《速報解説》 確定申告の無料相談会場等で 税理士がマイナンバーを取り扱う場合の対応をまとめた 「国税庁による質疑応答集」が日税連HP上で公表 ~税務支援においても納税者との同意書取交しを要請 Profession Journal編集部 平成28年分の確定申告から、確定申告書には納税者のマイナンバー(個人番号)の記載が必要となる。 毎年確定申告時期には税理士会や税務署、納税協力団体などによる確定申告の無料相談会が全国各地で開催されるが、各会場で税理士会の税務支援事業として納税者の税務相談や申告書作成等に従事する税理士にとって、会場に訪れた納税者のマイナンバーを取り扱う際の対応が気になるところだ。 そこでこのたび日税連の会員専用ページにおいて、国税庁個人課税課が作成した「マイナンバー制度に関する質疑応答集~税務支援事業編~」が公表された。 この質疑応答集の冒頭では、「平成28 年分確定申告から確定申告書へのマイナンバー記載が開始することに伴い、実務的な対応の本格化に向けて局署における協議が行われることとなるため、平成28 年分の確定申告期の税務協力が円滑に実施されるよう、基本的な事項及び協議の中で団体から質問のあった事項等を質疑応答集として取りまとめた」と記載されている。 なお日税連ホームページによると、「税務支援」事業は、 に区分され、毎年、全国の税理士が約180万人の納税者の相談に応じており、ボランティアとなる税理士の延べ従事人数は約14万人に上るとのことだ。 質疑応答集は次の4章からなっており、全77問が掲載されている。 この質疑応答集だが、解説内容の多くで言及されているのが、来場した納税者と業務に従事する税理士が「特定個人情報の取扱いに関する同意書」を取り交わす必要があるかどうか、というもの。 例えば第2章【税務支援(独自事業・受託事業)編】のQ7では、 という質問に対し、同意書の要否は特定個人情報(マイナンバーを内容に含む個人情報)を取り扱うかどうかにより判断され、単に相談のみの場合は特定個人情報を取り扱うことはないため同意書は不要と考えられるものの、無料相談では相談と申告書等の作成を明確に区分することが困難なケースが考えられるため、その場合には同意書の作成が必要と考えるとの回答がなされている。 その他基本的には税務支援業務に従事する税理士は相談に訪れた納税者と同意書を取り交わすことを要請しているが、多くの来場者が予想される確定申告の相談会場ではその対応が負担となる可能性がある。 そこで といった質問及び回答についても掲載されている。 また、税務支援における同意書については、原則として業務に従事する税理士(又は税理士会等)において保存することとされ、保存年限については法令上の定めはないものの、課税処分の期間制限を踏まえ7年間の保存とすることが望ましいとしている。 (※) 同意書の様式として日税連ホームページには「特定個人情報の取扱いに関する覚書(ひな型)」が掲載されている。 その他、納税者が自身のマイナンバーを把握していない場合の対応(【税務支援(独自事業・受託事業)編】Q19)や、納税者が同意書の記載に応じない場合(【税務支援(独自事業・受託事業)編】Q18)、納税者が同意書に押印するための印鑑の持参を失念した場合(【税務支援(独自事業・受託事業)編】Q17)など、相談会場で起こりうる事項への対応も掲載されている。 実際の相談会場では様々なケースの発生が予想されるが、税理士は税務支援業務への要請があった場合に備えこの質疑応答集に目を通すとともに、各会場の運営組織・団体へ、対応方針や実務内容について事前の確認をしておきたい。 なお、第1章【税理士本人確認編】では、顧問先等の本人確認の必要の有無や、税務代理人として申告書等を税務署へ提出する場合の税理士の身元確認書類の添付など、税務支援にかかわらず税理士業務において必要となる対応がまとめられている。 すでに「税理士のためのマイナンバー対応ガイドブック」等で制度を学んでいる税理士も、例えば といった実際に想定しうる場面についての解説も掲載されているため、一読をお勧めしたい。 (了)
2016年10月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.191を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第28回】 「売り上げの計上時期はどうなっているか」 税理士 山本 守之 1 収益の認識基準 各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入すべき金額は、具体的には商品や製品の販売、有価証券や固定資産の譲渡、受取利息や受取配当等、資産の賃貸料収入などがその大宗を占めます。 これらをどの時点で益金の額として認識するかについて、実定法上は「当該事業年度の収益の額とする」と規定しているだけです。 もっとも、法人税法の全文改正(昭和42年)の際には、「当該事業年度に実現した収益の額とする」という表現をすることについて検討がなされたとのことです。 しかし、「実現」というのは、法令上の用語ではなく企業会計上の用語であり、しかも、この実現の内容をめぐって、会計学者の間でも議論があるだけでなく、実現そのものも販売基準を主体として成立するもので、交換等や契約上の収益(特に貸金利息)に対する認識基準としては明確でないため、まぎらわしさを避ける意味で「実現」という言葉が削られたといわれます。 いずれにしても、実定法は帰属を表現するものとしては「の」の一字があるに過ぎないのです。 「の」の一字によって、収益をどのような帰属として認識するかは、もっぱら解釈によるほかないですが、「当該事業年度に帰属する収益の額」と解すべきことは疑いありません。 収益計上時期を実定法で示しているのが、「の」の一字だけで、これを解釈する方法がないとすれば、その解釈を会計に委ねる他はないので、それでは「一般に公正妥当と認められる会計処理」の基準に求める他ないのです。ただ、実務としては、それを会計に委ねるほど会計が発達していないのが問題です。 わが国の企業会計においては、収益の認識を実現主義によっており、この実現主義は、発生主義による収益の認識をより明確にするためであるとされています。 この点について、「税法と企業会計原則との調整に関する意見書」では、次のように述べています。 また、企業会計原則でも、売上高の計上は、「実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したもの」に限られます(原則第二、3B)。 ここで、商品の販売の場合に例をとって、収益の認識基準を考えてみましょう。 商品や製品の販売は、通常次のような流れをたどるものと考えます。 この流れからすれば、最も早い収益の認識基準は契約の時ということも考えられます。特定物の譲渡契約については、意思主義によって所有権が移転し、その物件の危険負担も所有権を取得している者が負うという考え方からすれば、契約の時点で収益の発生があったとみることができます。 これは、契約によって所有権が移転した時に、代金の請求権を取得するとともに物件の引渡債務も発生するという法的な考え方をした場合です。 民法上の意思主義によれば、「売りましよう」「買いましょう」という意思を表示した時に所有権が移転したとされます。 では、なぜ企業会計の慣行では、契約が成立した時は、その契約書を会計外の事項を示す書類として保存しておくだけで、何の仕訳もせず、商品又は製品の出荷の時又は検収の時に売掛金の発生伝票を起こすことにしているのでしょう。 ここでは、単に商品が管理し得る状態から離れた時に、相手勘定である売掛金に転化したという認識をしているのです。 もちろん、商品が出庫される以前に売先から前受金等を収受する場合がありますが、この場合は「前受金」又は「預り金」という仕訳をしておき、現実に出荷した時に売上に振り替えるという経理をするのでしょう。 商品等の販売について、物の引渡しがない場合でも、所有権が相手方に移転していれば売上の計上をすべきだという考え方もないわけではありませんが、所有権が移転したからといって現物の引渡しをしないで相手方に代金を請求しても、相手方は「現物を引き渡さない限りは代金を払わない」という同時履行の抗弁権を主張することになるでしょうから、具体的な請求権を行使し得る状態になったとはいえません。 つまり、特別な場合を除いて、商品が貨幣やこれに相当する具体的請求権として行使し得るものに転化しない限りは、未現実のものとして収益の計上を認めないのが企業会計の立場であるといえます。 法的基準として意思主義による所有権移転の時を売上計上だとしても、対象物を引き渡さない限りは「同時履行の抗弁権」が働くから、引渡基準の方が現実的といえます。 2 税法ではどうするか 会計とは異なり、税法における収益認識基準として「権利確定主義」がその主流を占めていたことがありました。 これは、旧所得税基本通達で「収入金額とは収入すべき金額をいい、収入すべき金額とは収入する権利が確定した金額をいうものとする」(194)としていたからです。 しかも、「事業所得については、権利の確定する時期は、原則として収入すべき金額の基礎となった契約効力発生の時による」(198)としていました。 また、当時の法人税基本通達では「資産の売買による損益は、所有権移転登記の有無及び代金支払の済否を問わず売買契約効力発生の日に属する事業年度の益金又は損金に算入する。但し、商品、製品等の販売に関しては、商品製品等の引渡しの時を含む事業年度の益金又は損金に算入することができる」(249)としていました。 このような税法の考え方に対して、筆者は当時、次のように批判をしていました。ところが、中年を過ぎた税務学者にとって、20代の筆者の批判は「何を生意気な」と受け取られ、相手にされなかったのです。 筆者としては、商品が現金や売掛債権等に転換する時点で収益の認識をすることが社会通念上妥当ではないかとして、販売時点に先行する権利確定主義を批判したのです。 もっとも、法人税法の取扱いとしては、商品や製品については引渡基準を適用する余地を残しており、税法としては法的基準としてその確実性に着目して認識する限りはやむを得ないとする立場もあったようです。 この立場は、期間損益を単なる会計の事実行為に基づく基準によるときは、租税の公平な負担という租税法の目的に充分そうことはできないし、通常の経済取引は有効な法律行為を介して行われるのですから、法律上全ての納税者の取引を画一的に取り扱うためには、法的基準によって年度帰属を決定すべきと言うのです。 3 整備答申の考え方 多くの議論のあるなかで、昭和38年12月の「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」(税制調査会)では、次のような答申を出しました。 まず、収益計上基準について次のような4つの基準があることを示しました。 つまり、法的基準は所有権の移転又は役務の提供があったとしながらも、具体的な運用は引渡し又は同時履行の抗弁権を失ったときとすることに近くなるとしたのです。 4 通達の定め 税法における収益計上時期は、昭和55年に定められた法人税基本通達2-1-1から2-1-48です。 本来、これらは会計で定めるべきですが、会計がその役割を果たしていないので、税務が定めざるを得なかったのです。 特に現行通達のなかには、「客観的にみてそこで収益が実現したといえるような状態があり、しかも会計の面からみて、これを会計事実として記帳するに適した状態というのは一体どういった状況のことをいうのか、といった面から考えるべきこと」とする態度が貫かれているように思われます。 (了)
〈平成28年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「今年から適用される改正事項(その1)」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 10月も下旬となり、年末調整に向けて準備を始める時期となった。今年は、マイナンバー制度導入後、実質的に初めての年末調整となる。 年末調整の業務は、短期間に多くの作業を行う必要があるため、早目に準備をしておきたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。今回と次回(第2回)は、平成28年分の所得税に適用される税制改正事項のうち、年末調整に影響のあるものを取り上げ解説する。 【第1回】で取り上げる事項は、 【1】 通勤手当の非課税限度額の引上げ 【2】 マイナンバー制度に伴う様式の改正 である。 なお、この3回分に加え、論末掲載の連載目次に掲載された平成24年分からの拙稿(年末調整のポイント)もご覧いただきたい。 特に、各書類の記載方法や理解しておくべき用語の解説等を行った次の拙稿については、ぜひおさえておいていただきたい。 【1】 通勤手当の非課税限度額の引上げ (1) 改正の概要と年末調整への影響 平成28年度税制改正により、通勤手当の非課税限度額が10万円から15万円に引き上げられた(所法9①五、所令20の2①③④)。 改正内容と経過措置の詳細は、以下の拙稿をご参照いただきたい。 本年1月1日から3月31日までの間に支払われた通勤手当については、改正前の規定に基づいて源泉徴収が行われている。 本改正は、平成28年1月1日に遡って適用されるため、改正により、新たに非課税となる通勤手当のある役員や従業員(以下、従業員等という)については、年末調整で給与の総支給金額を調整する必要がある。 (2) 具体的な手続 年末調整における具体的な調整方法は、次のとおりである。 (3) 源泉徴収簿の記入方法 上記〈例〉に基づいて源泉徴収簿を記入すると、次のとおりである。 〈源泉徴収簿記載例〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【2】 マイナンバー制度に伴う様式の改正 平成28年分の源泉徴収票や支払調書には、マイナンバー制度の導入に伴い、支払を受ける者やその控除対象配偶者等の個人番号と支払者の法人番号(又は個人番号)を記載する欄が新たに設けられている。 なお、税務署に提出する源泉徴収票と支払調書並びに市区町村に提出する給与支払報告書には、支払を受ける者やその控除対象配偶者等の個人番号と支払者の法人番号(又は個人番号)を記載するが、受給者交付用の源泉徴収票と、支払を受ける者に写しを交付する場合の支払調書には、個人番号と法人番号は記載しない。 つまり、本人に渡す源泉徴収票や支払調書には、個人番号と法人番号を記載しないということである。 平成28年分の源泉徴収票や主な支払調書の様式は、次のとおりである。 従業員等の個人番号はもちろんのこと、報酬や不動産の使用料等の支払先が個人であれば、それらの人の個人番号も記載する必要がある。該当する個人がいる場合には、個人番号を取得しているかどうかの確認をしておきたい。 〈参考〉 平成28年分の各様式 「平成28年分 給与所得の源泉徴収票」 「平成28年分 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」 「平成28年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」 「平成28年分 不動産の使用料等の支払調書」 (※) 国税庁「平成28年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」より なお、平成28年分の給与所得の源泉徴収票は、サイズがA6版(横)からA5版(縦)になり、マイナンバーに関係する部分以外の様式にも変更がある。 記載方法等については、下記の国税庁ホームページが参考になる。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第21回】 「平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書における マイナンバーの記載の省略」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書において、マイナンバーの記載を省略できるケースがあれば教えてください。 〈A〉 平成28年分給与所得者の扶養控除等申告書にマイナンバーが記載されている場合であっても、平成29年分給与所得者の扶養控除等申告書にはマイナンバーを記載しなければならない。 ただし、次の2つのケースにおいては、マイナンバーの記載を省略することができる。 (了)
「中小企業等経営強化法」の成立について ~中小企業を支援する新たな枠組みの導入へ~ 【後編】 佐伯 徳彦 (※1) (※1) 中小企業庁事業環境部企画課長補佐(総括)。今回の法改正については、非常に多くの方々から御知見・御示唆・御協力・御理解を頂いた。改めて感謝申し上げたい。 Ⅳ 経営力向上計画(法第13条~第15条) 1 背景 「経営力向上計画」は、今回の改正により、新たに設けた経営力向上のための計画類型となる。基本的に、自社の「本業」の生産性向上を目的としている。中小企業者等の方々には、この計画の認定を取って頂くことにより、様々な支援措置を受けることができる。 2 記載に当たってのポイント 「経営力向上計画」においては、おおむね、①自社の現状認識、②生産性向上の目標(基本的には労働生産性の向上目標)、③経営力向上の内容の3つを重点的に記載して頂き、あとは利用される施策を踏まえて、御記入頂くことになる。 申請書は、簡素化するため様式上は2枚となっているが、記載頂く内容は、必ずしも2枚にとどめて頂く必要はない。 主なポイントとしては、次のとおり。 まず現状認識について、自社の経営課題や状況を書いて頂くこととなるが、審査上重視する点としては、具体的な「経営力向上の内容」につながるような分析となっているか、という点となる。また、「ローカルベンチマーク」(※2)の指標を用いることも推奨している。 生産性向上の目標については、基本的に労働生産性の向上を要件としているが、「事業分野別指針」において、当該分野の特別の指標を設ける場合があるため、「事業分野別指針」についても確認をお願いしたい。労働生産性は、(営業利益+人件費+減価償却費)/従業員数又は従業員×労働時間となる。これは現状の数値を算出できれば、数字を作ることは難しくはないと思われる。 経営力向上の内容については、「事業分野別指針」における「経営力向上の内容に関する事項」を参考にして頂きつつ、自社にとって具体的にどのような措置を講じられるのか分かりやすく記載して頂き、労働生産性がなぜ上がるのかについて、説明がつながるように説得的に記載して頂きたい。 また、「事業分野別指針」がない場合でも、経営力向上計画の申請は可能となっている。その際、経営力向上の内容に何を書けばよいのか、という相談も頂いているが、「中小企業等の経営強化に関する基本方針」を参考にして頂きたい。 具体的には、第4経営力向上-第2項経営力向上の内容に関する事項-第2号「事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成」、第3号「財務内容の分析の結果の活用」、第4号「商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用」、第5号「経営能率の向上のための情報システムの構築」を参考にされたい。 (※2) 詳しくは、経済産業省HPを御覧下さい。 3 主な手続 まず、固定資産税の軽減措置を受けることを検討される場合には、あらかじめメーカーや商社を通じて、生産性に係る証明書を取ることができるのか相談をお願いしている。また、金融支援を受ける場合にもあらかじめ金融機関と相談をお願いしている。特に、金融支援は、計画認定があれば自動的に受けられる訳ではなく、金融機関による別途の審査があるため、注意されたい。 また、認定経営革新等支援機関による申請書の確認を受けることを要件とはしていないが、計画の客観性を担保する観点から奨励はしており、指導・助言を受けている場合には「チェックリスト」に記載を頂きたい。 申請書の提出の際には、チェックリストを添付して頂くとともに、固定資産税の軽減措置を受ける場合には、設備の生産性向上要件に係る証明書(中小企業等経営強化法の経営力向上設備等に係る仕様等証明書)の添付をお願いしているので、忘れないようにお願いしたい。 その上で、主務大臣に提出して頂くことになる。主務大臣は、業種を所管する大臣となり、具体的な窓口としては地方支分部局であることが多い。この点については、中小企業庁のホームページをご覧頂くか、相談窓口まで電話を頂きたい。 なお、審査に要する期間は1か月を念頭に置いているが、年末など、固定資産税の軽減措置との関係で申請が殺到することも想定される。このため、遅くとも年内では11月半ばまでに申請を受理されるように手続を進めて頂くことをお願いしたい。 固定資産税の軽減措置を受けられる場合には、この上で、市町村に対して償却資産について固定資産税の申告を行って頂くことになり、申請書と認定書の写しが必要となる。申告期間は、市町村によって異なるが、1月1日の賦課期日から1月末日頃となる。市町村の定める方法により特例の適用を申請した上で、申告を行った年の4月から始まる年度の固定資産税が軽減されることになる。申告、特例の申請を忘れないようにして頂きたい。 4 取消の要件 経営力向上計画の取消については、主務大臣が「経営力向上計画に従って経営力向上に係る事業が行われていないと認めるとき」(法第14条第2項)としており、計画どおりに事業を実施していない場合となる。計画どおりに事業を行った場合において、労働生産性の目標などが未達成の場合であっても、ただちに取り消されるわけではない。 5 経営革新計画との関係(法第8条) 中小企業等経営強化法では、「経営革新計画」が存在しており、「経営力向上計画」との役割分担について御質問頂くことも多い。一言で申し上げれば、経営革新計画では「新たな収益源」を求める活動を支援している一方、「経営力向上計画」では本業の生産性向上を支援することを目的としているところである。 6 その他の主な論点 「経営力向上計画」の申請のタイミングであるが、通常、税制の軽減措置を受けようとすると計画認定を受けた後で資産を取得する場合が支援対象となるが、今回は、法律施行後の7月1日以降であれば、新たな機械及び装置の取得後60日以内に申請書が受理されれば、申請することを可能とさせて頂いている。 V 支援措置 1 固定資産税の軽減措置(地方税法附則第15条第46項) 繰り返しになるが、今回の法改正では、固定資産税の軽減措置が導入された。具体的には、「経営力向上計画」に基づいて、新たに導入した機械及び装置についての課税標準が、3年間半額になる(※3)。この措置は、中小企業の設備投資を促進する目的としては初めてのこととなる。今回の改正法の附則第3条により、地方税法を改正し、地方税法附則第15条第46項が新設された。 主な要件としては、①経営力向上計画において記載した機械及び装置であること、②販売開始から10年以内のもの、③旧モデル比で生産性(単位時間当たりの生産量、精度、エネルギー効率等)が年平均1%以上向上するもの、④1台又は1基の取得価額が160万円以上するもの、となる。本件は、生産性向上設備投資促進税制のA類型の要件から、最新設備の要件が求められないもの、と御理解頂いて、おおむね差し支えない(※4)。 なお、申請主体は、経営力向上計画の申請主体がすべて対象となるのではなく、租税特別措置法における「中小事業者」と「中小企業者」が対象になる。 具体的には、個人事業主(中小事業者)として、常時使用する従業員の数が1,000人以下(租税特別措置法第10条第6項第4号及び租税特別措置法施行令第5条の3第8号)、法人(中小企業者)としては、資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の法人、出資を有さない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下(同法第42条の4第6項第4号及び同法施行令第27条の4第5項)となり、みなし大企業(※5)は対象とならない。 このうち、旧モデル比の生産性向上要件の証明については、あらかじめ定めた工業会等が実施することとなる。なお、工業会等については、いわゆる耐用年数省令(減価償却資産の耐用年数等に関する省令)第1条第1項第2号に基づき、別表第二「機械及び装置の耐用年数表」を基礎に整理されているので、中小企業庁のホームページをご覧頂きたい。 固定資産税の軽減措置を受けることを希望される際には、経営力向上計画の申請書に、生産性向上に係る証明書を添付して頂くことになる。申請者におかれては、導入する設備を取り扱っているメーカーや商社に対して、工業会等からの生産性要件に係る証明書の発行を依頼して頂きたい。 (※3) 平成28年度税制改正大綱(平成27年12月16日自由民主党・公明党)において、第二 平成28年度税制改正の具体的内容-二 資産課税-3 租税特別措置等-(地方税)- 〔新設〕-〈固定資産税・都市計画税〉の(2)に記載されているものが本税制となる(p.47)。 (※4) 筆者はたまたま生産性向上設備投資促進税制の企画を担当させて頂いた。奇遇に感じている。 (※5) 具体的には、発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上の大規模法人(資本金の額若しくは出資金の額が1億円を超える法人又は資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人)の所有に属している法人、その発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人を言う。 2 信用保証の別枠化(法第16条第7項から第9項) 中小企業者は、各信用保証協会において、保証を受けることができるが、経営力向上計画の認定を受けた場合には、新設される「経営力向上関連保証」により別枠等として保証や保証料の引下げを受けることができる。 具体的には、普通保険、無担保保険、特別小口保険については、別枠化(法16Ⅶ)され、海外投資関係保険(法16Ⅷ)、新事業開拓保険(法16Ⅸ)については、増枠されることになる。 なお、今回拡大される枠については、「新事業活動」に限定される(中小企業等経営強化法施行規則第9条)点には留意を頂きたい。 信用保証料の引下げの措置も講じている。保証料そのものは各信用保証協会において定めているが、信用保証協会に対して、株式会社日本政策金融公庫が保険を行っている。その保険料を引き下げる(※6)(法16Ⅺ)ことを通じて、保証料の引下げを行っている。 信用保証の別枠化をご利用される場合には、取引先の金融機関に御相談頂くか、各信用保証協会に御相談頂きたい。 (※6) 具体的な保険料率は、普通保険及び無担保保険については0.41%、特別小口保険については0.19%となる。 3 中小企業投資育成株式会社法の特例(法第17条) 中小企業投資育成株式会社は、中小企業投資育成株式会社法に基づき、東京、名古屋、大阪の3か所に設置されている。主な役割は、「中小企業の自己資本の充実を促進」することにあり、未公開企業に対する投資を行っている。 中小企業投資育成株式会社法第5条に基づき、各中小企業投資育成株式会社は資本金3億円以下の株式会社の株式の引き受けができるが、この特例により、3億円を超える場合においても株式の引き受けを行うことができる。 4 スタンドバイクレジット(海外金融機関向けの債務保証)(法第18条) 株式会社日本政策金融公庫は、海外の金融機関に対して、4.5億円まで債務保証を行うことができ、これにより、中小企業者は現地通貨での資金調達が容易となる。スタンドバイクレジットは、「債務保証」の英訳である。 海外の金融機関としては、平安銀行(中国)、バンクネガラインドネシア(インドネシア)、KB國民銀行(韓国)、CIMB銀行(マレーシア)、バノルテ銀行(メキシコ)、メトロポリタン銀行(フィリピン)、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(シンガポール)、合作金庫銀行(台湾)、バンコック銀行(タイ)、ベト・イン・バンク(ベトナム)となっている(※7)。 (※7) 2016年6月現在。詳しくは、株式会社日本政策金融公庫HPを参照されたい。 5 独立行政法人中小企業基盤整備機構による債務保証(法第19条) 信用保証は中小企業向けの債務保証であるが、中小企業者等の「等」となる中堅企業を中心に債務保証を独立行政法人中小企業基盤整備機構が行うものとなる。債務保証の保証比率は50%と低いが、25億円までの保証が可能であり、保証料率は0.3~0.4%となる。お申し込みの際には、取引先金融機関や独立行政法人中小企業基盤整備機構に相談されたい。 6 食品流通構造改善促進法による債務保証(法第20条) 食品製造業者等又は食品製造事業協同組合等は、食品流通構造改善促進法第4条第1項に基づき、農林漁業者又は農業協同組合等と共同して、構造改善計画の認定を受ければ、公益財団法人食品流通構造改善促進機構による債務保証(同法12①)を受けることができる(保証上限6億円、保証料率0.8%)(※8)。 中小企業等経営強化法では、この例外として、食品製造業者等が単独で経営力向上計画の策定を行う場合でも、同機構から債務保証を受けることができることになる。 (※8) 詳しくは、公益財団法人食品流通構造改善促進機構HPを参照されたい。 7 認定取得事業者向けの支援措置(認定の「パスポート」化) この他、認定取得事業者向けの支援措置についても、併せて検討を進めている。 まず、商工組合中央金庫が独自の判断で、経営力向上計画の認定を取得している中小企業者等に対する融資を行っており、金利の軽減や審査の短縮化を行っている。 また、補助金の優先採択についても併せて取り組みを進めており、平成27年度補正予算であるものづくり・商業・サービス新展開支援補助金の第二次公募分(8月24日が閉め切りとなっている。)から、本計画の認定を取得している事業者に対して、審査の際に加点することとしているところである。 引き続き、補助制度をはじめとして、支援措置の拡充を図り、本認定が中小企業施策を利用する際の「パスポート」となるように確保することとしているところである。 Ⅵ 経営革新等支援機関 経営革新等支援機関は、中小企業による経営革新計画等の策定及び実施を支援することを目的に、平成24年改正により新設されたものである(改正法の名前は、「中小企業経営力強化支援法」であり、混同されることもある。)。現状では、25,611機関(平成28年10月7日現在)が認定されている。 1 法律上の業務追加 経営革新等支援機関は、経営革新や異分野連携新事業分野開拓を行おうとする中小企業に対して経営資源の内容、財務内容その他の経営状況の分析を行うほか、実際の計画策定や事業の実施に係る指導助言を行うことになっているが、本改正により、これに加えて、経営力向上を行おうとする中小企業者等が新たに支援の対象として追加されることになる(法21Ⅱ①、②)。 2 基本方針に基づく業務追加 経営革新等支援機関については、今回の法改正に合わせて、「基本方針」に基づく業務の追加が行われている(※9)。 (※9) なお、「基本方針」は、今回の法律改正にあわせて、「中小企業の新たな事業活動の促進に関する基本方針」から「中小企業等の経営強化に関する基本方針」に改正されている。 ① 計画策定の促進業務 経営力向上計画については、計画策定を中小企業者等に対して推奨することを「経営力向上に係る事業の計画に基づく取組の促進」として定めている(基本方針第5Ⅰ③)。 ② 「ローカルベンチマーク」の活用促進業務 「ローカルベンチマーク」の活用を促すことを配慮事項として定めている(基本方針第5Ⅲ②へ)。 ③ 事業承継 同じく、「事業承継ガイドライン」を踏まえた計画的な事業承継の促進を配慮事項として定めている(基本方針第5Ⅲ②ト)。 Ⅶ 事業分野別経営力向上推進機関 1 背景 生産性向上に向けた取り組みを全国的に拡げていくためには、個別企業による取り組みを支援し奨励するだけでなく、民間の立場から、幅広く中小企業者等に対して生産性向上を推進する活動を行う組織を支援することが政策的にも有意義である。この観点から、「事業分野別経営力向上推進機関」を新設した。 2 主な役割 また、事業分野別経営力向上推進機関は、事業分野別指針の普及啓発や研修を行う(法26Ⅱ①)ほか、経営力向上のための最新の知見に係る情報の収集等を行うことになる(法26Ⅱ②)。 また、この得られた知見を事業分野別指針に反映するため、主務大臣に対する意見を行う「専門家その他の関係者」(法12Ⅳ)の役割を果たすことも想定している。さらに、主務大臣が経営力向上計画の認定業務を行うにあたり、主務大臣が「必要と認めるときは」、「資料の提出その他の必要な協力」を行うこととしている(法15)。 上記の背景を踏まえ、主な担い手として、典型的には業界団体や組合などの業種に関する専門的知見を有する事業者団体を想定しているが、特段これに限定していない(法26Ⅰ)。多くの方々からの申請をお待ちしている。 3 支援措置 法律上の支援措置として、独立行政法人中小企業基盤整備機構から専門家の派遣その他の必要な協力を受けることができる(法29)。また、研修を行う場合には、雇用保険法第63条の「能力開発事業」として、労働保険特別会計からの助成及び援助を受けることができる(法30)。 Ⅷ 結語 ~残された課題 今回の改正により、中小企業等経営強化法への法律の仕組みが変更され、業種ごとに事業分野別指針を整備し、中小企業の本業そのものに対する支援に対して、支援措置を強化することになる。 この仕組みは、経済産業省・中小企業庁のみならず、オール霞が関で実施することになり、より実効性を担保できうるものと考えている。 事業分野別指針や執行体制の整備は、引き続き見直しや拡充を図っていく必要があるが、今回の法改正による整備が、日本の中小企業、中堅企業、非営利活動法人の方々の経営の転換のきかっけとなることを願ってやまない。 今回の法改正では、中小企業と他の法人類型との関係、新陳代謝のあり方、労働生産性、業種に着目した施策体系など、これまであまり取り上げられてこなかった視点を導入したものと考えている。将来的な課題として、本改正を、中小企業政策の体系の中においてどのように位置づけ、また、整理を図るべきかは大きな課題となりうる。本改正が、今後の政策の一つのマイルストーンとなることを期待したい。 (連載了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例43(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41の5) 個人が所有期間5年を超える居住用財産の譲渡をした場合において、その譲渡年の前年から譲渡年の翌年までの間に一定の買換資産の取得をし、かつ、その取得年の翌年までの間に居住の用に供したときは、その譲渡による譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち一定の方法により計算した金額は、一定要件の下で他の所得との損益通算ができる。ただし、この損益通算の特例は、買換資産を取得した年の年末において、その買換資産の取得に係る住宅借入金等の残高がある場合に限り適用できる。 〈期間及び取得期限〉 先行取得した場合 ◆譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期(所基通36-12) 譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によるものとする。ただし、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日により総収入金額に算入して申告があったときは、これを認める。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第9回】 「別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書」、「別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第9回目は、前回採り上げた研究開発税制のうち、解説できなかった残りの「別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書」と、その計算明細である「別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 別表6(7)は、青色申告書を提出する法人が租税特別措置法第42条の4第4項の規定(試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除)の適用を受ける場合に作成する。 いわゆる研究開発税制は、現在、以下の4つの制度により構成されている。 上記①から③の制度は前回解説した別表6(6)及びその計算明細である別表6(8)を用いるが、今回解説する別表はそれ以外の④の制度を適用する場合に用いることになる。 ④の試験研究費の額が増加した場合等の税額控除制度は、青色申告法人の平成20年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において損金の額に算入される試験研究費の額がある場合で、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するときに、上記①~③の制度とは別枠で、その試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除する制度(ただし当期の法人税額の10%が上限)である。 Ⅲ 「別表6(7)」、「別表6(8)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 別表6(7) 試験研究費の増加額等に係る法人税額の特別控除に関する明細書 別表6(8) 試験研究を行った場合の法人税額の特別控除における平均売上金額、比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書 〔Ⅰ 平均売上金額の計算に関する明細書〕 〔Ⅱ 比較試験研究費の額及び基準試験研究費の額の計算に関する明細書〕 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q17】 「私募外国株式投資信託の償還時の取扱い」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 所得分類 所得税法上、公募でなく、かつ、金融商品取引所等に上場等もされていない株式投資信託は、租税特別措置法第37条の10第1項に規定する「一般株式等」に分類されます。この取扱いは、株式投資信託が外国投資信託の場合も同様です。 所得税法上、一般株式等に分類される投資信託の終了又は一部解約により交付を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(以下、「金銭等の合計額」という)のうち、当該投資信託について信託された金額を超える部分の金額については、配当所得に係る収入金額とされます。 さらに、私募株式投資信託の終了又は一部解約により交付を受ける金銭等の合計額のうち株式投資信託について信託されている金額に達するまでの金額は、私募投資信託の受益権の譲渡による収入金額とみなされます。したがって、当該収入金額とその私募投資信託の取得価額との差額が一般株式等に係る譲渡所得等とされます。 図解すると、以下のようになります。 〈投資信託の解約時の所得分類〉 2 課税方法 ① 配当所得 配当所得として取り扱われる部分については、一般株式等の配当所得に該当するため、1回に支払を受ける金額が少額の場合を除き、申告が必要です。総合課税の対象となります(上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税の適用はありません)。 本件の償還金額を日本における支払の取扱者(【Q4】のキーワード参照)を通じて支払を受ける場合は、配当所得とされる金額について20.42%(所得税及び復興特別所得税)の税率にて源泉所得税が課されます。この源泉所得税は、申告所得税額から控除することができます。 ② 株式等の譲渡所得 本件は私募かつ非上場の株式投資信託の受益権であり、一般株式等に該当します。一般株式等の譲渡所得等の金額とされる金額については、他の所得と区分し、申告分離課税(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。譲渡損が生じた場合、一般株式等に係る譲渡所得等の範囲内で損益通算が可能です(※)。 (※) 平成27年12月31日以前は、上場株式等かそれ以外の株式等(一般株式等)の区別はなく、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能でしたが、平成28年1月1日以後は、株式等を「上場株式等」又は「一般株式等」に区分し、それぞれの所得内でのみ損益通算が可能となりました。 本件は私募かつ非上場である株式投資信託の受益権の譲渡であり、上場株式等に係る譲渡損失について認められている特例(上場株式等に係る配当所得等との損益通算及び翌年以降3年間の繰越し)の適用はありません。 ③ まとめ 上記の通り、償還金額のうち一定の金額が配当所得、残りが一般株式等の譲渡所得等として取り扱われ、所得区分が異なることから、個々人の取得価額、投資信託に信託された金額及び償還金額によっては、プラスの配当所得及びマイナスの譲渡所得(譲渡損失)が発生する可能性があります。その場合、両者を相殺(損益通算)することができません。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第18回】 「租税法上の評価②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回では、大阪高裁昭和62年6月16日判決について解説を行った。 本稿では、東京高裁平成12年9月28日判決について解説を行う。本事件は、同族株主以外の株主であっても、純資産価額による買取りが保障されている場合には、純資産価額方式による評価をすべきであると判断された事件である。 2 東京高裁平成12年9月28日判決・TAINSコード:Z248-8734 (1) 事実の概要 本事件は、平成5年11月24日死亡した能沢十太郎(以下「亡十太郎」という)の共同相続人である原告らが、フォーエスキャピタル株式会社の株式(以下「本件株式」という)を特例的評価方式により評価して相続税の申告をしたところ、純資産価額方式により評価すべきであるとして、被告が原告らに対して平成7年7月31日付けで更正及びこれに対する過少申告加算税賦課決定(以下「本件各処分」という)を行ったのに対し、原告らが申告額を超える部分に係る本件各処分の取消しを求めた事件である。 なお、第一審判決文には、以下の事実関係が記載されており、その背景を理解すると裁判所の判断も分かりやすい。 (2) 第一審(東京地裁11年3月25日判決・TAINSコード:Z241-8368) (3) 控訴審 控訴審は、第一審の判断をそのまま踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は納税者側の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。判決文では、引受価格をいう記載もあるが、「同年前月末現在における本件株式につき純資産価額方式により計算された金額である別件発行における引受価格」と表現されていることから、実質的には純資産価額方式による評価額である。 本事件は、財産評価基本通達6項が適用されるべき事件であるようだが、6項は適用されていない。これは、「行政組織内部における機関相互の指示、監督に関して定めた規定」であることから、納税者にとっては関係のない話とされている。 本事件で留意すべき事項は、特例的評価方式が利用できることを理由として、節税商品を販売していたという事実関係があるという点である。そのため、かなり特殊な事案であると言えるが、例えば、①一部だけ特例的評価方式で移転した後に、残りを原則的評価方式で移そうとしたり、②一時的にファンドなどに中心的な同族株主になってもらい、残りの株主に特例的評価方式で移転した上で、当該ファンドから発行会社が買い戻したりするなど、実務上、特例的評価方式で相続できないかという相談を受けることがある。 実務上は、ケースバイケースであると思われるが、本事件を参考にすれば、慎重な対応が必要になる内容であると考えられる。 なお、類似の事件として、東京高裁平成15年7月31日判決・TAINSコード:Z253-9403があるため、興味のある読者は参照されたい。 次回では、東京高裁平成17年1月19日判決について解説を行う予定である。 (了)