《速報解説》 平成29年度税制改正大綱(与党大綱)が公表 ~居住用超高層建築物に係る固定資産税等の算定方法・広大地の評価方法見直し、 中小企業向け賃上げ・設備投資減税の拡充等を措置 Profession Journal編集部 (※) 追記のお知らせ(2016/12/10) 自由民主党・公明党は昨日(平成28年12月8日)、「平成29年度税制改正大綱」(与党大綱)を公表した。 今回の大綱の取りまとめにあたっては、政府が「働き方改革」を推進する中、就業調整により女性の社会進出を妨げていると批判の多い配偶者控除制度がどのように見直されるかが大きな焦点となっていた。 また、タワーマンションの高層階を利用した節税策や海外居住による国外財産の相続税等課税逃れについて、一定の対策が採られる形となった。さらに広大地の評価見直しも行われるなど、従前より指摘されていた資産課税における節税策に歯止めがかけられる。 企業活動を後押しする税制上の措置としては、中小企業に向けた賃上げや設備投資に係る減税措置が拡充される一方、一定の平均所得のある事業年度は中小企業向けの各租税特別措置の適用が停止されるなど、企業活動への影響の大きい改正も織り込まれている。 以下、実務への影響の大きい改正内容を概観する。なお、重要な改正事項については、個別に速報解説を公開していくので、そちらも合わせて参照されたい。 また、こちらの資料リンク集ページも今後更新を重ねていくので、ログインの上、ブックマークボタンを押すなどして確認できるようにしていただきたい。 〇高層階マンションの固定資産税額は階層の差異により補正、広大地は形状・面積に基づく評価方法へ見直し 眺望等の理由で市場価格の高い、タワーマンションの高層階を使った節税策への対応として、高さが60mを超える居住用超高層建築物について、一棟の固定資産税額を各区分所有者で按分する際に用いる専有部分の床面積について、階層の差異を反映した補正率による補正が行われることとなった(平成30年度から新たに課税されるものから適用(H29.4.1前の売買契約が締結された住戸を含むものを除く))(大綱p42)。 広大地について、現行の面積に比例的に減額する評価方法を「各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する」との記載がなされた(大綱p61)(H30.1.1以後の相続等により取得した財産の評価から適用)。今後の通達改正の動向に注視が必要だ。 また、取引相場のない株式の評価方法のうち類似業種比準方式について、配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重を現行の1:3:1から1:1:1とし、類似業種の上場会社の株価の急激な変化への影響を緩和する等の見直しが行われている(H29.1.1以後の相続等により取得した財産の評価から適用)(大綱p61)。 さらに国外財産への課税強化として、日本国籍を有する5年超の非居住者(相続人等及び被相続人等)に係る国外財産の相続税・贈与税を課税対象外とする規定については非居住期間を10年に見直すこととされた(H29.4.1以後に相続等により取得する財産に係る相続税・贈与税から適用)(大綱p42)。 また、事業承継税制(非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度)については、災害等の被災者が適用を受ける場合の雇用確保要件・事前役員就任要件の緩和、相続時精算課税制度に係る贈与を贈与税の納税猶予制度の対象に加える(併用を認める)などの措置がとられる(大綱p41)。 その他、持分なし医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人が出資持分の放棄により受けた経済的利益について贈与税を課さないとする措置が盛り込まれている(大綱p48)。 〇配偶者特別控除の控除対象配偶者の合計所得金額上限を拡充、世帯主の合計所得金額1,000万円超は適用外 配偶者控除については当初、政府税調による答申を踏まえ制度廃止を含む抜本的改革が行われる予定であったが、今回の大綱では現行制度の見直しにとどめ、基礎控除をはじめとする人的控除等の見直しを今後数年かけて取り組むとした。 具体的には、配偶者特別控除について所得控除額38万円の対象となる配偶者の合計所得金額の上限を85万円に引き上げ(※)、配偶者特別控除の控除対象となる配偶者の合計所得金額を38万円超123万円以下(現行:38万円超76万円未満)とした。また、世帯主の合計所得金額により控除額が3段階で縮小する形とし、1,000万円を超える場合は配偶者控除・配偶者特別控除が適用できないこととなる。平成30年分以後の所得税(及び平成31年度分以後の個人住民税)から適用(大綱p17)。 (※) 現行では、配偶者特別控除のうち所得控除額38万円の対象となる配偶者の合計所得金額は「38万円超40万円未満」だが、改正案では「38万円超85万円以下」となる(ただし改正案では世帯主所得により控除額が異なる)。 なお、大綱の冒頭では、いわゆる「103万円の壁」は配偶者特別控除により「解消されている」としながらも未だ心理的な壁として作用しており、103万円が企業による配偶者手当制度等の支給基準に援用されていること等から見直しが必要とした上で、企業に対しては「就業調整問題を解消する観点からの見直しを行うことを強く要請する」としている(大綱p3)。 〇所得拡大促進税制は前年度からの増加分を控除税額に反映、設備投資減税は適用対象を拡充 賃上げの実効性をより高めるため、所得拡大促進税制について、中小企業者等以外の法人に対しては賃上げの増加割合の基準を明確化、控除税額について現行の控除額に前事業年度からの増加分の一定割合(中小12%、中小以外2%)を加える形とする(大綱p65)。本制度については創設当初より適用に当たって判断に迷う事項が多く適用失念のケース等混乱が見られたが、今回の改正に当たってもより慎重な対応が必要となろう。 また、一定の経営力向上設備等の取得による固定資産税の半減特例は残余2年間に限り地域・業種を限定した上で、対象に一定の工具、器具備品並びに建物附属設備を追加(大綱p53)。H29.3.31で適用期限を迎える中小企業投資促進税制については、対象資産を見直したうえで2年延長し、上乗せ措置(生産性向上設備等に係る即時償却等)は中小企業経営強化税制として改組、すべての器具備品及び建物附属設備を対象とする(H29.4.1~H31.3.31)(大綱p73)。商業・サービス業・農林水産業活性化税制も2年延長(大綱p75)。なお、生産性向上設備投資促進税制は昨年度改正で平成29年3月31日の廃止が決定されているが、中小企業向けの上乗せ措置は上記の通り改組となっているため留意したい。 なお、注目すべき改正として、平成31年4月1日以後開始事業年度から、平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)が年15億円を超える事業年度について、法人税(及び法人住民税)関係の中小企業向け各特例措置の適用が停止されることが明記された(大綱p90、91)。具体的な特例措置は記載されていないが、該当する場合の経営へ与える影響は大きい。 研究開発税制については来年3月31日で期限切れの増加型を廃止(高水準型は2年延長)、総額型の控除率を試験研究費の増減割合に応じたものとする仕組み等を導入し、「試験研究」の範囲に「サービス開発」が追加される(大綱p62)。 その他、地域経済に波及効果のある新たな事業に挑戦するために設備投資を行った場合の特例措置(特別償却・税額控除)として「地域中核企業向け投資促進税制」が創設される(大綱p73)。 また、「コーポーレートガバナンス改革・事業再編の環境整備」を目的として、役員給与税制について利益連動給与の算定指標の追加や事前確定届出給与の対象に所定の時期に確定した数の株式を交付する給与を追加する等の見直しが行われたほか(大綱p67)、既報の通り問題のあった上場企業の株主総会の開催時期柔軟化を図るための法人税の申告期限の延長可能月数拡大(大綱p66)、組織再編税制においてはスピンオフの円滑化への対応や、昨今の租税訴訟を受けてか適格要件の見直し等が盛り込まれた(大綱p68)。外国子会社合算税制(CFC税制)は租税負担割合基準(トリガー税率)を廃止し、企業のビジネス実態を十分に踏まえ合算対象の基準を総合的に見直す措置が講じられた(大綱p111)。 〇リフォーム減税の対象に「耐久性向上改修工事」を追加、積立NISAは2018年から 住宅の増改築や省エネ改修工事等に係る税額控除制度の適用対象となる工事に、新たに一定の耐久性向上改修工事が加えられる(大綱p22)。耐久性向上改修工事の詳細は大綱p23を参照されたい。 少額の長期投資に適合した積立NISA(非課税累積投資契約に係る非課税措置)は、非課税限度枠が年間40万円、非課税期間は20年で決着、2018年の創設となった(大綱p20)。なお、大綱では「複数の制度が並立するNISAの仕組みについて、少額からの積立・分散投資に適した制度への一本化を検討する」としている(大綱p8)。 〇期限切れとなる特例措置は? 適用期限が終了する特例措置のうち、主要なものの結果は次の通り。 中小法人の年800万円以下の所得金額に対する15%の法人税軽減税率は2年延長(大綱p76)、サービス付き高齢者向け賃貸住宅の割増償却制度は、適用期限の到来をもって廃止(大綱p88)(所得税も同様。固定資産税・不動産取得税の特例措置は要件見直しの上2年延長(大綱p59))、特定の資産の買換えの場合等の課税の特例は、一部適用対象を除外した上で3年の延長が決まった(大綱p89)。 また土地の売買による所有権移転登記等に対する登録免許税の税率軽減は2年延長、住宅用家屋の所有権の保存登記若しくは移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率軽減は3年延長(大綱p50)。 さらに現在適用が停止されている、短期所有土地の譲渡等をした場合の土地の譲渡等に係る事業所得等の課税の特例は停止措置の期限を3年延長、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例は適用期限を3年延長となった(大綱p25)。 〇災害に関する税制特例を常設化 災害が発生した際の税制上の特例措置については、これまで災害ごとに税制上の対応が行われてきたが、近年災害が頻発していることを踏まえ、災害への税制上の措置(住宅ローン控除や住宅取得資金等贈与特例、災害損失の繰戻し還付等)を常設化することとした(大綱p28、44、80、104)。 〇次年度以降の改正動向にも注視 今後の動向として注意したいのが、早ければ来年の通常国会にも法案が提出される見込みの成年年齢引下げを目的とした民法改正に対し、「税制上の年齢要件については、対象者の行為能力や管理能力に着目して設けられているものであることから、民法に合わせて要件を18歳に引き下げることを基本として、法律案の内容を踏まえ実務的な観点等から検討を行い、結論を得る」としている(大綱p133)。平成30年度税制改正に向けた動向に注目したい。 さらにBEPSを踏まえタックスプランニングなどの施策を国へ報告する「義務的開示制度」については、大綱最終ページ(p139)において「諸外国の制度や運用実態及び租税法律主義に基づくわが国の税法体系との関係等も踏まえ、わが国での制度導入の可否を検討する」とした。 (了)
《速報解説》 広大地、形状・面積に基づいた評価方法へ見直し、適用要件の明確化も ~平成29年度税制改正大綱~ 税理士 風岡 範哉 1 広大地補正見直しへ 平成28年12月8日に公表された「平成29年度税制改正大綱」(与党大綱)において、「相続税等の財産評価の適正化」として広大地補正の見直し案が盛り込まれた(大綱P61)。 広大地とは、①その地域において標準的な宅地の地積と比べて著しく地積が広大な宅地で、②都市計画法に定める開発行為を行うとした場合に道路や公園等の公共公益的施設用地(潰れ地)の負担が必要となる宅地をいう(財産評価基本通達24-4)。 つまりは、面積が1,000㎡以上(三大都市圏では500㎡)の宅地で、戸建分譲を行う場合に道路等の負担が必要となる宅地である。 2 現行制度 現行制度においては、広大地に該当すると、土地の間口や奥行、不整形といった土地の形状を加味せず、以下の算式のとおり、面積だけで評価額を算出するというものである。 3 現行制度の問題点 今回の税制改正の理由としては考えられるのは、以下の4点である。 第一に、広大地補正は面積に応じて比例的に減額する評価方法であり、土地の形状が加味されていないことから、整形な広大地であっても不整形や無道路の広大地であっても評価額は同額となってしまうことである。 第二に、広大地補正は評価が40%以上最大65%(※)下がることから減額割合が大きく、取引価格と大きく乖離している事例が多数発生していることである。 第三に、富裕層の節税策に利用されているということである。 筆者の知る限り広大地が節税策に濫用されている印象はないが、広大地を複数所有するような階層は富裕層であり、その評価を低くするということは富裕層優遇であるということが背景にあるとも考えられる。 節税策として強いていうのであれば、地積が1,000㎡以上であれば広大地に該当するのに対し、所有地が950㎡である場合に広大地に該当するように隣地を50㎡買い増すといった節税策や、道路付けが良いことで広大地に該当しないと判断される場合に一部を駐車場にするなどして道路付けを悪くし広大地の適用が受けられるようにするといった節税策が考えられる。 第四に、適用要件が不明確ということである。 広大地は、(イ)著しく地積が広大といえるか否か、(ロ)公共公益的施設用地(潰れ地)の負担が必要となるのか否か、(ハ)マンション適地であるか否か、(ニ)現に宅地として有効活用されているか否か、(ホ)その地域とは何をさすのかなどといった点で適用できるか否かの判断が困難となっている。 4 改正案 この問題に対応するため、税制改正大綱においては、「現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する」とされた(大綱P61)。 具体的な評価方法について大綱には記載されていないが、一案としては、以下の算式のとおり、各土地の位置、形状に応じた画地補正と広大地補正(改正後は規模格差補正)を併用した方法が検討されているとのこと。 (※) 自由民主党税制調査会資料を参考に筆者作成。 5 改正の影響 今回の改正は増税の方向にあると考えられる。土地の形状が評価に反映されていないというのであれば、現行の広大地補正率に加えて画地補正率を設ければよいからである。 実際の改正理由は、取引価格と相続税価格が乖離する、それにより富裕層の節税策に利用されているというところであるから、改正後の評価額は増額することが考えられる。 なお、実務の上では、広大地補正の適用ができるのか否かの適用要件が不明確であることが最も重要な問題であることから、今回の税制改正により適用要件が明確化されることに注目される。 (了)
【重要】 プロフェッションジャーナル《速報解説》の 無料会員様への公開開始について 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 先週ご案内させていただきましたとおり、このたび、本誌の『試し読み』という位置づけで、本日午前10時より、本誌掲載の《速報解説》を、無料でご登録可能な一般会員様へ公開させていただきました(非会員の方はご覧いただけません)。 本誌の《速報解説》は、日々公表される税務・会計情報から重要性の高いものをピックアップし、コンパクトにそのポイントを解説する「随時更新コンテンツ」です。 この機会に一般会員へのご登録をいただき、情報のブラッシュアップにお役立て下さい。 なお、本誌掲載記事の大半を占める解説記事(毎週木曜日公開)につきましては、今後もプレミアム会員の方々のみご覧いただけます(※)ので、過去掲載分も含め、プロフェッションジャーナルのすべての記事が閲覧可能なプレミアム会員へのご登録を、ぜひご検討下さい。 (※) こちらのページで無料公開しているもの等一部を除きます。 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。
《速報解説》 所得拡大促進税制の適用要件の見直しと 中小企業者等向け控除税額の拡充について ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成28年12月8日、与党(自由民主党及び公明党)より「平成29年度税制改正大綱」が公表された。 平成29年度の税制改正においても、企業収益の拡大が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資のさらなる増加に結びつくという経済の好循環を強化するために、賃上げの引上げを促すための取り組みを進めるとの考え方が示されている。 賃上げの促進に関しては、かねてより、所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が整備され、政策目標を着実に達成させるべく、過去数回の改正が行われてきたところである。平成29年度の税制改正大綱においても、上述の考え方を踏まえ、企業にさらなる賃上げインセンティブを与える機能を強化する観点から、直近において高い賃上げを行う企業への支援を強化するための改正が盛り込まれた。 本稿では、平成29年度税制改正大綱において示された、所得拡大促進税制の見直しの内容について述べる。なお文中意見にわたる部分は筆者の私見である。 2 所得拡大促進税制の適用要件(現行制度) 本税制の適用を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要がある(措法42の12の4①)。 (※) 増加促進割合 3 改正点① 適用要件の見直し(中小企業者等以外の法人) 中小企業者等以外の法人について、本税制の適用要件のうち、平均給与等支給額に係る要件が見直されることとなった。 現行制度では、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を「超える」ことが要件とされているが、平成29年度の税制改正により、以下のように変更される。 平均給与等支給額は、2事業年度にわたり在籍する従業者(継続雇用者)の1人当たり・1月当たりの給与支給額を示す指標であるが、より一層の賃上げを促進する観点から、平均給与等支給額の増加幅について具体的な指標を用いて明確化するための改正であると考えられる。 なお、本改正は中小企業者等には適用されない。 4 改正点② 控除税額の上積み(中小企業者等) 中小企業者等の所得拡大促進税制による控除税額については、以下の2つの合計額とされる。 (2)の要件は、特に、前事業年度からの賃上げに対して追加的インセンティブを付与するものであり、中小企業者のさらなる賃上げを後押しするための改正であると考えられる。 なお、本改正は中小企業者等以外の法人には適用されない。 (注) 中小企業者等以外の法人の場合、上記(2)の12%が2%となる。 5 地方税への影響 事業税(外形標準課税)の所得拡大促進税制の取扱いについても、上記2点と同様に改正される予定である。 また中小企業者等については、所得拡大促進税制による税額控除は住民税(法人税割)の計算にも及ぶ点は従来と変わらない。 (了)
2016年12月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.197を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第48回】 「宝くじに係る課税と所得の実現(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅰ 課税の時期の原則(承前) 2 実現概念(承前) (3) 収穫基準と所得税法 上記のとおり、Eisner v. Macomber事件において、所得の実現を決定付けたメルクマールは、“Derived-from-capital”-“the gain-derived-from-capital”である。すなわち、分離(separate)させて利用したり、利益を享受したりすることのできる利得こそが所得であるとしているのであるが、これは我が国所得税法においても採用されている考え方であると思われる。 例えば、所得税法41条《農産物の収穫の場合の総収入金額》は次のように規定している。 このように、その者が農産物を収穫した時に収穫した時の価額により収入があったものとみなされ、その収穫物を他に売却した時の所得計算に当たっては、その収穫価額を取得価額として計算することとされている(武田昌輔『コンメンタール所得税法〔3〕』3451頁(第一法規加除式))。 所得税法は権利確定主義を採用しており、そこでは、収入実現の蓋然性が高いといえるときに所得を認識するという考え方が採られている。そうであるとすれば、本来的には、単に収穫をしたのみで所得を認識するのではなく、これを他に売却し、経済的価値の流入がある場合、若しくは経済的価値の流入の蓋然性が高い場合になって初めて所得が認識されるのであるから、収穫の段階は原則的な所得認識の例外であるといえよう。つまり、例外的に所得認識の時期を早めているのが、所得税法41条であるといわれている。 所得税法41条は、「農業を営む者の農業所得の計算に当っては、農業以外の事業所得者のようにたな卸資産の自家消費があった場合のように所得計算をすることがむずかしいこと」に趣旨があるとも説明されており(武田・前掲書3451頁)、権利確定主義の例外的取扱いとして理解されているところである。つまり、同条は、一般的な所得の認識(実現)の時期よりも早期に所得の実現を捉えているのであるが、例外規定であっても、本体からの分離(separate)は担保されていなければならないという考えが底流にあると解されるのである。 このように、我が国所得税法においても、分離(separate)されていなければ、そもそも所得は実現していないものと解されていると思われる。 (4) 実現概念と換価可能性 「所得」とは担税力の指標であって、担税力が何らかの経済力を指標として把握すべきであるとする立場は、担税力を現金換価価値的なものとして捉える考え方と親和性を有すると考えられるところ、現金換価価値的なもので担税力を評価するという立場に立つと、現金換価価値として捉え得るか否かを、いわば市場の存在がその基礎にあるか否かで捉えることも可能ではないかと考える。 この点、米国では、ストック・オプションについて次のように規定している。 もっとも、我が国では、ここにいう「公正な市場価値」とは「客観的な交換価値」を指すものと理解されており、担税力を客観的な交換価値で評価するという考え方に支配されている。 Ⅱ 期待権と換価価値 1 期待権の意義 期待権とは、将来一定の事実が発生すれば一定の法律上の利益を受けることができるであろうという期待をもつことができる地位であると説明されている。例えば、相続人は、被相続人の死亡という事実が発生すれば遺産の一部又は全部を承継できるであろうという期待を法律上もつことができるから、その地位(相続権)は期待権である。また、入学すれば時計をもらうという契約をした者は、入学すれば時計を取得できるのであるから、条件付き権利という期待権をもつわけである。期待権の法律上の保護は期待権の種類によって異なるが、条件付き権利という期待権の保護は比較的大きいとされている(民128、129)。 さて、このような期待権については、どのように評価した上で、課税がなされるのであろうか。そこでは、すでに述べてきたとおり、期待権の有する現金換価可能性との兼ね合いが問題となる。 このような期待権を取引する市場があるとか、実際の譲渡を行い得るのであれば、客観的な交換価値が明確であるが、そうでない場合には、これを評価することは難しいといわざるを得ない。 2 宝くじの客観的な交換価値 さて、ここで、改めて設問を思い出そう。 これまで述べたとおり、客観的な交換価値を念頭におけば、問題としては、まず、課税のタイミングを考えるべきことになる。すなわち、付与時課税なのか、あるいは、当選時課税なのかという点が問題となる。 譲渡制限が付されているとか、又は、それを売買する市場の存在がないなどといった条件がある場合には、付与時に1枚300円で譲渡することも不可能であるし、ましてや宝くじである以上、1,003万円の権利が実現する蓋然性が高かったとは到底言えないのであるから、付与時課税はないことになろう。すると、その条件の下では、当選時課税によって、1,003万円で売買されることになると思われる。 他方、譲渡制限が付されていないのであれば、付与された後に宝くじを譲渡することが可能となる。そうであるとすれば、付与された資産は現金換価価値を有するものであるから、市場における客観的な交換価値を有しているものといえよう。すなわち、権利確定主義の下においても、収入実現の蓋然性は高いことから付与時課税が可能となる。 では、いくらで付与時課税がなされるのかという問題が待っているが、これは市場の評価に委ねるほかはあるまい。一般的には、1枚300円前後の価値ということになろう。 なお、上記の設問は、これまで述べてきた問題とは性質を異にしているということを付言しておきたい。すなわち、給与所得として付与時に1枚300円前後で課税がなされていることから、当選した際に改めて給与所得とされることはなく、この1,003万円は非課税所得ではあるが、一時所得に該当すると解されることになる(非課税所得もあくまで「所得」であることには変わりはないということに留意しなければならない。)。 (了)
高額特定資産を取得した場合の 納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例 【第1回】 「改正の概要及びその背景」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 ① 改正の概要とその背景 平成28年度の税制改正により、事業者(免税事業者を除く)が簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の仕入れ等を行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなった。 なお、「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜)が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産(※)をいう。 (※) 調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、建物附属設備、構築物、機械及び装置、車両運搬具、工具器具備品その他の資産で、一の取引単位の価額(税抜)が100万円以上のものをいう。 本規定が創設された背景としては、仕入時の課税期間で「原則課税」により仕入税額控除を行い、仕入時の課税期間の翌課税期間において簡易課税制度を選択して仕入税額控除(みなし規定)を行うことで課税仕入れの2重控除となるケースがあり、問題視されていた。 そこで、高額特定資産を取得した場合には、その資産の仕入れ等の課税期間から3年間は、課税事業者となり、かつ、原則課税が強制適用されることとなった。 なお、本規定は、自己が資産等を建設する場合で、その建設費用のうち課税仕入れの支払対価の額の累計額(税抜)が1,000万円以上となった場合にも適用されることとなっている。 本規定は、平成22年度税制改正で創設された調整対象固定資産(税抜100万円以上の資産)の仕入れ等を行った場合の特例規定(納税義務の免除の特例及び簡易課税制度の特例)と同様の規定となる。 ただし、本規定における高額特定資産は、棚卸資産、調整対象固定資産、自ら建設等をした資産(以下、「自己建設高額特定資産」という)を対象としており、棚卸資産及び自己建設高額特定資産も含まれることに注意が必要である。 ② 簡易課税制度による2重控除スキーム(改正前) PFI事業(※)を行う目的で設立された特定目的会社(SPC)が、そのPFI事業のための高額な資産(公共施設等)を取得した課税期間に原則課税によりその取得に係る課税仕入れ等について仕入税額控除の適用を受け、翌課税期間以後にその公共施設等の完成・引渡しを行った際に、簡易課税制度を適用することで、2重に仕入税額控除を受けることとなる。 (※) PFI(Private Finance Initiative)事業とは、公共施設等の整備等に関する事業であって、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施されるものをいう。 《消費税計算の流れ》 ① 公共施設等の建設をする(課税仕入れの発生) ② 第×1期目に届出書を提出し、第×2期目に簡易課税制度を選択する ③ 第×2期目に施設等の引渡しを行う(課税売上げの発生) ④ 第×2期目を簡易課税制度で計算する(課税売上げの70%が課税仕入れとなる) 公共施設等の建設等をした課税期間(第×1期)はその施設の建設等のみで引渡しは行っていないため、課税売上げは生じない。また、第×1期においては公共施設等の建設等に係る課税仕入れのみ生じているため、原則課税を採用すれば課税売上げに対応させその仕入れに係る消費税の控除を受け、還付を受けることとなる。 そして、第×1期に簡易課税制度選択届出書を提出することで、公共施設等の引渡し課税期間(第×2期)において簡易課税の適用を受けることとなり、その施設の引渡しが課税売上げになるため、その売上に対してみなし仕入率(建設業70%)を適用することとなる。 したがって、第×1期で建設等に係る税額控除をしているにもかかわらず、本来課税仕入れが生じていない第×2期においても再度税額控除するという、いわゆる2重控除というスキームとなっている。 * * * 次回より本改正について、「高額特定資産を取得した場合」と「自己建設高額特定資産を建設等した場合」に分けて解説していく。 (了)
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第24回】 「給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、 給与支払報告書へのマイナンバーの記載」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用)、給与所得の源泉徴収票(税務署提出用)、給与支払報告書へのマイナンバーの記載について教えてください。 〈A〉 それぞれ次の通りとなる。 1 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) マイナンバーの記載は不要である。 2 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 配偶者特別控除の対象となる配偶者、16歳未満の扶養親族を除き、マイナンバーの記載が必要である。 3 給与支払報告書 配偶者特別控除の対象となる配偶者を除き、マイナンバーの記載が必要である。 * * * 以上をまとめると、下表の通りとなる。 【図表】 マイナンバーの記載 【参考①】 給与所得の源泉徴収票(受給者交付用) 【参考②】 給与所得の源泉徴収票(税務署提出用) 【参考③】 給与支払報告書 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q23】 「外国籍契約型投資信託の受益証券を保有する場合の タックス・ヘイブン税制の適用」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 タックス・ヘイブン税制の概要 タックス・ヘイブン税制(外国子会社合算税制)は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、一定の条件の下で、軽課税国に所在する外国の子会社の所得をその親会社である内国法人の所得に合算して課税するものです。 タックス・ヘイブン税制は原則として内国法人に係る特定外国子会社(外国法人)に対して適用があります。ただし、外国信託についても一定の場合、適用があります。 タックス・ヘイブン税制の適用対象となる外国信託は、外国投資信託のうち租税特別措置法第68条の3の3第1項に規定する特定投資信託に類するもの、とされています。すなわち、外国投資信託のうち、①証券投資信託に類するもの、または②募集が公募かつ主として国内で行われる投資信託に類するもの、以外の投資信託について、タックス・ヘイブン税制の適用対象とされ、会社型の外国投資法人と同様の判定が必要となります(詳細については【Q25】参照)。 2 本件へのあてはめ おたずねの外国投資信託が、証券投資信託に類するとされる場合は、タックス・ヘイブン税制の適用対象外とされます。 証券投資信託の定義自体は投信法の規定をリファーしていますので、証券投資信託に類するかどうかについては、投信法の規定等に照らして判断する必要があると考えられます。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕 【第4回】 「被災した取引先に対する支援の取扱い」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 災害見舞金 (※) 被災した自社の従業員等に対する災害見舞金の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して災害見舞金を支出した場合は、交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 これは、災害見舞金の支出が単なる慰安・贈答のためではなく、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 したがって、取引先の被災の程度や、取引先との取引状況等を勘案した相応の金額であれば、金額の多寡は問題とならない。また、このような場合は取引先から領収書の発行を受け難いことも考えられる。このときは、法人の帳簿書類に支出先の所在地、名称、支出年月日を記録しておく必要がある(国税庁「災害に関する法人税、消費税及び源泉所得税の取扱いFAQ」(以下「災害FAQ」)Q17)。 ② 消費税の取扱い 金銭により支出する災害見舞金は、対価性がないため不課税取引に該当する。 ③ 取引先の役員等の個人に対する見舞金 被災した取引先にではなく、その役員や使用人等の個人に対して法人が個別に見舞金を支出する場合は、社外の者の慶弔、禍福に際し支出する金品等の費用として交際費等に該当する(措通61の4(1)-15(3))。 このような個人への見舞金の支出は、相手が個人事業主である場合を除いて、取引先の救済により法人の損失を回避するためというより、いわゆる付き合いとしての性質を有すると考えられるからである。 ただし、前回解説したように、法人が自己の役員等と同等の事情にある専属下請先の役員等又はその親族等に対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金は、損金に算入される(措通61の4(1)-18(4))。 2 事業用資産の供与又は役務の提供 (※) 不特定又は多数の被災者に対する自社製品等の提供の取扱いについては、【第3回】を参照されたい。 ① 被災した取引先に対する事業用資産の供与又は役務の提供 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、災害発生後相当の期間内(取引先の復旧過程)において、法人が取引先に対して事業用資産を供与又は役務を提供した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3)。 ここでいう「事業用資産」には、取引先において棚卸資産や固定資産として販売又は使用されることが明らかな物品だけでなく、当該取引先の福利厚生の一環として被災した従業員等に供与されるものも含まれる。 ② 自社製品等を取り扱う小売業者等への交換又は無償補填 自社製品等を取り扱う小売業者等に対して、災害により滅失又は損壊した製品等と同種の商品を交換又は無償補填した場合、その費用は交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する(措通61の4(1)-10の3(注1))。この場合、当該小売業者等が法人にとって直接の取引先であるか否かは問わない。 これは、当該費用は広告宣伝費や販売促進費の側面を有しているとみることができるためである。 3 債権の免除 ① 被災した取引先に対する債権の免除 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対する売掛金、貸付金等の債権の全部又は一部を免除した場合、その損失は寄附金や交際費等として取り扱わず、全額を損金に算入する(法基通9-4-6の2、措通61の4(1)-10の2)。 上記の取扱いは、次のような場合にも同様である。 ② 取引先の範囲 上記の取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等のほか、商社等を通じた取引であっても価格交渉等を直接行っているような納品先など、実質的な取引関係にあると認められるものも含まれる(法基通9-4-6の2(注)、措通61の4(1)-10の2(注))。 ③ 一部の者だけが債権の免除を行う場合 被災取引先に対する債権免除が、上記のように寄附金や交際費等に該当しないとされるのは、債権免除が取引先の復旧支援を目的としているためである。したがって、被災した法人の全ての取引先が揃って債権免除を行うことは前提とされておらず、一部の企業のみが債権免除を行った場合でも、それが上記の要件を満たすものであれば、寄附金や交際費等には該当しない(「災害FAQ」Q20)。 ④ 消費税の取扱い 債権を免除したことによる損失(上記の要件を満たし、寄附金又は交際費等に該当しないもの)に係る消費税の取扱いは、次の通り当該債権の内容によって異なる(「災害FAQ」Q32)。 4 低利又は無利息での融資 ① 被災した取引先に対する見舞金 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対して低利又は無利息での融資をした場合、当該融資は正常な取引条件で行われたものとされる(法基通9-4-6の3)。したがって、通常受け取るべき利息との差額を寄附金として取り扱う必要はない。 これは、取引先の復旧を手助けすることにより、自らが蒙る可能性のある損失を回避するためのものと考えられるからである。 ② 融資期間及び融資額の制限 融資が取引先の復旧支援を目的としたものであり、かつ、取引先の被災の程度や取引状況等を勘案した合理性のあるものであれば、融資期間や融資額に制限はない(「災害FAQ」Q22)。 ただし、言い方を変えると、「取引先が通常の営業活動を再開するまでの復旧過程の期間内の融資であって、あくまで復旧支援を目的とした融資額である必要がある」とも言える。 (了)