パフォーマンス・シェア(Performance Share)と リストリクテッド・ストック(Restricted Stock) ~経済産業省報告書で示された「2つの新しい株式報酬」~ 【第2回】 「制度の仕組みと米国活用事例」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 役員に対する業績連動型報酬のニーズの高まりを受け、経済産業省報告書で新しい株式報酬プランの具体例として示された「パフォーマンス・シェア」と「リストリクテッド・ストック」とは、どのようなものか。今回は米国における事例を念頭に解説する。なお、わが国においては、米国の制度が直接的には導入されていないが、その点については次回解説する。 1 リストリクテッド・ストック(譲渡制限付き株式)とは リストリクテッド・ストック(Restricted Stock)とは、一定期間の譲渡制限が付された株式による報酬である。 リストリクテッド・ストックは、交付された役員が「一定期間退職しない」といった条件を満たした場合に、通常は追加的な支出なしに株式保有の権利を与えられるものである。 当該権利の付与方法は、勤続年数に比例して段階的に行われることも(段階式権利確定)、あるいはすべて一斉に行われることも(一括式権利確定)ある。また、権利が確定する前であっても、株式の配当を受け取り、議決権を行使できる場合もある。 リストリクテッド・ストックはストック・オプションのように無価値になることは通常はなく、株式を取得するに当たって、ストック・オプションのような追加の支払いもないことから、受領する役員にとっては、一般的に、非常に有利な報酬形態ということがいえる。 2 パフォーマンス・シェアとは パフォーマンス・シェア(Performance Share)とは、中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式による報酬のことである。 上述のリストリクテッド・ストックは、一定期間の在籍等の条件はあるものの、ストック・オプションと違い、株価の下落により無価値になることは通常はなく、役員に有利な報酬形態であるが、勤続年数条件型の株式報酬手段は、株価と連動しているものの、業績とは連動していないという批判がある。 このような批判に対応するため、パフォーマンス・シェアが設計されることがある。パフォーマンス・シェアは、 という特徴により、報酬と業績を連動させるようにしており、この点でリストリクテッド・ストックの弱点を補うものとなっている。 3 実際の活用事例 実際に「リストリクテッド・ストック」と「パフォーマンス・シェア」はどのように活用されているのか、Johnson&Johnson社(以下「J社」という)がSECに2015年にファイリングした、10-Kに組み込まれている、Proxy Statement記載の報酬委員会報告書を基に見ていく。 (1) 役員報酬構成の決定 J社では、基本報酬、短期インセンティブ及び長期インセンティブの割合(以下合わせて「役員報酬構成」という)について、当該役員が負う責任やリスクを基に、個別に決定される。そして、リストリクテッド・ストックとパフォーマンス・シェアは、長期インセンティブとして付与される。 なお、役員報酬構成はあらかじめ定められるが、業績の達成度合いによってインセンティブの付与額が変わるため、予定役員報酬構成と実際役員報酬構成は異なる。 J社のCEOの実績役員報酬構成は、以下のようになっている。 (2) 長期インセンティブの決定 報酬委員会は、評価対象年度の業績に従って、長期インセンティブを与える。この長期インセンティブとして、J社では、リストリクテッド・ストック(RS)、リストリクテッド・ストック・ユニット(RSU)、パフォーマンス・シェア(PS)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)及びストック・オプションを用いている。 このプランでは、RS及びPSは付与された報酬を普通株のみで支払うものである。一方、RSU及びPSUは付与された報酬の普通株式価値相当額を、通常報酬委員会の決定により、現金、普通株又はその2つの組み合わせで支払うものと定められている。すなわち、付与時の報酬の経済的価値は、RS/RSU、PS/PSUはそれぞれ同じになる。 J社では、以下の基準に基づいて、リストリクテッド・ストック及びパフォーマンス・シェアを役員に付与している。 このうち、特に業績連動性が高いのが、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)であるが、J社においては、その付与のスキームは、以下の表のようになっている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) TBD=未確定 このように、パフォーマンス・シェア・ユニットは、3年間の業績を3つの指標(売上、一株当たり利益(EPS)、相対的株主総利回率(RTSR))を使って総合的に判断し、その業績数値を基礎として役員に付与される計算となっている。 結果として、2014年度のJ社CEOの長期インセンティブのプラン別付与内訳は、以下のような割合となる旨が開示されている。 なお、リストリクテッド・ストックはパフォーマンス・シェアに比べ業績連動性が低いものの、一定期間在籍後の株式の付与が確定していることが多いことから、当該企業の役員に就任や任期延長し、一定期間在籍等することで確定的な数量の株式を得られることとなるので、有能な人材を採用したり引き止めたりするには有効である。 このため、予定役員報酬構成の枠外でこれを付与するケースもある(米国3M.Coの報酬委員会報告書参照)。 (了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第2話】 「書面添付(その2)」 ~重加算税の二重賦課~ 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 ■ 前回の続き ■ 谷垣調査官は、税務六法を見ながら問いかける。 「しかし・・・」 「この税理士法35条2項の但し書きによれば、意見聴取に必ずしも拘束されないと思うのですけど・・・」 そう言いながら、谷垣調査官は、該当する箇所を読み上げた。 読み終わると、谷垣調査官は田中統括官の顔を見た。 「・・・。」 田中統括官は、腕を組み黙っている。 しばらくしてから、田中統括官は応えた。 「・・・ということは、法人税の税務調査で架空売上や簿外資産が見つかった場合には、明らかに株価評価の計算のベースとなる決算書が修正されることになるから、意見聴取をするまでもなく、更正をすることができるということか・・・」 田中統括官も税務六法を見ながら確認している。 「統括官、とりあえず法人税の税務調査によって更正された数値に基づいて、株価を出してみましょうか。」 谷垣調査官の声が再び弾んだ。 「それと・・・」 谷垣調査官は、田中統括官の顔を見て言った。 「これって、もしこちらで更正処分をした場合、重加算税を賦課決定しても大丈夫ですよね。」 田中統括官は強い口調で応えた。 「もちろんだ。もっとも、修正申告書を提出してもらっても、但し書に該当すれば、重加算税を賦課決定することはできる。」 谷垣調査官は小さな声でつぶやいた。 「法人税では架空売上や簿外資産が見つかったので、もちろん、隠ぺい・仮装として重加算税が課されているのですけど、相続税も重加算税を賦課することになると、なんだか納税者に気の毒な感じが、しないこともない・・・」 「そんなことはないだろう。隠ぺい・仮装に基づいて申告すれば、法人税や相続税は、重加算税は課されると国税通則法に書いてあるのだから。」 田中統括官は、少し怒った口調で続ける。 「それに、法人税において『過少申告+隠ぺい・仮装』として重加算税が課され、さらに相続税においても『過少申告+隠ぺい・仮装』であれば、当然、重加算税は課されるべきだろう・・・たとえ同一の隠ぺい・仮装に基づくものであったとしても、重加算税は両税目に課される。」 田中統括官の頬が赤くなっている。 「確かに統括官の言うとおりなんですが・・・」 谷垣調査官は、重加算税の事務運営指針をめくりながらうなずいた。 「ところで・・・」 谷垣調査官は田中統括官を見て言った。 「源泉所得税の重加算税については、法人税と二重に重加算税の対象としないと、事務運営指針に定めていますが・・・」 いつの間にか、谷垣調査官は、「源泉所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」を開いている。 谷垣調査官は、この事務運営指針を読み上げた後、田中統括官に尋ねた。 「認定賞与等の場合、法人税と源泉所得税にダブルの課税が発生しますが、法人税と源泉所得税のそれぞれに重加算税を賦課するのは少しかわいそうであると、課税庁が考えているからでしょうかね。」 田中統括官は事務運営指針を見て言った。 「この事務運営指針では、『原則として』と書かれているから、場合によっては二重に重加算税を賦課することは考えられる。」 田中統括官の返答に谷垣調査官は再び質問した。 「その『例外』って、どういうケースを想定しているのでしょうか。」 「・・・。」 田中統括官は眉を寄せて考え込む。 しばらくしてから口を開いた。 「隠ぺい・仮装が・・・よほど悪質な場合、とか・・・」 「その点、消費税の取扱いは異なっていますね。」 谷垣調査官はすぐに返した。 「・・・法人税又は所得税で重加算税が賦課された場合には、消費税においても重加算税を賦課すると事務運営指針に定められている。」 田中統括官は大きくうなずいた。 「それは・・・課税庁において批判はあるものの、消費税は『預り金』的なものであるという認識が強く、それに対する『隠ぺい・仮装』の行為に対しては、より厳しく罰しなければ、と考えているのかもしれないな・・・」 田中統括官は、苦笑いしながら、そう答えた。 (了)
2015年10月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.142を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〔巻頭対談〕 川田剛の“あの人”に聞く 「山田二郎 氏(弁護士)」 【前編】 〔語り手〕山田 二郎(弁護士) (写真/右) 〔聞き手〕川田 剛(税理士) (写真/左) (後編(11/5公開)へ続く)
〈平成27年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第1回】 「注意しておきたい最近の改正事項」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 10月も下旬となり、年末調整に向けて準備を始める時期となった。年末調整の業務は、作業量が多く注意点も多岐にわたるため、早目に準備をしておきたい。 今回から3回シリーズで、年末調整における実務上の注意点やポイント等を解説する。 なお、各書類の記載方法や理解しておくべき用語の解説等については、過去の拙稿をご参照いただきたい。 今年から適用される税制改正事項のうち、今回の年末調整に大きな影響を及ぼすものはない。しかし、今年の年末調整事務と同時並行で行われることの多い「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の受理に際しては、2つの改正事項が影響する。 そこで、今回は、年末調整に関係する最近の主な改正事項と「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に影響のある改正事項についてまとめることとする。 (1) 注意が必要な最近の税制改正事項 最近の税制改正事項のうち、今年の年末調整に影響のあるものをまとめると次のとおりである。 各改正事項の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 (2) 「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に影響する改正事項 ① マイナンバー制度への対応 いわゆるマイナンバー法の施行により、平成28年1月以降、国等へ税務関係書類を提出するときには個人番号の記載が求められる。 これに伴い、「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」については、給与所得者本人、控除対象配偶者、扶養親族の個人番号を記載することが必要となる。 源泉徴収義務者が従業員等から個人番号の提供を受ける場合には、本人確認を実施しなければならない。具体的には、提供を受ける番号が正しいことの確認(番号確認)と番号の提供者が正しい持ち主であることの確認(身元確認)の2つを実施する必要がある。 本人確認の方法には、次の2つがある。 従業員等が個人番号カードを取得するまでにはある程度の時間を要すると思われるため、しばらくは(イ)の方法で本人確認を行うケースが多くなると考えられる。 (イ)の方法の場合、さまざまな書類の組合せがある。一般的な組み合わせを挙げると次のとおりである。 なお、雇用関係にある者等から個人番号の提供を受ける場合には、実質的な身元確認はすでにできていると考えられるため、身元確認の書類は要しないものとされている。 (※) 上記の方法によることが困難な場合には、国税庁から公表されている本人確認に関する告示が参考になる。 【参考】 国税庁ホームページ「国税庁告示について」 源泉徴収事務において、マイナンバーの取得は、必ずしも平成28年1月までに行う必要はない。中途退職者を除き、平成28年分の源泉徴収票(提出期限:平成29年1月末)からマイナンバーを記載することとなるため、それまでに取得していればよい。 なお、本人確認の詳しい解説については、本誌掲載の岡田健司公認会計士による以下の連載が参考になる。 ② 国外居住親族を扶養控除等の対象とするときの取扱い 平成28年分以後の所得税及び平成29年度分以後の個人住民税について、国外に居住する親族を扶養控除等の対象とするときには、「親族関係書類」と「送金関係書類」を扶養控除等申告書に添付等することが必要となった(所令316の2②③)。 このうち、「親族関係書類」については、「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出するときに提出又は提示しなければならない(※)。 (※) 配偶者特別控除の適用を受ける場合には、「平成28年分 給与所得者の配偶者特別控除申告書」を提出するときに提出又は提示する。 制度の詳細については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 なお、扶養控除等申告書に国外居住親族を記載しても「親族関係書類」を提出又は提示していない場合には、源泉徴収税額の計算上その親族は扶養親族等の数に反映されない。「親族関係書類」が提出又は提示された後、最初に支払われる給与等の計算から扶養親族等の数に加えることとなる。 * * * 次回は、海外転勤、外国人に関わる年末調整について解説を行う予定である。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第1回】 「最近の税務訴訟の動き」 公認会計士 佐藤 信祐 当連載の目的は、包括的租税回避防止規定の理論を解明したうえで、実務上、問題となりやすい事案について、実際に包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるのか否かを検討することにある。 なお、実際の検討としては、法人税法132条の2に規定する組織再編における包括的租税回避防止規定のみならず、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認、その他の租税回避否認手法を含めたうえで、総合的な検討を行う予定である。 第1回目にあたる本稿では、最近の租税回避訴訟の動きについて総括したい。 1 最近の租税回避訴訟の動き ヤフー・IDCF事件では、従来の学説と異なり、法人税法132条の2に規定する包括的租税回避防止規定が適用される場面として、以下のように判示した。 そのため、これらの事件の影響から、行為計算否認規定についての解釈が見直されるのではないかという報道も存在する(※1)。 (※1) T&Amaster571号8頁(平成26年) しかしながら、ヤフー・IDCF事件で国側の立場で書かれた朝長英樹氏の鑑定意見書は、その書かれている立案過程に疑念を示す声もあり(※2)、さらに、ヤフー控訴審判決では、同鑑定意見書に書かれている制度趣旨を一部否定していることから(※3)、制度趣旨を踏まえた解釈が重要になると言われながらも、結局は、立案当初に開示された立案担当者による解説が重要なものとなり、その後に語られたものを根拠とするのであれば、現役の課税当局の者が公式の場で語ったもののみが含まれることになる(※4)。すなわち、考慮すべき制度趣旨についても、組織再編税制の専門家の共通認識を超えることはあり得ない。その意味で、ヤフー控訴審判決は、一応のバランス感覚の取れた判決であったと評価できる。なお、これらの事件の詳細な評釈は、別の連載である「組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について」に委ねることとしたい。 (※2) 大淵博義「『法人税法132条の2』の射程範囲と租税回避行為概念」税経通信69巻9号21-22頁(平成26年) (※3) 佐藤信祐「ヤフー事件高裁判決からみる実務上の留意点」旬刊経理情報1404号37-38頁(平成27年) (※4) むろん、個別事案によって解釈が異なる可能性があることから、その多くはリスクヘッジのために「私見」であるということになっているものの、税務業務に携わる者からすると、尊重すべきものとされているものは少なくない。 さて、筆者が平成21年に中央経済社より、『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』を出版したときは、包括的租税回避防止規定についての考え方はほとんど示されていなかった。 強いて言えば、平成20年当時税務大学校研究部教授であった清水一夫氏の論文において、行為計算否認(法法132、132の2、132の3)を適用するための要件として、①形式的要件、②税負担の減少、③税負担減少の不当性(本件取引の行為・計算が通常の経済人を基準として不自然・不合理であることの評価根拠事実)を挙げられており(※5)、財務省主税局OBであった佐々木浩氏も平成23年に行われた座談会において、包括的租税回避防止規定については経済合理性がキーワードになる旨を述べられた(※6)。 (※5) 清水一夫「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号314頁(平成20年) (※6) 仲谷修ほか『企業組織再編成税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』(佐々木浩発言)129頁(大蔵財務協会、平成24年) しかしながら、平成24年になると、同じく財務省主税局OBであった朝長英樹氏が制度の濫用について適用されるものであるという見解を述べられるようになり(※7)、また、同年、税務大学校研究部教授であった斉木秀憲氏の論文でも、包括的租税回避防止規定が適用される場面について、①組織再編税制の基本的な考え方からの乖離、②組織再編成の濫用、③個別防止規定の潜脱の3つに類型化されるようになった(※8)。 (※7) 朝長英樹ほか「組織再編成税制を巡る否認が相次ぐ中、今明かされる『行為計算否認規定(法人税法132条の2)』の創設の経緯・目的と解釈」(朝長英樹発言)T&Amaster 449号9頁(平成24年) (※8) 斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号9頁(平成24年) ヤフー・IDCF事件の第一審判決が公表された後には、多くの雑誌・書籍において、包括的租税回避防止規定についての分析がなされるようになってきているが、いまだ上告審判決が公表されていないことや、仮に公表された後であっても、判例の射程がどこまで及ぶのかについては、その後の租税法学者の研究を待つ必要がある。 しかしながら、包括的租税回避防止規定に対する租税法学者の研究が進んでいくのには時間を要するし、仮に研究が進んでいったとしても、実務上は、無批判にそれを受け入れることは妥当ではない。なぜならば、従前から指摘させていただいたように、租税回避を意図する納税者はそれほど多くなく、法律の範囲内で節税を行いたいという納税者が大半であるというのが実感であり、租税法のあるべき論に比べ、かなり保守的な分析をすることが一般的であるからである(※9)。 (※9) 佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』中央経済社 はじめに(平成21年) すなわち、学者と実務家はそもそも基本的な役割が異なる。具体的には、学者は真理を追究する立場にあるため、やや保守的に考えればよいという立場はとり得ないであろう。これに対し、実務家は、無難に税務調査が終わればよいのであって、わざわざ、節税と租税回避の限界点を探る必要性が乏しい。そのため、やや保守的に考えればよいという立場はむしろ健全な立場であるといえる。 この点も、従前から指摘させていただいた点であるが、租税回避に該当するか否かの判断は、様々な判例や論文が参考になることはいうまでもないが、多くの日本企業では、国税不服審判所や裁判所で争ってまで税負担の減少を図ることを想定しておらず、無難に税務調査が終わることを望んでおり、国税不服審判所や裁判所で納税者が勝訴した事件であっても、国税不服審判所や裁判所で争わざるを得なかったという点をもって否定的に考える傾向にある(※10)。 (※10) 佐藤信祐前掲書(※9)2頁 それでは、租税回避に対する研究や意見の表明に意味がないのかといえば、租税回避行為に該当するような提案をしないという自己牽制効果が働くということから、本来であれば、積極的に租税回避に該当するか否かの意見の表明を行っていくべきであろう(※11)。 (※11) 佐藤信祐前掲書(※9)はじめに このように、本連載では、過去の判例や論文を参考にしながらも、節税と租税回避の限界点を探っていくことを目的とせず、どのような場合であれば、包括的租税回避防止規定が適用される可能性が少ないのかという分析を行うときの一助になることを目的に解説を行っていく予定である。そのため、やや学術的な分析とは異なる可能性もあり得るが、ご容赦いただきたい。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第2回】 「武富士事件」 ~最判平成23年2月18日(集民236号71頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
国境を越えた役務の提供に係る 消費税課税の見直し等と実務対応 【第4回】 「リバースチャージ方式の導入」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 (4) リバースチャージ方式の導入 国外事業者が行う電気通信役務の提供のうち、その役務の性質又は役務の提供に係る規約条件等により、役務の提供を受ける者が事業者であることが明らかな場合、当該役務の提供を「事業者向け電気通信利用役務の提供」と位置づけ、その取引に係る消費税の納税義務を役務の提供を受ける事業者に転換した。 要するに、国内において申告納税を期待できる事業者向けの取引については、国外事業者ではなく国内事業者に納税義務を課すというものである。 このような納税義務の転換により、B to B取引に関し、役務の提供を受ける事業者を消費税の納税義務者とする方法を一般に「リバースチャージ(reverse charge)方式」という。リバースチャージ方式はEUの付加価値税制(VAT)において既に導入されている制度である。 リバースチャージ方式に関して、以下の事例に基づき納付税額等を見ていく。 この場合、国外事業者及び国内の納税義務等は以下のとおりとなる。 ① 国外事業者 サービスの対価10,000,000円に関する消費税の納税義務はない(課税対象外)。 ② 国内の事業者 サービスの対価10,000,000円に関する消費税800,000円(8%)の納税義務が生じる。他方、当該消費税額につき仕入税額控除の対象とすることができるため、国内の事業者において実質的な税負担は生じない。 また、リバースチャージ方式を図示すると以下のとおりとなる。 【B to B取引に関するリバースチャージ方式】 (5) リバースチャージ方式の仕組み ① 「リバースチャージ方式」の導入に伴う措置 「リバースチャージ方式」の導入に伴い、課税対象及び納税義務者の規定が以下の通り見直された。 (ア) 消費税の課税対象である資産の譲渡等から、事業者向け電気通信利用役務の提供(「特定資産の譲渡等」、消法2①八の二)を除いて「課税対象外」とするとともに、事業として他の者から受けた事業者向け電気通信利用役務の提供(「特定仕入れ」と称する)を「課税対象」とする(消法4①)。 (イ) 納税義務の対象となる課税資産の譲渡等から事業者向け電気通信利用役務の提供を除くとともに、国内において行った課税仕入れのうち「特定仕入れ」に該当するもの(「特定課税仕入れ」と称する)を納税義務の対象とする(消法5①)。 ② 国内事業者の対応 国内事業者が国外事業者から事業者向け電気通信利用役務の提供を受ける場合には、その取引に係る支払対価には消費税が含まれない(課税対象外ないし不課税取引)。この場合、事業者向け電気通信利用役務の提供を受ける国内事業者は、国外事業者に代わり、当該取引に係る消費税の納税義務を負うこととなる(納税義務の転換)。また、国内事業者は、その消費税の申告において、当該取引に係る消費税額と同額が仕入税額控除の対象となる。 ただし、事業者向け電気通信利用役務の提供を受け、特定課税仕入れがある課税期間の課税売上割合が95%以上である場合には、当分の間、その課税期間において事業者向け電気通信役務の提供はなかったものとみなされる(経過措置、改正法附則42)。すなわち、課税売上割合が95%以上の事業者については、リバースチャージの対象となる取引を当分の間、申告対象から除外することができるのである。当該経過措置により、大多数の事業者がリバースチャージ方式に伴う事務負担から解放されるものと想定される。 また、簡易課税制度の適用を受ける課税期間については、事業者向け電気通信利用役務の提供につき課されるべき消費税額を課税仕入れ等の税額に含めることとなる。ただし、当分の間、その課税期間における事業者向け電気通信利用役務の提供はなかったものとみなされる(経過措置、改正法附則44②)。これにより簡易課税事業者についても、当分の間、リバースチャージの対象となる取引を申告対象から除外することができるわけである。 「当分の間」がいつまでであるのかは現時点では不明であるが、リバースチャージ方式が租税回避防止策としての機能も有することから、税率が10%に引き上げられ、制度が定着するタイミングということになるものと推測される。 ③ 国外事業者の対応 一方、国内において事業者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者は、当該役務の提供に際し、予め当該役務の提供に係る「特定課税仕入れ」を行う事業者が消費税の納税義務者である旨を表示する必要がある(消法62)。具体的には、事業者向け電気通信利用役務の提供に係るホームページ、パンフレットなど取引条件を提示する際に、その旨を表示することが求められる(※1)。 (※1) 財務省編『平成27年度税制改正の解説』837頁。 ④ 名義人が行った特定課税仕入れ 特定課税仕入れを行った者が単なる名義人である場合には、実質的に当該仕入れを行った者に対して消費税法が適用される。 ⑤ リバースチャージ方式と免税事業者 リバースチャージ方式は消費税の納税義務の転換を行う措置であるが、国内の事業者であっても免税事業者には当該納税義務は生じないことに留意すべきである。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第17回】 「請負に関する契約書①(請負契約書の単価変更)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社はエレベーター保守会社です。 エレベーター保守契約書(原契約)は、第2号文書(請負に関する契約書)と第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)に該当し、通則3のイの規定により第2号文書(請負に関する契約書)に該当します。その後、月額保守料を変更するために覚書を作成した場合、①~⑧の覚書は何号文書に該当しますか。なお、覚書には原契約の名称、契約年月日等の原契約書を特定できる事項の記載があります。 (原契約) (原契約) 第2号文書(請負に関する契約書) 記載金額1,200万円 印紙税額20,000円 (覚書(変更契約)) [検討] 契約期間内における変更契約の考え方 変更契約書について下記の①と②ともに当てはまる場合、 変更金額が変更前の契約金額を増加 → 変更金額を記載金額とする。 変更金額が変更前の契約金額を減少 → 契約金額の記載のないものとする。 したがって、変更契約書に変更前の契約金額等の記載のある文書が作成されていることが明らかでない場合は、上記の適用はされず、変更契約書に記載されている内容により判断する。 (※) 契約期間後においては、当該文書に係る変更前の契約金額等の記載のある文書がないため、通則4のニの規定はあてはまらない。 ▷ まとめ (了)
改正電子帳簿保存法と企業実務 【第4回】 「国税関係帳簿書類のデータ保存の承認申請(2)」 税理士 袖山 喜久造 第3回では、国税関係帳簿書類の備付け、保存について解説したが、第4回では、これらの国税関係書類をデータで保存する場合のデータの作成・保存方法について解説する。 1 システム・保存等に係る要件 国税関係帳簿書類の書面(紙)による保存に代えてデータを保存するには、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(以下、「電帳法」)第4条第1項、第2項及び第3項に基づく所轄税務署長の事前の承認が必要となる。 電帳法では、国税関係帳簿のデータを作成するシステムの要件として訂正や削除等の履歴を残すシステムでなければならないとされている。なぜならば紙の帳簿と異なり、データで作成された帳簿は、修正した形跡を残すことなく容易に訂正や削除が可能であるからである。 帳簿のデータを紙の保存に代えて保存するには、この要件を満たすシステムにより、決められた手順通りに入力された帳簿のデータを法定保存期間中、見読可能な状態で保存する必要がある。 国税関係帳簿に係るデータ保存に係る要件は、電帳法施行規則(以下、「規則」)第3条第1項に規定されている。この条文で規定されている要件は、大きく分けて「真実性の確保」と、「可視性の確保」に分かれる。「真実性の確保」は更に「訂正・削除の履歴の保存」、「相互関連性」、「関係書類等の備付け」の3つに分かれ、「可視性の確保」は、「見読可能性の確保」と「検索機能の確保」に分かれる。 保存するべき帳簿データは、法定保存期間中、整然とした形式で明瞭な状態で出力されることが必須の要件となるのである。 2 訂正・削除の履歴の保存 (1) 訂正・削除の履歴の保存の規定 規則第3条第1項第1号においては、データを作成するシステムについて、次の要件を満たす必要がある旨を定め、これらの要件を具備するシステムを使用しなければならないことを規定している。 国税関係帳簿に係る電磁的記録は、原則として課税期間の開始の日に備え付けられ、順次これに取引内容が記録されていくことを前提としており、1年間分がまとめて課税期間終了後に記録されるといったケースを予定しているものではない。 上記②でいうところの「その業務の処理にかかる通常の期間」とは、各企業において事務処理規程等に定められている業務処理サイクルとしての入力を行う期間のことをいい、おおむね1ヶ月程度までの業務処理サイクルであれば、通常の期間として取り扱うこととされている。 なお、国税関係帳簿は、原則として課税期間の開始の日にこれを備え付け、取引内容をこれに順次記録し、その上で保存を開始するものであり、備付け期間においても、電磁的記録をその保存場所に備え付けているディスプレイの画面及び書面に出力することができるようにしておく必要がある。このことは、国税関係帳簿に係る電磁的記録の作成を税理士等の他の者に委託している場合でも同じである。 通常の会計ソフトパッケージであれば「電子帳簿保存法対応モード」などの設定を行えば、訂正削除ができない仕組みとなるはずである。また市販されているERPパッケージの大半の製品が訂正削除ができない仕組みとなっている。 (2) 訂正・削除の履歴を残す方法 訂正又は削除の履歴を残す具体的な方法としては、次の2つが考えられる。 3 相互関連性の確保 帳簿は仕訳帳・総勘定元帳のほかに様々な補助簿を備え付けることが義務付けされているため、規則第3条第1項第2号においては、承認を受けている国税関係帳簿の記録事項とそれ以外の国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておく必要があることを規定している。 ① 個別に転記する場合 一方の国税関係帳簿に係る記録事項(例えば日計や月計のように個々の記録事項を合計したものを含む)が他方の国税関係帳簿に係る事項として個別転記される場合には、一連番号等の情報を双方の国税関係帳簿に係る記録事項として保存する。 ② 集計転記する場合 一方の国税関係帳簿に係る個々の記録事項を集計して他方の国税関係帳簿に係る記録事項として転記される場合には、他方の国税関係帳簿の摘要欄などに集計対象項目(勘定科目又は部門等)及び集計範囲(〇月〇日~〇月〇日)を記録し保存する。 4 関係書類等の備付け 電帳法第4条1項又は2項の承認を得るには、承認済国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存に併せて以下に掲げる書類を備え付けなければならない。このうち、以下の(1)、(2)の書類については、当該承認済国税関係帳簿に係る業務・会計処理に当たって、保存義務者が自己開発したプログラムを使用する場合に限られている。 これら関係書類の備付けが要件となっている理由としては、システムや機器の操作要領等を明瞭にすることも一つの理由とされるが、重要なのは、当該承認済みの国税関係帳簿書類のデータが作成される業務・会計システムに関するシステム全体が俯瞰できる書類や開発関係書類を備え付けることで、法令の要件に満たされたシステムにより帳簿の記録が行われるということを一定程度担保するということである。 また、会計データを作成するシステムにおいて、法令に基づいた事務処理規程等により、法令に沿った入力手順で当該国税関係帳簿書類のデータが蓄積されることが重要である。 5 見読可能性の確保 紙の帳簿書類と異なりデータは、それ自体では読み取ることは不可能なため、読み取れる状態に変換し、ディスプレイやプリンタに整然とした形式で明瞭な状態で出力することが必要となる。 規則第3条第1項第4号においては、承認済国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所に、その電磁的記録を閲覧するためのパソコン、プログラム、ディスプレイ、プリンタを設置するとともにこれらの操作説明書を備え付けること、及びその電磁的記録をディスプレイの画面や書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できることを規定している。 また、納税地等の保存場所に備え付けられているパソコンと国税関係帳簿書類のデータが保存されているサーバ等とが通信回線で接続されるなどして、当該保存場所において帳簿等のデータをディスプレイの画面及び書面に、それぞれの要件に従った状態で、速やかに出力することができるときは、当該電磁的記録は保存場所に保存等がされているものとして取り扱われることとされている。 6 検索機能の確保 承認済みの国税関係帳簿を作成するシステムにおいて帳簿データを閲覧する場合や、帳簿データの閲覧用にシステムを構築する場合には、以下の検索機能の要件を満たす必要がある。 (1) 検索項目 承認済国税関係帳簿の記録事項は、以下の項目により検索できることが要件となっている。 (2) 検索の範囲 上記②の「その範囲を指定して条件を設定することができる」とは、課税期間ごとの国税関係帳簿書類別に日付又は金額の任意の範囲を指定して条件設定を行い検索ができることをいう。 「課税期間ごと」とは、最大1年間の期間をさしているが、データ量が膨大であり、一課税期間串刺しでの検索ができないような合理的な理由があると認められる場合には、一課税期間内の合理的な期間ごとに任意の範囲を指定して検索できればよいとされている。 上記③の「二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること」とは、個々の国税関係帳簿書類に係る電磁的記録の記録事項を検索するに当たり、当該国税関係帳簿書類に係る主要な記録項目から少なくとも2つの記録項目を任意に選択して、これを検索の条件とする場合に、いずれの記録項目の組合せによっても条件を設定することができることをいう。 7 データの保存に関しての問題点 業務システムや会計システムは、開発者又は販売者のサポート期間やライセンスの関係もあり、国税関係帳簿書類の保存期間の7年の期間中、続けて保証されることは困難な状況にあることが多い。また、保存媒体についても、通常業務で使用しているシステム内のサーバに7年間保存することも現実的ではない。 そこで、一定期間を経過した後は、データベースの形式で承認済国税関係帳簿書類の帳簿等のデータを他の媒体に移行することが現実的と考えられる。その際は、保存するデータ項目や期間を正しく設定し、データの抽出を行う必要があり、データの保存に際しては、業務で使用しているサーバ等で保存していたデータと他の記憶媒体に保存するデータは当然に同一のものでなければならない。 このため、必要に応じてデータの保存に関する責任者を定めるとともに、管理規程を作成し、備え付けるなど、管理・保管に万全を期すことが望ましいが、電帳法の適用を受けている法人等においては、正しく帳簿に係るデータが保存されてないケースも多々見られ、税務調査において指摘され指導を受けることも多くなっている。 次回(第5回)では、電帳法の要件に基づいた国税関係帳簿書類の保存にあたっての問題点と解決策及び税務調査対策、そしてこれら国税関係帳簿書類の承認申請にあたっての留意事項、申請方法について解説する。 (了)