組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第14回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第2章》 平成13年度税制改正) ロ 主要資産等引継要件 法人税法2条12号の11ロ(1)では、主要資産等引継要件について、以下のように規定されている。 この場合の「主要な資産及び負債」の具体的な内容については、当時の財務省主税局が公表した資料からは見つけることができなかった。しかし、その後の国税局からの解説により、ある程度の内容は推測することができるようになっている。さらに、阿部泰久氏により、売掛金・買掛金・棚卸資産が、主要な資産に該当しないことが指摘されたため(※)、主要な資産及び負債には、固定資産のような流動しておらず、かつ、事業を営むために必要不可欠な資産及び負債が含まれるのであろうと言われていた。 (※) 阿部泰久・山本守之「企業組織再編税制の考え方と実務検討」税務弘報49巻6号30頁(平成13年)。 その後に規定された法人税基本通達1-4-8では、そこまで読み取れないため、本連載を通じて、その後の国税局や税務専門家の解説を見ながら、「主要な資産及び負債」の具体的な内容を探っていく予定である。 ハ 従業者引継要件 法人税法2条12号の11ロ(2)では、従業者引継要件について、以下のように規定されている。 合併における従業者引継要件と異なり、分割事業に係る従業者のうち100分の80以上を引き継げばよいこととされている。これは、分割法人の一部の事業のみが切り出されることがあるため、当然の規定であると考えられる。 従業者引継要件が定められているのは、事業単位の移転を要求しているからだということは、本連載で何度か指摘した。そうなると、分割法人から分割承継法人に出向させた場合にどのように判定するのかという点が問題となる。出向であったとしても、分割承継法人の業務に従事していることに変わりはないからである。 この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』89頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「出向者を含めてその移転事業に従事していた従業者が引き継がれるときに、独立した事業単位で移転をしたと考えるのが適当であると思われます。」と解説されている。その後、法人税基本通達1-4-10でも、同様の規定が設けられることになる。 ニ 事業継続要件 法人税法2条12号の11ロ(3)では、事業継続要件について、以下のように規定されている。 分割により分割承継法人に移転する事業が、分割法人にとって「主要な事業」であるとは限らないため、「分割事業」とだけ規定されている。なお、「分割事業」の定義は、前述の主要資産等引継要件の条文において、「分割法人の分割前に営む事業のうち、当該分割により分割承継法人において営まれることとなるものをいう」と規定されている。 (ⅴ) 共同事業を営むための適格分割 法人税法2条12号の11ハ、法人税法施行令4条の2第6項では、共同事業を営むための適格分割の要件について定められている。【第12回】で解説した柱書に規定された金銭等不交付要件、按分型要件に加え、事業関連性要件、事業規模要件(又は特定役員引継要件)、主要資産等引継要件、従業者引継要件、事業継続要件及び株式継続保有要件が定められた。 このうち、株式継続保有要件は、分社型分割の場合には、分割法人が交付を受けた分割承継法人株式に対して、分割型分割の場合には、分割法人の株主が交付を受けた分割承継法人株式に対して、それぞれ課されている。そのため、分割型分割を行った場合に限り、分割法人の株主等が50人以上である場合には、株式継続保有要件を満たす必要がないものとされている(ただし、平成29年度税制改正で、分割型分割を行った場合における株式継続保有要件の考え方が大幅に修正されている)。 共同事業を営むための適格合併と比較すると、事業規模要件に資本金基準が設けられていないとか、特定役員引継要件において分割法人の「特定役員」ではなく、「役員等」を分割承継法人の「特定役員」に就任させることが要求されているといった違いがある。その理由として、みなし共同事業要件の解説であるが、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』106頁(日本租税研究協会、平成13年)では、「分割法人等の資産等の一部のみが移転する」からであると説明されている。 ③ 適格現物出資 法人税法2条12号の14では、適格現物出資の要件について定められている。具体的な内容は、内国法人から外国法人への現物出資、外国法人から内国法人への現物出資が可能であることから、それに対応した規定が設けられているほかは、適格分割と変わらない。 そして、同号の15では、適格事後設立について規定されたが、平成22年度税制改正で廃止されている。 * * * 次回からは、『平成13年版改正税法のすべて』145頁以降に記載されている移転資産等の譲渡損益の計算について解説を行う予定である。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第21回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定③ (店舗兼住宅等を譲渡した場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年6月に死亡した父親の家屋160㎡(昭和56年5月31日以前に建築:居住用部分80㎡、店舗用部分80㎡)及びその土地200㎡(居住用部分100㎡、店舗用部分100㎡)を相続により取得して、その家屋を取り壊し更地にした上で、本年9月に1億1,000万円で売却しました。 相続の開始の直前まで父親は一人暮らしをしながら古美術商を営み、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 この場合、Xの譲渡は、「相続空き家の特例(措法35③)」の譲渡価額要件(1億円以下)を満たすこととなるのでしょうか。 A 譲渡価額要件の判定においては、店舗兼住宅等の場合、非居住用部分に相当するものも含まれることから、「対象譲渡資産一体家屋等」の譲渡価額が1億円を超えるため譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 ところで、その譲渡資産が店舗兼住宅等であった場合には、措通35-15(被相続人居住用家屋が店舗兼住宅等であった場合の居住用部分の判定)により、措通31の3-7(店舗兼住宅等の居住部分の判定)に準じて、その居住用部分を判定するものとされています(【第12回】の解説を参照)。また、その被相続人の居住の用に供されていた部分に対応する譲渡対価の額については、措通35-20(その譲渡の対価の額が1億円を超えるかどうかの判定)の(2)の算式により対象譲渡の対価の計算をすることとされています。 しかしながら、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であるかどうかの判定については、対象譲渡に係る居住用部分の判定とは異なり、譲渡資産が相続の開始の直前において被相続人の店舗兼住宅等又はその敷地の用に供されていた土地等であった場合、非居住用部分に相当するものもこの判定に含まれることとなります(措通35-22(「対象譲渡資産一体家屋等」の判定(5))。 したがって、本事例の場合、被相続人居住用家屋の敷地等の判定における特例対象譲渡価額は5,500万円となるものの、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定においては1億1,000万円となることから、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができないこととなります。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第11回】 「滞在期間・住居・生計同一親族による住所の判定」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(税理士)は、海外と日本を頻繁に行き来する経営者から税務の相談を受けました。 その経営者は日本に親族が住む家があり、家賃の一部を負担していますが、その家があることにより「日本に住所がある」と判定されることになるのですか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷住所とは 居住者の定義は、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう」とされているが(所法2三)、この「住所」というのは、民法22条で定めた各人の「生活の本拠」から考えていくことになる。 それでは「生活の本拠」とは何かというと、その者の所在、職業、生計を一にする配偶者その他の親族の居所、資産の所在をみて客観的に判断し、租税回避という内面の意思により判断が傾くことは、現在の判例ではないものと考えられる。 そこで今回は、その者の所在がどこか、つまり、滞在期間や住居がどこにあると判断されているのか、過去のいくつかの判例から検討する。 ▷日本での滞在期間の長さ ユニマット事件(シンガポールでの株式譲渡と住所の認定)(※1)で、原告は平成12年12月4日以降平成14年末までシンガポールに滞在していたとされており、平成13年1月12日に株式を譲渡している。 (※1) ・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第205号所得税決定処分取消等請求事件 ・東京高等裁判所平成19年(行コ)第342号所得税決定処分取消等請求控訴事件 課税庁側は、平成12年12月4日から平成13年1月12日までの40日間において、日本滞在日数は22日(55.0%)、シンガポール滞在日数は17日(42.5%)、香港滞在日数は1日(2.5%)となっており、日本滞在日数が最も多いと、株式譲渡までの期間における日本滞在期間の多さを主張した。 判決によると、①平成12年中(ただし、同年12月4日以降に限る)は、シンガポール15日、日本13日、②平成13年中は、シンガポール187日、日本172日、③平成14年中は、シンガポール179日、日本179日であることが認められ、その滞在日数については有意の差はないとされている。 また、別の事件である平成20年1月17日東京地裁判決(東京地方裁判所平成18年(行ウ)第654号所得税更正処分取消等請求事件)では、日本での滞在日数は平成13年中171日で、外国での滞在日数は、平成13年中においては、シンガポール3日、マレーシア55日、香港42日、中華人民共和国6日、アメリカ合衆国39日、ヨーロッパ諸国23日、旅券上滞在が判明しない日数26日となっており、日本以外の国での滞在日数は日本での滞在日数よりも格段に短いことから、日本に所在していると判断されている。 このことから、滞在日数を判断する際は出国日以降、暦年単位で判断するが、国外の合計滞在期間と日本での滞在期間とを比較するのではなく、各国の滞在期間と日本での滞在期間を比較して検討されている。 ▷生計を一にする親族の存在 「どこにその人の住居があるか」ということは、住所の判定に当たって極めて重要である。 「住民票がある」ということは、住所の決定において重要な要因の1つであるが、決定的要因になるとは限らない。日本の健康保険制度のおかげで、医療については1割から3割負担で受けられ、高額医療費についても補てんされる。このような制度が完備されている国は少ないことから、海外に居住することになっても、日本の住民票を維持し、病気になったときは日本で治療を受けるような人もいるといわれている。 平成28年3月1日の裁決(名裁(所)平27第24号)では、原告は、住民票を日本に置いている状況で、非居住者であることを主張した。なぜなら住民票の転出・転入の届出は、客観的な居住実態を反映するものとはいえず、重要性は低いからである。 しかし、その住民票の登録地に、妻、長女及び次女が住む家屋があり、日本滞在中は原告もそこに滞在していた。さらに原告のクレジットカードを家族が利用して種々の消費活動をしたほか、原告名義の銀行預金口座から生活費として現金を引き出していた。また、日本の居宅に係る電力料金、ガス料金及び水道料金は、原告名義の銀行預金口座から支払われていたことから、家族は原告と生計を一にしており、その家族が住む家屋の所在地に住所があると判断されている。 武富士事件(外国持株会社株式の贈与と住所の認定)(※2)においては、原告は日本に滞在中、東京都杉並区にある居宅に賃借し、両親、弟と起居していた。また、銀行から原告宛てに郵送される郵便物は杉並の居宅に送られていた。さらに原告個人の居室は、香港滞在期間中もそれまでと同様に保たれていた。原告は、本件滞在期間前には1ヶ月に5万円ないし10万円を生活費として両親に渡し、香港滞在期間中も同様であったが、生計は別と判断された。 (※2) ・東京地方裁判所平成17年(行ウ)第396号贈与税決定処分取消等請求事件 ・東京高等裁判所平成19年(行コ)第215号贈与税決定処分取消等請求控訴事件 ・最高裁判所(第二小法廷)平成20年(行ヒ)第139号贈与税決定処分取消等請求上告受理事件 上記のユニマット事件では、原告は、シンガポールに滞在する前に居住していた家(賃貸)を解約しており、シンガポールに滞在中の帰国時には、ホテルや会員制スポーツクラブに宿泊していた。ただし、原告は日本に不動産を複数所有していた。また、日本には両親や長女が居住しており、原告は両親や長女に家賃の立替えや家具購入の支援をしていた。しかし、父親は弁護士業を営み、長女も出版社に勤務し、自分の収入で原告から独立して生計を立てていると判断されたため、親族の居住する家が住所と判断されることはなかった。 これらから考えると、独立して生活できるだけの収入のある親族が国内で居住しており、住居費の一部を支援したとしても、その事実をもって国内に住所があるとはいいがたいと考える。 ▷国外でのサービスアパートメントへの滞在 非居住者の住所の判定では、国外において「どのような場所に住んでいるか」という点が重要なポイントとなる。例えば、中長期滞在のための場所として、サービスアパートメントといわれる、家具や家電が供えられ、生活に必要なサービスが受けられる賃貸アパートがある。 ユニマット事件では、シンガポールにおいてサービスアパートメントを1年以上賃借し、NHK番組を視聴するためのケーブルテレビの契約も締結していた。課税庁側は、サービスアパートメントの実質は、日本において原告が宿泊に利用していたホテルやスポーツクラブ等と大差はないと主張した。しかし、裁判所の判断において、キッチンなどを備え、日常生活を送るに十分な設備を有しているものと認めることができること、原告がシンガポールを離れ、日本その他の地域に滞在する間も、身の回りの品などの動産をサービスアパートメントにおいて保管することが可能であることから、住居と判断される重要な要因となった。 武富士事件において、課税庁側は、香港に家財等を移動したことはなく、香港に携行したのは衣類程度にすぎず、本件香港居宅は、ホテルと同様のサービスが受けられるアパートメントであって、長期の滞在を前提とする施設であるとはいえないと主張した。しかし、最高裁において、香港に家財等を移動していない点は、費用や手続の煩雑さに照らせば別段不合理なことではなく、香港では部屋の清掃やシーツの交換などのサービスが受けられるアパートメントに滞在していた点も、昨今の単身で海外赴任する際の通例や上告人の地位、報酬、財産等に照らせば当然の自然な選択であって、およそ長期の滞在を予定していなかったなどとはいえないと判断された。 このように、サービスアパートメントによる滞在もその場所が住所となることについて否定されていないが、そのためには国内での住所がないと判断されるだけの事実の積み上げが必要である。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(所得税)のQ&A〕 【Q1】 「納税地の異動」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 〈Q〉 本年(×2年)1月に発生した地震により、自宅が全壊する被害を受けた。被災した自宅のあるA市は、国税庁告示により地震発生日以降に到来する国税の申告・納付等の期限が延長されている(地域指定による期限延長措置)。 ×2年2月末に、A市から期限延長の指定地域外にあるB市へ転居しているが、全壊した自宅から必要書類を持ち出すことができないため、×1年分の確定申告を申告期限(×2年3月15日)までに行うことは難しい状況である。 A市に居住しているときに被災しているので、×1年分の確定申告は地域指定による期限延長措置の対象となり、申告期限は自動的に延長されるのか。 〈A〉 ×1年分の確定申告は、指定地域外にあるB市へ転居した後に期限が到来するため、地域指定による期限延長措置の対象とはならない。したがって、×1年分の確定申告書の提出期限は、原則として×2年3月15日となる。 ただし、転居後の納税地において個別に所定の手続を行い、税務署長の承認を得ることができれば、税務署長が指定する日まで申告・納付等の期限が延長される(個別指定による期限延長措置)。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 地域指定による期限延長が措置される場合には、国税庁告示により対象地域や期日が指定される。国税庁告示では、期限が延長される申告・納付等は「指定地域に国税の納税地を有する者に係るもの」に限定されている。 本事例において、転居前に申告・納付等の期限が到来する国税がある場合には、その国税は指定地域に納税地があることから、地域指定による期限延長措置の対象となる(通法11、通令3①)。一方、転居後に申告・納付等の期限が到来する国税については、指定地域に納税地を有していないため、地域指定による期限延長措置の対象とはならない。 ただし、地域指定による期限延長措置の対象とならない場合でも、転居先の所轄税務署長に対して「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出し承認を受ければ、税務署長が指定する日まで申告・納付等の期限が個別に延長される。 なお、一時的に指定地域外に避難しているような場合には、引き続き指定地域内に納税地があるものとして、地域指定による期限延長措置の対象になると考えられる(※)。 (※) 「東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い(情報)」には、「一時的に指定地域外に避難しているような場合には、引き続き指定地域内に住所があるものと考えられる」と示されている。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第36回】 「寄附金(社員旅行負担金)」 ~グループ3社の共同社員旅行の負担金が寄附金に該当すると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「グループ3社の共同社員旅行の負担金の一部が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成3年7月18日裁決(裁決事例集42号128頁。以下「本裁決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 4 検討 (1) 関係法令等の確認 法人が支出した寄附金とは、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与であり、いわば事業関連性の有無を問わず、対価を伴わない支出であると解されている(法法37⑦)。ただし、そのような支出であっても、広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものは、寄附金の額から除かれている(法法37⑦括弧書)。 さらに、直接的・個別的な対価を伴わない支出で、かつ、形式上、寄附金の額から除かれる上記広告宣伝費等の費用に該当しないものであっても、その支出を行うことにより、①対価的意義を有するものと認められる経済的利益の供与を受けている場合、又は②営利法人としてこれを受けることなくその支出相当額の利益を手離すことを首肯するに足りる何らかの合理的な経済目的等がある場合には、寄附金の額に含まれないと解されている(大阪高裁昭和53年3月30日判決・高民集31巻1号63頁、東京高裁平成26年6月12日判決・訟月61巻2号394頁参照)。 子会社等の整理・再建に際し、相当の理由(経済的合理性)がある場合のその子会社等に対する債権放棄が寄附金ではなく、そのまま損金の額に算入される旨を明らかにした通達もある(法人税基本通達9-4-1、9-4-2)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が、帳簿上、Z社への支払額1,000,000円を福利厚生費として計上した上で、B社からの入金額500,000円を福利厚生費の戻入れとして処理していることを前提としている。その上で、これらの差額500,000円である本件負担額が、X社、A社及びB社のグループ3社が合同で行った慰安旅行の負担金であるとし、この本件負担額500,000円とX社が負担すべきと認められる金額148,111円との差額351,889円について、A社が負担すべきものをX社が負担したもので、A社への経済的利益の無償の供与であり、法人税法37条の寄附金に該当すると判断するものである(理論的には、法人税法22条2項の無償取引に係る収益を一旦認識する構成もありうるであろう)。 そうであれば、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当する(ただし、本件更正処分が、慰安旅行費用の総額、参加人数などX社の帳簿書類に記載されている事実を否認することになるような場合には、帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する余地もある)。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、X社が、帳簿上、Z社への支払額1,000,000円を福利厚生費として計上した上で、B社からの入金額500,000円を福利厚生費の戻入れとして処理していることを前提としている。その上で、これらの差額500,000円である本件負担額が、X社、A社及びB社のグループ3社が合同で行った慰安旅行の負担金であるとし、この本件負担額500,000円とX社が負担すべきと認められる金額148,111円との差額351,889円について、A社が負担すべきものをX社が負担したもので、A社への経済的利益の無償の供与であり、法人税法37条の寄附金に該当すると記載している。 また、X社が負担すべきと認められる金額148,111円の算出過程について、①その慰安旅行の総額は2,666,000円で、参加人員18名であるので、1人当たりの費用は148,111円となること、②X社からの参加者は2名で、そのうちD男はA社の取締役、E男はA社の代表取締役を兼務しており、勤務状況からしてA社とX社で両名の負担額を折半すべきものと認められるため、X社の負担額は148,111円となることを記載している。 すると、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものである。また、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものといえる。 したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 * * * 次回は、「貸倒損失が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例56(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆受取配当等の益金不算入(法法23) 法人が他の法人から配当を受けた場合には、二重課税を排除するため、配当の元となる以下の株式等の区分に応じ、配当の額を益金の額に算入しないこととする「受取配当等の益金不算入」の規定がある。 ◆株式等の保有割合(法令22の2、22の3) 株式等の保有割合の判定は、非支配目的株式等の場合は配当の支払に係る基準日であるのに対し、完全子法人株式等及び関連法人株式等の場合は、配当の「計算期間」中継続して保有していなければならない。「計算期間」とは、原則として前回の配当基準日の翌日から、今回の配当基準日までの期間をいう。 したがって、「計算期間」の中途において株式移転により設立された完全親法人に対する配当は、完全子法人株式等及び関連法人株式等のいずれにも該当せず、その他の株式等に該当することとなり、益金不算入割合は100分の50となる。 ただし、平成27年度税制改正前は、関係法人株式等(25%以上保有)に係る配当の「計算期間」の初日については、「株式移転した完全親法人の設立の日」も含まれていた(平成27年度の税制改正によりこの特例規定は廃止)ため、益金不算入割合は100分の100であった。 【参考】 改正前の株式等の区分及び益金不算入割合(平成27年3月31日まで) (了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第14回】 「開示(表示及び注記)」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回述べたとおり、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)では、契約資産、契約負債のように、従来の実務では使用されていなかった新しい用語が見られる。 これらは、会計処理だけでなく、財務諸表の表示及び注記にも関係する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 表示 契約資産、契約負債及び債権は、収益認識会計基準(案)9項から11項において定義されている。 財務諸表の表示は次のようになる(収益認識会計基準(案)76項、85項、収益認識適用指針(案)103項、104項)。 Ⅲ 注記 1 収益認識会計基準(案) 顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記する(収益認識会計基準(案)77項)。 企業が履行義務を充足する通常の時点とは、例えば、商品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供に応じて、あるいはサービスの完了時である(収益認識会計基準(案)133項)。 2 注記に関する規定の経緯 収益認識会計基準(案)が会計基準として確定し、早期適用する段階では、各国の早期適用の事例及び我が国のIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の準備状況に関する情報が限定的であり、IFRS第15号の注記事項の有用性とコストの評価を十分に行うことができないと考えられた(収益認識会計基準(案)133項)。 このため、収益認識会計基準(案)は、必要最低限の定めを除いて、基本的に注記事項を定めていない。 本会計基準が適用される時(平成33年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む)に、注記事項の定めを検討する予定である(収益認識会計基準(案)133項)。 Ⅳ 開示に関する意見 以下の論点が検討されている(第351回企業会計基準委員会(2016年12月20日)の審議事項(6)-3、9項)。 IFRS第15号のBC323項では、契約資産と債権との区別を行うことは重要であり、その区別により、財務諸表利用者に、契約における企業の権利に関連したリスクに関する目的適合性のある情報が提供されることについて述べられている(両方とも信用リスクに晒されているが、契約資産は、例えば、履行リスクなどの他のリスクにも晒されている)。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第26回】 「家族信託の活用事例〈株式編①〉 (非上場会社において、親から子への事業承継を予定しているが、子が経営について未熟であるため、株の名義を移したうえで親が意思決定権を保有し続ける事例)」 弁護士 荒木 俊和 今回から「家族信託の活用事例〈株式編〉」として、非上場株式の承継を行う場合の信託の活用事例を解説していく。 今回は非上場会社において、親から子への事業承継を予定しているが、子が経営について未熟であるため、株の名義を移したうえで親が意思決定権を保有し続ける事例を解説する。 - 相談事例 - 私は今年70歳になりますが、従業員を200名ほど抱える運送会社の社長をしています。そろそろ引退して事業承継をしなければならないと考えながらも今日に至りましたが、最近、体調を崩してしまい、万が一の時に備えて株式を早急に引き継がなければならないと考えています。 私の会社には親族ではない取締役が4名いますが、会社は39歳の息子に引き継がせたいと考えています。しかし、息子は大手企業に勤めていたところを私が体調を崩したことを期に会社に戻ってきてもらったばかりで、会社のことを十分に理解できていないところがあります。 そのような状況ですので、息子に株をすべて渡し会社運営まで任せることには未だ抵抗があります。かといって親族ではない取締役を代表にしてしまうと、銀行との関係などで面倒なことになってしまいそうです。 株と代表権を息子に渡した上で、私がしばらく監督できるような形は取れないものでしょうか。 1 家族信託活用のポイント (1) 信託による自益権と共益権の分離 株式は、「自益権の部分」と「共益権の部分」とが一体になったものとされている。 すなわち、自益権は、株主が会社から直接に経済的利益を受ける権利であり、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権及び株式買取請求権等がこれに含まれる。 また、共益権は、株主が会社経営に参与し又は取締役等の行為を監督是正する権利であって、株主総会における議決権を中心として、説明請求権、提案権及び総会招集権等の株主総会に関連する権利並びに総会決議の取消訴権、代表訴訟提起権、違法行為の差止請求権、役員の解任請求権及び会計帳簿の閲覧権等の取締役等の行為を監督是正する権利が含まれる。 このような複合的な性質を持つ株式であるが、株式を信託することにより、①自益権のうち金銭等を受領する権利の部分と、②共益権を含むその他の部分とに、実質的に分離することができる。 すなわち、信託を行うことで、①を受益者が保有することになり、②を受託者が保有することになる。 (2) 指図権の活用 一方で、信託においては指図権を用い、受託者に対して(受益者等を含む)第三者が信託財産の管理処分について指図を行えるような設定が可能である。 指図権は信託法上、明示的に認められているものではないが、信託業法第65条において「指図権者」の定義が「信託財産の管理又は処分の方法について指図を行う業を営む者」とされており、家族信託においても指図権者を設定することが可能と解される(ただし「業」として行う者である必要はない)。 指図権を設定することにより、受託者は指図権者の指図に従わなければならず、受託者の裁量の範囲を狭める一方で、指図権者に権限を与えることが可能となる。 株式の信託に関していえば、原則的には受託者が議決権の行使にあたって全権を持つことになるが、指図権を設定することにより、受託者は指図権者の指図に従って議決権を行使しなければならないことになる。 (3) 事業承継の完了状態へ向けた移行 株式の信託は事業承継を円滑に進めるために一時的に用いられるべきものであるため、信託の設定後は、受益権を贈与していくなど、株式の名義人(受託者)に実質的な権限を移行することが、いずれかの段階で必要となる。 このため、信託設定後は、株価の推移等を勘案しつつ、どの段階で信託の設定状況を変更していくかという判断が必要となる。 2 本件におけるスキーム (1) スキームの概要 以上のことから、本件では大要、以下のような家族信託のスキームが考えられる。 (2) 株主権の行使 本件のスキームでは、信託によって株式の名義が受託者である子に移るため、子が議決権を行使することとなる。ただし、同時に指図権が設定されているため、子は指図権者である本人の指示に従ってのみ議決権を行使することができる。 一方で、本人が認知症等により意思能力を失ってしまった場合には、指図権を行使できなくなるため、それに備えた規定(例えば、意思能力がないと受託者が判断した場合には受託者が独自に権限を行使できる等)を設ける必要があると考えられる。 (3) 受益権の贈与 本件では、本人が会社経営を継続できない恐れがあるために、子に権限を委譲するものであるが、信託による議決権等の委譲は一時的なものに過ぎない。このため、実質的にも権限を委譲するために受益権の贈与等を行う必要がある。 ここで、受託者が受益権の全てを保有してから1年を経過した場合には信託の終了原因となるが(信託法第163条第2号)、受益権の準共有持分の一部を保有しているだけでは、信託は終了しない。 このため、株価の下がったタイミングで受益権を贈与する等、税額があまり大きくならないよう留意しつつ受益権を移行することが望ましいと考えられる。また、贈与が完結しないまま本人が死亡した場合に備え、帰属権利者を子として規定しておくことも必要であろう。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第9回】 「株式交付信託②」 -平成29年度税制改正の影響- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 今回は株式交付信託に対する平成29年度税制改正の影響についてまとめてみたい。 1 役員報酬のための株式交付信託の概要 平成29年度税制改正前の株式交付信託に関する特徴や導入事例については、すでに本連載【第2回】において検討を行った。 ここで簡単に復習すると、株式交付信託(株式給付信託など様々な名称で呼ばれることがある)とは、会社が信託銀行等と信託契約を結び信託を設定したうえで、委託者たる会社が受託者たる信託銀行等に金銭を交付し、受託者たる信託銀行が株式を取得し、受益者たる役員等が受託者から会社の株式の交付を受けるという制度である。 信託は、信託契約により様々な制度設計ができるが、株式交付信託の大まかな流れを図示すると、以下のようなものである。 2 税法上の視点-平成29年度税制改正の影響- (1) 平成29年度税制改正前の株式交付信託に係る税制 これも【第2回】の繰り返しになるが、平成29年度税制改正前の株式交付信託に係る税制の概要は次の通りであった。 株式交付信託は、通常、会社が受益者となる受益者等課税信託として設計されている。このため、信託の受益者である会社が信託財産及び信託財産に帰せられる損益の帰属主体となる。 なお、株式交付信託の税務上の検討を行う際に重要な資料となる、2012年4月17日付の東京国税局による事前照会に対する文書回答事例「従業員持株会を利用した信託型インセンティブプランに係る税務上の取扱いについて」(以下「文書回答」という)においても、受益者等課税信託であることが前提の照会となっている。 株式交付信託が受益者等課税信託である場合、会社が金銭を信託した段階においては、特段の課税関係は生じない。そこで、法人税法上は、一定の要件を満たして、取締役等が株式交付信託の受益者となった時、すなわち株式(場合によっては金銭)の交付権を取得した時の税務処理がポイントであった。 この点、株式交付信託においては、役員への株式交付時点を、役員在職中と設計すること(在任時交付型)も、役員退任時と設計すること(退任時交付型)も可能である。 もっとも、平成29年度税制改正前は、在任時交付型の株式交付信託の場合、「定期同額給与」、「事前確定届出給与」、「利益連動給与」のいずれにも該当せず、法人税法上損金算入が認められなかった。 一方、退任時交付型の株式交付信託の場合は、交付時における時価総額相当額を、退職慰労金の支払いとして損金算入できる可能性があると考えられるが、条文や通達による明確な根拠があるわけではなかった。 (2) 平成29年度税制改正後の株式交付信託に係る税制 本連載【第8回】で述べたように、平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなった。そのため、平成29年度改正後は、株式交付信託は交付時点が役員在任時か退任時かというのは従来に比して重要ではなくなり、「在任時交付型」は損金算入の可能性が出てきた一方、「退任時交付型」については若干使い勝手が悪くなった。 すなわち、平成29年度税制改正後は、在任時交付型か退任時交付型を問わず、業績や株価に連動した条件が付いていない株式交付信託については、事前確定届出給与の要件を満たすことが損金算入のために必要となり、業績や株価に連動した条件が付いている株式交付信託については、業績連動給与の要件を満たすことが損金算入のために必要となると考えられる。なお、業績連動給与の要件については【第8回】を参照していただきたい。 もっとも、すでに解説した(特定)譲渡制限付株式、ストック・オプションと同様に、株式交付信託についても平成29年10月1日以後の交付決議分から平成29年度改正の規定が適用される。すなわち、平成29年9月30日までは、改正前の取扱いということになる。 その際、平成29年10月1日前に株式交付信託制度を導入している企業においても、同10月1日以後の支給決議で新任役員等を株式交付信託の対象とした場合は、当該新任役員等に関する取扱いは平成29年度改正法が適用される点に注意が必要である。 なお、平成29年度税制改正に対応した株式交付信託制度の見直しについては、今後事例が発生してくると思われることから、導入事例についても注目していきたい。 (3) その他の留意点 株式交付信託により付与された株式の価値が不相当に高額である場合や、隠ぺい又は仮装経理によるものである場合にも、役員報酬として法人税法上損金算入できない点に留意が必要である。 3 経済産業省「役員報酬に関する手引」の改定 経済産業省は、平成29年度税制改正により、改正税法が10月1日に施行となる特定譲渡制限付株式等の部分の記載内容や、改正法施行後に解釈が明確になった事項があることから、平成29年9月29日、同年4月28日に公表された「「攻めの経営」を促す役員報酬 ~企業の持続的成長のための インセンティブプラン導入の手引~」(「役員報酬に関する手引」)を改定した。 この更新には、株式交付信託に直接関する事項も含まれており、その主なものは「株式報酬、業績連動報酬に関するQ&A」における以下の2問(Q2・Q16)といえるであろう。 まず、Q2において、導入済みの株式交付信託に新任役員が加わった場合は、「選任の決議」の時にその給与の支給が決議されたものとして、損金算入の可否が決議されること、また既に導入済みの株式交付信託の中で、予め役員の地位の変動があった場合の支給額が定められている場合に、その地位の変更のあった役員に対する給与については、導入時の支給の決議をした時期によって適用関係を考えるという見解が示されている。 また、Q16において、株式交付信託では株式の一部を役員に交付する時期に金銭に換えて役員には株式と金銭を交付することが実務上行われているが、この場合でも、全体として株式を交付することが目的の給与であることが株主総会議案で明らかにされ、一定の割合の株式を源泉徴収等のために換金するものであることが役員報酬規程等で予め明らかにされ、株式の換金が受益権確定の時期に近接した時点で行われていれば、全体として確定した数の株式とされ損金に算入できるという見解が示されている。 なお上述したとおり、平成29年度税制改正は、定期同額給与、事前確定届出給与又は業績連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えるというものであるから、役員報酬に関する手引の他のQ&Aについても、株式交付信託の設計にあたって参考になる記述が含まれていると考えられるので、一読をお薦めする。 4 まとめ 平成29年度税制改正を踏まえて設計された株式交付信託については、平成29年10月1日以後に導入されてくるものと思われる。 企業にとって、株式交付信託による役員インセンティブの付与という面では、「在任時交付型」は損金算入の可能性が出てきた一方、「退任時交付型」については若干使い勝手が悪くなり、その分他のインセンティブ報酬の付与又は組み合わせを考える企業が増える可能性があると思われる。 平成29年度税制改正に対応した株式交付信託制度については、今後適時開示等で詳細が明らかになると思われるので、本連載でも適宜これをフォローしていくつもりである。 (了)
《速報解説》 自民党 中小企業・小規模事業者政策調査会及び経済産業部会、 「中小企業・小規模事業者の円滑な世代交代・事業承継に資する支援策の抜本拡充を求める決議」を取りまとめ ~事業承継税制の抜本的見直し等、税制支援による承継時の負担軽減を求める~ Profession Journal 編集部 来月にも公表される「平成30年度税制改正大綱」を前に、自由民主党 中小企業・小規模事業者政策調査会及び経済産業部会は「中小企業・小規模事業者の円滑な世代交代・事業承継に資する支援策の抜本拡充を求める決議」を取りまとめた。 決議では冒頭、「今後10年で中小企業・小規模事業者の経営者の6割が70歳を越え、うち半数の後継者が決まっていないという状況は、日本経済、地域経済にとって未曾有の危機」であるとし、「この10年に集中して、事業承継の準備段階から承継後まで、切れ目のない支援を抜本的に拡充し、中小企業・小規模事業者の事業承継を強力に後押し」することを促すとしている。 今回の決議は次の3項目からなる。 このうち「2 税制支援による承継時の負担軽減」では、一部報道で30年度税制改正における要件の見直しが議論されているとする「事業承継税制(非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度)」について、承継を後押しする強力な税制としつつも利用実績が年500件に満たず危機を乗り越えるには不十分な制度と指摘し、以下の要件や株式評価のあり方等について、10年間の集中取組が必要との観点から抜本的に見直し、承継に躊躇している事業者も含め、承継を一気に進める必要があるとした。 どの程度の要件緩和がなされるかは税制改正大綱の公表を待つばかりだが、過去の税制改正で実施されてきた要件の見直しとは一線を画す規模の改正になると見られる。 また、税制支援においてさらに提言されているのが「M&Aを通じた第三者承継を支援する税制措置」だ。こちらは「近年増加傾向にある第三者承継を強力に後押しするため、M&Aを実施する際の税負担等を軽減すべき」との表記にとどまっているが、8月31日に公表された経済産業省の「平成30年度経済産業省税制改正要望」では が示されており、これらの案がたたき台となって議論されていくものと考えられる。 なお、冒頭の3項目のうち2以外の「1 事業承継の準備段階の支援」「3 承継後のチャレンジの支援」を含め、今回の決議については概ね7月に中小企業庁が公表した「事業承継5ヶ年計画」に近い内容となっている。 5ヶ年計画では他にも「小規模M&Aマーケットの形成」や「経営スキルの高い人材を事業承継支援へ活用」といった事業承継推進策を掲げており、上記決議と合わせて確認しておきたい。 いずれにせよ来年は税制以外においても中小企業の事業承継問題解決への取組みが加速する契機になるといえよう。 * * * なお、上記の内容を含む、平成30年度税制改正に関し今後各省庁等から公表される情報については、本誌上の「平成30年度税制改正に関する《資料リンク集》」において随時リンク先の更新を行っているため、ブックマークする等して活用されたい。 (了)