顧客との面談が“ちょっと”苦手な 税理士のための面談術 【第3回】 「こんな第一印象では税理士としての品格を下げてしまいますよ!」 有限会社コーディアル 代表取締役 坪田 まり子 皆さん、こんにちは。坪田まり子です。 初回では『お客様は自分の力でつかみとれ!』、2回目では『税理士もサービス業であることを心得て!』など、いずれも強気の発言をしましたので、もしかして読者の皆さんの中には、すでにめげ始めている方、いらっしゃいませんでしょうか。 面談がちょっと苦手な方にとって、この2つはいずれも対人関係能力とコミュニケーション能力に深く絡んできますので、気分的にかなり重たいことだとお察しいたします。 でも、めげる必要はまったくありません。 大丈夫。この重みを乗り越えるための戦略を、これから立てていけばいいのですから。 勇気を出して。今回も一歩、前進していただきますよ。 さあ、はじめましょう! ◆ ◆ ◆ 前回に引き続き、今回も皆さんがよくご存じの税理士法の条文から見ていきます。前回触れたのは税理士法第1条でしたが、私がもう一つ気になったのは、税理士法第37条です。 ここでも皆さんにとってお客様との面談がいかに大切であるかが、関係していると考えたからです。 税理士法第37条では と定められています。 下線を入れている『品位』とは、皆さんの接客・面談中の言動からも、良くも悪くも評価されるものですし、もう一つの『信用』こそ、その延長線上にあるものではないかと考えました。 誤解のないよう申し添えておきますが、前回ご紹介した第1条もこの第37条も、このような解釈ではないということは充分承知の上で、あえて面談術の重要性をお伝えしたい私の視点からとらえたものです。 税理士の皆さんだけでなく、すべての士業者の置かれている現状が成熟社会を迎えているからこそ、ただ依頼者の“期待に応えるだけ”では不充分で、依頼者の“期待を超える”サービスが求められているのです。 そのサービスをお客様に提供する段階で、一番大切なシーンが『第一印象』時です。 今回はこの第一印象がいかにモノをいうか、ということについてお話します。 第一印象には、次のように3つのポイントがあります。 ① 短時間で決まる ② 一度持たれた印象は変えにくい ③ マイナス面をプラスに変える効果がある ①の短時間説には、3秒説、5秒説、15秒説から30秒説までいろいろありますが、私は3秒よりもっと短い、『超瞬間』ではないかと考えています。 場面で解説すると、先に会議室に入っているお客様が、遅れて入室してきた皆さんの姿を見た瞬間、ということになります。 皆さんのお仕事は、一般の営業職のように飛び込み営業で仕事をとることは少ないと思われます。飛び込みではなく、誰かの紹介や講演したことなどがきっかけで、顧客予備軍と出会うことができるはずです。 前者である誰かの紹介でお客様と会う場合には、すでにそのお客様の心の中には、「田中さんのご紹介の税理士さんだから、きっと素晴らしい方に違いない」といった期待感があることでしょう。なぜならば、紹介者は皆さんのことを誰かに紹介するときに、「報酬は高いし、人の話もよく聞かないし、おまけに数字もしょっちゅう間違えて、何度、修正申告をさせられたか。最悪な先生だから、あなたに紹介するよ」とは言わないはずだからです。 紹介する以上、田中さんは、「誠実で人の話をよく聞いてくださる立派な先生がいらっしゃるんだよ。お若いけれど、適任者だと思うから、よければ一度訪ねて相談してみるといいよ」などと皆さんのことを褒めた上で、紹介してくれるはずです。 そんなふうに紹介されたお客様の心には“素晴らしい先生に違いない”という期待感しかありませんから、最初に見た皆さんのお姿が、目の光もなく、全体的にだらしなくて頼りない印象の税理士さんの姿では、一瞬でがっかりされてしまうはずです。 短時間とは、『お客様の視点に皆さんが入った瞬間』と心得ましょう。 次に、②の「一度持たれた印象は変えにくい」というのは、期待していた分、がっかりしたその気持ちの方が強く、目の前にいる皆さんの最悪の姿が、本当の姿だと思われてしまうということです。 一度そのような印象を持たれてしまうと、「実は誠実、そして堅実で爽やかな方であった」と見方を改めていただくまで、どれほど時間がかかることでしょう・・・ これでは早期に本格的な依頼につながることは見込めません。 期待感が大きいほど、がっかり感も大きい、ということです。 そして③の「マイナス面をプラスに変える効果がある」という点は、第一印象が良い場合には、多少のミスがあったとしても(事の重大さによりますが)、相手は悪くは取らないはず、というものです。 「お互いに人間だからこそ、失敗することもあるさ」と、寛大に見てくれることが多いといわれています。 ◆ ◆ ◆ いかがでしょうか、皆さん。 第一印象が良いだけで多くの得をすることは、これでご理解いただけたはずです。 ここで、私が清文社様から出版した『士業者が身につけたい顧客をつかむ面談術』から、「これではいけない」という具体例を挙げておきます。 拙著の中では、面談の場でのあれこれとして、「話し方や聞き方に対して気になること」「言葉以外で気になること」の両方からご紹介していますが、ここでは第一印象に絡む「士業者の言葉以外で気になること」だけを列記してみます。 これらは士業者である皆さんに特有のことばかりではないと思います。一般の人の中にもこのような無意識な悪い癖を持っている人はたくさんいます。しかしながら、皆さんの税理士というお仕事は、お客様があって初めて成り立つものです。どんなに税理士としての高い能力を備えていたとしても、その皆さんの腕を役立たせることができる相手がいなければ、ただの自己満足でしかありません。 皆さんの中に、この中に一つでも思い当たる節があれば、さっそく意識をして、第一印象を改善なさることをお勧めします。 皆さんの仕事が良いかどうかを決めるのは、皆さんご自身ではなく、お客様です。 仕事がとれるかどうかは、お客様がじっくりと「この税理士の先生の助言が、自分や当社にとって有益がどうか」を判断した結果にあります。 仕事の実が良いかどうかを図るのは、皆さんのように税務の専門家ではない相手にとっては難しいことです。ですからお客様方は、目に見える皆さんから受ける印象の良し悪しで判断することもあるのです。 さっそく今日から、お客様が面談に入る前には必ず鏡を見る癖をつけてみませんか? 「かっこいいなあ、俺の顔」や「きれいだわ、私の顔」と自己満足状態で見るのではなく、 この鏡に映っている税理士を見て、今日のお客様は仕事を任せたいと思ってくれるだろうか? と、客観的に自分の全体の姿を見る癖をつけてくださいね。 * * * 次回は「面談の苦手意識を克服するためにこそビジネスマナーが活用できる!」というお話をしたいと思います。 自分の第一印象を客観的に振り返るためにも大切な観点です。 次回もどうぞお楽しみに。 (続く)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第17話】 「机上調査」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「あの・・・田中統括官・・・この相続税の申告・・・どのように処理しましょうか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「どのように?」 田中統括官は、机の側に立っている谷垣調査官を見上げた。 谷垣調査官は、右手に相続税の申告書を持っている。 「今・・・この相続税の申告書をチェックしていたのですが・・・小さい額ですが何箇所か誤りと思われるところがありまして・・・しかし、わざわざ納税者の自宅まで臨場して調べる必要もないのですが・・・」 谷垣調査官は、歯切れの悪い言い方をする。 「そうか・・・相続税の課税ベースの拡大で相続税の申告ケースが増加しているから・・・局からも効率的な税務調査を行えとの指示があるしな・・・」 そう言いながら、田中統括官は、谷垣調査官から渡された相続税の申告書をめくって見た後、机に置いた。置かれた申告書のそばには、国税庁の公表している「平成27年分の相続税の申告状況について」と題する資料がある。 田中統括官はその資料を手に取る。 「・・・この相続税の申告実績の資料をみると、課税割合が、平成26年分は4.4%だったのが、平成27年分には8.0%になっている・・・」 谷垣調査官は、田中統括官の説明を聞きながら、資料を覗き込んだ。 「相続税の課税割合が倍近くになったんですね・・・この数字って・・・すごいですね。」 谷垣調査官は少し興奮した口調で言う。 「確かにうちの税務署でも、最近、相続税の申告書の提出数は増加していると感じるな・・・」 田中統括官は谷垣調査官の顔を見た。 「・・・ところで、この相続税の申告書のどこが誤っているの?」 田中統括官は、机の上に置かれている相続税の申告書を指さして尋ねた。 「ええ・・・」と言いながら、谷垣調査官は、相続税の申告書を開く。 「この生命保険金なんですが・・・」 谷垣調査官は、申告書の第9表(生命保険金などの明細書)の「相続や遺贈によって取得したものとみなされる保険金など」の欄に書かれている金額を指した。 「これって、生命保険金ではなく、生命保険契約に関する権利だと思います。もしそうであれば、この保険金の非課税限度額の中に入れることはできません・・・」 第9表の明細書の「受取金額」欄には、845,876円と書かれている。 「それに・・・この土地の評価にも誤りがたくさんあって・・・」 谷垣調査官は申告書をめくって、土地の評価明細書を開く。 「・・・この土地の評価について、特定路線価をわざわざ側方加算しているのですが・・・加算する必要はありません。」 田中統括官は黙って谷垣調査官の説明を聞いている。 「それに・・・個人間の使用貸借と思われる土地について貸宅地の評価をしているようで・・・借地権の有無について聞かなければならないのです・・・」 そう言うと谷垣調査官は、田中統括官の顔を見た。 「・・・よし、わかった・・・とりあえず税理士に税務署に来てもらって、君の指摘した申告書の疑問点について説明を聞こう。」 田中統括官は谷垣調査官に諭すように言う。 「この場合、税務調査であることを税理士に告げるんですよね。」 谷垣調査官が確認する。 「もちろんそうだ・・・そして、この事案は机上調査で処理する。・・・ただし、税理士に質問して、回答が十分でなく、もっと調査をしなければならないと判断したら、実地調査に切り替える・・・新基準に基づいて・・・」 田中統括官が谷垣調査官に言う。 「あの・・・その新基準のことですが・・・具体的に、どのようにするのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 田中統括官は机の上で、簡単に図を描いた。 図を描き終えると、田中統括官は谷垣調査官を見て言った。 「相続税の税務調査は・・・新基準に従って判定し、次のように4つに区分することになっている。そして、実調には、納税者のところに行って調査をする『実地調査』と、納税者に税務署に来てもらって調査をする『机上調査』がある。・・・君の事案は、机上調査で処理することになるな。」 田中統括官の言葉に、谷垣調査官は頷く。 「・・・この机上調査というのは、一種の簡易調査みたいなものですね。」 「そのようなものだな・・・とりあえず、申告書を作成した税理士に来てもらって、この申告書の疑問点を明らかにしよう。それで、もし是正事項があれば、納税者に修正申告をしてもらうという手順だ・・・簡単だろう?」 田中統括官はニヤリと笑って、相続税の申告書を谷垣調査官に渡す。 「わかりました。これから税理士に電話します。」 谷垣調査官は納得した表情でそう言うと、自分の席に戻った。 (つづく)
《速報解説》 「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)が公表 ~一定の事業規模以上の社会福祉法人への会計監査義務に対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月30日、日本公認会計士協会は、「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成28年3月の社会福祉法の改正により、一定規模を超える社会福祉法人について会計監査人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 意見募集期間は平成29年3月2日までである。 なお、平成29年1月27日に日本公認会計士協会は「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表しているが、こちらについては別稿にて解説することとする。 上記のほか、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものとして、平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 対象となる社会福祉法人 平成29年4月1日に社会福祉法が改正・施行され、経営組織のガバナンスの強化、経営の透明性の確保、財務規律の向上等を目的とする社会福祉法人制度改革の一環として、平成29年4月1日に開始する会計年度から会計監査人制度が導入されることとなり、さらに、事業の規模が一定の基準を超える社会福祉法人に対しては会計監査人の設置が義務付けられることとなるとともに、今後段階的な当該基準の改定により、会計監査人の設置を義務付ける社会福祉法人の対象を拡大することが予定されている(公開草案4項)。 会計監査人設置社会福祉法人とは、定款の定めによって会計監査人を置く法人(社会福祉法36条2項)及び「事業の規模が政令で定める基準」を超えることにより会計監査人を置かなければならない社会福祉法人(社会福祉法37条)をいう(公開草案11項)。 「事業の規模が政令で定める基準」とは、前年度決算において収益(最終会計年度に係る経常的な収益の額として法人単位事業活動計算書のサービス活動収益計の項目に計上した額)30億円又は負債(最終会計年度に係る法人単位貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額)60億円を超える法人(社会福祉法施行令13条の3第1号及び第2号、社会福祉法施行規則2条の6)である。 2 適用する会計基準 社会福祉法人の会計は、厚生労働省令で定める基準に従い、会計処理を行わなければならない(社会福祉法45条の23)。 「厚生労働省令で定める基準」として、「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号(最終改正 平成28年11月11日))が定められている。 社会福祉法人は、社会福祉法人会計基準で定めるもののほか、一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行を斟酌しなければならないとされており、「一般に公正妥当と認められる社会福祉法人会計の慣行」の中には「運用上の取り扱い」や「運用上の留意事項」が含まれるものと解されている(公開草案7項。「運用上の取り扱い」及び「運用上の留意事項」については公開草案6項(5)(6)を参照)。 社会福祉法人会計基準に規定する計算書類は、一般目的として受入可能であり、また、社会福祉法人会計基準は監基報200第12項(13)に規定する適正表示の枠組みの要件を満たしていると考えられるため、一般目的の財務報告の枠組みであり、適正表示の枠組みであると考えられている(公開草案9項)。 3 監査上の留意事項 公開草案の《Ⅲ 監査上の留意事項》において、法人単位の計算書類に対する意見表明に当たっての留意点などのほかに、組織管理体制並びに会計業務体制を始め関連する内部統制の整備・運用の改善に向けた助言、指導的機能の発揮についても述べられている。 4 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(公開草案の付録1)。 公開草案では、《付録2 社会福祉法人における財務会計に関する内部統制の項目(例示)》も示されている。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成29年4月1日以後開始する会計年度に係る監査から適用する(公開草案32項)。 (了)
《速報解説》 「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)が公表 ~H29.4.2以降会計年度の監査義務へ対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月27日、日本公認会計士協会は、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年9月の医療法の改正により、一定規模以上の医療法人及び社会医療法人について、平成29年4月2日以降開始する会計年度から公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられたことに対応するものである。 意見募集期間は平成29年2月28日までである。 なお、平成29年1月30日に日本公認会計士協会は「社会福祉法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(公開草案)を公表しているが、こちらについては別稿にて解説することとする。 上記のほか、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものとして、平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)も公表している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 対象となる医療法人 平成27年9月の医療法の改正により、医療法人の経営の透明性を高めることを目的として、一定の基準に該当する医療法人については公認会計士又は監査法人による監査が義務付けられ、平成28年4月20日に公布された厚生労働省令第96号により、次の法人が監査の対象とされた。 ①及び②に該当する医療法人は、新たに平成29年4月2日以降開始する会計年度から、厚生労働省令で定めるところにより、財産目録、貸借対照表及び損益計算書を作成し、公認会計士等による監査を受けることとなる。 2 適用する会計基準 今回の医療法の改正に伴い、一定の基準に該当する医療法人に対しては、医療法第51条第2項の規定により作成する貸借対照表及び損益計算書の作成のための会計処理の方法として、次のものが公布・発出されている。 医療法人が作成する計算書類の財務報告の枠組みとしての、厚生労働省令により制定された医療法人会計基準及び運用指針は一般目的の財務報告の枠組みであり準拠性の枠組みであると考えられている(公開草案16項)。 なお、公認会計士等の監査報告書の内容として、医療法施行規則第33条の2の5において、「二 財産目録、貸借対照表、損益計算書が法令に準拠して作成されているかどうかについての意見」が求められており、法令上も準拠性の意見が求められている(公開草案17項)。 3 簡便的な会計処理を採用している場合の留意点 医療法人会計基準において、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満の医療法人は、簡便的な会計処理(所有権移転外ファイナンス・リース取引に関する賃貸借処理など)を採用することが容認されており、医療法人が簡便的な会計処理を採用しているかどうかは、計算書類の利用者が計算書類を理解する基礎として重要な項目であると考えられるとして、次の留意点を述べている(公開草案13項、19項~21項)。 4 独立監査人の監査報告書の文例 独立監査人の監査報告書の文例として、次のものが示されている(公開草案の付録)。 Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、平成29年4月2日以降に開始する会計年度に対して行われる監査から適用する(公開草案24項)。 (了)
《速報解説》 改正資金決済法を受け、仮想通貨の譲渡は非課税に ~平成29年7月1日以後の譲渡等及び課税仕入れについて適用~ 税理士 金井 恵美子 ビットコイン(Bitcoin)に代表されるインターネット上に存在する仮想通貨は、平成29年度税制改正において非課税とされ、紙幣や小切手と同様の取扱いとなる予定である。 1 改正資金決済法 平成28年5月25日、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が成立し、 等の手当てが行われた。 改正後の「資金決済に関する法律」(以下「改正資金決済法」という。)には、「第三章の二 仮想通貨」が追加され、改正資金決済法2条5項は、仮想通貨を次のように定義している。 2 消費税法の取扱い 消費税法別表第1の二は、金融商品取引法2条1項に規定する有価証券(政令に定めるものを含む)及び外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という)6条1項7号に規定する支払手段(政令に定めるものを含む)を非課税として掲げている。 仮想通貨は、支払手段の機能を持つものであるが、その譲渡は、消費税法別表第1に限定列挙された非課税資産の譲渡等には該当しない。 また、仮想通貨の売買に係る内外判定は、譲渡を行う者のその譲渡に係る事務所等の所在地が国内であるかどうかにより行うこととなり、したがって、仮想通貨の譲渡を行う者のその譲渡に係る事業所等の所在地が、国内にあれば課税取引、国外にあれば課税対象外の取引ということになる(※)。 (※) 第190回国会財務金融委員会平成28年4月27日議事録〔星野次彦政府参考人(国税庁次長)発言〕 3 金融庁の改正要望 EUでは、2015年10月に、欧州司法裁判所が、仮想通貨はEU付加価値税指令上の「通貨、銀行券、硬貨」のカテゴリーに該当する旨を判決し、非課税とされている。 平成29年度税制改正にあたり、金融庁は、今後、仮想通貨の利用の増加が見込まれることから、国際的な課税上のバランスや改正資金決済法の規制の整備を踏まえ、銀行券や小切手、電子マネー等、外為法上の支払手段等との平仄をあわせ、その譲渡について消費税を非課税とする措置を要望した。 4 平成29年度税制改正の大綱 平成29年度税制改正の大綱は、仮想通貨に係る課税関係について、平成29年7月1日以後、次の見直しを行うこととしている。 ②の「所要の措置」の具体的内容は、支払手段と同様に、課税売上割合の計算において、仮想通貨の譲渡の対価の額を資産の譲渡等の対価の額に算入しない取扱い等であると考えられる。 なお、非課税への移行に際しては、事業者が、平成29年6月30日に、国内において譲り受けた100万円(税抜き)以上の仮想通貨を保有する場合において、同日の仮想通貨の保有数量が平成29年6月1日から平成29年6月30日までの間の各日の仮想通貨の保有数量の平均保有数量に対して増加したときは、その増加した部分の課税仕入れに係る消費税については、仕入税額控除制度の適用は認めないこととされる。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」(公開草案)を公表 ~財務諸表への影響大きく実務上の要請により対応を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月27日、企業会計基準委員会は、「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第51号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、国債等の利回りについてマイナスが見受けられる状況において、退職給付債務等の計算における割引率の算定方法を規定するものである。 意見募集期間は平成29年3月3日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 会計処理 退職給付債務、勤務費用及び利息費用の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りが期末においてマイナスとなる場合、次のいずれかの方法による(公開草案2項)。 2 考え方 マイナス金利の経済的な性質が必ずしも明確ではない中、マイナス金利の状況下において様々な論点があり、また、国際的な動向も踏まえる必要があると考えられるが、欧州における議論でも、現時点において統一的な見解は定まっていないが、退職給付債務等の計算は、一般的に財務諸表に与える影響が大きく、早急に取扱いを示すべきであるとの実務上の要請があることを踏まえ、上記の会計処理が提案されている(公開草案13項~15項)。 マイナス金利に関連する会計上の論点については、第350回企業会計基準委員会及び第87回退職給付専門委員会において、いずれの方法も許容する取扱いを定める基準開発に関する賛否や、結論の背景に関する記載などに関しても様々な意見が出ている。 また、マイナス金利に関連する会計上の論点には、退職給付債務の計算における割引率及び金利スワップの特例処理以外に、例えば、資産除去債務に係る割引率、債務に関してマイナスの金利を受け取った場合の表示、金融商品の時価等の開示における時価の算定の取扱い等がある。 これらについては、平成28年3月に議論を行っていないものの、実際に実務において解釈上の重要な問題が生じている、ないし混乱が生じているとの意見は特段聞かれていないとし、これらの論点については特段の対応は不要であると考えられるがどうかと、第349回企業会計基準委員会の審議事項(5)の20項及び21項に記載されている。 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、平成29年3月31日に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度まで適用する(公開草案3項)。 (了)
平成28年熊本地震に関する 税務・企業経営面の《資料リンク集》 このページでは「平成28年熊本地震」に関して各府省庁・主な団体等から公表された情報ページのうち、特に税務・企業経営の面で有用なページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 ※現在は更新を終了しています。 より多くの方に知っていただけるよう、フェイスブックやツイッター等をご利用の方は、このページの下にある「シェア」または「いいね」ボタンを押していただき、ぜひ拡散をお願いいたします。 / ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 会計士協会、「医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てた非営利組織に関するガバナンスの在り方」に関する研究報告を公表 ~効果的かつ効率的な経営に導く組織ガバナンスの在り方を検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年1月25日、日本公認会計士協会は、「持続可能な社会保障システムを支える非営利組織ガバナンスの在り方に関する検討」(非営利法人委員会研究報告第31号)を公表した。 研究報告は、医療法人及び社会福祉法人に焦点を当てて非営利組織に関するガバナンスについて研究したものである。これらの法人は、民間非営利組織のうち主たる社会保障サービス提供主体である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 研究報告の主な内容 研究報告の構成は次のとおりである。 Ⅲ 非営利組織における効果的なガバナンスに関するポイント 非営利組織における重要なステークホルダーとして、受益者、資源提供者、従業員、地域社会、政府等が考えられるとしている。 ガバナンスの目的を達成するための基本要素として、(1)経営理念及び組織目的の明確化、(2)責任あるステークホルダーの参画、(3)経営、監督、監査機能の存在及び(4)情報開示と透明性を挙げ、次のポイントを提示している(研究報告ⅲ~ⅴ。61~67ページ)。 (了)
2017年1月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.203を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第31回】 「従業員が仕入先からリベートを受け取っていた事件の考え方」 税理士 山本 守之 1 損害賠償請求権の益金算入時期 (1) 考え方の区分 法人が他人の不法行為によって損害を受けた場合には、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得しますが、その法人の課税所得の計算上、不法行為に係る損失の損金算入時期及び損害賠償請求権の益金算入時期については様々な学説があります。 不法行為等によって法人に損害が生じても、損害賠償金の収益計上時期によっては、損金と益金が相殺されてしまいます。これらに関する学説は、①損失確定説、②同時両建説、③異時両建説、④損益個別確定説があります。しかし、これらのうちキャンパスの中での論議を除くと、同時両建説と異時両建説が問題として取り上げられることが多いようです。 このうち「同時両建説」は、「損害の発生とこれを補てんすべき損害賠償という2つの事象を法律的に結びつけるところから出てくるもので、民事上の法的基準を重視する立場からすれば、一見しごく当然のことのようである。」(渡辺淑夫『法人税解釈の実務』)という見解があります。 これに対して「異時両建説」は「損害の発生による損失は損失としてその発生時点で計上し、損害賠償金収入はこれと切り離してその支払いを受けるべきことが確定した時点で収益計上すれば足りるとするものである。」(前掲書)という見解があります。 この考え方の根拠については、「たとえ民事上は損害の発生と同時に損害賠償請求権が発生するとしても、それはあくまでも観念的、抽象的なものであって、現実には、この種の事件にあっては、そもそも相手方に損害賠償責任があるのかどうかについて当事者間に争いがあることが少なくない上、仮に相手方に損害賠償責任のあることが明確であるとしても、具体的にいかなる金額の損害賠償金を受け得るのかについては、さらに当事者間の合意又は裁判の結果等を待たなければ確定しないのが普通であるから、保険金や共済金のようにあらかじめその支払いを受けること及びその金額が契約上明らかになっているものとは異なり、これにつき厳密な費用収益の対応を求めるのは実情に合わないというのがその論拠になっている。」と説明されています(前掲書)。 (2) 通達の背景となる考え方 2つの意見について、税務部内では、次の判決例により同時両建説で決着したといわれることがありました。 しかし、昭和55年5月の法人税基本通達の第二次改正において、問題点の整理がなされました。同通達では次のように書かれています。 ここでは、損害賠償金をその支払いを受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入することを原則としています。 すなわち、観念的、抽象的に損害賠償請求権が発生したとされる時点ではなく、その支払いを受けること及びその金額が具体的に確定した時点をその収益計上の基準にしているのです。 これは、損害賠償請求権とその基因となった損害とを切り離して処理することとしたのです。 このような考え方は、昭和54年10月30日付の東京高裁判決が、詐欺被害に基づく損害の計上時期に関し、従来の判例を覆し、潜在的な損害賠償請求権とは切り離して、当該損害をその確定時の損金とすることを認めたことも、本通達制定に強い影響を与えたものと考えられます(同判決は、最高裁昭和60年3月14日判決により確定。税資109号127項、144号546頁参照)。 この結果、本通達では役員又は使用人に対する損害賠償請求権については、この通達の埒外とすることとし、ケース・バイ・ケースで考えることにしたのです。 法人税基本通達2-1-43では、「他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行遅滞による損害金を含む。)の額は、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、・・・(下線筆者)」としています。これは、「他の者から支払を受けるもの」はほぼ異時両建説によっているものといえます。 課税庁の説明(『法人税基本通達遂条解説』)でも、「損害の発生と同時に損害賠償請求権を収益計上させるというような考え方は著しく実態から遊離する場合が少なくなく、一般的にこの基準によることは相当でないというべきであろう。」としています。 しかし、この通達において「他の者から支払を受ける」と限定しているように、役員又は使用人に対する損害賠償請求権はこの取扱いの埒外のものとし、ケース・バイ・ケースで判断することとしていると考えるべきでしょう。 注目すべき判決では、第一審は異時両建説、第二審は同時両建説、上告審(平21.7.10)は不受理でしたので、同時両建説で確定しています(東京地判平20.2.15、東京高判平21.2.18)。 この点について法人税基本通達逐条解説では、 としています。 2 学界、官界を批判する判決 他人不法行為に基づく損失と損害賠償請求権(益金)をめぐって同時両建説や異時両建説で問題を解決していた学界、税務大学校、国税庁に対して激しく批判する判決が平成24年2月29日仙台地裁でありました。ここでは損害賠償請求権がどのような場合に成立するのか、その要件は何かを問うものでした。 【問題点】 従業員が経営者の知らぬ間に関係業者からリベートを収受していたものを法人税法第11条、第13条(実質所得者課税の原則)の趣旨からみて、手数料はA社が収受しており、従業員は単なる名義人で実質的にA社に帰属するとみることができるか否かが問題です。 従業員の不正の場合、課税庁は同時両建説を安易に適用して、リベートを本来受けるべきは法人であるから法人の益金の額に算入するという判示も見受けられるので、慎重に検討する必要があります。 【検 討】 本件でも原処分庁(塩釜税務署長)は、A社は従業員が受け取った手数料に係る収益を益金の額に算入せず、A社に属する手数料を費消して横領した従業員に対する損害賠償請求権の額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入せずに隠ぺい又は仮装を行ったのに対し、A社は、本件手数料に係る収益は従業員ら個人に帰属するものであって、隠ぺい又は仮装を行った事実もない旨主張して争った事件です。 この点について裁判所では、下記のように判示しました。 これらの事実に関する原処分庁と会社側の主張は次のようなものでした。 これらの主張に対して仙台地裁は次のように判断しました。 【結 論】 リベートは会社が収受すべきところ、これを従業員が費消してしまったから損害賠償権が生じ、これを益金の額に算入するという論理は使えません。 (了)