「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例39(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(租税特別措置法35条) 個人が居住の用に供している家屋とその敷地を譲渡したときは、居住用財産の譲渡所得の特別控除として、その譲渡所得の金額から3,000万円が控除される。この特例の対象となる居住用財産は、現に自己の居住の用に供している家屋又は生計を一にする親族の居住の用に供している家屋で一定のものとその敷地の用に供されている土地等に限られる。 ◆生計を一にする親族の居住の用に供している家屋(租税特別措置法通達31の3-6) 次に掲げる要件のすべてを満たしているときは、その家屋はその所有者にとって「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことができるものとする。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第17回】 「同族非同族対比基準」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、争点9(不当の意味と課税要件明確主義)として紹介されている最高裁昭和53年4月21日判決について解説を行った。 本稿では、争点10(同族非同族対比基準)として紹介されている東京高裁昭和49年6月17日判決について解説を行うこととする。 12 同族非同族対比基準(東京高裁昭和49年6月17日判決・TAINSコード:Z075-3344) (1) 事実関係 控訴人は、砂糖の精製、販売等を業とする株式会社であるが、控訴会社の株主であった亡竹腰進一が、昭和35年4月1日台糖株式会社に対して控訴会社の発行済株式の全部に当たる1万6,000株(額面合計800万円)を代金4,000万円で譲渡し、台糖から同月2日1,000万円、同月30日2,000万円、同年12月24日1,000万円を収受したのが、その実質において、控訴会社の粗糖外貨割当権の譲渡であって、控訴会社は、右4,000万円を受領すべき権利を取得したものと認めて、課税処分を行った事件である。 当時の所得税法では、株式譲渡益は非課税とされていたことから、粗糖外貨割当権の譲渡を行うよりも、株式譲渡を行った方が有利であったことが前提の事件である。 (2) 原審(東京地裁昭和46年4月20日判決・TAINSコード:Z062-2723) (3) 裁判所の判断 (4) 評釈 このように、株式譲渡を事業譲渡とみなして否認をすることは許されないとしたものの、株式買収後に、控訴会社から買収会社である台糖に対して無形資産である割当権を無償で移転した行為については、経済人として不自然、不合理なものとして、同族会社等の行為計算の否認が適用された。 判決文の内容はやや分かりにくいが、結局のところ、買収時点で無形資産の時価を計算できるにもかかわらず、無償で移転することは許されないとしていることから、単なる寄附金の事件であると思われる。なお、判決文では、「割当権の無償移転行為が右法条の予想する寄附行為に該当するものとは解されない」としているが、現行法上は、寄附行為に該当するものとして否認されるべきものと考えられる。 そして、判決文では、「乙会社が甲会社の全株式を取得することによって両会社が親子会社の関係に立つとしても、甲会社が乙会社と独立して存在する経済人である以上、有償(時価相当価額)でこれを譲渡するのが普通であって、無償でこれを移転することは、異例、不自然の行為といわねばならない」としており、独立の第三者との間の取引と比較しており、日本IBM事件の控訴審判決にあるように、このような考え方は同族会社等の行為計算の否認が適用される場合の一類型に位置付けることができるのかもしれない。この点についても、いずれ本連載で明らかにしていく予定である。 さらに、本事件では、「普通、とったであろうと認められる行為計算が行われた場合と同視して法人税を課することができるものとする趣旨」としていることから、同族会社等の行為計算の否認は、事業目的があれば適用されないというものではなく、事業目的の見地から、複数の選択肢のうち、選択された行為が他の代替的な手法に比べて有利な手法であること(または少なくとも不利な手法ではないこと)まで求められていると解すべきであると思われる。 これに対し、株式譲渡を事業譲渡とみなして否認することができない理由として、被買収会社の株主が達成しようとする経済目的を、投下資本及び清算利益を一挙に回収することであるとしたうえで、「会社ぐるみ譲渡ということが、もっとも簡便、合理的な方法ということができる」とし、買収会社が達成しようとする経済目的を、経営を支配し、その資産を自由にし得る地位を取得することとしたうえで、「この目的のためになされた全株式の取得行為をもって、不自然、不合理の行為とはいい得ないことはむろんのことである。」と判示している。 現行法上、オーナー会社を対象とするM&Aでは、譲渡所得に対する所得税が安いことから、事業譲渡よりも株式譲渡の方が有利であることは知られているが、本事件を参考にすれば、それだけを理由として租税回避行為と認定することはできないということになる。 次回では、役員、従業員との取引に対して争われた事件について解説を行う予定である。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第30回】 「収入印紙によらない納付方法①(書式表示)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は飲食チェーン店です。各店舗において、売上代金は社員のほかに、アルバイトなどもレジを利用し、領収しています。売上代金を現金で領収した場合、手書きの領収書のほかに、レジから出力されるレシートや領収書についても、5万円以上の領収には収入印紙の貼付が必要である旨は、社員等に伝えてはいますが、レジの混雑時など収入印紙の貼付漏れが発生しないか心配です。 いちいち収入印紙を貼付せずに印紙税を納める方法はないでしょうか。 印紙税は、課税文書に収入印紙を貼付し、消印をすることにより納付するのが原則だが、納付の特例として、書式表示による申告納付の方法がある。 この書式表示による方法は、税務署長の承認を受けてレシート等に所定の表示をすることにより、収入印紙を貼付せず、金銭をもって印紙税を納付する方法である。 承認の要件は以下のとおり。 【手続き】 印紙税の書式表示による申告納付の特例制度の適用を受けるに当たっては、あらかじめ課税文書を作成しようとする場所の所在地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。また、承認を受けた者は書式表示による申告書を毎月、作成した翌月末までに承認をした税務署長に提出し、申告書の提出期限までに国に納付を行わなければならない。 [検討] 書式表示にするメリット、デメリット (メリット) 収入印紙を購入する必要がないため、各店舗における収入印紙の受払管理をする手間が省ける。 貼付漏れを防ぐことができる。 (デメリット) レジの場合は、システムの修正が必要。 1月ごとに集計し申告納付するための事務担当者が必要。 ▷ まとめ (了)
ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第4話】 「概念フレームワークを学ぶ(後編)」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美 6月23日木曜日、午前7時30分。桜井と藤原の早朝IFRS勉強会も、今日で3回目だ。 「入社3年目、経理部のホープ桜井弘樹は、頼りがいのある藤原先輩の下、今日も概念フレームワークの勉強に勤しんでいるのであった。」 桜井は、椅子ごと回転させて隣の藤原に向き直った。 「先輩、缶コーヒーをマイク代わりに変なナレーションをつけるの、止めてください。」 「悪い、悪い。」 「それよりもIFRS導入のプロジェクトの方は、順調なんですか?」 そもそも桜井がIFRSの勉強をすることになったのは、会社がこれからIFRSを導入するか検討を始めたためである。IFRS任意適用会社は順調に増加傾向ではあるが、桜井の勤めるような中堅の上場会社はまだ相対的に少ない。 「んー、まあ予定通り、ってところだな。」 藤原にしては歯切れの悪い返事が返ってきたので、桜井は意外に感じた。 「あれ?藤原君に桜井君じゃない。早いのね。」 そこに、同じ経理部の橋本が近くのカフェのタンブラーを片手にオフィスに入ってきた。 「おはようございます。橋本さんこそ、今日は早いですね。」 橋本は派遣社員を除くと経理部唯一の女性社員で、主に税金関係を担当している。まだ子供が小さいことから時短勤務で働いているため、早朝出社は珍しい。 「今日はダンナが有休取ったから、子供の保育園の送りを任せてきちゃったの。ほら、6月ってまだ忙しいじゃない?朝だったら邪魔されずに自分の仕事できるでしょ?」 そう言いながら、橋本はテキパキと荷物を置き、パソコンを立ち上げる。 「僕たちは、IFRSの勉強会なんですよ。藤原先輩から教わっているんです。」 「えー、藤原なんかに教えてもらって・・・大丈夫?」 「藤原なんか、って失礼ですよ。俺だって後輩指導くらいできます。」 「そっかぁ、藤原君ももうそんなになっちゃったのね~」 橋本は椅子の背もたれに寄りかかりながら、向かいの藤原を感慨深げに見上げる。桜井は、橋本が藤原よりも前に入社しているのは知っていたが、具体的に何年に入社したかは知らなかった。逆算すると年齢が分かるため、橋本の入社年は無言の箝口令が経理部内で敷かれているからだ。 「そんなに、って、どんなになってるんですか、俺は。」 「やだ、褒めてるのよ、これでも。大丈夫。ジャマはしないから、2人とも気にせず続けて。」 そう言うと、橋本はバッグからイヤホンを取り出し、仕事に没頭し始めた。 「じゃあ、俺たちも始めるか。」 毒気を抜かれた藤原は「コホン」と咳払いをして桜井に話しかけた。桜井も素直に頷く。 財務諸表を構成する要素の定義、認識及び測定 「上の図を覚えているか?」 「はい。前回から勉強している概念フレームワークで取り扱っている範囲のリストですよね。」 「そうだ。今日は3つ目の項目、『財務諸表を構成する要素の定義、認識及び測定』について勉強していく。今日が概念フレームワークでは一番のメインになるから、しっかり理解しろよ。」 それを聞いて、桜井は少し緊張した面持ちで頷いた。だが、ふと疑問に思い、質問した。 「どうして、ここが肝になるんですか?」 「IFRSの特徴の原則主義に関する説明でも言った通り、IFRSでは細かい論点までは取り扱わないからだ。」 「確か・・・」と言いながら、桜井は藤原に教えてもらった記憶をたどる。 「会計基準がすべての事象を網羅しているわけではないから、IFRSに規定のない事象が発生することがあるという話ですよね。その場合、その事象に類似する事項や関連する事項を取り扱っている他のIFRSの定めがあればそれを参照できますが、参照できない場合には、概念フレームワークに基づいて会計方針を判断するんでしたね。」 藤原は、そうだ、と頷いた。 「そのためには構成要素の定義や、認識及び測定の理解は必須になるだろ?だから、この部分は特に重要なんだ。」 今度は桜井が頷く番だった。 ◆財務諸表を構成する要素 「まずは、財務諸表を構成する要素とは何か、という話から始めよう。この図を見てくれ。」 財務諸表を構成する要素 「この図の一番下に並んでいる5つの項目が構成要素ですか?」 「そうだ。まず、財務諸表の構成要素には、「財政状態の構成要素」と「業績の構成要素」の2つに分けられる。その下の構成要素については、問題ないか?」 「はい。財政状態の構成要素はいわゆるB/S項目の資産、負債、持分ですね。そして、業績の構成要素はP/L項目の収益及び費用というわけですね。」 「大丈夫そうだな。じゃあ、各構成要素の定義に入っていくぞ。」 財政状態の構成要素の定義 「まずは、財政状態の構成要素の定義からだ。上の図だと左側にある緑色の『資産(asset)』、『負債(liability)』、『持分(equity)』の3要素だな。そして、その構成要素の定義をまとめたものが下の図だ。」 桜井は藤原の示した図の定義に目を通した。 財政状態の構成要素の定義 「いいか?IFRSは資産負債アプローチを採用しているから、資産及び負債をまず定義して、その差額が持分、つまり資本と定義されている。」 「はい。そうですね。」 「定義についてのポイントは定義の文中で太字にしている3点だ。 過去の事象から生じていること 現在会社が支配または債務を負っていること それらが将来経済的便益(economic benefits)の変動をもたらすものであること この3点を満たすものが、資産または負債として計上すべきものになる。」 修繕引当金は負債なのか? 「ん?ちょっと待ってください。」 藤原は、持っているペンで定義のポイントを聞いて戸惑っている桜井を指し、「はい、桜井くん、どうぞ。」と促す。 「ちょっと、茶化さないでくださいよ。 その定義に当てはめると、将来発生する費用のために積み立てている修繕引当金は負債に該当しなくなりますよね?過去の事象から発生しているわけでもないですし、現在の債務かと言われると、自主的に積んでるので債務とは言えません。ということは、IFRSを導入すると僕の切る伝票が1つ減ることになるんですか?」 「最後の部分はちょっと聞き捨てならんが、結論は負債に該当しないということになるだろうな。修繕引当金を計上するには、IAS第37号の『引当金、偶発債務及び偶発資産』の基準で定められている引当金の要件を満たす必要がある。その要件の1つに『過去の事象の結果として現在の債務を有すること』という概念フレームワークの定義と重なる要件があるんだが、修繕引当金はこの要件を満たさないと考えられる。したがって、修繕引当金は現在の債務とは言えないから計上は認められないだろう。」 「なるほど。それでは、日本基準では当たり前のように計上しているけど、IFRSでは計上が認められないものが他にもありそうですね。」 「ほかには繰延資産があるな。日本基準では、既に過去に対価を支払っているが、効果が将来及ぶと考えられることから資産計上される。一方、概念フレームワークの定義に当てはめると、将来の経済的便益が増加することはないから、資産性はないということになるんだ。」 「へぇ。今まではただ教えられたとおりの科目で伝票を切っていたので、資産性があるか、負債性があるかということは考えたことがありませんでした。これからは意識してみると面白いかもしれませんね。」 桜井の言葉を聞いて、藤原は満足そうな表情を浮かべた。 業績の構成要素の定義 「続いて、業績の構成要素の定義に移ろう。業績の構成要素は『収益(income)』及び『費用(expense)』の2つだ。上の図だと右側の最下段にある緑色の2つのボックスだな。」 「はい。そして下の図に業績の構成要素の定義がまとめてあるんですね。」 業績の構成要素の定義 「ここでのポイントは次の2点だ。 資産または負債の変動に伴って生じたものであること 資本取引は含まれない この2点を押さえておけば大丈夫だろう。」 「分かりました。ここは大丈夫そうです。」と答えると、桜井は藤原の指摘したポイント部分にマーカーを引いた。 ◆財務諸表の構成要素の認識と測定 「次に、構成要素の認識『(recognition)』と『測定(measurement)』について説明していこう。概念フレームワークもあともうひと踏ん張りだから、頑張れ。」 少し疲れてきていたが、桜井は気合いを入れて返事をした。 「はい。頑張ります!」 「上の図は財務諸表の構成要素の認識規準と測定基礎をまとめたものだ。といっても、いきなり、認識とか測定とか言われても分からないだろう。まずは、それぞれの言葉を説明しよう。」 「よろしくお願いします。」 『認識規準』や『測定基礎』といった耳慣れない単語に戸惑っていた桜井はホッとした表情を見せた。 「まず、認識とは、構成要素の定義を満たし、B/SまたはP/Lに組み入れる過程のことだ。そして、測定とは、B/S及びP/Lで認識され計上されるべき財務諸表の構成要素の金額を決定するプロセスのことを指すんだ。」 「えーと、つまり、認識は『何』の科目をどのタイミングで計上するのか、測定はいくらで計上するのかという話ですか?」 「そういうことだ。そして、認識するための2つの規準と測定するための4つの測定基礎が概念フレームワークで定められているんだ。図の中の白いブロックに書いてある項目がそうだ。」 構成要素の認識規準 「認識と測定の意味が分かったところで、認識の規準から順番に説明していくぞ。上の図では左半分に該当する。」 「ここでも、〇〇性とかいう抽象的な要件があるんですね・・・」 桜井は図を見ながら、ため息をついた。 「そんな嫌そうな顔をするなよ。まず、各構成要素を認識するのは、蓋然性規準と信頼性規準という2つの規準に当てはまるときだ。」 「『蓋然性』は『ガイゼンセイ』と読むんですね。僕、『蓋』という漢字、初めて見ました。」 桜井の言葉に苦笑しながら、藤原は説明を続けた。 「蓋然性規準というと難しそうに聞こえるが、要は、ある項目に関連する将来の経済的便益が、企業に流入または流出する可能性が高い(probable)ことを意味しているんだ。 信頼性規準は、その項目が信頼性をもって測定することができる原価または価値を有している、ということだ。」 「つまり、将来の経済的便益がもたらされるまたは流出する可能性が高くて、かつ、その金額を信頼性を持って測定できるときに構成要素を認識することになる、ということですか?」 「そうだ。この認識は、資産、負債だけではなく、収益、費用についても同じく適用される。」 桜井は一度頷いて理解していることを藤原に伝えると、藤原は話を続けた。 費用収益対応の原則 「ただし、費用については、費用収益対応の原則(matching of cost with revenues)に従う必要がある。簿記でも習っただろ?」 「えーと、費用収益対応の原則とは、発生した原価と特定の収益項目の稼得との間に直接的に関連がある場合に、収益認識時にその原価を同時にまたは結びつけて認識すること、でしたよね。」 「そうだ。それに加えて、経済的便益が複数の会計期間にわたって発生することが予想され、かつ収益との関係が概括的または間接的にのみ決定される場合には、費用は規則的かつ合理的な配分手続に基づいてP/Lに認識されることになるんだ。具体的には、有形固定資産の減価償却費なんかがあるな。」 財務諸表の構成要素の測定基礎 「認識の2つの規準と費用収益対応の原則については、理解できました。 次の測定についてですが、いくらで計上するか、という金額面の話ですよね。」 「そうだ。上の図でいうと、右半分のブロックだな。概念フレームワークでは測定基礎として次の4つの項目を挙げている。 取得原価(historical cost)、現在原価(current cost)、実現可能(決済)価額(realisable (settlement) value)、現在価値(present value)だ。 どうだ、結構馴染みのあるものばかりだろう?」 「本当ですね。取得原価をはじめ、日本基準でも見かける測定基礎ばかりです。」 4つの測定基礎の定義 「下の図が測定基礎の定義をまとめたものだ。」 「一つひとつ、順番に説明していこう。 取得原価はもっとも一般的だな。資産または負債を取得した時に支払った対価または受け取った対価で測定するというものだ。 次の現在原価は少し聞きなれないが、内容は難しくない。現時点で資産または負債を取得または決済する際に必要な対価で測定する。 この2つはタイミングは違うが、資産負債を取得する際の対価というコスト面からの測定基礎だ。」 「あ、なるほど。確かに、英語で見てみると上の2つの測定基礎はcostとなっていますね。一方で、下の2つの測定基礎はvalueなんですね。」 「よく気がついたな。では、下の2つの測定基礎について説明するぞ。」 「はい。」 「3つ目に挙げられている実現可能(決済)価額は資産と負債で別々に説明したほうが分かりやすいな。 資産の方では、現時点で売却したら得られるであろう金額で測定する。負債は将来決済時に支払う予定額の割引前の金額で測定するんだ。」 「あれ?負債の測定については、現在原価と似てませんか?どちらも決済に必要な対価で測定するんですよね?」 「そうだな。負債の測定については現在原価と混同しやすいが、現在原価では現時点で決済する対価であるのに対し、実現可能(決済)価額では決済時点が将来という点が異なるんだ。」 「あ、本当ですね。決済時点が違うんですね。」 「最後の現在価値は将来の正味キャッシュ・インフローまたはキャッシュ・アウトフローの割引現在価値で資産または負債が測定されるというものだ。実現可能価額では割り引かないが、現在価値は割り引くという点が特徴だな。」 「現在価値はよく目にする測定基礎なので、バッチリですよ。」 桜井が理解できたのを確認して、藤原は先を続けた。 「これは参考だが、概念フレームワークではどの測定基礎が優位であるかは書かれていないんだ。ただ、『これらの測定基礎が異なる程度に、また種々の組み合わせによって使用される』とだけ書かれている。例えば、棚卸資産は通常取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い金額で計上されるし、年金債務は現在価値で計上されるといった感じだ。 今日教えた認識規準と測定基礎をまとめた図と測定基礎の定義の表を参考にするといいぞ。」 そういうと、藤原はコーヒーの空き缶を捨てようと席を立った。桜井が時計を確認するとちょうど始業10分前だ。 「さすが、先輩。時間配分もばっちりですね。今日の朝礼の1分間スピーチもジャスト1分狙えるんじゃないですか?今日、先輩の当番でしたよね?」 にっこりと笑いかける桜井とは対照的に、藤原の顔は引きつっている。 「やベっ、何も考えてなかった!桜井、俺が空き缶捨ててきてやるから、その間にネタ考えておいてくれ。概念フレームワークを教えてやった礼にさ。」 「え~、無茶言わないでくださいよ!」 桜井は、逃げるようにオフィスから立ち去る藤原の後ろ姿を見ながら、ため息をつく。 「やっぱり、藤原君らしいわね。」 その様子を見ていた橋本がぽそりと言った。 (了)
〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第6回】 「税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 日本公認会計士協会準会員 永井 智恵 1 過去の誤謬に起因するものか否かの判断 《解説》 まず、税務調査により指摘されたX2年度の申告漏れが、過去の誤謬に起因するものかどうかを判断する必要がある。 例えば、A社がX1年度の期首に固定資産(キャビネット)を取得したとする。キャビネットの法人税法に定める耐用年数(以下、「法定耐用年数」)は、主として金属製のものは15年、その他のものは8年と定められている(「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一6器具及び備品より)。 ここでA社の取得したキャビネットが全体として金属製であるにもかかわらず、A社の経理担当者が誤って法定耐用年数を15年ではなく8年としていたとする。 正しい耐用年数である15年よりも短い8年という償却期間に基づき減価償却費が計算されるため、税務上は減価償却超過額が生じ、会計上は減価償却費の過大計上となる。しかし、A社は申告書で加算の調整をしておらず、また損益計算書上も過大な減価償却費を計上していた。 その結果、X1年度及びX2年度の所得がその分だけ少なくなり、納税額が本来納付すべき金額より過少となっていたため、X3年度の税務調査でX1年度及びX2年度における申告漏れを指摘され、A社はX3年度中に修正申告をして追加納付している(なお、会計上の観点からも、税務調査の指摘のように、耐用年数を法定耐用年数である15年とすることが合理的であった)。 これは、入手可能である法定耐用年数に関する情報を誤用し、結果として会計上の減価償却費が過大となっているので、「① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り」に該当し、過去の誤謬となる。このような場合は、「2 遡及修正(修正再表示)の要否」を検討する。 一方で、先ほどとは異なり、A社の取得したキャビネットが金属と金属以外の素材の両方を使って作られていたとする。A社の経理担当者は、当該キャビネットのフレームは金属製であるが、主要構造部分は木製であったため、主として金属製のものには該当しないと判断し、法定耐用年数を8年とした(なお、会計上の観点からも、企業の状況に照らし、耐用年数を法定耐用年数である8年とすることに不合理と認められる事情はなかったと仮定する)。 8年という正しい償却期間に基づき減価償却費を計算しているため、X1年度及びX2年度において、税務上の減価償却超過額も発生せず、会計上も適切な減価償却費が計上されていた。しかし、X3年度の税務調査において、キャビネットのフレームは金属製であるため当該キャビネットは主として金属製のものに該当し、法定耐用年数15年に基づき減価償却するべきだと指摘された。 A社は、税務署の指摘も一理あると思い、税務上は償却期間を15年として減価償却費を計算し、会計上の減価償却費(償却期間8年)との差額(減価償却超過額)を加算調整した修正申告を行った。A社は、X3年度中に修正申告をして追加納付をした。 これは、税務署と会社との見解の相違であり、法定耐用年数に関する情報を誤用したわけではなく、会計上も適切な減価償却費が計上されていたと考えられるため、過去の誤謬には該当しない。このような場合は、「3 過年度法人税等の計上」を検討する。 2 遡及処理(修正再表示)の要否 《解説》 前述の事例に基づき、A社がX3年度にX1年度及びX2年度の財務諸表の修正再表示を行う必要があるか否かを考える。 A社の経理担当者は15年とすべき耐用年数を8年として固定資産の減価償却費を計算していた。よって、X1年度及びX2年度における当該固定資産に係る減価償却費が過大計上され、それにより法人税等及び未払法人税等の計上額が過少となっていた。 この法人税等及び未払法人税等の過少計上額、並びに減価償却費の過大計上額について、A社はX1年度及びX2年度の財務諸表に影響額を反映させなければならない。そして、X3年度においては、修正後のX2年度末の貸借対照表に計上された未払法人税等を追加納付時に取り崩すこととなる。 A社は上場企業であるため、X1年度及びX2年度の財務諸表を修正再表示する場合はX1年度及びX2年度の有価証券報告書について訂正報告書を提出する必要がある。 また、X3年度において、会社法の計算書類にはX3年度の計算書類への影響額を、有価証券報告書にはX2年度に係る財務諸表へ影響額を注記する必要がある。 一方で、当該影響額に重要性が認められない場合は、修正再表示しないこともできる。その場合は、X3年度の修正申告により納付する税額を、当期の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することになると考えられる。 3 過年度法人税等の計上 《解説》 前述の事例に基づき、税務調査の指摘がA社と税務署との見解の相違によるものであった場合の会計処理について考える。 まず、A社はX1年度及びX2年度の申告に係る税務署の指摘は、見解の相違によるものであるとしながらも、税務署の指摘も一理あると納得し、X3年度に修正申告をして税金を追加納付している。 このような場合は、X1年度及びX2年度において誤謬があったわけではないため、過去の財務諸表は修正せずに、X3年度の損益計算書に修正申告により納付する税額を計上することで足りる。追加納付する税額は「法人税、住民税及び事業税」の次に、その内容を示す名称を付した科目(「過年度法人税等」など)をもって記載する。 なお、当該税額の金額的重要性が乏しい場合は、X3年度の損益計算書の「法人税、住民税及び事業税」に含めて表示することもできると考えられる。 【検討事項のチェックリスト】 ~税務調査により過年度の申告漏れについて修正申告を行った場合~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第23回】 「ヘッジ会計④」 公認会計士 阿部 光成 引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ ヘッジ対象 ヘッジ会計を行うに際して、ヘッジ対象を識別することが必要となる(金融商品実務指針148項、149項)。 ヘッジ対象の識別は、資産又は負債等について取引単位で行うことが原則である(金融商品実務指針151項)。 ただし、市場におけるヘッジ手段の最低取引単位が対象とする資産又は負債等の取引単位より大きい場合やヘッジ取引のコスト又は信用リスクを軽減しようとする場合に、企業内部の部門ごと又はその企業において、リスク(例えば、金利変動リスク)の共通する資産又は負債等をグルーピングした上で、ヘッジ対象を識別する方法(包括ヘッジ)もある(金融商品実務指針151項)。 Ⅱ ヘッジ指定 ヘッジ対象は、ヘッジを行うに際して、リスクを有する資産又は負債等の中からヘッジを意図する期間にわたりヘッジ指定によって識別し、識別したヘッジ対象は当該ヘッジ手段と対応させることになる(金融商品実務指針150項)。 以下の事項に留意する(金融商品実務指針150項、152項、153項)。 Ⅲ ヘッジ有効性の評価方法 1 有効性の評価方法の一貫性 企業が当初決めた有効性の評価方法を変更した場合には、ヘッジ関係の指定の見直しを行い、新たにヘッジ会計の要件を満たすと判定されたヘッジ関係についてはその時点からヘッジ会計の適用を開始し、ヘッジ会計の要件を満たさなくなったものについては、金融商品実務指針180項に従って処理する(金融商品実務指針155項)。 2 有効性の判定基準 ヘッジ有効性の判定は、原則としてヘッジ開始時から有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動の累計とを比較し、両者の変動額等を基礎にして判断する。両者の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段との間に高い相関関係があると認められる(金融商品実務指針156項、323項)。 以下の事項に留意する(金融商品実務指針156項、323項)。 (了)
〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第6回】 「社会福祉法人(後編)」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏 ▷〔前編〕はこちら ▷〔中編〕はこちら ▷ 税務・会計について 2 社会福祉法人固有の注意点を確認する(承前) (2) 税務(法人税) 法人税計算では、会計同様、資本金の額がないことに加え、税務上の拠出資本を表す資本金等の額が存在しないことになる。税務上の純資産額は、利益積立金額のみになる。所得計算は、株式会社のようにすべての所得に課税されるのではなく、34業種の収益事業にのみ課税される点は、一般社団法人・一般財団法人と同じである(【第1回】・【第2回】参照)。 ここで注意すべきは、社会福祉法で定める収益事業の概念と、法人税法の収益事業との概念は、全く別物だということである。社会福祉法に従って特別会計とした収益事業会計の内容をそのまま法人税申告に用いることは、通常できない。 会計ソフトで作成した特別会計の処理内容に調整計算が入るので、実務的には、各法人で表計算ソフトによる法人税法の収益事業集計表から法人税申告書用の損益計算書を作成していることも多いだろう。 ここでは、一般社団法人・一般財団法人の場合と同様、必要に応じて、法人税法の収益事業としての損益計算書・貸借対照表を作成することになる(法基通15-2-1本文)。 ただし、共用資産については、通常、収益事業分だけを抽出することが困難である。抽出できるのであれば、共用資産ではないとも言えるので、当然でもあろう。このため、これらの共用資産の区分はせず、費用のうち収益事業に係る分だけを区分経理することとされている(同注)。 (3) 税務(寄附税制) 社会福祉法人にとって、寄附金は大きな活動原資であり、寄附税制についてはいくつか知っておくべき点がある。 ① みなし寄附金制度は利用可能 NPO法人の回でも説明したみなし寄附金の制度(法法37⑤)は、適用可能である。この場合、社会福祉法人における寄附金損金算入限度額は、所得金額の50%となっている点に注意が必要である(法令73①三ロ)。ただし、寄附金の額が200万円までは、200万円が損金算入限度額とされている。 なお、あくまでも法人税法における収益事業から、非収益事業への資金移動に伴う繰入額を寄附金とみなす制度である。社会福祉法における区分とは対応していない点は、繰り返しになるが注意されたい。 ② 特定公益増進法人に対する寄附制度と受配者指定寄附金制度 寄附者が一般の株式会社である場合、社会福祉法人への寄附金は、社会福祉事業に使われることを前提として、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、一般の寄附金限度額とは別枠で、資本金等の額の1000分の3.75と所得金額の100分の6.25との合計額の2分の1が損金算入枠とされている(特定公益増進法人に対する寄附制度(法法37④・法令77五・同77の2①一))。 しかし、あまり知られていないが、共同募金会を使うことによって、共同募金会に寄附するのと同様に、全額を損金算入することが可能になる制度がある。それが「受配者指定寄附金制度」である。詳細は、都道府県共同募金会に相談されたい。 なお、特定公益増進法人に対する寄附は、所得税の場合、特定寄附金として寄附金控除の対象になる(所法78)。 ③ 社会福祉協議会の会費は寄附金税額控除対象になるか 社会福祉協議会もまた社会福祉法人だが、この会費は、所得税の確定申告で、寄附金税額控除対象になるかという論点がある。結論から言えば、なるものとならないものがある。対価性があると考えられる住民会費のようなものは該当しない。賛助会費のように対価性がないものは、寄附扱いできる。 ④ 譲渡所得非課税(措法40条)申請と相続税における非課税制度(措法70条) 社会福祉法人の社会福祉事業に対して現物財産を寄附する場合に本来生じる譲渡所得については、承認申請により、非課税となる場合がある(措法40)。あくまでも承認申請手続きであるため、譲渡者と受入側法人とで協力しつつ、申請手続きを行うことが必要になる。 また、相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限内に、社会福祉法人に寄附する場合には、相続税の課税財産に算入しないことが認められる(措法70①・措令40の3五)。 ただし、同族関係者に対する租税回避防止の例外や、寄附から2年以内に公益目的事業の用に供しなくなる場合や未だ公益目的事業に供用していない場合には、修正申告等が必要になる(措法70⑥⑦)。 なお、この相続税における非課税制度は、最近悪用事例の報道があった。税理士逮捕も絡んだ事件である。 今後、何らかの悪用防止規制あるいは運用がされる可能性もあるので、安易な税金削減ありきの利用は慎みたい。 (4) 税務(消費税) 寄附金収入や補助金・助成金などの多いことから、特定収入計算が必要になることが多いのは、一般社団法人等と同じである。 しかし、社会福祉法人の場合、他の非営利法人とは異なる、社会福祉法人ならではの非課税規定があり(消法別表第1七ロ)、これについて、消費税基本通達6-7-5以下で解説がある。 なお、以下では、広島国税局作成の「確定申告で誤りやすい事項【消費税編】平成27年12月」より、「社会福祉事業等(確定申告で誤りやすい事項(消費税))」の部分を引用して、読者の参考に供する。 3 純資産規定が異なることが影響する項目に注意する (1) 資本金 法人税法においては、交際費限度額計算や中小企業税制において、資本金基準が存在するが、これらについて、別途規定により計算することになる。 (2) 資本金等の額 寄附金限度額計算において、資本金等の額を用いる計算は使えない。また、地方税均等割計算における基準でも同様である。 4 会計監査人就任時期についての留意事項 日本公認会計士協会自主規制・業務本部から、平成28年4月1日付で、「社会福祉法人の会計監査人就任に当たっての独立性に関する留意事項」(平成28年審理通達第1号)が発遣されている。 この審理通達では、これまで社会福祉法人の監事に就任していた公認会計士が、退任して会計監査人に就任する場合、監事の退任期限があることを示している。 つまり、平成29年4月1日から平成30年3月1日までの平成29年度の監査対象年度の会計監査人に就任する場合、会計監査人就任の契約日を平成29年6月25日とすれば、遡って1年前の平成28年6月24日が退任期限となるというものである(公認会計士法24①一)。 この他、過去に自分が役員として承認した取引を監査する自己レビューの問題や馴れ合いの問題が生じる可能性を考慮した対応を行うことを注意喚起している。 また、税務顧問に就任している場合、同様に会計監査人就任の契約日を平成29年6月25日とすれば、前日である平成29年6月24日が税務顧問業務解消期限になるとしている(公認会計士法24①三・②、同施行令7①六)。 ただし、自主規制における取扱いとして、外観的独立性の観点から、可能であれば、平成29年3月31日までに税務顧問業務を解消すべきとしている。 この税務顧問の場合も、自己レビューの問題が生じる可能性が同様に指摘されている。また、会計監査人候補者の選び方などについては、検討会資料が出ているので、読者の参考に供したい。 ところで、都市部を除くと、全国的には、既に監査に対応できる公認会計士の不足問題が生じているようである。 法定監査のための研修を受講していない場合には、監査人として就任できないこともあり、個人会計士の中には、そもそも自分が就任不適格であることを知らないケースもあると思われる。契約後に発覚して、対応不能になることのないよう注意が必要であろう。 なお、監査に対応できるだけの内部統制が果たして構築できるのか、監査の現場では、既に懸念の声が上がっているようである。規模だけで監査対象法人を割り切ってしまった厚労省の対応方針に疑問は多分に残るが、現場としてはいかんともし難いところである。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例6】 株式会社シャープ 「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ」 (2016.5.12) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、シャープ株式会社(以下「シャープ」という)が平成28年5月12日に開示した「ストック・オプション(新株予約権)の割当てに関するお知らせ」である。 台湾の鴻海精密工業の子会社となる予定であるシャープについては(平成28年2月25日開示「第三者割当による新株式の発行並びに親会社、主要株主である筆頭株主及び主要株主の異動に関するお知らせ」参照)、現時点でシャープ自体による開示はないものの、鴻海精密工業の意向による人員削減が行われるようであるという報道がなされている(例えば、平成28年5月14日付日本経済新聞では「シャープに人員削減要求-鴻海が3000人規模、士気低下も」という記事が掲載されている)。 そのように今後どうなるかわからない状況のなか、人材の流出が進んでいるようであり、平成28年4月29日に開示した「B種種類株式の取得及び役職員向けインセンティブプログラムの導入方針に関するお知らせ」において、「当社の再生・成長に必要な人材の維持・獲得のため、株式を活用したインセンティブプログラムを導入する方針を決議しました」としていた。 その株式を活用したインセンティブプログラムが、今回取り上げる適時開示で示されているストック・オプションである。 2 目的は? シャープが導入することにしたストック・オプションは、新株予約権(会社から株式を取得することができる権利)を利用するものであり、「新株予約権の発行要領」ではその新株予約権の特徴が以下のように示されている。 新株予約権と引き換えに払い込む金銭 ⇒ストック・オプションを付与された者には新株予約権が無償で発行される。 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額 ⇒新株予約権を行使すると、この行使価額で株式を取得することができる。 新株予約権の行使期間 ⇒新株予約権はすぐには行使できない。 新株予約権の行使の条件 ⇒シャープを辞めると、新株予約権を行使できない。 ストック・オプションを付与された者は、新株予約権の行使期間までシャープを辞めず、その時の同社の株価が行使価額を上回っていれば、利益(新株予約権を行使して取得した株式の売却益)を得られる。したがって、行使期間まで同社を辞めないだろうし、株価が上がるほど多くの利益が得られるため、業績を向上させて株価を上げるべく一生懸命に働くだろう。 同社はそうした考えによりこのストック・オプションを導入したのだろう。「ストック・オプション制度を導入する目的及び特に有利な条件による発行を必要とする理由」には、次のように記載されている。 3 効果はあるのか? このストック・オプションを付与された方のうち、「多くの利益を得られるように、新株予約権の行使期間までシャープを辞めずに頑張ろう」と思う方はどれほどおられるのだろうか。そう思う方は決して多数派ではないはずである。このストック・オプションにあまり大きな効果は期待できないだろう。 4月29日の開示の「株式を活用したインセンティブプログラムを導入」を見て、何か画期的な仕組みが導入されるのだろうかと思っていたところ、このストック・オプションであった。こうしたストック・オプションは、特に画期的なものではなく、「通常型」あるいは「従来型」のストック・オプションと呼ばれ、多くの企業で導入されているものである。 大企業では、最近こうしたストック・オプションが付与されることは少なく、役員に対する株式を活用した報酬としては、株式報酬型ストック・オプション(注1)や業績連動型株式報酬(注2)が主流となりつつある。 これまで画期的な製品を生み出してきたシャープだが、人材流出を抑えるための画期的なアイデアは生まれてこないようである。生まれてくるようならば、現在のような状況は避けられたのかもしれないが。 (注1) 行使価額が通常1円とされるうえ、実質的に無償発行といえる新株予約権を利用したストック・オプション。「実質的に無償発行」といったのは、次のような理由による。 株式報酬型ストック・オプションにおいて発行される新株予約権は、無償発行ではなく、その価値を計算して、それを払込金額とするが、併せてそれと同額の報酬を割当先の役員に対して支給することにする。その役員は、新株予約権の払込金額を会社に対して支払わなければならない債務とそれと同額の報酬を会社から受け取ることができる債権とを持つことになり、その債権と債務を相殺することができる(会社法246条2項では、新株予約権者は、金銭の払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、または会社に対する債権をもって相殺することができるとされている)。したがって、株式報酬型ストック・オプションにおいても、新株予約権の発行に当たっての金銭の払込みが必要とされないのである。 (注2) 役員に対して、業績達成等に応じて在任時または退任時に自社株式を交付する仕組み。信託を利用した場合、会社が資金を出して設定した信託が、同社または株式市場から同社株式を取得し、それを同社役員に対して交付する。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔経営面のアドバイス〕 【第2回】 「資金繰りの検討(その1)」 ~融資制度の概要・検討ポイント~ 公認会計士・税理士 中谷 敏久 復旧予定時期の設定後、次に経営者としてなすべきことは資金繰りである。 得意先が被災している場合には契約通り入金されないことも考えられる。また、自らが被災しているからといって従業員の給料支払いを遅延することは避けるべきである。業者に対する支払いも同様である。平常時においても資金繰りに余裕がないことが多いのに、非常時にはなおさらである。 このような企業の資金繰りを救済するためさまざまな融資制度が設けられているが、それらの融資制度の特徴を把握していない結果、適時に融資を受けることができない、あるいは、復旧を急ぐあまり緩い融資基準に惑わされ、結果的に過剰な融資を受け以後の返済に苦労している事業者は多い。 このため、復旧予定時期までに必要な運転資金あるいは設備資金を慎重に算出し、返済可能な範囲で融資を受けることが重要である。 融資制度の概要とその検討ポイントは以下の通りである。 災害時に設定される様々な融資制度の中から自社の資金繰りに適したものを選択すればよいのであるが、既往債務がある場合は当然二重債務となることを忘れてはいけない。据置期間、低金利、担保不要等の緩い条件に惹かれて融資を受けたものの受注が戻らず、ローン地獄に陥るリスクもあるのである。 やはり、地震保険、利益保険などの損害保険が入金されるまでの一時的な資金繰りのために融資を受けるという考え方が安全である。 金融機関も既往債務の期日延長や返済方法の変更等に柔軟に対応してくれると思うので、それらをまず利用することによって資金繰りができないか検討すべきである。 (了)
《速報解説》 「平成28年度税制改正に係る 減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」が確定 ~税制改正に限定した緊急対応、今後は会計基準の開発着手も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年6月17日、企業会計基準委員会は「平成28 年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第32号。以下「減価償却報告」という)を公表した。これにより、平成28年4月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 平成28年度税制改正において、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物の法人税法上の減価償却方法について定率法が廃止され、定額法のみとなる見直しが行われている。 減価償却報告は、当該税制改正に合わせ、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物に係る減価償却方法を定額法に変更する場合に、当該減価償却方法の変更が正当な理由に基づく会計方針の変更に該当するか否かに関して、必要と考えられる取扱いを緊急に審議したものである。 減価償却報告の公表に際して、「実務対応報告公開草案第46号『平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(案)』の主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下「コメント対応」という)も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 会計方針の変更に関する取扱い 会計方針の変更に関する取扱いとして次の事項が規定されている(減価償却報告2項、3項、17項。以下、アンダーラインは筆者が記入)。 減価償却報告2項では「法人税法に規定する普通償却限度相当額を減価償却費として処理している企業」と規定されているが、これは「減価償却に関する当面の監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第81号)における「法人税法に規定する普通償却限度額を正規の減価償却費として処理している企業」と異なることを意図したものではないとのことである(コメント対応2)。 減価償却報告は、取り扱う範囲を平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に限定して緊急に対応したものであり、今回に限られたものである(減価償却報告16項)。 また、今後、企業会計基準委員会において、抜本的な解決を図るために減価償却に関する会計基準の開発に着手することの合意形成に向けた取組みを速やかに行うことを前提としている(減価償却報告15項)。 2 開示 減価償却報告2項に従って会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、過年度遡及会計基準10項、19項及び20項の定めにかかわらず、次の事項を注記する(減価償却報告4項、18項)。 減価償却報告4項に記載する注記事項は、建物附属設備又は構築物を減価償却報告の適用初年度に取得したかどうかにかかわらず、平成28年度税制改正に合わせて減価償却方法を定額法に変更する場合に、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うことを意図しているため(減価償却報告17項)、建物附属設備又は構築物を取得していない場合も記載する(減価償却報告18項)。 減価償却報告4項(2)に定める会計方針の変更による当期への影響額は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記と同様の内容を求めることを意図しているため、1株当たり情報に与える影響は記載を要しない(コメント対応10)。 3 その他の留意点 公開草案に対する「変更後の減価償却方法が明らかに実態と相違する場合の取扱いを明確にすべきである」との趣旨のコメントに対して、次のように記載されている(コメント対応3)。 また、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備又は構築物のうち、一部の資産について減価償却方法は定率法のまま変更せず、残りの資産について定額法に変更する場合の取扱いについて、次のように記載されている(コメント対応4)。 Ⅲ 適用時期等 (了) ↓お薦め連載記事↓