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平成26年1月から施行される「国外財産調書制度」の実務と留意点【第1回】

平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第1回】   税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦   第1章 制度の概要   1-1 はじめに 平成24年度の税制改正で、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「送金等法」という)が改正され、「国外財産調書」制度が創設された。 これにより、毎年12月31日において5,000万円を超える国外財産を所有する居住者(非永住者※を除く)は、翌年3月15日までに、所轄税務署長に対して、保有する国外財産の内容を記載した報告書を提出する義務を負うこととなった。 ※ 非永住者とは、日本国籍を有せず、かつ過去10年以内に国内に住所又は居所を有していた期間が5年以下の個人をいう。日本に来てから5年未満の外国籍の者は、12月31日において日本に住所がなく1年以上の居所も有しない場合には、非居住者となり、非永住者とはならない。 この規定は、平成26年1月1日以降に提出すべきものから適用されるので、最初の提出としては、平成25年12月31日において要件を満たす者は、平成26年3月15日(同日は土曜日なので実際には17日)までに提出しなければならない。 なお、この調書は、所得税や相続税等の申告書提出義務がない場合であっても提出する必要がある。 税務上の法定調書は50種類以上あるが、そのほとんどが取引における対価の支払者が作成・提出する「支払調書」の形式をとる。これに対して、国外財産調書は、自己の保有する財産に関する情報を開示するものであり、両者は同じ「法定調書」であっても、性質が異なる。 規定の解釈・適用の細部については、今後国税庁から発遣される通達等により明らかにされるが、本稿執筆時点(平成25年1月28日現在)においては、未だ発遣されていない。 したがって、以下の説明は本稿執筆段階において明らかにされている情報によるものである点、留意が必要である。   1-2 制度のあらまし まずは以下において、本制度のあらましについてまとめることとする(制度の詳細については、第2章で改めて述べる)。 (1) 報告義務者 居住者(非永住者を除く)で、その年の12月31日において、国外保有財産の価額の合計額が5,000万円を超える者。 非永住者と非居住者には、提出義務がない。(送金等法5①)。 (2) 報告期限 翌年の3月15日(送金等法5①)。 なお、最初の期限である平成26年3月15日は土曜日であるため、3月17日が期限となる(通法10②、通令2②)。 (3) 適用開始時期 改正法は平成26年1月1日から施行されるため(平成24年3月31日改正法(法律第16号)附則1、59)、平成26年1月1日以降に提出すべき国外財産調書から適用される(同附則59)。 (4) 提出・不提出による加算税の取扱いの特例 この調書を提出した場合には、記載された国外財産に関して申告漏れがあったときであっても、加算税が5%減額される(送金等法6①)。 記載が無いか不十分である場合において、その財産について申告漏れが生じたときは、加算税が5%加重される(同6②)。 (5) 罰則 虚偽記載による提出や正当な理由なく提出期限内に提出しなかった場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされている。 このうち期限内不提出については、情状により刑を免除することができるとされている(送金等法10)。 (6) 対象となる財産 報告義務者が有する国外財産。国外財産とは、国外にある財産をいう(送金等法2七)。 債務は報告対象ではない。財産の合計額の計算上、債務は控除しない。 所在の判定は12月31日の現況により、相続税法10条1項、2項に定めるところによる(送金等令10①②)。 (7) 財産の価額 その年の12月31日の時価(又は時価に準ずる「見積価額」)によることとされている。 外国通貨建てのものは、為替売買相場で換算する(送金等令10③④)。 (8) 報告事項 報告事項としては、国外財産を有する者の住所・氏名、国外資産の区分・種類・用途・所在地、数量、価額、その他参考になる事項が省令で定められている(送金等規則12)。 (9) 調査 国外財産調書の提出に関することは、国税職員による質問検査権の対象となる(送金等法7)。 次回より、本制度創設の背景について解説する。 (了)

#No. 5(掲載号)
#小林 正彦
2013/02/07

定期同額給与の3ヶ月以内改定

定期同額給与の3ヶ月以内改定   税理士 妹尾 明宏     1 法人税法上の役員給与(定期同額給与)について 法人税法では、役員に対して支給する給与のうち、定期同額給与、事前確定給与及び利益連動給与に限り損金算入を認め、これらに該当しないものは原則損金不算入としている。 このうち、定期同額給与とは、次に掲げる給与をいう。 (1) 支給時期が1月以下の一定期間ごとである給与(定期給与)でその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(法法34①一) (2) 定期給与で次の給与改定がされた場合には、①その事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日までの間の各支給時期、及び②給与改定前の最後の支給時期の翌日からその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの(法令69①一)  イ 3月経過日等(通常改定)   その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日(3月経過日等)まで(継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定が3月経過日等後にされることについて特別の事情があると認められる場合にあっては、その改定の時期)にされた定期給与の額の改定(法令69①一イ)  ロ 臨時改定事由   その事業年度においてその内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)によりされたこれらの役員に係る定期給与の額の改定(イの改定を除く)(法令69①一ロ)  ハ 業績悪化改定事由   その事業年度においてその内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由(業績悪化改定事由)によりされた定期給与の額の改定(その定期給与の額を減額した改定に限り、イ及びロに掲げる改定を除く)(法令69①一ハ) (3) 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法令69①二)   法人税法の役員給与の制度趣旨は、利益調整等の恣意性の排除にあり、(2)イの3月経過日等までの通常改定の場合、毎期同時期に行う定期的な改定を前提にしていると考えられる。 ここで、法律、政令では損金算入となる給与の範囲が必ずしも明確になっておらず、通達や質疑応答事例、「役員給与に関するQ&A」等をもとに損金算入の可否を判断するのが実務となっている。 しかし、通達等でも明らかにならないケースは多分に存在するため、最終的には個々の事情に照らし、恣意性の有無も勘案して判断することになる。   2 定期同額給与の3月経過日等までの改定 以下、役員給与が改定された場合に、定期同額給与として損金算入が認められるか否かを考える。 (1) 定時株主総会での通常改定 上記1(2)イの3月経過日等までの改定は、通常決算後3ヶ月以内に開催する定時株主総会で役員給与の支給額を改定することを想定していると思われる。 実務では定時株主総会で報酬総額のみ決議し(枠取り)、各役員への具体的支給額は取締役会へ委任することが一般的である。また、取締役会では代表者に一任することが多いと思われる。 役員の職務執行期間は、一般に定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間であると解され、定時株主総会における定期給与の額の改定は、その定時株主総会の開催日から開始する新たな職務執行期間に係る給与の額を定めるものであると考えられる。 この場合の定時株主総会又は取締役会、代表者の決定による定期的な給与改定は、恣意性の介入も認められないことから損金算入が認められる。 (2) 期首から増額する場合(ご質問の場合) (1)の通り、上記1(2)イは、定時株主総会で役員給与の支給額を改定することを想定していると思われるが、期中いつでも役員給与を改定することは当然に可能である。また、報酬総額の枠内であれば、改めて株主総会を経ることなく、取締役会の決議での給与改定もできる。 ご質問の場合は、役員の職務執行期間の中途における改定であるが、X年以降継続して定期的に期首より改定を行うものであり、その事業年度内の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与に該当すると考えられる。 ここで、例年は定時株主総会での改定、X年のみ期首改定を行うということであれば、定期的な改定を想定していると考えられる通常改定の趣旨に合わず、慎重な検討を要する。期首改定も臨時改定事由が必要であるとする意見もあるところだが、その事業年度内の各支給時期における支給額が同額であれば、定期同額給与に該当すると考えられる。 しかし、あくまで通常改定の想定は定時株主総会の時期での改定であり、一職務執行期間は同額とすることが望ましいことに変わりはない。 ここで、仮に臨時改定事由、業績悪化改定事由に該当しない理由により、X+1年1月支給分から役員給与を減額改定した場合には、減額前後の給与差額×9ヶ月分(X年4月からX年12月)が損金不算入になると考えられる。   (3) 3月経過日等までに2回改定する場合 (2)のように期首に役員給与を増額改定した後、6月の取締役会において6月支給分から役員給与を更に増額改定した場合はどうなるであろうか。この2回の改定は、3月経過日等までの改定である。 一事業年度に複数回の改定が行われた場合の記述として、『平成19年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)331頁、及び「役員給与に関するQ&A」Q3(複数回の改定が行われた場合の取扱い)がある。この中では複数回改定があることを前提に説明がなされており、各改定の前後で区分して同額判定することとしている。 (参考:『平成19年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)331頁) しかし、これは通常改定と臨時改定があった場合の説明であり、3月経過日等までに複数回改定(臨時改定及び業績悪化改定に該当しない改定)することは想定されておらず、恣意的な利益調整に当たるため認められないと考えられる。 つまり、3月経過日等までの改定は、複数回改定があっても改定の経緯等を勘案して1回のみ通常改定として認識して、次の①及び②の期間の各支給時期で同額判定をし、残りの改定は否定されて損金不算入額が算出されるものと思われる。 (了)

#No. 5(掲載号)
#妹尾 明宏
2013/02/07

組織再編税制における不確定概念 【第1回】「不確定概念の考え方」

組織再編税制における不確定概念 【第1回】 「不確定概念の考え方」   公認会計士 佐藤 信祐   不確定概念とは、「見込まれる」「おおむね」「これらに準ずる」といったものであり、抽象的概念、多義的概念と評されることもある。 租税法においては、このような不確定概念が多々存在しており、組織再編税制以外においても、「不相当に高額」「不適当であると認められる」「相当の理由」「必要があるとき」「正当な理由」というものも存在する。 本連載の第1回目においては、不確定概念の基本的な考え方についての解説を行う。   1 不確定概念の概要 租税法律主義については、日本国憲法84条において、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と規定されている。 すなわち、租税の賦課・徴収は国家権力によって行われるものであるため、国民の財産を保護するためには、恣意的に行われるものではなく、法律又は法律の定めるところによって行われなければならないという基本原則である。 また、租税法律主義の内容として、金子宏教授は『第17版 租税法』(金子宏著、弘文堂)73頁において、「課税要件法定主義」「課税要件明確主義」「合法性原則」「手続的保障原則」の4つを挙げられているが、本稿で取り上げる「不確定概念」は「課税要件明確主義」と対立する概念である。 すなわち、金子宏教授は前掲書76頁において、「不確定概念(抽象的・多義的概念)を用いることにも十分に慎重でなければならない。」としたうえで、「もっとも、法の執行に際して具体的事情を考慮し、税負担の公平を図るためには、不確定概念を用いることは、ある程度は不可避であり、また必要でもある。」と述べられている。 実務家の立場としても、上記の論述については、同意しやすいものであり、やはり租税法の解釈として、条文に沿った形で解釈を行う必要があることから、あまりに不明確な条文構成というのは、実務上の弊害が大きいと言わざるを得ない。 その一方で、条文の文言で明確化しにくいものがあるというのも理解できるものであり、その条文が適用される時代背景や環境を考えたうえで、柔軟に解釈すべき場面が存在するというのも理解できるものである。 また、山本守之氏は、『検証 税法上の不確定概念』(日本税理士会連合会編、山本守之・守之会著、中央経済社)において、不確定概念の特徴として、抽象性、社会通念、多義性の3つを挙げられており、具体的には、「不確定概念の特徴の1つは、その文言の抽象性である。抽象的であるが故に具体的事実への適用に当たっては、その具体的事実の個別諸条件が反映され多義性をもってくる。」(前掲書27頁)「たとえば、「著しく低い価額」といっても時価に比しどの程度低いものが著しいというかは、その判断者の認めるところの社会通念とも関係してこよう。そして、判断要素となる社会通念は、時と場所によって異なるものである。」(前掲書27頁)と述べられている。 すなわち、不確定概念はその抽象性が故に、複数の解釈が可能となってくるが、それは常に社会通念によるべきであり、納税者が行った取引だけでなく、事業を取り巻く環境、その時代背景などを総合的に判断する必要があると言える。 そういう意味では、答えのない分野ではあるものの、幸いにして、国税局、税務署の職員の方々と、我々、公認会計士、税理士は、同じ「会計・税務」の分野に属していることから、共通のバックグランドを有するが故の暗黙知というものが存在し、それほど大きな差異が生じることは多くない。 無論、細部における解釈の違いについては、それぞれの専門分野や経験値が異なるが故の誤解というものは存在するため、実務上は、慎重な対応が必要になってくるが、制度趣旨を正しく理解していれば、一応の判断が可能な分野であることも事実である。 組織再編税制にも、多くの不確定概念が存在する。 「見込まれる」「おおむね」「これらに準ずる」というものはその典型例であるが、その最たるものとして、法人税法第132条の2に規定する包括的租税回避防止規定が存在し、本連載の第4回目から第10回目までは包括的租税回避防止規定について解説する。 包括的租税回避防止規定については、租税回避に対応するために、「不当に減少させる」という不確定概念が設けられている。それ以外の不確定概念については、租税回避を防止するためという側面もあるが、制度趣旨に反しない限り、納税者に有利なように解釈すべき場面も存在することから、不確定概念の存在は租税回避を防ぐためだけのものとは言い難い。 例えば、第3回目でも解説するが、従業者引継要件の判定において、「おおむね百分の八十以上」と規定されているが、制度趣旨に反しないのであれば、従業者のうち100分の75を引き継いだ場合であっても、従業者引継要件を満たすものと解する余地もあるのではなかろうか。   2 不確定概念に対する実務上の対応 このように、不確定概念については、ある程度の実務家における統一見解があるものの、その性質上、実務においては、やはり専門家の間でも見解が分かれる内容があるというのもやむを得ない。納税者側に立って積極的に解釈する専門家も存在するし、リスクを防ぐために消極的(保守的)に解釈する専門家も存在する。 これは、それぞれの専門家の立ち位置であり、それを他の専門家が批評すべきものではない。 しかしながら、実務においては、クライアントに応じて、柔軟に対応する必要があるというのもまた事実である。 一般的に日本企業は保守的に解釈するクライアントが多いことから、あまり積極的に解釈する必要はないように思えるが、ほとんど問題がないような取引についても、さらにリスクを軽減するための証拠資料を作ることが求められることも少なくない。 税務調査で見られるであろう稟議書や社内検討資料を精査し、税務調査官が異なる解釈を行わないような慎重な対応というものを望むクライアントも存在すれば、コストを考えたうえで、そのような対応を望まないクライアントも存在する。 さらに、時期に応じても、柔軟に対応する必要があるというのもまた事実である。 ストラクチャーを実行する前においては、不確定概念について慎重な判断をする必要があるであろう。解釈に幅があるのであれば、なるべく否認されにくい事実関係を作っていくということもあるべき対応といえよう。 例えば、前述の従業者引継要件の判定において、たとえ、100分の75の従業者を引き継げば、「おおむね百分の八十以上」の従業者を引き継いだと解釈することができるような場面があったとしても、やはりストラクチャーの検討段階においては、100分の80以上の従業者を引き継ぐようにすべきであるし、「おおむね」と規定されていることから、100分の90の従業者を引き継いだとしても、制度趣旨に反している場合には従業者引継要件に抵触するリスクもないわけではないため、制度趣旨に反していないかどうかを慎重に検討したうえで、なるべく100分の100に近い数字に持っていくということも、実務上の対応として求められることであろう。 これに対し、ストラクチャーの実行後は、事実関係を変えることはできないことから、どうやって税務調査で勝てるのかという対応になってくる。 もちろん、勝ち目がないのであれば、税務調査が来る前に修正申告を行うべきであろうが、不確定概念の解釈によって、否認されるリスクがどれくらいあるのか、否認されないように意見書を出すことが可能であるのかどうかなどの検討を行うことになるが、あまりにも納税者に不利な解釈を採るというのは、逆に納税者にとって望ましくないことも少なくない。 さらに、税務調査の段階になってしまえば、もはや証拠資料すら作ることも難しくなってくることから、税務調査において国税当局に説明できるかどうかということになるため、若干は、積極的な解釈というものも求められるであろうが、あまりに積極的な解釈を行った場合には、税務調査における心証を害し、税務調査が長期化する恐れもあることから、積極的な解釈というものも程度問題ということもいえよう。 また、国税不服審判所、裁判所に持ち込まれた場合には、ある意味、訴訟に勝てばよいため、さらなる積極的な解釈というものも検討すべきなのかもしれない。 このように、実務においては、クライアントに応じて、また、その時期において、不確定概念に対する対応を変化させていく必要もあるであろうが、組織再編税制が導入されてから10年を超える期間が経過したことから、税務専門家の間でのある程度の統一見解というものもないわけではない。 第2回目以降においては、組織再編税制における不確定概念について検討するとともに、それぞれの解釈についての基本的な考え方と、グレーな部分についての個人的な見解について解説を行う。 なお、本連載のラインナップは、以下のようになっている。 (了)

#No. 5(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/02/07

企業不正と税務調査 【第1回】「連載に当たって」

企業不正と税務調査 【第1回】 「連載に当たって」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   昨今、税務当局による調査によって、内部監査や会計監査(外部監査)では発見できなかった企業不正が発覚する事例が、数多く報告されている。 特に一昨年(2011年)3月から4月にかけて大きく報道された事例は、以下【事例1】のように、金額の大きさもさることながら、長期間にわたって発覚しなかった不正が、税務調査をきっかけに明るみに出たことで注目を集めることとなった。 いわゆる仕入先からのキックバックを利用した横領の典型例である本事例では、10年以上にわたり不正が繰り返されていたことはもちろん、同社が東証一部上場企業の100%子会社であることを考え合わせると、本件不正は、親会社による業務監査は無論のこと、公認会計士による外部監査(会計監査)をも潜り抜けてきたことが推測され、どのように不正が隠蔽されてきたのか、なぜ、東京国税局はそれを見破ることができたのか、たいへん興味深い事例である。 一方、インターネットバンキングによる出納業務を任されていた経理社員の不正事例(巨額横領事件)も報道された。 約5年の間に200回近い不正支出が繰り返され、5億円とも6億円ともいわれる金銭が流出していながら、経営者が気づかなかったというのも、にわかには信じがたいことではあるが、こちらも税務調査に対して、不正を誤魔化しきれず、自白した事例のようである。 この2つの事例からもわかるように、役員・従業員による不正な金銭の支出や横領といった犯罪について、税務調査は非常に有効に機能しているようである。 もちろん、それ以外にも、税務調査の結果、企業不正が発覚し、追徴課税を受けた事例は枚挙に暇がない。 そこで本連載は、企業不正の類型(例えば、所得隠し、資産の横領や架空経費の計上、粉飾決算など)ごとに、不正の特徴、隠ぺい工作、発覚に至る端緒を解説し、なぜ税務調査が、そうした不正発見に有効に機能するのかを検証することを第一の目的とする。 同時に、そうした税務調査に用いられる手法を応用し、業務の過程で、又は内部監査により、早期の不正発見、抑止につなげることが可能かどうかを論じる予定である。 中堅・中小企業にとって外部監査に類似する役割を担う税理士にとっても、月次決算などの業務において、関与先従業員の不正を見逃すことがあってはならず、税務調査で発覚する前にいかにして不正を発見するか、不正をさせないためにどのような管理体制の構築をアドバイスするべきかは、大きな課題であろうかと思われるので、税理士業務を通じた不正の防止、早期発見についても考察したい。 なお、連載中にマスコミ報道、適時開示情報などで、注目すべき事例が発覚した場合には、適宜、事例解説をはさむ予定である。 (了)

#No. 5(掲載号)
#米澤 勝
2013/02/07

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第5回】「各所得控除における留意点」

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第5回】 「各所得控除における留意点」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   本連載の最終回となる今回は、所得控除に関する留意点について、前回と同様に給与所得者の視点から取り上げる。 具体的には、年末調整で適用できない雑損控除、医療費控除、寄附金控除に関して解説することとする。   【1】 雑損控除 (1) 対象となる損失 生計を一にする配偶者その他の親族は、その年分の総所得金額等*が基礎控除額(38万円)以下であることが要件となる(所令205①)。 なお、配偶者やその他の親族が生計を一にするかどうかの判定は、次の①、②の日の現況によって判定する(所基通72-4(1))。 損失には、災害に関連して行ったやむを得ない支出(災害関連支出)が含まれ、保険金、損害賠償金等で補てんされる金額は除かれる。また、災害による被害が予測されるため、実際に災害が起こる前に行われた支出は、原則として対象とならない。 災害関連支出とは、その災害がやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までにした次のものやそれに類する支出をいう。 災害関連支出は、原則として支出した日の属する年分の雑損控除の対象となるが、災害等のあった年の翌年1月1日から3月15日までに支出したものについては、災害等のあった年分の雑損控除の対象とすることができる(所基通72-5)。 (2) 控除額の計算 雑損控除の金額は、次の①、②のいずれか多い方の金額であり、その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年間にわたって各年の所得金額から控除することができる(雑損失の繰越控除)(所法71①)。 なお、支払いを受けた保険金等が、損失額を超える場合がある。 この場合の保険金等は、突発的な事故による資産の損害に基因して支払いを受ける保険金に該当するため、非課税所得となる(所法9①十七)。 (3) 災害減免法との関係 災害によって住宅や家財に甚大な被害を受けた場合には、災害減免法の適用により所得税の軽減免除を受けることもできる(災害減免法2)。雑損控除との重複適用はできないため、どちらか有利な方を選択することになる。 災害減免法の適用要件及び所得税の軽減免除の内容は、次の通りである(災害減免法2、災害減免法令1)。 ① 適用要件 (ア) 震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害によって、納税者や納税者と生計を一にする配偶者その他の親族(総所得金額等の合計額≦基礎控除額)が、所有する住宅や家財に被害を受けたこと (イ) 損害金額(保険金等で補てんされる部分を除く)が、その住宅や家財の時価の50%以上であること (ウ) その年分の合計所得金額が1,000万円以下であること (エ) その災害による損失について、雑損控除の適用を受けていないこと ② 軽減免除の内容 (ア) 合計所得金額≦500万円の場合・・・全額免除 (イ) 500万円<合計所得金額≦750万円・・・50%軽減 (ウ) 750万円<合計所得金額≦1,000万円・・・25%軽減 なお、一定の要件を満たせば、確定申告前に予定納税額の減額申請や源泉所得税の徴収猶予(又は還付)を受けることもできる。この適用を受けた場合には、確定申告により所得税額の精算を行うことになる(災害減免法3)。 (4) 雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除の計算例 ① 雑損控除の適用を受ける場合 雑損控除の額:5,000,000-8,000,000×10%=4,200,000円 所得控除の合計額:2,200,000+4,200,000=6,400,000円 申告納税(還付)額:(8,000,000-6,400,000)×5%-732,500=△652,500円(還付) ② 災害免除法による所得税の軽減免除を受ける場合 所得税の軽減額:732,500×25%=183,125円 以上より、雑損控除の適用を受ける方が有利となる。 (5) 東日本大震災の場合の特例 東日本大震災により住宅や家財に損害が生じた場合には、災害のやんだ日から3年以内に支出される災害関連支出が雑損控除の対象となる。 また、雑損失の繰越控除について、損失が生じた年分について期限後に確定申告書を提出した場合においても繰越控除の適用を受けることができ、雑損失の繰越控除の期間も翌年以後5年間とされている。   【2】 医療費控除 (1) 対象となる医療費 居住者が支払った自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費が対象となる(所法73①)。 生計を一にする配偶者その他の親族について、所得に関する要件はない。医療費を支出すべき事由が生じた時又は実際に医療費を支払った時の現況において居住者と生計を一にし、かつ、親族に該当する者に係る医療費であれば対象になる(所基通73-1)。 対象となる医療費は、その年の1月1日から12月31日までの間に実際に支払ったものに限られ(所基通73-2)、保険金等で補てんされる金額は除かれる(所法73①)。 医療費をクレジットカードやローンで支払った場合には、信販会社から医師や歯科医師等に支払われた日(クレジットカード利用日、ローン契約成立日)の属する年分の医療費控除の対象となる。ただし、金利や信販会社の手数料部分は対象に含まれない。 (2) 訪問介護の費用 訪問介護の費用のうち、療養上の世話に相当する部分の金額は医療費控除の対象となる(所令207五、所基通73-6)。 対象となるのは、「居宅サービス計画」又は「介護予防サービス計画」に基づいて医療系サービスと併せて利用する場合の訪問介護の居宅サービス費及び介護予防サービス費に係る自己負担額(介護保険給付の対象となるもの)である。 また、医療系サービスと併せて利用しない場合であっても、平成24年4月1日以後に支払う居宅サービス費又は介護サービス費に係る自己負担額のうち、介護福祉士等による喀痰吸引等の対価については医療費控除の対象となる(所令207⑦(詳細は本連載の第2回参照)。 (3) 控除額の計算 医療費控除の金額は、次の式で計算する。 なお、限度額は200万円である(所法73)。 保険金等の補てん金額は、その給付の対象となった医療費の金額を限度として控除する。 引ききれない金額を他の医療費から控除する必要はない。   【3】 寄附金控除 (1) 対象となる寄附金 居住者が、特定寄附金を支出した場合には寄附金控除を受けることができる(所法78①)。 特定寄附金とは、次のいずれかに該当するものをいう(所法78②、所令217、措法41の18の2①、41の19、震災特例法13の3)。 ただし、学校の入学に関して行われるもの、政治資金規正法に違反するもの等は含まれない。 (2) 控除額の計算 寄附金控除の金額は、次の式で計算する(所法78①)。 (3) 税額控除が適用できるもの 政治活動に関する寄附金、認定特定非営利活動法人に対する寄附金、公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、寄附金控除の適用に代えて税額控除の制度を選択することもできる(措法41の18、41の18の2②、41の18の3)。 (連載了)

#No. 5(掲載号)
#篠藤 敦子
2013/02/07

税務判例を読むための税法の学び方【3】 〔第2章〕法令の解釈方法(その2)

税務判例を読むための税法の学び方【3】 〔第2章〕法令の解釈方法 (その2)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘   4 学理(的)解釈 「学理」すなわち学問上の研究によって法令を解釈する方法であり、通常「法令の解釈」といわれているものは、この学理的解釈のことである。 これは前記したように、文理解釈と論理解釈に大別される。 ① 文理解釈 これも前記したように、法令の文言をそのまま読んで理解される意味内容をその条文解釈とするものである。 すなわち、解釈の態度としては、法文の字句に忠実に解釈しようとするものである。 とはいっても、社会通念を無視したような杓子定規的な解釈は禁物である。 たとえば、階段の下に「靴、草履の外、昇るべからず」という貼紙があった際に、靴と草履は昇れるが人は昇ってはいけないと解釈する者はいないであろう。 民法第207条「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」の規定を杓子定規に捉え、自分の土地の上を通過する航空機や宇宙船に対して所有権侵害を主張できると解釈するのは、一般常識で考えても正しくないであろう。 次に、文字や用語の意味は、社会一般に用いられている意味に従って解釈すべきであるが、この社会一般に用いられている意味といっても、必ずしも一つではない。 同じ用語でも、法令の趣旨、目的、前後の関係等が異なれば意味も違ってくることがあり、字句解釈はかなり相対的なものであること、また、用語によっては様々な意味に用いられる多義的なものもあるので、単純に一律の解釈をすることができない点は注意する必要がある。 ② 論理解釈 文理解釈によったのでは、具体的妥当性という点で問題がある場合に、法文の文言よりも、その文言の背後にある道理に重きを置いて法令を解釈しようとするものである。 条理に基づいて解釈するということから、条理解釈ともいわれる。 また特に、法令の目的や趣旨に重きをおいてなされる場合には、目的論的解釈といわれる。 なお、前記したように文理解釈によったのでは具体的妥当性に問題がある場合に論理解釈を行うのであるから、結果に対する具体的妥当性を考慮するのは当然であるが、下記の(ア)法律全体の目的・趣旨や立法目的・制度趣旨及び(イ)法秩序全体との調和についても留意しなければならい。 (ア) 法律全体の目的・趣旨や立法目的・制度趣旨 すべての法令はそれぞれその立法における目的や趣旨を持っているのであるから、法令の解釈にあたっては、常にこの立法目的や趣旨に合うように解釈しなければならない。 前記したように、昨今の法令、特に相当まとまった形をなす法律には、その冒頭(第1条として規定されていることが多い)に立法の目的あるいは立法の趣旨を明らかにした規定が置かれることになっている。 こういう目的規定、趣旨規定は、その法律の各規定を解釈する指針として重要な役割を果たすことになる。 その他、立法当時における提案者の説明資料、国会における質疑応答や原案が審議された各種の審議会等における審議経過等も、これを明らかにする重要な資料となる。 しかし立法当時の立法意図が、法の目的・趣旨として不変なものというわけではない。 立法当時に比べて、その法令の背景となる社会状態が変化すれば、その法の目的・趣旨もその新しい社会状態に合致するような形に変化せざるを得ないからである。 このことを、法令はひとたび制定されてしまえば、それ自身独立した意味を持って歩き出すようになるとして、「法令の独り歩き」という。 なお、この「法律全体の目的・趣旨や立法目的・制度趣旨」について説明する。 一口に法の目的・趣旨といっても、これは法律全体を指すものと特定の条文を指す場合がある。 法律全体の立法目的や立法趣旨は、前記したように、法令の冒頭に、「(この法律の目的)」又は「(目的)」、あるいは「(この法律の趣旨)又は「(趣旨)」という見出しを掲げて設けられる。 法律全体の立法目的は、その法律がその法律を通じて達成しようとする目的をいい、立法趣旨は、その法律が定めようとしている事柄である。 これに対して、特定の条文の立法目的や立法趣旨とは、その条文を通じて達成しようとする目的をいい、立法趣旨は、その条文が定めようとしている事柄である。 また、法律全体の立法目的や立法趣旨、特定の条文の立法目的や立法趣旨、いずれにしてもこの「立法」が立法当時の見解に限るのかといった問題がある。 言い換えれば、「立法目的」といった場合、現在法が存在している目的を含むのか、それとも立法当時のものだけを指すのかといった問題である。 前に、法令の背景となる社会状態が変化すれば、その法の目的・趣旨もその新しい社会状態に合致するような形に変化せざるを得ないと記したが、法の目的はこのように変化していく。 したがって、法令解釈にあたって留意すべきものとしては、現在法が存在している目的を含むのは当然であるが、「立法目的」の意味として、これが含まれるのかといった問題がある。 筆者としては、原則、これは含まれるものと考えるが、この点多くの解説書・論文等の使い方を見ると、著者により「立法目的が変化した」とこれを含んだ意味で使っている場合もあれば、立法当時のものに限って使っている場合もあり、注意して読む必要がある。 「立法趣旨」の「立法」もまた、この点同様である。 なお、制度趣旨といった場合は、立法当時ではなく、現在(もっとも立法当時と現在に変化がないことも多いが)のものを指す。 この点の混乱を回避するために、「立法」を立法当時、「制度」を現在という使い分けをしていると思われる文献もある。 前に「制度趣旨」について「その条文が現在期待されている目的・役割」と「立法趣旨」を「その条文が成立した当時の立法目的」と記したが、これもこの使い方によっている。 しかし正確には、趣旨について「その条文が定めようとしている事柄」であるから、「制度趣旨」は「現在その条文が定めようとしている事柄」に、「立法趣旨」は(立法当時のものに限る意味としては)「その条文が成立した当時の立法目的から明らかにされるその条文が定めようとしている事柄」と訂正する。 (イ) 法秩序全体との調和 ある法令を解釈するにあたっては、特定の法令規定だけを近視眼的に見るのではなく、他の諸法令との関係をも留意して、法秩序全体との調和を考慮しなければならない。 各種の法令は個々バラバラに存在しているのではなく、国全体の法秩序の体系の中に存在しているものであるから、その体系の調和を乱さないように解釈すべきであって、常に関連する諸法令との関係を念頭に置いて解釈しなければならない。 (了)

#No. 5(掲載号)
#長島 弘
2013/02/07

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第5回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第5回】   弁護士 木村 浩之   4 事前確定届出給与 (1) 事前確定届出給与の意義 一般の法人において、使用人に対して、夏季や冬季などの所定の時期に賞与が支給されることは多く、役員に対しても、同様に賞与の支給がなされる場合がある。 そのような役員に対する賞与であっても、事前に支給金額が確定していれば、利益調整の余地は乏しく、その恣意性が排除されると考えられる。 そこで、所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与については、一定の期間内に、支給時期や支給金額などの所定事項を記載した書類を税務署に届け出ることで、事前確定届出給与として、法人税法上、損金算入が認められる。 以下では、この事前確定届出給与の適用にあたって、実務上問題となることが多い論点について整理し、検討することとしたい。 (2) 届出期限 事前確定給与の届出期限については、原則的には、次のうちのいずれかもっとも早い日までとされている(法令69②一)。 もっとも、例外的に、臨時改定事由が生じた場合には、その臨時改定の対象となる役員に対して新たに事前確定給与の定めをすることが認められており、その場合の届出期限については、その臨時改定事由が生じた日から1ヶ月を経過する日まで延長が認められる(法令69②二)。 さらに、いったん届出をした場合であっても、その後、臨時改定事由や業績悪化改定事由が生じた場合には、既に届出をした事前確定給与の内容を変更することが認められており、その場合の届出期限については、それらの事由が生じた日から1ヶ月を経過する日までとされている(法令69③)。 なお、これらの臨時改定事由や業績悪化改定事由の意義等については、定期同額給与の項で述べたところと同じであるので、前記の3(3)及び(4)を参照されたい。 (3) 「確定額」の意義 事前確定給与は、「確定額」を支給する旨の定めに基づいて支給されるものである必要があり、支給額が事前に具体的に確定していない場合には、「確定額」が定められたものとはいえず、事前確定給与には該当しない。 したがって、支給額の上限を定めておく、言わば「枠取り」については、支給額が事前に具体的に確定しているとはいえないことから、「確定額」が定められたとはいえず、その範囲内で給与の支給がなされたとしても、事前確定給与には該当しないことになる。 また、一定の条件によって変動するような報酬についても、その計算方法が具体的に定められていたとしても、支給額そのものが具体的に確定しているとはいえないことから、「確定額」が定められたとはいえず、事前に確定したものには該当しないことになる。 この点、期末に一定のインセンティブ報酬を支給する旨の定めをして届け出たが、実際には、決算後に役員ごとに査定を行ってインセンティブ報酬の具体的な支給率を決定した事案で、そのような給与は「確定額」が定められたものとはいえず、事前確定給与に該当しないと判断された裁決例がある(平成22年5月24日裁決・裁決事例集79集368頁)。 以上で述べたほか、通達では、金銭ではなく現物資産によって支給される、いわゆる現物給与についても、金額が具体的に確定しているとはいえないことから、「確定額」が定められたとはいえず、事前確定給与に該当しないとされている(法基通9-2-15)。 (4) 届出内容と実際の支給状況が異なる場合 事前に所定の時期に確定額を支給する旨の届出をしたものの、実際の支給額や支給時期が異なる場合がある。その場合、事前確定給与の該当性については、どのように判断されることになるか。以下では、届出内容と実際の支給状況が異なる場合について、ケースごとに検討することとしたい。 ア 届出額よりも支給額が多い場合 増額支給については、それが認められる場合として臨時改定事由が規定されており、それ以外の場合に増額支給を認めるとすれば、とりあえず低額での届出をしておいた上で、利益が出た場合に増額して支給するという利益操作が可能となるおそれがある。 そこで、原則としては、事後に届出額よりも増額して支給された場合には、支給額が届出時には確定していなかったものと判断され、その支給された全額が事前確定給与には該当しないことになる可能性が高いといえる。 ただし、決算賞与を支給することが事後に決議された場合など、事前に届出がなされた給与とは異なる給与を別途支給する場合には、その別途支給される部分についてのみ損金不算入となるものと解される。 イ 届出額よりも支給額が少ない場合 減額支給についても、それが認められる場合として臨時改定事由及び業績悪化改定事由が規定されており、それ以外の場合に減額支給を認めるとすれば、事実上の「枠取り」を認めることになるおそれがある。 そこで、原則としては、事後に減額届出額よりも減額して支給がされた場合には、支給額が届出時には確定していなかったものと判断され、その支給された全額が事前確定給与には該当しないことになる可能性が高いといえる。 ただし、役員が社内の不祥事に対して自主的に責任をとろうとするなど、何らかの合理的な理由に基づいて任意に報酬の一部又は全部を返納する場合については、なお事前確定給与に該当することを妨げないものと解される。 ウ 未払いとなる場合 事前に定められた支給時期に確定額の支払いがなされず、一部又は全部が未払いとなる場合は、届出のあった給与は事前に確定していなかったものと判断されることになるとも考えられる。 しかしながら、利益調整のために当初からの意図に基づいて未払計上をするような場合(給与としての実態を伴わない場合)を除いては、一時的な資金繰りの都合で実際に支給が確定していた給与が未払いとなることは通常あり得ることである。 したがって、そのような場合には、事前確定給与について未払計上がなされたとしても、事前に定められた支給時期における全額の損金算入が認められるものと解される。 (了)

#No. 5(掲載号)
#木村 浩之
2013/02/07

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第9回】税率変更の問題点(8) 「各種契約書の変更」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第9回】 税率変更の問題点(8) 「各種契約書の変更」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 消費税率変更に伴う契約書の取扱い 事業者が売買契約、請負契約、賃貸借契約などの取引を行う場合には、その取引内容について契約書を作成することがあるが、消費税が課税される取引につき契約書を作成する際の消費税額の表示方法については、様々な形式がある。 例えば、契約書の取引金額につき消費税額を含めた金額として表示する方法として、 『消費税額を含む』 『消費税額○○円を含む』 などと記載する方法がある。 また、契約書の取引金額を本体価格と消費税額を別記して表示する方法や 『消費税については別途徴収する』 などの文言を1つの条項として作成している契約書もある。 この消費税が含まれる取引に係る契約書において、今回の税率変更に伴い留意しなければならない点がいくつかあるが、具体的には以下のような項目がある。 ① 売買契約書の取扱い 売買契約書において、その契約の締結日が施行日前であり、資産等を実際に引き渡した日が施行日後になった場合には、新税率が適用されることとなる。 したがって、その契約書が本体価格の表示がなく、 『消費税を含む』 とのみ表示されている場合には、税率の表示がないことから、引渡日が施行日後になったときは、その取引金額のうち新税率部分の8%を除いた金額(100/108を乗じた金額)が本体価格となる。 なお、税込価格で表示している場合であっても、契約書の中に 『消費税が増加した場合には別途徴収する』 という趣旨の条項があれば、その増加分を徴収することが可能であり、増加分を徴収した税額を含めた総額から、新税率の消費税額を除いた金額が本体価格となる。 また、その契約書が 『消費税額5%を含む』 と表示されている場合であっても、実際の引渡日が施行日後となったときには、新税率が適用されることとなり、増加した3%部分につき追加で徴収することができるかどうかは当事者間の問題となるため、注意しなければならない。 特に、引渡日が施行日前を前提としていた場合で、売上側の責任により施行日後となったときは、徴収できないケースも考えられる。 もし、取引金額が変更できない場合には、売上側は消費税の増税分だけ値引きをしたこととなり、会社の損益計算に大きく影響を及ぼすことから注意しなければならない。 このように、施行日前に売買契約書を締結した場合で、施行日後に資産等の引渡しが行われる可能性があるときは、本体価格と消費税額を明記しておくか、 『消費税を別途徴収する』 などの記載をしておく必要がある。また、資産等の引渡しが施行日後となった場合の取扱いについては別途条項を設け、その内容を明記しておくことも重要である。 ② 請負契約書の取扱い 工事や製造などの請負に係る契約においても、その契約の締結日が施行日前であり、請負物の引渡しが施行日後となった場合には、原則として新税率が適用される。 したがって、その契約書において、その請負対価の額につき消費税額を含んだ金額(いわゆる税込金額)で表示している場合で 『税込』 又は 『消費税5%を含む』 といった文言しか記載がないようなケースは、上記①と同様の問題が生ずる可能性があるので注意が必要である。 この工事の請負等については、改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)の附則(平成24年8月22日法律第68号)5条3項において、平成25年10月1日(以下「指定日」という)の前日(平成25年9月30日)までに請負契約の締結を行い、その契約に基づいて平成26年4月1日以後に請負物の引渡しが行われた場合には、旧税率(5%)が適用される経過措置が設けられている。 ただし、指定日以後にその請負契約に係る対価の額が増額された場合で施行日後に請負物の引渡しを行ったときには、増額される前の対価の額に相当する部分に限り旧税率が適用されることとなり、増額部分には新税率が適用されることとなる。 また、この経過措置を適用する場合には、その相手方に対しその工事の請負契約につき経過措置の適用を受けたものであることについて、書面により通知することとしている。 したがって、経過措置を適用する場合には、契約書のその締結日、消費税額等(税率の記載も含む)を明確にしておく必要がある。 ③ 賃貸借契約書の取扱い 資産等の貸付けを行った場合の賃貸借契約において、その契約の締結日が施行日前であっても、施行日後の資産の貸付けに係る部分は新税率が適用されることとなる。 例えば、駐車場を貸し付けたケースで、その賃貸借契約書の締結が平成25年12月末日、賃貸期間が平成26年1月1日から2年間、その賃料の月額を 『52,500円(消費税含む)』 とのみ表示し、本体価格(税抜金額)の記載がない場合の消費税については、平成26年3月分までは旧税率、平成26年4月分からは新税率の8%が適用されることとなる。さらに平成27年10月分からは、10%の税率が適用される。 このような契約において、消費税率の変更があった場合の取扱いに関する条項がない場合には、税込の賃料の対価が52,500円となっていることから、消費税率の改定があっても追加で増税分の消費税額を賃借人から徴収することが困難となり、増税分については賃貸人が負担しなければならず、実質的には賃料を値下げしたこととなる。 これに対し、その契約書において賃料の月額を 『50,000円(別途、消費税額を徴収する)』 又は 『50,000円に消費税等相当額を加えた金額』 としている場合には、増税分について別途徴収することが可能となり、消費税額を除いた賃料の金額に変動はないこととなる。 したがって、今後消費税が課税される資産に係る賃貸借契約書を締結する場合には、貸付けの対価の額を税込で表示し、 『税込』 又は 『消費税を含む』 という文言を記載する形式だと当事者間でトラブルとなる可能性があることから、賃料の金額を消費税抜きの金額として 『別途消費税を徴収する』 などの記載をした上で、以下のような条項を入れて契約することが望ましい。 また、上記②の工事の請負契約等と同様に、指定日の前日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、施行日前から引き続きその契約に係る資産の貸付けを行っている場合で、その契約の内容が以下のイ及びロ、又は、イ及びハの要件に該当するときには、施行日以後の貸付けに係る消費税について、旧税率の5%が適用される経過措置が設けられている(改正消費税法附則5条4項)。 ただし、指定日以後にその資産の貸付けの対価が変更された場合には、その変更後の貸付けに係る消費税については新税率によることとなる。 また、この契約に係る契約期間が終了した際に自動更新にて契約が継続する場合にも、その更新後の貸付けに係る消費税については新税率によることとなる。 この経過措置を適用する場合には、契約書において、その貸付けに係る対価の額の変更ができないことを定めたり、契約期間中の中途解約ができないことを定めたりしなければならず、建物や駐車場等の不動産の貸付けの場合、実務的にはあまり適用するケースは少ないように思われる。 しかしながら、リース契約などの場合には、経過措置を活用するケースが考えられ、その際の契約書作成については、各要件を満たすように記載しなければならないことから、慎重に対応する必要がある。 ④ 役務の提供に係る契約書の取扱い 役務の提供に係る契約においても、契約の締結日が施行日前で、その役務の提供が完了した日が施行日後であれば、新税率が適用されることとなる。 したがって、その契約書において、その役務提供の対価の額につき消費税額を含んだ金額(いわゆる税込金額)で表示している場合で 『税込』 又は 『消費税5%を含む』 といった文言しか記載がないようなケースは、上記①と同様の問題が生ずる可能性があるので注意が必要である。 また、契約期間の定めがある場合で、ビル等の清掃・メンテナンス業務、機械・器具等の資産の保守・管理業務などの役務の提供に係る契約については、契約期間中に継続して役務の提供を行うものであり、目的物の引渡しが一括して行われるものではないことから、施行日後の期間に係る消費税については新税率が適用されることとなるので、注意しなければならない。 なお、上記②及び③と同様に、指定日の前日までの間に締結した役務の提供に係る契約であり、その契約の性質上役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないものであって、役務の提供に先立ってその対価の全部又は一部が分割して支払われる一定の契約について、施行日以後にその役務の提供を行う場合において、その内容が以下の要件に該当するときは、その役務の提供に係る消費税につき旧税率の5%が適用される経過措置が設けられている(改正消費税法附則5条5項)。 この経過措置については、その対象となる契約が少なく、具体的には冠婚葬祭の互助会における積立金などが該当するが、前述したビル等の清掃・メンテナンス業務、機械等の保守・管理業務などの役務の提供には適用されないので注意しなければならない。 ⑤ 継続取引に係る契約書において、本体価格を表示している場合の取扱い 施行日前に締結している継続取引に係る契約において、本体価格を表示している場合で、 『別途消費税を徴収する』 旨の記載があるか、消費税率の改定の条項で 『税率改定が行われた場合には、その改定後の税率による』 旨の記載がある場合には、施行日後において新税率により対価の額を徴収することも可能であり、また、契約書を変更する必要がない。 しかしながら、契約書において、本体価格を表示した上で 『別途5%の消費税額を徴収する』 又は 『消費税額○○円を徴収する』 といった5%を前提とした記載方法となっている場合には、当事者間において事前に協議する必要がある。 本体価格を表示した上で別途消費税額を徴収する旨の記載があることから、施行日後において新税率により消費税額を徴収することは可能であると考えられるが、契約書に記載している税率や消費税額が実際のものと異なることから、契約書を変更するかどうかについては検討する必要がある。 なお、契約書を変更する際には、今回の税率改正が2段階で改定されることから、長期にわたる契約についてはどのように記載するのか、十分な検討が必要である。 以上のように、契約書については、その締結日や記載方法など留意すべき点が多く、契約書を締結する場合には、慎重に対応しなければならない。 なお、今後の契約書においては、消費税率について当事者間の誤解を生じないようにすることが重要であり、『税込』のみの表示を行うのではなく、本体価格を表示した上で別途消費税額を記載した契約書を作成することが望ましい。さらに、その契約において、経過措置を適用するかどうかについても、当事者間で十分に検討した上で契約を締結する必要がある。   2 印紙税の取扱い 不動産等の売買契約書や建物等の請負契約書等を締結する場合においては、一定の課税文書につきその契約書に記載された金額に応じて印紙税が課税される。 具体的には、不動産の譲渡等に関する契約書(第1号文書)、請負に関する契約書(第2号文書)、金銭又は有価証券の受取書などのいわゆる領収書(第17号文書)などについて課税されるが、委任契約書については課税されない。 契約書に記載された金額については、原則として消費税額等を含めた金額(税込金額)とされるが、その契約書に消費税額等を区分して記載している場合、税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、消費税額等が明らかである場合には、その記載された金額に消費税額等を含めないこととしている。 例えば、消費税率を8%として、請負金額が1,000万円(税込1,080万円)の請負契約書を作成した場合において、その契約書の記載方法としては、以下のケースが考えられる。 この場合において、上記①から④については、消費税額等を区分して記載していることとなり、1,000万円に対する印紙税1万円が課税されることとなる。これに対し、上記⑤の場合には、「税込」と表示しているだけで消費税額等を区分して記載していることにはならないことから、1,080万円に対する印紙税2万円が課税されることとなる。 また、金銭の領収書についても 「商品販売代金29,000円、消費税額等2,320円、合計31,320円」 と記載した場合には、消費税額等の2,320円は記載金額に含めないこととなり、記載金額29,000円の第17号文書に該当する。したがって、記載金額が3万円未満となり、非課税文書に該当することから、印紙税は課税されない。 これに対し、その領収書に 「商品販売代金31,320円(税込)」 と記載した場合には、記載金額31,320円の第17号文書に該当し、200円の印紙税が課税されることとなる。 なお、消費税率が変更されたことに伴い契約書を変更する場合にも、印紙税が課税される可能性があるので注意しなければならない。 その契約書が税込価格のみを表示している場合には、消費税額等を含めた金額が「記載された金額」となり、税率変更により契約書を変更したときは、この「記載された金額」が増加することで印紙税が課税される。 これに対し、その契約書において、本体価格と消費税額等を明確に区分している場合には、「記載された金額」が消費税額等を除いた金額となることから、税率変更により契約を変更しても印紙税が課税されることはない。 このように、契約書の記載方法の違いによって課税される印紙税額が異なることとなり、また、契約書を変更する際にも課税される場合とされない場合があるなど、今後契約書を作成する際には慎重に対応しなければならない。 今回の税率改定により消費税率が8%又は10%になることで、税込価格と税抜価格との差額が今まで以上に大きくなり、契約書の記載方法によっては、印紙税の納付額にも大きく影響することについて注意が必要である。 (了)

#No. 5(掲載号)
#島添 浩
2013/02/07

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載5〕 従業員から役員になった場合の退職金計算の問題点【その1】

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載5〕 従業員から役員になった場合の 退職金計算の問題点【その1】   公認会計士・税理士 濱田 康宏   《1》 平成25年分から施行される改正内容と帰属時期の問題 平成25年からは、退職金を支給する際に、勤続期間5年以下の役員に対する退職所得、つまり特定役員退職手当等に対する2分の1計算が廃止される。 更に、これ以外にも、退職所得全般について、復興特別所得税計算が行われる必要があることと、住民税の10%徴収が開始することで、源泉徴収計算の方法が大きく変わることになる。 よって、平成24年末近くに退職して、平成25年になって退職金支給が行われるという場合、これが平成24年分なのか、平成25年分なのかで課税関係に大きな差異が生じることになる。 つまり、退職所得の帰属時期の判定が実務上極めて重要である。 ここでポイントになるのは、支給される退職金の性格が従業員と役員とで全く異なっているということである。 つまり、従業員の場合、退職金規程があれば退職の事実だけで債務確定することになるが、役員の場合は、株主総会や社員総会等による支給決議がなければ、債務確定がない。 たとえば、役員退職金規程が既にあるとの理由で、取締役会で支給決議しただけでは、法制上は会社に支給義務が生じないということである。株主総会で支給決議を行い、支給額を具体的に決めて初めて債務確定するので、平成25年1月になって株主総会で支給決議して金額を決めたのなら、これは平成25年分となる。   《2》 従業員から役員になった場合の退職金支給方法は様々 従業員が役員になった場合、退職金支給方法は様々なパターンが考えられるが、大きく分けると、以下の2つである。 【1】 役員退任時に、従業員分と役員分をまとめて払う場合 【2】 従業員退任時に従業員分を、役員退任時に役員分を支給する場合 ただし、実務では、使用人兼務役員期間が存在する場合が多い。 よって、それぞれについても、兼務期間の取扱いを考慮しなくてはならない。   《3》 役員退任時に、従業員分と役員分をまとめて払う場合の計算(【1】) このうち、【1】については、従業員分と役員分の区分計算をいかに行うかの問題がある。 たとえば、従業員期間20年、役員期間4年で、うち兼務期間2年という場合、会社は従業員分退職金の算定は20年を基礎にして、役員分の算定は4年を基礎にしていることがあり得る。この場合でも、退職所得控除額の計算では22年を基礎にするというのが、1つのポイントである。 そして、役員としての勤務期間が5年以下であるので、特定役員退職手当等の計算が必要になる。特定役員退職手当等については、それ以外の一般退職手当等と異なり、2分の1計算ができない。 このように、一括して特定役員退職手当等と一般退職手当等が払われる場合、退職所得の課税標準は、 とされている。 ここでは、先に特定役員退職手当等に基づく所得部分を計算することになるので、特定役員退職所得控除額の算定がスタートになる。 ただし、この場合、使用人兼務役員期間が存在することになるため、この部分については、別途調整計算が必要になる。簡単に言えば、特定役員退職所得控除額とそれ以外の部分である一般退職所得控除額部分とで、控除額40万円を半分ずつ分け合う計算をすることになる。つまり、 という形での計算となる。 ここで仮に退職金は総額1,000万円だが、従業員分計算で支給する一般退職手当等が600万円とすれば、820万円のうち220万円が余ることになるので、特定役員退職所得控除額に流用ができる。 ただし、2分の1計算ができないので、この場合の退職所得は次のようになる。 上記【2】のパターンについては、機を改めて説明を行うこととしたい。   (了)

#No. 5(掲載号)
#濱田 康宏
2013/02/07

企業予算編成上のポイント 【第3回】「『売上関係の予算財務諸表作成』を理解する」

企業予算編成上のポイント 【第3回】 「『売上関係の予算財務諸表作成』を 理解する」   公認会計士 児玉 厚   今回は「売上関係の予算財務諸表作成」について、簡潔に考察したい。 まずは図1の流れに従って、予算作成の手順の例を見てみよう。 図1 売上関係の予算財務諸表作成   手順1:「目標利益の算定」(予算帳票1参照) 「(5)次期税引後利益」は、「(1)次期配当額」「(2)次期役員賞与額」「(3)次期借入金元本返済額」「(4)次期目標内部留保組入額」から構成される。 (3)の有利子負債により、目標利益が異なる点は留意を要する。 「(5)次期税引後利益」=(1)1,216千円+(2)―千円+(3)10,000千円+(4)4,864千円=(5)16,080千円 下記のように次期の税率を調べ、「法定実効税率(12)36.56%」を算定する。 「(14)次期税金負担額」={(5)16,080千円+加算・流出予算額等(13)401千円}÷(100%-(12)36.56%)×(12)36.56%=(14)9,498千円 「(15)次期(税引前)目標利益」=(5)16,080千円+(14)9,498千円=(15)25,578千円 手順2:「目標売上高の算定」(予算帳票2参照) 「(22)計算上の次期目標売上高」 ={次期固定費予算額(18)29,755千円+次期目標利益(15)→(21)25,578千円}÷次期目標限界利益率(20)49% =(22)112,924千円 「(25)目標販売個数」 =(22)112,924千円÷(23)次期平均単価@90千円 =1,255個→(1桁目切上げ)(25)1,260個 「(26)次期目標売上高」 =(23)@90千円×(25)1,260個 =(26)113,400千円 手順3:「担当者別相手先別販売計画表の算定」(予算帳票3参照) 担当者別相手先別に月次次期売上高を計算する。 【担当者:○○○○】(相手先:W社) 4月 :次期販売個数(30)30個× 次期平均単価(33)90千円=(35) 2,700千円 …略…:      …略… 翌3月:次期販売個数(31)100個×次期平均単価(34)90千円=(36) 9,000千円 年度累計:次期販売個数(32)860個                  (37)77,400千円 担当者別相手先別に月次の売上高を計算する。 【担当者:△△△△】(相手先:Z社) 4月 :次期販売個数(41)20個×次期平均単価(44)90千円=(46) 1,800千円 …略…:      …略… 翌3月:次期販売個数(42)50個×次期平均単価(45)90千円=(47) 4,500千円 年度累計:次期販売個数(43)400個                  (48)36,000千円 手順4:「販売計画書の算定」(予算帳票4参照) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と「担当者別相手先別販売計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」を集計する。 4月 : (30)30個+(41)20個=(52)50個 (35)2,700千円+(46)1,800千円=(57)4,500千円 …略…:      …略… 翌3月: (31)100個+(42)50個=(53)150個 (36)9,000千円+(47)4,500千円=(58)13,500千円 年度累計: 次期販売個数:(32)860個+(43)400個=(54)1,260個 次期売上高:(37)77,400千円+(48)36,000千円=(59)113,400千円 目標販売個数(25)と目標売上高(26)〈予算編成方針〉を満たしていることを確認する。 手順5:「予算損益計算書」(予算帳票5参照) 「販売計画書」の「売上高(59)113,400千円」を「予算損益計算書」の「売上高(60)」欄へ転記する。 売上高に関する仮受消費税等を計算する。 (60)×消費税等率(64)5%=(65)5,670千円 売上高に関する仮受消費税等 =(60)113,400千円×消費税等率(64)5%=5,670千円・・・(65) 手順6:「担当者別相手先別売上代金回収計画表の算定」(予算帳票6参照) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と同表の「決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」より、下記の記入を行う。 4月 : ・「月初売上債権残高」欄に、当期実績予想貸借対照表の売掛金内訳より記入する。 [当期の決済条件:末締翌々月末振込入金(2ヶ月後入金)] ・当期2月分(66)3,885千円+当期3月分(67)2,015千円=(68)5,900千円 「当月発生売上債権」欄には下記の金額を記入する。 4月売上高(35)2,700千円×(1+(64)0.05〈消費税等率〉)=(69)2,835千円 ・「月末売上債権残高」欄に、下記の金額を記入する。 3月分(67)2,015千円+{4月分売上債権発生額(69)2,835千円} =(70)4,850千円 ・「次期売上代金回収収入(71)」欄には、「当期の決済条件:末締翌々月末振込入金(2ヶ月後入金)」なので、2月分売掛金発生額(66)3,885千円を記入する。 →(71)3,885千円  …略…:      …略… 翌3月: ・「月初売上債権残高」欄には、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、翌2月分(73)4,725千円を記入する。 ・「当月発生売上債権」欄には下記の金額を記入する。 翌3月売上高(36)9,000千円×(1+(64)0.05〈消費税等率〉) =(74)9,450千円 ・「月末売上債権残高」欄に、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、3月分売掛金発生額(74)9,450千円を記入する。 →W社に対する売掛金(75)9,450千円 ・「次期売上代金回収収入(76)」欄には、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、翌2月分売掛金発生額(73)4,725千円を記入する。 →(76)4,725千円 年度累計:「次期売上代金回収収入」欄には、4月から翌3月までの値を集計する。 (77)77,720千円 ※注1:当期は「末締翌々月末振込入金」(2ヶ月後入金) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」も上記と同様に記入する。 ※注1:当期は「末締翌々月末振込入金」(2ヶ月後入金) 手順7:「売上代金回収計画書の算定」(予算帳票7参照) 「担当者別相手先別売上代金回収計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と「担当者別相手先別売上代金回収計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」を集計する。 4月 : ・「月初売上債権残高」=(68)+(80)=(90)8,000千円 ・「当月発生売上債権」=(69)+(81)=(91)4,725千円 ・「月末売上債権残高」=(70)+(82)=(92)7,790千円 ・「次期売上代金回収収入」=(71)+(83)=(93)4,935千円・・・★1 …略…:      …略… 翌3月: ・「月初売上債権残高」=(73)+(85)=(94)9,450千円 ・「当月発生売上債権」=(74)+(86)=(95)14,175千円 ・「月末売上債権残高」=(75)+(87)=(96)14,175千円・・・★1・★2 ・「次期売上代金回収収入」=(76)+(88)=(97)9,450千円・・・★1 年度累計:「次期売上代金回収収入」=(77)+(89)=(98)112,895千円・・・★1 ★1:「月次資金計画書」へ転記 ★2:「予算比較貸借対照表」へ転記 手順8:「月次資金計画書」(予算帳票8参照) 「売上代金回収計画書」の「次期売上代金回収収入」金額を「月次資金計画書」の「売上代金回収収入」欄へ転記する。 4月 :(93)より記入→(99)4,935千円 …略…:         …略… 翌3月:(97)より記入→(100)9,450千円 年度累計:(98)より記入→(101)112,895千円 手順9:「予算比較貸借対照表」(予算帳票9参照) 「売上代金回収計画書」の「翌3月:月末売上債権残高」金額を「予算比較貸借対照表」の「売掛金」の「次期末残高」欄へ転記する。 (96)→(103)14,175千円 売掛金の「当期末残高(予想)」欄には、当期実績予想貸借対照表より転記する。 →(102)8,000千円 売掛金の「増減差額」欄には、(103)14,175千円-(102)8,000千円 =(104)6,175千円を計算・記入する。 手順10:「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【直接法】」(予算帳票10参照) ・借方の「売上高」欄へ「予算損益計算書」より転記 (60)→(105)113,400千円 ・借方の「仮受消費税等」欄へ「予算損益計算書」より転記 (65)→(106)5,670千円 ・「借方合計」欄へ縦計算・記入する。 (105)+(106)=(107)119,070千円 ・貸方の「貸方合計」欄へ「借方合計(107)」を記入する。 (108)119,070千円 ・貸方の「売掛金増加額」欄へ「予算比較貸借対照表」の「増減差額(104)」を記入する。 →(109)6,175千円 ・貸方の「営業収入」欄へ下記の差額計算結果を記入する。 (108)119,070千円-(109)6,175千円=(110)112,895千円 「月次資金計画書」の「売上代金回収収入」の「年度累計(101)112,895千円」と一致することを確認する。 手順11:「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」(予算帳票11参照) 上記の「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【直接法】」の「営業収入(110)」金額を「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」の同科目金額へ転記する。 →(111)112,895千円    手順12:「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【間接法】」(予算帳票12参照) ・借方の「税引前当期純利益」欄へ「予算損益計算書」より転記 (61)→(112)25,578千円 ・「借方合計」欄へ縦計算・記入する。 (112)=(113)25,578千円 ・貸方の「貸方合計」欄へ「借方合計(113)」を記入する。 (114)25,578千円 ・貸方の「税引前当期純利益」欄へ借方の同科目金額(112)を記入する。 (112)=(115)25,578千円 ・貸方の「売掛金増加額」欄へ「予算比較貸借対照表」の「増減差額(104)」を記入する。 →(116)6,175千円 ・貸方の「売上債権の増減額」欄へ下記の差額計算結果を記入する。 (114)25,578千円-(115)25,578千円-(116)6,175千円 =(117)△6,175千円 手順13:「予算キャッシュ・フロー計算書【間接法】」(予算帳票13参照) 上記の「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【間接法】」の「税引前当期純利益(115)」及び「売上債権額の増減額(117)」を「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」の同科目金額へ転記する。 「税引前当期純利益」(115)→(118) 25,578千円 「売上債権の増減額」(117)→(119) △6,175千円 (了)

#No. 5(掲載号)
#児玉 厚
2013/02/07
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