平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 (その2:連結納税と単体納税の有利・不利)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 連結納税を採用した場合、大企業に対する租税特別措置の適用除外措置について、次の点で単体納税と比較した場合に有利・不利が生じることとなる。 ① 連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合、連結グループ全体で租税特別措置の適用除外措置が適用されてしまう。 連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合(連結親法人が中小企業者に該当しない場合、あるいは、中小企業者に該当するが連結納税の適用除外事業者に該当する場合)、連結グループ全体が適用除外措置の適用対象となってしまうため、単体納税で適用除外措置の適用対象外となっている連結法人がある場合、不利益が生じる。 [ケース1] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(その1) [ケース2] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(その2) [ケース3] 連結親法人の資本金が1億円超のケース [ケース4] 連結親法人が大規模法人の子会社のケース ② 大企業に対する租税特別措置の適用除外措置の適用要件を連結グループ全体で判定する。 連結グループ全体で適用要件(賃上げ要件、設備投資要件、所得減少要件)の判定を行うため、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たしてしまう場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たさない場合がある。また、逆に、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たさない場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たしてしまう場合がある。 [連結納税では租税特別措置の適用除外措置が適用されないケース] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [連結納税では租税特別措置の適用除外措置が適用されてしまうケース] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第39回】 「南九州コカ・コーラボトリング事件」 ~最判平成21年7月10日(民集63巻6号1092頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第7回】 「運転資本の分析(その5)」 -仕入債務- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ ▷仕入債務の調査 「仕入債務」は支払手形及び買掛金などの営業上の未払債務をいい、M&Aに際しての調査ポイントとしては、買収対象会社(事業)が営業上の債務として認識すべき仕入代金が網羅的に計上されているか否か、すなわち「仕入債務の網羅性」が重要な項目といえる。 非上場会社にあっては、仕入債務の計上科目として「未払金」や「未払費用」が使用されているケースも見受けられることから、こうした債務科目についても合わせて吟味する必要があろう。 仕入債務のデューデリジェンスにおける主な調査手続を挙げると以下のとおりである。 ▷仕入先との決済条件について 上記のうち、「③ 仕入計上に関する会計処理、仕入先との決済条件の把握」に関しては、本連載【第5回】の売上債権の項で述べたのと同様に、仕入債務の決済条件が買収側から見て「正常」な範囲に収まっているか否かの検討は欠かせないポイントといえよう。 例えば長年の取引関係から、特定の仕入先との間では特別な決済条件が許容されているような場合、そうした条件がM&A実行後も継続して適用されるものでなければ、買収に際して思わぬ運転資金負担が生じることになろう。 また、古い商慣習が残る業界や、業績の厳しい会社にあっては、特殊な商慣習が通用しているケースもあろう。例えば地方のホテル/旅館業では、毎月継続的に取引の発生する食材等の仕入先に対して、毎月一部の金額のみを支払い、あえて残額を延払にするケースも見受けられるし、和装業界等ではいわゆる「歩引き」といった商慣習が残っている場合もある。 さらに、特定の仕入先との間で、長期にわたる発注を契約上で確約することで、他社よりも有利な価格/条件での調達を行っている場合もある。こうした長期契約がM&A実行後も継続すべきものであるか否かについても検討が必要となるうえ、契約内容によっては、解約に際して多額の違約金支払等が発生する場合もある。 こうした契約上の課題等については、弁護士等による法務面の調査と連携を図りつつ、状況を把握する必要がある。 ▷計上漏れの起きやすい項目は何か 筆者らのこれまでの経験では、仕入債務の支払は「相手のある話」でもあり、商慣習上も毎月の締め日ごとに仕入先からの請求書が届くことが通常である。支払を失念したまま放置したり、一方的に期日を延期することもできないことから、仕入債務の計上漏れが多額に発見されるケースは(悪意をもった意図的な計上漏れ、すなわち粉飾を除けば)さほど多くはないといえよう。 むしろ多く見受けられるのは、毎月のルーティーンでの請求がなされないような、非経常的に発生する、以下のような取引に起因するものであろう。 【実務事例7-1】 ・年に数回、不定期にしか発生しない仕入取引に関して計上漏れが発生 ・仕入先担当者の入院により、仕入先からの請求忘れによって計上を失念 ・期末に緊急で実施した地方工場の生産現場の保守費用について、本社で計上を失念 ・通常月は少額しか発生しないため期末決算での未払計上の対象となっていなかった取引が、特殊な事情により多額に発生したため計上を失念 ・従来は少額の発生しかなかったため未払計上の対象となっていなかった取引が、近年の経済環境の変化により急速に取引金額が増加していたものの、依然として現金主義による処理を継続 ・年間購買量に基づくボリュームディスカウント・リベートに関する仕入値引等の精算が行われていなかったケース こうした取引であっても、必ず事後的な請求に基づく支払等が行われているはずなので、調査基準日以降の主な請求書を通査し、期間対応にズレの生じている取引を抽出することで、計上漏れを把握することができる。 例えば仕入債務等の科目を経ずに、(借)仕入 (貸)現金 といった仕訳で翌月以降に支払われている取引は、端的に仕入計上漏れに該当するケースが多いといえるので、基準日以降の仕訳データを通査することで計上漏れと思われる取引を抽出することも可能である。 さらに、仕入債務の計上漏れは仕入や外注費等の損益項目の月次推移の異常値等から把握されることも多い。 ▷「融通手形」の振出しにも注意 「融通手形」とは、資金繰りに窮した取引先などからの要請に基づき、実需を伴わずに振り出される約束手形で、受け取った側ではこの手形を銀行で割り引くことで資金繰りに充てるというもので、実質的には資金の貸付取引である。 振り出した側では当然に、手形期日が到来すれば資金が引き落とされるが、受け取った側では実需を伴っていないことから返済の裏付けとなる資金の発生がなく、極めて危険な取引である。 M&Aに際しては、全く見ず知らずの企業を買収するのであるから、こうした危険な取引の有無についても、支払手形の耳を通査すると同時に、仕入/外注費の発生と相関性の見られない取引はないか、慎重に調査する必要があろう。 融通手形の振出しが行われていなくとも、継続取引のある外注先等に対する外注費の期日前支払の事実等がある場合には同様の注意が必要と思われる。 (了)
連結会計を学ぶ 【第24回】 (最終回) 「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項等の注記」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 本連載の最終回となる今回は、連結財務諸表に関する主な注記について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 連結財務諸表の記載 連結財務諸表の表示方法は、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)などで規定されているが、有価証券報告書などを実際に作成する場合には、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)に規定される様式に従って作成することになる。 連結会計基準は、連結貸借対照表の作成に関する会計処理における企業結合及び事業分離等に関する事項のうち、連結会計基準に定めのない事項については「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)や「事業分離等に関する会計基準」(企業会計基準第7号。以下「事業分離等会計基準」という)の定めに従って会計処理すると規定している(連結会計基準19項、60項)。 このため、連結会計基準を適用する場合にも、例えば、次の規定が適用されることになる(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)7-2項)。 Ⅲ 連結の範囲等に関する記載 1 注記の誤りに注意 連結財務諸表規則では、財務諸表等規則と同様に、多くの注記事項が規定されている。 以下では、特に連結財務諸表に関係する注記として、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項を記載している。 平成30年3月23日に、金融庁が公表した「平成30年度有価証券報告書レビューの実施について」では、財務局等からの質問状には、次の観点も反映しているとのことなので、実際の有価証券報告書における連結財務諸表の記載に際しては、注記の誤りのないように注意する。 2 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項 連結の範囲に関する事項その他連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項として、次の事項を注記する(連結財務諸表規則13条)。 3 連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結の範囲又は持分法適用の範囲を変更した場合には、その旨及び変更の理由を注記しなければならない(連結財務諸表規則14条)。 連結財務諸表規則ガイドライン14では、連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更は、会計方針の変更に該当しないことに留意すること、連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更が、当連結会計年度の翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を与えることが確実であると認められる場合には、翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を与える旨及びその影響の概要を併せて記載することが規定されている。 Ⅳ 終わりに 「連結会計を学ぶ」は、今回の【第24回】で終了することとなる。 連結財務諸表の作成は、各社の個別財務諸表を基礎に、連結特有の会計処理を用いて作成することから、個別財務諸表の作成と比較して、会計処理等の誤りが生じやすいものである。 「連結会計を学ぶ」では、基礎的な会計処理等に重点をおいて解説しており、今回の連載が少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)
副業・兼業社員の容認をめぐる 企業の対応策と留意点 【第2回】 「制度設計時の留意点と就業規則等の規定例」 TOMAコンサルタンツグループ(株) TOMA社会保険労務士法人 人事労務指導部 副部長 特定社会保険労務士 渡邉 哲史 前回は、副業・兼業の現状や副業・兼業をめぐる法的ルール、副業・兼業のメリット、デメリットと留意点について説明しました。今回は、副業・兼業先での契約が雇用契約であることを前提に、副業・兼業の制度を設計する際に留意すべき事項と就業規則等の具体的な規定の仕方について解説していきたいと思います。 1 制度設計時に留意すべき事項 実際に副業・兼業の制度を設計する際は、特に次の3点に注意する必要があります。 (1) 副業・兼業を認める際の手続き (2) 本業と副業・兼業の就業時間管理と把握の方法 (3) 健康管理 (1) 副業・兼業を認める際の手続き 【第1回】で述べたとおり、本業の労働時間以外の時間に副業・兼業を行うことは原則として自由ですが、 は、副業・兼業を制限できるとされています。 したがって、企業としては、上記3つの点について問題がないか、副業・兼業を認める上で確認する必要があるでしょう。特に、企業秘密の漏えいについては、万が一発生した場合、企業へのダメージは計り知れません。 そこで社内申請手続きとして、次の点に注意します。 ①の事前申請について、副業を始める前に「事前」に申請させることで、制限対象となるような副業・兼業を行うことがないか確認することができます。 また、厚生労働省ではモデルとして「届出」制としていますが、届出制は、企業に届出をしさえすれば原則として副業・兼業を認めることになります。「申請」の場合は、通常、企業の許可があって副業・兼業を認めることになりますので、会社による裁量的判断ができるように「申請」としておいたほうがよいでしょう。 次に②の秘密保持誓約書ですが、企業としては、企業秘密漏えいが最も避けねばならないことです。したがって、事前申請時に、所定の秘密保持誓約書を一緒に提出させるようにします。 最後に③の副業先での労働条件ですが、副業・兼業先に応募する際の求人票記載の労働条件や、副業・兼業を始める際に受領する雇用契約書等に記載のある労働条件を報告するようにさせます。こうすることで、次に述べる就業時間管理や健康管理をする際に役立てるとともに、企業機密漏えいや競業避止義務に違反しないかを確認します。 (2) 本業と副業・兼業の就業時間管理と把握の方法 前回にも述べたとおり、副業・兼業における就業時間管理において、就業時間は通算されますので、副業・兼業先の就業時間について把握しておく必要があります。これを怠ると、割増賃金の支払い義務の発生や、長時間労働による本業への悪影響が出る可能性があります。 副業先の就業時間を把握する具体的な方法としては、毎月1回、所定のフォーマットで副業先での就業時間を報告させることでしょう。ただし、副業先が長時間労働となる可能性のある業務を含む場合は、毎月1回とせず、毎週1回とするなど、就業時間が長時間になることを早めに把握できるような体制としたほうがよいでしょう。 (3) 健康管理 最後に、健康管理についてですが、健康診断などは本業と副業・兼業先の労働時間の通算を行わないため法的な受診義務はありませんが、(2)での就業時間管理において把握した労働時間が、通算して長時間労働となるような場合、企業としては当該兼業・副業の労働者の健康状態について積極的に把握し、健康確保措置を講じたほうがよいでしょう。 特に、時間外・休日労働が80時間を超えるような長時間労働となっている場合、企業として積極的に医師の面接指導を促すなどの仕組みづくりが重要です。副業・兼業者向けの相談窓口設置のほか、異常な所見があるような場合、必要に応じて会社指定医や産業医の受診を勧奨することなどを検討します。 仮に、副業先での長時間労働が原因で病気等を発症した場合、原則として本業は責任を負いませんが、本業の企業が副業先での長時間労働を認識しながら就業上の配慮をまったくせず、本業における残業命令を出すようなことがあれば、本業においても安全配慮義務違反が問われかねません。 2 就業規則等の具体的な規定の仕方 副業・兼業に関するルールを作れば、就業規則にそのルールを規定することも必要でしょう。ここでは、次の3点について具体的な就業規則規定例を紹介します。 (ⅰ) 副業・兼業の申請手続き (ⅱ) 副業・兼業の許可と取消し (ⅲ) 副業・兼業の服務規律と懲戒 (ⅰ) 副業・兼業の申請手続き〈規定例〉 (ⅱ) 副業・兼業の許可と取消し〈規定例〉 (ⅲ) 副業・兼業の服務規律と懲戒〈規定例〉 * * * 2回に分けて副業・兼業に関する企業の対応策と留意点を見てきましたが、実際にいろいろな問題や課題が見えてくるのはこれからです。政府の方針や対応についても逐一発表される可能性がありますので、今後も注視していく必要があるでしょう。 企業としてはまずはしっかりと情報を集めた上で、副業・兼業の制度の必要性や漏れのない制度設計をしていくべきと考えます。安易な制度導入で法的なリスクや社内の混乱が生じないように注意していただきたいと思います。 (連載了)
税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第12回】 (最終回) 「顧問税理士の顧客に対する守秘義務」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹 Q 税理士は顧客に対して守秘義務を負うとされているが、この守秘義務について、顧問税理士としては、どのような点に留意すべきか。 A 1 税理士の守秘義務について 税理士は、その職務内容の性質上、顧客の所得、財産等の情報を知り得る立場にあることから、税理士法第38条に「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなった後においても、また同様とする。」と規定されているとおり、いわゆる守秘義務が課せられている。 そして、この守秘義務が遵守されることによって、社会からの税理士及び税理士制度に対する信頼が確保されているといえることから、これに違反した場合には、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金の刑事罰が予定されている(同法第59条)。 ただし、平成28年1月より施行されているいわゆるマイナンバー制度に関する番号法では、個人番号関係事務従事者が、正当な理由なく、特定個人情報ファイルを提供したときは、4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金、又はその両方を科するなどとされており、特に重い刑罰が科せられていることから、この点は別途留意されたい。 2 税理士法第38条の「正当な理由」とは ところで、税理士法第38条によれば、正当な理由がある場合には、守秘義務が解除されると解されるところ、ここでいう「正当な理由」とは、いかなる場合を指すか。 この点、税理士法基本通達によれば、「正当な理由」とは、本人の許諾又は法令に基づく義務があることとされている(38-1)。 このうち、「本人の許諾」がある場合は、顧客との間で紛争となることは考え難いが(※)、「法令に基づく義務」がある場合については、その判断基準が必ずしも明確になっているとはいえず、また、開示の対象となる情報の多くは顧客のプライバシーに関するものであることから、顧客との間で紛争となる場合が想定される。 (※) 実務上、問題となり得るとすれば、顧客の許諾があったかどうかという事実関係について齟齬が生ずる場合が考えられるが、この点は、許諾の事実を証拠化しておくことで対応すべきこととなる。 3 「正当な理由」の解釈が問題となった裁判例 この裁判例の事案は、過去にX(個人)の確定申告業務を受任していた税理士Yが、Xと紛争関係(別件訴訟が提起されていた)にあるAの代理人弁護士により弁護士会経由でなされた照会(弁護士法第23条の2に基づく照会)に対し、Xの過去の確定申告書や総勘定元帳の写しを開示したことなどについて、XがYの開示行為は不法行為に該当するとして損害賠償請求した、というものである。 ところで、弁護士法第23条の2に基づく照会(一般に「23条照会」と呼ばれており、以下でもそのように呼称する)とは、弁護士が受任事件について訴訟資料の収集や事実調査等の職務活動を円滑に行うために設けられた制度であり、弁護士会が、会員弁護士からの照会申出につき必要性・相当性を審査し、公務所又は公私の団体に対し照会を発し、回答を受けるというものである(弁護士法第23条の2)。 当該事案においては、この23条照会に対する報告義務が税理士法第38条にいう「正当な理由」に該当するか否かが争われた。 これに対し、第一審である京都地裁(平成25年10月29日判決)は、23条照会に対する報告義務は、税理士法第38条の「正当な理由」に該当するとして、Xの請求を棄却した。 しかしながら、控訴審である大阪高裁(平成26年8月28日判決、判例タイムズ1409号241頁)は、23条照会と税理士法第38条の「正当な理由」の関係について、概要、次のように示し、事案に応じた個別具体的な判断を行うべきであるとした。 そして、大阪高裁は、概要、次のように事実を認定した上で、結論としてYの損害賠償責任(慰謝料30万円、弁護士費用5万円)を認めた。 4 実務上の留意点 税理士の守秘義務に関しては、顧問契約書上、「乙(税理士)は、業務上知り得た甲(顧客)の秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は盗用してはならない。」というような規定を設けることが一般的であると思われる。 この点、税理士側のリスクヘッジの方策としては、例えば、前記裁判例で問題となった23条照会が、上記の条項例における「正当な理由」に含まれる旨を盛り込むことも考えられる。 しかしながら、前記裁判例が、税理士と顧客との委任契約に基づく善管注意義務違反を認定したものではなく、不法行為責任(契約関係にないことを前提とした損害賠償責任)を認定したことを踏まえれば、たとえ顧問契約書において一定の手当てを施したとしても、必ずしも税理士の守秘義務に関するリスクをすべて回避できるとも限らないといえる。 また、外部からの照会が法令に基づく場合、その多くは回答義務を伴うものといえることから、顧客の利益ばかりを重視するあまりに漫然と照会に対して回答しないという対応も、逆に照会機関から回答拒絶による法的責任を追及されるおそれも否定できないといえる。 そうすると、前記裁判例については税理士Yにとっては酷な結果であるとの見方もあるが、このような裁判例が存在する以上、税理士としては、顧客に関する情報について外部に漏えいしないように適切に管理する態勢を整備することはもちろんのこと、外部からの照会に対して回答すべきか否かについても、仮にそれが23条照会のような法令に基づく照会であったとしても、一律に回答する、あるいは、回答しないという対応は不適当であり、個別具体的に回答すべきかどうかを判断するという姿勢が必要というべきである。 (連載了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第5回】 「コンピュータがウィルスに感染して個人情報が漏えいした場合」 弁護士 影島 広泰 -Question- 会社が支給した従業員のコンピュータがウィルスメールに引っかかってしまい、個人データが漏えいしてしまいました。この場合、自社は個人情報保護法の義務違反になるでしょうか。 -Answer- コンピュータにウィルス対策ソフトを導入して、常にアップデートしておくなどしておかないと、義務違反を問われる可能性があります。 ウィルスメールに感染するなどしてコンピュータから個人データが漏えいした場合、通則ガイドラインが定める安全管理措置のうち「技術的安全管理措置」(下記表の⑥)を果たしていたかどうかが問われることになる。 ◆個人情報保護法のガイドラインが定める安全管理措置(概要) (※) ①~④については【第2回】で解説。また、⑤については【第3回】、【第4回】で解説。 ⑥ 技術的安全管理措置 コンピュータから情報漏えいしないための安全管理措置のことを「技術的安全管理措置」といい、通則ガイドラインでは以下の(1)~(4)が義務であるとされている。 (1) アクセス制御 まず、誰でも個人データに触ることができる状態にしておくことは禁止されている。アクセス制御を行い、個人データにアクセスできる者を限定しなければならない。 具体的には、個人データを取り扱うコンピュータを限定したり、システムのアクセス制御機能を使うなどして、アクセス制御していくことになる。 (2) アクセス者の識別と認証 次に、アクセスする人間を、ID・パスワード等で識別・認証しなければならない。 例えば、小規模な会社が顧客情報をコンピュータで管理するケースを考えると、顧客情報を保存するコンピュータを決めて、そのコンピュータの起動時にID・パスワードを設定しておけば、(1)と(2)を合わせた最低限の対策となるであろう。 (3) 外部からの不正アクセス等の防止 また、外部からの不正アクセスやウィルスへの感染等が発生しないための技術的な措置を講じなければならない。 通則ガイドラインでは、具体的手法として以下が挙げられている。 これによれば、ウィルス対策ソフトを導入した上で、そのソフトとOS(Windowsなど)を自動更新機能により常に最新版にしておけば、最低限の対策になると考えられる。 つまり、今回のQ&Aにあるように、万が一、会社内のコンピュータがウィルスに感染して個人データが漏えいした際に、「ウィルス対策もしてなければWindowsなどのOSも古いままであった」などということがあれば、それは技術的安全管理措置の中の「外部からの不正アクセス等の防止」の措置を講じていなかったとして、個人情報保護法に違反しているといわれる可能性があるので、注意したい。 なお、ここでもう1つ検討していただきたい点がある。それは、上記の例示の中にある「ログ等の定期的な分析」である。サーバ等のログを保管している会社は多いが、それを定期的に確認していない会社が多いように思われる。2014年に発生した大手通信教育事業社からの3,000万件の個人情報漏えい事件のように、情報が漏えいしていることに会社が長期間にわたり気づかずにいると、被害が拡大し続けてしまう。 情報漏えいを100%防ぐことはできない以上、会社としては、漏えいしていることにいち早く気づく体制を構築しておくことが重要である。ログの定期的な分析は、是非とも積極的にご検討いただきたい。 システム管理者が定期的にログを確認することが難しいようであれば、この部分についてはソリューションを導入することが考えられる。例えば、サーバから一定量以上のデータがダウンロードされた際にはシステム管理者等にメールで通知が行く、というアラート・システムを導入する。こうしておけば、情報漏えいにいち早く気づくことができるし、そのシステムの導入を社内外に周知しておけば、情報の不正取得に対する威嚇効果を発揮することができるのである。 (4) 情報システムの使用に伴う情報漏えいの防止 最後に、メールを送信するなど情報システムを使用して個人データを取り扱う際に情報漏えいしないための措置を講じなければならない。 具体的には、以下のような措置が例示されている。 メールに添付して個人データが含まれるエクセルファイルを送信する、といったことは日常的に行われていると思われるが、その際、添付するエクセルファイルにはパスワードを設定するなどしておきたい。 * * * これまで、個人情報保護法の安全管理措置を順に解説してきた。これまでに説明してきたことをベースに、中小企業が最低限やるべきことを簡単にまとめたものが以下の表である。実務の参考にしていただけると幸いである。 ※クリックすると別ページでPDFが開きます。 (了)
《速報解説》 経営革新等支援機関の認定更新制、 第1号~第3号認定の集中受付期間は本年11月末まで ~実務経験不足の場合は中小機構による指定研修の受講及び試験合格も検討~ Profession Journal編集部 既報のとおり本年7月9日に施行された産業競争力強化法等の一部を改正する法律において中小企業等経営強化法が改正され、同日から経営革新等支援機関認定制度に「認定の更新制」が導入されている。 経営革新等支援機関の認定制度とは、中小企業の経営課題が多様化・複雑化する中で、専門性の高い支援事業を行う個人・法人、中小企業支援機関等を「経営革新等支援機関」として認定することで、中小企業に対する専門性の高い支援体制の整備を行うことを目的に、2012年から開始されたもの。 本年6月には国が認定した経営革新等支援機関の数が29,188機関(その8割近くが税理士及び税理士法人)となり順調にその数を伸ばしている一方、直近1年間で認定支援業務を行っていない者も約3割存在しているといった問題点も指摘されていたことから、支援体制の質の維持を目的に、今回の更新制導入に至った。 導入された更新制では、経営革新等支援機関の認定期間に「5年」の有効期間が設けられ、期間満了時に改めて業務遂行能力について確認を受ける必要があり、主な確認項目は「専門的知識」「法定業務を含む一定の実務経験」「業務の継続実施に必要な体制」とされている。 このように、今後は認定を受けた日から起算して5年を経過するまでに認定の更新を受ける必要があるわけだが、上記のとおり認定制度は2012年からスタートしているため、すでにこの5年を経過している対象者も存在する。 このため中小企業庁は、既に更新時期を経過した場合を含む認定日が2015年7月8日以前である対象者については、更新事務が一時期に集中することを避けるため、特段の事情がない限り以下の更新時期に認定の更新を受けるよう求めている。 (※) 中小企業庁ホームページより 上表のとおり、制度開始当初に認定を受けた場合は本年11月末が受付期限となるケースもあるため留意が必要だ。ちなみに、自身の認定日については、次の「経営革新等支援機関認定一覧」ページから確認することができる。 なお、認定の更新を受けるために必要な「更新申請書」については、下記の中小企業庁HPもしくは各経済産業局HPにおいてWordファイルで入手することができ、更新申請書は認定申請書と同じ様式(様式第1(第2条第2項及び第6条第1項関係))となっている(様式自体は今回の法改正により誓約書の記載が一部変更されている)。 ここで気になるのは、認定日から更新申請日までの期間に、制度上求められる経営革新等支援業務等の実務経験が不足していた場合だが、本稿公開時点では中小企業庁HPに更新申請書の記載例がなく、各経済産業局によってHP上の情報量に違いがあるものの、東北経済産業局などでは個人・法人、士業ごとの更新申請書の記載要領が公表されており、例えば税理士(個人向け)の更新申請書記載要領のうち実務経験証明書の箇所において、 ・実務経験年数の対象期間は、直近の認定日から更新申請日までとする。 ・経営革新等支援業務に係る実務経験は通算で1年以上であればよい。 ・不足する場合は、(独)中小企業基盤整備機構(中小企業大学校)にて指定された研修を受講し、試験に合格した旨の証明書の写しを添付する。 との説明が見られることから、上記の研修を受け試験に合格することで、実務経験の不足を補うことができると考えられる。 ちなみに、中小企業基盤整備機構による認定支援機関向け研修の詳細は下記のページから確認することができる。 このように、自身の認定更新(申請)期限と実務経験については早めに確認・整理し、各経済産業局のホームページで公表された最新情報についても確認の上、必要に応じ問い合わせを行うようにしておきたい。 なお、今回の更新制導入に合わせ、認定の廃止を検討する機関に向け、廃止届出制度も整備されており、下記のページから廃止届出書の様式や記載要領を確認することができる。 (了)
《速報解説》 公認会計士・監査審査会より 平成30年版の「監査事務所検査結果事例集」が公表される ~「グループ監査」及び「財務諸表監査における不正」における 指摘事項・留意点等の記載を充実~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月31日、公認会計士・監査審査会は平成30年版の「監査事務所検査結果事例集」を公表した。 今回の事例集の特徴は次のとおりである。 「平成30年版 モニタリングレポート」も公表されており、監査法人の状況などについて、会計専門家ではない一般の利用者にもわかりやすく説明がなされている。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役、監査役、投資者等による活用を期待 事例集は、上場会社等の取締役・監査役や投資者等に対する参考情報の提示という観点から、最近の不正会計事案に関するものも含め、審査会検査で確認された指摘事例を記載し、また、監査事務所の改善取組において前向きな取組例も取り入れているので、会計監査人の適切な評価のために、是非参考にしていただきたいと考えているとのことである。 Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 会計上の見積りについては、継続して不備が頻出していると述べている。 (了)
《速報解説》 監査役協会より「『新オレンジ本』から読み解く 監査役スタッフ業務の再整理(前編)」が公表される ~研究会メンバーからの関心が高かったポイントを抽出、業務の勘所を明らかに~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月26日付(ホームページ掲載日は7月31日)、日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は、「『新オレンジ本』から読み解く監査役スタッフ業務の再整理(前編)」を公表した。 これは、「監査役監査と監査役スタッフの業務」(通称「新オレンジ本」)で対応できなかった課題について取り組み、新オレンジ本を読み解きながら、監査役スタッフ業務の再整理を行えるようにするものである。 表紙を含めて94ページあるので、以下では主な内容について解説することとする。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 期初業務 監査計画はどの程度の詳細度で作成しているかについて、「監査役監査計画(簡易版)」の作成のみであっても、個別の監査業務(「事業所への往査」等)は、実施スケジュール、実施項目などは作成しており、大多数の会社では結果的には詳細版と同程度のものを作成していると考えられるなど、事例や実践についての考察が記載されている(7ページ)。 そのほか、常勤監査役の選定、監査役報酬等の協議など多岐にわたって記載されている。 Ⅲ 期中業務 1 子会社(国内・海外)への調査・確認 子会社の確認・調査はどのようにしているかについて、内部統制チェックリストを作成の上、本社と重要な子会社はチェックリストの全項目を確認すること、中堅の子会社はチェックリストの一部項目のみを確認すること、小規模なところはチェックリストを使わずにヒアリングのみ実施することなどの工夫について記載されている(32ページ)。 2 関連当事者との一般的でない取引の監査 基本的には、「M22:競業取引・利益相反取引の監査」と同じ流れで行っている会社が多かったこと、取締役会への出席及び稟議書閲覧により確認する会社がほとんどであったことなどが記載されている(41ページ)。 会計監査人が非通例取引に関する調査を実施した場合等は、監査役(会)がその調査結果を遅滞なく聴取することが、不祥事等の発生を牽制する上で重要な意味を持つものと考えられると記載されている(41ページ)。 3 子会社監査役との連携 子会社を有する会社は、ほとんどが子会社監査役との連携を行っていたことなどが記載されている(52ページ)。 改正会社法が施行され、企業集団の内部統制が強化されて以降、子会社監査役との連携を強化したという会社も多かったとのことである(52ページ)。 4 三様監査会議 三様監査会議を実施している会社はほとんどなかったことなどが記載されている(67ページ)。 監査役、会計監査人、内部監査部門が一堂に会して会議を行う必要性を見いだせないという意見があったとのことである(67ページ)。 5 内部通報制度の有効性の確認 監査役(室)が内部通報窓口となっている会社は一部で、多くの会社ではコンプライアンス、CSR、内部監査の部門が内部通報窓口となっていることなどが記載されている(70ページ)。 経営に関するもの(談合・背任行為・横領・個人情報漏洩等)と人権に関するもの(パワハラ・セクハラ・クレーム等)とで別個の窓口を設置している会社もあったこと、ほとんどの会社は、社内窓口とともに、弁護士や外部委託者などの社外窓口を設けていることなどが記載されている(70ページ)。 (了)