《速報解説》 イノベーション促進のための研究開発税制の改正 ~平成31年度税制改正大綱~ 弁護士 羽柴 研吾 1 はじめに 平成30年12月14日に公表され、同月21日に閣議決定された平成31年度税制改正大綱では、イノベーション促進のための研究開発税制の拡充・延長措置が明記された。 2 改正の背景 科学技術が急速に発展する現代において、民間企業等が国際的競争を勝ち抜くためには、科学技術イノベーションが求められる。そのためには、官民挙げた積極的な研究開発投資が必要となる。しかしながら、「各国の民間企業の研究開発投資の推移」によれば、日本・アメリカ・中国等各国いずれも増加傾向にあるものの、中国の研究開発費が、2008年から2016年までの間に、10兆円から35兆円に急増したのに対して、同期間の我が国の研究開発費は10兆円から3兆円微増した13兆円に留まっている。 このような中、日本国政府は、2016年1月に「第5期科学技術基本計画」を、2017年6月に「未来創始戦略2017」を閣議決定し、2020年までに官民合わせた研究開発投資の対GDP比を4%以上にすることを目標としている。 今回の改正は、このような背景を踏まえて、研究開発投資の「量」を更に増加させていくために、研究開発投資の増加インセンティブがより強く働くよう従来の研究開発税制を見直すとともに、研究開発投資の「質」の向上に向け、オープンイノベーションや研究開発型ベンチャーの成長を促す措置を講じるものである。以下、項目別に解説する。 3 控除上限の引上げ 恒久措置と上乗措置を整備しなおすとともに、控除上限が次の表のとおり引き上げられることになる。 (1) 現行の控除上限:最大で法人税額の40% (注1) 中小企業の場合、別途上乗せ措置がある。 (2) 改正案による控除上限:最大で法人税額の45%(ベンチャー企業:最大で法人税額の60%) (注1) 高水準型は廃止となる。 (注2) 中小企業の場合、別途上乗せ措置がある。 (注3) 「ベンチャー企業」とは、①設立10年以内の法人のうち、②当期において翌期繰越欠損金額を有するもの(大法人の子会社等を除く)をいう。 4 総額型の控除率の上乗せ (1) 総額型の控除率のインセンティブの強化 平成29年度税制改正によって、総額型の控除率は6%から14%(※10%~14%は上乗せ部分)までの範囲内で、試験研究費の増減割合に応じて算定されることになった。今回の改正では、更に試験研究費の増加インセンティブを与えるため、試験研究費を増加させた場合の控除率を引き上げ、減少させた場合の控除率を引き下げることになった。 (2) 総額型の控除率を上乗せする時限措置の延長 総額型の控除率(6%から10%)を上乗せ(10%から14%)する時限措置を2年間延長することになった。 (3) 総額型の控除率を上乗せする時限措置の新設 売上高試験研究費割合が10%を超える場合、控除率が最大で1.1倍上乗せされる2年間の時限措置が新設される(控除率上限は14%)。 5 オープンイノベーション型の支援対象の拡大と控除率の引上げ オープンイノベーション型について、①「研究開発型ベンチャー」と共同試験研究・委託試験研究を行う場合の控除率を引き上げ、②民間企業等への委託研究についても対象に含めることになった。 上記①の「研究開発型ベンチャー」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者でその発行する株式の全部又は一部が同法の認定ベンチャーファンドの組合財産であるものその他これに準ずるものをいう。 (1) 共同試験研究の改正 (注) 大学等との共同試験研究にかかる費用について、研究開発のプロジェクトマネジメント業務等を担う者の人件費(URA:University Research Administrator)も研究開発税制の対象に含まれることとなった。 (2) 委託試験研究の改正 (注) 委託して行う試験研究が、①委託法人の基礎・応用研究であるか、②受託者の知的財産権等を利用して行われるものに要する費用が対象であり、単なる外注費は除かれる。 6 中小企業技術基盤強化税制の上乗せ措置の延長 中小企業技術基盤強化税制は総額型の一類型であり、試験研究費の12%に相当する額を法人税額から控除する制度である(上記3(2)のA-2)。当該税制についても、時限措置の延長と新設がなされる。 (1) 時限措置の延長 ① 控除上限の上乗せ延長措置 現行は、増減試験研究費割合が5%超の場合、総額型の控除上限25%に、法人税額の10%を控除上限に上乗せする措置が講じられている。 改正案では、増減試験研究費割合を5%超から8%超に見直した上で、控除上限の上乗せ措置を2年間延長することになった。 ② 控除率の上乗せ延長措置 上記3の(2)と同様に、総額型の控除率(12%)を上乗せ(12%から17%)する時限措置を2年間延長することになった。 (2) 時限措置の新設 上記3の(3)と同様に、売上高試験研究費割合が10%を超える場合、控除率が最大で1.1倍で上乗せする2年間の時限措置が新設される(控除率上限は17%)。 (了)
《速報解説》 国税庁、事業承継税制の特例措置に関する質疑応答事例を公表 ~特例贈与者等各要件の判定や猶予税額の計算方法等、全61問で詳解~ Profession Journal編集部 国税庁は平成30年12月19日付けで、平成30年度税制改正で創設された事業承継税制の特例措置(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例措置)に関する質疑応答事例集を公表した。 この特例措置は10年間の時限措置で、認定経営革新等支援機関の指導を受けた特例承継計画について都道府県知事の確認を受ける等一定の要件の下、先代経営者等から贈与・相続により後継者が取得した非上場株式に係る贈与税・相続税の全額について納税が猶予されるというもの。既存の一般措置で適用のハードルとなっていた8割の雇用確保要件が実質撤廃され(ただし都道府県知事への確認書提出が必要)、承継後に後継者が自主廃業や売却した場合にも猶予税額の一定額が減免されるなど、一般措置に比べ大幅に適用しやすい制度となっている。 詳しくは本誌掲載の下記連載記事を参照されたい。 今回公表された質疑応答事例は全61問、95ページに及ぶもので、既存の一般措置と特例措置との違いといった制度の概要的なものだけでなく、一般措置と特例措置の適用関係に関する問答や、特例措置では複数の贈与者から複数の後継者への贈与の場合も適用が認められることから、その適用判定に関する問答、さらに事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除措置について、差額免除の具体的な計算例についても複数の問答が掲載されている。 また、一般措置についても複数の者からの贈与・相続について適用が認められるなど30年度改正で手当てが行われたことから、一般措置に係る改正事項についても経過措置の規定含め解説が行われている。 なお、事業承継税制については平成31年度税制改正大綱において、一般措置・特例措置ともに次の見直しを行うことが明記された。 (了)
《速報解説》 住宅借入金等特別控除の特例創設により控除期間を3年延長 ~平成31年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成30年12月21日に閣議決定された平成31年度税制改正大綱には、平成31年10月の消費税率引上げによる駆け込み需要とその反動減が生じないよう、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(以下、住宅借入金等特別控除という)の拡充措置が示された。 【1】 特例の創設 (1) 大綱の概要 消費税率引上げによる税負担の増加を緩和するため、住宅の取得等をして平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間に居住の用に供した場合について、住宅借入金等特別控除の特例が創設される。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 現行の制度 適用年の1年目から10年目までの各年については、現行制度と同様の控除額である。 【2】 特例の具体的な内容 (1) 11年目から13年目の控除限度額 大綱で示された適用年の11年目から13年目の控除限度額は、次の①から③のとおりである。 ① 一般の住宅(認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅以外の住宅)の場合 ◆(ア)と(イ)のいずれか小さい額 ② 認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅の場合 ◆(ア)と(イ)のいずれか小さい額 ③ 東日本大震災の被災者等に係る特例の対象となる再建住宅の場合 ◆(ア)と(イ)のいずれか小さい額 (2) 適用上の注意点 (1)の算式の「住宅の取得等の対価の額又は費用の額」は、住宅の取得等に係る消費税率引上げの影響を緩和するという趣旨から、各場合において次のとおりとなる。 上表の②又は③に該当する場合、適用年の1年目から10年目までの各年の控除額は、補助金等や非課税の適用を受けた住宅取得等資金の額を控除して計算する(措法26⑤)。適用年によって取扱いが変わるので注意が必要である。 【3】 計算例 大綱で示された内容を前提として、平成31年10月以降に居住の用に供した住宅について住宅借入金等特別控除額を計算する。 上記計算例の場合、消費税等の税率が8%から10%に引き上げられると、消費税等の負担は240万円から300万円へ60万円増加する。大綱で示された住宅借入金等特別控除の特例を適用すると、11年目から13年目までの控除額として年20万円(3年合計で60万円)が加算され、税率引上げ分の影響が緩和される。 また上記税制上の措置に加え、消費税率引上げに伴う住宅取得対策として、「すまい給付金の拡充」や「次世代住宅ポイント制度の創設」などが予定されている。詳細は下記国土交通省ホームページを参照されたい。 【参考①】 (※) 国土交通省ホームページより 【参考②】 (※) 国土交通省ホームページより (了)
《速報解説》 中小企業の災害に対する事前対策のための設備投資に係る税制措置の創設及び中小企業向け設備投資減税措置の延長 ~平成31年度税制改正大綱~ 税理士 中尾 隼大 14日に公表され、21日に閣議決定された平成31年度税制改正大綱において、中小企業の災害に対する事前対策のための設備投資に係る税制措置の創設と中小企業向け設備投資減税措置の延長が明記された。 当該税制の内容は以下の通りである。 1 中小企業の災害に対する事前対策のための設備投資に係る税制措置の創設 近年、大規模自然災害が増加傾向にあることを背景とし、実効性が高い事前対策の促進の観点から、事業継続力強化計画(仮称)等に基づいて事業者が行った防災・減災設備への投資を対象に、特別償却(20%)が可能となる制度が創設された。この制度は中小企業等経営強化法の改正を前提とし、所得税についても同様の改正が行われる。 (1) 適用要件 適用を受けるためには、以下の要件を充足する必要がある。 (2) 適用を受けるためのスキーム 事業者が事前対策のための計画を策定し、経済産業大臣の認定を受ける必要がある。 (※) 経済産業省ホームページより (3) 特定事業継続力強化設備等とは 事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画(仮称)に記載された機械装置、器具備品及び建物付属設備のうち、以下の規模以上のものをいう。 (4) 適用期間 特定事業継続力強化設備等を取得等し、事業供用する期間は、改正中小企業等経営強化法の施行された日から平成33年(2021年)3月31日までとされる。 2 中小企業向け設備投資減税措置の延長等 また、既存の中小企業向け設備投資減税措置についても以下のとおり延長等されることとなった。 (1) 中小企業投資促進税制 引き続き中小企業の投資促進を促すため、平成32年度末(2021年3月31日)まで延長。 (2) 中小企業経営強化税制 特定経営力向上設備等の範囲の明確化及び適正化(※)の上、同じく平成32年度末(2021年3月31日)まで延長。 (※) 経済産業省による公表資料によると、働き方改革に資する設備も本税制措置の適用対象であることをQ&A集等を通じて明確化するとの記述があり、設備の例として建物附属設備(工場等の休憩室等に設置される冷暖房設備等)や器具備品(作業場等に設置されるテレワーク用PC等)が紹介されている。 (3) 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 「売上高又は営業利益が1年間で2%以上向上する」という要件が追加され、平成32年度末(2021年3月31日)まで延長。 なお、この要件は、投資計画につき認定経営革新等支援機関等の確認を受けることを要する。 (※) 経済産業省ホームページより (了)
《速報解説》 中小企業向け各租税特別措置等における「みなし大企業」の範囲見直し ~平成31年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 与党による平成31年度税制改正大綱(以下「大綱」と略称する)が、先週12月14日に公表された。本稿では、租税特別措置法(以下「措置法」と略称する)に規定する「みなし大企業」の範囲の見直しについて、概要をまとめたい。 2 現行の「みなし大企業」にかかる規定 (1) 措置法における「みなし大企業」の範囲 措置法第42条の4第8項第6号では、中小企業者とは、「中小企業者に該当する法人として政令で定めるものをいう」と定義し、これを受けて、措置法施行令第27条の4第12項で、以下のように定め、同項1号又は2号(下線部)において除外されている法人が、措置法上の「みなし大企業」に該当する。 (2) 法人税法における「みなし大企業」の範囲 一方、法人税法では、第57条第11項第1号において、「中小法人等」の範囲を以下のように定めている。 同項第1号イのカッコ書きで除外されている法第66条第6項第2号又は第3号については、以下のように規定されている。 (3) 「みなし大企業」の範囲の相違点 措置法と法人税法において「みなし大企業」の定義に相違が生じる第1の点は、措置法上の「大規模法人(資本金1億円超)」と法人税法上の「大法人(資本金5億円以上)」との定義に差があるということである。このため、資本金1億円超5億円未満の親会社に支配されている子会社については、措置法と法人税法との間で取扱いが異なることとなる。 〔例1〕 資本金1億円超5億円未満の法人に完全支配されている子会社の場合 第2の点は、措置法施行令第27条の4第12項第2号の規定が、「3分の2が大規模法人の所有に属している法人」となっていることにある。この規定では、大規模法人が直接所有していることを要件としているのに対し、法人税法上は、複数の完全支配関係がある大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人も含め除外していることで、相違が生じることとなる。 〔例2〕 資本金5億円以上の法人の孫会社の場合 3 「みなし大企業」の判定の見直し 上記〔例2〕で示したとおり、措置法上の中小企業者の中には、法人税法上の中小法人等に該当しない企業も含まれているため、中小企業関連税制が適正に機能するよう、「大規模法人」の範囲を拡大することが、大綱66ページに記されている。 (1) 大規模法人に加える法人 (2) 「みなし大企業」判定の見直しによる効果 上記〔例2〕のような資本関係にある孫会社については、これまで、中小企業関連税制の適用を受けることが可能であったが、平成31年度改正により、間接的に支配権を有する孫会社についても、「みなし大企業」として取り扱われることなる。 なお、本改正の施行時期については、大綱に具体的な記載は見られない。 (了)
《速報解説》 消費税率10%引上げに合わせた車体課税の抜本見直し ~平成31年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 菊地 弘 平成30年12月14日に平成31年度税制改正大綱(与党大綱)が公表された。以下では自動車の車体課税等に関する主な改正事項等を概説する。 1 車体課税等の見直し (1) 自動車重量税(国税) 「自動車重量税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車に係る自動車重量税の免税等の特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限を2年延長する。 〇乗用自動車 (注1) 電気自動車等とは、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、天然ガス自動車、クリーンディーゼル乗用車を指す。なお、軽自動車税のグリーン化特例においては、電気自動車、燃料電池自動車、天然ガス自動車を指し、重量車においては、電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、天然ガス自動車を指す。 (注2) 初回継続検査についても免税。 〇バス・トラック(重量車) (2) 自動車取得税(地方税) 「自動車取得税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車(新車に限る)の取得に対して課する自動車取得税に係る特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限を6月延長する。 〇乗用自動車 (注3) 自動車取得税は消費税率引上げ時(H31.10.1)に廃止。 〇バス・トラック (3) 揮発油税及び地方揮発油税 揮発油税及び地方揮発油税の税率(1kl当たり)を次のとおりとする。 (※) 上記の改正は、平成46年4月1日から施行する。 (4) 自動車税環境性能割・軽自動車税環境性能割 平成31年10月1日に導入される環境性能割について一定の見直しを行い、平成31・32年度は次のとおりとする。 (注4) 平成31年10月1日から平成32年9月30日までの間に取得した自家用乗用車・自家用軽自動車に係る環境性能割については、税率1%分を軽減する特別措置を講ずる。 (5) 自動車税種別割 自家用乗用車(三輪の小型自動車を除く)に係る種別割の税率を次のとおりとし、平成31年10月1日以後に新車新規登録を受けたものから適用する(なお、軽自動車税の税率については、変更しない)。 (6) 自動車税・軽自動車税のグリーン化特例 平成31年度及び平成32年度において、現行制度のまま2年延長する。 (注5) 自家用乗用車、自家用軽自動車について、平成33年度以降(平成33年4月1日以後)は適用対象を電気自動車等に限定する。 (7) 都道府県自動車重量譲与税の創設 自動車重量税の一部を都道府県に対して譲与する都道府県自動車重量譲与税制度を新たに創設する。 2 復興支援のための税制上の措置 3 租税特別措置等 (了)
2018年12月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.299を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第62回】 「平成31年度与党税制改正大綱における主な法人課税の改正点」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇平成31年度与党大綱の公表 平成31年度与党税制改正大綱が12月14日に取りまとめられた。今回の改正の最大の焦点は、2019年10月1日の消費税率10%への引き上げに伴う需要変動の平準化策としての住宅及び自動車関連税制であった。 住宅については、平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間に居住の用に供した場合に、住宅ローン控除の控除期間を3年延長(現行10年)する。ただし、11年目以降の3年間については、各年において、①建物購入価格(上限4,000万円、認定住宅5,000万円)の3分の2%、②ローン残高の1%のいずれか少ない金額を税額控除することとする。 車体課税については、まず、自動車税が1台当たりの排気量に応じて1,000~4,500円/年引き下げられることに加え、需要平準化対策として、平成31年10月1日から平成32年9月30日の1年間に限り、乗用車(軽自動車を含む)について環境性能割の税率を1%分軽減する措置が講じられる。 以下では、平成31年度税制改正大綱における法人課税のポイントを紹介したい。 〇研究開発税制の見直し 研究開発税制については、総額型の控除率が見直され、より増加インセンティブの高い仕組みとなった。増減試験研究費割合がマイナスの層では、現行より控除率が低下し、約マイナス14%で、最低控除率の6%に到達する(現行はマイナス25%で到達)。一方、プラスの層では、0から8%の層で現行より控除率は向上し、8%超は現行どおりである。 また、試験研究費割合が平均売上高10%を超える部分の特例は、現行では、控除率及び控除上限の上乗せ(いわゆる高水準型)か控除上限の上乗せ(最大税額の10%まで)かのいずれかを選択適用することとされているが、大綱では、これらを一本化し、通常の総額型控除率に(試験研究費割合-10%)×0.5を乗じて計算した率を、通常の総額型控除率に上乗せ(控除率の上限は14%)する(控除上限は最大税額の10%)措置となる。 オープンイノベーションに関しては、研究開発型ベンチャーへの共同試験研究・委託試験研究について控除率を25%に引き上げる(現行20%)とともに、控除対象とされていなかった大企業への委託試験研究が一定の要件の下、控除対象となる(控除率20%)。また総額型とは別枠の控除上限が10%に引き上げられる(現行5%)。 さらに、研究開発を行うベンチャー企業(設立10年以内で翌期繰越欠損金を有することになる法人(大法人の子会社等を除く))の場合には、総額型の控除上限が40%に引き上げられる。 〇中小企業関連税制の延長・見直し 中小企業関連税制では、軽減税率(15%)の期限が2年延長されるほか、中小企業投資促進税制・中小企業経営強化税制も適用期限が2年延長される。また商業・サービス業・農林水産業活性化税制については、要件追加(売上高又は営業利益が1年間で2%以上向上)の上、2年延長される。 また、中小企業の事業活動に災害が与える影響を踏まえ、サプライチェーンや地域の雇用等を支える中小企業者の事前対策の取り組み強化の観点から、中小企業等経営強化法の改正を前提とする事業継続力強化計画(仮称)に基づく防災・減災設備への投資について、特別償却制度(20%)を創設することとなった。 あわせて、租税特別措置法のみなし大企業の範囲の見直しが行われる。 現行のみなし大企業は、①同一の大規模法人に発行済株式の2分の1以上を直接に保有されている法人、又は②複数の大規模法人に発行済株式の3分の2以上を直接に保有されている法人とされ、「大規模法人」とは①資本金1億円超の法人、②非出資で従業員数1,000人超の法人とされている。 今回の見直しでは、この「大規模法人」として新たに、100%グループ内の大法人(資本金5億円以上の法人、相互会社・外国相互会社、受託法人)に発行済株式の全部を直接・間接に保有されている法人を加えることとなる。 〇役員給与の損金算入要件の適正化 役員給与の損金算入要件について、昨今のコーポレートガバナンス・コードの改訂などの動向も踏まえ、適正化が図られることとなった。 現行では、業績連動給与について、報酬(諮問)委員会による決定を経る場合には、同委員会の構成員に1人でも業務執行役員が含まれていると損金不算入となることとされているが、構成員の過半数が「独立社外役員」であり、その「独立社外役員」全員が賛成することを要件に損金算入を認めることとする。 一方、監査役(会)設置会社や監査等委員会設置会社において認められている監査役の過半数の適正書面(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員の過半数の賛成)に基づく損金算入は、今後認められないこととなる。 〇組織再編税制の要件緩和 組織再編税制については、次の2点の要件緩和が行われる。 まず、株式交換等の後に、株式交換等完全親法人を被合併法人とし、株式交換等完全子法人を合併法人とする、いわゆる逆さ合併が見込まれる場合、現行制度では、当初の株式交換等について株式継続保有要件を満たすことができず非適格となる点、二次再編(逆さ合併)が適格再編である場合には、二次再編の直前のときまでで継続保有要件を判定することとする。 次に、三角合併等について、現行制度では、直接の100%親会社の株式を対価とすることのみが適格として認められているが、今回の見直しでは、「間接」の100%親会社の株式を用いた場合も適格として認めることとする。 〇地方法人課税の偏在是正 地方法人課税の税源の偏在是正のための新たな措置については、現行の地方法人特別税と同じく、法人事業税のうち所得割・収入割の一部を「特別法人事業税(仮称)」として分離し、これを「特別法人事業譲与税(仮称)」として分配することとされている。 なお、譲与基準については、現行の地方法人特別税とは異なり、人口のみを用いることで、偏在是正効果の向上を図っている。この改正は平成31年10月1日以後に開始する事業年度から適用される。 この結果、消費税率引上げ後、現行の地方法人特別税(事業税額の414.2%)が廃止され法人事業税に復元され、法人事業税の標準税率が3.6%(現行0.7%)となるところ、特別法人事業税の創設により、法人事業税の税率は1%、特別法人事業税の税率は事業税額の260%に分離されることとなる。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第5回】 「租税法律主義と申告納税制度」 -申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、租税債務関係説のパラドックスを論じ、その克服の試みの1つとして、最後に(Ⅳ)、課税処分取消訴訟における当事者間の「対等な攻撃防御」についてその重要性を説いたが、今回は、争訟手続を含む租税手続全般について、手続当事者としての納税者と税務官庁との対等性が、前回Ⅲ1でみた手続的保障原則から要請され、申告納税制度においては納税者と税務官庁との相互チェック構造としてある程度は具体化されていることを述べた上で、その対等性や相互チェック構造が、原理的には、前々回・前回でみてきた租税債務関係説によって正当化されることを明らかにすることにしたい。 Ⅱ 申告納税制度と手続的保障原則 1 手続的保障原則における「適正手続」の意義及び法的構成 憲法は、公権力が法律に基づき行使される場合、その手続が適正なものでなければならないことを命じている(13条・31条参照)。このことは租税の賦課徴収の手続についても妥当する。租税の賦課徴収に関する事前手続においても事後的な救済手続においても適正手続の保障を要請する原則は、租税法律主義の内容を構成する憲法原則の1つとして、手続的保障原則と呼ばれる(【27】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)。 手続的保障原則にいう適正手続ないし手続の適正さは、租税手続における両当事者(納税者と税務官庁)の手続法上の関係が対称的・対等な権利義務の関係(法律関係)として構成されることを意味すると考えられる。すなわち、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性こそが、手続的保障原則の要請するところであると考えられる。このことをより一般化すれば、公正な裁判を受ける権利(憲法32条)の保障の下で構築された裁判制度における両当事者の手続的権利義務の対等性をモデルとして、租税手続における納税者と税務官庁との関係を構成することが、手続的保障原則の要請であるといってもよかろう。 2 申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造 では、納税者と税務官庁との手続的権利義務の対等性は、どのような形で、どの程度、現行税法上具体化されているのだろうか。 これを租税の賦課徴収に関する現行税法上の原則的・中核的制度である申告納税制度についてみると、同制度は、納税者(本来の納税義務者)が成立した納税義務を納税申告によって確定することができ、かつ、確定しなければならないこと(第一次的確定権及び第一次的確定義務)を出発点とした上で、第一次的確定権が適正に行使されず第一次確定義務が適正に履行されていないと税務官庁が判断する場合、税務官庁が課税処分によって当該納税義務を確定することができ、かつ、確定しなければならないこと(第二次的確定権及び第二次的確定義務)を基本的内容とする制度である(税通15条1項、16条1項1号、17条・18条、24条・25条参照)。 申告納税制度の上記の基本的内容は、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性を要請する手続的保障原則に適合するが、同制度の趣旨としては、理念的には日本国憲法の民主主義的租税観(第1回Ⅲ2、第3回Ⅱ参照)に、実際的には税務行政の負担軽減ないし租税の効率的な賦課徴収の考慮に基づくものである(【121】)。 申告納税制度は、以上のような基本的内容を前提にして、以下で概観するとおり、納税者及び税務官庁に対して、自己又は相手方の確定行為をチェックしその過誤を是正する権限を付与し、そうする義務を課している。 まず、自己の確定行為のチェック・是正については、納税者は、修正申告によって自己に不利に当初申告を変更することができ(税通19条1項)、また、自分自身で自己に有利に当初申告を変更することはできないものの、税務官庁に対してそのような変更(減額更正)を求める更正の請求をすることができる(同23条等)。他方、税務官庁は再更正によって自己の確定行為を変更することができる(税通26条)。 次に、相手方の確定行為のチェック・是正については、既に申告納税制度の基本的内容からして、税務官庁の前記の第二次的確定権及び第二次的確定義務がそのようなチェック・是正手続の一環として法定されている(税通24条、25条)とみることができ、さらに、税務官庁は更正の請求を受けて減額更正又は拒否通知をすることとされている(同23条4項)。他方、納税者は修正申告によって自己に不利に課税処分を変更することができ(税通19条2項)、また、自分自身で自己に有利に課税処分を変更することはできないものの、税務官庁に対してそのような変更(減額更正)を求める更正の請求をすることができ(同23条等)、さらには、税務官庁及び裁判所に対して課税処分の取消争訟を提起することができる(同75条、114条、115条)。 申告納税制度においては、以上のように、納税者及び税務官庁が自己の確定行為だけでなく相手方の確定行為をもチェックしその過誤を是正するための手続が定められている。その意味で、申告納税制度は、納税者と税務官庁との相互チェック構造を内包する制度であるとみてよかろう。 もっとも、納税者と税務官庁との相互チェック構造は、現行の申告納税制度においては、納税者と税務官庁との手続的権利義務の対等性を適正かつ十分に具体化するものとはなっていない。現行制度は、前述のとおり、納税者が自己に有利に先行の確定行為を自分自身で変更することを認めず、そのような変更を更正の請求や取消争訟という特別の手続にかからしめること(更正の請求の排他性、取消争訟の排他性)によって、法技術的な意味において税務官庁に優越的な地位を認めているといってよかろう。そのような意味での優越的地位は、納税者の確定行為(納税申告)には認められない公定力等の特別の効力が税務官庁の確定行為(課税処分)に認められているところにも、見いだされる。また、租税法律関係の早期安定の要請が強く働く各種の期間制限の点では、平成23年度[11月]税制改正によって更正の請求の期間制限に関しては一定の改善をみたものの、対等性が適正かつ十分に実現されているとは言い難い(【27】【132】参照)。さらには、税務官庁によるチェック・是正を支える税務調査手続をも視野に入れて考えると、質問検査手続をある程度整備した同税制改正後も、納税者と税務官庁との関係に非対称性がなお色濃く残されている(【27】【139】参照)。 そうすると、申告納税制度について、その基本構想においては、納税者と税務官庁との相互チェック構造を内包する制度として、(前記の制度趣旨の観点からだけでなく)手続的保障原則の観点からも高く評価すべきであるとはいえ、現行制度の個別的・具体的な内容からすると、納税者については確定義務の側面が、税務官庁については確定権の側面がそれぞれ前面に出るような、かなり(片面的・一方的という意味で)非対称的な制度とみる見方もあながち理由のないものではないように思われる。 そのような見方に対して「発想の転換」を迫るには、手続論(手続的保障原則の実現)の観点からだけでなく実体論(実体的租税法律関係、特に納税義務の成立)の観点からも、租税手続における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化する必要があるように思われる。その際、原理的には租税債務関係説がその実体論的正当化の論拠を提供してくれるように思われる。 Ⅲ 申告納税制度と租税債務関係説 1 申告納税制度における租税法律関係明確化の要請 まず、租税債務関係説が申告納税制度とどのような意味で関係づけられるのか、あるいは関係づけられるべきなのかをみておこう。この点については、須貝脩一教授の次の見解(中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・追録第5号1990年7月加除済)E16頁)が示唆に富むように思われる。 租税法律関係の捉え方については租税債務関係説と租税権力関係説があることは第3回Ⅲで述べたが、租税権力関係説に基づいて租税法律関係の明確化を図ることは妥当でない。というのも、租税権力関係説は租税法律関係を権力関係(国家の優越的地位に基づく国民に対する一方的支配関係)として捉える考え方である以上、申告納税制度における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化することは困難であるからである。租税権力関係説は、むしろ、申告納税制度を権利義務の非対称的(片面的・一方的)な制度とみる前記の見方に馴染みやすいように思われる。 これに対して、租税債務関係説は、申告納税制度における納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を正当化するのに適した考え方である。 2 申告納税制度の租税債務関係説的構成 そもそも、租税債務関係説によれば、租税法律関係は公法上の債権債務関係として捉えられ、納税義務はその内容を定める法律要件(課税要件)の充足によって法律上当然に成立することとされる。納税義務の成立に関するこのような法的構成(租税債務関係説的構成。【88】)からすると、納税義務の成立の領域では、租税権力関係説による場合と異なり、税務官庁の(創設的・形成的な)裁量行為の介入する余地が完全に排除され(須貝・前掲E15頁によれば「まだ債権者たる国も、ましていわんや、税務署も、そこには顔を出してこない」とされる)、したがって、課税要件法に基づく課税という意味での租税法律主義(合法性の原則)が完全に実現されることになる(第3回Ⅲ参照)。このことは、納税義務の成立に関して納税者と税務官庁は「課税要件法に服する者」として対等の地位にあることを意味する。 国税通則法15条1項は、「国税を納付する義務(・・・・・・)が成立する場合」における納税義務の確定を定めているが、このことは、この規定が納税義務の成立に関する租税債務関係説的構成を前提として納税義務の確定を定めていることを意味すると解される。つまり、納税義務の確定も租税債務関係説に基づいて構成されていると解されるのである。このような納税義務の確定に関する租税債務関係説的構成(【118】)によれば、納税者と税務官庁は、納税義務の確定に関しても、「課税要件法に服する者」として対等の地位にある。 納税義務の確定に関して納税者と税務官庁が「課税要件に服する者」として対等の地位にあるということは、両者ともに対等な立場で、課税要件の充足によって法律上当然に成立した納税義務について、その内容どおりに(正しく)課税要件事実を認定しなければならないということを意味する。この要請(実体的真実主義。前回Ⅱ)を実現するためには、納税者も税務官庁も確定権をもつと同時に確定義務を負うこととし、もって対等の立場で相互にチェックし合いながら課税要件事実の正しい認定を追求していかなければならないと考えられる。 国税通則法が以上で述べた納税義務の成立及び確定の定め(15条1項)を前提にして確定の手続として申告納税方式(16条1項1号)を定めていることからすると、申告納税制度は、納税義務の成立及び確定に関する租税債務関係説的構成に基づく制度であると解される。 要するに、申告納税制度は、納税義務の成立及び確定に関する租税債務関係説的構成に基づき、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化すべき制度であると考えるところである。 Ⅳ まとめ 以上でみてきたとおり、申告納税制度は、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化するものである場合には、手続的保障原則に適合し、かつ、租税債務関係説によって正当化される合理的な制度である。 最後に、申告納税制度をめぐる最近の動きをみると、「納税環境整備」の名の下、「適正な課税の確保」のための法定調書制度等による協力義務の拡充・強化が図られ、「自主的な適正申告の実現」に向けた方策やその担保策等の検討が進められているが(税制調査会「納税環境整備に関する専門家会合」の議論等参照)、以上で述べた考え方からすると、それらの措置が過度にパターナリズム的な性格を帯び民主主義的租税観を損なうことにならないよう配慮しつつ、納税者と税務官庁との権利義務の対等性や相互チェック構造を具体化する措置を手続法上講じていくべきであろう。 なお、今回は、かつて公表した拙稿「納税義務の確定の法理」芝池義一・田中治・岡村忠生編『租税行政と権利保護』(ミネルヴァ書房・1995年)61頁をベースにして、その後の研究も踏まえ、その一部を再構成したものである。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第5回】 「法人税の課税所得計算と損金経理(その5)」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 (8) 費用収益対応の原則と権利確定主義との関係 それでは、法人税法上、費用収益対応の原則と権利確定主義との関係はどうなっているのであろうか。この点について学説は明確ではないが、筆者は以下の通り理解すべきではないかと考えている。 すなわち、収益については、権利確定主義に基づき(費用を参照することなく単独で)計上すべき年度が決まる。一方で、費用については、前述の通り、償却費を除き債務の確定したものが損金に計上されることとなるが(債務確定主義ないし基準)、その確定の基準が明示されておらず、原則として収益を参照しないと年度帰属が決まらないのである。 そこで、費用の帰属年度を確定するための基準として登場するのが費用収益対応の原則である。すなわち、既に発生した費用及びこれから発生する費用のうち、当期の収益に対応するもの(直接的・個別的対応及び間接的・期間的対応)であれば、その発生が確実であり、かつその金額を正確に確認できるものについては、広く債務が確定したものと解して(※1)、当期の費用として計上するのである(※2)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)345頁参照。なお、法人税法22条3項3号は損失については債務確定を要求していない。 (※2) 酒井教授は当該原則につき、「実現主義によって認識された収益に、発生主義によって認識された費用を紐付けする基準であり」と解しているが、(工事進行基準のような例外を除き)収益が先、費用が後という意味で同旨であろう。酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅱ』(中央経済社・2016年)34頁。 法人税法における両者の関係を図示すると以下の通りとなる。 〇法人税法における費用収益対応の原則と権利確定主義との関係 (9) 損金経理とは 損金経理とは、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいい(法法②二十五)、昭和40年度の法人税法の抜本的改正において導入された規定である。ここで重要なのは、「確定した決算において」という要件である。すなわち、その確定した決算において計上した費用又は損金の金額(損金経理により計上した金額)は、申告調整により加減算することはできないということである。 一方、当該損金経理が適用される項目以外の項目については、法人の確定した決算においていかなる経理処理を行ったとしても、法人税の課税所得計算上は、法人税法の規定に従い適切な申告調整がなされることとなる。 法人税法においてこのような損金経理を要件とする項目がある趣旨としては、一般に、当該項目が一部に限定されていることに鑑み、法人の利益計算に際して、売上や仕入といった第三者が介在する取引のような外部取引とは異なり、減価償却費や引当金のような費用・損失に係る法人内部において発生する取引(内部取引)で、対外的な要素が介在しない場合については、株主総会等における承認という一定の手続き要件が課された計算書類において、法人の(対外的かつ最終の)意思を確認し経理処理を要求することで、課税所得計算の真実性が確保されるとともに、選択的・恣意的な経理処理を抑制し、もって適正な課税の実現を図ることにあると考えられる(※3)。 (※3) 濱田洋「国際化の中の確定決算主義」『租税法研究』40号68頁。また、損金経理要件を「自己拘束的規制」と解するものとして、谷口勢津夫『税法基本講義(第5版)』(弘文堂・2016年)400頁参照。 損金経理の意義について、裁判所は以下の通り判示している(大阪高裁昭和50年6月13日判決・税資81号822頁)。 法人税法における損金経理のイメージを図示すると以下の通りとなる。 〇損金経理のイメージ図 なお、外部取引に該当するものであっても、業績連動役員給与(法法34①三)のように利益処分性の強いものについては、損金経理が要求される場合があるので注意を要する。 (了)