〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第6回】 「システム担当者不在が引き起こすリスクと回避策」 公認会計士 中原 國尋 はじめに 情報システムを導入する際に問題になることがある事象の一つとして、社内で情報システムをコントロールする担当部署や担当者が不明確になっているケースが挙げられる。 このような状況下で情報システムの導入作業をしなければならない場合、責任の所在が不明確になることも多く、導入時に問題が起こることも少なくない。 そのため以下では、担当者不在での情報システム導入が、実際にどのような問題を引き起こすのかについて紹介する。なお、最近のシステム導入では、特に会計システムの部分についてはフルスクラッチ(いわゆるゼロからの新規開発)で対応する事案は皆無であるため、本稿では、導入するシステムをパッケージソフトウェアに限定する。 ▼昨今の情報システム管理の体制▼ 言うまでもなく情報システム部門は間接部門であり、コストセンターである。そのため、多くの会社ではコスト削減のため縮小を図ってきた。現在では国内に多くのシステムベンダーが存在しており、情報システムを開発・導入する際には社内の人的資源ではなく、社外のシステムベンダーを活用するという状況が成立している。 しかし、外部のシステムベンダーは社内の状況を逐次、正確に把握しているわけではないため、残された情報システム部門の機能としては、経営戦略に沿った情報システム投資などの戦略を立案するなど、情報システムに関する企画機能が中心になる。 実際には、情報システム部門が廃止されその機能は総務部門や会計部門が担っている場合もあり、そのような企業では、それら総務部門などで情報システムに関する企画を検討・立案することが求められる。情報システム部門の役割が十分に認知されていない組織は特にこのような傾向にあり、結果として担当者の対応能力の欠如やスキル不足などの問題が生じやすい。 ▼情報システム部門に求められる役割▼ 情報システム導入段階における情報システム部門の役割は、情報システムの利用者である各部門の担当者と、実際にシステム導入を行う役割を持つシステムベンダーとのコミュニケーションの支援が重要であろうと想定される。 導入されるシステムのユーザーとなる各部門の担当者は、情報システムがどのように構成されているのかについて十分な知識はなく、またシステムベンダーについてはシステム導入の対象となる業務を詳細に理解しているわけではない。 また、一般に社内用語と呼ばれる、社外では通用しない業務に関する専門的な言葉が存在している場合もあり、またシステムベンダーの担当者も技術的な用語を頻繁に用いるなど、ユーザーとベンダーとの間の意思疎通を阻害する要因は多く存在している。 そのため情報システム部門としては、以下のようなことを役割として認識し、それを果たしていくことが必要となる。 ▼システムベンダーとのつき合い方▼ 情報システムの導入を行うにあたって、企画段階からシステムベンダーと協働するケースが見受けられる。 早い段階で情報システム導入にあたってのパートナーを選定し協議を重ねることは有効性が高い方法の一つであると考えられるが、一定程度のデメリットが存在していることも認識する必要がある。 まず、検討の初期段階からシステムベンダーを確定することによって、選択可能なパッケージソフトウェアは、そのベンダーが取り扱うことのできる製品に限られることから、パッケージの選択肢が制約されるケースがある。選択可能なパッケージソフトウェアが導入すべきシステムの要件を比較的満たすことができる場合は問題ないが、想定している業務に適合するパッケージソフトウェアが見当たらない場合には、別途検討を要することになる。 また、システムベンダーとユーザーとの間には情報の非対称性が存在することから、議論がベンダー有利に進む傾向にあることが挙げられる。つまり、システムベンダーはパッケージの機能については当然詳細な情報を有しているが、一方、ユーザー側では、どのようにシステム化を果たせばよいのかという点も含めて情報に乏しいケースが多い。ベンダーが議論を優位に進めることが可能という特徴は、特にコスト面において表れやすい。 同様にユーザー側がシステム化したいと考えている機能のうち、業務プロセス全体として考慮したときに、システム化すべきか否かの判断が合理的に行われないリスクも否定できない。すなわち、ユーザーが実装したいと考えているシステム上の機能について、パッケージそもそもの機能としては存在しないが、追加開発をすれば対応可能である場合に、システムベンダーは多くの場合、実現可能であるとの判断を下す傾向にあるように思われる。実際、それは可能ではあるにせよ、費用対効果の議論が欠落しているかもしれない。一般的に、実装が困難な機能は、期間とコストが多く必要であるし、ソフトウェアの品質としても管理が難しくなるのである。 そのため、あらかじめ情報システム担当者を中心にある程度情報の整理を行うことが望まれる。例えば、対象の業務プロセスを明らかにしたうえで自動化すべき業務を明らかにし、その優先度合いを検討する。それによってシステム上の機能として優先すべき項目が明らかになるので、その希望を実現できるパッケージソフトウェアを選定することが可能になる。 必要な機能等をRFP(Request For Proposal:要求仕様書)として取りまとめ、同じ条件でシステムベンダーに検討してもらうことによって、想定されるシステム導入のコストと期間を比較・検討することが可能となるのである。 ▼外部人材を活用したリスク回避▼ 仮に、情報システム担当者が中心になった導入作業を行うことができない場合、ユーザーの要求を無制限に取り込み、全体としての業務処理のデザインを考慮せず、ベンダーの提案をすべて受け入れる等のリスク事象が発生する。それによって導入したシステムは、ユーザーからの不評を買い、導入したシステムの利用が限定的になるリスクが生じる。 情報システムの導入は非常に大きな投資であるため、それが失敗することは将来数年間の業務処理を不効率化ならしめる結果となる。 ユーザーニーズのうち、将来の業務プロセスを想定する中で全体最適を図るために必要な機能のみを実装することで、ユーザー満足度の向上や開発コストの適正化、円滑な業務遂行の実現を支援することができる。その目的を達成するために、社内の人的資源を質・量ともに補完する意味合いで外部の人材(コンサルタント等)を一時的に利用することは、1つの判断として有用であると考えられる。 結果的に開発期間の短縮、コストの低減、ユーザー満足度の向上が実現すれば、外部のリソースの利用は必ずしもコスト高につながるものではないだろう。 ▼まとめ▼ システム担当者が不在である場合、あるいは不在ではなくともシステム導入のプロジェクトに時間を割くことが困難な場合、結果的にベンダーに都合良く対応されるケースがある。それを社内でコントロールできないのは、不幸な結果を招くことになりかねない。 情報システム部門の組織を拡充し担当者を増やすことは容易ではない。そのような場合には、外部人材の活用を通じ、システム導入の失敗を回避できるように検討することが望まれる。 (了)
女性会計士の奮闘記 【第27話】 「自信のないことは知ったかぶりしない」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ◆ワンポントアドバイス◆ 会社に新しい仕組みを導入する場合には、ひと足飛びにはいきません。入念な準備が必要です。時間をかけて進めましょう。 その際、自信のないことは知ったかぶりをせず、正直にわからないことを告げ、その分野のスペシャリストに確認しましょう。 (了)
2015年3月12日(木)AM10:30、 Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.110 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第27回】 「消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(その3)」 ~租税法内部における同一概念の解釈~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅳ 解説(承前) 2 消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」(承前) (2) 租税法律主義の要請 所得税法と消費税法に用いられている用語の意義を考えるに当たって、それぞれの法の趣旨を「担税力」の相違という観点から眺めて、その違いを論じることができたとしても、租税法律主義の要請する法的安定性等の議論は依然として残されているというべきであろう。 租税法中に用いられている概念の意義を他の法分野におけるのと同じ意義に用いることが法的安定性等に資するとして、租税法一般の解釈論において借用概念論が支配しており、また、その中でも統一説が通説的な地位を占めていることを考えると、この点については深慮ある検討が必要であるように思われる。 例えば、相続税の事案であるが、東京地裁平成7年6月30日判決(訟月42巻3号645頁)をみてみたい(注1)。 (注1) 本件は、父親の死亡により、その財産等を相続した原告が、相続した土地の一部について、租税特別措置法69条の3(平成4年法律第14号による改正前のもの)の定める事業の用に供されていた宅地に該当し、特例の適用を受けるものとして相続税の申告等をしたところ、被告から、特例の適用が認められないとして、相続税の更正及び過少申告加算税の賦課決定を受けたため、原告が課税処分の取消しを求めて提訴した事案である。 これは、租税特別措置法69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の適用が争われた事例であるが、同地裁は、次のように論じている。 ただし、これは単に、所得税法上の「事業」概念を租税特別措置法69条の4にいう「事業」の概念と合致させることが法的安定性等に資するからというだけの議論ではない。 これは、次のように各条項の規定振りを検討した上での説示であった。 その上で、東京地裁は、 としているのである。 さらに、同地裁は、措置法は、各税法についての特例を設けるものであるから、相続税法の特例として設けられた本件特例制定の趣旨、目的等から、その「事業」概念を所得税法上の「事業」概念と別異に解すべきものといえるか否かを、なお検討する必要があるとして、同特例の制定及び改正の経緯を検証している。 このように、「事業」と称するに至らない不動産貸付け等の用に供されていた宅地等について、本件特例の対象から除外された経緯などに鑑みると、租税特別措置法は、そもそも所得税法上の「事業」を念頭において規定されてきたことが判然とするのである。 このような条文構成及び立法趣旨に鑑みて、所得税法33条と租税特別措置法69条の4の文言を同義に解してよいか否かについての検証がなされたのが、上述の東京地裁平成7年6月30日判決であって、単に法的安定性という見地のみでの議論であっただけではないのである。 このことからいえることは、法的安定性の要請を論じるに当たっても、異なる租税法上の用語を検討するに当たっては、それぞれの法の趣旨や沿革等を検証する必要があるのであって、本件においても、消費税法上の「事業」と所得税法上の「事業」が同じ意義を持つと論じるためには、立法経緯等からの検証がなされる必要があったのではなかろうか。 もっとも、そのような検証を行っても、やはり結論的には、消費税法と所得税法における「事業」の意義を同じものとするに足る根拠を導くことは難しかったであろう。 3 消費税法上の「事業」該当性 消費税法が事業以外の資産の譲渡等に消費税を課していないのは、事業外の取引、例えば個人が知人に資産を譲渡する等の行為に課税をするとしても、①把握が困難であること、②税収ポテンシャルが少ないためであると説明されている(金子宏『租税法〔第19版〕』664頁(弘文堂2014))。そうであるとすれば、客観的に把握の困難性が認められないものを「事業」と捉えるという考え方もあり得よう。 そこで、学説は、消費税法上の「事業」を「同種の行為を独立の立場で反覆・継続して行うこと」と理解しているのである。すると、本件賃貸を、消費税法上の「事業」に当たるとした本件富山地裁判決は、法の趣旨や学説に沿った判断を展開したものといえよう。 ところで、事業に限定している理由が上記①や②にあるとしても、そのことから直ちに、消費税法上の納税義務者を画するに当たり、独立性や反覆継続性が要請されるということになるのであろうか。この点は釈然としない。 この点、水野忠恒教授は、なぜ、消費税法上の納税義務者が個人事業者及び法人に限定されるべきであるのか議論となり得るとされた上で、「付加価値税が企業による付加価値に対する課税であることを考えれば、事業者とは『企業』であるようにも思われる。」とされつつも、次のように続けている。 とされるのである(水野忠恒『租税法〔第5版〕』740頁(有斐閣))。 この見解からは、事業者であるかどうかが問題とされるのがせいぜいであって、その事業者の行う業務の程度にまでは拘泥する必要性に乏しいということになろうか。かような意味では、消費税法上の納税義務者の範囲という観点からも同様の結論を導出し得たのかもしれない。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第1回】 「一の契約書で課税物件表の複数の号に該当した場合」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 継続してエレベーターの保守契約を結ぶ際には、記載内容により第2号文書の請負に関する契約書と第7号文書の継続的取引の基本となる契約書に該当する場合があると聞きましたが、違いを教えてください。 一つの契約書で課税物件表の複数の種類(この場合は第2号文書と第7号文書に該当したと仮定した場合)に該当する場合がある。この場合、印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則3の規定により、いずれかの一の課税文書として取り扱うこととされる。 第2号文書と第7号文書に該当した場合の通則3の規定を図示すると下記のとおりであり、原則は第2号文書に該当するが、契約金額の記載のない場合は第7号文書に該当する。 [事例] 工事請負及び工事手付金の 受取事実を記載した契約書(第2号文書と第17号文書) ⇒ 第2号文書 [事例] 継続する物品運送についての基本的な事項を定めた契約書で契約金額のないもの(第1号の4文書と第7号文書) ⇒ 第7号文書 具体的事例で考えてみると、下記のパターン1とパターン2は同一内容の契約であるが、契約書の記載の方法により、所属が異なる。 パターン1及びパターン2はともに第2号文書と第7号文書に該当するが、パターン1は契約金額の記載があることにより第2号文書に該当し、パターン2は契約金額の記載がないことにより第7号文書に該当することとなる。 このように、同一内容の契約で第2号文書と第7号文書に該当した場合、契約金額の記載の有無により所属が分かれることとなり、印紙税額も変わってくる。当事者において合意があれば、印紙税額の安い方法で作成することは節税につながり得策と考える。 ① エレベーター保守契約書(パターン1) ② エレベーター保守契約書(パターン2) (参考) (了)
贈与実務の頻出論点 【第2回】 「贈与税の除斥期間」 税理士法人チェスター 解 説 国税の除斥期間(税務署長が納税義務の確定手続を行うことができる期間)は、原則として5年となりますが、贈与税については、相続税法において次のそれぞれに定める期限または日から6年と規定されています。 なお、偽りその他不正の行為により、税額の全部もしくは一部を免れまたは還付を受けた場合における更正決定等の除斥期間は7年となります(通法70④)。 ちなみに税目別の更正の期間制限は、下記のとおりとなります。 *1 揮発油税及び地方揮発油税、石油石炭税、石油ガス税、たばこ税及びたばこ特別税、電源開発促進税、航空燃料科税、印紙税(印11 、12 に掲げるもの)、地価税をいう。 *2 平成20年4月1日以降に終了した事業年度または連結事業年度において生じた純損失等の金額から適用される(通附則37)。 *3 出典:税大講本「国税通則法」 (了)
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第9回】 「改正の内容⑧」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 3-1-18 PEの定義 (1) 恒久的施設の定義 PEの範囲は変更されていないが、改正前の規定の場所が課税標準の定めの場所にあったのに対して、法人税法2条12号の18、法人税法施行令4条の4の定義規定の場所に移された。 PEを有しない外国法人が再びPEを有することとなった場合には、再進出日に当該外国法人が設立されたものとみなして、青色欠損金又は災害損失金の繰越控除及び期限切れ欠損金の損金算入の規定を適用する(法法57①、58①、59、142②)。つまり、こうした欠損金を再進出日以降に損金算入することはできないことになる。 (2) みなし事業年度 《改正前》 外国法人はPEの有無とその種類によって課税の範囲が異なっていたため、それらが変化した際に事業年度を区切る(みなし事業年度を認識)こととされている(旧法法14二十三、同二十四)。 《改正後》 PEの種類の違いによる課税所得の範囲の違いがなくなったことから、みなし事業年度についても所要の整備が行われた(法法14二十三・二十四)。 PEを有しない外国法人が事業年度の途中でPEを有することになった場合は、その事業年度開始の日からその有することとなった日の前日までの期間を、その有することとなった日からその事業年度終了の日までの期間をそれぞれ事業年度として区分する。 PEを有しないこととなった場合は、有しないこととなった日までと翌日から事業年度終了の日とまでの期間をそれぞれ事業年度とする(法法14二十四)。 (参考) (「平成26年度税制改正の解説」(財務省)754頁) 3-1-19 外国法人の内部取引に係る課税の特例(独立企業原則の適用) (1) 制度の概要 PEを有する外国法人の本店等とPEの間の内部取引の対価の額が独立企業間価格と異なることによりPE帰属所得の計算上益金に算入すべき金額が過大になる場合又は損金の額に算入する金額が過大になる場合には、恒久的施設帰属所得に係る所得に対する法人税の規定の適用については、その内部取引は独立企業間価格によるものとされた(措法66の4の3①)。これは関連者間の移転価格税制の内容と同じである。 (2) 独立企業間価格の算定 内部取引に係る独立企業間価格は、移転価格税制における独立企業間価格と同様に算定することとされた(措法66の4の3②、措令39の12の3①)。 当然であるが、比較対象取引には内部取引は含まれない。比較対象は第三者間取引であることを要するからである。 (3) 内部寄附金の損金不算入 PEから本店等に対する寄附に相当する内部取引が行われた場合には、国外関連者に対する寄附金と同様に全額損金不算入とされた(措法66の4の3③)。 (4) 比較対象企業に対する質問検査等 内部取引に関する独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類又はその写しが遅滞なく提示又は提出されない場合における同業者に対する質問検査権の行使による情報収集(措法66の4の3④)、推定課税(措法66の4の3⑪において準用する措法66の4⑥)等についても、移転価格税制と同様とされた。 (5) 文書化 内部取引に係る独立企業間価格算定に必要と認められる書類が関連取引の規定に準じて定められた(措規22の10の3①一、措規22の10の3①ニ)。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第38回】 「法人税基本通達改正の歴史⑦」 公認会計士 佐藤 信祐 昭和54年度から昭和55年度の間には、法人税基本通達等の総点検が行われており、第一次分は昭和54年10月18日付直法2-31通達、第二次分は昭和55年5月15日付直法2-8通達、第三次分は昭和55年12月25日付直法2-15通達として公表されている。 このうち、子会社支援損失についての通達は第二次分として新設され、貸倒損失についての通達は第三次分として改正されている。 本稿では、これらの通達のうち、第二次分の改正である子会社支援損失について解説を行う。 7 昭和55年度法人税基本通達改正における子会社支援損失の取扱い 第6回から第8回までで解説したように、昭和53年3月30日において、大阪高等裁判所で清水惣事件についての判決が下された。本通達の改正は清水惣事件の判決を受けたものであると言われており、具体的には、「合理的な経済目的」がある場合においては、法人税基本通達9-4-1、9-4-2において寄附金の額に算入しないことが明らかにされた。 具体的な通達の内容は以下の通りである。 気づかれた読者もいるかと思うが、現在の法人税基本通達9-4-2と異なり、債権放棄等が含まれておらず、平成10年度法人税基本通達の改正により追加されることになる。 当時の解説をひも解いてみると、国税庁のHP上のタックスアンサー「No.5280 子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例等 Q2-3」に掲げている内容(*1)と変わらない。 (*1) タックスアンサーには以下のように解説がなされている。 平成10年度法人税基本通達改正前の文献については、不良債権処理や子会社整理が行われる前の時代であることから、現在ほどは解説がなされている文献は多くはないが、ここでは、平成3年に出版された『法人税実例集成(東京国税局調査第一部調査審理課、税務研究会出版局)』、平成元年に出版された『寄附金課税の知識(渡辺淑夫、財経詳報社)』、平成7年に出版された『Q&A不良債権処理の税務判断(東京国税局調査第一部調査審理課、ぎょうせい)』をご紹介したい。 まず、『法人税実例集成』335、336頁においては、「子会社の経営不振に伴う債務の引受け」について説明がなされているが、経営不振で債務超過に陥った子会社の再建を図るために債務引受を行った事例に対し、 と解説している。また、その根拠として、法人税基本通達9-4-1を紹介したうえで、 と解説している。すなわち、子会社の再建のための債務引受けについて、強引に解釈すれば、「経営権の譲渡等」の「等」に該当し、「相当な理由」があると認められる場合があり得なくもないとも読むことも可能である。 さらに、『寄附金課税の知識』130、131頁においては、第2会社方式が紹介されており、 と説明されたうえで、 と説明されている。 さらに、『Q&A不良債権処理の税務判断』175、176頁においても第2会社方式について説明されており、第一会社(旧会社)と第二会社(新会社)との間において、持株関係、商号、所在地、役員構成、従業員、資産内容、事業内容、事業形態などを総合的に勘案して、同一性のない場合について法人税基本通達9-4-1の適用を認め、同一性がある場合には適用を認めない旨の解説がなされている。 すなわち、子会社の事業を廃止する場合や経営権を譲渡する場合だけでなく、子会社の再生手段として第2会社方式を利用する場合についても、第一会社と第二会社との間に同一性がなければ、法人税基本通達9-4-1を適用することができるというのが当時の解釈であったと考えられる。 このように、平成10年度の法人税基本通達の改正前であっても、改正後の取扱いとおおむね同じ取扱いがなされていたようではある。無論、国税局において再建支援等についての相談窓口が設けられたり、私的整理に関するガイドライン等ができたりするなど、平成10年度の法人税基本通達改正の意義は大きかったと思われるが、法人税法の解釈として、すでに昭和55年法人税基本通達の改正時点では子会社再建のための債権放棄についての考え方が成立し始めており、むしろ、バブル崩壊前であったことから事例が少なかったに過ぎないだけの可能性もあったのではないかと思われる。 次回においては、第三次分の改正として行われた貸倒損失の改正について解説を行う。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第74回】 税効果会計⑤ 「繰延税金資産の回収可能」 仰星監査法人 公認会計士 横塚 大介 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 繰延税金資産の計上 (*1) 税金負担を軽減できる一時差異 20 × 法定実効税率35% =繰延税金資産 7 〈会計処理の解説〉 繰延税金資産は、将来減算一時差異が解消されるときに課税所得を減少させ、税金負担額を軽減することができると認められる範囲内(図中の赤色部分)で計上するものとし、その範囲を超える額については控除しなければなりません(基準 注解5)。そのため、一時差異のうち、税金負担額を軽減しない範囲(図中の青色部分)を除き、繰延税金資産を計上します。一時差異については、本連載の【第34回】税効果会計③をご参照ください。 会計上、棚卸資産について評価損を計上していますが、税務上は損金算入が認められないことから、X1年3月期の課税所得を計算する際に当該評価損を加算していますので、税務上の棚卸資産の価額は50であり、会計上、計上した評価損30が一時差異に該当します。 また、評価損を計上した棚卸資産は、翌年度に売れ残る場合廃棄していることから、X2年3月期の課税所得の計算において、X1年3月期に加算した評価損は税務上損金算入が認められ、減算されることとなり、これに相当する税金負担を減額する効果が見込まれます。 しかし、X2年3月期の課税所得の見積額が20であることから、評価損30のうち20に見合う税金負担額しか軽減できません。そのため評価損のうち10は、税負担を軽減しない一時差異に該当すると考えられます。よって、繰延税金資産を計上するに当たり、一時差異20に対して法定実効税率を乗じます。法定実効税率については、前回の解説をご参照ください。 なお、繰延税金資産については、将来の税負担を軽減できるかどうか毎期見直しを行わなければなりません。そのため、期末時においては、当期及び過年度に発生した将来減算一時差異が将来の税負担を軽減するかどうかを検討する必要があります。 * * * 次回は「法人税等調整額の計上」について解説します。 (了)
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第6回】 (最終回) 「「表示方法の変更」で起こるコピペのミス」 公認会計士 石王丸 周夫 1 今回の事例 計算書類のドラフトには、うっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例6-1】 表示方法の変更の記載で、「前連結会計年度の決算書について組換えした」旨を記載してしまうミス。 【事例6-1】は、連結注記表に記載される「表示方法の変更」の文章です。 連結貸借対照表の表示科目について、前年度の連結貸借対照表と異なる表示に変更したため、そのことを注意喚起すべく記載したものです。 上段が誤った事例、下段が正しい事例で、赤字部分が両者の異なる部分です。 誤った事例では、前連結会計年度の連結貸借対照表を組み替えたと言っていますが、正しい事例では、組換えについては言及していません。 たったそれだけの違いでしかないのですが、これは、わかる人が見れば一発で間違いとわかるミスです。こうしたミスが、そのまま社外に公表されてしまうと、その会社の決算書作成能力に疑問を持たれるかもしれません。 したがって、こういうミスは必ず防がなければならないのです。 実はこのミス、起こるべくして起こったものです。 そして、原因を知れば防止法も自ずと見えてきます。 2 誤りの原因は有価証券報告書からのコピペ 注記表(連結・個別)では、定型文章による記述式の注記が多いため、他の書類からのコピペのミスが多いと、本連載の【第5回】に述べました。 今回の【事例6-1】も、【第5回】と同様にコピペによるミスです。 【事例6-1】の誤った事例は、有価証券報告書の注記からコピペしてきたものです。有価証券報告書の記載を何も修正せずに連結注記表の注記として貼り付けたため、間違ってしまったものです。筆者が『フルコピー・ミス』と呼んでいるものです。 3 会社法の決算書は単年度開示 誤った事例の赤字部分を改めて読んでみましょう。以下のとおりです。 もっともらしい内容ですが、明らかに間違いです。 前連結会計年度の連結財務諸表を組み替えていると書いてありますが、連結計算書類には前連結会計年度の決算書は掲載されていません。会社が任意に2期併記で開示していれば別ですが、会社計算規則上は、その要求はないのです。ほとんどの会社は単年度開示です。 したがって、組み替えの対象になる決算書がないのです。にもかかわらず、組み替えた旨を記載するのはおかしいわけです。 これに対して有価証券報告書は2期併記です。当年度の決算書の横に前年度の決算書が掲載されます。当年度の決算書で科目表示を変更した場合は、それに対応させるように前年度の決算書の組換えを行います。したがって、組み替えた旨の注記が必要になります。 【事例6-1】の誤った事例が有価証券報告書からのコピペであると述べたのは、そういうわけです。赤字部分で「連結財務諸表」という有価証券報告書特有の用語を使用していることからも、有価証券報告書のコピペであることは明らかです。 4 注記内容は対前年比較の便宜のため 正しい事例の方も見ておきましょう。 赤字部分は以下のとおりです。 この記載は必ずしも義務ではありませんが、書くのであればこうした記載になります。 当連結会計年度から独立科目として開示されるようになった連結貸借対照表の「長期貸付金」は、前連結会計年度までは「その他」に含まれていましたので、対前年比較を可能とするための情報ということです。 「長期貸付金」の残高について前期比較をしたいというとき、前連結会計年度の連結貸借対照表を見ても、「長期貸付金」の残高がいくらであったかはわかりません。そのため、当年度の連結注記表の「表示方法の変更」に、前年度の「長期貸付金」がいくらだったのかを書いているのです。 これがもし誤った事例の書き方だったらどうでしょうか。 前連結会計年度の連結貸借対照表を組み替えたのでそれを見るようにと言っていますが、実際見てみても、「長期貸付金」の残高はどこにも載っていないわけです。 こうした矛盾した記載になってしまうので、絶対に間違いたくないところです。 〈今回のまとめ〉 連結注記表や個別注記表の中で、前年度の決算書に言及している箇所がある場合は、不要な記載でないか確認すること。 (連載了)