開催頻度、規模及び内容、効果、参加者1人当たりの費用額等を総合して判断するのが相当である」という判断基準を示している。すなわち、「通常要する費用」は社会通念で判断され、それは社会的経済的情勢の変化とともに変わり得る(※5)ことを意味すると考えられる。 (※5) 交際費課税に係る近年の税制改正は、交際費課税の消費抑制的効果を緩和するものであり、その意味でも本件裁判例は改正動向と整合的であると評価できる。宮本前掲(※3)評釈157頁参照。 本裁判例の場合、以下のように各要素を精緻に検討して福利厚生費に該当すると判断したことになる。 〇福岡地裁平成29年4月25日判決の判断要素とその内容 上記①~⑥のいずれの要素をとってみても、社会通念上、「通常要する費用」の範囲を超えるものはないことから、交際費等ではなく福利厚生費として損金算入されるべき支出と判断されたこととなる。今後の実務においても個別事例の解釈例として(※6)参考になる裁判例といえよう。 (※6) 宮本前掲(※3)評釈157頁。   (5) 本件への当てはめ 上記(4)の判断要素を本件に適用してみると以下の表の通りとなり、いずれの要素をとってみても、社会通念上、「通常要する費用」の範囲を超えるものはないことから、交際費等ではなく福利厚生費として損金算入されるべき支出と判断されるだろう。 〇本件の判断要素とその内容 本件の「感謝の夕べ」のような行事に関する交際費と福利厚生費との区分を判断する際には、法人の規模や事業内容等を踏まえた上で、社会通念上福利厚生費として認められるかどうか、行事の目的、参加者の構成、規模や内容、効果、参加者1人当たりの費用等を総合的に勘案して判断することとなる。 当該基準を本件に当てはめると、従業員全体を対象に、日頃の労苦に報いるとともに、リフレッシュして翌期以後の更なる業績向上につなげる目的で行った当該行事は「専ら従業員の慰安のために行われるもの」と認定すべきものであり、また、参加者1人当たり約24,000円という金額も「通常要する費用」を超えているとは言い難いことから、「感謝の夕べ」にかかる費用は福利厚生費と解するのが妥当であると考えられる。 (了)

#No. 351(掲載号)
#安部 和彦
2020/01/09

《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第8回】「社長貸付金の解消問題に関する本質論(ビジネス的視点)」

《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第8回】 「社長貸付金の解消問題に関する本質論(ビジネス的視点)」   公認会計士・税理士 木下 勇人   社長貸付金の解消問題は相続税対策でしばしば取り上げられるが、その解決の一手法としてDES(債務の株式化)が存在する。しかし、DES(債務の株式化)の本来の目的は「財務の健全化」にあり、相続税対策だけがフォーカスされることには違和感を覚えてしまう。 そこで本稿では、DES(債務の株式化)を実行する原因となる社長貸付金そのものに焦点を当て、社長貸付金の解消問題に関する本質論をビジネス的視点を中心に検証する。   1 社長貸付金が増加する原因と投下資金の回収という視点 社長貸付金が増加する原因としては、主に次の場合が考えられる。 ただし、上記だけでは表面的な増加の原因を探れたに過ぎず、不十分である。貸付を受けた法人側では、当該資金を「運転資金」「設備資金」として資金投下、つまり、売上獲得のための資金投下となる。そのように考えた場合、投下資金の回収が図れたか否かが重要な視点となる。   2 業績の良い会社のケース 業績の良い会社が金融機関からの借入手続の煩雑さから解放されるために、社長からの借入を実行するのであれば、投下資金の回収を図れる可能性は高いといえる。つまり、投下資金を事業運用することで最終的には社長が回収可能な状態となる。また、社長が回収をせずに、会社が次の投資へそのまま投下資金を回すというのも選択肢の1つとなる。   3 業績の悪い会社のケース これに対して、業績の悪い会社の場合、金融機関からの融資が厳しく社長からの借入に頼るしかない状況となる。社長に余剰資金があれば、社長からの借入が「いつまでも」続くが、この場合の投下資金は、あっという間に底をついてしまう。つまり、「事業運用をして回収」というプロセスを構築できていない会社にいくら資金を投下しても、欠損金を生じさせる結果となってしまう。 ビジネスの視点からいえば、傷が深くなる前にビジネスそのものを再度見直すか、会社の廃業を検討すべきである。回収できる状況ではないが、資金は何とか回っている会社であっても変化の激しい昨今の社会情勢を鑑みた場合、現状維持では将来に不安を感じたほうが正常な状態といえる。   4 今後の税理士としてあるべき姿の検証 会社の将来性を考えた結果、これ以上の展開が望めないのであれば、今後は税理士としてもビジネスへのアドバイスをすべき時代である。もしくは、税理士がアドバイスしないまでも適切な専門家とアライアンスをしなければ、会社のビジネスそのものを破綻させてしまう可能性がある。ある意味、会計事務所そのもののビジネス構造とも似ているといえる。   5 「回収」という視点からの社長貸付金の検証 (1) 事業運用した上での資金回収 回収した資金を費消せずに保有したまま相続が発生すると、保有資金に対する相続税負担が生じるが、納税資金や遺産分割の調整資金となりうる。 (2) 債務免除(個人からは債権放棄) 債務免除は、資金を回収することなく債権そのものを消滅させるため、相続財産を構成することはない。ただし、法人側での出口戦略(繰越欠損金との相殺、みなし贈与課税)を検討する必要がある。 (3) DES(債務の株式化)の実行 DES(債務の株式化)を行うことで、債権が自社株に変換されるため、原則、額面評価(評基通204)から自社株評価(評基通178以降)へ変換される。そのため、類似業種比準方式の採用余地があり、一般的には相続税の圧縮効果があるといえる。ただし、回収という側面で考えた場合、会社法の各種手続(特定の株主からの自己株式買取手続や分配可能額確保等)や課税問題(原則、みなし配当課税)をクリアする必要があるため、リスク検証をして臨む必要がある。 今後は、社長貸付金の解消問題には税務論点だけでなく、「回収」という視点の出口戦略が求められる時代となる。なぜならば、時代の変化に応じ社長が検討する対策の方向性も変化するからである。そのため、常に「対策の流動性」を視野に入れたスキームの実行が、これからの税理士には求められると考える。 (了)

#No. 351(掲載号)
#木下 勇人
2020/01/09

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第76回】「継続的取引の基本となる契約書⑦(リベート支払に関する覚書)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第76回】 「継続的取引の基本となる契約書⑦ (リベート支払に関する覚書)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は商社です。下記の文書は販売先との間で締結した、商品売買基本契約に基づき、別途リベート支払について定める文書です。 この文書は、印紙税法上の課税文書に該当しますか。 当事者間において対象商品「〇〇〇〇」の仕入予定金額を定めており、令第26条第1号に規定する取引条件のうち、「取扱数量(取扱金額)」を定めた文書に該当することから、第7号文書に該当する。   [検討1] リベート対象商品「〇〇〇〇」は、令第26条第1号における「目的物の種類」を定める文書に該当するか リベート対象商品「〇〇〇〇」は、あくまでも、リベートの対象となる商品を定めたものであり、令第26条第1号に定める目的物の種類を定める文書に該当しない。 [検討2] 甲へのリベート支払日として売掛金と相殺すると定めている部分については「対価の支払方法」に該当しないか リベートの支払時期については、「甲へのリベート支払日とし、売掛金と相殺する」と定めていても、これはリベートの支払時期、支払方法を定めたものであり、令第26条第1号でいう継続的取引の基本となる売買における対価の支払方法を定める文書に該当しない。 [検討3] 仕入予定金額は、令第26条第1号で定める「取扱数量」を定める文書に該当するか 仕入予定金額について、令第26条第1号における、「取扱数量」を定める文書に該当するかどうかは、当事者間において、一定期間における取扱予定金額を定めるものであり、令第26条第1号の重要事項である取扱数量(取扱金額を含む)に該当する。   ▷まとめ 令第26条第1号に定める第7号文書の要件は、売買に関する2以上の取引を継続して行われるため作成される契約書で、当該2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法等、売買に関する2以上の取引に共通するものであり、仕入予定金額は売買に関する取扱数量を定めるといえるが、リベートの対象商品、支払時期については、リベートに係るものであり、第7号文書の要件の目的物の種類、対価の支払方法を定める文書には該当しない。   (了)

#No. 351(掲載号)
#山端 美德
2020/01/09

改めて確認したいJ-SOX 【第9回】「内部統制に不備があった場合の対応とその手順」

改めて確認したいJ-SOX 【第9回】 「内部統制に不備があった場合の対応とその手順」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   〈J-SOXに関する基準及び実施基準の改訂について〉 令和元年12月13日に金融庁の企業会計審議会から、財務報告に係る内部統制基準・実施基準の改訂が公表されています。 この改訂の概要は、内部統制監査報告書の記載に関する改正が中心で、財務報告に係る内部統制の評価の実務的な作業には影響がないと考えられます。 なお、この改正後の基準及び実施基準は、令和2(2020)年3月31 日以後終了する事業年度における財務報告に係る内部統制の評価及び監査から適用されます。 前回まで、財務報告に係る内部統制をどのように評価するのかといった評価の手順に焦点を当てて説明してきました。 どのような企業であっても、人の行う作業が介入するため、どれだけ立派な内部統制が構築されていたとしても、何かしらの不備が出てくるものです。 そこで今回は、内部統制に不備があった場合に、どのように対応しなければならないのかを説明します。   1 全体的な対応の流れ 財務報告に係る内部統制基準では、不備の評価について、次のようなことが規定されています。 そのため、この不備の評価作業は必ず行わなければなりませんが、実務的な手順として、内部統制に不備があった場合、まずは、不備を発見した者がその上位の管理者等適切な者に対して、不備があったということを速やかに報告することが大事だと考えられます。 最終的には、不備の内容、財務報告全体に及ぼす影響金額、不備の対応策、その他有用と思われる情報を取りまとめる必要がありますが、通常、財務報告全体に及ぼす影響金額や対応策は検討に時間を要することが多いと考えられます。そのため、内部統制の評価実務にまだ慣れていない場合はなおさら、まずは不備があったという事実を報告し、そこから上位者等の指示や助言を受けながら、影響額や対応策などを検討するのがよいでしょう。 発見された不備が開示すべき重要な不備に該当する場合には、経営者、取締役会、監査役等(監査役、監査役会、監査等委員会又は監査委員会)及び会計監査人に報告しなければならないため留意が必要です。 なお、J-SOXでは、あくまで期末日時点の財務報告に係る内部統制の有効性を評価するため、期中に不備が発見され、それが期末日までに是正されていれば、財務報告に係る内部統制は有効と評価することができます。   2 それぞれの内部統制の不備への対応 内部統制に不備があった場合、それが財務報告に重要な影響を及ぼす可能性を検討しなければなりませんが、どの内部統制に不備があったかによって財務報告に与える影響も変わってきます。 そこで、ここからは内部統制の種類ごとに不備をどのように評価するかを説明します。 (1) 全社的な内部統制に不備がある場合 ① 不備の評価 【第4回】でも説明しましたが、全社的な内部統制は企業全体に広く影響を及ぼし、企業全体を対象とする内部統制です。そのため、全社的な内部統制に不備があるということは、業務プロセスに係る内部統制の有効な整備及び運用を支援できておらず、企業における内部統制全般を適切に構築できていないということになります。 一方で、全社的な内部統制は財務報告に直接的には関わらないことが多いため、仮に全社的な内部統制に不備があったとしても、それがダイレクトに開示すべき重要な不備になることは通常なく、業務プロセスに係る内部統制が単独で有効に機能することもあり得ます。 しかし、先ほど述べたように、全社的な内部統制に不備があるという状況は、基本的な内部統制の整備に不備があることを意味しているため、全社的な内部統制に不備がある状況で財務報告に係る内部統制が有効と評価されることは稀であるとされています。 したがって、全社的な内部統制に不備がある場合には、どの内部統制にどのような影響を及ぼすかを検討し、財務報告に重要な虚偽記載をもたらす可能性について慎重に評価する必要があります。 ② 不備の例示 財務報告に係る内部統制の実施基準において、開示すべき重要な不備となる全社的な内部統制の不備が例示されているため、参考として以下に記載します。 〈開示すべき重要な不備となる全社的な内部統制の不備の例〉 (2) 業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合 ① 不備の評価 業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合、虚偽記載が発生する可能性のある勘定科目等を特定し、影響度と発生可能性を考慮して具体的な影響額を推定して金額的重要性を評価し、さらに質的な重要性を評価して、開示すべき重要な不備に該当するか否かを判断します。 大まかにいうと、このような手順となりますが、いくつか補足事項もあるため、以下で詳細に説明していきます。 ② 詳細な対応手順 (a) 影響範囲の推定 業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合、当該業務プロセスで作られる勘定科目等の数値に虚偽記載が発生する可能性があります。そのため、業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合、どの勘定科目等に虚偽記載が発生するかを推定します。 (b) 重要性の判断 業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合、どの勘定科目等にどの程度の金額の虚偽記載が発生する可能性があるかを推定し、これの金額的及び質的な重要性を評価して、不備が開示すべき重要な不備に該当するか否かを判断します。 このとき、内部統制の不備が複数存在する場合には、不備ごとに単独に重要性を評価するだけではなく、同じ勘定科目に関係する不備はすべて合わせて虚偽記載の影響額に重要性が認められるか否かを評価します。 例えば、売掛金勘定の残高は、販売業務プロセスでの信用販売と入金業務プロセスの代金回収の影響を受けますが、この両方の業務プロセスに係る内部統制に不備がある場合は、それぞれの不備がもたらす影響を合わせて、売掛金勘定の残高に及ぼす影響を評価しなければなりません。 〈不備が複数ある場合の影響額の評価イメージ〉 開示すべき重要な不備とは、内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、又は質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものをいうため、上記のイメージを例に挙げると、売掛金勘定の残高に与える不備の影響額200や売上高に与える不備の影響額100に金額的重要性が認められるか、また、質的に重要な虚偽記載をもたらしていないかを評価して、内部統制の不備が開示すべき重要な不備に該当するか否かを判断します。 金額的重要性は、連結総資産、連結売上高、連結税引前利益などに対する比率で判断することが一般的で、実施基準では連結税引前利益については概ねその5%程度と例示されています。 質的重要性は、上場廃止基準や財務制限条項に関わる記載事項など投資判断に与える影響の程度や、関連当事者との取引や大株主の状況に関する記載事項など財務報告の信頼性に与える影響の程度で判断すると実施基準に定められています。 (c) 補完統制の検討 内部統制の不備による影響額を推定する際は、どの程度の金額の虚偽記載がどのくらいの発生確率(発生可能性)で起こるかを検討する必要があります。その際に気を付けなければならないのが補完統制の存在です。 特定の内部統制に不備があったとしても、他の統制で十分に虚偽記載が発生するリスクを低減できているということは実務上よくあります。このときの他の統制が補完統制です。 〈補完統制のイメージ〉 そのため、不備の影響額を推定する際は、当該不備だけで判断するのではなく、補完統制の有無、また、補完統制がある場合は、どの程度その勘定科目等の虚偽記載の発生可能性・金額的影響を低減しているかを考慮しなければなりません。 (3) ITに係る内部統制に不備がある場合 ITに係る内部統制に不備がある場合の対応については、【第8回】で説明しているため、ここでは説明を省略します。 *  *  * 今回までで、財務報告に係る内部統制の有効性をどのように評価するかを説明してきました。連載最終回となる次回は、評価した結果の報告をどのようにするか、すなわち、内部統制報告書の記載内容、記載文書の作成方法等を説明します。 (了)

#No. 351(掲載号)
#竹本 泰明
2020/01/09

企業結合会計を学ぶ 【第33回】「結合当事企業の株主に係る会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第33回】 「結合当事企業の株主に係る会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、結合当事企業の株主に係る会計処理を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 被結合企業の株主に係る会計処理 1 基本的な考え方 事業分離等会計基準は、一般に事業の成果をとらえる際の投資の継続・清算という概念に基づいて、実現損益を認識するかどうかという観点から、分離元企業の会計処理(事業分離等会計基準74項)と同様に、被結合企業の株主に係る会計処理を規定している(事業分離等会計基準115項)。 このため、企業結合により、保有していた被結合企業の株式が、結合企業の株式などの財と引き換えられた場合に、その投資が継続しているとみるか清算されたとみるかによって、被結合企業の株主に係る会計処理でも、一般的な売却や交換に伴う損益認識と同様に、交換損益が認識されない場合と認識される場合が考えられている(事業分離等会計基準115項)。 金融商品会計基準では、金融資産の交換について直接には規定していないが、金融資産の譲渡に係る消滅の認識は財務構成要素アプローチによること(金融商品会計基準58項)とされており、株式は金融資産であることから、金融商品会計基準との関係も考慮する必要がある(事業分離等会計基準115項)。 2 会計処理 投資が継続しているとみるか清算されたとみるかによって、被結合企業の株主は、企業結合日に、次のように会計処理する(事業分離等会計基準32項)。 (1) 被結合企業に関する投資が清算されたとみる場合 ① 被結合企業の株式と引き換えに受け取った対価となる財の時価と、被結合企業の株式に係る企業結合直前の適正な帳簿価額との差額を交換損益として認識するとともに、改めて当該受取対価の時価にて投資を行ったものとして会計処理する。 ② 現金など、被結合企業の株式と明らかに異なる資産を対価として受け取る場合には、投資が清算されたとみなされる(事業分離等会計基準35項~37項、41項)。 ③ ただし、企業結合後においても、被結合企業の株主の継続的関与(被結合企業の株主が、結合後企業に対して、企業結合後も引き続き関与すること)があり、それが重要であることによって、交換した株式に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、投資が清算されたとみなされず、交換損益は認識されない。 (2) 被結合企業に関する投資がそのまま継続しているとみる場合 ① 交換損益を認識せず、被結合企業の株式と引き換えに受け取る資産の取得原価は、被結合企業の株式に係る適正な帳簿価額に基づいて算定する。 ② 被結合企業が子会社や関連会社の場合において、当該被結合企業の株主が、子会社株式や関連会社株式となる結合企業の株式のみを対価として受け取る場合には、当該引き換えられた結合企業の株式を通じて、被結合企業(子会社や関連会社)に関する事業投資を引き続き行っていると考えられ、当該被結合企業に関する投資が継続しているとみなされる(事業分離等会計基準38項~40項、42項~44項)。   Ⅲ 結合企業の株主に係る会計処理 1 基本的な考え方 結合当事企業の株主のうち、結合企業の株式を保有している株主は、企業結合によっても当該結合企業の株式を直接引き換えないが、当該企業結合に伴い、当該結合企業に対する持分比率が変動する。 この場合、結合企業の株主に係る会計処理は、連結会計基準や金融商品会計基準等に従って次のように整理することができる(事業分離等会計基準139項)。 (1) 結合企業の株主の個別財務諸表 ① 結合企業の株主が結合企業を子会社としていたが、企業結合により当該株主(親会社)の持分比率が減少し子会社に該当しなくなった場合には、結合企業の株主の個別財務諸表上、子会社株式から関連会社株式やその他有価証券に取得原価で振り替え、損益を認識しない。 ② 結合企業の株主が結合企業を関連会社としていたが、企業結合により当該株主(投資会社)の持分比率が減少し関連会社に該当しなくなった場合には、関連会社株式からその他有価証券に取得原価で振り替え、損益を認識しない。 (2) 結合企業の株主の連結財務諸表 ① 結合企業の株主が結合企業を子会社としており、企業結合により当該株主(親会社)の持分比率が減少した場合、親会社の持分の一部が非支配株主持分に振り替わることから生じる差額は、親会社の持分変動により生じた差額として、資本剰余金として処理する。 ② 結合企業の株主が結合企業を関連会社としており、企業結合により当該株主(投資会社)の持分比率が減少した場合、投資会社の持分の一部が他の持分に振り替わることから生じる差額は、原則として、持分変動差額として処理する。 上記の事業分離等会計基準139項の整理に対して、個々の株主にとっては、企業結合により、被結合企業の株主が新たに結合企業の株主となっても、引き続き結合企業の株主であっても、同様の経済的効果を有する場合があると考えられる(事業分離等会計基準140項)。 例えば、子会社であった被合併会社が合併により消滅し、被合併会社の株主は新たに合併会社を関連会社とする場合と、子会社であった合併会社が、合併により持分比率が減少し関連会社となった場合とは、結合当事企業の株主にとって、それぞれの合併による経済的効果は実質的に同じであるものと考えられる。 このような場合には、被結合企業の株主に係る会計処理と結合企業の株主に係る会計処理とは、同様になるべきであると考えられ、結合企業の株主に係る会計処理は、被結合企業の株主に係る会計処理に準じて行うものとされている(事業分離等会計基準48項、140項)。 2 会計処理 結合企業の株主は、次の処理を行う(事業分離等会計基準48項)。 (1) 企業結合により結合企業の株主の持分比率が減少する場合 ① 子会社を結合企業とする企業結合により、当該結合企業の株主の持分比率が減少する場合、子会社を被結合企業とする企業結合における被結合企業の株主の会計処理(事業分離等会計基準38項)に準じて処理する。 ② 関連会社を結合企業とする企業結合により、当該結合企業の株主の持分比率が減少する場合、関連会社を被結合企業とする企業結合における被結合企業の株主の会計処理(事業分離等会計基準40項、41項)に準じて処理する(結合企業の株主が被結合企業の株式も有しており、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合については、事業分離等会計基準39項、42項、44項)。 ③ 子会社や関連会社以外の投資先を結合企業とする企業結合により、当該結合企業の株主の持分比率が減少する場合(その他有価証券からその他有価証券)、結合企業の株主は何も会計処理しない。 (2) 企業結合により結合企業の株主の持分比率が増加する場合 ① 企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式に加え被結合企業の株式(子会社株式又は関連会社株式)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)し、結合後企業は当該株主の子会社又は関連会社となる場合、有している被結合企業の株式が子会社株式であるときには事業分離等会計基準38項により会計処理し、有している被結合企業の株式が関連会社株式であるときには事業分離等会計基準40項により会計処理する。 ② 企業結合前に、結合企業の株主が結合企業の株式に加え被結合企業の株式(その他有価証券)も有していることから、当該結合企業の株主としての持分比率が増加(被結合企業の株主としての持分比率は減少)するが、結合後企業が引き続き子会社や関連会社以外の投資先である場合(その他有価証券からその他有価証券)、結合企業の株主は何も会計処理しない。 (了)

#No. 351(掲載号)
#阿部 光成
2020/01/09

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第12回】「『同一労働同一賃金』導入前に確認しておきたい基礎知識(その2)」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第12回】 (最終回) 「『同一労働同一賃金』導入前に確認しておきたい基礎知識(その2)」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   前回は「同一労働同一賃金」の制度について、概要にはじまり、「同一労働」であることをどう判断するか、また、それを踏まえた待遇是正までの流れなどを解説しました。 続きとなる今回は、厚生労働省から公表されている「同一労働同一賃金ガイドライン」の内容を中心にみていきます。   ▷「同一労働同一賃金ガイドライン」で示されている目的 このガイドラインで示されている同一労働同一賃金の目的は、主に次のようになっています。 つまり、同じ企業で働く、通常の労働者、いわゆる正社員(無期フルタイム社員)と非正規労働者(短時間労働者又は有期雇用労働者)との間にある「不合理な待遇の相違」を解消することで、労働者がどんな働き方を選択しても「納得できる待遇」を受けられる労働環境を実現しよう、といった感じでしょうか。 その目的の実現のために「いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないのか等の原則となる考え方及び具体例を示したもの」が、このガイドラインです。なお、原則的な考え方とともに具体例として「問題となる例」「問題とならない例」も示されています。 しかし、そうは言っても、例えば「正社員の70%以上が同様の待遇であれば不合理な差ではない」などと明確な数値を示しているわけではなく、「違いがある場合には、その違いに応じた支給をしなければならない」といった書き方に留まっています。 したがって、「納得できる待遇」を実現するためには、「相違」について企業としての考えを明確に示し、労働者の納得感を得るような環境の整備が必要となると考えます。 なお、待遇については、基本給、諸手当、賞与などの賃金に関するものだけではなく、教育訓練や福利厚生施設の利用についても示されています。   ▷待遇に関する原則的な考え方 ガイドラインで示されている待遇に関する原則的な考え方を、以下ではいくつかご紹介します。 なお、家族手当、住宅手当、退職手当はガイドラインには示されていませんが、均衡、均等待遇の対象となっていることから、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれます。   ▷まとめ これまで、多くの企業が「非正規労働者を雇用する理由」を問われると、「期間の定めがあるので雇用調整がしやすい」「賃金等のコストが安い」といった理由を挙げていました。 前者は、「通算5年超の有期雇用者に対する無期転換義務」(いわゆる「無期転換ルール」)によってある程度解消されました。また、今回の法改正に伴い、後者の解消が図られることとなります。つまり、非正規労働者に働いてもらうためには「安定した雇用」と「それなりの待遇」が必要となるのです。 昨今の人材不足を支えているのは、女性の労働者です。おそらく、その中にはパートタイマー等の「多様な働き方」で働く方が多く存在しているはずです。今後の企業における働き方は、「フルタイム、残業もいとわない」といった働き方だけではなく、短い時間や少ない日数でも働いてもらうといった「多様な働き方」を企業として提供できるかどうかがポイントになってくることでしょう。そういった意味で今回の同一労働同一賃金の改正を1つのきっかけに、非正規労働者の働き方を会社として見直すべきです。 それには、前回説明したように、まずは自社の労働者である正社員と非正規労働者との間に待遇差があるかどうかの確認が必要です。実際、中小企業では、非正規労働者を対象とする就業規則や給与規程が整っていないケースも見受けられます。法改正まで、「まだ1年以上ある」ではなく「もう1年しかない」といった状況です。まずは、自社の実態の把握・整理から始めることをおすすめします。 なお、ガイドラインには、 と記載されています。 非正規労働者にも「納得できる待遇」で働いてもらうことが、これからの企業の生産性を高めるうえで重要なことであるといえるでしょう。 (連載了)

#No. 351(掲載号)
#飯野 正明
2020/01/09

空き家をめぐる法律問題 【事例20】「民泊施設として空き家の管理を委託する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例20】 「民泊施設として空き家の管理を委託する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私(A)は、現在、東京で生活をしていますが、数年前に四国の実家(空き家)を相続しました。四国の実家には、盆暮れに立ち寄って掃除等をしておりますが、しばらくは四国に戻って生活する意思もありません。 近年、四国にも訪日外国人の方が多数訪れているらしく、実家を民泊施設として利用できないか考えています。ただ、私は東京で生活しているため、民泊施設の管理を業者に任せたいと考えています。管理を委託する場合には、どのようなことに留意するべきですか。 (※) 本事例では、当該地域で住宅宿泊事業法の民泊が実施できることを前提とする。 1 はじめに 訪日外国人観光客の増加に伴い、宿泊施設が不足し、既存の建物を宿泊施設(民泊施設)として利用することが期待されている。このような期待に対応するため、平成29年6月9日に住宅宿泊事業法が成立した。同法は、内外の観光客の需要に応えるだけでなく、空き家を有効活用する選択肢を提供するものである。 そこで今回は、空き家を住宅宿泊事業法に基づいて民泊施設として利用する際の留意点について検討することとしたい。   2 民泊の類型と対象となる施設 民泊には、①旅館業法の許可に基づくもの、②国家戦略特別区域法に基づいて行うもの、③住宅宿泊事業法に基づいて行うものの3類型がある。その中でも、今後普及が期待されているのが、③住宅宿泊事業法に基づく民泊である。 住宅宿泊事業法の対象とする「住宅」は、①設備要件(当該家屋内に台所、浴室、便所、洗面設備その他の当該家屋を生活の本拠として使用するために必要な設備があること)及び、②次の居住要件のいずれかを満たす必要がある。 上記居住要件のうち、(3)の「随時その所有者・・・の居住の用に供されている家屋」とは、純然たる生活の本拠としては使用していないものの、これに準ずるものとして、その所有者等によって随時居住の用に供されている家屋をいい、当該家屋は少なくとも年1回以上使用しているものの、生活の本拠としては使用していない家屋のことをいう(住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)(以下「民泊ガイドライン」という)1-1の(1)の②)。 具体的には、相続により所有しているが、現在は相続人等が常時居住しておらず、将来的に居住の用に供することを予定しているような空き家等が想定されている。例えば、相続した空き家から遠方で居住している相続人が、盆暮れのような時期に清掃や管理等の目的で訪れているような場合は、これに含まれると考えられる。 なお、将来的な居住の用に供するかどうかは、未確定なことであることから、厳格に解するべきでなく、当該要件は、「居住する意思があれば居住できる状態の家屋」という程度の意味に理解するべきであろう。したがって、本件の場合、Aが相続した四国の建物も、住宅宿泊事業法の対象となる「住宅」に含まれると解される。   3 民泊施設の管理を委託する場合のいくつかの留意点 (1) 住宅宿泊管理業者への委託 住宅宿泊事業者は、次の場合には、住宅宿泊管理業務を1つの住宅宿泊管理業者に委託しなければならない(住宅宿泊事業法第11条第1項)。 空き家を相続した者が、当該空き家を民泊施設として利用する場合、(1)の②に該当することが通常である(「一時的な不在」とは、具体的には原則として1時間程度が想定されている)。また、当該相続人が、当該空き家から離れた地に生活の本拠があるような場合には、(2)の例外要件をいずれも満たさないであろう。そのため、本件の場合、Aが相続した建物を民泊施設として利用する場合には、住宅宿泊管理業者に委託しなければならない。 (2) 管理委託契約の締結 住宅管理業務の委託に関しては、国土交通省から「住宅宿泊管理受託標準契約書」(以下「標準契約書」という)が公表されているため、実務上、これを参考にした管理委託契約が締結されることになると考えられる。 住宅宿泊事業者が委託する業務内容は、住宅宿泊事業法第5条から同法第10条に規定されており、その中でも、住宅宿泊管理業者による宿泊者に対する騒音や周辺環境への悪影響の防止に関して必要な事項の説明や、周辺地域住民からの苦情等への対応については、近隣とのトラブル防止に関係する事項でもあるため、委託契約書にどのような条項を定めておくかが重要となる。 標準契約書の別表第1の(5)では、苦情発生時の住宅宿泊管理業者による現場急行や、苦情の対象となる行為の中止要請が具体的な委託内容として定められている。もっとも、標準契約書によれば、迷惑行為が行われた場合に、住宅宿泊事業者と民泊施設利用者との宿泊契約の解除権限までは委託されていないため、住宅宿泊事業者は、住宅宿泊管理業者からの報告に基づいて対応しなければならない。 このような負担を軽減するための方策として、委託事項の中に、住宅宿泊管理業者による解除権限まで定めておくことが好ましい(民泊ガイドライン2-2の(2)の⑥)。もっとも、住宅宿泊事業者に最終的な判断権を確保しておくために、委託契約書には、住宅宿泊管理事業者が解除を行う場合、事前に住宅宿泊事業者との協議を義務付けるなどの条項を設けることが考えられる。 (3) 監督官庁からの行政処分に係るリスク 次に、個人が相続をした空き家を民泊施設として利用する場合、各種行政法令に適合させるための改装費等を支出するために、金融機関から融資を受けることもありうる。通常、金融機関は、融資をする際の契約書に、監督官庁からの行政処分(許認可の取消しや営業停止処分)を期限の利益喪失事由として定めていることが多いため、業務停止命令等を受けた場合には、借入金の一括返済を行わねばならないリスクがあることに留意すべきである。 この点、住宅宿泊事業法では、都道府県知事は、住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、受託宿泊事業者に対する業務改善命令(同法第15条)を発令し、これに従わない場合には、業務停止命令等(同法第16条)をも発令することができる。また、民泊ガイドライン2-3の(1)の③によれば、「住宅宿泊事業の適正な運営を確保するため必要があると認めるとき」は、同法に違反している場合だけでなく、同法の目的等を踏まえて適正な運営がなされていない場合も含まれている。 そこで、住宅宿泊事業者としては、①金融機関との融資契約書の期限の利益喪失条項の内容を確認するとともに、②行政処分を受けるリスクを低減するために、住宅宿泊管理業者の業務内容を的確に把握することが重要になってくる。標準契約書第9条第3項では次の報告徴求権を定めており、住宅宿泊事業者にとって、このような条項を設けるべきであろう。 なお、個人の住宅宿泊事業者と法人の住宅宿泊管理業者との間の契約では、交渉力に差があるため現実的には難しいであろうが、住宅宿泊事業者としては、単に報告を求めるだけでなく、必要に応じて業務改善要求をすることができるように、第4項として、「甲は、前項の報告の結果、必要があると甲が判断した場合には、乙に対し、必要な改善を求めることができる。」などの改善措置要求条項を追加することも考えられる。 (4) 住宅宿泊管理業者の責任の範囲 標準契約書に付された解説コメントによれば、住宅宿泊事業法上、住宅宿泊管理業者が管理義務を負う事項について、責任を免除するような契約条項は無効になる旨指摘されている。そこで、住宅宿泊事業者としては、損害賠償条項において不当に住宅宿泊管理業者の責任が限定されていないかについて留意しておく必要がある。 (了)

#No. 351(掲載号)
#羽柴 研吾
2020/01/09
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