減価償却費の計算方法と基礎知識
固定資産のうち、建物、機械装置、器具備品など利用または時の経過により価値が減少する減価償却資産に対し、取得原価を各事業年度に費用配分する減価償却は、会計理論的には、個々の資産ごとにその使用状況に応じて減価償却費を計算すべきとされますが、その計算に必要な資産ごとの耐用年数や残存価額を見積もることは容易ではありません。
このページでは減価償却費の計算方法と基礎知識について解説いたします。初めて経理に携わられるご担当者様でも、安心して減価償却に関する知識を身に付けていただけるよう、易しくかつ実務に即して詳細に解説するDVDセミナー講座も当ページでご案内しております。
1.減価償却とは
固定資産のうち、利用または時の経過により価値が減少する資産を減価償却資産といい、建物、機械装置、器具備品等が該当します。その価値の減少額を見積もり、その取得原価を各事業年度に費用配分する手続きを減価償却といいます。土地のように価値が減少しない固定資産は非減価償却資産として、減価償却の対象となりません。また、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、ソフトウェア、営業権などの無形固定資産や、牛、馬などの生物も減価償却資産となります。
会計理論的には、個々の資産ごとにその使用状況に応じて減価償却費を計算すべきとされますが、その計算に必要な資産ごとの耐用年数や残存価額を見積もることは容易ではありません。また、減価償却費の計算が内部計算である点から恣意性の介入が避けがたいとも考えられます。
法人税法では、課税公平の見地から「取得価額」、「耐用年数」、「残存価額」及び「償却方法」を法定し、これに基づいて計算される「償却限度額」の範囲内で損金の額に算入することとしています。
会計上の減価償却費の計上においても、特に合理性を欠く場合を除き、法人税法における減価償却限度額相当額をそのまま計上するのが一般的です。
所得税法では、恣意性の排除のために固定資産の減価償却は強制されており、個人の事業所得等の計算において必要経費等に算入される額は、上記の法定要素に基づいて計算される資産の減価償却の額のうち、その事業等の遂行に必要である部分とされています。
2.減価償却費の計算
法人税法における償却限度額及び所得税法における減価償却の額の計算に用いる計算要素は、取得価額、耐用年数、残存価額及び償却方法の4つとなり、税法では以下のとおり規定しています。
(1)取得価額
固定資産の取得価額は、減価償却費の計算のみならず、譲渡損益等の計算にも影響することから、税法上も取得原価主義に基づき、取得の態様別に規定しています。
例えば、購入により取得した場合には、購入代価に付随費用を加算した金額とその資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額と規定しています。
(2)耐用年数
減価償却資産の構造・用途、細目ごとに「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に掲げられている耐用年数を用いることになります。これを法定耐用年数といいます。
例えば、建物の耐用年数は、鉄骨・鉄筋コンクリート造であり、それが住宅、寄宿舎、宿泊所、学校、体育館用であれば47年、同じ造りであっても事務所、美術館用であれば50年といった年数が定められています。
また、中古の減価償却資産を取得した場合には、その資産の使用可能期間(残存耐用年数)を見積もって減価償却費を計算します。ただし、この見積もりは実務上困難を伴うため、税法上は、法定耐用年数の全部を経過したものと一部を経過したものに分けて計算方法を定めており、その算式で計算した年数を残存耐用年数とします。
なお、中古資産を再取得価額(その資産と同種の新品を取得する場合の価額)の50%を超える金額で取得した場合には、耐用年数の見積もりが実質的に困難とされ、法定耐用年数を用いることとなります。レストア等部品を交換したため新品同様の価値があると判断されるような中古車はこれに該当します。
(3)残存価額
耐用年数を経過した減価償却資産のその経過時点における資産価値が残存価額です。取得価額からこの残存価額を控除した金額が耐用年数の各期間にわたって費用配分される減価償却費の総額になります。
これについても、税法では、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に有形減価償却資産は取得価額×10%(注)、無形減価償却資産は0と定めています。
- (注)法改正により、平成19年4月1日以後取得した資産について残存価額は「0」とされました。
(4)償却方法
① 平成19年3月31日以前に取得した資産の償却方法
平成19年に法改正が行われ、平成19年3月31日以前に取得した資産については、従来どおり「定額法」「定率法」「生産高比例法」のいずれかが認められます。なお、これらの償却方法はそれぞれ「旧定額法」「旧定率法」「旧生産高比例法」と呼ばれています。
② 平成19年4月1日以後に取得した資産の償却方法
法改正により、有形減価償却資産に定められていた取得価額×10%の残存価額が0とされ、備忘価額である1円まで減価償却費の計上が認められることとなりました。
また、定率法の償却率は定額法償却率の2.5倍に相当する率を適用することとなりました。これを250%定率法の導入と呼んでいます。
耐用年数 | 定額法償却率 | 定率法償却率 |
3年 | 0.334 | 0.833 |
4年 | 0.250 | 0.625 | 5年 | 0.200 | 0.500 |
③ 平成24年4月1日以後に取得した資産の償却方法
再度の法改正により、平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産の償却限度額の計算は、定率法償却率は定額法償却率の2倍に相当する率を適用することとされました。
耐用年数 | 定額法償却率 | 250%定率法 | 200%定率法 |
3年 | 0.334 | 0.833 | 0.667 |
4年 | 0.250 | 0.625 | 0.500 |
5年 | 0.200 | 0.500 | 0.400 |
④ 平成28年4月1日以後に取得した資産の償却方法
平成28年の法改正では、建物付属設備及び構築物の償却方法について、定率法が廃止されました。このため平成28年4月1日以後に取得した建物付属設備と構築物は定額法(鉱業用のものについては定額法又は生産高比例法)により償却限度額の計算をすることになりました。
⑤ 償却方法の選択
減価償却資産の区分ごとに償却方法を選定することができます。資産によっては償却方法が一つしか認められてない場合もありますが、複数認められる資産の種類にあっては、その選定した方法は採用しようとする事業年度の確定申告書の提出期限までに届けなければならないことにされています。もし法人が償却方法を選定しなければ、採用すべき償却方法が法定されています。また、個人の場合はすべての減価償却資産につき定額法の償却方法が法定されています。
⑥ 各償却方法による償却限度額及び減価償却の額の計算
- ・定額法
- (取得価額-残存価額)×耐用年数に応じた償却率=償却限度額
- ・定率法
- (取得価額―既償却額)×耐用年数に応じた償却率=償却限度額
3.法人税法における取扱い
会計上、減価償却費として計上した金額が法人税法上の減価償却限度額を超える場合、または満たない場合の法人税法上の取扱いは次のとおりとなります。
① 費用計上した減価償却費が償却限度額を超える場合
過大に計上されている金額相当額は、法人税の所得金額の計算上損金の額に算入されないため、償却超過額相当額を加算調整します。
② 費用計上した金額が償却限度額に満たない場合
企業会計上損金経理(会計上の費用計上)していることが法人税の所得金額計算において損金の額に算入するための要件とされているため、過少に計上されている金額があっても、所得計算において減算調整することはしません。
4.所得税法における取扱い
個人の事業所得等の金額の計算において、家事上の経費や家事関連費は必要経費等に算入できる金額から除かれます。
例えば、事務所兼居宅に使用している建物の減価償却の額は、事業用部分と家事上の部分に区分し、事業用の部分が必要経費等に算入されます。法律上、必要経費に算入されなるのは、「取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られています。そのため一般的には、兼用建物については床面積の比など、合理的な算定基準による事業(家事)按分を行います。なお白色申告者は上記の要件に加え「その金額のうち業務遂行上直接必要である部分がおおむね50%超である」という要件もあるため、注意が必要です。
5.少額減価償却資産
減価償却資産の取得価額が少額である場合などは、実務上の簡便性を考慮して、次に掲げる特例規定が設けられています。
(1) 少額減価償却資産の損金算入
事業供用した減価償却資産の取得価額が10万円未満である場合、または使用可能期間が1年未満である場合には、取得価額全額を一時に損金算入することが認められています。
(2) 一括償却資産の損金算入
事業供用した減価償却資産の取得価額が20万円未満のものについては、通常の減価償却費の計算に代えて、その事業年度以後3年間で損金算入することが認められています。
(3) 中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入
青色申告書を提出する中小企業者等が事業供用した取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産については、その取得価額の全額を損金算入する規定が設けられています。これを適用する資産の取得価額の合計額は、年間300万円までとされています。
※この規定が適用できる中小企業者等とは、資本金1億円以下の法人で、単一の大規模法人(資本金1億円超)に発行済み株式総数の1/2以上所有されていない、もしくは複数の大規模法人に発行済み株式総数の2/3以上所有されていない法人をいいます。
6.資本的支出と修繕費
固定資産の修理や改良を行うために支出した金額は、①固定資産の価値を高める等の場合と、②単に維持、修繕のために支出する場合のいずれかが考えられます。
価値を高めるなどの場合には、その支出の対象となった固定資産の追加計上として会計処理することとなり、維持修繕と認識される場合には、その支出年度の費用として処理されます。
いずれに該当するかにより、会計上の当期純利益や法人税法上の課税所得金額に大きな違いが生ずるため、法人税では詳細な判断基準を設けています。
実務において正しい処理ができるようになるために
減価償却は、大半の事業者にとって当期利益の算定、課税所得の計算に必要不可欠な費用の一つです。最近の税法改正に伴って、その減価償却費の計算がとても煩雑なものとなりました。
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