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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第27回】「デリバティブ」

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第27回】 「デリバティブ」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   【はじめに】 今回は、デリバティブの会計処理について解説する。デリバティブとは、以下のような特徴を有する金融商品をいう(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」6)。 なお、本解説では、金利スワップの特例処理、振当処理等については、解説しない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 デリバティブ取引は、一般事業会社の場合、相場変動を相殺する又はキャッシュ・フローを固定化するといったリスクをヘッジする目的で取引(ヘッジ取引)を行う場合が多いと考えられる。 ヘッジ取引で行うデリバティブ取引とそうでない場合のデリバティブ取引で異なる会計処理を適用できるため、まず、デリバティブ取引が相場変動を相殺するものか、又はキャッシュ・フローを固定化するものであるかを判断する。 相場変動を相殺する又はキャッシュ・フローを固定化するデリバティブ取引(ヘッジ取引)の場合は、【STEP3】を検討する。これらのデリバティブ取引でない(ヘッジ取引でない)場合、【STEP2】を検討する。 デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、原則として時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は、ヘッジに係るものを除き、当期の純損益として処理する(実務指針101)。 具体的な会計処理は、以下のとおりである。 通常、一般事業会社がデリバティブ取引を行う場合、金融機関から提示された時価を利用することが多いと考えられる。 時価評価を行った場合、以下の【STEP3】から【STEP6】の検討は不要である。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ヘッジ取引の場合も、【STEP2】と同様に時価評価を行うのが原則であるが、ヘッジ取引(ヘッジ手段となるデリバティブ)について時価評価を行った場合、以下のような問題が生じるため、ヘッジ会計が認められている。 【STEP3】では、ヘッジ会計の要件について検討する。 ヘッジ会計は、無条件に採用することはできない。「ヘッジ取引時」及び「ヘッジ取引時以降」の要件を充たす必要がある。 それぞれの要件を充たす場合、【STEP4】を検討する。要件を充たさない場合、【STEP2】を検討する。   (1) ヘッジ取引時(事前テスト) ヘッジ取引時の要件として、以下の①から④の要件を充たす必要がある。 ① リスク管理方針の文書化(実務指針147) リスク管理方針として、少なくとも、管理の対象とするリスクの種類と内容、ヘッジ方針、ヘッジ手段の有効性の検証方法等のリスク管理の基本的な枠組みを文書化し、企業の環境変化等に対応して見直しを行う必要がある。 ヘッジ方針及びヘッジ手段の有効性の検証方法については、以下の事項を記載する必要がある。 なお、リスク管理方針は、経営者が企業活動においてさらされているリスクの種類と内容を識別し、これらを許容し得るレベルに管理するために策定したものであるため、取締役会等の意思決定機関において、原則として毎期、承認を受け文書化しなければならない(実務指針315)。 ② ヘッジ関係の文書化(実務指針143) ヘッジ対象のリスクを明確にし、これらのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確にする必要がある。 ヘッジ対象とヘッジ手段の対応関係として、具体的には、例えば、外貨建取引(金銭債権債務、有価証券、予定取引等)の為替変動リスクに対して為替予約取引、通貨オプション取引、通貨スワップ取引等を、株式の株価変動リスクに対して株式オプション等を、固定金利又は変動金利の借入金・貸付金、利付債券等の金利変動リスク(相場変動リスク又はキャッシュ・フロー変動リスク)に対して金利スワップ、金利オプション(キャップ及びフロアーを含む)等をヘッジ手段として用いることが考えられるので、これらの関係を正式な文書によって明確にしなければならない。 なお、他に適当なヘッジ手段がない場合には、ヘッジ対象と異なる類型のデリバティブ取引をヘッジ手段として用いることもできる。また、ヘッジ手段に関しては、その有効性について事前に予測しておく必要がある。 ③ ヘッジ有効性の評価方法の明確化(実務指針143) ヘッジ有効性の評価方法が適切であるかどうかは、リスクの内容、ヘッジ対象及びヘッジ手段の性質に依存する。企業は、ヘッジ開始時点で相場変動又はキャッシュ・フロー変動の相殺の有効性を評価する方法を明確にしなければならない。企業は、ヘッジ期間を通して一貫して当初決めた有効性の評価方法を用いてそのヘッジ関係が高い有効性をもって相殺が行われていることを確認しなければならない。 具体的には、下記(2)の「有効性の判定基準」参照。 個別ヘッジの場合はヘッジ対象とヘッジ手段が単純に一対一の関係にあるので、ヘッジ対象とヘッジ手段の相場変動又はキャッシュ・フロー変動を直接結び付けてヘッジ有効性を判定する。これに対し、ヘッジ対象が複数であり、相場変動又はキャッシュ・フロー変動をヘッジ手段と個別に関連付けることが困難な場合、実務指針152項の要件(当該、要件については詳細に解説していない)を満たすものに限り、ヘッジ手段をヘッジ対象と包括的に対応させる方法(包括ヘッジ)も採用できる。企業は個別ヘッジによるか包括ヘッジによるかを事前に明示しなければならない。 また、通常、同種のヘッジ関係には同様の有効性の評価方法を適用すべきであり、同種のヘッジ関係に異なる有効性の評価方法を用いるべきではない。 ④ リスク管理方針への準拠性(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「基準」という)」31) ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、以下のいずれかによって客観的に認められる。   (2) ヘッジ取引時以降(事後テスト) 企業は、指定したヘッジ関係について、ヘッジ取引時以降も継続してヘッジ指定期間中、高い有効性が保たれていることを確かめなければならない(実務指針146)。 ヘッジ会計とは、原則として、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額を、ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで純資産の部において繰り延べる方法である(基準32)。この方法を「繰延ヘッジ」という。 具体的な会計処理は、以下のとおりである。   ヘッジ取引とヘッジ会計をまとめると、以下のとおりである。 ヘッジ会計適用後、以下のような事態が発生した場合、ヘッジ会計の適用を中止しなければならない(実務指針180)。 上記(1)又は(2)の事態が発生した場合には、ヘッジ会計の中止時点までのヘッジ手段に係る損益又は評価差額はヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで繰り延べる(実務指針180)。 また、上記(1)の場合、ヘッジ会計の中止以降のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は発生した会計期間の純損益に計上しなければならない(実務指針180)。 なお、ヘッジ会計の要件を満たさなくなったことによりヘッジ会計の適用を中止した場合、ヘッジ対象に係る含み益が減少することによりヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積もり、当期の損失として処理しなければならない(実務指針182)。 ヘッジ対象が消滅したとき又はヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、繰り延べられていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額を当期の純損益として処理しなければならない(実務指針181)。 *   *   * 以上、6つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)

#No. 175(掲載号)
#西田 友洋
2016/06/30

「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第4回】「普通解雇をする際のチェックポイント」~解雇の可否と解雇手続~

「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第4回】 「普通解雇をする際のチェックポイント」 ~解雇の可否と解雇手続~   弁護士 鈴木 郁子   1 はじめに 今回は、普通解雇のうち、従業員側に原因のある通常の普通解雇(会社の経営状態に理由のある整理解雇については別稿を予定)を行う際に、会社側がどのような点をチェックしなければならないか、網羅的に論じる。 基本的に、会社が従業員を解雇する際には、①その解雇が法的に可能な事案か否かを検討し、解雇できる事案であれば、②法に従った解雇手続を行うことになる。   2 解雇できるか否かの検討 (1) 解雇事由の確認 解雇を行う際には、まず、雇用契約と就業規則を確認する(なお、懲戒解雇とは異なり、就業規則の規定がないからといって普通解雇できないわけではない)。 雇用契約に契約の終了原因に関する記載がないか、記載がないとしても、どのような内容が雇用契約の内容となっており、いかなる場合に債務不履行があり雇用契約が終了するといえそうなのか、就業規則が定める解雇事由が何なのか等を確認するのである。 なお、就業規則に普通解雇事由の定めを置いている場合において、解雇事由がこの事由に該当する場合に限定されるのか否かは争いがある。 (2) 解雇権濫用法理 労働契約法16条は、 としており(「解雇権濫用法理」という)、単に就業規則等に定める解雇事由に形式的に該当するからといって、解雇が有効となるものではない。 解雇に「合理的な理由」があり「社会通念上相当」であるといえるためには、例えば以下のような事情を個々の事案毎に総合考慮する必要がある(解雇理由毎の考察は別稿を予定)。 また、「合理的な理由」「社会通念上相当」の立証責任は会社側にあるため、これを裏付ける証拠が十分にあるのかも検討しなければならない。 (3) 解雇制限に違反しないか否かの検討 また、以下の場合は、そもそも解雇ができない。 なお、雇用促進税制の適用やその他雇用に関する助成金を受けている会社の場合、解雇を行うことで、これらの適用や受給を受けられなくなる可能性があるので注意されたい。   3 解雇手続 上記の検討を踏まえ、解雇できるとなった場合においても、正しい解雇手続を行う必要がある。 (1) 解雇予告手続と除外認定 使用者が労働者を解雇する場合においては、少なくとも30日前にその予告をする必要があり、予告をしない使用者は30日分以上の平均賃金を解雇の効力が発生する日に支払わなければならない。 なお、天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、労働者の責に基づく場合には、労働基準監督署の除外認定を受けて即時解雇できるとされている。 ただし、この「労働者の責に基づく場合」とは、予告制度による保護を否定されてもやむを得ないと認められるほど重大・悪質な場合をいい、厳格に認定される。また、資料の提出、労基署の聴取者の本人への聴取など、除外認定の手続に伴う負担も大きい。 したがって、実務的には、リスク回避のために、即時解雇ではなく、解雇予告か予告手当の支払いによる解雇を行うことをお勧めする。 なお、除外認定も受けず、解雇予告もせず、解雇予告手当も支払わないで解雇した場合には、即時解雇の効力は生じないが、解雇通知後30日の期間が経過するか、予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかの時から解雇の効力が生じる。 (2) 解雇予告通知・解雇通知の送付 解雇予告の効力及び解雇の効力は、従業員に会社の意思表示が到達した時に発生する。 したがって、解雇予告・解雇通告は必ずしも書面である必要はないが、予告・通告の事実の有無を争われないように、書面で行う方が望ましいといえる。また、書面の受取りの有無を争われないように、郵送で行う場合には内容証明付郵便で、本人に手渡しで交付するときは通知書の写しのコピーに本人に受取りサインをさせ預かるなどの対応をとることが通常である。本人がメールを見られる環境にあるのであれば、メールで送ることも可能である(ただし、あわせて郵送も行った方がよい)。 なお、口答で行った場合には、その直後に、「**日に**で口答で伝えたように貴殿を解雇します」等と口答で告げた状況を記載した書面を出し、解雇通告を行った事実を証拠化するとよい。 また、解雇予告通知・解雇通知書には、「〇日付で解雇する」「本通知書送達時点を解雇の効力発生日とする」等と解雇の効力がいつ発生するのかも記載する。 (3) 解雇理由書の交付 従業員から要求された場合には、会社は、解雇理由を記載した解雇理由書を交付しなければならない(解雇予告通知・解雇通知と兼ねることもできる(下記〈書式〉を参照))。 解雇理由書には、通常、解雇理由を就業規則の適用条文と共に記載する。懲戒解雇の場合と異なり、解雇後に解雇理由を追加することは不可能ではないが、裁判所等から安易に解雇を行ったとみられてしまうため、解雇理由については判明した解雇理由だけでよいのか十分に調査した上で、網羅的に記載する必要がある。 また、この解雇理由自体が今後の解雇訴訟等における基本となるので、記載にあたっては、合理的な理由といえるか、十分な裏付けがあるか等を精査する必要がある。 解雇理由については、会社側が解雇理由として何を指摘しているのかを従業員が読んですぐ分かるように特定して記載する必要があるが、一方で、曖昧な点を含んで細かく記載しすぎると、後で争われた場合、会社側の解雇理由に関する主張全体の信用性が失われてしまう。 したがって、解雇理由は裏付けのある確実な事実だけを、端的に分かりやすく記載するよう心がけてほしい。 〈書式〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (4) 解雇についての協議規定がある場合の労働組合との協議 また、労働協約において、「組合員を解雇する場合には労働組合と協議する」等の協議規定がある場合には、解雇にあたって組合と協議する必要がある。これを行わない解雇は無効である。 問題は、「組合の同意を得る」という条項となっていた場合である。解雇事由に問題がなく誠意を尽くして協議をしているのであれば、同意を得られずに解雇をしたとしても同意権の濫用として解雇が有効となる場合もないわけではない(このような問題を生じるので、本来、組合との協議規定に同意条項を設けるべきではない)。 (5) 離職票の送付 解雇の効力発生後には、通常の退職手続と同様に、健康保険の資格喪失、失業保険受給のための離職票を交付する等の手続をとらなければならない。離職票には離職理由を記載する欄があるが、解雇理由と齟齬がないように注意が必要である。   (了)

#No. 175(掲載号)
#鈴木 郁子
2016/06/30

マイナンバーの会社実務Q&A 【第13回】「就業規則の改定⑥(「守秘義務」の条文の改定)」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第13回】 「就業規則の改定⑥(「守秘義務」の条文の改定)」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 当社の「守秘義務」の条文の改定について教えてください。現在の条文は、以下の通りです。   〈A〉 マイナンバーに関する事項については、当然に盛り込む。また、マイナンバーを業務上取り扱う社員は「特定個人情報取扱規程」を厳守しなければならないことを盛り込んでおく。 「特定個人情報取扱規程」は、中小規模事業者には作成が義務付けられていない。中小規模事業者においては、マイナンバーの取扱方法や責任者・事務取扱担当者が明確になってさえいればよい(個人情報保護委員会ガイドラインQ&A Q13-2)。 ここでいう中小規模事業者とは、事業年度末の従業員数が100人以下の事業者であって、次に掲げる事業者を除く事業者をいう。 なお、「特定個人情報取扱規程」は、就業のルールではなくマイナンバーの業務マニュアルなので、就業規則には含まれない。 以上を前提に改定を行う。 〈パターン1(「特定個人情報取扱規程」を作成していない会社)〉 カッコ書きに“マイナンバーを含む”を追加した。 〈パターン2(「特定個人情報取扱規程」を作成している会社)〉 第1項のカッコ書きに“マイナンバーを含む”を追加した。また、第2項に“マイナンバーを業務上取り扱う社員は、「特定個人情報取扱規程」を厳守しなければならない。”を追加した。 (了)

#No. 175(掲載号)
#上前 剛
2016/06/30

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第6回】「コーポレートガバナンスと反社会的勢力の排除-中華料理チェーン店における第三者委員会調査報告書の分析」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第6回】 「コーポレートガバナンスと反社会的勢力の排除 -中華料理チェーン店における第三者委員会調査報告書の分析」   弁護士 原 正雄     1 コーポレートガバナンスと反社会的勢力排除 2007年6月19日、犯罪対策閣僚会議が「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表した。同指針は、反社会的勢力排除について、企業の社会的責任であり、企業防衛のためにも必要不可欠と明言している。 その後、2009年8月には、東京証券取引所が有価証券上場規程等を改定し、上場廃止事由の1つとして、反社会的勢力との関与を追加した。2010年から2011年にかけては、全国の都道府県で暴力団排除条例が制定施行された。 2015年に制定された東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは、基本原則2において「ステークホルダーとの適切な協働」を宣言している。ここで「適切な」とは、反社会的勢力排除の趣旨を含む。 社会は、企業が反社会的勢力と関係を持つことを許さなくなっている。現に、2013年には、金融機関が、反社会的勢力への融資を放置していたとして、金融庁から業務改善命令を受けた。 O社が今回の第三者委員会による調査報告書を公表したのは、このような社会の変化を受けてのことであった。   2 第三者委員会の調査報告書 (1) O社の歴史 調査報告書は、2013年に発生した上記事件から50年以上前、1967年の創業時にさかのぼって、O社の歴史を紐解いている。 創業者は、1977年頃にA氏と知り合い、1985年頃から助力を得るようになった。1994年頃から、A氏との間で、経済合理性が明らかではない多額の貸付や、不動産売買等の不適切な取引を繰り返すようになった、とのことである。 調査報告書は、そうしたことを踏まえて、O社の過去のコーポレートガバナンスの状況を分析している。 ① 「創業家支配期」 1994年から2000年までの間、O社は、会社の代表権を創業者の長男と次男に集中させ、しかも次男が専務と経理部長を兼任していた。A氏への貸付や不動産売買等も、この間に始まった。 調査報告書は、取締役会や監査役が機能しておらず、コーポレートガバナンスは不在であった、と結論付けている。 ② 「経営危機脱却期」 2000年から2006年までの間は、創業者の長男と次男が経営責任から取締役を辞任し、T氏が代表取締役に就任していた。 この間、O社は、A氏との不適切な取引によって、一時は企業の存続自体が危ぶまれる状態となった。T氏は、他社からの支援を取り付けるなどして、危機を脱却した。A氏との関係を切ることが得策と判断し、自らが中心となって交渉を進め、貸付や不動産取引について清算した、とのことであった。 調査報告書は、この間のO社のコーポレートガバナンスについて、T氏を中心に少人数で意思決定をしており、取締役会による牽制が働いていなかったとしている。他方、T氏が創業家一族の支配体制からの脱却に努めたこと、A氏との取引を清算したこと、O社を経営危機から脱却させたことについて、一定の評価を与えている。 ③ 「東証上場準備期」 2006年から2013年までの間、T氏は、O社代表取締役社長として、東京証券取引所への上場を目指した。 O社は、東証には「A氏との関係を断ちました」と報告した。東証は、創業家の長男次男との関連当事者取引が問題である、と指摘した。T氏は、長男次男との取引を解消できなかったことから、A氏に助けを求めてしまった。しかし、上場予定日の直前、O社とA氏との関わりが続いていることが東証の知るところとなってしまった。結局、O社は、上場を断念したとのことである。 この間の経緯を見ると、A氏との関係を清算しようとしたT氏でさえも、創業家との関係の整理をA氏に依頼してしまったことが分かる。一度不適切な取引が構築されてしまうと、その関係を清算することがいかに難しいかということを示している。 調査報告書は、この間のO社のコーポレートガバナンスについて、やはりT氏を中心に少人数で意思決定していることを問題とした。また、創業家一族の圧力に屈したことや、A氏との関係を継続していたこと、にもかかわらず東証にはA氏との関係を断ったと報告していたことなどについて「失敗」と断じている。 (2) 現在のコーポレートガバナンスの状況 ① コーポレートガバナンスの構築 2013年12月、T氏が射殺された。後任の代表取締役社長に就任したW氏は、O社のガバナンス改革を推進した。これは、それまでのO社のコーポレートガバナンスの状況についての反省を踏まえてのことであった。O社が構築したコーポレートガバナンス体制は、以下のとおりであった。 他方、調査報告書は、O社が構築したコーポレートガバナンス体制について、以下の懸念を示している。 ② 射殺事件への対応 O社は、T氏の射殺事件について「ネガティブな風評」があったにもかかわらず、ノーコメントを貫いた。また、役職員に対して然るべきメッセージを発してこなかった。 この点について、調査報告書は、ノーコメントを貫くこと自体が憶測を招き、役職員を動揺させてしまった、O社取締役会が何らのアクションを取るべきか否か、その利害得失を分析検討しておくべきであった、としている。 ③ 「過去の2度の失敗」 調査報告書は、創業家との関係の整理や、A氏との取引が一部残ってしまっていることに苦言を呈している。この状況は、現在も、以下のリスクをはらんでいる。 O社は、創業家とA氏との関わりの結果、200億円の資金が流出し、170億円を回収できず、2002年には経営危機に瀕した。また、2012年には創業家との関係整理のためA氏の協力を求めてしまい、上場を断念せざるを得なくなった。これらは、2つの「失敗」であり、上記①~③のリスク要因が組み合わさって生じたものである。 調査報告書が指摘するとおり、これら2つの「失敗」は、O社のコーポレートガバナンス上の問題を端的に示している。O社がコーポレートガバナンスを構築するためには、これらが「最良の教材」である。その反省に立ってこそ、コーポレートガバナンスの構築を実現できる。 ところが、第三者委員会のヒアリングでは、O社の経営陣の多くは、これら2つの「失敗」について、現在のガバナンスとは無関係な「過去の出来事」と位置付け、十分に精査把握したことがなかったとのことである。 調査報告書は、O社経営陣が2つの失敗を「最良の教材」として受け入れ、上記リスクを早期に解消するよう求めている。 (3) 反社会的勢力の排除の状況 ① 反社との関係 第三者委員会は、O社の役職員や取引先をリストアップし、反社に該当するものがないかを調査したとのことである。また、メールデータの分析や、会計データの調査、全役職員へのアンケート調査、ホットライン調査などを行っている。 その結果、O社と反社との関係の存在は確認されなかった、と結論付けている。 ② 反社の排除体制 反社の排除体制については、O社は、以下の体制を整えている。 ただ、調査報告書は、こうした体制について、以下の問題点を指摘している。 ③ 反社チェックに関する問題点 (ⅰ) 対象 O社は、2011年4月1日、取引先が反社に該当しないかのチェックを開始した。 しかし、2015年12月31日までの新規取引先498社の内、293社については、法務課宛に取引先調査の申請が行われていなかったとのことである。 O社では、取引が一定額未満の新規取引先の場合などを「調査対象除外」とし、法務課宛の取引先調査の申請を不要としていた。もっとも、新規取引先が「調査対象除外」に該当するかの判断は、現場の部門長に委ねられていた。 また、O社では、取引先について、反社チェックが実施されたかを確認する仕組みがなかった。例えば、経理部門では、取引先のマスター登録(取引口座の開設)の際、反社チェック済かどうかを確認していなかった。 既存取引先については、定期的に、反社チェックをすることとしていた。しかし、調査対象についての基準に不備があったためか、チェックすべき取引先が抽出できず、既存取引先の反社チェックに漏れが生じてしまった、とのことである。 (ⅱ) 手法 O社では、取引が一定額未満の新規取引先の場合などを「調査対象除外」としている。しかし、なぜそのような条件設定をしたかについて、第三者委員会が理由を確認できなかったとのことである。 また、反社チェックを行う総務部法務課において、以下の不備が認められている。 (ⅲ) グレー取引先 グレー取引先については、上記の反社チェックでは足りず、現場担当者のヒアリングなどが必要である。また、取引開始後も、継続的な監視をすべきである。 しかし、O社では、グレー取引先を補足できず、継続的な監視もしていなかったとのことである。 (ⅳ) 現場への周知 O社の現場の従業員は、反社チェック申請義務を負っている。そのため、反社チェック申請の要否について、第一次的判断をしなくてはならない。必要な情報収集や、取引開始後の継続的監視も必要である。 しかし、O社の現場の従業員たちは、こうしたことを十分に理解していなかった。 ④ 反社会的勢力の排除に向けた改善 O社は、第三者委員会の指摘を受けて、調査期間中に以下の改善を行った。 ⑤ 残された問題点 調査報告書は、O社による上記改善も踏まえたうえで、以下の問題点を指摘している。 (4) 第三者委員会による改善提言 ① コーポレートガバナンスについて 第三者委員会は、コーポレートガバナンスについて、以下の提言をしている。 ② 反社会的勢力排除について 第三者委員会は、反社の排除について、以下の提言をしている。   3 O社の決意表明 今回、O社では、具体的な不祥事が起きたわけではない。事件の捜査に関する報道をきっかけとして、第三者委員会による調査を行ったものである。 なぜ、O社は、不祥事が起きたわけでもないのに、第三者委員会に調査を依頼し、その結果をわざわざ公表したのか。公表直後には、株価が2割近くも下落したではないか。そんなことをすればレピュテーションが低下することは、事前に容易に想像できたのではないか。そのような疑問も生じることであろう。 しかし、コーポレートガバナンスの構築はもとより、反社会的勢力の排除は、容易ではない。社内において、役員や従業員の一人一人が、反社会的勢力の排除について高い意識を持たなければならない。また、社外にも「O社の反社会的勢力排除は、本気だ」と思ってもらわなければならない。そうした社内の意識と社外の見方が一致して、初めて反社会的勢力を排除できる。 本報告書は、O社が、役員や従業員の意識を改善し、社外にも本気であることを知ってもらうために公表した、まさに決意表明である、と解する。だからこそ、O社は、レピュテーションリスクがあると知りつつ、本報告書を公表したのである。 O社は、本報告書を公表した翌日である2016年3月30日、A氏との間で残っていた電話設備保守委託契約を解除し、A氏と一切取引しないことを宣言した。同年4月8日には第三者委員会の調査報告書による提言を実施する旨を宣言した。 その後、O社は、提言実施宣言について、定期的に経過報告を公表している。2016年4月25日、創業家へ法的請求をしたことを公表した。同年5月6日には、反社研修を行ったことや、反社マニュアルを策定した旨を公表した。同年5月30日には、コンプライアンス反社小冊子を作成して配布した旨を公表した。 O社には、今回の決意表明に基づく行動を実践し続け、社会からの信頼を回復し、今まで以上の信用を勝ち取ることを期待したい。 (了)

#No. 175(掲載号)
#原 正雄
2016/06/30

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔経営面のアドバイス〕 【第3回】「資金繰りの検討(その2)」~公的支援としての失業給付・雇用調整助成金~

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔経営面のアドバイス〕 【第3回】 「資金繰りの検討(その2)」 ~公的支援としての失業給付・雇用調整助成金~   公認会計士・税理士 中谷 敏久   復旧予定時期が長期間に及び、従業員給料等の固定費を負担すると資金繰りが破綻すると予想される場合、経営者にとっては誠に辛いことであるが、従業員を休業あるいは一旦解雇し、公的支援によって従業員の最低限の生活を保障してもらいながら会社の再建に尽力する。 そして再建後に従業員を再雇用することのほうが、会社と従業員の双方にとってより望ましい結果となる場合がある。 公的支援としての失業給付と雇用調整助成金のポイントは以下のとおり。 (了)

#No. 175(掲載号)
#中谷 敏久
2016/06/30

実務家による実務家のためのブックガイド -No.2- 太田哲三 著『固定資産会計』

実務家による実務家のための ブックガイド -No.2- 太田哲三 著 『固定資産会計』   〈評者〉 公認会計士 阿部 光成   日々研鑽を積まれている会計士諸氏は、太田哲三の『固定資産会計』(昭和26年、国元書房。同書は中央経済社からも発刊されている)を読んでみてはいかがか。発刊からだいぶ経つので、古書店で入手するか、図書館などで借りることになると思われるが。 さて、平成28年6月17日、企業会計基準委員会は「平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第32号)を公表したが、そこには次の記載がある(15項)。   Ⅰ 「連続意見書第三」の基盤の1つとなった1冊 減価償却については、「企業会計原則」に規定があり、また、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」第三「有形固定資産の減価償却について」(昭和35年6月22日、企業会計審議会。以下「連続意見書第三」という)において詳細に説明がなされている。つまり、最近、設定された会計基準というわけではない。 連続意見書第三の起草は、諸井勝之助先生が担当されたとのことであり、太田哲三の『固定資産会計』をはじめ多くの文献に目を通し、それらを参考にして草案を書き上げたとのことであるから、本書もその基盤の1つになったと考えられる(諸井勝之助『私の学問遍歴』(2002年9月、森山書店)104ページ、109ページ)。   Ⅱ 減価償却研究の困難さを今に伝える 『固定資産会計』を読むと、連続意見書第三に記載されていることだけでなく、配分理論の発展、「償却」の字義、減価償却の理念、「正規の減価償却」と表現した理由、利子の原価性、のれんの資産性など多岐にわたる論点が研究されている。 そのうえで、太田は、減価償却は単なる理論としては成立するが、事実においては成立しないものであると断定しなければならないと述べ、減価償却の会計理論としての価値はいずれの点にあるのだろうかと設問したあと、 と述べている(230ページ。アンダーラインは筆者が記入)。 連続意見書第三の起草に際して参考とされた『固定資産会計』において、減価償却の否定論が述べられていることは、実に興味深いことではないだろうか。それはある意味、減価償却の本質に関する研究の難しさについて示唆しているとも解釈できよう。 減価償却の本質を探った『固定資産会計』は、改めて読むべき価値があると言えよう。 (了) 〔書籍情報〕 固定資産会計 太田 哲三 国元書房・中央経済社、1951年11月  

#No. 175(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/30

《速報解説》 中小企業等経営強化法の施行日は「平成28年7月1日」に~一定の経営力向上設備等取得で固定資産税が3年間半減も、認定までのスケジュールに留意

《速報解説》 中小企業等経営強化法の施行日は「平成28年7月1日」に ~一定の経営力向上設備等取得で固定資産税が3年間半減も、 認定までのスケジュールに留意   Profession Journal編集部   〇中小企業等経営強化法は7月1日施行へ 平成28年度税制改正で史上初の固定資産税による設備投資減税としてその施行時期に注目が集まっていた中小企業等経営強化法だが、このたび施行期日政令の公布により、平成28年7月1日からの施行で確定した(6月30日付官報第6807号)。 中小企業等経営強化法は中小企業・小規模事業者等の生産性の向上(経営力向上)を図ることを目的とし従前の「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律」の一部改正により新たに制定されたもので、支援措置の柱は大きく次の2つに分けられる。 ①②の支援を受けるためには、中小企業者等が、国が定めた事業分野別の指針に基づき経営力向上計画(既報の通り設備投資を前提としたもの)を策定し認定を受ける必要がある(計画未達成による取り戻し措置は設けられていない)。 (※) 中小企業庁ホームページより   〇本年中取得の場合は計画認定までのスケジュールに留意 上記のうち税理士が特に注目すべきは①であり、経営力向上計画に基づき取得した設備(経営力向上設備等)のうち一定のものにかかる固定資産税が最初の3年間、1/2に軽減されるため、同じ設備投資減税でも生産性向上設備投資促進税制のように特別償却や特別控除(税額控除)によるものとは異なり、赤字法人にも実際の減税効果が見込まれる点がポイントだ。 (※) 中小企業庁ホームページより 具体的には、本年(平成28年)中に上記の手続(申請→認定)を経て対象設備を取得した場合、平成29年1月1日時点で所有する資産として申告され、平成29、30、31年度の3年間、固定資産税(償却資産税)が半減される(下図)。 (※) 中小企業庁ホームページより この特例が適用される設備は、この法律の施行日(7月1日)以後に取得したものが対象となるが、本年(平成28年)中に対象設備を取得して適用を受けようとする場合には、スケジュール管理に注意が必要だ。 つまり、平成28年中(7/1~12/31)に対象設備を取得しても、年内に経営力向上計画の認定が受けられず来年(平成29年)へ持ち越しとなった場合、平成29年1月1日時点で経営力向上設備等とはならないため、取得からの最初の3年のうち1年は減税措置が受けられず、減税期間は平成30年・31年の2年になってしまう。 取得した設備が経営力向上設備等と認定されるまでには、経営力向上計画の策定(及び対象設備の検討)、対象設備に係る工業会からの証明書入手(後日詳報)、担当省庁への計画の申請~認定(最大30日)といった複数の段階を要することから、年末までのスケジュールを確認し、クライアントへの早めの周知が欠かせない。 ちなみに、この特例は平成31年3月31日取得分までが対象とされるため、本年中の計画認定が厳しいと予測される場合には、無理をせず取得時期を来年へ先送りするのも一考だ(認定を受ける前に対象設備を取得した場合については、取得日から60日以内に計画が受理される必要がある)。 これらの点については、経済産業省が次のように注意喚起を行っているため、必ず目を通しておきたい(下線は編集部による)。   〇経営力向上計画は事業分野別指針を元に策定、税理士等のサポートも 「経営力向上計画に係る申請書」の様式はすでに中小企業庁ホームページ上で公表されているが、記載方法を記した説明部分を除き実質的には[別紙]の2枚で構成されており、以下が記入項目として設けられている(別途「申請書提出用チェックシート」を申請書に添付する必要がある)。 それぞれの記入項目はその事業者に係る「事業分野別指針」を確認しながら記入することになるが、本稿公開日現在で事業分野別指針は次の11分野が定められており(7月1日以降公表予定)、上記に該当しない事業については、別に定められた基本指針に順ずることになる(各事業分野別指針の概要についても資料が公表されている)。 この経営力向上計画の申請や計画実施に当たってのサポートは、今回の法改正により、すでに多くの税理士・税理士法人が認定を受けている経営革新等支援機関の支援対象の範囲となっており、クライアントサービスの一環としてしっかり取り組んでいきたいところだ。 ここで注意したいのが、事業分野によって申請書を提出する(認定を受ける)担当省庁が異なるという点。例えば、医療分野であれば担当省庁は厚生労働省となるが、自動車整備業の場合は国土交通省となるなど、提出先のミスもスケジュールの遅延につながりかねないことから、事前に担当と思われる省庁へ確認するなどの対応も必要となろう。 中小企業庁では6月下旬から全国で中小企業等経営強化法の説明会を開催しているが、すでに満席や受付終了となっている日程も多いため留意されたい(下記リンク先では、本稿で紹介した資料が掲載されている)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 175(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2016/06/30

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成27年10月~12月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成27年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成28年6月22日、「平成27年10月から12月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全9件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が7件、棄却された事例が2件となっている。税法・税目としては、国税通則法が4件、所得税法2件、法人税法、相続税法及び国税徴収法が各1件であった。 【公表裁決事例平成27年10月~12月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、重加算税に関する不服審判所の考え方が示された上記②及び③の裁決を含む3件の裁決事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 重加算税(隠ぺい、仮装の意図)(前掲表②) (1) 争点 (2) 審判所の判断 国税不服審判所は、事実認定の結果、「請求人は、K社から日本における実習生等の管理等の委託を受けて本件業務等を行っていたと認められる」と判断し、「請求人は、本件業務等の事業主体であり、本件業務等は、請求人の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるといえることから、本件所得は、事業所得に該当する」と結論づけた(争点①)。 また、請求人による、本件所得が事業所得に該当するのであれば、「V国への渡航に係る費用を必要経費に算入するべきである」という主張に対しては、「請求人のV国への渡航に係る費用の支出が、本件所得を生ずべき本件業務等と直接関係し、かつ、本件業務等の遂行上必要なものか否かが不明」であるうえ、「V国には請求人の両親が居住していること」などを理由に、「請求人が負担した当該費用は家事関連費に該当するとも考えられるところ、当該費用の主たる部分が本件所得を生ずべき本件業務等の遂行上必要なものであり、かつ、その必要である部分が明らかに区分することができる場合にも当たらない」ことから、必要経費に算入することはできないと判断した(争点②)。 次に、審判所は、重加算税を課するための要件について、下記のように定義した。 そのうえで、請求人が、 などを認定したうえで、請求人の行為を以下のようにまとめ、隠ぺい又は仮装があったことを認めた。 なお、前掲表中の裁決結果には、本件裁決について「一部取消し」と表記しているが、これは原処分庁において重加算税の賦課決定処分の一部に過誤があったものを是正したものであり、実質的には、請求は全面的に棄却されたものであることを付言しておく。   2 重加算税(隠ぺい、仮装の認定)(前掲表③) (1) 争点 (2) 審判所の判断 国税不服審判所は、相続財産である預貯金等の帰属について、以下のように定義している。 そのうえで、 から、各定期預金は、各預入日から相続の開始日までの間一貫して被相続人が管理、運用してきたものであり、被相続人に帰属する相続財産と認められると判断した(争点①)。 また、各定期預金については、遺産分割協議書に個別的な記載がないことから、原処分庁は、「記載のない財産については、妻に帰属する」という条項に基づき、子供ら名義の預金も妻に帰属すると主張したのに対し、審判所は、請求人らにおいて、そうした合意があったと認めることはできないとし、原処分庁の主張を退けた(争点②)。 そのうえで、重加算税(争点③)の賦課要件については、以下のように定義している。 そして、妻については、以下の事実を隠ぺいする行為があったと認定した。 また、子供らについても、以下の隠ぺい行為を認定した。   3 財産評価(宅地及び宅地の上に存する権利、前掲表⑧) (1) 争点 本件土地は、広大地通達に定める広大地に該当するか否か。 具体的には、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるか。 (2) 原処分庁の主張 本件土地は、原処分庁の作成した開発想定図のように分割を行えば、道路等の公共公益的施設用地の負担を必要としなくとも標準的な地積の宅地に分割することが可能であり、そのような土地についてまで、広大地通達を適用することを想定しているとは認められない。 (3) 審査請求人らの主張 本件土地は、請求人らの開発想定図又は分譲完了直前図のように公共公益的施設用地である道路を設けることによって、①全ての画地に利用度のメリットが付加され、②面積もバラエティに富み、③少々の不整形も道路による利用度でカバーされ、④道路により画地の向きも補正されることから、宅地としての財産価値が高まり、また、道路の設置による販売面積の不効率を完売による資金効率が上回るため、民間業者では当たり前の経済的に最も合理的な分譲ができるものとなっている。 経済的合理性の判断は、分譲が販売である以上、購入者側のニーズや予算すなわち需要という経済的合理性に応えた上でのものでなければならない。 (4) 審判所の判断 国税不服審判所は、広大地通達の趣旨について、次のように定義した。 そのうえで、審判所は、開発事例等を参考にしながら、「本件土地は、その形状、道路との接続状況及び本件地域における経済的に最も合理的と認められる戸建住宅用地としての開発などの形態からみて、開発行為を行うとした場合に道路等の公共公益的施設用地の負担が生じないと認めるのが相当である」と原処分庁の主張を認めて、次のように結論した。 一方、請求人らの主張に対しては、「開発行為を行うとした場合に道路を設置する必要は認められない」、「仮に、道路を設置することによって戸建住宅用地としての価値が上がったとしても、そのことが直ちに公共公益的施設用地の負担が必要か否かの判断に影響を与えるものではない」として、主張には理由がないとした。 また、本件土地が、相続開始日から約1年5ヶ月を経過した後、実際に道路が設置された開発が行われていることについては、「開発時点における本件土地の開発に影響を及ぼす諸状況等が、相続開始日時点と同じであるとまでは認められ」ないことから、「相続開始日後の開発形態のみにより、本件土地について相続開始日において開発行為を行うとした場合に道路の設置を伴う開発が経済的に最も合理的と認められる開発であるか否かを判断することは相当でない」と判断している。 なお、前掲表中の裁決結果には、本件裁決について「一部取消し」と表記しているが、これは審判所の認定により、土地の評価額が一部減額になったことに伴うものであり、本件で争点となった「広大地」をめぐる裁決は、原処分庁の主張を一方的に認めたものであった。 (了)

#No. 174(掲載号)
#米澤 勝
2016/06/29

《速報解説》 監査事務所への品質管理レビュー結果をまとめた「平成27年度 品質管理委員会年次報告書」を公表~減損会計、繰延税金資産等における改善勧告事項を紹介~

《速報解説》 監査事務所への品質管理レビュー結果をまとめた 「平成27年度 品質管理委員会年次報告書」を公表 ~減損会計、繰延税金資産等における改善勧告事項を紹介~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年6月24日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「平成27年度 品質管理委員会年次報告書」を公表した。また、同日、「平成27年度品質管理委員会活動に関する勧告書」もホームページに掲載している。 年次報告書は、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、年次報告書に記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会計上の見積りに関する事項 会計上の見積りの監査に関して、次のような事項が述べられている(年次報告書1、(3)①、(4)④)。 下記のほか、経営者が会計上の見積りを行った方法とその基礎データを批判的に検討していない、前年度の財務諸表に計上されている会計上の見積りの確定額又は該当する場合には再見積額について検討していないという指摘もあったとのことである。   Ⅲ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARは、加盟している監督機関が監査業務及び監査事務所の品質管理のシステムの検査で指摘した事項を、2012年以降、毎年調査しており、2015年の調査結果を2016年3月3日付けで公表している。 IFIARによる「上場企業の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(年次報告書2(3))。 公正価値測定で共通して見られた指摘として、利用したデータの正確性を十分に検証していないことが述べられている。 (了)

#No. 174(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/28

《速報解説》 譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)割当に係る開示府令の改正(公開草案)が公表~第三者割当の定義から除外し普及を促進。7月下旬以降の施行予定~

《速報解説》 譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)割当に係る 開示府令の改正(公開草案)が公表 ~第三者割当の定義から除外し普及を促進。7月下旬以降の施行予定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年6月24日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは、株式報酬として一定期間の譲渡制限が付された現物株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)の割り当てをする場合に、役員等に対する報酬の支給の一種であることに鑑み、ストックオプションの付与と同様に、第三者割当の定義から除外し、有価証券届出書における「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とする改正等を行うものである。 意見募集期間は平成28年7月25日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条(臨時報告書の記載内容等)2項1号ヲに次の規定を設ける。 「企業内容等開示ガイドライン」5-7では次のように規定する。   Ⅲ 適用時期等 改正後の規定は、本年7月下旬以降に公布・施行する予定である。 (了)

#No. 174(掲載号)
#阿部 光成
2016/06/27
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