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2018年株主総会における実務対応のポイント

2018年株主総会における 実務対応のポイント   三井住友信託銀行 証券代行コンサルティング部 部長(法務管掌) 斎藤 誠   昨年に続き本年の株主総会でも大きな制度改正対応は見当たらない。しかしながら、足元では適用開始後3年目を迎えるコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)の改訂作業が進められており、相談役・顧問制度についての任意開示がこの1月から始まったことなども話題を集めている。加えて総会実務に大きく影響する招集通知の電子提供を可能とする会社法改正についても中間試案が公表されるなど、株主総会実務を取り巻く環境は引き続き変化の只中にあるといえる。 ガバナンスについても「形式」から「実質」への深化に向けた取組みが進められており、株主総会においてもガバナンスへの取組みを積極的にアピールする会社もみられ、さながら一面として株主総会はガバナンスのショールームの様相を示しているといえるだろう。 本年もこの流れは変わることはないと考えられ、以下では足元の環境変化の動向も踏まえたうえで、株主総会における実務対応上の留意点を解説する。 なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断り申し上げる。   1 招集通知関係 (1) 発送前開示 CGコードでも要請されている招集通知の発送前のウェブ開示(補充原則1-2②)については、昨年6月総会で実施した会社は8割に達している。 すでに実施を検討していた会社はほぼ対応したものと考えられるが、昨年も発送日の1日前の日に開示をした会社が最も多い(発送前開示を実施した会社のうち約26%の会社が1日前に開示)ことから、本年も昨年に続きさらに開示日の前倒しが期待されるところである。 (2) 英訳等 CGコードで要請されている議決権電子行使プラットフォームの採用や招集通知の英訳(補充原則1-2④)についても、採用会社は年々増加している。自社のウェブサイト等に英文招集通知を掲載している会社は約3割強までになっている。 議決権電子行使プラットフォームの採用や収集通知の英訳は、海外機関投資家に対する議決権行使促進策としても定着しつつあるといえる。 (3) 記載の工夫 株主が適切な判断を行うことに資すると考えられる情報について、招集通知に適宜記載する取組みも年々採用する会社が増加している。 ① 取締役・監査役候補者の個々の指名理由(原則3-1(ⅴ)) CGコードで要請されている取締役・監査役候補者の個々の指名理由については、すでに約6割程度の会社で選任議案等に記載している状況であり、役員選任議案における一般的な記載事項となっている。具体的な記載箇所のイメージについては全株懇モデル(※1)なども参照されたい。 (※1) 平成29年10月20日付けにて各種全株懇モデルが改正されている。 「各種モデルの改正について」 ② 中期経営計画の説明(原則3-1(ⅰ)、補充原則4-1②) 中期経営計画について事業報告等に記載している会社は3割程度となっている。CGコードでは、株主に対して中期経営計画の説明をすべきとされていることに加え、総会の場でも株主からは今後の業績見通しや中期経営計画の進捗状況を問う質問が増えていることに対応したものである。 なお、記載の箇所としては、事業報告の「対処すべき課題」に記載する事例が多いようである。「対処すべき課題」は今後の事業戦略等についての会社の方針・考え方を記載する部分であることから、中期経営計画の説明にはふさわしいと思われる。 ③ ESGへの取組みに関する説明(原則2-3、補充原則2-3①等)  非財務情報であるESG要素を考慮するESG投資は拡大を続けており、会社のESGへの取組みついて積極的にアピールする会社もみられるようになってきた。 ESGへの取組みを招集通知に記載する場合には、中期経営計画のときと同様に、事業報告の「対処すべき課題」に記載することも考えられるが、トピックスの扱いとして招集通知の末尾に記載する事例もみられる。そのほかSDGs(持続可能な開発目標)への対応に関しても、会社の取組みをアピールする観点から、同様に記載する事例が増えるだろう。 ④ CGコード改訂に関する対応事例 CGコードの改訂に際しての注目論点(※2)としては、政策保有株式への対応(原則1-4)、CEOの選解任についてのガバナンス強化(原則4-3等)、経営陣の報酬決定(補助原則4-2①)、取締役会の構成の多様性(原則4-11)などが注目されている。これらについても事業報告に記載することが考えられる。 (※2) 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」資料等を参照。 実際に事業報告に記載するほか、質問された場合に備え、想定問答を準備しておくことも考えられる。 (4) 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組みについて 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示については、かねてより取組みが進められてきたところ、昨年12月にその方向性に向けた文書が公表され(※3)、その動きにも進展が見られた。 (※3) 経済産業省他「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示に向けた取組について」(平成29年12月28日) その取組みに関連して有価証券報告書に対応する開示府令の改正が実施され(※4)、事業報告に対応する会社法施行規則の改正も改正手続き中であり(※5)、いずれも平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書及び事業報告から適用予定である。 (※4) 金融庁「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(平成30年1月26日) (※5) 「「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集」 改正内容の概要は下記のとおりである。 ① 有価証券報告書関連 ② 事業報告関連 (5) 元号表記について 天皇陛下の退位日が平成31年4月30日に決定し、新たしい元号がまだ決められていない状況において、これを期に招集通知の元号表記を西暦表記に変更することが考えられる。 すでに西暦表記を実施している会社はまだ1割程度であり徐々に増加しているが、今年は西暦表記へ変更する動きが加速することが考えられる。   2 機関投資家対応 昨年5月に日本版スチュワードシップ・コードが改訂され、機関投資家の個別の議決権行使結果の開示がスタートした。昨年は初年度ということもあって個別の議決権行使結果状況が注目され、議案においては反対票の増加もみられたようである。 昨年の議案において相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合には、行使結果開示から反対の理由を分析して投資家との対話(エンゲージメント)の要否について検討することになる(補充原則1-1①)。 そのほか、議決権行使助言会社の議決権行使助言基準の変更は以下のとおり。 (※6) ISS「2018年版 日本向け議決権行使助言基準」 (※7) グラスルイス「2018年 議決権行使助言方針」 いずれも詳細は各助言会社のガイドラインを参照願いたいが、グラスルイスの女性役員を求める行使助言基準については、来年の適用ではあるものの取締役会のダイバーシティ向上を促進するものとして注目を集めている。 今後のCGコードの改訂に際しても女性取締役を置くことについて報じられていることから(※8)、今年の総会では引続き女性役員確保への取組み等について株主の質問が想定されるところである。 (※8) 日本経済新聞2018年3月2日朝刊「首相、女性取締役「1人以上登用促す」企業統治指針で」   3 フェア・ディスクロージャー・ルールへの対応 上場会社又は上場会社の役員・使用人等が未公表の決算情報などの重要情報を証券アナリストなどの取引関係者に提供した場合、提供と同時に、又は提供後速やかに当該情報を会社のウェブサイトに掲載するなどの公表を求めるフェア・ディスクロージャー・ルール(以下、FDルールという)が、本年4月より適用される(※9)。 (※9) FDルールの概要及び対応については以下の資料などを参照されたい。 ▷金融庁「「金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルールガイドライン)」に対するパブリックコメントの結果等について」 ・パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 ・金融商品取引法第27条の36の規定に関する留意事項について(フェア・ディスクロージャー・ルール・ガイドライン) ▷日本IR協議会「情報開示と対話のベストプラクティスに向けての行動指針」(平成30年2月28日) FDルールの導入により、発行者側の情報開示ルールが整備・明確化されることで、発行者による早期の情報開示、ひいては投資家との対話が促進されるという積極的意義があると説明されている。 FDルールの詳細については割愛するが、主には役員や広報・IR担当者が証券アナリストにIR説明をする場面を想定しているものの、株主総会における役員と株主との質疑応答場面などでもFDルールの適用があると考えられる。すなわち、役員と株主とのやり取りにおいて、役員が未公表の決算情報等の重要情報を提供した場合には、速やかに会社のウェブサイト等で公表する必要がある。 しかしながら、従前より株価に影響を与える可能性のある未公表の情報について、株主総会では回答しないことを徹底している場合には、FDルールの適用開始後においても特段の影響はないと考えられる。   4 相談役・顧問制度の開示 本年1月以降に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」から、代表取締役社長等を退任したものが相談役・顧問等に就任している場合に、任意ではあるが、その者の氏名、役職・地位、業務内容及び勤務形態・条件等について記載することが可能となった。相談役・顧問制度については任意開示が始まったこともあって、会社の対応状況が注目されている。 この機会に制度の廃止を公表する会社もみられるところであるが、総会対応としては必要に応じて想定問答に加えておくこととなる。 (了)

#No. 260(掲載号)
#斎藤 誠
2018/03/15

AIで士業は変わるか? 【第6回】「AIにできること、ヒトだけができること」

AIで 士業は変わるか? 【第6回】 「AIにできること、ヒトだけができること」   TAC株式会社 代表取締役社長 斎藤 博明   1 ネアンデルタール人とホモサピエンスの比較 ネアンデルタール人は、今から約20万年から3万年前くらいの間にヨーロッパと西アジアに住んでいた腕の良い賢い狩猟採集者で、石器を使い、火を使って食物を調理していました。 彼らは筋肉質の体格で、原牛やシマ馬や鹿などの大型動物を仕留め、生活していました。彼らもホモサピエンスと同様、氷河期の厳しい環境の中を生き延びました。 ホモサピエンスはネアンデルタール人よりも狩猟や運動能力の面で劣っていましたが、暗い洞窟の中で動物や星座の絵を描いたり、言語を創り出したり、神や死後の世界を想像し、虚構(フィクション)により、神と悪、国家、民族、貨幣、法律、企業、自由、民権、平等などの概念を生み出していました。   2 古代アンデス文明展とホモサピエンス 今年2月、私は上野の国立科学博物館で開催された「古代アンデス文明展」を見学しました。 古代アンデスの人々は、ジャガーを神として崇め、金製のジャガーのマスクを造っていました。森に住むジャガーのスピードや強さの中に神性を見出したのでしょう。 彼らは神と思ったものを金で表現しました。実に見事な芸術品でしたが、残念なことにスペイン人ピサロ一行の手によりインカ帝国は滅ぼされ、多くの金製品が溶かされヨーロッパへと運ばれたため、今はほとんど残っていません。 また、アンデスには「人は死後もミイラとして生き続ける」というミイラ信仰がありました。アンデスの人々はミイラを崇拝し、死者がミイラとして残っていれば、いつまでも子孫を守ってくれると信じていました。そのため、ミイラには服が着せられ、食事が与えられ、生きている家族の一員のように暮らしていました。同展では少女のミイラが三体展示されていました。   3 人の考える“善と悪”の戦い 一方で私は映画「スターウォーズ」を久しぶりに観て、その広大な世界観に感激しました。 邪悪な軍隊で銀河の完全な支配を目指す悪の台頭に立ち向かうレジスタンスの一軍の戦いが画面上で繰り広げられていました。 人間の考えた正義と悪の戦いが、映画の画面上でダイナミックに展開され、映画は、まさに人の創造性が機械によって拡張されていました。   4 美を求める心 また私は、国立近代美術館で熊谷守一の油絵に感動しました。彼は16歳の時に脳卒中で倒れてから、シンプルな線と色の絵を描くようになりました。 小林秀雄は昭和32年、54歳の時に小学生・中学生に向けて、「美を求める心」を次のように語りました。 熊谷守一は自宅の庭で多くの美術作品を生み出しました。私は中でも「猫」や「蟻」の絵が好きです。どう考えてもロボットに絵は描けないし、ロボットは美術を見て感動することもありません。   5 士業に訪れようとする淘汰の波 これまで、会計事務所の仕事の大半は申告書や決算書の作成という「作業」でしたが、今後はそのような作業は人工知能に代替され、会計事務所は企業の財務アドバイスをするコンサル的な付加価値の高い仕事にシフトすると考えられます。 ただし、現在の会計事務所にはコンサルのできるコミュニケーション能力を持つ人材は少ないので、実際に士業に淘汰の波が訪れたとしても、コンサル的分野では圧倒的に人間の方が強いです。 一方で、疲れずに24時間働き、永遠に学習を続け、機械同士で対話ができるという驚くべき強さがAIにはあります。   6 論理的な説得ができないため、コンサルタントに不向きなAI 今は税理士と公認会計士が圧倒的に不足していて、人手不足が深刻化しています。 そのため、自動化は必然的に進み、申告書や決算書の作成といった「作業」はAIによって処理され、会計事務所は企業の財務アドバイザーのような、コンサル的な付加価値の高い仕事へシフトすると考えられます。 コンサル的分野ではクライアント企業の担当者とコミュニケーションをとり、説得する論理的な能力が求められます。ところが、AIには一般常識がないため、コミュニケーション能力が著しく低いのです。 また、論理的な説得力もAIには皆無です。AIは深層学習するため「なぜそういう答えになったのか」を論理的に説明することができないのです。 論理展開が不透明で答えだけのAI。通常のコンピュータプログラムは中身を調べると処理過程がわかります。それでも脳の働きを模した神経回路網を何層にも重ねた深層学習の場合は、そこから「論理」が読めないのです。 「AIがこう言っている」との結論だけでは、相手が納得してくれるアドバイスを贈ることはできません。 かくしてAIには、コンサルタントの仕事は難しいことになります。 AIは記憶力、計算力、分析力は強みですが、人の心を打つような説得力がありません。よってコンサルタントには人間の方が向いています。 会計事務所の「作業」はAIに代替されますが、付加価値の高いコンサルタントの仕事は、人間にしかできない仕事として残るのです。   7 ヒトとAI、どちらが安いか 最後に、ヒトとAIとの代替関係では、「どちらが安いか」という観点は相変わらず重要です。 特に、膨大な開発費が必要なAIの実用化においては、規模の経済の概念が重要です。このため「タスク分析」を十分に行う必要があります。 (了)

#No. 260(掲載号)
#斎藤 博明
2018/03/15

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第12回】「撤退に向けた調査段階で海外派遣者が果たすべき役割」

海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第12回】 (最終回) 「撤退に向けた調査段階で海外派遣者が果たすべき役割」   中小企業診断士 西田 純   市場環境の急激な変化や取引先との関係が作用して、海外子会社を至急売却しなくてはいけない、というような場合を除き、海外事業の整理についてはある程度しっかりした調査を行う必要があります。 具体的には、清算と売却のそれぞれのケースについて、想定される損益及び課税の内訳と、清算も売却もせずに会社を休眠扱いにした場合のメリット・デメリットの比較がそれに当たります。税務会計の専門的な知識も要求されるため、通常は本社の経理部などから専門のスタッフを出張させるケースが多いと思います。 対象子会社が黒字である場合、通常は日本法人たる親会社の税務上の負担を考慮して、利益配当として還流させる資金と清算・売却益として還流させる資金のバランスをどのように考えるかなどの施策が求められるため、ある程度のリードタイムを織り込んだ調査が望ましいと言えます。 この際、現地事業の責任者である海外派遣者と出張者がしっかりとコミュニケーションをとり、税務会計以外の要素によって撤退の手続きが影響を受けないよう配慮しなくてはなりません。 具体的には、従業員との雇用契約、工場や事務所の賃貸借を含む諸契約、生産設備の処分、現地政府との関係、派遣者及び家族の生活基盤の整理などがあります。 以下に、清算を想定した留意点を挙げてみましょう。 (1) 従業員・地元対策 「出張者による撤退に向けた調査が行われている」という情報が従業員の間に伝わると、噂となって従業員の間に不安が広がり、欠勤が相次いだり集団退職につながったりするなど、士気に関わる問題を引き起こしてしまうことがあります。 このため、合弁パートナーや現地の会計責任者などとも従業員対策の重要性を確認し、情報管理を徹底させることが重要です。 また、実際に撤退プロセスに入ることが予想される場合には、雇用契約を意識しつつ転職先の紹介や退職に伴う負担の軽減策などを予め準備し、従業員対策が撤退の足かせにならないよう配慮する必要があります。 何より、それまで会社のために頑張ってくれた現地従業員を解雇することになるわけですから、会社として礼を尽くし、地元社会から後ろ指をさされないための対策をしっかり講じる必要があります。特に合弁パートナーがいる場合は、綿密なコミュニケーションをとって地元対策に遺漏のないよう努めることが重要です。 そうでない場合は、地元政府関係者、取引先、同業者などへ、いつ・どのように話をするのか、以下で触れる契約管理や設備処分なども考慮して段取りを決めなくてはなりません。 (2) 工場や事務所の賃借契約など現地での契約管理 従業員や地元社会への情報漏れが起きる1つのパターンが、工場や事務所の賃借契約に関する業者への事前照会です。 この場合も、合弁パートナーがいればある程度の対策を相談することが可能ですが、そうでない場合も含め、日頃から解約プロセスについてのシミュレーションをしておくなどの準備が望ましいと言えます。 業者に対して解約の手順などを直接確認しやすいのは、入居時または契約の定期更新をした直後であろうと思われます。特に入居時の問い合わせは警戒されにくいので、退去要件について突っ込んだ確認をしておくチャンスです。 (3) 設備の処分 製造業の場合、特に気を遣うのが生産設備の処分だろうと思います。 途上国の場合、中古機械の流通市場が必ずしも整備されているわけではないため、同業者が近くにいて、設備を引き取ってくれる等の支援が期待できると良いのですが、そうでない場合にはスクラップ処分を覚悟しなくてはならないかもしれません。 最近の生産設備はデジタル化が進んでおり、スクラップにする場合でも情報管理の面でデータやソフトウェアの遺漏がないことを確認するようにします。 また、製造工程で薬品や化学物質等を使用していた場合には工場・敷地の汚染などが問題にならないよう、退去前に対策を講じる必要があります。除染証明書がないと会社の清算が認められない、というような場合もありますので、注意するようにしてください。 (4) 許認可その他 清算に向けて、法人登記の取消しや会社解散の届出をすることになりますが、工業団地などの場合を除き、いつまでに何をすれば良いのか情報整備がされていない場合もありますので、前広に確認するようにしましょう。 国にもよりますが、このプロセスにかかる手数料などについても忘れずに合わせて確認しておいてください。銀行口座解約と合わせて、撤退時の資金計画に影響する場合があります。 *  *  * 地元政府からすると、税金と雇用確保の担い手が失われるため、基本的に清算による撤退は歓迎されません。規模縮小でも操業を継続できないか、せめて売却による事業継続ができないのかなど、さまざまな問い合わせがあるものと思われます。政治家やメディアからの圧力を受ける事例もあるかもしれません。 他方で、自由貿易協定や経済連携協定など貿易・投資の自由化に関わる枠組みを持っている国々とは、基本的に自由主義の考え方に基づいて議論ができるため、最低限の下支えはなされているものと整理できます。その場合は比較的フェアな取引ができるのではないかと思われます。 ◆おわりに◆ さて、ここまで1年間にわたり、海外勤務の適任者を選ぶヒントについてお伝えしてきました。 結論としては、「海外勤務ポストだから要求条件はコレ!」と言えるほどの決定的な条件は存在しない、ということになるかもしれません。 むしろ、①本社との連携、②地元社会や合弁パートナーとの関係づくり、③家族との連帯、そして、④トラブル対策に対応できると思われるだけのエネルギーと使命感があれば十分とも言えるでしょう。 これまでのお話が、少しでも皆さんの事業に役立つことを祈ってやみません。 (連載了)

#No. 260(掲載号)
#西田 純
2018/03/15

《速報解説》 事業承継税制の特例制度、適用対象の非上場株式の確認にあたっては現行制度の名称変更にも留意

 《速報解説》 事業承継税制の特例制度、適用対象の非上場株式の確認にあたっては 現行制度の名称変更にも留意   Profession Journal 編集部   平成30年度税制改正において創設される「事業承継税制の特例制度」は、既報のとおり、納税猶予の対象となる非上場株式の範囲拡充や従業員の雇用確保要件の実質的な撤廃、複数人から複数人への承継パターンも適用可能とするなど、事業承継問題を抱える中小企業にとってはぜひ適用を検討したい新制度だ。 そもそも平成21年度改正で創設された現行の事業承継税制は、次の法律で構成されている。 次に、創設される特例制度はその名のとおり事業承継税制の特例的位置づけであり、本稿公開日現在、参議院で審議中の税制改正法案によると、その構成は次の通り。 特例制度を定めた措置法70条の7の5~8は現行の事業承継税制(措置法70条の7~7の4)に比べ複数人への承継パターンなどに対応した複雑な規定となっているものの、概ね現行制度をベースとした構成となっており、例えば現行の事業承継税制(贈与税の場合)では適用対象となる受贈者を「経営承継受贈者」、適用対象の会社を「認定贈与承継会社」としているが、特例制度ではそれぞれ「特例経営承継受贈者」「特例認定贈与承継会社」と定義するなど新旧制度が対照的に理解できる形になっている。 ここで注意したいのが、30年度改正では現行の事業承継税制にも一部用語の見直しが行われているという点だ。具体的には、現行の事業承継税制において、納税猶予の対象となる非上場株式の名称が次のように変更されている。 その上で、事業承継税制の特例制度において、対象となる非上場株式の名称は次のように定義されている。 これらをまとめると、下表のようになる。 もともと現行の事業承継税制が特例措置として創設されたことから、対象となる非上場株式にも「特例」と付けられていたところ、今回のさらなる特例措置の創設により名称に誤解が生じないよう対応を図ったものと思われるが、いずれにせよ類似した表記となっているため、改正後の法令において新旧制度を比較・検討する際は混同しないよう注意が必要だ。 なお、上記の通り創設される特例制度は現行の事業承継税制をベースに設計されたものであることから、その制度を理解するにあたっては、現行制度についてもあらためて理解しなおす必要があるといえよう。 (了)

#No. 259(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/03/14

《速報解説》 ASBJ、マイナス金利下の割引率の取扱いを定めた実務対応報告第34号について当面の間適用を継続するとした取扱いを確定

《速報解説》 ASBJ、マイナス金利下の割引率の取扱いを定めた 実務対応報告第34号について 当面の間適用を継続するとした取扱いを確定   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年3月13日、企業会計基準委員会は、「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い」(実務対応報告第37号)を公表した。 これにより、平成29年12月7日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」で示されていた適用時期(平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで)を改正するためのものである。 なお、実務対応報告公開草案第54号「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(案)」の主なコメントの概要とそれらに対する対応も公表されているので、本実務対応報告の理解に資するものと考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 実務対応報告第34号3項を次のように改正する(2項)。 《現行規定》 《改正》 なお、渡部仁委員が本実務対応報告の公表に反対する意見を述べている(4項)。   Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、公表日(平成30年3月13日)以後適用する。 (了)

#No. 259(掲載号)
#阿部 光成
2018/03/13

《速報解説》 OECD移転価格ガイドラインの改正を受け、移転価格事務運営要領等が改正~グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の簡易な算定方法を追加~

《速報解説》 OECD移転価格ガイドラインの改正を受け、 移転価格事務運営要領等が改正 ~グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の簡易な算定方法を追加~   弁護士 木村 浩之   1 移転価格事務運営要領等の改正 平成30年2月16日付け(ホームページ公表日は2月23日)で、国税庁は、移転価格事務運営要領及び関連する事務運営要領の一部改正を行った。これは昨年11月から12月にかけてパブリックコメントが実施されていたものである。 主な改正点は、①グループ内役務提供取引に係る独立企業間価格の算定方法についての改正、②独立企業間価格や恒久的施設帰属所得の算定に当たっての事前確認手続についての改正である。 本稿では、実質的な取扱い内容の変更である①の点に係る移転価格事務運営要領の改正について解説する。   2 グループ内役務提供取引の問題点 企業は集団(グループ)を形成することで取引コストを削減し、規模の利益を享受することが可能である。このような企業グループでは、独立した単独の企業と異なり、グループの内部での取引が多くみられることになる。そのような取引には売買取引もあれば役務提供取引もある。 企業グループが国境を越えてグループ内で売買取引や役務提供取引をするとすれば、移転価格の観点から、その取引対価を独立企業間価格に設定することが求められる。この点、売買取引については、その取引を把握し、対価設定の要否を判断することが比較的容易であるのに対して、役務提供取引については、その性質が様々であり、そもそも対価設定が必要な取引を把握することが容易ではない場合があり、かつ、仮に取引を把握できたとしても、その付加価値が低い場合には対価設定は煩雑なものとなる。 このようなことから、グループ内役務提供取引に係る対価の設定については、移転価格税制の適用に当たっての判断を容易にするための一定の基準が必要であるとされてきた。   3 OECD移転価格ガイドラインの改正 OECDでは、各国が移転価格税制を執行するに当たっての基本的な考え方を共通にするためのガイドラインを制定している。このガイドラインが平成29年7月に改正され、①どのような場合にグループ内役務提供取引について独立企業間価格の設定が必要となり、また、②どのような場合に低付加価値の役務提供取引として簡易な方法での対価設定が認められるかについての基準が示されている。 具体的には、①については、役務提供を受ける企業が便益を享受しており、独立企業であれば対価の支払がなされるものであるかどうかという一般的な基準が示された上で、親会社が子会社に対して株主としての活動として役務提供がなされる場合(これを「株主活動」という)など、一定の場合には対価設定が不要であることが明確にされている。また、②については、一般に企業が価値を生み出すのに重要でない一定の付随的な役務提供については簡易な算定方法として、実際に役務提供に要した費用に5%を上乗せ(マークアップ)した対価設定が認められるものとされている。 今回の移転価格事務運営要領等の改正は、基本的には、上記のOECDガイドラインの改正との整合性を図るために改正されたものである。   4 株主活動の例示の追加(移転価格事務運営要領3-9の改正) 従前の移転価格事務運営要領でも、どのような場合にグループ内役務提供取引について対価設定が必要となるかについての基準が示されていたが、今回の改正では、OECD移転価格ガイドラインとの整合性を図るために、さらに対価設定が不要となる株主活動の例示が追加されるなどした。 例えば、親会社の上場コスト、子会社株式取得のための資金調達コスト、親会社のコンプライアンスやコーポレートガバナンスに要するコストなどは、仮に子会社が親会社の活動によって何らかの便益を反射的、間接的に享受するものであっても、それは親会社が株主として自己のためになされるものであり、対価設定は不要であることが明確にされた。   5 簡易な算定方法の追加(移転価格事務運営要領3-10の改正) 今回の改正で新たに簡易な算定方法が追加された。すなわち、グループ内で役務提供がなされても、その付加価値が低いとされる一定の場合には、簡易な算定方法として、役務提供に要した費用に5%を乗じた金額を加算した金額をもって独立企業間価格として取り扱うことが認められるものとされた。これは従来の算定方法(ベンチマーキングなどによる独立企業間価格の算定)と選択的であり、企業がいずれか有利な算定方法を選択することができるものとされている。 ある役務提供について簡易な算定方法の適用が認められるためには、①支援的な性質のものであって中核事業に直接関連するものではないこと、②無形資産に関するものでないこと、③重要なリスクに関するものでないこと、④研究開発、製造、販売及び金融等に該当しないこと、⑤同種の役務提供を第三者に行っていないこと(本業としての役務提供ではないこと)といった要件をすべて満たす必要があるとされている。 この改正により、企業にとっては、低付加価値のグループ内役務提供取引について対価設定をする際に、5%のマークアップという簡易な方法での対価設定が認められ、事務負担が軽減することになる。ただし、これは日本側で認められるということであり、そのような5%のマークアップが相手国でも許容されるかについては、相手国の移転価格税制の執行状況を勘案する必要があることに留意されたい。 (了)

#No. 259(掲載号)
#木村 浩之
2018/03/12

《速報解説》 会計士協会、「監査品質の指標(AQI)に関する研究報告」(公開草案)を公表~外部利害関係者や監査役等に向け取組状況を定量情報として示す~

《速報解説》 会計士協会、「監査品質の指標(AQI)に関する研究報告」(公開草案)を公表 ~外部利害関係者や監査役等に向け取組状況を定量情報として示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年3月7日、日本公認会計士協会は、「監査品質の指標(AQI)に関する研究報告」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、上場会社の監査を担う監査事務所が、監査品質の向上に向けた取組を外部に公表する場合や被監査会社の監査役等に説明する場合に用いる監査品質の指標(Audit Quality Indicator:AQI)について検討を行ったものである。 意見募集期間は、平成30年6月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 概要 監査品質は直接的に測定することは困難であるが、間接的ではあるものの監査品質に関連する定量情報をAQIとして示すことにより、監査品質の向上に向けた取組状況に関する説明に具体性が付与されるものと考えられる。 次のような特徴がある。 付録として、「監査品質の指標(AQI)に関する各国の取組」も記載されている。   Ⅲ 監査品質の指標(AQI) AQIには、監査事務所レベルの指標と個々の監査チームの業務レベルの指標がある。 次のことに留意する。 公開草案11ページではAQIの一般的項目が例示されており、AQIの項目について、項目ごとに見出しを付して、(a) 監査品質との関連、(b) 記載例、(c)参考情報を記載している。 また、AQIの項目の候補は下記のようになっている。 (了)

#No. 259(掲載号)
#阿部 光成
2018/03/12

プロフェッションジャーナル No.259が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年3月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.259を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/03/08

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第62回】「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第62回】 「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   3 条文見出しの改正(承前) (2) 「実質所得者課税の原則」と「実質課税の原則」 以下では、条文見出しとその改正が租税法の解釈にいかなる影響を及ぼすか、具体的な租税法条文を参考に考えてみたい。ここでは、所得税法及び法人税法に規定されている「実質所得者課税の原則」を素材に検討を加えることとする。 この規定は、当初「実質課税の原則」という見出しで、昭和28年度税制改正において、旧所得税法3条の2として立法化されたものである(旧法人税法7条の3にも同旨の規定が設けられた。)。 この規定は形式的な法人成りに対応するために創設されたものと説明されている。すなわち、形式上の法人を作り、実質的には個人所得であるものを法人に取得させるケースが戦後増加したことに対応した措置である(高木克己「実質課税の原則における論理」駒大経営研究41巻3=4号86頁)。 その社会的背景としては、昭和24年に制定された中小企業等協同組合法に基づく企業組合が多数発生し、単に租税負担を免れるために法形式のみを法人とするケースが相当数見受けられるに至ったことが指摘されている(茂木繁一「税法における実質主義について―その総論的考察―」税大論叢6号61頁)。 併せて、当時の通達も確認しておこう。 また、当時の裁判例では、旧所得税法3条の2について次のような説示がなされている(広島高裁昭和36年4月28日判決・税資42号507頁。なお、上告審最高裁昭和39年6月30日第三小法廷判決・集刑151号547頁において上告棄却)。 ここでは、「実質課税の原則」を租税法上の基本的な条理であるとし、同条はそれを確認した規定にすぎないと説示されている。 そのほかにも、同様の見解を採用するものとして、京都地裁昭和30年7月19日判決(税資20号402頁)や山口地裁昭和31年4月12日判決(税資23号221頁)などがある。 (3) 実質課税の原則の2つの解釈 この規定については、2つの解釈が想定され得る(新井隆一『租税法の基礎理論〔第3版〕』87頁(日本評論社2001))。 まず、1つ目の解釈として、旧所得税法3条の2は、課税物件の帰属に関しての判断につき定めたものであると捉えることができよう。この解釈によれば、同条は、法の解釈適用についてまで実質主義の基本原理を採用したものではないということになる。 第2に、条文見出しに着目し、この見解に疑問を呈する考え方もあり得る。 なぜなら、旧所得税法3条の2は「実質所得者課税の原則」とはせずに、「実質課税の原則」としていたのであるから、所得税法が、課税物件すなわち所得の帰属の判断基準としてのみならず、法の解釈適用や事実認定など全般にわたって、実質主義の考えを採用していたことを表しているものと解すべきではないかとも考え得るのである。 いずれの解釈が妥当であるかについては議論があろうが、当時の裁判例や課税当局関係者の証言等に鑑みるに、後者の見解が採用されていたのではないかと推察される(高木・前掲稿87頁)。 その他、この点については、「戦後の実質主義に関する判決では、帰属に関するもののみならず、税法の解釈適用に関する実質主義に基づくものもかなりみられる・・・が、これはかかる意味での実質主義が法文上の明記はなくとも税法に内在する条理として解されているからであろう。」とする指摘もなされている(茂木・前掲稿62頁)。 昭和40年の所得税法全文改正により、かかる規定の見出しが「実質所得者課税の原則」に改められるわけであるが、何故当初からそのようにしなかったのかを考えると、上述のような整理こそ座りがよいことになろう。 このように、当時の条文見出しについては、「租税法の基本原理として、幅広く課税関係における実質主義の考え方を認知させる意図が立法当局にあったのではないかと推量される。」との見解がある(高木・前掲稿88頁)。 旧所得税法3条の2は、「資産又は事業から生づる収益」について定めているのであるから、その文理からすれば、所得の帰属について定めたものと解する方が素直な条文の理解かとも思われるが、しかしながら、当時の学説や裁判例が、おそらく所得の帰属以上のものまでも含め理解していたことを踏まえると、条文見出しが「実質課税の原則」としていたところの意味は大きいように思われるのである。 繰り返しになるが、その後、昭和40年改正において、かかる規定の見出しも、「実質課税の原則」から「実質所得者課税の原則」に変更されることとなった。 言うなれば、昭和40年改正を経て、条文見出しとその条文内容がようやく一致したともいえよう。 もちろん、改正前の当時においても、条文見出しの規定振りのみから、かかる条文の性格付けがなされていたわけではない。上述したとおり、学説や裁判例、当局関係者の証言等からその性格が決せられてきたわけであるが、「実質課税の原則」という、条文の内容とは必ずしも一致しているとはいえない(条文の内容よりも射程が広い)見出しが、そうした見解を支える1つの論拠となっていたことは否めないようにも思われるのである。   Ⅱ 条文見出しは条文解釈に影響を及ぼすか 訴訟において、各当事者が条文見出しを根拠に主張を展開したり、裁判所が条文見出しの規定振りを判断材料の1つとしていると見受けられるものも多数存在する。以下では、そうした具体的事例をいくつか挙げることとしたい。 1 法人税法34条の法的性質 東京地裁平成24年10月9日判決(訟月59巻12号3182頁)において、原告は、役員給与は原則的に損金算入が許されると主張する中で次のように論じる。 もっとも、かかる原告の主張について、同地裁は「役員給与が企業会計上は費用とされるからといって、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、原則として損金算入が許されるものであるということはできない。」として、排斥している。 2 法人税法65条 使用人賞与の損金算入時期を定める法人税法施行令72条の5(平成22年政令第51号による改正前。以下「本件政令」という。)は、法人税法65条《各事業年度の所得の金額の計算の細目》の委任に基づいて制定されたものであり、同法22条《各事業年度の所得の金額の計算》3項2号にも反せず、租税法律主義に反しないとされた事例として、東京地裁平成24年7月5日判決(税資262号順号11987)がある。 同地裁が、本件政令について述べるところを確認しておこう。 このように、法人税法の構成を確認した上で、次のように説示している。 「その見出しが『各事業年度の所得の金額の計算の細目』とされていることなども併せ考えると」とされているように、条文見出しが1つの判断材料とされた事例ということができよう。 3 所得税法56条 所得税法56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》及び同法57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》の規定は憲法14条1項に違反せず、また、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者とは別に事業を営む場合であっても、そのことを理由に所得税法56条の適用を否定することはできないから、各過少申告加算税賦課決定及び各事業税賦課決定は憲法14条1項に違反しないとした事例として最高裁平成17年7月5日第三小法廷判決(税資255号順号10070)がある。 この事件において、納税者である上告人は次のように主張している。 上告人は、条文見出しの表現振りも含めて原審東京高裁平成16年6月9日判決(判時1891号18頁)の判断を批判したが、かかる主張は最高裁において排斥されている。 4 地方税法72条の19 次に、事業税の課税標準の特例について定めた旧地方税法72条の19(現行72条の24の4)に関して論じられた判決を確認しておこう。 東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例(平成12年東京都条例第145号)は、課税標準の特例規定を用いて事業税を課する場合における税率について、所得を課税標準とする場合の所定の税率による事業税の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない旨規定する旧地方税法72条の22第9項(現行72条の24の7第8項)に違反し、同規定の歯止め的な機能からみて、上記条例は、地方税法上与えられた条例制定権を超えて制定されたものであるから、無効であるとされた事件として、東京高裁平成15年1月30日判決(判時1814号44頁)がある。すなわち、同高裁は次のように説示している。 条文見出しに「特例」とあることをもって、事業税の原則的な課税標準を解釈しているとおり、この判決も、条文見出しを1つの判断の指針とした事例といえるであろう。 5 消費税法4条 消費税法9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》1項は、同法5条《納税義務者》の規定により消費税を納める義務があるとされた者のうち、免税事業者に該当する者について同条1項の規定にかかわらず消費税を納める義務を免除するものであって、同条又は同法4条《課税の対象》によって発生した消費税を免除するものではないと示された事例として東京高裁平成12年1月13日判決(民集59巻2号307頁)がある。 東京高裁は次のように示し、納税者である控訴人の主張を棄却している。 この判示は、裁判所の判断のうち、「1 文理解釈」として述べられているところであるが、条文の文言はもとより、消費税法4条及び5条の見出しの文言にも直接言及しているものとして注目しておきたい。 (続く)

#No. 259(掲載号)
#酒井 克彦
2018/03/08

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第28回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第28回】   公認会計士 佐藤 信祐   《第3章》 平成14年度から平成17年度までの税制改正 1 平成15年度税制改正 平成14年度、平成17年度では、組織再編税制についての重要な改正がなかったため、本稿では、平成15年度税制改正、平成16年度税制改正についてのみ解説を行う。 平成15年度税制改正のうち、組織再編税制に関するものは、(1)2段階組織再編、(2)資本積立金額及び利益積立金額の計算の厳格化、(3)宥恕規定の導入、(4)耐用年数である。 (1) 2段階組織再編 税制適格要件の判定では、支配関係継続要件、従業者引継要件、事業継続要件、株式継続保有要件など、組織再編後の継続要件を要求しているものが多い。そのため、解散することが見込まれている場合には、これらの継続要件に抵触するのではないかという議論があった。そして、平成15年度税制改正前では、この場合の「解散」には、合併による解散も含まれるという意見も少なくなかった。 そのため、平成15年度税制改正により、適格合併により解散することが見込まれている場合の特例が定められることになった。その後、平成29年度税制改正により、これらの特例がかなり整備されることになったため、いずれ本連載で触れることとする。 (2) 資本積立金額及び利益積立金額の計算の厳格化 分割型分割又は減資等を行った場合には、株主におけるみなし配当及び譲渡原価の計算、発行法人における資本金等の額及び利益積立金額の計算において、分割移転割合等を乗じることにより計算しているが、この場合の分割移転割合等の計算は小数点以下1位未満を切り上げることとしており、かなり大雑把な計算となっていた。 この点につき、平成15年度税制改正では、事後的な事由による変動を極力無くして過去の課税関係に影響を及ぼさないようにするとの趣旨は維持しつつも、より精緻に計算を行うために、小数点以下3位未満の端数を切り上げることとされた(『平成15年版改正税法のすべて』212頁(大蔵財務協会、平成15年))。 さらに、みなし配当及び譲渡原価の計算では、直前事業年度末から減資等又は分割型分割等の直前の時までの間に、資本等の金額が増加し又は減少した場合には、その増加額を加算し又はその減少額を控除することとされ、極力、純資産の額を減資等又は非適格分割型分割の直前の状態としたうえで計算することとされた(前掲書212頁)。 (3) 宥恕規定の導入 平成15年度税制改正では、繰越欠損金の引継制限、使用制限及び特定資産譲渡等損失額の損金不算入の計算において、時価純資産価額が簿価純資産価額を超えている場合の特例を利用する場合の宥恕規定が設けられた。 (4) 耐用年数 平成15年度税制改正前は、適格合併又は適格分割型分割により減価償却資産の引継ぎを受けた場合に、中古耐用年数を利用することができないのではないかという疑いがあったが、平成15年度税制改正により、中古耐用年数を利用することが認められた。   2 平成16年度税制改正 平成16年度税制改正では、減価償却資産及び繰延資産の償却の取扱いについて見直しがなされている。 具体的には、平成16年度税制改正前では、非適格組織再編により認識した営業権につき、会計上の損金経理要件を満たすことができないという問題があった。この点につき、平成16年度税制改正により、非適格組織再編や連結納税において計上すべき減価償却資産の帳簿価額が会計上の帳簿価額に満たない場合に、その満たない部分の金額を損金経理したものとみなすことにより、税務上、減価償却費の計上ができるようになった。 なお、平成18年度税制改正により、営業権を資産調整勘定として取り扱うことになったため、現在ではあまり議論になることはないが、会計と税務のズレにより生じる損金経理の問題については、平成16年度税制改正によりほぼ解決されたということが言える。 そのほか、平成16年度税制改正では、繰越欠損金の繰越期間が5年から7年に延長された。この点につき、①組織再編税制では、支配関係が生じてから5年以内かどうかで判定し、7年には延長しないこと、②合併法人に引き継いだ結果、平成13年4月1日前の繰越欠損金になったものは5年で判定することが、『平成16年版改正税法のすべて』166-169頁(大蔵財務協会、平成16年)で明らかにされている。   3 総括 このように、平成15年度税制改正及び平成16年度税制改正は、その時点における実務上の問題点に対して解決を図った改正であったということが言える。 最後に、平成15年度税制改正及び平成16年度税制改正が実務に与えた影響について触れておきたい。 前述のように、平成15年度税制改正では、4つの改正がなされたが、このうち、2段階組織再編、資本積立金額及び利益積立金額の計算の厳格化は、その後も税制改正が行われている。とりわけ、資本積立金額及び利益積立金額の計算は、平成13年当時の規定がかなり雑な規定であったことから、種類資本金等の額の計算や債務超過会社の組織再編の明確化など、条文による明確化が図られている。 さらに、2段階組織再編は、実務上、合併を繰り返すことが少なくなかったため、それを理由に非適格組織再編であると認定されては困るという実務上の要望に対応した改正であると言える。その後、平成29年度税制改正では、2段階組織再編だけでなく、3段階、4段階の組織再編も容認する改正となっているが、依然として問題点も多い。 これは、あらゆる事象を条文に織り込むことが困難であることが理由であると思われる。平成22年度税制改正で導入された無対価組織再編の明確化についても同じことが言えるが、とりあえず90点が取れるような規定になっている印象を拭えない。その結果、思わぬところで非適格組織再編に該当してしまうものもあるため、実務上、そのようなミスが生じないようにする必要がある。 平成16年度税制改正は、減価償却の損金経理要件の問題について解決を図った改正である。現在の条文を見てみると分かるが、組織再編税制、株式交換等・移転税制、連結納税及び企業再生税制の結果、かなり複雑な規定になっている。 損金経理要件の下で解決を図った結果であると言えるが、平成16年度税制改正前は、実務家の中には、損金経理要件そのものが問題であるという意見があったと記憶している。いずれ、さらなる複雑な税制になったときに、損金経理要件を維持することができるのか、そもそも維持する必要があるのかという点は、議論になり得ると思われる。 *   *   * 次回以降では、平成13年から平成17年までの間に公表された国税局及び実務家の見解をそれぞれ分析することとする。 (了)

#No. 259(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/03/08
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