《速報解説》 東証、2018年3月決算会社までの 「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示分析結果を公表 ~IFRS適用済・適用決定及び適用予定会社で200社超に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月31日、東京証券取引所は、2018年3月期決算会社までの「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の開示内容について分析を行い、その結果を公表した。 IFRS適用済会社、IFRS適用決定会社、IFRS適用予定会社の合計は、2017年6月末(171社)と比較して33社増加し、204社(下記図表の①から③までの会社数の合計)となっており、IFRS適用会社数の増加傾向が見られる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2017年2月)の43ページには、「(3)決算短信(添付資料)の開示事項及び記載上の注意事項」として、次の規定が設けられている。 分析対象会社(3,594社)の分類は、次のとおりである。 出所:東京証券取引所の「『会計基準の選択に関する基本的な考え方』の開示内容の分析」の5~7ページをもとに作成。 「④IFRS適用に関する検討を実施している会社」において、最も多く挙げられていた検討事項は「マニュアル・指針の整備」(47社)である(15ページ)。 (了)
2018年8月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.279を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.67- 「来年度税制改正の課題」 -所得相応性基準の議論- 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 平成29年度与党税制改正大綱には、移転価格税制の分野で、「BEPSプロジェクトで勧告された所得相応性基準の導入等必要な見直しを検討すること」とされている。さらに、続く平成30年度与党税制改正大綱においても、所得相応性基準については「諸外国の制度や運用実態等を踏まえて検討を進めること」と記載された。 「所得相応性基準」とは、無形資産の移転価格に係るルールであり、移転時に成功するかどうか予測が難しい「評価困難な無形資産(HTVI:Hard-To-Value Intangibles)」について、事後の取引結果を用いて価格の事後調整を可能とするというものである。 * * * 本年4月には、経済産業省の委託調査報告として「BEPSプロジェクトを踏まえた移転価格税制及び各国現地子会社等に対する課税問題に係る調査・研究事業」(2018年2月、EY税理士法人)が公表された。 報告書には、移転価格税制における無形資産の取扱い等に関する調査や日本企業が進出先国で抱えている課題分析などの調査概要、調査結果などがまとめられている。今後の移転価格税制の見直しに当たり、日本企業の海外展開を阻害しないよう、特に無形資産の取扱いを中心に実務上の課題や論点等の整理をしたものである。 この報告書に基づいて、企業関係者や筆者の集まる会で、以下のような意見が出された。 ◆ BEPSの議論・理屈は尊重するが、実務の各論になると詰めるべき点も多く、とりわけ企業の事務コストへの配慮が必要である。 ◆ 所得相応性基準を導入している米国では「伝家の宝刀」として使われており、発動例はほとんどないのではないか。 ◆ ドイツではエグジット・タックス(EXIT TAX)とも呼ばれているが、無形資産の移転時における譲渡益課税の実例はあるものの、遡って課税された実例はないのではないか。 ◆ 取引後の結果を見て対価を修正するという後知恵的側面や独立企業原則との整合性という問題もあることから、広範囲かつ具体的条件を備えた基準の例外規定を設け、その適用を適正な対価から顕著に乖離している無形資産取引に限定することが望ましい。 などである。 * * * この制度をわが国が導入する意義としては、企業価値が無形資産化する中で、無形資産取引も増加し、それを一定の基準により客観的に評価できるようにすることは、納税者・税務当局双方にとって利益につながるということだろう。 今後、年末に向けて十分な検討、経済界との対話が必要と思われるが、わが国企業が、無形資産の価値を改めて認識することの絶好の機会になれば、意味があると考える。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第48回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ② 合併の1ヶ月前のリストラと従業者引継要件の判定 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)94頁では、「合併の直前」と規定されていることから、合併の直前の従業者を引き継げばよいのであって、合併の1ヶ月前に退職した従業者については引き継ぐ必要はないものとした。そして、合併の直前とは「合併の前日」を指すものとした。 ただし、合併の1ヶ月前に従業者を退職させ、合併の直前の従業者を引継予定の者のみにしてしまえば、容易に従業者引継要件を満たすことができることから、経済合理性もなく、単に従業者引継要件を満たすためだけにリストラを行うことについては、包括的租税回避防止規定(法法132の2)の適用リスクがあるものとしながらも、そのような事案は稀であるとの指摘をしていた。 その理由として、当時は、以下のように解説をしていた。 (ⅱ) 現在の私見 このような解説を行った理由は、ヤフー、IDCF事件が公表される前であったことから、経済合理性基準により包括的租税回避防止規定を検討する事案が多かったからである。ただし、その後、両事件により、制度濫用基準が導入されたため、上記の説明をやや変更する必要があると考えている。 すでに本連載で述べたように、従業者引継要件の制度趣旨は、事業単位の移転である。そうなると、合併の1ヶ月前において被合併法人でリストラを行ったとしても、被合併法人から合併法人への事業単位の移転が行われていれば、従業者引継要件の制度趣旨に反しないということになる。 これに対し、前述のように、「合併前におけるリストラにより被合併法人の従業者が不足し、合併が不成立になった場合には事業が成立しなくなる」場合には、従業者引継要件の制度趣旨に抵触すると考えられる。 具体的には、被合併法人で不足した従業者を合併法人やその他のグループ会社から出向させたり、一時的に派遣社員を雇用したりする場合には、一見、被合併法人に十分な従業者が存在する形になっているが、合併が不成立になったら、合併法人等から出向させた従業者は戻ってしまうし、派遣社員で補充して事業を成立させるというのが、長期的には難しい場合も考えられる。そのため、このような場合には、合併が不成立になった場合には事業が成立しなくなるため、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクがあるということになる。 ただし、経済合理性基準により包括的租税回避防止規定を検討したとしても、似たような結論にはなるため、結果として、あまり大きな違いはないということが言える。 ③ 事業規模の縮小と従業者引継要件、事業継続要件 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著106頁では、事業継続要件では、事業の継続のみが要求されており、事業規模の維持までは要求されていないものとした。ただし、同書106-107頁では、事業規模の縮小により、配置転換を行えず、リストラを行った場合には、従業者引継要件に抵触するものとした。 (ⅱ) 現在の私見 事業継続要件が、事業規模の維持まで求めていないのは、条文上、明らかであることから、現在であっても同様に解するべきだと思われる。また、事業単位の移転という制度趣旨を考えれば、たとえ事業規模が縮小したとしても、事業は残っていることから、制度趣旨に反するとまでは断言できない。 そうなると問題になるのが、従業者引継要件である。なぜなら、合併後に、事業規模が縮小する場合において、従業者のリストラが行われたとしても、事業単位の移転という観点からすれば、依然として事業が残っていることから、合併後のリストラを行ったとしても、従業者引継要件に抵触させるべきではないとする意見もあり得るからである。 そのため、平成13年当時では、合併の直前の従業者を合併の直後に引き継いでいればよく、継続雇用は不要であるというのが一般的な考え方であった。そして、法人税法2条12号の8ロ(1)でも、 と規定されており、「継続して従事することが見込まれていること」とは規定されていない。 しかし、平成15年度税制改正、平成29年度税制改正及び平成30年度税制改正により、二段階組織再編成の規定が整備され、 と規定された。 もし、第1次合併により合併法人に引き継がれた従業者が、その後、リストラされても構わないのであれば、第2次合併があった場合の取扱いは不要のはずである。なぜなら、第2次合併を行う前に、該当する従業者を辞めさせても、従業者引継要件に抵触しないからである。 しかしながら、平成29年度税制改正により、主要資産等引継要件における二段階組織再編成の規定は廃止されたものの、従業者引継要件及び事業継続要件における二段階組織再編成の規定が残ったため、二段階組織再編成が行われない通常の事案であっても、組織再編成の直前の従業者を組織再編成の直後に引き継ぐだけでなく、その後の継続雇用も必要であると解される。 このように、現在であっても、事業継続要件では、事業の継続のみが要求されており、事業規模の維持までは要求されていないと解するべきであるものの、事業の縮小により、配置転換を行えず、リストラを行った場合には、従業者引継要件に抵触すると解すべきであると考えられる。 * * * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)
平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第1回】 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 1 はじめに いわゆる公益法人制度改革の一環として、それまで民法34条によって規定されていた公益法人制度が廃止され、代わって2006年5月に一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)が成立し、2008年12月に施行されて以来、一般社団法人の存在が日増しに高まってきている。 これには、事業承継の際に一般社団法人の法人格を利用することにより相続税の回避が可能となるという、主として税務目的によるという側面もあるものと考えられる。すなわち、法人格を有する代表的な組織形態である株式会社と比較した場合、一般社団法人には株式のような「持分」が存在しないため、原則として相続の際に相続税が課されないということに着目されたというわけである。 このような一般社団法人の特徴に着目した租税回避行為の実行可能性については、一般法人法成立直後から指摘され、事業承継に関心を持つ租税実務家の間では常識となっていたところである。当然のことながら、課税庁はそのような動向には気を配っていたようであり、それもあって今般の税制改正で、「目に余る」租税回避行為に対処するための立法措置を採ったものと考えられる。 そこで本稿では、一般社団法人の特徴と事業承継における具体的な利用のパターン、本年度の税制改正の内容と今後の動向について、以下で確認していきたい(※1)。 (※1) なお、本稿の主たる検討対象は一般社団法人であるが、財産を拠出し、それを原資に例えば奨学金を給付するときに利用される一般財団法人についても検討の射程に入っている。 2 一般社団法人の特徴 (1) 一般社団法人とは 社団法人は、共通の目的を実現しようとする人の集まりをいう。同じように法人格を有する株式会社とは異なり、法人の構成員である社員が利益を得ることを目的としていないことが必要である(非営利目的、一般法人法11②(※2))。これに対し、私法人(※3)のもう1つの類型である財団法人は、設立者が拠出した財産(目的財産)を基礎に、定款(※4)に示された設立者の意思を活動の準則とする法人である。 (※2) 法律上、「非営利」という用語は使用されていないが、11条2項で、定款で社員に対する剰余金又は残余財産の分配権を定めることができない旨が規定されている。ただし、当該条項に違反して剰余金又は残余財産の分配を行ったとしても、罰則規定はない。 (※3) 国家的公共の事務を遂行する目的で、公法に準拠して成立する法人である公法人に対する概念で、私人の自由な意思決定による事務遂行のため、私法に準拠して設立される法人をいう。四宮和夫・能見善久『民法総則(第九版)』(弘文堂・2018年)103-104頁。 (※4) 旧公益法人制度においては、「寄附行為」と呼ばれていた。 前述の通り、社団法人は一般法人法の制定により、準則主義(※5)で設立される非営利目的の一般社団法人(※6)へと改組されることとなった。また、一般社団法人は公益認定等委員会・審議会の諮問に基づいてなされる行政庁の認定を受けることにより、公益社団法人となる(公益認定法4、9)。なお、一般社団法人であっても公益目的の事業を行うことに制限はないが、公益性の認定を受けないと原則として税制上の優遇措置は受けられない(※7)。 (※5) 法律の定める要件を満たし、一定の手続きによって公示されたときに法人の成立を認めるものをいう。旧民法34条における公益法人制度やNPO法人(特定非営利活動法人)のような許可主義と異なり、特定の所管庁(主務官庁)による関与がなく自由度が高いのが特徴といえる。四宮・能見前掲(※3)書102-103頁。 (※6) ただし、一般社団法人は非営利事業のみでなく営利事業も行えるなど、事業についての制限は原則として存在しない。 (※7) ただし、法人税法上、非営利型法人に該当する場合には、収益事業から生じた所得に対してのみ課税される(法法2五・九の二、法令3)。 一般法人法制定に伴う一般社団法人の制度導入後における設立数の統計は、以下のグラフの通りである。 〇一般社団法人の設立数の推移 (出典) 法務省「一般社団法人の登記の件数(主たる事務所)」各年版 (2) 一般社団法人の設立 一般社団法人の設立には、まずその構成員である社員(正会員)になろうとする2人以上の者(設立時社員)が、定款を作成し、それに関し公証人によって認証を受ける必要がある(一般法人法10、13)。 設立者が最低でも300万円の財産を拠出する必要がある一般財団法人と異なり、一般社団法人は財産を拠出する必要がなく(一般法人法153②)、非営利目的の法人であるため、出資や持分という概念は存在しない(※8)。 (※8) 代わりに、基金制度がある(一般法人法131~140)。四宮・能見前掲(※3)書163-164頁参照。 その後、設立登記を行うことにより、法人が成立する(一般法人法22)。 (3) 一般社団法人の組織 一般社団法人において必ず置かなければならない機関は、社員総会と理事である(一般法人法60①)。 社員総会は、社員により構成される法人の最終意思決定機関であり(一般法人法35①)、毎事業年度の終了後に招集される定時社員総会と、必要に応じて招集される臨時社員総会がある(一般法人法36)。社員総会においては、理事・監事の選任・解任、計算書類等の承認、定款の変更等の重要事項の決定がなされる(※9)。社員の議決権は平等(1社員1票)であることが原則である(一般法人法48①)。 (※9) ただし、理事会設置の一般社団法人においては、社員総会は、法律に規定する事項及び定款で定められた事項に限り決議することができる(一般法人法35②)。 理事は法人の業務執行機関であるが(一般法人法60、76①)、一般財団法人と異なり、一般社団法人の場合、理事会は必ずしも設置する必要はない(理事会非設置の一般社団法人)。理事は最低1名置けばよく(一般法人法60①)、自然人のみならず法人でも就任できるものと解されている。 一般社団法人が理事会(※10)を設置する場合、理事は3名以上置く必要があり、業務執行権が代表理事(※11)(理事長)に集中する(一般法人法91)。また、理事会設置の一般社団法人の場合、監事も置く必要がある(一般法人法61)。さらに、理事会が置かれる場合、法人の重要な取引については、その決議を経て執行される(一般法人法90④)。 (※10) 業務執行についての意思決定と代表理事・業務担当理事による業務執行の監督を行う(一般法人法90②)。 (※11) 代表理事は登記事項である(一般法人法301)。 監事は、理事が法令違反の行為や定款違反の行為を行わないよう、その職務を監査する(一般法人法99①)。また、負債の額200億円以上の大規模な一般社団法人については、その計算書類及び附属明細書を監査する会計監査人を置く必要がある(一般法人法2二、62)。 一般社団法人の組織を図で示すと以下の通りとなる。 〇一般社団法人の組織・機関 (4) 一般社団法人の解散 一般社団法人は、以下の事由が生じたときは解散することとなる(一般法人法148)。 一般社団法人が解散すると、清算手続きが開始する。 清算手続きにおいて全ての債務を弁済した後、残余財産があるときは、定款の定めに従って処分される(一般法人法239①)。定款に残余財産の帰属先について定めがない場合には、清算法人の社員総会の決議によって処分方法が決定される(一般法人法239②)。この決議により、社員に残余財産を帰属させることもできると解されている(※12)。 (※12) ただし、社員総会の決議によって残余財産を社員に帰属させることについては、非営利性に反するとして立法論として反対する見解もある。四宮・能見前掲(※3)書156頁。 なお、公益社団法人の場合、残余財産を国・地方公共団体、学校法人等の類似の事業を目的とする他の公益法人等に帰属させる旨の定款を定める必要がある(公益認定法5十八)。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q4】 「継続雇用者給与等支給額の範囲」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q4] 平成30年度の税制改正により、継続雇用者給与等支給額の集計方法が変わったと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。 [A4] 継続雇用者の定義が以下のいずれも満たす国内雇用者に変更されました。 ・適用年度とその前事業年度等の期間の各月分の給与等の支給を受けていること ・雇用保険一般被保険者に該当する者に限り、継続雇用制度適用対象者を除く 【解説】 (1) 継続雇用者の定義の見直し 改正前の制度における継続雇用者とは「適用年度及びその前事業年度等において給与等の支給を受けた国内雇用者」をいい(旧措法42の12の5②八)、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険一般被保険者に該当する者(継続雇用制度適用対象者を除く)に係る給与等支給額を集計することとされていた(旧措令27の12の5⑭)。 これまで、継続雇用者給与等支給額を集計するためには、まず継続雇用者の範囲を確定させ、さらに給与等支給額を集計すべき対象者を絞り込むという作業が必要であり、適用年度及びその前事業年度等のそれぞれにおいて一度でも給与等の支給を受けた者を拾い出すという作業は相当な負担になっていたと思われる。 たしかに、判定対象期間の2期にわたり給与等の支給を受けていれば、それぞれを比較することで賃上げの効果を測定することはできるが、実際には、個々人において賃上げが達成できているかという観点ではなく、個別の支給事情を考慮しない平均給与等支給額によって賃上げ効果を測定するような制度設計のもとでは、継続雇用者の定義自体がいささか細かすぎたように思う。 改正後の制度では、継続雇用者とは「適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者のうち一定のもの」とされ、「一定のもの」として「雇用保険の一般被保険者に該当するものに限り、継続雇用制度適用対象者を除く」と定義された(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑬)。 これによって、期の中途で入社・退職した者は継続雇用者に該当しないこととなり、完全に集計から除外することができるようになった。 細かい話ではあるが、改正前の制度では、雇用保険関連の取扱いは「金額の集計」に関連して定められていたのに対し、改正後の制度では「継続雇用者の定義」の中に組み込まれている点に留意が必要である。すなわち、期の中途で雇用保険一般被保険者資格を得喪した者や継続雇用制度の適用対象者となった者も継続雇用者に該当しないこととなり、そもそも集計に含める必要がなくなった。 なお、定義を満たす継続雇用者が存在しない場合、継続雇用者比較給与等支給額はゼロとなり、本税制の適用要件を満たさないこととなる(措令27の12の5㉒)。 (2) 「期間内の各月」の意義と継続雇用者給与等支給額 継続雇用者の定義に含まれている「適用年度及びその前事業年度等の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた」という表現に関し、「期間内の各月」の取扱いについては、適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合には以下のように異なる取扱いが定められているので留意が必要である(特に、みなし事業年度が設定される事業年度付近で留意すべきと考えられる)。 そのうえで、継続雇用者とされた者に係る雇用者給与等支給額が「継続雇用者給与等支給額」とされる(措令27の12の5⑭)。 ① 適用期間の月数と前事業年度等の月数が同じ場合(措令27の12の5⑬一) 適用年度の期間及びその前事業年度等の期間内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 【下図では・・・12ヶ月+12ヶ月=24ヶ月】 ② 前事業年度等の月数が適用年度の月数に満たない場合(措令27の12の5⑬二イ) 適用年度の期間及びその適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度(前1年事業年度等)の期間内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 ここで「前1年事業年度等」は、設立の日以後に終了した事業年度に限られ、適用年度開始の日から起算して1年前の日又は設立の日を含む前1年事業年度等にあっては、その1年前の日又はその設立の日のいずれか遅い日から当該前1年事業年度終了の日までの期間(前1年事業年度等特定期間)が対象となる。 【下図では・・・4ヶ月+8ヶ月+12ヶ月=24ヶ月】 (※1) 前1年事業年度等特定期間=上図の前々事業年度(4ヶ月)+前事業年度(8ヶ月) (※2) 最長でも、適用年度開始の日から起算して1年前の日以降の期間が集計対象となる。 ③ 前事業年度等の月数が適用年度の月数を超える場合(措令27の12の5⑬二ロ) 適用年度の期間及びその前事業年度等の期間のうちその適用年度の期間に相当する期間でその前事業年度等の終了の日に終了する期間(前事業年度等特定期間)内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 【下図では・・・8ヶ月+8ヶ月=16ヶ月】 (3) 継続雇用者比較給与等支給額 (2)により継続雇用者給与等支給額が定められれば、それと対応する形で継続雇用者比較給与等支給額も集計することができる(措令27の12の5⑮)。この場合においても、適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合に応じて、それぞれ以下のように取り扱われるので留意が必要である。 ① 適用期間の月数と前事業年度等の月数が同じ場合(措令27の12の5⑮一) 継続雇用者比較給与等支給額は、継続雇用者に対する前事業年度等に係る給与等支給額とされる。 ② 前事業年度等の月数が適用年度の月数に満たない場合(措令27の12の5⑮二イ) 継続雇用者比較給与等支給額は、以下の算式で求められる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 このような按分計算が求められているのは、前1年事業年度等特定期間に設立事業年度が含まれている場合には、その期間が必ずしも適用年度の月数(上図では12ヶ月)と一致するわけではなく、月数補正が必要になる可能性があるためである。 ③ 前事業年度等の月数が適用年度の月数を超える場合(措令27の12の5⑮二ロ) 継続雇用者比較給与等支給額は、継続雇用者に対する前事業年度等特定期間に係る給与等支給額とされる。 (4) 決算・申告上の留意点 以上説明したとおり、継続雇用者の範囲は厳密には適用年度末まで確定しないものであるが、少なくとも、前事業年度のすべての月にわたり給与等の支給を受けた国内雇用者が最大の母集団となるはずである。ここから、適用年度の中途で退社等により給与等の支給を受けなくなった者等を除外すれば、適用年度における継続雇用者の範囲が確定することになる(適用年度中の新入社員は一切考慮不要)。 とすれば、継続雇用者比較給与等支給額をあらかじめ把握することも、ある程度可能な状況であるといえる(前事業年度のすべての月にわたり給与等の支給を受けた国内雇用者に係る給与等支給額を集計すればよい)。これは改正前の制度において継続雇用者比較給与等支給額の集計も年度末にならないと確定しなかったことと比較して大きな状況変化であると考える。 本税制の適用可否のシミュレーション上、継続雇用者給与等支給額の要件を満たすかどうか事前に検討する上で、集計方法の変更について留意されたい。 (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第7回】 (最終回) 「事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 今回は、特例経営(贈与)承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合の納税猶予額の免除について解説していく。 事業の継続が困難な一定の事由が生じ、特例措置に係る非上場株式等を譲渡等した場合に、納税猶予額の再計算及び免除を受ける場合の手続きは、以下のとおりである。 ① 事業の継続が困難な一定の事由への該当 ↓ ② 非上場株式等の譲渡等 ↓ ③ 免除申請(2ヶ月以内) ↓ ④ 事業の継続(時価の2分の1以下での譲渡等の後2年間) ↓ ⑤ 猶予税額の再計算及び免除 1 事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、事業の継続が困難な事由として政令で定める事由(2を参照)が生じた場合において、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等したときは、その対価の額(対価の額が時価の2分の1以下である場合には、時価の2分の1に相当する金額とする)をもとに贈与税・相続税を再計算し、再計算した贈与税額・相続税額と直前配当等の額(※1)の合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される(措法70の7の5⑫、70の7の6⑬)。 (※1) 直前配当等の額とは、譲渡等の日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等(特例経営承継受贈者及び特例経営承継相続人をいう)及び特別の関係がある者が当該特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額をいう(措令40の8の5⑫、40の8の6⑫)。 (出所)財務省「平成30年度 税制改正の解説」p604より抜粋 2 事業の継続が困難な一定の事由 特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等した場合に、譲渡対価をもとに再計算した相続税額・贈与税額との差額について免除を受けるためには、事業の継続が困難な事由として、以下の(a)~(e)のいずれかに該当する必要がある(措令40の8の5㉒、40の⑧の6㉙、措規23の12の2⑳㉓、23の12の3⑳㉓)。 (※2) 判定期間とは、直前事業年度の終了の日の1年前の日の属する月から同月以後1年を経過する月までの期間をいう。また、前判定期間とは、判定期間の開始前1年間を、前々判定期間とは、前判定期間の開始前1年間をいう(措令40の8の5㉒四イロ)。 (※3) 業種平均株価とは、判定期間、前判定期間又は前々判定期間に属する各月における上場株式平均株価(金融商品取引法第130条の規定により公表された上場会社の株式の毎日の最終の価格を利用して算出した価格の平均値をいい、具体的には、非上場株式等の相続税評価額の算定に用いるために国税庁において公表する業種目別株価をいう)を合計した数を12で除して計算した価格をいう(措規23の12の2㉒、23の12の3㉒)。 3 免除される税額 (1) 譲渡等した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例経営承継受贈者等が特例対象(受贈)非上場株式等の全部又は一部の譲渡又は贈与(以下「譲渡等」という)をした場合(特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外の者に対して行う場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その譲渡等の直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫一、70の7の6⑬一)。 ① 譲渡等の対価の額(対価の額が、譲渡等をした時における譲渡等をした数又は金額に対応する特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 譲渡等があった日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (2) 合併した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が合併により消滅した場合(吸収合併存続会社等が特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外のものである場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その合併の効力発生直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫二、70の7の6⑬二)。 ① 合併対価の額(対価の額が、合併がその効力を生ずる直前における特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 合併がその効力を生ずる日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (3) 株式交換・株式移転した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が株式交換又は株式移転(以下「株式交換等」という)により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合(他の会社が特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外のものである場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その株式交換等の効力発生直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫三、70の7の6⑬三)。 ① 交換等対価の額(対価の額が、株式交換等がその効力を生ずる直前における特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 株式交換等がその効力を生ずる日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (4) 解散した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が解散をした場合において、次の①及び②の合計額が、解散の直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫四、70の7の6⑬四)。 ① 解散の直前における相続税評価額をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 解散の日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 4 免除を受けるための手続き 特例経営承継受贈者等が、上記3(1)から(4)のいずれかに該当することとなった場合において、その贈与税・相続税の免除を受けようとするときは、その該当することとなった日から2月を経過する日(2月を経過する日までの間に特例経営承継受贈者等が死亡した場合には、特例経営承継受贈者等の相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から6月を経過する日。以下、「申請期限」という)までに、免除を受けたい旨、免除を受けようとする贈与税・相続税に相当する金額及びその計算の明細その他の財務省令で定める事項を記載した申請書(免除の手続きに必要な書類その他の財務省令で定める書類を添付したものに限る)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の5⑫、70の7の6⑬、措規23の12の2㉔、23の12の3㉔)。 5 譲渡等の対価の額が相続税評価額の2分の1以下である場合 (1) 猶予税額の再計算 上記3のうち解散以外(譲渡等・合併・株式交換等)で(a)~(c)のいずれかに該当する場合において、特例経営承継受贈者等が、下記(2)の適用を受けようとするときは、申請期限までに担保を提供した場合で、かつ、この特例の適用を受けようとする旨の申請書を納税地の所轄税務署長に提出した場合に限り、再計算対象猶予税額(※4)から上記3(1)から(3)の①及び②の合計額を控除した残額を免除し、①及び②の合計額を猶予中贈与税額・相続税額とすることができる(措法70の7の5⑬、70の7の6⑭)。 これは特例措置の適用を受けた株式についてその相続税評価額の2分の1以下で譲渡、再編行為等が行われた場合、その免除額が過大になることを防ぐため、その譲渡、再編行為等が相続税評価額の2分の1で実行されたものとして、猶予税額を再計算するものである。 (※4) 再計算対象猶予税額とは、以下の金額をいう(措法70の7の5⑬、70の7の6⑭)。 (出所)財務省「平成30年度 税制改正の解説」p606より抜粋 (2) 猶予税額の免除(再免除の特例) 上記(1)により担保提供を行い、猶予中贈与税額・相続税額とされた金額の期限及び免除については、その譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力が発生した日から2年を経過する日において、事業継続の要件に該当するか否かにより異なる。 ① 事業を継続している場合 次の(a)から(c)に掲げる会社が、その譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力が発生した日から2年を経過する日において、その事業を継続している場合として政令で定める場合(※5)には、特例再計算贈与税額・相続税額(※6)に相当する贈与税・相続税については、当該2年を経過する日から2月を経過する日(「再申請期限」という)をもって納税の猶予に係る期限とし、上記(1)により猶予中贈与税額・相続税額とされた金額から特例再計算贈与税額・相続税額を控除した残額に相当する贈与税・相続税については免除され、特例再計算贈与税額・相続税額については納付することとなる(措法70の7の5⑭一、70の7の6⑮一)。 (※5) 「事業を継続している場合として政令で定める場合」とは、2年を経過する日において次に掲げる要件のすべてを満たす場合とする(措令40の8の5㉛、40の8の6㊳、措規23の12の2㉗、23の12の3㉗)。 (※6) 特例再計算贈与税額・相続税額とは、譲渡等の対価の額、合併対価の額又は交換等対価の額に相当する金額を、贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した贈与税・相続税の納税猶予額に、譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力発生日前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者がその特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額を加算した金額をいう(措法70の7の5⑮、70の7の6⑯)。 ② 事業を継続していない場合 2年を経過する日において事業を継続していない場合は、上記(1)において猶予中贈与税額・相続税額とされた金額(再計算対象猶予税額)に相当する贈与税・相続税ついては、上記(2)①の再申請期限をもって納税猶予に係る期限となり、贈与税・相続税及び納税猶予期間に対応する利子税を納付しなければならない(措法70の7の5⑭二、70の7の6⑮二)。 (3) 再免除の申請 上記(2)①の規定により贈与税・相続税の免除を受けようとする特例経営承継受贈者等は、再申請期限までに、免除を受けたい旨、免除を受けようとする贈与税・相続税に相当する金額及びその計算の明細その他の財務省令で定める事項を記載した申請書(免除の手続きに必要な書類その他の財務省令で定める書類を添付したものに限る)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の5⑯、70の7の6⑰、措規23の12の2㉘㉙、23の12の3㉘㉙)。 6 税務署長による調査 税務署長は、上記4、5(1)、5(3)による申請書の提出があった場合、これらの申請書に記載された事項について調査を行い、申請期限又は再申請期限の翌日から起算して6月以内に、免除をした贈与税・相続税の額又は却下した旨及びその理由を記載した書面により、申請書を提出した特例経営承継受贈者等に通知することとされている(措法70の7の5⑰、70の7の6⑱)。 (連載了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 (その1:連結納税と単体納税の取扱いの比較)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [3] 『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 大企業が、前期より所得が多いにも関わらず、一定の賃上げと設備投資を行わなかった場合、研究開発税制など一部の租税特別措置を適用させないという制度が創設された。 これを『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』という。 連結納税においても単体納税と同様に大企業に対する租税特別措置の適用除外措置があるが、連結納税の場合、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 具体的には、連結納税における『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』について、単体納税における取扱いと比較すると次のようにまとめられる。 なお、『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度から適用される。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第5回】 「金融資産②(非上場株式を保有している場合の留意点)」 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外への移住を検討しています。現在、日本の非上場株式を保有していますが、特に問題はないでしょうか。 「国外転出時課税制度」があるというのは聞きましたが、実際にどのように検討していけば良いのか分かりません。 Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が日本の非上場株式を保有しているケースはよくある。この場合、国外転出時課税制度について慎重に検討する必要があるが、実際にどのような順序で検討していくべきか、順を追って説明する。 2 非上場株式も国外転出時課税制度の対象資産 まずは、非上場株式が国外転出時課税制度の対象資産に該当するか検討する必要であるが、これはこれまでの連載でも対象資産の詳細を見てきた通り、非上場株式は「有価証券」であり、国外転出時課税制度の対象資産に該当する。 (※) 国外転出時課税制度の対象資産の詳細については本連載【第4回】を参照。 3 非上場株式の価額が1億円以上かどうか 改めての確認となるが、国外転出時課税制度は一定の居住者が1億円以上の「対象資産」を所有等している場合には、その「対象資産」について譲渡又は決済があったものとみなして、「対象資産」の含み益に所得税が課税される税制である(所法60の2)。 したがって、非上場株式の価額が1億円以上かどうかを次に検討しなければならない。1億円未満であれば出国時に含み益に対して課税されることはないが、1億円以上であれば国外転出時課税制度の対象となるため、非常に重要なポイントとなる。 なお、もし非上場株式以外に対象資産を有している場合には、それらの対象資産すべての価額の合計額が1億円以上であるかどうかを判定するため、注意が必要である。 それでは、非上場株式の価額はどのように計算するのか。 4 非上場株式の価額の判定時期と算定方法 (1) 判定時期 対象資産の合計額が1億円以上かどうかは、「国外転出の時」又は「国外転出の予定日から起算して3ヶ月前の日」の時点で判定し、次のように確定申告書を提出する時期により異なる。 (2) 算定方法 国外転出時における有価証券等の価額については、原則として、所得税基本通達23~35共-9及び59-6の取扱いに準じて算定する(所基通60の2-7)。上場株式の場合は金融商品取引所の公表する最終価格をもって算定するため非常にシンプルであるが、非上場株式の場合は注意が必要である。 非上場株式の評価方法は下記の通りである。 一般的に非上場株式は(A)(B)によることが難しいため、(C)の方法を適用することになると考えられるが、所基通59-6は次の4条件のもとで、財産評価基本通達の178から189-7(取引相場のない株式の評価)の例により評価するとしている。 相続税法上の算定方法を基本としつつも、上記の通り、いくつか条件があるため、慎重に株価評価を行う必要がある。 5 評価額の合計額が1億円以上だった場合は納税猶予を選択するか検討 上記4で計算した非上場株式の価額(それ以外にも対象資産があればそれらすべてを含めた合計額)が1億円未満であれば、これ以上の検討は必要ない。しかし、1億円以上である場合にはさらに、含み益について譲渡所得の申告・納税を行うか、もしくは納税の猶予を選択するかを検討することになる。 国外転出時課税の申告をする人が一定の手続を行った場合には、国外転出時課税の適用により納付することとなった所得税について、国外転出の日から5年間、納税を猶予することができる(所法137の2①)。また、国外転出の日から5年を経過する日までに届出を行うことにより、最長10年まで延長することができる(所法137の2②)。 したがって、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国予定である場合には、基本的には納税の猶予を選択した方が良いと考えられる。ただし、納税を猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保の提供や納税管理人の選任、さらに毎年所定の届出書の提出が必要になるため、煩雑な事務手続きが必要であることは事前に理解しておく必要がある。 また、納税を猶予しているにもかかわらず、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国できないこととなる場合には、利子税と合わせて納付する必要があるため、その点も留意が必要である。 非居住者となった後に非上場株式を譲渡する場合にも、納税猶予分の所得税額のうち、その譲渡をした部分の金額に応じた所得税について納税猶予の期限が確定するため、譲渡の日から4ヶ月以内に、利子税を併せて納付する必要がある。 つまり、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国するのが確実で、また非上場株式を譲渡する予定がなければ、煩雑な事務手続きは必要になるものの、基本的には納税の猶予を選択した方が良いだろう。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第61回】 「主たる債務の契約書に追記した債務の保証に関する契約書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は福利厚生の一環として社内貸付制度を設けており、貸付時に「金銭借用証書」を従業員から提出してもらいます。 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分については、課税事項には該当しないとのことですが、次のような文書はどうなりますか。 【事例】 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分については課税事項に該当しないが、事例の場合は、消費貸借契約の年月日(2018年7月10日)と保証契約の年月日(2018年7月28日)が異なるため、契約書を追記したことになり、一の文書には当たらず、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当するとともに、第13号文書(債務の保証に関する契約書)にも該当し、それぞれ所定の収入印紙が必要となる。 [検討1] 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分とは 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書とは、金銭借用証書に債務者と保証人が署名押印し、「借受人が返済期限までに返済できない場合は、保証人が全額返済します。」と記載した文書がこれに当たり、主たる債務(消費貸借の元本、利息の返還債務)の契約書に併記された債務の保証契約は課税事項として取り扱わないこととされている。 [検討2] 一の文書とは 「一の文書」とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいい、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問わない。したがって、1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているもの又は2枚以上の用紙が契印等により結合されているものは、一の文書となる。 ただし、一の文書に日時を異にして各別の課税事項を記載証明する場合には、後から記載証明する部分は、新たに課税文書を作成したものとみなされる。 ▷まとめ したがって、事例の場合は1枚の用紙に金銭消費貸借契約と主たる債務の契約書に併記された債務の保証契約が記載されているものの、日付を異にしており、後から記載証明する保証契約については、新たに課税文書を作成したものとみなされることにより、7月10日の作成時には第1号の3文書の契約金額に見合う収入印紙を、7月28日には第13号文書に係る200円の収入印紙の貼付が必要となる。 なお、第1号の3文書の消費貸借契約については債務者が納税義務者となり、第13号文書である保証契約は保証人が納税義務者となる。 (了)