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プロフェッションジャーナル No.328が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年7月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.328を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/07/25

これからの国際税務 【第14回】「平成31年度改正で追加されたタックスヘイブン税制改革」

これからの国際税務 【第14回】 「平成31年度改正で追加されたタックスヘイブン税制改革」   21世紀政策研究所 国際租税研究主幹 青山 慶二   1 TH税制見直しの背景 グローバルビジネスの税務環境は、新しい課税対象取引の出現や各国における個別対応立法の導入により、常に変化して留まるところを知らない。ただ、国際的なコンセンサスを必要とする大きな課税枠組みについては、幸いなことに2015年10月に最終報告をまとめたBEPSプロジェクトが租税回避防止対応に向けた国際協調のガイダンスを提示したため、一定の立法的集約が図られつつある。 タックスヘイブンを利用した租税回避の防止策もその1つであり、我が国も平成29年度改正により、20%の実効税率を閾値に経済活動基準を満たさない外国子会社につき会社単位での合算を(受動的所得については経済活動基準を満たすものについても合算対象)、更に、ペーパーカンパニーやいわゆるキャッシュボックス法人については30%の閾値で会社単位合算を行うことと整理していた。 ところで、米国では2017年末のトランプ税制改革で、法人税の実効税率が30%未満にまで引き下げられたため、米国で稼働する本邦法人の関連会社につき、上記のペーパーカンパニー該当の有無について審査対象となる法人が増加したという変化がみられた。それらの中には、外形上ペーパーカンパニーに該当しているように見えても、事業の実態がないとは言えなかったり或いは租税回避に資する類型ではなかったりして、合算税制の趣旨に照らして適用除外とすべきものも含まれており、これらについては、法制上明確に適用除外とすべきとの要請がビジネス界から高まっていた。31年度改正のタックスヘイブン税制の部分は、この要請に応えたものである。   2 改正概要とその意義 平成31年度改正では、次の3つの類型の関係会社について、ペーパーカンパニーに該当しないことが明記された。すなわち、 である。 このほか、保険会社特例についてもペーパーカンパニー該当性を実質判断するとともに、関連者保険料(キャプティブ保険)に着目した事実上のキャッシュボックス認定ルールが創設されている。 これらの改正は、外国子会社の所得についてその実質的帰属が親会社に属するものを、所得種類別に個別認定して合算対象を精緻化しようとする方向に向かうものであり、個別否認規定を明確に規定して納税者の予測可能性を高めるという我が国税制の伝統的手法に合致した改正と評価できよう。   3 電子経済課税ルールの議論との整合性 ところで、本年6月のG20サミットで合意された電子経済課税ルールの作業計画では、第2の柱として、低税率国への所得移転に対する処方箋の1つとして、国際的に定めた最低限の税負担を下回る国への利益移転については、ミニマム税的な仕組みで取り戻し課税ができるとする案が提起されている。 トランプ税制改革で登場したGILTI税制(低課税グローバル無形資産所得の合算税制)及びBEAT税制(低課税関連会社への損金算入支払いの否認税制)を参照したといわれるこのプランは、関連会社の事業用資産の一定率に相当する所得(通常所得)を超える所得についての課税権の流出を認めないとするものであり、実質的には外形標準でのミニマム税の負担を関連会社所得に対して求めるものとなっている。 我が国の31年度改正にみられる取引単位或いは法人単位での個別の機能、リスク分析に基づくタックスヘイブン税制の対応とは異なる方向性を持っており、この新制度が仮に合意された場合には、我が国をはじめ精緻なタックスヘイブン税制を導入している先進国では、既存税制との調整という課題に直面することになろう。米国のGILTI税制等については執行が始まったばかりであり、我が国は米国の状況を見ながら慎重に対応すべきと考える。 (了)

#No. 328(掲載号)
#青山 慶二
2019/07/25

山本守之の法人税“一刀両断” 【第61回】「所得課税とデジタル課税」

山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第61回】 「所得課税とデジタル課税」   税理士 山本 守之   Ⅰ 所得課税 1 各事業年度の所得に対する法人税 法人は解散、合併等をしない限りは永続的に存在するものです。したがって、法人がどれだけの利潤を得たかを最終的に測定するためには、設立してから解散、合併までの期間について計算をしてみなければ分かるものではありません。 しかし、企業利潤の計算を解散又は合併時まで待っていたのでは、企業と投資家との関係は成立しません。投資家にしてみれば、投資に対する利益の分配(配当)を期待しているでしょうし、その分配の基準となる利益の計算が長期に及べば、配当を受けられる時期の見込みもつかないことになります。 そこで、事業年度という人為的に区切られた期間(法人の財産及び損益の計算の単位となる期間-会計期間)の中で企業利益を算出し、その利益の中から配当を支払うという仕組みになっています。 国と企業との関係も同じで、事業年度という区切られた期間の中で所得金額を計算し、その所得金額に対して法人税を課すのです。 これが「各事業年度の所得に対する法人税」です。 2 消費型所得概念 所得概念は次のように区分できます。 このうち、「消費型所得概念」は、効用又は満足の源泉である財貨や人的役務の購入に充てられる部分だけを所得としてみる考え方で、蓄積に充てられた部分を所得から除外するというものです。この考え方によれば、人の1年間の消費総額を所得として累進税率を適用するものになります。 この方法によると、投資や貯蓄を奨励するという政策目的を達成する手段としては有効ですが、蓄積に充てられた部分を課税対象から除外すれば、高額所得者又は資産家に有利となり、獲得したすべてを消費に振り向けなければならない勤労者層又は低額所得者層に不利になります。 このような不公平を避けるため、相続税、贈与税や資産保有に係る税を大幅に増税しなければなりませんが、実際問題としてそれは実現不可能です。 また、この所得概念では、高齢者が蓄積を取り崩して消費に充てた分も課税対象となり、借入金によって消費した分も課税されるなど問題が多くあります。 したがって、このような所得概念の下に所得税を構築することは社会正義に反し、一部の学者の学説の範囲にとどまっており、現実の所得税制として実現する可能性はないと考えてよいでしょう。 3 取得型所得概念 取得型所得概念は、個人が新たに取得する経済的価値(経済的利得)を所得とするもので、各国の租税制度の中で一般的に採用されているものです。取得型所得概念は、さらに制限的所得概念と包括的所得概念に区分されます。 制限的所得概念は、利子、配当、利潤、給与のような継続・反覆的な利得だけを所得としてとらえ、一時的・偶発的・恩恵的な利得を所得の範囲から除外する概念です。この考え方はドイツのヘルマンによって代表されるもので、所得源泉説又は反覆的利得説とも呼ばれています。イギリスではこの考え方によって18世紀末に所得税が創設されました。 当時のイギリスは毎年の穀物収穫に依存した農業経済で、停滞的であったばかりではなく、限嗣封土と呼ばれる制度があり、何人も不動産を自由処分することができなかったことも影響しているようです。いずれにしてもイギリス及びヨーロッパ諸国の所得税制度は伝統的にこの考え方に基づいており、キャピタル・ゲインのような一時的・偶発的利得は長い間課税対象から除外されていました。 もっとも、近年では財政事情から、必ずしもこのような制限的所得概念を取ることはできなくなっています。 制限的所得概念に対立するのが包括的所得概念です。ここでは人の担税力を増加させる経済的利得は、継続・反覆的なものであれ、一時的・偶発的・恩恵的なものであれ、すべて所得に含まれます。 この考え方は1892年にドイツのシャンツによって体系化され、後にアメリカのロバート・ヘイグやヘンリー・サイモンズによって主張されました。1913年にアメリカで採用された連邦所得税はこの考え方によっています。もともと19世紀初頭にアメリカで所得税が取り入れられた頃は、いわゆる開拓者経済で、油田、金鉱などを求めてフロンティアが活躍し、一獲千金を夢見た投機をはらむものであったことも影響しています。 このため、アメリカでは、ヨーロッパと異なり、いかなる源泉から生じたものであるかを問わず、すべての所得を課税対象としたのです。 確かに、所得税創設当時こそそれぞれの国の経済事情に合致した制限的所得概念、包括的所得概念と異なるものでしたが、現在では世界各国ともに財政事情等から包括的所得概念の方向に移っています。 包括的所得概念が支持される理由については、理論的には次のように説明されています。 つまり、所得の源泉、形式を問わず課税する方が担税力に見合った税となり得るものであるという考え方で、わが国でも戦前は課税所得の範囲を制限的にとらえていた時期もありましたが、戦後はアメリカの影響を受けて包括的所得概念になっています。 法人税は「全世界所得課税方式」と「源泉地国課税」があり、米国では、企業が外国で稼いだ利益にも課税するという「全世界所得課税方式」でしたが、これは国際競争で不利だという批判に応えて、トランプ税制では米国で稼いだ分だけに課税する「源泉地国課税」に改正しました。   Ⅱ デジタル課税 1 デジタル課税の動き 令和元年6月9日、日本の福岡市で開催されたG20財務省・中央銀行総裁会議で、経済のデジタル化に対応した国際課税ルールを2020年の最終合意を目指して収束することで一致しました。 (1) 収益の源泉 米国のグーグル、アップルなどいわゆる巨大IT企業(「GAFA」)は国境を越えて事業を展開しています。従来の税制では、法人税をかけるための収益の源泉がどこにあるかをとらえきれていません。 (2) OECDの今後の計画 このサービスを利用している者のいる国は、今後税収を多く徴収する方向ですが、多国籍企業の範囲、配分方向は討議する必要があります。 2 デジタル経済化の要因 企業が生む価値は、「GAFA」などにより次のように変わっています。従来は一定の税引前利益があれば、それに応じた税負担額がありました。しかし、現在では税引前利益がどんどん伸びても税負担額は伸びません。これは世界的傾向である企業の税負担率が下がりはじめているということです。 これで公平な法人税が保てるのでしょうか。 実際のところ、税負担率は2000年度の30%から2018年度では23%と下落しました。 次に問題となっているのが経済のデジタル化です。 企業価値の源泉は、製造業が中心であったころの「モノ」からグーグル、アップルなどのデジタル企業の無形資産(ノウハウ、顧客データ)に代わりました。 こうなると、どこで稼いだかが見えなくなってしまいます。知的財産権を低税率国に移すことで節税が行われるのです。 そこで物理的なモノや取引がなくても、サービス利用者に税金が渡るようにするというデジタル課税の手法が出てきたのです。 これが公平か否かは問いません。 (了)

#No. 328(掲載号)
#山本 守之
2019/07/25

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第16回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法の目的論的解釈の過形成⑦-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第16回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成⑦-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回の冒頭で予告しておいたように、今回は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」を検討することにするが、その検討の素材とするのは、延滞税の納付義務の不存在を確認した最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(以下「本判決」という)である。 本判決は、納税者(上告人ら)が相続税の期限内申告及び納付をした後で更正の請求をしたところ、所轄税務署長において、相続財産の評価の誤りを理由に減額更正をし、これにより「新たに」納付すべきこととなった本税額につき、平成28年度税制改正前の国税通則法60条1項2号、2項及び61条1項1号に基づき、法定納期限の翌日から完納の日までの期間に係る延滞税の納付の催告をしたことから、納税者が国(被上告人)を相手に、上記の延滞税は発生していないとして、その納付義務がないことの確認を求めた事案に関するものである。 本判決は、次のとおり判示して(下線筆者)、納税者の請求を認容した。 本判決の示した解釈(最後の下線部)については、千葉勝美裁判官が補足意見において、「この解釈は、法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もある」と述べているところである。ここでいわれる「目的論的限定解釈」について、本判決における少数意見では、以下で述べるように、2とおりの異なる立場が示されているように思われる。   Ⅱ 「目的論的限定解釈」に対する少数意見の立場 1 千葉勝美裁判官補足意見  千葉勝美裁判官は補足意見において、前記の引用部分に続けて、次のとおり述べている(下線筆者)。 ここで示された考え方は、多数意見において国税通則法60条1項2号の解釈(目的論的限定解釈)によって定立された延滞税不発生に係る規範を「例外的な事案」(千葉裁判官補足意見)に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を説き、もって多数意見(前掲)の説得力を強めようとしたものと解される。 2 小貫芳宣裁判官意見 他方、小貫芳宣裁判官は意見において、まず、次のとおり述べ(下線筆者)、本件の事実関係に即して、国税通則法60条1項2号の規定について延滞税の発生要件の欠缺を認めている。 その上で、小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を、次のとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている(下線筆者)。 以上のように、小貫裁判官の意見は、結論の点では、多数意見と同じく、本件における延滞税の不発生を認めるものではあるが、その理由づけを、多数意見とは異なり、延滞税の発生要件の欠缺に見出すものであると解される。 この点に関し、千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもな」り、「延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。」という的確な指摘を行っている(下線筆者)。小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を問題にするが、その欠缺は、論理的には、千葉裁判官の上記の指摘のように、延滞税の発生要件に係る消極要件ないし適用除外要件の欠缺とみるべきであろう。そこで、以下では、小貫裁判官の意見にいう延滞税の発生要件の欠缺について、「延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺」という表現を用いることにする。 このように考えると、小貫裁判官の意見は、国税通則法60条1項2号の規定について、目的論的制限(teleologische Reduktion)という一種の法創造(法の継続形成Rechtsfortbildung)の方法によって消極要件ないし適用除外要件を創造し、本件においてこの要件の適用によって延滞税の不発生を結論づけたものであると解される。 目的論的制限とは、法の欠缺のうちいわゆる隠れた欠缺(verdeckte Lücke)すなわち適用除外規定の欠缺についての欠缺補充方法をいう(【46】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号[以下同じ]。ほかに、広中俊雄『民法解釈方法に関する十二講』(有斐閣・1997年)64頁、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)特に第1章第2節参照)。これは、法の欠缺補充の方法であるが故に、狭義の法解釈(可能な語義の枠内での法解釈)とは区別される法創造ないし法の継続形成の領域に属するものであるが、法的思考方法の点では依然としてなお「解釈的」方法を用いるもの(「解釈的」方法による法創造。第7回Ⅱ参照)である。   Ⅲ 納税者に有利な「過形成」の許容性  1 目的論的限定適用と目的論的制限との異同 千葉裁判官の補足意見と小貫裁判官の意見とは、以上で検討してきたとおり、法解釈適用方法論の観点からすると、法の趣旨・目的を考慮する点では同じであるが、その内容や法的性格の点では、目的論的限定適用と目的論的制限として区別されるべきものであると考えられる。このことは、小貫裁判官の意見と多数意見との違いに関する千葉裁判官によるこれまた的確な整理の中から、読み取ることができる。 千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、前記のとおり「解釈により不文の消極要件を作ることにもなること」を指摘しているが、その前の文章では、次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、千葉裁判官は次のとおり述べている(下線筆者)。 他方、千葉裁判官は、多数意見について、次のとおり述べている(下線筆者)。 なお、この叙述からも、千葉裁判官が目的論的限定適用の観点から多数意見の説得力を強めようとしたことを読み取ることができよう。 千葉裁判官による以上の整理からすると、小貫裁判官の意見における目的論的制限は、「租税の画一性と大量処理の観点」から、延滞税の不発生の処理に関して、「全体的な影響」を及ぼすことになるという意味で、税法の目的論的解釈の「過形成」として性格づけることができるように思われる。もっとも、税法の目的論的解釈の「過形成」といっても、前回まで検討してきたものとは異なり、延滞税の不発生という納税者に有利な結果をもたらす「過形成」(納税者に有利な「過形成」)である。 2 延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺に対する立法的対応 では、千葉裁判官の補足意見(目的論的限定適用)と小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、いずれが妥当であろうか。 確かに、目的論的限定適用の方が、目的論的制限に比べて「全体的な影響が少なくて済む点」(千葉裁判官補足意見)で、個別事案の解決のための司法判断としては、妥当であるようにも思われる。 しかし、司法の役割は、個別事案の解決のみに尽きるのであろうか。いやむしろ、司法は、そのような役割に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。そうすることも、三権分立制の下での司法の役割であると考えるところである。 このように考えると、本件当時の延滞税規定(平成28年度税制改正前税通60条・61条)について延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を認め得るか否かあるいは認めるべきか否かが、小貫裁判官の意見の妥当性ないし目的論的制限の許容性を判断する上で、決定的な意味をもつように思われる。 小貫裁判官は、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を、前記Ⅱの2でみたとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている。これらのうち、②の観点は、千葉裁判官が補足意見において目的論的限定適用を理由づけるために依拠した観点(前記Ⅱの1参照)と基本的に同じものといってよかろう。 したがって、小貫裁判官が意見において延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺の存在を指摘するに当たって、決定的な意味をもったのは、前記の①の観点であると考えられる。この観点は、以下でみるとおり、延滞税の根本的な存在意義ないし終局的な趣旨・目的に照らして極めて重要であり、決して等閑視すべきものではない。 本判決においては、多数意見も少数意見も、延滞税の趣旨・目的を「期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すこと」(多数意見)として捉える点では、一致している。ただ、このような趣旨・目的は、いわば「中間的な趣旨・目的」であって、「終局的な趣旨・目的」は申告納税制度の適正な実施の確保にあるとみるべきである。 前記の①における法定期限内の納税の事実という「厳然として存在した」(小貫裁判官意見)事実を、延滞税の課税上なかったことにするとすれば、そのような「フィクション」(同)は、申告納税制度に対する納税者の信頼を大きく損ない、同制度の適正な実施を阻害することになるといっても過言ではなかろう(次回「ちょっと一息:還付金カンプ(フ)?!」も参照)。 立法者としては、そのような事態が現実のものとなることは阻止しなければならない。その意味で、平成28年度税制改正における延滞税の計算期間等の見直し(税通61条2項。財務省「平成28年度税制改正の解説」867頁以下参照)は、適切な立法的対応といえよう。   Ⅳ おわりに 以上を要するに、小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、延滞税規定の目的論的限定解釈(多数意見)や目的論的限定適用(千葉裁判官補足意見)に比べ、本件における納税者の救済を図るにとどまらず、更に一歩踏み込んで、目的論的限定解釈の「過形成」によって、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を補充し、延滞税の発生要件を適正化し、もって申告納税制度の適正な実施を確保しようとしたものとして、妥当な考え方であるといえよう。 しかも、本判決は事例判決ではあるが、小貫裁判官の意見は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」が許される場合を明らかにしたものとして、より広い射程を有すると考えるところである。 (了)

#No. 328(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/07/25

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例76(贈与税)】 「「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」を適用して申告したが、申告期限までの担保提供を失念したため、納税猶予が認められなかった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例76(贈与税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除(措法70の7) 円滑化法に基づき都道府県知事の認定を受けた中小企業者の代表権を有している受贈者が、先代経営者である贈与者からの贈与によりその会社の非上場株式を取得してその会社を経営していく場合には、その後継者が納付すべき贈与税のうち、その株式等(一定の部分に限る)に対応する贈与税全額の納税が猶予され、先代経営者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税の納付が免除される。 《贈与税の納税猶予制度の流れ》 ◆贈与税申告と担保提供(贈与の年の翌年3月15日まで) この特例の適用を受ける場合には、贈与税の申告期限(贈与の年の翌年3月15日)までに、特例の適用を受ける旨を記載した贈与税申告書及び一定の書類を提出するとともに、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を提供しなければならない。この担保提供については、特例の適用を受ける非上場株式等の全部を担保として提供すれば、納税猶予額及び利子税額に見合う担保提供があったものとみなされる。 ◆納税猶予期間中の取扱い 贈与税の納税猶予の特例は、後継者が事業を承継することを条件に認められているものであるため、贈与税申告期限後5年間は、経営承継期間と定められ、申告期限の翌日から1年ごとに、所轄税務署に「継続届出書」を、都道府県知事に「年次報告書」を提出することが義務付けられている。 経営承継期間経過後も猶予税額免除となるまで納税猶予の要件を満たし続ける必要があるため、都道府県知事への報告義務はなくなるが、3年ごとに所轄税務署に「継続届出書」を提出することが義務付けられている。 ◆猶予税額の免除 贈与税の納税猶予の特例の適用を受けた場合において、贈与者が死亡した場合等には、一定の期間内に「免除届出書」又は「免除申請書」を所轄税務署長に提出することにより、猶予税額の全部又は一部が免除されることになる。 ◆納税猶予期限の確定と猶予税額の納付 贈与税の納税猶予の適用を受けた場合において、次に掲げる事由に該当することとなった場合には、納税猶予の期限が到来し、その時点での猶予税額の全額と申告期限の翌日から納税猶予期限までの期間に相当する利子税を、その事由が生じた日から2ヶ月以内に納付しなければならない。       (了)

#No. 328(掲載号)
#齋藤 和助
2019/07/25

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第40回】「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第40回】 「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を 取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」   公認会計士・税理士 菊地 康夫   Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、いわゆる「中小企業経営強化税制」について、「別表6(24) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(※1)の記載の仕方を採り上げる。 (※1) 平成31年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改正され、一部変更の上、この別表は6(22)から6(24)に番号が変更となった。   Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度は、青色申告を提出する法人が、指定期間内(平成29年(2017年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間(※2))に、中小企業等経営強化法の認定を受けた「経営力向上計画」に基づいて、一定の設備(以下「特定経営力向上設備等」という)を新規取得し、指定事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、即時償却又は取得価額の10%もしくは7%(※3)の税額控除ができる制度である。 (※2) 平成31年度の税制改正において、本制度の適用期限が平成31年3月31日から2年延長されるとともに、特定経営力向上設備等に働き方改革に資する設備等(例えば、工場等の休憩室等に設置される冷暖房設備等や作業場等に設置されるテレワーク用PC等)が含まれることが明確化された。 (※3) 資本金3,000万円以下の法人(特定中小企業者等という)については10%、資本金3,000万円超1億円以下の法人については7%となる。 要件及び対象となる設備をまとめると、以下のようになる。 ※その他の要件としては、生産等設備を構成するものであること(例えば事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備等は対象外)、国内への投資であること、中古資産・貸付資産でないこと等がある。 なお、税額控除限度額は、「中小企業者等が機械等を取得した場合の税額控除」、「特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の税額控除」の規定による税額控除額と併せてその事業年度の法人税額の20%とされ、税額控除限度超過額は1年間の繰越しができることとされている。 本制度の詳細については、中小企業庁ホームページを参照のこと。   Ⅲ 「別表6(24)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成31年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 「法人税額の特別控除額の計算」 「翌期繰越税額控除限度超過額の計算」 〔機械設備等の概要〕欄 (了)

#No. 328(掲載号)
#菊地 康夫
2019/07/25

平成31年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】「中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し」

平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸     [2] 中小企業者向け租税特別措置における大企業の範囲の見直し 租税特別措置法では、中小企業者向け租税特別措置が設けられている。 例えば、研究開発税制や所得拡大促進税制について、中小企業者向けの措置は、適用要件が緩和され、税額控除額も拡大される。また、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制等については中小企業者のみに適用される。 また、連結納税では、連結親法人が中小企業者(連結納税の場合、「中小連結法人」という)に該当する場合に、連結グループ全体で中小企業者向けの研究開発税制や所得拡大促進税制を適用することが可能となり、中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制等については「中小連結法人」に該当する連結法人のみに適用される。 この中小企業者(連結納税の場合は、「中小連結法人」)の範囲について、みなし大企業の判定において、大規模法人に次の法人を加えるとともに、その判定対象となる法人の発行済株式から自己株式を除外することになった。 平成31年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度に適用される単体納税の中小企業者又は連結納税の中小連結法人の範囲は、それぞれ以下のとおりとなる(平成31年所法等改正法附則1、48)(注)。 (注) 「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構を大規模法人から除外する」という改正は、平成31年4月1日以後に終了する事業年度又は連結事業年度から適用される(平成31年所法等改正法附則1、49、66)。 なお、住民税の中小企業者向けの租税特別措置におけるみなし大企業の判定についても同様の措置となる。   1 単体納税における中小企業者の範囲 中小企業者とは、次に掲げる法人をいう(措法42の4⑧七、42の6①、措令27の4⑫、27の6①)。 ① 資本金の額が1億円以下の法人 ただし、次に掲げる法人を除く。 また、「大規模法人」とは以下の法人をいう。 なお、大規模法人から中小企業投資育成株式会社(中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、被災代替資産等の特別償却、中小企業防災・減災投資促進税制の場合は、「中小企業投資育成株式会社」及び「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構」)は除かれる(措令27の4⑫、27の6①)。 ② 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 なお、中小企業者に該当する場合でも、適用除外事業者(平成31年4月1日以後に開始する事業年度において、当事業年度開始日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人)は、中小企業者に係る各租税特別措置は適用できない(措法42の4⑧八)。 [ケース1] 親法人の資本金が1億円以下のケース(単体納税) [ケース2] 親法人の資本金が1億円超のケース(単体納税) [ケース3] 親法人の資本金が5億円以上のケース1(単体納税) [ケース4] 親法人の資本金が5億円以上のケース2(単体納税)   2 連結納税における中小連結法人の範囲 連結納税では、連結親法人が中小連結親法人に該当する場合に、連結納税グループ全体で中小企業者向けの研究開発税制や所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法68の9④、68の15の6②)。 また、中小企業者向けの設備投資促進税制は、各連結法人ごとに、連結親法人又は連結子法人で中小連結法人に該当するものに適用される(措法68の11、68の15の5、68の15の4)。 (1) 「中小連結親法人」とは 「中小連結親法人」とは、中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもの又は農業協同組合等のうち、連結親法人であるものをいう(措法68の9④、68の15の6②)。 なお、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度において、当連結事業年度開始日前3年以内に終了した各連結事業年度の連結所得の金額の年平均額が15億円を超える連結親法人及び連結子法人をいう(措法68の9⑧七)。 (2) 「中小連結法人」とは 「中小連結法人」とは、連結親法人が次に掲げる法人である場合のその連結親法人又はその連結子法人(資本金1億円以下のものに限る)をいう(措法68の9⑧六、68の11①、措令39の39⑪、39の41①)。 ① 資本金の額が1億円以下の法人 ただし、次に掲げる法人を除く。 また、「大規模法人」とは以下の法人をいう。 なお、大規模法人から中小企業投資育成株式会社(中小企業投資促進税制、中小企業経営強化税制、商業・サービス業活性化税制、被災代替資産等の特別償却、中小企業防災・減災投資促進税制の場合は、「中小企業投資育成株式会社」及び「一定の事業承継ファンドを通じて出資している中小企業基盤整備機構」)は除かれる(措令39の39⑪、39の41①)。 ② 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人 なお、中小連結法人に該当する場合でも、適用除外事業者は、中小企業者向けの設備投資促進税制は適用できない(措法68の9⑧七)。 [ケース5] 連結親法人の資本金が1億円以下のケース(連結納税) なお、研究開発税制及び所得拡大促進税制は、連結親法人が中小連結親法人(中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもののうち、連結親法人であるもの)に該当する場合に、連結納税グループ全体で中小企業者向けの措置を適用できる。 一方、中小企業者向けの設備投資促進税制は、各連結法人ごとに、連結親法人又は連結子法人で中小連結法人に該当するものに適用される。以下、同じ。 [ケース6] 連結親法人の資本金が1億円超のケース(連結納税) [ケース7] 連結親法人の資本金が5億円以上のケース(連結納税) [ケース8] 連結親法人が資本金1億円以下の法人の子会社のケース(連結納税) [ケース9] 連結親法人が大規模法人(資本金1億円超の法人)の子会社のケース(連結納税) [ケース10] 連結親法人が外国法人(資本金5億円以上の法人)の孫会社のケース(連結納税)   (了)

#No. 328(掲載号)
#足立 好幸
2019/07/25

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第31回】「税制適格ストックオプションの外国での行使益は日本で課税されるか」

国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第31回】 「税制適格ストックオプションの外国での行使益は日本で課税されるか」   税理士 菅野 真美   - 質 問 - 私は以前、日本の会社の役員として日本で経営に従事し、その際に税制適格ストックオプションの付与を受け、条件が満たされた時に権利行使して株式を取得しました。その後、X国に出国し、株式を売却しました。 X国と日本の間では租税条約が結ばれており、X国の居住者が日本の会社の株式を売却したとしても、日本での課税権は生じないとされています。このため、私の場合、日本で所得税の申告をしなくても問題ないでしょうか。   ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷ストックオプションとは ストックオプションは、役員や従業員に対して報酬を給料で払う代わりに、株式を一定の金額で購入する権利を与え、条件が整った場合はその権利を行使して役員や従業員が株式を取得し、市場で売却することによって収入を得ることができるものである。 従業員や役員による努力の結果、会社の業績が上がれば株価が上昇し、譲渡対価という報酬も増大するという役員や従業員側のメリットがある一方、会社側にとっても報酬を支払うのが市場であることから、資金流出を抑えるというメリットがある。 このようなメリットがあることから、ストックオプションを採用する企業が増え、国としてもストックオプションを促進するための税制が整備されている。   ▷ストックオプションに対する課税 ストックオプションの課税の原則は、税制非適格ストックオプションといわれる。税制非適格ストックオプションの場合、ストックオプションの付与時は、課税は生じない。役員や従業員が一定の金額を払い込んで株式を取得、権利行使時の株式の時価と権利行使価額との差額について、原則的には、給与所得課税となる。そして株式を譲渡した場合は、譲渡対価と権利行使時の時価との差額について譲渡所得課税が生ずる。 これに対し、一定の要件を充たす税制適格ストックオプションの場合は、二段階課税ではなく、株式譲渡時にのみ、権利行使価額と譲渡価額との差額について譲渡所得が課税される(措法29の2)。   ▷非居住者が有価証券を売却した場合の取扱い 非居住者は国内源泉所得のみ日本の所得税の納税義務がある(所法5②)。国内源泉所得の範囲は所得税法161条で定められているが、有価証券の譲渡については限定列挙されている(所令281①四・五・六・八)。つまり、法定外の有価証券を非居住者が売却した場合は、たとえ日本に本社のある会社の株式であったとしても、日本で課税されない。 このルールをストックオプションの税制に当てはめていくと、税制非適格ストックオプションの場合は、権利行使益段階では給与所得課税等できるが、税制適格ストックオプションの場合は、日本でまったく課税されなくなることから、税制適格オプションを非居住者が譲渡した場合は、国内源泉所得として日本で課税できるように手当てされた(措令19の3⑭)。 しかし、これは国内法であり、その非居住者の滞在している国との間に租税条約があって異なる取扱いが定められている場合は、租税条約の定めが適用されることになる(所法162)。   ▷OECDコメンタリーによるストックオプション課税の考え方 OECDはモデル租税条約を公表しており、これは主として先進国同士が租税条約を結ぶ場合のひな型である。そのコメンタリーは、租税条約が関わるストックオプション課税がどのような所得になり、課税権はどこの国にあるのかを判断する基準となっている。 例えば、法人の役員に付与されたストックオプションの利益のうち権利行使益(行使時点の時価-権利行使価額)は、株式の譲渡益(譲渡対価-行使時点の時価)と区分してモデル条約16条(役員報酬)が適用されると解釈されている。 つまり、日本の適格オプションの場合であっても国境をまたぐ課税関係を整理する場合は、コメンタリーの解釈に沿って行っていくことが多い。   ▷本件の元となった裁決事例 今回の事例の元となったのは、平成29年8月22日公表裁決である。この裁決例では、税制適格ストックオプションを日本の居住者の時に付与され、行使し、その後、シンガポールに出国して非居住者になった後に保護預り口座から保管口座へ移管した。この場合、課税上はみなし譲渡とされるから(措法29の2④)、権利行使益について譲渡所得として申告を行った後、権利行使益は日星租税協定により日本で課税されないとして更正の請求を行った。しかし、課税庁が更正すべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、納税者は不服であるとして審査請求をした。 争点は、本件みなし譲渡益のうち本件権利行使益について、日本国で課税を受けるか否かである。   ▷納税者の主張は 権利行使益部分については、日本で課税を受けない。なぜなら、みなし譲渡益のうち権利行使益部分についても、所得税基本通達23・35共-6(1)において税制非適格ストックオプションの権利行使益が給与所得でなく雑所得とされていることから、時の経過により内容が変化していると考え、税制適格ストックオプションにおいても権利行使益部分については役員報酬から譲渡所得に変化したと考えるのが自然だからである。 したがって、権利行使益部分も譲渡所得と考え、譲渡があったとみなされた時点で納税者はシンガポールの居住者であり、日星租税協定13条5項又は21条1項により課税権はシンガポールのみにあるから日本で課税されない。 また、日星租税協定がOECDモデル条約を参考に締結されたとしても、みなし譲渡が行われた日においてOECDに加盟していないから、租税協定締結時の協定の解釈を踏襲すべきであり、権利行使益は、国内法において株式の譲渡から生ずる所得として課税されることが文理上明らかだから(措法29の2④)、租税協定13条も同様に適用されるべきである。   ▷審判所の判断は 審判所は納税者の主張を認めなかった。税制適格ストックオプションにおいては、譲渡時に譲渡所得課税が一度だけ行われているが、これは、権利行使益部分の課税権を留保して、課税時期を繰り延べているものであり、所得の種類やどこが課税権を有するかは権利行使益部分とそれ以外の譲渡益部分に分けて判断すべきである。 本事案において、権利行使時点に納税者が日本の居住者であったことから権利行使益に係る日本の課税権を租税条約において制限する規定は設けられていない。したがって権利行使益部分については、日本に課税権があり、15%の税率で分離課税の対象となる。なお、譲渡価額と権利行使時の時価との差額については、譲渡時にシンガポールの居住者であることから、日本に課税権がない。 納税者の主張する時の経過により所得の内容が給与所得から譲渡所得に変化することは法令の根拠を欠くものであり、みなし譲渡時にシンガポールがOECDに加盟していなくとも、コメンタリーに同意しない意見表明を行っていないこと等から、納税者の主張は採用できないとした。   (了)

#No. 328(掲載号)
#菅野 真美
2019/07/25

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第12回】「「寄附者の税負担を不当に減少させないこと」とは」

措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第12回】 「「寄附者の税負担を不当に減少させないこと」とは」   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   - 質 問 - 現物寄附を行った際、取得価額と時価との差額についてのみなし譲渡課税が非課税となるための条件として、現物寄附を受領する公益法人等への寄附が「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」が課されています。 この「寄附者の所得税の負担を不当に減少させ、又は寄附者の親族その他これらの者と特別の関係がある者の相続税もしくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならないと認められること」とは、具体的にどういうことですか。   - 回 答 - 租税特別措置法施行令第25条の17第5項第3号に規定する「公益法人等に対して財産の贈与又は遺贈をすることにより、当該贈与若しくは遺贈をした者の所得に係る所得税の負担を不当に減少させ、又は当該贈与若しくは遺贈をした者の親族その他これらの者と相続税法第64条第1項に規定する特別の関係がある者の相続税若しくは贈与税の負担を不当に減少させる結果とならない」かどうかについては、以下の①~⑤のすべての要件を満たす場合には、充足していると判断されます(措令25の17⑥)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 寄附者やその親族関係者が公益法人等から特別の利益を受けている場合には、寄附した財産が実質的には従前と同様に寄附者に支配されているにもかかわらず、財産の移転に対して何ら課税がなされないこととなり、課税の公平性上問題があります。したがって、このような場合には寄附者に対してその寄附に対する譲渡所得税を課するとともに、財産を寄附された法人に対しても贈与税を課すこととされています(相法66)。 ただし、所得税、相続税、贈与税を不当に減少させる結果となるかどうかの判断については、今後発生しうる概念をも含むものであり、難しいものがあります。 そこで、租税特別措置法施行令第25条の17第6項に掲げる5つの事項をすべて満たす場合には、逆に不当に減少する結果とならないと判断するとされています。 この「5つの事項」とは、以下に掲げる事項です。 ① その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その理事、監事、評議員その他これらの者に準ずるもの(以下「役員等」という)のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(以下「親族等」という)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも3分の1以下とする旨の定めがあること。 (イ) 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者 (ロ) 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの (ハ) (イ)又は(ロ)に掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの (ニ) 当該親族関係を有する役員等及び(イ)から(ハ)までに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第2条第15号に規定する役員又は使用人である者 (1) 当該親族関係を有する役員等が会社役員となっている他の法人 (2) 当該親族関係を有する役員等及び(イ)から(ハ)までに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第2条第10号に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号に規定する同族会社に該当する他の法人 ② その公益法人等に財産の贈与若しくは遺贈をする者、その公益法人等の役員等若しくは社員又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。 ③ その寄附行為、定款又は規則において、その公益法人等が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めがあること。 ④ その公益法人等につき公益に反する事実がないこと。 ⑤ その公益法人等が当該贈与又は遺贈により株式の取得をした場合には、当該取得により当該公益法人等の有することとなる当該株式の発行法人の株式がその発行済株式の総数の2分の1を超えることとならないこと。 ①は、いわゆる「運営組織の適正性」と呼ばれるものです。措置法40条通達18において、さらなる詳細の条件が示されています。 ②は「特別の利益供与の禁止」と呼ばれるものです。措置法40条通達19において、さらなる詳細の内容が示されています。 ③及び④はその文言のとおり、公益法人等が解散した場合の残余財産が国若しくは地方公共団体又は他の公益法人等に帰属する旨の定めが定款等にあること、及び公益法人等につき公益に反する事実がないことが必要とされています。 ⑤は、公益法人等が自らの意思による場合でなく寄附であったとしても、株式会社の過半数の株式を保有してはいけないというものです。なお、当該株式については、議決権を行使することができる事項について制限のない株式に限られていないことに留意が必要です(措置法40条通達19の2)。   (了)

#No. 328(掲載号)
#中村 友理香
2019/07/25

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第8回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第8回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   (3) 収益の計上額の問題 法人税法22条2項は、無償取引に係る収益の額も益金の額に算入する旨を定めている。その趣旨や実質的な根拠については種々の議論がある。有力な学説は、「収益とは、外部からの経済的価値の流入であり、無償取引の場合には経済的価値の流入がそもそも存在しないことにかんがみると、この規定は、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持し、同時に法人間の競争中立性を確保するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的規定である」(適正所得算出説)と解している(金子宏『租税法〔第23版〕』338頁(弘文堂2019))。 収益とは外部からの経済的価値の流入であり、無償取引の場合には経済的価値の流入がそもそも存在しないことから、収益を計上するとしても、いったいいくらの金額で計上すべきかという問題がある。法人税法22条の2の制定前には、この点に関する基本的な規定が存在しなかったが、資産の無償譲渡の場合にはその時価相当額が収益計上額となり、無償の役務提供に含まれるとされてきた無利息融資の場合には通常の利息相当額が収益計上額になると解されてきた。 判例は、次のとおり、法人税法22条2項について、資産の譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにした規定であると述べる。そして、資産の低額譲渡が行われた場合には、譲渡時における当該資産の適正な価額をもって法人税法22条2項にいう資産の譲渡に係る収益の額に当たると判示する(南西通商株式会社事件:最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決・民集49巻10号3121頁)。 参考として、現行法人税法22条2項を導入した昭和40年の法人税法全文改正の立案担当者は、無償による資産の譲渡と資産の譲受けについて、次のような説明を行っている(吉牟田勲「所得計算関係の改正」税務弘報13巻6号140頁)。 それでは、取引における実際の対価の額が時価と乖離していた場合には、すべてのケースにおいて、その差額を収益の額として計上しなければならないか、一定の事情がある場合には計上を要しないかという問題がある。 この点について、実際の対価の額と通常の対価相当額との間に乖離があった場合に、常に通常の対価相当額を収益の額として擬制しなければならないわけではなく、正常な対価で取引を行った者との公平が根拠だとすれば、例えば、「対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けているか、あるいは、他に当該営利法人がこれを受けることなく右果実相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合」(大阪高裁昭和53年3月30日判決・高民集31巻1号63頁)には、実際の対価の額を収益の額とすることに問題はない、という見解が示されている(中里実ほか編『租税法概説〔第3版〕』160頁〔吉村政穂〕(有斐閣2018)参照)。 上記の場合の一定の事情を収益(法人税法22条2項)の場面で考慮すべきか、損金(法人税法37条等)の場面で(も)考慮すべきかという問題もある。   (了)

#No. 328(掲載号)
#泉 絢也
2019/07/25
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