平成24年分 確定申告実務の留意点 【第5回】 「各所得控除における留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 本連載の最終回となる今回は、所得控除に関する留意点について、前回と同様に給与所得者の視点から取り上げる。 具体的には、年末調整で適用できない雑損控除、医療費控除、寄附金控除に関して解説することとする。 【1】 雑損控除 (1) 対象となる損失 生計を一にする配偶者その他の親族は、その年分の総所得金額等*が基礎控除額(38万円)以下であることが要件となる(所令205①)。 なお、配偶者やその他の親族が生計を一にするかどうかの判定は、次の①、②の日の現況によって判定する(所基通72-4(1))。 損失には、災害に関連して行ったやむを得ない支出(災害関連支出)が含まれ、保険金、損害賠償金等で補てんされる金額は除かれる。また、災害による被害が予測されるため、実際に災害が起こる前に行われた支出は、原則として対象とならない。 災害関連支出とは、その災害がやんだ日の翌日から1年を経過した日の前日までにした次のものやそれに類する支出をいう。 災害関連支出は、原則として支出した日の属する年分の雑損控除の対象となるが、災害等のあった年の翌年1月1日から3月15日までに支出したものについては、災害等のあった年分の雑損控除の対象とすることができる(所基通72-5)。 (2) 控除額の計算 雑損控除の金額は、次の①、②のいずれか多い方の金額であり、その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年間にわたって各年の所得金額から控除することができる(雑損失の繰越控除)(所法71①)。 なお、支払いを受けた保険金等が、損失額を超える場合がある。 この場合の保険金等は、突発的な事故による資産の損害に基因して支払いを受ける保険金に該当するため、非課税所得となる(所法9①十七)。 (3) 災害減免法との関係 災害によって住宅や家財に甚大な被害を受けた場合には、災害減免法の適用により所得税の軽減免除を受けることもできる(災害減免法2)。雑損控除との重複適用はできないため、どちらか有利な方を選択することになる。 災害減免法の適用要件及び所得税の軽減免除の内容は、次の通りである(災害減免法2、災害減免法令1)。 ① 適用要件 (ア) 震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害によって、納税者や納税者と生計を一にする配偶者その他の親族(総所得金額等の合計額≦基礎控除額)が、所有する住宅や家財に被害を受けたこと (イ) 損害金額(保険金等で補てんされる部分を除く)が、その住宅や家財の時価の50%以上であること (ウ) その年分の合計所得金額が1,000万円以下であること (エ) その災害による損失について、雑損控除の適用を受けていないこと ② 軽減免除の内容 (ア) 合計所得金額≦500万円の場合・・・全額免除 (イ) 500万円<合計所得金額≦750万円・・・50%軽減 (ウ) 750万円<合計所得金額≦1,000万円・・・25%軽減 なお、一定の要件を満たせば、確定申告前に予定納税額の減額申請や源泉所得税の徴収猶予(又は還付)を受けることもできる。この適用を受けた場合には、確定申告により所得税額の精算を行うことになる(災害減免法3)。 (4) 雑損控除と災害減免法による所得税の軽減免除の計算例 ① 雑損控除の適用を受ける場合 雑損控除の額:5,000,000-8,000,000×10%=4,200,000円 所得控除の合計額:2,200,000+4,200,000=6,400,000円 申告納税(還付)額:(8,000,000-6,400,000)×5%-732,500=△652,500円(還付) ② 災害免除法による所得税の軽減免除を受ける場合 所得税の軽減額:732,500×25%=183,125円 以上より、雑損控除の適用を受ける方が有利となる。 (5) 東日本大震災の場合の特例 東日本大震災により住宅や家財に損害が生じた場合には、災害のやんだ日から3年以内に支出される災害関連支出が雑損控除の対象となる。 また、雑損失の繰越控除について、損失が生じた年分について期限後に確定申告書を提出した場合においても繰越控除の適用を受けることができ、雑損失の繰越控除の期間も翌年以後5年間とされている。 【2】 医療費控除 (1) 対象となる医療費 居住者が支払った自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費が対象となる(所法73①)。 生計を一にする配偶者その他の親族について、所得に関する要件はない。医療費を支出すべき事由が生じた時又は実際に医療費を支払った時の現況において居住者と生計を一にし、かつ、親族に該当する者に係る医療費であれば対象になる(所基通73-1)。 対象となる医療費は、その年の1月1日から12月31日までの間に実際に支払ったものに限られ(所基通73-2)、保険金等で補てんされる金額は除かれる(所法73①)。 医療費をクレジットカードやローンで支払った場合には、信販会社から医師や歯科医師等に支払われた日(クレジットカード利用日、ローン契約成立日)の属する年分の医療費控除の対象となる。ただし、金利や信販会社の手数料部分は対象に含まれない。 (2) 訪問介護の費用 訪問介護の費用のうち、療養上の世話に相当する部分の金額は医療費控除の対象となる(所令207五、所基通73-6)。 対象となるのは、「居宅サービス計画」又は「介護予防サービス計画」に基づいて医療系サービスと併せて利用する場合の訪問介護の居宅サービス費及び介護予防サービス費に係る自己負担額(介護保険給付の対象となるもの)である。 また、医療系サービスと併せて利用しない場合であっても、平成24年4月1日以後に支払う居宅サービス費又は介護サービス費に係る自己負担額のうち、介護福祉士等による喀痰吸引等の対価については医療費控除の対象となる(所令207⑦(詳細は本連載の第2回参照)。 (3) 控除額の計算 医療費控除の金額は、次の式で計算する。 なお、限度額は200万円である(所法73)。 保険金等の補てん金額は、その給付の対象となった医療費の金額を限度として控除する。 引ききれない金額を他の医療費から控除する必要はない。 【3】 寄附金控除 (1) 対象となる寄附金 居住者が、特定寄附金を支出した場合には寄附金控除を受けることができる(所法78①)。 特定寄附金とは、次のいずれかに該当するものをいう(所法78②、所令217、措法41の18の2①、41の19、震災特例法13の3)。 ただし、学校の入学に関して行われるもの、政治資金規正法に違反するもの等は含まれない。 (2) 控除額の計算 寄附金控除の金額は、次の式で計算する(所法78①)。 (3) 税額控除が適用できるもの 政治活動に関する寄附金、認定特定非営利活動法人に対する寄附金、公益社団法人等に対する寄附金のうち一定のものについては、寄附金控除の適用に代えて税額控除の制度を選択することもできる(措法41の18、41の18の2②、41の18の3)。 (連載了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第9回】 税率変更の問題点(8) 「各種契約書の変更」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 消費税率変更に伴う契約書の取扱い 事業者が売買契約、請負契約、賃貸借契約などの取引を行う場合には、その取引内容について契約書を作成することがあるが、消費税が課税される取引につき契約書を作成する際の消費税額の表示方法については、様々な形式がある。 例えば、契約書の取引金額につき消費税額を含めた金額として表示する方法として、 『消費税額を含む』 『消費税額○○円を含む』 などと記載する方法がある。 また、契約書の取引金額を本体価格と消費税額を別記して表示する方法や 『消費税については別途徴収する』 などの文言を1つの条項として作成している契約書もある。 この消費税が含まれる取引に係る契約書において、今回の税率変更に伴い留意しなければならない点がいくつかあるが、具体的には以下のような項目がある。 ① 売買契約書の取扱い 売買契約書において、その契約の締結日が施行日前であり、資産等を実際に引き渡した日が施行日後になった場合には、新税率が適用されることとなる。 したがって、その契約書が本体価格の表示がなく、 『消費税を含む』 とのみ表示されている場合には、税率の表示がないことから、引渡日が施行日後になったときは、その取引金額のうち新税率部分の8%を除いた金額(100/108を乗じた金額)が本体価格となる。 なお、税込価格で表示している場合であっても、契約書の中に 『消費税が増加した場合には別途徴収する』 という趣旨の条項があれば、その増加分を徴収することが可能であり、増加分を徴収した税額を含めた総額から、新税率の消費税額を除いた金額が本体価格となる。 また、その契約書が 『消費税額5%を含む』 と表示されている場合であっても、実際の引渡日が施行日後となったときには、新税率が適用されることとなり、増加した3%部分につき追加で徴収することができるかどうかは当事者間の問題となるため、注意しなければならない。 特に、引渡日が施行日前を前提としていた場合で、売上側の責任により施行日後となったときは、徴収できないケースも考えられる。 もし、取引金額が変更できない場合には、売上側は消費税の増税分だけ値引きをしたこととなり、会社の損益計算に大きく影響を及ぼすことから注意しなければならない。 このように、施行日前に売買契約書を締結した場合で、施行日後に資産等の引渡しが行われる可能性があるときは、本体価格と消費税額を明記しておくか、 『消費税を別途徴収する』 などの記載をしておく必要がある。また、資産等の引渡しが施行日後となった場合の取扱いについては別途条項を設け、その内容を明記しておくことも重要である。 ② 請負契約書の取扱い 工事や製造などの請負に係る契約においても、その契約の締結日が施行日前であり、請負物の引渡しが施行日後となった場合には、原則として新税率が適用される。 したがって、その契約書において、その請負対価の額につき消費税額を含んだ金額(いわゆる税込金額)で表示している場合で 『税込』 又は 『消費税5%を含む』 といった文言しか記載がないようなケースは、上記①と同様の問題が生ずる可能性があるので注意が必要である。 この工事の請負等については、改正消費税法(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律)の附則(平成24年8月22日法律第68号)5条3項において、平成25年10月1日(以下「指定日」という)の前日(平成25年9月30日)までに請負契約の締結を行い、その契約に基づいて平成26年4月1日以後に請負物の引渡しが行われた場合には、旧税率(5%)が適用される経過措置が設けられている。 ただし、指定日以後にその請負契約に係る対価の額が増額された場合で施行日後に請負物の引渡しを行ったときには、増額される前の対価の額に相当する部分に限り旧税率が適用されることとなり、増額部分には新税率が適用されることとなる。 また、この経過措置を適用する場合には、その相手方に対しその工事の請負契約につき経過措置の適用を受けたものであることについて、書面により通知することとしている。 したがって、経過措置を適用する場合には、契約書のその締結日、消費税額等(税率の記載も含む)を明確にしておく必要がある。 ③ 賃貸借契約書の取扱い 資産等の貸付けを行った場合の賃貸借契約において、その契約の締結日が施行日前であっても、施行日後の資産の貸付けに係る部分は新税率が適用されることとなる。 例えば、駐車場を貸し付けたケースで、その賃貸借契約書の締結が平成25年12月末日、賃貸期間が平成26年1月1日から2年間、その賃料の月額を 『52,500円(消費税含む)』 とのみ表示し、本体価格(税抜金額)の記載がない場合の消費税については、平成26年3月分までは旧税率、平成26年4月分からは新税率の8%が適用されることとなる。さらに平成27年10月分からは、10%の税率が適用される。 このような契約において、消費税率の変更があった場合の取扱いに関する条項がない場合には、税込の賃料の対価が52,500円となっていることから、消費税率の改定があっても追加で増税分の消費税額を賃借人から徴収することが困難となり、増税分については賃貸人が負担しなければならず、実質的には賃料を値下げしたこととなる。 これに対し、その契約書において賃料の月額を 『50,000円(別途、消費税額を徴収する)』 又は 『50,000円に消費税等相当額を加えた金額』 としている場合には、増税分について別途徴収することが可能となり、消費税額を除いた賃料の金額に変動はないこととなる。 したがって、今後消費税が課税される資産に係る賃貸借契約書を締結する場合には、貸付けの対価の額を税込で表示し、 『税込』 又は 『消費税を含む』 という文言を記載する形式だと当事者間でトラブルとなる可能性があることから、賃料の金額を消費税抜きの金額として 『別途消費税を徴収する』 などの記載をした上で、以下のような条項を入れて契約することが望ましい。 また、上記②の工事の請負契約等と同様に、指定日の前日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、施行日前から引き続きその契約に係る資産の貸付けを行っている場合で、その契約の内容が以下のイ及びロ、又は、イ及びハの要件に該当するときには、施行日以後の貸付けに係る消費税について、旧税率の5%が適用される経過措置が設けられている(改正消費税法附則5条4項)。 ただし、指定日以後にその資産の貸付けの対価が変更された場合には、その変更後の貸付けに係る消費税については新税率によることとなる。 また、この契約に係る契約期間が終了した際に自動更新にて契約が継続する場合にも、その更新後の貸付けに係る消費税については新税率によることとなる。 この経過措置を適用する場合には、契約書において、その貸付けに係る対価の額の変更ができないことを定めたり、契約期間中の中途解約ができないことを定めたりしなければならず、建物や駐車場等の不動産の貸付けの場合、実務的にはあまり適用するケースは少ないように思われる。 しかしながら、リース契約などの場合には、経過措置を活用するケースが考えられ、その際の契約書作成については、各要件を満たすように記載しなければならないことから、慎重に対応する必要がある。 ④ 役務の提供に係る契約書の取扱い 役務の提供に係る契約においても、契約の締結日が施行日前で、その役務の提供が完了した日が施行日後であれば、新税率が適用されることとなる。 したがって、その契約書において、その役務提供の対価の額につき消費税額を含んだ金額(いわゆる税込金額)で表示している場合で 『税込』 又は 『消費税5%を含む』 といった文言しか記載がないようなケースは、上記①と同様の問題が生ずる可能性があるので注意が必要である。 また、契約期間の定めがある場合で、ビル等の清掃・メンテナンス業務、機械・器具等の資産の保守・管理業務などの役務の提供に係る契約については、契約期間中に継続して役務の提供を行うものであり、目的物の引渡しが一括して行われるものではないことから、施行日後の期間に係る消費税については新税率が適用されることとなるので、注意しなければならない。 なお、上記②及び③と同様に、指定日の前日までの間に締結した役務の提供に係る契約であり、その契約の性質上役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないものであって、役務の提供に先立ってその対価の全部又は一部が分割して支払われる一定の契約について、施行日以後にその役務の提供を行う場合において、その内容が以下の要件に該当するときは、その役務の提供に係る消費税につき旧税率の5%が適用される経過措置が設けられている(改正消費税法附則5条5項)。 この経過措置については、その対象となる契約が少なく、具体的には冠婚葬祭の互助会における積立金などが該当するが、前述したビル等の清掃・メンテナンス業務、機械等の保守・管理業務などの役務の提供には適用されないので注意しなければならない。 ⑤ 継続取引に係る契約書において、本体価格を表示している場合の取扱い 施行日前に締結している継続取引に係る契約において、本体価格を表示している場合で、 『別途消費税を徴収する』 旨の記載があるか、消費税率の改定の条項で 『税率改定が行われた場合には、その改定後の税率による』 旨の記載がある場合には、施行日後において新税率により対価の額を徴収することも可能であり、また、契約書を変更する必要がない。 しかしながら、契約書において、本体価格を表示した上で 『別途5%の消費税額を徴収する』 又は 『消費税額○○円を徴収する』 といった5%を前提とした記載方法となっている場合には、当事者間において事前に協議する必要がある。 本体価格を表示した上で別途消費税額を徴収する旨の記載があることから、施行日後において新税率により消費税額を徴収することは可能であると考えられるが、契約書に記載している税率や消費税額が実際のものと異なることから、契約書を変更するかどうかについては検討する必要がある。 なお、契約書を変更する際には、今回の税率改正が2段階で改定されることから、長期にわたる契約についてはどのように記載するのか、十分な検討が必要である。 以上のように、契約書については、その締結日や記載方法など留意すべき点が多く、契約書を締結する場合には、慎重に対応しなければならない。 なお、今後の契約書においては、消費税率について当事者間の誤解を生じないようにすることが重要であり、『税込』のみの表示を行うのではなく、本体価格を表示した上で別途消費税額を記載した契約書を作成することが望ましい。さらに、その契約において、経過措置を適用するかどうかについても、当事者間で十分に検討した上で契約を締結する必要がある。 2 印紙税の取扱い 不動産等の売買契約書や建物等の請負契約書等を締結する場合においては、一定の課税文書につきその契約書に記載された金額に応じて印紙税が課税される。 具体的には、不動産の譲渡等に関する契約書(第1号文書)、請負に関する契約書(第2号文書)、金銭又は有価証券の受取書などのいわゆる領収書(第17号文書)などについて課税されるが、委任契約書については課税されない。 契約書に記載された金額については、原則として消費税額等を含めた金額(税込金額)とされるが、その契約書に消費税額等を区分して記載している場合、税込価格及び税抜価格が記載されていることにより、消費税額等が明らかである場合には、その記載された金額に消費税額等を含めないこととしている。 例えば、消費税率を8%として、請負金額が1,000万円(税込1,080万円)の請負契約書を作成した場合において、その契約書の記載方法としては、以下のケースが考えられる。 この場合において、上記①から④については、消費税額等を区分して記載していることとなり、1,000万円に対する印紙税1万円が課税されることとなる。これに対し、上記⑤の場合には、「税込」と表示しているだけで消費税額等を区分して記載していることにはならないことから、1,080万円に対する印紙税2万円が課税されることとなる。 また、金銭の領収書についても 「商品販売代金29,000円、消費税額等2,320円、合計31,320円」 と記載した場合には、消費税額等の2,320円は記載金額に含めないこととなり、記載金額29,000円の第17号文書に該当する。したがって、記載金額が3万円未満となり、非課税文書に該当することから、印紙税は課税されない。 これに対し、その領収書に 「商品販売代金31,320円(税込)」 と記載した場合には、記載金額31,320円の第17号文書に該当し、200円の印紙税が課税されることとなる。 なお、消費税率が変更されたことに伴い契約書を変更する場合にも、印紙税が課税される可能性があるので注意しなければならない。 その契約書が税込価格のみを表示している場合には、消費税額等を含めた金額が「記載された金額」となり、税率変更により契約書を変更したときは、この「記載された金額」が増加することで印紙税が課税される。 これに対し、その契約書において、本体価格と消費税額等を明確に区分している場合には、「記載された金額」が消費税額等を除いた金額となることから、税率変更により契約を変更しても印紙税が課税されることはない。 このように、契約書の記載方法の違いによって課税される印紙税額が異なることとなり、また、契約書を変更する際にも課税される場合とされない場合があるなど、今後契約書を作成する際には慎重に対応しなければならない。 今回の税率改定により消費税率が8%又は10%になることで、税込価格と税抜価格との差額が今まで以上に大きくなり、契約書の記載方法によっては、印紙税の納付額にも大きく影響することについて注意が必要である。 (了)
企業予算編成上のポイント 【第3回】 「『売上関係の予算財務諸表作成』を 理解する」 公認会計士 児玉 厚 今回は「売上関係の予算財務諸表作成」について、簡潔に考察したい。 まずは図1の流れに従って、予算作成の手順の例を見てみよう。 図1 売上関係の予算財務諸表作成 手順1:「目標利益の算定」(予算帳票1参照) 「(5)次期税引後利益」は、「(1)次期配当額」「(2)次期役員賞与額」「(3)次期借入金元本返済額」「(4)次期目標内部留保組入額」から構成される。 (3)の有利子負債により、目標利益が異なる点は留意を要する。 「(5)次期税引後利益」=(1)1,216千円+(2)―千円+(3)10,000千円+(4)4,864千円=(5)16,080千円 下記のように次期の税率を調べ、「法定実効税率(12)36.56%」を算定する。 「(14)次期税金負担額」={(5)16,080千円+加算・流出予算額等(13)401千円}÷(100%-(12)36.56%)×(12)36.56%=(14)9,498千円 「(15)次期(税引前)目標利益」=(5)16,080千円+(14)9,498千円=(15)25,578千円 手順2:「目標売上高の算定」(予算帳票2参照) 「(22)計算上の次期目標売上高」 ={次期固定費予算額(18)29,755千円+次期目標利益(15)→(21)25,578千円}÷次期目標限界利益率(20)49% =(22)112,924千円 「(25)目標販売個数」 =(22)112,924千円÷(23)次期平均単価@90千円 =1,255個→(1桁目切上げ)(25)1,260個 「(26)次期目標売上高」 =(23)@90千円×(25)1,260個 =(26)113,400千円 手順3:「担当者別相手先別販売計画表の算定」(予算帳票3参照) 担当者別相手先別に月次次期売上高を計算する。 【担当者:○○○○】(相手先:W社) 4月 :次期販売個数(30)30個× 次期平均単価(33)90千円=(35) 2,700千円 …略…: …略… 翌3月:次期販売個数(31)100個×次期平均単価(34)90千円=(36) 9,000千円 年度累計:次期販売個数(32)860個 (37)77,400千円 担当者別相手先別に月次の売上高を計算する。 【担当者:△△△△】(相手先:Z社) 4月 :次期販売個数(41)20個×次期平均単価(44)90千円=(46) 1,800千円 …略…: …略… 翌3月:次期販売個数(42)50個×次期平均単価(45)90千円=(47) 4,500千円 年度累計:次期販売個数(43)400個 (48)36,000千円 手順4:「販売計画書の算定」(予算帳票4参照) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と「担当者別相手先別販売計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」を集計する。 4月 : (30)30個+(41)20個=(52)50個 (35)2,700千円+(46)1,800千円=(57)4,500千円 …略…: …略… 翌3月: (31)100個+(42)50個=(53)150個 (36)9,000千円+(47)4,500千円=(58)13,500千円 年度累計: 次期販売個数:(32)860個+(43)400個=(54)1,260個 次期売上高:(37)77,400千円+(48)36,000千円=(59)113,400千円 目標販売個数(25)と目標売上高(26)〈予算編成方針〉を満たしていることを確認する。 手順5:「予算損益計算書」(予算帳票5参照) 「販売計画書」の「売上高(59)113,400千円」を「予算損益計算書」の「売上高(60)」欄へ転記する。 売上高に関する仮受消費税等を計算する。 (60)×消費税等率(64)5%=(65)5,670千円 売上高に関する仮受消費税等 =(60)113,400千円×消費税等率(64)5%=5,670千円・・・(65) 手順6:「担当者別相手先別売上代金回収計画表の算定」(予算帳票6参照) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と同表の「決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」より、下記の記入を行う。 4月 : ・「月初売上債権残高」欄に、当期実績予想貸借対照表の売掛金内訳より記入する。 [当期の決済条件:末締翌々月末振込入金(2ヶ月後入金)] ・当期2月分(66)3,885千円+当期3月分(67)2,015千円=(68)5,900千円 「当月発生売上債権」欄には下記の金額を記入する。 4月売上高(35)2,700千円×(1+(64)0.05〈消費税等率〉)=(69)2,835千円 ・「月末売上債権残高」欄に、下記の金額を記入する。 3月分(67)2,015千円+{4月分売上債権発生額(69)2,835千円} =(70)4,850千円 ・「次期売上代金回収収入(71)」欄には、「当期の決済条件:末締翌々月末振込入金(2ヶ月後入金)」なので、2月分売掛金発生額(66)3,885千円を記入する。 →(71)3,885千円 …略…: …略… 翌3月: ・「月初売上債権残高」欄には、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、翌2月分(73)4,725千円を記入する。 ・「当月発生売上債権」欄には下記の金額を記入する。 翌3月売上高(36)9,000千円×(1+(64)0.05〈消費税等率〉) =(74)9,450千円 ・「月末売上債権残高」欄に、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、3月分売掛金発生額(74)9,450千円を記入する。 →W社に対する売掛金(75)9,450千円 ・「次期売上代金回収収入(76)」欄には、「次期の決済条件:末締翌月末振込入金(1ヶ月後入金)」なので、翌2月分売掛金発生額(73)4,725千円を記入する。 →(76)4,725千円 年度累計:「次期売上代金回収収入」欄には、4月から翌3月までの値を集計する。 (77)77,720千円 ※注1:当期は「末締翌々月末振込入金」(2ヶ月後入金) 「担当者別相手先別販売計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」も上記と同様に記入する。 ※注1:当期は「末締翌々月末振込入金」(2ヶ月後入金) 手順7:「売上代金回収計画書の算定」(予算帳票7参照) 「担当者別相手先別売上代金回収計画表【担当者:○○○○】(相手先:W社)」と「担当者別相手先別売上代金回収計画表【担当者:△△△△】(相手先:Z社)」を集計する。 4月 : ・「月初売上債権残高」=(68)+(80)=(90)8,000千円 ・「当月発生売上債権」=(69)+(81)=(91)4,725千円 ・「月末売上債権残高」=(70)+(82)=(92)7,790千円 ・「次期売上代金回収収入」=(71)+(83)=(93)4,935千円・・・★1 …略…: …略… 翌3月: ・「月初売上債権残高」=(73)+(85)=(94)9,450千円 ・「当月発生売上債権」=(74)+(86)=(95)14,175千円 ・「月末売上債権残高」=(75)+(87)=(96)14,175千円・・・★1・★2 ・「次期売上代金回収収入」=(76)+(88)=(97)9,450千円・・・★1 年度累計:「次期売上代金回収収入」=(77)+(89)=(98)112,895千円・・・★1 ★1:「月次資金計画書」へ転記 ★2:「予算比較貸借対照表」へ転記 手順8:「月次資金計画書」(予算帳票8参照) 「売上代金回収計画書」の「次期売上代金回収収入」金額を「月次資金計画書」の「売上代金回収収入」欄へ転記する。 4月 :(93)より記入→(99)4,935千円 …略…: …略… 翌3月:(97)より記入→(100)9,450千円 年度累計:(98)より記入→(101)112,895千円 手順9:「予算比較貸借対照表」(予算帳票9参照) 「売上代金回収計画書」の「翌3月:月末売上債権残高」金額を「予算比較貸借対照表」の「売掛金」の「次期末残高」欄へ転記する。 (96)→(103)14,175千円 売掛金の「当期末残高(予想)」欄には、当期実績予想貸借対照表より転記する。 →(102)8,000千円 売掛金の「増減差額」欄には、(103)14,175千円-(102)8,000千円 =(104)6,175千円を計算・記入する。 手順10:「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【直接法】」(予算帳票10参照) ・借方の「売上高」欄へ「予算損益計算書」より転記 (60)→(105)113,400千円 ・借方の「仮受消費税等」欄へ「予算損益計算書」より転記 (65)→(106)5,670千円 ・「借方合計」欄へ縦計算・記入する。 (105)+(106)=(107)119,070千円 ・貸方の「貸方合計」欄へ「借方合計(107)」を記入する。 (108)119,070千円 ・貸方の「売掛金増加額」欄へ「予算比較貸借対照表」の「増減差額(104)」を記入する。 →(109)6,175千円 ・貸方の「営業収入」欄へ下記の差額計算結果を記入する。 (108)119,070千円-(109)6,175千円=(110)112,895千円 「月次資金計画書」の「売上代金回収収入」の「年度累計(101)112,895千円」と一致することを確認する。 手順11:「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」(予算帳票11参照) 上記の「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【直接法】」の「営業収入(110)」金額を「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」の同科目金額へ転記する。 →(111)112,895千円 手順12:「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【間接法】」(予算帳票12参照) ・借方の「税引前当期純利益」欄へ「予算損益計算書」より転記 (61)→(112)25,578千円 ・「借方合計」欄へ縦計算・記入する。 (112)=(113)25,578千円 ・貸方の「貸方合計」欄へ「借方合計(113)」を記入する。 (114)25,578千円 ・貸方の「税引前当期純利益」欄へ借方の同科目金額(112)を記入する。 (112)=(115)25,578千円 ・貸方の「売掛金増加額」欄へ「予算比較貸借対照表」の「増減差額(104)」を記入する。 →(116)6,175千円 ・貸方の「売上債権の増減額」欄へ下記の差額計算結果を記入する。 (114)25,578千円-(115)25,578千円-(116)6,175千円 =(117)△6,175千円 手順13:「予算キャッシュ・フロー計算書【間接法】」(予算帳票13参照) 上記の「予算キャッシュ・フロー科目組替仕訳【間接法】」の「税引前当期純利益(115)」及び「売上債権額の増減額(117)」を「予算キャッシュ・フロー計算書【直接法】」の同科目金額へ転記する。 「税引前当期純利益」(115)→(118) 25,578千円 「売上債権の増減額」(117)→(119) △6,175千円 (了)