《速報解説》 車体課税の見直し ~平成26年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 菊地 弘 平成25年12月12日に「平成26年度税制改正大綱」が決定され、自動車関係税制が次のとおり見直されることとなった。 1 車体課税の見直し (1) 自動車重量税(国税) ① 「自動車重量税のエコカー減税」の拡充 平成26年4月1日以後に新車に係る新規検査を受けた検査自動車のうち、当該新規検査の際に納付すべき自動車重量税を免除された検査自動車については、当該新規検査後に受ける最初の継続検査等の際に納付すべき自動車重量税を免除する。 【乗用車等の例】 ② 経年車に対する課税の引上げ 平成26年4月1日以後に継続検査等を受ける自家用の検査自動車のうち、新車新規登録から13年を経過したもの(新車新規登録から18年を経過したものを除く)に係る自動車重量税の税率について、見直しを行う(営業用自動車は、現行の税率のまま据え置き)。 (2) 自動車取得税(地方税) ① 税率の引下げ 平成26年4月1日以後に取得される平成22年度燃費基準を満たす自動車等に対して課する自動車取得税の税率を、次のように引き下げる。 ② 「自動車取得税のエコカー減税」の拡充 平成26年4月1日以後に取得される自動車について、軽減割合を次のとおり拡充する。 【乗用車等の例】 (3) 自動車税(地方税) 「自動車税のグリーン化」について、次の見直しを行った上、2年延長する。 ① 環境負荷の小さい自動車 〇「グリーン化特例の延長・拡充」(H26.4.1~H28.3.31) 平成26年度及び平成27年度に新車新規登録された自動車で、一定のものは、次表のとおり軽減特例の措置が延長・拡充される。 ② 環境負荷の大きい自動車 平成26年度及び平成27年度に以下の年限を超えている自動車(電気自動車、天然ガス自動車等、一般乗合用バス及び被けん引車を除く)について、その翌年度から次の特例措置を講ずる。 (4) 軽自動車税(地方税) ① 税率の引上げ 四輪以上及び三輪の軽自動車に係る税率を次のとおりとし、平成27年4月1日以後に新規取得される新車から適用する。 ② 経年車重課の実施 最初の新規検査から13年を経過した四輪以上及び三輪の軽自動車に係る税率を次のとおりとし、平成28年分度以後の軽自動車税について適用する。 概ね20%の重課となる(既存車・新規車を問わない)。 ③ 税率の引上げ 原動機付自転車及び二輪車に係る税率を次のとおりとし、平成27年分度以後の軽自動車税について適用する。 2 復興支援のための税制上の措置 (1) 自動車重量税(延長) (2) 自動車取得税(延長) 被災代替自動車等の取得に係る自動車取得税の非課税措置の適用期限を2年延長する。 (3) 自動車税・軽自動車税(延長・拡充) 自動車税及び軽自動車税の非課税措置の適用期限を次のとおり2年延長する。 3 租税特別措置等 〇自動車取得税(延長) 都道府県の条例で定める路線の運行の用に供する一般乗合用のバスに係る自動車取得税の非課税措置の適用期限を2年延長する。 (了)
《速報解説》 消費税の軽減税率制度の導入 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士・社会保険労務士 上前 剛 1 導入の時期 軽減税率制度の導入の時期に関する「平成26年度税制改正大綱」の記載は、「税率10%時に導入する」となっている(同大綱P6)。 ちなみに、自動車取得税の廃止の時期に関する大綱の記載は、「消費税率10%への引上げ時(平成27年10月予定)に廃止する」となっている(同大綱P4)。 「10%引上げ時」と記載せず、「10%時」と記載したのは、「引上げ時」だけでなく、「引上げ時以降」も含むことを意図している。 つまり、軽減税率制度の導入の時期は、「10%引上げ時」または「10%引上げ後」のいずれかの時点といえる。 2 導入に向けてのスケジュール 大綱では、平成26年12月までに以下の事項の検討を行い、結論を得た上で、平成27年度税制改正大綱にて詳細な内容が公表される予定とされている。 3 各国の動向 現在、EU諸国の多くでは、付加価値税(日本でいうところの消費税)に軽減税率制度を導入している。 例えば、イギリスでは付加価値税の標準税率は20%、家庭用燃料及び電力等は5%の軽減税率となっている。同じく、ドイツでは付加価値税の標準税率は19%、食料品、水道水、新聞、雑誌、書籍、旅客輸送、宿泊施設の利用等は7%の軽減税率となっている。 つまり、軽減税率制度を導入すること自体は、世界的にみても一般的といえる。 4 「インボイス方式」と「請求書等保存方式」 EU諸国の付加価値税の計算方式は「インボイス方式」が採用されているのに対し、日本の消費税の計算方式は「請求書等保存方式」が採用されており、この点で大きく異なっている(下図参照)。 〈請求書等保存方式(左図)とインボイス方式(右図)〉 (出所:財務省ホームページ) 「インボイス方式」とは、課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除できる方式であり、インボイスの記載や発行などに厳格な要件が義務付けられている。 「インボイス方式」だからこそ軽減税率制度の導入が可能になっている面もある。 一方、日本では、「請求書等保存方式」のままで軽減税率制度を導入することになると考えられる。 上記2の今後の検討事項のうち、区分経理等のための制度整備がどのようになされていくのか注目したい。 (了)
《速報解説》 「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し」 「輸出物品販売場における輸出免税の対象物品の見直し」 「金銭債権を譲渡した場合の課税売上割合の計算方法の変更」 ~平成26年度税制改正大綱~ アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 はじめに 消費税法における改正については、平成24年8月の社会保障の一体改革の税制改正に基づき、平成26年4月1日から消費税率8%への引上げの実施が平成25年10月1日の閣議決定により確定したところである。 また、前年度の税制改正大綱からの検討事項となっていた消費税の軽減税率制度の導入について、平成26年度税制改正大綱において、どのタイミングで実施されるのか、具体的な内容が示されるのかが焦点となっていたが、結局のところ、「消費税率10%時に導入する」との文言を示すのみで、詳細については、平成26年12月までに結論を得て来年度の税制改正大綱で決定することとなった。 なお、「10%時に導入する」といっても、10%の税率引上げ時なのか、消費税率が10%の期間中なのかという点についても曖昧な表現となっており、導入時期についても決定したわけではなく、前年度の税制改正大綱と同様に、今回もまた検討事項となった。 この軽減税率制度以外の税制改正大綱による消費税法の改正点は、次の3項目である。 以下、それぞれの改正内容について解説していくこととする。 ① 簡易課税制度のみなし仕入率の見直し 消費税法における簡易課税制度は、「みなし仕入率」を使用して計算するのであるが、従来から課題となっていた益税問題として、みなし仕入率と実際の課税仕入れ率との間に乖離があるとの指摘がなされており、特に金融・保険業や不動産賃貸・管理業については、その乖離が顕著であることから、今回の税制改正において、金融業及び保険業の業務に係るものは、現行の第四種事業(60%)ではなく、第五種事業(50%)として計算することとなった。 さらに、業種区分について、新たに第六種事業を創設し、そのみなし仕入率を40%とした上で、不動産業の業務に係るものは、現行の第五種事業(50%)ではなく、第六種事業として計算することとなった。 なお、この改正は、平成27年4月1日以後に開始する課税期間について適用する。 したがって、改正後の具体的な業種区分は、以下のようになる。 また、税制改正後の簡易課税制度における控除対象仕入税額の基本的な計算方法は、次のようになる。 イ 第一種事業から第六種事業までのうち1種類の事業だけを営む事業者の場合 【算式】 ロ 第一種事業から第六種事業までのうち2種類以上の事業を営む事業者の場合(原則) 【算式】 【各業種の売上げに係る消費税額】 ② 輸出物品販売場における輸出免税の対象物品の見直し 外国人旅行者に対する輸出物品販売場における輸出免税の規定において、今回の税制改正により従来では対象物品から除外されていた消耗品について、一定の要件のもと輸出免税の対象となった。 具体的には、以下の方法を前提とした消耗品(その旅行者に対して、同一店舗で1日に販売する50万円までの消耗品に限る)が対象となる。 また、その旅行者に対して、同一店舗で1日に販売する見直し前の免税対象物品(消耗品以外の物品)の額が100万円を超える場合には、輸出物品販売場を経営する事業者が保存しなければならない書類に、その旅行者の旅券等の写しを追加することとした。 なお、「見直し前の免税対象物品」とは、飲食料品、たばこ、医薬品、化粧品、フィルム、電池などの消耗品を除く通常の生活用物品で、一取引の合計金額が1万円超のものをいう。 上記の改正は、平成26年10月1日以後に行われる課税資産の譲渡等について適用する。 ③ 金銭債権を譲渡した場合の課税売上割合の計算方法の変更 仕入税額控除の計算で使用する課税売上割合の計算方法は、資産の譲渡等の対価の額のうち課税資産の譲渡等の対価の額の占める割合をいうのであるが、今回の改正により、金銭債権の譲渡については、課税売上割合の計算上、資産の譲渡等の対価の額に算入すべき金額を、その譲渡に係る対価の額ではなく、その対価の額の5%相当額を算入することとなった。 これは、消費税法施行令48条5項に規定している有価証券等を譲渡した場合における譲渡対価の額の5%相当額を課税売上割合の計算上資産の譲渡等の対価の額に含める計算方法と同様の処理となり、この改正により課税売上割合は従来よりも大きくなることから、納税者有利の改正点である。 なお、改正後の非課税となる有価証券等の範囲と課税売上割合の分母に含める金額は、以下のようになる。 上記の改正は、平成26年4月1日以後に行われる金銭債権の譲渡について適用する。 (了)
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日本の企業税制 【第2回】 「地方法人課税の見直し」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 1 はじめに わが国の法人実効税率が高いのは、法人事業税、法人住民税のためであり、法人実効税率の引下げには、地方法人課税の見直しが不可欠である。また、地方税全体の中で法人所得課税のウエイトが高いことにより、景気変動による税収の不安定さとともに偏在性の問題が指摘されている。 平成26年度税制改正では、税制抜本改革までの暫定措置とされている地方法人特別税の扱いとともに、法人住民税の一部を国税に移した上で地方交付税財源とすることが大きな課題となった。 2 総務省「地方法人課税のあり方等に関する検討会」報告書 総務省地方財政審議会の下に置かれていた地方法人課税のあり方等に関する検討会(座長:神野直彦東京大学名誉教授)は、11月6日に報告書を公表したが、その中では、今後の地方法人課税のあり方として以下の諸点が示されている。 3 地方法人特別税 平成20年度税制改正で導入された地方法人特別税は、地方税収の偏在化の是正策として、法人事業税の税収のおよそ2分の1を国にプールした上で、全額を地方法人特別譲与税として、その1/2を直近の国勢調査による人口、1/2を従業者数の基準によって都道府県に譲与する仕組みであり、税制抜本改革がなされるまでの間の「暫定的措置」として位置付けられていた。 また、消費税改正法でも、地方法人特別税・譲与税について、税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の措置であることを踏まえ「税制の抜本的な改革に併せて抜本的に見直しを行う(第7条五号)」こととされていた。 【法人事業税改正、地方法人特別税・地方法人特別譲与税のスキーム】 地方法人特別税・譲与税の税収は1兆7,643億円(平成25年度地方財政計画)であり、地方消費税1%相当額2兆6,650億円に及ばない。しかし、地方法人二税の人口1人当たり税収額が最大の東京都と最小の奈良県との間で5.3倍の格差があるところ、地方法人特別譲与税を入れた場合は4倍程度に縮小しており、偏在是正には一定の効果を上げている。 平成26年度税制改正では、後述の法人住民税の地方交付税財源化(地方法人税の創設)と併せて、地方法人特別税・譲与税の1/3(およそ6,000億円分)を法人事業税に復元することとされた。 4 法人住民税の一部の交付税財源化 消費税は税収の地域偏在性が少ない税とされているが、それでも人口1人当たり税収額が最大の東京都と最小の沖縄県との間で2.9倍の格差があり、地方消費税率引上げによりさらに拡大することが見込まれている。 また、現在、地方財政全体では約13.3兆円の財源不足額があるのに対し、交付税不交付団体の留保財源と財源超過額の合計額は1.8兆円を超えており、地方消費税率引上げにより増大することが見込まれる。 すなわち、税制抜本改革=地方消費税率の引上げにより、全体としての地方の財源不足は緩和されるとしても、東京都をはじめとする一部の富裕団体はますます豊かになり、偏在性が拡大していくことが見込まれている。 そこで、平成26年度税制改正では、消費税率が8%に引き上げられる平成26年4月1日以降、法人住民税のうちおよそ6,000億円相当分を国税化し、その全額を「地方法人税」という名の国税とした上で交付税原資に繰り入れることにより、偏在性の是正策を講じることとされた。 【偏在性是正策のイメージ】 地方法人税の創設と地方法人特別税・譲与税から法人事業税への復元は、ともに6,000億円程度とされるが、地方法人特別譲与税は東京都等の不交付団体にも一定額は配分される一方で、地方法人税は交付税財源とされるため不交付団体には配分されないことにより、偏在性の是正は進むことになる。 また、消費税率10%引上げ時においては、法人住民税法人税割の地方交付税原資化をさらに進めるとともに、地方法人特別税・譲与税について、現行制度の意義や効果を踏まえつつ、廃止その他の措置を含めた抜本的な見直しを行うなど、税源偏在を是正する観点から関係する制度について幅広く検討を行うこととされている。 5 法人実効税率引下げと地方法人課税 この結果、法人税負担に変化があるものではなく、法人実効税率は変わらない、しかし、今回の措置は、将来の法人実効税率引下げのためには欠かせない布石であると考える。 日本の法人実効税率が高い大きな理由は、地方法人二税の存在である。また、地方税において法人所得課税のウエイトが大きいことにより、景気変動による税収の不安定性とともに、税源の偏在性を免れない。 そこで、地方法人二税をできる限り国税化し地方共有の財源とすることで、地域ごとの大きな変動と偏在性の是正がいくらかでも解消できる。また、同時に地方法人二税をそれぞれの地方自治体固有の財源としていたのでは、税率の引下げに耐えられない地方自治体が出てくるのに対し、共有財源とすることでその影響を和らげることができる。 経団連では、今年5月の「地方法人課税のあり方」の提言の中で、地方法人所得課税の国税化を図った上で、地方交付税、地方譲与税等もあわせた一般財源を保障する仕組みを構築すべきことを求めており、今回の改正はその趣旨に沿ったものと評価している。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第11問】 「同一年中に2回居住用財産を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、平成25年中に、現に居住しているA住宅を売却し、同年中に9年前から所有しているB住宅を直ちに居住の用に供していましたが、同年中にそのB住宅も売却しました。 なお、B住宅の居住期間は短いが、B住宅は甲の居住の用に供している家屋に該当します。 この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の適用関係はどのようになるのでしょうか? A A住宅及びB住宅が居住用財産であれば、譲渡所得の全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 ただし、控除額は3,000万円が限度となる。 〈解説〉 同一年中の譲渡であるから、連年適用排除の規定は適用されない。したがって、3,000万円の控除額を限度として、その譲渡所得の全部について「特例」を受けることができる。 ただし、居住の事実がないところを、特例を受けるためのみの目的で故意に住民票を異動するなどした場合には、重加算税の対象となり得る可能性があることから、その判定にあたっては十分な注意が必要であると考える。 (了)
租税争訟レポート【第15回】 従業員による横領と法人に対する重加算税 〔納税者勝訴〕 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 本件は、処分行政庁が、原告に対し平成12年5月1日から平成18年4月30日までの6年間にわたる各事業年度の間に、原告の従業員が関係業者からリベートとして受領していた手数料合計9,786万3,000円のうち、 ところ、原告が、これらの収益は従業員個人に帰属するものであって、隠ぺい仮装を行った事実もないと主張して各処分の取消しを求めたという事案である。 【争点に関する主張】 1 争点1(本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か)について 〈被告主張の要旨〉 〈原告主張の要旨〉 2 争点2(本件手数料に係る収益が原告に帰属するとした場合、その額はいくらか)について 〈被告主張の要旨〉 〈原告主張の要旨〉 3 争点3(原告による仮装又は隠ぺい行為の有無)について 〈被告主張の要旨〉 〈原告主張の要旨〉 【裁判所の判断】 1 争点1(本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か)について 2 結論 以上より、本件手数料に係る収益が原告に帰属するとは認められず、原告が従業員Aに対して損害賠償請求権を有しない結果、原告については、本件手数料相当額の益金が存在しないことになるから、本件各処分には取消事由となる違法があるというべきである。 【解説】 役員・従業員による横領が税務調査により発見された場合の課税処分は、概ね以下の筋書きに沿ってなされる。 本件も、同じ経緯による更正処分等が行われたところ、仙台地方裁判所は、従業員が受け取ったリベートは、本来法人に帰属するものとは言えず、処分行政庁による更正処分等をすべて取り消す判決を下した。 他の類似訴訟との相違点を概観すると、 などが挙げられよう。 本件リベートが、原告である法人に帰属するものではない以上、リベートを受け取った従業員は、本来申告すべきであった雑所得に係る収入金額が洩れていたことになるから、加算税の賦課決定を含む課税処分が行われる。税務署としては、あえて、法人に対して課税処分を行わなくても、税収の確保という点ではあまり差はないように思えるのだが、やはり「重加算税の賦課決定処分」にこだわるのであろうか。もちろん、従業員に対する課税となると、実際に納付できるだけの資力があるかどうかも問題になるわけだが。 内部統制システム構築上の要請でもある、適切な職務分掌や明確な権限委譲が、「本件リベートは法人に帰属するものではない」という判決に導いたという点について、従業員による売上代金の横領行為を法人の行為と同一視して重加算税の賦課決定処分を認めた類似訴訟の判決と一線を画するものとして評価したい。 (了)
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載9】 広大地の評価(1) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 広大地の評価は、大幅に減額される 図表1 対象地と近隣地域等の概況図 (二)広大地の評価の適否の判定 図表2 開発想定図 図表3(ア) 地形図 図表3(イ) 開発想定図《開発道路の敷設による区画割り分譲》 図表3(ウ) 開発想定図《敷地延長による区画割り分譲》 * * * なお、地積が広大であっても、中高層の集合住宅(マンション等)の敷地用地に適するもの、また、大工場用地に該当するものも適用になりません。 これらについては、次回で解説します。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【25】 〔第5章〕法令用語 (その11) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 8 法律上の権利ないし能力を示す語 ① しなければならない・してはならない・することができない 「しなければならない」というのは、一定の行為を義務付ける場合、すなわち法律上の作為義務を定めようとする場合に用いられる。 一方、「してはならない」というのは、一定の行為を禁止したり、法律上の不作為義務を定めようとする場合に用いられる(概略は【第17回】で述べている)。 以下にその使用例を挙げる。 この「してはならない」と語感が近いものとして、「することができない」がある。 「してはならない」と「することができない」は、一般的には語感が近いものとして使われる。 しかし法律上は、この「することができない」は、通常、法律上の権利ないし能力がないことを表現する場合に使用される(ただし権利ないし能力がないのであるから、事実上の不作為義務となるため、一定の不作為義務を課す場合に「・・・することができない」と表現する場合もある(第17回参照))。 それに対し「してはならない」という語は、人の事実上の自由に対する制限であって、法律上の権利又は能力に関する規定ではない。 したがって、「してはならない」とされている不作為義務に違反した行政処分があったときも、それは処罰の原因になることはあっても、その処分の効力には影響がなく、法律行為としては行政行為には公定力があるため(私法においては、民法第90条により違法な契約は無効とされるのが原則である)、有効であると解されている。 例えば、行政手続法には以下の規定がある。 この不作為義務に違反した税務職員は、国家公務員法上の懲戒処分の対象にはなるであろうが、その違反に係る行政処分そのものは、行政行為の公定力から有効であると解されている。ただし違法な行為による行政処分であるとして、取消訴訟又は行政上の不服申立てにより、無効と主張する道は残されている。 一方「することができない」は、通常、法律上の権利ないし能力がないことを表現する場合に使用される。したがって、この規定に違反して行われた行政処分は、法律上の権能がないにもかかわらず行われたものであるから、当然に無効である。 例えば、国税通則法には以下の規定がある。 この規定に違反して、税務署長が5年を経過した日以後に行った更正処分は、取消訴訟又は行政上の不服申立てを経ることなく、当然無効であるとして、その後の処理をすることができるのである。 ここで、「することができない」の対語となる「することができる」についても説明しておこう。 「することができる」には、大きく分けて、「①裁量権の付与」と「②法律上の権利・能力・権限等があることを意味するもの」という2つの用法がある。 そして、この条文の行為の主語が行政機関か納税者かにより、内容が異なる。 ① 裁量権の付与 一般的に「・・・できる」という言葉は、語句通り「可能」を表し、行為に対する裁量権を示している。しかし、この意味での用法は、その条文の行為の主語が納税者の場合に限られており、行政庁に対してこの意味で用いることはない。 例えば所得税法第16条第1項には、以下のようにある。 前条である所得税法第15条の第1号において、所得税の納税地は、国内に住所を有する場合はその住所地とされている。しかしこの第16条第1項により、 国内に住所のほか居所を有する場合にはその居所地を納税地とすることができるとされているから、この条文は、住所地の他に居所地を有する場合に、居所地を納税地とすることの裁量権を納税者に与えたものである。 ② 法律上の権利・能力・権限等があることを意味するもの 行政機関がその条文の行為の主語である場合には、「することができる」は、法律上、行政機関にその権能(権限と能力)を与えることを意味し、「裁量権の付与」の意味ではない。その権能があればそれを行使すべき義務もあると読むのが通例である。 特に租税法の場合には、合法性の原則(租税要件が充たされている限り、課税庁には租税を減免する自由はなく、また租税を徴収しない自由もなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならないという原則である)の点からも、行政機関には、原則、裁量権はないものとされる。 例えば国税通則法第91条第1項には、以下のようにある。 この場合に、国税不服審判所長は軽微な不備を職権で補正できる権能があり、一方で、その権能を行使することができる客観的状況にあれば、その権能を有する国税不服審判所長がそれを行使しないということは許されないと解されている。このため「軽微な不備」でありながら、その不備を職権で補正しないまま却下すれば、その処分は、違法な処分となる。 したがって、「することができる」とあるが、これにはその行為につき裁量権はない。 しかし前段の「その補正を求めなければならない」とあるところ、審判所において請求人にその補正を求めずに補正が可能という意味から、「することができる」と規定されているのである。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載48〕 一棟の建物についての小規模宅地等減額特例の改正と 区分所有建物についての適用上の疑問点 ~平成25年措置法通達改正対応~ 税理士 小林 磨寿美 小規模宅地等の減額特例(措法69の4)が適用できる宅地等の1つに、特定居住用宅地等がある。 その被相続人の保有する居住用宅地等が一棟の建物の敷地については拡大された。 具体的には一棟の建物(区分所有建物を除く)については、被相続人等(措通69の4-7)が保有し、被相続人等が居住する場合、その建物に同居する被相続人の親族の居住部分に対応する土地等も対象宅地に含まれることとなった(措法69の4①本文、措令40の2④、措通69の4-7(注))。 取得者が配偶者である場合、同居親族である場合には、面積制限の拡充(平成27年施行)と併せて、適用対象面積が拡大した(措法69の4③二本文及びイ、措令40の2⑩)。 つまり、同居親族取得要件(措法69の4③二イ)は、同じく一棟の建物については、同居親族居住部分が対象宅地として拡大され、ここが、政策目的として拡充された。 1 租税特別措置法69条の4において、被相続人の居住用宅地の拡大 租税特別措置法69条の4では、その柱書において、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、一定の要件を満たす宅地等がある場合には、その個人がこの規定の適用を受けるものとして選択したものについて、限度面積要件を満たす場合に限り、相続税の課税価格の計算特例を受けるとしている。 そして、この「一定の要件を満たす宅地等」とは、相続開始の直前において、相続若しくは遺贈に係る被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(「被相続人等」という) の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(措令40の2④)で定めるもので、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に該当するものである(同柱書)。 2 拡大された被相続人等の居住用宅地等についての取得者要件 「特定居住用宅地等」(措法69の4③二)は、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等(2以上ある場合には一定のものに限る)で、次に掲げる者が相続又は遺贈により取得した一定のものとなる。 3 「一棟の建物」基準 改正により、「一棟の建物」基準が上記2の図表中(1)(2)(4)の取得者について導入された。 これは、一棟の建物に複数世帯が居住している場合の、小規模宅地等の減額特例の適用関係を明確にすることを企図したものであり、被相続人等の居住の用に供されていた一棟の建物の敷地の用に供されている宅地等で、特定居住用宅地等に該当するものは次のものとなる(措法69の4柱書・同③二イ、措令40の2④⑩)。 4 建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物である場合の疑問点 『平成25年度 税制改正の解説』(財務省、以下『財務省解説』とする)には「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」について、「通常は区分所有建物である旨の登記がされている建物となります。」とある(P589)。 つまりは、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」であるかどうかで場合分けしたのは、それが構造上区分所有しうる建物であり、かつ、建物の独立した部分ごとに所有権の目的とする意思表示がされたものであるからという趣旨のようである。 建物の区分所有等に関する法律第1条の規定の読み方については、別稿にて既に疑問を指摘させていただいたとおりであるが、本稿では、「区分所有建物である旨の登記がされている建物」という財務省解説に従った場合における問題点をいくつか挙げてみることとする。 (1) 建物を区分所有登記した理由は、建物の独立した部分ごとに所有権の目的とするためであるとは限らないのではないか 二世帯住宅について区分所有登記をする理由には、例えば住宅ローンの借入れの都合や住宅借入金等特別控除、住宅取得等資金の非課税特例の床面積要件を満たすためというものもある。また、遺産分割を考慮して、被相続人自身が予め区分所有登記を完了させ、その全部を所有している場合もある。さらに、娘婿が義父の土地の上に義父と一緒に二世帯住宅を建設する場合に、心情的要因から区分所有登記をすることもあるようである。 しかし、『財務省解説』では次のように記載されている。 財務省解説及び「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」(平成25年11月29日)で新設された措通69の4-7の3から、次のような2種類の「一棟の建物」を作図することができる。 この2種類の「一棟の建物」は外見上明らかに異質なように思われ、同視できないと考えられる。しかし、財務省解説がその同視できない理由を、それぞれの専有部分が別々に取引される権利であることに求めるのであれば、右図のような一般的な二世帯住宅について、独立部分の売却や賃借を目的としない理由により区分所有登記をしたような場合であっても、区分所有建物とみなされることになる。 分譲マンションの場合、相続人は、別生計の場合、101、707ともに、適用がない。同一生計の場合、707についてのみ適用がある。 右の2世帯住宅(一棟の建物に、複数の親族が居住している場合も同じ)の場合、区分所有登記がない場合は、全部適用、区分所有登記がある場合は、左の分譲マンションと同じ扱いとなる (2) 建物の区分所有登記だけで専有部分を容易に別々に取引できるといえるのであろうか 分譲マンションの場合、建物の区分所有登記は敷地権と共に行うこととなり、それぞれの専有部分を容易に別々に取引することできる。一方、小規模宅地等の減額特例を受けることを想定するような一般的な二世帯住宅の場合、その敷地は、通常被相続人より使用貸借することになるため、建物を区分所有登記しても、敷地権に係る不動産登記を行うことはしない。 つまり専有部分を第三者に売却することは、現実として考えられず、容易に別々に取引できるとは言い難いのではないだろうか。 (3) 「建物の独立した部分ごとに所有権の目的とする意思表示がされたもの」である場合 「建物の独立した部分ごとに所有権の目的とする意思表示がされたもの」である場合、つまり、土地は使用貸借で、建物について、住宅ロ-ン等の事情により区分所有登記をした場合は、次のようになる。 以上のように区分所有登記の有無で小規模宅地等の減額特例の適用関係を決めるとしたならば、土地が使用貸借であって、住宅ロ-ン等の事情により区分所有登記をした場合、上記のように、様々な疑問や弊害が顕在化してくることとなろうと思われる。 区分所有権基準の導入が分譲マンションへの適用を排除しようとする趣旨であるならば、例えば、敷地権(登記)の有無によって、その適用関係を整理することも視野に入れた、いっそうの議論が必要であろう。 (了)