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日本の企業税制 【第58回】「期限を迎える教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税措置」

日本の企業税制 【第58回】 「期限を迎える教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税措置」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   教育資金の一括贈与時の非課税措置と結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税措置とが、今年度をもって期限を迎えることとなる。平成31年度税制改正においては、その継続が行われるかどうか関心を呼んでいる。   〇制度の概要 教育資金の一括贈与時の非課税措置では、平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、30歳未満の個人が、教育資金に充てるため、①その直系尊属と信託会社との間の教育資金管理契約に基づき信託の受益権を取得した場合、②その直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭を教育資金管理契約に基づき銀行等の営業所等において預金若しくは貯金として預入をした場合又は③教育資金管理契約に基づきその直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で証券会社の営業所等において有価証券を購入した場合には、その信託受益権、金銭又は金銭等の価額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、贈与税の課税価格に算入されない。 この制度は、平成25年度税制改正において、「60歳以上の世代が資産全体の6割を保有する中で、こうした資金を 若年世代に移転させるとともに、教育・人材育成をサポートするため」(平成25年度与党税制改正大綱)に創設されたものである。 一方、結婚・子育て資金の一括贈与時の非課税措置では、平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、20歳以上50歳未満の個人が、結婚・子育て資金に充てるため、①その直系尊属と信託会社との間の結婚・子育て資金管理契約に基づき信託の受益権を取得した場合、②その直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭を結婚・子育て資金管理契約に基づき銀行等の営業所等において預金若しくは貯金として預入をした場合又は③結婚・子育て資金管理契約に基づきその直系尊属からの書面による贈与により取得した金銭等で証券会社の営業所等において有価証券を購入した場合には、その信託受益権、金銭又は金銭等の価額のうち1,000万円までの金額(結婚に際して支出する費用については300万円を限度とする)に相当する部分の価額については、贈与税の課税価格に算入されない。 この制度は、平成27年度税制改正において、「将来の経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる大きな要因の1つとなっていることを踏まえ、祖父母や両親の資産を早期に移転することを通じて、子や孫の結婚・出産・育児を後押しするため」(平成27年度与党税制改正大綱)に創設されたものである。   〇制度の利用状況 信託協会の調べによると、教育資金贈与信託の受託状況は、制度創設当初(平成25年9月末)の契約数(累計)は40,162件、信託財産設定額(累計)は2,607億円であったものが、平成27年9月末には、契約数(累計)は141,655件、信託財産設定額(累計)は 9,639億円となり、平成30年3月末には、契約数(累計)は194,336件、信託財産設定額(累計)は1兆3,735億円に達している。平成25年4月の取扱開始以降、新規契約数・信託財産設定額ともに順調に増加しており、 多くの国民に利用されていることがわかる。 同じく、結婚・子育て支援信託の受託状況は、平成28年9月末で、契約数(累計)は4,933件、信託財産設定額合計(累計)は118億円であったものが、平成30年3月末には契約数(累計)は5,343件、信託財産設定額合計(累計)は151億円に達している。   〇平成31年度改正に向けて 7月19日に公表された全国銀行協会の「平成31年度税制改正に関する要望」では、次のように、それぞれの制度の恒久化(少なくとも延長)とともに、制度の拡充等が掲げられている。 教育資金贈与については、明細書の提出による口座からの資金の払出(領収書等に代えて、所定の明細書兼払出票により、教育機関への支払後に資金を請求する方法)の適用される上限額(1回の支払について1万円以下、ただし、年間合計24万円以下)を引き上げることが挙げられ、また、両制度について、預金保険制度を適用した場合の贈与税課税範囲を限定するなど、利便性向上及び負担軽減に資する所要の措置が挙げられている。 なお、贈与税に関しては、これらの制度の他、住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税措置も講じられているところであり、この制度においては、平成27年1月1日から平成33年12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、一定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる。 消費税率の10%への引き上げを念頭に、すでに需要の平準化のための措置が講じられているところではあるが、引き上げ時期が2回延長される中、住宅市場の状況が大きく変化しており、改めてあるべき平準化対策を検討することも必要になるのではないか。 平成31年度税制改正では、贈与税関係の見直しが注目ポイントの1つとなることは間違いない。 (了)

#No. 281(掲載号)
#小畑 良晴
2018/08/16

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第1回】「租税法律主義の意義と分類」-連載の「プラットホーム」-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第1回】 「租税法律主義の意義と分類」 -連載の「プラットホーム」-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに-連載を始めるに当たって- 「税法の基礎理論」と題して本誌に連載をさせていただくことになったが、本連載で「税法の基礎理論」という言葉は、「税法の基礎にある考え方」あるいは(もう少し厳密にいえば)「実定税法の体系及び諸規定を支える基本原則」というような意味で用いている。 「税法の基礎理論」のこのような意味・用語法は、拙著『税法基本講義〔第5版〕』(弘文堂・2016年)の「第1編 税法の基礎理論」のそれと同じである。そこでは、「税法の基礎理論」として租税法律主義を基軸に据えて、税法の制定及び解釈適用に関する総論的な問題について体系的に解説を加えることにしているが、本連載も同じく租税法律主義を「税法の基礎理論」の基軸とするものではあるものの、ただ、教科書とは異なる原則1回読み切りの「読み物」(もちろん各回の叙述内容は租税法律主義を介して相互に関連するものではあるが)として執筆するものであることから、取り上げるトピックは、体系的叙述の観点からではなく、そのときどきの筆者の問題関心により選定させていただくことにする。 もっとも、読者に各回の叙述内容を体系的に理解していただく一助として、各回の叙述の中で必要に応じて前掲拙著の関連箇所の欄外番号(【 】内の数字で表記する)を参照することにしたい。本連載が、税法の分野における研究と実務の(「理論」による)架橋に、多少なりとも寄与することができれば望外の喜びである。研究の「理論」は基礎理論、実務の「理論」は応用理論であるが、研究と実務とは「理論」を介して架橋は可能であり、かつ、すべきであると考えるところである。 さて、前置きはこれくらいにして、連載を始めるに当たって、今回は、少し長くなるが、本連載のいわば「プラットホーム」として、租税法律主義の意義と分類について述べておくことにしよう(【10】【11】【14】【15】【17】【28】参照)。   Ⅱ 租税法律主義の意義 租税法律主義は、課税権者に対して被課税者たる国民の同意に基づく課税を義務づける考え方である。租税法律主義は、歴史的には、1215年のマグナ・カルタ(大憲章)において、当時のイングランド国王ジョンが諸侯との間で当時の租税(楯金・援助金)につき、「いかなる楯金又は援助金も、朕の王国においてはこれを課さないものとする。」と確約したことを起源とし、それ以降、一方では政治的側面において、議会制民主主義の成立・発展に、他方では法的側面において、法の支配・法治主義の成立・発展に、それぞれ貢献してきた。 租税法律主義は、今日、多くの国で、議会制民主主義の下、議会制定法に基づく課税を要請する憲法原則として確立されており、日本国憲法は法律に基づく課税を、課税権者の側から(84条)及び被課税者の側から(30条)それぞれ規定している。租税法律主義の目的は、マグナ・カルタの「精神」を受け継ぎ、課税権者による恣意的・不当な課税から、国民の財産及び自由を保護することである。つまり、租税法律主義は、日本国憲法の基本理念の中核にある自由主義(基本的人権尊重主義)の、税法の場面での現れである。 その意味では、税法は、そのような目的を達成するための手段であり、自由主義的税法(自由主義に基づく租税法律主義を根本原理とする税法)として性格づけられるべきものである。もちろん、税法は本来的には税収確保という目的を達成するための手段であるから、これらの2つの目的の間でいかにしてバランスをとるかが、税法の制定においてはいうまでもなく、場合によっては税法の解釈適用においても、重要な課題となる。本連載において扱う問題のほとんどは、突き詰めれば、この課題に関するものといってよかろう。 租税法律主義の前記の目的からすれば、租税法律主義の機能は、本来的には、課税の適法性を保障すること(適法性保障機能)である。この本来的機能から派生して、租税法律主義は、そのような適法な課税を受けることに対して納税者に予測可能性・法的安定性を保障する機能(予測可能性・法的安定性保障機能)をもつことになる。租税法律主義の機能についてこのように本来的機能と派生的機能とを区別して理解しておくことは、税法の基礎理論に関してだけでなく、実際の問題に関しても、重要な意味をもつことがある。 例えば、一定のスキームに基づく外国税額控除余裕枠の利用を「外国税額控除制度を濫用するもの」として否認した判例(最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁、最判平成18年2月23日訟月53巻8号2447頁)について、法律上の明文の規定なしに否認を認めるものとして租税法律主義違反を問題にする批判的見解(私見については【47】参照)に対して、納税者に「濫用」の認識がある場合には「濫用」を否認してもその否認に基づく課税は、納税者の予測可能性を害することにはならず、したがって、租税法律主義に反することにはならないと主張されることがある。 しかし、「濫用」を認識することと、「濫用」が許されないと判断することとは、論理的にも法律論的にも、別問題である。外国税額控除制度の趣旨・目的(上記判例参照)を探知すれば同制度の利用が「濫用」(趣旨・目的に反する利用)に該当するか否かを認識することはできるが、しかし、「濫用」の認識から直ちに、同制度の「濫用」を許容しないとする価値判断を導き出すことはできない。租税法律主義の下では、同制度の「濫用」を否認するためには、上記の価値判断を法律上明文化した規定(濫用否認規定)が必要である。 もし前記の主張が明文の濫用否認規定を援用することなく、同制度にはいわば「不文の濫用否認規定」が内在しているので「濫用」の否認は租税法律主義に反しないと強弁するものであるならば、そのような主張を容認することは租税法律主義の「自己否定」につながることになろう。 要するに、租税法律主義の予測可能性・法的安定性保障機能は、法律上の明文の規定に基づく(適法な)課税についてのみ認められるべきものであり、その意味で、適法性保障機能の枠内で認められる派生的機能にとどまるのである。   Ⅲ 租税法律主義の分類 租税法律主義は、法律に基づく課税という場合における法律の「形式」と「内容」の観点から、次の2つに分類することができる。すなわち、1つは、法律という「形式」の法(議会制定法)によらない課税を禁止する考え方であり、筆者はこれを「形式的租税法律主義」と呼んでいる。もう1つは、法律の「内容」が憲法の人権保障に抵触するものであってはならないという考え方であり、これを「実質的租税法律主義」と呼んでいる。この分類は、法治主義に関する形式的法治主義(法律による行政の原理)と実質的法治主義(人権保障を第一義的な目的とする法治主義)の分類に対応するものである。 1 形式的租税法律主義 まず、形式的租税法律主義は、法律によらない課税の禁止原則として、主に税務行政に対して税法の厳格な解釈適用を命じる憲法原則であり、通常、合法性の原則あるいは税務行政の合法律性の原則と呼ばれる。本連載で取り上げるトピックは税法の解釈適用に関するものが多くなるであろうが、それらを合法性の原則の観点から論じることにしたい。筆者の主たる研究テーマである租税回避の問題も、適宜、その一環として論じるつもりである。 もっとも、法律によらない課税の禁止は、税務行政との関係だけで問題になるものではない。法律の定め方如何によっては、形式的には法律に従って課税が行われるかのようにみえても、実質的には法律によらずに課税が行われるとみられる場合(「法律があっても無きが如き場合」)には、そのような課税は法律によらない課税であり禁止されるべきものであるから、租税立法との関係においても、法律によらない課税の禁止は問題になる。 「法律があっても無きが如き場合」として極端な例を挙げると、もし〇〇税法が「〇〇税に関する事項は全て政令の定めるところによる。」との一条のみを定め、〇〇税に関する事項を全て政令に委任したとすれば、そのような法令の規定に基づく〇〇税の課税が法律によらない課税の禁止に反することは、明らかである。このような命令(行政立法)への白紙委任の場合についてだけでなく、法律の定めが極めて不明確であり税務行政による自由な解釈を許すような場合についても、同様のことがいえる。租税法律主義からその内容として課税要件法定主義や課税要件明確主義が導き出されるが、これらは法律によらない課税の禁止を実効あらしめるための憲法原則とみることができるので、形式的租税法律主義に属するものと考えるところである。 2 実質的租税法律主義 次に、実質的租税法律主義は、租税法律の「内容」に関して憲法の人権規定との適合性を要請する租税立法上の原則であり、税法の分野における憲法の最高法規性(98条1項)の現れとして違憲審査権(81条)によって担保されている。 とはいえ、確立された判例(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)によれば、租税立法の違憲審査基準は、①民主主義的租税観(「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであ[る]」として、租税を国民共同の費用とみる考え方)と、②租税立法における財政・経済・社会政策等に係る政策手段性及び課税要件等に係る専門技術性に基づく裁量的判断の尊重の見地から、立法目的の正当性の基準、(立法目的の達成のために用いられる手段の)合理性の基準及び明白性の原則によって、構成されているところ、そのような違憲審査基準によれば、租税立法は原則として合憲性の推定を受け、違憲と判断されることは実際上まずあり得ないことになろう。 しかし、だからといって、判例の立場が租税法律主義の下での違憲審査のあり方として妥当でないとは、直ちにはいえないであろう。というのも、民主主義的租税観によって、憲法上、納税義務(30条)及び課税(84条)を根拠づけ正当化する場合には、やはり、国民の代表者たる立法者の裁量的判断ができる限り尊重されるべきであるからである。 もっとも、租税立法者の裁量的判断は、民主主義的租税観において「想定」される議会制民主主義を前提にして、尊重されるべきものである。したがって、租税立法の違憲審査権に関する判例の立場に対する評価は、究極的には、わが国の議会制民主主義の実態や現状をどのように評価するかにもかかっているといえよう。 今日における議会制民主主義の「劣化」に加え、財政状況の悪化、租税負担の増加傾向等をも考慮すると、税法の制定を「国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねる」(前掲大嶋訴訟・最大判)ことの意味を問い直すべきであろう。租税立法に関する裁量統制についても、司法の役割はやはり重要である。 (了)

#No. 281(掲載号)
#谷口 勢津夫
2018/08/16

平成30年度税制改正における「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第3回】

平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第3回】   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   4 一般社団法人を用いた節税策と税制改正 (1) 一般社団法人を用いた節税策 一般社団法人は、一定の目的を持った人の集団であり、法人格を有しているという特徴がある。同様の集団として株式会社があるが、営利目的の集団であるということのほかに、重要な相違点がある。それは、一般社団法人には株式会社の株式に相当する「出資持分」が存在せず、設立時に金銭等の出資が求められないため、「資本金」という概念も存在しないという点である。 そのため、一般社団法人の場合、毎期の決算において利益剰余金を計上しても、社員は当該剰余金について分配を受けることはできず、また、解散時においても、残余財産の分配を受けることはできない(法律上、定款にその定めを置くことはできない、一般法人法11②)。 他方、一般社団法人には「持分」がないことから、相続税の課税対象となる課税財産も存在しないということになる(※1)。このことを根拠に、税務の専門家の間では、「財産を一般社団法人に移転すれば相続税が課税されないのであるから、一般社団法人は相続税の節税策に使える」とする説が出回っているようである。以下では、これを少し掘り下げて検討してみたい。 (※1) ただし、社員に一般社団法人の所有する施設を利用する共益的な権利があり、また、社員の地位が定款により相続することが定められている場合、その地位の相続により共益的な利益の経済的価値に対して相続税が課される可能性がある。四宮和夫・能見善久『民法総則(第九版)』(弘文堂・2018年)122頁参照。さらに、基金制度を採用している場合には、当該基金のうち相続時における返還可能額(拠出額をベースに評価)を相続財産に含めることとなる。 仮に、一般社団法人には「持分」がないということが、一般社団法人は個人から切り離された独立の法的主体であり、その理事や社員に対する個人的な利益の供与を図るような仕組みを備えているわけではないということを意味するのであれば、理事や社員が一般社団法人に資産を拠出したとしても、それを根拠に相続税・贈与税の課税対象とすることは不合理であろう。 しかし、仮に、理事や社員が資産を拠出した一般社団法人を実質的に支配し、その支配権を基に当該理事や社員に対してその拠出した資産を使用させるなど、特別の利益を与えたり便宜を図っているといった実態があるのであれば、仮に持分という支配権の外形的実態を備えていなくとも、そこには一般社団法人を利用した相続税・贈与税の租税回避スキームが存在するとみるべきであることから、課税対象とすべき事案に該当するものと考えられる。 現行税法上、このような租税回避スキームに対抗する措置としては、相続税法66条1項・4項の規定がある。当該規定によれば、個人から一般社団法人のような持分の定めのない法人(※2)に対して財産の贈与又は遺贈があった場合には、贈与等により、その贈与等を行った者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときには、その一般社団法人を個人とみなして相続税又は贈与税が課税されることとなる(相法66①④)。 (※2) 法令解釈通達(昭和39年6月9日直(審)24、直資77、平成20年課資2-8改正)「贈与税の非課税財産(公益を目的とする事業の用に供する財産に関する部分)及び持分の定めのない法人に対して財産の贈与等があった場合の取扱いについて」の「13 持分の定めのない法人」を参照。 (2) 一般社団法人を利用した相続税・贈与税の租税回避スキーム それでは、一般社団法人を利用した相続税・贈与税の租税回避スキームには具体的にどのようなものがあるのだろうか。平成30年度の与党税制改正大綱においては、以下のようなスキームが問題視されて贈与税等の改正がなされたとされている。 〇一般社団法人を利用した租税回避スキーム ① 一般社団法人の設立 まず、親が一般社団法人を設立し、その理事に親(理事長)、子ないし親族が就任する。この場合、その後の一般社団法人の運営の自由を確保する観点から、前回の3(2)②で解説した「非営利型以外の法人」を選択するケースが多いものと考えられる。 ② 一般社団法人への資産の移転 次に、親が自ら保有する資産(財産)を一般社団法人へ移転する。相続税対策の観点からは、移転する資産は親がオーナーである自社株となるケースが多いであろう。この場合、資産(自社株)の移転は時価譲渡により行うこととなる。このとき、親に対し、時価と取得価額との差額について税率20.42%(国税及び地方税)で譲渡所得課税がなされる(分離課税、措法37の10)。 問題は、一般社団法人が親から譲渡される自社株の購入資金をどのように調達するかであるが、まずは銀行等から長期資金を借入れ、それを所有する自社株から受けることとなる配当を原資に、徐々に返済するという方法を採るのが一般的であろう。 ③ 子が一般社団法人の理事長に就任 最後に、子が一般社団法人の理事長(代表理事)に就任すればスキームは完成である。これにより、親に相続が発生した場合、その子(承継者)は、事業承継の対象となる法人につき一般社団法人を通じて支配する一方で、持分の概念がない一般社団法人に移転した自社株については、相続税の負担を回避することが可能となる。 なお、事業承継者である子は、議決権に基づく法人の支配は一般社団法人を通じて間接的に行うものの、経営権を確保するため、株式譲渡前から既に法人の役員(取締役)に就任している場合においては、譲渡後にも引き続き役員にとどまることとなるだろう。   (了)

#No. 281(掲載号)
#安部 和彦
2018/08/16

〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q6】「控除税額及び上乗せ控除税額の計算」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q6】 「控除税額及び上乗せ控除税額の計算」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q6] 平成30年度の税制改正によって、控除税額及び上乗せ控除税額の計算はどのように変更されたのでしょうか。   [A6] ◆控除税額については、改正前の制度では基準年度からの増加額に基づいて計算されていましたが、改正後の制度では前年度からの増加額に基づいて計算することとなります。 ◆上乗せ控除税額については、改正前の制度では前年度からの増加額に基づいて計算されていましたが、改正後の制度では、控除率の引上げが図られています。 この点に関し、中小企業者等については、大企業向け・中小企業者等向けの上乗せ控除制度を選択適用できることとされています。 【解説】 (1) 控除税額の計算 控除税額(税額控除限度額)は、雇用者給与等支給額に係る前年度からの増加額(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額)に対して15%を乗じて計算され、この取扱いは大企業及び中小企業者等に共通である(措法42の12の5①②)。 (2) 上乗せ控除税額の計算 上乗せ控除を受けるための要件を満たした場合には、控除率が引き上げられる(具体的な要件については【Q7】及び【Q8】を参照されたい)。 具体的には、中小企業者等向けの上乗せ控除の要件を満たした場合には、控除率は25%に引き上げられ、大企業向けの上乗せ控除の要件を満たした場合には、控除率は20%に引き上げられる(措法42の12の5①②)。 そして中小企業者等は、任意に大企業向けの税額控除制度の適用を受けることも可能であり、この場合の上乗せ控除率は20%となる(同条項において「前項の規定の適用を受ける事業年度を除く」とあるが、これは大企業向けの制度の適用を受けられることが前提とした表現である)。 この場合には、中小企業者等であっても、大企業向けの適用要件(賃上げの要件及び設備投資の要件)並びに上乗せ控除の要件を満たさなければならない点に留意が必要である(下表参照)。 (3) 上限 調整前法人税額の20%を上限とする(措法42の12の5①②)。 なお、大企業については今回の改正によって、控除上限が10%から20%に引き上げられている。 (了)

#No. 281(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/08/16

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第50回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第50回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ⑧ 非按分型分割 (ⅰ) 平成21年当時の見解 会社法の制定により、平成17年改正前商法における人的分割の制度が廃止され、①物的分割(分社型分割)+剰余金の配当又は②物的分割+全部取得条項付種類株式の取得と整理された。 このうち②については、会社法上、分割の日に、分割法人が全部取得条項付種類株式を取得し、その取得対価として、分割対価資産(分割承継法人の株式に限る)を交付するものとされている(会社法758八イ、763十二イ)。 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)196-197頁では、以下の事例について、按分型要件を満たすことができないことを理由として、非適格分割型分割に該当するものとして紹介していた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』245-246頁(中央経済社、平成24年)では、分社型分割を行った後に、全部取得条項付種類株式の取得対価としての分割承継法人株式を交付したものとして取り扱うべきであるとした(※1)。 (※1) 同様の指摘をするものとして、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースほか『M&A・企業再編の実務Q&A(第2版)』287-289頁(中央経済社、平成19年)、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース『資本取引税務ハンドブック』322-324頁(中央経済社、平成20年)参照。 なぜなら、法人税法上、分割型分割とは、分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産(X社株式)のすべてが、分割の日において、分割法人の株主等に交付されている場合に限定されている(法法2十二の九)が、この場合の「交付」とは、剰余金の配当により分配された場合に限定されていることから、全部取得条項付種類株式の取得対価として交付された場合には、上記の「交付」に含まれないからである。 このような解釈の変更は、実務における非按分型分割に対する見解が定着してきたことに伴うものである。 その結果、全部取得条項付種類株式の取得を行った後であっても、分割後に同一の者(親族を含む)が、分割法人と分割承継法人の発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係が継続することが見込まれていれば、100%グループ内の適格分社型分割に該当することになる。 (ⅲ) 現行法上の問題点 分割型分割における税制適格要件の判定において按分型要件が認められた趣旨として、以下のように説明されている(※2)。 (※2) 朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』102頁(日本租税研究協会、平成13年。そのほか、非按分型の税制を入れると、かなり多岐に渡ったところまで手当てが必要だったという点につき、平川忠雄(発言)平川忠雄ほか「企業組織再編税制の仕組みとその活用」38頁税理44巻4号(平成13年)で指摘されている。 この解説は、平成17年改正前商法と現行会社法における違いを意識しながら読む必要がある。現行会社法454条2項2号では、剰余金の配当について内容の異なる2以上の種類の株式を発行しているときは、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととすることが認められている。すなわち、平成17年改正前商法では想定されていなかったが、現行会社法では、普通株式1株に対して普通株式1株、優先株式1株に対して普通株式2株を交付するような分割型分割も容認されている。現行法人税法は、これに対応した規定となっていないため、このような分割型分割を行った場合には、按分型要件を満たすことができない(※3)。 (※3) 稲見誠一・佐藤信祐『組織再編・資本等取引の税務Q&A』247-248頁(中央経済社、平成24年)。 これに対し、平成13年当時に想定していたような非按分型分割を、分社型分割+現物分配として取り扱うべきであるとすれば、按分型要件を定めた制度趣旨が空振りとなる。それだけでなく、前述のような種類株式を発行している場合における分割型分割を阻害する要因となってしまっている。そのため、本来であれば、今後の税制改正により按分型要件の見直しを行うべきであると考えられる。 ⑨ 主要な資産及び負債を移転しなくてもよい場合 実務上、同じ工場の中で複数の事業を行っていることがある。このような場合に、一部の事業を会社分割で移転させるときに、当該工場が主要な資産に該当するかどうかが問題となる。 この点につき、拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)240-241頁では、法人税基本通達1-4-8において と規定されていることを根拠として、事業再編計画の一環として、分割承継法人に移転させることができない合理的な理由があれば、主要な資産から除外することができるものとした。 この点につき、朝長英樹氏は、ドイツの独立事業要件に対して、 と批判したうえで、 とされていた(※4)。 (※4) 朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』23頁(日本租税研究協会、平成13年)。 すなわち、平成13年当時において、分割事業とそれ以外の事業の両方のために使用していた資産を移転しない場合であっても、主要資産等引継要件を満たせるように、当時の立案担当者が考えていたことが分かる(※5)。 (※5) 阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』86頁(商事法務、平成14年)でも、同趣旨の指摘がある。 そういう意味では、主要資産等引継要件の判定は、かなり納税者有利に行われているということが分かる。 *   *   * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)

#No. 281(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/08/16

相続税の実務問答 【第26回】「死亡退職金(支給対象者が決まっていない場合)」

相続税の実務問答 【第26回】 「死亡退職金(支給対象者が決まっていない場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 退職給与規程等によって死亡退職金の支給を受ける者が定められておらず、また、実際に誰が取得するのかが決まっていない場合には、各相続人が均等に取得したものとして相続税の計算を行います。 ご質問の場合には、お母様、あなた及び弟さんが800万円(2,400万円の3分の1)ずつ死亡退職金を取得したものとして、相続税額の計算をすることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡退職金 被相続人の死亡により相続人その他の者が、本来であれば被相続人に支給されるべきであった退職金(死亡退職金)の支給を受けた場合(ただし、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます)には、その退職金は、相続により取得したものとみなされて、相続税の課税対象とされます(相法3①二)。 ただし、相続人が支給を受けた死亡退職金については、次の計算式で求めた非課税限度額を超えた場合のみ、相続税が課税されることとなります(相法12②六) (死亡退職金の非課税限度額) 500万円 × 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数 (注1) 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数は、相続の放棄をした者を含み、また、被相続人に養子がある場合には、一定の制限が設けられています(相法15②③)。 (注2) 死亡退職金を取得した者が2名以上いる場合の、各相続人の非課税金額は次のとおりとなります。   2 死亡退職金の支給を受けた者 相続税法第3条第1項第2号の被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の支給を受けた者とは、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいうものとされています(相基通3-25)。 なお、上記ハの扱いは、死亡退職金の実際の取得者が決定するまでの間の仮の計算に過ぎませんので、ハの扱いにより相続税の申告をした後、修正申告を行う時点又は税務署長が更正処分を行う時点で死亡退職金を現実に取得する者が判明しているときには、上記イの扱いが適用されることとなります(「平成27年版相続税法基本通達逐条解説」(野原誠編・大蔵財務協会)77頁)。   3 質問の場合 ご質問の場合、A社には死亡退職金の支給対象者を定めた退職給与規程等は設けられていません。また、死亡退職金はあなたの銀行口座に振り込まれてはいるものの、現時点では、あなたが現実に取得しているのとは認められず、相続人全員の協議も調っていないことから、相続人3名が、800万円(2,400万円の3分の1)ずつ死亡退職金を取得したものとして、相続税額の計算をすることとなります。   (了)

#No. 281(掲載号)
#梶野 研二
2018/08/16

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その1)」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その1)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [4] 連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点 平成30年度税制改正により、平成32年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、事業年度開始時に資本金が1億円を超える「大法人」について、e-Tax及びeLTAXによる電子申告が義務化されることになった(法法75の3、75の4、81の24の2、81の24の3、地法53㊻㊼㊽㊾、72の32①②③④、321の8㊷㊸㊹㊺)。 また、それに伴い、電子化促進のための環境整備を行うことになった。 【電子申告の義務化の対象範囲】 【電子申告の義務化に向けた環境整備】 連結納税では、連結親法人が連結事業年度開始時に資本金が1億円を超える場合、連結申告(添付書類の提出を含む)について、e-Taxによる電子申告を行わなければいけない(法法81の24の2①②)。 電子申告の義務化は、平成32年4月1日以後に開始する連結親法人事業年度から適用されることになる。 なお、電子申告の義務化対象法人(連結親法人)は、平成32年4月1日以後最初に開始する連結事業年度開始日から1月以内(増資により連結親法人が対象法人となる場合、増資により資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1ヶ月以内、連結親法人が設立により対象法人となる場合、設立日から2ヶ月以内)に、所轄税務署長に対して「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の提出が必要となる(この届出書は、義務化前からすでに電子申告している連結親法人についても提出する必要がある。法規37の15の2①②、平成30年法規改正法附則7)。 連結納税における電子申告の義務化に係るポイントは次のとおりである。 〈1〉 連結法人税及び連結地方法人税の申告については、連結親法人が資本金1億円超である場合、連結グループ全体で電子申告を行う。 連結法人税及び連結地方法人税の申告については、連結親法人が資本金1億円超である場合、連結グループ全体で電子申告を行う(法法81の24の2①②)。 連結親法人が資本金1億円以下である場合、電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 〈2〉 地方税の申告については、その申告主体ごとに資本金が1億円超の場合はeLTAXによる電子申告を行わなければいけない。 逆に言うと、連結法人税で電子申告をしたかしないかに関係なく、地方税の申告については、各連結法人ごとに電子申告が強制されるか否かの判断を行うことになる(地法53㊻㊼、72の32①②、321の8㊷㊸)。 つまり、連結法人税で電子申告をした場合でも、資本金が1億円以下の連結子法人については、地方税の申告について、電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 ただし、一般的に、地方税の申告書は、連結法人税の申告書とともに電子申告に対応した連結納税システムで作成されることから、連結法人税で電子申告をしているにもかかわらず、地方税で書面申告を選択するメリットはないと考えられる。そのため、連結法人税で電子申告する場合、連結子法人の資本金がいくらであっても、地方税について電子申告を選択する場合が多いのではないかと思われる。 また、連結法人税で電子申告をしない場合でも、資本金が1億円超の連結子法人については、地方税の申告について、電子申告をすることになる。 なお、消費税の申告についても、その申告主体ごとに資本金が1億円超の場合は電子申告を行わなければならず、1億円以下の場合は電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 〈3〉 連結子法人が連結納税から離脱する場合の『連結法人として単体申告』は、電子申告をしなくてもよい。 連結子法人が法人税法第4条の5第1項又は第2項(第4号及び第5号に係る部分に限る)の規定により連結納税から離脱する場合、離脱日の前日の属する事業年度に係る法人税の申告(連結法人として単体申告)について、電子申告は強制されない(法法75の3⑦)。 (参考) 法人税法第4条の5第2項第4号及び第5号に定める離脱事由 第4号 ⇒連結子法人の解散(合併又は破産手続開始の決定による解散に限る)又は残余財産の確定 第5号 ⇒連結子法人が連結親法人との間に当該連結親法人による連結完全支配関係を有しなくなったこと 〈4〉 添付書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書、勘定科目内訳明細書)は、XML形式(XBRL形式)又はCSV形式でe-Taxにより提出することになるが、連結親法人が連結子法人の添付書類をまとめてe-Taxにより提出することになるため、添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換・入力を連結親法人又は連結子法人のいずれで行うのかを決定する必要がある。 この場合、資本金が1億円以下の連結子法人についても、本来、書面申告では不要な作業である添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換・入力の作業負担が生じることになる。 また、添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換を会計システムから行う場合は、連結親法人又は連結子法人の会計システムの改修が必要となるが、そのコスト負担を連結親法人又は連結子法人のいずれが行うのかについても問題が生じる。 (了)

#No. 281(掲載号)
#足立 好幸
2018/08/16

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第5回】「外国子会社に対する資金提供」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第5回】 「外国子会社に対する資金提供」   弁護士 木村 浩之   [Q] 多国籍企業グループの親法人である当社は、国外の子会社に対して追加の運転資金を提供することを検討しています。増資による方法と融資による方法が考えられますが、課税上の観点から、どのような点に留意すればよいでしょうか。 [A] 増資などの資本取引から生じる所得(配当)と融資などの貸借取引から生じる所得(利子)については、一般に課税上の取扱いが異なります。いずれが有利であるか不利であるかは、関係する国の税制や租税条約にもよります。そこで、どのような方法で資金提供するかについては、これらを総合的に検討して分析することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 企業グループでは、運転資金を外部から調達するのではなく、内部で供給することがある(これをグループファイナンスという)。この際、一般的な資金供給の方法として、増資などの資本取引、あるいは融資などの貸借取引のいずれかを利用することが考えられる。 この点、各国の国内法では、通常、資本取引から生じる所得(配当)と貸借取引から生じる所得(利子)については、課税上の取扱いが異なる。このことから、いずれの方法で資金提供するかは課税上の観点を考慮することが必要となる。   2 配当の取扱い まず、配当については、課税済みの利益を分配するものであり、支払をする法人の側で費用として控除することができないのが通常である。また、配当の支払が国境を越える場合には、支払をする法人の居住地国(配当の源泉地国)において、配当を受領する株主に対する源泉徴収課税がなされることも多い。ただし、この点については、親会社の居住地国と子会社の居住地国との間で租税条約が締結されていれば、子会社の所在地国で源泉徴収課税の減免を受けられる可能性がある。 さらに、株主の居住地国においても、配当に対する課税がなされることが通常である。これにより、同じ配当に対して異なる国がそれぞれ課税をすることで、株主のレベルで二重課税が生じる可能性がある。もっとも、子会社からの配当については、国内法上、一定の要件のもとで減免される可能性があるため、その適用要件を検討することが重要となる。   3 利子の取扱い 次に、利子については、配当と異なり、通常、支払をする側で費用として控除することが認められ、他方、受取をする側で課税の対象にされる。そして、利子については配当のように減免されることも少ないといえる。 このことから、低税率国に所在するグループ法人から他の高税率国に所在するグループ法人に対して貸付金を多用することで、利子の支払による利益の移転を図り、グループ全体における税負担を軽減するという税務戦略をとることが考えられる。ただし、利子の費用控除については、このように利益の国外移転につながることから、国内法によって一定の制限がなされていることも多く、注意が必要である。 また、低税率国に所在するグループ法人で事業資金が必要な場合、現地で直接借入れをするのではなく、高税率国に所在するグループ法人が借入れをして、それを資本金として資金供給することで、全体としての税負担を軽減できる可能性もある。ただし、この場合も、利子の費用控除制限の有無について検討が必要となる。 以上のほか、支払者の居住地国(利子の源泉地国)において源泉徴収課税がなされ得ること、また、それが租税条約によって減免され得ることは配当の場合と同様である。もっとも、利子と配当では適用される税率が異なることや減免を受けるための要件が異なることから、その点についての検討が必要である。   4 その他の資金供給方法 資金供給の方法としては、各国の法制度に基づき、資本取引と貸借取引の中間的なものもあり得る。その課税上の取扱いは各国によって異なり得るため、関係する各国の税制と租税条約を踏まえて、どのように資金を供給するのが課税上有利であるかを検討することが重要である。 例えば、日本法のもとでは、匿名組合契約に基づく匿名組合出資という法形式で資金供給することが可能である。これについては、出資元と出資先における各国の税制と両国間の租税条約の内容を踏まえて最終的な課税関係を判断することになる。 なお、日本における一般的な解釈として、匿名組合分配金については、支払側で費用控除が可能であり、これに利子の費用控除制限は適用されないと解される。非居住者に支払う場合には源泉徴収が必要であるが、これは租税条約によって減免され得る。ただし、どの所得条項が適用されるべきかについては議論の余地がある。   (了)

#No. 281(掲載号)
#木村 浩之
2018/08/16

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第5回】「印象はフレーミングで変わる」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第5回】 「印象はフレーミングで変わる」   公認会計士 石王丸 香菜子   From:数野 正 Sent:August 16, 2018 15:15 To:第1事業部長、第2事業部長、・・・ Cc:経理部長 Subject:8月営業会議のお知らせ ・・・ 今月も、第1事業部・第2事業部合同で営業会議を行います。 8月27日午後3時から大会議室にて実施しますので、よろしくお願いいたします。   *資料1* 第2事業部には、P部門・Q部門・R部門がある。会計システムから出力した部門別損益計算書は次の通りである。 部門別損益計算書 (単位:百万円)   *資料2* 追加データを使って経理部長が作り直した部門別損益計算書は次の通りである。 部門別損益計算書 (単位:百万円)   *  *  *   1 その手術、受けますか? もしあなたが難しい病気になって、主治医から次のように提案されたとしましょう。 成功率90%なら、かなり希望が持てそうな印象ですね。では、次のように提案された場合はどうでしょうか。 そんな怖い手術は受けたくない、と感じる方が多いはずです。 しかし、よく考えてみると、2つの提案は表現が異なるだけで、同じ事象を表しています。事象を表す枠組みが異なるだけで、受ける印象はずいぶん違うものです。 このように、問題の提示の仕方が、考えや選好に不合理な影響を及ぼす効果のことを、と呼びます。 私たちは、日常的な意思決定をする際、フレームされた通りの形で直感的に考えてしまう傾向にあります。自分でよく考えて枠組みを再構成する(=リフレーミングする)ことは手間ですので、提示されたフレームのまま、受け身的に判断してしまうのです。   2 部門別損益計算は財務会計と違うフレームで カズノ君がシステムから出力した部門別損益計算書は、外部への公表を目的とする財務会計のフレームに基づいています。このフレームでは、P部門が赤字という印象を受けますね。 しかし、社内で利用する部門別損益計算は、各部門の業績を評価することを目的としているのですから、この目的に合ったフレームで考える必要があります。そのために、まずは、売上原価と販売費及び一般管理費のデータの中身を調べてみましょう。 ◆売上原価と販売費及び一般管理費の内訳 (単位:百万円) 変動費は、売上高に対応して生じる費用で、固定費は、売上高とは関係なく常に一定額が生じる費用です。固定費は、部門ごとに個別に生じる個別固定費と、各部門に直接結びつけることのできない共通固定費から成ります。共通固定費は、第2事業部全体や本社部門で生じたものです。 各部門の業績評価の第1段階としては、売上高に対応して増減する利益を明確にするため、売上高から変動費だけを差し引いた限界利益(※)を計算します。仮に、この段階で損失であれば、売れば売るほど損が出てしまう(!)ので、この部門からは撤退すべきです。 (※) 限界利益については、筆者が以前に連載した「ファーストステップ管理会計」の【第7回】で解説しています。 次に、固定費を差し引きます。ここでは、各部門の損益を明らかにしたいので、各部門の個別固定費のみを差し引きます。こうして算定された は、各部門に直接結びつけることができるので、各部門の業績を表しているといえます。 管理会計のフレームで考え直すと、P部門は赤字ではありませんね。最初の資料でP部門が赤字に見えたのは、共通固定費や本社費をP部門に多く配賦していたためです。 しかし、各部門の業績評価にあたっては、共通固定費や本社費は考慮すべきではありません。これらは、部門利益の合計で回収できればよいのです。 【上表の続き】 *  *  * ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 問題の提示の仕方が、考えや選好に不合理な影響を及ぼす効果のこと。 ▷ 部門の限界利益から個別固定費を差し引いた後の利益で、部門の業績を表す。 (了)

#No. 281(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/08/16

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第75回】ブロードメディア株式会社「第三者委員会調査報告書開示版(平成30年5月23日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第75回】 ブロードメディア株式会社 「第三者委員会調査報告書開示版(平成30年5月23日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者調査委員会の概要】   【ブロードメディア株式会社の概要】 ブロードメディア株式会社(以下「ブロードメディア」と略称する)は、1996年9月設立、1998年11月事業開始。映像コンテンツの制作、流通、配信を主たる事業とする。連結売上高10,800百万円、連結経常利益81百万円、従業員数405名(数字は、いずれも2018年3月期)。JASDAQ上場。 架空取引による被害を生じた連結子会社の株式会社釣りビジョン(以下「釣りビジョン」と略称する)は1998年3月設立。主として釣りに関する映像コンテンツを制作し、BS、CS放送に配信している。資本金約11億4千万円。売上高5,854百万円、経常利益314百万円(数字はいずれも訂正前の2017年3月期実績)。主な株主はブロードメディア株式会社(51%)、株式会社シマノ、株式会社東北新社。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 ブロードメディアは、2018年1月16日、連結子会社である釣りビジョンの業務委託先企業である株式会社A(以下「A社」という)の代理人弁護士から、2007年から2017年にわたる映像受託制作取引につき、クライアントとのやり取り等を含めた取引全体が架空(以下「本件架空取引 」という)であった旨の報告を受けたことから、同日より1月30日までの間、内部で可能な調査を進め、1月30日付で、「連結子会社の架空取引被害及び当社の平成30年3月期第3四半期決算発表延期に関するお知らせ」を公表すると同時に、社内調査委員会を設置して調査を進め、調査内容を3月14日、4月13日に公表した。 しかし、2017年12月期第3四半期報告書に係る四半期レビュー報告書について、会計監査人である仁智監査法人による結論が不表明であったこと、また、社内調査委員会によるヒアリングや調査を済ませていた内部者より、改めてブロードメディア役員に係る追加調査をすべき旨の申告があり、ブロードメディア役員が架空取引を認識していた可能性に言及されていた点等を踏まえ、より慎重に調査範囲の拡大を行う必要があると判断したことから第三者委員会を設置し、更なる調査を行うこととした。 2 本件架空取引の手口 本件架空取引は、A社代表取締役P氏が、D社等を架空の発注先として、釣りビジョンに対して取引窓口となることを依頼し、架空の映像コンテンツ制作取引を偽装して、A社の資金繰りを改善するために始められたものである。2007年から発覚した2018年1月までの取引金額の総計は120億円を超えるものであり、直近の3年間については年間21億円から27億円に達していた。 A社のP氏が行っていた偽装工作は以下のとおりである(調査報告書41頁以下)。 3 本件架空取引による被害額 ブロードメディアが3月14日に公表した「業績予想の修正及び特別損失の計上に関するお知らせ」において、釣りビジョンの業務委託先に対する未収入金が529百万円であり、その全額を貸倒引当金に繰り入れることで、特別損失として計上することを明らかにした。 なお、平成30年3月期第3四半期決算で一括して貸倒引当金を計上して特別損失として処理をするという会計処理については、前任の会計監査人である有限責任監査法人トーマツより異論が出され、結果的には、ブロードメディアは過年度決算修正を余儀なくされることとなった。 4 架空取引をうかがわせる事実の発覚 調査報告書によれば、A社との取引が架空のものではないかとうかがわせる事実が、2016年以降、何度か発覚している。こうした事実を把握した際に、顧問弁護士、会計監査人といった第三者の意見を聞いたり、A社を介することなく発注元に照会したりといったかたちで事実関係をより詳細に検討していれば、発覚は早くなったはずだが、釣りビジョン経営陣は、そうした検証作業を行うことなく、取引を継続していた。 (1) 2016年4月の口座事件 釣りビジョン取締役管理部長岩崎信夫(以下「岩崎取締役」と略称する)は、2016年4月20日、A社主導の映像受託制作取引に係る複数の発注元からの入金が、同一の金融機関の支店からであることに疑問を抱き、過去の入金をチェックしたところ、釣りビジョンからA社に対して送金をした後に、発注元から釣りビジョンへの支払が行われるという先後関係が判明する。 岩崎取締役は、本件を釣りビジョン代表取締役社長有澤僚(以下「有澤社長」と略称する)に相談し、両名で、ブロードメディア代表取締役社長橋本太郎(以下「橋本社長」と略称する)に報告するが、売掛金の残高確認書について問題がないこと、有澤社長がP氏に対して実在する取引であることを確認することで、結着した。 本件に関し、第三者委員会は、以下のようにコメントしているが(調査報告書66頁)、この見解に関しては、過去の架空循環取引事例を検証すれば、いささか経営陣を庇った表現であると感じる。日ごろの取引と異なる銀行預金口座からの振込入金や本店所在地から遠く離れた金融機関からの振込入金は、取引が偽装されたものであると疑うに足る「不正の端緒」であるというのが筆者の見解である。 (2) 2017年1月の成果物事件 2017年1月16日、有澤社長がA社の納品したDVDを初めて確認したところ、価格に比してクオリティが低いことの疑念を抱き、橋本社長に相談したところ、橋本社長は、価格については有澤社長の個人的な見解であると述べて、相談は終わった。 しかしその後も、納品物のチェックを行っていた有澤社長は、IT系企業のPR映像に不審な点を発見、橋本社長らと協議することとなる。橋本社長は、B社のS氏を呼んで確認を依頼することとした。B社グループとの取引に係る資料一式を受け取ったS氏は、後日、「心配しないで良い」旨の回答を、有澤社長に電話で行った。 (3) 2017年2月のA社税務調査事件 2017年2月7日、釣りビジョン岩崎取締役に対し、税務署からA社の反面調査について依頼があり、反面調査で、A社が、釣りビジョンからA社宛ての請求書を偽造していることが判明した。有澤社長から橋本社長にA社の書類偽造を相談したところ、「不法行為で偽造書類を作って脱税しているのは駄目だ」と指摘され、釣りビジョンからA社への発注上限を10億円に引き下げた。 5 釣りビジョンの各取締役の本件架空取引に関する認識・関与 第三者委員会は、釣りビジョン代表取締役社長有澤僚、同取締役管理部長岩崎信夫、ブロードメディア代表取締役社長で釣りビジョン取締役会長を兼務する橋本太郎、両社の取締役を兼務する嶋村安高(以下「嶋村取締役」と略称する)、ブロードメディア取締役で釣りビジョン監査役を兼務する押尾英明(以下「押尾取締役」と略称する)の5名について、「役員の認識の可能性に関する評価」として、検証している(調査報告書61頁以下)。 その結果、有澤社長については、A社との取引が急速に拡大している状況は、A社の会社規模や映像制作という事業内容から不自然であり、「取締役としては何らかの疑念を抱き、調査を行うことも1つの合理的な判断である」として、本件架空取引の発覚が遅れたことの1つの要因となったとして、釣りビジョンの「取締役として果たすべき職責を全うしたとは言い難い」とした。 また、岩崎取締役についても、釣りビジョンの「管理部門のトップとして本件スキームのような『丸投げ』取引を長年温存してしまったという点に落ち度がある」として、有澤社長同様、釣りビジョンの「取締役として果たすべき職責を全うしたとは言い難い」とした。 一方、釣りビジョンの役員を兼務している3名については、橋本社長については、①取引額が大きくなる過程で釣りビジョン経営陣を通じて、確認すべき取引形態等に対するチェックプロセスが強化できていなかったこと、②子会社である釣りビジョン経営陣に対し不正発見への気構えや意識等を持つなどの啓蒙を怠ったことから、結果としての経営責任は免れないとしたものの、子会社に対する監視業務といった取締役としての果たすべき職責を全うしていないと評価することは困難であるとして、嶋村取締役、押尾取締役とともに、架空性を看過したことが善管注意義務違反とは評価されないと結論づけている。 6 再発防止策 第三者委員会は、すでにブロードメディアが公表している再発防止策を「概ね必要な点を充足している」と評価しながら、独自の原因分析を踏まえて、次の8項目の再発防止策を提言している。   【調査報告書の特徴】 BS放送・CS放送で独自番組を配信する釣りビジョンは、同社サイトによれば500万を超える視聴可能世帯数を誇る、老舗のチャンネルである。2017年3月期の売上高は5,854百万円であったが、そのうち2,742百万円、率にして46.8%は、実際には制作していない映像コンテンツの架空取引に係る売上高だった。 社内調査委員会の調査結果を検証し、社内調査委員会だけでは解明ができなかった「経営陣の認識はなかったのか」、「経営陣が金銭的に利益を得ていないのか」という問題を調査するために、第三者委員会を設置することとしたブロードメディアであるが、こうした疑念を払拭し、過年度有価証券の訂正にこぎつけるまでに、実に、問題発覚から半年の時日を要してしまった。 1 釣りビジョンにおける取締役の辞任 社内調査委員会が調査を行っている最中、釣りビジョンは、3月28日に「代表者変更のお知らせ」というニュースリリースにより、代表取締役社長である有澤僚及び取締役管理部長である岩崎信夫が辞任し、取締役会長橋本太郎が、代表取締役会長兼社長に就任することを公表した。 この役員人事は、本件架空取引による損失の責任はもっぱら釣りビジョンの取締役にあることを言明したものであると評価できるところ、実際には、その後、ブロードメディアは第三者委員会を設置して、親会社であるブロードメディア取締役のうち、釣りビジョンの役員を兼務している者についても、責任の有無を検討することになったわけだが、上述のとおり、結果的には、橋本代表取締役社長、押尾取締役及び嶋村取締役ともに、経営責任の有無はともかく、善管注意義務違反による法的責任が発生するとまでは認められなかったことにより、再度の代表取締役交代という事態には至らなかったものである。 2 会計監査人による四半期レビュー結論の不表明 本件架空取引に関する調査を、社内調査委員会だけで済ませようとしたブロードメディアの思惑が外れた理由の1つが、平成30年3月期第3四半期決算報告に係る四半期レビューで、会計監査人である仁智監査法人との意見対立があったことが考えられる。 ブロードメディアが4月13日に公表した「四半期レビュー報告書の結論の不表明に関するお知らせ」から、仁智監査法人が、結論不表明とした理由を引用しておきたい。 3 B社の対応 調査報告書を読んでいて気になったのが、A社のP氏が架空発注元として名義を借用したB社とその子会社D社である。A社が納品した映像コンテンツのクオリティに疑問を持った有澤社長の相談を受けて、橋本社長がB社グループとの取引内容の確認を依頼したのはB社のS氏(調査報告書29頁では、■■営業局■■■■部長、と役職は黒塗りになっている)であった。 B社については、以下のような記述がある。 上記の記述に加え、調査報告書39頁の「関連する法人」の並び順から、B社が「広告、広報に関する企画及び制作」を行っていると考えられることもあって、B社=株式会社電通ではないかという推測から、電通のニュースリリースを確認したところ、本件架空取引に関しては何ら公表されていなかった。 架空循環取引の偽装発注元として業界大手の名義を利用することは、資金の供給者に信用させるためのよくある手の1つだが、本件架空取引では、B社社員(S氏)や子会社のD社社員(T氏)が、A社P氏による架空取引の継続のために一定の役割を果たしており、まことに老婆心ながら、使用者責任が問われるのではないかという懸念を有するものである。 (了)

#No. 281(掲載号)
#米澤 勝
2018/08/16
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