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〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q6】「控除税額及び上乗せ控除税額の計算」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q6】 「控除税額及び上乗せ控除税額の計算」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q6] 平成30年度の税制改正によって、控除税額及び上乗せ控除税額の計算はどのように変更されたのでしょうか。   [A6] ◆控除税額については、改正前の制度では基準年度からの増加額に基づいて計算されていましたが、改正後の制度では前年度からの増加額に基づいて計算することとなります。 ◆上乗せ控除税額については、改正前の制度では前年度からの増加額に基づいて計算されていましたが、改正後の制度では、控除率の引上げが図られています。 この点に関し、中小企業者等については、大企業向け・中小企業者等向けの上乗せ控除制度を選択適用できることとされています。 【解説】 (1) 控除税額の計算 控除税額(税額控除限度額)は、雇用者給与等支給額に係る前年度からの増加額(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額)に対して15%を乗じて計算され、この取扱いは大企業及び中小企業者等に共通である(措法42の12の5①②)。 (2) 上乗せ控除税額の計算 上乗せ控除を受けるための要件を満たした場合には、控除率が引き上げられる(具体的な要件については【Q7】及び【Q8】を参照されたい)。 具体的には、中小企業者等向けの上乗せ控除の要件を満たした場合には、控除率は25%に引き上げられ、大企業向けの上乗せ控除の要件を満たした場合には、控除率は20%に引き上げられる(措法42の12の5①②)。 そして中小企業者等は、任意に大企業向けの税額控除制度の適用を受けることも可能であり、この場合の上乗せ控除率は20%となる(同条項において「前項の規定の適用を受ける事業年度を除く」とあるが、これは大企業向けの制度の適用を受けられることが前提とした表現である)。 この場合には、中小企業者等であっても、大企業向けの適用要件(賃上げの要件及び設備投資の要件)並びに上乗せ控除の要件を満たさなければならない点に留意が必要である(下表参照)。 (3) 上限 調整前法人税額の20%を上限とする(措法42の12の5①②)。 なお、大企業については今回の改正によって、控除上限が10%から20%に引き上げられている。 (了)

#No. 281(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/08/16

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第50回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第50回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ⑧ 非按分型分割 (ⅰ) 平成21年当時の見解 会社法の制定により、平成17年改正前商法における人的分割の制度が廃止され、①物的分割(分社型分割)+剰余金の配当又は②物的分割+全部取得条項付種類株式の取得と整理された。 このうち②については、会社法上、分割の日に、分割法人が全部取得条項付種類株式を取得し、その取得対価として、分割対価資産(分割承継法人の株式に限る)を交付するものとされている(会社法758八イ、763十二イ)。 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)196-197頁では、以下の事例について、按分型要件を満たすことができないことを理由として、非適格分割型分割に該当するものとして紹介していた。 (ⅱ) 現在の私見 しかしながら、税理士法人トーマツ(現 デロイトトーマツ税理士法人)の稲見誠一税理士との共著である『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』245-246頁(中央経済社、平成24年)では、分社型分割を行った後に、全部取得条項付種類株式の取得対価としての分割承継法人株式を交付したものとして取り扱うべきであるとした(※1)。 (※1) 同様の指摘をするものとして、税理士法人プライスウォーターハウスクーパースほか『M&A・企業再編の実務Q&A(第2版)』287-289頁(中央経済社、平成19年)、税理士法人プライスウォーターハウスクーパース『資本取引税務ハンドブック』322-324頁(中央経済社、平成20年)参照。 なぜなら、法人税法上、分割型分割とは、分割により分割法人が交付を受ける分割対価資産(X社株式)のすべてが、分割の日において、分割法人の株主等に交付されている場合に限定されている(法法2十二の九)が、この場合の「交付」とは、剰余金の配当により分配された場合に限定されていることから、全部取得条項付種類株式の取得対価として交付された場合には、上記の「交付」に含まれないからである。 このような解釈の変更は、実務における非按分型分割に対する見解が定着してきたことに伴うものである。 その結果、全部取得条項付種類株式の取得を行った後であっても、分割後に同一の者(親族を含む)が、分割法人と分割承継法人の発行済株式の全部を直接又は間接に保有する関係が継続することが見込まれていれば、100%グループ内の適格分社型分割に該当することになる。 (ⅲ) 現行法上の問題点 分割型分割における税制適格要件の判定において按分型要件が認められた趣旨として、以下のように説明されている(※2)。 (※2) 朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』102頁(日本租税研究協会、平成13年。そのほか、非按分型の税制を入れると、かなり多岐に渡ったところまで手当てが必要だったという点につき、平川忠雄(発言)平川忠雄ほか「企業組織再編税制の仕組みとその活用」38頁税理44巻4号(平成13年)で指摘されている。 この解説は、平成17年改正前商法と現行会社法における違いを意識しながら読む必要がある。現行会社法454条2項2号では、剰余金の配当について内容の異なる2以上の種類の株式を発行しているときは、配当財産の割当てについて株式の種類ごとに異なる取扱いを行うこととすることが認められている。すなわち、平成17年改正前商法では想定されていなかったが、現行会社法では、普通株式1株に対して普通株式1株、優先株式1株に対して普通株式2株を交付するような分割型分割も容認されている。現行法人税法は、これに対応した規定となっていないため、このような分割型分割を行った場合には、按分型要件を満たすことができない(※3)。 (※3) 稲見誠一・佐藤信祐『組織再編・資本等取引の税務Q&A』247-248頁(中央経済社、平成24年)。 これに対し、平成13年当時に想定していたような非按分型分割を、分社型分割+現物分配として取り扱うべきであるとすれば、按分型要件を定めた制度趣旨が空振りとなる。それだけでなく、前述のような種類株式を発行している場合における分割型分割を阻害する要因となってしまっている。そのため、本来であれば、今後の税制改正により按分型要件の見直しを行うべきであると考えられる。 ⑨ 主要な資産及び負債を移転しなくてもよい場合 実務上、同じ工場の中で複数の事業を行っていることがある。このような場合に、一部の事業を会社分割で移転させるときに、当該工場が主要な資産に該当するかどうかが問題となる。 この点につき、拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)240-241頁では、法人税基本通達1-4-8において と規定されていることを根拠として、事業再編計画の一環として、分割承継法人に移転させることができない合理的な理由があれば、主要な資産から除外することができるものとした。 この点につき、朝長英樹氏は、ドイツの独立事業要件に対して、 と批判したうえで、 とされていた(※4)。 (※4) 朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』23頁(日本租税研究協会、平成13年)。 すなわち、平成13年当時において、分割事業とそれ以外の事業の両方のために使用していた資産を移転しない場合であっても、主要資産等引継要件を満たせるように、当時の立案担当者が考えていたことが分かる(※5)。 (※5) 阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎ほか編『企業組織と租税法(別冊商事法務252号)』86頁(商事法務、平成14年)でも、同趣旨の指摘がある。 そういう意味では、主要資産等引継要件の判定は、かなり納税者有利に行われているということが分かる。 *   *   * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)

#No. 281(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/08/16

相続税の実務問答 【第26回】「死亡退職金(支給対象者が決まっていない場合)」

相続税の実務問答 【第26回】 「死亡退職金(支給対象者が決まっていない場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 退職給与規程等によって死亡退職金の支給を受ける者が定められておらず、また、実際に誰が取得するのかが決まっていない場合には、各相続人が均等に取得したものとして相続税の計算を行います。 ご質問の場合には、お母様、あなた及び弟さんが800万円(2,400万円の3分の1)ずつ死亡退職金を取得したものとして、相続税額の計算をすることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡退職金 被相続人の死亡により相続人その他の者が、本来であれば被相続人に支給されるべきであった退職金(死亡退職金)の支給を受けた場合(ただし、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます)には、その退職金は、相続により取得したものとみなされて、相続税の課税対象とされます(相法3①二)。 ただし、相続人が支給を受けた死亡退職金については、次の計算式で求めた非課税限度額を超えた場合のみ、相続税が課税されることとなります(相法12②六) (死亡退職金の非課税限度額) 500万円 × 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数 (注1) 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数は、相続の放棄をした者を含み、また、被相続人に養子がある場合には、一定の制限が設けられています(相法15②③)。 (注2) 死亡退職金を取得した者が2名以上いる場合の、各相続人の非課税金額は次のとおりとなります。   2 死亡退職金の支給を受けた者 相続税法第3条第1項第2号の被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の支給を受けた者とは、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいうものとされています(相基通3-25)。 なお、上記ハの扱いは、死亡退職金の実際の取得者が決定するまでの間の仮の計算に過ぎませんので、ハの扱いにより相続税の申告をした後、修正申告を行う時点又は税務署長が更正処分を行う時点で死亡退職金を現実に取得する者が判明しているときには、上記イの扱いが適用されることとなります(「平成27年版相続税法基本通達逐条解説」(野原誠編・大蔵財務協会)77頁)。   3 質問の場合 ご質問の場合、A社には死亡退職金の支給対象者を定めた退職給与規程等は設けられていません。また、死亡退職金はあなたの銀行口座に振り込まれてはいるものの、現時点では、あなたが現実に取得しているのとは認められず、相続人全員の協議も調っていないことから、相続人3名が、800万円(2,400万円の3分の1)ずつ死亡退職金を取得したものとして、相続税額の計算をすることとなります。   (了)

#No. 281(掲載号)
#梶野 研二
2018/08/16

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その1)」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 「連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点(その1)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [4] 連結納税における『電子申告の義務化』と実務上の留意点 平成30年度税制改正により、平成32年4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、事業年度開始時に資本金が1億円を超える「大法人」について、e-Tax及びeLTAXによる電子申告が義務化されることになった(法法75の3、75の4、81の24の2、81の24の3、地法53㊻㊼㊽㊾、72の32①②③④、321の8㊷㊸㊹㊺)。 また、それに伴い、電子化促進のための環境整備を行うことになった。 【電子申告の義務化の対象範囲】 【電子申告の義務化に向けた環境整備】 連結納税では、連結親法人が連結事業年度開始時に資本金が1億円を超える場合、連結申告(添付書類の提出を含む)について、e-Taxによる電子申告を行わなければいけない(法法81の24の2①②)。 電子申告の義務化は、平成32年4月1日以後に開始する連結親法人事業年度から適用されることになる。 なお、電子申告の義務化対象法人(連結親法人)は、平成32年4月1日以後最初に開始する連結事業年度開始日から1月以内(増資により連結親法人が対象法人となる場合、増資により資本金の額又は出資金の額が1億円超となった日から1ヶ月以内、連結親法人が設立により対象法人となる場合、設立日から2ヶ月以内)に、所轄税務署長に対して「e-Taxによる申告の特例に係る届出書」の提出が必要となる(この届出書は、義務化前からすでに電子申告している連結親法人についても提出する必要がある。法規37の15の2①②、平成30年法規改正法附則7)。 連結納税における電子申告の義務化に係るポイントは次のとおりである。 〈1〉 連結法人税及び連結地方法人税の申告については、連結親法人が資本金1億円超である場合、連結グループ全体で電子申告を行う。 連結法人税及び連結地方法人税の申告については、連結親法人が資本金1億円超である場合、連結グループ全体で電子申告を行う(法法81の24の2①②)。 連結親法人が資本金1億円以下である場合、電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 〈2〉 地方税の申告については、その申告主体ごとに資本金が1億円超の場合はeLTAXによる電子申告を行わなければいけない。 逆に言うと、連結法人税で電子申告をしたかしないかに関係なく、地方税の申告については、各連結法人ごとに電子申告が強制されるか否かの判断を行うことになる(地法53㊻㊼、72の32①②、321の8㊷㊸)。 つまり、連結法人税で電子申告をした場合でも、資本金が1億円以下の連結子法人については、地方税の申告について、電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 ただし、一般的に、地方税の申告書は、連結法人税の申告書とともに電子申告に対応した連結納税システムで作成されることから、連結法人税で電子申告をしているにもかかわらず、地方税で書面申告を選択するメリットはないと考えられる。そのため、連結法人税で電子申告する場合、連結子法人の資本金がいくらであっても、地方税について電子申告を選択する場合が多いのではないかと思われる。 また、連結法人税で電子申告をしない場合でも、資本金が1億円超の連結子法人については、地方税の申告について、電子申告をすることになる。 なお、消費税の申告についても、その申告主体ごとに資本金が1億円超の場合は電子申告を行わなければならず、1億円以下の場合は電子申告又は書面申告のいずれかを選択することになる。 〈3〉 連結子法人が連結納税から離脱する場合の『連結法人として単体申告』は、電子申告をしなくてもよい。 連結子法人が法人税法第4条の5第1項又は第2項(第4号及び第5号に係る部分に限る)の規定により連結納税から離脱する場合、離脱日の前日の属する事業年度に係る法人税の申告(連結法人として単体申告)について、電子申告は強制されない(法法75の3⑦)。 (参考) 法人税法第4条の5第2項第4号及び第5号に定める離脱事由 第4号 ⇒連結子法人の解散(合併又は破産手続開始の決定による解散に限る)又は残余財産の確定 第5号 ⇒連結子法人が連結親法人との間に当該連結親法人による連結完全支配関係を有しなくなったこと 〈4〉 添付書類(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書、勘定科目内訳明細書)は、XML形式(XBRL形式)又はCSV形式でe-Taxにより提出することになるが、連結親法人が連結子法人の添付書類をまとめてe-Taxにより提出することになるため、添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換・入力を連結親法人又は連結子法人のいずれで行うのかを決定する必要がある。 この場合、資本金が1億円以下の連結子法人についても、本来、書面申告では不要な作業である添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換・入力の作業負担が生じることになる。 また、添付書類のXML形式(XBRL形式)又はCSV形式への変換を会計システムから行う場合は、連結親法人又は連結子法人の会計システムの改修が必要となるが、そのコスト負担を連結親法人又は連結子法人のいずれが行うのかについても問題が生じる。 (了)

#No. 281(掲載号)
#足立 好幸
2018/08/16

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第5回】「外国子会社に対する資金提供」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第5回】 「外国子会社に対する資金提供」   弁護士 木村 浩之   [Q] 多国籍企業グループの親法人である当社は、国外の子会社に対して追加の運転資金を提供することを検討しています。増資による方法と融資による方法が考えられますが、課税上の観点から、どのような点に留意すればよいでしょうか。 [A] 増資などの資本取引から生じる所得(配当)と融資などの貸借取引から生じる所得(利子)については、一般に課税上の取扱いが異なります。いずれが有利であるか不利であるかは、関係する国の税制や租税条約にもよります。そこで、どのような方法で資金提供するかについては、これらを総合的に検討して分析することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 企業グループでは、運転資金を外部から調達するのではなく、内部で供給することがある(これをグループファイナンスという)。この際、一般的な資金供給の方法として、増資などの資本取引、あるいは融資などの貸借取引のいずれかを利用することが考えられる。 この点、各国の国内法では、通常、資本取引から生じる所得(配当)と貸借取引から生じる所得(利子)については、課税上の取扱いが異なる。このことから、いずれの方法で資金提供するかは課税上の観点を考慮することが必要となる。   2 配当の取扱い まず、配当については、課税済みの利益を分配するものであり、支払をする法人の側で費用として控除することができないのが通常である。また、配当の支払が国境を越える場合には、支払をする法人の居住地国(配当の源泉地国)において、配当を受領する株主に対する源泉徴収課税がなされることも多い。ただし、この点については、親会社の居住地国と子会社の居住地国との間で租税条約が締結されていれば、子会社の所在地国で源泉徴収課税の減免を受けられる可能性がある。 さらに、株主の居住地国においても、配当に対する課税がなされることが通常である。これにより、同じ配当に対して異なる国がそれぞれ課税をすることで、株主のレベルで二重課税が生じる可能性がある。もっとも、子会社からの配当については、国内法上、一定の要件のもとで減免される可能性があるため、その適用要件を検討することが重要となる。   3 利子の取扱い 次に、利子については、配当と異なり、通常、支払をする側で費用として控除することが認められ、他方、受取をする側で課税の対象にされる。そして、利子については配当のように減免されることも少ないといえる。 このことから、低税率国に所在するグループ法人から他の高税率国に所在するグループ法人に対して貸付金を多用することで、利子の支払による利益の移転を図り、グループ全体における税負担を軽減するという税務戦略をとることが考えられる。ただし、利子の費用控除については、このように利益の国外移転につながることから、国内法によって一定の制限がなされていることも多く、注意が必要である。 また、低税率国に所在するグループ法人で事業資金が必要な場合、現地で直接借入れをするのではなく、高税率国に所在するグループ法人が借入れをして、それを資本金として資金供給することで、全体としての税負担を軽減できる可能性もある。ただし、この場合も、利子の費用控除制限の有無について検討が必要となる。 以上のほか、支払者の居住地国(利子の源泉地国)において源泉徴収課税がなされ得ること、また、それが租税条約によって減免され得ることは配当の場合と同様である。もっとも、利子と配当では適用される税率が異なることや減免を受けるための要件が異なることから、その点についての検討が必要である。   4 その他の資金供給方法 資金供給の方法としては、各国の法制度に基づき、資本取引と貸借取引の中間的なものもあり得る。その課税上の取扱いは各国によって異なり得るため、関係する各国の税制と租税条約を踏まえて、どのように資金を供給するのが課税上有利であるかを検討することが重要である。 例えば、日本法のもとでは、匿名組合契約に基づく匿名組合出資という法形式で資金供給することが可能である。これについては、出資元と出資先における各国の税制と両国間の租税条約の内容を踏まえて最終的な課税関係を判断することになる。 なお、日本における一般的な解釈として、匿名組合分配金については、支払側で費用控除が可能であり、これに利子の費用控除制限は適用されないと解される。非居住者に支払う場合には源泉徴収が必要であるが、これは租税条約によって減免され得る。ただし、どの所得条項が適用されるべきかについては議論の余地がある。   (了)

#No. 281(掲載号)
#木村 浩之
2018/08/16

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第5回】「印象はフレーミングで変わる」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第5回】 「印象はフレーミングで変わる」   公認会計士 石王丸 香菜子   From:数野 正 Sent:August 16, 2018 15:15 To:第1事業部長、第2事業部長、・・・ Cc:経理部長 Subject:8月営業会議のお知らせ ・・・ 今月も、第1事業部・第2事業部合同で営業会議を行います。 8月27日午後3時から大会議室にて実施しますので、よろしくお願いいたします。   *資料1* 第2事業部には、P部門・Q部門・R部門がある。会計システムから出力した部門別損益計算書は次の通りである。 部門別損益計算書 (単位:百万円)   *資料2* 追加データを使って経理部長が作り直した部門別損益計算書は次の通りである。 部門別損益計算書 (単位:百万円)   *  *  *   1 その手術、受けますか? もしあなたが難しい病気になって、主治医から次のように提案されたとしましょう。 成功率90%なら、かなり希望が持てそうな印象ですね。では、次のように提案された場合はどうでしょうか。 そんな怖い手術は受けたくない、と感じる方が多いはずです。 しかし、よく考えてみると、2つの提案は表現が異なるだけで、同じ事象を表しています。事象を表す枠組みが異なるだけで、受ける印象はずいぶん違うものです。 このように、問題の提示の仕方が、考えや選好に不合理な影響を及ぼす効果のことを、と呼びます。 私たちは、日常的な意思決定をする際、フレームされた通りの形で直感的に考えてしまう傾向にあります。自分でよく考えて枠組みを再構成する(=リフレーミングする)ことは手間ですので、提示されたフレームのまま、受け身的に判断してしまうのです。   2 部門別損益計算は財務会計と違うフレームで カズノ君がシステムから出力した部門別損益計算書は、外部への公表を目的とする財務会計のフレームに基づいています。このフレームでは、P部門が赤字という印象を受けますね。 しかし、社内で利用する部門別損益計算は、各部門の業績を評価することを目的としているのですから、この目的に合ったフレームで考える必要があります。そのために、まずは、売上原価と販売費及び一般管理費のデータの中身を調べてみましょう。 ◆売上原価と販売費及び一般管理費の内訳 (単位:百万円) 変動費は、売上高に対応して生じる費用で、固定費は、売上高とは関係なく常に一定額が生じる費用です。固定費は、部門ごとに個別に生じる個別固定費と、各部門に直接結びつけることのできない共通固定費から成ります。共通固定費は、第2事業部全体や本社部門で生じたものです。 各部門の業績評価の第1段階としては、売上高に対応して増減する利益を明確にするため、売上高から変動費だけを差し引いた限界利益(※)を計算します。仮に、この段階で損失であれば、売れば売るほど損が出てしまう(!)ので、この部門からは撤退すべきです。 (※) 限界利益については、筆者が以前に連載した「ファーストステップ管理会計」の【第7回】で解説しています。 次に、固定費を差し引きます。ここでは、各部門の損益を明らかにしたいので、各部門の個別固定費のみを差し引きます。こうして算定された は、各部門に直接結びつけることができるので、各部門の業績を表しているといえます。 管理会計のフレームで考え直すと、P部門は赤字ではありませんね。最初の資料でP部門が赤字に見えたのは、共通固定費や本社費をP部門に多く配賦していたためです。 しかし、各部門の業績評価にあたっては、共通固定費や本社費は考慮すべきではありません。これらは、部門利益の合計で回収できればよいのです。 【上表の続き】 *  *  * ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 問題の提示の仕方が、考えや選好に不合理な影響を及ぼす効果のこと。 ▷ 部門の限界利益から個別固定費を差し引いた後の利益で、部門の業績を表す。 (了)

#No. 281(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/08/16

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第75回】ブロードメディア株式会社「第三者委員会調査報告書開示版(平成30年5月23日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第75回】 ブロードメディア株式会社 「第三者委員会調査報告書開示版(平成30年5月23日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者調査委員会の概要】   【ブロードメディア株式会社の概要】 ブロードメディア株式会社(以下「ブロードメディア」と略称する)は、1996年9月設立、1998年11月事業開始。映像コンテンツの制作、流通、配信を主たる事業とする。連結売上高10,800百万円、連結経常利益81百万円、従業員数405名(数字は、いずれも2018年3月期)。JASDAQ上場。 架空取引による被害を生じた連結子会社の株式会社釣りビジョン(以下「釣りビジョン」と略称する)は1998年3月設立。主として釣りに関する映像コンテンツを制作し、BS、CS放送に配信している。資本金約11億4千万円。売上高5,854百万円、経常利益314百万円(数字はいずれも訂正前の2017年3月期実績)。主な株主はブロードメディア株式会社(51%)、株式会社シマノ、株式会社東北新社。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 ブロードメディアは、2018年1月16日、連結子会社である釣りビジョンの業務委託先企業である株式会社A(以下「A社」という)の代理人弁護士から、2007年から2017年にわたる映像受託制作取引につき、クライアントとのやり取り等を含めた取引全体が架空(以下「本件架空取引 」という)であった旨の報告を受けたことから、同日より1月30日までの間、内部で可能な調査を進め、1月30日付で、「連結子会社の架空取引被害及び当社の平成30年3月期第3四半期決算発表延期に関するお知らせ」を公表すると同時に、社内調査委員会を設置して調査を進め、調査内容を3月14日、4月13日に公表した。 しかし、2017年12月期第3四半期報告書に係る四半期レビュー報告書について、会計監査人である仁智監査法人による結論が不表明であったこと、また、社内調査委員会によるヒアリングや調査を済ませていた内部者より、改めてブロードメディア役員に係る追加調査をすべき旨の申告があり、ブロードメディア役員が架空取引を認識していた可能性に言及されていた点等を踏まえ、より慎重に調査範囲の拡大を行う必要があると判断したことから第三者委員会を設置し、更なる調査を行うこととした。 2 本件架空取引の手口 本件架空取引は、A社代表取締役P氏が、D社等を架空の発注先として、釣りビジョンに対して取引窓口となることを依頼し、架空の映像コンテンツ制作取引を偽装して、A社の資金繰りを改善するために始められたものである。2007年から発覚した2018年1月までの取引金額の総計は120億円を超えるものであり、直近の3年間については年間21億円から27億円に達していた。 A社のP氏が行っていた偽装工作は以下のとおりである(調査報告書41頁以下)。 3 本件架空取引による被害額 ブロードメディアが3月14日に公表した「業績予想の修正及び特別損失の計上に関するお知らせ」において、釣りビジョンの業務委託先に対する未収入金が529百万円であり、その全額を貸倒引当金に繰り入れることで、特別損失として計上することを明らかにした。 なお、平成30年3月期第3四半期決算で一括して貸倒引当金を計上して特別損失として処理をするという会計処理については、前任の会計監査人である有限責任監査法人トーマツより異論が出され、結果的には、ブロードメディアは過年度決算修正を余儀なくされることとなった。 4 架空取引をうかがわせる事実の発覚 調査報告書によれば、A社との取引が架空のものではないかとうかがわせる事実が、2016年以降、何度か発覚している。こうした事実を把握した際に、顧問弁護士、会計監査人といった第三者の意見を聞いたり、A社を介することなく発注元に照会したりといったかたちで事実関係をより詳細に検討していれば、発覚は早くなったはずだが、釣りビジョン経営陣は、そうした検証作業を行うことなく、取引を継続していた。 (1) 2016年4月の口座事件 釣りビジョン取締役管理部長岩崎信夫(以下「岩崎取締役」と略称する)は、2016年4月20日、A社主導の映像受託制作取引に係る複数の発注元からの入金が、同一の金融機関の支店からであることに疑問を抱き、過去の入金をチェックしたところ、釣りビジョンからA社に対して送金をした後に、発注元から釣りビジョンへの支払が行われるという先後関係が判明する。 岩崎取締役は、本件を釣りビジョン代表取締役社長有澤僚(以下「有澤社長」と略称する)に相談し、両名で、ブロードメディア代表取締役社長橋本太郎(以下「橋本社長」と略称する)に報告するが、売掛金の残高確認書について問題がないこと、有澤社長がP氏に対して実在する取引であることを確認することで、結着した。 本件に関し、第三者委員会は、以下のようにコメントしているが(調査報告書66頁)、この見解に関しては、過去の架空循環取引事例を検証すれば、いささか経営陣を庇った表現であると感じる。日ごろの取引と異なる銀行預金口座からの振込入金や本店所在地から遠く離れた金融機関からの振込入金は、取引が偽装されたものであると疑うに足る「不正の端緒」であるというのが筆者の見解である。 (2) 2017年1月の成果物事件 2017年1月16日、有澤社長がA社の納品したDVDを初めて確認したところ、価格に比してクオリティが低いことの疑念を抱き、橋本社長に相談したところ、橋本社長は、価格については有澤社長の個人的な見解であると述べて、相談は終わった。 しかしその後も、納品物のチェックを行っていた有澤社長は、IT系企業のPR映像に不審な点を発見、橋本社長らと協議することとなる。橋本社長は、B社のS氏を呼んで確認を依頼することとした。B社グループとの取引に係る資料一式を受け取ったS氏は、後日、「心配しないで良い」旨の回答を、有澤社長に電話で行った。 (3) 2017年2月のA社税務調査事件 2017年2月7日、釣りビジョン岩崎取締役に対し、税務署からA社の反面調査について依頼があり、反面調査で、A社が、釣りビジョンからA社宛ての請求書を偽造していることが判明した。有澤社長から橋本社長にA社の書類偽造を相談したところ、「不法行為で偽造書類を作って脱税しているのは駄目だ」と指摘され、釣りビジョンからA社への発注上限を10億円に引き下げた。 5 釣りビジョンの各取締役の本件架空取引に関する認識・関与 第三者委員会は、釣りビジョン代表取締役社長有澤僚、同取締役管理部長岩崎信夫、ブロードメディア代表取締役社長で釣りビジョン取締役会長を兼務する橋本太郎、両社の取締役を兼務する嶋村安高(以下「嶋村取締役」と略称する)、ブロードメディア取締役で釣りビジョン監査役を兼務する押尾英明(以下「押尾取締役」と略称する)の5名について、「役員の認識の可能性に関する評価」として、検証している(調査報告書61頁以下)。 その結果、有澤社長については、A社との取引が急速に拡大している状況は、A社の会社規模や映像制作という事業内容から不自然であり、「取締役としては何らかの疑念を抱き、調査を行うことも1つの合理的な判断である」として、本件架空取引の発覚が遅れたことの1つの要因となったとして、釣りビジョンの「取締役として果たすべき職責を全うしたとは言い難い」とした。 また、岩崎取締役についても、釣りビジョンの「管理部門のトップとして本件スキームのような『丸投げ』取引を長年温存してしまったという点に落ち度がある」として、有澤社長同様、釣りビジョンの「取締役として果たすべき職責を全うしたとは言い難い」とした。 一方、釣りビジョンの役員を兼務している3名については、橋本社長については、①取引額が大きくなる過程で釣りビジョン経営陣を通じて、確認すべき取引形態等に対するチェックプロセスが強化できていなかったこと、②子会社である釣りビジョン経営陣に対し不正発見への気構えや意識等を持つなどの啓蒙を怠ったことから、結果としての経営責任は免れないとしたものの、子会社に対する監視業務といった取締役としての果たすべき職責を全うしていないと評価することは困難であるとして、嶋村取締役、押尾取締役とともに、架空性を看過したことが善管注意義務違反とは評価されないと結論づけている。 6 再発防止策 第三者委員会は、すでにブロードメディアが公表している再発防止策を「概ね必要な点を充足している」と評価しながら、独自の原因分析を踏まえて、次の8項目の再発防止策を提言している。   【調査報告書の特徴】 BS放送・CS放送で独自番組を配信する釣りビジョンは、同社サイトによれば500万を超える視聴可能世帯数を誇る、老舗のチャンネルである。2017年3月期の売上高は5,854百万円であったが、そのうち2,742百万円、率にして46.8%は、実際には制作していない映像コンテンツの架空取引に係る売上高だった。 社内調査委員会の調査結果を検証し、社内調査委員会だけでは解明ができなかった「経営陣の認識はなかったのか」、「経営陣が金銭的に利益を得ていないのか」という問題を調査するために、第三者委員会を設置することとしたブロードメディアであるが、こうした疑念を払拭し、過年度有価証券の訂正にこぎつけるまでに、実に、問題発覚から半年の時日を要してしまった。 1 釣りビジョンにおける取締役の辞任 社内調査委員会が調査を行っている最中、釣りビジョンは、3月28日に「代表者変更のお知らせ」というニュースリリースにより、代表取締役社長である有澤僚及び取締役管理部長である岩崎信夫が辞任し、取締役会長橋本太郎が、代表取締役会長兼社長に就任することを公表した。 この役員人事は、本件架空取引による損失の責任はもっぱら釣りビジョンの取締役にあることを言明したものであると評価できるところ、実際には、その後、ブロードメディアは第三者委員会を設置して、親会社であるブロードメディア取締役のうち、釣りビジョンの役員を兼務している者についても、責任の有無を検討することになったわけだが、上述のとおり、結果的には、橋本代表取締役社長、押尾取締役及び嶋村取締役ともに、経営責任の有無はともかく、善管注意義務違反による法的責任が発生するとまでは認められなかったことにより、再度の代表取締役交代という事態には至らなかったものである。 2 会計監査人による四半期レビュー結論の不表明 本件架空取引に関する調査を、社内調査委員会だけで済ませようとしたブロードメディアの思惑が外れた理由の1つが、平成30年3月期第3四半期決算報告に係る四半期レビューで、会計監査人である仁智監査法人との意見対立があったことが考えられる。 ブロードメディアが4月13日に公表した「四半期レビュー報告書の結論の不表明に関するお知らせ」から、仁智監査法人が、結論不表明とした理由を引用しておきたい。 3 B社の対応 調査報告書を読んでいて気になったのが、A社のP氏が架空発注元として名義を借用したB社とその子会社D社である。A社が納品した映像コンテンツのクオリティに疑問を持った有澤社長の相談を受けて、橋本社長がB社グループとの取引内容の確認を依頼したのはB社のS氏(調査報告書29頁では、■■営業局■■■■部長、と役職は黒塗りになっている)であった。 B社については、以下のような記述がある。 上記の記述に加え、調査報告書39頁の「関連する法人」の並び順から、B社が「広告、広報に関する企画及び制作」を行っていると考えられることもあって、B社=株式会社電通ではないかという推測から、電通のニュースリリースを確認したところ、本件架空取引に関しては何ら公表されていなかった。 架空循環取引の偽装発注元として業界大手の名義を利用することは、資金の供給者に信用させるためのよくある手の1つだが、本件架空取引では、B社社員(S氏)や子会社のD社社員(T氏)が、A社P氏による架空取引の継続のために一定の役割を果たしており、まことに老婆心ながら、使用者責任が問われるのではないかという懸念を有するものである。 (了)

#No. 281(掲載号)
#米澤 勝
2018/08/16

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第7回】「相続の効力等の見直し及び特別の寄与」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第7回】 「相続の効力等の見直し及び特別の寄与」   弁護士 阪本 敬幸   前回は遺留分制度の見直しについて解説した。今回は、相続の効力等の見直し及び特別の寄与について解説する。   [1] 相続の効力等の見直し 1 共同相続における権利の承継の対抗要件 現行法の条文上、遺産分割や遺言により法定相続分と異なる権利の取得があった場合に、第三者との関係でどのような法的効果が生じるかは必ずしも明確ではないが、判例が判断を示している。 すなわち、遺産分割により、相続人が法定相続分を超える権利を取得した場合、法定相続分を超える部分を第三者に対抗するためには対抗要件が必要であるとされている(最判昭和46年1月26日)。 遺言の場合は、遺贈による不動産の取得については、登記がなければ第三者に対抗できないとされるが(最判昭和39年3月6日)、相続分の指定による不動産の取得や、いわゆる「相続させる」旨の遺言(遺産分割方法の指定)については、登記無くして権利を第三者に対抗できるとされる(最判平成5年7月19日、最判平成14年6月10日)。 判例が相続分の指定や遺産分割方法の指定の場合に登記を不要とした理由は、相続分の指定や遺産分割方法の指定による権利取得は包括承継であり、第三者との関係は対抗関係とならないと解されるからと思われる。しかし第三者からすれば、遺言の存在を知ることはできず、登記無くして法定相続分を超える権利取得を対抗されるというのは取引安全の観点から問題である。 こうした観点から、遺産分割・遺言のいずれの場合でも、法定相続分を超えて権利を取得した場合には、その法定相続分を超える部分については、登記・登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとする条文が新設された(法案899条の2第1項)。 法定相続分を超えて取得される権利が債権の場合、債権譲渡の対抗要件は譲渡人から債務者に対する通知(第三者対抗要件としては確定日付ある通知であることが必要)又は債務者の承諾であるから(民法467条)、対抗要件を具備するためには、共同相続人全員から債務者に対する通知又は債務者の承諾が必要となる。しかし、必ず共同相続人全員による通知を要求すると、一部の相続人が通知に反対してしまうと対抗要件を具備することができなくなってしまう。 そこで、法定相続分を超えて権利を取得した相続人が、遺言の内容(遺産分割の場合には遺産分割の内容)を明らかにして、債務者に対して法定相続分を超えて権利を取得した旨を通知すれば、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとみなすこととされた(法案899条の2第2項)。 2 相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使 判例上、遺言により相続人の1人に対し相続債務を全て承継させたような場合であっても、そのような相続債務についての相続分の指定は、債権者の関与なくされるものであるから、相続債権者に対しては効力が及ばず、相続債権者は相続人全員に対し、各相続人の法定相続分に従った相続債務の履行を求めることができるとされている(最判平成21年3月24日)。最判平成21年3月24日を受けて、同最判と同様の内容の条文が定められた(法案902条の2本文)。 もっとも、最判平成21年3月24日は、遺言に関与できない相続債権者が遺言によって害されないようにする趣旨であるから、相続債権者が遺言により指定された相続分に応じた債務承継を承認するのであればこれを否定する必要はないため、その旨が定められた(法案902条の2但書)。 なお、遺言がない場合、相続債務が可分債務であれば相続分に応じて当然分割される結果(最判昭和34年6月19日)、債権者は各共同相続人に対し相続分に応じた請求ができるし、相続債務が不可分債務であれば債権者は各共同相続人に対し履行を請求できる(民法430条)のであり、後の遺産分割協議によりこれを一方的に覆すことはできない。   [2] 特別の寄与 現行法上、寄与分は相続人のみに認められており、相続人でない者が被相続人の財産の維持・増加に寄与したとしても、何らの財産の分配を請求することはできない。しかし、いかなる場合でもこのような結論を貫くことは妥当性を欠くため、以下の要件を満たす者(特別寄与者)は、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の請求をすることができる旨が定められた(法案1050条1項)。 特別寄与料の支払について協議が調わずまた協議ができないときは、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月以内かつ相続開始の時から1年以内であれば、家庭裁判所で協議に代わる処分を請求することができる(法案1050条2項)。 家庭裁判所は、特別寄与料を定めるにあたっては、寄与の時期・方法・程度・相続財産の額その他一切の事情を考慮する(法案1050条3項)。 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない(法案1050条4項)。当然だが特別寄与者は相続人ではないから遺留分請求権は有さず、遺産全てが遺贈されていた場合には特別寄与料は発生しない。 相続人が複数存在する場合には、各共同相続人が法定相続分に応じて特別寄与料を負担する(法案1050条5項)。 (了)

#No. 281(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/08/16

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第4回】「不動産の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 鈴木 裕也   ←(前回) | (次回)→   本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第4章として、「不動産」項目を取り上げる。 《第4章》 -不動産- 【第4回】 「不動産の調査」   はじめに 大多数の会社は、事務所、店舗、工場等として不動産を用いたり、不動産を賃貸して収益を上げたりして、何らかの形で不動産を利用している。このように、大多数の会社にとって不動産は会社の事業と切っても切り離せない関係にあるため、通常、M&A取引の買主は、対象会社が所有・賃借していた不動産をM&A取引終了後も有効に利用することができるのか強い関心を有している。 そして、M&A取引において対象会社が所有・賃借しているとされる不動産を承継したものの、後になって対象会社が当該不動産を所有していなかったり、不動産を賃貸する権限のない第三者から賃借していたことが発覚したりした場合には、真の権利者から不動産の明渡しや損害賠償を求められるなどして、買主が大きな損害を被る可能性がある(当該不動産から生じる事業収益が対象会社の収益の大部分を占めていれば、M&A取引で実現しようとした目的自体が達成できなくなってしまう)。 このような事態を未然に防ぐため、法務デューデリジェンス(以下「法務DD」という)では、不動産を調査対象項目とすることが一般的に行われている。 それでは、法務DDにおいて、不動産についてどのような調査が行われているのであろうか。以下では、法務DDにおける不動産の調査手続の具体的な内容を概説する。   1 精査対象資料 「不動産」項目調査資料としては、下表のようなものが挙げられる。   2 調査手続 (1) 対象不動産の確定及び選定 まず、対象会社から所有・賃借する不動産のリストの開示を受けて、対象会社がいかなる不動産を所有・賃借しているか把握する。この際に、対象会社の勘定科目内訳明細書を確認することや、対象会社にヒアリングを行うことも、当該リストに漏れがないかチェックするためには有益である。 その後、対象会社が所有・賃借する不動産について、(2)のとおり調査を進めていくことになるが、対象会社が所有・賃借する不動産の物件数によっては、法務DDの期間及び費用との関係から、調査対象とする不動産を限定することも必要になるケースがある。 対象会社が所有・賃借する不動産は、対象会社の商品を製造する工場のように対象会社の事業収益に密接に関連するものや、事務所等の代替性を有するものまで様々であると考えられるため、買主は、例えば「対象会社の事業収益への影響度」を指標するなどして、法務DD担当弁護士と協議を行い、調査対象とすべき不動産を選定することが考えられる。 (2) 対象不動産の使用権限の分類 以上より、調査対象とすべき不動産を確定及び選定した後、各不動産の調査を進めることになる。法務DDでは、不動産の使用権限の違いに応じて具体的な調査内容が異なるため、以下では、使用権限に応じた具体的な調査方法をそれぞれ説明することにする。 (ア) 対象会社が所有し、自ら利用している不動産 対象会社が所有している不動産については、対象会社から不動産の登記事項証明書(可能な限り最新の時点のものが望ましい)の提供を受けたり、必要に応じて不動産登記事項証明書を新たに取得したりして、対象会社が不動産登記事項証明書上の所有者になっているかを確認する。対象会社が不動産登記事項証明書上の所有者になっていない場合には、対象会社に対してヒアリングを行い、対象会社の所有権の有無を確認することになる。 また、上記所有権の確認と並行して、不動産登記事項証明書の確認や対象会社に対するヒアリングにより、対象会社が所有している不動産に抵当権等の担保物権、地上権、賃借権等の用益権が存在しないか調査する。仮に、不動産に担保物権や用益権が設定されている場合には、対象会社から当該権利設定に係る契約書を入手し、内容を確認することになる。 (イ) 対象会社が所有し、第三者に賃貸している不動産 対象会社が所有している不動産のうち第三者に賃貸している不動産については、上記(ア)の他に、M&A取引実行後の買主の意向に応じて、2つの視点を検討する必要がある。 すなわち、買主が、M&A取引実行後に賃貸借契約を終了させることを望んでいる場合には、賃貸借契約書を入手して、賃貸借契約の期間、買主・賃借人の中途解約権の留保の有無等を確認し、買主が賃貸借契約を終了(あるいは解約)したい時に賃貸借契約を終了(解約)することができるのか検討する必要がある。 他方、買主が、M&A取引実行後も賃貸借契約を継続することを望んでいる場合には、賃貸借契約の期間、賃借人に中途解約権が留保されているのか等契約条件を確認しつつ、第三者の属性(売主との人的関係で賃貸借契約を締結しているのか)、第三者の賃借不動産の用途等を対象会社からヒアリングする等して、M&A取引実行後も賃貸借契約を継続することができるのか検討する必要がある。 (ウ) 対象会社が賃借している不動産 ① 対象会社が賃借している土地 対象会社が賃借している土地については、まず、対象会社にヒアリングを行うなどして当該土地の用途を把握する。特に、借地借家法の適用を受けるか否かを検討する関係上、建物所有目的で土地を賃借しているのか、駐車場などのように建物所有以外の目的で土地を賃借しているのかを把握することが重要である。 次に、当該土地の賃貸借契約書(覚書等の賃貸借契約に関連して締結された書類を含む)を入手して契約内容を確認し、必要に応じて不動産登記事項証明書上の記載内容と照合する。賃貸借契約の内容として確認すべき事項としては、例えば下表の事項が挙げられる。 (※) Change Of Control条項:M&A等で対象会社の支配権に変更が生じた場合に、対象会社の相手方に契約の解除権を付与し、また、対象会社に事前又は事後の通知義務を課す規定を指す。 また、対象会社が賃借している土地に、賃借権に優先する抵当権、質権、留置権及び先取特権といった担保物権が設定されているか確認する。建物所有目的の土地の賃貸借においては(賃借権を登記している場合は別論であるが)、当該土地上に賃借人が所有している建物の登記との先後によって抵当権その他の担保物件に対して対抗できるか否かが決まることから(借地借家法10条1項)、建物の不動産登記事項証明書を確認し、建物の登記の有無・登記の時期を調査する必要がある。 なお、建物所有目的以外の土地の賃貸借においては、賃借権を登記していなければ抵当権その他の担保物件に対して対抗できない(そして、賃借権の登記がなされていることは極めてまれである)ことに留意しておくべきである。 また、建物所有目的の土地の賃貸借においては、上記の他に建物自体の調査も行うことになるが、その場合の調査手続は基本的に上記(ア)と同様であるため割愛する。 ② 対象会社が賃借している建物 対象会社が賃借している建物については、まず、当該建物の賃貸借契約書(覚書等の賃貸借契約に関連して締結された書類を含む)を入手して契約内容を確認する。 賃貸借契約の内容として確認すべき事項としては、上記①の表において掲げた事項と大きく異なるものではないが、この他に、対抗要件との関係で建物の引渡日(もし契約書上不明であれば賃貸借期間の始期)を確認することも必要と思われる。 また、建物については、定期建物賃貸借契約(借地借家法38条)が締結されている場合も多いところ、定期建物賃貸借契約の場合には、賃貸借期間満了時の更新が存在しないことから、普通賃貸借契約の場合に比べて賃借人に不利な内容となっている。そのため、対象会社が賃借している建物に係る契約が定期建物賃貸借契約か否か、その場合に借地借家法38条の要件を具備しているか否かを調査する必要がある。 加えて、賃貸借契約が終了する際に、対象会社がいかなる原状回復を行う必要があるのか、原状回復義務の有無及び範囲を確認しておくことも有益と思われる。 (3) 調査結果の整理 上記を踏まえ、対象会社が所有・賃借する不動産についての調査結果をどのように整理するかは、具体的な案件によって異なる。 当事務所において、複数の店舗を運営する対象会社の法務DDを行った際に、対象会社が賃借する不動産の調査結果を下表の形で依頼者に報告したので、一例として掲載しておく。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 281(掲載号)
#鈴木 裕也
2018/08/16

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第4回】「中小企業経営者のリタイア後の収入源」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第4回】 「中小企業経営者のリタイア後の収入源」   税理士法人トゥモローズ   事業承継案件に携わっていると、先代経営者から「引退後もある程度の収入を得たい」と要望をもらうことがある。これまで述べてきたように、中小企業経営者の場合、引退後も付き合いで様々な支出が想定されるので、当然の要望であろう。そこで今回は、中小企業経営者のリタイア後の主な収入源について確認していきたい。 中小企業経営者の話の前に、まずは一般家庭の老後の収入源について確認する。厚生労働省の国民生活基礎調査(平成29年)によると、高齢者の老後収入のメインは下記表のとおり公的年金等が挙げられ、その構成割合も総所得の約66%に上る。 【高齢者世帯の所得の種類別1世帯当たり平均所得金額】 (出典) 国民生活基礎調査(平成29年)「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」※筆者加工 また、公的年金等の総所得に占める割合が100%である世帯も全体の半分以上となっている。 【公的年金・恩給を受給している高齢者世帯における公的年金・恩給の総所得に占める割合別世帯数の構成割合】 (出典) 国民生活基礎調査(平成29年)「Ⅱ 各種世帯の所得等の状況」 このように、一般家庭においては老後の収入について公的年金等の依存割合が高いことがわかる。中小企業経営者にとっても公的年金等はリタイア後の主な収入源であろうが、一般家庭に比べると収入の種類は多岐にわたる。 そこで、中小企業経営者のリタイア後に想定できる主な収入について列挙し、収入ごとに簡単にその概要を解説する。各項目の詳細については、【第6回】以降に詳細を確認することとする。   1 不動産賃貸収入 現役時代又は引退後に資産運用の一環として投資用不動産を取得していた場合には、その賃料収入は老後の重要な収入源となり得る。 また、経営者所有の土地や建物を同族会社に賃貸しているケースも多々あり、リタイア後も先代経営者がそのまま引き続いて所有している場合には、その賃料収入も大事な収入源であろう。   2 不動産譲渡収入 所有していた不動産を譲渡した場合には、一時に多額の現金収入が見込まれる。居住用不動産を譲渡することは考え難いが、投資用不動産については、利回りやマーケット等を考慮し、手残りが最大になる譲渡のタイミングを図る必要がある。 上記1で紹介した同族会社使用の不動産についても、譲渡を検討することもあろう。譲渡先がその会社なのか後継者個人なのかで、税務上の時価の考え方が異なることもあるので、同族間での不動産売買についてはその対価の算定が重要となる。   3 リバースモーゲージ 最近巷を賑わしているのがリバースモーゲージだ。リバースモーゲージとは、住んでいる自宅などの所有不動産を担保にして老後資金を借りることをいう。通常の住宅ローンのような毎月の返済は原則不要で、死後にその不動産を譲渡して一括返済するという手法だ。 金利上昇や不動産価値下落リスクはもちろんあるが、中小企業経営者であった者でも老後の資金繰りに悩んでいるような場合には、1つの手段として提案できる場面もあろう。   4 配当収入 上場株式や投資信託等で資産運用している者は、配当等の継続的な収入を得られる。また、事業承継後も先代経営者が自社株の一部を引き続き所有しているケースも多い。その場合には同族会社からの配当も重要な収入源の1つだ。 なお、上場株式等の配当は申告不要や分離課税等課税方法が選択できるが、同族会社からの配当は総合課税となるため、所得が大きい者には税負担が重くなる。   5 自社株売却 事業承継後も先代経営者が自社株の一部を引き続き所有している場合に、その自社株を譲渡して現金収入を得るケースも想定される。譲渡先としては、その同族会社、後継者、持株会などが考えられる。 それぞれの者で譲渡対価の考え方も異なるため、譲渡の際には、その対価設定を慎重に検討する必要がある。   6 利息収入 中小企業の場合によくあるのが、経営者が会社に対してお金を貸し付けているケースだ。事業承継後においても精算されずに先代経営者の貸付金の残債が残っていることがある。 当該貸付金について会社が利息を支払わないケースも多いが、契約上利息を支払うこととしている場合には、その利息収入が老後の収入源となる。   7 非常勤役員 事業承継後に顧問等の非常勤役員として先代経営者が会社の経営に携わることもあり得る。その場合にはその役員報酬が老後の収入源となる。なお、非常勤役員の場合には、現役時代のような報酬水準では税務上過大役員報酬として否認されるケースもあるので要注意だ。   8 各種年金 冒頭でも述べたが、公的年金等も重要な収入源である。中小企業経営者は現役時代の給与も高額であったことが想定されるため、公的年金の支給額も一般的なサラリーマン出身者より多額になるであろう。 また、現役時代に個人年金に加入していた場合には、その年金収入も引退後に受け取れることとなる。 さらに、退職金を会社の資金繰り等の関係で一時払いではなく退職年金とした場合にも、リタイア後の定期収入となる。なお、この場合には一時払いと年金払いで個人及び法人において課税関係が異なってくるため、慎重に判断する必要がある。 (了)

#No. 281(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2018/08/16
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