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[無料公開中]さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第42回】「弁護士顧問料事件」~最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)~

筆者:菊田 雅裕

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実務必須の

[重要税務判例]

【第42回】

「弁護士顧問料事件」

~最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁)~

 

弁護士 菊田 雅裕

 

-本連載の趣旨-

本連載は、税務分野の重要判例の要旨を、できるだけ簡単な形でご紹介するものである。

税務争訟は、請求内容や主張立証等が細かく煩雑となりやすい類型の争訟であり、事件の正確な理解のためには、処分経過の把握や判決文の十分な読み込み等が必要となってくるが、若手税理士をはじめとする多忙な読者諸氏が、日常業務をこなしつつ判例研究の時間を確保することは、容易なことではないであろう。他方、これから税務重要判例を知識として蓄積していこうとする者にとっては、要点の把握すら困難な事件も数多い。

本連載では、解説のポイントを絞り、時には大胆な要約や言い換え等も行って、上記のような読者の方に、重要判例の概要を素早く把握していただこうと考えている。

このような企画趣旨から、本連載における解説は、自ずと必要最低限のものとなり、基礎知識の説明、判例の繊細なニュアンスの紹介、多角的な分析、主要な争点以外の判断事項の紹介等を省略することも多くなると思われるが、ご容赦をいただきたい。

なお、より深い内容については、できるだけ論末において他稿をご紹介するので、そちらをご参照いただきたい。

▷今回の題材

弁護士顧問料事件

(最判昭和56年4月24日(民集35巻3号672頁))

《概要》

弁護士Xは、毎月定額で得ていた顧問料につき、給与所得として課税された方が納税額が少なく済む見込みだったことから、これを給与所得として所得税の確定申告をした。

Y税務署長は、顧問料収入は事業所得に当たるとして、Xに対し更正処分をした(当初更正処分)。さらにその後、顧問料の一部は給与所得のままでよかったとして、当初更正処分の税額を減額する再更正処分を行った(ただし、Xの確定申告による税額よりは税額が大きかった)。

これに対し、Xは、当初更正処分と再更正処分の両方の取消しを求めて出訴した。

最高裁は、再更正処分の取消しを求める必要はなく、当初更正処分の取消しを求めれば足りるという前提に立った上で、XとY税務署長の見解に相違の残る顧問料については、関連する事情に照らすと事業所得に当たるとして、Xの主張を認めなかった。

《関係図》

▷争点

 更正処分後、減額再更正処分がなされた場合、取消訴訟の対象となるのは当初の更正処分か、減額再更正処分か、その両方か。

 Xの顧問料収入は給与所得に該当するか。

▷判決要旨

 更正処分後、減額再更正処分がなされた場合、取消訴訟の対象となるのは当初の更正処分であり、減額再更正処分について取消しを求めても判断の対象とはならない。

 本件の事情の下では、Xの顧問料収入は事業収入に該当し、給与所得には該当しない。

▷評釈

 本件とは異なる場合であるが、更正処分後に増額再更正処分がなされた場合について、当初更正処分は再更正処分の処分内容としてこれに吸収され一体となってその外形は消滅し、増額再更正処分が課税標準・税額を全面的に変更する処分となるものと解されている(吸収説)。この場合、納税者は、増額再更正処分の取消しを求めて争えばよく、逆に当初更正処分の取消しを求めて訴訟提起しても、訴えの利益がなく不適法却下となる。
 このように解されるのは、増額再更正は、当初更正をそのままとしつつ、さらに増額すべきだったのに脱漏した部分のみを追加的に更正する、というものではなく、再調査により判明した結果に基づき、全体としての課税額を決定するものだからであると説明されている。

 これに対し、本件では、更正処分後に減額再更正処分がなされた。
 一審は、更正処分後に増額再更正処分がなされた場合と同様に解して、当初更正についての訴えを却下した(再更正については棄却)。
 二審も、一審の判示内容を支持した。また、減額再更正処分は必ずしも常に更正処分の単純な一部取消ではなく、課税標準の内容等の変更をもたらす場合もあるとも指摘した。
 しかし、最高裁は、減額再更正の実質は、当初の更正処分の部分的な変更(一部取消し)にとどまり、それ自体は別個独立の課税処分ではなく、なお当初の更正処分が残存しているとの趣旨のことを述べた上で(一部取消説)、再更正については、取消しを求めても判断の対象にはならないとして訴えを却下し、当初更正について本案審理を行った。

 そして、最高裁は、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうこと、給与所得とは、雇用契約等に基づき、使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいうが、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか重視されるべきことを指摘した。
 その上で、本件では、顧問先からの法律相談等は本来の弁護士の業務と別異のものではないこと、勤務時間・場所の定めはなく、特定の会社の業務に定時専従する等格別の拘束はなかったこと、Xが各顧問先に出向くことは全くなかったこと、各顧問先の相談回数もまちまちで回数も多くはなかったこと、各顧問先は給与ではなく報酬として経理処理していたことなどから、本件の顧問料収入は、給与所得ではなく事業所得に当たると判断した。

▷判決後の動向等

本件は、減額再更正後の処分取消訴訟の対象を最高裁として明らかにした事件であった。

増額再更正の場合と減額再更正の場合とで結論が異なるため、理解しにくいと感じる方もいるだろうが、それぞれの場合について、評釈のように説明されているので、ご確認いただきたい。なお、増額再更正の場合については、本判決の少し前に最高裁判決がなされている(最判昭和55年11月20日、集民131号135頁)。

この種案件では、取消の対象の選択を誤る可能性がある。実務上は、却下前に裁判所から訴えの変更を促される場合もあるだろうが、申立時に注意したい。

また、本件は、事業所得と給与所得の区別について、考慮要素を挙げ、具体的な判断を示している点でも参考になる。

▷より詳しく学ぶための『参考文献』

  • 最高裁判所判例解説民事篇(昭和56年度)275頁
  • 判例タイムズ442号88頁
  • ジュリスト746号92頁
  • ジュリスト768号49頁
  • 租税判例百選〔第3版〕52頁
  • 租税判例百選〔第5版〕67頁
  • TAINSコード:Z117-4787

(了)

「さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]」は毎月第2週に掲載されます。

連載目次

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例]

第1回~第40回

第41回~

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筆者紹介

  • 菊田 雅裕

    (きくた・まさひろ)

    弁護士
    横浜よつば法律税務事務所

    ・平成13年 東京大学法学部卒業
    ・平成16年 司法試験合格
    ・平成18年 弁護士登録
    ・平成23~25年 福岡国税不服審判所 国税審判官
    ・平成25~26年 東京国税不服審判所 国税審判官

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