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〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第4回】「グローバル展開する中堅製造業、ERP選定のポイントは?」

筆者:五島 伸二

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〈IT会計士が教える〉

『情報システム』導入のヒント (!)

【第4回】

「グローバル展開する中堅製造業、
ERP選定のポイントは?」

 

公認会計士 五島 伸二

 

-連載の目的-

この連載は、「日本IT会計士連盟」に所属する者が有志により、企業がさまざまな形態の『情報システム』を導入する際に遭遇し抱え込んでしまう“ありがちな疑問・問題”について取り上げ、その解決の糸口を示すことで、企業がスムーズにそのシステムを導入・運営できるよう手助けすることを目的とする。

 

はじめに

~グローバル展開する中堅製造業の置かれている環境~

長く続いた円高によって製造業の海外進出が進み、それまで海外進出など考えられなかった多くの中小企業や中堅企業が製造拠点を海外に移した。

アベノミクスによって円安に振れた現在もこの傾向は変わらないといわれているが、一方で国内に製造拠点を戻す動きも出てきている。

いずれにしても言えることは、製造業を取り巻く外部環境の変化は激しく、この激しさはこれからも続くであろうということだ。

経営者は、外部環境の変化に対応した厳しい戦略的判断を迫られ続け、同時に、内部の業務プロセスの効率化などによる収益性の向上についても、今まで以上に求められ続けるであろう。

 

重要性を増す「基幹システム」の存在

このような状況にある企業にとって、情報システム、とりわけ、基幹システムの整備は重要な課題となる(ここで「基幹システム」とは、購買管理、在庫管理、生産管理、販売管理、会計等の企業の基幹業務を支援するシステムのことをいう)。

なぜなら、企業の戦略的な意思決定は、多くの場合、基幹システムから取り出された情報に基づいて行われ、また、中堅企業以上であれば、基幹システムが企業内の業務の効率性を支えていることが多いためである。

現在、多くの企業では基幹システムとしてERPが採用されている。

その理由はさまざまだが、企業で基幹システムを“手作り”するよりトータルでのコストパフォーマンスが高いことや、個別業務システムの寄せ集めでなく、購買、在庫、生産、販売等の業務が一気通貫で管理できるといった効率性が評価されていると思われる。

筆者は、ERP導入に関するコンサルティングだけでなく、実際に導入・開発まで携わることも多いが、経験上、最初のERP選定時における検討作業の良否が、その後のERP導入の成否に大きな影響を与えるということを強く感じている。

つまり、この段階で誤った選定をしてしまうと、その後の導入作業において挽回するのはかなり困難ということである。

そこで本稿では、製造拠点などをグローバルに展開する製造業、なかでも中堅製造業(売上高100億円から1,000億円を想定)を前提として、どのようなERPを選定すべきか、そのポイントを解説する。

なお、ERPの定義等については、本連載【第3回】「仕様に漏れのないプロトタイプ型開発。それでもERP導入が失敗するワケ」を参照されたい。

 

グローバル展開を前提にしたERP、最適な選定のポイントは?

では具体的に、グローバル活動を行う企業は、どのようなERPを選択すべきであろうか。

グローバルで活動することを念頭に置いた場合、ERP選定にあたっての重要なポイントは次の3点である。

① 多言語対応

② 多通貨対応

③ 多制度対応

これらは多くのグローバル企業に共通する選定ポイントといえよう。
以下、順に説明する。

 多言語に対応しているか?

これは文字通り、単一の言語だけでなく、複数の言語に対応しているかどうかということである。
具体的には、画面表示や帳票出力、ヘルプなどが日本語だけではなく現地の言語で表示されるかどうかということである。

 多通貨取引に対応しているか?

これは、取引の記帳が、その会社の基本的な通貨(日本の会社であれば「円」)だけでなく、取引された通貨でも記帳されるかどうかということである。

例えば、日本国内で100ドルの売上を計上したら、(取引時の為替レートが1ドル100円として)総勘定元帳には10,000円の売掛金と10,000円の売上が記帳されるが、同時に100ドルの売掛金と100ドルの売上が記帳される必要がある。

また、多通貨取引に対応しているということは、期末や月末に外貨建て資産、負債の換算替えを行う機能があることも要求されるのが通例である。

 多制度に対応しているか?

これは、主要国の法制度や会計規則にそった処理が可能であるかどうかということである。
例えば、「主要国の付加価値税に対応した記帳ができるか」、「主要国の減価償却制度に対応した償却計算ができるか」、さらには「IFRS(国際会計基準)に対応した会計処理が保証されているか」といったことである。

以上がグローバル展開を前提とした企業に共通する選定ポイントであるが、このようなことを考えると、グローバル展開を進めている企業はグローバル企業で導入実績がある外国製のERPを選定すべきという結論になりがちである。

たしかに主要な外国製ERP製品は、グローバル展開する製造業にとって必要な諸機能を豊富に備えており、非常に魅力的である。しかし、最近では国産ERP製品でも海外拠点への導入実績が多く、かつ、機能面でも高い評価を得ている製品がそろいつつある。

本稿では個別の製品については触れないが、グローバル展開=外国製ERPといった考えにとらわれず、各製品をよく吟味する必要があろう。

 

では、中堅『製造業』を前提としたERP、どう選ぶ?

“グローバル展開”に焦点を置いた場合に共通するポイントは上記のとおりであるが、では、『製造業』に焦点を置いた場合、どのような視点が必要となるであろうか。

この場合、各企業が抱える製造業としての業務課題を個別に検討し、その課題を解決できるERPかどうかということが、選定のポイントになる。

具体的にはどのようなことが選定時や選定後に課題となるのか、製造業に焦点を絞って、筆者の経験や見聞したことを中心に事例を挙げてみる。

〈選定時や選定後に起こりうる課題事例〉

ERP製品ベンダーからは「食品製造業においても問題なく使える」との説明を受けて導入を決定したが、もともと組立製造業向けに実績のある製品であり、食品製造業向けの機能が充実していなかった。

MRP(Materials Requirements Planning:資材所要量計画)と原価管理がうまく連動していなかった。結果として、新たなERPで実現できると考えていた自社の原価管理手法が実現できないことがわかった。

海外子会社からの発注と国内の親会社の受注を自動で連動させたかったが、実現しようとすると多額のカスタマイズ費用が発生し、当初導入予算を大幅にオーバーすることが判明した。

商社から先の最終需要者ごとの販売量、単価等を管理したかったが、機能としては備わっているものの、実際の業務に適用しようとするとかなりの作業負荷が必要なことが選定後に判明した。

品目としては同じだがサイズや色などが複数ある製品の管理が効率的にできないことが選定後に判明した。その点に関して選定時にベンダーから詳しい説明がなかった。

製品グループ別、顧客グループ別、マーケット別、国別など、複数の切り口で管理会計データを取得して活用したかったが、それらの集計や分析には、別途、専用の情報分析ツールが必要であることが判明し、コスト等の面から断念した。

上記はほんの一例である。

こういった個別業務要件がERP製品で実現可能かどうかを検討する作業を『フィット&ギャップ』という。

フィット&ギャップにおいては、その前提として自社の業務をしっかりと把握して分析し、必要な機能を要件定義としてとりまとめる必要がある。それ自体難しい作業だが、さらにその要件が選定対象のERP製品にフィットするか否かを評価するのは、業務とERPの両方の知識と経験、つまり高いスキルを要する作業となる。

企業がERP導入を考えるのであれば、企業側にこのフィット&ギャップを行える人材が必要となるが、現実には中堅製造業においてそういった業務ができる人材を用意できることは稀であろう。そのため、ERP導入経験のあるシステムコンサルタントに中立の立場で選定に関与してもらい、アドバイスを受けることが有用となる。

最近では、実際にERP選定時のRFP(Request For Proposal:提案依頼書)の作成や評価について、外部コンサルタントに支援を依頼する例が多くなった。
支援を依頼するのはそれなりのコストが必要となるが、選定時の判断の誤りによって被るかもしれない大きな損失と比較すれば安いと判断する企業が多くなったのだと思われる。

 

「本来の導入目的」は何であったか?

ERPとは企業資源計画(Enterprise Resource Planning)を意味し、本来は、ERPから得られた情報を戦略的意思決定に利用し、組織の最適な資源配分を図ることを目的としている。システムとしてのERPは、その目的を遂行するための経営ツールである。

ERP選定においては、個別業務のフィット&ギャップも重要だが、ERPを経営ツールとしていかに使うか、いかに経営判断に役立てるかという視点を忘れてはならない。

ERP選定メンバーにとっては、個別業務の効率性などは比較的わかりやすい課題なのでしっかり評価するが、経営レベルの課題解決はわかりづらく、評価がおざなりになっている事例を散見する。

ERP選定においては、ERP本来の目的を忘れず、業務効率向上の視点だけでなく経営効率の向上も重要な視点として評価すべきである。

(了)

「〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!)」は、各回の担当筆者により、毎月第3週に掲載します。

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筆者紹介

  • 五島 伸二

    (ごしま・しんじ)

    公認会計士

    大学卒業後、監査法人トーマツにて会計監査、IPO支援、基幹システム構築、システム監査等に従事当。
    監査法人退所後はシステム開発会社を設立。自らも多数のシステム開発プロジェクトに参画し、SE・プログラマーとしてシステム設計、データベース設計、プログラミング等を行う。
    その後、システムコンサルティング会社に入社してSAP導入コンサルタントとして業務設計、パラメータ設定等、ERP導入の上流工程から下流工程までを担当。
    システムコンサルティング会社退社後は上場会社の経理部長に就任し決算やディスクロージャー全般を統括した。
    2010年3月にアドバ・コンサルティング株式会社を設立し代表取締役となる。

    -ITストラテジスト(情報処理技術者 高度試験)
    アドバ・コンサルティング株式会社 代表取締役
    特定非営利活動法人日本IT会計士連盟 専務理事

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