日本の企業税制 【第46回】 「個人所得課税における納税環境の整備(電子化)に向けた動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 政府税制調査会においては、4月下旬から5月上旬にかけて、経済活動のICT化や多様化を踏まえ、税務手続の利便性向上及び適正公平な課税の実現に向けた検討のため、諸外国の納税実務に係る諸制度やその実際の運用について調査を行い、6月19日の第10回総会で報告を行っている。 9月以降、審議が再開され、年末の平成30年度税制改正にもその成果が反映されることが期待されている。 〇所得税に係る年末調整の電子化 6月9日に閣議決定された「規制改革実施計画」においては、所得税に係る年末調整手続の電子化の推進が盛り込まれており、「平成29年度検討・結論」とされている。 給与所得に係る源泉徴収制度・年末調整制度は、所得税の納税者の多数を占める給与所得者(被用者)の納税手続を簡便化し、社会的なコストを抑制する仕組みとして長年用いられている。なかでも、年末調整制度は、毎月の源泉徴収税額の累積額と、年間を通じた給与所得に係る年税額の差を12月に精算する仕組みであり、年末調整を実施している者は4,300万人にのぼっており、扶養家族の変更や源泉徴収税額に反映されない生命保険料控除(3,100万人)、地震保険料控除(700万人)、住宅ローン控除(300万人)といった控除を年税額計算に反映させ税額を確定・精算している現状がある。 また、諸外国の制度をみると、概ね、わが国やドイツなど利子・配当・キャピタルゲインについて源泉分離課税ないしは源泉徴収により申告不要としている国においては年末調整を採用している一方、米国やフランスなど総合課税の国においては、年末調整は採用されていない。 このような現状からすれば、わが国において年末調整を廃止することは難しいものと見られる。 「規制改革実施計画」でも、年末調整制度の存在を前提としつつ、ICTの一層の活用等により、被用者・雇用者を含めた社会全体のコストを削減する観点から、電磁的な方法による年末調整関係書類の提出を原則全て可能とすること、被用者が電磁的に交付された控除証明書を活用して簡便に控除申告書を作成し、雇用者に提供することができる仕組みの構築について検討し、結論を得ることとされている。 また、年末調整全体のプロセスの更なる合理化を図る観点から、 も掲げられている。 〇個人住民税の特別徴収税額通知の電子化 「規制改革実施計画」では、地方税の個人住民税の特別徴収税額通知の電子化も取り上げられている。 まず、特別徴収義務者用の通知に関しては、正本の電子交付を行っていない市区町村に対し、電子交付の導入の意義・効果に関する助言など電子交付の推進に必要な支援を行うこととされている。 すでに平成28年7月15日付け総務省自治税務局市町村税課長通知「個人住民税における特別徴収税額通知(特別徴収義務者用)の電子化推進について」(総税市第65号)において、正本の電子交付を特別徴収義務者の事務効率化や特定個人情報保護の観点等から、積極的に取り組むよう、通知がされている。 他方、納税義務者用の通知に関しては、事業者の負担を軽減しつつ全体としての事務の効率化を図るため、事業者に電子的に送信して従業員が取得できるようにする、マイナポータルを利用して事業者を経由せずに従業員が取得できるようにするなどの可能性を検討し、できるだけ早期に結論を得ることとされている。 〇国税と地方税との情報連携 これら他にも、6月30日に、財務省、総務省から公表された「行政手続コスト削減のための基本計画」では、電子的提出の一元化の観点から、地方団体で作成した所得税確定申告書について、e-Taxへのデータによる引継ぎを推進することとされている。 また、国税当局、地方税当局それぞれに提出している給与・公的年金等の源泉徴収票及び支払報告書の、eLTAXでのデータの一括作成及び提出を推進することとされている。 いずれの制度もすでに平成29年1月から可能となっているものである。 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第6回】 「[設備種別]適用税制の選択ポイント②(ソフトウェア)」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 【第5回】から【第10回】にわたっては、青色申告法人(連結法人を除く)における設備種別の適用税制(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の選択ポイント及び具体的な申告実務上の留意事項を確認する。 なお、各税制の概要や適用手続き等については、【第1回】から【第3回】までを参照願いたい。 それでは今回【第6回】は、ソフトウェアについて紹介する。 1 選択ポイント 中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制の主なポイントは下記のとおりである。 【ソフトウェアにおける適用税制一覧表】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 上記税制以外に、【第4回】で確認した「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」が平成29年7月31日から適用開始されている。 承認地域経済牽引事業に係る承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をするような場合には、当該税制の検討も要する。 ソフトウェアにおいては、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は対象外となるため、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制の選択となる。 【第2回】及び【第3回】で確認したとおり、中小企業経営強化税制は、原則としてソフトウェアを取得する前に一定の手続きを要するため、事前準備を行う必要があるが、中小企業投資促進税制に比べ特別償却、税額控除ともに有利な制度になっている。 ソフトウェアの範囲は、中小企業投資促進税制と中小企業経営強化税制とで同じであるが、中小企業経営強化税制では、中小企業等経営力強化法における経営力向上計画の認定を受ける必要があることから、経営力向上に特に資するものでないソフトウェアは対象外となり、中小企業投資促進税制の適用を検討することとなる。 そこで、中小企業経営強化税制のA類型(生産性向上設備)の場合には、「設備の稼働状況等に係る情報収集機能及び分析・指示機能を有するもの」という要件に注意を要する。 申請手続きは、基本的にソフトウェアを導入する法人から依頼を受けた設備メーカー(ソフトウェアの開発元の事業者等)と工業会等(ソフトウェアで情報収集・分析・指示機能を有するものについては、「一般社団法人情報サービス産業協会」)とで行われるため、ソフトウェアの導入を検討している法人は、事前に設備メーカー(ソフトウェアの開発元の事業者等)へ要件を満たすか否か確認する必要がある。 なお、ソフトウェアは無形減価償却資産であるため、固定資産税の特例措置(課税標準の特例)の適用はない。 2 具体例(特別償却準備金、税額控除) 今回は【第5回】と異なり、特別償却に代えて特別償却準備金を選択した場合と税額控除を選択した場合について確認する。 - 前 提 - 小売業を営む青色申告法人である内国法人甲社(資本金3,000万円、発行済株式の総数1,000株、従業員の数80人、大規模法人に株式を所有されていない)は、当期(平成29年4月1日から平成30年3月31日)において、既存顧客のリピーター増加を促し、収益力の向上を図る目的で顧客管理システム(ソフトウェア)を導入し、事業の用に供した。 【顧客管理システム(ソフトウェア)の詳細】 取得価額:3,000,000円 法定耐用年数:5年 (定額法償却率:0.200) 取得日:平成29年12月1日 事業供用日:平成29年12月1日 普通償却費:200,000円 普通償却限度額:200,000円 (1) 特別償却準備金を選択適用した場合 ① 中小企業投資促進税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として900,000円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 ソフトウェアについては、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 当期末において剰余金の処分により特別償却準備金として2,800,000円を積み立てているものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 特別償却準備金のポイント 前回【第5回】で確認した特別償却の場合と同様に、適用を受ける税制に係る特別償却の付表を添付するとともに、別表16(9)(特別償却準備金の損金算入に関する明細書)も添付して、特別償却準備金の積み立てによる損金算入額を記載する必要がある。 なお、翌期以降は当該別表の「翌期繰越額の計算 22欄から28欄」を使用して、特別償却準備金の取り崩しによる益金算入額を記載することとなる。 (2) 税額控除を選択適用した場合 資産区分や金額等は異なるが、前回【第5回】と同様の記載内容である。 ① 中小企業投資促進税制 調整前法人税額は1,668,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 商業・サービス業・農林水産業活性化税制 ソフトウェアについては、適用できない。 ③ 中小企業経営強化税制 調整前法人税額は1,668,000円であるものとする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回【第7回】では、器具備品についての選択ポイント及びその具体例を確認していく。 (了)
〈平成29年度改正対応〉 所得拡大促進税制の実務 【第6回】 (最終回) 「組織再編が行われた場合の取扱い(その2:分割等)」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 分割等が行われた場合の調整計算の概要 前回解説した「合併」と同じく、分割等(分割、現物出資及び現物分配)が行われた場合にも、企業規模が著しく変動することとなるため、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額について一定の調整が必要となる(措法42の12の5⑤)。 具体的には、分割法人等(分割法人、現物出資法人、現物分配法人)及び分割承継法人等(分割承継法人、被現物出資法人、被現物分配法人)のそれぞれについて調整計算が定められており(下表A及びB)、分割承継法人等については、新設分割及び現物出資による設立の場合についてさらに別の取扱いが定められている(下表C)。 以下、それぞれの調整計算の内容について解説する。 2 分割法人等における調整計算 (1) 適用年度に分割等が行われた場合 適用年度に分割等が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割法人等の企業規模が小さくなり、給与等支給額も減少することとなる。 そこで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額についても、分割等の日の属する月から事業年度末までの月数について、分割承継法人等に移転した給与等支給額の水準(移転給与等支給額)を減算する調整を行うことで、適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 この図より一目瞭然であるが、分割等実施後の雇用者給与等支給額の水準(上図③)と同じような図形になるように、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を調整していることがイメージできれば、理解も早まると思う。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象基準年度に係る給与等支給額から、以下の算式によって計算した金額を控除する(措令27の12の5⑧一イ)。 【比較雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象前年度に係る給与等支給額から、以下の算式によって計算した金額を控除する(措令27の12の5⑬一イ)。 ここで「移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の各事業年度の給与等支給額(分割事業年度等にあっては、当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額)に当該分割等の直後の当該分割等に係る分割承継法人等の国内雇用者(当該分割等の直前において当該分割法人等の国内雇用者であったものに限る)の数を乗じてこれを当該分割等の直前の当該分割法人等の国内雇用者の数で除して計算した金額をいう(措令27の12の5⑩)。 計算式で表現すると以下のようになる。 以上要するに、分割等によって分割承継法人等に移転した分割法人等の国内雇用者の数に対応する給与等支給額を「移転給与等支給額」として計算し、これに月数補正を加味したものを、調整対象基準年度又は調整対象前年度における給与等支給額から控除するという調整を行っているということである。 (2) 基準年度開始の日から適用年度開始日の前日までに分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じてすべて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、基準年度及び前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 分割法人等の調整対象基準年度に係る給与等支給額から、当該分割法人等の当該調整対象基準年度に係る移転給与等支給額を控除する(措令27の12の5⑧一ロ)。 【比較雇用者給与等支給額の調整】 調整対象前年度において分割等が行われている場合(※1)、分割法人等の調整対象前年度に係る給与等支給額から、当該分割法人等の当該調整対象前年度に係る移転給与等支給額を控除する(措令27の12の5⑬一ロ)。 (※1) 調整対象基準年度開始の日から調整対象前年度開始の日の前日までに分割等が行われている場合には、調整対象前年度においても、年度を通じて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるため、特段の調整は不要である。 この点に関し、移転給与等支給額の計算基礎となる分割法人等の各事業年度の給与等支給額の算定に当たり、その事業年度が分割等の日を含む事業年度(分割事業年度等)である場合には、「当該分割等の日の前日を当該分割事業年度等の終了の日とした場合に損金の額に算入される給与等支給額」とされている点に留意が必要である。これは、移転給与等支給額の按分計算が必要なのは、あくまでも、分割前の企業規模を前提に支給された給与等の額のみであって、分割後の給与等支給額を按分計算に含めるのは適切でないという考え方によるものである。 したがって、調整対象基準年度又は調整対象前年度中に分割等の日が含まれている場合における移転給与等支給額の計算は、その事業年度開始の日から分割等の日の前日を1事業年度とみなして、その事業年度中に損金の額に算入される給与等支給額を基礎として計算することとなる。 3 分割承継法人等における調整計算(4の適用を受けるものを除く) (1) 適用年度に分割等が行われた場合 適用年度に分割等が行われた場合、分割等の日の属する月以後、分割法人等から引き継いだ従業者に対する給与等支給額が加味されて、雇用者給与等支給額が大きく増加することとなる。 そこで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額についても、分割等の日の属する月から事業年度末までの月数について、分割法人等において計算された「移転給与等支給額」を加算する調整を行うことで、適切な大小比較を可能とする(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧二イ)。 ・分割承継法人等の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・分割承継法人等の調整対象基準年度に含まれる月の、当該分割等に係る分割法人等の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図④)に、当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬二イ)。 ・分割承継法人等の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・分割承継法人等の調整対象前年度に含まれる月の、当該分割等に係る分割法人等の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑤)に、当該分割等の日から当該適用年度終了の日までの期間の月数を乗じてこれを当該適用年度の月数で除して計算した金額(上図では「÷12」としている) ここで「月別移転給与等支給額」とは、その分割等に係る分割法人等の各事業年度の移転給与等支給額をそれぞれ当該各事業年度等の月数(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間の月数)で除して計算した金額を当該各事業年度等に含まれる月(分割事業年度等にあっては、当該分割事業年度等の開始の日から当該分割等の日の前日までの期間に含まれる月)に係るものとみなしたものをいう(措令27の12の5⑨)。 すなわち月別移転給与等支給額は、分割法人等において算定された「移転給与等支給額」に基づくものであるが、その月別変動を平準化させるために、月平均額を算定しているものである(合併における月別給与等支給額と同趣旨(前回参照))。 (2) 基準年度開始の日から適用年度開始日の前日までに分割等が行われた場合 適用年度は年度を通じて全て分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるが、引き続き、基準年度及び前年度の給与等支給額について調整が必要となる(下図参照)。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧二ロ)。 ・分割承継法人の調整対象基準年度における給与等支給額(上図①) ・分割承継法人の調整対象基準年度に含まれる月の、当該分割に係る分割法人の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 調整対象前年度において分割等が行われている場合(※2)、以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬二ロ)。 ・分割承継法人の調整対象前年度における給与等支給額(上図②) ・分割承継法人の調整対象前年度に含まれる月の、当該分割に係る分割法人の月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑤) (※2) 調整対象基準年度開始の日から調整対象前年度開始の日の前日までに分割等が行われている場合(上図⑤が存在しない場合)には、調整対象前年度においても、年度を通じて分割等実施後の規模で給与等支給額が発生することとなるため、特段の調整は不要である。 以上、3で説明した分割承継法人等に関する取扱いは、結果的には、吸収合併における合併法人の調整計算とほぼ同じ計算構造になっている(合併のケースと同じ図になる)。 そして次に説明する4(新設分割・現物出資設立)も、新設合併における取扱いとほぼ同じ考え方に基づき調整計算が規定されている。 4 新設分割又は現物出資設立に係る分割承継法人等における調整計算 (1) 適用年度に新設分割又は現物出資設立が行われた場合 新設分割又は現物出資設立の場合には、分割承継法人等は分割等の日に成立するため、前年度以前の給与等支給額は発生していないが、分割等に係る分割法人等の給与等支給額に基づき、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額を計算することとなる。 また、適用年度は分割等の日(会社成立日)から開始するため、通常の事業年度よりも短いことが一般的である。この場合、基準事業年度及び比較事業年度と適用年度の月数が異なることとなるため、その調整も必要となるので留意が必要である(措法42の12の5②四ロ・六ロ。詳細は【第1回】を参照)。 新設分割及び現物出資設立に特有の取扱いとして、当該分割等に係る分割法人等のうち、どの分割法人等の給与等支給額を基礎として合算調整を行うかを決定する必要がある。対象となる分割法人等を「基準分割法人等」といい、分割法人等のうち当該分割等の直前の時における資本金の額又は出資金の額が最も多いものをいう(措令27の12の5⑧三)。 そのうえで、基準雇用者給与等支給額及び比較雇用者給与等支給額は以下のように調整される。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧三)。 ・基準分割法人等の調整対象基準年度における移転給与等支給額(上図①) ・基準分割法人等以外の分割法人等の調整対象基準年度における月別移転給与等支給額の合計額(上図④) 【比較雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑬三)。 ・基準分割法人等の調整対象前年度における移転給与等支給額(上図③) ・基準分割法人等以外の分割法人の調整対象前年度における月別移転給与等支給額を合計した金額(上図⑥) (2) 基準年度開始の日から適用年度開始の日の前日までに新設分割又は現物出資設立が行われた場合 この場合には、分割承継法人として前事業年度が存在するため、比較雇用者給与等支給額については特段の調整は必要とされず(ただし、前年度と適用年度の月数が異なる場合の調整は必要)、基準雇用者給与等支給額についてのみ調整計算が定められている。 【基準雇用者給与等支給額の調整】 以下の金額を合計した額となる(措令27の12の5⑧三)。 ・基準分割法人等の調整対象基準年度における移転給与等支給額(上図①) ・基準分割法人等以外の分割法人等の調整対象基準年度における月別移転給与等支給額の合計額(上図③) 【比較雇用者給与等支給額】 特段の調整はない(上図⑤)。この点に関し、適用年度と前事業年度の月数が異なる場合には、月数補正の調整が必要となる。 5 その他の留意点 合併、分割又は現物出資により設立された法人については、『基準事業年度がない場合において最も古い事業年度の雇用者給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とする取扱い』は適用されないので留意が必要である(措法42の12の5②四ハ)。 (連載了)
平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】 「連結法人の申告期限の延長の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [10] 連結法人の申告期限の延長の見直し 平成29年度税制改正においては、「攻めの経営」を促すコーポレートガバナンス税制の一環として、企業と株主・投資家との充実した対話を促すため、上場企業等が定時株主総会の開催日を柔軟に設定できるよう、決算日から3ヶ月を超えた日に定時株主総会を開催する場合(例えば3月期決算企業が定時株主総会を7月以降に開催する場合)、定時株主総会後に法人税の確定申告を行うことを可能とする措置が講じられた。 具体的には、連結確定申告書について、平成29年4月1日以後に申請するものについて、次のように取り扱われることとなる(新法法81の24①、平成29年所法等改正法附則1)。 なお、既に2ヶ月間の延長の適用を受けている場合は、改正後も2ヶ月間の延長が認められる(平成29年所法等改正法附則25①②)。 1 法人税の申告期限の延長について (1) 2ヶ月間の延長 連結親法人の連結確定申告書の提出期限は、原則、各連結事業年度終了の日の翌日から2月以内であるが、次に掲げる理由がある場合、2ヶ月間延長することができる(新法法81の24①、81の22①)。 この点、〈例2〉のように、定時株主総会が3ヶ月超、4月以内の場合は、次の(2)ではなく、この(1)の定めに従って延長が行われることとなる点に注意が必要である。 そして、連結納税の申告期限の延長について、改正前は〈例1〉のケースしか存在しなかったであろうが、改正後は〈例2〉のケースが生じることが想定される。 (2) 2ヶ月超4ヶ月以内の延長 今回の改正によって、次に掲げる場合について。2ヶ月超4ヶ月以内の延長が認められることとなった。 ① 連結親法人が、会計監査人を置いている場合で、かつ、定款等の定めにより各連結事業年度終了の日の翌日から4ヶ月以内に決算についての定時株主総会が招集されない常況にあると認められる場合には、その定めの内容を勘案して4ヶ月を超えない範囲内において税務署長が指定する月数の期間の延長を認めることとする(新法法81の24①一)。 ② また、特別の事情があることにより、各連結事業年度終了の日の翌日から4ヶ月以内に決算についての定時株主総会が招集されない常況にあること、あるいは、4ヶ月以内に連結法人税の額等の計算が終了できない常況にあることその他やむを得ない事情があると認められる場合、税務署長が指定する月数の期間の延長を認めることとする(新法法81の24①二)。 なお、会計監査人を置いていない場合、あるいは、定款等の定めによらない場合で、連結子法人が多数に上ることを特別の事情として、上記②の2ヶ月を超える申告期限の延長が認められるかであるが、このような場合に、すでに(1)で2ヶ月の延長を認めている以上、連結子法人が多く決算が締まらないことを理由として、税務署長が、(2)よりもさらに最大2ヶ月の延長を認めることは、想定されていないと思われる。 ▷決算日と定時株主総会開催月と申告期限の関係 以下、定款等の定め、会計監査人の設置など他の延長要件が満たされていることを前提とする。 (※) 連結子法人が多数に上ること等により、2ヶ月以内に連結確定申告書を提出することができない場合は7月末まで延長が認められる。 2 法人税の申告期限の延長の申請期限について 「申告期限の延長の特例の申請書」に定款等の写し及びケースごとに必要となる書類を添付し、延長の適用を受けようとする連結事業年度終了の日の翌日から45日以内に納税地の所轄税務署に提出する必要がある(新法法81の24②、75の2③④)。 また、住民税について、各連結法人は、連結確定申告書の提出期限の延長の処分があった日から7日以内に「法人税に係る申告書の提出期限の延長の処分等の届出」(東京都様式:申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書)を都税事務所、県税事務所、市区町村に提出する必要がある。 3 事業税の申告期限の延長について 各連結法人の事業税の申告期限についても、法人税と同期間の延長が可能となる(新地法72の25⑤、72の28②)。 延長が認められる要件についても法人税と同じである(新地法72の25⑤)。 また、各連結法人は、事業税の申告期限の延長の適用を受けるためには、法人税の申請とは別に、延長の適用を受けようとする事業年度終了の日の翌日から45日以内に「事業税等に係る申告書の提出期限の延長の承認申請」(東京都様式:申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書)を都税事務所、県税事務所に提出する必要がある。 なお、添付書類も法人税と同様に、定款等の写し及びケースごとに必要となる書類を添付する必要がある(新地令24の4③、24の4の3①)。 (了)
相続税の実務問答 【第14回】 「法定相続分とは異なる割合による遺産分割」 税理士 梶野 研二 [答] 遺産分割協議の結果、各相続人が取得することとなった財産の価額が、民法に定める法定相続分に基づき算定した価額と異なることとなったとしても、贈与税の課税問題が生じることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 遺産分割 相続が開始すると、被相続人の財産は、その相続人によって直ちに承継されることとなります(民法896)。 相続人が2名以上いる場合には、相続財産は、この2名以上の相続人が、その相続分(※)に応じて、共有で承継することとなります(民法898、899)。 (※) 民法第900条及び第901条に規定する相続分をいいますが、相続分の指定(民法902)がある場合には指定相続分をいい、特別受益(民法903)又は寄与分(民法904の2)がある場合には、それらを加減します。 その後、遺産分割が行われた場合には、その効力は相続開始の時にさかのぼって生じることとなりますから(民法909)、遺産分割の対象とされた各相続財産は、遺産分割によりそれを取得することとなった相続人が、相続開始の時に承継することとなります。 遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行われます(民法906)が、相続人間の協議による遺産分割が行われる場合には、必ずしも民法に定める相続分に応じた分割がなされるとは限りません。 2 相続分と実際の分割結果の不一致 被相続人に属していた財産は、原則として、相続人間の分割によって、民法に定める相続分に縛られることなく自由に分割することができます。 また、民法に定める相続分を意識したとしても、それぞれの相続財産についての主観的な価値については相続人毎に差異があるでしょうし、相続開始時から遺産分割時までの間に、各財産の値上がり又は値下がりの状況は一様ではありません。 また、相続税の課税価格及び税額を計算する場合に基となる財産の価額は、実務上、財産評価基本通達等の定めに従って評価されますが、この財産評価基本通達等による評価額は、各財産の実勢価格と乖離することもあります。 このため、換価分割(前回参照)が行われた場合、すべての財産を法定相続分に応じた共有の状態で相続する場合、あるいは遺産が預貯金等の金融資産のみの場合などを除き、民法に定める相続分と全く同じ割合で相続財産を承継するような遺産分割がなされないケースの方が多いのではないかと考えられます。 3 遺産分割と贈与 それでは、民法に定める相続分と、遺産分割の結果、各相続人が取得することとなった財産の価額に齟齬が生じた場合に、課税上、問題が生じることになるのでしょうか。つまり、法定相続分より少ない価額の財産を取得した者から、法定相続分よりも多い価額の財産を取得した者に贈与が行われたものとして、贈与税の課税が行われることはないのでしょうか。 前述のとおり、遺産分割が行われると、その効力は相続開始の時にさかのぼって生じることとなりますから(民法909)、各相続人は、相続開始の時に、被相続人から同人に属していた財産をそれぞれ取得することとなります。共同相続人間で、当該財産の贈与が行われるわけではありません。遺産分割協議を一種の契約と考えるとしても、相続人間での贈与契約が締結されたとみることについては無理があるでしょう。 それでは、相続税法第9条に規定するいわゆる「みなし贈与」の観点からはどうでしょうか。 つまり、一部の相続人が他の相続人から「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」に該当するといえるでしょうか。 遺産分割が完了するまでは、各相続人は抽象的な相続分しか有していません。遺産分割によって、はじめて具体的な相続財産が確定することとなるのであり、遺産分割によって、相互に経済的な利益の供与をしているとみることは、その実態に即したものとはいえません。 また、相続税法第55条や第32条第1項第1号の規定は、遺産分割によって、民法に定める相続分とは異なる分割が行われた場合に、税負担の調整は、相続税を増減することによって行うこととしており、ここに贈与税課税を想定した規定は存しません。 したがって、一部の相続人が、法定相続分より少ない価額の財産を取得し、別の相続人が、法定相続分を超える価額の財産を取得したとしても、贈与税が課税されることはありません。 (注) いったん遺産分割が有効に成立した後に、何らかの事情で分割をやり直した場合に贈与税課税等の問題が生じることについては、本連載【第6回】「遺産分割協議のやりなおし」で述べたとおりです。 4 ご質問の場合 お父様の遺産は、合計1億6,000万円であり、これを法定相続分どおり分割すると、お母様は2分の1の8,000万円、あなたと弟さんは4分の1の4,000万円ずつを取得することになりますが、分割協議の結果、あなたは法定相続分相当額よりも2,000万円少なく、弟さんは2,000万円多く取得することとなったため、この2,000万円があなたから弟さんへの贈与又はみなし贈与になるのではないかとの懸念が生じたものと思われます。 しかしながら、上記のとおり、各相続人は、相続開始の時にさかのぼって、直接、お父様から各財産を取得するものであり、そこには贈与又はみなし贈与は発生しませんので、贈与税が課税されることはありません。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第7回】 「被相続人居住用家屋及びその敷地等の範囲① (離れや倉庫などを取壊して母屋を耐震リフォームし譲渡した場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年6月に死亡した父親の居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前において、父親は一人住まいをし、父親所有のその土地(200㎡)は、用途上不可分の関係にある2以上の建築物(父親所有の母屋:120㎡、離れ:30㎡、倉庫:10㎡)のある一団の土地でした。 Xは、離れと倉庫を取り壊し、母屋を耐震リフォームした上で、その土地と母屋を売却しました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用対象となる敷地等の範囲を説明してください。 なお、同じような土地建築物等の状況で、自己の居住用財産を譲渡する場合の「3,000万円特別控除(措法35①)」の適用対象範囲についても説明してください。 A 「相続空き家の特例(措法35③)」の場合は、その敷地のうち、相続開始直前における一の建築物(母屋)部分の割合に対応する土地150㎡が適用対象範囲となります。 また、「3,000万円特別控除(措法35①)」の場合は、その母屋とその他の建築物等が一体として自己の居住の用に供していると認められるときは、その土地全体の200㎡が居住用財産として特例の適用対象範囲となります。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の場合、被相続人居住用家屋とは、相続の開始の直前において、その被相続人が居住の用に供されていた一定の家屋(【第3回】解説の前段を参照)をいい、その敷地等とは、相続の開始の直前において、その家屋の敷地の用に供されていた土地等をいいます(措法35④、措令23③④)。 そして、その一定の家屋は、その被相続人が主として居住の用に供していたと認められる一の建築物に限るとされ(措令23⑥)、被相続人の居住の用に供されていた土地が「用途不可分の関係にある2以上の建築物」(措通35-14(用途不可分の関係にある2以上の建築物))がある一団の土地であった場合における敷地の判定は、その土地のうち、その土地の面積に、次に掲げる床面積の合計(A+B)のうちに、Aに掲げる床面積の占める割合を乗じて計算した面積に係る土地の部分に限るものとされています(措令23⑦)。 したがって、例えば、被相続人が主として居住の用に供していた母屋と別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫のように、一定の共通の用途に供せられる複数の建築物であって、これを分離するとその用途の実現が困難となるような関係にある建築物の一団の土地であった場合には、たとえ別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫などをその母屋と一体として居住の用に供していたときであっても、その母屋部分のみが被相続人居住用家屋に該当することとなります。 また、この場合において、これらの建築物の所有者が同一であるかどうかは問わないこととされています。 そして、被相続人居住用家屋の敷地等については、上記A及びBの床面積の合計(母屋、別棟の離れ、倉庫、蔵、車庫などの床面積の合計)のうちに上記Aの床面積(母屋部分の床面積)の占める割合を乗じた部分が被相続人居住用家屋の敷地等となります。 また、譲渡時点で既に母屋以外の建築物が取り壊されていたとしても、相続の開始の直前の状況で判定することとなります。 よって、本事例における、「相続空き家の特例(措法35③)」の場合の適用対象となる被相続人居住用家屋の敷地に該当する部分の面積は、次のようになります。 また、「3,000万円特別控除(措法35①)」の場合の適用対象範囲は、同じような土地建築物等の状況でも、その母屋とその他の建築物等が一体として自己の居住の用に供していると認められる場合には、一の建築物に限るとされていないことなどから、その土地全体の200㎡が居住用財産として特例の適用対象となります。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第29回】 「宅地造成費用の否認」 ~宅地造成工事費用の支出の損金算入が認められないと判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「架空の宅地造成費用の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁昭和55年7月17日判決(行集31巻7号1504頁。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、更正をした根拠をX社の帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって明示しているため理由付記に不備はないと判断した(かかる判断は、控訴審である東京高裁昭和57年2月18日判決・税資122号316頁でも維持されている)。 4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件理由付記に記載されている処分理由(造成現場を実地に確認した結果、造成の事実がないこと及び(有)K建設の代表者ほか関係者に対して反面調査した結果、造成工事を請負った事実は認められないこと)からすれば、本件更正処分は、X社の帳簿上、経費勘定として計上されている宅地造成費用を架空であるとして否認するものであると解されるから、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 なお、本件訴訟において、X社は、本件理由付記には980万円の支払自体が架空であるとは記載されていない旨主張した。これに対して、本判決は、本件理由付記は請負契約自体が締結されておらず、工事もなされていない旨記載していることを摘示した上で、課税庁が支払自体を架空と認定していることは当該記載から容易に読み取ることができるとして、X社の上記主張を排斥している。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 上記(1)③において示した「帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料の摘示」とは、厳密にいえば、【1】「資料の摘示」という形式的な要素と、【2】当該資料が「更正処分の根拠となるもの」であり、かつ、当該青色申告者の「帳簿書類の記載以上に信憑力があるもの」であるという実質的な要素の2つから成る。 【1】において摘示すべき「資料」とは「証拠」と言い換えることができそうである。もっとも、反面調査先の応答内容を記載した質問応答録や課税庁内部の報告文書である調査官報告書などの証拠を逐一摘示することまでは求められていないという意味で、税務調査等で把握した事実そのものや当該事実が税務調査等で把握されたものである旨を摘示することも、ここでいう「資料の摘示」に該当すると解しておく。 この点、本件理由付記には、本件宅地造成費用980万円が架空経費として損金の額に算入されないと判断した根拠として、①造成の事実がないこと及び②造成工事を請負った事実がないことという具体的な事実に加えて、①の事実は造成現場の実地確認調査、②の事実は(有)K建設の代表者ほか関係者に対する反面調査により把握したことが記載されている。 そうすると、本件理由付記は、法令上の根拠を明らかにし、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に明示するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。したがって、本件理由付記は、上記(1)①ないし③を満たし、法の求める理由付記として十分なものである。 (3) 更なる議論① ~980万円の真実の使途や支払先が記載されていないことが与える影響~ 980万円の使途について、実際には、X社の代表者に対する賞与であると認定されて、源泉所得税の納税告知処分等が行われているのであるが、本件理由付記には、かような980万円の使途や支払先に関する記載がない。このことが、本件理由付記の十分性にどのような影響を与えるであろうか。 例えば、実際にはX社の代表者が980万円を個人的に受領し、費消しているなど、本件宅地造成費用が架空であると認定するための重要な間接事実については、理由付記への記載が求められると考えるが、更正処分に係る他の事実や証拠としていかなるものがあるのか、そのような重要な間接事実の証明の程度(証明度)はどれ程であるのか、など相対的な議論になりそうである。 いずれにしても、上記(2)で述べたとおり、本件理由付記は、法令上の根拠を明らかにし、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に明示するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、特段の事情のない限り、980万円の使途や支払先に関する記載がないことをもって、本件理由付記に不備はないという上記評価が覆えることはないと考える。 (4) 更なる議論② ~課税庁が摘示するべき「資料の信憑力の程度」と納税者の「帳簿書類の信憑力の程度」との関係~ 上記(2)【2】の「帳簿書類の記載以上に信憑力があるもの」という実質的な要素に関連する議論を進めてみたい。 本判決は、訴訟においてX社から提出された次の①ないし③の証拠及びX社の会計帳簿について、その記載内容や作成経緯に疑問があるとして、その信憑力(証明力)を低く評価している。 理由付記において、更正処分の根拠として、課税庁が摘示するべき「資料の信憑力の程度」の問題、すなわち、どの程度の信憑力のある資料を提示すべきかという点は、納税者の「帳簿書類の信憑力の程度」に左右されるという相対的な一面を有する(本連載【第23回】参照)。このことを考慮すると、理由付記において納税者の「帳簿書類の信憑力」に関する記載を要する場合もあり得るであろう。 ただし、本件理由付記は、この点に関する記載がないとしても、上記(2)のとおり、法の求める理由付記として十分なものである。 * * * 次回は、「有価証券評価損の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
ファーストステップ 管理会計 【第14回】 「設備投資の経済性計算の方法」 ~ベーカリーはオーブンが決め手②~ 〔意思決定編④〕 公認会計士 石王丸 香菜子 ベーカリーに欠かせない設備はオーブンです。オーブンの容量や性能などは、パンの品質や製造量に大きな影響を与えますので、ベーカリー経営では、オーブン設備が重要な鍵をにぎります。 業務用オーブンは高価で、多額の投資が必要となります(そのためオーブンの中古市場があるほどです)。また、投資の効果は長期間に及びます。 こうした設備投資の経済性を判断する方法は、複数あります。前回に引き続き、ベーカリーの経営者になったつもりで、新オーブン導入プロジェクトについて意思決定してみましょう。 ◆新オーブンの候補は2つ ベーカリーでは新オーブンの導入を検討し、A案とB案が候補として挙がっています。両案ともオーブン価格は500万円・耐用年数は3年で、投資の意思決定後すぐに購入するものとします。 両案の今後3年間のキャッシュインフローは、以下のように見込まれます(税金の影響を考慮した後の金額とします)。 A案は、パン専用大型オーブンです。投資後すぐにパンの大量生産が可能で、1年目からキャッシュインフローが多く生じるものの、3年目は機能が低下してキャッシュインフローは減る見込みです。 B案は、パンの他にピザを焼く機能がある特殊オーブンです。投資後すぐはあまりキャッシュインフローが多くないものの、3年目にはピザ販売について顧客への認知度を上げて、キャッシュインフローが急増すると見込んでいます。 ◆方法①:簡単に投資案の安全性を考える~回収期間法 どの案が確実に資金を回収できるかを簡単に考えたい場合には、「回収期間法」という方法があります。回収期間法とは、投資した金額を回収するまでにどれだけの期間がかかるかを計算して、早く回収できる案を採用する方法です。 両案について、回収期間を計算してみます。 A案のほうが早く投資額を回収できるので、「回収期間法」ではA案が有利ですね。 このように、回収期間法は計算が簡単で、誰でも直感的にわかるという良さがあります。 ただし、回収期間は、あくまでも投資額を回収するまでの期間ですので、投資額を回収した後、どれだけ儲かるかという収益性はわかりません。また、前回触れたように、設備投資の意思決定では、正確にはキャッシュフローの時間価値を考える(つまり投資が影響を及ぼす期間全体を考えて割引計算する)べきですので、この点でも正確性に欠けます。 しかし、企業の置かれている環境が非常に不確実で、「とにかく投資額を早期に回収したい!」という安全性を一番に考える状況ならば、一定の合理性はある方法です。 また、時間価値については、時間価値相当額を算出してキャッシュフローに調整したうえで回収期間を算定すれば考慮することができるので、実務ではこうした修正バージョンの回収期間法を利用するケースもあります。 ◆方法②:簡単に投資案の効率を考える~投下資本利益率法 せっかく新オーブンを導入するのですから、投資した金額をなるべく効率的に利用して儲けたいものですね。各案がどれだけ儲かるのかを簡単に把握したい時は、「投下資本利益率法」を使います。投下資本利益率法とは、投資額に対して、年平均でどの程度儲かるかを計算する方法です。 投下資本利益率が高いほど、投資した金額を効率的に利用してたくさん儲けたことになりますので、「投下資本利益率法」ではB案が有利です。 「投下資本利益率法」は、簡単な計算で各案の収益性を図ることができます。ただし、時間価値を考えない点で正確性に欠けるのは、「回収期間法」と同じです。 ◆方法③:正確に投資案の価値を計算する~正味現在価値法 設備投資の効果は長期間に及ぶので、正確にはキャッシュの時間価値を考える必要があります。例えば、1年で5%の利息が付く場合、1年後の105万円は、現在の(105万円÷1.05=)100万円と同じ価値です。 この発想で、各案から生じる毎年のキャッシュフローを割引率で割り引いて現時点での価値を求め、そこから現時点での投資額を差し引くと、その投資が損か得かを正確に判断することができます。この方法を「正味現在価値法」と言います。 ここでは、割引率を10%として計算してみます。 両案とも正味現在価値がプラスですので、損にはなりませんが、正味現在価値がより大きいのはA案です。キャッシュインフローの単純合計ではB案の方が多いにも関わらず、キャッシュインフローの発生が後半に偏っているため、割引計算の影響を大きく受けて、正味現在価値はA案よりも少ないことに注目してください。 このように、「正味現在価値法」は、時間価値を考慮して、各投資案の正確な価値を計算できるのが最大の利点です。 なお、(手で計算するのは面倒なので・・・)ExcelのNPV関数を利用すれば、毎年のキャッシュフローの現在価値がすぐに求められることも合わせて知っておくと便利です。 ◆方法④:正確に投資案の効率を計算する~内部収益率法 「正味現在価値法」は、投資案を正味現在価値という絶対額ベースで評価するので、各案が、投資した金額をいかに効率的に使って利益をあげるかということは、わかりません。 そこで、「正味現在価値法」と同じ発想で、投資自体の利回りを計算することで、投資効率を考える方法もあります。 難しく感じるかもしれませんが、簡単な例で考えると、100万円を1年間の定期預金として、1年後に105万円になる場合、この定期預金の利率は何%かということを考えるのと同じです。利率の高い定期預金のほうが、有利な定期預金と言えますよね。 つまり、毎年のキャッシュフローを何%で割り引けば投資額と一致するかを考えることで、投資の利回りを計算すると、投資の効率を把握することができます。 この投資の利回りを「内部収益率」と呼びます。 ・・・と言われてもどう計算すればいいかわからない、と悩まなくても大丈夫ですよ! ExcelのIRR関数を使うと、キャッシュフローを何%で割り引けば投資額と一致するかを、一発で返してくれます(あ~、便利な時代に生まれてよかった)。 というわけで、両案の内部収益率は、以下の通りです。 「内部収益率法」によっても、A案が有利になりますね。 ただし、「内部収益率法」は、投資の効率を明らかにするべく「比率」にしたことの裏返しで、投資の「規模の違い」はわかりません。仮に、投資額が100万円で1年後に150万円になる投資案と、投資額が1,000万円で1年後に1,300万円になる投資案とを比較する場合、内部収益率は前者が50%、後者が30%です。内部収益率(=効率)だけみれば前者が良いのですが、投資から得られる利益の絶対額は明らかに後者のほうが大きいですよね。 また、「比率」ですので、多数の案からいくつかを組み合わせて選択したい場合などに、投資案同士を足し合わせて考えることはできません。 ◆・・・で、結局どの方法がいいの? 設備投資の経済性を判断するための4つの方法を挙げましたが、どの方法にも一長一短があり、唯一絶対の判断方法はありません。 「正味現在価値法」は合理的で正確とは言えますが、計算の前提となる割引率をどのように設定するかで、計算に大きな影響が出る点に注意が必要です。後述しますが、正確な割引率を設定することが難しく、そのために、内部収益率法を利用する企業も多いようです。 また、今回は割愛しますが、例えば、想定期間の途中に状況次第で撤退や拡大が選択できるような投資の場合には、「リアルオプション」という考え方を利用するなど、上記以外のアプローチもあります。 様々な方法の性質や長所・短所をふまえたうえで、自社の状況に適した方法を利用する(場合によっては複数の方法で多角的に検討する)のが、望ましいと言えます。実際の最終判断にあたっては、数値に現れない定性的な面を考慮する必要もあります。 A案とB案どちらを選ぶかの最終的な意思決定は、みなさん次第というわけです。 ◆割引率って・・・何だろう? 最後に、時間価値を計算する際の「割引率」とは何かを簡単に考えてみましょう。 投資には資金が必要です。この資金は、泉のように自然に湧いてきたものではなく(そうだったらいいですが!)、誰かから調達したものですね。 企業の場合は、債権者から調達するか(=「負債」)、株主から調達するか(=「株主資本」)のいずれかです。債権者や株主には、資金提供の見返りを渡す必要があります。債権者に対しては利息を返済します。株主は株式からの配当と株式の値上がり益を期待しているので、これを見返りと考えることができます。 このような資金提供に対する見返りを「資本コスト」と呼びます。調達資金について「資本コスト」がいくらかかるかを率で表したものが、「資本コスト率」です。 投資を行うには、最低でも、資金提供に対する見返りである「資本コスト率」を上回る利益率を達成する必要があります。 正味現在価値法で用いる割引率は、その投資が最低限達成すべき利回りと考えることができるので、この資本コスト率を用います。内部収益率法では、投資案の収益率が資本コスト率に満たない場合は明らかに不採算なので、その投資案は切り捨てることになります。 ◆厄介な資本コスト率 実は、この資本コスト率を正確に算定するのは厄介な作業です。資本コスト率のうち、負債部分(=負債コスト率)は、借入の利率です。しかし、株主資本部分(=株主資本コスト率)は、株主が期待している利回りがどの程度なのか明確ではないので、何らかの仮定を置いて推計するほかありません。 ひとまず、ここでは、「投資には資金調達のための資本コストがかかっている」ということを理解してください。 資本コスト率は、次回からの【業績評価編】でも登場しますので、少しずつ掘り下げて説明していきます。 (了)
〔判決からみた〕 会計不正事件における当事者の損害賠償責任 【第5回】 「「引受証券会社」の損害賠償責任」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 エフオーアイ損害賠償請求事件の概要【再掲】 1 訴訟当事者 2 粉飾決算の内容 FOI社においては、平成16年3月期において、決算が大幅な赤字となって銀行融資を受けることができなくなることを防ぐため、被告Y1(奥村元代表取締役社長)、被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y3(河野取締役)ら役員が相談の上、見込生産をして製造を終了した6台のエッチング装置につき、実際には受注がなかったにもかかわらず、受注があったように装って架空の売上げを計上することにより、実際の売上高が7億1,941万328円であるのに、決算書類には売上高が23億2,799万9,328円である旨記載する粉飾決算を行った。 FOI社は、平成17年3月期以降も、平成21年3月期までの間、売上高を実際よりも水増しして計上する方法による粉飾決算を継続した。平成21年3月期の粉飾額は115億3,639万5,000円に及び、決算書類に記載された売上高の97.3%が架空の売上げであった。 これらの粉飾は、被告Y1(奥村元代表取締役社長)、被告Y2(上畠代表取締役専務)及び被告Y3(河野取締役)ら取締役のほか、主立った幹部職員らが共謀して行ったものであった(本件粉飾)。 上場申請から上場→上場廃止に至る経緯【再掲】 1 1回目の上場申請と取下げ 2 2回目の上場申請と取下げ 3 3回目の上場申請から上場廃止(下線部は前掲より追記) 損害賠償責任に対する裁判所の判断 1 金融商品取引法の規定 判決を見る前に、引受証券会社をはじめとする関係者の損害賠償責任について、その根拠条文である金融商品取引法の規定を確認しておきたい。関係する規定は同法第17条と第21条である(一部括弧書き、条文番号などを省略するとともに、一部文言を補っている。以下、引用条文について同じ)。 そのうえで、「ただし書き」として、免責要件を定めている。 次いで、同法第21条は、以下のように規定する。 本稿で取り上げる幹事証券会社の損害賠償責任の存否は、第21条第1項4号を根拠とする。続く第2項には、免責規定として、第3号に以下の規定が置かれている。 2 金融商品取引法第21条第1項第4号及び同法第17条の意義 裁判所は、上記1に掲げる規定の趣旨について、「株式の募集・売出しを引き受ける元引受証券会社は、発行会社の事業の状況を正確に把握できる立場にあるとともに、有価証券届出書及びこれに基づいて作成される目論見書の内容を審査し得る立場にあることから、これに重い責任を課すことによって、開示書類の正確性を担保し、投資者の利益を保護する点にあると考えられる」と判示した。 そのうえで、会計監査の対象となっている財務情報部分については、「財務計算部分の数値そのものについての審査は必要ない」ものの、元引受証券会社は、「会計監査の対象となっている財務情報部分についても、会計監査の結果の信頼性を疑わせる事情の有無についての審査義務を負うと解すべきである」ことから、「財務計算部分についても、無条件にその内容を信頼することが許されるのではなく、監査証明に係る監査結果の信頼性を疑わせる事情の有無についての審査は必要であると解すべきである」と第21条第2項の免責条項を説明した。 3 引受証券会社による「相当な注意」の内容 裁判所は、自主規制団体である日本証券業協会が定めている規則等を引用する形で、「引受審査は、①発行者が将来にわたって投資者の期待に応えられるか否か、②募集又は売出しが資本市場における資金調達又は売出しとしてふさわしいか否か、③当該発行者の情報開示が適切に行われているか否かの観点から、厳正に行わなければならない」とし、さらに、「株式の新規公開における引受審査項目として、①公開適格性、②企業経営の健全性及び独立性、③事業継続体制、④コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況、⑤財政状態及び経営成績、⑥業績の見通し、⑦調達する資金の使途(売出しの場合は当該売出しの目的)、⑧企業内容等の適正な開示、⑨その他会員が必要と認める事項」のそれぞれについて、厳正な審査を行わなければならないと説明した。 そのうえで、「株式の新規公開に際し元引受証券会社が行う引受審査においては、発行会社が株式を公開して一般の投資者から広く資金を調達するにふさわしい企業であるかどうかという点について、厳正に審査する必要があるものと解される」ことから、「財務情報が適正に開示されているかどうか、すなわち粉飾が行われていないかどうかという点についても、当然に厳正な引受審査の対象となる」として、粉飾決算がされていないかどうかも、引受審査を行ううえでは「相当な注意」をもって、審査する必要があるとした。 そして、被告元引受証券会社らにおいては、FOI社の引受審査に当たり、「同社の財務情報に係る審査項目については、会計監査人による監査結果の信頼性を疑わせるような事情あるいは財務情報が正確でないことを疑わせるような事情が存在しないかどうかという観点から審査を行い、いずれについても存在しないことが確認できる場合には、会計監査人の監査を経た財務情報を信頼し、これが正確であることを前提に引受審査を行うことが許されていたと解すべきである」として、会計監査人の監査結果や財務情報の正確性についても、「相当な注意」をもって、引受審査を行う必要があるとして、被告みずほ証券の引受審査業務の適正性を判断することとした。 4 原告らが主張した「粉飾を疑わせる事情」と被告みずほ証券の引受審査 原告らは、被告みずほ証券が、粉飾をうかがわせる各事情について、「相当な注意を用いた」厳正な引受審査を行ったとはいえないことから、主幹事証券会社が引受審査において負う注意義務を怠った過失があり、不法行為責任を免れない、と主張した。 裁判所は、原告らが主張する粉飾を行わせる事情と被告みずほ証券の引受審査の事実認定について、以下のとおり判断した。 (1) 事情1(売上高の異常な増加)について ① 売上げの実在について、会計監査人に対するヒアリングにより、会計監査人が全取引先について残高確認を行っていることを確認した上、自らも実査を行い、それぞれの会社の担当者から、FOI社の装置を導入していることを前提とする説明を受けている。 ② FOI社の売上高が同業他社に比して急激な増加を示していることについて合理的な説明がされていると評価し、これを粉飾を示す事情として把握しなかったことはやむを得ないものということができ、この点について相当な注意を怠ったということはできない。 (2) 事情2(期末期付近における多額の売上計上)について FOI社主力装置であるエッチング装置の単価が3億から4億円と高額であること、取引先の数が少なく、当該企業の設備投資の動向により売上時期が大きな影響を受け得ること、海外企業にとって、1月から3月は新年度であり、売上げがこの時期に集中することは自然なことであること等を把握し、このような事情に照らせば、FOI社の売上げが期末(1月から3月)に集中することも不自然ではないと考えたものである。 (3) 事情3(売掛金残高の大幅な増加)、事情4(売上債権回転期間の大幅な増加)及び事情5(営業キャッシュフローの継続的な赤字) ① 被告みずほ証券は、FOI社に対する質問、役員に対するヒアリングにより、FOI社において売掛金の回収が進んでいない原因として、①FOI社は、売上計上基準として、同業他社と同じく「設置完了基準」を採用しているところ、半導体製造装置業界においては、初号機販売の場合にメーカー側が求める歩留まり率を安定的に達成するため、プロセス・インテグレーションと呼ばれる長期間のプロセス調整作業が必要であること、②FOI社は、新規参入企業として各取引先に初号機を販売している段階であり、プロセス・インテグレーションが長期間に及ぶ上、新興勢力のため取引先に早期の検収を強く要求することはできないのが現実であることといった事情を把握している。 ② 審査担当者は、売掛金が滞留している取引先についても、会計監査人による残高確認が行われていることの確認は行っていたこと、審査担当者においても、売掛金の回収状況については十分に注意を払って分析していたこと等を考慮すると、FOI社における売上債権回転期間の長期化をもって、被告みずほ証券において直ちに売掛債権の実在を疑うべきであったということまではできない。 (4) 事情6(生産能力の不足)について FOI社において売上げが大幅に増加しているにもかかわらず、設備投資の額が少額にとどまっていることについては、同社の販売数が平成20年3月期でも年間34台程度であり、しかも製造工程の相当部分の外注化が図られていたことからすれば、必ずしも不自然であるとはいえなかったというべきであり、これを粉飾を疑わせる事情とは把握しなかった被告みずほ証券の審査が相当な注意を欠いていたと評価することはできない。 (5) まとめ 被告みずほ証券は、本件粉飾を疑わせる事情について十分な審査を行い、いずれも合理的な説明が可能であることを確認したものというべきである。 5 匿名投書に対する対応 上記の【上場申請から上場→上場廃止に至る経緯】で見てきたとおり、被告みずほ証券は、FOI社の決算内容が虚偽のものであるという趣旨の匿名通報を2度にわたって受領しており、原告らは、これらの匿名通報に対する対応が金融商品取引法に違反すると主張したため、裁判所は、被告みずほ証券の対応について、次のように判示した。 (1) 第1投書に対する対応について 第1投書について、裁判所は、「事情をよく知る内部者が作成したことが推認される文書において、粉飾決算である事実が、その手口を含め具体的に指摘されていたのであるから、被告みずほ証券としては、当該文書が指摘するような手口による粉飾が実際に行われているのではないかという懐疑心をもって、粉飾の疑いを打ち消すだけの十分な引受審査を行うことが要請されていたというべきである。特に、FOI社においては、売上高が急増しているにもかかわらず売掛金の回収が進んでいないという事情が存在したところ、第1投書が指摘するような粉飾はこのような事情と整合する面があることからすると、上記の要請は高度のものとなっていたというべきである」と説明したうえで、被告みずほ証券の引受審査の内容を検討した。 被告みずほ証券が行った追加審査は、平成15年以降の全販売案件(42件)について、受注、製造から売上げ、代金回収に至る取引の全過程に係る帳票類及び預金通帳の突合作業を行うというものであった。しかし、その作業は、「各帳票類の写しの提出を受けてその内容を照合したものに過ぎないところ、仮に第1投書が指摘するように役員らが結託して注文書や検収書類を偽造していたとすれば、架空の売上げと整合するように偽造された書類の写しの突合作業を行うだけでは、売上げの真偽を確認することは困難であったことは明らか」であった。 裁判所は、被告みずほ証券としては、少なくとも、「注文書や検収書類等の原本、取引先からの入金を示す資料(預金通帳や外国被仕向送金計算書等)の原本等の提出を受け、これらが真正であることの確認を行うべき義務があった」にもかかわらず、そのような確認作業の実施が困難であったことをうかがわせるような事情が見当たらないことから、「全販売案件に係る帳票類の写しの突合作業を行うにとどめた被告みずほ証券の追加審査は、第1投書を受領したことを踏まえた審査としては不十分であったというべきである」とした。 また、第1投書において、取引先担当者と示し合わせて虚偽の注文書を発行してもらっている旨が断定的に記載されていることから、仮にこれが真実であれば、被告みずほ証券や会計監査人が行った取引先の実査や、会計監査人が行った残高確認の信頼性が根底から覆る可能性があった。裁判所は、被告みずほ証券としては、少なくとも第1投書に記載されている取引先については、売上げの実在を確認するための追加の調査を行うべき義務があったというべきであったにもかかわらず、被告みずほ証券による守秘義務を理由に取引先に対する何らの調査も行わなかったという対応は、不十分であったというべきであるとした。 (2) 第2投書に対する対応について 被告みずほ証券は、第2投書を受領した際、その内容が第1投書とほぼ同一であるということから、何らの追加の審査も行わなかった。この点について、裁判所は、「第1投書に対する追加の調査は、FOI社の役員と取引先が結託して粉飾を行っているとの指摘に対する調査としては不十分であったところ、被告みずほ証券は、第2投書を受領したことにより、改めて売上げの実在性についての調査を行う機会があったというべきであるのに、何らの追加の審査を行わなかったのであるから、この点においても主幹事証券会社としての注意を尽くしていたとは認め難い」と判断した。 6 結論 匿名投書に対する被告みずほ証券の対応について、裁判所は、「第1投書を受領したことを踏まえて行った被告みずほ証券の審査が十分なものであったとはいえず、仮に第1投書を踏まえた十分な審査を行っていれば、平成20年4月頃の時点でFOI社が粉飾決算を行っていることを発見できた可能性が少なからずあった」と結論づけた。 そのうえで、裁判所は、FOI社の2回目の上場申請及び3回目の上場申請に係る引受審査は、いずれも1回目の上場申請に係る引受審査の結果を引き継いで行われたものであるから、1回目の上場申請に係る引受審査の瑕疵は、本件上場に係るその後の引受審査にも承継されていたというべきであるとした。 さらに、裁判所は、被告みずほ証券について、本件上場に係る3回目の引受審査において、第2投書を受領し、再度FOI社の粉飾について注意深く審査をする機会があったにもかかわらず、第1投書と内容が同一であるという理由で、何らの追加の審査も行わなかったものであることから、被告みずほ証券は、本件有価証券届出書等の虚偽記載について、相当な注意を用いたにもかかわらずこれを知ることができなかったものと認めることはできないから、金融商品取引法第21条1項4号及び17条の責任を負うと結論づけることとなった。 本判決の特徴 連載【第1回】と一部重複するが、本判決の特徴は、引受証券会社が引受審査に当たって払うべき「相当な注意」について、詳細に論じていることにある。 裁判所が、「不正の兆候」に対する調査や「匿名投書」を受けての再調査に当たり、引受審査としての「相当な注意」を用いたかどうかを判断するために用いた事実認定は、経理部門、内部監査部門などの管理部門が不正の端緒を把握した際の対応にも、参考になるものであろう。 1 引受幹事証券会社の損害賠償責任を認めた判決であること 【第1回】でも言及したとおり、本判決は、有価証券届出書の虚偽記載に係る引受証券会社の金融商品取引法第21条1項4号、17条に基づく民事責任について判断を示したものであり、会計監査人の監査を受けた財務諸表に虚偽記載があったことを知らなかった引受証券会社に注意義務違反があったとして損害賠償責任を認めた初めての判決である。 責任を認めた理由については、引受審査において、2度にわたる匿名通報を受けながら、匿名通報に書かれた粉飾決算の可能性に関する審査について、「相当な注意」を用いたと認めることはできないことによるものであり、FOI事件がかなり特殊な例であることは言うまでもないことであるが、匿名を含む内部通報をどのように取り扱うべきかという、裁判所の判断を明らかにする判決となっている。 2 元引受証券会社と発行会社の関係 裁判の過程で、被告みずほ証券は、「発行会社との信頼関係に基づいて引受業務を行うことを理由に、引受審査においても、発行会社が粉飾を行っている疑いがあることを前提とするような審査を行うことはできない」と主張した。 会計監査においてもよく主張されるこうした「粉飾決算を前提とした審査は(信頼関係を破壊するので)できない」という主張に対して、裁判所は、「契約に基づく信頼関係を破壊するような審査を行うことができないという意味で、限界があることは否めない」とまずは被告の主張を是認する。 そのうえで、引受部門と独立した引受審査部門を設け、厳正な引受審査を行うことを要求している趣旨は、引受部門には期待できない厳正な審査を、独立した部門(審査部門)が行うことを期待する点にあるとして、「引受審査においては、飽くまで、発行会社が有価証券届出書等に虚偽の記載を行う可能性があることも念頭に置いた上で、契約に基づく信頼関係と矛盾しない限度で、そのような可能性を払拭するに足りる程度の厳正な審査を行う必要があるというべきである」として、被告みずほ証券の主張を一蹴した。 3 主幹事証券会社とそれ以外の元引受証券会社との間の注意義務の相違 本判決では、主幹事証券である被告みずほ証券の損害賠償責任を認めたものの、それ以外の引受証券会社の責任を認めなかった。この点について、裁判所は、以下のように注意義務の相違を説示している。 * * * 連載最終回となる次回は、本連載で取り上げてきた判決をもとに、「コーポレート・ガバナンスと社外取締役・社外監査役」と題して、検討を深めていく予定である。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q4】 企業が合併して余剰人員が生じた場合、有期雇用のパート社員を解雇できるか 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 有期雇用のパート社員を解雇(契約期間の途中で労働契約を解除)する場合は、「やむを得ない事由」がある場合でなければならず、合併自体を理由に解雇することはできない。 合併により余剰人員が生じ人員削減の必要がある場合は、整理解雇の要件に照らして解雇可能か検討が必要となる。 有期雇用者の解雇 有期雇用者の解雇については労働契約法第17条に定めがあり、 とされている。したがって、有期雇用者を解雇する場合は「やむを得ない事由」がある場合でなければならない。 また、通達(平成24年8月10日基発第0810第2号)では、 とされており、契約期間の定めがないいわゆる“正社員”を解雇するよりも、有期雇用者を解雇する方が難しいと解されている。 合併の場合の労働契約 合併の場合は、存続会社又は新設会社に消滅会社のすべての権利義務が包括的に承継され、その承継される権利義務には当然に有期雇用のパート社員の労働契約も含まれる。したがって、合併後もパート社員の労働契約はそのまま存続会社等で継続されることになり、合併自体を理由に有期雇用のパート社員を解雇することは認められない。 しかし、合併に伴い事業所を統廃合する等して余剰人員が生じ、人員削減をせざるを得ない状況になることも想定される。この場合は、整理解雇の要件に照らして解雇可能か検討が必要となる。 整理解雇の要件 整理解雇とは、業績不振等の場合に使用者の経営上の必要性から人員削減のために行われる解雇をいうが、整理解雇については、過去の裁判例から、主に次の4つの点からその有効性が判断されると解されている。 上記4つの点から整理解雇の有効性が判断されるが、整理解雇は、社員本人に責めがある懲戒解雇の場合と異なり、使用者の経営上の都合により行われる解雇であるため、会社としてでき得る限りの策を講じても解雇を選択せざるを得ない場合にのみ実施すべきものといえる。 なお、合併時に人員削減を行う場合は、一般的には、合併後ではなく合併前の時期において、整理解雇に至る前に希望退職を募集すること等によって行われるケースが多い。 (了)