5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第6回】 「平成27年3月期における確定申告書及びその付表の作成方法」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆) 3月末決算法人で平成27年3月期の場合には、その課税期間の開始の日が施行日となることから、経過措置の適用がない限り、原則としてはすべて新税率が適用されることとなる。 しかしながら、一般の事業者の場合には、3月に販売した商品の返品処理、3月に仕入れた商品の返品処理、3月に前払いした旅費交通費、4月分の水道光熱費・通信費など経過措置の適用を受ける取引が発生する可能性があり、旧税率と新税率が混在する場合の確定申告書及び付表を作成することとなる。 したがって今回は、3月末決算法人の平成27年3月期で、旧税率が適用される売上げに係る対価の返還等、旧税率が適用される課税仕入れ、旧税率が適用される仕入れに係る対価の返還等があった場合の確定申告書等の記載方法につき、設例では旧税率が還付、新税率が納付となる場合について、具体例を用いて解説する。 設 例 D株式会社の当課税期間(平成26年4月1日~平成27年3月31日)の課税売上高等の状況は以下のとおりである。なお、仕入税額控除の計算方法は、全額控除方式である。 (※) 設例の数値が変更されました(2015/1/30)。 【付表2-(2)の作成方法】 3月末決算法人の場合においても経過措置が適用され、旧税率と新税率が混在しているときは、この帳票を用いて計算することとなる。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 【付表1の作成方法】 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 設例の場合、付表1の作成で留意すべき点は、旧税率適用分は「控除不足還付税額」、新税率適用分は「差引税額」となり、それぞれの税額を相殺して、プラスが生じていることから確定申告書の「差引税額」へ転記することとなる。 【確定申告書の作成】 確定申告書については、上記の付表1及び付表2-(2)の内容を反映させることとなるが、設例の場合では、差引税額(⑨欄)及び譲渡割納税額(⑳欄)を記載し、控除不足還付税額(⑧欄)及び譲渡割還付額(⑲欄)の記載は不要となる。 《記載見本》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
土地評価をめぐるグレーゾーン 《10大論点》 【第2回】 「地積は何を使うのか」 税理士法人チェスター 税理士 風岡 範哉 [1] 地積の種類 上記のうち、実務上よく使うものが公簿地積、課税地積、測量地積である。 「公簿地積」とは、土地登記簿の表題部に記入されている地積のことをいう。 「課税地積」とは、固定資産税の台帳に登録されている地積のことをいい、原則として、土地登記簿に登記されている地積によるものとされている(固定資産評価基準第1章第1節《地積の認定》)。 「測量地積」とは、対象地を個別に測量を行った結果である。 [2] 「公簿・課税地積 ≦ 測量地積」の場合 公簿地積・課税地積と測量地積が異なる場合がある。 評価通達は、すべての土地について実測を要求するものではなく、原則として、課税時期において実際の地積が実測等により明らかなものについては実際の地積により、実際の地積が明らかでないものについては台帳地積によると解されている(平成13年8月13日裁決〔TAINS・F0-3-130〕)。 ただし、熊本地裁平成6年4月25日判決〔税資201・131〕においては、本件土地の地積は、納税者が主張する登記簿上の地積134.62㎡ではなく、土地家屋調査士による地積測量図の地積347.19㎡であるとされている。 公簿地積や課税地積よりも地積の大きい測量図がある場合には、注意が必要である。 [3] 「公簿地積 ≧ 課税地積」の場合 例えば、国土調査法に基づく地籍調査が行われて、登記地積が修正されている場合である。 国土調査が終わった土地の登記地積は、その結果を受けて訂正される。 しかし、固定資産税を課税するに当たっては、国土調査が市内全域に実施されるまでの間、調査した土地としない土地で不公平が生じないように旧来の登記地積を課税地積としたままとなる。 相続または贈与の課税時期が、地籍調査後で課税地積修正前である場合、旧来の登記地積によるのはなく、修正後の地積によるものとされていることに留意が必要である。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第18回】 「日本IBM事件③」 公認会計士 佐藤 信祐 前回においては、【争点1】についての原告及び被告の主張について解説を行った。第18回に当たる本稿においては、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行うこととする。 (6) 裁判所の判断 ① 法人税法132条1項の射程範囲について 法人税法132条1項は、税務署長は、内国法人である同族会社(同項1号)に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨を定めており、同項は、その趣旨、目的に照らすと、上記の「法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められる」か否かを、専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否かを基準として判定し、このような客観的、合理的基準に従って同族会社の行為又は計算を否認する権限を税務署長に与えているものと解するのが相当である(最高裁昭和53年判決参照)。 ② 原告をあえて日本IBMの中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的があったとはいい難いか否かについて 原告は、 〔1〕 米国IBMが主導的にした日本におけるIBMグループを成す会社に係る組織の再編における持株会社又は企業を買収した複数の案件における受皿会社としてそれぞれ一定の役割を果たしたとはいえないとまではいい難いし、 〔2〕 資金を柔軟に移動させることを可能としたりIBMグループに係る租税の負担を減少させたりすることを通じてIBMグループが必要とする資金をより効率的に使用することを可能とするような一定の金融上の機能(金融仲介機能)を果たしていないともいい難い上、 〔3〕 上記の企業を買収した複数の案件以外の企業を買収する案件における受皿会社としての一定の役割を果たすことも期待されていたことも一概に否定し難い と認められる。上記〔1〕ないし〔3〕を前提とすれば、原告に持株会社としての固有の存在意義がないとまでは認め難いというべきである上、企業グループにおける組織の在り方の選択が基本的に私的自治に委ねられるべきものであることや、法令上、外国にある持株会社と我が国にある事業会社との間に有限会社である持株会社を置くことができる事由を限定する規定が見当たらないことも考慮すると、米国WTと日本IBMとの間に中間持株会社としての原告を置いたことに税負担の軽減以外の事業上の目的が見いだせないともいい難いというべきである。 ③ 本件一連の行為を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであるか否かについて 原告は、本件融資のされた当時、日本IBM等4社の発行済株式の全部を保有していた上、基本的にいずれもIBMグループに属する米国WT及び日本IBM以外の者と債権債務関係が発生することが想定されていないことが認められるから、これらの事情を前提とすれば、本件融資が、独立した当事者間の通常の取引として到底あり得ないとまでは認め難いというべきである。 ④ 本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるか否かについて 被告は、本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められるとして、 (ⅰ) 本件株式購入及び本件各譲渡は経済的合理性がないこと (ⅱ) 原告に有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が生ずることとなった経緯から米国IBMが税負担の軽減を目的として意図的に原告に有価証券の譲渡損を生じさせるような事業目的のない行為である本件一連の行為をしたことを推認することができること (ⅲ) 原告が中間持株会社として置かれた当初からいわゆる連結納税制度を利用して本件各譲渡により原告に生ずる有価証券の譲渡に係る譲渡損失額を連結所得の金額の計算上損金の額に算入することが想定されていたことが合理的に推認されること (ⅳ) 本件につき法人税法の適用のない米国法人が濫用的にその適用を受けて租税回避を企図したものと評価することができること をその評価根拠事実として挙げていたが、それぞれ裁判所によって否定されている。 なお、租税回避の意図が認められるか否かという点については、同族会社等の行為計算の否認を適用すべきか否かの判断としては間接的なものであると考えられるため、本稿においては、詳細な解説は省略する。 (7) 評釈 このように、中間持株会社としての機能を持たせたことについて、不自然・不合理なものとはいい難いという理由により、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認の適用を否定している。 本事件における当事者の主張において、前回解説した内容は、裁判所の判断に繋がったところのみを抽出しているが、実際の判決文においては、当事者の主張が多岐に渡るうえに、ほとんど噛み合っていないというところが印象的である。 とりわけ、中間持株会社としての実体については、物理的な意味での法人役員、従業員の事業活動の不存在、専用事業所ないし固有の事務所の不存在、業務の外部委託の事実については原告も認めているものの、そのような実体の有無と、事業目的の有無とは異なるものとして原告が主張しており、現場における感覚と裁判所における感覚の違いを窺い知ることができるものとして興味深い。 また、同族会社等が行った「行為」または「計算」が「不当」であった場合について適用されるべき同族会社等の行為計算の否認について、同族会社である中間持株会社の「実体」や「事業目的」を争っていたという点はやや物足りなさを感じるところである。 とりわけ、株式移転の方が容易に行えた持株会社の設立について、資金異動を伴わざるを得なかった本件スキームを実施することにより、多額の法人税の負担を減少させているという点については、一種の迂回取引のようにも思えてしまうが、この点についても、あまり踏み込んだ判断がなされていないし、被告側もあまり主張していない。 やはり、本事件の判決については、法人税法132条の限界ともいうべきであるが、そうなってくると、第1回目から第15回で解説した法人税法132条の2が極端に射程範囲が広いという印象を持たざるを得ない。本事件についても、控訴審、上告審についてそれぞれ見守りたい。 次回以降は、平成17年改正前商法の事件ではあるが、自動車の開発、製造等の事業を目的とする株式会社である原告が、本件子会社との間で事業再編による子会社株式の消却による払戻金を理由に、更正処分を受けた事件について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【52】 〔第6章〕判例の見方 (その10) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 (⑤ 裁判の不服申立てに係る裁判の種類) (承前) これに対して、事件受理の申立ては、刑事訴訟規則第258条の以下の条文によるものである。 民事裁判の場合の上告受理の申立てには、その理由として「原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」とあったものが、刑事裁判による事件受理の申立ての場合には、その理由として「その事件が法令(裁判所の規則を含む。)の解釈に関する重要な事項を含むものと認めるとき」とされており、刑事事案の方が上告(事件)受理の申立ての範囲が狭い印象を受ける。しかし、刑事裁判の場合には、刑事訴訟法第405条において、以下のように規定されている。 このように刑事事件においては、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合には、(民事裁判の場合には、上告受理申立ての理由であるのに対して)上告理由とされているためであり、刑事裁判の方が上告の対象が狭くなっているわけではない。 なお、民事訴訟規則第192条に「前2条(法第312条第1項及び第2項の上告理由の記載の方式並びに法第312条第3項の上告理由の記載の方式)に規定する上告において、判決が最高裁判所の判例と相反する判断をしたことを主張するときは、その判例を具体的に示さなければならない」とある(本連載【第44回】参照)が、これは民事裁判においても、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合には、上告理由となるわけではない。 民事訴訟法312条第1項及び第2項各号には、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断の場合については挙げられていない。したがってこれは、民事訴訟法312条第1項及び第2項各号を理由として上告した場合で、原裁判所の判断が、最高裁判所の判例と相反する判断をしたことを主張するときに具体的な記載を定めたものである。 なお上告受理申立ての場合には、これは「受理」の申立てであるから、最高裁判所がこれを受理しないという決定がなされた場合には、これは上告受理申立ての「不受理決定」ということになる。しかし、刑事裁判における事件受理申立ての場合には、最高裁判所が14日以内に上告受理決定がなされない場合は判決が確定し棄却決定されたものとみなされる。 (c) 跳躍上告 刑事訴訟法では第405条の上告理由に続いて、第406条において次のように規定されている。 この件につき刑事訴訟規則第254条第1項では、次のように規定されている。 したがって、第一審判決が、法律、命令・規則もしくは処分が憲法違反であるとした場合、又は地方公共団体の条例又は規則が法律に違反するとしたものである場合、あるいは地方公共団体の条例又は規則が憲法又は法律に適合するとしたものである場合に、その第一審の判断が不当であることを理由として、控訴審を飛び越えて上告することができる。 (d) 飛越上告 民事訴訟及び行政訴訟において、第一審の終局判決に対して控訴を経ずに、直接法律審へ上訴することで、先の跳躍上告が刑事訴訟の場合であるのに対して、民事訴訟及び行政訴訟に設けられたものである。 これについては、民事訴訟法第281条第1項、及び第311条第1項・第2項には、次のように規定されている。 この281条但書以下に、控訴をしない旨の合意をし、当事者双方が共に上告を求めた場合には、直ちに上告が可能であると規定されている。上告裁判所は、第311条第2項にあるように、第一審が地方裁判所の場合は最高裁判所、第一審が簡易裁判所の場合には高等裁判所となる。 第一審や控訴審は、事実問題と法律問題を併せて判断する事実審である。そこで事実認定については当事者間に争いがなく法律問題のみが争点となっている場合には、法律問題のみを争えばよいのであるから、直ちに法律審に進めるように、この制度が設けられている。 (続く)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《交際費》編 【第3回】 弁護士 木村 浩之 5 使途不明金(使途秘匿金) (1) 使途不明金とは 使途不明金とは、法人の資産が外部に流出しているものの、その支出先を特定することができず、使途が不明であるものをいう。 この使途不明金の処理については、 のいずれかに分類されることになる。 実務上は、使途不明金であっても、何らかの費目で営業費用として処理されることが多いと思われる。この点、たとえ支出先を特定できないとしても、その支出の目的や内容が何らかの形で明らかになる場合には、それは単純な社外流出ではなく、支出先が特定できない営業費用として処理することが認められる(東京高判昭和53年11月30日・税資103号674頁参照)。 また、支出の目的が交際費であったとしても、いわゆる渡切交際費については、支出の内容が具体的に明らかでない以上は、給与として処理することが多いといえる。渡切交際費に限らず、法人から流出した資産を所持していた者がその支出内容を説明できないのであれば、その資産は当該所持者に帰属したものと考えることが合理的であり、その者に対する給与等として処理することが相当と思われる。ただし、実務上は、金銭消費貸借契約書などを作成した上で、貸付処理がなされることも多い。 これらのいずれにも当たらない場合、理論上は損失が発生したことになるが、通常、使途が明らかでないものについては、実務においては、損失ではなく社外流出として損金算入を否定することが多い。なお、資産の外部流出が何らかの事故や紛失、盗難等の外的要因によるものと認められる場合には、単純に損失として処理することが認められる。 (2) 使途秘匿金の要件 使途不明金のうち、一定の要件に当たるものを「使途秘匿金」といい、支出額の40%に相当する額が法人税に加算されることになる(措法62)。 なお、この使途秘匿金課税については、もともと時限立法であったものが平成26年度税制改正によって恒久的な措置とされているので、留意されたい。 ここでいう「一定の要件」とは、次のとおりである。 そこで、支出の目的や内容を明らかにして経理上は営業費用として処理することが認められても、支出の相手方が不明であれば、その不明であることについて相当な理由がない限り、税法上は使途秘匿金に該当することになる。 相手方が不明であることについて相当な理由がある場合とは、例えば、不特定多数との取引であって、取引の性質上、相手方の特定ができない場合などが考えられるが、単に事業遂行上の必要から相手方を開示できないという程度では相当な理由とは認められない。 なお、客観的に資産が社外に流出しているが、その原因が不明であって損失が発生していると考えらえるような場合については、そもそも「支出」がないことから、使途秘匿金課税は問題とはならない。 (3) 使途不明金の処理手順 以上を整理すると、相手方が不明な支出であっても、支出の目的が法人の事業のためであることが明らかであって、支出の内容も特定できる場合には、営業費用として処理することができる。ただし、その支出の主たる目的が相手方の歓心を買うことにあると認められれば、交際費に該当することになる。また、相手方が特定できないことについて合理的な理由がなければ、使途秘匿金課税の対象ともなり得るので、留意が必要である。 次に、典型的には渡切交際費など、支出の目的が法人の事業のためであることが明らかであるが、支出の内容が特定できない場合には、実際に事業のために支出されたかどうか不明であることから、法人から資産を受領した者に対する給与等として処理することになる。この場合、支出の相手方は特定されることになるので、使途秘匿金課税は問題とはならない。 さらに、支出の目的も内容も不明であるような場合には、基本的には損失が発生したものと考えられるが、損失の発生について合理的な説明がつかない場合、実務上は、社外流出として処理することになる。この場合、支出の事実も明らかとはいえないことから、使途秘匿金課税は問題とならないと考えられる。 6 おわりに 交際費課税は、租税特別措置法において規定されたものであり、いわゆる時限立法であるものの、その歴史は古く、昭和29年に初めて制度が導入されて以後、過去から現在にかけて、そのときどきの経済状況や社会情勢を反映して内容を変容させつつも、現在まで存続してきたものである。近年は、景気対策としての中小企業の活性化や消費の拡大などの観点から、損金算入が認められる範囲は拡大される傾向にある。 このような流れの中で、平成26年度税制改正において、接待飲食費について損金算入が認められる範囲が拡大したことはすでに述べたとおりである。ただし、その範囲が拡大しつつあるとはいえ、それでもなお、一定の範囲で交際費は損金不算入とされているのであり、実務上、交際費課税が問題となるケースは依然多いものと思われる。 そこで、本稿が実務における交際費該当性の判断の一助になれば幸いである。 (《交際費》編 終了)
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第18回】 「公的年金の源泉徴収」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 私は、平成26年3月31日をもって定年退職し、平成26年4月より年金暮らしをしています。平成27年1月中旬に年金事務所より「公的年金等の源泉徴収票」が送られてきました。「公的年金等の源泉徴収票」によると、公的年金から所得税及び復興特別所得税が源泉徴収されています。 公的年金の源泉徴収についてご教示ください。 老齢・退職を支給事由とする年金受給者のうち、年金額が65歳未満で108万円以上、65歳以上で158万円以上ある者には、「扶養親族等申告書」が年金事務所から送付される。年金受給者が「扶養親族等申告書」を年金事務所へ提出したかしないかで所得税及び復興特別所得税の計算方法が異なる。 ① 年金受給者が「扶養親族等申告書」を年金事務所へ提出した場合 (注1) 1円未満切捨 (注2) 公的年金から特別徴収された介護保険料・国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の合計額 (注3) 各種控除額一覧(参考:日本年金機構ホームページ) (年齢は、平成26年12月31日時点で判断する。) ② 65歳以上の退職共済年金受給者が「扶養親族等申告書」を年金事務所へ提出した場合 (注4) 47,500円×その年金支給額の計算の基礎となった月数 ③ 年金受給者が「扶養親族等申告書」を年金事務所へ提出しない場合 (了)
J-SOXの経験に学ぶ マイナンバー制度対応のイロハ 【第1回】 「マイナンバー制度はコンプライアンスに焦点をあてた内部統制の構築」 公認会計士 金子 彰良 ◆はじめに マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)が開始される2016年1月まで残り1年を切った。行政機関等では情報の照合や転記作業における業務の効率化、国民にとっては本人確認の添付書類が少なくなるなど利便性の向上が期待されている。しかし、その一方で、事業者(企業)にとってマイナンバー制度への対応負荷が心配されている。 このような中、個人番号を取り扱う事業者が特定個人情報の適正な取扱いを確保するために、特定個人情報保護委員会は、昨年12月11日付で、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」を公表した。 本連載では、事業者が特定個人情報の適正な取扱いを確保するためには、経営者をはじめ事業者の各構成員自らが、特定個人情報に対する保護措置の重要性を認識しなければならないとの観点にたち、自社の経営管理のしくみとして主体的に社内体制を構築するための視点を提供することを目的としている。 ◆マイナンバー制度対応の本質 ▷マイナンバー制度対応の本質は内部統制の構築である マイナンバー制度への対応において特徴的なのは、特定個人情報について個人情報保護法よりも厳格な各種保護措置を設けていることであろう。 番号法で規定する保護措置は、大きく次の3つに大別される。 ガイドラインでは上記3つの保護措置について、各論として第4章で個別に記載しているほか、安全管理措置の具体的な内容については、「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」(以下「別添資料」という)を提供している。 事業者は、番号法をはじめとする関連法令・ガイドラインに従って制度対応を進めなければならないが、その作業の本質はコンプライアンス(法令遵守)を目的とした内部統制の構築作業と言える。つまり、マイナンバー制度に適切に対応するためには、特定個人情報の適正な取扱いを確保するための具体的な方策について検討し、経営管理のしくみとして実践するとともに、継続して点検・見直しを図らなければならない。 内部統制と言えば、金融商品取引法の内部統制の評価報告制度(一般に、「J-SOX制度」と呼ばれるもの)を経験した上場会社等やそのグループ会社にとっては馴染みがあると思われる。 マイナンバー制度は、個人番号を取り扱うすべての事業者に適用されるため、必ずしもすべての事業者がJ-SOX制度の経験を活かせるわけではないが、大事なのは制度対応に向けた視点を持つことである。 そこで、最初に安全管理措置の構築手順の概要を解説しながら、マイナンバー制度と内部統制のフレームワークとの関係をおさえてみたい。 (注) 本稿で用いる内部統制の用語は、特に断りのない限り、金融商品取引法の内部統制の評価報告制度におけるものを使用している。 ▷安全管理措置の検討手順は内部統制のフレームワークを用いると理解しやすい 経営管理のしくみとして実践する際、一番難しいのが安全管理措置の検討である。 マイナンバー制度は、新しい法制度の要請に基づく対応であるため、「安全管理措置の構築」と聞くと、全く新しいしくみを導入しなければならないと思うかもしれない。 しかし、別添資料を読むと、新たに付加された個人番号関連の事務をどのように既存業務に取り込むかがポイントであること、また、その検討は「内部統制の構築」と多くの共通点があることに気づく。 ガイドラインの別添資料では、安全管理措置について5つの検討手順が記載されているが、それに作業順序を考慮して図示すると以下のようになる(図表1-1)。 図表1-1 安全管理措置の検討手順 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)1.安全管理措置の検討手順より作成 〇検討手順A~C:番号法を適用する対象を明確にする 最初に、番号法を遵守するという目的に関連して、その対象を明確にしなければならない。これは図表1-1で示した安全管理措置の検討手順、「A.個人番号を取り扱う事務の範囲」と「B.特定個人情報等の範囲の明確化」に該当する。 また、目的・対象(事務の範囲・情報等)が決まると、関連して影響を及ぼす組織が明確になるが、これは同じく図表1-1の「C.事務取扱担当者の明確化」に該当する。制度上、本人から個人番号の提供を受ける際、番号法で認められた方法によって本人確認等を行う必要があるが、事業者によっては本社だけでなく、複数の事業拠点で本人確認業務を実施する可能性がある。 これら個人番号の事務範囲や特定個人情報等の範囲、事務取扱担当者の明確化は、内部統制のフレームワークでいうところの統制対象としての「事業単位と活動」にあたる。 安全管理措置の検討手順では、これらを踏まえ、「D.基本方針の策定」と「E.取扱規程等の策定」を行う。 〇検討手順D:基本方針を策定する 「D.基本方針の策定」は、特定個人情報等の適正な取扱いの確保について組織として取り組むために策定するものである。事業者としては、既存の個人情報保護方針を改正する、又は新しく策定しなければならない。 基本方針は取扱規程等と合わせて、従業者の意識や行動を規定し、特定個人情報に対する保護措置の重要性の認識に影響を与える点で、内部統制のフレームワークでいうところの「基本的要素(統制環境)」にあたる。 〇検討手順E:取扱規程等を策定する 「E.取扱規程等の策定」は、特定個人情報等の取扱事務の流れを整理して、管理段階(取得、利用、保存、提供、削除・廃棄)ごとに、取扱方法、責任者・事務取扱担当者及びその任務等について定める。事業者としては、既存の個人情報の保護に係る取扱規程等に特定個人情報の取扱いを追記する、又は新しく策定しなければならない。 取扱規程等で規定する各項目は、内部統制のフレームワークでいうところの各基本的要素にあたる。 例えば、次のような項目を規定する(カッコ内は主に関連する基本的要素を表す)。 上記は一部の例示であるが、ガイドライン別添資料において、取扱規程等に織り込むべき安全管理措置の具体的な内容として、「組織的安全管理措置」「人的安全管理措置」「物理的安全管理措置」「技術的安全管理措置」の4つが明示されている(図表1-2)。 図表1-2 取扱規程等に織り込むべき安全管理措置 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)2.講ずべき安全管理措置の内容より作成 ▷基本方針と取扱規程等が「存在し、かつ機能している」状態が目標 以上のように、番号法等への遵守目的とガイドライン別添資料における「安全管理措置の検討手順」のA~Eの各ステップは、内部統制のフレームワークに対応することがわかる(図表1-3)。 図表1-3 マイナンバー制度対応と内部統制フレームワーク ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 マイナンバー制度への対応を内部統制の構築作業であると考えれば、経営管理のしくみとして当該内部統制が有効に機能していることをもって、制度対応できたと言える。すなわち、内部統制の基本的要素に相当する「基本方針」「取扱規程等」が、番号法の遵守という目的を達成するために、「存在し、かつ機能している」状態が目標になる。 では、「存在し、かつ機能している」とはどのような状態を指すのであろうか。 * * * 次回は、マイナンバー制度対応に伴い個人番号関連の事務が付加される5つの業務プロセスをおさえ、ガイドラインで記載されている各種保護措置をプロセスに位置づけてみたい。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第69回】 企業結合会計⑥ 「事業譲渡」 ―現金を対価として外部に売却する場合 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 事業譲渡とは、自社の事業を他社に譲り渡す取引行為のことをいいます。事業譲渡の会計処理方法は、事業分離等に関する会計基準(以下、基準)、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針で定められています。 事業譲渡の対価として現金を受け取った場合は、投資が清算されたとみなされ、移転した事業に係る株主資本相当額と受け取った現金(受け取った財の時価)との差額を移転損益として認識します。独立した第三者との間で、「事業」というモノを売買したと考えればよいでしょう。 ただし、対価が現金の場合であっても、事業分離後も分離元企業の重要な継続的関与(分離先企業に対して、多額の融資や重要な営業上又は事業上の取引を行っている場合など)があり、分離元企業が移転した事業に従来と同様にリスクを負っているような場合には、投資が清算されたとみなされず、移転損益は認識されません(基準10(1)、76)。 なお、基準では、会社分割や事業譲渡など(以下、事業分離等)の場合における事業を分離する企業(分離元企業)の会計処理が定められていますが、会社分割と事業譲渡では基本的に会計処理方法に違いはありません。 事業譲渡と会社分割は、会計処理の面では違いがありませんが、主に以下のような点が異なっています。 ※2015年2月は2013年6月に続き、リース会計を取り上げます。 (了)
〔2015年からできる!〕 企業が行うマイナンバー制度への実務対応 【第3回】 「対応の進め方、その全体像を把握する」 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 前回は企業対応を考えるうえで理解しておきたい“3つの考え方”について整理した。 この“3つの考え方”を踏まえたうえで、第3回となる本稿では、マイナンバー制度への実務対応を企業がどのように進めていくべきか、全体像を把握できるような形で解説していく。なお、その工程は大きく2つの段階に分けられる。 1 個人番号の記載が求められる法定調書等の特定~進め方の第1段階~ (1) “3つの考え方”から導かれる『対応の進め方』 前回紹介した重要な3つの考え方とは、 であった。 要するに、番号法で認められた範囲内でしか個人番号を入手してはならず、また、個人番号を提供・出力してはならない。さらに、個人番号を含む個人情報の情報漏えいには厳しい処罰が課される可能性もあり、これまで以上に厳格な情報管理が求められるということである。 そこで、これらの考え方から、実務対応として、まず を特定する作業が必要となる。 この特定作業を通じて、個人番号の入手範囲、個人番号の提供(提出)範囲、そのために個人番号の出力が許容される範囲が明らかとなる。そこで、これらの範囲に関係する企業内の対象業務で、上記の3つの考え方に留意して必要な業務の見直し等を行っていく。 以上が進め方の第1段階である。 (2) 事例 企業が個人の税理士と税務顧問契約を締結し、当該企業が作成した税務申告書のチェックの対価として一定金額以上の顧問報酬を支払っている場合、企業は「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(所得税法第225条第1項第3号)を税務署に提出しなければならない。 番号法が施行された以降の当該支払調書の様式は以下のようになることが予定されているが、見てわかるとおり、これまでは支払を受ける者の氏名又は名称等を記載すればよかったものが、加えて、個人番号を記載しなければならないものとされている。 【参考】 「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」 ※社会保障・税番号制度導入に伴い、平成28年1月以降に使用することとなる様式 (※) 国税庁ホームページより そこで企業は、「個人の税理士との顧問契約の締結」という場面において、「契約締結時に税理士個人から本人確認のうえ個人番号を入手する」というような業務の見直しがなされることになる(考え方①)。 さらに、この税理士個人の個人番号は、基本的に上記の報酬等の支払調書を提出する範囲でのみ必要となることから(考え方②)、この支払調書の提出に関係しない場面で当該税理士の個人番号が出力されないように業務の見直しにあたって配慮することが情報管理の観点から重要となる(考え方③)。 また、当該税理士との顧問契約が解消された場合には、基本的には当該税理士の個人番号を企業で保管することはできないことから(※)、税務署等への個人番号の提出が見込まれなくなった時点で完全確実に廃棄することも情報管理の観点から同様に重要となる。 (※) 当該税理士にかかる報酬等の支払調書を提出する必要がないということは、当該税理士の個人番号を保有する目的がないということであり、個人番号を保有し続けることは、目的外入手の排除(考え方①)という観点から問題となる。 次の図は、この第1段階における進め方をイメージに落とし込んだものである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (3) 個人番号の記載が求められる法定調書等を把握する方法 ここで、個人番号の記載が求められる法定調書等を把握する方法として、以下の情報が参考になる。 2 個々の業務の見直し~進め方の第2段階~ 上記の資料を参考に、個人番号の記載が求められる法定調書等を把握し、これらの法定調書等が関係する企業内の業務について特定できたのであれば、『進め方の第2段階』として、個々の業務についての見直しを進めていくこととなる。 「個々の業務の見直し」とは、具体的には大きく次の3つに分けられる。 さらに、上場会社あるいは今後上場を目指す企業である場合には、これらに加えて内部統制報告制度への対応も必要となる。 そこで、これらの業務の見直しを計画的かつ体系的に進めていくためにも、対応が必要な項目を列挙し、マイナンバー制度のスケジュールを加味したロードマップを策定する必要があると考えられる。 なお、上記①について読者のイメージに資するように、番号法が施行される前と後における入社段階の業務フローの変更イメージを示すと次のとおりである。 【入社段階の業務フローの変更(見直し)イメージ】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 また、上記②については、例えば上に示した入社段階の業務フローの変更に併せて、就業規則等を改訂し入社の際に提示すべき資料に個人番号カード等を追加すること、業務マニュアルとして本人確認マニュアルを新設するなどの対応が必要となる。 さらに、上記③については、人事給与に関連するソフトウェアのベンダーでは、最近徐々に対応方針などの策定・公表が進められている。基本的に汎用あるいはパッケージソフトの場合には、ベンダーから番号法対応のバージョンアップ版の提供を待つことになるが、自社が利用するソフトウェアのベンダーの対応方針及び対応スケジュールについては早めに把握しておきたい。 また、人事給与関係システムを自社で内製制作している場合、あるいは外注して制作している場合には大幅なシステム改修が必要となる。この場合には、早急にシステム改修に向けた取組みが必要である。 なお、既存のシステムの改修は要さず、マイナンバーを別システムで管理し既存システムにアドオンするような仕組みが一部のシステムベンダーから提供されるようである。既存のシステムは改修せず、このような形態でシステム全体の設計を行うことも一案であると思われる。 3 本稿のまとめ 第3回目となる本稿では、第2回で解説した“3つの考え方”を前提に、マイナンバー制度への実務対応の全体像並びにその進め方について解説した。 このシリーズの最終回となる次回(第4回)においては、今回解説した実務対応の全体像とその進め方の理解を前提に、個々のフェーズにおける対応上のポイントや留意したい事項について解説し、本シリーズのまとめとしたい。 (了)
〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第4回】 「グローバル展開する中堅製造業、 ERP選定のポイントは?」 公認会計士 五島 伸二 はじめに ~グローバル展開する中堅製造業の置かれている環境~ 長く続いた円高によって製造業の海外進出が進み、それまで海外進出など考えられなかった多くの中小企業や中堅企業が製造拠点を海外に移した。 アベノミクスによって円安に振れた現在もこの傾向は変わらないといわれているが、一方で国内に製造拠点を戻す動きも出てきている。 いずれにしても言えることは、製造業を取り巻く外部環境の変化は激しく、この激しさはこれからも続くであろうということだ。 経営者は、外部環境の変化に対応した厳しい戦略的判断を迫られ続け、同時に、内部の業務プロセスの効率化などによる収益性の向上についても、今まで以上に求められ続けるであろう。 ▼重要性を増す「基幹システム」の存在▼ このような状況にある企業にとって、情報システム、とりわけ、基幹システムの整備は重要な課題となる(ここで「基幹システム」とは、購買管理、在庫管理、生産管理、販売管理、会計等の企業の基幹業務を支援するシステムのことをいう)。 なぜなら、企業の戦略的な意思決定は、多くの場合、基幹システムから取り出された情報に基づいて行われ、また、中堅企業以上であれば、基幹システムが企業内の業務の効率性を支えていることが多いためである。 現在、多くの企業では基幹システムとしてERPが採用されている。 その理由はさまざまだが、企業で基幹システムを“手作り”するよりトータルでのコストパフォーマンスが高いことや、個別業務システムの寄せ集めでなく、購買、在庫、生産、販売等の業務が一気通貫で管理できるといった効率性が評価されていると思われる。 筆者は、ERP導入に関するコンサルティングだけでなく、実際に導入・開発まで携わることも多いが、経験上、最初のERP選定時における検討作業の良否が、その後のERP導入の成否に大きな影響を与えるということを強く感じている。 つまり、この段階で誤った選定をしてしまうと、その後の導入作業において挽回するのはかなり困難ということである。 そこで本稿では、製造拠点などをグローバルに展開する製造業、なかでも中堅製造業(売上高100億円から1,000億円を想定)を前提として、どのようなERPを選定すべきか、そのポイントを解説する。 なお、ERPの定義等については、本連載【第3回】「仕様に漏れのないプロトタイプ型開発。それでもERP導入が失敗するワケ」を参照されたい。 ▼グローバル展開を前提にしたERP、最適な選定のポイントは?▼ では具体的に、グローバル活動を行う企業は、どのようなERPを選択すべきであろうか。 グローバルで活動することを念頭に置いた場合、ERP選定にあたっての重要なポイントは次の3点である。 これらは多くのグローバル企業に共通する選定ポイントといえよう。 以下、順に説明する。 以上がグローバル展開を前提とした企業に共通する選定ポイントであるが、このようなことを考えると、グローバル展開を進めている企業はグローバル企業で導入実績がある外国製のERPを選定すべきという結論になりがちである。 たしかに主要な外国製ERP製品は、グローバル展開する製造業にとって必要な諸機能を豊富に備えており、非常に魅力的である。しかし、最近では国産ERP製品でも海外拠点への導入実績が多く、かつ、機能面でも高い評価を得ている製品がそろいつつある。 本稿では個別の製品については触れないが、グローバル展開=外国製ERPといった考えにとらわれず、各製品をよく吟味する必要があろう。 ▼では、中堅『製造業』を前提としたERP、どう選ぶ?▼ “グローバル展開”に焦点を置いた場合に共通するポイントは上記のとおりであるが、では、『製造業』に焦点を置いた場合、どのような視点が必要となるであろうか。 この場合、各企業が抱える製造業としての業務課題を個別に検討し、その課題を解決できるERPかどうかということが、選定のポイントになる。 具体的にはどのようなことが選定時や選定後に課題となるのか、製造業に焦点を絞って、筆者の経験や見聞したことを中心に事例を挙げてみる。 上記はほんの一例である。 こういった個別業務要件がERP製品で実現可能かどうかを検討する作業を『フィット&ギャップ』という。 フィット&ギャップにおいては、その前提として自社の業務をしっかりと把握して分析し、必要な機能を要件定義としてとりまとめる必要がある。それ自体難しい作業だが、さらにその要件が選定対象のERP製品にフィットするか否かを評価するのは、業務とERPの両方の知識と経験、つまり高いスキルを要する作業となる。 企業がERP導入を考えるのであれば、企業側にこのフィット&ギャップを行える人材が必要となるが、現実には中堅製造業においてそういった業務ができる人材を用意できることは稀であろう。そのため、ERP導入経験のあるシステムコンサルタントに中立の立場で選定に関与してもらい、アドバイスを受けることが有用となる。 最近では、実際にERP選定時のRFP(Request For Proposal:提案依頼書)の作成や評価について、外部コンサルタントに支援を依頼する例が多くなった。 支援を依頼するのはそれなりのコストが必要となるが、選定時の判断の誤りによって被るかもしれない大きな損失と比較すれば安いと判断する企業が多くなったのだと思われる。 ▼「本来の導入目的」は何であったか?▼ ERPとは企業資源計画(Enterprise Resource Planning)を意味し、本来は、ERPから得られた情報を戦略的意思決定に利用し、組織の最適な資源配分を図ることを目的としている。システムとしてのERPは、その目的を遂行するための経営ツールである。 ERP選定においては、個別業務のフィット&ギャップも重要だが、ERPを経営ツールとしていかに使うか、いかに経営判断に役立てるかという視点を忘れてはならない。 ERP選定メンバーにとっては、個別業務の効率性などは比較的わかりやすい課題なのでしっかり評価するが、経営レベルの課題解決はわかりづらく、評価がおざなりになっている事例を散見する。 ERP選定においては、ERP本来の目的を忘れず、業務効率向上の視点だけでなく経営効率の向上も重要な視点として評価すべきである。 (了)