相続税の申告書とは

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解説:筏井 昌春(税理士)

相続税は申告納税方式となっているため、相続税の申告が必要な者は納税者自らが申告書を作成し税額を確定させる必要があります。

また、相続時精算課税贈与を受けて納めた贈与税がある場合にはその納めた贈与税の還付を受けるために相続税の申告書を提出できる場合があります。

ここでは相続税の申告書を提出しなければならない場合や提出できる場合について提出期限や提出先を解説します。

相続税の申告書とは

1.相続税の申告書

相続税は申告納税方式となっているため、相続税の申告書の提出義務がある者は自ら申告書を提出しその税額を確定させなければなりません。

相続税法においては、相続税の申告書は誰がどのような場合に提出しなければならないか(提出義務者)、いつまでに提出しなければならないか(提出期限)、どこに提出しなければならないか(提出先)を規定しています。申告書を提出しなければならない場合にその申告書を提出しないと延滞税や加算税といった罰則的な税金が課される場合がありますので注意が必要です。

2.提出義務者

被相続人から相続もしくは遺贈により財産を取得した者又は被相続人の生前に被相続人から相続時精算課税贈与により財産を取得している者は、次のいずれかに該当することとなった場合には相続税の申告書の提出義務者となります。

(1) 納付税額がある

被相続人から相続もしくは遺贈により取得した財産又は相続時精算課税贈与により取得した財産について納付すべき相続税額がある場合には提出義務者となります。

(2) 申告書の提出が必要な規定の適用を受けている

納付税額がない者であっても、適用を受けるために申告書の提出が必要とされる規定の適用を受けている場合には申告書の提出が必要となります。

相続税法基本通達においては申告書の提出が必要とされる規定について下記の規定が挙げられています。

  • ➀ 配偶者に対する相続税額の軽減(法19の2)
  • ➁ 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4)
  • ➂ 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の5)
  • ➃ 国等に対して相続財産を贈与した場合等の相続税の非課税等(措法70)

(3) 還付税額がある

被相続人から生前に相続時精算課税贈与を受けて贈与税を納付しているとその贈与税が被相続人の死亡時に相続税の申告書の提出により還付される場合があります。この場合の申告書は、提出しなければならないというものではないため提出しなくても罰則等はありませんが、納めた税金が返ってきますので申告できるならば申告した方がいいでしょう。

3.提出期限

相続税の申告書の提出期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」とされています。「相続の開始」とは、通常「被相続人が亡くなったこと」を意味しますので、被相続人が亡くなったことを知ってから10月以内となります。

なお、この提出期限が、土曜、日曜、祝祭日に該当する場合には、これらの日の翌日が提出期限とされます。

また、この提出期限までに日本から出国する場合には、納税管理人の届出をしないとその出国する日までに申告書を提出しなければならないため、出国することとなる場合には納税管理人の届出を行うことをお勧めします。

4.提出先

相続税の申告書の提出先は「納税地の所轄税務署長」とされています。納税地は、原則として被相続人の住所地となるため、これにより被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は納税地が被相続人の住所地となり、申告書の提出先となります。

通常、納税申告書は納税義務者の住所地を納税地(提出先)とすることが多いのですが、相続税は被相続人の住所地を納税地(提出先)としています。これは、相続税の計算が被相続人から財産を取得したすべての者の課税価格を合計し税額計算をしているため、納税義務者ごとに申告書を別々に提出するより被相続人ごとに申告書をまとめて提出したほうが便利であることからこのような規定となっています。

5.提出義務者が死亡した場合

3でご紹介した通り相続税の申告期限は相続の開始を知ってから10月以内ですが、10月の間に提出義務者が死亡してしまうと申告書を提出できなくなってしまいます。そのような場合にはその提出義務者の相続人が提出義務を引き継ぐことになります。

6.明細書の添付

相続税の申告書には、被相続人が遺した財産や債務の明細やそれらの財産や債務を承継した相続人ごとの明細書を添付する必要があります。

7.共同提出

4でも触れましたが相続税は被相続人から財産を取得したすべての者の課税価格を合計し税額計算をしているため、申告書はまとまっている方が便利になります。そこで、相続税の申告書は、同じ被相続人から財産を取得したすべての者は共同して提出することができるようになっており、財産を取得した者が複数いる場合などはそれぞれが別々に申告書を提出するのでなく、全員でまとめて提出できるようになっています。

8.税額が異動した場合

相続税については、当初、正しい税額計算を行い、申告書を提出した場合であっても、その後において生じた納税義務者の落ち度ではない理由により税額が変動する場合があります。そのような場合には、納税義務者は期限後申告書、修正申告書、更正の請求書といった申告書等を提出することができます。

実務において正しい処理ができるようになるために

提出義務者に該当した場合には、期限までに正しい手続きを取らないと罰則的な税金が課される場合があります。そうならないために提出義務者の要件、提出期限及び提出先について正しく押さえて必要があります。

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