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「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第5回】「執行役員に関する税務上の留意点①」~執行役員はみなし役員か~

「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第5回】 「執行役員に関する税務上の留意点①」 ~執行役員はみなし役員か~   税理士 大塚 進一   今回は、「執行役員が『みなし役員』にあたるか否か」に焦点を絞り考察する。   1 執行役員が使用人であるか否かの考察 執行役員は「使用人」にあたると解されるのが一般的である。しかし法人税法上、みなし役員の規定で「使用人は、職制上使用人としての地位のみを有する者に限られる」とされている。 ここで、法人税基本通達9-2-5(使用人としての職制上の地位)による「使用人兼務役員に規定する「その他法人の使用人としての職制上の地位」とは、支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位をいう。」から類推すると、執行役員が法人税法上の使用人であるためには、その会社の機構上明確に、使用人としての執行役員制度を定める必要があると思われる。 反対に、使用人としての地位を職制上定めていないと、「使用人以外の者」(使用人ではないが役員であるとも限らない)に該当すると思われる。 なお、執行役員の契約には委任契約と雇用契約があり、その執行役員が使用人であるためには、雇用契約でなければならない。しかし、委任契約なら直ちにみなし役員となるわけではない。   2 みなし役員の「経営に従事している」要件について 税務上、その執行役員が使用人でないなら、「みなし役員」に該当するかどうかに留意する必要がある。 みなし役員とは、 をいう。 この2つの条件にはいずれも「経営に従事している」ことがあげられる。しかし「経営に従事している」ことについて、法人税の法令や法人税法関係の通達に明確な規定はない。 そこで、国税不服審判所裁決事例を見ると、昭和47年10月23日裁決では、 経営方針、貸出機械等の料金の決定、資金計画、基本的資材購入の決定、従業員等の採用、支給給与、賞与の額の決定等を代表者らとともに行っていることにより、経営に従事していると判断されており、また、昭和55年2月20日裁決では、借入れの決定等、法人の資金計画、商品の仕入及び販売の計画、従業員の採用諾否や給与の決定等を行っていることにより、経営に従事していると判断されている。 なお、昭和47年10月23日裁決では、同族関係者が単に売掛・買掛帳の整理、請求書の発行、労働者の賃金計算等、経理事務を担当しているだけでは「経営に従事している」とは認められないと判断している。 すなわち、売上価額や仕入価額の決定、主要な取引先の選定、重要な契約に関する決定、資金調達や返済、使用人の採用及び退職の決定など、法人の重要な決定に係っている等、経営の枢機に参画している場合は「経営に従事している」といえ、経理事務に責任を負っている等、事務処理上での重要な職務に従事している場合や、販売や仕入の実務責任を負っているにすぎない等、それ以上の経営方針の決定に関与がなければ「経営に従事している」と判断されないものと解される。   3 執行役員が「みなし役員」にあたるか(経営に従事しているか) 執行役員の地位は、一般的に代表取締役の指揮監督の下、会社業務を分担して執行する責任を負っているにすぎず、その業務執行の方針は取締役会等で決定するため、法人税法上の「経営に従事している者」には該当せず、「みなし役員」にはあたらないこととされている。 そこで、その執行役員が取締役会に参加する場合、「経営に従事している」こととなるか否かが問題となる。 経営方針を決定する場において、実務担当者が意見を求められ、何らかの発言をする場合も想定される。このような場合、その執行役員の取締役会への参加の頻度、議決権の有無、発言権の有無や内容等、その影響力から総合的に判断される。担当する取締役等から参考意見を求められ、取締役会に参加したにすぎない場合など、経営方針の決定は取締役会でなされており、その執行役員には決定権がない場合は、「経営に従事している」とは言えない。 このため、執行役員の取締役会への関与は、議事録等により明らかにしておくべきである。   4 同族会社の執行役員が「みなし役員」にあたるか 同族会社の使用人たる執行役員が、一定の株式等の所有要件を満たしている場合でも、その執行役員が「経営に従事している」と認められないならば、「みなし役員」にはあたらない。しかし、中小企業で代表取締役の親族が執行役員であるとき、代表取締役がその親族に経営方針に関し、常時相談して判断している等の場合、その親族は「経営に従事している」とみなされやすい。 そのため、その執行役員と会社の意思決定との関わりには注意が必要である。   5 執行役員が業務執行役員(法人税法施行令69条7項)に規定される「準ずる役員」にあたるか 上記のように執行役員は役員ではないため、「準ずる役員」でもなく、直ちには法人税法34条1項3号の業務執行役員にはあたらないと解される。 (了)

#No. 259(掲載号)
#大塚 進一
2018/03/08

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第43回】「寄附金(終身年金)」~創業者の配偶者に対する金員の支給が寄附金に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第43回】 「寄附金(終身年金)」 ~創業者の配偶者に対する金員の支給が寄附金に該当すると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「創業者の配偶者に対する金員の支給が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成11年6月4日裁決(裁決事例集57号371頁。以下「本裁決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、法人税法130条2項に規定する要件を満たさない不適法な理由付記であると判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、次の①~④を処分の前提事実としている。 その上で、上記寄附金の損金不算入額を所得金額に加算した当初修正申告書の内容が正しいにもかかわらず、再修正申告書においてはこれを所得金額に加算していないとして、当該金額を所得の金額に加算するものである。X社の帳簿書類の記載状況は明らかではないが、ここでは、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当するものと理解して、検討を進める。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 本件理由付記は、X社が雑費に計上しているKに対する支給額を同人に対する寄附金として処理していた当初修正申告書の処理が正当なものであると記載している。なぜ当初修正申告書の処理が正当なものであるのかという点についての記載はない。つまり、寄附金に該当すると判断した具体的な理由や判断過程を明らかにしていないのである。 当初修正申告書を作成し、提出したのはX社であるから、税務調査官からの修正申告の勧奨に応じて、修正を要する理由を理解しないままに当初修正申告書を提出してしまったなどの特段の事情がない限り、当初修正申告書の内容を正当であると判断した具体的な処分理由が本件理由付記に記載されていないからといって、直ちに理由不備となるものではないという見方もあろう。 他方、本件更正処分は当初修正申告書そのものではなく、再修正申告書に係る処分であり、本件更正処分時に、課税庁においては、当初修正申告書の内容が正当であるか否かを調査し、判断しているはずである。このことから、当初修正申告書の内容が正当であり、再修正申告書の内容には誤りがあると判断した具体的な理由を本件理由付記に明記すべきであるという見方も成り立つ。創業者に対する退職慰労金の支払時にX社が当該終身年金の評価額とした金額が12,000,000円であることやKに対して支給している終身年金の支給累計額について、理由付記で触れるべきであったという批判もあるであろう。 この点、課税庁は、審査請求段階において、本件超過支給金額が寄附金に当たると判断した理由について、次のとおり、主張している。 これを読むと、課税庁が、当初修正申告書の内容が正当である、すなわち本件超過支給金額が寄附金に当たると判断した具体的な理由を理解することができる。 してみると、本件理由付記は、処分の根拠となる事実や判断過程を省略して記載しており、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するという理由付記の趣旨と必ずしも適合しないという評価も成り立つであろう。よって、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 *  *  * 次回は、「繰越欠損金の当期控除額の損金算入は認められないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 259(掲載号)
#泉 絢也
2018/03/08

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第34回】「NTTドコモ事件」~最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第34回】 「NTTドコモ事件」 ~最判平成20年9月16日(民集62巻8号2089頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 259(掲載号)
#菊田 雅裕
2018/03/08

平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】

平成30年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋     Ⅵ マイナス金利   1 実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い 平成29年3月29日に実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(以下、「マイナス金利取扱い」という)」が公表された。 マイナス金利取扱いは、退職給付債務、勤務費用及び利息費用(以下、合わせて「退職給付債務等」という)の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合の割引率に関する当面の取扱いを示すことを目的としている(マイナス金利取扱い1)。 (1) 会計処理 マイナス金利取扱いでは、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法による(マイナス金利取扱い2)。 【割引率ゼロとマイナスで割引計算を行った場合のイメージ】 (2) 適用時期 マイナス金利取扱いは、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれも認めることを当面の取扱いとして定めたものであるため、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度に限って適用する(マイナス金利取扱い3、17)。 (※) 平成30年3月31日に終了する事業年度以降の取扱いについては、下記2を参照。   2 実務対応報告公開草案第54号「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(案)」 平成29年12月7日に実務対応報告公開草案第54号「実務対応報告第34号の適用時期に関する当面の取扱い(案)(以下、「マイナス金利取扱い案」という)」が公表された。 マイナス金利取扱い案は、マイナス金利取扱いにおける適用時期の当面の取扱いを示すことを目的としている(マイナス金利取扱い案1)。 マイナス金利取扱い案では、平成29年3月31日に終了する事業年度から、マイナス金利取扱い第2項(※)に定めるいずれの方法によっても退職給付債務の計算に重要な影響を及ぼさず、当該取扱いを変更する必要がないとASBJが認める当面の間、マイナス金利取扱いを適用するとされている(マイナス金利取扱い案2)。 マイナス金利取扱い案は公表日以後適用される(マイナス金利取扱い案3)。   Ⅶ 事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組   1 「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」 内閣官房、金融庁、法務省、経済産業省は、平成29年12月28日に「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」を公表した。 また、金融庁と法務省は、平成29年12月28日に「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」を公表した。 これらの中では、事業報告及び計算書類(事業報告等)と有価証券報告書の一体的開示をより行いやすくするための環境整備の一環として、以下の項目について、記載の共通化等が記載されている。 詳細は、日本経済再生本部「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について」及び「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組について(参考資料)」を参考されたい。   2 当年度の改正 平成30年1月26日に金融庁より「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」が公表された。 (1) 改正内容 (2) 適用時期 上記改正は、平成30年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用する。   Ⅷ 金融庁の平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果   平成29年3月31日に金融庁より「平成28年度有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項」が公表された。これは、平成28年度の有価証券報告書レビューに関して、平成29年3月31日時点までの実施状況を踏まえ、複数の会社に共通して記載内容が不十分であると認められた事項に関し、記載に当たっての留意すべき点を取りまとめたものである。 レビュー結果の内容は、上場会社のみならず、非上場会社の平成30年3月期決算においても参考となる箇所がある。 1 企業結合に関する会計基準 《事例(1)》 取得による企業結合に直接関連する、外部のアドバイザー等に支払った特定の手数料等があるにもかかわらず、「取得による企業結合が行われた場合の注記」において、主要な取得関連費用の内容及び金額を記載していない事例 《留意点》 主要な取得関連費用が生じている場合、「取得による企業結合が行われた場合の注記」において、その内容及び金額を記載する必要がある。   《事例(2)》 連結子会社における当該連結子会社の非支配株主との取引による親会社の持分変動の結果、連結財務諸表において資本剰余金の増加が生じているにもかかわらず、「共通支配下の取引等の注記」において、増加した資本剰余金の主な変動要因及び金額を記載していない事例 《留意点》 非支配株主との取引によって親会社の持分変動が生じている場合、「共通支配下の取引等の注記」において、非支配株主との取引によって増加又は減少した資本剰余金の主な変動要因及び金額を記載する必要がある。   2 工事契約 《事例(1)》 工事の変更契約が行われた場合において、当事者間で合意した内容を実質的に考慮すれば、当該変更契約を当初の工事契約と一体の取引単位として取り扱うべきであるにもかかわらず、当初の工事契約とは別個の取引単位として取り扱っている事例 《留意点》 工事契約に係る認識の単位は、当事者間で合意された実質的な取引の単位とする必要がある。   《事例(2)》 工事契約の当事者間に工事契約の変更(追加工事)についての対価に係る合意がないにもかかわらず、当該対価を工事収益総額に含めている事例 《留意点》 工事契約の変更としての対価の変更は、それが何らかの形で合意された時点で、それに基づく信頼性のある見積りができる場合に限り、合意された変更を工事収益総額に反映する。   《事例(3)》 追加で発生することが見込まれる費用を考慮していないなど、合理的な見積データを基礎として工事損失引当金の認識を行っていない事例 《留意点》 工事損失引当金の見積りは、合理的な見積データを基礎として行う必要がある。   《事例(4)》 別々に工事進行基準を適用している工事契約を複数まとめて工事損失の見積りを行っていることにより、工事損失引当金が過少になっている事例 《留意点》 工事損失引当金の認識は、原則として工事契約の認識の単位ごとに行う必要がある。   3 棚卸資産 《事例(1)》 仕掛品に係る正味売却価額を直近の製造原価としている事例 《事例(2)》 正味売却価額について、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除して算定していない事例 《留意点》 棚卸資産の正味売却価額については、売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除して算定する必要がある。   《事例(3)》 正味売却価額の見積りに用いた売価について、販売(実現)可能性を考慮していない事例 《留意点》 売却市場における合理的に算定された価額を売価として用いる場合、当該価額は同等の棚卸資産を売却市場で実際に販売可能な価額として見積ることが適当である。   4 包括利益計算書 《事例(1)》 取得原価で計上されている有価証券に係る売却損益など、当期及び過去の期間にその他の包括利益に含まれていない項目を、組替調整額として開示している事例 《留意点》 組替調整額は、当期及び過去の期間にその他の包括利益に含まれていた項目が当期純利益に含められた金額に基づいて計算する必要がある。   《事例(2)》 繰延ヘッジ損益について、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額や、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額があるにもかかわらず、それらの金額を組替調整額等として開示していない事例 《留意点》 繰延ヘッジ損益について、ヘッジ対象に係る損益が認識されたこと等に伴って当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示する必要があること、また、ヘッジ対象とされた予定取引で購入した資産の取得価額に加減された金額は組替調整額に準じて開示する必要がある。   《事例(3)》 為替換算調整勘定について、連結子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩され当期純利益に含められた金額があるにもかかわらず、その金額を組替調整額として開示していない事例 《留意点》 為替換算調整勘定について、連結子会社に対する持分の減少(全部売却及び清算を含む)に伴って取り崩され当期純利益に含められた金額を組替調整額として開示する必要がある。   《事例(4)》 年金資産(退職給付信託を含む)の返還に伴い損益として認識した、当該年金資産に対応する未認識数理計算上の差異の金額があるにもかかわらず、その金額を組替調整額として開示していない事例 《留意点》 年金資産(退職給付信託を含む)の返還に伴い損益として認識した、当該年金資産に対応する未認識数理計算上の差異の金額については、組替調整額として開示する必要がある。   5 1株当たり情報 《事例(1)》 ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、ワラントが期中に消滅又は行使された影響を考慮していない事例 《留意点》 ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定においては、ワラントが期中に消滅、消却又は行使された部分について、期首又は発行時から当該消滅時、消却時又は行使時までの期間に応じた普通株式数を算定する必要がある。   《事例(2)》 ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において、期中平均株価ではなく過去数年の平均株価や期末株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を用いている事例 《留意点》 ワラントが存在する場合における潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定にあたっては、希薄化効果を有するワラントが期首又は発行時においてすべて行使されたと仮定した場合に発行される普通株式数から、期中平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を差し引いて算出した普通株式増加数を用いる必要がある。   6 その他 《事例(1)》 質的重要性(当該事項の性質等)について全く考慮していない事例 《事例(2)》 金額的重要性について単一の指標のみ(例えば、総資産に対する比率のみ)を検討し、その他の指標について検討していない事例 《留意点》 重要性が乏しいことを理由として記載を省略する場合には、重要性の有無について、慎重かつ総合的に検討すべきことに留意する。 ⇒注記を省略する場合、金額的重要性のみならず、質的重要性も考慮する必要がある。 ⇒また、金額的重要性の検討においては、単一の指標のみならず、複数の指標をもとに検討が必要となる場合がある。   (了)

#No. 259(掲載号)
#西田 友洋
2018/03/08

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第27回】「科目名の不統一が起きやすいのはこの科目」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第27回】 「科目名の不統一が起きやすいのはこの科目」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例27-1】 連結貸借対照表と貸借対照表で科目表記の不統一がある。 【事例27-1】は、同じ会社の同じ年度の連結貸借対照表と貸借対照表です。この中に1ヶ所おかしなところがあります。 勘定科目名が、連結貸借対照表と貸借対照表で統一されていないのです。 同じ会社の同じ年度で、同じ内容を示す勘定科目であれば、同じ表記にすべきですが、そうなっていないという意味です。 どこだかわかりますか?   2 「一」と「1」の不統一 さっそく、答えを見てみましょう。丸で囲った部分が不統一の部分です。 「一年内返済予定長期借入金」と「1年内返済予定長期借入金」という表記の違いです。 決算書としては、このままでも間違いではなく、どちらも同じ内容を示す勘定科目なので、どちらにそろえても構わないのですが、いずれかに統一表記すべきでしょう。 このミスは、分類でいうと「コーディネート・ミス」になります。この連載の【第10回】【第21回】でも取り上げています。 【第21回】では、今回の事例とよく似た事例も紹介しています。「1年内返済予定の長期借入金⇔1年以内返済予定の長期借入金」という不統一表記です。これも連結貸借対照表と貸借対照表の間での不統一です。連結貸借対照表と貸借対照表の作業を別の担当者が作成した場合に起きやすいミスです。   3 決算書本体と注記の間で起こる不統一 同種のミスは、決算書本体と注記の間でも起こります。 【事例27-2】は、貸借対照表と個別注記表の間での不統一表記です。 【事例27-2】 貸借対照表と個別注記表で科目表記の不統一がある。 事例のように、貸借対照表のすぐ下に注記が表示されているのであれば気づきやすいのですが、実際にはページが離れているため、こうした不統一表記に気がつかないことが多いです。 図で示すと以下のようになります。 さらに、次のような事例もあります。 【事例27-3】 連結貸借対照表と連結注記表で科目表記の不統一がある。 連結計算書類でも同じように、連結貸借対照表と連結注記表で不統一表記が起こることがあるのです。 図で整理すると以下のようになります。   4 コーディネート・ミスが起きる場所 コーディネート・ミスは、分業を原因とするミスです。作業を複数人で分担することにより、分担された各作業がバラバラに進み、その結果、全体としての統一性が損なわれるのです。 決算作業における作業分担として、まず頭に浮かぶのは、「連結と個別の作業を分ける」というものです。経理部門の中で連結と個別を別の人が担当するということもあれば、そもそも、連結決算を担当する部署と個別決算を担当する部署が分かれているということもあります。 その結果、連結計算書類と計算書類がバラバラに作成され、両者の整合性を確認することなく完成させてしまうと、コーディネート・ミスが残ってしまうのです。 連結と個別を分担する体制は多くの会社で見られます。したがって、コーディネート・ミスは「連結計算書類⇔計算書類」間でよく起こるというわけです。【第10回】【第21回】で紹介した5つの事例でも、4つの事例が「連結計算書類⇔計算書類」間のコーディネート・ミスでした。今回の事例では【事例27-1】が該当します。 では、【事例27-2】や【事例27-3】のような、決算書本体と注記の間でのコーディネート・ミスはなぜ起きるのでしょうか。 まず、決算書本体と注記のページが離れているからという理由もありますが、もう1つ考えられる理由があります。 それは、「インターネット開示事項」です。 連結計算書類や計算書類は、定時株主総会の招集通知に添付される書類ですが、これらの書類のうち所定の書類については、書面で株主に送付することに代えて、インターネット上で開示することでもよいとされています。特に連結注記表と個別注記表については、インターネット開示事項としている会社はかなり多いです。 そうすると注記表は、招集通知本体に組み込まれる決算書とは別のくくりになってしまい、「インターネット開示事項」というくくりで作業が行われることも考えられます。 以下は、ある会社の例を使って、作業のくくりを図示したものです。この図に、【事例27-2】と【事例27-3】のコーディネート・ミスの発生個所を矢印で示しています。 コーディネート・ミスの発生には、作業分担の状況が深く関係しているので、会社の作業分担の状況を把握して、コーディネート・ミスの起こりやすい場所を予想しておくと、ミスの発見が容易になります。 〈今回のまとめ〉 作業分担の状況とコーディネート・ミスの発生個所の関係を押さえておきましょう。 (了)

#No. 259(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/03/08

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第70回】大豊建設株式会社「不正支出問題に関する第三者委員会調査報告書(平成30年2月2日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第70回】 大豊建設株式会社 「不正支出問題に関する第三者委員会調査報告書(平成30年2月2日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【大豊建設株式会社の概要】 大豊建設株式会社(以下「大豊建設」と略称する)は、昭和24(1949)年設立の土木建築工事業者。国内外に8社の関係会社を有する。連結売上高143,613百万円、経常利益10,131百万円、従業員数1,163名(数字はいずれも平成29年3月期)。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所1部上場。   【調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 平成29年9月6日、大豊建設代表取締役社長大隅健一(以下「大隅社長」と略称する)宛に、以下の内容が記された匿名の投書が届いたため、調査を行ったところ、流出した資金の一部が、当時の大豊建設代表取締役会長水島久尾(以下「水島元会長」と略称する)に還流された疑いが生じた。 《匿名の投書の内容(調査報告書p.2)》 そこで、大豊建設は同月26日の臨時取締役会において、社内に「事実調査委員会(以下「会社調査委員会」という)」を設け、調査に着手し、会社調査委員会の調査結果に基づき、12月8日付の「弊社事業所における不正取引に関するお知らせ」というリリースにおいて、架空発注・水増し発注による工事費約1億4,000万円を不正に支払っていたことを公表した。 しかし、この調査結果の公表に対して、同社の会計監査人であるあずさ監査法人及び東京証券取引所などから、「本件調査の妥当性について、外部専門家の視点から検証されるべき」、「他の作業所等においても、同様な不正が行われていないかどうか調査すべき」であるとの指摘を受けたため、12月19日の取締役会において、第三者調査委員会の設置を決議した。 2 第三者委員会による調査の概要 社内調査の結果を受けて行われた第三者委員会による調査の論点は、工事所長が行った架空発注・水増し発注によるX社への増額支払いが、水島元会長らに対する資金還流を目的とした不正行為であったか、単なる下請業者との間の利益調整に過ぎないのかという点に絞られていた。 第三者委員会による調査の結果は、後述するように、水島元会長らによる架空・水増し発注の指示も資金還流も証拠は発見されず、下請会社との利益調整に関して手続的に瑕疵があったと判断するに止まっている。 (1) 水島元会長とX社Y社長との関係 水島元会長は、本件における社内調査の結果を受けて、平成29年11月10日付で代表取締役会長を辞任しているが、会社調査、第三者委員会調査を通じて、本件不正への関与を一貫して否認している。 水島元会長とX社Y社長は従兄弟の関係にあり、平成29年3月14日に死亡した元代表取締役副社長水島富和(以下「水島元副社長」)は、X社Y社長の実弟である。 また、大豊建設とX社との取引高は、水島元会長が副社長に就任した平成18年4月から拡大し、年度によってばらつきはあるものの、12年間の総計で353件86億円を超えるまでになっていた。 こうした背景から、社内調査では、架空・水増し発注に対する水島元会長の関与が疑われることとなった。 (2) 会社調査委員会による調査結果のまとめ(調査報告書p.11) 会社調査委員会は、主として、架空・水増し発注の実行者である工事所長の供述を根拠として、X社に対する約1億4,000万円の社外流出を認定し、こうした行為には、水島元会長らの意向が強く働くとともに、資金の一部がX社から水島元会長らに還流したのではないかという強い疑念を抱いた。 一方、水島元会長をはじめ、工事所長の指示を行った副支店長らは、水島元会長らの指示・意向を否定して、X社との継続的な取引に伴う利益調整である旨強く主張した。 このため、会社調査委員会による調査では、水島元会長らの行為の違法性は断定できなかった。 図1:会社調査委員会による疑惑 (3) 会社調査委員会による調査結果の検証(調査報告書p.37) 第三者委員会は、X社から提出された会計書類によっても、資金還流の疑いを生じさせる記載はないことから、「資金還流はなかった」という前提に立って、「違法性を判断する重要な柱である架空発注の動機」が欠けることから、支払の正当性・妥当性という問題に矮小化され、元会長・元副社長の親族企業に対する追加の工事費支払いが「依怙贔屓」ではないかという問題に帰着する、としている。 そのうえで、本件を紛糾させた要因は、元会長・元副社長と親族関係にある下請会社との取引について、これを適正に管理する意識が欠如していたことを挙げている。 図2:第三者委員会の調査結果 (4) アンケート調査の結果 第三者委員会によるアンケート調査の結果、類似事例が2件発見された。 ① 大阪支店における裏金作りのための架空発注 大豊建設大阪支店では、支店長以下の幹部社員が関与して、X社に対する架空発注を行ったうえで、発注額の半額を大阪支店に還流させる取引が行われていたことが判明した。 架空発注金額は2,900万円で、その半額の1,450万円が、大阪市内の喫茶店において現金入りの封筒を手渡しする方法で還流していた。還流資金の管理は支店次長が行い、発注者との飲食やゴルフ代金、大阪支店土木部の懇親会費に充当されていた。 なお、本件架空発注による裏金作りについては、X社Y社長も承諾しており、使途不明金に対する課税を見越して、還流依頼額の倍額の架空発注を求めていたことが判明している。 ② 「豊栄会」への利益還元 平成28年1月、水島元会長は、工事協力会社の団体である「豊栄会」との賀詞交換会において、大豊建設の利益が回復したことから、豊栄会加盟各社に対してもその利益の一部を還元する意向であることを表明し、経営幹部が実務的な調整を行った結果、加盟各社の年間施工高の1%を目安として利益を還元する方針が、水島元会長に了承された。 その結果、「値引きの調整」又は「架空発注」により、平成27年度に2,958万円、平成28年度に420万円の利益還元が行われた。 3 第三者委員会による提言 第三者委員会による提言は、本件架空・水増し発注が行われた大豊建設における企業風土や体制の欠陥といった不正発生原因と、「刑事告発」「損害賠償」といった事後処理策、再発防止策が混在したものとなっているが、それぞれについてまとめておきたい。 (1) 企業風土とコンプライアンス体制の欠陥 第三者委員会は、提言の「はじめに」において、大豊建設においては、「手続の適正性」に関する意識が極めて希薄であり、「どんぶり勘定」的感覚が蔓延する企業風土があることを危惧している。そして、内部監査を専門とする部署が存在しない理由についても、手続の正統性よりも人的関係を重視する旧態依然たる企業風土があったとの疑念を表明している。 また、下請業者に対する利益調整のためとは、社員が、安易に架空発注や工事費の水増しに手を染め、あるいは上位者の指示に無批判に従っていることは、内部統制システムが十分に機能していないことを示している、と断じている。 (2) 刑事告発と損害賠償請求 第三者委員会は、刑事告発について、X社への架空・水増し発注の件では、水島元会長らへの資金還流の証拠がない以上、著しく困難であり、裏金作り目的の架空発注についても、刑事告発をして処罰を求める必要があるとは言いがたいと結論づけている。 一方、損害賠償請求については、X社への架空・水増し発注分に関して、第三者員会は以下のような検証の提案を行ったものの、X社は協力を拒否したとのことである。 一方、大阪支店で行われていた裏金作りのための架空発注については、「架空発注分の支払金額」から、「資金還流額」と「X社において発生した税金その他の費用」を控除した残額を清算することが合理的な解決方法であるとし、X社においてもこれに応じる意向を示しているとのことである。 (3) 再発防止策 第三者委員会が提言した再発防止策は以下のとおりである。 第三者委員会が極めて弱体であると評した内部監査部門については、「本社企画室が兼務し、実質的に内部監査を実施する者は1名に過ぎない」ことを明らかにするとともに、監査体制の抜本的見直しは、「喫緊の課題」であるとしている。   【調査報告書の特徴】 大豊建設が12月8日付で公表した「弊社事業所における不正取引に関するお知らせ」というリリースの中では、本件不正は、「平成29年9月6日付で外注契約における不正な経理処理を告発する匿名の投書が弊社内部通報窓口等」に届いたことが、不正調査の端緒になっていると説明されていた。 ところが、この説明は、第三者委員会による調査報告書の中で事実と異なることが明らかにされ、実際には、本件不正の実行者であった所長が内部告発のかたちで情報を挙げたところ、これを社内通報制度に乗せて、社内調査を始めたものであることが判明している。 こうした調査着手の経緯から、本件架空・水増し発注をことさらに問題視する背景には、現社長が元会長を権力の座から追い落とそうとする意図が垣間見えるのであるが、その点について、第三者委員会は否定している。 1 会社調査委員会による調査 9月6日付の匿名の投書を受けて社内調査を行っていた大豊建設は、同月26日の臨時取締役会で「事実調査委員会」の設置を決議した。その委員は以下のとおり、社外取締役を外部有識者がサポートする形となっており、樋渡委員と東海委員は、その後の第三者委員会による調査でも補助者として調査に参加している。 《会社調査委員会の構成》 2 水島元会長の辞任 水島元会長は、社内調査の結果を受けた取締役会により、本件の遠因が同氏とX社とが特殊な関係にあることを理由に強く辞任を勧告された結果、平成29年11月20日付で「体調不良により病気療養に専念したい」ことを理由として辞任を表明した。 また、第三者委員会による予備的調査に対し、水島元会長は、「本件は、私に反発する大隅社長ら現執行部が、私を会社から排除するために仕組んだものではないかという疑いを持たざるを得ない」と供述したということであり、この供述を読む限り、架空・水増し発注の調査を「権力争い」の道具にしたのではないかとの印象は強くなる。 しかし、前述したとおり、第三者委員会は、本件の発覚経緯は、架空・水増し発注を命じられていた工事所長による内部告発によるものであり、大隅社長ら現会社幹部が、理由もなく、水島元会長の追い落としを「仕組んだ」とまで評価するのは当を得ないとしている。 3 第三者委員会による再発防止策 再発防止策として「人事評価制度」が挙げられているのはいささか唐突の感があるが、第三者委員会によれば、「仮に上司の指示に疑問を持っても、人事への跳ね返りを恐れて口をつぐまざるを得なかった」と関係者が異口同音に強調したとのことで、上司の意に沿わない話が経営幹部に伝わらないという欠陥を生みかねないとの懸念を表明している。 しかし、具体的な人事評価システムについては、「提言の範囲を超えるので、これ以上の言及は避ける」と逃げてしまっている点、提言としても物足りないものとなっている。 また、社内処分についても、「懲罰的処分」とならないよう留意すべきであるとか、「報復人事」と疑われることのないよう慎重な配慮をすべきであるといった具体性を欠く提言に止まっており、「当委員会の職責を超えるおそれがあるので、これ以上の言及を避ける」としている。 こうした表現につながった事情としては、第三者委員会に委嘱された「目的」が、第三者委員会の設置を公表したときのリリースと調査報告書とで異なっていることが関係していると考えられよう。 第三者委員会の目的について、平成29年12月19日付リリースと調査報告書を比較すると以下のとおりである。 第三者委員会による「提言の範囲を超える」「職責を超えるおそれ」といった表現が、第三者委員会設置後に大豊建設によって制限されたと思われる調査の目的の範囲に影響を受けたものかどうかまで調査報告書には言及はないが、第三者委員会の独立性や中立性と密接に係わる部分でもあり、気になるところである。 4 大豊建設における「架空発注」の意義 第三者委員会は、大豊建設による「架空発注」について、大阪支店において発覚したような裏金作りのための行為は、「明らかに違法であり、場合によっては、詐欺・横領・背任などの犯罪にも問われかねない」としながらも、単に下請業者との間の利益調整のための「架空発注」については、「これが会計諸則に違反し、ひいては税法上の問題にもなり、許されないものである」にもかかわらず、大豊建設社員の間では、「単に手続き的な違反に止まるかのような意識」があったという疑いを表明している。 本報告書は、当然、東京国税局調査担当者の目にも触れているはずであり、「利益調整のための架空発注」が、大豊建設の法人税の計算上、損金の額に算入できるかどうかについて、厳しい攻防がなされることが予想されるが、少なくとも、大阪支店における裏金作りのための架空発注は、「隠蔽又は仮装」行為として重加算税の対象となるかどうかが争点となるであろうし、豊栄会傘下の下請会社に対する利益供与は損金性を否定され、こちらも重加算税の対象とするという判断が出てもおかしくはないであろう。また、本件調査の発端となったX社に対する追加発注についても原価性が否認される可能性は低くないものと思料する。 第三者委員会は、裏金作りのための架空発注や豊栄会関連の下請業者に対する利益還元のための架空発注について、「会社調査委員会においてもその概要を把握していた」ことを認めながら、「公平を期すため」その調査を第三者委員会に委ねたものであり、「隠蔽する意図があったとは認められない」と結論づけているが、この論旨は受け容れがたい。 客観的に事象を見れば、税務調査において損金算入の可否を争うことができる余地の大きい、X社に対する追加の支払だけを公表して幕引きを図り、重加算税の対象となる蓋然性が高い残り2つの事案(裏金作りのための架空発注と豊栄会関連の下請業者に対する利益還元のための架空発注)を公表しない決定をしたと考える方が納得できるのではないかと考える。会社調査において、2人の税理士が調査に従事し、かつ、彼らが第三者委員会においても調査補助者として加わっていることを勘案すれば、税務上の問題に関しては、相当議論が行われたものと見る方が自然ではないだろうか。 5 業績への影響 大豊建設は、調査報告書を公表した際のリリースにおいて、以下のように過年度決算の修正を行わない方向で検討していることを明らかにしている。 単体での経常利益が60億円を超える大豊建設の規模からみて、過年度決算の修正を行う必要はないという判断は妥当なものであろう。 一方、前項で検討した税務上の取扱いに関連して言及すれば、「不正取引」と断じてしまうと、自ら損金に算入することの合理性を否定してしまうことになりかねないのではないだろうか。税務調査対策としては、「調査の対象となった取引金額は約2億3,000万円」などという表現の方がよかったのでないかと考える。 (了)

#No. 259(掲載号)
#米澤 勝
2018/03/08

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第7回】「事実関係の調査義務・資料収集義務に関する諸問題」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第7回】 「事実関係の調査義務・資料収集義務に関する諸問題」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹   Q 長年の関与先である社長甲の父親(先代社長)乙が亡くなったとのことで、相続税申告の依頼を受けている。甲社長に対し、先代社長乙の銀行預金通帳を見せてほしいと言ったところ、数百万円の預金のある口座の通帳1つだけを渡され、「この他にはないと思う。」と言われた。乙は引退後、悠々自適の生活をしていたはずで、不自然だとは思ったが、関与先ということもあり、社長に対し強く言うこともしたくない。 しかし、税理士としてはやはり言うことは言わねばならないか、とも迷っている。 どのように対応すべきか。 A 依頼者が、税理士から適切な説明・指示を受けていれば適切に申告ができたにもかかわらず、これが無かったために過少申告加算税・重加算税が賦課されるということは十分にあり、このような場合、依頼者から税理士に対して損害賠償請求が行われることもあり得る。他方で、税理士から質問を受けても、要領を得ない回答をする依頼者もいるところ、このような場合、税理士はどこまで事実関係を調査・確認しなければならないのか。 本件のように税理士の調査・確認義務の範囲が問題となった過去の裁判例を紹介の上、検討を行う。 ① 京都地裁平成7年4月28日判決、大阪高裁平成8年11月29日判決 この2つは、同じ事案の第一審、第二審判決であるが、結論が異なっている。 京都地裁では「税理士の補助者が依頼者から、買替特例の適用を受けていたことを窺わせる説明を受けていた」という事実認定での判断であるが、大阪高裁では「買換特例の適用を受けていたことを窺わせるような事情が存在したとは認められず、課税庁に出向いて買換特例の適用を受けていたかどうかを確認することを必要とする状況が存在したとも認められない」という事実認定での判断であり、前提となる認定事実の差が結論の差に影響している。 両裁判例を考えると、「依頼者からの説明の中に、更なる調査の必要性を窺わせるような事情があれば、税理士としては調査すべき」ということができる。 ② 大阪高裁平成8年3月15日判決 相続財産である土地の区域区分という基本的な事情の確認・調査を怠ったという事案である。依頼者から説明が無くても、事柄から当然に確認・調査の必要性が明らかになっており、このような場合には調査すべきと判断したものである。 ③ 東京高裁平成10年11月9日判決 相続財産である土地の評価について、路線価によらない価額で申告した結果、依頼者が過少申告加算税等を課されたという事案である。 税理士自身、このような評価額で申告した場合には、税務署によって否認される可能性があると認識していた以上、たとえそれが正当な申告であると確信していたとしても、依頼者にその旨説明し、また、同評価額が適正であることを裏付ける不動産鑑定士の鑑定書を用意するように助言・指導すべきであると判断した。 ④ 東京地裁平成24年1月30日判決 相続財産申告にあたって海外資産を申告しなかったため、依頼者が過少申告加算税等を課されたという事案。 税理士が、被相続人の生前、所得税申告の際に被相続人の海外医療費に関する資料を受け取った経験があったことから、被相続人は海外資産を有する可能性が高いと認識していたという認定のもと、相続税の申告に際して海外資産が相続財産から漏れることがないように、依頼者に対して、海外資産に関する資料の提出を求めるとともに、そのような資料が手元に存在しないのであれば、海外資産の存否及びその内容を調査するよう指示すべきと判示した。 ⑤ 東京高裁平成20年2月13日判決 税理士が説明や資料提供を求めたが、依頼者の協力が得られなかったという事案である。 と判示した。 ⑥ 東京地裁平成24年10月16日判決 相続税申告後、課税庁により、被相続人の締結していた保険契約が、被相続人の意思無能力を理由に無効と判断されたという事案である。 と判示している。 上記裁判例をまとめると、税理士の確認・調査義務の内容はおよそ以下のようなものということができる。 *  *  *  * 本設問では、税理士は個人的に、先代社長の生活状況を認識しており、その認識を前提にすれば、先代社長を務め悠々自適に生活していた乙の預金が数十万円というのは明らかに不自然ということができる。したがって、税理士の個人的な認識を考慮すれば調査・確認の必要性が明らかになっているとして、乙の預金の状況について調査・確認すべき義務が生じているといえる。 そうすると、税理士としては、やはり甲に対し本当に乙の預金がないのか十分確認すべきあり、具体的には、乙の預金通帳・取引履歴、自宅内に現金がないかという点について、資料の提供・説明を求めるべきである。あるいは、乙が名義預金の形で貯蓄していることも考えられ、一般人は名義預金の遺産性についてよく知らない可能性があることも税理士であれば当然知っておくべき事柄といえることから、名義預金も相続財産となること、過少申告の場合には加算税が課されるという不利益も生じることなども説明すべきである。 もっとも、乙の預金通帳・取引履歴、自宅内の状況等については甲の協力なしには確認困難で、ほかに税理士として可能な調査方法も存在しない。したがって、税理士の働きかけやリスク説明等にもかかわらず、甲が協力しない場合にまで、税理士が調査・確認義務違反となることはないと考えられる。 もっとも、後々、甲との間で「説明を受けた・受けていない」という点で紛争となる可能性もあり得ることから、場合により、説明内容等を書面にし、甲に確認の署名・押印をもらうことも行っておくべきである。 (了)

#No. 259(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2018/03/08

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-共通編- 【第1回】「デューデリジェンスの種類と必要な場面」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -共通編- 【第1回】 「デューデリジェンスの種類と必要な場面」   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   (次回)→   デューデリジェンスとは、M&A(企業買収・売却)や企業再生などの取引実行前に、対象会社や対象事業(以下、「対象会社等」)に対して実施する調査の総称である。一昔前は、買収監査や、Due(当然の、正当な)とDiligence(勤勉、精励、努力)を組み合わせた言葉などと説明されていたが、現在ではその必要もなく、デューデリジェンスという用語は一般化している。 特に、近年経営者の説明責任は非常に重要であり、企業買収や組織再編、経営統合などの取引合理性を、株主や金融機関を含む利害関係者に説明するためには、適切なデューデリジェンスが必要不可欠である。デューデリジェンスは、通常、基本合意契約(LOI)が締結された後で、かつ、最終条件交渉に移る前のタイミングで実施される(下図、Step5)。 デューデリジェンスは、調査の視点などにより、ビジネスデューデリジェンス、財務・税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、人事デューデリジェンス、ITデューデリジェンス、環境デューデリジェンスなどの種類があり、多くは下記の目的で実施される。 ここではデューデリジェンスのなかでも代表的な下記の3つを説明する。 次のEYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社の調査によると、日本における2017年のM&A市場は、日本企業の経営層が成長に引き続き重点を置くため、さらに活性化すると予測している。国内経済成長の低迷や海外の政治的な不確実性がある中、企業のビジネス環境の変化が加速し、M&Aは成長への近道として、日本企業の重要な戦略のひとつになるであろう。 ◆日本におけるM&A取引(単位:兆円) (出典:EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社) 【実務事例1-1】 下北沢建設は、国内市場の拡大のため同業他社である非上場会社の御堂筋建設の買収を検討している。情報漏洩防止のため、下北沢建設の経営企画部が所管となりプロジェクトチームを組成し、ビジネス、財務・税務、法務の側面からデューデリジェンスを実施することとなった。 下北沢建設は、財務・税務デューデリジェンスは会計監査人以外の会計事務所、法務デューデリジェンスは顧問弁護士以外の弁護士事務所をアドバイザーとして登用し、同業の買収であることから、ビジネスデューデリジェンスは、同社プロジェクトチームにて実施することにした。   当然のことながら、今後本連載で紹介する全てのデューデリジェンスを実施する義務や必要性はなく、具体的なM&A取引の状況に鑑み、必要な調査を実施することになる。すなわち、具体的にどのような調査に重点が置かれるのかについては、対象会社等の資産内容やビジネスの性質に応じて決定されることになる。 重要なのは、複数のデューデリジェンスを実施した場合においては、それぞれの結果を有機的に関連づけて、総合的に評価することが、M&Aを失敗しない近道となる。特に、中小企業を対象会社等として、デューデリジェンスを実施する場合、下記の特徴を十分に理解しておく必要がある。 (了)

#No. 259(掲載号)
#松澤 公貴
2018/03/08

AIで士業は変わるか? 【第5回】「AIの時代の税理士業を予想する」

AIで 士業は変わるか? 【第5回】 「AIの時代の税理士業を予想する」   税理士・公認会計士・弁護士 関根 稔   ◆AIが意識を持つ時代 「コンピューターが人間と同じ思考をするようになる」「ロボットが意識を持つようになる」などの議論があるが、そんなことは全くあり得ない。 そもそも人間の意識とは何なのか、人間の思考とは何なのか、人間の脳の働き、記憶などについて、何一つ解明されていないところで、機械が、人間の役割を演じることなどあり得ない。 AIが人間に代わって思考し、働くようになり、専門職の人たちは仕事を失う。そのような意見があるが、それは全くの過剰反応だ。 コンピューターがディープラーニングによってプロの棋士に勝つまでに成長した。それはブルドーザーが相撲取りより重い物を持ち上げられるようになったのと同じように、単純な作業に特化した機械が登場しただけのことだ。 将棋の棋譜で人生が語れるわけではない。   ◆ディープラーニングという知能 そもそもディープラーニングは「分類」と「区分」ができるだけだ。猫の画像をグルーピングして、犬の画像をセパレーションするが、それが猫だと認識しているわけではない。ただ「A」と分類しているだけだ。数字や言葉などデータとして表現できるモノしか扱えず、「これを分類しろ」という命令が実行できるだけのことだ。 ディープラーニングが騒がれるのは、先に定義することなく、機械自体が分類精度を自ら向上させていくことができるシステムということだ。しかし、どのような判断基準で分類したかを自らは語れないという意味で、郵便物の自動仕分け機と差異はない。 人間の脳を人工知能で模倣するというのはSFの世界で、人工知能で人間の仕事がなくなるというのは妄想の会話だろう。脳の機能自体が全く解明されていない段階で、脳を模倣する機械など作れないのは自明の理だ。私自身はディープラーニングの技術を知らないので次の書籍の受け売りだが、もっともな理解だと思う(田中潤・松本健太郎 著『誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性』光文社、2018年)。   ◆税理士が消えてしまう職業に 米国発の情報として、税理士業がAIによって消えてしまう職業にリストされたようだが、そもそも税理士という職業は米国に存在しない。消えてしまうと定義されたのは、おそらく企業の経理担当者や銀行の窓口業務の人たちだろう。 そのような職業は、ここで指摘されるまでもなく10年前に比較すれば半減、いや10分の1にまで減っている。現場で入力する数字が、即、経理情報として集計される時代だ。昭和の時代、大企業には大量の経理職員が存在したが、いま、経理職員は数えるほどしか存在しないと思う。さらに、経理業務がプロの仕事からコンピューター入力という単純作業になっていることも指摘できる。   ◆税理士こそがAIの最先端を走る 中小零細企業で、最初にコンピューター化したのは税理士業だ。手書きの元帳からオフコン会計に乗り換え、パソコン会計、税務申告書ソフト、電子申告と事務作業の電算化をいち早く取り入れてきた。 AIの進化は、税理士業に役立ちこそすれ、税理士業の障害になるはずはない。それは、これからも同様であって、コンピューターと税理士業の関係はバラ色でしかない。上手にこれらの道具を利用すれば、時間や場所から開放され自由に仕事ができるし、依頼者との距離もゼロにした仕事ができる。 現に、私の顧問先は日本中に散らばっていて、会ったこともない顧問先とメールで情報交換している。目の前にパソコンがなければ5分と間が持たないが、しかし、目の前にパソコンがあれば場所は問わない。24時間、365日が仕事の時間になっている。 バラバラの時間をバラバラに利用できるようにしてくれたのがコンピューター、ネット、メールという道具だ。そんなことは10年前には不可能だったし、10年後には、さらに便利な社会になっていると思う。   ◆Googleより優秀な税理士 ただ、AI、いや、それ以前にコンピューター、ネット、メールが知的専門職の仕事の仕方を変えてしまったのは事実だろう。いま、Googleより優秀な税理士は存在しないと思う。知識、情報、経験、ノウハウのオープン化が訪れる。いや、既に、そのような時代になっている。 有料の出版情報として提供されていた通達集は全て無料の電子情報になり、タックスアンサー、質疑応答事例、法令解釈の情報、文書回答事例、裁決事例集も無料で公開されている。Googleで検索すれば信頼できる同業者の解説が容易に手に入る。 専門家が財産としていた情報の価値が失われる時代だ。専門家が知識を語っても、その信頼性はGoogleで直ちに検証されてしまう。   ◆知識と共に人生を語る税理士 そのような時代に、税理士は、どのようなスタイルで仕事をすべきか。手書きの帳簿で、借方と貸方を合わせて、別表4と5を書いていたのでは生き残れないのは確かだ。 過去は分析できるが、未来を語るのは容易ではない。それでも、あえて未来を語れば、知識を語る時代ではなく、平穏、経験、人生を語るべき時代だと思う。 部品人間はサラリーマンに任せて、自己責任で生きてきた私たちは、人生の指針を語る存在にならなければならない。それが他人の財産と人生を管理する税理士の立ち位置だと思う。 (了)

#No. 259(掲載号)
#関根 稔
2018/03/08

《速報解説》 馬券の払戻金の所得区分に係る昨年12月の最高裁判決を受け、所得税基本通達が再び改正へ~ソフトウェア未使用の場合にも雑所得に該当するケースを追加~

《速報解説》 馬券の払戻金の所得区分に係る昨年12月の最高裁判決を受け、 所得税基本通達が再び改正へ ~ソフトウェア未使用の場合にも雑所得に該当するケースを追加~   Profession Journal編集部   国税庁は2月15日、昨年12月の最高裁判決を受け馬券の払戻金の所得区分に係る所得税基本通達を改正する旨公表していたが、3月2日付けでこの改正のパブリックコメントが開始され、具体的な改正内容が明らかとなった(意見・情報受付締切日は4月2日)。 競馬の馬券の払戻金の所得区分をめぐっては、平成27年3月10日の最高裁判決により同年5月の通達改正で所得税基本通達34-1《一時所得の例示》に下記下線部が追加され、馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用する等、一定の態様により生じた馬券の払戻金について雑所得とする(外れ馬券の購入費用を必要経費として認める)取扱いとなった。 ただしこの改正後にも馬券の払戻金の所得区分をめぐる裁判が繰り返され、昨年(平成29年)12月15日の最高裁判決において、ソフトウェアを使わずに作成した購入パターンに従い年間を通じ多額の利益を上げ回収率が馬券の購入行為の期間総体として100%を超えるよう馬券を購入し続けてきたケースにおいて、営利を目的とする継続的行為からした所得として雑所得に当たるとした判断が下されたことで、今回の見直しに至った。なおこの判決では一審で納税者が敗訴したものの二審で逆転勝訴、最高裁が国側の上告を棄却したことで確定している。 今回パブコメに付された改正案では、所基通34-1(2)の注書きが下記下線部のように改正されており、最高裁の判決内容を織り込む形となっている、 なお、国税庁はホームページ上で今回の取扱いは過去に遡って適用されるため、これにより過去に申告した所得税が納めすぎとなる場合は所轄税務署へ更正の請求をすることで納めすぎとなっている所得税の還付を受けることができるとしている(法定申告期限から5年まで)。 今回の改正で雑所得となるケースが広がったようにも見えるが、上記の通り最高裁判決のケースに限定して反映された内容となっており、確定申告期間中にもかかわらず遡及適用可能としたパブコメ公表を行っていることからも、実際に改正通達により還付を受けられるのはレアケースになると考えられる。 東京高裁平成28年9月29日判決(最高裁平成29年12月20日上告棄却)では馬券購入行為が連続して多数回行われたにすぎず営利を目的とする継続的行為から生じた所得とはいえないとして払戻金を一時所得に該当する(外れ馬券の購入費用は必要経費として認められない)と判断しており、今後も個別の事案ごとにその実態で判断されるという意味においては、改正前後で大きな変更はないともいえよう。 (了)

#No. 258(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/03/06
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