貸倒損失における税務上の取扱い 【第35回】 「法人税基本通達改正の歴史④」 公認会計士 佐藤 信祐 前回解説したように、昭和39年度税制改正により貸倒準備金制度から貸倒引当金制度に変更されるとともに、今まで個別通達で定められていた債権償却引当金については、法人税基本通達に組み込まれる形で、債権償却特別勘定に変更されることになった。 その後、昭和42年度法人税基本通達の改正により、平成10年度税制改正前までの法人税基本通達の内容とほぼ同じものが出来上がることになる。 本稿においては、昭和42年度法人税基本通達の改正内容について解説を行うものとする。 4 昭和42年度法人税基本通達の改正 昭和42年度法人税基本通達の改正に先立って、昭和41年度に公表された「税法と企業会計との調整に関する意見書(大蔵省企業会計審議会中間報告)」において、 と指摘されている。 また、それだけではなく、債権償却特別勘定の繰入れについては、 とのことである。 昭和42年度法人税基本通達の改正は、このような批判に対応したものであると言われているが、本通達の前書きを見てみると、昭和40年度税制改正から昭和42年度税制改正までの税制簡素化の一環として、貸倒処理に関する取扱いの弾力化と手続の簡素化を目的として行われたものであることが分かる。 さらに、主な改正内容として以下のものが挙げられている。 上記に掲げたもののほか、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができない場合における債権放棄については、「当事者間の協議により締結された契約で公証力のある書面によるもの」ではなく、「書面により明らか」にされたもので足りることになり(法基通78の2(4))、現行の法人税基本通達9-6-1(4)に近い形となった。 なお、「当該契約に基づく切捨てにより当該債務者に対して贈与したこととなると認められる場合において切り捨てられることとなるものを除く。」という文言については、 と解説されているため、回収可能部分について債権放棄した場合には寄附金になるという点については従前通りである。 また、特筆すべき点としては、法人税基本通達78の3において「法人の有する貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその金額が回収できないことが明らかになった場合において、法人が貸倒れとして損金経理したときは、これを認める。」と規定されるとともに、同通達78の5において、「債務者につき債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見透しがないこと。」が債権償却特別勘定の設定対象として認められることとなったという点である。 前者の貸倒損失については、従前の法人税基本通達78の3においても認められていたが、 により、現在の法人税基本通達9-6-2に近い形になった。 なお、改正前通達においては、担保物が劣後的である場合において、担保物の価額を超える部分の金額についての貸倒れの容認(法基通78の7)がなされていたが、 という趣旨により廃止された。逆に言えば、改正後通達においては、担保を処分してからでないと貸倒損失を認識することができないこととされ、現行通達においても同様に規定されているが、二番抵当権者が担保により1円も回収することができないことが明らかであれば、本通達の適用により、貸倒損失を認識することができるという結論になる。 この点については、いずれ本連載においても詳細に解説することとする。 また、後者の債権償却特別勘定については、法人税基本通達78の5を原則的な取扱いとして回収不能見込額を税務署長の認定により繰り入れを認めるとともに、同通達78の6により50%基準による繰り入れを例外的に認める形となっている。すなわち、会社更生法の規定による更生手続きの開始の決定があった場合であっても、税務署長の認定により回収不能見込額について債権償却特別勘定の繰り入れが認められるという結論になる。 同通達78の5の取扱いにつき、当時の国税庁審理課の課長補佐であった御園生均氏は、 と説明されている。この結果、税務署長の認定が必要であるという点を除けば、現行の法人税法施行令96条1項2号に掲げる「債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由により、当該金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められること」に相当するものが導入されたということができる。 なお、この取扱いの導入に伴い、改正前基本通達78の8において認められていた形式基準のうち、「業況不況のため、またはその事業につき重大な損失を受けたため、その事業を廃止し、または休業の期間が6か月に至ったとき」については削除されることとなったため、債権償却特別勘定を認識するためには、同通達78の5により、税務署長の認定を要することになった。また、認定申請書等の様式については、「債権償却特別勘定の認定事務等の取扱いについて(昭和43年1月23日付直審(法)4査調4-41)」が公表された。 このように、昭和42年度の法人税基本通達の改正により、平成10年度税制改正前の法人税基本通達の内容とほぼ同じものになった。昭和42年度の法人税基本通達の改正は、昭和42年度税制改正により導入された公正処理基準による影響を受けたものであり、貸倒損失についての法人税法上の位置付けを理解するうえで、企業会計との関係は理解しておく必要がある。 次回においては、「税法と企業会計原則との調整に関する意見書(昭和27年6月16日・経済安定本部企業会計基準審議会中間報告)」、「税法と企業会計との調整に関する意見書(昭和41年10月17日大蔵省企業会計審議会中間報告)」と法人税法22条4項に規定する公正処理基準について解説を行うこととする。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第23回】 「中小企業向けのその他の特例措置」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 平成22年4月1日((1)については平成24年4月1日)以後に開始する事業年度から、次の中小法人(資本金の額が1億円以下の法人をいう)に対する税務上の特例措置は、資本金の額が5億円以上の法人等の100%子法人等(①資本金の額が5億円以上の法人等(以下「大法人」という)による完全支配関係がある普通法人、②完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている法人をいう)には適用されなくなりました。 1 軽減税率(法法66、措法42の3の2) 法人税の税率は原則として25.5%ですが、中小法人については、平成24年4月1日から平成27年3月31日までに開始する各事業年度分の年800万円以下の所得金額に対しては、15%の軽減税率が適用されます。一方、中小法人以外の法人については、年800万円以下の所得金額に対する法人税の軽減税率の適用はなく、法人税の税率は一律25.5%となります。 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」において、平成27年4月1日以後開始事業年度から法人税率が23.9%に引き下げられる一方、当該中小法人の軽減税率の特例については、適用期限を平成29年3月31日まで2年間延長することとされています。 2 交際費等の定額控除制度(措法61の4) 法人が支出する交際費等の額は、原則として損金の額に算入されませんが、中小法人については一定額を控除することができます。平成25年4月1日以後に開始する事業年度から、定額控除限度額が年800万円に引き上げられ、800万円以下の交際等の全額損金算入が認められています。 一方、100%子法人等に該当した場合には、定額控除制度を適用することはできず、支出する交際費等の額の全額が損金不算入となります。 平成26年度税制改正で、現行の800万円の交際費等の定額控除制度について、その適用期限を平成28年3月31日まで2年延長するとともに、交際費等のうち飲食費の50%相当額を損金算入できることとされました(措法61の4①④、措規21の18の4)。したがって、中小法人においては、現行の800万円の定額控除の措置と飲食費の50%損金算入の措置のいずれかを選択適用できることになります。 3 中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)(措法42の4、42の4の2) 青色申告法人である中小法人等が試験研究費(製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する原材料費、人件費、委託費、経費をいう)を支出する場合、試験研究費の額の一定割合について、事業年度の法人税額から控除することができます。 研究開発税制では、試験研究費の総額の12%の税額控除ができる「総額型」に加え、一定の要件を満たす場合には、「増加型」か「高水準型」のいずれかを選択し「総額型」とは別枠で税額控除することができます。 また、「総額額」の税額控除の限度額は、通常は当期の法人税額の20%相当額ですが、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度においては30%相当額となります。なお、「増加型」と「高水準型」は、平成29年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます。 (※1) 比較試験研究費の額:過去3事業年度において損金に計上入される試験研究費の額の平均額をいう。 (※2) 基準試験研究費の額:過去2事業年度において損金に計上される試験研究費の額のうち最も多い額をいう。 (※3) 平均売上金額:当該事業年度を含む過去4事業年度の売上金額の平均額をいう。 (※4) 超過税額控除割合:(当該事業年度において損金に計上される試験研究費の額÷平均売上金額-10%)×0.2 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」において、総額型の試験研究費の税額控除の限度額が当期の法人税額の30%相当額から25%相当額に引き下げられることとされています。一方、特別試験研究費については、税額控除の限度額が総額型とは別枠の計算となり、当期の法人税額の5%相当額が控除できることとされています。 4 少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5、措令39の28) 青色申告法人である中小法人等が、取得価額30万円未満の減価償却資産を平成28年3月31日までに取得し事業の用に供した場合には、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。 この特例の対象となる資産は、取得価額が30万円未満の減価償却資産で、適用を受ける事業年度における取得価額の合計額300万円が限度となります。例えば、中小法人における少額の減価償却資産の損金算入に取り扱いは、次のように整理されます。 5 法人事業税の外形標準課税(地法72の2) 期末における資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人は外形標準課税の対象外となり、所得に対する事業税(所得割)のみが課税されます。一方、期末における資本金の額または出資金の額が1億円超の法人は外形標準課税の対象となり、赤字の場合でも報酬給与額・純支払利子・純支払賃借料等の付加価値等と資本金等の額に対する事業税(付加価値割・資本割)が課税されます また、東京都では超過課税を適用していますが、資本金の額が1億円以下の法人と1億円超の法人での法人事業税の税率は、次のようになります。一方、地方法人特別税額の申告は、標準税率により算定した基準法人所得割額が課税標準額となります。 なお、平成26年12月30日に公表された「平成27年度税制改正大綱」では、外形標準課税は従前とおり資本金の額が1億円超の法人に限って対象とされていますが、平成28年度以降も適用対象法人の拡大等、さらなる課税ベースの拡大等が検討されています。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第13回】 「有価証券の評価」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、有価証券の評価について解説する。具体的には、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券の評価を解説する。 なお、売買目的有価証券、外貨建有価証券、種類株式の評価は、本フロー・チャートでは解説していない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 満期保有目的の債券(満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券)の評価は、通常時の評価(減損が必要でない場合の評価)、減損の順に検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 通常時の評価 満期保有目的の債券は、原則として、取得原価をもって貸借対照表価額とする(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準(以下、「基準」という)」16)。 ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならない(基準16)。 したがって、時価のある債券であっても、時価評価することはない。 償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいう。この加減額は、受取利息又は支払利息で計上する(基準注5)。 また、償却原価法には、利息法と定額法の2つの方法がある。原則として利息法によるものとされているが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができる(会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針(以下、「実務指針」という)」70)。 《設例1》 【前提条件】 【会計処理】 【X1年4月1日】 【X2年3月31日】 (※1) 利息配分額 (※2) クーポン受取額 (※3) 利息配分額-クーポン受取額 クーポン受取額=額面10,000×2% 利息配分額=直前帳簿価額×実効利子率 実効利子率の算定 (2) 減損 減損とは、著しい時価(又は実質価額)の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合に、時価(実質価額)と貸借対照表価額の差額を当期の損失として処理することである(基準20、21、実務指針91、92)。 満期保有目的の債券の減損においては、「時価のある満期保有目的の債券」と「時価を把握することが極めて困難と認められる債券」に分けて検討する。 なお、減損処理を行った満期保有目的の債券については、取得差額はもはや金利調整差額とは考えられないため、減損後は、償却原価法は適用しない(金融商品会計に関するQ&A (以下、「Q&A」という)Q25)。 ① 時価のある満期保有目的の債券の減損 時価のある満期保有目的の債券において、著しい時価の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合には、減損処理を行う必要がある。そのため、著しい時価の下落に該当するか否かの判断が必要となる。具体的には、(ⅰ)50%程度以上の下落、(ⅱ)30%以上50%未満の下落、(ⅲ)30%未満の下落に分けて判断することになる。 (ⅰ) 50%程度以上の時価の下落がある場合 個々の銘柄の満期保有目的の債券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、時価が「著しく下落した」ときに該当する。この場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない(実務指針91)。 時価が50%程度以上下落した場合には、通常、合理的な反証を行うことはできず、減損処理することが多いと考えられる。 (ⅱ) 30%以上50%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%以上50%未満であっても、状況によっては時価の回復可能性がないとして減損処理が必要な場合があることから、時価の著しい下落があったものとして、回復可能性の判定の対象とされることがある。この場合、時価の著しい下落率についての固定的な数値基準を定めることはできないため、状況に応じて個々の企業において時価が「著しく下落した」と判定するための合理的な基準を設け、回復可能性がない場合には、減損処理をする(実務指針284)。 したがって、各社で、状況に応じて50%未満の時価の下落における、著しい時価の下落の合理的な基準を設定(例えば、2期連続して時価が30%以上低下している場合等)し、毎期、減損処理が必要かどうかを判断する必要がある。 (ⅲ) 30%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないと考えられるため、減損処理は不要である(実務指針91)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められる満期保有目的の債券の減損 時価を把握することが極めて困難と認められる満期保有目的の債券の貸借対照表価額は、債権の貸借対照表価額に準ずるとされている(基準19(1))。したがって、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて信用リスクに応じた償還不能見積高を算定し、会計処理を行う。また、償還不能見積高の算定は、原則として、個別の債券ごとに行う(実務指針93)。 償還不能額がなければ、貸借対照表価額は当然に(1)通常の評価の場合と同額になる。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 子会社株式及び関連会社株式(以下、「子会社株式等」という)の評価は、時価のある子会社株式等と時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等で検討方法が異なるので、まず時価の有無を検討する。その後に、時価及び実質価額の低下の程度を検討し、さらに、通常時の評価、減損、投資損失引当金について検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 時価の有無 時価の有無により、この後の検討過程が異なる。そのため、時価のある子会社株式等の場合、「(2) 時価の著しい低下の有無」を検討する。時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等の場合、「(4) 実質価額の著しい低下の有無」を検討する。 (2) 時価の著しい低下の有無 時価のある子会社株式等で、時価の著しい低下(【STEP1】(2)①(ⅰ)~(ⅲ)参照)がある場合、減損が必要かどうかの検討が必要となるため、(7)①を検討する。時価の著しい低下がない場合は、(3)を検討する。 (3) 時価のある程度以上の下落の有無 時価が著しく低下していないが、ある程度以上下落している場合、健全性の観点から時価の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上することができる(監査委員会報告第71号「子会社株式等に対する投資損失引当金に係る監査上の取扱い(以下、「取扱い」という)」3.(1)、2.(2))。 時価がある程度以上下落している場合、投資損失引当金の計上の検討が必要となるため、(8)①を検討する。時価がある程度下落していない場合は、(6)を検討する。 なお、「ある程度以上の下落」の水準は「取扱い」で明らかになっていないため、各社で設定する必要がある。 (4) 実質価額の著しい低下の有無 実質価額とは、原則として、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額をいう。 そして、実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下している場合、実質価額が著しく低下している状態である(実務指針92)。 実質価額が著しく低下している場合、(7)②を検討する。実質価額が著しく低下していない場合、(5)を検討する。 (5) 実質価額のある程度の低下の有無 実質価額は著しく低下していないが、ある程度低下している場合、健全性の観点から実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上することができる(取扱い2.(1)①、(2))。 実質価額がある程度低下している場合、投資損失引当金の計上の検討が必要となるため、(8)①を検討する。実質価額がある程度低下していない場合は、(6)を検討する。 なお、「ある程度の低下」の水準は「取扱い」で明らかになっていないため、各社で設定する必要がある。 (6) 通常時の評価 減損処理が必要ではない子会社株式等は、取得原価をもって貸借対照表価額とする(基準17)。 (7) 減損 減損の検討は、時価のある子会社株式等と時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等で検討過程が異なる。 ① 時価のある子会社株式等の減損 時価のある子会社株式等における減損の検討は、時価のある満期保有目的の債券(【STEP1】(2)①参照)と同様である。 時価のある子会社株式等において、著しい時価の下落があり、かつ、回復可能性が認められない場合には、減損処理を行う必要があるため、著しい時価の下落に該当するか否かの判断が必要となる。具体的には、(ⅰ)50%程度以上の下落、(ⅱ)30%以上50%未満の下落、(ⅲ)30%未満の下落に分けて判断することになる。 (ⅰ) 50%程度以上の時価の下落がある場合 個々の銘柄の子会社株式等の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、時価が著しく下落したときに該当する。この場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない(実務指針91)。 時価が50%程度以上下落した場合には、通常、合理的な反証を行うことはできず、減損処理することが多いと考えられる。 (ⅱ) 30%以上50%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%以上50%未満であっても、状況によっては時価の回復可能性がないとして減損処理が必要な場合があることから、時価の著しい下落があったものとして、回復可能性の判定の対象とされることがある。この場合、時価の著しい下落率についての固定的な数値基準を定めることはできないため、状況に応じて個々の企業において時価が「著しく下落した」と判定するための合理的な基準を設け、回復可能性がない場合には、減損処理をする(実務指針284)。 したがって、各社で、状況に応じて50%未満の時価の下落における、著しい時価の下落の合理的な基準を設定(例えば、2期連続して時価が30%以上低下している場合等)し、毎期、減損処理が必要かどうかを判断する必要がある。 (ⅲ) 30%未満の時価の下落がある場合 時価の下落率が30%未満の場合には、一般的には「著しく下落した」ときに該当しないと考えられるため、減損処理は不要である(実務指針91)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等の減損 時価を把握することが極めて困難と認められる子会社株式等は、子会社等の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、減損処理を行う。ただし、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないことも認められる。(実務指針92)。 したがって、(ⅰ)財状状態の悪化の判定、(ⅱ)実質価額の著しい低下の判定、(ⅲ)減損の判定を検討する必要がある。 (ⅰ) 財政状態の悪化の判定 財政状態とは、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいう。「財政状態の悪化」とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいう(実務指針92)。 「相当程度下回っている」とは、どの程度かが基準等で定められていないため、各社で相当程度下回っている場合を決定する必要がある。 なお、財政状態の悪化がなくても、減損処理が必要な場合(下記(ⅲ)参照)があるため、財政状態の悪化の有無にかかわらず、下記(ⅱ)、(ⅲ)実質価額の著しい低下を検討する必要がある。 (ⅱ) 実質価額の著しい低下の判定 上記(4)より、すでに実質価額の著しい低下があると判定されているため、ここで改めて判定する必要はない。 (ⅲ) 減損の判定 上記(ⅰ)、(ⅱ)より、財政状態の悪化により実質価額が著しく低下している場合には、減損処理を行う。なお、子会社等の実質ベースの財務諸表や事業計画等を入手し、回復可能性(取得原価までの回復)が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないこともできる(Q&A Q33、実務指針92)。減損処理をしない場合は、(8)②を検討する。 また、財政状態の悪化がなくても、以下のような場合、実質価額の著しい低下のみで減損処理を行う。 企業買収においては、会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがある。その後、超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがある。このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がないとしても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならない(Q&A Q33)。 (8) 投資損失引当金 投資損失引当金の検討は、実質価額の低下の程度により分けて検討する。時価のある子会社株式等の場合は、ある程度以上低下している場合のみ検討する。 ① 時価又は実質価額がある程度低下している場合の投資損失引当金 時価又は実質価額がある程度低下している場合、健全性の観点から実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上する必要があるかどうかを検討する(取扱い2.(1)①、(2)、3.(1))。 ② 実質価額が著しく低下している場合の投資損失引当金 実質価額が著しく低下しているが、回復可能性が見込めるとして減損処理を行っていない場合、回復可能性の判断はあくまでも将来の予測に基づいて行われるものであり、その回復可能性の判断を万全に行うことは実務上困難なときがある。そのため、健全性の観点からこのリスクに備えて、実質価額の低下に相当する金額を投資損失引当金として計上する必要があるかどうかを検討する(取扱い2.(1)①、(2))。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) その他有価証券は売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券をいう。そのため、その他有価証券には、株式のみならず、債券、証券投資信託等も含まれる。 時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で検討方法が異なるので、まず時価の有無を検討する必要がある。その後に、時価及び実質価額の低下の程度を検討し、さらに、通常時の評価と減損に分けて検討する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 時価の有無 時価の有無により、この後の検討過程が異なる。そのため、時価のあるその他有価証券の場合、「(2) 時価の著しい低下の有無」を検討する。時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の場合、「(3) 実質価額の著しい低下の有無」を検討する。 (2) 時価の著しい低下の有無 時価のあるその他有価証券で、時価の著しい低下(【STEP1】(2)①(ⅰ)(ⅱ)(ⅲ)参照)がある場合、減損が必要かどうかの検討が必要となるため、(5)①を検討する。時価の著しい低下がない場合は、(4)①を検討する。 (3) 実質価額の著しい低下の有無 実質価額が著しく低下している場合(【STEP2】(4)参照)、(5)②を検討する。実質価額が著しく低下していない場合、(4)②を検討する。 (4) 通常時の評価 時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で通常時の評価方法も異なる。 ① 時価のあるその他有価証券の通常時の評価 時価のあるその他有価証券は、時価をもって貸借対照表価額とする。時価と取得価額の差額である評価差額は、全部純資産直入法又は部分純資産直入法のいずれかの方法により、税効果を考慮の上、貸借対照表に「その他有価証券評価差額金」として計上する。 また、期末に計上した「その他有価証券評価差額金」は翌期首に税効果も含めて、洗い替え処理する(基準18、実務指針73)。 原則は、全部純資産直入法であるが、継続適用を条件として部分純資産直入法を適用することもできる。また、株式、債券等の有価証券の種類ごとに両方法を区分して適用することも認められる(実務指針73)。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の通常時の評価 株式や証券投資信託等の場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする(基準19(2))。 また、債券の場合も原則として、取得原価をもって貸借対照表価額とする。ただし、債券を債券金額より低い価額又は高い価額で取得した場合において、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とする(基準16、19(1))。 (5) 減損 減損の検討は、時価のあるその他有価証券と時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券で検討過程が異なる。 ① 時価のあるその他有価証券の減損 時価のあるその他有価証券における減損の検討は、時価のある満期保有目的の債券(【STEP1】(2)①参照)や子会社株式等(【STEP2】(7)①参照)と同様である。 ② 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の減損 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券の場合、債券と株式でその検討過程が異なる。 (ⅰ) 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(株式)の減損 時価を把握することが極めて困難なその他有価証券(株式)は、株式発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、減損処理を行う。ただし、時価を把握することが極めて困難と認められる株式の実質価額について、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、減損処理をしないことも認められる(実務指針92)。 したがって、(イ)財状状態の悪化、(ロ)実質価額の著しい低下、(ハ)減損の判定を検討する必要がある。 (イ) 財政状態の悪化の判定 財政状態とは、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいう。「財政状態の悪化」とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいう(実務指針92)。 「相当程度下回っている」とは、どの程度かが基準等で定められていないため、各社で相当程度下回っている場合を決定する必要がある。 なお、財政状態の悪化がなくても、減損処理が必要な場合(下記(ハ)参照)があるため、財政状態が悪化しているか否かにかかわらず、下記(ロ)、(ハ)を検討する必要がある。 (ロ) 実質価額の著しい低下の判定 上記(3)より、すでに実質価額の著しい低下があると判定されているため、ここで改めて判定する必要はない。 (ハ) 減損の判定 上記(イ)、(ロ)より、財政状態の悪化により実質価額が著しく低下している場合には、減損処理を行う。なお、特定のプロジェクトのために設立された会社で、中長期の事業計画等を入手することが可能な場合、当該事業計画等において、開業当初の累積損失が一定期間経過後に解消されることが合理的に見込まれており、かつ、その後の業績が当該事業計画等を大幅に下回っていなければ、当該会社の株式の実質価額の下落は恒久的なものではないとして、減損処理の対象としないことができる。(Q&A Q33、実務指針92)。 また、財政状態の悪化がなくても、以下のような場合、実質価額の著しい低下のみで減損処理を行う。 会社の超過収益力や経営権等を反映して、財務諸表から得られる1株当たり純資産額に比べて相当高い価額で当該会社の株式を取得することがある。その後、超過収益力等が減少したために実質価額が大幅に低下することがある。このような場合には、たとえ発行会社の財政状態の悪化がないとしても、将来の期間にわたってその状態が続くと予想され、超過収益力が見込めなくなった場合には、実質価額が取得原価の50%程度を下回っている限り、減損処理をしなければならない(Q&A Q33)。 (ⅱ) 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(債券)の減損 時価を把握することが極めて困難と認められるその他有価証券(債券)の減損の検討は、【STEP1】(2)②と同様に、償却原価法を適用した上で、債権の貸倒見積高の算定方法に準じて信用リスクに応じた償還不能見積高を算定し、会計処理を行う。また、償還不能見積高の算定は、原則として、個別の債券ごとに行う(実務指針93)。 償還不能額がなければ、貸借対照表価額は当然に(4)②また書きの場合と同額になる。 * * * 以上、3つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
J-SOXの経験に学ぶ マイナンバー制度対応のイロハ 【第2回】 「プロセスで理解するマイナンバー制度の保護措置」 公認会計士 金子 彰良 ◆はじめに 第1回では、マイナンバー制度への対応は、コンプライアンスに焦点をあてた内部統制の構築作業であると述べた。そのため、内部統制が「存在し、かつ機能している」状態を作らなければならない。 一見すると経営管理のしくみをゼロから構築するイメージがあるが、実は、マイナンバー制度への対応は、従来から企業に存在する業務プロセスに個人番号関連の事務を付加することによって構築する。すなわち、マイナンバー制度への対応にあたって業務プロセスを全く新規に構築する必要はない。 また、関連事務が付加される業務プロセスの数は、その性質から5つに集約される。したがって、これら付加される関連事務を具体的にどのように既存業務に取り込むかを検討すればよい。 第2回では、マイナンバー制度対応に伴い関連事務が付加される5つの業務プロセスとガイドラインにおける保護措置を整理する。これによって、全体を鳥瞰する眼を持つとともに、具体的な安全管理措置を検討する準備としたい。 ◆マイナンバー制度で関連事務が付加される業務を鳥瞰する(プロセスマップ) ▷マイナンバー制度対応のための業務構築は、5つの業務に焦点をあてる 新しく公表される法令やその取り組みに当たっての指針を示すガイドラインなどは、その性質から文字による情報が多い。 また、条文は必ずしも業務の順序と同じではなく、また体系立てて説明される形になっていないため、これらは読み込まないと全体が頭に入らない。 番号法に基づくガイドラインも同じである。 このようなとき、ガイドラインを読むために全体を鳥瞰した絵があると理解しやすくなる。 〇5つの管理段階=関連事務が新たに付加される業務プロセスとは ガイドラインの「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置(事業者編)」(以下「別添資料」という)では、事務の流れを整理し、特定個人情報等の具体的な取扱いを定める取扱規程等を策定しなければならないとしている。 その上で、手法の例示として、次の5つの管理段階ごとに特定個人情報等の具体的な取扱いを定めることが記載されている。 これらの各管理段階は、マイナンバー制度によって個人番号関連の事務が新たに付加された業務プロセスを表す。したがって、安全管理措置の構築に際しては、制度対応が必要となるこれらの業務プロセスに焦点をあてて、関連事務を既存業務に具体的にどのように取り込むかを検討することになる。 ▷関連事務が付加される業務をプロセスマップで表現し、頭の中にマイナンバー制度を鳥瞰するための地図をつくる 個人番号関連の取扱事務において、それぞれの管理段階の関係を考慮し、全体を1枚のプロセスマップとして表現すると図表2-1のようになる。なお、「③保存する段階」については、必要な時にはすぐに取り出せる意味を含め「保管」としている。 図表2-1 プロセスマップ(5つの管理段階) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 実務上はもう一段階レベルを下げたイベントごとの業務プロセス(例えば、入社や退社、休職や復職、組織異動など)別に手続を規定するが、その前にこの5つの業務プロセスを制約するガイドライン上の考え方をまず理解しなければならない。 ▷ガイドラインにおける保護措置は、プロセスマップに位置づけると理解しやすい 個人番号は、当面、社会保障、税及び災害対策の分野において利用されるものであるが、個人番号が漏えいした場合など、個人の権利や利益を侵害する恐れがある。そのため、番号法では、特定個人情報について個人情報保護法よりも厳格な各種保護措置を設けている。 保護措置は、大別すると①特定個人情報の利用制限、②特定個人情報の安全管理措置、③特定個人情報の提供制限等の3つに分類されるが、事業者にとって、いつ、どのような保護措置が適用されるのか把握しなければならない。 そこで、以下では、5つの業務プロセスが各保護措置とどのような関係にあるのかを整理している。 まず、①特定個人情報の利用制限、③特定個人情報の提供制限等について確認をする。この2つは、以下のように、個々の業務プロセスと関連づけることができる。 〇取得 個人番号の取得にあたっては、いつでも取得できるわけではなく、個人番号関係事務を処理するために必要がある場合に限って、本人などに対して個人番号の提供を求めることができる(個人番号の提供の要求)。 また、個人番号の取得目的は限定されており、番号法で限定的に明記された場合を除いて、個人番号の提供を求めることはできない(個人番号の提供の求めの制限)。 さらには、個人番号を含む特定個人情報について、番号法で限定的に明記された場合を除いて、集める意思を持って自己の占有に置いてはならない(収集制限)。 なお、事業者は本人から個人番号の提供を受けるときは、個人番号カードの提示等、番号法で認められた方法で本人確認を行う義務がある。 図表2-2 取得 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇保管 特定個人情報は、番号法で限定的に明記された場合を除いて保管してはいけない(保管制限)。なお、特定個人情報等は、企業によってシステムのデータベースであったり、紙のファイルであったりする。 図表2-3 保管 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇利用 事業者が個人番号を利用できる事務は、番号法によって限定的に定められている(個人番号の利用制限)。また、事業者は個人番号関係事務を処理するために必要な範囲を超えて、特定個人情報ファイルを作成することはできない(特定個人情報ファイルの作成の制限)。 図表2-4 利用 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇提供 事業者は番号法で限定的に明記された場合を除いて、特定個人情報を提供してはいけない(特定個人情報の提供制限)。現時点(2015/1/29)では、社会保障及び税に関する手続書類に従業員等の個人番号を記載して行政機関等及び健康保険組合等に提出する場合が該当する。 図表2-5 提供 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〇削除・廃棄 個人番号関係事務を処理する必要がなくなった場合で、所管法令において定められている保存期間を経過した場合には、個人番号をできるだけ速やかに廃棄又は削除しなければならない(廃棄)。 図表2-6 廃棄・削除 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 次に、残った②特定個人情報の安全管理措置であるが、これはすべての業務プロセスに関連する。 〇安全管理措置 個人番号及び特定個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止等のために、必要かつ適切な安全管理措置を講じなければならない。別添資料では、安全管理措置の検討手順として、個人番号を取り扱う事務の範囲と特定個人情報等の範囲及び事務取扱担当者を明確にした上で、基本方針の策定と取扱管理規程等の策定をするとしている。 また、取扱管理規程等では、業務プロセス(各管理段階)ごとの具体的な取扱い事項を定めるにあたって、安全管理措置の具体的な内容として「組織的安全管理措置」「人的安全管理措置」「物理的安全管理措置」「技術的安全管理措置」の4つを織り込むことが重要としている。 図表2-7 安全管理措置 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 なお、ガイドラインでは委託の取扱いについて記載しており、個人番号関係事務の委託にあたっては、安全管理措置は事業者自らが講じた上で、委託先にもその措置を求めるというのが基本的な考え方となっている。 〇安全管理措置(委託の取扱い) 個人番号関係事務の全部又は一部の委託者は、委託先において、番号法に基づき委託者自らが果たすべき安全管理措置と同等の措置が講じられるように必要かつ適切な監督を行わなければならない。 図表2-8 安全管理措置(委託の取扱い) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以上のように、プロセスマップと関連する保護措置を整理することで、ガイドラインや別添資料で記載されている内容が、どのプロセスの話をしているのか、または、プロセス共通の全体の話をしているのかなど理解しやすくなる。いわば、ガイドライン等を読む際に、頭の中にマイナンバー制度の地図を持つことができる。 * * * 次回は、マイナンバー制度に対応したコンプライアンス体制構築のアプローチを解説する。その中で、企業にとっては気になるであろう安全管理措置の検討において策定する基本方針と取扱規程等が、どの程度整備されればよいかを検討する際の考え方も解説したい。 (了)
《編集部レポート》 日本公認会計士協会東京会、メディア懇談会を開催 ~会計教育や中小企業支援等の取組みを説明 Profession Journal 編集部 日本公認会計士協会東京会は平成27年1月23日(金)、明治記念館において同会の新年賀詞交歓会開催後、報道陣とのメディア懇談会を開催した。 会の冒頭、柳澤義一会長より、2月上旬から一部交通施設内で展開される公認会計士のPR看板について、坂本龍馬が手紙に記した「これより天下のことを知る時は、会計もっとも大事なり。」という言葉を用い、“龍馬と会計”という意外な組み合わせで会計の大切さを伝えたいとの趣旨説明が行われた。 続いて峯岸芳幸業務部担当副会長より、東京会と東京弁護士会中小企業法律支援センターとの中小企業支援に関する活動状況について説明があった。 報道陣より公認会計士が法律業務に関する取組みを行うことについて質問があったが、中小企業は弁護士との接点が少ないため、会計事務所として日常から企業支援を行っている公認会計士がそのつながりとなる役割を果たしたい旨、説明があった。 前原一彦広報部担当副会長からは、東京弁護士会との共催企画である会計教育・法教育イベント「スプリングスクール2015~会計と裁判を体験しよう~」における「ハロー!会計」の取組みについて、さらに東京会の紹介とこの取組みに関するテレビ番組企画(TOKYO MXテレビ放映)についての説明があった。 なお、上記のイベント「ハロー!会計」は中学1~2年生を対象とし、ビジネスゲームを通じて会計の基本的な考え方を学んだり、株式会社の仕組みや監査の必要性について学ぶことができるもので、3月15日(日)、公認会計士会館地下1階ホールにて開催される(東京会のホームページより参加申込みが可能)。 (了)
最新!《助成金》情報 【第9回】 「雇用関連助成金の活用(その9) 《建設労働者確保育成助成金(前編)》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 建設労働者確保育成助成金の目的 この助成金は、建設労働者の雇用改善や技能向上を行う中小建設事業主を助成することで、中小建設企業における若年労働者の確保育成と技能伝承を図りながら建設労働者の雇用を安定させることが目的であり、次の12種類のコースがある。 建設労働者確保育成助成金の対象となる 中小建設事業主・中小建設事業主団体 【対象となる中小建設事業主】 この助成金の対象となる中小建設事業主とは、資本金3億円以下または常用労働者数300人以下で建設労働者を雇用して建設業を行う事業主をいう。また、コースごとに対象となる事業主や事業所が異なるため、事前に確認する必要がある。 【対象となる中小建設事業主団体】 この助成金の対象となる中小建設事業主団体とは、構成員の3分の2以上が中小建設事業主である建設事業主団体をいう。 1 対象事業主 この助成金は、認定訓練を実施する事業主を助成することで、建設労働者の技能を向上させ雇用の安定を図ることを目的とする。 対象となるのは、経費助成では中小建設事業主又は中小建設事業主団体となり、賃金助成では中小建設事業主となる。 2 実施する訓練の要件 この助成金の対象となる訓練とは、職業能力開発促進法により都道府県知事から認定を受けた広域団体認定訓練助成金又は認定訓練助成事業費補助金の交付を受けている認定職業訓練を行うことであり、賃金助成を受けるにはさらに有給で認定職業訓練を受講させることである。 3 支給額 受講した建設労働者1人につき訓練の種類に応じて下表の単価に受講月数、コース数又は単位数に乗じた額が支給される。 【経費助成】 【賃金助成】 認定訓練を受講した建設労働者1人1日当たり5,000円 4 手続の流れ 5 活用のポイント 建設事業の中でも特に中小企業では、若年者を中心とした人材確保に大きな支障が生じているが、充実した職業訓練制度を整えることにより建設業の初心者にとっては応募に対する心配が低減する効果が期待でき、また、技能士資格や管理監督者などの訓練があれば資格取得や能力向上できることが魅力的にもなるため、人材確保に苦労している中小建設事業主にとってこの助成金はかなり有効である。 1 対象事業主 この助成金は、雇用する建設労働者に対して技能向上のための技能実習を有給で実施する中小建設事業主を助成することで、建設労働者の技能向上と中小建設事業全体の技術レベルを向上させて雇用の安定を図ることを目的としており、対象となるのは経費助成では中小建設事業主又は中小建設事業主団体となり、賃金助成では中小建設事業主となる。 2 実施する訓練の要件 雇用する建設労働者に、登録教習機関などで技能向上のための一定の技能実習を実施することであり、賃金助成を受けるにはさらに有給で技能実習を受けさせる必要がある。 3 支給額 [Ⅲ] 技能実習コース(経費助成) 登録教習機関などで実施された技能実習に要した経費の9割が支給される。指定教育訓練実施者に委託した場合は経費の8割が支給される。ただし、1つの技能実習について1人当たり20万円を上限とする。なお、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)については経費の10割が支給される。 [Ⅳ] 技能実習コース(賃金助成) 有給で技能実習を受講した建設労働者1人1日当たり8,000円が支給される。ただし、1つの技能実習につきに20日分以上を上限とする。 4 手続の流れ 5 活用のポイント 専門の教育機関などによる技能教育は、実践的で職務上の技術や能力の向上、労働災害の防止にも有効であり、社員の能力技能の向上に伴い雇用する中小建設事業全体の技術レベルの向上も期待できる。また、多種ある建設作業に応じた法定の特別教育や技能訓練などを受講できれば担当させられる作業の種類も拡大するため、中小建設事業主にとってこの助成金の活用はかなり有効である。 1 目的 この助成金は、評価・処遇改善、研修体系制度、健康づくり制度などの雇用管理を改善する制度を導入・適用する中小建設事業主を助成することで、労働者の確保育成と雇用の安定を図ることを目的とする。 対象となるのは中小建設事業主となるが、計画期間の6ヶ月前の日から支給申請日までに解雇(勧奨退職含む)していないか、特定受給資格者を6%以上(3人以下を除く)発生させていないことが必要となる。 2 雇用管理制度の要件 (1) 評価・処遇制度 次のすべてに該当する制度。 (2) 研修体系制度 次のすべてに該当する制度。 (3) 健康づくり制度 次のすべてに該当する制度。 3 支給額 4 手続の流れ * * * [Ⅵ]~[Ⅻ]は次週(2015/2/5)公開の【第10回】で紹介する。 (了)
〔2015年からできる!〕 企業が行うマイナンバー制度への実務対応 【第4回】 (最終回) 「対応を進めるにあたっての留意点(まとめ)」 仰星監査法人 公認会計士 岡田 健司 前回は、マイナンバー制度への実務対応の全体像並びにその進め方について、大きく2つの段階に分けて対応する点を解説した。 このシリーズ最終回となる本稿では、前回までの解説内容を踏まえたうえで、個々のフェーズにおいて、実際にどのようなポイントや留意事項があるのかという点について解説したい。 1 実務対応の全体像とその進め方の概要 前回解説したとおり、実務対応の進め方の手順としては、概ね次のような手順を経る。 また、第2段階の個々の業務における業務の見直しとしては、具体的に大別すると、 をいう。 それでは、これら個々のフェーズにおける論点の洗い出しを行い、実際に対応を行うにあたってのポイントや留意点について解説する。 2 第1段階(特定作業)のポイントと留意点 留意点としては、いかに漏れなく正確に特定するか、である。 関連する法令等の原文からあたっていくことも一案ではあるが、効率的に進めるためにも前回紹介した資料等を参考にして、漏れなく正確に把握することに取り組まれたい。 また、進めるにあたっては、第2回で解説した重要な“3つの考え方”のうち、「個人番号の“目的外入手”の排除」と「個人番号の“目的外提供・目的外出力”の排除」を念頭に進めたい。 そのためのポイントであるが、 などが挙げられる。 特に、人事給与システムあるいは会計システムについて自社製作しているような場合には、法定調書等の把握が漏れやすく、この漏れが次の第2段階における作業効率に影響があることから、留意したい。 また、第2段階の業務の見直しを踏まえると、当該法定調書等について、個人番号の入手相手が誰か、本人確認の対象者であるかどうか、当該法定調書等の2次提供(※1)の有無、提出先、提出時期・提出頻度(※2)、保管期間、システム出力か否かなどを併せて把握できるような形式でとりまとめを行っておくとよい。 (※1) 例えば、源泉徴収票は本来的な作成目的である、年末調整目的、市町村報告目的、確定申告目的など以外に、従業員が個人的に住宅ローンの審査目的で金融機関等に提出することも想定される。前者を本来的な提供「1次提供」とし、後者を「2次提供」と称している。なお、ここで「本来的」としたのは、行政事務の遂行目的、あるいは、個人番号関係事務の遂行目的でという意味である。2次提供の有無を把握しなければならないのは、この場合には個人番号の提供は認められないことから、マスキング処理や個人番号をそもそも出力しないようなシステム処理を施す必要があるためである。 (※2) 提出時期や提出頻度の把握は、例えば、上場会社が内部統制報告制度への対応にあたって統制頻度を考慮するのにも役立つものと思われる。 参考として、以下にこれらの把握に資するような様式のサンプル例を示しておく。なお、実務の参考に提供するものであり、サンプルで示した様式が実務対応にあたって必要な情報のすべてを網羅したものではない点を付言しておく。 【特定作業に使用するサンプル様式】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 上記のサンプル様式では、仮に「業務カテゴリ」として区分したが、企業内におけるどの業務に関する帳票かも特定しておくことで、第2段階の業務見直しにおいて、どの業務に影響があるのかの把握につながる。また、提出先を把握しておくことで、当該帳票の入手や提出にあたっての留意点や、本人確認資料(身元確認資料)(※3)の具体的な内容等を照会しやすくなると思われる。 (※3) 原則的には、本人確認は個人番号カードあるいは個人番号の通知カードと運転免許証等の組み合わせによることとされているが、これらによることができない場合には、基本的には提出先の行政機関等(個人番号利用事務実施者)が適当と認める方法によることとされている。 3 第2段階(業務の見直し)のポイントと留意点 (1) 業務フローや業務組織の見直しにあたって 見直しにあたってポイントとなる考えは、 及び である。 実務的には、業務フローは前回(第3回)で掲載したとおり、個人番号が記載される法定調書等(※4)に関連する業務について、番号法施行前後のフローチャートを対比する形で比較すると、業務の見直しが必要な点を特定でき、対応が図りやすくなると思われる。これらの可視化は、内部統制報告制度への対応が必要となる上場会社では特に必要であると考えられる。 (※4) 繰り返しとなるが、これが一般的には「特定個人情報」と呼称される。 業務フローや組織全体の見直しに際し、業務としてこれまで一般の事業会社になかったものが「(番号確認を含む)本人確認」である。 そこで、論点としては、いかに「本人確認」という業務を企業内の関係する部署において定着・浸透させるか、という点が挙げられる。 本人確認とは、名称のとおり、提示を受けた個人番号が確かにその本人のものであることを証明するために、個人番号とその本人とを結びつける作業である。 その原則的な方法には、既述のとおり、個人番号カードによる方法と、個人番号の通知カードと運転免許証等の組み合わせによる方法とがあり、下図がこれらを概念的に示したものである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 つまり、個人番号の提示を受けるその本人からこれらの書類の提示を受け、個人番号が確かにその本人のものであることを確かめる一連の作業が本人確認である。本人から個人番号の提示を受ける場合、その都度本人確認が必要となる点については原則論として理解しておきたい。 本人確認の方法については以下の内閣官房ホームページにおいて示されているものの、当該資料は民間の事業会社だけでなく、行政機関等が本人確認を行う場合も念頭に置いて作成されていることから、資料としては網羅的ではあるが非常にわかりくにいものとなっている。 代理人を通じた方法も含め本人確認の詳細については別の機会において詳しく解説することとしたい。本誌読者におかれては、上記に紹介した2つの方法のいずれかを原則的な方法とすれば制度導入当初は特段の問題は生じないと考えられることから、これらの方法を原則的な方法とするよう業務の整備を進めていただければよいと考える。 また、ガイドラインを踏まえた業務組織の構築という点については、ガイドラインの例示を引用すれば、 特定個人情報の取扱い事務に従事する事務取扱担当者を明確にすること 情報漏えい等の事案が発生した場合等において従業員から責任者等への報告連絡体制を構築すること 特定個人情報を複数の部署で取り扱う場合において各部署の任務分担及び責任を明確化すること 特定個人情報等の取扱いに関する留意事項等について従業員に定期的に研修等を行うこと などが挙げられている。 つまりは、特定個人情報は極めて重大な個人情報であることから、取扱部署を限定するとともに、情報漏えい等が起こらないように相互のチェック体制・特定個人情報等の管理体制を充実させよ、ということである。 (2) 規程や社内マニュアル等の改訂 上記の業務フローや業務組織の見直しに伴い、就業規則(※5)、職務分掌規程(※6)、組織規程等の改訂、並びに特定個人情報取扱規程等の策定が必要になると考えられる。 (※5) 特定個人情報等についての秘密保持に関する事項、入社時に関係する個人番号を提示することなどを就業規則に織り込むことが考えられる。 (※6) 上記(1)の業務組織の構築、相互のチェック体制・特定個人情報等の管理体制の充実の要請を受け見直しすることになると思われる(組織規程についても同様)。 また、新たに業務として追加になる本人確認については、番号法が要求する一定の水準で適切に本人確認を行うためにも社内マニュアル等の策定が必要になると考えられる。総務人事にかかる業務マニュアルやシステム利用マニュアル等を社内で策定している場合も同様に改訂のための見直しが必要になると考えられる。 本人確認を行うための社内マニュアルについては、本人確認は概ねどの企業においても同じ方法を採ると思われることから、先例に倣うという方法も考えられること、今後も関係する行政機関等(個人番号利用事務実施者)から通知等という形で必要な情報提供を受けられるものと考えられる。実務的に悩ましいのは、企業の事業や組織形態に応じて新たに策定が求められる特定個人情報取扱規程等の策定である。 ガイドラインによれば、「取扱規程等」とは、特定個人情報が関係する個々の事務において事務の流れを整理し、特定個人情報等の具体的な取扱いを定めるもの、と規定されているが、文言どおり解して個々の事務ごとに規定するとなれば、膨大な量の規程となるばかりか、制定後個々の事務の見直しごとに改訂が必要という状況となる。 そこで、特定個人情報等の全般的な取扱いを定める規程として取扱規程を定め、個々の事務に関する規定については既存の規程やマニュアル等を改訂のうえ参照するように取扱規程において定めることが実務的であると考えられる。 この点も踏まえて、ガイドラインのQ&Aにおいては、新たに特定個人情報の保護に係る取扱規程等を作成するのではなく、既存の個人情報の保護に係る取扱規定等を見直し、特定個人情報の取扱いを追記する形でもよいとされている(Q13-1参照)。 (3) 関係する情報システム等のバージョンアップやシステム改修 標準的・汎用的な情報システムあるいはソフトウェア等を利用している場合には、基本的にはベンダーからの番号法に対応したバージョンアップ版の提供を待つことにはなるが、対応方針及び対応スケジュールについてベンダーに早めに確認しておくべきことは、これまで繰り返し述べてきたとおりである。 また、人事給与関係システムを自社で内製製作している場合、あるいは外注して製作している場合には大幅なシステム改修が必要となるため、早急にシステム改修に向けた取組みが必要である。 対応スケジュールについてであるが、実際に個人番号を利用しての行政事務は最短で2016年1月(※7)からである。 (※7) 2016年1月に新入社員が入社し被保険者資格取得届等を提出する場合、2016年1月に社員が退社し退職所得に係る源泉徴収票や健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を提出する場合などである。 従業員数の多い企業において最も実務的に影響の大きいものの1つに年末調整があり、個人番号を利用しての年末調整は2017年1月末期限であることから、システム改修の対応は最長で2017年1月末までであり、その間は手作業で対応も可能とする主張も聞くところである。 しかし、2016年度の上期には標準報酬月額算定基礎届を、賞与支払時には健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届を提出しなければならない。取扱規程等や社内マニュアルは、利用するシステム等が番号法対応となり運用したことを前提にその内容を改めるのが効率的であり、実務的である。 やはり、システム改修の期限は2015年度中とすべきである。テスト運用期間も考慮に入れると、できるだけその期限を早く設定することが望まれる。 なお、システム改修のポイントや詳細な解説については別の機会に譲るが、前提としては本連載でたびたび登場した、重要な“3つの考え方”を踏まえることが重要である。これらの考えを常に考慮に入れて臨めば、システム設計において重大なミスは発生しないものと考える。 なお、システム改修にあたって織りこむべき機能を例示すれば、 個人番号利用事務等に関係しない場面での個人番号の非表示機能・マスキング機能 個人番号あるいは特定個人情報へのアクセス制限 不正アクセス検知機能 個人番号あるいは特定個人情報へのアクセスログ記録 個人番号あるいは特定個人情報の出力ログ記録 個人番号削除・廃棄予定者リストアップ機能 特定個人情報等廃棄期限表示機能 電子媒体での特定個人情報等の持ち出し制限機能 などが挙げられる。 情報保護の観点から必要になると考えられる機能を筆者において例示したが、これらの機能追加も見据えて、業務の見直しに応じたシステム改修に取り組んでいく必要がある。 (連載了)
現代金融用語の基礎知識 【第14回】 「不適当合併等」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 「裏口」で始まる言葉とは? 「裏口」で始まる言葉といえば、多くの人は「裏口入学」を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、筆者の場合は、証券会社に勤務していたこともあり、「裏口上場」を思い浮かべる。 裏口入学とは、学校関係者に金銭を支払うことにより入学試験の点数を改竄して、学校への入学を果たすことである。株式市場に上場するに当たっても、入学試験ではないが、証券取引所による上場審査がある。それでは、裏口上場とは、証券取引所関係者に金銭を支払うことにより上場審査を通過させてもらい、上場を果たすことなのだろうか。 裏口入学も裏口上場も、ともに正規でない方法により入学や上場を果たすことであるが、方法は異なる。裏口上場の方は、証券取引所関係者に金銭を支払うのではなく、上場企業を利用することにより上場を果たすのである。 例えば、非上場企業が上場企業に吸収合併してもらうといった方法をとる。そうすることにより、非上場企業の非上場株式が、証券取引所による上場審査を受けることなく、上場株式となるのである。 【図表】 裏口上場の方法 2 裏口上場を防ぐには 大学全入時代などといわれ、一昔前ほど受験競争が厳しくなくなったため、裏口入学の需要は減少傾向にあるのかもしれない(有名校等への裏口入学の需要は依然としてあるのかもしれないが)。それに対して、裏口上場の需要は、上場を目指す企業の数が最近また増えてきているため、増加傾向にあるのではないだろうか。 しかし、裏口上場が放置されたら、どうなるだろうか。上場を目指す全ての企業が、証券取引所による厳しい上場審査を避けて、裏口上場を選択することになるだろう。そうなれば、上場企業の質を担保できなくなる。株式市場に流通する株式はどれも不良品ばかりということになり、それらを購入しようとする投資家はいなくなり、株式市場は成立しなくなってしまうだろう。 そこで、証券取引所は、裏口上場を防ぐため、上場企業が「不適当合併等」を行った場合、あらためて上場審査に準じた審査を行い、その審査に通過しなければ、上場廃止にするという措置をとっている。不適当合併等とは、上場企業が実質的な存続企業とはいえないM&Aで、例えば、自社よりも規模の大きな非上場企業を吸収合併したような場合である。そうした場合、形式的には上場企業が存続企業でも、実質的には非上場企業の方が存続企業であると考えられるのである。 最近の事例では、上場企業の株式会社FXプライムbyGMOが非上場企業のGMOクリックホールディングス株式会社と平成27年4月1日に行う株式交換が不適当合併等に当たると判断されている。 3 非上場企業とのM&Aは要注意 ということは、不適当合併等に当たると判断されなければ、裏口上場は可能なのである。証券取引所による措置は、全ての裏口上場を防いでいるわけではない。例えば、ある非上場企業が、裏口上場を意図して、自社よりも規模の大きな上場企業に吸収合併される場合などは、特に問題とされないのである。 だからといって、ここで小規模な非上場企業の裏口上場を勧めているわけではない。上場企業が非上場企業とM&Aを行う場合、注意してほしいのだ。証券取引所による措置は、裏口上場の意図を問うわけではない(もとより、「裏口上場します」と宣言して裏口上場する企業などない)。あくまで上場企業の実質的存続性の有無が判断される。 裏口上場を意図してではなく、あくまで経営上の必要から行った非上場企業とのM&Aが、不適当合併等に当たると判断されてしまうことがあるのである。不適当合併等に当たると判断されると、あらためて上場審査に準じた審査を受けなければならなくなり、もしもその審査に通過しなければ、上場廃止になってしまう。非上場企業とのM&Aには、そうしたリスクが含まれていることを留意しなければならない。 なお、拙著『検証・裏口上場-不適当合併等の事例分析』は、不適当合併等に当たると判断された多くの事例を検証しており、証券取引所の考え方がわかるため、上場企業が非上場企業とのM&Aを検討する際に参考になると思われる。 (了)
プロフェッションネットワーク主催セミナー 「税理士 笹岡 宏保氏による【1日で理解する】セミナーシリーズ」 【実務で留意しておきたい】 みなし贈与の実務論点 ~裁決事例を判断材料として~ 株式会社プロフェッションネットワーク主催の笹岡宏保氏セミナー「【実務で留意しておきたい】みなし贈与の実務論点~裁決事例を判断材料として~」の開催が、2月2日(月)と近づいてまいりました。 お申込受付は、本日29日(木)の17時までとなりますので、ご注意ください。 ※受付は終了しました。 セミナー内容の詳細やお申込方法など、くわしくは下記からご覧ください。
《速報解説》 平成27年4月1日以後開始の税務調査より再調査手続が見直しへ ~実地調査以外の調査は「新たに得られた情報に照らし非違がある」事実なくとも 質問検査等が可能に(平成27年度税制改正大綱)~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 衆議院議員選挙の影響もあって決定が遅れていた、与党による平成27年度税制改正大綱が昨年12月30日に公表され、1月14日閣議決定された。 本稿では、平成23年度税制改正の目玉であった「税務調査手続(国税通則法第74条の2から第74条の13)」の一部に関し今回の大綱で示された改正点について、これまでの通達・事務運営指針の規定と比較検討しながら、概要をまとめておきたい。 2 平成27年度税制改正における調査手続の見直し 調査手続についての見直しは以下の2点である。 (1) 再調査について 調査終了後の再調査の要件である「新たに得られた情報に照らし非違があると認められる」という規定について、前回調査の範囲を「実地の調査」に限ることとしたものである。 (2) 複数の税務代理人がある場合の調査の事前通知について 複数の税務代理人がある場合の事前通知については、これまで特段の規定がなかったところ、納税者が「代表となる税務代理人」を定めることにより、代表となる税務代理人に事前通知を行えば、他の税務代理人への通知は不要であることを定めたものである。 3 これまでの調査手続規定と改正による変更点 (1) 再調査に関する規定の推移 再調査に関しては、通則法第74条の11第6項に規定が置かれ、「当該職員は、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」には、質問検査等を行うことができるとされている。 その後公表された国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達5-6において、「前回の調査」には、異議決定又は申請等の審査のために行う調査は含まれないこと、移転価格調査を行った後に移転価格調査以外の部分の調査を行うときは、移転価格調査外の部分の調査は再調査には当たらないことが、定められている。 本年の税制改正大綱により明確化が図られたのは、再調査の前提となる前回調査の範囲を「実地の調査」に限ることとした点にある。 つまり前回調査が、実地の調査以外の調査、例えば、行政指導や机上調査であった場合には、再調査の要件である「新たに得られた情報に照らし非違がある」という事実がなくとも、質問検査等が可能であるということとなる。 (2) 事前通知に関する規定の推移 税務調査の事前通知に関しては、通則法第74条の9の規定により、「あらかじめ、納税義務者(税務代理人を含む。)に対し、通知する」と定められていたところ、昨年3月の改正により、同条に第5項が加わり、納税義務者の同意がある場合には、納税義務者への通知は、税務代理人に対してすれば足りることとされ、当該改正に伴って、税務代理権限証書の様式が改定され、「調査の通知に関する同意」欄が設けられた。 本年の税制改正大綱では、複数の税務代理人がある場合の取扱いを明確化したものであり、現時点では、通則法第74条の9第5項の文言が修正されるのか、第6項が付加されるのかは不明だが、税務代理権限証書の様式が再度改定されるか、新たに、代表税務代理人を選任する届出書が定められることになろう。 4 適用時期と実務への影響 再調査に関する改正は、再調査の前提となる前回調査が平成27年4月1日以後に開始され、その前回調査後に行う再調査について適用することとされ、事前調査に関する改正は、平成27年7月1日以後に行う事前通知について適用することとされている。 再調査ができる場合を、「新たに得られた情報に照らし非違があると認められるとき」と制限した通則法の規定は、除斥期間が満了するまでは何度でも再調査される可能性があった改正前と比較すれば、納税義務者の予見可能性を高めることに寄与したものであると思料するものである。 しかし、「前回の調査」に該当しない調査の範囲がなし崩し的に拡大されるようであれば、規定が骨抜きになってしまう懸念が生じることになる。こうした懸念は、通則法改正後に、行政指導文書の発出が増加している現状を鑑みれば、根拠に乏しい懸念とも言えないのではないだろうか。 (了)