平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 「中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限、災害特例措置」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [8] 震災・災害に関する税制措置の整備 震災・災害に関する税制措置の常設化として、単体納税と同様に、次の制度が創設された。 1 被災代替資産等の特別償却制度(新措法68の18) 連結法人が、特定非常災害発生日の翌日以後5年を経過する日までの間に、被災代替資産等を取得等し、被災区域内等において事業の用に供した場合に、一定の割合の特別償却を認める制度。 この改正は、平成29年4月1日以後開始する連結事業年度から適用される(平成29年所法等改正法附則1、61)。 2 災害損失欠損金額に係る連結欠損金の繰戻還付制度(新法法81の31⑤) 連結法人で災害が発生した場合に、災害が発生した日 (発災日)から1年を経過する日までの間に終了する各連結事業年度、あるいは、発災日から6月を経過する日までの間に終了する中間期間において生じた災害損失欠損金額 (連結欠損金額のうち、各連結法人の災害により棚卸資産・固定資産等について生じた損失の額の合計額に達するまでの金額) がある場合に適用される連結欠損金の繰戻還付制度。 なお、ある連結法人で災害により棚卸資産・固定資産等について損失が発生し、その連結法人で個別欠損金額が生じた場合でも、連結欠損金額が生じない場合は、この制度は適用できない。 この改正は、平成29年4月1日から施行されており、同日から請求が可能となる(平成29年所法等改正法附則1)。 ただし、平成29年4月1日前1年以内に終了した連結事業年度に係る連結確定申告書を同日前に提出した場合において、その連結事業年度において生じた災害損失欠損金額について、平成29年4月30日までに還付請求を行った場合、特例として、この制度の適用を受けることができる(平成29年所法等改正法附則1、26)。 [9] 中小企業者向け租税特別措置の適用法人の制限 1 現行の連結納税の中小企業者向け租税特別措置の適用法人 連結納税では、連結親法人又は連結子法人が中小連結法人に該当する場合(注1)に、例えば、以下のような中小企業者向け租税特別措置の適用を受けることができる。 (注1) ※1については、連結親法人が中小連結法人に該当する場合に優遇措置を適用することが可能となり、※2については、各連結法人ごとに、中小連結法人に該当する場合に優遇措置を適用することが可能となる。 また、住民税についても、例えば、以下の租税特別措置について、連結親法人又は連結子法人が中小連結法人に該当する場合(注2)、各連結事業年度の個別帰属法人税額の計算上、法人税における税額控除額の個別帰属額を個別帰属法人税額から控除することができる(新地方税法附則8③④⑥⑧⑩⑫⑭、新地法23①四の三、292①四の三)。 (注2) ※3については、中小連結親法人又は当該中小連結親法人との間に連結完全支配関係がある連結子法人について、住民税において優遇措置を適用することが可能となる。※4については、そもそも適用対象者が中小連結法人に該当する場合に法人税において税額控除が適用できるため、法人税において税額控除が生じた場合は、そのまま住民税においても優遇措置を適用することが可能となる。 ここで、中小連結法人及び中小連結親法人の定義は、【第3回】「3 研究開発税制の見直し」の(2)を参照。 2 改正後の連結納税の中小企業者向け租税特別措置の適用法人 中小企業者向けの租税特別措置について、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、連結親法人又は連結子法人が適用除外事業者に該当する場合、その適用を停止する措置を講ずることとなった。 例えば、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度から、連結親法人が適用除外事業者に該当する場合、中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(総額型の上乗せ措置)が適用できないこととなる(新措法68の9③⑧五の二、平成29年所法等改正法附則75③)。 また、現行、適用期限が平成30年3月31日又は平成31年3月31日までとなっている中小企業者向けの租税特別措置(所得拡大促進税制、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業活性化税制等)についても、今後、適用期限が延長された場合は、研究開発税制と同様に、適用除外事業者の適用停止について規定されることが予想される。 なお、制限の対象になるのは中小企業者向け租税特別措置であり、中小法人等に対する優遇措置(軽減税率15%、連結欠損金の100%控除、連結欠損金の繰戻還付、交際費の定額控除限度額などの優遇措置)について、その取扱いに変更はない。 3 適用除外事業者とは 適用除外事業者とは、平均連結所得金額(前3連結事業年度の連結所得金額の平均)が15億円を超える連結親法人及びその連結子法人をいう(新措法68の9⑧五の二)。 平均連結所得金額とは、当連結事業年度開始の日前3年以内に終了した各連結事業年度(基準年度)の連結所得の金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額をいう(新措法68の9⑧五の二)。 この場合、連結所得の金額は、法人税申告書別表1の2(1)の[1]欄に記載する連結所得金額となる。つまり、連結欠損金を繰越控除した後の連結所得の金額となる。 また、次に掲げる事由がある場合、平均連結所得金額は次のとおりとなる(新措法68の9⑧五の二、新措令39の39⑫~⑯)。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第6回】 「「相続空き家の特例」を受けられない家屋④ (賃借人や同居人がいた場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年3月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に3,700万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、1階で父親が1人で暮らし、その2階には父親の知人が暮らしていました。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 相続の開始の直前において、取り壊した被相続人のその居住用家屋に、被相続人以外に居住していた者がいたことから、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 被相続人居住用家屋が、「相続空き家の特例」の対象家屋に該当するためには、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」、すなわち、その相続の開始の直前において、その家屋に被相続人が1人で居住していたことが要件の1つとして規定されています(措法35④三)。 そして、この要件が規定するところの「被相続人以外に居住をしていた者」とは、相続の開始の直前において、被相続人の居住の用に供していた家屋を生活の拠点として利用していた者のことをいい、その被相続人の親族のほか、賃貸等によりその被相続人の居住の用に供されていた家屋の一部に居住していた者も含まれるとされています(措通35-12(「被相続人以外に居住をしていた者の範囲」))。 したがって、本事例のように、被相続人の知人などが被相続人の居住用家屋の一部を借り受けるなどして被相続人とは独立して居住していて、被相続人とは同居していないとしても、被相続人の居住の用に供されていた家屋の一部を生活の拠点としている者も含まれることから、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者」がいた場合には、「相続空き家の特例」を受けることができないこととなります。 (了)
税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第10回】 「農地の固定資産税」 税理士 島田 晃一 今回は農地の固定資産税の計算について解説を行う。固定資産税は、納税者が申告するのではなく市町村から賦課される税金であるため、その計算方法について意外と理解されていない部分がある。そのため、改めて基本的な計算方法について確認をしておきたい。 1 一般農地の固定資産税の計算 固定資産税額は「課税標準額×税率(1.4%)」により計算される。課税標準額は固定資産税評価額を基準として計算する。固定資産税評価額は3年ごとに評価替えが行われており、次回は平成30年度になる。 固定資産税評価額の算定上、農地は「一般農地」と「市街化区域農地」に区分され、それぞれ評価額及び課税標準額の計算が異なる。一般農地は、その農地の売買価格や収益力を基準に評価額が決められているが、その評価額は宅地と比較して非常に低くなっている。 具体的には、各市町村内において田畑の別に状況類似地区を定め、その地区内の農地から標準田又は標準畑を選定する。当該地区内の農地の評価額は標準田又は標準畑の価額に比準して計算される。標準田又は標準畑の価額は「正常売買価格」といい、当該地区内の農地の売買実例等に基づいて定められるが、農地ごとの収益力の差を考慮し、正常売買価格に0.55の割合を乗じて評定されることになっている。 一般農地の課税方法は農地課税といい、当年の課税標準額を「前年度課税標準額×負担調整率」により計算する。 負担調整率の算定にあたっては、その年度の固定資産税評価額に対し、前年における課税標準額がどのくらいの割合にあるかを求める必要がある。これを「負担水準」という。 平成29年度の負担水準の計算式及び負担調整率表は次のとおりである。 〈平成29年度の負担水準〉 〈負担調整率表〉 例えば、平成28年度の課税標準が50万円、平成29年度の負担水準が85%の一般農地の場合、負担調整率は1.05になるので「50万円×1.05=52万5,000円」が平成29年度の課税標準額となる。なお、負担調整率を適用した金額が固定資産税評価額を超えた場合には、固定資産税評価額が課税標準額になる。 2 市街化区域農地の固定資産税の計算 市街化区域農地については、「三大都市圏の特定市の市街化区域農地」と、それ以外の市街化区域農地(「一般市街化区域農地」)に区分される。いずれも将来宅地に転用されることが見込まれるため、宅地並み評価といい宅地に準じた評価額となっている。 三大都市圏の特定市の市街化区域農地の税額計算は宅地並み課税といい、一般住宅用地と同じ計算方法を採っている。ただし、生産緑地指定を受けている農地については、評価額及び計算方法とも一般農地と同様になる。 計算方法は、まず一般農地と同様に負担水準を求める。平成29年度の負担水準の計算式は次のとおりである。 課税標準額の計算は、前述した農地課税と異なる。具体的には、負担水準が100%以上のときは、「固定資産税評価額×1/3」が課税標準額になり、負担水準が100%未満のときは、前年の課税標準額に「固定資産税評価額×1/3×5%」を追加した金額が課税標準額になる。 ただし、その金額が「固定資産税評価額×1/3」を上回る場合は「固定資産税評価額×1/3」が、「固定資産税評価額×1/3×20%」を下回るときは「固定資産税評価額×1/3×20%」が課税標準額になる。 一般市街化区域農地の計算方法は、宅地並み課税ではなく、農地課税になる。ただし、負担水準を求める際の計算は、三大都市圏の特定市の市街化区域農地と同様に、分母について固定資産税評価額に3分の1を乗じた金額になる。 ここまでの説明をまとめると、下図のようになる。 【参考図】 (※) 農林水産省ホームページより 3 都市計画税の概要 都市計画税は、都市整備の財源に充てるために、各市町村が市街化区域にある土地及び建物について課税するものである。税率は0.3%を限度として各市町村が設定する。 都市計画税の課税標準額の計算方法は、原則として固定資産税と同様である(三大都市圏の特定市の市街化区域農地は宅地並み課税、一般市街化区域農地は農地課税)。ただし、負担水準を計算する場合、分母の固定資産税評価額に乗じる割合は、三大都市圏の特定市の市街化区域農地、一般市街化区域農地ともに、3分の1ではなく3分の2になる。 なお、都市計画税は単独で納税するのではなく、固定資産税に合わせて納税する。 4 農地に係る固定資産税の特例 各市町村の農業委員会は、毎年1回、農地の現況を調査し、その農地が1年以上耕作が放棄されており、今後再び耕作される見込みのないと認められるような場合には、利用意向調査を行い、農地所有者に対して次のいずれかの選択を要請する。 (※) 農地中間管理機構(農地バンク)については【第7回】を参照。 仮に意向調査から6ヶ月以内に回答がなかった場合、また、意向調査では自ら耕作すると回答しても実際には6ヶ月を経ても耕作を開始する様子がないような場合は、農業委員会から農地所有者に、農地中間管理機構が農地中間管理権を取得するよう同機構との協議を行うことが勧告される。 平成29年度からは、耕作がされていない遊休農地のうち農業委員会により前記の勧告を受けたものについては、固定資産税評価額を算定する際において正常売買価格に0.55の割合を乗じないこととされた。その結果、対象遊休農地の固定資産税評価額及び税額は改正前の約1.8倍になる。 一方、10a(1,000㎡)以上の農地を所有する者が、所有するすべての農地を農地中間管理機構に貸し付けたときは、賃借権等の設定期間が10年以上15年未満の場合は3年間、15年以上の場合は5年間、当該農地の固定資産税が2分の1に軽減される。 * * * 以上、農地の固定資産税の基本計算について解説してきた。これから、農地をどのように活用していくかについてクライアントにアドバイスする場合、固定資産税の知識は不可欠であると思われる。そのため、これを機会に十分に理解を深めてほしい。 (了)
法務・会計・税務からみた循環取引と実務対応 【第4回】 「税務からみた循環取引」 弁護士・公認不正検査士 下尾 裕 1 循環取引が発覚した場合の税務処理 企業において、循環取引が発覚した場合の税務処理については、前回解説した過年度の決算修正(会計上の遡及修正方式)を前提とするか否かにより、以下の2通りの対応が考えられる。 また、いずれの対応においても、企業が循環取引に起因して不法行為に基づく損害賠償請求権等を有している場合には、これ自体が別途所得を増やす方向に作用することから、当該益金(収益)がどの事業年度において認識されうるかという問題が生じる可能性がある。 以下においては、これらの事項についてそれぞれポイントを整理する。 2 過年度の決算修正を前提とした法人税及び消費税に係る更正の請求 (1) 法人税の取扱い 法人税法第22条第4項は、法人税法の益金及び損金の額について「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(税務上の公正処理基準)に従うものとされているところ、近年の裁判例においては、企業会計上の慣行等が税務上の公正処理基準に該当するかどうかについては、法人税法の独自の観点から判断されるとの考え方が有力である(東京高判平成28年3月23日等)。 これを循環取引のケースにおいて検討するに、【第3回】で述べたとおり、過年度にわたる循環取引に関する会計処理を修正する場合には、現行の会計実務では、過去の誤謬を各事業年度において修正再表示する方法(遡及修正方式)を原則とするとともに、会計上の重要性がないケースにおいては、発覚した事業年度における一括処理方式が容認されている。 これに対し、法人税法においては、継続企業の原則に基づき、当期において生じた収益と当期において生じた費用・損失とを対応させ、その差額概念として所得を測定するという考え方を採用していること(法人税基本通達2-2-16等参照)等に鑑みれば、上記会計処理のいずれを採るかにかかわらず、過大になった各所得(利益)については、これらを計上していた各事業年度において減額更正等がなされるべき(言い換えれば遡及修正方式に準じて各事業年度の所得を再計算すべき)との考え方になるものと考えられる。 よって、複数の事業年度にわたり循環取引が発覚した場合の企業の対応としては、会計処理の修正方法如何にかかわらず、遡及修正方式に沿った考え方に応じて各事業年度の所得を再計算の上、更正の請求により、原則として法定申告期限から5年以内(国税通則法第23条第1項第1号)の事業年度に納付した法人税の還付を請求するという対応を採るべきということになる。 ただし、循環取引事案に基づく会計処理は「仮装経理」と評価される場合が大半であると考えられる。かかる仮装経理に基づく更正の請求については、法人税法の特例により、過誤納金についてもそのまま還付はなされず、具体的には、更正の日の属する事業年度開始前1年以内に開始される事業年度の確定法人税額から還付した後は、上記更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の法人税から順次控除されることになることから、注意が必要である(法人税法第135条第1項・第3項。仮装経理があった場合の修正処理の具体的な方法については、国税庁「法人が「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を適用した場合の税務処理について(情報)」問8参照)。 なお、これに関連して、平成25年9月30日 熊裁(法)平25第3号(TAINSコード:F0-2-575)は、非公開裁決であるが、循環取引に基づく取引が架空取引であると認定した上で、当事者間には法人税法第22条第2項「無償の(中略)取引」が存在するとして、当該取引に係る収益を益金(受贈益)として認識する判断を下している。 当該裁決は、開示された裁決文を読む限り、既発生の債権回収のため債務者に資金を提供する手段として循環取引が行われたという事案(前提となる債権の実在性が認定でき、かつ、循環取引の当事者において上記債務者に対し、上記債権回収原資を確定的に保持させる意思を認定しうる事案)であった模様であり、かつ上記税務上の公正処理基準との関係等にも言及されていないことから、循環取引一般に妥当する判断とはならない可能性が高いものと思われる。 【裁決内容から予想される取引の流れ】 (2) 消費税の取扱い 消費税法の取扱いについては、法人税法とは異なり、税務上の公正処理基準に関する定めがない。このことを前提とすれば、循環取引に係る会計処理について決算修正を行ったとしても、理論上は当然に、消費税法第4条第1項に定める「資産の譲渡等」(課税取引)が認められなくなるわけではなく、あくまで私法上の評価に基づいて課税取引の有無が判断されるはずであるが、実務的には法人税における処理と整合する処理を行うケースが多いのではないかと思われる。 また、消費税については、法人税と異なり、上記のような「仮装経理」に関する特例が存在しないことから、理論上は、会計上の決算再表示を前提に更正の請求を行うことにより消費税の現実の還付を受けうるとの整理が可能である。 よって、複数の事業年度にわたり循環取引が発覚した場合の企業の対応としては、理論的には、各事業年度毎の消費税の金額を再計算の上、更正の請求により、原則として法定申告期限から5年以内(国税通則法第23条第1項第1号)の事業年度に関する消費税の還付請求を検討すべきということになる。 ただし、一般に課税庁は消費税の還付に係る請求の判断に極めて慎重であり、特に循環取引については、発覚後の社内調査又は第三者委員会による調査によっても、概括的な調査を超えて、実際に実行された個々の取引がそれぞれ循環取引であるかを全て検証できるわけではない場合が多々あることから、認定資料の不足等を理由に更正の請求が認められない場合があることを念頭に置いておく必要があろう。 3 過年度の決算修正を前提としない貸倒処理等 前項で述べたとおり、循環取引が発覚した場合には、各事業年度毎に税額を再計算する税務処理を行うのが本来であるが、従前の会計処理の状況、循環取引の態様及び社内調査等の実施状況如何によっては、上記原則的処理が困難である場合が想定される(特に循環取引の当事者が厳密な企業会計原則等に基づいた処理を行っていない中小企業等の場合には、このようなケースが想定される)。 このような場合には、循環取引に基づく過年度の売上等はそのままに税務処理を行わざるをえず、通常の税務処理と同様、法人税については、回収不能となった循環取引に基づく債権について貸倒引当金の損金算入又は貸倒処理を、消費税であれば、貸倒処理を前提とした仕入税額控除の処理を行うことになる。 4 循環取引に関連する首謀者又は自社役員等に対する損害賠償請求権の計上 企業においては、循環取引発覚後に、その首謀者又は自社において循環取引に関与した役員・従業員に対し、企業が被った損害(≒循環取引による未回収額)の賠償請求を行う場合が想定される。この場合、企業は、法人税法上、当該損害賠償請求を益金として認識する必要がある。 よって、このような場合には、循環取引に基づく不適切な会計処理の修正により本来減るはずの所得が上記損害賠償請求権を認識することで再度増加してしまうことになる。 この問題を検討するにあたっては、いつの時点で(どの事業年度において)当該損害賠償請求権を認識すべきかが重要になる。この点に関しては大きく下記の2説が存在する。 実務的には、同時両建説を原則として、例外的に「通常人を基準にして、権利の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあった」場合(東京高裁平成21年2月18日判決)は異時両建を認めるという考え方が有力である。 循環取引の当事者たる企業においては、未回収となっている債権の発生原因たる個別の循環取引の実行時に損害が発生していると評価されるケースが大半であると思われる。このため、上記更正の請求等にあたっては、同時両建説を前提に損害賠償請求権の認識による損益への影響を検討するとともに、異時両建説による処理が可能かどうかを併せて検討する必要がある。 * * * 次回より、循環取引が発覚した際の企業における実務対応について、初動対応とそれ以後にフェーズを分けて解説を行うこととする。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第61回】 富士フイルムホールディングス株式会社 「第三者委員会調査報告書(平成29年6月10日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【富士フイルムホールディングス株式会社の概要】 富士フイルムホールディングス株式会社(以下「FH」と略称する)は、1934(昭和9)年設立。2016年10月1日付で、富士写真フイルム株式会社から商号変更して、持株会社へ移行。傘下に「イメージングソリューション」「インフォメーションソリューション」事業の中核会社である富士フイルム株式会社(以下「FF」と略称する)、「ドキュメントソリューション」事業の中核会社である富士ゼロックス株式会社(以下「FX」と略称する)をはじめ、多数の連結子会社を有する。連結売上高23,222億円、営業利益1,723億円(数字は、いずれも2017年3月期)。 今般、不正な売上計上が発覚したのは、FXの子会社で、アジア・オセアニア地区を統括するFuji Xerox Asia Pacific Pte. Ltd.(シンガポール。以下「FXAP」と略称する)が管轄するニュージーランド現地法人(以下「FXNZ」と略称する)とオーストラリア現地法人(以下「FXA」と略称する)の2社であった(以下の組織を参照)。 【図:ニュージーランド・オーストラリア子会社の管理体制】 【第三者委員会調査報告書の概要】 1 調査に至る経緯 2 調査結果の概要 (1) 現地法人の形態 上記の組織体制に見られるように、不正が発覚したニュージーランドとオーストラリアでは、販売会社とリース会社という2つの法人で構成されている。その役割をFXNZに関する調査報告書から抜粋する(p.34)。 (2) リース取引の定義 FXNZ及び調査の過程で発覚したFXAにおける会計不正の中心は、本来、オペレーティングリースとして会計処理しなければならないリース契約について、キャピタルリースの一分類である販売タイプリースとしての会計処理を行った結果、本来計上すべきではない売上を計上する方法により、不正を行ったものである。 調査報告書(p.42)から、リース取引の分類についての解説を引用する(下線は筆者による)。 第三者委員会は、本定義に基づき、FXNZが採用していた契約類型では、上記aからdに掲げる基準を満たさない、または満たさない可能性がある、と判断した。 (3) リース取引における会計処理 本来、オペレーティングリースに該当するリース取引を販売タイプリースに仮装することの最大のメリットは、リース取引開始時に、リース契約相当額の売上が計上できることにある。一方、オペレーティングリース取引であると認定されてしまうと、売上はリース料受取の都度、認識することとなる。 〇販売タイプリースの貸手における会計処理(報告書p.43) 〇オペレーティングリースの貸手における会計処理(報告書p.44) (4) 問題点 FXNZにおけるリース取引に関する不正な売上計上に係る問題点は、大きく4つに分類される。 ① ターゲットボリューム FXNZにおけるリース取引に係る売上総額はターゲットボリューム(目標コピー枚数量)に基づき算定されていたが、顧客に対しては、実際使用数量により請求していた。契約には、ミニマムペイメント条項(実際の使用数量にかかわらず、ターゲットボリュームに基づく最低限の固定額の支払いを保証する条項)もなかったため、契約締結時に算定した売上と実際の請求との間に乖離が生じていた。 ② DSG調整 上記①のとおり、顧客の実際使用量がターゲットボリュームを下回った場合には、その分だけ、MARCOのサービス収入が減少することになる。その収入不足に対応してFXNZでは、DSG(Document Services Group)調整と称する、MARCOのサービス収入及びFINCOにおけるリース債権の追加計上を行っていた。 FXNZの経営会議では、システム上でプログラムにより自動計算されたDSG調整額の検討が行われていた。第三者委員会は、DSG調整により、FXNZ経営陣は、APOからの売上目標達成のプレッシャーを回避しつつ、売上目標達成による賞与等の経済的な利益を受けていたと判断している。 ③ 残存価額 キャピタルリースでは、機器の所有権がリース契約期間満了後に顧客に移転することが多く、残存価額はほとんどないことが一般的であるにもかかわらず、MARCOでは、残存価額を高く設定することにより、リース料を低く抑えていた。その結果、リース債権の回収可能性に問題が生じることとなっていたが、2015年4月下旬から6月中旬ころに、FXNZ経営陣は、大きな残存価額が社内規程違反と認定されるのを防ぐ目的で、他の顧客契約への残存価額の付け替えを行っていた。 ④ 契約ロールオーバー(書換え) FXNZでは、リース契約を再締結する方法(ロールオーバー)により、同一のリース資産で複数回機器売上を計上する不正も行われていた。こうしたロールオーバーにより、上記①から③までの不正行為による問題点は先送りされ、回収見込みの低いリース債権だけが膨れ上がっていった。 (5) 拡大する不正 FXNZでは、上記以外にも、契約未締結又は機器未設置での収益計上が行われていたり、マクロ調整と称する財務業績を向上させるための、売上の二重計上や架空計上、費用を繰り延べたりするなどの不正な会計処理が行われていた。 一方、FXAにおいても、財務諸表に対するリスク項目を「Risk & Opportunity」と呼ばれるスプレッドシートを用いて管理しており、当期の発生費用を翌期に繰り延べ、または翌期の売上を見越し計上するなどの不正が発見されている。 (6) 財務書類への影響額 3 再発防止策 第三者委員会は、調査報告書の最後に、再発防止策を次のように提言している。 (1) FX(富士ゼロックス)に対する提言 オセアニアにおける子会社管理の難しさについては、地域的な距離とコミュニケーションの問題が、報告書中でも何度となく指摘されている。また、機器販売会社とリース会社を同一の組織であるかのように運用する事業体制が、今般の不正を長く隠蔽する原因の1つであったことも事実である。 第三者委員会の再発防止策は、「子会社管理の体制・方法の見直し」や「何らかの対策を講じること」を求めているのだが、残念ながら、提言内容はいまひとつ具体性に欠けるものとなってしまっている。 (2) FH(富士フイルムHD)に対する提言 一方、FHに対する提言の冒頭には、次の記述がある。 第三者委員会はそこまで踏み込んだ表現はしていないが、今般の不正が長く隠蔽されてきた原因は、この言葉に尽きるかもしれない。 そう指摘したうえで、第三者委員会は、FHに対する再発防止策の提言として、グループ内の一体感の醸成を求め、次のように報告書を締め括っている。 【調査報告書の特徴】 2016年9月8日、ニュージーランドのメジャーな経済新聞であるNational Business Review(以下「NBR紙」と略称する)をはじめとする新聞各紙は、FXNZが決算で巨額損失を計上した事実を報じた。また、巨額損失の原因として、NBR紙は、9月16日において、FXNZにおいて売上の不正計上があったという記事を掲載した。 日本有数の企業グループである富士フイルムホールディングスの海外子会社における会計不正は、この現地報道を契機に表沙汰になっていく。 報道を受けて、FXNZは、Companies Office(企業登記・財務情報等を管理する政府機関)及びSerious Fraud Office(SFO、ニュージーランド警察省の一機関である重大不正捜査局)から問い合わせを受ける。同時に、会計監査人からも問い合わせを受けるが、いずれも、シナリオに基づいた回答を行い、不正の隠蔽を図り続けた。 こうした状況の中、2016年3月期まで会計監査を担当した新日本監査法人に代わって、同社の会計監査人となったあずさ監査法人は、この問題の調査を要求し、社内調査を経て、第三者委員会の設置に至る。最初に、APOによる内部監査で不正の兆候が発見されてから実に9年目に、ようやく不正会計が白日の下にさらされた格好である。 1 詳細な事実認定 186ページに及ぶ調査報告書は、多くの調査担当者が、実に念入りに不正の事実に迫っていることを示す記述に溢れている。関係者のうち、誰が不正であることを承知していたか、いつから不正が行われていたかを暴いていく様子は、相当の説得力を有している。 また、調査の過程で、ウィッタカー氏が移籍したFXAでも同様の不正が行われていた事実を把握し、追加で調査を行っていることも、第三者委員会をはじめ、今般の調査に携わった多くの関係者の努力の賜物であろう。 ただ、あえて、調査報告書の記述に不足している、またはやや分かりづらい点を挙げるとすれば、次の3点が挙げられようか。すなわち、 という3点である。 (1) APOによる内部監査がFXNZの不正を止められなかった理由(報告書p.143) 2009年9月の監査において、APO内部監査部は、FXNZの売上計上の適正性について、「オペレーティングリース」とすべきであると指摘した。この指摘に基づき、是正が行われていれば、今般のような第三者委員会による調査という事態は防ぐことができたはずである。 第三者委員会は、不正を防止できなかった理由として、以下の4点を挙げている。 APO内部監査部門が機能不全に陥っていたことは間違いない。そこには、日本から来た上司と現地雇用社員との間の確執、アジアとオセアニアにおける企業風土の相違といった、日本企業が海外現地法人を統治するうえでの根源的な問題点があったのではないかと思料するが、そのあたりの記述に物足りなさを感じるとともに、問題点が曖昧になってしまっている印象を受ける。 (2) 不正の「動機」は何か 報告書では繰り返し、FXグループにおける「売上至上主義」という表現が使われている。また、不正を行うことによって、FXNZ経営陣は、APOからの売上目標達成のプレッシャーを回避しつつ、売上目標達成による賞与等の経済的な利益を受けていたという記述もある。しかし、売上至上主義、売上拡大に伴い享受できるインセンティブは、経営陣にとって、売上を拡大する動機とはなっても、不正な売上計上を行う動機にはつながらないのではないか。 同様に、不正のトライアングルは、不正実行者による「正当化」、不正を行ううえでの言い訳を必要とするという仮説であるが、そうした正当化につながる事情についてもコメントがなく、物足りなさを感じる。 (3) ウィッタカー氏へのインタビューはできたのか ウィッタカー氏の調査はAPO法務の立会いのもと、シンガポールの法律事務所に属する弁護士が行い、その調査結果は、「FXA・FXNZ問題の外部弁護士ヒアリング調査結果(2016年4月18日付)」としてまとめられ、「FX会長・山本氏及びFX社長・栗原氏への報告では、FXNZに関するリスクについて十分に伝えられず、2016年3月期決算が適正になされたことが強調された(報告書p.127)」との記述がある。ただし、第三者委員会が、今般の不正行為の首謀者と見られるFXNZ元社長で、その後FXA社長へと転じたネイル・ウィッタカー氏に対するインタビューを行ったのかどうか、報告書に記述はない。 前項でも、動機の解明が一部不十分なのではないかと指摘したが、インタビューを試みたが行えなかったのか、最初からインタビュー抜きで調査を進める方針であったのか、そして、それらの理由は何か、といった事情に関する第三者委員会のコメントがないことは、調査報告書の読後に、物足りなさを感じる一因であろう。 2 FX経営陣内部の対立と内部監査部門(報告書p.135) 2016年10月28日、FX社長・栗原氏とFX経営監査部との定例会では、栗原社長から、「APOやFX経理部の対応をみると、東芝に非常に似ている」、「当事者は隠す」、「1回目の時にちゃんと調べて対応しておけばよかったのに、その時は問題ないで済ましてしまい、結果として2回目が来て、このような事態になっている」、「監査は性悪説でやるべきである」などの発言が出たということである。 一方、11月8日におけるFX副社長・吉田氏と経営監査部の定例会では、「(会計上は)不正は行っていない」、「会計処理は監査法人が認めている」、「不正はしていないんだから、強いポジションを取りたい。最後は風評被害でNBR紙を訴える覚悟だってある」などの発言があったとのことで、社長と副社長との間の温度差が大きく、その間で板挟みになって苦慮している経営監査部と経理部の様子が描かれている。 経営トップが一堂に会して議論をするのではなく、経営監査部が個別に報告を行い、指示を受けるというのは、取締役会や経営会議が議論の場にならない日本的経営の特徴といえるものかもしれないが、その結果、FX経営監査部は、FH監査部に対し、吉田副社長の指示により、FHからの質問状には回答できないと伝えることになる。本来、経営監査部は社長直轄であり、こうした経営監査部の判断がなぜ行われたのかまで報告書には記述はない。 3 取締役の退任・異動 第三者委員会調査報告書と同時に公表された「人事上の措置」では、FXの取締役のうち、会長、副社長及び専務並びに常務執行役員が退任して、新たにFH会長CEOである古森重隆氏が、FX会長に就任することとなった。 取締役・監査役体制の大幅な変更が、第三者委員会が指摘した「FHとFXとの間の一体感の希薄さ」を解消することにつながるのかどうかは不明だが、これまでのように、FHがFXのガバナンスに口を出せないような体制が変更されたことは事実であろう。 (了)
税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第15回】 「実務の現場における判断能力の判定方法(その1)」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 [設問14] 私は30年近く税理士をしておりますが、ここ数年、認知症高齢者の判断能力が関わってくる相談が増えたことを実感しています。 これまでの連載で、判断能力とはどのようなものであるのか、その有無を判定するにはどのようなものが証拠になるのか等についての一般的知識はよくわかりました。 その一方で、普段の税理士業務の現場において「いま目の前にいるこの人が、法律上の判断能力を有しているのか」が問題となった場合に、具体的にどのような方法を用いて判断すればよいのか、いまいちイメージがつかめません。 医学的な専門知識がない私でも判定できるような実践的方法はありますか。 1 実務家士業は「法律上の判断能力の有無」が判断できればよい 「認知症」というものの基礎的知識を税理士が常に念頭に置かなければならない理由は、本連載で説明してきたように、仮に本人が認知症であった場合、本人に判断能力≒意思能力があるのか疑わしい事態が生じるからである。 すなわち、士業にとっては、認知症の医学的診断を下すことが目的ではなく、あくまで法律上の「判断能力」≒「意思能力」の有無を判定することを目的として、認知症に関する様々な知識を蓄えていく必要がある。 したがって、このような目的が達せられれば十分であり、この判定のために医師の専門的意見が必要と考えれば、必要に応じて医師の助けを得れば足りるのである。 2 「判断能力」を確認するための具体的方法-3ステップ方式 では、医学的な専門知識を持ち合わせない士業としては、実務の現場において、どのような手順で判断能力の確認を行えばよいか。 このための実践的な手順として、以下では、3ステップ方式を紹介したい(筆者がこれまでに知り得た公証人や司法書士、弁護士等が実施している確認方法をベースとしている)。 なお、3ステップ方式を適用するための準備過程として、予め「3ステップ方式を用いて判断能力を慎重に確認する必要が高いケース」をピックアップするための基準を大まかに持っておく必要がある。 そのための一番わかりやすい基準は、意思確認を行う対象者の年齢である。 この点、司法書士が指摘するところによれば、本人の年齢が70歳代であるときは、判断能力確認の必要性につきやや留意が必要と考え、80歳代以上であるときは十分な配慮をもって意思確認に臨むべきと頭に置いておくと良いということである(千野隆二司法書士「高齢者と不動産取引における意思確認」月報司法書士472号19頁)。 そのため、本人の意思確認や判断能力の判定を行う必要が生じた場合、まず初めに意思確認の対象となる本人の年齢を確認し、70歳以上であれば、これから述べる3ステップ方式により、慎重な判断をする必要があることを銘記しておくべきである。 同様に、本人が認知症等で判断能力に疑義があるといった情報を事前に知ったような場合でも、早期に判断能力の確認作業に着手するべきである。 それでは、具体的な内容について説明していこう。 ▷第1ステップ:予備面談を行う 第1ステップとして、本人の年齢が70歳以上であるとき、若しくは本人の判断能力に不安を感じるような事情が存在すると知った場合には、まず早期に本人に面談し、心身の状況を観察する機会を設ける必要がある。 これを「予備面談」と呼ぶことにする。 予備面談の際には、①こちらから本人に対して積極的に雑談や質問を振っていき、本人が話の内容を理解できているか、質問に合った内容の回答ができているか、物事の記憶力はどうか(数分間しか経っていないのに、同じことを質問していないか等)などについて、雑談をしながらよく観察していく。 雑談の中で質問していく内容としては、長谷川式テスト(解説編【第4回】参照)に出てくる質問の中から簡単なものをいくつか選び、聞くのがよいだろう。 その他、②面談の際には、本人が部屋に入って来た時の歩き方、発話の確かさ、会話が成り立つか、服装の乱れの有無等の心身の状態を総合的に観察しておく。 本人を観察する際には、下記の資料も参考になる。 【認知症を疑う10の症状(アメリカ・アルツハイマー病協会/2000年)】 (出典) 三宅貴夫著『認知症なんでも相談室』(日本医療企画、2009年) 以上のような予備面談を実施した結果に基づき、次の(イ)(ロ)(ハ)に分けて考える。 (次回に続く)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第9回】 「政府系金融機関における危機対応融資に係る 顧客資料の改ざんと不正隠ぺい」 弁護士 原 正雄 政府系金融機関であるS中金では、①社内の稟議書に添付する試算表の改ざん(本件改ざん行為)と、②社内調査での隠ぺい(本件隠ぺい行為)が発覚し、2017年5月9日、経済産業省、財務省、金融庁、農林水産省より、業務改善命令を受けた。 本件は、半官半民の企業が陥りやすい問題を内包しており、また、ノルマによる従業員へのプレッシャーが原因の1つにもなっている点、不正を認めたくない組織体質など、参考となる要素は多いと思われる。 また本件は、企業が何のために存在するのか、世の中が企業に対して何を求めているのかを問う貴重な事例でもある。 以下では、S中金が2017年4月25日に公表した第三者委員会の調査報告書(以下「第三者委員会報告書」という)を元に検証を行う。 1 本件改ざん行為(第一の不正) まず、「第一の不正」として、稟議書に添付する試算表の改ざん(本件改ざん行為)について検討する。この不正は、S中金が行っている「危機対応融資」に関連して発生したものである。 (1) 不正の内容 S中金は、大不況や天災などで危機に陥った中小企業に資金を供給し支援を行うという、公的な融資制度を担っている。この貸付を「危機対応融資」という。 危機対応融資は、大きくまとめれば、①国が認定した「危機」において、②その被害を受けた中小企業が、③減収減益となった場合に、実施される。そのため、例えば増収増益の企業は、危機対応融資を受けることはできない。 ところが、S中金では、営業担当者が貸出先の「試算表」の数値を改ざんし、あたかも減収減益であるかのように装った。そのうえで、その試算表を稟議書に添付し、危機対応融資の社内決裁を受けていた。 第三者委員会報告書によれば、不正行為は816件で、行為者99名、支店数35に及ぶ。単純計算で全職員の2%、全支店の35%に相当する(2016年9月30日当時、職員4,074名、支店数100)。また、他にも多くの者が、不正の存在を認識していた。ある支店では、不正の存在は営業担当者の間で周知であったとされている。 (2) 不正のトライアングル 一般に、不正の原因は、以下のとおり、①動機、②正当化、③機会という3つの観点(不正のトライアングル)に分けて分析することができる。 上記の3つがそろうと、不正が行われるリスクが高まると言われる。 本件改ざん行為においても、不正のトライアングルが認められることから、以下では、不正のトライアングルに基づいて、不正原因と再発防止策について検討する。 (3) 動機(不正のトライアングル①) S中金では「危機対応融資の残高を積み重ねなければならない」という強いプレッシャーがあった。これは、行為者が不正を実行したいと考える主観的事情であり、動機に該当する。 ① 組織の存在意義 S中金は、「S中金法」という特別の法律に基づき、1936年、政府が中小企業の組合とともに共同出資して設立した政府系金融機関である。ところが、近年、S中金は、「民営化」の圧力にさらされていた。S中金は、2008年10月、株式会社化されており、2015年には、政府が株式を手放すとの方針が確実になりつつあった。 危機対応融資は、一般の民間金融機関が行い得ない公共性の高い事業であり、これが、S中金が政府系金融機関であるとの「存在意義」を裏づけている。つまりS中金は、危機対応融資の実行が不十分だと、政府系金融機関であるとの「存在意義」を証明できず、完全に民営化されてしまうとの恐怖感を有していた。 したがって、S中金の役職員は、「何としても危機対応融資の貸付残高を増やさなければならない」と考えていた。これは、営業担当者に対して「不正を実行したい」と考える主観的事情(動機)を与えるものであった。 確かに、企業が「存在意義」を問われることの意味は重い。政府系金融機関であれば、存在意義は「法律に定められているから」と説明すれば足りたのが、民営化されれば、自ら積極的に存在意義を明らかにしなければならなくなる。存在意義を明らかにできなければ、社会からの退場を迫られることもある。 しかし、NTT、JR、JT、日本郵政など、過去、多くの公的な企業が民営化されてきた。そうした企業は、民営化による危機感をバネに、さらなる発展を実現してきた。民営化を過度に恐れるのは、本来、適切ではなかった。 企業の「存在意義」を従業員に説明するのは、経営トップの最も重要な役目である。S中金のトップは、役職員らに対して、民営化後のS中金の「存在意義」を明らかにし、民営化を前向きに受け止めるよう、伝えていかなければならなかった。しかし、S中金では、経営トップがこうした役目を果たせていなかった。 経営トップが企業の存在意義を明らかにすることは、コンプライアンスの大前提である。 ② 現場を無視したノルマ 危機対応融資は、経営危機において中小企業を救済するための融資である。危機の実情がなければ、どれだけ営業努力を重ねようと、融資の実行は無理なはずである。 ところが、危機対応融資は国から予算が出ることから、S中金の本部は、国の予算に基づいて危機対応融資の計画を立案していた。そして、その計画値を、各支店の担当エリアのマーケット規模に基づき、機械的に割り振っていた。 その結果、一部の支店では、危機の実情がないにもかかわらず、危機対応融資を積み上げないといけないという事態に陥った。このような状況も、営業担当者に対して、「不正を実行したい」と考える主観的事情(動機)を与えるものであった。 このように本件は、現場の実情を考慮しないノルマの危険性を明らかにしている。ノルマが常に悪いわけではないが、ノルマを立案するにあたっては、現場の実情を考慮しなければならない。さもないと、現場が不正に手を染めることを促進してしまう。 コンプライアンスを実現するためには、現場を理解することが不可欠である。 (4) 正当化(不正のトライアングル②) 第三者委員会報告書によると、S中金では次のように、不正について「実は正当な理由がある」との理屈づけを行い、正当化をしていたものと解する。 ① 「S中金を守る」という正当化 上述の通り、危機対応融資は、民営化の圧力にさらされるS中金にとって、自らの「存在意義」を示すものであった。営業担当者から見れば、試算表の改ざんという不正を行ったとしても、危機対応融資の残高を増やすことで、結局はS中金を守ることにつながる、という倒錯した認識を有していたものと考える(正当化)。 しかし、本件から分かるように、不正は、企業を守るどころか、企業の存続を危うくする。こうしたことは、多くの上場企業にとっては既に常識である。株主への説明責任を果たさなければ、市場からの退場を命じられるからである。 S中金は上場企業ではないが、上場企業が有するのと同様の緊張感を持つべきであった。この点についても、経営トップが率先すべき事柄であったと考える。 ② 「S中金の業績向上に資する」という正当化 危機対応融資は、国費による元本保証と、利子の補給がある。そのためS中金にとっては、貸し倒れリスクがなく、高い利息収入を得られる、とのメリットがある。 営業担当者としては、通常の融資より危機対応融資を用いる方が、S中金の業績向上に資する、と判断したものと考える(正当化)。 しかし、国費による有利な融資は、民間の金融機関では手を出せない「危機」時にのみ、許容されるべきである。危機対応融資が適用されない場面は、本来、民間の金融機関の役割である。民間の金融機関が行うべき融資の分野であるにもかかわらず、国費による有利な融資を行うことは、「民業圧迫」との批判を免れない。 万一、「民業圧迫」となれば、むしろ、S中金の「存在意義」の否定につながる。民間の金融機関の正当な業務を妨げるのであれば、そのような政府系金融機関は存在すべきではないからである。S中金の役職員は、こうしたことを正しく理解していなかった。これは、経営トップが、S中金の存在意義を正しく伝えていなかったことによるものである。 企業の存在意義を伝えることは、「やるべきこと」を明らかにするとともに、「してはならないこと」も明らかにする。ここでも経営トップが企業の存在意義を明らかにすることの重要性が分かる。 ③ 「みんなやっている」という正当化 S中金の一部の支店では、営業担当者間で、不正行為について「みんなやっている」として周知のものとされていた。実際、第三者委員会報告書によれば、約100名もの営業担当者が不正に手を染めていた。これは、営業担当者がルール違反との自覚を持ちにくくしてしまう状況である(正当化)。 第三者委員会報告書は、この点について「S中金の営業担当者のコンプライアンス意識が危機的な水準まで落ち込んでいる恐れを示す」としている。企業として、極めて危険な状況であった。 S中金は、常日頃から、役職員に対して、階層別に定期的な研修を行い、規範意識の確立に努めなければならなかった。また、ホットラインなどの内部通報制度を整備し、かつ周知徹底することや、社内コミュニケーションを活性化することで、「おかしい」と思った従業員が声をあげられるようにするなどの対策をすべきであった。 (5) 機会(不正のトライアングル③) ① 現場への権限の委譲 S中金では、危機対応融資の審査は、支店で行っていた。ただし、支店は、上述のとおり、本部からノルマを割り振られ、プレッシャーにさらされていた。そのため、支店での審査は、厳正なものではなかった。 支店での審査では、稟議書に添付された客観的資料を精査せず、稟議書の理由欄の「作文」がうまく書けているか、という点のみを確認していた。これは、不正を行う「機会」を作出するものである。 確かに、迅速な意思決定のため、現場に権限を委譲すべき場合はある。S中金でも、当初は本部が審査を行っていたが、2008年9月のリーマンショックや2011年3月の東日本大震災を経て、融資判断を迅速化するため、支店に権限を移管したという経緯がある。 しかし、現場に権限を委譲すると、自己審査になり、どうしても判断が甘くなる。その結果、従業員に対して、不正を容易に行える「機会」を与えてしまう。特にS中金では、過去、複数回にわたって「稟議書への添付書類の改ざん」という事態が発生していた。にもかかわらず、支店での不正を回避する制度設計がされていなかった。 本来、権限を委譲するからには、現場の恣意的な判断を回避するため、統一的な基準を確立する必要がある。そのうえで、不正を行うことのできない仕組みを作る必要がある。特に、過去に不正があった時点で、そのことを踏まえた仕組みに改善すべきであった。 また、現場に権限を委譲する以上、現場で権限が適正に行使されているか、定期的な内部監査も実施すべきであった。また、支店ごとに、営業から独立したコンプライアンスオフィサーや内部管理責任者を配置するという方法も検討すべきであった。 効率性の追求とコンプライアンスの実現は、一見すると矛盾するようにも思える。しかし、効率性の追求を理由に、コンプライアンスを無視することは許されない。 ② 記録の保管の重要性 S中金では、システム上、社内メールがわずか約2ヶ月で自動的に削除されてしまう、とのことであった。これでは役職員の行動を事後検証できない。このシステムが、役職員にとって不正を行う「機会」となる。記録の不備は、コンプライアンスの不備である。 不正が行われた場合、企業は、まずメール等の確認を行うのが通常である。メールを確認することで、不正を発見できる場合も多い。反対に、メールを確認されると不正が発見されてしまうという状況そのものが、従業員に対して、不正を行わないように、とのけん制効果を発揮する。 会社法も、企業の適正確保体制の構築の一環として、取締役の職務執行についてではあるが、情報の保存と管理に関する体制の確立を求めている(会社法施行規則100条1項1号)。 また、国会中継などを見ていると、「記録は既に破棄した」との答弁がなされることがある。記録がない以上、不正があったかどうか確認できない、との趣旨である。しかし、民間企業においては、書類の保管は、身の潔白を証明する手段である。「記録がない」ということは、「身の潔白を証明できない」ことを意味する。これは、書類を意味する「ドキュメント」という英単語が、動詞としては「文書で証明する」という意味を有しているとおりである。 したがって、メールや書類の作成、保存、管理の体制の構築は、コンプライアンス実現の観点から、極めて重要である。事後検証をすることで、不正をなくすることができ、さらに、正しく業務を行っている役職員の身の潔白を証明できる。その結果、不正の「機会」をなくせるのである。 (6) 本件改ざん行為についての結論 以上のとおり、本件改ざん行為は、①動機、②正当化、③機会の不正のトライアングルが成立している。たびたび述べたように、これらは、経営トップが「企業のあり方」を伝えてこなかったことに起因する。経営トップが姿勢を明らかにすることこそが、コンプライアンスの第一歩である。 2 本件隠ぺい行為(第二の不正) (1) 不正の内容 次に「第二の不正」として、社内調査での隠ぺい(本件隠ぺい行為)について検討する。 実は、本件改ざん行為は、2014年12月19日時点で、S中金のI支店での自店監査において、既に発見されていた。 同支店は、危機対応融資の稟議書に添付した試算表に不自然な点があることを発見した。営業担当者も試算表の自作を認めた。同支店は、すぐに本部に報告した。報告を受けた本部は、監査部に「特別調査」を実施させることとした。 ところが、特別調査に先立ち、コンプライアンス統括室が「顧客が試算表の作成を承諾していれば問題ない」等との見解を出した。そのうえで、監査部に「誘導質問ペーパー」を渡し、関係者のヒアリングの際、都合の良い回答に誘導するよう依頼した。監査部は、これに従い、関係者にヒアリングをした。 また、組織金融部は、貸付が危機対応融資の要件に合致していたかを調査した。その調査は、例えば、改ざんした試算表について顧客に「事実と大きく異なるものではないか」と抽象的に問い、顧客が「大きく異なるものではない」と回答すれば、「問題ない」とするものであった。 上記の結果、S中金は、「危機対応融資に問題はなかった」との結論に達した。社長や副社長らは、報告を受けて安堵し、それ以上の追及をしなかった。監査役も、それ以上の追及をしなかった。 (2) 不正の原因と、再発防止策 上述のとおり、危機対応融資は、S中金の存在意義に関わる。危機対応融資に間違いがあれば、危機対応融資の制度が廃止され、民営化が確定する恐れがある。そのため、S中金の役職員は、S中金を守るため、不祥事は許されず、不正を隠蔽しなければならない、との倒錯した認識を有したものと解する。 本件隠ぺい行為は、明確な指揮・命令に基づくものではないようである。しかし、その結果として、コンプライアンス統括室、監査部、組織金融部など、複数の部署が、明確な意思の連携はないまま、それぞれ有機的に連動し、本件隠ぺい行為を行っている。 これは、組織が縦割りである結果、他の部署の考えがおかしいと思っても、それを指摘せず、むしろ、他の部署の考えを前提に、自らの部署の考え方を決定したためである。 組織全体に「不祥事にしたくないよね」という雰囲気があり、忖度した結果、各部門が少しずつ、自己欺瞞を重ねて「見たくないものから目を反らす」という結論に至った。これは、縦割りの組織の弊害である。組織が縦割りであって、他の部署が口出しをしないということは、不正を容易に行える「機会」を作出する。 本件隠ぺい行為では、社長を始めとする役員らは、何らリーダーシップを発揮せず、調査が適正に進められているかを検証することもしなかった。また、全く問題がないとの調査結果を、疑義を示さず了承した。 しかし、不正の有無を調査するにあたっては、「現に不正がある」との結論が出た場合に許容する覚悟が必要である。経営トップが真実を受け入れる姿勢を示さなければ、調査を行う部署は、経営トップの意向を忖度し、真実にかかわらず「問題ない」との結論を導こうとする。 不正の調査に当たっては、経営トップが真実を明らかにして、その結論を受け入れるとの強い意志を示し、行動に表すことが不可欠である。本件では、経営トップがリーダーシップを発揮し、縦割りとなっている部署間に横串を刺し、真実を明らかにするよう指示し、検証しなければならなかった。 3 結語-社会から求められていることは何か? S中金が、危機対応融資を通じて、社会に果たすべき責務は重い。今回、不正を行った者たちは、その責務を取り違え、S中金を守ろうとするあまり、その責務を果たさず、かえってS中金の存在意義を否定しかねない事態を引き起こしてしまった。 コンプライアンスとは、社会の期待に応えることである。仮に、S中金の全ての役職員がS中金に期待されている責務を正しく理解できていれば、今回の事件は起きなかったといえよう。 大きな視点で見えば、本件は、全ての企業にとって、改めて「我が社は社会から何を期待されているのか」と自問するきっかけとなる事案である。企業は、この自問をし続けなければならない。 これを怠る企業は、永く存続することはできない。他方、この自問をし続ける企業は、社会から必要とされ、さらに発展できるはずである。 (了)
役員インセンティブ報酬の分析 【第6回】 「譲渡制限付株式②」 -平成29年度税制改正後- 弁護士・公認会計士 中野 竹司 1 譲渡制限付株式を用いた報酬形態の概要と平成29年度税制改正 役員のインセンティブ報酬のツールとして、株式報酬の活用が期待されたが、従来はあまり活用されていなかった。それは、会社法及び税法上の取扱いも含め、制度導入手続が不明確ないし使いにくい制度であったことが大きな阻害要因となっていた。 そこで、経済産業省は平成27年7月に「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書を公表、さらに平成28年6月には「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬「いわゆる「リストリクテッド・ストック」の導入等の手引き~」を公表するなど、特定譲渡制限付株式報酬の導入に関する実務的な環境整備がなされた。 また、本連載【第1回】で紹介したように、平成28年度税制改正により、特定譲渡制限付株式として法人税法上役員報酬のうち損金算入可能な事前確定届出給与に該当するものの要件が明確化され、利益連動給与の指標の拡充がなされた。これにより、株式報酬制度の導入は一定程度促進された。 もっとも、欧米で利用実績のある株式報酬について法人税法上は損金算入が認められない類型のものも多く、さらなる活用を後押しする必要もあり、平成29年度税制改正で役員報酬制度が一層整備されることとなった。 2 平成29年度税制改正の概観と譲渡制限付株式の取扱い (1) 平成29年度税制改正の概要(株式報酬部分) 税法上の役員報酬制度は、平成18年度税制改正で整備されて以来、制度そのものが大きく見直されることはなかった。すなわち、損金算入可能な役員報酬は、法人税法の定める、定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与の各要件を満たした制度でなければならないとされていた。一方、退職給与と新株予約権は、別に損金算入要件が認められていた。 平成29年度税制改正では、定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与という損金算入可能な役員報酬の3類型は維持しつつ、退職給与や新株予約権も役員報酬の中に含めて損金算入の可否を考えることとなった。 また株価や業績に連動する条件が付されたインセンティブ報酬については、今後は利益連動型給与の要件を満たさない場合で損金算入可能なケースはほとんどなくなると考えられ、インセンティブ報酬の制度設計に大きな影響を与えるものと考えられる。 また、平成29年度税制改正における役員給与の見直しにより、事前確定届出給与の対象範囲として、完全子会社以外の子会社役員や非居住者役員も対象範囲とする条件が定められる等、実務に大きな影響を与える改正もなされている。 なお、この税制改正によって、従来は役員報酬として損金算入は認められないであろうと考えられていた、権利確定時発行型のパフォーマンス・シェアやファントムストックに損金算入の可能性が出てきた一方で、新株予約権やエクイティを利用した退職金の損金算入の可否に影響が出てくると考えられることから、今後、本連載において適宜フォローする予定である。 (2) 譲渡制限付株式の取扱いについて 譲渡制限付株式を対価とする役員報酬の損金算入要件は、特定譲渡制限付株式として、平成28年度税制改正で整備された(【第1回】を参照)。 平成28年度税制改正を受けて設計された役員報酬制度では、特定譲渡制限付株式の要件を満たす株式報酬が多く設計されたが、制度導入初年度に役員等に株式が付与されるものの業績連動指標が解除条件に含まれる「パフォーマンス・シェア型譲渡制限付株式」も見受けられた。 平成29年度税制改正では、「利益連動給与」が「業績連動給与」に変更された。これに伴い、初年度発行型のパフォーマンス・シェアも、それ以外のパフォーマンス・シェアも、業績連動給与と定義され、業績連動給与の要件を満たす場合は損金算入できるが、満たさない場合は損金算入できないという整理になることから、平成28年度税制改正を受けて登場したパフォーマンス・シェア型譲渡制限付株式のうち、初年度発行型パフォーマンス・シェアの発行メリットは減殺されると考えられる。 なお、いずれの役員報酬においても、不相当に高額な部分は損金算入されないことや、事前届出と損金算入限度額の上限との関係にも注意が必要である。 3 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 特定譲渡制限付株式は、株式報酬の一形態であり、付与されても一定の期間、売却を制限されることから、企業価値の持続的な向上を図るインセンティブを与えるとともに、役員等と株主の価値共有を進めることができるというガバナンス面のメリットがあると考えられる。 特に、外部から有能な者を役員等に迎え、当該者に一定期間、企業で継続して勤務してもらうことへのインセンティブを与えることに向いている株式報酬の形態といえる。 平成29年度税制改正により、パフォーマンス・シェア型譲渡制限付株式の発行は実務上困難になるものの、上記のとおり業績連動給与(改正前:利益連動給与)の定義が改正され、業績連動報酬が使いやすくなったことから、むしろ株価上昇・業績達成に応じて付与されるパフォーマンス・シェア型の株式報酬がより導入しやすくなる改正がなされたといえよう。このため、インセンティブ付けという面から、ガバナンス面でのメリットはむしろ増加したと考えられる。 なお、特定譲渡制限付株式は、継続勤務条件未達といった理由で会社が無償取得する場合でも、無償取得されるまでは、役員等は議決権行使できる。そのため、特定譲渡制限付株式の役員等への付与により、不当な経営者支配の懸念を生じさせないかという観点も制度設計においては必要であるという点は、平成29年度税制改正後も検討すべき事項である。 4 企業の導入事例 平成29年4月以降、譲渡制限付株式報酬制度を導入した上場企業は相当な数に上り、100社に迫る勢いになっているとのことである(「週刊税務通信」(3460号・平成29年6月5日)参照)。これは既に述べたように、平成29年度税制改正による特定譲渡制限付株式の規程変更が影響した他、平成28年6月の定時株主総会には制度設計が間に合わなかった企業も譲渡制限付株式の導入に踏み切ったためと思われる。 そこで、平成29年4月以降の譲渡制限付株式を用いた報酬制度の導入事例について、導入企業の適時開示を基に検討したところ、譲渡制限解除理由に特徴がみられた。 それは、譲渡制限解除理由について、平成29年度税制改正を受けて、一定期間の継続勤務を条件としている企業が多かったというものである。 すなわち、譲渡制限付株式を初年度発行型パフォーマンス・シェアとして設計したのでは、法人税法上の役員給与損金算入要件(特定譲渡制限付株式としての要件)を満たさないため、譲渡制限付株式を用いた株式報酬については、譲渡制限解除理由として、一定期間の継続勤務を条件とする。一方で、業績連動部分については「業績連動給与」として役員給与の損金算入要件を満たすように、権利確定時発行型のパフォーマンス・シェアとして設計するという流れができていると考えられる。 なお、今後の連載で、平成29年4月以降に導入されたパフォーマンス・シェア型株式報酬の紹介も行う予定である(平成28年度の状況については【第5回】を参照)。 すなわち、平成29年4月以降に譲渡制限付株式を導入している企業においては、次のように、併せて業績連動型のインセンティブ報酬を導入している企業もあった。 (※) なお、譲渡制限期間は、2017年8月28日~2020年8月28日の3年間 (※) なお、譲渡制限期間は、平成29年8月18日~平成32年8月17日の3年間 もっとも、「業績連動給与」の損金算入要件を踏まえた業績連動型のインセンティブ報酬設計が、時間的な制約や事例不足といった理由により今年度の株主総会付議には間に合わないため、来年度以降の導入を検討する企業もあると考えられる。このため、来年度以降の導入事例は増えるのではないかと推察される。 また、次のように、平成28年度に譲渡制限付株式の導入を決定し、その際、譲渡制限解除理由に一定期間継続して勤務することの他、業績関連条件を入れていたが、平成29年4月以降に制度改正を行い、継続勤務条件のみとした事例も見られた。 これも平成29年度税制改正を受けた動きであったと考えられる。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、 「監査役監査と監査役スタッフの業務(最終報告書)」を公表 ~「監査業務支援ツール」も全面見直しへ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年7月27日付(ホームページ掲載日8月4日)で、公益社団法人 日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は「監査役監査と監査役スタッフの業務(最終報告書)」を公表した。 これは、平成28年7月28日付(ホームページ掲載日8月10日)で公表されていた「監査役監査と監査役スタッフの業務(中間報告書)」の最終報告書である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「最終報告書」は表紙などを含めて506ページに及ぶ大部のものとなっている。 監査役及び監査役スタッフの業務に関して、年間の時系列及び活動区分別に次の事項について記載している。また、会社の機関設計の違いによる対応などについても記載されている。 監査役及び監査役スタッフの業務について、年間の時系列及び活動区分別に、次の6つに分節し、記載している。 参考資料として、次のものが記載されている。 (了)
《速報解説》 東証、相談役・顧問等の開示に関する コーポレート・ガバナンス報告書の記載要領を改訂 ~「代表取締役社長等を退任した者の状況」が新設される~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成29年8月2日、株式会社東京証券取引所は「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」を公表した。 これは、経済産業省から公表された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」及び『未来投資戦略2017』 において、相談役、顧問等に関する開示の方針などが示されたことによるものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 改訂のポイント 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」のⅡ1の「(8)代表取締役社長等を退任した者の状況」として次の規定が設けられている。 例として次のことが示されている 「その他の事項」の欄の記載として、次のことなどについて記載することが考えられるとしている。 次のことに注意が必要である。 Ⅲ 適用時期等 平成30(2018)年1月1日以後、提出する報告書から、改訂後の様式及び記載要領を用いた記載が可能となる。 (了)