計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第24回】 「これも気づかない!「罫線の消し忘れ」」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例24-1】 連結損益計算書のフォームで、特に必要のない罫線が1本ある。 罫線に関するうっかりミスは【第7回】で取り上げました。【第7回】では、罫線の「引き忘れ」と「引きすぎ」の事例を紹介しましたが、今回はそれとは異なり、罫線の「消し忘れ」という事例になります。 上の事例には、罫線が1本余計なところがあります。どこだかわかりますか? 会社法計算書類では、決算書のフォームが定められているわけではありませんが、経理の実務としては、罫線をどこに引くかは概ね決まっています。「明文規定はないけれど、普通はこうする」という具合に、決算書を作成しているのです。そういう意味で、【事例24-1】では罫線が1本余計です。 「そう言われてみれば・・・」というところがありませんか? 2 意味のない罫線は引かなくてよい さっそく、答えを見てみましょう。本来の正しい姿はこうです。 上図の赤枠の部分には罫線がいらないというのが答えでした。おそらく皆さん、正解できたのではないでしょうか。 余計な線が1本ありますと言われれば、だいたい見つけられます。しかし、その情報を与えられていなかったとしたら、見過ごしてしまう人が多いのではないでしょうか。現にこのミスには何回も出くわしています。 経理実務では、罫線というのは「合計を求める際の区切り」のような意味合いで使用されます。そうすると、【事例24-1】では、「経常利益」と「税金等調整前当期純利益」の間に引かれた罫線は、一見もっともらしいのですが、実は何の意味もない罫線であることに気がつきます。 この事例の会社は、今年度、特別損益項目が一切発生しなかったようです。したがって、経常利益の下はすぐに税金等調整前当期純利益となっています。 経常利益と税金等調整前当期純利益は同じ額が記載されていますが、計算過程としては、経常利益までを計算した後、そこでいったん区切って税金等調整前当期純利益を求めるという形式なので、一番右端の列については「経常利益と税金等調整前当期純利益の間の罫線」は必要です。 しかし、その左隣の列まで線を引く必要はありません。説明するまでもないですが、その線は特に何の役割も果たしていない不要な罫線なのです。 3 どうしてこのミスが起きたのか? このミスが起きてしまった原因を考えてみましょう。それは、この連結損益計算書の作成プロセスと関係あります。 作成者は、今期の連結損益計算書を作るにあたって、前期の連結損益計算書のデータをコピーして、それをもとに当期の連結損益計算書を作成しました。その際、フォームが同じで数字と科目名だけを見直せばよいだけなら、このミスは起こらなかったのです。 どういうことかというと、前期の連結損益計算書が、実は以下のようなものだったのです。 赤枠で囲った部分に注目です。特別損益項目ですね。今期はこれが一切ありませんでしたが、前期はこれがあったのです。 ということは、前期のフォームのデータをコピーして、それをもとにして今期の連結損益計算書を作成する場合、コピーして用意したフォームについて、特別損益項目の部分(赤枠で囲った部分)を削除してあげなければならないのです。そして、この時、上図を見るとわかりますが、特別損失の減損損失と税金等調整前当期純利益の間の罫線を消し忘れてしまったというのが、【事例24-1】だったのです。 今回の事例が「罫線の消し忘れ」であるというのは、これを意味しています。 4 こんな類似事例も・・・ ほぼ同じパターンで、次のようなミスも起きています。 【事例24-2】 連結損益計算書のフォームで、全く意味のない罫線が1本ある。 【事例24-2】も、前年度と今年度のフォームの違いに起因するミスです。 【事例24-2】は以下のようなパターンです。 今期は特別損失だけになってしまったのですね。したがって、今期の連結損益計算書のフォームを作成する際、まず前期のフォームのデータのコピーを用意し、そこから特別利益項目のところを丸々削除したのです。その際に、特別利益項目の1番下に引いてあった合計線を消し忘れたのが【事例24-2】というわけです。 罫線のミスというのは、決算の本質に関わるような話ではないため、見落とされることが多いです。もっと大事なことに注意を向けなければならない中で、なかなか気がつかないというのが実情でしょう。しかし、ミスが発生するパターンは限られていますので、【第7回】と今回で紹介したパターンを覚えて、このようなミスが起きていないかを確認していくとよいでしょう。 〈今回のまとめ〉 罫線のミスは、発生パターンを覚えておき、作成した決算書のフォームを確認することが大切です。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q10】 企業が合併した場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関してどのような手続きが必要か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関しては、主に、消滅会社の適用事業所を管轄する年金事務所において資格を喪失する手続きを行い、存続会社の適用事業所を管轄する年金事務所において資格を取得する手続きを行う。 ここでは、A社を消滅会社、B社を存続会社とする吸収合併の前提で、必要な社会保険(健康保険・厚生年金保険)の手続きを確認する。なお、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していることとする。 A社(消滅会社)の手続き A社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、合併日から5日以内に、次の2つの書類を提出する。 ①は、被保険者資格を喪失する手続きとなり、健康保険・厚生年金保険の資格を取得しているすべての従業員・役員分のそれぞれについて必要となる。また、本届出には、本人分及び被扶養者分の健康保険被保険者証の添付が必要となるため、合併日以降手続き実施までに従業員等から健康保険被保険者証を回収しておかなければならない。 なお、紛失等により健康保険被保険者証の回収ができない場合は、資格喪失届にその理由を付記するか、健康保険被保険者証回収不能・滅失届の提出が別途必要となる。 ②は、適用事業所を廃止する手続きとなり、その事実が確認できる書類(解散登記の記載がある法人登記簿謄本の写等)の添付が必要となる。なお、A社に複数の適用事業所がある場合は、それぞれの事業所を管轄する年金事務所へ当該全喪届の提出が必要となる。 B社(存続会社)の手続き B社の適用事業所を管轄する年金事務所へ、合併日から5日以内に、次の2つの書類を提出する。 ①は、被保険者資格を取得する手続きとなり、健康保険・厚生年金保険の資格を取得するすべての従業員・役員分のそれぞれについて必要となる。 ②は、社会保険上の被扶養者がいる従業員・役員分について提出が必要となる。なお、国民年金第3号被保険者資格取得届は、配偶者の被扶養者がいる場合に提出が必要となり、3枚複写式の様式を使用する場合は3枚目をさす。 健康保険被保険者証の発行 B社(存続会社)における手続きは、健康保険被保険者証の発行に関わるものであるため、不備がないよう早めに準備してスムーズに進めるようにしたい。 通常、資格取得届を提出してから2週間前後で健康保険被保険者証が発行されるが、合併日が4月等の新入社員が多い時期に重なると、通常よりも発行に時間を要することがある。当然のことながら、合併日以降はA社(消滅会社)における健康保険被保険者証は使用することができないため、新しい健康保険被保険者証が早めに発行されるよう、合併日以降できるだけ早めに手続きを行いたい。 なお、健康保険被保険者資格証明書交付申請書を合わせて提出すると、健康保険被保険者証が発行されるまでの間、その代わりとして使用できる証明書を発行してもらえるため、手続き書類は増えるが、合併時期が4月等の場合は特に、当該申請書も合わせて提出することをお勧めしたい。 保険者の変更 今回は、健康保険は、A社、B社ともに全国健康保険協会(協会けんぽ)の適用を受ける前提としたが、同じ全国健康保険協会(協会けんぽ)でも都道府県により健康保険料率が異なるため注意が必要となる。 また、合併の一方が健康保険組合である場合には、保険料率のみならず給付内容等が異なることがあるため、それらの点も合わせて、合併の説明の際に従業員等に周知されたい。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第2回】 「AI時代に変容を遂げる士業の姿」 株式会社マネーフォワード 取締役兼Fintech研究所長 瀧 俊雄 2017年3月15日の日経新聞記事「AI襲来、眠れぬサムライ」は、AIの活用により士業の仕事が意味をなさなくなる可能性に触れ、反響を呼んだ。クラウド会計ツールを提供し、記帳業務の自動化をセールスポイントにする当社にも、その解説を求める講演依頼が後を絶たない。 技術が仕事を奪っていった歴史は、電話交換手や、馬車の事例でよく語られる。今回の場合にはAI(人工知能)という、まるで人間の代替物が浮上してきたことで、24時間働き続ける人造人間がでてくるような喩え方が新しい。しかし、少し考えれば、人造人間が奪う仕事が、なぜ士業のものに限定されるのかという謎に気づく。 このような謎が生まれてしまった理由は、これら論調が形成される元となった、2013年に発表されたフレイ=オズボーン論文が日本に紹介された過程にある。 同論文の原題は「THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」、和訳すると「雇用の将来:コンピューター化により雇用はどれだけ脅かされるか」であり、コンピューターによる自動化を通じて、米国の702業種の業務のうちどれほどが自動化されるかを順位付けた内容となる。だが重要なのは、それは人工知能を正面から取り上げたものではなく、単純なロボット化・自動化を含めた影響分析であることだ。 ただ、士業の仕事が奪われるという文脈が付けられたのは、同論文において失われる仕事の上位10種に、納税準備の業務や、データ入力業務が含められたためである。原典も読まず、士業の実務を知らない人間から見れば、「ああ、それでAIが士業の仕事を奪うのだな」という理解が行われてもおかしくはない。 だが、現場を少しでも知る人にとって、考え方は全く異なるのではないだろうか。 税務の現場では、もちろん帳簿データにおける税務判断や、税務申告といった、まさに有資格者でしか行えない業務が存在する。ただし、実際に顧客満足の源泉となっているのは、既に発生した経営状況を会計資料や税務手続きとして対応することにあるのではなく、これからの会社の意思決定に影響を与える点にあるのではないだろうか。過去の企業の成功・失敗事例を元に、経営者が陥りそうな悪い判断を事前に察知したり、経営資源の活用改善を促すことが「先生」と言われる所以ではないだろうか。 この5年ほどの人工知能ブームは、コンピューターが学習を行う過程で「ディープラーニング」と呼ばれる手法が大きな分析の改善をもたらしたことに端を発する。もっとも、前述の論文において示唆される、なくなる仕事の特徴は、実はディープラーニングを必要としない、より初歩的な自動化ツールによるものである。具体的には、税法や仕訳のあり方といった、既に何らかの答えが行政や会社単位で存在しているものに対して、適切な質問文を投げ込めば、従来と同じ答えが導かれる、というものである。 仕訳の記帳のような、質問文を入れる方法が、これまでは手入力で行われる場合には、その際に同時に科目の判断までを行うことが業務上は効率的であった。しかし、銀行やクレジットカード、電子マネーなどの利用明細がインターネット上で入手可能となっている現在は、入力自体を自動化し、付随する判断も自動化することが合理的な作業方法となる。入力作業の自動化自体は真新しいものではないが、クラウド化やキャッシュレス化によって、様々なデータをすぐに活用できる環境が整った中、飛躍的にルールに則った記帳業務を自動化することの旨味が発生してきた。この動きは更に、今後の数年間で大きく前進する可能性がある。 その可能性を象徴するのが、政府が2017年に未来投資戦略において設定した4つの領域の目標数値である。 1つ目は主要な銀行における銀行のAPI開放であり、銀行の入出金データを会計・財務ソフトがタイムリーに取得し、リアルタイムな帳簿付けを可能としていくものである。2つ目はキャッシュレス比率の倍増であり、小口現金による支出はなくなり、経費用の電子マネーやクレジットカードを支給される未来はすぐそこにある。3つ目は中小企業におけるクラウドサービスの活用推進であり、これによって士業は単なる入力・操作の業務から、経営判断の支援へと仕事の比重が移ることとなる。そして最後が現金サイクルの高速化であり、請求回収サイクルを情報技術を駆使して短期化し、資金繰りの悩みを抜本的に変えることを企図している。 これらそれぞれの要因はどれも、バックオフィスという「会社が会社であるための手続き」のために費やす時間から、会社の本分でもある、商品やサービスを通じて顧客の満足に向けて振り向けることを可能とするものだ。士業の仕事も、そのバックオフィスの負担を減らすことに一役買いながらも、究極的には顧客満足の資源配分を補佐することに、シフトしていくものとなる。 フレイ=オズボーン論文に話を戻したい。同論文では、コンピューター化によって奪われない上位の仕事も示している。最もなくならないのは「治療に向けたセラピスト」である。手術前や入院中における精神的なケアは、患者が心の安定を保ち、ひいては免疫力にも影響する大事な仕事である。仮に手術が一定の確率で失敗する、といった真実があったとしても、それを受け容れるような会話は、高度化した人工知能であっても対応することは困難であろう。 同じようなことは、経営者の意思決定についても言えないだろうか。 経営者も、孤独な一人の個人である。そのような人に対しての、多面的な支えとなることが、AI時代に変容を遂げた士業の姿といえるのではないか。 (了)
海外勤務の適任者を選ぶ“ヒント” 【第11回】 「海外派遣者に与える「責任と権限」」 中小企業診断士 西田 純 この連載ではこれまで、海外勤務の適任者選びについてさまざまな角度から考えてきました。今回はやや方向性を変えて、会社として派遣者にどのような「責任と権限」を与えるのかという視点から、海外事業への取組み姿勢について考えてみたいと思います。 一口に海外勤務と言っても、派遣先が連絡事務所や支店である場合や、100%子会社の現地法人である場合、合弁会社である場合、さらには現地代理店への出向など、さまざまな形態があります。 連絡事務所や支店の場合は本社が運営責任を持ちますし、現地側が主導権を持つ合弁会社や代理店への技術者派遣の場合などは、限定的な責任と権限で仕事をすることになるので比較的折り合いがつけやすいと思うのですが、日本側が主導権を持つ合弁企業や100%子会社の場合は、日本側が社長を出すのが通常のケースです。 ところが場合によっては、社長が務まる人材がいない等の理由により、現地での体制が脆弱化する場合があります。 1 非常勤社長という選択肢 (1) 社長は日本で? 「社長が非常勤」という体制の会社は、日本ではあまり耳にしませんが、それでも皆無というわけではなく、地方の子会社などで散見されます(東京本社の役員が地方子会社の社長を兼ねるなど)。 海外でも似たような事例があり、社長は2~3ヶ月に1度現地を訪れるだけ、派遣者のトップは工場長、というような体制で操業している会社は決して珍しくないと思います。 (2) 理由はさまざまだが 最もシニアな派遣者が技術屋で、生産の仕事が忙しいため社長は任せられない、あるいは資格要件的に海外勤務者を社長にするのが難しい、もしくはいろいろな理由で本人が固辞している、その他理由は多様だと思いますが、端的に言って現地のトップが社長でない場合、その現地法人はさまざまな「弱み」を抱えることになる、という点はご認識いただくべきだと思います。 (3) 現場主義と即応主義 最大の弱みは、現場で何か緊急を要する事態が起こったときの対応です。重大事故や、従業員や家族の生命に関わるような出来事があった場合、会社としては現場で即応体制を組むことが求められます。 このような場合、日本と現地の間に直行便がなかったり、日本に居る兼任社長の予定が詰まっていたりすると、社長の現地入りまでの時間が長引き、社会に対する責任の取り方という面で不利な状況を作り出してしまう危険性が生じます。 また、緊急事態でなくても取引先との関係づくりや現地政府との交渉など、さまざまな面で社長不在という体制が不利な状況につながる可能性があることを、本社としては認識しておくべきでしょう。 どうしても社長を非常勤にせざるを得ない、というような場合には、①緊急事態を想定したマニュアルを整備し、訓練やシミュレーションを定期的に実施する、②現場主義・即応主義を補完するための代替的な措置を講じておく(社長の現地訪問頻度を上げる、通信連絡体制を整備・強化する等)等の対応策が求められます。 いずれの場合も、「非常勤社長」という体制はあくまで例外的な措置であるとご認識ください。惰性に流されそれを常態化させてしまうことについて、妥協すべきではありません。 2 会社として考えておくこと (1) リスク管理 まず手始めに災害、事故、犯罪、その他日常的なものも含めて、発生しうるリスク要因を可能な限り洗い出しておくことは必須です。そのうえで、リスク要因の発生確率と万一発生した場合の対応策について、あらかじめ準備しておくことが望ましいでしょう。 以下の(2)に述べるトラブル対応と並行して、俗にBCP(Business Continuation Plan)と言われる事業継続計画を作成しておくと、リスクへの対応力はぐっと高まります。元々は国内の、災害対応などを想定したものですが、中小企業庁がBCPに関するウェブサイトを運営していて、どのような情報が必要なのか参考になると思います。 このサイトからは、各種の広報資料なども入手できるため、リスク管理について参考にしてください。 (2) トラブル対応 社長不在の状況で会社としてトラブルに対応しなくてはいけない状態は、明らかな危機に該当します。その場合の担当者が決まっていなかったり、シニアな派遣者が場慣れしていないなどの状況が重なると、火に油を注ぐ形でトラブルのダメージは大きくなります。 この場合、もしも若手の事務系社員が派遣されているようなら、仕事の守備範囲もさることながら、連続する徹夜に耐え得るなど体力的な面も勘案して、トラブル対応時に社長の臨時代理として前面に立ってもらうようあらかじめ決めておくのも1つの案です。 ただし事前の準備は不可欠で、一旦事件が発生してからの任命は逆効果になる場合もあることに留意ください。 3 候補者選定のポイント (1) はじめから“社長の器"という人材はいない 「うちには社長候補の人材がいない」という会社は少なくないようです。でも、たとえば「若手だから」あるいは「現場経験が短いから」という理由で社長候補と考えない、という判断が働いているとしたら、それは無用に可能性の芽を摘んでしまっていることになるのではないでしょうか。 むしろ若手で可能性のある人を、たとえば社長候補の副社長として、最初は周囲がサポートする形で派遣する、というパターンはあって良いものだと思われます。 他方で、定年までの時間も短く、技術屋一筋でやってきたシニアな派遣者にいきなり社長を任せるというような人事だと、どこかに無理が生じる可能性が残ります。 いずれの場合にも、①役割分担、②任期とタイミング、③本社のバックアップなど、さまざまな対策を組み合わせることで乗り切るしかありません。 (2) 立ち上げ時の社長赴任は半年でも可 現地法人の経営を軌道に乗せる立ち上げ時期が、本社としては最も神経を使うフェーズだろうと思います。この期間に限り、本来は非常勤となる兼任社長が現場に張り付いて陣頭指揮を執ることは、何にもまして強いサポートになると思います。 逆に言えば、立ち上げ時期の社長は半年経つと現場を引き上げる、というスケジュールをあらかじめ決めておく、ということになります。7ヶ月目からの体制については、本社と派遣者間の役割分担を明確にすることで乗り切るようにします。具体的には社長不在時の①営業、②技術・製造、③総務・人事、④トラブルや緊急事態について、責任者を明確にして連絡体制を整備しておく、ということです。 (3) バックアップ体制の充実 万一トラブルが起こった場合に本社からどのような応援が可能か、そのバックアップ体制についても可能な限り決めておくことが求められます。非常勤の兼任社長が日本から対応しなくてはならない場合については、トラブル発生時の現地入りまでをどのように調整するのか、即応できない場合は誰か代理が先乗りして時間をつなぐなどの代替案も含めて体制を充実させておくことが求められます。 (4) 見積りに余裕を上乗せする さまざまな条件を加味して厳しい人繰りを何とか乗り切れる目途が立ったとしても、ギリギリで見積もっていると、いざというときに想定外の事態が発生するなど、会社の対応力を超えた事態が発生したりします(いわゆるマーフィーの法則:起きる可能性があって、起きてほしくないトラブルは必ず起きる)。 「ギリギリの体制を組んでいるのにこれ以上は無理!」と言われるかもしれませんが、見積もり10に対して最低でも1の余裕は上乗せして持つようにしてください。予算でも、時間でも、あるいは人繰りでもそうです。そこまで追い込んで、ようやく現実的な対応策になると考えていただいて間違いはないと思います。 4 まとめ~やはり現地責任者に社長を任せるのがベスト~ 今回はここまで、「どうしても海外勤務者に社長を任せられない場合」を想定したお話をしましたが、原則論を言えば、社長は常勤がベストであることに異論の余地はありません。 人材育成計画、そして海外勤務者派遣計画については長期の視点で取り組み、海外勤務者が現地法人の社長を務められるように、時間をかけて準備することに勝る対策はないのです。 非常勤社長はあくまでもつなぎの措置であり、なるべく早く状況を改善するよう対策を講じていただくことをお願いして、今回のまとめとします。 (了)
《速報解説》 適用開始まで1年を切った「国際観光旅客税」 ~海外出張も課税対象に~ Profession Journal 編集部 昨年12月公表の平成30年度税制改正大綱に盛り込まれた、新税制となる「国際観光旅客税」は、平成31年1月7日以後の適用とされており、制度開始まですでに1年を切っている。 本税制は納税義務者を国際観光旅客等(※1)とし、国際船舶等(※2)による日本からの出国を課税対象としている。ただし、出国後に天候その他やむを得ない理由により外国に寄港することなく日本に帰った場合における出国は対象外としている。 (※1) 「国際観光旅客等」は、国際船舶等により日本から出国する観光旅客その他の者(船舶又は航空機の乗員等を除く)であって次に掲げるものをいう。 ① 出入国管理及び難民認定法の規定による出国の確認を受ける者 ② 国際旅客運送事業(他人の需要に応じ、有償で、国際船舶等を使用して旅客を運送する事業)に使用される航空機により日本を経由して外国に赴く旅客 ③ 条約の規定に従うことを条件に日本に入国する者 (※2) 日本と外国との間で観光旅客その他の者の運送の用に供される船舶又は航空機(公用船及び公用機を除く)。 なお、次の場合における日本からの出国については非課税とされている。 税率は出国1回につき一律1,000円で、平成31年1月7日以後の出国に適用される。ただし、施行日前に締結された運送契約(施行日前に当該出国の日を定めたものに限る)による国際旅客運送事業に係る出国については、国際観光旅客税を課さない等の所要の経過措置を講ずるとしている。 納税地は、国内事業者(※3)の特別徴収による場合は、原則としてその住所等の所在地とし、国外事業者(※4)の特別徴収及び国際観光旅客等の納付による場合は、原則として出国する港の所在地としている。 (※3) 国内に住所等を有する国際旅客運送事業を営む者。 (※4) 国内事業者以外の国際旅客運送事業を営む者。 また、本税の徴収・納付については、国際旅客運送事業を営む者が徴収した後、一定期間内に納付を行う。具体的には国際旅客運送事業を営む者が、航空チケット等の代金に本税の1,000円を上乗せして国際観光旅客等から徴収し、国に納付を行う流れだ。 それ以外の場合、例えばプライベートジェット等により国際旅客運送事業を営む者を介さずに日本から出国する場合は、出国のための搭乗等をする時までに国際観光旅客等自身が本税を国に納付しなければならない。 「国際観光旅客税」という名称から、観光目的で出国する旅客に限り納税義務者となる印象を受けるが、上記の通り、観光、ビジネス等の目的に関係なく、出国するほぼ全ての旅客が納税義務者となる。海外との行き来の多い企業にとっては、出張に係る費用負担が増えることも予想される。これら費用負担の取扱いについて何らかの対応がなされるのか、今後の動向にも留意されたい。 なお、本税制を規定した法案については既報の通り、「国際観光旅客税法案」として、他の改正事項とは別の法案が国会に提出されている。 【参考図】 (※) 観光庁ホームページ「(概要資料)次世代の観光立国実現に向けた観光促進のための国際観光旅客税(仮称)の創設」より
《速報解説》 事業承継税制の特例制度の前提となる認定・確認手続を規定した 「経営承継円滑化法の改正省令案」がパブコメに付される Profession Journal 編集部 既報のとおり平成30年度税制改正では、一定の要件の下、特例後継者が会社代表者から贈与等により取得した特例認定承継会社の全ての非上場株式に係る課税価格に対応する贈与税又は相続税の全額について、その特例後継者の死亡の日等まで猶予される「事業承継税制の特例制度」が創設される。 この特例制度を受けるためには、現行の事業承継税制と同じ建付けとして、経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)による経済産業大臣の認定及びその後の継続的な確認を受ける必要があるのだが、このたび2月8日付けで、特例制度の創設に対応した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」がパブリックコメントに付された(意見・情報受付締切日は3月9日)。 (※) 上記のパブリックコメントのページでは改正省令案の概要のみ確認できる。本パブコメ開始後に、備考欄において「複数のお問い合わせがあったため、念のため補足いたします。今般の改正の前提となる、所得税等法の一部を改正する法律案及びこれらを踏まえた政省令案が成立していないため、省令改正案の概要という形で意見の募集をしております。このため、改正省令の条文案・新旧対照表案はございません。」との追記が行われた。 改正省令案では、特例制度の前提となる認定の類型の追加が行われ、認定に必要な特例承継計画の確認申請や、特例承継計画に重大な変更がある場合の変更申請、雇用確保要件を満たさなかった場合の特例承継計画に係る指導・助言に関する規定が追加される。 なお、「特例承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた特例認定承継会社が作成した計画であって、その特例認定承継会社の後継者、承継時までの経営見通し、承継後5年間の事業計画等が記載されたものをいう(計画が提出できる期間は平成30年4月1日から平成35年3月31日まで)。 また、改正省令案概要では特例承継計画の重大な変更の例として「後継者の変更、後継者の人数の変更、事業計画の大幅な変更」が示されており、変更後の計画について認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けたうえで、変更申請を行うものとされる。 注目された雇用確保要件の実質的な撤廃に関しては、改正省令案概要においても「現行の事業承継税制における雇用確保要件を満たさない場合であっても、認定取消し事由には該当しないものとする」としているが、「その他の認定取消し事由については、現行の規定と同様とする」との記載があり、例えば資産保有型会社・資産運用型会社に該当した場合などには認定取消し事由に該当する点については、特例制度でも注意すべきといえよう。現行の事業承継税制の認定取消し事由については、「中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル」(中小企業庁)のP40・41で確認することができる。 ちなみに、雇用確保要件を満たせなかった場合にも納税猶予の期限は確定しないが、その理由を記載した書類(認定経営革新等支援機関の意見が記載されているものに限る)を都道府県に提出しなければならず、その理由が、経営状況の悪化である場合又は正当なものと認められない場合には、特例認定承継会社は、認定経営革新等支援機関から指導及び助言を受けて、その書類にその内容を記載しなければならない。 改正省令案は、所得税法等の一部を改正する法律(法案が2月2日付けで国会へ提出済み)の施行の日から施行され、平成30年1月1日以後の贈与等について、特例制度の対象となる予定となっていることから、昨年と同様、税制改正関連法と同日に公布される見込みだ。 (了)
告知 プロフェッションジャーナル創刊5周年記念特集 『AIで士業は変わるか?』の 連載開始について 株式会社清文社と資格の学校TACの共同事業で誕生した「税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル」は、2018年で創刊6年目を迎えます。 本誌ではこのたび、『AIで士業は変わるか?』をテーマとして、公認会計士、税理士を中心としつつ、大学教授や企業人、会計ソフトベンダー、不動産鑑定士や弁護士といった他の士業を含む幅広い分野の第一線で活躍されている方々にご執筆をいただく企画をスタートしました。 今後、AI(人工知能)を中心とした技術革新によって、会計・税の実務はどのように変化する(または、すでに変化している)のでしょうか。 また、変わらないものは何でしょうか。 これらの問題提起について、これからの指針となるような見識やヒントを知ることができる新連載『AIで士業は変わるか?』をぜひご覧ください。 各記事はページ下部の[連載目次]からご覧ください。 (各号の目次からもご覧いただけます) ◆ ◆ ◆ 税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)について詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
2018年2月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.255を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第61回】 「条文の『見出し』から租税法条文を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 法令解釈に当たって、条文の文章自体に最大限の注意を払い、読み解く必要があることは当然であるが、条文の「見出し」についてはどうであろうか。 条文本体ではないから注意を払う必要はないとしてよいのか、それとも条文本体同様の注意を払わなければならないのであろうか。 見出し自体も法令であるから、例えば、見出しの変更を行う場合にも、国会での審議を要することとされている。すなわち、見出しはその条文と一体のものとして、見出しについても改正対象とされているのである。したがって、新しく見出しを付す場合や、見出しを削る場合なども条文の改正と同様の手続きを踏むことになる。 本稿では、条文の見出しに注目して、見出しが条文解釈にいかなる影響を及ぼすかについて考えてみたい。 Ⅰ 条文見出しの意義 1 条文見出しの意義・役割 まずは、見出しの意義、見出しの有する役割から考えてみよう。 見出しには、条と一体的に扱われる通常の見出しと、複数の条に共通するものとしてその前に置かれる共通見出しとがある。共通見出しは、一連の関連する複数の条とは別個の独立したものとして扱われる。 なお、見出しは「(〇〇)」とするところの括弧をも含んでいる概念である(なお、この括弧書きは、条文中においては「( )」で表示されるが、本稿においては、「《 》」で表現することとする。)。 見出しは、条に付けられるのが原則であるが、附則などにおいて、法文が条でなく項のみに分かれており、しかも、その項の数が多い場合には、項にも見出しが付けられることがある。このように項建ての附則に付される見出しも、その扱いは通常の見出しと同じである。 見出しは、検索の便宜等の観点から、条項の内容を簡潔にまとめて表現しようとしたものにすぎないから、それ自体が法規的な役割を果たすものではないといわれている(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』157頁(日本評論社2007))。 しかしながら、当然、「見出し」が、その見出しが付されている条項を解釈する1つの手がかりを提供し得るものであると考えてよいと説明されることもある(林・前掲書157頁)。 これに対して、見出しは単なる検索の便宜のためのものであるから、見出しに特別な意味があると解する必要はないとする見解もあろう。 例えば、法人税法を例にとっても、第1編「総則」第1章「通則」と規定されているからといって、同章に法人税法の通則が網羅的にすべて規定されているわけではなく、法人税の適正な納税に資する重要事項である罰則規定などであっても、第1編第1章には設けられていない(罰則が設けられているのは、同法159条以下である。)。 現在では、国税通則法に集約される形で削除こそされているが、通則的規定ともいえる質問検査権などが、第4編「雑則」の中に規定されていたこともその一例といえよう(旧法法153、154)。 このことからすれば、編、章、款及び目等の見出しの記載如何によって、かかる編、章、款及び目における各条文の法解釈が左右されるわけではなく、いわんや条文見出しの記載如何が、その条文の法解釈に影響を及ぼしたり、条文の法解釈の参考となるわけでもないともいい得る。 このことは、同一法律の中に見出しの付いている条文と、見出しの付いていない条文が混在している法令があることからも裏付けられるかもしれない。 実際、所得税法238条ないし243条や、法人税法159条ないし163条には見出しが付いていない。これらは罰則規定に関するものであるが、相続税法では、罰則規定に限らず同法6条や8条、9条、10条、14条など、見出しが付いていない条文が多く散見されるところである。その他、租税法以外の法律においても、行政事件訴訟法20条、33条、37条の3や、会社法8条、39条、労働基準法10条ないし12条、32条の2ないし32条の5、59条など枚挙にいとまがない。 この点を強調すると、見出しの意義は、単なる検索便宜のために留まるとの見方もあろう。かように見出しの意味に重きを置かない見解もあり得ると思われるため、以下検討を加えることとしよう。 2 条文見出しの沿革 さて、見出しの意義を考えるに当たって、その沿革を確認するところから始めよう(以下、見出しの沿革に関する先行研究である平野敏彦「憲法の条文見出し」広島法科大学院論集10号67頁以下を大きく参照している。)。 現在の日本国憲法は、枢密顧問の諮諭と大日本帝国憲法73条による帝国議会(衆議院・貴族院)の議決を経て、旧憲法を改正したものとして昭和21年11月3日に公布された。 憲法原典には、旧仮名遣い・拗音促音大書き・漢字正字体(旧字体)・条文見出しなし・項番号なし(改行1字下げあり)という体裁が残っている。 新憲法を施行するためには多くの法律が必要であり、国会(帝国議会)はフル回転で立法作業を進めたという。なお、法令文作成の方針が口語体に移行している中にあって、旧仮名遣いは使用されなくなった。 さて、条文見出しについてであるが、条文見出しは、昭和22年に入って交付された一部の法律で付されるようになった。同年3月26日公布の「統計法」(昭和22年法律第18号)に「( )」を使用した外見出しが付けられたものが最初である。 次が同年3月31日公布の「教育基本法」(昭和22年法律第25号)であり、条名の下に見出しがある内見出しが付された(これは平成18年12月22日公布の同名の「教育基本法」(平成18年法律第120号)により全部改正された旧法である。)。 ここで条文見出しが定着したかと思いきや、教育基本法と同日に公布された「学校教育法」(昭和22年法律第26号)では、条文数も多くその必要性は大きいはずであるにもかかわらず、見出しは付けられていない。 しかし、同年4月7日公布の「労働基準法」(昭和22年法律第49号)には外見出し、4月16日公布の「裁判所法」(昭和22年法律第59号)には内見出しが付けられており、外見出しか内見出しかも、試行錯誤の段階だったのかもしれない。それを裏付けるかのように、例えば同年9月1日公布の「船員法」(昭和22年法律第100号)は外見出しだが、12月12日公布の「郵便法」(昭和22年法律第165号)はまた内見出しに戻っている。 【参考】 〇外見出しのケース(条名の前に見出しがあるケース):労働基準法 〇内見出しのケース(条名の下に見出しがあるケース):裁判所法 昭和23年に入ると、項番号が付されるようになり、一部の法律に条文見出しが付けられるようになった。 もっとも、同年7月10日に公布された刑事訴訟法(法律自体の名称は「刑事訴訟法を改正する法律(昭和23年法律第131号)」)は、ちょうどその端境期に当たるが、全体の条数が当時506条に及ぶという条文数が多い法典であるにもかかわらず、条文見出しも項番号も付けられていない。 このように昭和22年と23年に公布された法律は条文見出し(外見出しが大半であるが、一部は内見出し)を持つものと持たないものが混在している。昭和24年以降はすべての法律条文に「( )」の外見出しを付し(外見出しのメリットは、共通見出しの使用が可能な点である。)、現在の法令文の形がようやく整ったようである。 3 条文見出しの改正 (1) 見出し改正の意義 上記が条文見出しの大まかな沿革であるが、条文見出しの改正についてもその具体例を参考にしながら確認しておきたい。ここでは、平成18年に可決・成立した公益法人制度改革関連3法についての関係法律整備法により、大幅に整理された民法の法人に関する規定を取り上げる。 かかる整備に際して、会社の目的に関する旧民法43条は削除され、関係法律整備法38条により、その条数が34条に改められ、同条において「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。」と規定された。 さらに 民法33条は、見出しを「《法人の成立》」から「《法人の成立等》」に改め、2項として、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」を追加する改正が行われた。なお、同条1項は、「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。」と規定する。 このように、平成18年民法改正では、民法33条2項によって、営利事業を営むことを目的とする法人等の設立、組織、運営及び管理については民法等の定めるところによる旨を明言するとともに、次の34条で、法人の目的が法人の権利義務を制限することを規定することにより、法人の「目的」がその権利義務を制限することに関して、わかりやすくかつ疑義の生ずることのないように明らかにしたということができる(金田充広「会社の定款所定の目的」社会科学雑誌1号4頁)。 見出しに「等」の一文字を入れただけのように思われるが、法人の目的が法人の権利義務を制限するという基本的考え方を示すため、また、法人の設立、組織、運営及び管理についても民法等の定めるところによることを明らかにしたからには、単に、「法人の成立」という意味以上の見出しが必要となったとみるべきであろう。かように考えると、条文の「見出し」改正の意味は決して小さいものとはいえない。 なお、見出しの改正は例えば以下のようになされる(石毛正純『法制執務詳解〔3訂版〕〕282頁(ぎょうせい2000)など』参照)。 ア 見出しの一部改正の例 ◆通常見出しの一部改正の場合 ◆共通見出しの一部改正の場合 イ 見出しの全部改正の例 ◆通常見出しの全部改正の場合 ◆共通見出しの全部改正の場合 ウ 見出しと条文の一部改正の例 ◆通常見出し等を一部改正する場合 エ 見出しを付する・削る改正の例 ◆通常見出しを付する場合 ◆通常見出しを削り、共通見出しを付する場合 ◆共通見出しを削る場合 ◆共通見出しを削り、通常の見出しを付する場合 ◆共通見出しを削り、条を移動して新たに共通見出しを付する場合 ◆共通見出しを加える場合 (続く)
「使用人兼務役員」及び「執行役員」の税務をめぐる考察 【第1回】 「使用人兼務役員の定義と役割」 税理士 大塚 進一 1 使用人兼務役員の法律上の定義 役員のうちに使用人部分が含まれるため、独特な定義となる。ここでは税法上と労働関係法上におけるそれぞれの取扱いをみていく。 (1) 税法上の定義 使用人兼務役員とは、役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位(※)を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する役員をいう。 (※) 「その他法人の使用人としての職制上の地位」については次回参照。 さらに役員として、次の①~⑤のいずれにも該当しない場合であり(法令71①)、いずれかに該当すると使用人兼務役員になることはできない(法法34⑤)。 ここで、①~③は、代表権を有するとみなされる者で使用人を指揮監督する立場の者であり、④は会社法等で使用人を兼ねることが禁止されている者。⑤は、役員の中でも会社に対する支配力を強く行使することができる者である。また、「株主グループ」とは、その会社の一の株主等及びその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人のことをいう。 これらをまとめると、〈図1-1〉のように判別することになる。 〈図1-1〉 使用人兼務役員の判定 使用人兼務役員に該当すると、その使用人分に対する給与については、役員ではない一般の使用人に対する給与と同様、原則として損金算入が認められる。 (2) 労働関係法上の定義 使用人兼務役員は会社と、「使用人としての雇用契約」と、「役員としての委任契約」との混合形態で契約していると解される。そのため、使用人の部分に関しては、労働基準法等の労働関係法令における「労働者」の扱いが適用され、それ以外の部分は通常の役員としての取扱いになる。 したがって、使用人業務の部分に対する給与は、労働基準法上の「賃金」に該当し、全額を、通貨で、直接、毎月、一定期日に支払わなければならない。また、賃金部分が総額の半分以上であって、労働者性が強い場合は雇用保険の被保険者として認められる。役員部分についての報酬は、委任契約としての対価となり、株主総会や取締役会等において決まり、役員報酬がない場合もあり得る。 役員が使用人兼務であるかは、会社との関係が、業務遂行上の指揮監督の有無や拘束性の有無等の事情を総合的に考慮し、それが使用従属関係にあるか否かで判断される。すなわち、その者に「労働者」としての地位があるかどうかである。 2 使用人兼務役員が会社運営上、必要とされる理由 会社の規模や事業内容によって、会社の意思決定を行う機会がそれほど多くないケースもある。そのような場合、役員としては、通常は会社業務を行い、必要な場面において会社の意思決定に参加する方が合理的である。 また、会社の意思決定のみに携わる役員のみの場合より、通常業務も行いつつ会社の意思決定に参加する役員もいる方が、現場からの意見を会社の方針に反映しやすい。 そこでいわゆる「取締役営業部長」等の肩書きを持つ、使用人兼務役員が必要とされる。 使用人兼務役員は、1人の人間の中に「使用人分」と「役員分」があるので、その税務上の扱いも独特のものとなる。 次回以降では、その基礎的な事項を確認し、留意点について述べていく。 (了)