改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第7回】 「相続の効力等の見直し及び特別の寄与」 弁護士 阪本 敬幸 前回は遺留分制度の見直しについて解説した。今回は、相続の効力等の見直し及び特別の寄与について解説する。 [1] 相続の効力等の見直し 1 共同相続における権利の承継の対抗要件 現行法の条文上、遺産分割や遺言により法定相続分と異なる権利の取得があった場合に、第三者との関係でどのような法的効果が生じるかは必ずしも明確ではないが、判例が判断を示している。 すなわち、遺産分割により、相続人が法定相続分を超える権利を取得した場合、法定相続分を超える部分を第三者に対抗するためには対抗要件が必要であるとされている(最判昭和46年1月26日)。 遺言の場合は、遺贈による不動産の取得については、登記がなければ第三者に対抗できないとされるが(最判昭和39年3月6日)、相続分の指定による不動産の取得や、いわゆる「相続させる」旨の遺言(遺産分割方法の指定)については、登記無くして権利を第三者に対抗できるとされる(最判平成5年7月19日、最判平成14年6月10日)。 判例が相続分の指定や遺産分割方法の指定の場合に登記を不要とした理由は、相続分の指定や遺産分割方法の指定による権利取得は包括承継であり、第三者との関係は対抗関係とならないと解されるからと思われる。しかし第三者からすれば、遺言の存在を知ることはできず、登記無くして法定相続分を超える権利取得を対抗されるというのは取引安全の観点から問題である。 こうした観点から、遺産分割・遺言のいずれの場合でも、法定相続分を超えて権利を取得した場合には、その法定相続分を超える部分については、登記・登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとする条文が新設された(法案899条の2第1項)。 法定相続分を超えて取得される権利が債権の場合、債権譲渡の対抗要件は譲渡人から債務者に対する通知(第三者対抗要件としては確定日付ある通知であることが必要)又は債務者の承諾であるから(民法467条)、対抗要件を具備するためには、共同相続人全員から債務者に対する通知又は債務者の承諾が必要となる。しかし、必ず共同相続人全員による通知を要求すると、一部の相続人が通知に反対してしまうと対抗要件を具備することができなくなってしまう。 そこで、法定相続分を超えて権利を取得した相続人が、遺言の内容(遺産分割の場合には遺産分割の内容)を明らかにして、債務者に対して法定相続分を超えて権利を取得した旨を通知すれば、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとみなすこととされた(法案899条の2第2項)。 2 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使 判例上、遺言により相続人の1人に対し相続債務を全て承継させたような場合であっても、そのような相続債務についての相続分の指定は、債権者の関与なくされるものであるから、相続債権者に対しては効力が及ばず、相続債権者は相続人全員に対し、各相続人の法定相続分に従った相続債務の履行を求めることができるとされている(最判平成21年3月24日)。最判平成21年3月24日を受けて、同最判と同様の内容の条文が定められた(法案902条の2本文)。 もっとも、最判平成21年3月24日は、遺言に関与できない相続債権者が遺言によって害されないようにする趣旨であるから、相続債権者が遺言により指定された相続分に応じた債務承継を承認するのであればこれを否定する必要はないため、その旨が定められた(法案902条の2但書)。 なお、遺言がない場合、相続債務が可分債務であれば相続分に応じて当然分割される結果(最判昭和34年6月19日)、債権者は各共同相続人に対し相続分に応じた請求ができるし、相続債務が不可分債務であれば債権者は各共同相続人に対し履行を請求できる(民法430条)のであり、後の遺産分割協議によりこれを一方的に覆すことはできない。 [2] 特別の寄与 現行法上、寄与分は相続人のみに認められており、相続人でない者が被相続人の財産の維持・増加に寄与したとしても、何らの財産の分配を請求することはできない。しかし、いかなる場合でもこのような結論を貫くことは妥当性を欠くため、以下の要件を満たす者(特別寄与者)は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の請求をすることができる旨が定められた(法案1050条1項)。 特別寄与料の支払について協議が調わずまた協議ができないときは、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内かつ相続開始の時から1年以内であれば、家庭裁判所で協議に代わる処分を請求することができる(法案1050条2項)。 家庭裁判所は、特別寄与料を定めるにあたっては、寄与の時期・方法・程度・相続財産の額その他一切の事情を考慮する(法案1050条3項)。 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(法案1050条4項)。当然だが特別寄与者は相続人ではないから遺留分請求権は有さず、遺産全てが遺贈されていた場合には特別寄与料は発生しない。 相続人が複数存在する場合には、各共同相続人が法定相続分に応じて特別寄与料を負担する(法案1050条5項)。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編- 弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 鈴木 裕也 ←(前回) | (次回)→ 本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第4章として、「不動産」項目を取り上げる。 《第4章》 -不動産- 【第4回】 「不動産の調査」 はじめに 大多数の会社は、事務所、店舗、工場等として不動産を用いたり、不動産を賃貸して収益を上げたりして、何らかの形で不動産を利用している。このように、大多数の会社にとって不動産は会社の事業と切っても切り離せない関係にあるため、通常、M&A取引の買主は、対象会社が所有・賃借していた不動産をM&A取引終了後も有効に利用することができるのか強い関心を有している。 そして、M&A取引において対象会社が所有・賃借しているとされる不動産を承継したものの、後になって対象会社が当該不動産を所有していなかったり、不動産を賃貸する権限のない第三者から賃借していたことが発覚したりした場合には、真の権利者から不動産の明渡しや損害賠償を求められるなどして、買主が大きな損害を被る可能性がある(当該不動産から生じる事業収益が対象会社の収益の大部分を占めていれば、M&A取引で実現しようとした目的自体が達成できなくなってしまう)。 このような事態を未然に防ぐため、法務デューデリジェンス(以下「法務DD」という)では、不動産を調査対象項目とすることが一般的に行われている。 それでは、法務DDにおいて、不動産についてどのような調査が行われているのであろうか。以下では、法務DDにおける不動産の調査手続の具体的な内容を概説する。 1 精査対象資料 「不動産」項目調査資料としては、下表のようなものが挙げられる。 2 調査手続 (1) 対象不動産の確定及び選定 まず、対象会社から所有・賃借する不動産のリストの開示を受けて、対象会社がいかなる不動産を所有・賃借しているか把握する。この際に、対象会社の勘定科目内訳明細書を確認することや、対象会社にヒアリングを行うことも、当該リストに漏れがないかチェックするためには有益である。 その後、対象会社が所有・賃借する不動産について、(2)のとおり調査を進めていくことになるが、対象会社が所有・賃借する不動産の物件数によっては、法務DDの期間及び費用との関係から、調査対象とする不動産を限定することも必要になるケースがある。 対象会社が所有・賃借する不動産は、対象会社の商品を製造する工場のように対象会社の事業収益に密接に関連するものや、事務所等の代替性を有するものまで様々であると考えられるため、買主は、例えば「対象会社の事業収益への影響度」を指標するなどして、法務DD担当弁護士と協議を行い、調査対象とすべき不動産を選定することが考えられる。 (2) 対象不動産の使用権限の分類 以上より、調査対象とすべき不動産を確定及び選定した後、各不動産の調査を進めることになる。法務DDでは、不動産の使用権限の違いに応じて具体的な調査内容が異なるため、以下では、使用権限に応じた具体的な調査方法をそれぞれ説明することにする。 (ア) 対象会社が所有し、自ら利用している不動産 対象会社が所有している不動産については、対象会社から不動産の登記事項証明書(可能な限り最新の時点のものが望ましい)の提供を受けたり、必要に応じて不動産登記事項証明書を新たに取得したりして、対象会社が不動産登記事項証明書上の所有者になっているかを確認する。対象会社が不動産登記事項証明書上の所有者になっていない場合には、対象会社に対してヒアリングを行い、対象会社の所有権の有無を確認することになる。 また、上記所有権の確認と並行して、不動産登記事項証明書の確認や対象会社に対するヒアリングにより、対象会社が所有している不動産に抵当権等の担保物権、地上権、賃借権等の用益権が存在しないか調査する。仮に、不動産に担保物権や用益権が設定されている場合には、対象会社から当該権利設定に係る契約書を入手し、内容を確認することになる。 (イ) 対象会社が所有し、第三者に賃貸している不動産 対象会社が所有している不動産のうち第三者に賃貸している不動産については、上記(ア)の他に、M&A取引実行後の買主の意向に応じて、2つの視点を検討する必要がある。 すなわち、買主が、M&A取引実行後に賃貸借契約を終了させることを望んでいる場合には、賃貸借契約書を入手して、賃貸借契約の期間、買主・賃借人の中途解約権の留保の有無等を確認し、買主が賃貸借契約を終了(あるいは解約)したい時に賃貸借契約を終了(解約)することができるのか検討する必要がある。 他方、買主が、M&A取引実行後も賃貸借契約を継続することを望んでいる場合には、賃貸借契約の期間、賃借人に中途解約権が留保されているのか等契約条件を確認しつつ、第三者の属性(売主との人的関係で賃貸借契約を締結しているのか)、第三者の賃借不動産の用途等を対象会社からヒアリングする等して、M&A取引実行後も賃貸借契約を継続することができるのか検討する必要がある。 (ウ) 対象会社が賃借している不動産 ① 対象会社が賃借している土地 対象会社が賃借している土地については、まず、対象会社にヒアリングを行うなどして当該土地の用途を把握する。特に、借地借家法の適用を受けるか否かを検討する関係上、建物所有目的で土地を賃借しているのか、駐車場などのように建物所有以外の目的で土地を賃借しているのかを把握することが重要である。 次に、当該土地の賃貸借契約書(覚書等の賃貸借契約に関連して締結された書類を含む)を入手して契約内容を確認し、必要に応じて不動産登記事項証明書上の記載内容と照合する。賃貸借契約の内容として確認すべき事項としては、例えば下表の事項が挙げられる。 (※) Change Of Control条項:M&A等で対象会社の支配権に変更が生じた場合に、対象会社の相手方に契約の解除権を付与し、また、対象会社に事前又は事後の通知義務を課す規定を指す。 また、対象会社が賃借している土地に、賃借権に優先する抵当権、質権、留置権及び先取特権といった担保物権が設定されているか確認する。建物所有目的の土地の賃貸借においては(賃借権を登記している場合は別論であるが)、当該土地上に賃借人が所有している建物の登記との先後によって抵当権その他の担保物件に対して対抗できるか否かが決まることから(借地借家法10条1項)、建物の不動産登記事項証明書を確認し、建物の登記の有無・登記の時期を調査する必要がある。 なお、建物所有目的以外の土地の賃貸借においては、賃借権を登記していなければ抵当権その他の担保物件に対して対抗できない(そして、賃借権の登記がなされていることは極めてまれである)ことに留意しておくべきである。 また、建物所有目的の土地の賃貸借においては、上記の他に建物自体の調査も行うことになるが、その場合の調査手続は基本的に上記(ア)と同様であるため割愛する。 ② 対象会社が賃借している建物 対象会社が賃借している建物については、まず、当該建物の賃貸借契約書(覚書等の賃貸借契約に関連して締結された書類を含む)を入手して契約内容を確認する。 賃貸借契約の内容として確認すべき事項としては、上記①の表において掲げた事項と大きく異なるものではないが、この他に、対抗要件との関係で建物の引渡日(もし契約書上不明であれば賃貸借期間の始期)を確認することも必要と思われる。 また、建物については、定期建物賃貸借契約(借地借家法38条)が締結されている場合も多いところ、定期建物賃貸借契約の場合には、賃貸借期間満了時の更新が存在しないことから、普通賃貸借契約の場合に比べて賃借人に不利な内容となっている。そのため、対象会社が賃借している建物に係る契約が定期建物賃貸借契約か否か、その場合に借地借家法38条の要件を具備しているか否かを調査する必要がある。 加えて、賃貸借契約が終了する際に、対象会社がいかなる原状回復を行う必要があるのか、原状回復義務の有無及び範囲を確認しておくことも有益と思われる。 (3) 調査結果の整理 上記を踏まえ、対象会社が所有・賃借する不動産についての調査結果をどのように整理するかは、具体的な案件によって異なる。 当事務所において、複数の店舗を運営する対象会社の法務DDを行った際に、対象会社が賃借する不動産の調査結果を下表の形で依頼者に報告したので、一例として掲載しておく。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第4回】 「中小企業経営者のリタイア後の収入源」 税理士法人トゥモローズ 事業承継案件に携わっていると、先代経営者から「引退後もある程度の収入を得たい」と要望をもらうことがある。これまで述べてきたように、中小企業経営者の場合、引退後も付き合いで様々な支出が想定されるので、当然の要望であろう。そこで今回は、中小企業経営者のリタイア後の主な収入源について確認していきたい。 中小企業経営者の話の前に、まずは一般家庭の老後の収入源について確認する。厚生労働省の国民生活基礎調査(平成29年)によると、高齢者の老後収入のメインは下記表のとおり公的年金等が挙げられ、その構成割合も総所得の約66%に上る。 【高齢者世帯の所得の種類別1世帯当たり平均所得金額】 (出典) 国民生活基礎調査(平成29年)「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」※筆者加工 また、公的年金等の総所得に占める割合が100%である世帯も全体の半分以上となっている。 【公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別世帯数の構成割合】 (出典) 国民生活基礎調査(平成29年)「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」 このように、一般家庭においては老後の収入について公的年金等の依存割合が高いことがわかる。中小企業経営者にとっても公的年金等はリタイア後の主な収入源であろうが、一般家庭に比べると収入の種類は多岐にわたる。 そこで、中小企業経営者のリタイア後に想定できる主な収入について列挙し、収入ごとに簡単にその概要を解説する。各項目の詳細については、【第6回】以降に詳細を確認することとする。 1 不動産賃貸収入 現役時代又は引退後に資産運用の一環として投資用不動産を取得していた場合には、その賃料収入は老後の重要な収入源となり得る。 また、経営者所有の土地や建物を同族会社に賃貸しているケースも多々あり、リタイア後も先代経営者がそのまま引き続いて所有している場合には、その賃料収入も大事な収入源であろう。 2 不動産譲渡収入 所有していた不動産を譲渡した場合には、一時に多額の現金収入が見込まれる。居住用不動産を譲渡することは考え難いが、投資用不動産については、利回りやマーケット等を考慮し、手残りが最大になる譲渡のタイミングを図る必要がある。 上記1で紹介した同族会社使用の不動産についても、譲渡を検討することもあろう。譲渡先がその会社なのか後継者個人なのかで、税務上の時価の考え方が異なることもあるので、同族間での不動産売買についてはその対価の算定が重要となる。 3 リバースモーゲージ 最近巷を賑わしているのがリバースモーゲージだ。リバースモーゲージとは、住んでいる自宅などの所有不動産を担保にして老後資金を借りることをいう。通常の住宅ローンのような毎月の返済は原則不要で、死後にその不動産を譲渡して一括返済するという手法だ。 金利上昇や不動産価値下落リスクはもちろんあるが、中小企業経営者であった者でも老後の資金繰りに悩んでいるような場合には、1つの手段として提案できる場面もあろう。 4 配当収入 上場株式や投資信託等で資産運用している者は、配当等の継続的な収入を得られる。また、事業承継後も先代経営者が自社株の一部を引き続き所有しているケースも多い。その場合には同族会社からの配当も重要な収入源の1つだ。 なお、上場株式等の配当は申告不要や分離課税等課税方法が選択できるが、同族会社からの配当は総合課税となるため、所得が大きい者には税負担が重くなる。 5 自社株売却 事業承継後も先代経営者が自社株の一部を引き続き所有している場合に、その自社株を譲渡して現金収入を得るケースも想定される。譲渡先としては、その同族会社、後継者、持株会などが考えられる。 それぞれの者で譲渡対価の考え方も異なるため、譲渡の際には、その対価設定を慎重に検討する必要がある。 6 利息収入 中小企業の場合によくあるのが、経営者が会社に対してお金を貸し付けているケースだ。事業承継後においても精算されずに先代経営者の貸付金の残債が残っていることがある。 当該貸付金について会社が利息を支払わないケースも多いが、契約上利息を支払うこととしている場合には、その利息収入が老後の収入源となる。 7 非常勤役員 事業承継後に顧問等の非常勤役員として先代経営者が会社の経営に携わることもあり得る。その場合にはその役員報酬が老後の収入源となる。なお、非常勤役員の場合には、現役時代のような報酬水準では税務上過大役員報酬として否認されるケースもあるので要注意だ。 8 各種年金 冒頭でも述べたが、公的年金等も重要な収入源である。中小企業経営者は現役時代の給与も高額であったことが想定されるため、公的年金の支給額も一般的なサラリーマン出身者より多額になるであろう。 また、現役時代に個人年金に加入していた場合には、その年金収入も引退後に受け取れることとなる。 さらに、退職金を会社の資金繰り等の関係で一時払いではなく退職年金とした場合にも、リタイア後の定期収入となる。なお、この場合には一時払いと年金払いで個人及び法人において課税関係が異なってくるため、慎重に判断する必要がある。 (了)
《速報解説》 経産省・中企庁から所得拡大促進税制の平成30年度改正に関する ガイドブック・Q&A集が公表される ~大企業向けは「賃上げ・生産性向上のための税制」と呼称~ Profession Journal編集部 平成30年度税制改正によりその制度が改組され、大企業、中小企業ごとに異なる制度設計となった所得拡大促進税制について、経済産業省及び中小企業庁は8月8日付けでホームページ上において、それぞれの対象企業に向けた「ご利用ガイドブック」及び「よくあるご質問 Q&A集」を公表した。 上記のとおり、経済産業省HPでは大企業向け情報、中小企業庁HPでは中小企業向け情報に分かれており、大企業向けの制度(中小企業も選択可能)を「賃上げ・生産性向上のための税制」、中小企業向けの制度を「中小企業向け所得拡大促進税制」と異なる名称で取り扱っている。 (※) 旧制度に関するガイドブック等資料については、上記経済産業省HPで参照可能。 なお、今回の情報が公表されるまでは、経済産業省HPでは大企業向け制度について「賃上げ・設備投資促進税制(大企業向け)」と表記されていたが、今回の更新により「賃上げ・生産性向上のための税制」へ変更されている。このため、今年度改正で創設された生産性向上特別措置法による固定資産税の特例措置や、すでに廃止された生産性向上設備投資促進税制等と混同しないよう留意されたい。 ガイドブック及びQ&A集の内容については、用語の定義に関する解説など共通する部分もあるが、全体的にそれぞれの制度に特化した内容となっている。 例えば「賃上げ・生産性向上のための税制」には賃上げ要件に加え原則として設備投資要件が設けられているため、経済産業省HP上のガイドブック及びQ&A集では、国内設備投資及び当期償却費総額に関する解説やQ&Aが先月公表された措置法通達を踏まえ掲載されている。 また、上乗せ措置に係る追加要件として両制度共に教育訓練費の増加割合に係る要件はあるものの、比較する教育訓練費の定義が「賃上げ・生産性向上のための税制」と「中小企業向け所得拡大促進税制」では異なる(前者は過去2年平均、後者は過去1年分)ため、それぞれの解説・Q&Aの内容も異なるものになっている。 さらに「中小企業向け所得拡大促進税制」では上記教育訓練費の要件と選択適用で経営力向上計画の認定・報告により上乗せ措置が適用できるため、ガイドブックではこの「経営力向上要件」に関し必要な手続をステップごとに解説するなどページが割かれている。 このように、改正前の旧制度とは異なりそれぞれ別の制度になったという認識を持ったうえで、適用を受ける制度を明確にし、対象となる資料を正しく選択し確認したい。また、制度全体を把握する必要がある場合は、いずれか一方ではなく両HP上の資料に目を通す必要があろう。 さらに、今回公表されたガイドブック及びQ&A集が今後アップデートされることも想定の上、常に最新のものを確認するようにしておきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2018年8月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.280を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第67回】 「統計数値が租税法解釈に与える影響(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 統計が租税法の解釈に何らかの影響を与えることもあると思われる。 ところで、税理士資格試験免除申請に関して国税庁は、ホームページにおいて、「税法に属する科目等」の学問領域に関する「租税についての経済分析や政策を研究したが、認定が受けられるのか。」との質問に対して、「研究の主たる関心が税法に属する科目等にあるとはいえないような場合」は「税法に属する科目等と密接に関連するものであるとは認められず、認定の対象となる研究領域に含まれません。」とし、その例として、「数学的処理や統計的処理に主たる関心を置いた研究等」を掲げている。 統計的処理に主たる関心を置いた研究は、税法に属する科目等と密接に関連するものとは認められないようであるが、そうはいっても、統計への関心が租税法領域においても重要となることは十分あり得るのではなかろうか。 もっとも、研究の主たる関心が税法に属する科目等にあり、その関心を分析するために統計的処理が重要となる場合には、それは「統計的処理に主たる関心を置いた研究」ということにはならないのであろう。 本稿では、統計と租税法との関わりについて主たる関心を寄せてみたい。 Ⅰ 統計とは何か? 統計が租税法の解釈に影響を及ぼす場面について考えるに当たって、確認のためにも、そもそも統計とは何かを明らかにしておきたい。 一般的な国語辞典によると、統計とは次のように説明されている。 このように、統計とは、個々の要素からその集団の傾向を把握するものであるが、統計数値は立法や行政に如何なる影響を及ぼすのであろうか。以下では、実例を基にこの点を確認する。 Ⅱ 統計と立法・行政 (1) 標本調査 国税庁では、各種の統計調査を実施しており、その内容を行政執行に生かしている。 各種統計調査の中でも、次の示す「申告所得税標本調査」、「民間給与実態統計調査」、「会社標本調査」はとりわけ有名であり、統計内容は国税庁ホームページにおいて公開され、また、大手報道機関からも報道されている。直近の各種調査の発表は以下のとおりである。 例えば、申告所得税標本調査は、昭和26年分から始まり、以後毎年実施されているものである。 この調査は、「申告所得税納税者について、所得者区分別・所得種類別の構成、所得階級別の分布及び各種控除の適用状況の実態を明らかにし、併せて租税収入の見積り、税制改正及び税務行政の運営等の基礎資料とすることを目的としている。」とされるとおり(国税庁ホームページ)、税制改正や税務行政の基礎資料とされている。 (2) 統計年報 また、国税庁は「統計年報」も公表している。 この年報は、「第1回大蔵卿年報書」が明治9年に刊行されて以来、「主税局統計年報書」、「国税庁統計年報書」とその名称を変えて現在に至るものであり、我が国の租税を巡る重要な基礎資料であるといえよう。 なお、国税庁は、当年報の目的について「国税に関する基礎統計として、国税の申告、賦課、徴収及びこれらに関連する計数を提供し、併せて租税収入の見積り、税制改正及び税務行政の運営等の基礎資料とすること」としている(国税庁ホームページ)。 例えば、第142回国税庁統計年報(平成28年度版)では次のグラフのような資料が公表されている(このデータからは、平成18年と同28年の直間比率(直接税と間接税の比率)に大きな差異がみられることがわかる。)。 【国税収入割合】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔出典:国税庁統計年報平成28年度版〕 (3) 国税庁レポート 国税庁は毎年「国税庁レポート」を公表している。以下では、2018年度版のうちの1項目である「確定申告」について確認してみたい(同レポート20頁以下)。 同レポートによれば、2017年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告を行った申告者は2,198万人に上り、国民の6人に1人が確定申告を行っていることになるという。そして、そのうち、還付申告者は1,283万人を超え、半数以上を占めているとの統計結果が出ている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〔出典:国税庁レポート2018〕 グラフを見れば一目瞭然であるが、この50年間で確定申告を行う個人の数は増加傾向にある。 ここでは、このような統計資料を踏まえ、国税庁が、「納税者の多様なニーズに対応するために様々なサービスを提供→簡単・便利な申告手続の実現に向けた取組を実践」として、今後の税務行政の指針を示しているところに着目しておこう(具体的には、e-TaxをはじめとするICTを利用した申告の推進や、確定申告期間中における日曜開庁の実施を行っているとする。)。 (4) 法改正の具体例 当然のことながら、法律の制定や改正において統計資料が果たす役割は大きい。 ここでは、その一例として、給与所得者に係る特定支出控除の改正を確認することとしたい。 特定支出控除とは、給与所得者が所定の通勤費や転勤に伴う費用等の特定支出をした場合において、その年の特定支出の額の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えるときに、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができる制度であるが(所法57の2)、その特定支出の範囲が制限されていたことから、制度としてほとんど利用されてこなかったという経緯がある。 国税庁の発表によれば、平成23年分確定申告で特定支出控除適用者はわずか4人、翌24年でも6人であったというから、ほとんど利用されない制度であったといっても過言ではない。 こうした統計資料を参考に、平成24年度税制改正において特定支出の範囲が拡大された。具体的には、弁護士や税理士等の資格取得費などが追加されたが、これにより、平成25年分確定申告では、約1,600人が特定支出控除を適用して申告したとされている(国税庁発表)。 なお、特定支出控除は、平成30年度税制改正においてもその範囲の拡張がなされているが、上記のように、法改正と統計の関係性を示す具体例の1つであるといえよう。 以上のとおり、統計資料は立法や行政執行に資するものであるが、統計数値が租税法解釈に影響を及ぼす事例も多い。また、立法政策の合理性判断などにおいても、統計数値が用いられることがある。以下では、そうした事例を具体的にみていこう。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第49回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ④ 持株会社における事業関連性要件の判定 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)118-119頁では、持株会社における事業関連性要件の判定において、子会社に対する経営指導、不動産や金銭の貸付けによる売上が計上されているとともに、「事業」があると認められるだけの従業者が存在している必要があるものとした。 この点につき、国税庁 質疑応答事例「持株会社と事業会社が合併する場合の事業関連性の判定について」では、 と解説されるようになった。 筆者が、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)に勤務していた当時、田島龍一・佐藤信祐ほか『組織再編における繰越欠損金の実務Q&A』92頁(中央経済社、平成17年)において、実務の経験を参考に同様の解説を行ったが、やや具体性、網羅性が欠けていた。その後、国税庁からは、より具体的な見解が公表されたため、実務では、国税庁の見解をそのまま採用している事案が多いと思われる。 なお、上記質疑応答事例の文言を見ていると、みなし共同事業要件の判定を強く意識した内容となっている。そもそも、グループ外の法人と組織再編成を行う場合には、持株会社同士の合併であったり、持株会社を株式交換完全親法人とし、事業会社を株式交換完全子法人とする株式交換であったりするからである。 この質疑応答事例がみなし共同事業要件の判定を強く意識した内容となっている理由は、平成22年度税制改正前に公表された見解であり、当時は、グループ内で設立された法人と合併する場合であっても、繰越欠損金の引継制限、使用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入が課されていたからである。 その意味では、現在、持株会社との組織再編が問題となるのは、みなし共同事業要件ではなく、グループ外の法人と組織再編を行う場合における共同事業要件の判定であることが多いと思われる。 ⑤ 持株会社における事業規模要件の判定 前掲の拙著126頁では、事業規模要件の判定は、連結ベースではなく、単体ベースで行うべきであるとした。国税庁から公式見解が公表されていないが、条文上、単体ベースで事業規模要件の判定を行うことが明記されていることから、現在でもそのように解すべきであると思われる。 しかしながら、平成30年度税制改正により、合併後に、合併法人の100%グループ内の法人に事業や従業者を移転したとしても、従業者引継要件、事業継続要件に抵触しないものとされた。これにより、グループ外の法人と合併する場合において、事業規模要件を満たせそうな法人を合併法人とする三角合併を行ったうえで、他の法人に事業や従業者を移転することが可能になってしまったため、租税回避に悪用される危険性が高まったと思われる。 それを考えると、今後の税制改正により、連結ベースにより事業規模要件を判定するように改正すべきであると考えられる。 ⑥ 創設債務の設定と金銭等不交付要件 平成19年度から施行された合併等対価の柔軟化により、吸収分割の対価として、分割法人を債権者とし、分割承継法人を債務者とする創設債務を設定することが可能になった。ただし、新設分割の場合には、合併等対価の柔軟化として認められているのが、社債、新株予約権及び新株予約権付社債に限定されていることから、新設分割の対価として、このような創設債務を設定することはできない。 これに対応し、前掲の拙著193頁では、このような創設債務の設定は、分割承継法人株式又は分割承継親法人株式のいずれか一方の株式以外の資産が交付されていることから、非適格分割に該当するものとしている。 ただし、分割法人を債務者とし、分割承継法人を債権者とする創設債務の設定は、分割の対価と認められず、単なる贈与であるとして、分割法人において寄附金、分割承継法人において受贈益を認識するとともに、税制適格要件に影響を与えるべきではないものとした。 国税局からの公式見解は公表されていないが、上記の見解について争いはないと思われる。 ⑦ 未経過固定資産税と金銭等不交付要件 問題となるのは、未経過固定資産税である。なぜなら、未経過固定資産税を分割承継法人が納税することはできず、未経過固定資産税相当額の金銭を分割法人に支払ったと考えられるため、【第31回】で解説したように、平成17年改正前商法では、金銭等不交付要件に抵触するという見解が公表されていたからである しかし、会社法の施行により、分割の対価として未経過固定資産税の精算を行うためには、合併等対価の柔軟化の手続きによることになった。これに対応し、前掲の拙著195頁では、新設分割の場合には、金銭を対価とすることはできないため(会社法763①八)、分割とは別の手続きで未経過固定資産税の精算をせざるを得ないことを理由として、吸収分割が行われた場合の議論であるとした。 そして、吸収分割を行った場合の取扱いについて、以下のように解説を行った。 現在でも上記の見解に変更はなく、金銭等不交付要件に抵触しないと解すべきであると思われる。さらに、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入されたことに伴い、完全支配関係のある法人間で、未経過固定資産税相当額を負担させたことによる寄附金、受贈益については、それぞれ損金不算入、益金不算入となったため、会社分割とは別個の取引であるとされたことによる納税者のデメリットはかなり小さくなったと思われる。 * * * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)
平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第2回】 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 3 一般社団法人に対する課税 (1) 公益法人税制の改革 一般社団法人の導入等がなされた公益法人制度改革に合わせて、平成20年度の税制改正により、公益法人税制も改正されることとなった。その内容は以下の4点である。 第一に、旧制度の下における場合と同様に、収益事業(34事業、法令5①)から生じる所得に対してのみ課税することとしているが(収益事業課税主義、法法4①)、当該収益事業として課税される範囲が狭くなった。すなわち、公益事業に該当するものその他一定の事業は上記収益事業の範囲から除かれている(公益目的事業非課税原則、法令5②)。 第二に、公益法人等が収益事業に属する資産のうちから公益目的事業のために支出した金額については、法人内部の振替であるにもかかわらず、50%相当額まで損金に算入することが認められるようになった(みなし寄附金、法法37⑤、法令73①三イ)。 第三に、公益法人等のうち公益社団法人及び公益財団法人に係る収益事業については、普通法人と同様に23.2%(800万円以下の金額に対しては19%(※1))の税率で課税されることとなった(法法66①②)。これは、公益法人の収益事業は民間の営利事業と競合するのであるから、競争条件を合わせる(イコール・フッティング)ための措置であると考えられる(※2)。 (※1) さらに暫定税率として15%に軽減されている(措法42の3の2①三十七)。 (※2) 従来は軽減税率で課税することとしていた。金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)424頁。 第四に、公益法人はすべて特定公益増進法人とされたことから(所令217三、法令77三)、所得税法上、公益法人に対する寄附金はその法人の主たる業務に関連するものは広く所得から控除されることとなった(所法78②三、所令217三)。同様に、法人税法上も、公益法人に対する寄附金はその法人の主たる業務に関連するものは、通常の損金算入限度額に加えて、別枠で損金算入限度額に相当する金額まで広く損金に算入されることとなった(法法37④、法令73①)。 (2) 一般社団法人に対する課税 上記(1)は公益法人に対する課税制度全般の改革であるが、公益法人のうちの一般社団法人及び一般財団法人は、非営利法人であるといっても事業範囲に制約がなく、非営利性を担保する仕組みも不十分である。そのため、すべての一般社団法人及び一般財団法人を課税上一律に非営利の公益法人と取り扱うのは、必ずしも適切ではないと考えられる。 そこで、公益法人税制の改革においては、一般社団法人及び一般財団法人を2つの類型に分け、それぞれ異なる課税上の取扱いとなるようにした。 ① 非営利型法人 一般社団法人及び一般財団法人のうち、その行う事業により利益を得ること、又はその得た利益を分配することを目的としない法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(公益的非営利型法人、法法2九の二イ、法令3①、法規2の2①)、及び、その会員から受け入れる会費により会員に共通する利益を図るための事業を行う法人であって、その事業を運営するための組織が適正であるもの(共益的非営利型法人、法法2九の二ロ、法令3②、法規2の2①)については、法人税法上、非営利型法人とされ、公益法人等の範囲に含まれることとされた(法法2九の二、別表2)。 それぞれの法人の要件は以下の通りとなる。 〇非営利型法人の要件 非営利型法人の場合、その行う事業については、公益法人と同様に、本来の事業のために受け入れる寄附金や会費収入(共益的非営利型法人の場合)は非課税となる。 なお、非営利型法人の場合、課税上留意すべきは、非営利型法人の要件を満たさなくなった場合の遡及課税である。すなわち、非営利型法人がその要件を満たさなくなった(普通法人となった)場合には、過去において収益事業以外の事業から生じた所得として法人税が課税されていない部分の金額の累積額(累積所得金額)を益金に算入する必要があるのである(法法64の4①)。 ② 非営利型法人以外の法人 上記①の非営利型法人に該当しない一般社団法人及び一般財団法人は、法人税法上、普通法人として、株式会社その他の営利法人と同様に課税されることとなる(法法4)。 なお、前述の通り一般社団法人及び一般財団法人は、公益認定等委員会・審議会の諮問に基づいてなされる行政庁の認定を受けることにより、公益社団法人及び公益財団法人となる。法人税法上、公益社団法人及び公益財団法人は公益法人等に該当するので、収益事業から生じた所得に対してのみ課税され、公益目的事業は非課税となる。 また、公益社団法人及び公益財団法人の場合、みなし寄附金制度(法法37⑤)の適用が受けられるという点は、上記①の非営利型法人と大きく異なる点である。 * * * 一般社団法人及び公益社団法人に対する課税を表でまとめると、以下の通りとなる。 〇一般社団法人及び公益社団法人に対する課税 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q5】 「国内設備投資額、当期償却費総額の意義」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q5] 平成30年度の税制改正により新たに適用要件として定められた「国内設備投資額」及び「当期償却費総額」とは、具体的にどのように集計するのでしょうか。 [A5] 国内設備投資額及び当期償却費総額のそれぞれについて定義規定が設けられており、適用年度における一定の額を合計して集計することとなります。 【解説】 (1) 国内設備投資額の意義 本税制における「国内設備投資額」とは、法人が適用年度において取得等をした国内資産で、当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう(措法42の12の5③八)。 ① 取得等 取得又は製作若しくは建設をいい、合併、分割、贈与、交換、現物出資又は現物分配、代物弁済による取得を除く(措令27の12の5⑯)。 本税制は設備投資を促進するための税制であるから、投資を伴わない資産の増加は除外する趣旨と考えられる。 ② 国内資産 国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の減価償却資産(時の経過によりその価値の減少しないものを除く)をいう(措令27の12の5⑰)。 この点、使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額が10万円未満であるもの(いわゆる少額減価償却資産)並びに一括償却資産も「減価償却資産」に含まれることから(法令133、133の2)、これらも「国内資産」に含まれる。 ここで「事業の用に供する」という表現は、実際に事業の用に供していることを必要としていないことに留意が必要である。 事業供用が必要な場合には「事業の用に供した機械及び装置・・・」、という表現になるべきであるし、これに続く「その他の減価償却資産」のカッコ書きからも、法人税法施行令第13条における減価償却資産の定義のカッコ書きに含まれている「事業の用に供していないもの」が除外され、単に「時の経過によりその価値の減少しないもの」のみが残されていることからも明らかである。このことは新たに設けられた通達においても明らかにされている(措通42の12の5-7)。 したがって以下のものは、「国内資産」に該当しないものと考えられる。 ●棚卸資産 ●有価証券(法法2二十一) ●繰延資産(法法2二十四) ●国外事業所にある減価償却資産 ●土地 ●取得価額が1点100万円以上の美術品等のうち、時の経過によりその価値が減少することが明らかなものを除いたもの ●取得価額が1点100万円未満の美術品等のうち、時の経過によりその価値が減少しないことが明らかなもの また、取得等した無形固定資産が国内資産に該当するかどうかの判定を行う場合には、下表のように取り扱われることが通達で明らかにされた(措通42の12の5-6)。 なお、適用年度中に取得等した国内資産であっても、適用年度終了の日の前に除売却したものの取得価額は「国内設備投資額」に含まれないので留意が必要である(措法42の12の5③八)。 (2) 当期償却費総額の意義 法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいう(措法42の12の5③九)。 償却費として損金経理をした金額には、当該適用年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法により特別償却準備金として積み立てた金額を含み、償却超過額の当期認容額、及び合併、分割等により移転を受けた減価償却資産に係る合併等事業年度前の損金未算入額は含まれない。また、法人税基本通達7-5-1又は7-5-2の取扱いにより償却費として損金経理をした金額に該当するものとされる金額が含まれる(措通42の12の5-11)。 当期償却費総額は、税務上の損金算入限度額ではなく、その母集団である「償却費として損金経理をした額」を対象とした概念であることに注意しておきたい。税務上は償却超過額として否認された部分も「当期償却費総額」に含まれることとなるから、前期以前の償却超過額の当期認容額は「当期償却費総額」から除かれているのである。また合併等事業年度前の損金未算入額についても、自己の設備投資に対応する償却費ではないことから、同じく「当期償却費総額」から除かれていると考えられる。 また、償却費として損金経理をした額には、少額減価償却資産又は一括償却資産の損金経理額も含まれると考えられる。 (3) 決算・申告上の留意点 設備投資に係る要件の判定に関し、「当期償却費総額」が確定する前であっても、前事業年度末の固定資産台帳(税務版)に基づいて翌期償却見込額を集計することは比較的容易と考えられる。 そこで、前年度末のデータに基づく翌期償却見込額を「当期償却費総額」とした場合に、適用要件を満たすために必要な国内設備投資額を逆算し、これに適用年度に予定されている設備投資計画と照らし合わせることによって、設備投資に係る要件を満たすかどうかの事前検討を行うことができると考えられる。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第2回】 「適格請求書発行事業者の義務等」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 【総論】 適格請求書の様式は、法令で定められていない。 したがって、適格請求書として必要な次の事項が記載されていれば、名称を問わず適格請求書に該当する(手書きの領収書でも可)。 適格請求書発行事業者が、適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付した場合においては、これらの書類の記載事項に誤りがあったときには、これらの書類を交付した相手方(課税事業者に限る)に対して、修正した適格請求書、適格簡易請求書又は適格返還請求書を交付しなければならない。 また、記載事項に誤りがある適格請求書の交付を受けた事業者は、仕入税額控除を行うために、売手である適格請求書発行事業者に対して修正した適格請求書の交付を求め、その交付を受ける必要がある(自ら追記や修正を行うことはできない)。 登録日から通知を受けるまでの間の取引について、区分記載請求書を交付していた場合には、適格請求書の記載事項を満たしていないため、通知を受けた後、登録番号や税率ごとに区分した消費税額等を記載し、適格請求書の記載事項を満たした請求書を改めて相手方に交付する必要がある。 なお、通知を受けた後に登録番号などの適格請求書の記載事項として不足する事項を相手方に書面等で通知することで、既に交付した請求書と合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができる。 【交付義務の免除】 適格請求書の交付義務が免除される公共交通機関特例の対象となるのは、3万円未満の公共交通機関による旅客の運送であり、この3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定する。 したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することはできない。 特急料金、急行料金及び寝台料金は、旅客の運送に直接的に附帯する対価として、公共交通機関特例の対象となる。 また、入場料金や手回品料金は、旅客の運送に直接的に附帯する対価ではないので、公共交通機関特例の対象とならない。 卸売市場法に規定する卸売市場において、卸売の業務として出荷者から委託を受けた事業者が行う生鮮食料品等の販売は、適格請求書を交付することが困難な取引として、出荷者から生鮮食料品等を購入した事業者に対する適格請求書の交付義務が免除される。 なお、この場合において、生鮮食料品等を購入した事業者は、卸売の業務を行う事業者など媒介又は取次ぎに係る業務を行う者が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。 農協等の組合員その他の構成員が、農協等に対して、無条件委託方式かつ共同計算方式により販売を委託した、農林水産物の販売は、適格請求書を交付することが困難な取引として、組合員等から購入者に対する適格請求書の交付義務が免除される。 なお、無条件委託方式及び共同計算方式とは、次のものをいう。 また、この場合において、農林水産物を購入した事業者は、農協等が作成する一定の書類を保存することが仕入税額控除の要件となる。 適格請求書の交付義務が免除される自動販売機特例の対象となる自動販売機や自動サービス機とは、代金の受領と資産の譲渡等が自動で行われる機械装置であって、その機械装置のみで、代金の受領と資産の譲渡等が完結するものをいう。 したがって、例えば、自動販売機による飲食料品の販売のほか、コインロッカーやコインランドリー等によるサービスのように機械装置のみにより代金の受領と資産の譲渡等が完結するものが該当することとなる。 なお、小売店内に設置されたセルフレジを通じた販売のように、機械装置により単に精算が行われているだけのものや、自動券売機のように、代金の受領と券類の発行はその機械装置で行われるものの資産の譲渡等は別途行われるようなものは、自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれない。 【適格請求書の交付方法】 委託販売の場合、購入者に対して課税資産の譲渡等を行っているのは、委託者なので、本来、委託者が購入者に対して適格請求書を交付しなければならない。 このような場合、受託者が委託者を代理して、委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載した、委託者の適格請求書を、相手方に交付することも認められる(代理交付)。 また、次の(イ)及び(ロ)の要件を満たすことにより、媒介又は取次ぎを行う者である受託者が、委託者の課税資産の譲渡等について、自己の氏名又は名称及び登録番号を記載した適格請求書又は適格請求書に係る電磁的記録を、委託者に代わって、購入者に交付し、又は提供することができる。 なお、媒介者交付特例を適用する場合における受託者の対応及び委託者の対応は、次のとおりである。 任意組合等が事業として行う課税資産の譲渡等については、その組合員の全てが適格請求書発行事業者であり、業務執行組合員等が、その旨を記載した届出書を税務署長に提出した場合に限り、適格請求書を交付することができる。 この場合、任意組合等のいずれかの組合員が適格請求書を交付することができ、その写しの保存は、適格請求書を交付した組合員が行うこととなる。 なお、交付する適格請求書に記載する「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」は、原則として組合員全員のものを記載することとなるが、次の事項を記載することも認められる。 適格請求書発行事業者が適格請求書発行事業者以外の者と資産を共有している場合、その資産の譲渡や貸付けについては、所有者ごとに取引を合理的に区分し、相手方の求めがある場合には、適格請求書発行事業者の所有割合に応じた部分について、適格請求書を交付しなければならない。 適格請求書には、適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号の記載が必要であるが、登録番号と紐付けて管理されている取引先コード表などを適格請求書発行事業者と相手先の間で共有しており、買手においても取引先コードから登録番号が確認できる場合には、取引先コードの表示により「適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号」の記載があるものと認められる。 また、請求書等に記載する名称については、例えば、請求書に電話番号を記載するなどし、請求書を交付する事業者が特定できる場合、屋号や省略した名称などの記載でも差し支えない。 適格請求書の記載事項である消費税額等については、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理を行う。 なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすることができる。 (注) 一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められない。 適格請求書発行事業者が発行する請求書に、適格請求書と適格返還請求書それぞれに必要な記載事項を記載して一枚の書類で交付することも可能である。 例えば、当月販売した商品について、適格請求書として必要な事項を記載するとともに、前月分の販売奨励金について、適格返還請求書として必要な事項を記載すれば、1枚の請求書を交付することで差し支えない。 また、継続して、課税資産の譲渡等の対価の額から売上げに係る対価の返還等の金額を控除した金額及びその金額に基づき計算した消費税額等を税率ごとに請求書等に記載することも認められる(純額主義)。 適格請求書は、一の書類のみで全ての記載事項を満たす必要はなく、交付された複数の書類相互の関連が明確であり、適格請求書の交付対象となる取引内容を正確に認識できる方法(例えば、請求書に納品書番号を記載するなど)で交付されていれば、その複数の書類の全体により適格請求書の記載事項を満たすことになる。 区分記載請求書等に登録番号を記載しても、区分記載請求書等の記載事項が記載されていれば、取引の相手方は、区分記載請求書等保存方式の間(平成31年10月1日から平成35年9月30日まで)における仕入税額控除の要件である区分記載請求書等を保存することができるので、区分記載請求書等に登録番号を記載しても差し支えない。 (了)