AIで 士業は変わるか? 【第13回】 「高度専門業務は外注される時代へ」 公認会計士 佐藤 信祐 1 AIがもたらす業務内容の変化 IT化、グローバル化によって、我々の業界は大きく変わったように思われる。具体的には、1つのクライアントに対して、1人の公認会計士又は税理士がすべての業務を行っていた時代から、分業というものが成立するようになったと考えられる。 例えば、税務申告書を作成する税理士と税務コンサルティングを行う税理士が別々であっても構わない。売上総額という意味では前者の方が高額であるが、1時間当たりの単価という意味では後者の方が高額である。今までは、1人の税理士がすべてを行っていたために非効率であったが、分業が成立すると効率的に仕事ができるようになる。 AIが進化していくと、いわゆる中付加価値の業務が減っていくと言われている。AIの進化により、入力などの低付加価値の業務が減っていくように思われるのかもしれないが、中付加価値の業務がマニュアル化されることにより、中付加価値だった業務内容が低付加価値の業務内容に変わっていくため、低付加価値の業務はむしろ増えていくと思われる。逆に、今まで中付加価値の業務の中に混在していた高付加価値の業務が純化されることにより、高付加価値の仕事が増えていくことも考えられる。 2 専門家をフルタイムで雇うことができない時代に そのような時代に、専門家の仕事はどのようになるのだろうか。筆者の仕事は税務コンサルティングであるため、容易に推測しやすい税務コンサルティングをメインに考えていきたい。 まず、特殊業務を行う税務専門家をフルタイムで雇える会計事務所は、かなり減っていくと思われる。例えば、当事務所では、FAS業務を行う複数の会計事務所と提携している。これは、組織再編税制の専門家を1人抱えられるだけの売上を獲得するためには、FAS業務を行う公認会計士が300人くらい必要になるからである。 税務デューデリジェンス業務を想定される読者もいるのかもしれないが、独立系の会計事務所だと、財務デューデリジェンス業務を行う公認会計士が税務デューデリジェンスを同時に行い、難易度の高い部分だけを抽出して外注していることが多い。そうなると、組織再編税制の専門家1人を抱えるだけの売上を獲得するためには、かなりの件数を獲得する必要が出てくる。通常の申告業務を行っている会計事務所であれば、1,000人以上の職員がいて、ようやく組織再編税制の専門家を1人抱えるだけの売上を獲得できるようになる。 組織再編税制がかなり定着していることから、難易度の高い組織再編税制に限定すれば、この300人、1,000人という人数は、さらに増えていくであろう。この傾向は、組織再編税制だけでなく、事業承継、資産税、M&Aなどのあらゆる分野に浸透していくと思われる。 さらに一歩進んで考えてみよう。上場会社、上場準備会社で、CFOは常駐する必要があるのだろうか。多くのケースにおいて、CFOの役割は経理部長が担っていることから、CFOとしての業務を純化させれば、1人の人間がフルタイムで働かなければならないほどの作業量ではないため、CFOの業務を外注した方が合理的な場合も多いであろう。非上場会社であれば、経理部長の業務を外注するという選択肢も出てくるかもしれない。 このように考えてみると、専門性が強くなればなるほど、ひとつの会社のために働くには、工数が少なすぎるということになる。複数の上場会社のCFOを兼ねる人も出てくるであろうし、筆者のように、複数の会計事務所から依頼を受ける人も出てくるであろう。すなわち、AIの進化により、専門家を内製する時代ではなく、外注する時代に移っていく可能性が高いと思われる。 3 管理職すら外注される時代に さらに進んで考えてみよう。そもそも管理職は常駐する必要があるのだろうか。IT化がもたらしたものとして業務のフラット化が挙げられる。AIにより、それがさらに進んでいけば、管理職が常駐するのではなく、複数の会社の管理職を兼ねる人も出てくるのかもしれない。 滑稽な未来だと思われるのかもしれないが、すでにある会計事務所では、そのような体制を確立している。具体的な申告作業を行うスタッフを正社員として雇っておきながら、クライアントとの税務相談やスタッフが行った申告書のレビューを外注するのである。 これは、大手ビッグ4と異なり、マネージャークラスの公認会計士、税理士を確保するのが難しいという事情もある。それなら、マネージャーの業務を純化させたうえで、独立した公認会計士、税理士に、それなりの値段で外注することにより、マネージャークラスを雇えないという問題を解決することができる。 その結果、1時間当たりの報酬額は高くなってしまうが、正社員として雇用するよりは報酬総額を抑えることができる。かつては、「安い値段で外注」することによるピンハネが可能だったのかもしれないが、現在では、「高い値段で外注」することにより、WinWin(ウィンウィン)の関係を作っている事案の方が多いように思われる。 4 正社員の存在意義は何か そのような未来において、正社員の存在意義はあるのだろうか。会社からしてみれば、損益計算書において、給与手当となっていたものが、外注工賃に代わるだけであるから、正社員にこだわる必要はない。社風に染まらない外注先に仕事を任せられるのかと思われるのかもしれないが、一般事業会社を例に挙げると、ひとつの仕事をひとつの会社だけで完結している事案はそれほど多くはない。そして、税理士業務を例に挙げると、そもそも一般事業会社からの外注の仕事がほとんどである。 外注先に高い報酬を支払うわけがないと思われるのかもしれないが、高い報酬を支払わないのであれば、他の会社の仕事を引き受ければよいのである。そのようなことが可能なのは、外注先が専門化を進めることにより、仕事を効率的に行うことができるようになるからである。例えば、相続税に特化した会計事務所と普通の会計事務所だと、同じ相続税の申告書でも、約3倍のスピードの差がある。つまり、相続税に特化した会計事務所が、3分の1の値段で引き受けたとしても、十分な利益を獲得することができるのである。 そう考えてみると、正社員にやらせるよりは、外注先にやらせた方が安いという仕事はかなり増えていくであろう。もちろん、このような未来は、パソコンと携帯電話があれば、容易に独立できてしまう公認会計士、税理士業界特有なものであると片づけることができるのかもしれない。しかし、似たようなことが可能な業種が予想以上に多いのであれば、正社員という仕組みが、いずれは制度疲労を起こす可能性は否定できない。 5 むすび 本稿は、AIが進化した時代における公認会計士、税理士業界の将来を想定してみた。このような未来を想定した理由としては、多くの会計事務所において、高付加価値業務と低付加価値業務の両方を引き受けることにより業務が非効率になっており、いずれかに特化したいという声が多いからである。そして、働き方改革により、残業がかなり減らされる正社員と、高度プロフェッショナル制度により、高い報酬を獲得できる正社員に二極化していく未来が容易に想像できるからである。 このような動きは、ゆっくりとではあるが進みつつあるため、5年後、10年後には、現在とは大きく異なる業界になっている可能性はあると思われる。 (了)
《速報解説》 大法人の電子申告義務化に向け国税庁のe‐Taxページで改正の対応状況等を確認 ~対象法人の書面での申告は無申告加算税の対象となる等、FAQの公表も~ Profession Journal編集部 平成30年度税制改正により、平成32年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、資本金の額又は出資金の額が1億円を超える大法人については、電子申告が義務化される。 (※) 大法人の他、相互会社、投資法人及び特定目的会社も対象となる。また消費税等については国及び地方公共団体も対象。 これは法人税(及び地方法人税)の申告だけでなく、地方税である法人住民税及び法人事業税、さらに消費税及び地方消費税についても義務化の対象となる。また対象となる手続には、確定申告書以外にも中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が含まれる。 このように、これまで電子申告を行っていなかった大法人の中には、2年後の制度開始に向け、社内における申告実務のフローや税務・会計システムの見直し等、すでに対応に向け動き出しているところも少なくないだろう。 【参考図①】 (※) 国税庁・e‐Taxホームページより 【参考図②】 (※) 国税庁・e‐Taxホームページより 一方で、企業からの各申告データを受け入れる国側のシステムも、この大幅改正への対応が必要となるわけだが、企業としてもこれらe‐Tax等の仕様変更への対応が求められることから、その進捗状況を把握しておきたいところだ。 この電子申告の義務化に関する情報や、並行して導入されるe‐Taxの利便性向上施策等の対応状況については、国税庁のe‐Taxページにおいて確認することができる。 上記のページでは、電子申告義務化の概要やこれらについての「よくある質問」(後述)、さらに各施策の内容と適用開始時期などを確認することができる。また4月27日付で公布された告示を受けCSV形式による提出が認められる別表の明細記載部分の具体的な対象に関し情報が更新されるなど、最新情報を確認することもできる。 ちなみに、次の4項目の改正事項についてはすでに30年4月から対応が行われているため、下記ページから確認しておきたい。 「電子申告の義務化についてよくある質問」では、義務化の対象となる資本金の額の判定時期が「事業年度開始の時」である点や、義務化の対象となる法人がe‐Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず書面により提出した場合にはその申告書は無効とされ無申告加算税の対象となる旨等が説明されている。 留意したいのは、所轄税務署からは対象法人へ義務化の通知等を行うことは予定されておらず、一方で対象法人は「電子申告義務化適用届出書(仮)」(様式は本年6月頃公表予定)を適用事業年度開始の日から1ヶ月以内に所轄税務署長へ提出しなければならない点。このように自社が義務化の対象となるかどうかは自ら確認する必要があり、期中で増資・減資した場合などケースによっては所轄税務署への確認も行っておきたいところだ。 今回義務化の対象となり新たに対応に追われる大法人等以外に、すでに電子申告を行っている大法人についても、上記の利便性向上施策等の導入により、提出情報や提出方法、データ形式の見直し等に対応しなければならず、申告に係る運営の見直しが必要となるケースも想定されよう。 また、利便性向上施策については、電子申告が義務化されない中小法人等にも適用される。中小法人等は大法人に比べ電子申告の普及率が高いことから、その影響範囲は広いものになると考えられる。 なお、冒頭述べたとおり地方税も義務化の対象となることから、e‐Taxとのデータ連携等、eLTAXの今後の動向にも注視が必要だ。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 中小企業庁、「事業承継補助金(後継者承継支援型 ~経営者交代タイプ~)」の公募を開始 ~公募締切は6月8日、5月9日からは各地で説明会を開催~ Profession Journal 編集部 平成30年4月27日、中小企業庁は「~平成29年度補正事業承継補助金~後継者承継支援型「経営者交代タイプ」(Ⅰ型)」の公募を開始した。補助上限額は最大500万円、公募の締切は平成30年6月8日となっている。 また、公募の開始とともに特設ページとして、本補助金の詳細や関連情報などを掲載した事業承継補助金事務局のホームページが新たに開設されている。 本補助金は、【1】地域経済に貢献する中小企業者による【2】事業承継をきっかけとした(事業再編・事業統合を除く)【3】後継者による新しい取組(経営革新や事業転換)を支援することが目的だ。 【1】の中小企業者は取引関係やサービスの提供で地域の需要に応えること、及び地域の雇用の維持・創出を支える中小企業であること、また、【3】の後継者は一定程度の知識や経験を有することが求められるため、次の①~③のどれかに該当する必要がある。 また、【3】の新しい取組の内容によって補助上限額が変わる。 具体的には、新規設備導入による生産性向上を伴う経営革新等を行う場合、補助上限額は最大200万円、それに加えて事業所の廃止や事業の集約・廃止を伴う事業転換にも挑戦する場合は廃業費用として最大300万円が上乗せされ、補助上限額は最大500万円となる。 ただし、本補助金の要件となる事業承継を行う期間には注意が必要だ。 本補助金が対象とするのは、平成27年4月1日から平成30年12月31日までに行われた事業承継であるため、公募開始前に事業承継が行われた場合でも応募は可能だ。ただし、公募開始後に事業承継を行う中小企業者は、最長でも今年の年末が期限となるので留意しておきたい。 (※) 中小企業庁ホームページより 中小企業者は上記要件を満たしているかの確認、及び新しい取組の実施期間(補助事業期間)中の円滑な事業化への支援を税理士等の認定支援機関から受け、応募の際には認定支援機関が作成する「確認書」が必要となる。 この「確認書」を含めた申請様式・添付書類については、上述の事業承継補助金サイトにて入手することができる。 (※) 中小企業庁ホームページより * * * なお今回、組織再編・事業統合を行う中小企業は本補助金の公募対象外となっているが、7月上旬頃にそれらの中小企業を対象とした新たな補助金の公募開始が予定されているので、今後も注視が必要だ。 また、今回の公募に伴い中小企業庁は全国11箇所で公募説明会を行う(事前予約制)。5月9日(水)の東京での説明会を皮切りに5月21日(月)まで順次開催していく。詳細なスケジュール及び事前予約については、上述の事業承継補助金サイトを確認されたい。 (了)
《速報解説》 会計士協会、二度の意見募集を経て 「違法行為への対応に関する指針」の制定及び「倫理規則」等の改正を確定 ~会計事務所等所属の会計士を対象に規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年4月27日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は次のものを公表した。 これにより、平成29年10月6日及び平成30年1月26日から意見募集していた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及びそれに対する対応も公表されているので、上記の理解に資するものと考えられる。 これは、国際会計士連盟(International Federation of Accountants:IFAC) における国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board for Accountants:IESBA)の倫理規程(Code of Ethics for Professional Accountants)が改正されたことに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 「倫理規則」の主な改正 現行の「倫理規則」の「倫理規則の趣旨及び精神」では、「社会の期待に応え得るよう」との表現を用いているが、これを「社会の期待に応え、公共の利益に資することができるよう」と改正している。 ここでは、「公共の利益」の用語がポイントと解される。 主に次の改正が行われている。 2 「違法行為への対応に関する指針」の新設 倫理規則19 条の2における委任規定に基づいて、「違法行為への対応に関する指針」を新設し、会計事務所等所属の会員が違法行為又はその疑いに気付いた場合の対応について規定している。 次のことに留意する。 「職業倫理に関する解釈指針」について主に次の改正が行われている。 3 「保証業務の依頼人に対する非保証業務の提供」に関する「独立性に関する指針」の主な改正 4 「担当者の長期的関与とローテーション」に関する「独立性に関する指針」の主な改正 担当者の長期的関与とローテーションに関して、担当者が長期間にわたって監査業務に関与する場合、当該者の公正性及び職業的懐疑心に影響を与え得る馴れ合い及び自己利益の阻害要因が生じ、その重要性が高くなる可能性について詳細に述べ、セーフガードの適用について規定している(第1部150項~150-5項)。 インターバル期間について次のように見直されている。 (出所:「「倫理規則」、「独立性に関する指針」及び「職業倫理に関する解釈指針」の改正並びに「違法行為への対応に関する指針」の制定に関する概要」の4ページの図表を一部加工) 筆頭業務執行責任者とは、監査業務の業務執行責任者のうち、その事務を統括する者として監査報告書の筆頭に自署し、自己の印を押す者1名をいう(第1部139項。共同監査の場合には、会計事務所ごとに筆頭業務執行責任者1名とする)。 改正前は、同一のインターバル期間が適用されていたが、改正後は、3つの分類に基づいて、異なるインターバル期間が適用されることになる。 また、関与期間については、累積期間でカウントすることになる(第1部151項、151-2項等)。 「職業倫理に関する解釈指針」について主に次の改正が行われている。 Ⅲ 適用時期等 倫理規則については日本公認会計士協会の定期総会(平成30年7月24日開催予定)での承認が必要となり、また、「職業倫理に関する解釈指針」の改正のうち違法行為への対応に関する部分及び「違法行為への対応に関する指針」の制定は、「倫理規則」の改正が定期総会で承認されることを前提として公表している。 (了)
2018年4月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.266を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第46回】 「会計における収益認識基準と税務」 税理士 山本 守之 1 企業会計における収益認識基準 (1) わが国の基準 企業会計原則は、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」と規定しています。このような実現主義の原則(以下「実現原則」という)の下では、財・サービスの引渡しとその対価としての貨幣性資産の受入れがあった時に収益が実現すると考えられます。実現原則が収益認識基準として採用されるのは、収益の認識の確実性と測定の客観性を確保するとともに、資金的な裏付けのある利益を計算するためといわれています。 しかし、わが国には収益認識に関する包括的な会計基準は存在しておらず、資産の販売又は譲渡あるいはサービスの提供の過程における個別具体的などの時点において、引渡しあるいは提供が行われるのかについての詳細な規定は存在していなかったのです。そのため、売上高は、損益計算書のトップラインすなわち期間利益計算の出発点となる重要な項目であるにもかかわらず、実現概念の解釈あるいは収益実現の時点の判定をめぐって争われることが少なくなかったのです。 (2) 会計基準及び適用指針の公表 国際会計基準審議会と米国財務会計基準審議会は、共同で収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、2014年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IFRS15,SFAS Topic 606)を公表し、IFRS15は2018年1月1日以後開始年度から、SFAS Topic 606は2017年12月15日以後開始年度から適用されることになっています。 このような収益認識に関する会計基準を整備する国際動向を受けて、企業会計基準委員会は、2015年にIFRS15を踏まえたわが国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に向けた検討に着手し、2017年7月20日に企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」を公表しました(会計基準公開草案87項)。 そして、2018年3月30日に、この会計基準(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」)及び適用指針(企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」)が正式に公表されました。 (3) 会計基準の主な内容 これらの主な内容は次の通りです。 2 法人税法の改正 法人税法では第22条を改正するとともに、第22条の2に新たな規定を定めています。つまり、平成30年度税制改正によって新設された法人税法22条の2は、収益の年度帰属に関する基本原則を明示しています。 同条1項は、資産の販売もしくは譲渡又は役務の提供(以下「資産の販売等」という)に係る収益の額は、別段の定めがあるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の益金の額に算入すると規定しています。この規定は、「目的物の引渡し又は役務の提供の日」に収益を認識することから、実現原則の考え方を引き継いでいると解されます。 また、棚卸資産の販売による収益額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入すると規定しています。法人税法22条の2の規定は、収益認識に関する「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の内容を確認した規定と考えられます。 3 改正条文の内容 (1) 法人税法22条の改正 法人税法22条は次のように改正されました( 部分。 又は 及び(注)は筆者)。 (2) 法人税法22条の2の内容 法人税法22条の2は次のように規定されました。 法人税法22条は、所得の金額の計算について定められている重要な条文です。 しかし、益金の額に算入すべき金額については同条2項で、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」とされているだけです。さらに、収益の額、原価、費用、損失の額については、同条4項で「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」としているだけで、収益の額の具体的な内容は定められていなかったのです。 しかし、平成30年度改正で定められた法人税法22条の2第1項では、「・・・資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する」として、「引渡基準」又は「役務提供完了基準」が原則であることを明確化しました。 なお、会計基準では「重要性等に関する代替的な取扱い」として、IFRS15号における取扱いとは別個に11項目の代替的な処理が認められています。これは、実務上の配慮から財務諸表間の比較可能性を大きく損なわない範囲での代替処理を会計上認めるものであり、法人税法22条の2第2項もこうした処理を受けています。 法人税法22条の2のポイントは次の通りです。 4 適用指針の返品権付販売と法人税法 適用指針は、返品権付商品・製品を販売したときの会計処理を、次のように定めています(85項)。 このように、適用指針では、将来の返品に係る返金負債の見積りが求められます。 一方、旧法人税法は、特定の事業について、損金経理により返品調整引当金に繰り入れられた金額のうち実績に基づく返品率及び売買利益率に基づいて算定した繰入限度額までが損金算入されました(53条1項)。繰入限度額の計算は実績に基づいており、適用指針のような将来の返金負債の見積りという要素がないのです。 収益認識会計基準適用後も、法人税法が、収益認識会計基準の会計処理を認めず、損金経理を前提とする返品調整引当金制度を維持するならば、返金負債に相当する費用を損金算入できなくなります。 5 改正の内容 ところが驚いたことに、平成30年度税制改正大綱では返品調整引当金を次のよう廃止するとしました。 会計における収益認識基準において、引当金の存在を否定しています。この考え方で安易に引当金を廃止できるのでしょうか。 平成30年度税制改正では返品調整引当金制度が廃止されることになりました。 これは、会計基準によって「収益を見込まない」とすれば返品による損失を引き当てる必要はないという考えでしょう。 しかし、現実に存在する企業取引に配慮して引当金を認めた税法の考え方は取り入れる必要はないのでしょうか。 この制度の廃止に伴う影響が大きいことに配慮して、廃止に併せて経過措置も講じられます。具体的には、改正法が施行される際(平成30年4月1日)現に、返品調整引当金の対象となる事業を営む法人等の場合、平成33年3月31日までに開始する各事業年度については改正前の規定に基づく損金算入限度額による繰入が認められる一方、平成33年4月1日から平成42年3月31日までの間に開始する各事業年度については、改正前の規定に基づく損金算入限度額に対して、1年ごとに10分の1ずつ縮小した額の繰入を、それぞれすることができる等の経過措置が講じられます(改正法附則25、32等)。 このように、返品による損失を引当金として認めるか、収益の認識基準として売上に計上しないこととするかなど、理論的に解明すべきことが本来先決とはされていないのです。このようなことが議論されていないのは、筆者としては寂しい限りです。 2年間は旧法を認め、2年の経過措置後は損金算入限度額を段階的に縮小し、43年3月に完全に廃止というのは、あまりに安易な改正です。 6 会計と税理論とを比較すべき 会計の立場からは、新収益基準等の収益の認識は従来の実現主義とは基本的に異ならないとしていますが、もともと「実現主義」は抽象的、包括的なもので、客観的検証に欠けるものであり、法人税法では実現主義という言葉は使っていません。 判例等では権利確定主義が使われていますが、法人税法との調整が必要でしょう。 例えば「変動対価」については、基準等のうち法的に何らかの手当てがされるべきでしょう。 販売促進に使われる「重要なポイント」の付与等に法人税法における通達の手当てが必要でしょう。 返品調整引当金について基準等では大きく異なっており、原論的解明が必要です。また、法人税の実効税率が29.97%から29.74%と変わることについての手当ても必要です。 もともと返品調整引当金は、現実に行われている取引を基礎として規定しているのですから、安易に廃止すべきものとは考えられません。 (了)
仮想通貨の不正送金に係る補償金の 課税関係・計算方法と確定申告の留意点 税理士 仲宗根 宗聡 仮想通貨の不正送金被害に対し、仮想通貨交換業者から支払われた補償金の課税関係について、平成30年4月16日に、国税当局からタックスアンサーによる見解が公表された。 今回の見解は、不正送金された仮想通貨を、同じ仮想通貨に代えて金銭で支払われた場合を前提としており、その場合は、その補償金と同額で仮想通貨を売却したものとして解釈した課税関係となる。 なお、課税関係のポイントは、次のようになる。 ▷留意点 これらの課税関係は、補償金の支払いが行われた年分に生じたものとされる。 このため、平成30年中に補償金の支払いが行われた場合は、平成30年分の課税関係として、確定申告期限は平成31年3月15日となる。 【1】 雑所得の計算 仮想通貨を売却した場合と同様の計算を行う。 なお、その補償金がそのまま所得の金額とはならない。 補償金 - 補償金の対象となった仮想通貨の取得価額 = 雑所得の金額 仮想通貨を売却した場合の計算方法の詳細は、平成29年12月1日に国税庁より公表された「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」の[問1]を参照されたい。 【2】 仮想通貨の取得価額 同一の仮想通貨を2回以上にわたって取得した場合のその仮想通貨の取得価額の算定方法は、移動平均法を用いるのが相当である。ただし、継続して適用することを要件に、総平均法を用いても差し支えない(上記国税庁情報の[問4]を参照)。 【3】 雑所得の確定申告 補償金が仮想通貨の取得価額を上回った場合は、その雑所得の金額を、他の所得と合算して、原則として確定申告が必要となる。 【4】 給与所得者の確定申告の特例 1か所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の金額が20万円以下の場合は、確定申告を不要とすることができる。 これは、1か所から給与の支払いを受けている人は、その給与所得については、年末調整にて課税関係が完結しているため、その他の所得が少額(20万円以下)の場合は、確定申告を省略し、その他の所得の課税を省略できるという特例である。 そのため、仮想通貨の補償金による雑所得の金額が20万円以下の人は、この特例により確定申告を不要とすることができる場合がある。 しかし、次のような人は、確定申告が必要であり、補償金による雑所得も課税の対象となる。 〔確定申告が必要な人〕 ① 給与の年間収入が2,000万円を超える人 ② 2か所以上から給与の支払いを受けている人で確定申告が必要な人 ③ 給与所得者で医療費控除や寄附金控除の適用を受ける人 など ▷留意点 事業所得や不動産所得を得ている方で確定申告が必要な人は、補償金による雑所得が20万円以下であっても、その雑所得の金額を事業所得等と合算して確定申告をする。 20万円以下の特例は、あくまでも給与所得者の確定申告の特例であって、課税の減免制度ではない。 【5】 雑所得の損益通算 補償金が仮想通貨の取得価額を下回った場合は、その雑所得の損失の金額は、他の所得(給与所得、事業所得、不動産所得など)と損益通算することはできない。 なお、補償金による雑所得の損失とその年中に生じた他の雑所得の金額との雑所得内部での通算はすることができる。 「その年中に生じた他の雑所得」とは、①年金等の雑所得、②他の仮想通貨の売却等の雑所得、③副業による雑所得などがある。 ▷留意点 事業所得や不動産所得から生じた損失がある場合、仮想通貨の補償金による雑所得の金額(黒字)との損益通算はすることができる。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第16回】 「非居住外国人の贈与税」 -平成30年度税制改正の影響- 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 12年間日本に住んでいた外国籍のXは、平成30年5月1日に出国して、平成30年8月8日に外国株式と日本株式を、外国籍で外国に住んでいるYに贈与する予定です。 この場合、Yはどの株式について、日本の贈与税が課されるのでしょうか。また、いつまでに申告納税しなければならないのでしょうか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷頻繁に改正される贈与税の納税義務者に関する規定 どの税法でも幹となる条文の一つとして、納税義務者が誰かを定めた条文がある。税法の根幹となることから、通常は、創設時の定義が頻繁かつ大幅に改正されることは考えられない。しかし、日本の相続税法においては、この20年の間、頻繁かつ大幅な改正が行われている。 なぜ、このような改正が繰り返されるのかというと、納税義務者の違いにより課税範囲が大きく異なり、また、納税義務者の変更を恣意的に行うことが困難ではなかったからである。 このため、大きな租税回避事件が発生するたびに税制改正が行われ、平成25年度税制改正では、贈与者が贈与時に日本に住所を有している場合は、受贈者が日本に住んだことが一度もなかったとしても、全世界財産に課税されることになった。 しかし、この改正は行き過ぎだという批判が海外からも多くあり、高度専門職の外国人の誘致を考えている政府としてもこれらの批判を無視することができず、外国人については、課税の適用要件を緩和する改正が平成29年度に行われた。 ▷平成30年度税制改正でどう変わったのか? 平成29年度税制改正では、贈与の開始から15年以内に日本に住所を有していた期間が10年以下で、贈与時に日本に住所を有していない外国人(日本国籍のない人)が贈与者で、受贈者が贈与時に日本に住所を有していない外国人(日本国籍ではない人)である場合は、課税範囲が国内財産に限定された(旧相法1の4①二ロ・③三、2の2①)。 しかし、15年以内に10年超日本に住んでいた外国人の場合は全世界財産に課税され、それは不合理であると、またもや批判された。一方で、日本を出国した後の贈与は国内財産に限定されることを利用した節税行為を防止する必要もあった。 そこで平成30年度税制改正では、贈与者が贈与時に国内に住所を有さず、贈与時前15年以内に10年超の期間、国内に住所があったとしても、日本在住期間内に日本国籍を有していなかった者については、原則的には、課税範囲が国内財産に限定されることになった(相法1の4①四・③三イ(2)、2の2②)。 (※) 相続税についても上記の規定が設けられているが、当然ながら下記の再入国に係る規定はない。 ただし、贈与については、贈与者が日本に住所を有しないこととなった日から同日以後2年を経過する日までの間に国外財産を贈与し、2年を経過する日までに再び日本に住所を有することとなった場合は、国外財産についても日本で贈与税課税がなされるような改正がなされることになった(相法1の4①二ロ・③三イ(2)、2の2①)。 これらを踏まえ、本件について、以下検討していく。 ▷期間の計算方法 今回は、まず、ある人が日本に「住所を有しないこととなった日」、「住所を有することとなった日」が一体いつなのかが重要になる。これについては所得税基本通達2-4の3を参考にして「国内に住所又は居所を有していた期間」は、「入国の日の翌日から出国の日まで」となる。 つまり国内に住所を有していない期間は、出国日の翌日から(再)入国日までとなり、本件の場合は平成30年5月1日の出国であるから、平成30年5月2日が住所を有しなくなる期間の始めである。 次に、同日から2年を経過しているもの(相法1の4③三イ(2))、同日から2年を経過していないもの(相法28⑤)、住所を有しなくなった日から2年を経過する日までに再びこの法律の施行地に住所を有することとなった場合(相法28⑥)、短期非居住贈与者がこの法律の施行地に住所を有しなくなった日から2年を経過した場合(相法28⑦)というように、「2年を経過する日」と「2年を経過した場合」という表記がある。 「経過する日」と「経過した日」は異なり、本件の場合、「(住所を有しなくなった日から)2年を経過する日」とは平成32年5月1日であり、「(住所を有しなくなった日から)2年を経過した日」とは平成32年5月2日となる。 さらに、日本に「住所を有することとなる日」は、入国日の翌日となる。これらを踏まえ、以下、条文をあてはめて検証していく。 ▷Yの贈与時における納税義務者の判定 本件では、贈与は平成30年8月8日に行われる。この時点で受贈者Yは外国籍であり、日本に住所を有していない。 他方、贈与者Xは、平成30年8月8日時点では外国に住んでいるが、30年8月8日基準で過去15年以内に10年超日本に住んでいたこと、さらに、出国(平成30年5月1日)の翌日から2年経過していないことから、非居住贈与者には該当しない(相法1の4③三)。 したがって、受贈者Yは、贈与時点で、贈与税の非居住無制限納税義務者(相法1の4①二ロ)に該当し、外国株式及び日本株式について日本の贈与税の課税対象となる(相法2の2①)。ただし、これはあくまでも仮の納税義務という位置づけである。 ▷Yの贈与税の申告書提出義務の判定 贈与税の非居住納税者となった場合、原則的には贈与した年の翌年の2月1日から3月15日までに贈与税の期限内申告書の提出義務が生ずる(相法28①)ことになるが、本件のXのように贈与前15年以内に10年超日本に住所を有していた外国人で、出国から2年経過していない間に贈与をした人を「短期非居住贈与者」と定義し、このような者が行った贈与については、納税義務はあるが、申告書の提出義務はないとしている(相法28⑤)。 つまり、Yは、本来ならば平成31年2月1日から3月15日までに平成30年分の贈与税の申告書を提出する義務があるが、Xが短期非居住贈与者になることから、この時点では、贈与税の申告義務はない。 ▷Xが平成31年4月2日に日本に再入国し、4月3日から日本に住所を有することとなった場合 ここでまず、Yに贈与をした後、Xが平成31年4月2日に日本に再入国し、平成31年4月3日から日本に住所を有することとなった場合について考えてみたい。 Xが出国したのが平成30年5月1日であり、再入国が平成31年4月2日であるため、日本に住所を有していない期間は「平成30年5月2日から平成31年4月2日」であることから、2年を経過していない。この時点で、Xは非居住贈与者ではないということが確定し、Yについても非居住無制限納税義務者として、外国株式及び日本株式について贈与税の申告義務が生ずる。 この場合、申告期限は贈与日基準ではなく、Xが日本に再び住所を有することとなった日(平成31年4月3日)を基準として、平成32年2月1日から3月15日までに贈与税の申告をしなければならない(相法28⑥)。 ▷Xが平成32年5月1日までに日本に再入国せず、5月2日に日本に住所を有しなかった場合 次に、Yに贈与をした後、Xが平成32年5月1日までに日本に再入国せず、平成32年5月2日に日本に住所を有しなかった場合、日本に住所を有しなくなった日(平成30年5月2日)から2年を経過した(平成32年5月2日)ため、短期非居住贈与者は非居住贈与者とみなされることから、Yについては非居住制限納税義務者として、日本株式についてのみ、贈与税の申告義務が生ずる。 この場合、申告期限は贈与日基準ではなく、日本に住所を有しなくなった日から2年を経過した日、すなわち平成32年5月2日を基準として、平成33年2月1日から3月15日までに、贈与税の申告をしなければならない(相法28⑦)。 * * * このように2年ルールが設けられたが、条文上、納税義務と申告書の提出義務を分離している。非居住か否かは贈与時点で確定するが、無制限納税義務者か制限納税義務者かの判定は、約2年間の猶予期間が設けられている。このような複雑な制度で本当に適正な運用できるのか、甚だ疑問である。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第25回】 「別表14(3) 譲渡制限付株式に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第25回目は、最近導入されたいわゆるリストリクテッド・ストックに関する「別表14(3) 譲渡制限付株式に関する明細書」を採り上げる。 (※) 平成30年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改訂されましたが、この別表14(3)は変更されていません。 Ⅱ 概要 この別表は、個人に法人税法第54条第1項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例)に規定する特定譲渡制限付株式が交付されている場合に、同項の役務の提供を受ける法人が記載する。 本制度は、いわゆるリストリクテッド・ストックと呼ばれているものであり、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式が交付された場合の法人税法上の規定が設けられ、さらに平成28年6月に経済産業省より公表された『「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引き~』により、特定譲渡制限付株式報酬の導入に関する実務的な環境整備がなされた。 すなわち、法人からその法人の役員又は従業員等(以下「役員等」という)に、その役員等による役務提供の対価として交付される一定の条件が付されている株式(特定譲渡制限付株式)について、その役員等における所得税の課税時期については、譲渡制限期間中はその特定譲渡制限付株式の処分ができないこと等に鑑み、その特定譲渡制限付株式の交付日ではなく、譲渡制限解除日となることが明確化された。 一定の条件とは、次の①から④までの要件を満たすものとされている。 なお、役員給与として特定譲渡制限付株式が交付された場合には、事前確定届出給与の要件に該当する特定譲渡制限付株式による給与の額については、原則として損金の額に算入されることになる。 この所得税における課税時期の明確化に伴い、その法人においては、その役員等における所得税の課税時期として所得税法等の規定により給与等課税事由が生じた日(その特定譲渡制限付株式の譲渡制限解除日)にその役務提供を受けたものとされ、その役務提供に係る費用の額は、同日の属する事業年度において損金の額に算入することとされたのである。 また、法人が特定譲渡制限付株式を交付した場合の会計処理については、その付与した報酬債権相当額を「前払費用」等の適当な科目で資産計上するとともに、現物出資された報酬債権の額を会社法等の規定に基づき「資本金(及び資本準備金)」として計上することになる。 特定譲渡制限付株式の交付後は、現物出資等をされた報酬債権相当額のうちその役員等が提供する役務として当期に発生したと認められる額を、対象勤務期間(=譲渡制限期間)を基礎とする方法等の合理的な方法により算定し、前払費用等を取り崩して費用計上する。なお、付与した報酬債権相当額のうち譲渡制限解除の条件未達により会社が役員等から株式を無償取得することとなった部分(役員等から役務提供を受けられなかった部分)については、その部分に相当する前払費用等を取り崩し、同額を損失処理することになる。 Ⅲ 「別表14(3)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年10月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 譲渡制限付株式に関する計算と仕訳例 (単位:円) 〔報酬債権の額の計算〕 〔費用配分の計算〕 〔29年3月期の仕訳〕 〔30年3月期の仕訳〕 〔31年3月期の仕訳〕 (5) 別表の各記載欄の説明 「譲渡制限付株式の変動状況の明細」 (了)
〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第7回】 「部分合算課税①」 -概要及び計算構造- 税理士 長谷川 太郎 1 押さえておきたいポイント 2 部分合算課税制度の概要 特定外国関係会社以外の外国関係会社のうち、経済活動基準を全て充足する会社を「部分対象外国関係会社」といい(措法66の6②六)、租税負担割合が20%以上であることや少額免除基準に該当しない場合(措法66の6⑩)には、11種類に区分された各特定所得の金額をベースに計算した「部分適用対象金額」に請求権等勘案合算割合を乗じて計算した「部分課税対象金額」について、合算課税の適用を受けることになる(措法66の6⑥、措令39の17の3①)。 また、銀行業、金融商品取引業、保険業等を行う一定の部分対象外国関係会社については、「外国金融子会社等」として、通常の部分合算課税の対象となる特定所得(11種類)からさらに限定した特定所得(5種類)のみを部分合算課税の対象とする制度が新設されている(措法66の6②七、⑧)。本稿においては、詳細な解説を割愛する。 【判定チャート】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 計算構造について 今回の改正により、これまでの資産性所得から対象となる所得の範囲や計算方法が大きく変わっている。 部分合算課税の計算構造は以下の通りとなっている。 (※) 財務省「平成29年度税制改正の解説」P714より抜粋 部分合算課税の対象となる「部分課税対象金額」は、以下の流れで計算される。 【Step1】 11種類の各特定所得の金額を個別に算出する。 (※) 各特定所得の内容に関しては次回以降、解説を行う。 【Step2】 11種類の各特定所得の金額のうち、「損益通算グループ」(各特定所得について、マイナスとなることがあり得る特定所得)に属する5種類の各特定所得の金額について合算を行い、マイナスの特定所得がある場合にはグループ内で損益通算を行う。 【Step3-1】 〈部分適用対象金額①〉 「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額がマイナスとなる場合、当該金額は7年間の繰越が可能となり、「非損益通算グループ」(各特定所得について、マイナスとなることがない6種類の特定所得)の各特定所得の合計額が「部分適用対象金額」となる。 【Step3-2】 〈部分適用対象金額②〉 「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額がプラスの場合で、前期以前から繰越をしてきた「部分適用対象損失額(過去7年以内に生じた「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額がマイナスとなった場合の金額で、その後の事業年度において控除されていない金額)」がある場合には、「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額の範囲で控除を行う(措法66の6⑦、措令39の17の3㉘)。損益通算後の「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額と「非損益通算グループ」の特定所得の合計額が「部分適用対象金額」となる。 なお、以下の事業年度については「損益通算グループ」に属する各特定所得の合計額がマイナスであったとしても、「部分適用対象損失額」には該当しない点に留意されたい(措令39の17の3㉘)。 【Step4-1】 〈少額判定①〉 「部分適用対象金額」が2,000万円以下(改正前までは1,000万円以下)である場合には、部分合算課税の適用が免除される(措法66の6⑩二)。 【Step4-2】 〈少額判定②〉 各事業年度の決算に基づく所得の金額に相当する金額のうちにその各事業年度における部分適用対象金額の占める割合が5%以下の場合には、部分合算課税の適用が免除される(措法66の6⑩三)。 【Step5】 〈部分課税対象金額〉 少額免除基準を充足しない場合には、部分適用対象金額に請求権等勘案合算割合を乗じた金額が部分合算課税の対象である部分課税対象金額となる。請求権等勘案合算割合については、会社単位の合算課税と同様である(【第4回】「4 課税対象金額」参照)。 なお、部分合算課税の金額が会社単位の合算課税の金額を超過している場合には、改正前の考え方であれば会社単位の合算課税の金額が上限となっていたが、今回の改正では、会社単位の合算課税金額が上限とはならず、部分合算課税の金額で課税される点に留意されたい。 【Step6】 〈申告手続き〉 部分課税対象金額が生じない場合や部分合算課税が免除となる場合には、確定申告書の別表への記載は不要となった。ただし、租税負担割合が20%未満であり、かつ当該外国関係会社に対する持株割合が10%以上等である内国法人については、部分合算課税の有無に関わらず、当該外国関係会社の貸借対照表、損益計算書等の確定申告書への添付が義務となっている(措法66の6⑪一)。 【参考】 ~部分合算課税の適用免除基準について~ 部分合算課税の適用免除基準は租税負担割合基準(下記〈1〉)と少額免除基準(下記〈2-1〉及び〈2-2〉)の2種類があり、租税負担割合基準については各特定所得の計算を行わずに免除判定を行うことが可能であるが、少額免除基準については各特定所得の計算を行い部分適用対象金額を算出したうえで、免除となるか否かの判断を行う必要がある。 (了)