年俸制と裁量労働制 【第2回】 「年俸制の支払方法」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 年俸制の支払方法の類型 年俸制は、文字通り「年」を単位として給与を支払うというものであるが、支払方法は企業によっていくつかの方法に分けられる。 年俸制は、本来、労働時間に関係なく、労働者の成果や業績に応じて賃金額を決定しようとする賃金制度であるが、労働基準法では労働時間を基本とした規制をしているため、たとえ年俸制を導入した場合であっても、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、時間外手当を支払わなければならない。 年俸制における割増賃金計算の方法 上記のようにいくつかの支払方法があるが、それぞれの支払方法によって、割増賃金計算時の単価算出の方法が異なってくる。 割増賃金の計算基礎となる時間単価を計算する際には、原則として年俸額を年間所定労働時間数で割り、1時間あたりの賃金を算出する。 年俸制では、年俸額に賞与相当額を含む場合と含まない場合があるが、この賞与の扱いによって、時間単価の算出が異なってくる。 例えば、年俸額の16分の1を月額給与として支給し、16分の4を二分割して6月と12月に賞与相当として支給するといった取り決めがされている場合、原則として、「賞与」は割増賃金の算定基礎から除外される。 しかし、年俸制を決定する時点で、毎月支給する分と賞与とを合計し、あらかじめ支給額が確定している場合、この「賞与」は、労働者の勤務成績や会社の業績等に応じて臨時に支給される、通常の「賞与」とはみなされず、賞与部分を含めた年俸額を算定基礎として割増賃金を支払う必要があるとされているので注意が必要である(労働省通達H12.3.8基収第78号)。 契約期間途中で退職した場合 年俸制が適用されている労働者が契約期間途中で退職した場合、月例賃金は所定の支払期日に賃金請求権が発生するものと解されるため、退職月の月例賃金は、特段の定めがなければ既往の労働については日割りすることになり、支払方法は労働基準法第23条(金品の返還)又は第24条(賃金の支払)の定めるところによるものとなる。 また、退職後の月例賃金については、年俸制だからとはいえ退職・解雇など労働契約が終了し、それ以降労働を提供していない場合は、特段の定めがない限り、退職労働者に賃金請求権はないと解される。万が一のトラブルを考慮し、雇用契約書で退職後の賃金の取扱いについて定めておくのが良いであろう。 一方、年俸額に賞与相当分が含まれている場合は、当該年度始めから退職月までの月数又は日数に応じた部分について、労働契約終了時に賃金請求権があると解せられ、年俸額全額を、既往の労働日数に応じて日割計算し、既支払額を差し引いた残額を支払わなければならないことになる。 * * * 次回は、裁量労働制の種類についてお伝えしたい。 (了)
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第23回】 「原価管理のKPI (その① 原価予算策定)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回までは「固定資産管理」のKPIを取り上げたが、今回から4回にわたり、「原価管理」のKPIを取り上げる。 原価計算は、販売収益である売上高に、棚卸資産である製品・商品の製造原価又は仕入原価を対応させる計算手続である。棚卸資産の取得価額を算定する手続と棚卸資産原価を売上原価対応部分と期末棚卸資産在庫高部分に配分する手続により、製品・商品・サービス1単位あたりの原価を計算する。 原価管理は、原価計算を行うことを前提に、目標とする原価を定め、目標原価と実際原価の差異要因を見極め、原価を一定の範囲内に抑えるという明確な意図を持った戦略的な活動である。 今回は、原価管理の入り口となる原価予算策定から、最も基本的なKPIを取り上げる。 なお、スコアリングモデルでは、原価管理の領域は、財務諸表作成目的の原価計算に限らず、狭義の原価に加えて販売管理費も含めたコストの管理活動に及ぶと考えているため、原価管理のKPIは、財務諸表作成目的で原価計算を行う製造業だけでなく、流通業やサービス業等の非製造業の会社も回答することを想定している。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、原価管理において、会社が担う一般的な機能として、「予算策定」と「実績管理」を挙げている。 「予算策定」は、原価予算策定という機能で構成される。 今回解説するKPIは、「予算策定」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:原価管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「原価予算策定」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:6.1.1参考データ提供〉 〈経済産業省スタンダード:6.1.2製造原価予算検証〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) まず、原価予算策定に必要な参考データを提供する。会社が策定した生産販売計画を達成するために必要な原価を算定するため、製造原価、販売費、一般管理費といった原価要素を洗い出し、過去の生産販売実績による能率と操業度等に関する財務データと価格等に関する外部データを収集し、原価予算の参考データを作成する。また、間接材料費、間接労務費及び間接経費といった間接費の配賦に使う配賦基準について、生産販売実態に即した配賦基準になっていることを確認する。 次に、予算策定年度における原価要素を直接費と間接費、さらに必要に応じて、材料費、労務費、経費といった機能別に分類する費目別集計を行い、それを原価部門別に集計し、最終的に一定の製品単位別に集計して予算原価を策定する。そして、この予算原価の実現可能性を検討し、最終的な原価予算案として承認する手続を経る。 今回のKPIは、端的に、このような原価予算策定の業務プロセスが、製造業だけでなく、非製造業においても運用されているか否かを問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「コスト」とは、製造活動で発生する製造原価だけでなく、販売、一般管理、研究開発等企業活動の全領域で発生する総原価をさす。 原価でなく、「コスト」と呼ぶのには理由がある。 まず、顧客の需要が複雑化、多様化する中、原価計算の現代的意義が、従来型の財務諸表作成という目的から、原価低減や予算管理を通じた経営戦略への貢献に変遷していることに留意いただきたい。このような原価計算の現代的意義に鑑みれば、原価の定義付けは、経営管理目的に関連して合目的的に行われるのがふさわしいと考えられる。 つまり、経営者が管理したい対象を原価として定義するという意味である。そして、通常の会社では経営管理の対象が企業活動の全領域に及ぶから、管理対象は総原価であるべきという意図で「コスト」と呼んでいるのである。 「目標コストを設定」とは、採用する原価計算制度を問わず、製品・商品・サービス1単位あたりの原価標準を設定していることをさす。 通常、標準原価計算を採用している場合は、製造に要する材料費、労務費、経費等の消費価格及び消費量の標準を科学的統計的調査に基づいた能率の尺度となるように予定し、かつ予定価格又は正常価格によって原価標準を設定しているので、「目標コストを設定」していることになるが、必ずしもこれに限らない。 例えば、実際原価計算を採用する場合に、必ずしも科学的統計的調査に基づかなくとも、予定価格、予定作業能率、予定操業度等を用いて予定原価を計算し、原価標準を設定していることも「目標コストを設定」していることに含まれる。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、適正な価格設定を通じて、価格競争力を高めるため、提供する製品・商品・サービスの目標とする原価標準を設定することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 目標原価標準の設定を通じて、企画、研究開発段階の源流まで遡った価値連鎖全体にわたった原価企画の目標が定まり、コスト低減に向けた具体的行動が明確になる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、製品・商品・サービス1単位あたりの原価標準を設定していない場合、自社が競争で優位となる価格をいくらに設定するべきかという戦略的な判断ができなくなるだろう。 とりわけ、その会社が多種多様な製品・商品・サービスを提供している場合、それらにかかるコストの管理をきめ細かく行うことができないどんぶり勘定となってしまうため、効果的な価格設定を見誤り、不利な競争を強いられる可能性がある。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、原価予算策定の業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、経理規程、管理対象部門の予算を閲覧し、管理すべき原価の範囲、原価標準の計算方法が定められ、当年度の原価標準が設定されていることを確認していただきたい。 さて、読者の顧問先において、製品・商品・サービス1単位あたりの目標コストを設定していたであろうか。 * * * 次回も、引き続き「原価管理」を構成する複数のKPIから、原価予算によって設定した製品・商品・サービス1単位あたりの「目標コスト改定」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第11回】 「コンサルの仕事って、 そんなにおいしい仕事なの?」 株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和 開業仕立ての若手会計人の多くが、“コンサルティング”という言葉を名刺に入れて仕事をされています。そして前回も書きましたが、「これからの時代は税務じゃなくてコンサルだ」と言っておられます。 ここまでは良いのですが、ろくに税務のことを知らないで、税務をやっている人を軽蔑するかのような話をするのは、いただけないようです。 税務顧問料が月額5万円で、コンサルタント料が月額30万円なら、確かにコンサルタント料がすごい金額であることは事実です。 ただし、30万円のコンサルは契約期間があって、一定時期をもって契約終了となります。しかし税務の仕事は、よほどのことがない限り続いていくものです。 半年ほどの契約であれば、月100万円もらっていても、次から次へと新規が入ってこない限り、事務所の経営はたいへんになってきます。 社員がコロコロと辞めていく事務所の中には、コンサルのようなスポット取引中心のところが多いようです。 一方、税務の仕事は、月額5万円とかで確かに地味な仕事です。しかし、決算料など毎年必ずもらえますし、失敗がなければずっと続いていく業務です。 そのため事務所の経営計画や資金計画が立てやすく、その意味ではありがたい仕事なのです。 このありがたさを今ひとつ分かっていない会計人が、少なからずおられるのです。 私は公認会計士ですが、43名ほどの税務中心の税理士法人を営んでいます。そして、税務の収入だけで経営計画をつくって経営しています。 社員も長いキャリアの人が多く、ほとんど退社しません。相続やコンサルの収入をアテにしない経営をしていますので、事務所自体が安定するのです。 税務の顧問料も、ある程度の客数と良いお客様を見つけていくことによって、数多くのおいしい部分があるものです。 こんなことを言っている私ですが、30年ほど前に、コンサルティング会社からの誘いに乗ってコンサルを始めました。当時は全国的なブームとなって、コンサル時代の到来になったのです。 私も300万円ぐらいのお金を使ったように記憶していますが、全国のほとんどの会計人が失敗し、そのコンサル会社も倒産してしまいました。 コンサルを絶対的なものだと思っておられる会計人は、ぜひ、私のように失敗しないよう、気をつけていただきたいと思います。 (了)
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第9回】 「“良い”事務所ホームページって、どんなページ?」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 前回まで2回にわたり「最低限、これだけはすぐに直しましょう!」という、いわば“ダメな事務所ホームページ”についてお話してきました。 それでは皆さん、逆に“良い事務所ホームページ”って、どんなページだと思いますか? そこで今回からは、良い事務所ホームページの見せ方・作り方についてお話します。 * * * この連載の【第1回】冒頭でもお話しましたが、開業している税理士や公認会計士が事務所のホームページを公開する目的は1つ、「集客」です。 したがって、「良いホームページ」とは、「集客に役立つホームページ」ということになります。 もちろん、どのように役立ってほしいのかは、事務所により違いがあることと思います。ここでは、その目的を2つに分けてお話しましょう。 まず〔目的1〕ですが、これは、あなたの能力や人柄を高く評価している人が、税理士や公認会計士を探している人に、あなたを紹介してくれた場合です。 紹介を受けた人は、ほぼ100%、あなたの事務所のホームページを確認します。 その時に、前回までお話してきたダメなホームページだと 「せっかく紹介してもらったけど、これではちょっとな・・・」 なんて思われてしまうかもしれません。しかしここでは、ダメなホームページはすでに直したとして、一歩進んで良いホームページを考えてみましょう。 といっても、それほど難しい話ではありません。 紹介を受けた人の場合、最初から好意的に見てくれていますし、あなたについてある程度の予備知識を伝えられているはずだからです。 そのため、ホームページにおいては、あなた自身又はあなたの事務所が、誠実で、仕事ができて、信頼できることをアピールできれば充分です。 そのためには、内容としては、「名前」「経歴」「住所」「連絡先」などの、あなたやあなたの事務所についての基本的な情報が漏れなく正確に掲載されていて、さらに仕事に対するモットーや得意分野などが掲載されていれば充分です。 また、デザイン的には明るく堅いイメージがふさわしいでしょう。 ここで【第3回】において、自作のホームページやブログ型のホームページについて、「素人っぽいイメージになるので専門性をウリする士業のホームページにふさわしいかどうか意見が分かれるところです」と、ちょっとネガティブにお話しましたが、この〔目的1〕の場合には、ふさわしい場合もあります。 というのは、 「素人っぽくて親しみがもてる先生だよ。」 という紹介かもしれないからです。 そのあたりは、あなたがご自分をどのようなイメージでアピールしていこうと考えているのかによって変わってきます。 * * * 次に〔目的2〕「ホームページを潜在顧客が見て、仕事の問い合わせが来ることを望んでいる。」ですが、これには定番の方法として、以下の2つがあります。 今回は上記①のホームページについてご説明し、②については次回に譲ります。 ①においては、ホームページに、あなたや事務所メンバーの経歴や個性、事務所の日常はどのようなものか、などということまで掲載します。ホームページ内にブログを開設して、事務所のメンバーが交代で日常業務のことなどを書き綴るのも効果的です。 こうすることで、ホームページを読んだ潜在顧客に、まるで事務所メンバーの知り合いであるかのような親近感をもってもらうのです。 これは、何かを依頼するときには、見ず知らずの他人より、まずは知り合いに依頼するという人間の行動傾向に即した方法です。 また、Facebook(フェイスブック)などのSNS(エス・エヌ・エス)へプライベートなブログを投稿しているのであれば、事務所のホームページからそこへリンクを張るのもよいでしょう。親近感をもってもらうには、プライベートな活動について知ってもらうのも効果があるからです。 ただし、親近感をもってもらうにしても、あくまで税務や会計の専門家としての親近感ですから、あまりハメを外した行動を公開したり、顧客情報を公開したりしないよう注意しましょう。 (了)
《速報解説》 企業結合会計基準に対応する 資本連結実務指針等の改正(公開草案)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年11月11日、日本公認会計士協会は、平成25年9月に改正された「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第22号)等に対応するため、「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号)などの一連の改正について、公開草案を公表した。 意見募集期間は平成25年12月6日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 改正を必要とする実務指針は広範囲に及んでおり、次の実務指針について公開草案が公表されている。 特に、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」については、設例の改正が行われており、十分な検討が必要と思われる。 (了)
《速報解説》 「IFRS対応方針協議会」及び IFRSの任意適用の積上げについて 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年11月8日、「「IFRS 対応方針協議会」及びIFRS の任意適用の積上げについて」と題して、IFRS 対応方針協議会から公表が行われた。 主な内容は次のとおりである。 Ⅱ 主な内容 1 IFRS対応方針協議会への改組 「アジェンダ・コンサルテーションに関する協議会」について、名称を「IFRS対応方針協議会」に変更する。 これは、我が国一体となったIFRSへの対応の強化を図り、IFRSに関連する我が国の市場関係者の意見の集約等を目的とするものである。 2 IFRSの任意適用の積上げ IFRSの任意適用の積上げについては、各参加団体において、様々な取組みが行われている。 概要は次のとおりである。 「IFRS対応会議」及び同会議のもとに設置された「国際対応委員会」、「教育・研修委員会」、「翻訳委員会」、「広報委員会」及び「個別財務諸表開示検討委員会」については、「IFRS対応方針協議会」等に引き継ぐとともに、一部委員会については廃止することが予定されている。 (了)
monthly TAX views -No.10- 「政府税制調査会はもう機能しないのか?」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 消費税率の引上げが決まったものの、消費税をめぐる課題は山積している。 例えば、軽減税率導入の是非である。 導入することになれば、どのような範囲にするのか、税率は5%か8%か、インボイスの導入は避けられないがその具体的設計はどうするのか、など多くの論点を詰めなければならない。 もう一つ、法人税の問題も議論が始まっている。 復興特別法人税の前倒し廃止を行うべきか、前倒しするなら、それはどのような理由からか、所得税の超過課税部分はどうするのか、さらにはわが国の経済空洞化の原因となっている法人実効税率を引き下げるべきか、その場合課税ベースをどこまで広げるのか、地方税はどうするのか、など実に多くの論点がある。 このように税制をめぐる課題が山積している中で、政府税制調査会が全く機能していない。 去る10月8日に総会が開催されたが、国際課税と番号制度について作業グループを設けて議論しようということになった。 つまり、上述した現下のわが国税制の最大の課題である「消費税」と「法人税」については、議論の対象となっていないのである。 しかし、誰が考えても、上記の問題点は、与党の税制調査会で政治家同士が議論するより、有識者が集まって議論する方が、意義のある結論が得られるのではなかろうか。 このように政府税制調査会が機能しない背景には、どのような理由があるのだろうか。 法人税減税を議論すれば、減税派が多数を占めるだろう。また軽減税率を議論すれば、導入すべきでないという意見が太宗を占めるだろう。 このようなことがあらかじめ分かっているから、議論しないのだろうか。 それは、党税調への配慮・遠慮だろうか。そうではないだろう。 むしろ政権への配慮・遠慮であろう。 つまり、「法人税議論を先導するのは、アベノミクスを掲げる官邸でなければならない」という配慮なのだろう。 しかし、政府税制調査会は、財務省の別働隊ではない。 現に、法人税を議論すれば、減税に消極的な財務省の思惑とはかけ離れてくる。だからこそ議論の価値というものがあるはずで、政府税制調査会長のもとで、自律的にさまざまな課題を議論してもよいのではないだろうか。 * * * 加藤寛会長の時代を思い出す。 筆者は1997年の消費税率引上げ時に大蔵省(現、財務省)税制第二課長、総務課長を経験し、当時の政府税制調査会長であった加藤寛氏と毎週のようにお会いして議論をした経験がある。 加藤氏は常に「税制は国民のものだから、大蔵省の言いなりにはならない」という矜持を持たれており、われわれの作成した想定問答を読み上げることはなく、自律的に活動を展開された。 その結果、消費税率5%への引上げ後の恒久的減税をめぐって、大蔵省とギクシャクしたのだが、学者魂のようなものを垣間見ることができた。 大蔵省の立場に立つ筆者にとっては大変な経験であったが、芯の通った論理には、今思い返しても、納得する面が数多くある。 * * * 税制改正には、論理が必要だ。 最近の税制改正には、ほとんど論理がなく、決定だけになってしまった。 国民を説得する論理、世界に発信する論理、それなくしての税制改正ほど無味乾燥なものはない。 政府税制調査会は死んでしまったのだろうか。 (了)
〈平成25年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 「復興特別所得税(その1)」 ~概要から源泉徴収まで再確認~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 はじめに 今回から2回にわたり、平成25年から適用される「復興特別所得税」について解説を行う。 今回は復興特別所得税の概要と源泉徴収の基本について改めて確認し、次回第4回では年末調整における取扱いについて解説する。 なお、復興特別所得税は、法人が支払いを受ける利子等にも課されるが、ここでは個人に係るもののみを取り上げる。 1 復興特別所得税の概要 平成23年12月2日に「東日本大震災からの復興のための施策を実現するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成23年法律第117号)」が公布され、平成25年1月1日から平成49年12月31日までの各年においては、復興特別所得税が課されることとなった(復興財確法9①)。 これにより、所得税を納める個人には、復興特別所得税を併せて納める義務が生じる。 2 復興特別所得税の計算方法 復興特別所得税の課税の対象は基準所得税額であり(復興財確法9①)、復興特別所得税の額は次の算式で求められる(復興財確法12、13)。 また、復興特別所得税の課税標準となる基準所得税額は、個人の区分に応じ次の表の通りとなる(復興財確法10一~三)。 3 源泉徴収の方法 ① 源泉徴収の基本 源泉徴収義務者は、給与や賞与、各種の報酬等を支払うとき、所得税と復興特別所得税を併せて徴収し、徴収した所得税の法定納期限までに国に納付しなければならない(復興財確法28①)。 このとき、所得税と併せて徴収する復興特別所得税の額は、徴収すべき所得税の額に2.1/100の税率を乗じて計算した金額となる(復興財確法28②)。 なお、源泉徴収した税額は、所得税と復興特別所得税を区別することなく、1枚の所得税徴収高計算書(納付書)に合計額を記入して納付する。 ② 給与、賞与からの源泉徴収 給与や賞与については、平成25年分の源泉徴収税額表等を使って源泉徴収を行う。平成25年分の税額表に掲げられている税額には復興特別所得税相当額が含まれており、平成24年分までの税額表よりも徴収する金額が増えている。 平成25年1月1日以後に給与や賞与の支払いをするときは、それぞれ下記の別表を用いて所得税と復興特別所得税を併せて源泉徴収する(財務省告示第115号)。 ③ 利子や報酬等からの源泉徴収 利子や報酬等については、源泉徴収の対象となる支払金額等に、所得税と復興特別所得税の合計税率を乗じた金額を源泉徴収する(復興財確法28②)。 なお、源泉徴収に係る端数計算は、所得税と復興特別所得税の合計額によって行う。 上記の算式により計算された所得税及び復興特別所得税の額(合計額)に1円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨て、合計額の全額が1円未満であるときは、その全額を切り捨てる(復興財確法31②)。 4 年末調整・確定申告における取扱い 所得税法第190条(年末調整)に規定する給与等の支払者は、復興特別所得税の創設に伴い、平成25年から平成49年までの各年分においては、所得税と復興特別所得税の年末調整を併せて行うことされている(復興財確法30①)。 また、平成25年分から平成49年分までの確定申告についても、所得税の確定申告書を提出すべき者は、復興特別所得税に係る確定申告書を所得税に係る確定申告書の提出期限までに併せて提出することとされている(復興財確法17①)。 復興特別所得税に係る確定申告書の様式は、本稿執筆時点では公表されていないが、国税庁のホームページに、平成25年1月1日以後に出国又は死亡した人の準確定申告をする場合の申告書様式が公開されている。 これによると、所得税の準確定申告と復興特別所得税の準確定申告は、「平成25年分の所得税及び復興特別所得税の準確定申告書」として1つの様式でまとめて行うこととされている。 ◆ ◆ ◆ 次回は、所得税と復興特別所得税を併せて行う年末調整について、設例を交えて解説を行う。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第5問】 「共有の家屋と共にその単独所有の土地を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xが所有する土地の上に、XとYが共有(各人の持分1/2)の家屋があり、その家屋にはXとその家族が居住し、Yはその家屋以外の家屋に居住しています。 このほど、XとYはその家屋と土地を譲渡しました。 この場合、X及びYの「3,000万円特別控除(措法35)」に係る適用関係はどのようになるのでしょうか? A Xの所有する家屋(持分1/2)及び土地の全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 Xの所有する土地は、Xがその全部を居住の用に供している家屋の敷地である。 したがって、その土地の全部がXの居住用家屋の敷地であると考えることができる。 なお、Yについては、Yが居住の用に供している家屋の譲渡ではないため、「特例」の適用を受けることができない。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【22】 〔第5章〕法令用語 (その8) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 7 法の「適用」に関する法令用語 ここでは、法の適用に関する法令用語について解説する。 ① 適用する・施行する まずは「適用する」について見ていく。 これは、法令の規定を目的とする対象そのものに当てはめる場合に使われる用語である。 したがって、詳細は後述するが、目的とする対象とは異なるが本質的には類似する他の事項について法令の規定を当てはめる場合には「準用する」を用いる。 なお、「適用する」という文言について厳密な意味が問われるのは、この「準用する」との差異のように、法を当てはめる対象の差異による場合だけではない。法の発動の点で「施行する」との差異が問われる場合がある。 まず、「施行する」との差異について見ていく。 「施行」と「適用」との違いは、「施行」が法令の規定の効力を一般的に発動させることを意味するものであるのに対し、「適用」は、一般的に発動されることとなっている法令の規定を個別の具体的対象に対して働かせる点にある。 例えば、平成25年4月1日より施行されている現行所得税法において、附則の第1条には、以下のようにある。 一方、この附則の第5条には、以下のようにある。 前者においては、附則第1条第1号イ号以下に規定されている規定そのものの施行が平成25年6月1日であることを示している。 イの「第1条中所得税法第17条の改正規定」とは、所得税法を現行の規定に改正するために制定された、平成25年3月29日に成立し、同年3月30日に公布され4月1日より施行された「所得税法等の一部を改正する法律」の第1条「所得税法の一部を次のように改正する。(以下略)」にある所得税法第17条に関する改正規定全体の施行日が平成25年6月1日であることを示している。 それに対し、後者は、改正後の所得税法89条1項の規定のみを平成27年分以後の所得税から適用することを定めている。 具体的には、所得税法89条1項では所得税の税率を定めているが、新法では課税所得4,000万円超について45%の税率が設けられた。しかしこの部分の適用は、この附則により平成27年分以後の所得税について適用されることとなった。 総務省「法令データベース」では、現行の適用条文が公開されているため、現行の公開されている所得税法89条1項の税率表は昨年24年度以前のものと同様のものとなっているが、法令としては、実は4,000万円超の所得に対する税率が規定されているところ、適用が27年分以降の所得からとなっているのである。 このように、部分的に特定の内容に関してのみ法の発動をずらす場合には「適用する」が用いられる。 なおこの点、「施行」が、法令の規定の効力を一般的に発動させることを意味するのに対し、「適用」は、その一般的に発動されることとなっている法令の規定を具体的な対象に対して働かせることを意味する。したがって「施行する」というのは、法令の効力が一般的に働き出し、作用し得るようになることであるから、「適用する」の具体的当てはめの前提になる概念であることは留意すべき点である。 法令は制定・公布された後、施行されて初めて現実に効力を有するようになる。このため通常は施行期日を定めておけば、その期日以後に生じた事柄についてその法令は適用されるため、改めて適用対象を定める必要はない。しかし、法令の内容によっては、施行期日だけでは、新法と旧法のいずれを発働させるのか不明確な場合もある。 このような場合に、施行期日のほかに、具体的な発動を法令上明示する必要がある。この目的のために置かれるのが新旧法令の適用や施行に関する規定であり、附則に置かれることが多い。 この場合、上記の例のように、法の発動が施行日よりも後になる場合に、「施行する」と規定されるか「適用する」と規定されるかは、発動される法の範囲によることになる。 そしてこの法の発動により規律されるべき対象となる事象は、通例、施行の日より後のもの、将来のことである。しかし、場合によっては、ある法令を、その施行時から遡及して過去の事象に当てはめる必要の生ずることがある。 このような場合には「施行する」ではなく「適用する」を用い、これを「遡及適用」という。 この遡及適用は、納税者に利益となる「控除額の引上げ」や「税率の緩和」の場合には問題がないが、納税者の不利益となる場合に遡及適用することが妥当かどうかといった点が問題になる。刑法においては事後法による遡及的処罰が禁止されており、刑法同様、侵害法規である租税法に納税者の不利益となる遡及適用が妥当かどうか問題とされる。 この意味で大きな議論になったのは、平成16年改正である。 平成16年3月31日に公布され同年4月1日に施行された租税特別措置法の附則の第27条には、以下のように規定されている。 この改正までは、土地建物の譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額を他の各種所得の金額から控除することが認められていた。しかし、この改正により年初まで遡って適用されることになったため、1月~3月に譲渡した者に対する不利益遡及立法であるとして訴訟に及んだのであった。 下級審においては、納税者の主張を認め違法立法とする判決もあったが、最終的には最高裁において、改正法律案が国会で審議される過程で新聞紙上で報道され国民に周知されているとして、また所得税が期間税である点等から合法とされた。 (次回に続く)