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monthly TAX views -No.79-「軽減税率、KFCの値付けに賛意」

monthly TAX views -No.79- 「軽減税率、KFCの値付けに賛意」   東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹   参議院選挙が終わり、いよいよ消費税軽減税率の導入が間近に迫ってきた。混乱が予想されるのは、テイクアウトとイートインの区別だが、KFCは、イートイン(レストランサービスとして標準税率の10%)とテイクアウト(食品として軽減税率の8%)を税込み価格同額にして、消費者の混乱を避けるという方針を打ち出した。 標準税率の適用されるイートインと軽減税率のテイクアウトを税込みで別価格にすると、「テイクアウト」と言って購入し、その場で食べるお客が出てきて、店側もどう対応すべきか煩わしいということが理由のようだ。 そうは言っても、消費者一人一人にテイクアウトかイートインかを尋ね、正確な納税のための区分経理を行う必要はある。 これは、ドイツのマクドナルドで実際にとられている方式だ。重要なポイントは、店側に商品の値付けの自由度があるということである。増税分の転嫁は必要だが、一方で顧客や従業員が混乱しないようにすることも、店側にとっては重要である。双方を比較考量したうえでの決断だろう。 *  *  * 消費税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を差し引いて納税すればよく、個別の品目にどれだけ消費税額を上乗せするかどうかは店側の自由である。消費税は売上全体として計算・納税されるので、価格転嫁は全体として出来ていればよいわけだ。 これまでわが国では、一斉に(前日に徹夜して)すべての商品を消費増税分だけ値上げする一斉値上方式が多かった。これが、消費増税前の駆け込みや反動減を招き、結果として経済の混乱を招いてきた。 今回のKFCの決断に対して、わが国のマスコミが、「KFCは過剰な転嫁をしている」「益税ではないか」といった、見当違いのコメント記事を書かないことを願っている。 政府も、消費税の正確な理解が進むよう、広報をしっかり行う必要がある。 (了)

#No. 329(掲載号)
#森信 茂樹
2019/08/01

《相続専門税理士 木下勇人が教える》一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第4回】「相続・事業承継を複眼的に捉える視点」

《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第4回】 「相続・事業承継を複眼的に捉える視点」   公認会計士・税理士 木下 勇人   今月18日(日)に、税理士を志す方や税理士としての経験がまだ浅い方に向けて、「相続」及び「事業承継」に関するセミナー講師として登壇する機会をいただいた。 共にこれまで語りつくされてきたテーマではあるが、この機会に本連載の「特別編」として、筆者が提唱する「複眼的視点」によって今後の相続・事業承継実務に携わる上で必須となる事項をご紹介したい。 *  *  *   はじめに 相続・事業承継というテーマはCFP®試験科目でも1つのテーマとして捉えられています。この「相続」と「事業承継」がどのように関わり、税理士としてどのように対処すべきか、私見ではありますが、複眼的な視点をご紹介したいと思います。   1 税理士が身につけるべき「相続」の視点 「相続」と聞いて、税理士としてまず頭に浮かぶのは、相続税額の計算ではないでしょうか。 相続税額の計算は、相続又は遺贈により財産を取得した者の取得財産ごとの積上げ計算が前提ですので、遺言がなければ、相続人間の遺産分割協議が成立している必要があります。もちろん未分割であれば総額計算にて行いますが、分割後には相続人間の調整が入るため、遺産分割協議が成立していると考えてもいいのではないでしょうか。その取得した財産額に比例して相続税総額が配分されるイメージです。 相続財産につき相続税を計算するための評価が財産評価ですが、これを規定しているのは財産評価基本通達です。取引相場のない株式や土地を含めた各種財産の評価方法が定められていますが、あくまで相続税算出のための評価額です。遺産分割は遺産分割時点の時価を原則としていますが、当事者間の合意があれば、相続税評価額を時価として採用しても問題ありません。ただし、いわゆる「争族」となった場合には相続税評価ではなく時価を採用して遺産分割を行うこともありますので、相続税法と民法の乖離が生じる財産(例えば土地など)をイメージするとよいかもしれません。   2 税理士が身につけるべき「事業承継」の視点 (1) 承継コストを抑えるための自社株評価引下げ 次に、「事業承継」と聞いて、税理士としてまず頭に浮かぶのは、自社株の承継問題ではないでしょうか。 子供へ承継させる親族内承継であれば、譲渡対価を受け取ることは想定しないかと思いますので、贈与か相続で承継させることになります。その際に承継者側が負担するコストが贈与税・相続税になりますが、株価が高い場合にはその承継コストも高くなるため、納税資金の問題が生じます。そのため、いかにして株価を引き下げるのか、ここも税理士が注目する視点です。 株価引下げや上昇を抑制するために組織再編を行うこともありますが、相続税を不当に減少させることが目的とみなされてしまうと、経済合理性がないものとして組織再編行為が否認されるリスクが残ります。 (2) ビジネスとして捉えた場合の「事業承継」 「事業承継」を次世代への経営承継と捉えることもできます。つまり、従業員を抱える組織を承継しビジネスとして成功させるためには、人・もの・金・情報を承継させる必要があります。また、変化の激しい昨今のビジネス環境に耐えられるだけの柔軟性も必要になります。社長交代を伴う場合には、先代社長がいなくてもビジネスが成立するだけの基盤も必要です。 その意味で、後継者教育は欠くことができないファクターになるでしょう。 ビジネスとして成功しない=業績悪化、ということになれば、自社株評価もおのずと下がります。高騰する自社株が問題になるということは、基本的にはビジネスとして成功していることを意味します。事業承継によりビジネスが失敗しては本末転倒ですので、事業承継問題でプライオリティが高いのはビジネスの成功であることは言うまでもありません。   3 「相続」「事業承継」の複眼的視点 (1) 個人資産としての両者の関係 個人資産の承継としての「相続」に対して、ビジネスの承継まで含んだ自社株承継としての「事業承継」があります。ただし、自社株を被相続人が保有する個人財産の一部と捉えれば、単なる「相続」と捉えることも可能です。 自社株の承継を「相続」ではなく「事業承継」と捉える場合、そこには「経営」という視点が入りますが、その意味では、個人資産で営む不動産経営も事業承継の一貫として捉えてもいいのではないでしょうか。不労所得を生み出す不動産経営を事業として捉えない風潮があるように感じますが、不動産経営も立派な経営です。 個人資産で経営に関係あるものを次世代に「相続」させることが「事業承継」であると捉えるべきと考えます。 法人が絡んだ場合、自社株承継のみが「事業承継」と捉えるのではなく、個人資産で事業に関係する資産(自社株、会社貸付金、会社所有建物敷地など。以下、「事業用資産」と呼びます)は次世代に確実に承継させる必要があると考えます。 (2) 民法を介在させた場合の複眼的視点 事業に関係ある個人資産を「相続」させることを「事業承継」と捉えた場合、個人資産に占める事業用資産の割合が多いと、相続人間で不平等が生じます。その場合、遺言がなければ遺産分割協議が難航する可能性が高くなります。 遺産分割協議成立を条件とした各種規定(小規模宅地等の特例、農地・自社株などの納税猶予制度、配偶者の税額軽減特例)の適用可能性はもちろんのこと、非承継者との調整を行うためには、遺言の存在と遺留分侵害額請求権行使に対する資金確保が必須と考えます。 「相続税だけの視点」ではなく「民法の視点」も取り入れて両者を複眼的に捉えることが、今後の相続・事業承継実務では不可欠になるでしょう。 (了)

#No. 329(掲載号)
#木下 勇人
2019/08/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例8】「医薬品共同開発負担金の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例8】 「医薬品共同開発負担金の損金性」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私はある医薬品メーカーの経理部に勤務しております。近年、医薬品の開発に関しては、それに関わる諸費用が高騰する傾向にあることから、私の勤務する会社では、いくつかのメーカーと共同で研究開発を行うケースが増加しております。今回問題となっているプロジェクトXもその一環で遂行しているもので、3年前に消化器系疾患の分野に特化しているA製薬と共同開発及び製造販売に関する契約を締結しています。 青色申告法人であるわが社は、当該契約に基づき、過去3年間にわたってプロジェクトXに係る共同研究開発につき負担金を支払っております。そのため、経理部としては当該負担金はわが社において試験研究費に該当するものとして、試験研究費の総額に係る特別控除(措法42の4①)の適用対象になるものと解し、法人税の申告を行いました。 ところが、先日受けた税務調査で、 当該負担金はわが社とA製薬との共同研究のために支出されたものではなく、A製薬が研究開発を主導しその結果ほぼ得られつつあった成果に対し、その提供を受けるために支出した金額であるため、特別控除が受けられる試験研究費ではなく繰延資産に該当すると指摘されました。 確かに、当該分野に強みのあるA製薬が開始したプロジェクトXに当社は後から加わったところではありますが、共同で研究を行ったのは動かしがたい事実であり、この点に関し税務当局の見解は容認し難いところです。この件に関しどのように対処すべきでしょうか、教えてください。   【A】 共同研究に係る負担金支出が試験研究費の総額にかかる特別控除の適用対象になるか否かは、当該プロジェクトへの御社の関与の度合いと役割によって決まってくるもので、それは結局事実認定に関わってきます。当該負担金が試験研究費の特別控除の対象となるような共同研究に対するものであるといえるためには、御社が契約に基づきその共同研究の中で果たした役割がどれほど重要なものであったのか説明できるとともに、それを裏付けるような証憑書類を示すことが不可欠であると考えられます。 仮にそれが証明できず、当該支出は先行するA製薬が行っていた研究開発に単に参加し、そこで得られた成果を取得する対価であると認定される場合には、その支出の効果が支出後1年以上にわたって及ぶものであるとして、繰延資産に該当すると解するのが妥当であるといえるでしょう。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 試験研究費の総額に係る特別控除制度 試験研究費の総額に係る特別控除制度(研究開発税制)は、わが国における産業競争力の強化のため、試験研究の促進を図る目的で、その事業年度の試験研究費の総額を基礎に税額控除を認める制度である(措法42の4①)。当該制度の下では、青色申告法人は、損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、その事業年度の納付すべき法人税額から、試験研究費の増減に応じ、当該事業年度の試験研究費の額の6~14%相当額を控除することができる。 ① 増減試験研究費割合が8%を超える場合 ② 増減試験研究費割合が8%以下である場合 上記算式中の「増減試験研究費割合」とは、増減試験研究費の額の比較試験研究費の額に対する割合をいう(措法42の4⑧三)。 また、「増減試験研究費の額」とは、この制度又は中小企業技術基盤強化税制の適用を受ける事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額から、比較試験研究費の額を減算した金額をいう(措法42の4⑧三)。 さらに、「比較試験研究費の額」とは、その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額の合計額を、その3年以内に開始した各事業年度の数で除して計算した金額をいう(措法42の4⑧五)。 なお、上記は平成31(令和元)年度税制改正後の措置で、以下の図で明らかなように、増減試験研究費割合が0%から8%につき従来の制度より税額控除割合が高くなるなど、試験研究費の増加インセンティブを強化した改正であると考えられる。 〇平成31(令和元)年度税制改正前後の研究開発税制に係る税額控除割合 (出典) 財務省編『令和元年度税制改正の解説』331頁 (2) 共同研究に係る研究負担金の課税関係 新薬の開発のように、自社の技術力や人的資源では対応できない、あるいはリスクが大きすぎて負担できないといった場合には、同業他社や研究機関との間で共同研究を行うというケースが少なくない。 それでは、このような共同研究に関し、それに参画する企業が支出する研究負担金は、法人税法上どのように扱われるのであろうか。 共同研究に係る費用の計上時期に関しては、基本的に自らが行う試験研究と同様に考えることとなる。すなわち、工業化研究に該当することが明らかなものは原価性を有するとして製造原価に算入し、それ以外の支出のうち、減価償却資産や棚卸資産として計上すべきもの以外は、期間費用として処理されることとなる(法基通5-1-4(2))。また、共同研究に参画している企業が支出した負担金はその支出した事業年度に損金算入されるのではなく、その研究に関し実際に試験研究費を支出した事業年度に損金算入される。 一方、共同研究に係る負担金であっても、その内容を見てみると、先行して相当程度の研究開発を行っている企業のプロジェクトに後から参画し、その成果の使用許諾を受けるための対価であると解するのが妥当とされる場合には、その負担金は、法人税法上、法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので、「役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用」又は「自己が便益を受けるために支出する費用」に該当するものと考えられる(法法2二十四、法令14①六ハ・ホ)。 そのような場合、当該負担金は、試験研究費ではなく繰延資産(権利金ないしノウハウ)に該当することとなり、その支出の効果の及ぶ期間にわたって均等額ずつを損金経理することとなる(法法32①、法令64①二)。これは、当該負担金が実質的には費用の前払いにあたるため、費用収益対応の原則から、支出の年度に全額を費用化(期間費用)するのではなく、その効用が持続する期間にわたって償却すべきとの考え方に則っての処理であると考えられる(※)。 (※) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)390頁。 (3) 共同研究に係る研究負担金をめぐる裁決事例 次に、共同研究に係る研究負担金をめぐる以下の裁決事例について検討していきたい(国税不服審判所平成30年10月10日裁決・TAINSコード:J113-3-09)。 これは、製品の共同開発契約に基づき、請求人が一方の契約当事者に支払った負担金について、当該契約に基づく製品に係る厚生労働大臣の承認を得るために当該契約当事者から開示された資料等は、共同開発の成果であって請求人が自己開発したものと同様であること、また、当該負担金の支出には、大臣の承認が得られないリスクがありその支出の効果がその後に及ぶものといえないことなどから、請求人は当該負担金は繰延資産に該当しない旨主張するが、その主張の妥当性が問われた事案である。 共同開発契約に基づく負担金支出の法人税法上の性格についての、原処分庁及び請求人の主張は以下の表の通りまとめられる。 上記両者の主張に対し、審判所は以下の通りの判断を示した。 要するに、請求人が共同研究の負担金として支払った金銭は、将来収益を生み出す医薬品の本申請にあたって必要な開発データに対する対価であり、その支出の効果は最低でも5年間は継続するものであるから、法人税法第2条第24号に規定する繰延資産に該当するという判断が下されたことになる。 審判所が認定した事実関係に基づくのであれば、共同研究の負担金として支払った金銭は、法人税法上、繰延資産に該当すると解するのが妥当であろう。 (4) 本件へのあてはめ 本件についても、共同研究に係る負担金支出が試験研究費の総額に係る特別控除の適用対象の試験研究費に該当するか否かは、当該負担金が何の対価であるのかによって決定され、すなわちプロジェクトXへの御社の関与の度合いと役割によって決まってくるもので、それは結局事実認定に関わってくるものと考えられる。 当該負担金が試験研究費の特別控除の対象となるような、共同で行った研究に対する試験研究費の支出であるといえるためには、御社が契約に基づきその共同研究の中で果たした役割がどれほど重要なものであったのか説明できるとともに、それを裏付けるような証憑書類を示すことが不可欠であると考えられる。 仮にそれが証明できず、当該支出は先行するA製薬が行っていた研究開発に単に参加しただけで、実質的にはA製薬が行った研究開発から得られた成果を取得するための対価であり、当該成果は医薬品の製品化に不可欠なものであると認定される場合には、その支出の効果が支出後1年以上にわたって及ぶものであるものであるとして、繰延資産に該当すると解するのが妥当であるといえるであろう。 (了)

#No. 329(掲載号)
#安部 和彦
2019/08/01

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第71回】「印紙税過誤納確認申請書の書き方」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第71回】 「印紙税過誤納確認申請書の書き方」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   所定の印紙税額よりも過大に収入印紙を貼付した契約や、収入印紙を貼付し、割印を押したものの作成途中で書損等により契約が成立しなかった場合には、印紙税の過誤納金としての還付を「印紙税過誤納確認申請書」により行うことができると聞きましたが、記入の方法について教えてください。 (事例1) 軽減税率の適用がある不動産売買契約書に本則税率分の収入印紙を貼付して、納付額が超過となった場合 (事例2) 領収書の作成時に、収入印紙を貼付し、割印を押したが、相手方に交付する前に領収金額が誤っていることに気がつき、その領収書は使用する見込みがなくなった場合   印紙税の過誤納金の還付を受けようとする場合は、下記「印紙税過誤納確認申請書」(3枚複写)と過誤納となっている文書を過誤納となっている文書を作成した日から5年以内に文書の作成場所を管轄する税務署に提出し、還付を受けることとなる。 [記載例] ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 《申請に当たっての注意点》   (了)

#No. 329(掲載号)
#山端 美德
2019/08/01

平成31年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】「「設備投資促進税制の延長・見直し」「適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大」「事業税の税率の改正」」

平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「「設備投資促進税制の延長・見直し」 「適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大」 「事業税の税率の改正」」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [3] 設備投資促進税制の延長・見直し 設備投資促進税制については、連結納税の場合も、単体納税と同様に各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 ただし、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 そのため、対象設備や適用要件などの制度設計そのものは、連結納税の場合も単体納税と変わらない。 平成31年度税制改正において、設備投資促進税制について、連結納税でも単体納税と同様に、次に掲げる改正が行われている。 この場合、適用要件の見直しは、平成31年4月1日以後に取得等した資産から適用される(平成31年所法等改正法附則1、67、68)。 1.中小企業投資促進税制について、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の11、措令39の41)。 2.中小企業経営強化税制について、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の15の5、措令39の46)。 3.商業・サービス業活性化税制について、適用要件の見直しを行い、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の15の4、措令39の45の4)。 4.地域未来投資促進税制について、付加価値額が8%以上増加していることの要件を満たす場合に、機械装置及び器具備品について、特別償却率を50%(改正前:40%)に、税額控除率を5%(改正前:4%)に、それぞれ引き上げる、また、適用投資額の上限を80億円(改正前:100億円)に引き下げる、などの見直しを行い、適用期限を2年(令和3年(2021年)3月31日まで)延長する(措法68の14の3、措令39の44の3)。 5.中小連結法人(適用除外事業者を除く)について、中小企業の災害に対する事前対策のための設備投資に係る特別償却制度(中小企業防災・減災投資促進税制)を創設する(令和元年(2019年)7月16日から令和3年(2021年)3月31日まで)(措法68の20、措令39の52)。 6.平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制について、適用除外事業者を適用対象から除外することになった(平成31年所法等改正法附則1、48)。また、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、中小連結法人の範囲が見直されている(『[2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し』参照)。   [4] 適用除外事業者の適用除外措置の範囲の拡大 平成31年度税制改正において、適用除外事業者が適用できない中小企業者向けの租税特別措置の範囲が拡大した(単体納税、連結納税の適用除外事業者の定義は、『[2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し』を参照)。 具体的には、平成31年度税制改正によって適用期限が延長された中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、中小企業者の法人税率の特例(19%ではなく15%を適用)について、適用除外事業者が適用対象外となった(設備投資促進税制については、『[3] 設備投資促進税制の延長・見直し』を参照)。 平成31年度税制改正を踏まえた、平成31年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度において適用除外事業者が適用対象外となる中小企業者向け租税特別措置は、下記のとおりとなる。 (※)は、平成31年度税制改正によって創設又は適用期限が延長されたものである。 このうち、①~⑨は、中小企業者又は中小連結法人に該当する場合でも適用除外事業者に該当する場合は適用できないものである。 一方、⑩と⑪については、中小法人に該当しても、適用除外事業者に該当する場合は適用できないものである(措法42の3の2①、57の9①②、68の8①、68の59①②)。 中小法人の特例措置のうち、適用除外事業者の適用関係は次のとおりとなる。 [中小法人の特例措置に係る適用除外事業者の適用関係] [5] 事業税の税率の改正 都市・地方の持続可能な発展のための地方税体系の構築を目的として、事業税の一部を分離して特別法人事業税を創設することになった。 具体的には、令和元年(2019年)10月1日以後に開始する事業年度から、事業税の税率(所得割及び収入割に限る)を引き下げるとともに、標準税率により計算した事業税額(所得割額)を課税標準とした特別法人事業税を課すことになった(地法72の24の7①②③。特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律(平成31年法律第4号))。 この事業税と特別法人事業税については、現行の事業税と地方法人特別税の計算の仕組みと同じであり、税率の内訳は異なることになるが、合計した事業税の税率と法定実効税率はほとんど変わらないため、実務に与える影響はほとんどないだろう。 改正前後の法定税率と法定実効税率について、以下に【税率の一覧表】を示しておく。 なお、東京都については、この改正を盛り込んだ「東京都都税条例等の一部を改正する条例」(令和元年東京都条例第4号)が、令和元年第2回東京都議会定例会において可決され、令和元年6月26日に公布されているが、東京都は、現行の超過課税の規模を変更しない(現行の標準税率と超過税率の差分をそのまま、税制改正後の標準税率に加算する)こととしている。 【法定税率と法定実効税率の一覧表】 ※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。   (了)

#No. 329(掲載号)
#足立 好幸
2019/08/01

〈桃太郎で理解する〉収益認識に関する会計基準 【第12回】「もし第二鬼ヶ島にも行くことになったら~契約の変更」

〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第12回】 「もし第二鬼ヶ島にも行くことになったら ~契約の変更」 公認会計士 石王丸 周夫   1 「第二鬼ヶ島」を発見! 桃太郎一行が船に乗って鬼ヶ島に向かっていると、物見に出ていたキジが戻ってきました。 「桃太郎さん、鬼ヶ島の向こうに、もう1つ別の鬼ヶ島を見つけました!」 「えっ!別の鬼ヶ島!?」 キジの報告を聞いた一同はびっくりしましたが、桃太郎はすぐにこう言いました。 「それなら、こうしよう!鬼ヶ島で鬼を成敗したら、その足でもう1つの鬼ヶ島に行き、そこの鬼も成敗する。ちょうど今、ほんの少し小さなきびだんごが3つあるから、もう1つの鬼ヶ島に向かう途中で、それをみんなに1つずつあげることにしよう。」 「そうしましょう!」 イヌ・サル・キジたちは、喜んで賛成しました。 今回は、鬼ヶ島(第一鬼ヶ島)のほかに、もう1つ別の鬼ヶ島(第二鬼ヶ島)があったという設定にしました。桃太郎たちは、当初の鬼退治に向かう途中で第二鬼ヶ島を発見し、急きょ計画を変更したようです。 イヌ・サル・キジは、桃太郎と鬼退治同行サービスの契約を結んでいます。その遂行途中で内容に変更が生じた場合、イヌ・サル・キジの収益認識処理に何か影響が出るでしょうか。 以下、収益認識会計基準に照らして考えていきましょう。   2 「契約の変更」とは 収益認識会計基準では、「契約の変更」という考え方が示されています。それによると、「契約の変更」とは、契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更で、当事者が承認したもののことを言います。 今回の内容変更は、以下のとおり、「契約の変更」に該当します。   3 契約変更時の処理方法は4つ 「契約の変更」が生じた場合、会計処理の方法は以下の4つ([ⅰ]~[ⅳ])に分かれます。 いずれの処理方法になるかは、次に説明するような所定の要件があって、それらを満たすかどうかで判断していきます。   4 独立した契約として会計処理するための要件 では、第二鬼ヶ島に行くことになった件について、上記4つの処理方法([ⅰ]~[ⅳ])のうちどれに該当するのかを判定していきましょう。 判定の流れは以下のようになります。 第1段階の判定として、「契約の変更」について、次の2つの要件がいずれも満たされるなら、当該契約変更を既存の契約とは独立した契約として会計処理します。 少し難しい表現になっていますが、順番に見ていきましょう。 まず(1)の要件です。今回の話では、「第二鬼ヶ島に行く」という別個のサービスが追加され、契約の範囲が拡大されています。したがって、(1)の要件は満たされます。 次に(2)の要件です。イヌ・サル・キジは、「第二鬼ヶ島に行く」という追加的サービスの報酬として、ほんの少し小さなきびだんごを1つずつもらいます。当初の契約価格(きびだんご1つ)に、ほんの少し小さなきびだんご1つが上乗せされるので、「増額」されたことは間違いありません。この増額が、「独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額」かどうかを確かめましょう。 当初の話では、鬼退治に1回同行することの見返りとして「通常の大きさのきびだんご1つ」をもらいました。つまり、鬼退治同行1回につき「通常の大きさのきびだんご1つ」というのが独立販売価格(市場価格)と考えられます。 今回追加された第二鬼ヶ島行きは、第一鬼ヶ島に行ったついでに立ち寄るということから、サービスを一からすべて提供するわけではありませんね。そのため、報酬はきびだんご1つではなく、ほんの少し小さなきびだんご1つになっています。この「ほんの少し小さくなった」というのは、「独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整」と言えます。したがって(2)の要件も満たされます。 以上から、第二鬼ヶ島行きは、上記2つの要件をいずれも満たし、「[ⅰ]既存の契約とは独立した契約として会計処理する」ことになります。 具体的な会計処理としては、イヌ・サル・キジたちは、第二鬼ヶ島同行サービスの履行義務を充足した時点で、各自「ほんの少し小さなきびだんご1つ」を収益計上することになります。 なお、上記2つの要件のいずれかを満たせなかった場合は、独立した契約として処理されない場合となります。 ここから先は複雑な話になってしまうため、詳しい説明は割愛しますが、第二段階の判定では、契約変更日において未移転のサービスについて、契約変更日以前に提供したサービスと別個のものであるかどうかにより、[ⅱ]~[ⅳ]のいずれかであるかを判断します。 ▷今回のまとめ 収益認識会計基準では、契約変更について、所定の要件に基づき複数の処理を定めています。 (了)

#No. 329(掲載号)
#石王丸 周夫
2019/08/01

企業結合会計を学ぶ 【第22回】「親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理」

企業結合会計を学ぶ 【第22回】 「親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、親会社が子会社を吸収合併する場合の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 個別財務諸表上の会計処理 1 概要 親会社が子会社を吸収合併する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針205項、206項、438項)。 下記のほか、中間子会社に対価の支払を行う場合の取扱い、子会社と孫会社との合併の場合についても規定されている。 ◎子会社(吸収合併消滅会社) 子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定する。 ◎親会社(吸収合併存続会社) 【資産及び負債の会計処理】 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 増加すべき株主資本は次のように会計処理する。 【株主資本】 親会社は、子会社から受け入れた資産と負債との差額のうち株主資本の額を合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、それぞれ次のように処理する。 ① 親会社持分相当額の会計処理 親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額との差額を、特別損益に計上する。 ② 非支配株主持分相当額の会計処理 ・非支配株主持分相当額と、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価)(結合分離適用指針37 項から47項)との差額をその他資本剰余金とする。 ・合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本とし、結合分離適用指針79項から82項に準じて会計処理する。 【株主資本以外の項目】 ・親会社は子会社の合併期日の前日の評価・換算差額等(親会社が作成する連結財務諸表において投資と資本の消去の対象とされたものを除く)及び新株予約権の適正な帳簿価額を引き継ぐ。 ・例えば、子会社のその他有価証券評価差額金や土地再評価差額金の適正な帳簿価額のうち、支配獲得後に当該子会社が計上したものをそのまま引き継ぐことになる。 2 親会社が子会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 前述のように、親会社と子会社が合併する場合、親会社の個別財務諸表では、原則として、子会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れる会計処理を行う。 親会社が作成する連結財務諸表において、当該子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときは、個別財務諸表上も、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額(のれんを含む)により会計処理することになる(企業結合会計基準(注9)、結合分離適用指針207項)。 当該取扱いは、子会社とその子会社との合併(例えば、子会社と孫会社との合併)についても適用し、この場合の連結財務諸表上の帳簿価額とは、子会社にとっての連結財務諸表上の帳簿価額である(結合分離適用指針207項)。 子会社の資産及び負債の帳簿価額を修正しているときの会計処理の具体例は、次のとおりである(結合分離適用指針207項、439項)。 3 連結財務諸表上の帳簿価額が算定されていない場合の取扱い 親会社(子会社とその子会社との合併の場合における子会社を含む)が、連結財務諸表を作成していないことにより、「連結財務諸表上の帳簿価額」が算定されていない場合であっても、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定できるときには当該帳簿価額を用いることとし、「連結財務諸表上の帳簿価額」を合理的に算定することが困難と認められるときは、子会社の適正な帳簿価額を用いる(結合分離適用指針207-2項)。 親会社が他の会社の株式を取得して子会社化した直後に合併した場合(子会社が他の会社の株式を取得して子会社(親会社からみて孫会社)とし、その直後に子会社が孫会社を吸収合併した場合も含む)は、通常、連結財務諸表上の帳簿価額を合理的に算定できる場合に該当するものと考えられている(結合分離適用指針207-2項)。   Ⅲ 連結財務諸表上の会計処理 吸収合併が行われた後も親会社が連結財務諸表を作成する場合には、結合分離適用指針206項(2)①アの損益は連結財務諸表上、過年度に認識済みの損益となるため、相殺消去する(結合分離適用指針208項)。 子会社とその子会社との合併(子会社と孫会社の合併)においても、当該取扱いに準じて処理する。 (了)

#No. 329(掲載号)
#阿部 光成
2019/08/01

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第7回】「『テレワーク』導入時に特に注意したい労働時間管理」

「働き方改革」でどうなる? 中小企業の労務ポイント 【第7回】 「『テレワーク』導入時に特に注意したい労働時間管理」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   「今日も電車が混雑しているかも・・・」そんなことを思いながら毎朝、「通勤」を「痛勤」と感じている方は多いのではないでしょうか。実は、筆者もその1人です。 昨今は東京オリンピック開催に向けた取組や柔軟な働き方の1つとして、多くの会社で「テレワーク」の導入が検討されています。「テレワーク」とは、従業員が「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することを可能とする働き方であり、従業員の「仕事」と「生活」の両立が実現できる魅力的な制度の1つとして、今後ますます注目されていくでしょう。 しかし、この「通勤をしないでいい!」夢のような制度を実現するためには、いくつか注意しなければならないポイントがあります。   ▷テレワークとは「働く場所」の自由度(裁量)です 労働基準法では、「働く場所」に関する制限は規定されていません。職場内で仕事をしようが、自宅で仕事をしようが、カフェで仕事をしようが、労働基準法においては何の問題もない、ということです。 つまり、 については、会社が自由に決めればよいということになります。 しかし、今まで1つ屋根の下で働いていた従業員が、それぞれ別の場所にいるということは、労務管理もそれなりに手間がかかります。また、従業員としては相談したくても相談できないということで、孤独感を感じる方も少なからずいらっしゃるようです。   ▷「テレワークの導入=労働時間短縮」となる!? 「テレワークの導入=労働時間短縮」であるかのような議論が少なからず聞かれます。もちろん、通勤時間がない分、従業員にとっては「時間を効率的に使える」ことにはなるでしょう。 しかし、テレワークを導入するだけで、労働時間が短縮するわけではありません。集中して業務が行える反面、労働時間が長くなってしまう恐れがあります。また、まとまった勤務時間を確保しようとすると、働く時間が深夜や休日にまで及んでしまうことも懸念されます。 このように、せっかくの制度が従業員の健康を害することになってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。会社はテレワーク対象者に対する「働き方」を、健康管理の観点からも配慮しなければなりません。 筆者自身も月に数日テレワークを行うことがあります。特に自宅で業務を行う場合は、家族が寝静まった深夜にこそ集中して行えることから、深夜の時間を利用することが多いのが現状です。また、業務以外のことに気が向いてしまい、効率的に業務を行えず、1日中机の前に座っているだけ・・・ということもあります。 また、従業員本人の自律も求められます。従業員自身が、勤務する時間帯や自らの健康に十分注意しつつ、業務効率を勘案して業務を遂行しなければなりません。会社がいくら仕組みを整えたとしても、最終的には、従業員自身の「働き方」に委ねることになるからです。 効率的に業務を進めて生産性を上げることが、このテレワーク導入の目的であることを労使双方ともに理解した上で、「短い時間で効率的に業務を行うための仕組みづくり」を整えると同時に「従業員の自律を促す意識改革」が求められるところです。   ▷テレワークと「働く時間(労働時間)」 テレワークは従業員に対して「働く場所」の裁量は与えていますが、「働く時間」についての裁量を与えているわけではありません。 テレワーク対象者であっても労働契約が成立している以上は、労働基準法等、労働関係法令が適用されます。したがって、会社はテレワーク対象者の「始業、終業の時刻、休憩時間」を定めなければなりません。 厚生労働省が示す「情報通信機器を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定)によると、テレワークを行う従業員に対しても、「使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」とされています。 テレワークを行う従業員の「労働時間」を把握する方法の1つとして、メールや電話等により業務開始・終了の時刻を会社に報告させる方法が挙げられます。いずれにしろ、こういった従業員の申告に基づく管理、いわゆる「自己申告制」による労働時間の把握に頼らざるを得ないのが現状だと思われます。 これについては、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)によって、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置として、以下のような措置を講ずることが求められています。 (※) 詳細については「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)p.3を参照。 会社がテレワークを行う従業員に対して効率的な働き方を求めるあまり、従業員が正しい労働時間の申告をしづらくなってしまうケースも考えられます。管理者としては、少なくとも「長時間労働になっていないか」、「メールの送信が深夜や休日に行われていないか」などを定期的に検証する必要があります。   ▷テレワークと事業場外労働のみなし労働時間制 「会社以外の場所で働くこと」=「事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法38条の2)」(以下「事業場外みなし労働時間制」)とはなりません。「事業場外みなし労働時間制」が適用されるのは、使用者の「具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なとき」に限定されており、以下の条件のいずれも満たす場合とされています。 最近の勤怠管理システムは、安価で従業員のスマートフォンなどを利用して外出先からも利用できるものもあり、スマートフォンのGPS機能を利用すれば打刻した場所まで分かるシステムも普及しています。こういったシステムが活用できる状況で「労働時間を算定することが困難なとき」があるのかは疑問ですが・・・。 なお、「事業場外みなし労働時間制」を適用できる場合であっても、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には、法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、「使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」とされています。   ▷「テレワーク+フレックスタイム制」で「働く場所」と「働く時間」を自由に! テレワークに加えて、「働く時間」を自由に選択することができる「フレックスタイム制」を適用することで、従業員は「働く場所」と「働く時間」を自由に選択することが可能となります。 フレックスタイム制は、従業員の都合に合わせて働く時間を自由に設定することが可能となるため、最もテレワークのメリットを生かせる制度といえます。 なお、フレックスタイム制について詳しくは、前回を参照してください。 ちなみに筆者の事務所は東京にオフィスがありますが、テレワークを活用して福岡で働いてもらっている従業員がおり、フレックスタイム制(フレキシブルタイム(5時~22時)、コアタイムなし)を導入し、勤怠管理システムを利用して労働時間管理を行っています。 その従業員には、朝の早めの時間や子どもたちが幼稚園に通っている時間を活用して仕事をしてもらったり、打ち合わせが必要な際には、テレビ会議を利用して遠隔地でも問題ないような工夫をしています。 また、セキュリティの問題も気になるところですよね。例えば、カフェで資料を広げて業務を行うとなると、隣の人に見えてしまったり、出先で資料を忘れてきてしまうという心配もあります。このため、原則的には「自宅での勤務」ということを、筆者の事務所ではお願いしています。 (了)

#No. 329(掲載号)
#飯野 正明
2019/08/01

空き家をめぐる法律問題 【事例16】「空き家の管理を事業者へ委託する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例16】 「空き家の管理を事業者へ委託する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、A市の自宅で生活をしておりますが、隣のB市に空き家となった実家を相続して所有しています。職場も含め日常の生活はA市で行っているため、なかなかB市の実家まで様子を見に行く時間的余裕はありません。庭木の雑草など隣家に迷惑をかけることを防ぐため、空き家の管理を委託しようと考えています。空き家管理委託をする際に、どのようなことに留意するべきでしょうか。   1 はじめに 近年、空き家の所有者に代わって、空き家の管理を行う事業が注目されている。このような空き家管理事業は、比較的低額で行われているため、地方の実家(空き家)を離れて大都市圏で生活をする者だけでなく、実家の近隣都市で生活をしている者にとっても、自身で空き家の管理をする場合に比べて、時間や費用を削減できる点でメリットがある。 今後も空き家が増加することが見込まれていることから、このような空き家管理事業は一定の需要があるものと思われる。そこで今回は、空き家所有者が、空き家の管理を委託する場合の留意点について数点説明することにしたい。   2 空き家の管理委託契約の主な内容と留意点 (1) 管理委託の委託内容 受託事業者にもよるが、空き家の管理委託契約における委託内容は、おおむね次の内容を含む準委任契約(民法第656条)としての性質を有するものと考えられる。 また、空き家の管理委託者は消費者であり、受託者は空き家管理事業のために契約当事者となる者であることが通常であろうから、その場合、当該契約は、消費者契約(消費者契約法第2条第3号)としての性質も有することになる。 受託事業者は、委託者に対して、上記の各業務を実施し、その結果を定期的に書面等に基づいて報告することになっているものが多い。 以上を踏まえ、空き家の所有者が、上記の各業務を委託する際に留意しておくべきことを検討する。 (2) 契約当事者には誰がなるか? 空き家の管理委託契約は、当該空き家の敷地内に入り点検・確認することを内容とするものであるから、当該契約の当事者は、空き家の所有者等のような管理権限を有している者であることが求められる。 空き家の所有権を単独相続した者はもちろん、共同相続した場合でも、上記(1)の①から⑤のような内容の業務であれば、共同相続人の1人が保存行為を理由に単独で契約を締結することはできる。 なお、相続発生後も建物の名義人が被相続人名義のままとなっている場合には、受託事業者が委託者に契約締結権限があることを確認するため、戸籍等の書面の提出を求められることになるものと思われる。 (3) 空き家の所有者と受託事業者の法的責任 空き家の管理委託契約の法的性質は、上記(1)のとおり準委任契約と解されることから、受託事業者は、委託者に対して、各業務の履行について善管注意義務を負う。 それでは、受託事業者が空き家の点検・確認・報告を適切に行わなかった結果、空き家の所有者が適時に修繕等を行えず、これによって第三者に損害が生じた場合、空き家の所有者や受託事業者は、誰に対してどのような責任を負うだろうか。 (ア) 第三者に対する不法行為責任について 上記(1)①から⑤の事業内容のとおり、空き家管理の受託事業者の業務内容は、定期的に空き家を訪問し、点検・管理をして、その結果を所有者に報告するに留まるものである。一般論としては、空き家の占有者は、所有者であり、受託事業者ではないと考えられる。そのため、空き家の外壁等の剥離や外壁ブロックの倒壊によって、第三者に損害が生じた場合、空き家の所有者が損害賠償責任(民法第717条)を負うことになるであろう。 これに対して、受託事業者が、建物内部の点検や確認業務まで受託しており、これに伴い所有者から鍵を預かり、1ヶ月のうちに点検や確認のために複数回空き家を訪れているような場合、受託事業者が、民法第717条に規定する占有者として、所有者とは別に、第一次的に責任を負うかは一応問題となりうる。 この点に関し、民法第717条に規定する占有者は、損害の発生を防止するために必要な注意義務を履行したときは、損害賠償責任を負わない(同条第1項ただし書)ことから、同条の占有者とは、工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補するなどして、損害の発生を防止できる関係にある者をいうものと解される(東京高判昭和29年9月30日等)。 そうすると、受託事業者が同条の占有者として認められる可能性は低い。したがって、空き家の所有者は、委託契約後も単独で民法第717条の損害賠償責任を負う可能性が高いと考えられるので、留意が必要である。 なお、空き家管理委託契約書には、不法行為によって第三者に損害が生じた場合に、所有者の負担と責任で第三者に対応することを定める条項を設けている例もあり、空き家の所有者としては、損害賠償責任のリスクを回避するために、施設の賠償責任保険に加入する等してしておくことが重要である。 (イ) 受託事業者の委託者に対する債務不履行責任について 上記(ア)のとおり、受託事業者は、委託者に対して善管注意義務を負うことから、点検・確認・報告義務を怠った結果、委託者に損害が生じた場合、委託者に対して、債務不履行に基づいて損害賠償責任を負うことになる。 この場合、空き家の所有者が、賠償責任保険に加入しておらず、自ら損害賠償金を第三者に支払ったような場合には、当該賠償金相当額が、受託事業者の債務不履行に基づく損害と主張していくことになるものと考えられる。 ただし、委託者が第三者に損害賠償金を支払ったという場合、当該支出が受託事業者の債務不履行から社会取引観念に従って通常発生する損害(通常損害:民法第416条第1項)であるかは、所有者が土地工作物責任を負っていることや、受託事業者の業務の内容に照らして疑問の余地もある。また、当該支出が特別事情によって生じた損害(特別損害:同条第2項)であるとしても、損害が発生するまでの事情が受託事業者にとって予見可能なものであるかをめぐって争いになりうるものと思われる。 ところで、管理委託契約が消費者契約である場合に、契約書上に、①受託事業者の債務不履行責任を全面的に免責する条項や②受託事業者に故意又は重過失がある場合でも損害賠償責任を限定する条項等が設けられていたとしても、このような条項は、消費者契約法第8条第1項第1号又は第2号によって無効となる。 もっとも、条項は無効となるとしても、契約書上に、当該条項が存在することを理由に、受託事業者が責任を限定する旨の主張をする可能性もあるので、契約締結の際は、契約書の条項の内容を十分に確認するべきことは言うまでもない。 (了)

#No. 329(掲載号)
#羽柴 研吾
2019/08/01

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第23話】「男女平等と寡婦(寡夫)控除」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第23話】 「男女平等と寡婦(寡夫)控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   中尾統括官は、昼休みに、椅子にもたれながら書類を見ている。 「・・・それって、税理士会の建議書ですか?」 突然、背後から、声がする。 「えっ!」 中尾統括官が驚いて振り向くと、浅田調査官がニコニコしながら立っている。 「僕もたまに読んでいるのですが、なかなか面白いですよね。えーとこれは・・・令和2年度税制改正に関する建議書・・・ですね。」 浅田調査官は、中尾統括官が持っている書類の表紙を覗きながら尋ねる。 日本税理士会連合会の「令和2年度税制改正に関する建議書」の「はじめに」では、税制に対する基本的な視点として、次の5つを挙げている。 「この建議書は、税務に関する専門家(税理士)からの税制に関する意見ですね。」 浅田調査官が言う。 「そのとおり。」 中尾統括官は頷く。 「ところで・・・何か参考になる意見は述べられていますか?」 浅田調査官が尋ねる。 「そうだなあ・・・ここに・・・寡婦(寡夫)控除について書かれているんだが・・・」 中尾統括官はページをめくりながら言う。 「・・・寡婦(寡夫)控除について・・・建議書は、次のように書かれている。」 「・・・男女平等の観点から、「寡婦控除」と「寡夫控除」との間で差を設けるべきでないと建議書に書かれているが・・・」 中尾統括官は、そう言いながら、両制度の適用要件等を罫紙に書く。 「・・・以上がそれぞれの適用要件なのだが・・・これを見ても分かるように、寡婦控除は、夫と死別した場合、子供等がいなくても、合計所得金額が500万円以下であれば適用できる。それに対し寡夫控除は、生計を一にする子がいなければ、適用されない・・・すなわち、寡婦控除(②)には、扶養親族などの要件がない・・・」 そう言うと、中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「それに寡婦控除の場合、離婚した後に自分の親を養っている場合も適用されるが、寡夫控除は適用されない・・・」 浅田調査官は頷く。中尾統括官は説明を続ける。 「ところで寡婦控除又は寡夫控除は、それぞれ27万円控除できるが・・・特定寡婦控除は、35万円の控除額になる・・・」 「特定寡婦控除の適用要件は・・・何でしたっけ?」 浅田調査官が尋ねる。 「特定寡婦控除は・・・①夫と死別又は離婚して、②扶養親族である子がいる人で、さらに③合計所得金額が500万円以下であること・・・という適用要件が必要になる。」 中尾統括官がスラスラと答える。 「ところで・・・なぜ所得税法は、寡婦控除と寡夫控除の適用要件を異にしているのでしょうか?」 浅田調査官は頸を傾げる。 「それは・・・社会的に女性よりも男性の方が、経済力があるとされているから、その適用要件に差を設けている(男性の適用要件を厳しくしている)と思う・・・」 中尾統括官は、腕を組みながら言う。 「でもそれって・・・時代遅れの考え方なんでしょうか?」 浅田調査官の口調は、強くなる。 「いや・・・私も、現実の経済社会では、まだ男性の方が優位だと思うから、必ずしも、男女平等の観点から差を設けるべきではない・・・という税理士会が述べている建議書の意見には賛同しがたい・・・」 中尾統括官は、建議書の文章を見つめながら答える。 「・・・この場合、男女平等の観点から差をなくすべきという意見は、経済社会の実態から少し乖離しているように思われます・・・むしろ女性を優遇することによって、女性は男性と平等になると考えるべきなのでは・・・」 そう言って、浅田調査官は、赤い舌をペロッと出す。 (つづく)

#No. 329(掲載号)
#八ッ尾 順一
2019/08/01
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