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財産債務調書の実務における留意点 【第1回】「財産債務調書提出制度の概要」

財産債務調書の実務における留意点 【第1回】 「財産債務調書提出制度の概要」   デロイト トーマツ税理士法人 ディレクター 税理士 飯塚 信吾   これまで、個人が保有する財産等に関する申告制度としては、所得税法に「財産及び債務の明細書」の提出制度が規定されていたが、この明細書は申告書の添付書類として規定されており、支払調書などとは異なり、未提出などに対する罰則がなかったことなどから、必ずしも適正に提出・活用されていないのではないかと言われていた。 そこで、平成27年度の税制改正において、この制度が見直され、新たに「財産債務調書」の提出制度として、国外財産調書などと併せて「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」(以下「国外送金等調書法」)に規定された。 財産債務調書は、従来の財産及び債務の明細書と比較して、提出義務者の要件に保有する財産の額の要件が加わりその範囲が狭められるとともに、財産債務調書の提出を促す観点から、国外財産調書と同様に調書を提出した場合における過少申告加算税等の減額措置及び不提出の場合における加重措置が規定されている。 また、この制度では平成27年7月1日から施行されている国外転出時課税制度の対象となる可能性がある財産について申告を行う必要があり、国外転出時課税制度の適正な執行を担保することを意図したものとなっている。 「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(国外財産調書関係)の取扱いについて(法令解釈通達)」(以下「取扱通達」)もこれに併せ改正が行われ、詳細な取扱いが明らかにされているので、以下のとおり財産債務調書の実務における具体的な留意点について解説する。   1 提出義務者 財産債務調書を提出しなければならない者は、所得税の確定申告書の提出義務のある者で、次のいずれの要件も満たす者である。 上記①の「その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額」とは、申告分離課税の所得がある場合には、それぞれの特別控除後の所得金額を加算した後の金額であり、純損失・雑損失の繰越控除、居住用財産の買替え等の場合の譲渡損失の繰越控除、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除などの繰越控除適用後の金額となる(国外送金等調書令12の2 ⑤)。 したがって、実務的には、申告書第一表の総所得金額に申告書第三表の退職所得を除く分離課税の所得金額を加算した金額が2,000万円を超える場合に提出義務があることになり、この点は、従来の財産債務の明細書の提出義務と同じである。 財産債務調書では、従来の財産及び債務の明細書の提出要件に加えて、上記②の要件が追加され、年末において保有する財産の価額の合計額が3億円以上であるか、又は、年末において保有する「国外転出特例対象財産」の価額の合計額が1億円以上である場合に提出義務があることとされ、保有財産の額の要件により提出対象者の範囲が狭められている。 国外転出特例対象財産とは、平成27年7月1日から施行されている所得税法60条の2《国外転出をする場合の譲渡所得等の特例》に規定されている有価証券等、未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引である。 平成27年7月1日以降、居住者が国外へ転出する際に国外転出特例対象財産を1億円以上保有しており、国外転出時前10年内に5年以上国内に住所又は居所を有している場合には、国外転出時課税の対象となり、その国外転出特例対象財産を国外転出時に譲渡等を行ったものとしてその含み益に対し譲渡所得の課税が行われることになった。 年末において、この国外転出時課税制度の対象となる財産を保有している者で、その年の確定申告書の提出義務があり所得金額の要件を満たす場合には、財産債務調書を提出する必要がある。このため、財産債務調書は国税当局が将来国外転出時課税制度の対象となる可能性のある者を予め捕捉しておく効果もあると考えられる。 なお、国外財産調書は、その年末において居住者(永住者)であることが提出の要件になっている(国外送金等調書法5①、取扱通達5-1)が、財産債務調書は、年末において非居住者であっても、その年分について確定申告書(年の中途で出国する場合の確定申告書を含む)の提出義務があり、かつ総所得金額及び山林所得金額の合計金額が2,000万円を超えるなどの要件及び保有財産の要件を満たす場合には提出しなければならない(国外送金等調書法6の2 ①)。   2 記載事項 財産債務調書は、国外財産調書と類似した様式で、提出者の住所、氏名のほか、財産の種類、数量、価額、所在などを「種類別」、「用途別」(一般用、事業用の別)、「所在別」に記載することとされているが、国外財産調書と異なり、債務の金額等も記載する必要がある。 また、国外財産を5,000万円以上有するため国外財産調書を提出する者が、財産債務調書も提出しなければならない場合があるが、この場合には、財産債務調書に国外財産調書に記載した国外財産の価額の合計額のみを記載することとされている。なお、国外に存する債務については、財産債務調書に記載する必要がある。   3 財産の「所在」 財産債務調書に記載する財産の所在は、原則的には相続税法10条が規定する財産の所在の判定によることになるが、有価証券等が金融商品取引業者等の営業所等に開設された口座に係る振替口座簿に記載されているものである場合には、相続税法10条の規定によらず、財産の所在地はその営業所等の所在地とされており、この取扱いは国外財産調書の規定が準用されている。 なお、有価証券等とは次のものをいう。   4 提出期限 提出期限は国外財産調書と同じであり、その年の年末に保有する財産及び債務について、翌年の3月15日(所得税の確定申告期限)までに申告することになる。 *   *   * (文中、意見にわたる部分は筆者の見解であり、所属する組織の見解ではないので、ご留意いただきたい。) (了)

#No. 154(掲載号)
#飯塚 信吾
2016/01/28

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第3回】「誤りやすい『人的控除』に関するQ&A」

平成27年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「誤りやすい『人的控除』に関するQ&A」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   人的控除を的確に適用するためには、要件を正確に理解しておくことが必要である。【第3回】は、所得控除のうち人的控除に関する留意事項をQ&A形式でまとめることとする。 なお、以下の各ケースは、すべて平成27年分の確定申告を前提としている。また、特に明記していない場合には、平成27年12月31日の現況を示している。   【Q1】 配偶者控除の適用 妻の収入(又は所得)が(1)から(6)の各場合において、妻は夫の控除対象配偶者に該当するか。 【A】 (1) 該当する (2) 該当しない (3) 該当する (4) 該当しない (5) 該当しない (6) 該当する 【解説】 控除対象配偶者とは、12月31日現在(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次の4つの要件をすべて満たす配偶者をいう(所法2①三十三、所基通2-46、2-47、2-48)。 (1)から(6)の各ケースは、①及び②は満たしているので、以下③と④について検討する。 なお、合計所得金額については下記参照されたい。 ▷ (1)のケース 公的年金等に係る雑所得の金額は30万円(公的年金等の収入金額150万円-公的年金等控除額120万円)である(所法35②一、措法41の15の3①)。合計所得金額が38万円以下であり、年齢が70歳以上であるため、老人控除対象配偶者に該当する(所法2①三十三の2)。 ▷ (2)のケース 1月から3月まで、夫の営む事業に従事する青色事業専従者として給与の支払いを受けている。④の要件を満たしてないため、控除対象配偶者に該当しない(所法2①三十三、所基通2-48)。 ▷ (3)のケース 確定申告をしないことを選択した配当所得は、合計所得金額に含まれない(所基通2-41)。よって、合計所得金額は0円となり、控除対象配偶者に該当する。 ▷ (4)のケース 未上場株式の配当所得について確定申告を不要とすることができるのは、1回に支払を受けるべき金額が10万円以下(配当計算期間1年)の場合(※)であり、それを超えると総合課税の対象となる(措法8の5①一)。 (※) 確定申告を不要とすることができるのは、10万円×(配当計算期間の月数/12月)で計算される金額である。 A社からの配当収入(=配当所得)40万円は、総合課税の対象となり、合計所得金額は38万円を超える。よって、控除対象配偶者に該当しない。 ▷ (5)のケース 合計所得金額の計算をするとき、各種所得の金額の計算に損失(純損失、雑損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失、上場株式等の譲渡損失、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失、先物取引の差金等決済に係る損失)の繰越控除の適用がある場合には、繰越控除を適用する前の金額が合計の対象となる(所基通2-41(2))。 合計所得金額は「50万円(10万円+40万円)>38万円」となるため、控除対象配偶者に該当しない。 ▷ (6)のケース 青色申告特別控除の適用がある場合の事業所得の金額は、青色申告特別控除後の金額である(措法25の2)。合計所得金額が38万円以下であるため、控除対象配偶者に該当する。   【Q2】 寡婦(寡夫)控除の適用 所得者自身が次の(1)から(4)の各場合において、所得者は寡婦(寡夫)に該当するか。 【A】 (1) 該当しない (2) 該当しない (3) 該当する (4) 該当しない 【解説】 寡婦とは、所得者自身が、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次の①、②のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十、所令11①②、所基通2-40、2-41、2-42)。 〈寡婦の要件〉 (※) 総所得金額等とは、純損失、雑損失、その他各種損失の繰越控除後の総所得金額、特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額及び退職所得金額の合計額をいう。非課税所得や租税特別措置法の規定によって源泉分離課税とされるもの、確定申告をしないことを選択したものなどは含まれない。 (注) 総所得金額等と合計所得金額との違い 総所得金額等:各種損失の繰越控除適用後の金額を合計する。 合計所得金額:各種損失の繰越控除適用前の金額を合計する。  夫は、民法上の配偶者であることが必要で、夫と死別又は離婚後に婚姻をしていないことも要件となる。 また、寡婦のうち次の要件のすべてを満たす場合には、特別の寡婦として寡婦控除の額が8万円上乗せされる(措法41の17①)。 〈特別の寡婦の要件〉 次に、寡夫とは、所得者自身が、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次のすべての要件を満たす人をいう(所法2①三十一、所令11の2①②)。 〈寡夫の要件〉 妻は、民法上の配偶者であることが必要である。 以下、各ケースについて検討する。 ▷ (1) のケース 離婚の場合には、〈寡婦の要件〉①のとおり、扶養親族又は生計を一にする子がいることが寡婦の要件となる。よって、寡婦に該当しない。 ▷ (2)のケース 夫は、民法上の配偶者であることが必要である。内縁の夫と離別した場合には、他の要件を満たしていても寡婦に該当しない。 ▷ (3)のケース 死別の場合には、〈寡婦の要件〉①のとおり、扶養親族又は生計を一にする子がいることが寡婦の要件となる。この場合、合計所得金額についての要件はない。よって、寡婦に該当する。 ▷ (4)のケース 〈寡夫の要件〉①と②は満たしているが、合計所得金額が500万円を超えている(※)ため③の要件を満たしていない。よって、寡夫に該当しない。 (※) 給与収入1,000万円の場合の給与所得は780万円   【Q3】 障害者控除の適用 次の(1)から(4)の各ケースの場合において、扶養親族、控除対象配偶者、所得者本人は、障害者控除の対象となる障害者に該当するか。 【A】 (1)から(4)すべて該当する。 【解説】 障害者控除の対象となる障害者(以下、障害者という)とは、所得者自身、控除対象配偶者、扶養親族で、12月31日(年の途中で死亡した人の場合には死亡時)の現況において、次のいずれかに該当する人をいう(所法2①二十八・二十九、所令10、所基通2-38)。 〈障害者に該当する者〉 以下、各ケースについて検討する。 ▷ (1)のケース 障害者の範囲は、控除対象扶養親族に限られていない。年少扶養親族も含む「扶養親族」が対象である。小学生である扶養親族(年少扶養親族)も障害者に該当する。 ▷ (2)のケース その年に死亡した人が障害者に該当するかどうかは、死亡時の現況に基づいて判定する。よって、死亡時の現況で障害者に該当すると判定された扶養親族は、死亡日を含む年分の所得税の計算において障害者に該当する。 ▷ (3)のケース 〈障害者に該当する者〉⑦の「常に就床を要し、複雑な介護を要する者」とは、障害者であるかどうかを判定する時の現況において、引き続き6月以上にわたり身体の障害により就床を要し、介護を受けなければ自ら排便等をすることができない程度の状態にあると認められる者をいう(所基通2-39)。 この要件を満たす者は、特別障害者に該当する。 ▷ (4)のケース 障害者であるかどうかを判定する時や確定申告書の提出の時までに身体障害者手帳又は戦傷病者手帳の交付を受けていない人であっても、次の要件のいずれにも該当する場合には、障害者として取り扱うことができる(所基通2-38)。 〈障害者として取り扱うことができる場合〉 本ケースは、この要件を満たしているため障害者に該当する。 上記の他、人的控除については、同居老親や同居特別障害者の「同居」の定義や配偶者特別控除の適用要件等についても正確に把握しておきたい。 *  *  * 次回(最終回)も、確定申告実務の留意点をQ&A形式で解説する予定である。 (了)

#No. 154(掲載号)
#篠藤 敦子
2016/01/28

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第7回】「創設規定と確認規定①」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第7回】 「創設規定と確認規定①」   公認会計士 佐藤 信祐   矢内一好『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』財経詳報社122-124頁(平成27年)では、同族会社等の行為計算の否認の争点とそれに関する裁判例をそれぞれ列挙している。 第7回以降は、そこで列挙されている判例を分析することにより、同族会社等の行為計算の否認の争点を解明していきたい。 本稿では、まず、争点1として紹介されている同族会社等の行為計算の否認を創設規定とする判決と確認規定とする判決について、それぞれ紹介することとする。   6 判例分析①(創設規定と確認規定) (1) 総論 矢内教授の分析によると、昭和50年以降は創設規定とする説が通説となるだけでなく、平成9年4月25日東京地裁判決では、課税庁が創設規定であることを明言していたとのことである。 また、矢内教授は八ッ尾教授の書籍で確認規定と創設規定の学説がまとめられているものとして紹介しているが、八ッ尾順一『租税回避の事例研究』13-14頁(清文社、六訂版、平成26年)を見てみると、「同族会社の行為計算の否認規定を『確認規定』と解し、非同族会社にも適用すべきであると主張する論者」の論考は、すべて昭和52年のものであり、平成9年4月25日東京地裁判決で課税庁が創設規定であることを明言してしまった現在では、あまり参考にならないのかもしれない。 さらに、酒井克彦教授は、創設規定とする学説が通説であるとしたうえで、「法人税法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》、同法132条の3《連結法人に係る行為又は計算の否認》という規定が設けられたことを考えると、確認規定説が前提とされていれば、かような新しい条文は設けられる必要がなかったことになるから、今日的には確認規定説は瓦解したとみるべきであろう。」(※1) と指摘されている。 (※1) 酒井克彦『裁判例からみる法人税法』大蔵財務協会708-709頁(平成24年) そのため、平成9年4月25日東京地裁判決以降は、創設規定であると考えることが自然なのかもしれないが、そうなると自ずと同族会社等の行為計算の否認は非同族会社には適用されず、同族会社のみに適用される規定であるということになる。さらに、【第4回】で解説した大正12年における同族会社等の行為計算の否認規定の創設経緯からしても、確認規定で解することには無理があり、創設規定であると解するべきであると考えられる。 その点を解明していくためにも、矢内教授が列挙している8つの判決についてそれぞれ分析していくこととする。 (2) 最高裁昭和37年6月29日判決(TAINSコード:Z999-9035) このように、本判決は、同族会社等の行為計算の否認についての判決ではなく、実質所得者課税の原則についての判決である。ただし、実質所得者課税の原則を創設的規定ではなく、確認的規定であると明言しただけでなく、本事件が刑事責任について争われた事件であったことから、非常に厳しい判決であったということができる。 実質所得者課税の原則は、昭和28年度税制改正により「実質課税の原則」として導入されたものであり、その後、昭和41年度税制改正により、「実質所得者課税の原則」と題名が変更され、現在に至っている。 実質所得者課税の原則の論点として、金子宏教授は、「1つは、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきである、という趣旨にこれらの規定を理解する考え方である。これを法律的帰属説と呼ぶことができる。他の1つは、これらの規定は、課税物件の法律上(私法上)の帰属と経済上の帰属が相違している場合には、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判定すべきことを定めたものである、と解する立場である。これを経済的帰属説と呼ぶことができる。」(※2)としたうえで、法律的帰属説が妥当であるとされているが、この論点については、租税回避に対する事実認定による否認手法を分析する際にも重要であるため、いずれこの連載でも触れたいと思う。 (※2) 金子宏『租税法』弘文堂165-166頁(平成26年、第19版) さらに、実質所得者課税を創設的規定ではなく、確認的規定であるとした場合には、実質所得者課税よりも広い概念である実質課税の原則の取り扱いはどのように考えるべきなのかという点も問題となる。実質所得者課税の原則を確認的規定であるというのであれば、実質課税の原則も明文の規定なく適用することができるという考え方にも発展しかねないからである。 この点についても、租税回避に対する否認手法を検討する際には重要な論点でもあるため、いずれこの連載で触れたいと思う。 とりあえず、ここでは実質所得者課税の原則についてのみに限定すると、法人税基本通達1-3の2-1では、支配関係及び完全支配関係の判定について、「その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する。」と規定されているところ、同通達は収益の帰属者を定めた実質所得者課税の原則とは異なることから、その根拠となる法令が無いということになってしまうし、単なる名義人ではなく、実際の権利者に帰属するものとして租税法を適用することは、収益の帰属以外にも広く行われていることを考えると、実務上は、最高裁昭和37年6月29日判決にあるように、確認的規定であるとすべきであると考えられる。 次回では、大阪高裁昭和39年9月24日判決について解説を行う予定である。 (了)

#No. 154(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/01/28

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例34(法人事業税)】 「外形標準課税の資本割計算において、「特定子会社の株式又は出資に係る控除措置」を適用せずに申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例34(法人事業税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆外形標準課税の課税標準(地方税法72条の2) 資本金1億円超の法人については、平成15年度の税制改正において、法人事業税につき外形標準課税が導入されている。外形標準課税は、付加価値割、資本割、所得割からなり、それぞれの課税標準は次のとおりである。 ◆資本割における「持株会社特例」(地方税法72条の21第6項) 資本割は、法人の資本等の金額に税率を乗じて計算されるものであるが、適用対象となる法人が特定持株会社(総資産価額に占める特定子会社の株式の帳簿価額の割合が100分の50を超える内国法人をいう)である場合には、「持株会社特例」が設けられており、次の算式により求めた金額が控除される。 この場合の特定子会社株式の帳簿価額は、総資産価額(分母)の計算上は会計上の簿価を用い、特定子会社株式の帳簿価額(分子)の計算上は法人税法上の簿価を用いる。       (了)

#No. 154(掲載号)
#齋藤 和助
2016/01/28

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第10回】「電子取引に係る電磁的記録の保存(2)」

改正電子帳簿保存法と企業実務 【第10回】 「電子取引に係る電磁的記録の保存(2)」   税理士 袖山 喜久造   前回に続き、電帳法第10条に規定された電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存方法について解説する。   1 電帳法施行規則第8条の規定 規則第8条第1項は電子取引に係る電磁的記録の保存方法について規定しており、「法第10条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を、当該取引情報の授受が書面により行われたとした場合に、当該書面を保存すべきこととなる場所に、保存すべきこととなる期間、保存要件に従って保存しなければならない」としている。   2 保存場所と保存期間 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存場所は、その取引情報の受領が書面により行われたとした場合、又はその取引情報の受領が書面で行われこの写しが作成されたとした場合に、各税法の規定により書面を保存することとなる場所、すなわち納税地若しくは国内の事務所、事業所、その他準ずる場所で保存することとなる。 電磁的記録の保存場所については、保存場所にサーバ等が設置されていない場合であっても、例えば、当該保存場所(納税地等)に備え付けられている電子計算機と通信回線で接続されるなどにより、保存場所において電子取引に係る電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、それぞれの要件に従った状態で速やかに出力することができるときは、当該電磁的記録は保存場所に保存等がされているものとして取り扱われることとなる。 保存期間は、法人税法の規定により7年間となる。青色申告法人、連結申告法人が繰越欠損金若しくは連結繰越欠損金の繰越控除を利用する場合には、最長で10年間が保存期間となる。 なお、電子取引に係る電磁的記録を書面に出力し保存する場合も、保存場所及び保存期間は同様になる。   3 電磁的記録への措置 規則第8条第1項では、電子取引に係る電磁的記録の保存にあたっては、以下の2つのいずれかの措置をしなければならないとしている。 (1) タイムスタンプの付与 規則第8条第1項第1号では、取引情報の授受後に、遅滞なく、当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこととしている。 この場合の「遅滞なく」は、特に具体的な期限等の規定はないが、原本とスキャンデータが相違ないことを確認するスキャナ保存制度と異なり、電子取引においては、当該電磁的記録そのものにタイムスタンプを付与することになり、「授受後即時に」と解すことが一般的である。 規則第8条第1項で規定されるタイムスタンプとは、規則第3条第5項第2号ロで規定されるタイムスタンプの要件が適用される。したがって、スキャナ保存で行う際と同様に、タイムスタンプは、一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプで、改ざん検知ができ、かつ、一括検証ができなくてはならない。 (2) 事務処理規程の整備 規則第8条第1項第2号では、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めることとされているが、これは、当該規程によって電子取引の取引情報に係る電磁的記録の真実性を確保することを目的としたものである。 したがって真実性を確保する手段としては、保存義務者自らの規程のみによる方法のほか、取引相手先との契約による方法も考えられることから、当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこととされている。 この規程の作成に当たっては、以下の事項に留意する必要がある。 ① 自らの規程のみによって防止する場合 電子取引に係る電磁的記録の訂正及び削除を原則禁止とし、業務処理上の都合により、データを訂正又は削除する場合は、訂正又は削除できる事象(例えば、取引相手方からの依頼により、入力漏れとなった取引年月日を追記)を具体的に決め、訂正削除日、訂正削除理由、訂正削除内容、処理担当者の氏名の記録及び保存などに関する事務処理手続を盛り込む必要がある。また、データ管理責任者及び処理責任者を定め規程に記載する。 ② 取引相手との契約によって防止する場合 電子取引の種類を問わず、事前に取引相手とデータ訂正等の防止に関する条項を含む契約を行う必要がある。規程には、例えば「電子取引の種類を問わず、電子取引を行う場合には、事前に、取引相手とデータの訂正等を行わないことに関する具体的な条項を含んだ契約を締結すること。」等を記載する必要がある。 電子取引の種別には様々な取引形態があり、それぞれの取引に当該電磁的記録の真正性を担保する重要性が異なることから、必要に応じて電子署名若しくはタイムスタンプを用いる方法が現実的である。保存義務者の現実的な運用としては、多くは後者の事務処理規程を備え付け運用する方法がとられるであろう。   4 保存方法 規則第8条第1項においては、電子取引の電磁的記録の保存方法は、規則第3条第1項第4号及び第5項第7号において準用する同条第1項第3号イ、及び第5号に掲げる要件に従って保存しなければならない、と規定されている。 電子取引に係る電磁的記録の保存に代えて、書面に出力したものを保存する場合には、その電磁的記録を整然とした形式及び明瞭な状態で保存する必要がある。 以下、電磁的記録の保存方法として規定されている項目について具体的に解説する。 (1) 関係書類の備付け(規則第3条第1項第3号) 電子取引に係る電磁的記録の保存に併せて、電子取引の電磁的記録に係る電子計算処理システムの概要を記載した書類の備付けを行うことが必要となる。この場合は、ほかの者が開発したシステムを使用している場合は備付けしなくてもよい。 (2) 見読性の確保(規則第3条第1項第4号) 当該電子取引に係る電磁的記録の保存をする場所に、当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくことが必要である。 (3) 検索機能の確保(規則第3条第1項第5号) 当該電子取引に係る電磁的記録の記録事項を以下の項目等で検索をすることができる機能を確保しておくことが必要である。 電子取引に係る電磁的記録の検索機能の確保については、データの保存形態が様々であり、それぞれの種類の電子取引ごとに検索機能を確保することは現実的に困難と思われる。 EDI取引のように、データベースの形式で保存されるのであれば、ODBCなどを活用して汎用ソフトウエアで検索する方法も検討できる。電子メールは、データベースの形式では保存することができないため、例えばアーカイブソフトに付属している検索機能、あるいは、メール監視ソフトの監視ツールの検索機能を使用するしか検索機能を確保することができないと思われる。 電子取引に係る電磁的記録は、範囲が広く、取引形態も様々である。電帳法第10条の規定を的確に遵守できている保存義務者も必ずしも多くないことから、まずは当該電磁的記録の保存方法についての要件対応を検討する前に、法定保存期間中保存することが肝要と思われる。 *   *   * 次回は、国税関係帳簿書類の電磁的記録の保存の承認を受けている、電帳法適用法人の税務調査対応について解説する。 (了)

#No. 154(掲載号)
#袖山 喜久造
2016/01/28

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第8回】「渡邉林産事件」~最判平成16年12月20日(集民215号1005頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第8回】 「渡邉林産事件」 ~最判平成16年12月20日(集民215号1005頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 154(掲載号)
#菊田 雅裕
2016/01/28

[子会社不祥事を未然に防ぐ]グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第8回】「グループ企業への具体的な関与(その2)」~リスク管理に係る基本的・具体的アプローチ~

[子会社不祥事を未然に防ぐ] グループ企業における内部統制システムの再構築とリスクアプローチ 【第8回】 「グループ企業への具体的な関与(その2)」 ~リスク管理に係る基本的・具体的アプローチ~   弁護士 遠藤 元一   1 「リスクベース・アプローチによるリスク管理」を具体例で検討 リスクベース・アプローチによるリスク管理の手法については【第5回】で概観した。親会社は、グループ企業の事業・規模・事業特性・組織風土等を考慮して、事業リスク、市場リスク、信用リスク、コンプライアンスリスク等多岐にわたるリスクを洗い出し、評価及び分析を行い、当該グループ企業のリスクマップを描き、優先的に対応すべきリスクの選定とその対策を検討する。 今回は、グループ企業の一社に、アパレルメーカーとの間で衣料品の販売を受託する繊維製品の流通商社がある場合を例に、リスクベース・アプローチによるリスク管理の手法を具体的に検討してみよう。   2 グループ会社におけるリスクの洗い出し 企業には、事業・規模、事業特性・組織風土、事業を展開する場所等による固有のリスクが存在する。繊維製品の販売を業とする流通商社のビジネスは、アパレルメーカーが、年2回(春夏シーズン、秋冬シーズン)、販売を決める衣料品の製造をアパレルメーカーの使者(あるいは代理人)としてメーカーに発注し、必要な繊維生地等をはじめとした原材料を調達してメーカーに販売する等して提供して衣料品を製造させ、製造された衣料品をメーカーからアパレルメーカーが指定する場所まで出荷・運搬して納入場所で検収条件での検収を行い、引渡しを行うことが一連の業務となる。 このような流通商社の業務のリスクを洗い出しすると、代表的なリスクとして次のようなものが考えられる。 ① 下請法に関するリスク 第1に、下請法を逸脱するリスクが考えられる。 衣料品の企画・仕様をアパレルメーカーがすべて決定し、流通商社の役割は単にそれをメーカーに伝えるだけであれば、下請法はアパレルメーカーとメーカーとの間で適用されることになるが、流通商社が何らかの形で企画・仕様に関わっている場合には、流通商社とメーカーとの間で下請法が適用される。 下請法が適用される場合、流通商社は親事業者として子事業者であるメーカーとの間で、3条書面の作成・交付や代金の支払期限についての制約等、下請法が定める規制を遵守することが求められる。 なお、メーカーに繊維生地等の原料を売り渡し、メーカーが製造した衣料品を買い上げるという売買契約を締結することによって下請法が適用されないと考えている流通商社もあるようである。しかし、下請法の適用の有無は、締結した契約の形式ではなく、実態で決められるため、メーカーとの間で売買契約を締結しているからといって下請法のリスクを回避できるわけではないという点に留意が必要である。 ② 景品表示法に関するリスク 第2に、景表法違反のリスクにも注意が必要である。繊維生地等の原料をメーカーが自ら調達する場合には、生地等の原産地の表示に誤りがある場合等には景表法違反となるからである。 ③ メーカーの事業・経営に関するリスク 第3に、繊維製品のメーカーは地場の(あるいは海外の)小規模・零細企業であることが多い。また繊維製品は需要シーズンが限られる季節製品であり、複数のアパレルメーカーからの受注が集中するため、製造が納期どおりに進まないリスクや、あるいは検収基準を満たさない製品が多くなるリスク、倒産して発注量分の繊維製品を確保できなくなるリスク等も生じうる。 ④ メーカーとの契約に関するリスク 第4に、メーカーとの契約(製造物供給契約であることが多い)が長期にわたっていると、事業縮小等やアパレルメーカー側の意向のみで当該メーカーとの契約を解消する場合に、契約書上で、契約は1年毎に更新する約定、一定の予告期間で解約できる条項を規定していても、相応の補償ないし損害賠償をしなければ契約を解消できないリスクも生じる。 これは「継続的契約の解消の法理」という名で知られており、実務では多数の訴訟が提起され、判例・裁判例の集積がある。   3 リスクの評価 次に、上記で洗い出ししたリスクを評価する。 リスクの評価においては、定量的な評価は難しく、定性的な評価に頼らざるを得ない。具体的には、「リスクの影響の大きさ」と「発生頻度」を数値化し、この2つの数値を乗じた数を基礎として評価を行う。 「リスクの影響の大きさ」は、業種、業態に照らして、影響のあるリスクか否か、自社の根幹事業に関わっているか等を考慮して判断することになる。 上記①の下請法違反リスクは、「刑事罰」というエンフォースメントがあり、悪質な違反の場合は刑事訴追のケースも生じるため、「リスクの影響の大きさ」は大きい。 また、アパレルメーカーによる発注から納品・引渡しまでの間に下請法の規定に適合しない場面が生じる頻度は、筆者が弁護士として様々な案件に関わった経験からみると決して低くはなく、「発生頻度」は相当高いという評価になる。 上記②の景表法違反リスクは、「企業名の公表」というエンフォースメントがあり、公表されると企業の信用毀損を招くという意味で「リスクの影響の大きさ」は決して小さくはない。 しかし、繊維生地等の原材料の調達・確保をメーカーに任せるのではなく、流通商社が自ら調達してメーカーに提供するのであれば、景表法違反が生じる頻度を極小化することは不可能ではなく、「発生頻度」のリスクの影響は小さいと評価できる。 上記③の納期遅延・納入不能リスクは、当該メーカーを起用するアパレルメーカーの数が多いほど「リスクの影響の大きさ」は大きくなるが、メーカーを当該アパレルメーカーの専属的下請けとして選定していれば、他のアパレルメーカーとの注文重複により製造・納入が遅延するリスクは軽減できる。ただしその反面、メーカーとの契約を解消するために要する補償は膨らむという問題が生じる。   4 取り組むべきリスクの優先順位の決定 このようにリスクの洗い出しと評価を行った後は、取り組むべきリスクの優先順位を決定することになる。 まずは、「リスクの影響の大きさ」が大きく、「発生頻度」も高いリスクが最優先的に取り組むべきリスクである。 次に、「リスクの影響の大きさ」が小さくても「発生頻度」が高いリスクや、「発生頻度」は低いものの「リスクの影響の大きさ」は大きいリスクも、優先的に取り組んで対処することが望ましい。 このような観点から、最優先で取り組むべきは「下請法違反リスク」に対する対応策であるが、多数競合アパレルメーカーから製品の製造を受注するメーカーの「納期遅延等リスク」に対する対応策、メーカーを通じてしか調達できない原材料がある場合の「景表法リスク」や「納期遅延リスク」に対する対応策にも相応の留意が必要となる。 なお、リスクの優先順位は、当該グループ会社において過去発生した事件・事故や同業他社で生起した事件・事故を参考にしながら、タイムリーに更新していくことが必要である。これは全社的内部統制における「リスクの認識と対応」を横断的に対応することとパラレルな作業である。   5 リスクの洗い出し・評価・優先順位の決定等は「どこが決めるのか」 2~4で検討した「リスクの洗い出し・評価、優先順位の決定」について、親会社におけるどの部署が中心となって作成するかは、子会社管理の態様(一元管理型か分散管理型か)やグループ企業の具体的な状況によって異なる。 部門毎の個別のリスクを識別・検出する縦割り作業(ボトムアップ)だけでなく、リスクの複合とつながりを見極め、複数の部門で連携し横断的にリスクを識別・検出する作業(トップダウン)を実践できる視点と体制が、より実効的なリスク管理を可能とすることも指摘しておきたい。 (了)

#No. 154(掲載号)
#遠藤 元一
2016/01/28

改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第3回】「均等待遇等への対応」

改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第3回】 「均等待遇等への対応」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【第3回】は、教育訓練の実施等の均衡待遇等への対応について検討する。 1 教育訓練の実施 派遣先は、自社の従業員に対して業務関連の教育訓練を行う場合は、派遣元からの求めに応じて、既に必要な能力を有している場合や同様の訓練を派遣元で実施できる場合等を除いて、派遣労働者に対しても同様の教育訓練を実施するよう配慮しなければならないとされている。 派遣労働者を雇用しているのは派遣元であるため、本来は派遣元が派遣労働者へ教育訓練を行うべきだが、派遣労働者が業務に従事しているのは派遣先であるため、業務関連の教育訓練は派遣先で実施するのが適しており、また、派遣労働者は教育訓練を受ける機会がそもそも少なくキャリアアップが図られにくい状況にあることから、今回の改正では、派遣先に対して派遣労働者への教育訓練に関する配慮義務が追加された。 今後、派遣元からの求めに応じて、自社の従業員に業務関連の教育訓練を行う場合は、派遣労働者もその対象者に加えるよう検討が必要となる。 なお、教育訓練の実施は配慮義務であり、派遣労働者に自社の従業員と同じ教育訓練を受けさせることが難しい場合は別の対応を講ずることも認められている。例えば、自社の従業員には集合研修を受けさせるが、コストや時間の関係から派遣労働者に同じ研修を受けさせることが難しいときは、Eラーニング等の別の方法で対応してもよい。   2 福利厚生施設の利用 派遣先は、派遣労働者に対して、自社の従業員が利用している福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の利用の機会を与えるように配慮しなければならないとされている。 給食施設、休憩室、更衣室の3つの福利厚生施設の利用に関して、自社の従業員と派遣労働者で取扱いに差があるケースはそれほど多くないと思われるが、3つの福利厚生施設の利用に関する派遣労働者の取扱い状況を確認し、自社の従業員にしか利用させていない状況がある場合は、派遣労働者にも利用させるように運用を見直す必要がある。 なお、3つの福利厚生施設の利用は配慮義務であるため、教育訓練の実施の場合と同様に、派遣労働者に自社の従業員と同様に利用させることが難しい場合は、別の方法で対応してもよい。   3 情報提供 派遣先は、派遣労働者の賃金が適切に決定されるようにするため、派遣元から求められた場合は、次の情報を提供するよう配慮しなければならないとされている。なお、①の情報を提供することが望ましいが、②又は③、あるいはこれらに準ずる情報の提供でもよいとされている。 通常、自社の従業員の賃金決定にあたり、参考となる同業種の賃金水準情報を入手していると思われるため、派遣元から依頼があった場合には、それらの情報を提供する等により対応すればよい。   4 募集内容の周知 派遣先が従業員の募集を行う場合は、その募集内容を対象となる派遣労働者に周知することが義務付けられている。 周知の対象となる派遣労働者は、募集する対象者に応じて以下の通りとなっている。 周知の方法としては、事業所の掲示板に求人票を貼り出す方法や、対象者に直接メール等で通知する方法が挙げられる。なお、派遣労働者が募集条件に該当しないことが明らかな場合は、周知の必要はないとされている。 今後、労働者の募集を行う場合は、その業務フローに、派遣労働者への周知の必要性を確認する点の追加が必要となる。 *  *  * 教育訓練の実施等の均等待遇等については、一定期間経過後に必要となる「4 募集内容の周知」を除き、平成27年9月30日以降すぐに対応が必要となるため、対応について検討がまだ行われていない場合には、自社の状況を点検し、会社にとって適切かつ対応可能な対応策を講じていただきたい。 (了)

#No. 154(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2016/01/28

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第5回】「傾斜マンション事件-記録マネジメントの重要性」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第5回】 「傾斜マンション事件-記録マネジメントの重要性」   弁護士 原 正雄     1 事前調査に基づく杭の長さ マンション建設は、杭打ち工事から始まる。本件マンションでは、専門会社による26ヶ所の事前調査を経て、元請の建設会社M社が、2005年11月までに、杭を打つ場所、数、長さを決定した。そのうえで、M社は、一次下請H社を通じて、二次下請の杭打ち業者A社に、杭打ち工事を発注した。 設計の際、元請M社は、以前の建物の杭の長さが18mであったことを知りながら、杭の長さを14mとした。この点について、週刊誌は「元請の発注ミスで杭の長さが2mほど足りず」と記載している(フライデー2015.11.13)。また、杭打ち業者A社は「設計ミス」と主張している。 他方、元請M社は「杭の仕様は建物によって違う」、「杭は工事の際に確認しながら打込むべきものだ」と反論している(日経2015.12.4)。   2 杭打ち工事とデータ化 杭打ち業者A社は、2005年12月9日から翌2006年3月10日までの約3ヶ月間で、杭打ち工事を実施した。 杭打ち工事では、杭打機オペレーターが、①杭を支持層に到達するまで打ち込んだうえ、②セメントを流し込んで地盤に固定する必要がある。その際、現場責任者は、以下のとおり記録化する。 しかし、本件マンションは、杭が支持層に到達したかのデータについて38本分、セメント量のデータについて45本分に、他のデータを貼り付けるなどの偽装があった。内13本は重複しているため、データ偽装は、杭810本中70本であった。 杭打ち業者A社の現場責任者は、データ偽装の理由を以下のとおり説明している。 A社の中間報告書によれば、現場責任者と杭打機オペレーターのコミュニケーションが良好でなかったため、現場責任者が杭打機から離れる際、杭打機オペレーターにデータ取得を依頼しにくい状況もあったとのことである。現場責任者以外の者がプリンターの操作方法を知らなかったという事情もあるようだ。 さらにA社の中間報告書によれば、ドリル抵抗値データは、掘削速度を反映しない、オペレーター毎に波形が異なる、障害物と支持層を区別できないなど、正確性に限界があったことが指摘されている。こうしたことも、現場責任者がデータを軽視した一因と考えられる。   3 実際の杭の状況 杭が実際に支持層に到達しているかどうかについては、元請M社と杭打ち業者A社との間で見解の相違がある。 (1) 元請M社の説明 元請M社は「第三者機関の評価の結果、6本の杭が支持層に届かず、2本も十分には届いていない」と説明している(日経2015.12.4)。 本件マンションでは、杭は工場で作った既製品を使用していた。杭の長さが足りない場合には、継ぎ足しの杭の追加発注となる(読売2015.10.22)。この点について、元請M社は「交換は10日で可能」、「仮に2~3週間かかっても全体の工期の中で吸収できた」としている。他方、杭打ち業者A社は「(追加発注するとすれば)1か月かかるため、工期への影響は避けられなかった」としている(日経2015.11.12)。 マンションは、建設中から販売を始めるのが一般である。本件マンションは、2006年6月から、建設中のまま販売が開始された。販促パンフレットには「見えないところほど入念な配慮を」と記載し、杭工事やその際の立ち合い調査の写真を掲載していた。 マンションの購入者は、完成予定日に従来の住居を引き払って入居する計画を立てているので、マンションの完成が遅れた場合、住む場所がなくなる。また、工事業者にとってもスケジュールの変更によって手配済みの機械のリース料の処理が問題になる。 本件マンションで、問題の杭は、工期終盤の2006年2月23日と24日に施工されたものに集中している。報道によれば「工期の遅れは禁物」という声もあるとのことで、杭打ち業者は「工期が強いプレッシャーになったかどうか、ヒアリングしていきたい」と説明している(朝日2015.10.22)。 また、当時は、耐震偽装問題が発覚した直後で、直前まで大変な着工ブームだった。各業者は複数の案件を抱え、人手も不足していた。工期遅れは、下請にとっても他の現場の仕事に影響する点で不利益だった、との指摘もある(産経2015.11.2)。 ただ、2015年11月3日時点のA社の調査では、現場責任者は「プレッシャーを受けたという記憶はない」と話している(読売2015.11.3)。 (2) 杭打ち業者A社の説明 他方、杭打ち業者A社は、「杭は支持層に到達している、杭以外が傾斜の原因の可能性もある」と主張している(日経2015.11.12、日経2015.12.4)。 杭が支持層に到達したかについては、杭打機のオペレーターは、機械の感触で確認できるとのことである。A社によれば、本件マンションの杭打ちをしたオペレーターは「杭は支持層に到達した」「セメント量に不具合はない」「工事そのものに問題はなかった」と説明している(日経2015.10.21、日経2015.11.12)。しかし、偽装されたデータしかない今、杭打ちをしたオペレーターが把握した機械の感触を証明する方法はない。 なお、セメント流し込みについては、A社の中間報告書は、予定した量のセメントが納品されていること、余りが出ると廃棄費用がかかることから、予定通りの量のセメントを使い切ったと推測している。   4 元請と一次下請 (1) 元請による監督状況 元請M社は、杭打ち工事の大部分で、立ち会っていなかった。 M社は「試験的に打つ杭に立ち会い、残りは施工報告書で確認すればよいとする国交相の標準仕様書に沿った対応だ」、「管理に落ち度はなかった」とする(朝日2015.11.12)。 しかし、杭打ち業者A社は、施工報告書を毎日提出していたわけではなかった。A社の執行役員は「(現場の責任者らは)施工報告書の作成をあまり重視していなかったという印象だ」と話している(読売2015.11.3)。元請M社も、施工報告書の提出を毎日求めていたわけではなく、数日分をまとめて受け取っていた。しかも、提出を受けていたのは、本来の取引先である一次下請H社からではなく、杭打ち工事業者A社からであった。 国交省は、施工報告書について「毎日提出させるのが当然だ」、「日々報告を受けなければ、契約で求められている適切な施工管理は難しい」としている(読売2015.10.19、読売2015.11.4)。 (2) 一次下請による監督状況 元請と施工業者(二次下請)との間に一次下請が入った場合、その役割は「工事の進捗確認、現場の安全確保」である。一次下請が工程管理をすることで、元請が現場と煩雑なやり取りをする手間が省ける。建設業界では、1960年代から重層下請構造が一般化したといわれている。 ただ、元請M社と杭打ち業者A社との間に入っていた一次下請H社は、事業の主力が半導体製造装置であり、建材販売の売上は1%にも満たなかった。同社は、実際はA社の販売代理店として営業活動をしただけであり、杭打ちについて技術的知見はなかったとのことである(朝日2015.10.22、日経2015.10.27)。また、杭打ち業者A社からの施工報告書の提出先は、一次下請H社ではなく、元請M社に直接提出していた。H社は、施工報告書の提出には関わっていなかった。 報道では「同社(H社)が間に入ったことも、元請M社の杭打ち業者A社に対するチェックの目を甘くした可能性がある」との指摘もされている(日経2015.10.18)。   5 発覚後の経緯 本件マンションの不具合が判明してから約半年後の2015年6月、ボーリング調査を開始したところ、杭が支持層に到達していない可能性が判明した。同年9月23日、元請M社が杭打ちのデータ偽装を発見し、翌24日に杭打ち業者A社に調査を要請し、10月6日にはデータ偽装を行政に報告した。 不動産販売会社MR社は、2015年10月9日から住民説明会を開始した。同月13日、本件が広く世の中に報道されるに至った。元請建設会社M社の株価は、ストップ安を記録した。また、杭打ち業者A社の親会社も株価が15%下落し、年初来安値、東証一部で値下り率トップ、売買高3位を記録した。 2015年10月15日、不動産販売会社MR社の社長と元請M社の社長が、ともに住民説明会に出席して謝罪するとともに、本件マンションの全棟建替えを提案した。 翌10月16日、杭打ち業者A社の社長が住民説明会に出席し、謝罪した。また、セメント量の偽装を初めて報告した。A社は、セメント量の偽装を10月5日時点で把握し、元請M社にも報告済みであったことから、住民から「今まで隠していたのか」との抗議を受ける事態となった。当初予定では同日で最終の住民説明会のはずであったが、同日の説明会は午後7時から翌日午前2時半まで7時間半継続し、それでも納得を得られず、以後も開催を余儀なくされた。 10月20日、杭打ち業者A社の親会社の社長が記者会見をした。報道では「住民不満、会見遅い」との指摘を受けた。 不動産販売会社MR社の親会社が記者会見に応じたのは、2015年11月6日、中間決算発表の記者会見であった。同社は「初めて謝罪」と報道された。 元請M社が記者会見に応じたのは、さらにその後の11月11日の中間決算発表で「初の記者会見」と報道された。M社は、記者会見では、データ改ざんを見抜けなかったことを謝罪した。ただ、杭打ち業者A社については「裏切られた」と述べて、A社に責任があると主張した(産経2015.11.12)。   6 建替え (1) 本件マンション 不動産販売会社MR社は、住民に対して、本件マンションの全棟の建替え、その間の仮住まい費用、精神的負担の補償一律300万円などの負担を約束している。 全棟の建替えは、区分所有法に基づき住民の8割の賛成が必要であるなど、数多くのハードルがある。2005年に発覚した耐震偽装事件によって建て替えることとなったマンションの中には、合意形成に約6年を要したところもあった(産経2015.10.31)。本件マンションの場合、2015年1月15日時点で住民の9割が建替えに賛成していることから(管理組合アンケート結果)、建替えの見通しはある。 ただ、建替えをする場合、その費用を最終的に誰が負担するのは、2016年1月15日現在、決まっていない。杭打ち業者A社が傾いた棟の補修改修費や、他の棟の調査費用の負担を表明しているのみである。 (2) 横浜市西区マンション 本件マンションと同じように建替えが問題になった事例として、横浜市西区マンションがある。同マンションは、完成から10年後の2013年、4棟のうち1棟に傾きが発覚した。不動産販売会社S社は、2014年4月、支持層に届いていない杭があることを公表した。その後、他の3棟も支持層不到達の杭があることが判明した。施工業者によれば、事前調査では想定できなかった支持層の急激な落ち込みがあったことに加え、杭穴先端部の掘削土から支持層と同種の土が確認されたことから支持層に到達したと判断したとのことであった。 不動産販売会社S社は、2014年10月5日、住民説明会で、マンションのうち1棟のみ建替えという方針を発表した。建替え対象となった棟の住民は、建替えに前向きと報道されている。他方、対象外となった他の棟の住民は、全棟建替えを希望していて「1棟建替えを先行すれば、他の棟は後回しになる」と異論を述べている。そのため、1年以上経った2015年10月30日時点で合意が形成できず、建替えできるかどうか未定という状況である。 建替えの費用については、不動産販売会社S社と建設会社K社との間で、分担の協議をしているが未了とのことである。 (3) 東京青山マンション 同様に建替えが問題になった事例として、東京青山のマンションがある。同マンションは、完成予定日まであと4ヶ月となった2013年12月、配管を通すためのスリーブと呼ばれる穴が6,000ヶ所のうち約600ヶ所で開けられていないか、位置が間違っていたことが発覚した。報道によれば、スリーブの設計図から施工図を作成した際にミスが生じたとのことである。 販売会社は、引渡直前の2014年3月半ば、マンションの完成を断念し、引渡を中止して購入者との契約を解約し、建替えをする方針を公表した。解体と建替えの費用は、販売会社との間では、施工者である元請の建設会社が全額負担するとされた。ただ、その元請と、スリーブの施工を担当した下請との間で最終的な負担をどうしたかは、公表されていない。   7 行政処分 建設業者に「請負契約に関する不誠実な行為」がある場合、国交省は、①業務改善命令、②1年以内の営業停止、③建設業許可取消などの行政処分ができる(建設業法28、29条)。 国交省は、2015年11月2日、杭打ち業者A社に対して、建設業法に基づく立入調査を実施した。そのうえで、2016年1月13日、元請M社、一次下請H社、杭打ち業者A社の3社に行政処分を下した。 処分内容と理由は、以下のとおりであった。 (※) 一定規模以上の工事では、主任技術者は専任とする義務がある。 (※) 下請への丸投げは、責任の所在が曖昧になり手抜き工事を招くので禁止されている。   8 事態の拡大 当初、杭打ち業者A社は、本件マンションの杭打ち現場責任者について「物言いや振る舞いから、性格はルーズ、事務処理が苦手そうだとの印象を受けた」としていた(読売2015.10.23)。これは、データ偽装が個人の問題であるとするものであった。 しかし、A社が過去に施工した杭工事3,000件以上を調査したところ、北海道の道営住宅で別の現場責任者による杭打ちデータ偽装が判明し、その後も次々とデータ偽装が判明した。複数の現場責任者が「他社の工事でもデータを偽装した」、「元請から何とかしろと言われたため」と説明しているとのことであった。本件は、現場責任者個人に帰着する問題ではなかった。 2015年11月24日時点で、A社は、3,040件中360件データ偽装、現場責任者180人中61人以上が関与(約3.5割、多くが出向社員)、データ確認不能188件(物件なし35件、業者なし153件)と発表した。A社グループにとって、杭などの建材事業は連結売上高の3%程度だったが、グループ全体が大きなダメージを被ることとなった。 杭打ちデータの偽装は、A社に止まらなかった。他の杭打ち業者でも、杭打ちデータ偽装をしていたことが発覚した。日本中で、マンション住民が「自分たちが住むマンションが大丈夫か」との問い合わせをするようになった。各マンション管理組合に杭打ち業者名を通知する取扱いを開始した不動産会社も登場した。 こうした事態に対して、国交省は、2016年1月13日、他の杭打ち業者に勧告を下した。また、再発防止に向けて新たな施工指針を策定すると報道されている。   9 本件の教訓-記録マネジメント 記録の保存には、①正当性の証明、②不正の排除、③監査の実行化という3つの目的がある。記録を作成、保存することによって、企業は自らの正当性を証明できる。また、厳正に記録が作成、保存されるのであれば、現場は不正を行うことができない。さらに、記録が残っていれば、事後に検証も可能となる。記録の作成、保存は「記録マネジメント」とも呼ぶべき事柄であり、コンプライアンスの基礎なのである(中島茂『最強のリスク管理』きんざい、2013年)。 しかし、本件では、データの記録が作成、保存されていなかった。 その結果、①データの記録は、杭打ち工事の適正を客観的に記録できる唯一の方法であったのに、杭打ち業者A社、一次下請H社、元請M社は、身の潔白を証明する手段を失ってしまった また、②本件で、データ記録の作成や保存、さらには施工報告書の作成が毎日行われていれば、データを偽装する余地はなかった。ところが、施工報告書の作成と提出が数日分まとめて行われていたため、現場責任者にデータ偽装の余地を与えてしまった。 さらに、③本件では、データがない以上、事後の検証は不可能となってしまった。杭打機のオペレーターは、杭の支持層への到達を機械の感触で確認したと説明しているとのことであるが、今となっては検証できない。 本件は、記録を作成して保存すること、すなわち記録マネジメントの重要性を示す事例として、銘記されなければならない。 (了)

#No. 154(掲載号)
#原 正雄
2016/01/28

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例1】株式会社東芝「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について(2015.11.17)」

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例1】 株式会社東芝 「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について」 (2015.11.17)   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹     1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、株式会社東芝(以下「東芝」という)が平成27年11月17日に開示した「当社子会社であるウェスチングハウス社に係るのれんの減損について」である。 この開示は、東芝の子会社のウェスチングハウス社(以下「WEC」という)グループと東芝の連結ベースの両方における、平成18年度から平成26年度までののれんの減損の計上の有無について説明したものである。 この開示の最後の方に、 という一文がある。 つまり、この開示は、本来は2012年度(平成24年度)に開示しなければならなかったWECグループの減損に関するものなのである。実務上、こうした開示は「遅延開示」といわれる。 もちろん本来あってはならない開示である。   2 なぜ開示が必要? 「適時開示」とは、証券取引所が、その証券市場に有価証券を上場している会社に対して、投資家の投資判断への影響が大きいと考えられる情報の開示を求めるものであり、適時開示が求められる情報は「決算情報」「決定事実」「発生事実」の3種類に分けられる。 そのうち、「決定事実」とは、会社が決定した重要事実、「発生事実」とは、会社に発生した重要事実であり、いずれも自社の事実だけでなく、子会社の事実に関しても適時開示が求められる。 その発生事実の中には「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」というものがあり、WECグループの減損は、東芝の子会社におけるこれに該当するのである。 〈適時開示の構成〉   3 連結財務諸表に影響を及ぼさないが・・・ この「WECグループの減損については、当社の連結財務諸表に影響を及ぼすものではありませんが、2012年度については適時開示基準に該当しており、適時適切に開示すべきでした。」という一文の中には、「当社の連結財務諸表に影響を及ぼすものではありません」という記載がある。つまりWECグループの減損は、WECグループの単体の財務諸表には計上されるが、東芝の連結財務諸表には計上されないのである。 上述のとおり、適時開示の対象となる情報は、投資家の投資判断への影響が大きいと考えられる情報である。そのため、東芝の連結財務諸表に影響を及ぼさないのならば、投資家の投資判断にも影響を及ぼさず、適時開示は不要であると思われるかもしれない。 しかし、連結財務諸表に影響を及ぼさなくても、子会社における「災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害」が基準以上の額である場合は、適時開示が必要とされるのである。   4 お粗末? 悪質? このWECグループの減損に関する適時開示が漏れていたことについて、平成27年11月28日の日本経済新聞は、「東芝、情報公開の改善約束、米子会社WH巡る開示義務違反」という見出しを付して、東芝による悪質な開示義務違反といった感じで大きく報道している。 一連の粉飾決算問題があった後であるため、そのように取り扱われたのだろうが、東京証券取引所自体はこの開示漏れを特に悪質な開示義務違反と捉えているわけではない。一連の粉飾決算に対しては重いペナルティを課したが、この開示漏れに対しては、口頭注意レベルで、特にペナルティは課していない。 この開示漏れが意図的なものであったのか否かはわからない。もちろん東芝は意図的なものではないと主張し、東京証券取引所もそのように判断している。それが本当であれば、適時開示についての知識が欠落していたか、適時開示の対象となる情報を収集する体制が整っていなかったわけで、極めてお粗末な開示義務違反である。 しかし、もしも意図的なものであったのならば(連結財務諸表に計上されないことをいいことに、適時開示を行わないことにしようと判断したのならば)、極めて悪質な開示義務違反といえるだろう。 (了)

#No. 154(掲載号)
#鈴木 広樹
2016/01/28
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