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「更正の予知」の実務と平成28年度税制改正【第4回】

「更正の予知」の実務と 平成28年度税制改正 【第4回】   税理士 谷口 勝司   8 調査・行政指導と更正の予知 (1) 調査と行政指導の区分 更正の予知に関して、主に実地の調査を前提にこれまで説明してきたが、実地の調査以外の税務執行が実際にどのように行われ、これに伴って更正の予知がどのように取り扱われているか、理解しておくことも実務上重要である。 例えば、提出された申告書の計算内容、記載内容等に誤りがあるのではないかと考えられる場合、国税当局から納税者への働きかけは、「申告書に計算誤りがあると思われるので、見直してほしい(確認してほしい)」といったように、見直し要請・確認要請という「行政指導」として実際には幅広く行われている。 その結果、この行政指導に基づいて提出された修正申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえず(したがって更正の予知がない)、納税者の自発的なものとして扱われ、加算税賦課が行われないことになる。 申告書の比較的軽微な誤り等について、納税者に対して調査、行政指導のいずれで対応するかは、国税当局の行政スタンスによるともいえるが、現状は、まずは行政指導による対応が行われて修正申告書(減額の場合は更正の請求)の提出が勧奨され、多くのものが納税者の自発的なものとして処理されている。そして行政指導で対応できない場合には、次の段階として調査に移行して対応されている。 このように、行政指導による税務執行が広く行われているのは、国税当局としては、申告納税制度の維持・発展のため、納税者によって納税義務が自発的に履行されるようにすることが重要と考えている、というのが一番大きな理由であろう。申告に誤りがあれば、納税者自身にできる限り是正してもらう、という考えである。 また、国税当局としては、限られた定員や機構の下で、多くの事務日数を要する税務調査は、高額・悪質、富裕層、国際、無申告、消費税といった重点分野にできる限り充てていきたい、ということもあると思われる。このため、効率的な事務運営等も勘案し、行政指導で対応できる事務はできる限り行政指導で対応しようとしている。 また、このような税務執行は、平成23年度税制改正で調査手続が法定化されたことを契機に、さらに進められていると思われる。 平成23年度税制改正において、事前通知、調査結果説明、修正申告勧奨、申告是認通知書の発送(交付)、不利益処分の理由付記、再調査等の調査手続が法定化され、平成25年1月から施行されている。この改正は、改正前から運用により行われていた調査手続を大きく変更するものではなかったが、法定化された調査手続の的確な履行やその履行検証に相当な事務コストを要していることも事実である(例えば、法人税の調査件数は改正前後で年間129千件から91千件に約30%減少し、いわゆる実調率は約3%に低下)。国税当局も、調査手続に係る法令遵守(コンプライアンス維持)に相当なコストを払っているともいえよう。 国税通則法上の調査は、前述「4 更正の予知における2つの要件と「調査」の意義」(【第2回】参照)のとおり、実地の調査だけではなく、署内調査などを含む幅広い概念である。そして、法定化された調査手続においては、実地の調査以外の調査についても、調査結果説明、修正申告勧奨等の手続を義務付けており、その適正な履行が求められている。 調査手続法定化後、国税庁は、行政指導について、「『調査』に該当しない行為」として、その意義を明確化している(調査解釈通達1-2)。 すなわち、「次に掲げる行為のように、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しない」とし、その行為の例示の1つに、「当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思料される場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為」を掲げている。またこの他にも、多くの行為が調査に該当しない行為(行政指導)として例示されている。 従前、国税当局では調査・行政指導の区分はあったものの、特に実地の調査以外の事務については、調査か行政指導かの区分を明確に意識して行うことは必ずしも多くなかったと思われるが、行政指導の意義等を定めた通達によって、事務の適正性・透明性等が確保されたということになる。 また、調査運営通達の第2章1では、「納税義務者等に対し調査又は行政指導に当たる行為を行う際は、対面、電話、書面等の態様を問わず、いずれの事務として行うかを明示した上で、それぞれの行為を法令等に基づき適正に行う。」と定め、調査・行政指導の区分を納税者に明示して事務を行うことを明確にしている。 この行政指導は、その態様として、通達に示されている対面、電話、書面等のほか、来署依頼や事業所等への臨場などによるものもある。一方、調査も、対面、電話、書面、来署依頼、臨場等の態様があるが、いずれにせよ、態様のいかんを問わず、調査か行政指導かの区分は口頭、文書等によって国税当局から明示される(納税者は了知できる)、ということが重要である。 このような通達発遣は、法定化された調査手続の的確な履行や、事務の適正性・透明性や納税者の予測可能性を確保しようとするものである。 〇通達における事務区分とその意義 さらに、調査解釈通達では、調査に該当しない行為(行政指導)のみに起因して提出された修正申告書は、更正を予知してなされたものには当たらない(過少申告加算税を賦課しない)旨を定めている(調査解釈通達1-2)。これは調査が行われていない(納税者が調査のあったことを了知したとはいえない)から、いわば当然ともいえよう。 一方、調査であることが明示されて開始(着手)されれば、これまで述べてきたとおり、納税者が調査のあったことを了知した(原則更正を予知した)ものに当たり、実務上は、過少申告加算税が賦課されることになる。 このように、実務上は、調査か行政指導かの事務区分が納税者に明示されて事務が行われ、また結果的に加算税の取扱いも明確化されていると思われる。 (2) 行政指導による事務 いくつかの事務を例に、行政指導などが実務上どのように行われているか紹介しよう。 (イ) 申告書の計算誤り等(事後処理等) 申告書の計算誤り等があると思われるケースについて、所得税における事後処理事務を例にとろう。 所得税確定申告書の審査検算等の結果、所得金額・税額の計算誤り、各種所得控除の適用誤り、証明書の添付漏れ等、その計算に誤り等があると思われる場合には、納税者(関与税理士を含み、既に実地の調査の対象選定されている者を除く)に対して、電話や文書等で、行政指導であることを明示した上で、計算見直し等の依頼が行われる(見直し依頼に際して具体的な項目・金額が示されることがある)。 また、納税者が計算誤り等を確認できれば修正申告書の提出(又は更正の請求の提出)を依頼し、提出された修正申告書は納税者の自発的なもの(加算税免除)として扱われる。 ただし、納税者の自発的な見直しや修正申告書提出等が行われない場合、更正処理を要する場合等は、「調査」であることを電話や文書等で明示(実務上は調査宣言とも称される)し、調査(通常は実地の調査以外の調査)に移行して処理が行われる。また、事業所得者等で帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等についても、調査であることを明示して処理が行われる。 なお、法人税における申告書・別表の計算誤り等についても、その事務処理はほぼ同様である。 (ロ) 法人税の無申告 法定申告期限までに申告書が提出されない場合、期限後申告書の提出又は決定により納付すべき税額に対して原則15%の無申告加算税が賦課されるが、期限後申告書の提出が「決定の予知」をしたものでない場合には、無申告加算税は原則5%に軽減される(通則法66①⑥)。そしてこの「決定の予知」は、「更正の予知」と実務上の取扱いは同じである。 法人税の場合、清算結了等で法人が消滅しない限り、申告書の提出が義務付けられている。しかし、国税庁が公表した平成25年事務年度事務事績によると、法人数3,007千件に対して申告件数は2,771千件であり、実際には、債務超過、倒産、代表者の死亡や所在不明等による休業・事業廃止等、無申告も相当数ある。また、このような無申告は、所得計算等を行っても欠損金額又はゼロとなり、納付すべき税額が生じないものがほとんどである。税務執行上は的確で効率的な処理が求められる事務の一つであろう。 法人税の無申告が認められる場合、(イ)と同様、通常、行政指導によりその対応が行われる。電話、文書、臨場等により、行政指導であることを明示した上、申告書提出の有無、事業活動の状況等の実態の確認を行うとともに、期限後申告書の提出依頼を行う。実務上は、無申告実態確認などと称されるが、この行政指導によって提出された期限後申告書は、納税者が調査のあったことを了知したとはいえない(決定の予知がない)ことになり、無申告加算税が原則5%に軽減されることになる。 ただし、自発的な期限後申告書提出等が行われない場合や、決定を要する場合、質問検査権を行使しなければ所得計算ができない場合等については、「調査」であることを明示し、調査に移行して処理が行われる。また、資料情報や過去の調査状況等からみて法人の事業活動が行われており納付税額も生ずると認められる場合(稼働しているにもかかわらず無申告が常態となっているような場合)には、行政指導を経ることなく、調査であることを明示して処理が行われる。 (ハ) 源泉所得税の未納整理 法定納期限までに源泉所得税が完納されなかった場合、納税の告知に係る税額又は期限後納付された税額に対して10%の不納付加算税が徴収される。そして期限後納付が「納税の告知の予知」をしたものでない場合、すなわち自発的な納付であった場合には、不納付加算税は5%に軽減される(通則法67①②)。この「納税の告知の予知」も、「更正の予知」と同じ扱いである。 給与等の源泉所得税が納期限までに納付されない理由としては、資金繰り悪化、怠慢、失念などのほか、休業や事業廃止等による給与支払なし等、様々なものがある。 源泉所得税の未納整理は、現状、国税局の中に組織される「源泉所得税事務集中処理センター室」(以下「源泉センター」という)において、国税局管内の全税務署の事務の一括集中処理が行われている。 納期限までの納付が確認できない場合、源泉センターでは、納付照会往復はがきの発送(納付の有無、未納税額、納付見込み時期等を照会)、電話による照会(はがき回答内容の確認、はがき未回答者への未納税額の確認等)等を行う。また、自主納付の場合は加算税5%、納税の告知の場合は加算税10%である旨を説明するとともに、自主納付のしょうようを行う。以上は、行政指導であることを明示して行われ、これにより納付された場合の不納付加算税は5%に軽減される。 しかし、自主納付が見込めない場合(納税の告知を行う場合)、はがきや電話等による照会に回答がない場合、未納税額等把握のため帳簿提示を求める必要がある場合(質問検査権行使が必要な場合)等については、調査であることを明示し、各税務署における調査手続に移行して処理が行われる。 *  *  * 以上見てきたように、実務上は行政指導によって、納税者による自発的な納税義務履行が幅広く促されている。   (了)

#No. 189(掲載号)
#谷口 勝司
2016/10/13

金融・投資商品の税務Q&A 【Q15】「公募株式投資信託の解約請求と買取請求の差異」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q15】 「公募株式投資信託の解約請求と買取請求の差異」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 株式投資信託の換金方法としては、①ファンドへの解約請求による場合と、②販売会社等への買取請求による場合があります。「解約請求」は、証券会社などの販売会社を通じて、信託財産の一部の解約を請求することにより信託財産を取り崩して換金する手法です。一方、「買取請求」は、投資家が保有している投資信託の受益権を証券会社などの販売会社に対し買い取ってもらうという換金方法です。 買取請求の場合は、法的には証券会社などの販売会社への譲渡として取り扱われるため、換金による収入額は株式等の譲渡に係る譲渡収入の金額とされます。 一方、解約請求の場合は、ファンドに対する解約のため、所得税法上は、原則として、交付を受ける金銭等の額のうち、当該株式投資信託について信託された金額を超える部分の金額については配当所得に係る収入金額とされます。ただし、平成19年度税制改正により、居住者が、公募株式投資信託(キーワード参照)について解約請求する場合、交付を受ける金銭等についてはすべて株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額として取り扱われることとなりました。 結果として、公募の株式投資信託については、解約請求であっても、買取請求の場合と同様、払い出された金額は上場株式等の譲渡に係る譲渡収入の金額とされます。 〈投資信託の解約時の所得分類〉   (了)

#No. 189(掲載号)
#箱田 晶子
2016/10/13

マイナンバーの会社実務Q&A 【第20回】「海外赴任から帰国した従業員のマイナンバーの手続きと年末調整」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第20回】 「海外赴任から帰国した従業員のマイナンバーの手続きと年末調整」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 海外の支店で3年間勤務していた従業員が10月1日に帰国し、東京の本社で勤務しています。 この従業員のマイナンバーの手続きと年末調整について教えてください。   〈A〉 1 マイナンバーの手続き 海外の支店に勤務していた期間は日本に住民票がないため、この従業員にマイナンバーは通知されていない。 帰国後住民票が作成されると従業員にマイナンバーが通知されることから、会社は従業員のマイナンバーの取得、保管といった手続きを行う。 2 年末調整 会社は、帰国日の10月1日以後に、従業員に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらい、10月1日から12月31日までに給与及び賞与の支給期が到来するものを対象に、年末調整を行う。 なお、1月1日から9月30日までの海外の支店に勤務していた期間は非居住者であるため、給与は課税されない。 (了)

#No. 189(掲載号)
#上前 剛
2016/10/13

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第17回】「租税法上の評価①」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第17回】 「租税法上の評価①」   公認会計士 佐藤 信祐   前回までは、会社法の観点からの非上場株式の評価について裁判例を紹介した。 本稿以降では、租税法上の観点から非上場株式の評価についての裁判例・裁決例について解説を行う。   1 大阪高裁昭和62年6月16日判決・TAINSコード:Z158-5926 (1) 事実の概要 本事件は、原告らが、粟井機鋼株式会社(以下「訴外会社」という)の株式を従業員等から譲り受けた事件である。 課税庁は、譲り受けた訴外会社株式の譲受価額が、財産評価基本通達に定める中心的な同族株主に該当し、かつ、大会社に該当するとした場合の評価額に比べて著しく低いことから、贈与税の対象とした。 これに対し、原告らは、 と主張して、課税処分の取消しを求めた。 なお、上告審(最高裁昭和63年7月7日判決・TAINSコード:Z165-6134)では、棄却されている。 (2) 第一審(大阪地裁昭和61年10月30日判決・TAINSコード:Z154-5816) (3) 控訴審 控訴審は、第一審の判断をそのまま踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は、納税者の主張を認めず、国側の課税処分を認めた。 本事件で留意すべき点は、零細株主から中心的な同族株主への譲渡を原則的評価方式によるべきと判断したという点である。 たしかに、本事件は、自然人から自然人への譲渡であるため、譲渡人である零細株主において、所得税法59条1項2号に規定するみなし譲渡の問題はない。そのため、譲受人である中心的な同族株主の贈与税の議論のみであるため、一物二価の問題は生じない。 これに対し、もし、本事件の譲渡人が法人である場合には、譲渡人における法人税の議論が問題となり、譲受人が法人である場合には所得税の議論が問題となる。このように、零細株主から中心的な同族株主への譲渡につき、譲渡人では特例的評価方式、譲受人では原則的評価方式になる場合が考えられる。このような場合には、一物二価の問題が生じるため、実務上、どのように処理すべきか議論のあるところである。 この点についての優れた先行研究として牧口晴一・齊藤孝一『非公開株式譲渡の法務・税務(第4版)』中央経済社(平成26年)、森富幸『取引相場のない株式の税務(第2版)』日本評論社(平成25年)があるため、興味のある読者は、是非、参照されたい。 しかし、本事件では、贈与税の議論とはいえ、零細株主から中心的な同族株主への譲渡につき、原則的評価方式によるべきことを明確に示している。本事件を参考にすれば、零細株主から中心的な同族株主が株式を買い集める際には、原則的評価方式によらないと贈与税の議論が生じるということになる。 とりわけ、平成26年改正会社法により、株式併合、株式等売渡請求といった少数株主の締出し手法が整備され、少数株主を締め出すことにより安定的な企業経営を行いたいというニーズは少なくない。多くの場合には、支配株主にとっての株式価値により評価を行っていると思われるが、もし、特例的評価方式により少数株主を締め出した場合には、租税法上の問題が生じる可能性があるという点に留意が必要である。 なお、原告の主張する「自由な立場に立つ売買当事者の合意に基づく適正な価額」という考え方は裁判所に否定されていないと思われるが、さすがに、従業員との取引においてそれを主張することには無理があったということが言える。「自由な立場に立つ売買当事者の合意」というものを広く捉えようとする実務家も存在するが、社会通念を考えて慎重に判断する必要があると言える。 次回では、東京高裁平成12年9月28日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 189(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/10/13

税務判例を読むための税法の学び方【92】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その20:「「交際費」の範囲③」(東京高裁平15.9.9))

税務判例を読むための税法の学び方【92】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その20:「「交際費」の範囲③」(東京高裁平15.9.9))   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   (2) 東京高裁平成15年9月9日 前回は東京地裁平成14年9月13日判決を見たが、これに対して、控訴審はこの原審の判断を覆している。 この裁判例は、裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。 そこでは、交際費の意義として、以下の旨判示する(下線筆者)。 このように、高額であることや冗費濫費であることは要件として否定したが、上記3要件を示したのである。 そして次に、この英文添削の支出の目的について、以下のように判示する。 このように、2つ目の要件である「支出の目的」の点から、交際費該当性を否定したが、続けて3つ目の要件である「行為の形態」の点から、この差額負担の「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」該当性について検討し判示する。 まず初めに、以下のようにその該当性についての前提を提示する。 これに続けて、以下の事実認定(ただしこの中には、「その他これらに類する行為」の法解釈が含まれている)をしている。 続けて、条文にこそ明記されていないが、「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」が、相手の歓心を買う行為であるという本質から、以下の見解を示している。 続けて、上記の「受益する者のみが免税で利益を得ることに対する国民一般の不公平感を防止」という点から、以下のように判示する。 また、この受益の機会が広く開放されていない点の批判について、以下のように判示する。 そして、この受益者の側が「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」を受けていたと認識していなかった点から、以下のように判示する。   5 萬有製薬事件判決の意義 本事案は、受益者の側に、利益を得ていたという認識がなかったものである以上(相場よりも低額ならば利益を得ていたという認識が皆無とは言えないが、だからといって萬有製薬がそれを負担していたと認識していたとは断定できない)、「行為の形態」として「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」ではなかったことから、交際費該当性を否定している。 この「行為の形態」が「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること」という点について、相手方の快楽追求欲、金銭や物品の所有欲、又は歓心を買う行為という特質が重視されている点は、これまでの裁判例とは異なっている。 例えば、「贈答」が単なる「贈与」と同じにとらえ、相手側の認識が不要と考えるのではなく、相手側の認識があってこそ「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」としている点、条文の文意からも正当な判断であり、重要な裁判例といえよう。 ただし、2つ目の要件である「「支出の目的」が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること」は、条文上の根拠はないため、もう少し検討が必要であろう。 なお、国側が上告しなかったため、最高裁が判断をしていないことから、判例とまで言えるか疑問視される点、残念である。 *   *   * 次回は、文理解釈の意義について争われたホステス報酬源泉事件(最高裁平成22年3月2日判決)を取り上げる。 (続く)

#No. 189(掲載号)
#長島 弘
2016/10/13

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第51回】株式会社東芝「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」(後編)

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第51回】 株式会社東芝 「改善状況報告書(2016年8月18日付)」 「改善計画・状況報告書(2016年3月15日付)」 (後編)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【報告書の概要】   【「改善状況報告書」の概要】 去る2016年9月15日、東芝は、特設注意市場銘柄指定から1年が経過したことを踏まえて、「内部管理体制確認書」を東証に提出し、審査を受けることが公表された。 残念ながら、3,000ページに及ぶという「内部管理体制確認書」は非公開ではあるが、その内容については、前編でとりあげた「改善計画・状況報告書(原因の総括と再発防止策の進捗状況)」と、その公表から約5ヶ月後となる8月18日に公表した、「改善状況報告書(以下「状況報告書」と略称する)」がベースになっていることは間違いない。 以下では、「改善計画・状況報告書」における再発防止策がどのように進められているか、前編で紹介した再発防止策との対比で、状況報告書の内容を検証したい。   1 再発防止策の実施状況及び運用状況に関する自己評価(総括) 状況報告書の冒頭で、東芝は自己評価として、次のように総括している。 約1ヶ月後に「内部管理体制確認書」の提出を控えての公表だけに、東芝が、自らに課した再発防止策を着実に実行していることの自負が表れた総括であるといえよう。   2 再発防止策の具体的な実施状況 改善報告書32ページ以下で、再発防止策として挙げた4項目のうち、経営トップらに対する監督強化、内部統制機能の強化及びマネジメント・現場の意識改革に関する進捗状況は、状況報告書において、以下のように説明されている。 (1) 経営トップらに対する監督強化 監査委員会の機能強化については、監査委員会を独立社外取締役5名で構成し、委員長を常勤とすることで、情報収集体制に万全を期し、内部監査部を直轄化するとともに約40名体制であった経営監査部時代から59名まで増員、「内部監査部長の異動に関する請求権及び同意権」が、監査委員会に付与されている。 また、内部通報窓口も監査委員会にも設けたことの効果として、「2016年3月期下期から現在に至るまで多数の内部通報がなされています」としたうえで、監査委員は、執行側の内部通報窓口に通報されたものを含め、「追加調査が必要と思われる案件には調査を行うことを指示」する体制となっていることが説明されている(p.10) 。 (2) 内部統制機能の強化 内部統制機能の強化のうち、「CFO・財務・経理部門による牽制機能強化」の項目を検証すると、CFO選解任議案の同意権を指名委員会に付与することにより、代表執行役社長からの独立性を担保したこと、財務部を主計部と財務管理部に分離するとともに、「会計・税務の知見を有している外部人材を管理職クラス含め8名採用」したこと、カンパニー財務統括責任者の人事権をCFOに移管し、業績評価指標を全社の業績と連動することになったことが説明されている(p.15以下)。 外部人材も一気に8名も中途採用したあたりに、財務・経理部門の抜本的な改革・強化に対する、新経営陣の強い意思を感じる。 また、新しく設置された会計コンプライアンス委員会は代表執行役社長を委員長とし、監査委員会及び内部監査部がオブザーバーとして参加するなか、3月31日に制定された会計リスク・コンプライアンスマネジメント規程のもと、以下のような検討を行っている。 (3) マネジメント・現場の意識改革 マネジメントの意識改革のための施策としては、①トップメッセージの発信、メッセージに対するコメントへの返答、②経営トップらのみを対象とした適正な財務報告やコンプライアンスの重要性に関する意識改革研修の実施、③経営幹部を対象とした360度サーベイの実施と個人別評価結果のフィードバックが挙げられている(p.25)。 また、従業員の意識改革のための施策としては、①階層別、職能別教育の実施、②経理部門以外で会計処理に係る事業企画部門、営業部門等における会計コンプライアンスワークショップの実施、③従業員の意識とコンプライアンス遵守状況を把握するための従業員意識調査(TEAMサーベイ)の実施が挙げられている(p.26)。 360度サーベイについて、人事コンサルティング会社の説明を読むと、「360度サーベイは、能力を評価するものではなく、行動や状態を観察するもの」であり、その導入目的も、「人事評価の仕組みとしてではなく、人材育成、意識改革、組織開発といったテーマで活用」ということである。 東芝は、今回の経営幹部に続き、部長級、課長級以上の管理職へと、360度サーベイの実施範囲を拡大していく方針を打ち出している。経営幹部をはじめとする管理職が他者からどう見られているかを認識し、その結果を踏まえた「成長・開発プラン」を各人が作成し、上司や部下と共有するという東芝の取組みが、どの程度、マネジメントの意識改革に資するかは全く未知数であるが、評価する側の従業員の意識にも、当然、何らかの変化が生じるものと予想される。そうした変化が良い方向に進めば、大がかりな360度サーベイによる効果が発現されたという評価も可能であろうが、結果が顕現するのはかなり先のことになりそうである。   【第三者委員会による調査報告書公表後の経緯】 以上、東芝の「改善計画・状況報告書」及び「改善状況報告書」をもとに、同社の再発防止策への取組状況を検証してきたが、この項では、東芝に生じた金銭的損害と、その損害に対する賠償請求訴訟について、第三者委員会による報告書公表後に明らかになった事実をまとめておきたい。   1 東芝が負担することとなった金銭的損害 東芝が訂正した過去7年間の利益を合計すると2,248億円であったことは、繰り返し報じられてきた。第三者委員会設置後のリリースで、「約500億円」としていた利益の下方修正額は、リリースを公表するたびに拡大してきた格好であるが、それでは、この過年度損益の修正によって東芝が負担することとなった金銭的損害はいくらであったのか。 下記【表-1】は、東芝のリリースから、金銭的損害を抽出したものであるが、合計すると100億円をはるかに超えていることがわかる。 【表-1:東芝が被った(被る可能性のある)金銭的損害】 (※1) 2015年12月7日付「元役員に対する損害賠償請求訴訟について」より。第三者委員会調査費用が含まれると推測できるが、直接の関係は不明。 (※2) 2015年8月26日付「当社に対する損害賠償請求訴訟の提起に関するお知らせ」より。   2 元代表取締役らに対する訴訟の提起とその後の経緯 東芝は、2015年9月9日付で一部株主から、東芝の取締役又は執行役であった者28名に対する、会社法第847条第1項に基づく役員の責任を追及する訴えの提起請求を受けたことを踏まえ、同月17日付で、役員責任調査委員会を設置した。 11月7日、役員責任調査委員会による調査報告書を受領した東芝監査委員会は、元代表取締役である西田厚聰氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏、元CFOの村岡富美雄氏、久保誠氏の5氏を被告として3億円の損害賠償請求訴訟(責任追及の訴え)を提起することを決定したことを発表した。訴訟額の3億円については、当該時点で判明している損害約10億円について、「回収可能性等も勘案した額の賠償を求めることが相当」とする同委員会の報告、提言によって判断したとされている。 その後、前出12月7日付「元役員対する損害賠償請求訴訟について」というリリースにより、証券取引等監視委員会による課徴金納付勧告がなされたことを受けて、元役員に対する請求額の拡張を発表、2016年1月27日付「課徴金の納付等に伴う元役員に対する損害賠償請求訴訟に係る請求拡張の申立て等について」により、請求額を合計32億円に拡大することを公表した。 ここでは、約73億7,000万円の課徴金のうち26億円を、約20億7,000万円の新日本監査法人に対する過年度決算修正に関する監査作業報酬のうち3億円を、それぞれ、元役員に対する拡張した請求額とすることとし、既に請求をしていた3億円と合わせて、合計32億円の損害賠償請求訴訟となったことが説明されている。 【表-2:損害と賠償請求の関係】   【特設注意市場銘柄指定の解除は可能か】 本稿の最後に、東芝の「特設注意市場銘柄」の指定解除の可能性について、これまでの「特設注意市場銘柄指定」会社の動向などを踏まえながら、筆者なりに、現時点における見解を示しておきたい。   1 特設注意銘柄市場への指定状況 日本取引所グループのウェブサイトによると、現在の特設注意市場銘柄指定を受けている社は東芝も含めて4社あり、そのうち、株式会社SJIと株式会社エナリスは、それぞれ特設注意市場銘柄指定から1年を経過したのちに「内部管理体制報告書」を東証に提出したものの、なお、内部管理体制等に問題があることから指定が継続され、当初の指定から1年6ヶ月を経過した日以後に再提出される「内部管理体制確認書」の内容によっては、上場廃止となることが公表されている。   2 過去に指定された会社の状況 特設注意市場銘柄指定制度が始まったのは2007年からであるが、現在、日本取引所グループのウェブサイトで公表されている2011年からでは、指定を受けた社は15社であり、このうち、指定から1年を経過していない東芝を含む2社を除くと、最初の「内部管理体制報告書」の提出により指定を解除された社は3社(株式会社fonfan(大証)、オリンパス株式会社、JALCOホールディングス株式会社)、指定継続後に解除された社は1社(株式会社リソー教育)であり、上場廃止が決まった社は7社を数える。   3 継続指定後に解除されたケース(株式会社リソー教育) ここで、特設注意市場銘柄指定を継続された後、内部管理体制報告書の再提出により、指定解除を受けた唯一のケースである株式会社リソー教育(以下「リソー教育」と略称する)に対する東証の評価と、リソー教育の対応について振り返っておきたい。 2015年9月8日に公表された「特設注意市場銘柄の指定継続 —(株)リソー教育—」というリリースで、東証は、内部管理体制確認書を次のように評価して、特設注意市場銘柄指定を継続した。 これを受けて、リソー教育では、9月17日「代表取締役の異動(辞任)」というリリースを出し、これまで会計不正には責任がないとしてきた創業者である岩佐実次社長が代表権を返上することを発表し、同じく9月25日には、「内部管理体制の改善策」というリリースにおいて、取締役相互間の牽制強化、取締役に対する監視の徹底、改善策の運用状況評価を行うことを公表する。 こうしたリソー教育の取り組みに対して、東証は、10月30日、「特設注意市場銘柄の指定解除及び監理銘柄(審査中)の指定解除:(株)リソー教育」を公表した。その中では、9月6日に不十分であるとした「取締役会の機能強化の有効性を含むコーポレート・ガバナンスの改善に対する取り組みの状況に関して、社外取締役を含む各取締役への情報連携等が適切に行われており、取締役間の相互牽制機能の向上が図られていることが確認できました」と評価している。   4 東芝の指定は早期に解除されるか 冒頭でも述べたとおり、東芝は、2016年9月15日に「内部管理体制確認書」を東証に提出し、現在、特設注意市場銘柄指定を解除するかどうかの審査を待っているところである。本稿でとりあげた、「改善計画・改善状況報告書」および「改善状況報告書」の公表は、特設注意市場銘柄指定からの早期指定解除を睨んだ施策の一つであることは言うまでもない。 公表された改善策について、筆者は、概ね妥当なものであり、また、会計不正が行われていた時の取締役等がほぼ一掃されているところから、指定解除については、もともと楽観的であった。懸念材料の一つであった足元の業績についても、8月12日に発表した2017年3月期第1四半期決算で6四半期ぶりの黒字となるなど、コスト削減策が進んでいることがうかがえる点も評価できよう。 加えて、「改善状況報告書」では、東芝が再発防止策の実施に真摯に取り組んでいる様子が説明されていることも確かである。 一部の報道では、年内にも東証の結論が出る可能性があり、筆者の予想が外れて恥ずかしい思いをするかもしれないが、会計不正発覚後――より正確に記せば、ウエスチングハウス社の減損を公表して以後――の東芝経営陣が、真摯に改善策・再発防止策に取り組んでいること、2016年6月の株主総会において取締役がほぼ一新されたことなどから、東芝の特設注意銘柄指定は、9月15日に提出された「内部管理体制確認書」により、解除される可能性が高いのではないかという筆者の予想を結びとして、本稿を締め括りたい。 (了)

#No. 189(掲載号)
#米澤 勝
2016/10/13

金融商品会計を学ぶ 【第29回】「ヘッジ会計⑩」

金融商品会計を学ぶ 【第29回】 (最終回) 「ヘッジ会計⑩」   公認会計士 阿部 光成   引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 繰延ヘッジ損益の会計処理 繰延ヘッジ損益の会計処理は、次のようになる(金融商品実務指針174項~176項、345項。「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(企業会計基準第5号)8項)。   Ⅱ ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときの会計処理 1 ヘッジ会計の「中止」と「終了」 ヘッジ会計の要件が充たされなくなったときの会計処理には、「中止」と「終了」がある(金融商品会計基準33項、34項、108項、109項)。 ヘッジ会計の要件が充たされなくなったとき以後のヘッジ手段に係る損益又は評価差額を繰り延べることはできない(金融商品会計基準110項)。 「中止」と「終了」の会計処理は次のようになる(金融商品実務指針180項、181項、348項)。 2 ヘッジ会計終了時点における損失の見積り ヘッジ会計の要件を満たさなくなったことによりヘッジ会計の適用を中止した場合、ヘッジ対象に係る含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積もり、当期の損失として処理しなければならない(金融商品会計基準33項)。 これは、ヘッジ会計の適用を中止した後の相場変動等により、ヘッジ対象に係る含み益が減少して、ヘッジ手段に係る損失又は評価差額(評価差損)に対して重要な不足額が生じている場合をいい、損失部分の見積額として損失処理すべき金額は、当該不足額のうち、ヘッジ会計の適用を中止した後におけるヘッジ対象の相場変動に相当する部分の金額である(金融商品実務指針183項、349項、350項)。   Ⅲ 終わりに 「金融商品会計を学ぶ」については今回の「第29回」で終了することとなる。 金融商品会計については、金融商品会計基準、金融商品実務指針、金融商品会計に関するQ&Aなどの多くの会計基準等が公表されている。 このため、金融商品に関する会計処理及び開示を行うにあたっては、どの会計基準等に規定されているのか、金融商品に係る契約内容はどのようなものか、当該取引を行う企業の意図は何かなどについて、十分に検討することが必要となる。 今回の連載が、少しでも実務に役立つことを期待している。 (連載了)

#No. 189(掲載号)
#阿部 光成
2016/10/13

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第125回】金融商品会計⑬「金利スワップの特例処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第125回】 金融商品会計⑬ 「金利スワップの特例処理」   仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 素村 康一     〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) 〔X1年4月1日 借入れ及びスワップ契約締結時〕 〔X2年3月31日 決算日及び利払日〕 (※1) 借入金利息:100,000×0.5%=500 (※2) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.5%)=1,500 (※3) 特例処理では金利スワップを時価評価しない。 〔X3年3月31日 決算日及び利払日〕 (※4) 借入金利息:100,000×0.8%=800 (※5) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-0.8%)=1,200 〔X4年3月31日 決算日、利払日及び返済日〕 (※6) 借入金利息:100,000×1.2%=1,200 (※7) スワップ契約純受払額:100,000×(2.0%-1.2%)=800   〈会計処理の解説〉 ヘッジ会計の要件を満たす金利スワップは、時価評価したうえで評価差額を貸借対照表に計上します(金融商品に関する会計基準(以下、「金融商品会計基準」とします)第32項)。 ただし、金利スワップの想定元本、利息の受払条件(利率、利息の受払日等)及び契約期間が当該資産又は負債とほぼ同一である場合には、金利スワップを時価評価せず、その金銭の受払の純額等を当該資産又は負債に係る利息に加減して処理することも認められます(金融商品会計基準注14)。 実務上はこの特例処理を採用しているケースが多いと考えられます。 ここで、金利スワップの想定元本、利息の受払条件及び契約期間がほぼ同一である場合とは、以下の条件をすべて満たすことをいいます(金融商品会計に関する実務指針第178項)。 【金利スワップの会計処理まとめ】 ※11月はESOPの会計処理を取り上げます。 (了)

#No. 189(掲載号)
#渡邉 徹、素村 康一
2016/10/13

「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第11回】「まとめ」

「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第11回】 (最終回) 「まとめ」   弁護士 鈴木 郁子   1 はじめに これまで10回にわたり、会社が従業員を解雇する場合の実務とそのリスクや対応策について解説してきたが、解雇の要件は、従業員側に原因のある普通解雇(【第4回】~【第8回】)、懲戒解雇(【第9回】)、会社側の経営状態を理由とする整理解雇(【第10回】)によってそれぞれ異なるものの、一般に思われているよりも遥かに難しいものであることがご理解いただけたと思う。 雇用契約はそもそも当事者の合意に基づくものであるところ、解雇は会社側による雇用契約の一方的な意思表示であり、これにより従業員は生活の基盤となる収入を失うことになる。したがって、解雇が有効とされるためには極めて厳しい条件が課されるのである。 とはいえ、当該従業員に辞めてもらわなければ他の従業員の士気が低下する等、企業活動に支障が生じるケースがあるのも確かである。 この連載の最終回である本稿では、解雇の難しさを前提に、これまで論じたところと一部重複する部分はあるものの、辞めてもらいたい従業員にする会社側の対応策について、時系列により網羅的に論じてみたい。   2 採用・雇用契約締結段階の工夫 (1) 雇用契約書と誓約書 まず大前提として、一度雇用契約を締結してしまったら、当該従業員を解雇により一方的に辞めさせるのは非常に困難である。いったん採用したら、一方的に辞めさせることはできないという覚悟を持つことが必要である。 そのために、まずは提出書類の記載に虚偽がないか、面接の受け答えに問題・不自然な点がないか等、慎重に確認してほしい。 また昨今、入社直後にメンタルヘルス等の問題が発生するケースも多く見られるが、確認してみると、実は前職でも休職の事実があったことが発覚することがある。このようなことにならないよう、職歴や既往症の有無、前職での休職の有無については、雇用契約締結時に誓約書等の形で申告させておいた方がよい(その際は、事実と異なる場合には採用取消ないし解雇することがあるとの条項を加えておく)。 これにより、誓約書の内容に虚偽があった場合に直ちに解雇できるわけではないものの、実務上、合意退職が成立しやすくなる(【第8回】2を参照)。 また、特に中途採用の場合には、一定の能力や経歴があることを期待して採用することも多いが、能力不足や適格性欠如を理由として解雇するには、雇用契約の内容として、その地位・職務・職種に期待されている事項が特定されている必要がある(【第5回】を参照)。 したがって、雇用契約書には、当該従業員の採用の前提となった職務経験、採用後に想定される職務内容や期待値、それらが給与・処遇等に結びついていることを明示すべきである。 (2) 試用期間の活用 採用は慎重に行わなければならないとしても、面接だけでは、当該従業員が会社に相応しい従業員か否か、判断できないことも多い。したがって、何かしら採用に不安のある従業員である場合は当然のこと、そうでない場合にも、必ず試用期間を設けるようにしたい。 試用期間があることをもって内定を断る者は通常いないだろう。そして、試用期間中の就業状況をみて問題があるのであれば、正社員としての採用を拒否した方がよい。正社員としての採用拒否も解雇の一種であり、解雇権濫用法理は適用されるが、正社員登用後より適用は緩やかである。また、本人自身も試用期間中であれば退職につき納得を得られやすく、解雇を争わず、また、退職勧奨にも応じやすい。 それでも正社員として登用するのであれば、繰り返し述べてきたように、その直後に解雇することはできないと覚悟すべきである。また、少なくとも、正社員登用時に本人の問題行動の解消等を雇用継続の条件等とする等の雇用契約書を締結し直しておいた方がよいだろう(【第6回】参照)。 (3) 期間の定めのある雇用契約の活用 また、期間の定めのある雇用契約を活用する方法もある(【第1回】参照)。つまり採用に不安の残る場合には、期間の定めのある雇用契約を締結し様子を見るというものである。 期間の定めのある雇用契約の場合、契約期間中は、会社が一方的に雇用契約を終了することはできないが(期間の定めのない場合より厳しい)、期間が終了しさえすれば、原則として雇用契約を終了させることができる。 期間の定めのある場合であっても雇止めの問題はあるが、雇止めと期間の定めのない場合の解雇とでは、雇用契約の終了のしやすさが全くといっていいほど異なる。   3 雇用契約締結後の工夫 ~従業員の問題行動等の証拠化と告知 解雇が有効であることの立証責任は会社にある。解雇の種類・理由によって細かい要件・考慮要素は異なるが、結局のところ、当該従業員に会社を辞めてもらわなければならない理由があること、それが重いものであること、会社として解雇を回避するために従業員に問題性を指摘し、改善の機会等を与えるなどの努力をしてきたこと等を、会社が証拠をもって立証する必要がある。 したがって、まずは、会社は、逐次、従業員の問題行動・就業状況等についての証拠化に努める必要がある。そして、適宜本人にフィードバックして伝え、本人の言い分を確認する。必要があれば懲戒処分を行い、これに至らずとも、注意等を行い、本人の問題性を自覚させ、このようなことが続くようであれば解雇がありうることを告げる。注意や告知した事実自体も記録する(詳細は【第6回】4を参照)。 人事評価制度がある場合には、本人の問題行動や就業状況等については必ず評価に反映させ、評価結果の本人に対するフィードバックの際にそのことを告げるべきである。 また、本人に改善の機会を付与するために配置換えを行った場合には、そのことを告げることも忘れないようにしたい。解雇が争いとなった場合に「改善の機会を付与した」と主張するには、本人に改善の機会が付与されたことの認識が必要だからである。 横領行為などの不正がある場合は別として、解雇は、これらの対応の積み重ねによって初めて実現可能なものとなる。   4 退職勧奨の検討 (1) 解雇リスクの検討 実際に会社が解雇に踏み切る前には、解雇を行うことのリスクを十分に検討していただきたい。 裁判での争いとなった場合、解雇の判断は裁判官により異なる可能性もあり、万一その解雇の無効が確定すると、それまでの間のバックペイ及び遅延損害金が発生する上に、最終的には復職を認めざるを得なくなる。 また、解雇の有効が確実視される事案であっても、残業代やパワハラ等、他の労働問題もあわせて争われたり、弁護士費用等・手続的負担のリスクがある。 これらリスクの詳細については、【第2回】及び【第3回】を参照されたい。 (2) 退職勧奨の検討 さらに、退職勧奨による合意退職の余地がないのか、という点も検討が必要である。退職勧奨をしてみても合意退職が成立しない場合に、解雇の検討を行えばよい。 また、解雇の有効性が微妙な事案であればなおさら、解決金の支払による合意退職の成立を検討してほしい。これが争いとなった場合の敗訴リスク、他の問題が顕在化するリスク、弁護士費用・手続的負担、いつまでも解決未了のままとなるリスク等を考えれば、一定の解決金を支払ってでも合意退職の形で解決した方が、会社にとって全体的な見地からは好ましい事案も少なからずあるはずである。 なお、退職勧奨は許されないと考えている会社関係者がいるが、これは誤解である。退職勧奨は、従業員に対して退職を促すための事実上の行為でしかなく、退職するか否かの決定権は従業員に残されており、退職勧奨自体で何らかの法的な効力が発生するわけではない。したがって、使用者による退職勧奨は原則として自由である。 もっとも、退職勧奨が社会的に相当な手段・方法によって行われ、強要に当たってはならないので、その実行には十分な注意が必要である。また、退職勧奨の結果、退職合意が成立した場合には、事後的に合意の効力を争われることを避けるために、必ず、これを合意書の形にする必要がある(本稿の論点から外れるのでここでは論じないが、退職勧奨については、筆者ホームページの「会社目線の労働コラム」で論じているので参考にされたい)。   5 それでも解雇の選択をする場合 上記の検討を行ったうえで、それでも解雇を選択するときには、解雇予告(解雇予告手当の支払)、解雇理由書の交付等を含め、解雇手続を正しく履践しなければならない(詳細は【第4回】を参照)。 その結果、裁判で争わることになったとしても、訴訟の判決が確定するに至るまで、いつでも従業員側との話し合いにより、何らかの形で解雇紛争を決着させることは可能である。 交渉→労働審判→訴訟と、時が経過し、手続が進行すればするほど、合意の成立は困難となるし、解決金の支払が必要な場合の解決金の金額は一般に多額となる。とりわけ、交渉段階で本当に労働審判・訴訟になってしまってよい事案か否か、十分な検討が求められる(詳細は【第3回】を参照)。   (連載了)

#No. 189(掲載号)
#鈴木 郁子
2016/10/13

税理士業務に必要な『農地』の知識 【第2回】「農地法と農業委員会(その1)」

税理士業務に必要な 『農地』の知識 【第2回】 「農地法と農業委員会(その1)」   税理士 島田 晃一   今回から2回にわたり、農地法及び農業委員会について見ていきたい。 「農地法」とは、農地や採草放牧地の取扱いを定めた法律である。   1 農地の定義(農地法第2条) 農地の定義については、農地法第2条において、 とされている。 このなかで、「耕作」とは、土地に労費を加え肥培管理(作物の成育を助ける農作業一般のこと)を行って作物を栽培することをいい、耕作の目的に供される土地は現に耕作の用に供されている土地の他、現在は耕作されていなくても耕作しようとすればいつでも耕作できる状態の土地を含むとされている。 税務上における農地の定義は、この農地法第2条に即している。例えば、農地の納税猶予の対象になる農地・採草放牧地は、原則として農地法第2条に規定する農地・採草放牧地と定められている。 農地法における農地の定義は前述したように「耕作の目的に供される土地」である。したがって、ビニールハウスや温室のように土地に直接栽培していれば農地として認められる。逆に、コンクリートやアスファルトで固めた部分や農機具庫や貯蔵倉庫の敷地は農地とは認められない。 また、農地であるか否かは、不動産登記における地目ではなく、その土地の状態により客観的に判定される。固定資産税の課税においては登記地目が「田」や「畑」となっていても、市町村が該当地の実施調査を行い宅地と判断されれば宅地として課税される。 なお、最近の一部報道では、農地法を改正し、野菜生産工場の敷地も農地とするよう検討がされていると伝えている。仮にこのように農地法が改正されたならば、農地の財産評価や納税猶予の適用についても見直しがなされると考えられる。   2 農地の売却に伴う許可(農地法第3条における許可) 宅地を売却する際に行政庁から許可を得る必要はないが、農地を売却したり有償又は無償で賃貸する場合には、農地法に基づいて行政庁の許可や届出が必要になる。これは、投機目的の農地の売買を禁止し、より効率的な農業経営を行う者に農地取得を誘導するために設けられている規定である。 具体的には、農地法において次のように定められている。 この第3条の許可(3条許可)は、農地等を他の用途に転用せずそのまま農地等として所有権移転や賃借権の設定を行う場合に受けなければならないものである。3条許可を受けないで行った行為は無効となる。むろん所有権移転登記もできない。 3条許可を受けるためには、次のすべての要件を満たす必要がある。 取得者が新規就農者であるときは、農業委員会に「新規就農承認願」及び「就農計画書」を提出しなければならない。また、(3)の一定の面積は原則として5,000㎡以上である必要があるが、各市町村の農業委員会が別段の面積を定め公示したときは、その面積が下限になる(実際に下限面積を3,000㎡としている自治体もある)。 許可申請の手続きは、許可申請書に土地の全部事項証明書や公図、見取り図など一定の書類を添付し、その農地の所在する農業委員会に提出する。 相続・遺贈により相続人等が農地を取得した場合には、許可を受ける必要ないが、農地法第3条の3第1項の規定により、農業委員会にその旨を届け出なければならない(贈与の場合には届出ではなく許可が必要)。届出書には、農地を譲渡・取得等した者の氏名や農地の所在地、農業委員会の第三者へのあっせんの必要の有無等を記載する。 この規定は平成21年12月の農地法改正により新たに設けられた規定であり、それ以前は必要なかったので、届出制度を知らないクライアントも多いと思われる。 農地の相続を担当するときには必要な知識になるので、是非覚えておきたい。   3 農地の転用・売却に伴う許可(農地法第5条における許可) 農地法第5条の許可(5条許可)は、農地等を宅地等に転用するため売却したり賃借権の設定を行う場合に受けなければならないものである。 具体的な条文は次のとおりである。 条文を見ると、5条許可は都道府県知事が行うことになっているが、実務上は農業委員会を経由して都道府県知事等に申請書を提出する形になる。 許可の基準には「立地基準」と「一般基準」がある。立地基準とはその農地が所在している場所が許可の可否基準になるものである。例えば、その農地が農用地区域内など農地として維持することが必須である地区内にあるときは原則として許可がおりない。 また、都市計画法における市街化区域に所在する農地については許可は不要であり、農業委員会へ届出を行えば売却・転用を行うことができる。 詳しくは次回において述べる。 (了)

#No. 189(掲載号)
#島田 晃一
2016/10/13
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