会社を成長させる「会計力」 【第11回】 「金融資本市場との対話がもたらす良質な資金調達」 島崎 憲明 《事業の前提となるのは資金調達》 企業の持続的な成長には、既存事業の拡充や新規事業への積極的な取組みが必要であるが、同時にそれらの事業活動を支える良質な事業資金の確保が欠かせない。 筆者が経理部長や経理担当役員として経験した資金(負債と資本)調達に関する業務には、周辺業務も含めると次のようなものがあった。 CFOの役割は、大きく企業会計、企業財務、リスクマネジメントの3つからなるが、ここに列記した①から⑥の業務は、資金調達(コーポレートファイナンス)に関わるものである。 広義のコーポレートファイナンスには資金の調達に止まらず、バランスシートの借方、すなわち資産から生ずる将来のキャッシュフローの最大化やリスクマネジメントなども含まれるが、ここでは資金の調達サイドに焦点を当て、市場(間接・直接金融市場、資本市場)やその関係者とどう向き合うかについて話を進めたい。 会社の成長には、限られた経営資源を最適に配分し、いかにしてリターンを極大化するか、さらには、テイクしているリスクを適切にマネジメントするのが肝中の肝であることは、すでに本連載において何度か説明した。 良質の事業アセットを積み上げるには、まず、それに必要な資金を調達しなければならず、このため財務業務における重要な一つが、良質な資金の量的確保にある。つまりは、低コストの資金を安定的に調達し、これらの資金を事業や投資に投入し収益を確保するということである。 《良質な資金調達に欠かせない財務報告と株主総会》 財務報告と株主総会は、経理部長や経理担当役員の主要業務の一つであるが、毎期の定例業務でもある。財務報告は四半期も含めると年4回、株主総会は年1回だが、最低限のやるべきことは法令などで定められている。 法で決められたものが関係者にとって十分であるがどうかは別問題であり、法で決められた事項に加えて、会社側からの自主的な対応が必要である。 財務報告については、法定開示に加え、記者発表や説明会の場を自主的に持っている会社が多いであろう。マスコミや証券アナリストとの双方向コミュニケーションは、業績の結果報告に止まらず、経営計画などの説明も行うなどして、会社の成長戦略について理解を深めてもらう機会として活用している会社が多くみられる。 株主総会は決議・報告すべき事項が法令で決まっているので、会社側からの説明が主になるのはやむを得ない。しかしながら最近では、株主総会の開催について集中日を避けるとか、総会の運営に十分な時間を費やすなどの変化がみられる。 筆者が何社かの株主総会に出席して得た印象は、各社例外なく、経営陣(特に社長や財務経理担当取締役)が株主との対話を重視する姿勢を持って総会に臨んでいるということである。総会はできるだけ短く、質問の回答もできるだけ簡潔にし、余計なことは言わないことを良しとしていた時代とは隔世の感がある。 株主総会における経営陣と出席株主との質疑応答は、個人株主を対象としたIRと類似しつつあるようで、まさに「開かれた株主総会」に変わってきたと感ずる。 決算説明会や株主総会で使用する資料は、実績の説明が主となるので経理部が中心となって作成する会社が多いが、心がけるべき点は「透明度の高い説明責任を果たす」ということに尽きる。 法定開示では実績を前期と比較して説明するのが通常であるが、例えば、さらに計画との比較を行うとか、中期経営計画の進捗状況を加えることにより、株主や債権者などのステークスホールダーにとって、会社の現在から将来を見通すうえでの助けとなるのだ。 事業に必要な資金(エクイティやデット)の出し手である株主や債権者、さらには資金を使って価値を生み出す力となる役職員などが、会社の経営についてPDCAサイクルで適切に評価するためにも、このような一歩踏み込んだ報告が必要なのである。 《総合商社のIR》 日本における企業のIR(インベスター・リレーション)活動は、1990年代後半から急速に広まったと言われている。筆者が米国から1992年に帰国した時には、既に経理部内にIR担当者が置かれていたし、商社のIR担当者の集まりが定期的にあったから、商社でのIR活動は他社に比べて先行していたようだ。 当時は国内の証券アナリストや機関投資家が主な対象者であり、海外の投資家や国内の個人投資家を対象としてIRを行うようになるのは、もう少し先であった。 日本IR協議会のホームページでは、IRについて次のような説明がある。 筆者は部長、取締役として長年IRの仕事に関与してきたが、次のようなことを常に念頭において取り組んできた。 それは、 という認識である。 また、IR活動が個人投資家から外国人投資家まで、短期保有目的から長期保有目的の投資家まで広範囲の投資家を対象とするようになると、会社からの説明もそれらに対応した内容が求められる。とは言っても、すべての投資家に共通して求められるのは、会社の成長戦略と適切なリスクマネジメントについての具体的な説明である。 住友商事の海外IRは2000年9月が最初であった。社長に同行した米国での最初の海外IRでは、投資家から種々の経営課題について質問を受けたが、IRミーティングでのやりとりは、説明する会社側のトップにとっても勉強になるところが多かった。 当時、住友商事ではリスクリターン指標を導入して事業の集中と選択を進めていたが、リスクを定量化してリスクに見合ったリターンをすべての事業に要求し、目標とするリスクリターンは株主資本コストを上回るレベルとするという経営方針は、多くの投資家の理解を得た。 リスクリターン指標はその後の経営改革の背骨になっているが、社内の英知を結集して開発した「共通のモノサシ」であるリスクリターンが欧米の投資家から評価されたことは、我々の背中を強く押してくれた。 しかしながら、未だ納得のいかない外人投資家からの意見もあった。 総合商社のROEや収益率が低いのは、事業が広がりすぎているからで、特定の事業にもっと絞り込むべきであるというコメントを多くの外国人投資家からいただいた。総合商社という事業形態が日本固有のものであり、欧米に存在しなかったことも影響していたと思うが、総合商社の評価が「コングロマリット・ディスカウント」されているというのである。 我々は、ディスカウントではなく「コングロマリット・プレミアム」だとし、種々の機能を持つ総合商社のバリューチェーン展開による新たな価値創造などについて説明したが、なかなか理解を得られなかった。 当時は確かに事業投資に対するディシプリンが十分でなかったが、その後の共通の評価尺度により事業の集中と選択をスピーディーに進めた結果、総合商社は総合事業会社として国内外で広く事業を展開する現在の形へとつながっている。 このように、市場の声に耳を傾ける姿勢は大切であるが、それらはあくまでも第三者としての意見であり、鵜呑みにする必要はない。これらを取捨選択して対応する姿勢が、より大事なのである。 各社のホームページを見ると、多くの会社がIR活動にかなりのスペースを使って説明しており、年々充実しているようだ。各社とも投資家との対話を重視しIRに力を入れている姿勢がうかがえる。さらに、IRは社長はじめ経営トップと仕事を共にする機会が多く、会社の経営方針やグループ全体の事業を鳥瞰できることから、経理、財務、営業などから若手をローテンションさせて、人材育成の場として活用している会社も多くみられる。 IRにおける業務経験は、広い視野を持った戦略的思考のできる人材を育てるのに役立つはずである。 (了)
私が出会った[相続]のお話 【第7回】 「遺産分割協議でまず優先すべきは、〇〇〇への相続」 ~当家にとって本当に大切なことを見極める『公平な仲介役』に~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔長い付き合いだからこそ、できるアドバイスがある?〕 ある時、家庭裁判所から「遺言信託」に関する講演依頼がありました。 聞き手は、家裁に勤務し、主に遺産分割協議の調停を行う調査官や書記官の人たちです。 なぜ私にお声掛りがあったのかと問い合わせますと、彼らの日常勤務において信託銀行が絡む相続事案には問題が少なく、その理由や円満な解決に導く秘訣をレクチャーしてもらいたいとのことです。 そういえば私も時々クライアントとともに、自筆証書遺言書の検認手続や後見人の申請手続等で家庭裁判所に行きますが、遺産分割協議が取り交わされるフロアは、いつも一種独特の雰囲気で関係者が集まっておられます。 そこで私は、信託銀行が円満に分割協議をまとめる要因を考えてみました(決して信託銀行のPRでありません)。 上記の内容をもとに、遺産分割協議をスムーズに進めるための方法をまとめると、このようになります。 これらのことはいずれも、担当税理士としても、同様に対処できる事項であると思います。 それでは次に、私なりのクライアントを説得する『分割協議における優先順位』を述べてみましょう。 〔クライアントを説得する私なりの優先順位〕 第1番目 「まず配偶者に相続させる。」 遺産分割協議の場において、私自身、必ず相続人(子供)たちに申し渡す言葉があります(特に配偶者である母親が健在の時)。 と、このようにお伝えしています。 第2番目 「家を引き継ぐものに多く相続させる。」 特に旧家や名家の相続に関しては、昔からの家主体の考え方が残っています。 すなわち、この家を未来永劫継続発展させるためには、誰が承継すればよいのか。昔からの先祖のお守や祭祀は誰がやるのか? 最近は「本家・分家など、古臭い」と言われる方も増えましたが、まだまだ家の仏壇のお祭りや何回忌等の際には、親戚一同顔を合わせるのではないでしょうか。 その世話をする人には、ある程度の負担に見合う額を、多少は多めに分配しても良いと思うのですが・・・。 ましてや故人と相続人の一人が共同で事業を発展させた場合などは、その相続人を他の相続人の取り分と同等に扱うことは、むしろ不平等とは思いませんか? 第3番目 「二次相続も考えて節税策を講じる。」 例えば、配偶者である妻に多額の固有財産がある場合や、配偶者が夫の場合(通常は夫には固有財産が多い)は、第1番目の「まず配偶者に相続させる。」を選択すると、二次相続に際しては相続人数も減少し、相続財産額も多額となります。 その結果当然のことですが、税率も高くなります。 このような場合は、一次相続と二次相続の合計相続税額を比較し、そのうえで子供たち等へ遺産分割を行うよう判断することが大切です。 特に来年以降の相続税増税を控え、具体的な税額数字を算出し考えることが必要になります。 第4番目 「法定相続割合で遺産を分割する。」 この方法は、あくまで最後の手段です。 基本的には一番公平な方法なのですが、当然のことながら、残された親の面倒や、仏壇・墓等の祭祀やお守は誰が行うのでしよう? 私は、このケースでは必ず相続人全員に 「みなさん! 遺産をもらった限りは、お母さん(又は実家)が万一の時は、全員が面倒をみる義務があるのですよ!」 とお伝えするようにしています。 * * * 以上、分割協議における4つの優先順位を掲げましたが、これらを踏まえて、実際にスムーズな相続処理が行われた事例をご紹介しましょう。 〔察知した争続の予感・・・〕 Tさんは10数年前に夫を亡くし、その折、知人の紹介で私宛てに遺産整理業務を依頼されました。 当家の子供たち(4人)はいずれも母親思いでしたが、兄弟仲は必ずしも良くなく、将来の「争族」を予感させました。 この時は、亡夫の財産のうち居宅が大きな割合を占め、母親が引き続き居住する関係から子供たちへの分割も難しく、一次相続における遺産分割は配偶者主体となりました。 それから何年か経ち、Tさんから相談の依頼がありました。 その内容は、長男から「二世帯住宅を新築し、同居しないか」との提案を受けたとのことです(ただし建築資金は母親充当)。 どうやら次の相続を見越して、長男が布石を打つ模様です。 このままでは将来、争いごとになること必至です。 そこで私は、次のような提案をしました(事前の交通整理ですね)。 【もともとの居宅地の形状】 ◆100%本人(母親)所有 ◆当初このまま二世帯住宅への建替えを検討(長男) 【遺言作成のための分筆後の形状】 *遺留分:300坪×1/4×1/2=37.5坪 *実質:180坪×1/3=60坪 〔思いは伝わった。それでも・・・〕 それから数年後、Tさんが亡くなられました。 二次相続においても、引き続き第三者としての私の主導のもと、遺言執行が進められ、また、遺言作成に至る生前のTさんの思いを披露することができました。 いかがでしょうか。 本件の相続対応を振り返ってみますと、ほぼ上述した要素が絡んでいます。 ただし、金銭面においては、同居時における母親の金銭の出入りについて、長男に対し他の兄弟から徹底的なチェックがあり、一時は険悪な雰囲気となりました。 見かねた私が 「亡くなったお母さんは今頃天国で、『こんな子供たちを生んだ覚えはない!』と嘆いておられますよ!!」 と申し上げるほどでした。 事前の交通整理をしていなければ、いったいどのようになっていたのやら・・・ (了)
《速報解説》 「企業内容等の開示に関する留意事項について (企業内容等開示ガイドライン)」等の改正案が公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年6月30日、 金融庁は「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」等の改正案を公表し、意見募集を行っている。 これは、金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書の提言及び同ワーキングにおける議論を踏まえた改正案である。 意見募集期間は、平成26年7月30日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 次のガイドラインを改正する提案である。 1 届出前勧誘に該当しない行為の明確化 有価証券の募集・売出しに係る届出の前において、「勧誘」は禁止されているが、上記のワーキングにおける議論に従い「勧誘」に該当しない行為を明確にする。 企業内容等開示ガイドラインの改正案の「取得勧誘又は売付け勧誘等に該当しない行為」2-12では、有価証券の取得勧誘又は売付け勧誘等には該当しないケースについて例示されている。 2 「特に周知性の高い企業」による届出の効力発生までの待機期間の撤廃 「特に周知性の高い企業」による有価証券の募集・売出しに係る届出の効力発生までの待機期間を撤廃することとし、上記のワーキングにおける議論に従い「特に周知性の高い企業」に該当する者の要件を定める。 企業内容等開示ガイドラインの改正案の「特に周知性の高い者による届出の効力発生日の取扱い」8-3では、金融商品取引法8条3項の規定により、直ちにその届出の効力を生じさせることができる要件が規定されている。 Ⅲ 公表日 改正後の規定は、本年8月下旬以降に公表する予定である。 (了)
《速報解説》 「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける 借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(確定)について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年6月30日付で、 企業会計基準委員会は、「リース手法を活用した先端設備等投資支援スキームにおける借手の会計処理等に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第31号)を公表した。 これは、経済産業省が制定した「リース手法を活用した先端設備等導入促進補償制度推進事業事務取扱要領」(平成26年3月3日制定)3条7号におけるリース契約に基づくリース取引について、借手の会計処理及び開示に関する実務上の取扱いを示したものである。 これにより、平成26年3月7日に意見募集が行われていた公開草案が確定することになる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 基本的に、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号。以下「リース会計基準」という)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号。以下「リース適用指針」という)に従って会計処理及び開示を行うことになる。 実務対応報告第31号の検討の対象に含まれなかった、契約変更時の借手の会計上の取扱いについては、別途、定める予定であることが述べられている(実務対応報告第31号、13項)。 1 特徴 本スキームは、次の特徴をもっている。 2 範囲 経済産業省が制定した「リース手法を活用した先端設備等導入促進補償制度推進事業事務取扱要領」(平成26年3月3日制定)3条7号におけるリース契約に基づくリース取引であり、「リース手法を活用した先端設備等導入促進補償制度推進事業実施要領」(平成26年3月3日制定)第4の4に基づき基金設置法人とリース事業者(貸手)により締結された先端設備等導入支援契約に基づくものに係る借手の会計処理及び開示を対象としている。 3 会計処理 ① ファイナンス・リース取引の判定基準は、他のリース取引と同様に、リース適用指針に基づいて行う。 ② 再リースに係るリース期間又はリース料を解約不能のリース期間又はリース料総額に含めるかどうかについても、他のリース取引と同様に、リース適用指針に従う。 ③ リース取引開始日後にリース取引の契約内容が変更された場合、ファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かの判定を再度行う(これ以外の場合、当該判定をリース期間中に再度行うことは要しない)。 ④ 変動リース料については、リース取引開始日において、借手により示されている合理的な想定稼働量を基礎とした金額により、リース会計基準及びリース適用指針に定めるリース料総額に含めて取り扱い、次のような場合に考慮されることになる。 ファイナンス・リース取引の判定 ファイナンス・リース取引と判定された場合の、リース資産及びリース債務として計上する価額の算定 リース料は、以下のいずれかとして設定される。 なお、実務対応報告第31号に定めのない事項については、リース会計基準及びリース適用指針の定めに従って会計処理する。 4 開示 変動型又はハイブリッド型について、オペレーティング・リース取引と判定された場合、リース会計基準22項に定める解約不能のものに係る未経過リース料の注記に、貸借対照表日における借手による合理的な見積額に基づく変動リース料の未経過分を含める。 なお、実務対応報告第31号に定めのない事項については、リース会計基準及びリース適用指針の定めに従って開示する。 Ⅲ 適用時期 適用時期は、公表日(平成26年6月30日)以後適用する。 (了)
《速報解説》 相続税法基本通達の一部改正が公表 ~単独での管理処分不適格財産も組み合わせにより物納可能に~ 税理士 齋藤 和助 国税庁はこのたび、「相続税法基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」を公表した(平成26年6月2日、徴管6-17)。 具体的には、相続税法基本通達42-5に以下のアンダーライン部分が追加された。 物納は、その財産ごとに許可又は却下の判断が下されることとされていたが、上記アンダーライン部分の追加により、単独であれば管理処分不適格財産に該当してしまい、物納が認められない不動産であっても、他の不動産と併せて申請することにより、管理処分不適格財産に該当しなくなれば、これらを併せたところで物納が認められることが明示された。 なお、不動産のうち、管理処分不適格財産とは以下をいう(相令18①)。 例えば、借地権が設定されていない敷地にある建物単独では上記(ト)により、管理処分不適格財産となり、物納は認められない。しかし、その敷地とともに物納申請を行えば不適格財産に該当しなくなり、物納が認められることになる。 管理処分不適格財産は上記相続税法施行令第18条と相続税法施行規則第21条に限定列挙されていることから、物納が想定される相続人が存在する場合には、これらの内容を熟知し、組み合わせによる物納も視野に入れたアドバイスが必要である。 (了)
《速報解説》 日本再興戦略について -企業会計に関連して- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年6月24日、「日本再興戦略」改訂2014が閣議決定され、「「日本再興戦略」改訂2014―未来への挑戦―」が取りまとめられている。 「日本再興戦略」では多くの事項が取り上げられているが、本稿では、企業会計に関連する部分を紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話の促進 「持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話の促進」において、次の事項が記載されている(第二、一、1(3)ⅰ)⑥)。 2 IFRSの任意適用企業の拡大促進 「IFRSの任意適用企業の拡大促進」として次の事項が記載されている(第二、一、5-2(3)ⅰ)④)。 3 企業の競争力強化に向けた取組 監査の質の向上、公認会計士資格の魅力の向上に向けた取組を促進することが記載されている(第二、一、5-2(3)ⅰ)⑤)。 (了)
《速報解説》 新規上場時の有価証券届出書・IFRSによる有価証券届出書に関する 「企業内容等の開示に関する内閣府令の改正(公開草案)」について 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年6月25日、 金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 主な改正内容は、①新規上場時の有価証券届出書に掲げる財務諸表の年数短縮と②非上場のIFRS適用会社が初めて提出する有価証券届出書に掲げる連結財務諸表の年数についてである。 意見募集期間は、平成26年7月25日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 以下についての改正案であり、第二号様式、第二号の四様式、第二号の六様式、第三号様式、第四号様式、第四号の三様式、第五号様式が改正される。 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令」も改正され、IFRSに準拠して作成した連結財務諸表の監査における、比較情報に係る意見表明の方法に関して規定される予定である。 1 新規上場時の有価証券届出書に掲げる財務諸表の年数短縮 有価証券届出書に掲げる財務諸表の年数を5事業年度分から2事業年度分に短縮する改正案である。 これは、平成25年12月に公表された金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書の提言を踏まえたものである。 2 非上場のIFRS適用会社が初めて提出する有価証券届出書に掲げる連結財務諸表の年数 非上場会社が初めて提出する有価証券届出書にIFRSに準拠して作成した連結財務諸表を掲げる場合には、最近連結会計年度分のみの記載で足りるとする改正案である。 3 その他 「企業内容等の開示に関する内閣府令」の「臨時報告書の記載内容等」に関して、「当期純利益」を「親会社株主に帰属する当期純利益」(19条2項19号)へ改正したり、第二号様式の「主要な経営指標等の推移」における「当期純利益金額又は当期純損失金額」を「親会社株主に帰属する当期純利益金額又は親会社株主に帰属する当期純損失金額」へ改正したりする予定である。 Ⅲ 適用時期 改正後の規定は、本年8月下旬に公布・施行する予定である。 (了)
2014年6月26日(木)AM10:30、Profession Journal No.75 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例15(相続税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 被相続人甲の相続税の申告に際し、遺産の範囲及び分割の方法について相続人間(A、B、C、Dの4名)で分割がまとまらず、当初申告を未分割で行い、同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した。 その後、遺産分割が裁判に持ち込まれ、長期化してしまい、審判確定までに3年超を有してしまったため、3年を超えた場合に提出する「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すべきところ、これを失念した。その結果「配偶者の税額軽減」及び「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用が受けられなかった。 これにより、特例により減額できた金額400万円につき損害賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成X0年5月に被相続人甲死亡。 平成X1年3月に相続人Aの弁護士より相続税申告業務を受任。 平成X1年3月に相続税の申告及び「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出。 平成X4年5月が期限の「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出を失念。 平成X5年7月に審判確定により遺産分割が確定。 平成X5年9月に相続人B、C、Dの税理士より連絡があり失念が発覚。 《基礎知識》 ◆遺産が未分割の場合 「配偶者の税額軽減」(相法19の2)及び「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(措法69の4)は、未分割遺産については適用がない。ただし、申告書提出時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、3年以内に分割が整えば適用を受けることができる(相規1の6③二)。 さらに、3年経ってもなお分割が整わない場合には、3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、分割が整ってから4ヶ月以内に更正の請求等をすれば、その適用を受けることができる(相法19の2②、相令4の2②、措令40の2⑬)。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 税理士は、期限内申告書提出時に「申告期限後3年以内の分割見込書」は提出したが、その後、裁判が長期化したにもかかわらず、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することを失念してしまい、結果として「配偶者の税額軽減」及び「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用が受けられなくなってしまった。 税理士は審判確定後に、他の相続人らの税理士から連絡を受けて、初めてその事実に気づいた。提出期限までに上記申請書を提出していれば上記特例の適用は受けられたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 依頼者又は弁護士から定期的に連絡をもらう 毎年申告がある所得税や法人税と比べると、相続税の申告業務は、納税者たる相続人との関係が希薄であることが多い。したがって、分割されるまで定期的に分割協議や調停等の進捗状況を確認する方法や、相続人から報告を受ける方法を決めておく必要がある。これにより、上記申請書や更正請求書の提出失念を防止することができる。 [ポイント②] 契約書等を取り交わす 相続税の申告のような、継続的な関与が行われない単独の業務を受任する場合には、口頭での約束だけで、契約書等の書面による契約を取り交わさないケースも散見される。 しかし、本事例のように、当初申告だけで完結せず、その後3年以上もの長期にわたるような場合には、必ず契約書等を取り交わし、受任範囲を明確にしておく必要がある。 その際、上記の報告を、依頼者が税理士に対してすべきこと、及びその報告方法も明記しておくべきであろう。さらに、依頼者から報告がなかった場合や報告が誤っていた場合の責任についても明記しておけば、その後の賠償請求を回避できる可能性もある。 (了)
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第4回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)④」 公認会計士 佐藤 信祐 第2回目、第3回目においては、【争点1】及び【争点2】についての原告及び被告の主張について解説を行った。第4回目に当たる本稿においては、裁判所がどのような判断を行ったのかについて解説を行い、次回以降はその評釈を行う予定である。 判決文全体を閲覧すると、最終的には被告が勝訴しているが、被告が主張した理論構成ではなく、異なる理論構成により判決がなされており、法的三段論法のうち小前提たる事実の当てはめについては、どちらかというと原告の主張を一部認めた形となっている。 (7) 裁判所の判断 ① 法人税法132条の2の意義【争点1】 法132条の2が設けられた趣旨、組織再編成の特性、個別規定の性格などに照らせば、同条が定める「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、(ⅰ)法132条と同様に、取引が経済的取引として不合理・不自然である場合〔最高裁昭和50年(行ツ)第15号同52年7月12日第三小法廷判決・裁判集民事121号97頁、最高裁昭和55年(行ツ)第150号同59年10月25日第一小法廷判決・裁判集民事143号75頁参照〕のほか、(ⅱ)組織再編成に係る行為の一部が、組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足し、当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有するものの、当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含むと解することが相当である。 このように解するときは、組織再編成を構成する個々の行為について個別にみると事業目的がないとはいえないような場合であっても、当該行為又は事実に個別規定を形式的に適用したときにもたらされる税負担減少効果が、組織再編成全体としてみた場合に組織再編税制の趣旨・目的に明らかに反し、又は個々の行為を規律する個別規定の趣旨・目的に明らかに反するときは、上記(ⅱ)に該当するものというべきこととなる。 ② 法人税法施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について、法132条の2の規定に基づき否認することができるか否か【争点2】 特定役員引継要件は、一般に、合併法人のみらず被合併法人の特定役員が合併後において特定役員に就任するのであれば、合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続していると評価することが可能であるという考え方を基礎として設けられたものと解される。 みなし共同事業要件に係る特定役員引継要件が、特定役員引継要件に形式的に該当する事実さえあれば、組織再編成に係る他の具体的な事情を一切問わずに(すなわち、例えば、①特定資本関係発生以前の時期における当該役員の任期、②当該役員の職務の内容、③合併後における当該役員以外の役員の去就、④合併後における事業の継続性や従業員の継続性の有無、⑤合併により引き継がれる事業自体の価値と未処理欠損金額との多寡、⑥被合併法人と合併法人の事業規模の違いなどの事情を一切問わずに)、未処理欠損金額の引継ぎを認めるべきものとして定められたとはいえず、特定役員引継要件に形式的に該当する事実があるとしても包括否認規定を適用することは排除されないと解することが相当である。 施行令112条7項5号が定める特定役員引継要件については、それに形式的に該当する行為又は事実がある場合であっても、それにより課税上の効果を生じさせることが明らかに不当であるという状況が生じる可能性があることを前提に規定されたものであるというべきであるから、組織再編成に係る他の具体的な事情(上記で例示したもののほか、事案によってはそれ以外の事情も含まれ得る)を総合考慮すると、合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続しているとはいえず、同号の趣旨・目的に明らかに反すると認められるときは、法132条の2の規定に基づき、特定役員への就任を否認することができると解すべきである。 特定役員引継要件(施行令112条7項5号)の観点からみると、①丙氏が副社長に就任してから本件買収により特定資本関係が発生するに至るまでの期間はわずか約2ヶ月であり、極めて短い。また、②丙氏がC社の副社長に就任したのは本件買収及び本件合併に係る本件提案を受けた後であること、丙氏がC社の副社長として実際に行った職務の内容は本件提案に沿ったものであり、本件提案と離れて、C社における従来のデータセンター事業に固有の業務に関与していたとは認められないこと、丙氏は、副社長就任の約1ヶ月後には本件買収及び本件合併を行う意思を固めつつあったことに照らすと、丙氏は、上記の2ヶ月の間、本件買収後に予定されていた事業の経営とは無関係に、C社の従来のデータセンター事業に固有の経営に関与していたと評価することはできない。③他方、C社がデータセンター事業を開始して以来、C社の経営を担ってきた丁氏などの役員は、いずれも、本件合併後、原告の役員には就任することが予定されておらず、原告の役員に就任する事業上の必要性がないとされ、実際にも就任せず、データセンターの設備投資に関する権限も縮小されたことが認められる。 以上の諸点からすると、本件においては、特定役員引継要件が形式的には充足されてはいるものの、役員の去就という観点からみて、「合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続している」という状況があるとはいえず、施行令112条7項5号が設けられた趣旨に全く反する状態となっていることは明らかである。 本件副社長就任は、特定役員引継要件を形式的に充足するものではあるものの、それによる税負担減少効果を容認することは、特定役員引継要件を定めた施行令112条7項5号が設けられた趣旨・目的に反することが明らかであり、また、本件副社長就任を含む組織再編成行為全体をみても、法57条3項が設けられた趣旨・目的に反することが明らかであるということができる。したがって、本件副社長就任は、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当すると解することが相当である。 ③ 総括 このように、【争点1】については、従来から言われていた「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの」も含めると判示しており、最高裁において同様の判断が下された場合には、過去の判例・通説と比べると、かなり大きな変化になると考えられる。 しかしながら、【争点1】の判断については、どちらかというと学術的な側面が強く、実務的には、少なくてもストラクチャー構築段階では、制度の趣旨・目的を理解したうえで条文解釈し、保守的な運用を行っていくというのはある意味当然のことであるため、それほど大きな影響はないのかもしれない。 これに対し、【争点2】については、前回解説したように、当事者間においては、副社長への就任の経緯や就任後の実態を争っていたにもかかわらず、裁判所の判断としては、副社長としての実態は認めつつも、実際に行った職務の内容は買収・合併に係る提案に沿ったものであったことから、「合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続している」という状況があるとはいえないという理由により、特定役員引継要件が設けられた趣旨に反するとしたうえで、包括的租税回避防止規定を適用することが可能であると判示しているため、被告の理論構成と異なるものになっているという点で興味深い。 さらに、「副社長就任の約1ヶ月後には本件買収及び本件合併を行う意思を固めつつあった」としているため、逆に言えば、副社長就任時には本件買収及び合併を行うことが確定していなかったことも認めているため、原告の主張の通り、「後付けの結果論」であるともいえ、全体として経済合理性のある取引であったとしても、制度趣旨に反する課税関係になるのであれば、包括的租税回避防止規定を適用することができるとも読める内容となっており、理論構成としてはかなり乱暴であるという印象も受ける。 次回以降においては、判例についての具体的な評釈を行っていく予定である。 (了)