《速報解説》 法人税法施行規則等の改正により、平成29年度税制改正を踏まえた 法人税申告書(別表)の新様式が明らかに ~中小企業経営強化税制に係る別表6(22)等が新設 Profession Journal編集部 平成29年度税制改正等を受けた法人税申告書(別表)様式を定めた改正法人税法施行規則が4月14日付官報号外第82号で公布され、その内容が明らかとなった。これら改正後の様式は原則として平成29年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。 (※) 官報同号にて地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 以下、主な様式の変更内容を紹介する。 まず今年度改正で創設されすでに4月1日からの適用が始まっている中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(措法42の12の4))に係る税額控除の様式が、次の別表6(22)「中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」だ。 〈別表6(22) 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 次に、こちらも創設制度である地域中核企業向け設備投資促進税制(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除(措法42の11の2))に係る税額控除の様式は、別表6(17)「地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」として次のように示された。 なおこの制度は、本稿公開日現在、国会(衆議院)で審議中の「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律の一部を改正する法律案」の施行日から平成31年3月31日までの適用となる。 〈別表6(17) 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 所得拡大促進税制(措法42の12の5)は29年度改正において、中小企業者等以外の法人については適用要件の見直し等、中小企業者等については控除税額の上積みが措置されており、改正箇所を反映した別表6(23)(改正前:別表6(19))が示された。 〈別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 研究開発税制については既報の通り、増加型の廃止(H29.3.31までの間に開始する事業年度まで)に伴い、試験研究費の増減に準じて総額型の控除率にメリハリがつく仕組みが導入され2年間の拡充措置も織り込まれるなどの見直しが行われている。 様式の変更点としては、昨年本誌上でお伝えしたように、繰越税額控除限度超過額等に係る税額控除制度の廃止に伴い従前の3つの様式が別表6(6)「試験研究費の総額に係る法人税額の特別控除は中小企業者等が試験研究を行った場合の法人税額の特別控除及び特別試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書」に統一されていたのだが、今回再び以下の3様式へ分割されることとなった。 別表6(6) 試験研究費の総額に係る法人税額の特別控除に関する明細書 別表6(7) 中小企業者等の試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書 別表6(8) 特別試験研究費に係る法人税額の特別控除に関する明細書 その他、災害に伴う税制上の措置の常設化により法人税法27条に規定された「中間申告における繰戻しによる還付に係る災害損失欠損金額の益金算入」制度に伴い「別表4 所得の金額の計算に関する明細書」において該当欄([36])の追加が手当てされている(「別表7(1) 欠損金又は災害損失金の損金算入に関する明細書」においても同様に該当欄を手当て)。 また、過年度改正に係る様式改正として、平成28年1月1日以後の公社債課税の見直しにより(詳しくはこちら)、適用時期の前後で明細を分けたため本表と付表に分割されていた「別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書」及び「別表6(1)付表 所得税額の控除に係る元本所有期間割合の計算等に関する明細書」は適用時期を過ぎたことで再び1枚の「別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書」へ統合された。 〈別表6(1) 所得税額の控除に関する明細書〉 さらに「別表5(2) 租税公課の納付状況等に関する明細書」では、住民税の利子割の廃止や復興特別法人税の廃止に伴い該当欄の削除等が行われている。 (了) ↓お薦め連載記事↓
《速報解説》 中小企業向け租税特別措置の要件見直し、 基準年度の平均所得金額15億円超の判定に係る改正措置法施行令が公布 ~設立3年以内の法人は適用除外事業者に該当せず Profession Journal編集部 既報の通り、大企業並みの多額の所得のある中小企業への課税強化として、中小企業向けの租税特別措置の適用要件に一定の所得制限を設けることが平成29年度税制改正大綱に明記された。 具体的には「法人税関係の中小企業向けの各租税特別措置について、平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年15億円を超える事業年度の適用を廃止する措置を講じる。」というもので(大綱p75)、平成31年4月1日以後に開始する事業年度から適用される(法人住民税関係も同様)。 上記の改正については、3月31日公布の改正措置法に続き、4月7日の官報号外第75号においても「租税特別措置法施行令の一部を改正する政令」(以下、改正措令)が公布され、新設法人や合併等一定の場合の平均所得金額の計算方法等が規定された。 * * * まず、3月31日公布の改正措置法における本改正の規定については、中小企業に係る租税特別措置規定の多くが中小企業者(又は中小企業者等)の定義として流用する(※)、研究開発税制を規定した措置法42条の4に着目したい。 (※) 例えば商業等活性化税制(措法42条の12の3)では同条第1項において「中小企業者」の定義を「・・・第42条の4第8項第6号に規定する中小企業者又は・・・」としており、所得拡大促進税制(措法42の12の5)では同条第2項7号において「中小企業者等」の定義を「第42条の4第3項に規定する中小企業者又は農業協同組合等をいう」としている。 この研究開発税制(措置法42条の4)のうち、中小企業向けの特例措置である中小企業技術基盤強化税制を規定した同条第3項で、この制度の適用対象について「中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く)」と括弧書き部分が追加され、この「適用除外事業者」が同条8項6号の2において、次のように定義されている(なお、「中小企業者」の定義自体は内容に変更なし(同条8項6号))。 (※) 上記の改正は法人の平成31年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される(H29改正法附則62条1項)。 括弧書き部分以外については大綱の表記と概ね同じ内容だが、括弧書き部分については政令に委任している箇所(下線部)があり、4月7日公布の改正措令はこの委任箇所を規定したものとなっている。 改正措令では、基準年度となる前3事業年度内に新設された法人や欠損金の繰戻し還付を受けた場合、合併等を行った場合や連結法人に該当していた場合等について、それぞれのケースで平均所得金額15億円超を判定するための計算方法等を明らかにしている 例えば、判定対象年度の開始の日において法人の設立の日の翌日以後3年を経過していない場合は平均所得金額をゼロとし適用除外事業者に該当しないこと(新措令27条の4第13項1号、14項1号)や、欠損金の繰戻し還付を受けた場合にはその欠損金額を控除した額で判定すること(新措令27条の4第13項2号、14項2号)などが詳細に規定されている(改正措令の施行も平成31年4月1日)。 * * * なお、今回の改正により適用除外事業者に該当し適用除外とされる租税特別措置については、大綱では具体的な制度名が明記されず、中小企業庁の資料に次の図が示されているのみであった。 【参考図】 (※) 中小企業庁ホームページより 今回の一連の法改正において、上記の中小企業技術基盤強化税制を含め、適用対象となる中小企業者のうち「適用除外事業者に該当するものを除く」という規定が織り込まれたのは、次の制度となっている(いずれもH31.4.1以後開始事業年度より適用)。 このように今回の一連の法改正では中小法人の軽減税率や少額減価償却資産の特例、所得拡大促進税制の上乗せ措置等については「中小企業者のうち適用除外事業者を除く」規定が設けられていないが、冒頭に述べたとおり本改正の適用は平成31年4月1日以後開始事業年度であることから、今後の法改正で手当てされる可能性が高く注視が必要だ。 また既報の通り、3月決算法人の場合、すでに前期(平成29年3月期)及び今期(平成30年3月期)は最初に適用除外事業者の判定を行う基準年度に含まれている点にも留意しておきたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2017年4月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.215を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
これからの国際税務 【第1回】 「変化する国際税務の焦点」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 グローバル化の進展と税制 近年の経済のグローバル化の特徴は、①国際経済取引の担い手である多国籍企業間の激しい競争と、②国際取引におけるサービスの比重の拡大である。 これら2つの進展は、国際課税ルールの有効性に深刻な疑問を呈する要因となった。 すなわち、前者の要因からは、各国の財政主権の下で協調が十分に進展しない所得課税法制の良いところ取りをする多国籍企業が、事業体の立地選択などを利用して二重非課税を狙うアグレッシブな租税回避行動を拡大することになったのであり、また後者の要因からは、IT技術や人的資源などの付加価値の国境を越える移転取引(専門的役務提供や無形資産の供与等)に対する伝統的課税ルールの硬直性を利用した源泉地国での課税漏れ狙いのスキームを跋扈させてきたのである。 これら2つの課題に対し、企業の健全な国際競争条件を取り戻し、かつ、税源を侵食された国に正当な税収を回復させる目的で取り組まれてきたのが、G20/OECDによる「BEPS(税源浸食・利益移転)プロジェクト」と「税の透明性を促進するプロジェクト」であった。 両プロジェクトは、2015~2016年にかけて国際協調の下に実行する処方箋をまとめた報告書を採択し、現在は、強力な政治的なイニシアティブに基づき、各国が税制改正や条約改定に取り組んでいる。 これらにより、第2次大戦後約70年にわたって君臨してきた「旧OECD型レジーム」とも呼ぶべき国際課税のスタンダードが、実体法と手続法の両面で大幅に更新される見込みである。 本連載では今後、新しい国際課税スタンダードを項目別に順次紹介する予定であり、初回では、まず両プロジェクトの改革理念のエッセンスを概説する。 2 国際的租税回避防止に向けた税制の調和 BEPSプロジェクトは、租税回避行為に対する耐久力劣化が目立つ「旧OECD型レジーム」の主として実体法に着目したオーバーホール作業である。 実体法ルールでは、特に、デジタル経済の進展によるサービス・無形資産取引の変容に対応できる課税ルール見直しに焦点を当て、移転価格税制、タックスヘイブン税制などの抑止措置並びに租税条約の濫用への対応措置等につき改正案を提示している。ただし、改正案の提示に当たっては、各国の租税政策のニュアンスの違いを尊重して、一本化した処方箋のみならず、「ベストプラクティス」や参照すべき「共通アプローチ」を提示しながら、その中で一定の選択肢を各国に許容する方式も項目によっては採用している。 なお、過去1世紀にわたって国際課税の基本理念として信奉されてきた「独立企業原則」及び「事業所得の閾値としての恒久的施設要件」そのものは保持されており、ルールの更新はその実施に向けたガイダンスの追加や修正であると整理されている。しかし、内容を詳細に検証すると、一般的な利子控除制限の導入や移転価格税制における所得相応性基準の導入、更には、抜本的な条約濫用防止規定の常備化など、伝統的課税理論の外延をはみ出す提案も多く含まれており、近年では最大規模の国際課税ルールの更新パッケージと評価できよう。 併せて、租税回避による税源浸食リスクの測定材料を提供し上記新課税ルールの適用を可能にするために、多国籍企業の国別事業体経営情報や課税当局によるルーリングの開示も新たに求められている。 これらの情報開示は、その後の課税当局によるアクション発動にとって不可欠の前提条件と位置付けられ、2年以内の紛争解決を約束すべしとする勧告と並び、実体法勧告に許容されている選択の幅を含まない「ミニマムスタンダード」という強力な勧告形式をとっている。 3 納税者の税務情報の透明化 2016年4月に存在が公表されたパナマ文書では、外国投資家のタックスヘイブン事業体の設立・管理にかかる法務・財務情報が流出し、低課税国事業体への実体を欠く投資を利用した租税計画のリスクを全世界に、改めて警告することとなった。 折しも、米国市民によるスイスUBS口座を利用した脱税スキャンダル(2008年)に端を発した米国の外国口座税務コンプライアンス法施行をきっかけに、OECDを中心としたグローバルフォーラムにおいて、外国金融口座情報の自動的情報交換に向けた合意が達成され、約100か国により2018年からの情報交換開始が期待される状況であった。 我が国を含めた主要国では情報交換に必要な国内法改正をすでに終えており、交換情報のセキュリティ確保に向けた技術的手当ても行われ、現在実施を待つばかりである。 富裕者による海外への投資を介在する金融口座の取引情報の取得に際しては、スイスにみられた銀行秘密の国内法的制約や条約の不備、更には協調した執行体制の不備により、不当な租税計画を防止する上で深刻な障害に長い間直面してきた。 今回の自動的情報交換が実施されると、多国籍企業の租税回避を防止するBEPS勧告と並んで、高額所得者の国境越え租税回避行為の情報端緒が課税当局に常備されることとなり、けん制効果は絶大なものになると考えられる。 4 当面の課題 “So far, so good”で進行してきた上記の新しい国際協調の潮流に、最近影を差す兆候が表れた。「欧州における英国のEU離脱後の税制協調」と「米国におけるトランプ政権の税制改革」の行方である。 いずれも、自国ファーストの政策を掲げてグローバル協調から離脱するベクトルに向かう懸念があり、せっかく達成されたコンセンサスの実現を困難にする可能性もある。それに加えて、アイルランドを舞台とした米国多国籍企業の租税計画に対するEU委員会の課税権の遡及適用は、国際的な税源獲得競争へ転化するリスクも内包している。 両地域を主要市場としてグローバルビジネスを展開する我が国企業への影響は無視できず、当分の間動向を注視する必要があろう。 (了)
日本の企業税制 【第42回】 「政府による電子申告推進の取組み」 -電子申告の義務化実現と法人の利用率100%を目標に- 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 3月29日に、政府の規制改革推進会議(議長:大田弘子政策研究大学院大学教授)は、その傘下の行政手続部会(部会長:髙橋滋法政大学法学部教授)の取りまとめ「行政手続コストの削減に向けて」の報告を受け、行政手続コスト削減を巡る議論を行った。 会議に出席した安倍首相は議論を踏まえ、次のように述べた。 上記報告書では、削減目標を設定して計画的な取り組みを推進するべき「重点項目」として9項目を設定しているが、そのうちの2つが、国税と地方税である。 9つの重点項目については、削減目標として、事業者の作業時間ベースで、20%削減を設定した。また、取組期間は3年をめどとし、場合によっては5年まで許容される。 上記の安倍首相の指示にあるように、重点分野については、各省庁が本年6月末までに基本計画を策定し、7月以降、行政手続部会がその基本計画について幅広く点検をし、必要な改善を求め、各省が平成30年3月までに基本計画を改定するというプロセスを予定している。 なお、国税及び地方税については、①税務訴訟における立証責任が、通常、課税当局側にあるとされていること、②消費税軽減税率制度・インボイス制度の実施、国際的租税回避への対応等に伴い、今後、事業者の事務負担の大幅な増加が不可避であることを考慮し、上記の一律の削減目標ではなく、次のような目標が設定されている。 平成27年度において法人税申告の75.4%が電子申告(e‐Tax)によって行われているが、このうち大規模法人の利用率は52.1%にとどまっている。また地方法人2税(住民税・事業税)の電子申告(eLTAX)については、ようやく平成27年4月に全ての地方団体が接続したという状況もあり、利用率は56.1%である。今回の数値目標は、納税実務に大きなインパクトをもたらすものといえよう。 すでに、政府税制調査会でも、本年1月27日の第9回総会で、4月下旬~5月上旬頃にかけて、委員の海外派遣を実施することを決めたが、その趣旨は、経済活動のICT化や多様化を踏まえ、税務手続の利便性向上及び適正公平な課税の実現に向けた検討のため、諸外国における取組みを参考とする必要があることから、各国の納税実務に係る諸制度やその実際の運用について調査を行うというものであり、今回の規制改革推進会議の取組みと方向性は一致しているものと見られる。 (了)
平成29年度税制改正における 『組織再編税制』改正事項の確認 【第2回】 公認会計士 佐藤 信祐 3 スクイーズアウト税制 (1) 対価要件の見直し 平成29年度税制改正では、スクイーズアウト税制として、以下の見直しがなされている。 (※) 平成29年度与党税制改正大綱70-71頁より抜粋 このうち、⑤であるが、発行済株式の3分の2以上を支配した後に、現金交付型合併又は現金交付型株式交換を行ったとしても、金銭等不交付要件に抵触しないことを意味している。そして、法人税法上、支配関係が成立しているかどうかは、合併又は株式交換の直前とその後の継続見込みで判断する。 そのため、発行済株式の3分の2を取得してから合併又は株式交換を行う場合には、50%超100%未満グループ内の組織再編に該当することから、事業継続要件及び従業者引継要件を満たせば、税制適格要件を満たすことができる。 この点につき、法人税法2条12号の8、同号の17では、合併法人又は株式交換完全親法人が保有する株式に限定されていることから、間接保有を含めたうえで発行済株式の3分の2以上を保有しているかどうかの判定をするわけではないという点に留意が必要である。また、当然のことながら、同一の者によって、発行済株式の3分の2以上が保有されている場合についても適用されない。 また、無対価合併及び無対価株式交換を行った場合には、従前通り、対価の交付を省略したとみることができる場合についてのみ、税制適格要件を満たすことができることとされた。これに対し、次回(【第3回】)解説するように、スクイーズアウトでは、無対価スクイーズアウトを行ったとしても、税制適格要件を満たすことができるようにされている。 そして、現金交付型合併又は現金交付型株式交換を行った場合には、現金を受け取った株主において、みなし配当を認識する必要はないものの、株式譲渡損益を認識する必要があるものとされた(法法24①、なお、61条の2②⑩では、金銭等を交付しない合併又は株式交換のみについて譲渡損益を認識しないこととしている)。 さらに、合併法人の純資産の部であるが、法人税法施行令8条1項5号では、適格合併に係る被合併法人の当該適格合併の日の前日の属する事業年度終了の時における資本金等の額から当該合併による増加資本金額等(当該合併により増加した資本金の額又は出資金の額並びに当該合併により被合併法人の株主等に交付した金銭並びに当該金銭及び当該法人の株式以外の資産の価額の合計額をいう)と抱合株式の当該合併の直前の帳簿価額を減算した金額が、適格合併により増加する資本金等の額として規定されている。すなわち、被合併法人の少数株主に対して交付した金銭については、資本金等の額のマイナス要因として処理することになる。 これに対し、現金交付型株式交換については、法人税法施行令119条1項10号では、金銭等不交付株式交換のみに対して適用されることから、現金交付型株式交換を行った場合には、交付した金銭に相当する価額が株式交換完全子法人株式の受入価額となる。そのため、資本金等の額は増減しない。 このように、現金交付型合併又は現金交付型株式交換を行ったとしても、税制適格要件を満たすこととされた。諸外国の税制を見てみると、例えば、少数株主が10%であり、当該少数株主に対して金銭を交付した場合には、法人レベルにおいて、10%だけ譲渡損益を認識するという制度を導入することも可能であった。これに対し、改正法人税法では、そのような考え方は採られておらず、適格合併であれば、すべての譲渡損益を認識せず(法法62の2①)、適格株式交換であれば、すべての評価損益を認識しない(法法62の9①)という制度となっている。 それが故に、組織再編税制全体に影響を及ぼすものではなく、スクイーズアウトと足並みを揃える制度にすることを優先した制度であったということも言える。 (次号(4/27)に続く)
電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第3回】 「プリペイド方式の電子マネーにより経費決済を行った場合の 税務上の留意点」 公認会計士・税理士 八代醍 和也 A 前回は、プリペイド方式の電子マネーを使用して経費決済を行った場合の会計処理について解説を行ったが、今回は引き続き同じケースにおける税務上の取扱いについて解説する。 法人税、消費税並びに電子取引を行った場合の取引情報の保存方法の各論点から、ビジネスにおいて疑問が生じやすいと考えられる事項について順に考察してみたい。 1 法人税の取扱い まず、法人税法及び関連法令においては、プリペイド方式の電子マネーを使用した際の処理について明確に定めた規定はない。そこで、基本的には法人税法第22条のいわゆる各事業年度の所得の金額の計算の通則に従って処理を行うことになると考えられる。 同条第3項では、損金の額に算入すべき金額として、以下の3つである旨を規定している。 すなわち、法人における経費決済を前提とすると、上記通則中の二の「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」については損金の額とすべきということになり、さらにこの「債務の確定」が何を意味するのかということについて、法人税法基本通達2-2-12において以下のとおり規定している。 結局のところ、別段の定めがあるものを除いては、会計上のいわゆる「発生主義」に基づく経理処理によって損金に算入すべきことが求められていると考えられる。 つまり、前回解説を行った会計処理によって費用計上している場合においては、何ら調整を必要とすることなく、損金の額に算入することができるということである。 ここまでのところを図示すると、以下のように整理できる(勘定科目、金額は前回の設例による)。 ◆プリペイド方式電子マネーのチャージ時 (借方)貯蔵品 15,000円 (貸方)現金預金 15,000円 ◆プリペイド方式電子マネーの使用時 (借方)交際費 10,000円 (貸方)貯 蔵 品 10,000円 ⇒ 税務においても上記の費用処理がそのまま認められる。(※) (※) 複数年分の費用をまとめて前払いした場合には、当然ながら、法人税法基本通達2-2-14の規定により一時に費用処理する場合を除き、前払費用として資産計上される。 2 消費税の取扱い 法人税の場合と異なり、消費税法におけるプリペイド方式の電子マネーの取扱いは非常に明確である。 (1) チャージした際の取扱い 消費税法第6条において同条別表第一に掲げる物品の譲渡について消費税を課さないこととしており、プリペイド方式の電子マネーの購入は同表において非課税とされる「物品切手等の譲渡」に当たることから、消費税は課されない。 ちなみに、プリペイド方式の電子マネーが上記の「物品切手等」に該当することについては、それほど違和感はないと思われるが、法文上の明確な規定はないものの、消費税法基本通達6-4-4において、以下の規定がある。 プリペイド方式の電子マネーが資金決済法に規定する前払式支払手段であることは前回の解説で述べたとおりであり、上記規定から、課税庁が物品切手等と捉えていることがわかる。 (2) プリペイド方式の電子マネーを使用した際の取扱い では、プリペイド方式の電子マネーを使用した場合に、どのような税務上の取扱いになるかということについて、消費税法基本通達9-1-22は以下のように規定している。 すなわち、商品の引渡し時や役務提供完了時において、課税取引が行われたと考えるわけである。 ここまでのところを図示すると、以下のように整理できる(勘定科目、金額は前回の設例による)。 ◆プリペイド方式の電子マネーのチャージ時 (借方)貯蔵品 15,000円 (貸方)現金預金 15,000円 ◆プリペイド方式の電子マネーの使用時 (借方)交際費 10,000円 (貸方)貯 蔵 品 10,000円 ⇒ 税務上はこの段階で課税取引が発生する。 3 まとめ 1、2を踏まえた結論としては、プリペイド方式の電子マネーを使用した場合、前回解説した発生主義に基づく費用計上及び法人税法における損金算入並びに消費税法における課税仕入の発生のタイミングはすべて同一のものとなる。 4 電子取引を行った場合の取引情報の保存方法 プリペイド方式の電子マネーを使用した際には、通常の現金による経費決済の場合と異なり、領収書が発行されないこともある。 このような場合において、取引事実を証明するためには、納税者が具体的に何を保存する必要があるのだろうか。 この点について、電子帳簿保存法10条は以下のように定めている。 すなわち、プリペイド方式の電子マネーの使用を含む、電子取引を行った場合には、加盟店からその情報が電子マネー発行会社に伝達・蓄積される。これらの蓄積された取引情報の記録は、利用者側でもダウンロードすることにより保存することができる。 電子取引を行った場合においては、こうした取引情報を電磁的記録として保存することが求められることになる。 一方で、これらの情報を書面で出力するか、電子計算機出力マイクロフィルムの状態で保存することも認められており、柔軟な対応が図られている。 (了)
相続税の実務問答 【第10回】 「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」 税理士 梶野 研二 [答] あなたが取得した代償金については、4,800万円全額ではなく、代償分割の対象となった土地及び建物の相続税評価額とその通常の取引価額との開差に相当する金額を調整して求めた3,840万円が課税対象となり、この金額に、その他の相続財産の価額500万円を加算した金額4,340万円が相続により取得した財産の価額として、相続税の課税対象とされる金額になります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 代償分割が行われた場合の相続税の課税 前回説明しましたように、代償分割とは、相続財産の全部又は一部を共同相続人のうちの1人又は数人に相続させるとともに、その者から他の共同相続人に対して一定の金銭等の支払いをさせる方法により行う遺産分割です。 代償分割により共同相続人のうちの1人又は数人から代償財産を取得した場合、この代償財産は相続により取得したものですから、代償財産を取得することとなった相続人については、この代償財産の価額が、相続税の課税対象となります(相基通11の2-9)。 一方、代償財産を交付した相続人については、相続により取得した土地や建物などの現物財産の価額から代償財産の価額を控除した価額を基に相続税を計算することとなります(相基通11の2-9)。 2 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算 (1) 原則的な計算 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合、代償財産の交付を受けた相続人については、交付を受けた代償財産の価額と相続により取得した現物の財産の価額との合計額が相続税の課税価格となります。 また、代償財産を交付することとなった相続人については、相続により取得した現物の財産の価額から交付した代償財産の価額を控除した金額が相続税の課税価格となります。 (2) 調整計算 上記(1)の原則的な計算によると、ご質問の場合には、次のとおり相続税の課税価格が計算されます。 上記の計算では、遺産分割において共同相続人が平等に財産を取得することとなるように代償金の額を決定したにもかかわらず、それぞれの相続税の課税価格に開差が生じてしまい、算出される相続税の額にも違いが生じてしまいます。 このような結果となるのは、代償分割の対象となった建物及びその敷地の通常の取引価額を基に代償金の額が決められたのに対し、その建物及び敷地の相続税の課税価格計算上の価額は、通常の取引価額よりも低い相続税評価額によることとなるからです。 しかしながら、共同相続人間では遺産を平等に分割するとの考えの下に代償金の額が決められたにもかかわらず、相続税の課税価格が大きく異なってしまうのは、いかにも不合理であるといえます。そこで、相続税の課税実務上、代償分割の対象となった不動産等の通常の取引価額と相続税評価額の差異を次のように調整する取扱いが示されています。 すなわち、通常の取引価額(上記の通達中の算式では、Bの価額)と相続税評価額(上記通達中の算式では、Cの価額)に開差がある場合には、①相続人間で協議した合理的な調整計算を行うこと、②相続人間で調整ができないとき又は相続人が選択したときには、代償債務の額(A)に、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(相続税評価額)(C)を代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の代償分割の時における価額(通常の取引価額)(B)で除して求めた割合を乗じて算出することが認められることとなります。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、それぞれの相続税の課税価格は、相続人間で、他の合理的な調整計算を行うことを選択しなければ、次のとおり計算されることとなります。 (了)
特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第11回】 「立退料を支払って貸地の返還を受けた場合」 -買換資産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、自己の居住用の土地家屋(所有期間が10年超で居住期間は10年以上)を売却しました。 買換資産の取得に当たり、従来から貸し付けていた土地の借地人Aに立退料を支払い、その貸地の返還を受けて、その土地の上に家屋を建築し、居住の用に供しています。 この場合、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 土地の借地権に相当する部分の取得があったものとして「買換えの特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 土地を他人に使用させていた者が、立退料を支払って、その借地人から貸地の返還を受けた場合には、その土地の借地権等に相当する部分の取得があったものとし、その支払った金額(その金額のうちにその借地人から取得した建物、構築物等でその土地の上にあるものの対価に相当する金額があるときは、その金額を除く)を、その土地の借地権に相当する部分の取得価額として、「買換えの特例」の適用を受けることができます(措通36の2-10(立退料等を支払って貸地の返還を受けた場合))。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第21回】 「雑収入(開店祝い金)」 ~開店祝い金の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「開店祝い金の雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成14年12月19日裁決(裁決事例集64号367頁。以下「本裁決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 本件理由付記は、素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工して作成したものである。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、更正の原因となる事実を示す資料として大学ノートが摘示されていることなどから、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が雑収入に計上していない(有)Sほか121名から受領した開店祝い金合計317万円について、雑収入に計上すべきであるとするものである。そうであれば、X社が、その帳簿上、雑収入に計上していないことの否認という広い意味において、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当するものと考える。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 ア 信憑力のある資料の摘示の有無 本件理由付記は、X社が雑収入に計上していない開店祝い金について、これを雑収入に計上しなければならないものとする本件更正処分を行うに当たり、雑収入計上漏れとして所得金額に加算する317万円はX社が平成10年6月7日にHを開店した際に収受した開店祝い金であること並びに加算すべき開店祝い金に係る支払者名及び金額を記載し、根拠資料として、X社に保管されていた大学ノートを摘示している。 したがって、本件理由付記は、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示していると考える。 イ 理由付記の趣旨目的との適合性 本件理由付記は、本件更正処分の理由として、X社が平成10年6月7日にHを開店したこと、その際にX社が(有)Sなどから開店祝い金として総額317万円を収受していること、当該開店祝い金を雑収入に計上しなければならないにもかかわらずX社はこれを行っていないこと、開店祝い金に係る支払者名及び金額を記載しており、その根拠資料として、X社に保管されていた大学ノートを摘示している。 根拠条文の記載はないものの、上記317万円について、X社がHの開店祝い金として収受していることをもって、当事業年度の収益に計上すべきであると判断していることを読み取ることができる(関係法令としての法人税法22条2項又は4項については前回参照)。 そうすると、本件理由付記は、更正処分に係る法律上及び事実上の根拠を示すものであって、結論に至る判断過程並びに判断の前提となる事実及びその証拠資料を記載するものであるといえる。したがって、本件理由付記は、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであり、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 (3) 更なる議論 ~開店祝い金の入金年月日の記載がないことが与える影響~ もっとも、本件理由付記には開店祝い金の入金年月日(収受年月日)の記載がないことをどのように評価すべきであるかという問題がある。 この点、上記のとおり、本裁決は、本件においては大学ノート記載の入金年月日が更正の理由に摘示されていないから、理由付記に欠け、違法である旨のX社の主張に対して、本件更正通知書には、更正の原因となる事実を示す資料として大学ノートが摘示されており、また、別紙においても入金先及び各入金額が摘示されており、課税庁の判断の慎重、合理性を担保して、その恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨を充足していると認められるから、入金年月日が摘示されていないからといって、更正通知書に記載された更正の理由が理由付記に欠けるとは認められないとして、これを排斥している。 本件理由付記には、平成10年6月7日にHが開店し、平成10年6月24日にその開店祝賀会が開催されていることが記載されている。通常は、これらの日からあまり間を空けずに開店祝い金を受領するであろうから、開店祝い金の入金年月日が問題となることは少なく、その入金年月日の記載がないことをもって理由付記に不備があるとは考え難い。 しかしながら、X社が6月決算であることを前提とすると、本件においては、開店祝い金の収益計上時期がいわゆる期ズレの問題として浮かび上がるという特段の事情があるといえる。したがって、理由付記に開店祝い金の入金年月日を記載すべきであるという主張にも一定の説得力がある。 他方、本件理由付記には、本件更正処分の根拠資料としてX社に保管されていた大学ノートが摘示されている。本件更正処分の根拠資料がX社以外の者が作成した資料であれば格別、この大学ノートはX社自身が作成し、保管しているものであることを前提とすれば、本件理由付記程度の記載であっても、本件更正処分の対象となった開店祝い金の入金年月日はX社において容易に把握し、確認できるはずである。このような事情を考慮すると、開店祝い金の入金年月日の記載がないことのみをもって、本件理由付記は理由付記の趣旨目的に適うものであるという上記評価を覆すことは妥当でないという見解が成り立つ。 このような見解に対しては、理由付記は、更正通知書の記載自体において法が求める程度に記載されていることを要し、その理由を納税義務者が推知できると否とに関わりのない問題であるはずではないか(最高裁昭和38年12月27日第二小法廷判決・民集17巻12号1871頁)という反論があり得る。 これに対しては、あくまで理由付記の文面の枠内においてという留保は付くものの、理由付記の十分性を判断するに当たっては、①理由付記の文言のみならず、その文面から推知可能な内容も判断の対象とすべきであること、及び、②このような推知の場面では課税処分を受ける納税者自身が最もよく知悉しているという事情を考慮すべきであること、という再度の反論の余地がある。 * * * 次回は、「従業員からの預り金に係る雑収入計上漏れ」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)