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〔会計不正調査報告書を読む〕【第11回】株式会社イチケン・関西支店における不適切な会計処理に係る「外部調査委員会報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第11回】

株式会社イチケン・

関西支店における不適切な会計処理に係る

「外部調査委員会報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】

 

【株式会社イチケンの概要】

株式会社イチケン(以下「イチケン」という)は昭和5年創業。総合建設業。売上高57,617百万円、経常利益989百万円。従業員505名(数字はいずれも2013年3月期)。筆頭株主はパチンコ店運営の株式会社マルハン(所有割合32.54%)。東証1部上場。

 

【報告書のポイント】

1 調査結果により判明した事実

(1) 不適切な取引発覚の経緯
平成25年4月の人事異動により新支店長となった執行役員に対し、同年7月中旬、関西支店の施工部門長が、一部の工事について協力会社の了解を得て工事代金の一部を支払わず、別の工事代金として支払っていたこと(以下「付け替え」という)を報告したことから、同支店における不適切な会計処理が発覚した。

なお、新支店長は、異動前において、東京支店の建設担当副支店長であった(関西支店内部における昇格ではない)。

(2) 不適切な会計処理の概要
関西支店では、リーマンショック後の関西地区の建設市況の悪化に伴い、受注額が3分の2以下に減少したことから、支店の施工部門である建設部及び店舗建設部の部長らは、平成22年以降、予算が不足して赤字が見込まれる工事等について、協力会社に工事代金の一部を請求しないよう依頼し(損失の先送り)、別の工事代金として請求させて支払うことを繰り返すようになった。

調査の結果、関西支店が付け替えにより先送りした工事代金の簿外債務は過去4年の合計で55件約862百万円であり、このうち他の工事代金として架空請求させて返済した金額は約495百万円であることが判明した。

(3) 組織的な関与の有無について

【関西支店における不適切な会計処理の認識】

部長らの依頼を受けて工事代金の請求を留保するなどの付け替えを行っていた協力会社は合計44社であった。

これだけの協力会社が存在した理由については、「継続的な取引関係を補償しうる権限と通謀者間の信頼関係が必要」であったと、外部調査委員会は指摘している。

(4) 業績に与えた影響
上記(2)に記載した原価の先送りと簿外債務の返済による原価計上は、未返済の簿外債務を原価に追加計上するとともに、工事進行基準による完成工事高を算定する進捗率の計算、工事損失引当金繰入額の計算にも影響を与える結果となり、営業利益ベースで約666百万円の修正が必要であると報告されている。

 

2 不適切な取引が長期間発覚しなかった理由

(1) 関西支店の特殊性
付け替えを行っていた部長らと協力会社との間には親密な長い付き合いがあり、関西地区発祥のイチケンとの取引が数十年にわたっていること、関西支店の幹部社員の人事異動が関西地区に限られていることなどに基因した信頼関係が、長期間にわたり、44社を巻き込んでの大規模な工事原価の先送りを可能としていた。

また、関西支店の風土として、「受注優先かつ赤字工事を認めようとしない」ことから、当初の工事予算が過少になる傾向があったことも判明している。

(2) 平成24年3月期に発覚した福岡支店における付け替え
イチケンでは、平成24年3月期に福岡支店で付け替えが発覚したことから、各支店長、副支店長、購買部、建設部、店舗建設部の各部長宛に「工事原価の付け替えは許されないことを周知願いたい」旨の文書を発出し、また、これについて各種会議でも取り上げていたが、内部監査及び会計監査人により精査を受けたのは福岡支店のみであり、全社的な調査は行われていない。

また、イチケンでは、支店長が営業、購買、施工、管理のすべての業務を統括し、強大な権限を付与されていることにより、本社管理部門の牽制機能や取締役による監視機能が十分に働かない可能性は予見できたにもかかわらず、社外監査役3名を含む監査役及び会計監査人がこうした組織体制に関する問題点を指摘し、改善策を提言したとは認められない。

こうしたこともあってか、報告書では、「会計監査人に対しては、より不正リスクに対する感度を高め、充実した会計監査の実施を通して不正の防止と早期発見に貢献されていくことを強く期待する」とされている。

(3) 内部統制上の脆弱性
報告書では、イチケンの内部統制上の問題として次の4点を挙げている。

 不正に対する認識の低さ、及び、倫理教育の不徹底による、個々の組織構成員による不正防止・抑止力が脆弱である

 内部通報制度の形骸化と、制度に対する信頼性が低い

 不正防止のキーとなる人材・職位者に関する人事ローテーションが不十分である

 管理部門による「異常事象」の認知把握能力が不足している

報告書では、特に人事ローテーションについて、関西支店の特異性を指摘している。前関西支店長は支店長在任10年間、2人の副支店長もそれぞれ8年間、10年間同じ職位に留まっており、かつ、入社以来関西支店から異動していなかった。

 

3 調査報告書の特徴

(1) 本件のきっかけとなった組織変更
イチケンでは、平成23年3月に事業統括本部を廃止し、管理部門は各支店に所属することとなる。その結果、支店長に権限が集中し、支店管理部門は、支店の活動状況を本社の観点からチェックするという機能を失っていた。

組織のあり方については、報告書でも「マネジメントの判断による」としながらも、「管理部門を本社機能に直結させることを検討すべきである」と再発防止策として提言しており、事業統括本部の廃止という組織変更が、結果論とはいえ、今回の不適切な会計処理が長く続いた原因の一つと考えていることを推認させる。

(2) 買掛金残高確認はどの程度行われていたのか
原価の先送りにより、当期の利益を確保するという手法は、建設業界のみならず、原価計算によって損益を確定させるという業務プロセスを有する企業であればどこでも生じうる不適切な会計処理であり、現に、イチケンにおいても、今回の関西支店のみならず、福岡支店・札幌支店でも、同様の処理が行われていた。

協力会社に対する買掛金の残高確認がどのように行われていたかについて、報告書からは読みとれない。
本来であれば、残高確認や協力会社からの情報はこうした工事原価の先送りを発見する最も有効な手法であると考えられるのだが、報告書の中にそうした監査手続についての具体的なの言及がなかったのは少し残念である(調査委員会は独自に協力会社に対してアンケートを行い、事実解明を行っている)。

(3) 再発防止策の検討
イチケンが公表した再発防止策の中で「協力会社専用の相談窓口の設置」が掲げられているのは、評価できる。ただし、相談窓口への通報の秘密が厳守されること、発注権限を有する支店幹部社員のジョブローテーションが有効に機能することなどの前提が崩れると、協力会社に対する「継続的な取引関係」を担保にした通謀がなくなるという保証はなく、こうした窓口が画餅に帰する可能性も考えられる。

同様な懸念を抱かせる再発防止策に「ジョブローテーション等の実施」というものがある。
そこでは、責任者・発注権限者の定期的なジョブローテーションを掲げながら、次のように留保条件を附している。

但し、当社の場合、営業職については地域密着型営業及び信頼関係の重要性、施工技術職についてはその専門性の高さから、当社の営業力・技術力を維持確保するうえで、異動については慎重に行います。

この留保条件が、社員に対するメッセージなのか、顧客に対するものか、判断はつかないが、いずれにしても、例外を認めてしまえば、いつのまにかその例外が既成事実となり、当初に規定を作ったときの理念が霧消して再発につながるというのは、他社事例でもよく見られるところである。

*  *  *

なお、第三者(外部)調査委員会による報告書では損益の修正が法人税等の申告に与える影響について言及されていないものがほとんどであるが(調査委員に税理士が加わっていないことが原因ではないかと考えられる)、本報告書にも、以下のような記載がある。

損益の修正に伴い、法人税等の税金費用の額の修正も必要なる可能性があるが、本調査委員会の検討対象には含めていないため、言及しない。(13頁)

本件のような粉飾決算であれば、過年度に納め過ぎた法人税等について更正の請求を行うことが一般的である(損益や資金に与える影響はない)ことから、この報告で十分なのであろうが、不正会計事案によっては法人税等について修正申告が必要になるだけでなく、税務調査による重加算税の賦課決定処分なども考慮して報告しなければならない場合も考えられる。

このため第三者(外部)調査委員には、法人税・消費税などに関する知見も必要ではないかと思料する次第である。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

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第51回~

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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