企業結合会計を学ぶ 【第24回】 「子会社が親会社に会社分割により 事業を移転する場合の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 個別財務諸表上の会計処理 1 概要 子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合(会社分割の対価が親会社株式のみの場合)、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針214項、216項、442項)。 親会社と子会社との取引において、非支配株主の出資比率により個別財務諸表上の会計処理を区別することは、現行の会計慣行にはないことから、個別財務諸表における当該会社分割の会計処理は、非支配株主の出資比率にかかわらず、すべて共通支配下の取引として取り扱い、移転先企業(親会社)は移転元企業(子会社)の適正な帳簿価額に基づいて会計処理するものである(結合分離適用指針442項)。 ◎親会社(吸収分割承継会社) 【資産及び負債の会計処理】 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 移転事業に係る評価・換算差額等(結合分離適用指針87項(1)②)(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く)を引き継ぐ。 移転事業に係る株主資本相当額(結合分離適用指針87項(1)①)は払込資本(資本金又は資本剰余金)として処理する。 増加すべき払込資本の内訳項目(資本金、資本準備金又はその他資本剰余金)は、会社法の規定に基づき決定する(結合分離適用指針409項)。 移転事業に係る株主資本相当額がマイナスとなる場合には、払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する(結合分離適用指針445項)。 【企業結合(会社分割)に要した支出額の会計処理】 企業結合(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎子会社(吸収分割会社) 子会社が受け入れる親会社株式の取得原価は、企業結合会計基準43項により、移転事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。 具体的には、親会社が子会社に会社分割により事業を移転する場合の会計処理(会社分割の対価が子会社株式のみの場合)の親会社の会計処理(結合分離適用指針226項)に準じて処理する。 事業分離(会社分割)に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 2 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 前述のように、子会社が親会社に会社分割により事業を移転する場合には、親会社の個別財務諸表上、原則として、適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れる会計処理を行う。 次のことに注意する(結合分離適用指針215項)。 Ⅲ 連結財務諸表上の会計処理 連結財務諸表上の会計処理は、実質的に非支配株主持分相当額と考えられる部分については、非支配株主との取引に準じて処理するものである(結合分離適用指針442項)。 具体的には、子会社に交付する親会社株式のうち実質的に非支配株主に交付したものと考えられる部分(非支配株主持分相当額)を非支配株主持分から控除する(結合分離適用指針442項)。 次のように会計処理する(結合分離適用指針217項)。 (1) 内部取引の消去 子会社が会社分割の対価として受け入れた親会社株式のうち、分割期日の前日における親会社持分相当額とこれに対応する親会社の払込資本の増加額は、企業結合会計基準44項により、内部取引として消去する。 (2) 親会社株式のうち非支配株主持分相当額の振替処理 子会社が受け入れた親会社株式のうち、分割期日の前日における非支配株主持分相当額は、自己株式等会計基準15項に従い非支配株主持分から控除する。 上記の連結財務諸表上の会計処理に関する基本的な考え方は次のとおりである(結合分離適用指針442項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第152回】 金融商品会計⑱ 「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む 複合金融商品(転換社債型新株予約権付社債)の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 小林 清人 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 【一括法を採用した場合】 ① 発行時 ◆X1年4月1日 ② 権利行使時 ◆X4年4月1日 【区分法を採用した場合】 ① 発行時 ◆X1年4月1日 ② 償却原価法の適用 ◆X2年3月31日 (※1) (100,000千円-98,000千円)÷5年 ◆X3年3月31日 (※2) (100,000千円-98,000千円)÷5年 ③ 権利行使時 ◆X4年4月1日 (※3) (98,000千円+400千円+400千円) 〈会計処理の解説〉 転換社債を発行した場合の処理は、「一括法」と「区分法」の2つの処理が認められています。 1 発行時の処理 一括法では、社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分せず、普通社債の発行に準じて処理します。したがって、本事例の場合、払込金額がそのまま社債の帳簿価額となります(上記【一括法を採用した場合】①の仕訳参照)。 区分法では、社債の対価部分と新株予約権の対価部分に区分し、それぞれ普通社債の発行及び新株予約権の発行に準じて処理します。 すなわち、本事例の場合、社債部分が@98円であるため、100,000千円÷100円×@98円=98,000千円となり、新株予約権部分は@2円であるため、100,000千円÷100円×@2円=2,000千円を計上します(上記【区分法を採用した場合】①の仕訳参照)。 2 償却原価法の処理 本事例の前提条件で区分法を採用した場合、社債の額面総額と計上金額に差額が生じます。これは、金利に相当する部分であると考えられるため、償却原価法を適用し、帳簿価額を調整する必要があります。具体的には、100,000千円の発行価額と社債に対する払込金額98,000千円の差額2,000千円を、償還までの期間である5年間で決算日に毎期調整します(上記【区分法を採用した場合】②及び③の仕訳参照)。 他方、一括法を採用した場合には社債の額面総額と計上金額は一致しているため、償却原価法の適用はありません。 3 権利行使時の処理 本事例の場合、一括法では、転換社債の帳簿価額を、資本金に振り替えます(上記【一括法を採用した場合】②の仕訳参照)。 他方、区分法では、社債の対価部分(帳簿価額)と新株予約権の対価部分(帳簿価額)の合計額を資本金に振り替えます。区分法では、償却原価法を適用しているため、一括法を採用した場合と資本金の額が相違します(上記【区分法を採用した場合】③の仕訳参照)。 (了)
改正相続法に対応した実務と留意点 【第8回】 「遺言執行者に関する留意点」 弁護士 阪本 敬幸 今回は、遺言執行者に関する留意点に関して解説する。 1 遺言執行者に関する変更点 改正前民法においては、遺言執行者に関して、その法的地位や権限について不明確な点が多いと言われていた。これを受けて改正後民法では、遺言執行者の権限の明確化等が図られることとなった。改正後民法における規定は、「遺言執行者は、遺言の実現のために行動する者である」という、遺言執行者の本質に留意したものと考えられる。 各変更点については、拙稿「改正法案からみた民法(相続法制)のポイント【第5回】」をご覧いただければと思うが、今回は、具体例に基づき「遺言執行者に就任した場合、具体的にどのように行動すべきか」という観点から、その留意点を解説したい。 2 具体例による検討 (1) 遺言執行者の任務の開始 〔例①〕 弁護士Aは、被相続人Bが作成していた遺言により、遺言執行者に指定された。 相続人は、Bの妻C、子Dと子Eがいる。遺言には、Bの所有する不動産(5,000万円)をCに相続させる、Bの預貯金(4,000万円)については、Dに3,000万円、Eに1,000万円をそれぞれ相続させる、Bの所有する絵画(合計1,000万円)をD相続させる、とされていた。 Aは遺言執行者として、まず何をすべきか。 Aは、遺言執行者への就任を承諾するか否かを決定し、就任を承諾する場合には、直ちにその任務を行わなければならない(改正後民法1007条1項、変更無し)。 そしてAは、遺言執行者としての任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(改正後民法1007条2項、新設)。このように改正後民法では、遺言内容の通知義務が定められた点に留意されたい。 なおAは、遅滞なく相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない(改正後民法1011条1項、変更無し)。 (2) 遺言執行者の権限 〔例②〕 遺言執行者Aが遺言に従い、不動産の所有権移転登記名義をCに変更しようとしたところ、Eが勝手に、法定相続分に従った持分を登記していた。 AはEに対して、持分登記の抹消を請求することはできるか。 改正前民法では、1012条1項により「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定される一方、1015条には、遺言執行者は「相続人の代理人」と規定されており、遺言執行者が「相続人の代理人」であるとすれば、遺言執行者が相続人の1人に対して訴訟提起等することは、遺言執行者の中立性や利益相反の観点から問題があると解する余地があった。 改正後民法1012条1項では、「遺言者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」として、遺言の内容を実現するために行動することが強調されることとなった。また改正後民法1015条は「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」として、「相続人の代理人」という文言は削除された。 このように、改正後民法においては、遺言執行者は、遺言内容の実現を主眼として活動すべきことが明確にされ、「相続人の代理人」でもないため、本件のような場合、遺言執行者Aは遺言の内容を実現するため、Eに対し持分登記の抹消を請求することができる。 結論としては改正前民法における解釈に基づく処理と同様であるが、「相続人の代理人」という文言から生じていた条文上の疑問点を解決したものといえる。 なお、遺言執行者には、委任契約に基づく条文が準用される(改正後民法1012条3項、変更無し)から、準用された条文に基づき、善管注意義務、事務処理報告義務、費用償還請求権等の権利義務を有する。 (3) 特定財産承継遺言に関する対応 〔例③〕 被相続人Bが所有していた不動産には、子Eが居住している。遺言では「Cに不動産を相続させる」とされていたことから、CとしてはEに退去を求めたい。 遺言執行者Aとしては、何をすべきか。 改正後民法1014条2項(新設)は、 としている。改正後民法899条の2により、法定相続分を超えて相続人に特定財産を相続させる旨の遺言があった場合、相続人と第三者との関係は対抗要件具備の先後により決せられることとなったことを受けた規定である。 したがって、遺言執行者Aとしては、遺言内容の実現のため、Cに対抗要件を具備させるように所有権移転登記手続を行わねばならない。 しかし、「Cに不動産を占有させること」といった遺言がない場合、遺言者の意思として、Cに占有を移転させるべきものとまでいうことはできない。そうすると、遺言内容の実現のために行動する遺言執行者(改正後民法1012条1項)としては、登記名義をCに移転させることは任務の範囲内であるが、占有移転(明渡し)についてまでEに対して請求することは任務の範囲外であると考えられる。 したがって、Aとしては、不動産の登記移転手続を行えば足り、Eに対し明渡しを求める権限は有しておらず、そのような義務も負わない(中間試案補足説明51頁参照)。 〔例④〕 被相続人BがDに相続させるとした絵画は、Bの生前はBが占有していたが、何者かに盗み出されたようである。 遺言執行者Aとしては、何をすべきか。 遺言執行者Aとしては、遺言内容の実現のため、Dが絵画を取得できるように活動すべきである。 絵画のような動産の場合、対抗要件は引渡しであるから(改正後民法178条)、Aとしては絵画をDに引き渡すような活動をすべきである。もっとも、実際問題として、盗み出された絵画を発見して取り戻し、引き渡さねば遺言執行者の義務が尽くされたとはいえないというのであれば、Aにとって酷である。このため、必要な調査を行い、それでも絵画がどこにあるか不明という場合、Aの義務は果たされたと考えるべきであろう。 〔例⑤〕 遺言執行者Aは、遺言により子Dと子Eに相続させるとされた預貯金を解約し、遺言に従って分配したい。 しかし、子Eが、遺言は遺留分を侵害するとして解約に同意しない。 Aとしては、どうすべきか。 (ア) 遺留分の主張に対する遺言執行者の対応 先述したように、遺言執行者は遺言の内容を実現することを職務とし(改正後民法1012条1項)、相続人の代理人というわけでもない。 また、改正前民法における遺留分減殺請求は物権的な効果を生じさせるものであり、減殺請求により遺留分侵害行為の効力は消滅し、遺産目的物上の権利は当然に遺留分権利者に復帰するとされていたが、遺留分侵害額請求(改正後民法1046条)では、遺留分侵害行為の効力が消滅するわけではなく、金銭の支払いを請求できるという債権的な効果を生じさせるものとなった。 すなわち、遺留分侵害額請求があった場合、遺留分権利者から遺留分義務者に対する新たな権利が発生するが、遺言の効果が覆るわけではない。 したがってAとしては、遺留分侵害の主張がなされたとしても遺言内容の実現を図るべきであり、D・Eに預貯金を取得させるように活動すべきである。 (イ) 預貯金債権の払戻し請求、解約申入れを行う権限 この場合、Aとしては、対抗要件を具備させるために必要な行為を取ることもできる(改正後民法1014条2項)。預貯金のような債権の債務者対抗要件は通知又は承諾であり(改正後民法467条1項、899条の2第2項)、Aとしては、債務者たる金融機関との関係で通知又は承諾を得る、あるいは預金名義変更を行うということもあり得る。 しかし、銀行預金を解約・払戻しを受けるということがもっとも簡便であり、実務的にも行われてきたところである。このため、改正後民法1014条3項(新設)は、 として、遺言執行者は預貯金の払戻し請求及び解約申入れを行う権限を有することとされた。 Aとしては、同条項に従い、払戻し請求、預貯金の解約申入れを行い、D・Eに分配すべきであろう。 ただし、遺言執行者は「解約申入れ」ができるに過ぎないから、預金者が解約権を持たない定期預金の場合、一方的に解約する権限まで有するわけではない。 3 経過措置 改正法の附則第8条により、以下のように定められている。 上記条文の通りだが、遺言内容の通知義務(1007条2項)、遺言執行者の一般的な権利義務(1012条)については、施行日(2019年7月1日)前に開始した相続であっても、施行日後に遺言執行者となる者には適用がある。 また、特定財産承継遺言の執行時の対抗要件を得させる権限(1014条2項)、預貯金の払戻し・解約申入れを行う権限(1014条3項)等については、施行日後にされた遺言についてのみ適用がある。 施行日前にされた遺言に関わる遺言執行者の復任権については、改正前民法が適用される。 4 終わりに 上述のように、遺言執行者に関する条文の改正は、基本的に、遺言執行者は相続人のために活動するものではなく、遺言内容の実現のために活動すべきであるという方向性を強調している。 遺言執行者としは、この改正の基本に十分留意されたい。 (了)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第15回】 「自動車メーカー会長逮捕事件 -経営トップへのガバナンス(下)」 弁護士 原 正雄 2019年3月27日、自動車メーカーN社が、ガバナンス改善特別委員会からの報告書を公表した(以下「委員会報告書」という)。同報告書は、同社の会長が逮捕されたことを契機に、同社のガバナンス上の問題点を解明し、取締役の報酬の決定プロセスを始めとするガバナンスの改善点等を提言するものである。 本稿は、委員会報告書や報道を元に、前回の「上」で取締役の報酬という観点を中心にガバナンス上の問題論じた。続く「下」では、「経営体制と株主との関係」という観点を中心に、ガバナンス上の問題を論じることとする。 1 指名委員会等設置会社への移行 (1) 委員会報告書による提言 本稿の「上」で述べたとおり、自動車メーカーN社では「会長への人事・報酬を含む権限の集中」が生じていた。この点にガバナンス上の大きな問題があった。 そこで、この点を改善するため、2019年3月27日付のガバナンス改善特別委員会からの報告書(委員会報告書)は、自動車メーカーN社に対して、「指名委員会等設置会社」に移行することを提言した。 「指名委員会等設置会社」とは、業務執行を執行役に委ね、取締役会は経営の監督に専念するという仕組みである。また、取締役会に社外取締役を中心とする3つの委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)を設置することで、役員候補指名、報酬決定、監査という権限を社長から各委員会に移す(会社法2条12号)。例えば取締役の報酬については、報酬委員会が決定方針を定め、その方針に従って個人別の報酬を決定する(会社法409条)。社長への権限の集中を防ぐことでガバナンスを実現しようとしている。 (2) 自動車メーカーN社による提言の受入れ 「指名委員会等設置会社」は、2003年4月施行の商法特例法改正によって定められたものであり、既に約16年の歴史を有する。 ところが同制度は、これまでほとんど普及していない。2019年7月18日現在、東京証券取引所に上場する企業は、3,675社である。その中で「指名委員会等設置会社」に移行しているのは、わずか76社(約2%)である。これは、組織統率力の源泉である役員候補指名権や報酬決定権を社長から奪うことに、多くの企業が躊躇したからと解する。 しかし、これまでガバナンスを実現できていなかった自動車メーカーN社では、もはや躊躇は許されない。同社は委員会報告書による提言を受け入れ、2019年6月25日開催の株主総会をもって「指名委員会等設置会社」に移行することとした。 2 株主によるガバナンス (1) 大株主による反対 とはいえ、自動車メーカーN社による「指名委員会等設置会社」への移行は、円滑に進んだわけではなかった。 自動車メーカーN社には、議決権の43%を有する大株主であるR社がいる。そのR社が「指名委員会等設置会社」への移行を決定する株主総会の議案に棄権するとして、事実上反対する意向を示したからである。理由は、指名委員会、監査委員会、報酬委員会の人選にR社の意向が反映されていないというものであった。 やむなく自動車メーカーN社は、R社出身取締役のために、指名委員会と監査委員会にポストを用意するという譲歩を示した。その結果、R社は「指名委員会等設置会社」への移行の議案に賛成することとなった。 最終的に、「指名委員会等設置会社」へ移行する議案は成立した。また、自動車メーカーN社では、取締役会や指名委員会、監査委員会にR社出身者が含まれることになった。R社出身者も、自動車メーカーN社において、取締役、指名委員、監査委員として職務を遂行することになった。 (2) 株主による意見表明 近年、取締役の雇い主は株主であるとの考えが主張されるようになってきている。取締役を株主のエージェントとみなす考えである。この考えを強調すると、取締役の選任や報酬について株主が主導権を握るべきとの考えに至る。 政府も、企業のガバナンス実現のために取締役選任や報酬について株主が意見表明することが重要であると考えている。金融庁は、2018年6月1日、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表し、CEOの選解任や報酬について投資家と企業が建設的な対話をすべきとしている。また、開示府令や会社法の改正も進められている。 こうした潮流を受け、近時は実際に、株主が取締役選任や報酬について議決権行使を通じて意見表明をすることが増えてきた。多くの企業の株主総会で、株主から議案に反対される割合が増えつつある。もはや否決されるリスクも無視できない。株主による直接的なガバナンスである。 (3) 自動車メーカーN社の大株主R社 上記のような流れがある以上、R社が大株主として注文をしたこと自体は正しい。株主として当然の意見表明である。委員会報告書も、指名委員会の委員について「大株主との円滑な関係を考慮した場合など、独立性を有する社外取締役のみで構成することが必ずしも適切でない場合があり得る」としている。 ただ、R社出身者であっても、自動車メーカーN社の取締役という立場は重い。少数株主を含む全株主から経営を受託された立場で、自動車メーカーN社、ひいては少数株主を含む全株主のために、善良な管理者として職務を遂行しなくてはならない(会社法330条、民法644条)。忠実義務を負うべきは、自動車メーカーN社である。出身母体であるR社の利益を優先するようなことがあってはならない(会社法355条)。 (4) 株主によるガバナンスと、開示 株主によるガバナンスを実現する上で、開示は重要な前提である。株主が会社の状況や議案の検討プロセスを把握できなければ、ガバナンスを実現しようがないからである。 株主は、議案の内容のみならず、その議案がどのように形成されたかというプロセスや、開示が適切かなどを厳正にチェックしている。自動車メーカーN社の問題が取締役報酬の過少記載という有価証券報告書への虚偽記載の問題から始まった事実は、本件が株主ガバナンスの問題であることを端的に示している。 なお、取締役報酬の過少記載については、報道によれば、「『形式犯』ではないかとの批判も出ている」との指摘もあるようである。 しかし、会長の「側近」とされる人物(委員会報告書の認定)が、会長が取締役報酬を過少記載した動機について、マスコミへのインタビューに答えている。同インタビューによれば、会長は「(20億円もの報酬を受け取っていることが大株主であるR社や、R社の株主であるフランス政府に知られれば)自分の地位も危うくなると危機感を抱いていた」とのことである(文藝春秋2019.7)。 仮にインタビューのとおりであるとすれば、会長は、株主に高額報酬を知られると、取締役としての地位が危うくなると考えていたことが分かる。これはまさに、株主によるガバナンスと開示の問題である。これほどの重要性を持つ事項の虚偽記載が、「形式」の問題であるはずがない。 3 ガバナンス充実による会社の発展 自動車メーカーN社では、長く少数株主の存在が忘れられ、ガバナンスが置き去りにされてきた。今度こそガバナンスを充実させ、少数株主を含む全株主の利益のため、会社をますます発展させていかなければならない。 R社出身取締役を含む全ての取締役が一致団結して、自動車メーカーN社の発展に取り組むことを期待したい。 (了)
2019年8月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.332を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第62回】 「完全支配関係がある他の内国法人に対する寄附金」 税理士 山本 守之 A社はB社に対して完全支配関係にあります。この場合のA社がB社に寄附金を支出した場合は法人税法第37条第2項《完全支配関係がある法人間の寄附金の損金不算入》の適用があります。 この点について法人税基本通達9-4-2の5では次のように定めています。 注意したいのは、その適用関係について『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では、次のように解説されていることです。 (図1) また、 としています。 (図2) 通達は法令と異なり、法解釈のあり方を解釈するもので法規定そのものを規定したものではありません。 しかし、近年見逃せないのは、法人税の通達を利用して相続税等の問題に利用されることがあります。 租税法律主義の考え方からすれば、通達のこのような使い方は許されるものではありませんが、資産税が通達をあたかも法規定と考える傾向があり、このため、法人税でも新たに通達を作らなければならないことになっています。 通達にこのようなものを書かなければならないのは、税の執行機関として恥ずべきです。 (了)
令和元年度(平成31年度)税制改正における 「みなし大企業」の範囲の見直しについて 【第1回】 「令和元年度税制改正前の規定と問題点」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 現在、法人税に関する租税特別措置として「中小企業者」を対象とした措置がいくつか講じられている(※)。この「中小企業者」という用語は、法人税法における「中小法人」の範囲とは若干異なるもので、租税特別措置法固有のものである。 (※) 中小企業者向けの租税特別措置としては、以下の制度がある。 ・中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制。措法42の4③~⑤) ・高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除(措法42の5①②) ・中小企業投資促進税制(措法42の6①②) ・地方活力向上地域等において特定建物等を取得した場合の特別償却又は税額控除(措法42の11の3①②) ・特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除(措法42の12の3①②) ・中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除(措法42の12の4①②) ・給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除制度(措法42の12の5②③十二) ・法人税の額から控除される特別控除額の特例(措法42の13⑥) ・被災代替資産等の特別償却(措法43の3①②) ・特定地域における工業用機械等の特別償却(措法45②表四) ・中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5①) ・被災代替資産等の特別償却(震災特例法18①) ・再投資等準備金制度(震災特例法18の3①) この点に関し、令和元年度税制改正において、中小企業者の範囲から除外される「みなし大企業」の範囲について改正が行われ、法人税法における「みなし大企業」の範囲との整合性が図られた。 そこで本稿では、令和元年度税制改正における「みなし大企業」の範囲の改正内容について説明を加える。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。 2 「中小企業者」及び「みなし大企業」の意義(令和元年度税制改正前) 「中小企業者」とは、資本金額(出資金額)が1億円以下の法人のうち「みなし大企業」以外の法人、又は資本(出資)を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいう(旧措令27の4⑫)。 ここで「みなし大企業」とは、資本金額(出資金額)が1億円以下の法人のうち、以下のいずれかに該当する法人をいい、一定の租税特別措置の対象とされる中小企業者の範囲から除外されることとなる。 また「大規模法人」とは、以下のいずれかに該当する法人をいう。 これらをまとめると、下図のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 法人税法における「みなし大企業」の範囲 租税特別措置法における「みなし大企業」とは別に、法人税法においても「みなし大企業」の概念は存在する。すなわち、法人税法における「中小法人等」の範囲を定義する上で、「みなし大企業」に該当するものを除くこととされているのである(法法57⑪一)。 法人税法における「みなし大企業」の範囲は以下の通りである(法法66⑥二・三)。 4 改正前の問題点 上述のように、中小企業者の範囲から除外される「みなし大企業」の判定基礎となる「大規模法人」は、資本金額(出資金額)が1億円超の法人か、資本(出資)のない法人のうち常時使用従業員数1,000人超の法人のいずれかに該当する法人ということになるが、当該大規模法人との間に完全支配関係のある法人は含まれていなかった。 そのため例えば、「大規模法人」の100%子会社の資本金を1億円以下とすれば、当該子会社は「みなし大企業」となるものの「大規模法人」には該当しないこととなるから、当該子会社以下の100%子会社(大規模法人から見れば孫会社以下)は再び「中小企業者」に該当してしまう状況にあった。 このように、「大規模法人」と「大法人」の定義が異なる結果、大規模法人の孫会社以下の法人について、租税特別措置法上は「みなし大企業」に該当しないが、法人税法上の「みなし大企業」に該当する、という不整合が生じていた(下図参照)。 また、租税特別措置法における「大規模法人」が資本金額(出資金額)1億円超の法人を対象としているのに対し、法人税法における「大法人」は資本金額(出資金額)5億円以上の法人を対象としていることから、親会社の資本金が1億円超5億円未満の場合、その100%子会社(資本金1億円以下)は、租税特別措置法上は「みなし大企業」に該当するが、法人税法上の「みなし大企業」には該当しない、という不整合も生じていた(下図参照)。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例77(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(措法39) 相続又は遺贈により取得した資産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡した場合には、その譲渡した資産の取得費については、通常の取得費に次の算式で計算した金額を加算することができる。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益の金額(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算した金額)を超える場合は、その譲渡益相当額となる。 ◆確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得(措法37の11の5) 源泉徴収選択口座を有する居住者等で、当該源泉徴収選択口座につき、その年中にした源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を有する者は、その年分の所得税については、申告分離課税による上場株式等に係る譲渡所得等の金額を除外したところにより、確定申告書を提出することができる。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第10回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 (2) 規定の文言等からの検討 ア 収益の計上時期(時間的帰属)の規範としての顔 法人税法22条の2第1項は、次のとおり定めている。 文頭と文末を残して圧縮すると、次のようになる。 すると、法人税法22条の2第1項は、内国法人の資産の販売等に係る収益の額は益金の額に算入することを定めていることになるが、これでは意味がない。法人税法22条2項を逆から述べているのとあまり変わらないからである。このことは、次に示すように、法人税法22条2項についても文頭と文末を残して圧縮するとわかりやすい。 資産の販売等に係る収益の額が益金の額に算入すべき金額に含まれることは法人税法22条2項が既に定めていることであり、重ねて、法人税法22条の2第1項が定めることはないという見方である。少なくとも、法人税法22条の2第1項の意義がそこにあるとはいい難い。 むしろ、圧縮した部分にこそ、法人税法22条の2第1項の存在意義があるという推測が成り立つ。しかも、圧縮した部分のうち、「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、」という部分は競合しうる規定間の交通整理の役目を果たすものである。このことからすれば、それ以外の「その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上」という部分が重要なのではないかと思われる。法人税法22条の2第1項は、「その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の」という部分を強調して読むことが妥当であると言い換えてもよい。 よって、法人税法22条の2第1項の規範内容をいち早く理解するためには、「資産の販売等に係る収益の額は、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。」と規定していることを確認すれば足りるであろう。 このような観点から眺めていると、法人税法22条の2第1項について、収益の額はどの事業年度で計上すべきであるかという収益の計上時期(時間的帰属)の規範としての顔が浮かび上がってくる。 法人税法22条の2第1項が収益の計上時期についてどのような定めをなしているかというと、収益の額は、「その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日」の事業年度において、益金の額に算入することとしている。「引渡・役務提供基準」を採用したものと表現できる(あるいは、役務提供日を含む広い意味での「引渡基準」を採用したものと表現する論者もいるであろう)。 法人税法22条の2の規定中の最初の第1項に引渡・役務提供基準が定められていること及び同項には例外的定めの存在をうかがわせる表現である「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き」という文言が挿入されていることからすると、引渡・役務提供基準は、法人税法における資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的な基準に位置付けられていると解する。 なお、法人税法22条の2第1項は「別段の定め」があるものを除いて適用されるものであるところ、その「別段の定め」から22条4項が除かれている。この部分は、法人税法22条の2第1項に「別段の定め」という文言を挿入すると、少なくとも形式上、22条4項がこの「別段の定め」に含まれると読むことができることを前提としたものと解される。いずれにしても、法人税法22条の2に関する「別段の定め」論議については第Ⅳ部で別途検討する。 イ 「目的物の引渡しの日」と「役務の提供の日」 差し当たり、法人税法22条の2第1項は、資産の販売等に係る収益の計上時期のルールを定めるに当たり、当該法人から見てインプットである対価ないし経済的利益に着眼したものというよりも、むしろ、アウトプットである引渡しや役務提供に着眼したものであると解してよさそうである。 資産の販売を行う法人を例とすると、次のようなイメージとなる。 「目的物の引渡し」や「役務の提供」の意義については第Ⅳ部において別途検討することとしたい。ここでは参考として、法人税基本通達による取扱いを簡単に確認しておこう。 引渡しの日がいつであるかについて、法人税基本通達2-1-2(棚卸資産の引渡しの日の判定)は、「棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるもの」と定めている。 役務の提供の日がいつであるかについて、法人税基本通達2-1-21の3(履行義務が一時点で充足されるものに係る収益の帰属の時期)は、役務の提供のうち履行義務が一時点で充足されるものについては、その引渡し等の日(物の引渡しを要する取引にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日をいい、物の引渡しを要しない取引にあってはその約した役務の全部を完了した日)が法人税法22条の2第1項の役務の提供の日に該当すると定めている。 役務の提供のうちその履行義務が一定の期間にわたり充足されるものについて、法人税基本通達2-1-21の2(履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係る収益の帰属の時期)は、その履行に着手した日から引渡し等の日(物の引渡しを要する取引にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日をいい、物の引渡しを要しない取引にあってはその約した役務の全部を完了した日)までの期間において履行義務が充足されていくそれぞれの日が、法人税法22条の2第1項に規定する役務の提供の日に該当し、その収益の額は、その履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度の益金の額に算入されると定めている。 (了)
相続税・贈与税の基本構造 ~日本と台湾の比較~ 【第1回】 大阪学院大学法学部教授 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 ◆ ◆ はじめに ◆ ◆ 日本では、2015年1月から、相続税・贈与税について、基礎控除の縮減(5,000万円→3,000万円等)や最高税率を50%から55%にするなど、課税の強化が行われた。これに対して、台湾では、2009年の税制改正で、相続(遺産)税と贈与税の減税措置が実施された。すなわち、従来の累進税率(最高50%の税率で10段階)を廃止し、一律10%の比例税率に変更し、さらに免除額についても、相続税・贈与税共に、増額された。 このような改正の背景には、台湾から海外に移された資金を台湾に呼び戻し、台湾の経済を活発化することにあるといわれている。ただ、2017年4月の税法の改正で、ケアサービスの財源や単一税率10%の低さによる不公平を理由として、相続(遺産)税と贈与税の税率は10%~20%の3段階累進税率に変更された。 ちなみに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどをはじめとして、相続税が廃止された国は多く、また、近隣の香港では、既に2006年2月から相続税は廃止され、シンガポールでも2008年2月に相続税の廃止が行われている。 本稿では、原則として「遺産取得課税方式」を採用している日本(法定相続分遺産取得課税方式)と「遺産課税方式」を採用している台湾との相続税・贈与税の内容を比較検討し、その課題等を探りながら、今後のあるべき相続税・贈与税の基本構造を考えてみたい。 1 遺産課税体系と遺産取得課税体系 日本の相続税は、明治38年の日露戦争の戦費調達のために誕生したものである。創設以来「遺産課税方式」を採用していたが、第二次世界大戦後、シャウプ税制(昭和25年)で遺産取得課税方式が採られ、その後、昭和33年に、遺産取得課税方式を基本として遺産税の要素を加味した、いわゆる「法定相続分遺産取得課税方式」が採用された。 もっとも、シャウプ税制では、「一生累積遺産取得課税方式」(相続財産の取得者に対して、過去の贈与を含めて、その一生を通ずる取得財産に課税)を採用したが、理論的過ぎるが故に、実務上困難で、徴税技術上の問題もあり、この制度は廃止された。 なお、法定相続分遺産取得課税方式の長所は、「遺産額」と「相続人の数」という客観的事実によって相続税額が定められ、実際の遺産分割の程度に応じて負担が大幅に異なるという弊害を取り除くことができる点にあった。 また、贈与税(昭和22年創設)も遺産課税時代においては、贈与者課税(昭和22年から昭和24年まで)を行っていた。遺産課税方式を採っている場合、生前に自らの相続財産を贈与によって減殺し、相続税を回避することが考えられる。したがって、遺産課税の場合、財産の贈与者に対して、贈与税の課税が行われることになる。 遺産課税方式が「被相続人の権利」を重視するのに対して、遺産取得課税方式は「相続人の権利」を重視する。遺産課税体系を採用している米国などでは、遺言(Will)が社会に浸透していることが、遺産課税体系を採る理由であると言われている。 遺産課税方式及び遺産取得課税方式の課税上の特徴等を比較すると、次のとおりである。 2 日本の相続税・贈与税 後述のように、日本では、現在「法定相続分遺産取得課税方式」を採っている。すなわち、①納税者ごとの課税価格を計算し、②各々の課税価格を合計して、法定相続割合で「相続税の総額」を計算し、③「相続税の総額」を各納税者間で(実際に取得した課税価格の割合で)分配して、納税者ごとに納付すべき税額を計算する。 この法定相続分遺産取得課税体系は、遺産取得課税方式であれば仮装分割による租税の公平の維持が困難になるということから、「遺産額」と「相続人の数」という客観的事実によって相続税の総額が定められ、また、実際の遺産分割の程度に応じて負担が大幅に異なるという弊害を取り除くことができる点から設けられたものである。ただし、この法定相続分遺産取得課税方式は、各相続人の取得した相続財産の多寡に関わらず、税負担が均等になるという問題がある。 (1) 相続税額計算のフローチャート □血族相続権の順位 (注) 配偶者は常に相続人になり、いずれの順位の血族相続人とも共同で相続する(民法890)。 □配偶者の法定相続分 (注) 最高裁平成25年9月4日判決(判例時報2197号10頁)で、非嫡出子の法定相続分(旧民900但書き)について、違憲判決の決定がなされ、それを受けて同年12月に民法改正が行われた。 □遺留分 民法1031条は、遺留分権利者が遺留分を保全するために被相続人による遺贈や贈与の減殺を請求できることを定めている。すなわち、「遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる」と規定している。 (注) 兄弟姉妹には遺留分がない(民1028)。 遺留分減殺請求→遺留分侵害額請求(新民法1042~1049) (2) 相続税額計算の要点 (3) 贈与税の計算 日本の贈与税は、生前贈与をしたときに、受贈者に対して、取得した財産を基準として課される財産税で、相続税の「補完税」である。もし、贈与税がなければ、被相続人は、生前にすべての財産を贈与して、死亡時に課される相続税を回避することが可能になる。 (注) 贈与税の税率 イ 一般の贈与(相法21の7) ロ 直系尊属からの贈与(措法70の2の5) (4) 相続財産の評価 相続税法22条では、相続財産の評価額は、時価とすると規定している。したがって、相続財産等は時価で評価することになっているが、この時価は、財産評価基本通達に基づいて算出することが一般的である。すなわち、国税庁は、財産評価基本通達を発遣し、広く納税者にその通達による評価を認めている。 財産評価基本通達に基づく評価額を時価とする理由として、①納税者間の公平の維持、②納税者及び課税庁双方の便宜、及び③徴税コストの節減がある。 財産評価基本通達では「土地及び土地の上に存する権利」「家屋及び家屋の上に存する権利」「構築物」「果樹等及び立竹木」「動産」「無体財産権」等、広範囲な資産についての評価方法が示されている。 もっとも、日本では、相続財産の評価について、法令で規定するのか、通達で定めるのか、その基準は明らかでない。令和元年度(平成31年度)税制改正で創設された「配偶者居住権等の評価」については、通達ではなく、法令(相法23の2)で定められている。 なお、財産評価基本通達6(この通達の定めにより難い場合の評価)では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定している。すなわち、納税者が、この評価通達を逆手にとって、評価額を下げることを防止するために設けられた規定である。 (了)