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税務判例を読むための税法の学び方【16】 〔第5章〕法令用語(その2)

税務判例を読むための税法の学び方【16】 〔第5章〕法令用語 (その2)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) 3 「直ちに」「すみやかに(速やかに)」「遅滞なく」 これらはいずれも、ある行為又は事実とその後に続く行為との間の時間的な近接性を表す、一般的には「すぐに」という言葉で表現される内容を意味する法令用語である。これらの言葉が通常使われたとしても、言葉に差があると意識して使い分けられることはないであろう。 しかし、法令用語としてこれらの間には、時間的許容範囲、遅滞があった場合の違法性の有無・程度といった点に差異がある。 ① 直ちに 上記のうちでも、時間的即時性が最も強いものは、「直ちに」であり、「即時に」「間髪を入れずに」という趣旨を表すときに用いられる。 このため「直ちに」という場合は、一切の遅滞は許されないと解されるのが通例である。 その使用例として、国税通則法第82条第2項で見てみよう。 したがって、異議申立書が提出された場合には、その異議申立書を、即時に、間髪を入れずに国税局長又は国税庁長官に送付しなければならないこととなる。 ② すみやかに 「直ちに」よりは急迫の程度、時間的近接性の度合いが低い場合について用いられ、通常の事務処理に従ってできる限り早く行えば、即時に、間髪を入れずに行われなくても、違法又は不当の問題が発生しないものとされている。 その使用例として、国税通則法第103条で見てみよう。 ここでは、「すみやかに」返還すればよいという「直ちに」よりもやや緩やかな時間的近接性を許容している。 それは、返還すべき帳簿書類等が、担当の国税審判官、国税副審判官や国税審査官等複数の関係者がそれぞれ保管していることもありうるところから、「直ちに」返還することが困難な場合があると考えられるからである。 ③ 遅滞なく 「直ちに」と比べると時間的即時性はやや弱くなり、正当な又は合理的な理由があれば、その限りでの遅れは許されるものであると解されている。すなわち、事情が許す限り最も早くという意味であって、合理的理由があれば遅滞も許されるのである。 しかし、正当な理由等がなく遅滞した場合には、違法又は不当の問題が発生すると解されている。 その使用例として、国税通則法第56条第1項で見てみよう。 ここで「直ちに」ではなく「遅滞なく」と規定しているのは、還付の手続には相応の日時が必要であるところから、その手続のために要する時間的許容を認める趣旨である。 ④ 「すみやかに」は訓示規定か 「直ちに」や「遅滞なく」が、違反した場合に違法又は不当の問題を生ずるのに対して、「すみやかに」は訓示的な意味で使われることもあるといわれる。 「できるだけすみやかに」(警察官職務執行法第3条第2項)とか、「なるべくすみやかに」(国家公務員法第95条)が、訓示的であることが分かるような使い方の例として挙げられる。 しかし、「速やかに」としながらその違反に対して罰則を設ける立法例もあり(道路交通法121条第1項第9号(道路交通法94条1項に規定する免許証の記載事項の変更届出等の義務違反に対するもので、「速やかに」はこの94条1項にある))、また上記のような訓示規定の例とされているものについても、正当な理由や合理的な理由もなく遅滞した場合に、違法又は不当の問題を全く生じないとはいえないであろう。 また、もしこれが単なる訓示規定であり、遅れが違法や不当の問題を生じずに許されるものならば、最終的には、正当な又は合理的な理由がある限りでの遅れは許されるものとされる「遅滞なく」よりも、時間的即時性が弱いことになってしまう。 したがって、訓示的意味合いを含んでいたとしても、それは単なる訓示規定ではなく、正当な理由や合理的な理由もなく遅滞した場合には、違法又は不当の問題を生じるものと解すべきである。 ⑤ 「直ちに」の手続的意味 「直ちに」は、時間的即時性を示すだけでなく、本来とるべき手続等を踏むことなく行うことができるという手続面での即時性を示すために用いられる場合がある。 例えば、酒税法第28条の3第6項、第54条第5項及び第6項等で、末納税引取りの条件不履行により徴収される酒税や無免許製造の酒類等について徴収される酒税について、「直ちにその酒税を徴収する」と規定されている。 これは、「通常の納税告知書によって納期限が指定されるという手続を経ないで、即座に」という意味であり、単に時間的即時性を示しているのではない。 ⑥ まとめ 「直ちに」は、一切遅れを許さない趣旨で用いられ、一方、「遅滞なく」は、正当な又は合理的な理由があれば遅れることも許される、「速やかに」は両者の中間に位置している。したがって、即時性の度合いの強い順に、「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」となっている。 また、「直ちに」は、時間的即時性を示すだけでなく、本来とるべき手続等を踏むことなく行うことができるという手続面での即時性を示すために用いられる場合がある。 (了)

#No. 31(掲載号)
#長島 弘
2013/08/08

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載31〕 合併に係る個人株主の課税関係

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載31〕 合併に係る個人株主の課税関係   税理士 内藤 忠大   Q 私が株主となっているA社がB社に吸収合併されることになりました。 この場合の所得税の課税関係を教えてください。 A 合併があった場合の被合併法人の株主には、みなし配当課税と株式譲渡損益課税の所得計算に関する取扱いと、合併法人株式の取得価額の計算の取扱いがある。 みなし配当課税は、合併が適格合併かどうかによりその適用の有無が決まる。また株式譲渡損益課税は、合併対価に合併法人株式以外の金銭等があるかどうかによりその適用の有無が決まる。合併法人株式の取得価額は、みなし配当の有無及び株式譲渡損益の有無によって計算方法が異なる。   (1) みなし配当課税と合併との関係 ① みなし配当課税 法人が剰余金の配当をすると、当該法人の課税済み利益である利益積立金が株主に配当として帰属するが、剰余金の配当という手続をしなくても、法人の利益積立金が株主に帰属することがある。そこで、剰余金の配当がされたことと経済的実質が同様となる一定の事由が生じたときは、一定の金額を剰余金の配当とみなすこととされている(所法25)。この一定の事由には、法人の合併(適格合併を除く)や法人の自己の株式の取得などがある。 株主において配当とみなされた金額は、支払法人の利益積立金額の減少額と理論的には一致することになる。このため、支払法人側の処理を確認することにより、みなし配当課税の理解が深まる。 ② 合併に伴う当事者間の取引 合併は、被合併法人の株主の視点では、被合併法人株式が合併法人株式その他の合併対価に変わるだけであるが、被合併法人と合併法人との間の法人税法上の取扱いは、複雑な取引を行っていることになる。そしてこの取引内容は、適格合併と非適格合併では異なる。 適格合併では、被合併法人の資産及び負債は帳簿価額により合併法人に引き継がれる(法法62の2②)。また、被合併法人の資本金等の額と利益積立金額も、原則として、同額が合併法人において増加する(法令8①五、9①二)。資産と負債の差額(=増加した資本金等の額と利益積立金額)の対価として合併法人株式が被合併法人に交付され、それが直ちに株主に交付されることになる。 このように、適格合併では、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれ、被合併法人の利益積立金が株主に帰属することはないので、みなし配当課税はされない。 【適格合併】 なお、利益積立金額と資本金等の額の合併における取扱いに関しては、平成22年度税制改正において、基本的な考え方が変更されている。詳細については、論末のコラム「合併における利益積立金額の引継ぎについて」を参照いただきたい。 非適格合併では、被合併法人は資産及び負債を時価で合併法人へ譲渡するとともに合併対価を取得し、直ちに株主に交付したものとされる(法法62①)。合併法人は、合併により移転してきたものの対価として合併法人株式等の合併対価を交付するので、合併法人株式の時価相当額が資本金等の額の増加額となる(法令8①五)。 非適格合併では、被合併法人の資本金等の額と利益積立金額は、株主への合併対価の交付の際に清算されることになり、それがみなし配当課税につながる。 【非適格合併】 合併法人の処理と株主の処理は表裏一体であり、適格合併と非適格合併では被合併法人の利益積立金の行き先が違うので、株主におけるみなし配当課税の取扱いも異なる。   (2) 適格合併の場合の課税関係 ① みなし配当課税 (1)②で見たとおり、合併が適格合併である場合、被合併法人の利益積立金相当額は合併法人に引き継がれ、被合併法人株主に帰属することはないため、みなし配当課税は生じない(所法25①一)。 ② 株式譲渡損益課税 適格合併では、合併法人株式以外の合併対価はないため、被合併法人から合併法人に対する投資の継続性が認められる。つまり、キャピタルゲイン・キャピタルロスの清算は不要とされ、株式譲渡損益課税は生じない(措法37の10③一)。 ③ 合併法人株式の取得価額 投資の継続性が認められるため、取得した合併法人株式の1株当たりの取得価額は、被合併法人株式の取得価額を引き継ぐことになり、具体的には次の算式により計算する(所令112①②、措通37の10-24)。 (通常の場合) (無対価合併の場合)   (3) 非適格合併の場合の課税関係 ① みなし配当課税 非適格合併は、被合併法人の株式等の払戻しとして合併対価が交付されたことになるので、合併対価の種類にかかわらず、合併対価の額の合計額が被合併法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった被合併法人の株式に対応する部分の金額(次の算式により計算した金額)を超える場合の、その超える部分の金額が、剰余金の配当等とみなされる。   ※合併の日の前日の属する事業年度終了の時のもの 配当とみなされた金額は、原則として総合課税とされ、また、配当所得の金額の10%又は5%の配当控除が受けられる(所法92)が、みなし配当額が10万円以下の場合は、申告不要を選択し、所得税の計算の埒外に置くこともできる(措法8の5、9)。 ② 株式譲渡損益課税 非適格合併であっても、合併対価が合併法人株式のみの場合は、適格合併と同様、被合併法人から合併法人への投資の継続性が認められるため、株式譲渡損益課税はされない。ただし、みなし配当として課税された部分は、合併法人に対する新たな投資として取得価額を構成することになる。一方、金銭等の交付がされれば、投資関係は一旦清算すべきものとされ、株式譲渡損益課税がされ(措法37の10③)、合併法人は新たに取得したものとされる。 株式譲渡損益を計算する場合、合併対価の額の合計額のうち剰余金の配当等とみなされた部分の金額以外が株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる。結果的には、みなし配当額がある場合には、被合併法人株式等に対応する資本金等の額相当額が収入金額となり、みなし配当額がない場合には、交付金銭等の額の合計額が収入金額になる。どちらの場合も、取得費は被合併法人の株式の帳簿価額の合計額である。 なお、株式譲渡損益課税は分離課税とされているため、株式譲渡損失が生じても、総合課税を選択したみなし配当とは損益通算することはできない(措法37の10)。法人株主とは取扱いが異なるので注意が必要である。 ③ 合併法人株式の取得価額 (イ) 金銭等の交付を受けていない場合 投資の継続性が認められるので、旧株式の取得価額を基に付替計算をする。なお、みなし配当相当額は、合併法人に対する新たな投資になるので、取得価額に加算する。計算式は次のとおりである(所令112、措通37の10-24)。 (通常の場合) (無対価合併の場合) (ロ) 金銭等の交付を受けている場合 金銭等の交付を受けている場合は、投資関係が清算される。したがって、合併法人株式は新たに取得したものとされ、合併法人株式の取得価額は、取得時の時価相当額となる(所令109①五)。   (4) 適格合併の判定 みなし配当課税の有無は、合併が適格合併か否かに依存する。適格合併とは、法人税法2条12号の8に規定がされており、その要件を満たしているものが適格合併とされる。適格合併であることの要件の詳細についてはここでは言及しないが、合併法人株式(合併法人の株式又は出資をいう)又は合併親法人株式※(合併法人の100%親法人の株式又は出資をいう)のいずれか一方の株式又は出資以外の資産(交付金銭等)の交付がされないことが絶対条件になる。 ※合併親法人株式のみを交付をする三角合併も適格合併に該当する場合もあるが、本稿では三角合併を省略している。 この交付金銭等には、被合併法人の株主等に対する剰余金の配当等(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう)として交付される金銭その他の資産及び合併に反対する株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭等は該当しない。 また、合併に際し株主に対し交付しなければならない株式に1に満たない端数が生じたため、会社法234条1項の規定等によりその端数の合計数に相当する株式等を譲渡し、又は買い取った代金として株主等に金銭が交付されたときは、その1に満たない端数に相当する合併法人又は合併親法人の株式等の交付がされたものとして取り扱われる(所基通57の4-1、措通37の10-24(3)、法基通1-4-2)。   (5) 反対株主が買取請求により対価の支払いを受けた場合の取扱い 合併に反対する被合併法人の株主の買取請求は、被合併法人に対して行われる(会社法785①)。合併効力発生日前に株式の価格の決定について協議が整ったときは、被合併法人又は合併法人から対価が支払われ、合併効力発生日以後に協議が整ったときは合併法人から対価が支払われることになる(会社法786①)。被合併法人又は合併法人のいずれが支払う場合であっても、この対価はこれらの法人の自己株式の取得の対価となるので、法人税法上も買取請求の対価は合併全体の対価の一部として取り扱わないことを確認的に明示している(上記(4)参照)。 ところで、法人が自己の株式を取得することは、一般的にみなし配当事由に該当する(所法25①四)。被合併法人が買い取る場合はみなし配当額の計算ができるが、合併法人が買い取る場合は、被合併法人と資本金等の額と利益積立金額の構成割合が異なるため、合併法人の合併後の資本金等の額を基準にみなし配当課税をすることは適切とはいえない。そこで、合併法人が買い取る場合と平仄を揃えるため、被合併法人が買い取る場合もみなし配当とされる事由から除外していると思われる(所令61①八)。 このように、反対株主が買取請求をしたことにより支払いを受けた対価は、上記のとおりみなし配当課税はされないので、全額が株式譲渡損益課税の対象とされる(所法25①四、所令61①八、措法37の10①)。また、被合併法人又は合併法人側は利益積立金額を減少させられないので、対価全額を資本金等の額から減算させる(法令8①十八)。   (6) 1に満たない数の株式等の取扱い 合併法人が、法人の合併に際し株主に対し交付しなければならない株式に1株に満たない端数が生じたため、会社法234条1項(1に満たない端数の処理)の規定等によりその端数の合計数に相当する株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として株主に金銭が交付された場合は、所基通57の4-1《一株に満たない数の株式の譲渡等による代金が交付された場合の取扱い》に準じて取り扱われる。 すなわち、その株主に交付された1に満たない端数に相当する数の株式については所得税法施行令112条1項の規定による取得価額の計算が行われ、その上で譲渡があったものとして株式譲渡損益を計算することになる。 ただし、その交付された金銭が、その交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的に株主に対して支払う被合併法人の株式の取得の対価であると認められるときは、当該取得の対価として金銭が交付されたものとして取り扱われる。 (了)

#No. 31(掲載号)
#内藤 忠大
2013/08/08

会計リレーエッセイ 【第8回】「IFRS早期適用会社の監査人としての実務的な検討事項」

会計リレーエッセイ 【第8回】 「IFRS早期適用会社の監査人としての 実務的な検討事項」   新創監査法人 統括代表社員 公認会計士 柳澤 義一   前回までの会計リレーエッセイの登場者は、この分野では国際的に活躍している日本を代表する方々ばかりであり、いきなり私のようなものがレベルを落としてよいものか迷うところであるが、それを承知でお読みいただきたい。 たまたま私が業務執行を担当していた関与先であるトーセイ株式会社(東証一部上場)がIFRSの早期適用をすることになり、まさにその意思決定プロセスから現場の苦労に至るまで監査人として立ち会うことができたので、その時に感じたIFRS適用の実態と私見を述べたい。 トーセイ会社(以下「会社」)は東証一部の上場会社であるが、シンガポール証券取引所にも重複上場を目指すということになり、提出する書類にIFRSを適用することになった。 そこでさっそく、会社の社長を交えて役員、経理部、そして私どもの監査法人の担当者による日本基準との差についての検討が始まった。そして、これなら日本においても早期適用に踏み切ろうと判断した。 個々具体的な内容について述べることは控えたいが、「IFRS早期適用」と言うと、単に日本基準と異なる部分について連結決算上会計処理を変更するというように理解されるが、意外と個別決算の問題が大きく関わってくるケースが多い(以下の①)。 また、重要性の原則をどのように考えるかも、大きなポイントである(以下の②)。 ポイントをまとめると、以下のとおりである。 ① 個別決算にも適用が可能なものについての税務上の扱い 《個別決算にIFRS合わせて日本基準の範囲内で会計処理を変更した場合に生じる税務上の調整》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 そして問題なのは「※」の部分、すなわち会計処理の変更により課税所得が増えてしまうようなケースであり、一定の要件(例えば、公認会計士監査)により別表減算調整ができるようにすれば、IFRS導入のインセンティブになるものと思われる。 ② IFRSがもつ重要性の基準についての考え方が分かりにくい 重要性の判断についは、会社の判断、監査人の判断に委ねられているため、どうしても日本人は厳しい方向や右倣え主義で考えがちになり、結局、より厳格な方向に行きやすい。 重要性の範囲内であれば、いわゆる簡便法を使うこともオーケーなのであり、そのことが基準上明記されていない。   【最後に私見として】 IFRS早期適用会社には、個別決算にもIFRS適用を認めるべきである。 その場合、収益を従来よりも先に計上しなくてはならない、あるいは経費化を遅らせなければならない、などにより、課税所得が増えてしまうケースについては、公認会計士による監査など一定の要件を前提に、少なくとも課税所得が従来と変わらないように減算調整を認めるべきであろう。 また、重要性の幅について、もっと大胆な発想を持つべきではないか。 重要性の範囲内であれば、簡便法として従来の会計処理でオーケーであるということをもっとはっきり言うべきではないか。 公認会計士は本来IFRSを推進するというスタンスに立つべきであるにもかかわらず、IFRSに対して、すべての公認会計士が本当に心の中で十分な納得感があるのかどうか疑わしい。 それは、当初、やたらに解釈をしてはいけない、解釈できるのは唯一ロンドンだけ、といったようなことが「流布」されてしまったためではないだろうか。 そんな屈辱的なことを言われてまで従う理由があるのかという感情論も心底にあるのかもしれない。例えば、当初は減価償却で定率法は認められないといったことを誠しやかに述べていた人もいたぐらいである。 もちろん真実はそうではないのであるが、一度ついたイメージはなかなか払拭できない。 IFRS適用は、単なる会計基準の変更にすぎないのだから、我々がかつて山ほど経験してきた従来の会計基準の変更の一形態にすぎないと考えるべきである。 どこかのテレビCMではないが、「IFRSなんて会計基準の変更なんだから、誰だってできる!!」という気持ちで臨むべきではないだろうか。 IFRSを特殊なものとして、神棚に上げて拝んでしまっているのは、何を隠そう監査法人自身なのではないか。監査法人の中で「IFRS担当」というポジションを特殊部隊にしてはいないか。 会計は皆で使ってこそ意義があり、私だけ「知ってます顔」は、決して良い結果を生まない。公認会計士はそのことを肝に銘じるべきであろう。 一方で、カーブアウトやJ-IFRS、また、中小企業はまったく別基準だのといった、何かIFRSを「別物扱い」にした動向についても、もっと冷静になっての議論がほしい。 すべての会計は一つの円の中にあり、同心円なのだから、もっとおおらかにIFRSを考えたらどうであろうか。 (了)

#No. 31(掲載号)
#柳澤 義一
2013/08/08

「企業価値評価ガイドライン」改正のポイント

「企業価値評価ガイドライン」 改正のポイント   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年7月3日、日本公認会計士協会は、「経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」の改正について」を公表した。 主な改正内容は次のとおりである。 本稿では改正点を中心に、企業価値評価ガイドライン(以下「ガイドライン」という)のポイントについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 改正の概要 1 位置付け ガイドラインは、公認会計士が株式の価値を評価する場合の実施、報告について取りまとめた研究報告である。 企業価値評価は、依頼人の意思決定を補助するための参考資料として利用されるものであって、当該業務は保証業務ではない。 ガイドラインは、公認会計士が企業価値評価を実施するために準拠しなければならない「基準」や「マニュアル」ではないという位置付けにある。 しかしながら、企業価値評価業務については、不正や企業価値評価を巡る紛争の原因となる可能性も懸念されることから、実際に評価業務を行う際には、ガイドラインを参照することが期待されている。 2 対象会社 ガイドラインは、基本的に、株式の評価が困難な非上場会社を対象としている。 上場会社の株式であっても、株価の推移等から判断して、市場の完全性や株価の操作性の点を考慮し、場合によっては非上場会社と同様に、ガイドラインを参照する必要があることに留意すると述べられている。 3 不正や企業価値評価を巡る紛争への対応 公認会計士は、次の事項に留意する必要がある。 4 企業価値など ガイドラインは次表のように企業価値概念を整理している。 ガイドラインの評価対象は、株主に帰属する価値(株主価値)であり、評価対象会社が継続的に事業活動を行うことで獲得される利益やキャッシュ・フロー等から生み出される価値を評価することになる。 【企業価値概念】 【評価業務の分類】 (※) 一般に鑑定は、様々な意味で使用されている。ガイドラインでは、鑑定を、上表の内容欄に記述しているとおり、裁判所からの鑑定命令によって行われる業務に限定し、裁判目的で実施されるものとして使用している。   算定人は、企業価値評価の結果を、原則として依頼人のみに報告し、算定書は依頼人の意思決定を支援するために取りまとめられるものである。 算定書に利用制限が付されたとしても、算定結果に対して、個別・具体的に、また、批判的にその結果を検討する検討人が存在することを、算定人は強く意識して、業務を行う必要があるとガイドラインは述べている。 検討人としては、M&A当事会社のうち相手方当事会社、当事会社の反対株主、両当事会社の監査役や監査委員会、ステークホルダー、不正が発覚した際に設置される不正調査のための内部調査委員会や外部調査委員会などがあげられている。 【評価アプローチ】 (※) ガイドラインでは、コスト・アプローチに関して、特に時価純資産法といった評価法とイメージが合致しにくいことから、これに代えてネットアセット・アプローチという呼称を使用している。   5 ガイドラインを利用する際の留意点と価値評価の限界 今回の改正により、「(2) 提供される情報の検証」として、提供された情報は、無批判に使用するのではなく、ガイドラインに記述されているような慎重さや批判性等を発揮して、その情報の検討・分析が必要であることが明記されている。 提供された情報については、詳細な調査、証明、保証といった検証作業に代えて、当該情報が利用可能かといった観点からの検討・分析を行い、非常識・非現実的な情報を受け入れることがないように留意すると述べられている。 また、「(3) 将来予測数値の不確実性」として、提供される情報の中には、将来予測数値が含まれる場合があるが、不確実性の高い状況にあっても、それを評価で採用するかの判断に際しては、検討・分析が必要である点に留意が必要であると述べられている。 その際、次の事項を検討・分析し、提供された非常識・非現実的な将来情報を無批判に受け入れ、機械的にそれを評価に使用するのではなく、批判性を発揮して、基礎資料としての有用性及び利用可能性の判断を行うことが重要であると述べている。 6 取引目的の業務受嘱等で留意すべき点 公認会計士の資質、独立性・中立性及び正当な注意義務等についての留意点が述べられている。特に、株式譲受・譲渡、合併などの取引目的の場合には、企業価値評価業務を円滑に進めるだけでなく、不正や企業価値評価を巡る紛争の予防や回避に配慮を払う必要があり、専門性、全体観、慎重さなどの留意点が述べられている。 これらの留意点が十分に発揮できない場合には、業務を受嘱しないか、又は業務委託契約の途中解約などの対応が必要となる。   Ⅲ 企業価値評価における価値形成要因 1 企業価値等形成要因 企業価値評価は、機械的に行うのではなく、個々の事情に応じて、その特殊性を適切に把握し、判断しながら業務を進める必要がある。 そのためには、価値等形成の源泉に加えて、マネジメント・リスクについても検討・分析する必要があると述べられている。 企業価値等形成要因は、「一般的要因」、「業界要因」、「企業要因」、「株主要因」、「目的要因」の5つに大別される。 2 マネジメント・インタビューの実施 評価対象会社のマネジメントに対するインタビューは、入手した基礎資料に表れていない会社の実態を知り、資料の有用性及び利用可能性を裏付ける手続として重要である。 ただし、マネジメント・インタビューは、評価業務を適切に行う上で有効な手続であるが、不正に対しては、必ずしも有効ではない場合もある。企業価値評価が不正に利用される場合、経営者や上位管理者が関わっている場合が多いためである。 評価人はこのような不正の可能性についても留意して評価業務を行う必要がある。 (了)

#No. 31(掲載号)
#阿部 光成
2013/08/08

林總の管理会計[超]入門講座 【第8回】「費目別計算は奥が深い」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第8回】 「費目別計算は奥が深い」   公認会計士 林 總   「管理可能費」と「管理可能支出」   材料費はいつ計上すべきか (了)

#No. 31(掲載号)
#林 總
2013/08/08

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第15回】ソフトウェア会計②「製品マスター完成後に発生するコストの会計処理」 ─バグ取りや保存媒体のコストなど

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第15回】 ソフトウェア会計② 「製品マスター完成後に発生するコストの会計処理」 ─バグ取りや保存媒体のコストなど   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 製品マスター完成後に発生したコストは、以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 機能の強化・改良に係るコスト  (*1) 諸口には材料費、労務費、経費等が該当します。 ② バグ取り・ウイルス対策等の保全コスト ③ CD-ROM等の保存媒体の取得・制作に係るコスト 〈会計処理の解説〉 前回解説したとおり、市場販売目的のソフトウェアの改良等のコストは、製品マスター完成までに発生したものを研究開発費として費用処理し、製品マスター完成後に発生したものを無形固定資産として計上します。 製品マスター完成後は、改良等のコスト以外にもさまざまなコストが発生しますが、そのすべてを無形固定資産として計上できるわけではありません。 製品マスター完成後に発生するコストには以下のようなものがあり、その内容によって会計処理方法が異なります。 製品マスター完成後、その機能を改良・強化するために発生したコストは無形固定資産として計上します。 ただし、製品マスター完成後であっても、研究開発活動と考えられるような大幅な改良コストについては、研究開発費として処理しなければなりません。例えば、主要なプログラムの過半部分を再制作する場合や、ソフトウェアのオペレーションシステムなど、動作環境を大幅に修正する場合は、これに係るコストを無形固定資産ではなく、研究開発費として処理することとなります。 バグ取り、ウイルス対策等にかかるコストは、あくまでソフトウェアの機能維持が目的であるため、資産として計上するのではなく、発生時に費用として処理します。 保存媒体の取得・制作コスト、利用マニュアル等の制作コストは、製品マスターの制作にかかるコストではなく、製品として販売するために必要なコストであるため、無形固定資産ではなく製造原価として処理します。 以上をまとめると、下図のようになります。 次回は、自社で利用しているソフトウェアの会計処理について解説します。 (了)

#No. 31(掲載号)
#大川 泰広
2013/08/08

有効な解雇手続とは 【第2回】「解雇に関する法規制」

有効な解雇手続とは 【第2回】 「解雇に関する法規制」   社会保険労務士 井下 英誉   1 はじめに 前回では、解雇トラブルを予防するには、「対象者」「理由」「手続」の3つの要素が適正であることが重要であるとお伝えした。 今回は、解雇に関する法律を取り上げて、それぞれの法律がどの要素の判断基準になっているかを解説する。   2 労働基準法の規定 労働基準法19条は、上記3つの要素のうち「対象者」に関する規定である。また、同法20条と21条は「手続」に関する規定である。 労働基準法は強行法規であるため、19条に定める労働者を解雇した場合は、その解雇は無効となる。また、労働基準監督署長の認定を受けず20条に定める予告手当も支払わない即時解雇は無効となる。   3 労働契約法の規定 労働契約法16条は、上記3つの要素のうち「理由」に関する規定である。本規定を具体化するために、就業規則等に解雇事由を定める会社が多い。 しかしながら、この「理由」を判断するにあたっては、そこに至るまでの経過も評価されるため、会社としての義務を怠っていれば「解雇権の濫用」とされる可能性が高くなる。   4 男女雇用機会均等法の規定 男女雇用機会均等法9条は、上記3つの要素のうち「対象者」と「理由」に関する規定である。   5 育児・介護休業法の規定 育児・介護休業法10条は、上記3つの要素のうち「対象者」と「理由」に関する規定である。 次号では、「就業規則における解雇ルール」を解説する。 (了)

#No. 31(掲載号)
#井下 英誉
2013/08/08

新たな高速バスの法規制と労働問題 【第2回】「過労運転防止対策としての交替運転者の配置基準の見直し」

新たな高速バスの法規制と労働問題 【第2回】 「過労運転防止対策としての 交替運転者の配置基準の見直し」   特定社会保険労務士・運輸安全コンサルタント 山田 信孝   Ⅰ 新高速乗合バスの特性 新高速乗合バスは、乗合バス事業の許可を受けた事業者に限り運行が認められるが、国土交通大臣の許可を受けた場合には、その運行の一部の便数(事業計画の原則1/2)を、他の貸切バス事業者に委託することができる。 つまり、道路運送法35条に定められた「事業の管理の受委託」としての許可を取得した貸切バス事業者だけしか、新高速乗合バスの運行に携わることができないことから、高速ツアーバスに見られた取引の多重構造はなくなることになる。 【図1】 新たな高速乗合バスの安全規制の強化 高速ツアーバスを運行していた事業者は、平成24年9月時点では、286事業者(旅行業者58、貸切バス事業者228)であったが、新高速乗合バス事業に移行した事業者は79事業者(うち、管理の受委託の許可を得た貸切バス事業者30)であり、約72%の事業者が撤退したことになる。 その原因としては、自社バスの所有や停留所の確保が義務付けられたことに加え、過労運転防止対策や運行管理体制の強化を求められたことが大きいと考える。 また、平成24年7月より、柔軟な運賃・料金の設定及び運行計画、運賃・料金の事前届出期間が30日前から7日前に短縮されたことから、バス事業者の自由度は増えたものの、運行委託できる貸切バス事業者が少なくなったこと及び停留所の共同利用などにより、バスの運行便数に制約を受けた場合がある。 さらに、過労運転防止の対策として、一定の長距離・夜間運行の場合には、交替運転者を配置する義務を負うことになった。 そこで、次に、交替運転者の配置基準について、触れることにする。   Ⅱ 交替運転者の配置基準 1 「勤務時間等基準告示」 バス事業者には、「過労の防止を十分考慮して、国土交通大臣が告示で定める基準に従って、事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間を定め、当該運転者にこれらを遵守させなければならない。」(旅客自動車運送事業運輸規則(以下「運輸規則」という)21条第1項)義務がある。 そして、その運転者の勤務時間及び乗務時間の基準については、「事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(平成13年国土交通省告示)(以下「勤務時間等基準告示」という)に基づき「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示)(以下「改善基準告示」という)によることとされる。 つまり、バス運転者の勤務時間及び乗務時間の基準については、厚生労働省告示に基づくとされているわけである。 2 「交替運転者を配置する場合」とは 「運転者が長距離運転又は夜間の運転に従事する場合であって、疲労等により安全な運転を継続することができないおそれがあるときは、あらかじめ、交替するための運転者を配置しておかなければならない」(運輸規則21条6項)。 交替運転者の配置義務がある場合とは、「勤務時間等基準告示」で定められた条件を超えて、引き続き運行する場合をいう。 具体的には、 である。 しかし、関越道高速ツアーバス事故を受け、平成24年5月、過労運転の防止策を検討する目的で設置された「高速ツアーバス等の過労運転防止のための検討会」において、交替運転者の配置基準が審議され、「夜間の高速ツアーバス等の配置基準」(平成24年7月20日適用)及び「夜間の貸切バスの配置基準」(平成24年12月1日適用)に定められた条件を超えて、引き続き運行する場合にも、交替運転者の配置義務を負うことになった。 そして、平成25年8月1日からは、「新高速乗合バスの交替運転者の配置基準」及び「貸切バスの交替運転者の配置基準」が全面的に適用されることになり、それぞれの配置基準に定める条件を超えて、引き続き運行する場合にも、交替運転者を配置することが義務付けられた。 なお、これに伴い、前回述べた総務省の勧告において、運転者の健康面や生理学的な面での検討が行われていないと指摘された、2日平均で1日当たりの運転時間の上限(9時間)に相当する乗務距離の上限を670kmとしていた、「一般貸切旅客自動車運送事業に係る乗務距離による交替運転者の配置の指針について」(平成20年6月27日)は、平成25年8月1日付けで廃止となった。 3 「新高速乗合バス」の交替運転者の主な配置基準 ① 実車距離(乗客の乗車の有無にかかわらず、乗客が乗車可能な区間として設定した距離をいう。以下、同じ) ワンマン運行できる実車距離は、夜間(最も眠気が生じやすいとされる、午前2時から午前4時までの間にある運行又は当該時刻を跨ぐ運行をいう。以下、同じ)は400kmまで、昼間(夜間以外の運行をいう。以下、同じ)は500kmまでする。 ただし、特別な安全措置を講ずる場合は、夜間は500kmまで、昼間は600kmまでとする。 ② 1日の運転時間 ワンマン運行できる運転時間は、原則、9時間以内とする。 ③ 連続乗務 夜間ワンマン運行の連続乗務は、連続4夜(往復2回)までとする。 ただし、実車距離が400kmを超える場合には、連続2夜(往復1回)までとする。 (注) 1 新高速乗合バスには、貸切バス事業者の受託運行も含まれる。 2 自社運行の場合には、例外措置がある。 【図2】 高速乗合バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準 (出典:「高速ツアーバス等の過労運転防止のための検討会」(平成25年4月2日))   4 「貸切バス」の交替運転者の主な配置基準 ① 実車距離 ワンマン運行できる実車距離は、夜間は400kmまで、昼間は500kmまでする。 ただし、特別な安全措置を講ずる場合は、夜間は500kmまで、昼間は600kmまでとする。 ② 1日の運転時間 ワンマン運行できる運転時間は、原則、9時間以内とする。 ③ 連続乗務 夜間ワンマン運行の連続乗務は、連続4夜(往復2回)までとする。 ただし、実車距離が400kmを超える場合には、連続2夜(往復1回)までとする。 (注)1時間以上のまとまった休憩を入れる場合には例外措置がある。 なお、交替運転者の配置基準の詳細については、下記国土交通省のホームページを参照。 (了)

#No. 31(掲載号)
#山田 信孝
2013/08/08

民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第7回】「賃貸借」

民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第7回】 「賃貸借」   弁護士 中西 和幸   民法改正のスケジュールについては、法制審議会において、平成26年7月末までに「要綱仮案」の取りまとめを行うこととされ、平成27年2月頃に法制審議会の答申をすることが予定された旨が法務省から公表された。 また、法制審議会民法(債権関係)部会第74回会議(平成25年7月16日開催)のウェブサイトでは、先日締め切られたパブリックコメント手続で得られた意見の速報版が掲示され、そもそも民法改正は不要であるという見解から、個々の論点に関する様々な立場からの様々な意見が寄せられている。 民法改正自身は行われるであろうが、どの程度の規模でどのような内容の改正が行われるかは、今後の法制審議会の議論と各関係者の意向によるであろう。引き続き注目していきたい。   1 賃貸借契約の現状等 現行法では、民法が賃貸借契約一般について定め、借地借家法が特別法として規定されている。 これは、従前は、我が国の国土のうち居住や事業のための建物の所有等の利用に適した不動産が限られており、貸し手が非常に有利な立場にあったことから、「借り手保護」という社会政策的な見地から借地借家法(従前は借地法と借家法であった)という特別法が制定されたという経緯があった。 もっとも、近時は、土地利用の高度化等による供給過剰や景気変動等の理由から、従来ほど貸し手が有利とは言い切れない状況がある。 また、賃貸借契約も、現在の民法や借地借家法では考えられていなかったスキームが広がっている。例えば、不動産の流動化スキームにより形式的な所有者と損益が帰属する実質的所有者が分離し、また、家賃保証の実質を備えるため集合住宅を一棟丸ごと所有者から借り、これを個々の居住者に転貸する等のスキームなどがある。 そのような時代背景も踏まえた民法改正の中間試案と考えられる。   2 中間試案の要点 (1) 存続期間の廃止 賃貸借契約の存続期間は最長20年であると、民法604条にて定められている。 ゴルフ場の敷地やプラントなど、借地借家法の適用がない契約において、20年以上の利用を想定している契約もあることから、かかる存続期間の規程を廃止するという改正案である。 なお、特別法である借地借家法の賃貸借契約期間に関する各規定については、改正の範囲とはなっていない。 (2) 賃貸人たる地位の移転 民法上、賃貸人たる地位の移転に関する明文の規定はなかった。そして、賃貸物件の所有権が移転すれば、民法上の原則では、「売買は賃貸を破る。」という法格言のとおり、賃貸借契約は終了すると解されていた。 しかし、そもそも賃貸借契約を継続したまま所有権の移転を求める譲受人からすると、自動的に賃貸借契約が終了するのは望まない結果となる。そのため、売買が賃貸借を破らない取扱いも実務上は必要である。 その一方、借り手保護の観点から、借地借家法の保護を受けられる賃借人は、所有権が移転されても賃貸借契約は解除されず、譲受人が新たな賃貸人となる必要がある。 こうした点については、民法605条に定めがあるとはいえ、賃借権の登記は賃貸人が優位である状況の下ほとんど行われていなかったことから、ほとんど適用の余地はなく、借地借家法上の対抗力があれば登記に準ずるものとして対抗力が判例上認められ、現在に至っている。 このように、判例上ほぼ整理され実務もほとんど固まっているところであるが、今回の中間試案では、こうした賃貸人たる地位の移転を明文化して整理している。 ① 賃借人が賃貸人に対して賃借権を対抗できる場合 中間試案では、賃借人が、登記等により賃借権を所有権に対抗できることを規定し、対抗できる場合に、賃貸人たる地位が移転することを原則としている。 そして、この賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには、新所有者は所有権移転登記を受けなければならないことが明確にされた。もっとも、賃借人が賃貸人の地位の移転を認めて賃料を支払うことは否定していない。 さらに、中間試案では、上記の賃貸人たる地位の移転により、敷金と費用の償還請求権も新所有者に移転することを明確にしている。 これらは、いずれも判例法を明記したものであり、実務上もほぼ定着していると言ってよいであろう。 また、例外として、賃貸人たる地位の移転を留保することを認め、その場合、新所有者を賃貸人とし、旧所有者を賃借人とする賃貸借契約を締結することを要件とし、旧賃借人は旧所有者から物件を借りる転借人としての地位を有することになる。無論、賃借人の転借権は従前と同様の内容が継続することから、新所有者と旧所有者の間の賃貸借契約は、転借権の内容をすべて含まなければならないことになろう。 ② 賃借人が賃貸人に対して賃借権を対抗できない場合 賃借人が賃貸人に対して賃借権を対抗できない場合、賃貸借契約は所有権の移転により当然終了し、新所有者は賃貸人たる地位を取得しないことが原則である。 ただし、新所有者と旧所有者が合意した場合は、賃借人の同意を得ないで賃借権を譲渡できるものとした。 この場合の敷金や費用の償還請求権については、賃借権が対抗力を有する①と同様の規律としている。 (3) 妨害排除請求権 通常、妨害排除請求権が認められるのは、所有権についてである。 賃借権の場合は占有訴権(民法198条、200条)により救済を求めることができるが、1年の期間制限や、占有を開始する前(例えば、賃貸借契約をしたものの、使用開始前に既に当該物件を第三者が占有していた場合)の第三者に対しては行使することができなかった。また、二重賃貸借がなされた場合、その解決が容易ではなかった。 そこで、中間試案では、妨害排除請求権を不動産賃貸借について独自に認め、登記や借地借家法上の対抗要件を備えた場合には、第三者に対する妨害停止の請求又は返還請求を認めることとした。 これらも判例を明確化したものであり、特段新しい改正というものではない。 (4) 敷金 敷金については、中間試案では、まずこれを定義し、返還時期を賃借物の返還又は適法な賃借権の譲渡後として物件の返還等と敷金の返還が引換給付にならないことを明記し、さらに、賃貸人から賃料に充当できることと賃借人から賃料に充当するよう請求できないことを明確にした。 こうした点は、判例や実務を整理したものであり、基本的には特段の影響はないものと思われる。 (5) 賃貸物の修繕等 現行法が整理され、明文化されることとなり、以下のような内容となった。 (6) 賃料の減額 まず、収入減の一事をもって賃料減額請求や解除ができる旨の規定(民法609条、610条)を削除することとされている。もっとも、借地借家法11条や32条は削除されないため、賃料減額請求そのものが不可能とはならず、経済事情の変動等の理由による賃料の増減額は否定されないことになる。 そして、賃借物の一部滅失等による賃料減額についての規定を整理し、 とされている。 なお、賃借物の全部滅失は、賃貸借契約の終了となることも明確化されている。 (7) 転貸の効果の整理 適法な転貸借(賃貸人が承諾した場合等)については、転貸借により賃貸人と転借人が直接権利義務関係を持つことになることが明記され、賃貸人は転借人の使用収益を妨げてはならないことが明記された。 また、賃料についても明記され、転貸借が開始された時期に転借人が転貸人に賃料を前払いしていたとしても、その前払いは賃貸人には対抗できないものと明記された。 そのため、二重払いとなる賃料について、転借人は転貸人に対して返還を求めることになるが、回収できないリスクも考えられ、転貸借となる場合、賃料の前払いについては注意が必要である。 また、転貸借の基礎となる賃貸借契約が合意解除されても、その時点で債務不履行がない限り適法な転借人には対抗できないことなども明確にされている。 (8) 収去義務及び原状回復義務 契約終了時の収去義務及び原状回復義務について、以下の通り明確化された。 そして、賃借人は受領後に賃借物に損傷があった場合は、これを回復する義務を負うが、契約の趣旨に照らして賃借人の帰責事由とならない場合は、原状回復義務を賃借人は負わないものとされた。 (9) 短期消滅時効 中間試案では、契約の趣旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償は、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならず、賃貸人が賃貸物の返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、消滅時効は、完成しないものとされた。 この規定は新設の規定であり、従前は10年間の消滅時効(民法167条1項)とされていたものが短期消滅時効とされたものである。 実質的な改正がなされた部分ではあるが、比較的限定された場面で適用されることになる。   3 実務への影響 (1) 不動産賃貸借契約への影響 上記のとおり、中間試案のうち賃貸借契約については、ほとんどが従前の判例を明確化したものである。そして、その内容は、不動産賃貸借を中心にまとめられたものと思われる。 また、明確にされた判例も、個々の事案の妥当な解決を指向したいわゆる「事例判決」ではなく、多くの事例に適用できる判例と解されるものの明確化であり、実際、実務等もその判例に沿って行われている。 例えば、原状回復義務との関係で、従前の実務は居住用不動産の多くで退去時の壁紙の張替えや清掃については賃借人の負担であったが、近時、賃借物の通常の使用収益により生じた賃借物の劣化又は価値の減少については原状回復義務を負わない裁判例が積み重なり、こうしたことが明記されたものと解される。 こうした判例の積み重ねが明文化されることにより、多くの人や会社等の法人が関わる不動産賃貸借において、賃貸人及び賃借人の双方が「知らなかった」という事態を回避できると考えられるかもしれない。しかし、通常は、法律の条文の一つ一つを確認する者は少なく、実務における契約書のひな形、監督官庁の指導や業界団体のリード等により法令改正が広がっていくものと思われる。 もっとも、今回の法令改正自身はほとんど実質的な改正はなく、改正の意義も実務への影響も薄いものと思われる。 (2) 複雑化した不動産取引への影響 近時は、大規模不動産については資金調達等の関係から流動化され、また、維持・管理等の関係から、転貸等がなされることが多い。 中間試案では、こうした取引についても配慮したものと思われる。 しかし、流動化が伴うことも少なくない大規模な不動産の賃貸借契約やその所有権の移転等においては、十分なコストをかけて慎重に検討された賃貸借契約書等の各種契約が締結されており、改めて民法が規定する必要はほとんどないように思われる。 こうした契約に対し、改正された民法が強行法規とされて個々の契約より優位に立つとなると、契約実務への影響が一定程度生じる可能性がある。この場合、さらに契約条項の検討が必要となるなど、実務上の混乱を招く可能性があるものと思われる。 (3) まとめ 中間試案における賃貸借については、問題は少ないが既に実務が先行し実益も少ない改正であると思われる。そして、改正部分が強行法規であるとするならば問題を検討しなければならないことになる。筆者としては、改正をしない方がよいと考えているが、はたしてどうなるであろうか。 (了)

#No. 31(掲載号)
#中西 和幸
2013/08/08

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術  【第8回】「全社員が売上を最大に、経費を最小にすれば、利益は後からついてくる」

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第8回】 「全社員が売上を最大に、 経費を最小にすれば、 利益は後からついてくる」   株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和   経営は、何も難しいことではありません。要するに、この標題のようなことを実行すれば、自然と利益が出てくるのです。これをおっしゃたのが京セラの稲盛さんです。 パナソニックの創業者の松下さんは、入るを増やし、出を制すれば利益が出ると言っておられたようです。どちらも同じ考え方のようです。 しかし、この簡単なことを難しくしているのが私たち会計人なのです。経営分析とか損益分岐点分析を使って、より複雑にしているのです。 この利益の方程式の言葉は誰だって分かります。しかし、この言葉を会社の中でどのように使っていくのかをご存知の方は、あまりおられないようです。 仮に、社長が全社員を集めてこの言葉を叫んでみたとしても、なかなか社員に理解してもらえません。それは、社員自身の行動が数値化されていないので、売上も経費もよく分からないからです。そのため、いくら社長が叫んでも、社員は行動を起こしようがないのです。 仮に、部門別損益計算書を作っていたとしましょう。しかし、製造部門の社員がこう叫びます。“社長、私たちには、売上がありません。社長の言葉を実現しようにも不可能です”と。 そうなのです。普通の会社では、製造部門には売上が計上されていません。そこで、ほとんどの会社では“営業は売上最大、製造は経費最小を目指せ”と叫ばれているのです。 これでは利益の方程式とは少し異なります。ここに、この言葉の簡単なようで難しいところがあるのです。 要するに、この方程式を実現するには、経営システムを変える必要があります。まず各部門ごとに損益の数字まで出すことです。次に、製造部門にも、営業部門への売上を計上するようなシステムに変える必要があるのです。 つまり、各部門の部長を町工場の社長さんに変えるのです。何も別会社にする必要はないのですが、気持ちも行動も社長さんになってもらうのです。 この標題の利益の方程式の言葉は簡単ですが、実務的には深い意味があるのです。これが本当の実学だと私は思っています。 (了)

#No. 31(掲載号)
#田村 繁和
2013/08/08
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