酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第70回】 「社会通念から読み解く租税法(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 租税法の解釈適用において、しばしば「社会通念」による判断が示されることがある。この社会通念に従う判断とはどのようなものであろうか。 一般的に、「社会通念」とは、「社会一般に通用している常識または見解。法の解釈や裁判調停などにおいて、一つの判断基準として用いられる。」などと説明されることが多いように思われる(デジタル大辞泉)。 例えば、法人税基本通達の前文「法人税基本通達の制定について」を確認してみよう。 このように、法人税基本通達前文においても、社会通念に即した判断が強調されているのである。 なお、所得税基本通達前文でも、「この通達の具体的な適用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。」とされている。 さて、社会通念によって判断するということはいかなる意味を有するのであろうか。今回の連載では、社会通念に焦点を当てて租税法を読み解くこととしたい。 Ⅰ 社会通念とは何か はじめに述べたとおり、社会通念によって法的判断が示されることは少なくない。 例えば、表現の自由について争われたいわゆるチャタレー事件最高裁昭和32年3月13日大法廷判決(刑集11巻3号997頁)では、「本被告事件において問題となっている『チャタレー夫人の恋人』が刑法175条の猥褻文書に該当するか否か。これについて前提問題としてまず明瞭にしておかなければならないことは、この判断が法解釈すなわち法的価値判断に関係しており事実認定の問題でないということである。」とした上で、社会通念について次のように示している。 *なお、チャタレー事件とは、イギリス人作家であるD・H・ローレンス(D.H.Lawrence)の『チャタレー夫人の恋人』を日本語訳した作家と出版社社長につき、刑法175条《わいせつ物頒布等》の罪が問われた事件である。この事件では、猥褻と文芸作品としての表現の自由の関係が議論された。 このように、最高裁は、著作が刑法175条の猥褻文書にあたるかどうかの判断は法解釈の問題であるとし、その判断基準を社会通念であるとする。そして、社会通念とは何かにつき、以下のように示す。 社会通念とは「集団意識」であるとしていることからも明らかなとおり、すべての個々人の意見が統一的である場合を指しているわけではないということである。そして、最高裁は次のように続けている。 このように、社会通念が国民すべての統一的意見でない以上、社会通念が何であるかは裁判官が良識に従い決定しなければならないとしており、それは、法解釈と同様であるという。 そして、本件において争点となっている猥褻と社会通念については、「性一般に関する社会通念が時と所とによって同一でなく、同一の社会においても変遷がある」とし、「男女の交際や男女共学について広く自由が認められるようになり、その結果両性に関する伝統的観念の修正」が要求されてきている等、「往昔存在していたタブーが漸次姿を消しつつあることは事実である」としつつも、以下のとおり判断している。 最高裁はこのように判示し被告人側の上告を棄却しているが、ここでは、何をもってして社会通念を判断すべきとしているのであろうか。また、社会通念の何たるかを裁判所が判断することについても一定の難しさがあるように思われる。 以下では、そうした社会通念が、租税訴訟において顔を出しているいくつかのケースをみてみよう。 Ⅱ 租税法と社会通念 1 興銀事件 債権放棄に係る貸倒損失の損金算入の可否が争われた事件として、いわゆる興銀事件がある。 興銀事件では、高裁判断と最高裁判断とが分かれたが、原審東京高裁平成14年3月14日判決(民集58巻9号2768頁)は、次のとおり判断し、X社(原告・被控訴人)の請求を棄却している。なお、A社は住宅金融専門会社(いわゆる「住専」)であり、X社はその母体行である。 X社は、母体行である自社の社会的・道徳的責任を踏まえれば、社会通念からして、本件債権を、非母体行の債権に劣後しないものとして取り扱うことは妥当でないと主張していたのであるが、東京高裁は、法的にみて本件債権が劣後していたとまではいえないとして、X社の主張を排斥している。 X社は、本件債権行使が、「社会全体を敵に回す」に等しいことからして、本件債権が社会通念上回収不能であったとも主張しているが、東京高裁はかかる主張も斥けている。 これに対して、最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決(民集58巻9号2637頁)は、次のとおり、原審の判断は是認できないとしてX社の主張を認めている。 この説示は、金銭債権に係る貸倒損失の損金算入要件として、その金銭債権の全額が回収不能であることを要するとした上で、かかる回収可能性の判断について「債権者側の事情」も考慮すべきであるとした最高裁判断として注目されたものであるが、結論的には、「社会通念に従って総合的に判断されるべき」とする。 このように、当時の状況からすれば、母体行であるX社が、非母体行等に対して損失の平等負担を主張することは、社会通念からして想定し難いとされているのである。 最高裁は、上記のとおり述べて、結論としてX社に対する処分を違法なものであると判断したのである。 なお、興銀事件最高裁判決以前においても、東京地裁平成12年11月30日判決(訟月48巻11号2785頁)などが、社会通念による貸倒損失の認定を認めていたところであるが、同判決は、以下のように判示している(この判断は、控訴審東京高裁平成13年7月5日判決(税資251号順号8943)も維持している。)。 (続く)
〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第5回】 「不動産鑑定評価について(その3)」 -鑑定評価の基本的手法①- 税理士 笹岡 宏保 基本的な論点 相続財産の評価に当たって、評価通達に基づき算定された評価額が客観的な時価を超えていることが証明されれば、当該評価方法によらないことはいうまでもないとされています。 上記の証明を求めて、相続財産が不動産(土地等、家屋等)である場合には、不動産鑑定士等に不動産鑑定評価を依頼することが通例となります。 この連載では、不動産鑑定評価に関する知識を確認してみることにします。 第3回目となる今回は、鑑定評価の基本的手法について確認してみることにします。 解決への指針 不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別されます。また、これらの手法以外に、これらの三手法の考え方を活用した開発法があります。 これらの手法について、それぞれの意義及び適用方法を土地の価格を求める鑑定評価を前提としてまとめると、次のとおりとなります。 (1) 原価法 ① 意義 原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価補正を行って対象不動産の試算価格を求める手法です。(この手法による試算価格を「積算価格」といいます。) 原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができます。 ② 適用上の留意点 (イ) 再調達原価の意義 再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいいます。 (ロ) 再調達原価を求める方法 再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとされています。 土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとされています。 なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができるものとされています。 (2) 取引事例比較法 ① 意義 取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法です。(この手法による試算価格を「比準価格」といいます。) 取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効です。 取引事例比較法の適用に当たっては、多数の取引事例を収集し、価格の指標となり得る事例の選択を行わなければなりませんが、その有効性を高めるため、取引事例はもとより、売り希望価格、買い希望価格、精通者意見等の資料を幅広く収集するように努めるものとされています。 ② 適用上の留意点 (イ) 取引事例の収集及び選択 取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、多数の取引事例を収集することが必要となります。 取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならないものとされています。 (ロ) 事情補正及び時点修正 取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められるときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならないものとされています。 時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきであるとされています。 (ハ) 地域要因の比較及び個別的要因の比較 取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとされています。 (了)
〈平成30年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「配偶者控除及び配偶者特別控除の改正」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 11月に入り年末調整に向けた準備を始める時期となった。本年分の年末調整では、配偶者控除及び配偶者特別控除の改正が大きなポイントとなる。本改正により申告書等の様式や年末調整の手続が一部変更されるため、改正内容を従業員に周知する等、早めに準備を進めたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。なお、本年分に加え、論末の連載目次に掲載された平成24年分からの拙稿(年末調整のポイント)もご参照いただきたい。 また、各書類の記載方法や理解しておくべき用語の解説等を行った次の拙稿については、ぜひおさえていただきたい。 (注) 上記拙稿の内容については、掲載後の税制改正等により、記事の内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。今後、過年度の記事内に順次コメントを入れる予定である。 (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 【1】 改正の概要 平成29年度税制改正により配偶者控除及び配偶者特別控除の見直しが行われ、平成30年分の所得税から適用される。 改正のポイントは、次の3点である(所法83①、83の2①)。 (※1) 給与所得のみの場合、給与収入1,220万円(令和2年分以後は1,195万円)以下 (※2) 給与所得のみの場合、給与収入141万円未満 (※3) 令和2年分以後は、133万円以下 (※4) 給与所得のみの場合、給与収入2,015,999円以下 改正後の配偶者控除額及び配偶者特別控除額を、所得者本人の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に応じて整理すると次のとおりである。 (表1)〈令和元年分以前〉 (※) 国税庁ホームページ「源泉所得税の改正のあらまし(平成29年4月)」より。また、令和2年分以後の表については「No.2672 年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるとき」をご参照いただきたい。 なお、本改正については、下記の拙稿も合わせてご参照いただきたい。 【2】 年末調整における手続の変更 【1】の改正に伴い、年末調整における配偶者控除及び配偶者特別控除の適用方法が変更となる。 平成29年分以前の年末調整では、配偶者控除は、扶養控除等申告書に控除対象配偶者がいる旨の記載があることに基づいて適用され、配偶者特別控除は、配偶者特別控除申告書の記載内容に基づいて適用されていた。 平成30年分以後の年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるには、その年最後に給与等の支払いを受ける日の前日までに、配偶者控除等申告書を給与等の支払者に提出しなければならない(所法195の2①)。 扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として配偶者の氏名等を記載しているだけでは、配偶者控除の適用を受けることはできないので注意が必要である。 〈表2 申告書、手続の変更点〉 (※1) 平成30年分の保険料控除申告書の様式はこちら (※2) 平成30年分の配偶者控除等申告書の様式はこちら 【3】 実務上のチェックポイント 配偶者控除及び配偶者特別控除、配偶者に係る障害者控除の適用に関する実務上のチェックポイントは、次のとおりである。 ✔ 所得者の合計所得金額の確認 ✔ 配偶者の合計所得金額の確認 ✔ 控除額の計算の確認 ✔ 配偶者が障害者に該当する場合の取扱い (1) 所得者の合計所得金額の確認 改正後は、所得者の合計所得金額(※)が900万円を超えると控除額が逓減し、1,000万円を超えると配偶者控除と配偶者特別控除はともに適用を受けることができなくなる。 (※) 「合計所得金額」とは、総所得金額、山林所得金額、退職所得金額、特別控除前の土地建物等に係る譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額(申告分離課税を選択したもの)、先物取引に係る雑所得等の金額の合計額をいう(所法2①三十ロ、所基通2-41(2)(注)、措法8の4③一、31③一、32④、37の10⑥一、41の14②一)。ただし、損失(純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失、上場株式等の譲渡損失、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失、先物取引の差金等決済に係る損失)の繰越控除の適用がある場合には、繰越控除を適用する前の金額が合計の対象となる。 したがって、配偶者控除及び配偶者特別控除の適用を受けようとする所得者については、その者の合計所得金額の見積額を正確に把握する必要がある。 具体的には、(表1)からも分かるとおり、所得者の合計所得金額が「900万円以下」、「900万円超950万円以下」、「950万円超1,000万円以下」の3区分のいずれに該当するかを判定する。 なお、基準となるのは「合計所得金額」であることから、給与所得以外の所得(不動産所得や雑所得等)がある者については、それらも含めたところで所得金額を計算することとなる。 合計所得金額に含まれないものについては、下記拙稿をご参照いただきたい。 (2) 配偶者の合計所得金額の確認 配偶者控除の適用対象となるのは、合計所得金額38万円以下の配偶者であり、平成29年分以前と変わりはない。一方、配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額は、38万円超123万円以下(改正前76万円未満)に改正されており、適用される配偶者の範囲が広がっている。 なお、扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者が記載されていない場合であっても、所得者と配偶者の合計所得金額によっては、配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けることができるケースもある((表3)の 部分)。 (表3) :扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載 :扶養控除等申告書に源泉控除対象配偶者として記載不可 :配偶者控除等申告書により配偶者控除適用 :配偶者控除等申告書により配偶者特別控除適用 (3) 控除額の計算の確認 今回の改正により、所得者の合計所得金額と配偶者の合計所得金額に基づいて(表1)のとおり控除額が決定される。複雑に見えるが、配偶者控除等申告書に必要事項を記載することにより、正しい控除額を求めることができる。 なお、配偶者控除等申告書の記載方法については、次回(【第2回】)で解説する。 (4) 配偶者が障害者に該当する場合の取扱い 同一生計配偶者が障害者に該当する場合には、年末調整において障害者控除の適用を受けることができる(所法79②)。この場合は、平成29年分以前の年末調整と同様に、扶養控除等申告書の「障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生」欄の記載に基づいて適用する。 同一生計配偶者とは、所得者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者及び白色事業専従者を除く)で、本年分の合計所得金額の見積額が38万円以下の配偶者である(所法2①三十三)。 同一生計配偶者の判定には、所得者の合計所得金額は要件とされていない。すなわち、配偶者について障害者控除を適用するときの要件は、平成29年分以前と実質的に変わっていないこととなる。 * * * 次回は、配偶者控除等申告書の記載方法、源泉徴収簿や源泉徴収票の様式変更の内容について解説を行う予定である。 (了)
企業の[電子申告]実務Q&A 【第10回】 「イメージデータで送信された添付書類の紙原本の保存不要化」 「勘定科目内訳明細書の記載内容の簡素化」 SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎 ●○●○解説○●○● 第三者作成の添付書類等をイメージデータ(PDF形式)で送信した場合、その紙の原本については、税務署長等による確認が必要な場合に備えて5年間の保存が義務付けられていましたが、2018年4月以後に行う申請等からは、e‐Taxの利便性向上を図る観点から、原本との同一性を担保するため一定の解像度及び階調を確保した上で、原本の保存が不要となりました。 この解像度及び階調に関する具体的な要件としては、次の①及び②を満たす必要があります。 〔要件〕 ① 解像度が200dpi相当以上(25.4mm当たり200ドット以上)であること。 ② 赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビットカラー)であること。 上記の要件を満たした上で添付書類等をイメージデータ(PDF形式)で送信した場合には、当該添付書類等の原本の保存は不要となりますが、税法以外の法令又は社内ルールにおいて原本の保存が必要となる場合もありますので、廃棄時にはあらためて確認をお願いいたします。 【イメージデータ(PDF形式)で送信された添付書類の紙原本の保存不要化】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) ◆ ◆ ◆ ●○●○解説○●○● 法人税確定申告書に添付する勘定科目内訳明細書については、その対象となる勘定科目の範囲や具体的な記載事項は法令解釈通達により定められています。 預貯金、受取手形、売掛金など全16種類の内訳明細書(帳票)について、基本的には決算期末におけるすべての取引残高等を記載することとされていますが、従来から、記載量の多い受取手形や売掛金など7帳票については、一定金額以下のものについて記載を省略する取扱いが認められてきました。 例えば、「売掛金の内訳書」については、一取引先の金額が50万円以上のものについては個別に記入し、その他は一括して記入すればよいこととされていました。 今回の見直しでは、勘定科目内訳明細書の一部の科目について、①さらなる記載省略基準の柔軟化(件数基準の創設)や、②記載単位の柔軟化、③記載項目の削減等の見直しが行われることになりました(この取扱いは、電子申告が義務化されていない中小法人等が行う書面申告の場合も同様です)。 なお、見直し後の勘定科目内訳明細書は、 2019年4月以後に終了する事業年度の申告から使用可能となります。 【勘定科目内訳明細書の記載内容の簡素化(書面申告も同様)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q40】 「外国籍ユニットトラストからの収益分配金の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 外国籍ユニットトラストの税務上の取扱い 日本の税務上、外国籍のユニットトラストを含む外国の事業体がどのように取り扱われるかについて、明示的な規定はありません。 外国において外国の法令に基づいて設定された信託のうち、日本の投資信託に類するものについては、日本の法律上、外国投資信託として分類されます(投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」)第2条第24項)。投信法第2条第24項に規定される外国投資信託は、所得税法上も外国投資信託として取り扱われます。 外国籍のユニット・トラスト(unit trust)が日本の投信法上の外国投資信託として取り扱われるかについては、個々のトラストごとに法的な観点からの分析が必要となり一概にはいえませんが、例えばケイマン籍やアイルランド籍のユニットトラスト等で多くの受益者(投資家)がいるものについては、実務上、外国投資信託として取り扱われているケースが一般的には多いように思われます。 所得税法上、外国投資信託の受益権は「株式等」として取り扱われますので、外国金融商品市場に上場され売買されている外国投資信託の受益権は、租税特別措置法第37条の11第2項に規定する「上場株式等」に分類されます。 以下では、本件の外国籍ユニットトラストが税務上「外国投資信託」として取り扱われる場合の取扱いを記載します。 2 収益分配金に係る源泉徴収 日本国外で発行された投資信託の受益権の収益分配金については、居住者たる個人が日本国内における支払の取扱者を通じてその交付を受ける場合、交付の際に支払を受けるべき金額(外国所得税が課されている場合は控除後の金額)に対し当該支払の取扱者により日本で源泉徴収がなされます。 一方、投資信託の受益権の収益分配金を国内における支払の取扱者を通じないで受け取る場合(すなわち日本国外で直接受け取る場合)、当該分配金の金額に対して日本の源泉税は課されません。 3 収益分配金の申告の有無 居住者たる個人が受け取る国外で発行された株式/投資信託の配当等で、国内における支払の取扱者を通じて交付を受けるもの以外のものについては、原則として申告を行う必要があります(少額配当又は上場株式等の配当の申告不要制度の適用はありません)。 個人は以下のいずれかの課税方法を選択することができますが、自身が保有するその他の上場株式等の配当を含むすべての上場株式等の配当について、以下のどちらかを選択する必要があります。 ① 総合課税 上場株式等の配当について総合課税を選択する場合、配当所得として総所得金額に含まれ、総合課税(所得税最高税率約46%、住民税原則10%)の対象となります。配当所得の計算上、株式、投資信託などを取得するための借入金の利子を控除することができます。 投資信託のうち、株式投資信託で一定の約款記載要件(非株式割合や外貨建資産割合)を満たすものについては配当控除の適用が可能ですが、外国投資信託については約款記載要件を満たさないと考えられることから、配当控除の適用はないと考えられます。 ② 申告分離課税 上場株式等の配当所得として、申告により分離課税が適用されます。配当所得の計算上、株式、投資信託などを取得するための借入金の利子を控除することができます。適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)です。 当年度の上場株式等の譲渡損失や過去から繰り越された上場株式等の譲渡損失の金額との損益通算を行う場合は、上場株式等の配当所得について申告分離課税を選択する必要があります。 申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得については、配当控除の適用はありません。 ◆ ◆ ◆ 上記は所得税の取扱いですが、住民税も上記①又は②のいずれかを適用することができます。なお、所得税と住民税で異なる課税関係を選択することができます(その場合、住民税の申告書を別途提出する必要があります)。 3 本件についてのあてはめ 本件の外国籍ユニットトラストが日本の税務上、外国投資信託に該当する場合、本件のユニットトラストの受益権は外国金融商品市場に上場され売買されていることから、上場株式等として取り扱われると考えられます。 外国籍ユニットトラストの受益権の収益分配金の金額については、個人が直接海外の口座で受け取るため、日本の源泉税は課されません。収益分配金については原則として申告が必要となり、配当所得として総合課税又は上場株式等の配当所得として申告分離課税を適用することになります。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第62回】 (最終回) 公認会計士 佐藤 信祐 《第12章》 平成29年度から平成30年度までの税制改正 1 平成29年度税制改正 平成29年度税制改正についての解説は、下記拙稿において既に本誌で行っているため、本稿では、財務省が公表した『平成29年度税制改正の解説』から読み取れる内容について、追加的に解説を行うこととする。 まず、スピンオフ税制の制度趣旨は、同書317頁において、 と解説されている。 この点については、やや強引な説明であるとの批判があるが、移転資産に対する支配の継続という概念により組織再編税制を構築しようとした財務省の意図を理解することができる。 次に、ブート税制を導入した理由として、同書318頁において、 と解説されている。ただし、同書327頁では、租税回避の防止やグループ法人税制との整合性により、吸収合併と株式交換以外の組織再編成については対象外とされたことが明らかにされている。 そして、同書318頁では、全部取得条項付種類株式、株式併合及び株式等売渡請求による100%子会社化について、「少数株主の個別の意思にかかわらず強制的に少数株主から子会社株式が取得されることという点において、単なる資産の売買・交換とは異なる共通点を有する」という理由により、株式交換・移転税制と足並みを揃えることとしたことが明らかにされている。 また、時価評価課税の範囲の見直しにより、結果的に、連結納税の開始・加入に伴う時価評価、非適格株式交換・移転に伴う時価評価において、営業権に対する時価評価課税が不要とされたが、同書333頁では、 と解説されている。 この論点があることは、本連載【第53回】でも解説したが、個人的見解とはいえ、財務省主税局に所属している者から明確に指摘されたのは初めてであり、今後の実務においても参考にすることができる。 そのほか、分割型分割における支配関係継続要件の見直しを行った理由として、同書334頁では、 と解説されている。 分割により移転する資産に対してのみ支配が継続していれば、「移転資産に対する支配の継続」があったみなすことができるという意味では、平成13年度税制改正から続いてきた基本的な考え方は維持されているということが言える。 2 平成30年度税制改正 平成30年度税制改正についての解説は、既に本誌掲載の下記拙稿で行っているため、本稿では、財務省が公表した『平成30年度税制改正の解説』から読み取れる内容について、追加的に解説を行うこととする。 拙稿「平成30年度税制改正における『組織再編税制・M&A税制』改正事項の確認」では、無対価組織再編について、資産調整勘定の金額につき、第三者による資産評定に委ねられる部分が多いことを指摘した。この点につき、同書318頁(注1)では、 としている。そのため、M&A、事業再生で資産評定が行われることが想定され、同書318頁(注1)でも、 としている。すなわち、第三者による資産評定が必要になるにしても、それほど厳密なものは求められていないということが言える。 さらに、同書319頁(注2)では、 と記載されていることから、資産評定がなかったとしても、対価を交付する非適格組織再編成と資産調整勘定の金額は変わらないことがほとんどであると思われる。 《終 章》 まとめ 本連載では、平成13年度税制改正により組織再編税制が導入された時代まで遡り、現在の組織再編税制がどのように変わってきたのか、そして、どのような趣旨により改正されてきたのかについて解説した。 気づかれた読者も多いと思われるが、組織再編税制の中心となるものは「移転資産に対する支配の継続」という概念であり、組織再編税制の多くはその概念で説明することができる。しかしながら、極めて曖昧な概念であることから、いずれその下位概念を明確にする必要があると思われる。 当時の資料から推測すると、「移転資産に対する支配の継続」という概念は、アメリカの税制からも、ドイツの税制からも読み解けない日本独自の概念であると言え、むしろ、企業結合会計、事業分離等会計の方が近い概念を導入している可能性が高いと思われる。そのため、「移転資産に対する支配の継続」を分析していくためには、これらの会計制度を分析した後に、組織再編税制の分析をする必要があると考えている。この点については、今後の研究課題と考えている。 (連載了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第42回】 「弁護士顧問料事件」 ~最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第4回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 7 【STEP3】取引価格の算定 【STEP3】では取引価格を算定する。「取引価格」とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)をいう(基準8、47)。 取引価格の算定においては、以下の5つについて検討する(基準48)。特に(1)、(2)、(5)は影響が大きい論点である。 (1-1) 第三者のために回収する額 収益の額には、第三者のために回収する額は含まれない。第三者のために回収する額には、消費税、たばこ税、宿泊税等の間接税、代理人取引における本人のための代金回収等がある。 したがって、従来、売上に間接税や第三者のために回収した金額を含めていた場合、それは、売上から控除しなければならない。 なお、間接税によっては、顧客に販売しなくても企業が税金を負担する場合がある。このような間接税は、第三者のために回収する額に該当するかどうかを検討する必要がある。具体的には、本人か代理かの検討(11.連載第7回参照)が必要となる。 本人に該当する場合(自ら納税資金を用意して納税している場合)には収益の額(取引価格)に含め、代理人に該当する場合(顧客から税金を預り、納税している場合)には収益の額(取引価格)から除くことになる。 (1-2) 第三者のために回収する額(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (2-1) 変動対価 変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいう(基準50)。つまり、まだ確定していない取引価格ということである。 なお、知的財産のライセンスを供与した際に、売上高又は使用量に基づくロイヤルティを受け取る場合、その対価については、適用指針第67項(ライセンスの供与の規定(17.(連載第9回)参照))を適用する(適用指針26)。 変動対価では、以下の4つの検討が必要である。 ① 変動対価の識別 まず、取引価格に変動対価が含まれているかどうかを検討する必要がある。例えば、値引き、売上リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等の形態により対価の額が変動する場合や、返品権付きの販売等がある(適用指針23)。 ② 変動対価の見積り 取引価格に変動対価が含まれている場合、対価が確定していないため、その対価の額を見積って、売上を計上する(基準50)。 変動対価の額の見積りにあたっては、以下の2つの方法がある。対価の額をより適切に予測できる方法を選択する(基準51、140、142)。 見積る際には、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用する(基準52)。また、契約ごとに見積り方法を変えるのは、会計方針として適切ではないため、類似の契約についても同一の見積り方法を適用する必要があると考えられる。さらに、見積った取引価格は、各決算日に見直し、取引価格が変動する場合には、基準第74項から第76項(取引価格の変動の規定(8.(連載第5回)(4)参照))を適用する(基準55)。 なお、見積りにあたっては、企業が合理的に入手できるすべての情報を考慮し、発生し得ると考えられる対価の額について合理的な数のシナリオを識別する(基準52)。最頻値法では、実務上、可能性の低いシナリオの結果を数値化する必要はない。期待値法も、実務上、企業が大量のデータを有し、多くの結果を識別できる場合であっても、複雑なモデルを用いてすべてのシナリオの結果を考慮する必要はない(基準142)。 ③ 収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分 見積った変動対価の額は、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高い部分に限り(制限規定)、取引価格に含める(基準54)。過大な収益計上にならないように当該規定が設けられている。 収益の著しい減額が発生しない可能性が非常に高いかどうかの判定の際には、収益が減額される確率及び減額の程度の両方を考慮する。「収益が減額される確率又は減額の程度を増大させる可能性のある要因」には、例えば、以下の(ⅰ)から(ⅴ)がある(適用指針25)。 ④ 顧客から受け取った又は受け取る対価がある場合 顧客から受け取った又は受け取る対価の一部又は全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識する。返金負債の額は、各決算日に見直す(基準53)。 (2-2) 変動対価(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (3-1) 契約における重要な金融要素 契約の当事者が合意した支払時期により、財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与(言い換えると、融資目的)についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合、顧客との契約に重要な金融要素が含まれている(基準56)。 契約における重要な金融要素では、以下の2つの検討が必要となる。 ① 金融要素の識別 金融要素が契約に含まれるかどうか及び金融要素が契約にとって重要であるかどうかを判断するにあたっては、以下の(ⅰ)及び(ⅱ)を含む、関連するすべての事実及び状況を考慮する(適用指針27)。重要かどうかの判断は、契約単位で行う(適用指針128)。なお、下記(ⅰ)及び(ⅱ)は、契約に金融要素が含まれているかどうかの指標の1つにすぎないので留意する必要がある。 なお、上記にかかわらず、以下の(ア)から(ウ)のいずれかに該当する場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含まない(適用指針28)。 ② 金利相当分の影響の調整 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、取引価格の算定にあたっては、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する(基準57)。つまり、割引計算等をするということである。 割引率は、約束した販売価格の現在価値が、財又はサービスが顧客に移転される時の「現金」販売価格と等しくなるような利率を使用する。取引開始日後は、金利の変動や顧客の信用リスクの評価の変動等により割引率を見直さない(適用指針29)。 そして、収益は、約束した財又はサービスが顧客に移転した時点で(又は移転するにつれて)、当該財又はサービスに対して顧客が支払うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で認識する(基準57)。 なお、契約における取引開始日において、約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が支払を行う時点の間が1年以内であると見込まれる場合には、重要な金融要素の影響について調整しないことができる(基準58)。 (3-2) 契約における重要な金融要素(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響のある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (4) 現金以外の対価 契約における対価が現金以外の場合、取引価格の算定は当該対価を時価により算定する(基準59)。例えば、対価が株式などの場合である。 また、企業による契約の履行のために、顧客が財又はサービス(例えば、材料、設備又は労働)を企業に提供する場合には、企業は、顧客から提供された財又はサービスに対する支配(6(連載第3回)の(4)参照)を獲得するかどうかを判定し、企業が当該財又はサービスに対する支配を獲得する場合には、当該財又はサービスを、顧客から受け取る現金以外の対価として会計処理する(基準62)。 ① 時価を合理的に見積ることができない場合 現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合、当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として当該対価を算定する(基準60)。 ② 変動対価 現金以外の対価の時価が変動する理由が、株価の変動等、対価の種類によるものだけではない場合(例えば、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動する場合)には、基準第54項(変動対価の規定(上記(2-1)参照))を適用する(基準61)。 (5-1) 顧客に支払われる対価 顧客に支払われる対価とは、企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる現金や顧客が企業(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対する債務額に充当できるものをいう(基準63)。 例えば、売上リベート(販売手数料、センターフィー)、キャッシュバック、棚代、クーポン等が考えられる。 顧客に支払われる対価には、変動要素が含まれていることが多いため、顧客に支払われる対価と変動対価の規定はセットで検討することが多いと考えられる。 ① 会計処理 顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格(売上)から減額する(基準63)。顧客に支払われる対価を販管費で計上することはできない。 顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には、取引価格の見積りを基準第50項から第54項(変動対価の規定(上記(2-1)参照))に従って行う(基準63)。 顧客に支払われる対価を取引価格から減額する時期は、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれか遅い方が発生した時点である(基準64)。 なお、顧客に支払われる対価が顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われるものである場合、当該財又はサービスを仕入先からの購入と同様の方法で処理する(適用指針30)。つまり、通常の仕入と同様に会計処理するということである。 一方、顧客に支払われる対価が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を超えるときには、当該超過額を取引価格から減額する。 しかし、顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を合理的に見積ることができない場合には、顧客に支払われる対価の全額を取引価格から減額する(適用指針30)。 (5-2) 顧客に支払われる対価(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響のある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ 第5節 労働債務の分析 【第13回】 「労働債務の分析(その1)」 -未払給与、賞与等- 〔分析の対象となる主な勘定科目〕 ▷労働債務の調査 「労働債務」は会計上の用語ではないが、本稿では従業員(役員を含む)による労働等の対価として法人が支払うべきものの未払額を総称して「労働債務」と呼ぶことにする。 代表的な労働債務としては未払給与や未払賞与、退職給付引当金や役員退職慰労引当金のほか、我が国では馴染みの薄い有給休暇に関する引当金などが挙げられる。 今回はこれらのうち、いわゆる「短期従業員給付」に当たる項目について概説する。 ▷未払給与 給与は従業員との雇用契約に基づいて法人が従業員から受けた役務提供の対価として支払われるものであり、通常、「毎月20日締めの翌月10日払い」のような形態で支給されている。 この場合、月末時点で認識すべき労働債務には2種類ある。1つは20日締めで計算された(前月21日からの)1ヶ月分の未払給与であり、もう1つは当月の21日から月末までの10日分の未払給与である。前者は債務として確定しているため「未払金」としての未払給与であり、後者は(債務として確定していないが)雇用契約に基づき発生主義的に認識される「未払費用」としての未払給与である。 後者は通常、決算時のみ計上されることが多く、月次では計上されないことが多い。このため、M&Aに際しては、調査基準日が決算期末以外の月である場合、未払費用部分の未払給与を発生主義に基づいて負債として把握する必要がある。 ▷未払賞与 賞与は毎月支給される給与を補完するものとして、給与の後払としての性質を有すると同時に、従業員の勤務継続に対する功労報奨や期間業績に応じた利益配分としての性質も有するとされ、通常の場合、例えば「毎年12月から5月末までの勤務に対して夏季賞与を7月に、6月から11月末までの勤務に対して冬季賞与を12月に支給する」というような方法で支給されている。 賞与の支給は通常、年2回であることから、支給月以外の月次損益に賞与勘定は発生させない代わりに、月次損益のブレを平準化させる目的で、予算等に基づく年間賞与支給見込額の1/12を「賞与引当金繰入/賞与引当金」のように月次で引当計上し、実際支給時に引当金を取り崩す場合も多い。 決算時には、決算月と支給対象期間とのズレの期間について「賞与引当金」もしくは「未払賞与」が計上される。引当金とするか未払費用、未払金とするかは、支給額が確定しているか否か、確定している場合には支給額が支給対象期間以外の基準に基づき算定されているか否かで判断されることになる。 ▷未消化の有給休暇 有給休暇には未消化部分を翌年度に繰り越すことができる「累積型」と繰り越しのできない「非累積型」があり、累積型には、当該従業員の退職時に、消化しきれなかった有給休暇を企業が買い取るケースもある。将来、買取りが必要となる未消化の有給日数の給与相当額について、国際会計基準では負債として認識することを求めている。 日本の会計基準ではこうした会計慣行は現時点では定着していないが、金額的にインパクトが大きい項目になり得るため、M&Aの買い手側が国際会計基準を適用している場合等は留意が必要となる。 ▷簿外債務としての未払労働債務(未払残業代等) 少子高齢化が進む我が国では、とりわけ地方での労働力不足が深刻となっている一方、これと相反する問題ともいえる長時間労働の是正とワーク・ライフ・バランスの改善を通した労働参加率の向上が喫緊の課題とされている。 長時間残業やパワーハラスメントに起因する過労死問題等もあり、潜在債務・簿外債務としての未払残業代等の存在は、多くの企業に共通の問題として認識されるべきものであるため、労務管理体制の構築・運用状況の巧拙は、事業上の重大なリスク要因となり得る。 M&A対象企業の労務管理体制の瑕疵により、M&A実行後、場合によっては買い手側で思わぬ痛手を被ることにもなりかねない。未払残業代も金額的に多額に上る項目であることから、M&Aにおける買収価格にも大きな影響を与える余地もあり、留意を要する。 未払残業代が発生するケースとしては、以下のようなケースが挙げられよう。 【実務事例13-1】 残業時間が打ち切り(定額)残業代の上限を超えているが、これを支払っていない。 「裁量労働制」や「年俸制」を採用していることから、残業代は支払っていない。 管理監督者の範囲を拡大解釈し、管理職に対して割増残業代を支払っていない。 残業時間の計算で30分未満の端数が切り捨てられている。 残業代や休日出勤・深夜残業等の割増賃金の算定に含めるべき手当を含めていない。 残業代を支払わないことについて従業員と文書で「合意」している。 残業代に関する労働債務の消滅時効は2年間(不法行為による場合は3年、債務不履行の場合は10年)とされることから、未払残業代の金額の把握には労力を要することが多い。直近での労働基準監督署等による調査結果等を踏まえ、必要に応じて弁護士等による法務デューデリジェンスと連携して事実の有無を把握する必要がある。 なお、法務面からみた労務分野の調査上の留意点については、[法務編] 【第5回】、【第6回】 を参照されたい。 ▷未払残業代に特に注意の必要な業種 厚生労働省労働基準局が発表する「毎月勤労統計調査(平成29年分結果確報)」によれば、業種別にみた一般労働者の平均的な1ヶ月当たりの所定外労働時間は以下のとおりとなっている。 ◆月間所定外労働時間(一般労働者) (出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査(平成29年分結果確報)」から筆者作成) 筆者らの経験則では、(上記統計結果とは若干異なるが)運輸業や旅館業、建設業等は一般的には残業時間が多い印象があり、特に小規模な旅館業においては労務管理体制の構築が遅れている場合も多く、誤解を恐れずに言えば、残業代の未払はある意味、「あって当たり前」のような印象を有している。 ▷未払残業代の調査手続 M&Aデューデリジェンスにおける未払残業代に関する主な調査手続を挙げると以下のとおりである。 ▷その他の留意事項 労働債務に関連して留意すべき項目として、預り金に計上されるべき源泉税や社会保険料についても未納となっているものがないか調査する必要があるだろう。従業員から預かった源泉税や社会保険料が納付期日までに納付されず、預り金に残ったままとなっていないか、もしくはそれらが他の支払等に流用されていないか等についても合わせて調査する必要があるだろう。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第5回】 「取得原価の算定方法」 -段階取得・一体取引- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、取得原価の算定方法に関して、段階取得・一体取引について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 段階取得 1 定義 例えば、企業結合が行われる前に、被取得企業の株式を一部取得し、その後、追加で株式を取得して、他の企業に対する支配を獲得することがある。このように「取得」が複数の取引により達成された場合を「段階取得」という(企業結合会計基準25項)。 株式を追加的に取得した場合だけでなく、合併などにおいても、取得企業の個別財務諸表では当該原価の合計額をもって取得原価となるが、連結財務諸表では企業結合日における当該時価を基礎として取得原価を算定するため、個別財務諸表上の取得原価と連結財務諸表上の取得原価の差額は、連結財務諸表における当期の損益として処理することとなる(企業結合会計基準90項、結合分離適用指針46項、46-2項)。 2 会計処理 段階取得における被取得企業の取得原価の算定は次のように行う(企業結合会計基準25項)。 3 個別財務諸表上の会計処理の留意点 企業結合日直前の被取得企業の株式の帳簿価額については、以下の点に留意する(結合分離適用指針46項)。 4 連結財務諸表上の会計処理の留意点 例えば、取得企業(吸収合併存続会社)の株式が交付され、取得企業が吸収合併直前に被取得企業の株式を保有していた場合の取得の対価は、取得企業が交付する取得企業の株式の時価(結合分離適用指針38項)と吸収合併直前の被取得企業の株式の時価(結合分離適用指針38項に準じて算定)を合算して算定し、吸収合併直前の被取得企業の株式の帳簿価額と合併期日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理する。また、これに見合う金額は、個別財務諸表において計上されたのれん(又は負ののれん)の修正として処理する(結合分離適用指針46-2項)。 結合分離適用指針の「[設例4]取得原価の算定-段階取得(取得が複数の取引により達成された場合)の会計処理(取得企業が被取得企業の株式を保有していた場合)」が示されている。 投資会社が持分法適用関連会社と企業結合した場合には、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価は持分法による評価額を指す(企業結合会計基準25 項(2)なお書き)ため、その場合には、企業結合日直前の被取得企業の株式(関連会社株式)の持分法による評価額と企業結合日の時価との差額は、当期の段階取得に係る損益とし、これに見合う金額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理する(結合分離適用指針46-2項)。 企業結合日直前の個別財務諸表上の関連会社株式の帳簿価額と持分法による評価額との差額は、のれん(又は負ののれん)の修正として処理する。 持分法による評価額には、関連会社株式に含めて処理されているのれんの未償却残高、未実現損益に関する修正額が含まれる。 5 基本的な考え方 企業が他の企業を支配することとなるという事実は、当該企業の株式を単に追加取得することとは大きく異なるものである。このため、被取得企業の取得原価は、過去から所有している株式の原価の合計額ではなく、当該企業を取得するために必要な額とすべきであると考えるものである(企業結合会計基準89項)。 つまり、取得に相当する企業結合が行われた場合には、支配を獲得したことにより、過去に所有していた投資の実態又は本質が変わったものとみなし、その時点でいったん投資が清算され、改めて投資を行ったと考えられるため、企業結合時点での時価を新たな投資原価とするのである(企業結合会計基準89項)。 個別財務諸表においては、段階取得によって支配を獲得しても、過去に所有していた投資の実態又は本質が変わったものとみなせない場合も多く、投資は継続していると考える方が適当であると考えられた。つまり、平成20年に改正された企業結合会計基準では、前述のとおり、段階取得における被取得企業の取得原価は、個別財務諸表においては従来どおり支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって算定するのである。 一方、連結財務諸表においては、国際的な会計基準とのコンバージェンスを重視したものである(企業結合会計基準90項)。 Ⅲ 一体取引 企業結合会計基準は、複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱うと規定している(企業結合会計基準5項)。事業分離等会計基準も、複数の取引が1つの事業分離を構成している場合には、それらを一体として取り扱うと規定している(事業分離等会計基準4項)。 企業結合会計基準などでは、通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの企業結合を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなるとしている(企業結合会計基準66項、事業分離等会計基準62項)。 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)7-3項では、複数の取引が行われる場合、通常、取引の手順に従って、それぞれの取引について会計処理が行われるとしている。 複数の取引が一体として取り扱われるかどうかは、事前に契約等により複数の取引が1つの企業結合等を構成しているかどうかなどを踏まえ、取引の実態や状況に応じて判断するものと考えられるとしている。 前述のように、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準では、「通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられる」としているが、これは例示と解される。つまり、複数の取引が1事業年度内に完了するかどうかを基準にして画一的に判断するのではなく、取引の実態や状況に応じて実質的に判断すべきものと解される。 (了)