遺産分割とは

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解説:淡路 幸史(税理士)

民法882条「相続は、死亡によって開始する。」、同896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定されています。被相続人とは亡くなった人、相続人とは、亡くなった被相続人の財産を引き継ぐ人を言いますが、この相続人が複数人いる場合、遺産分割により被相続人の財産を分け合うこととなります。ここでは遺産分割にあたっての民法の規定、分割方法、相続税申告との関係などについて解説します。また、約40年ぶりに民法が改正されることとなりましたので、主な概略を紹介いたします。

遺産分割とは

1.遺産分割とは

被相続人の死亡により相続が開始すると、被相続人の財産は相続人(配偶者や子供その他一定の者)の共有財産となります。相続人は、相続の開始があったことを知った日から原則3か月以内に相続の承認(被相続人の財産を引き継ぐ意思表示のこと)又は放棄(被相続人の財産を引き継がない意思表示のこと)を決断しなければなりません。

承認には2つの形式がありますが、一般的なものは単純承認というものです。単純承認とは被相続人の不動産や預貯金などのプラスの財産及び借入金などのマイナスの財産を無制限に引き継ぐことをいいます(限定承認というものもありますが、ここでは割愛します)。
相続人が複数人いる場合、この共有財産となった無制限の財産債務を全員で分け合うことを遺産分割といい、その話し合いの場が遺産分割協議となります。

遺産分割協議は相続人全員が参加しなければなりません。一人でも抜けて協議してもすべて無効になってしまいます。そこで相続が開始したら、まず被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍を入手し、相続人を確定することが最重要となります。

2.民法に規定する相続人及び相続分

民法により相続人及び相続分を定めており、概略は次のとおりです。

(1)相続人

  • ➀ 被相続人に法的に婚姻関係のある配偶者がいれば常に相続人になります。配偶者相続人と言いますが、これに内縁関係による夫や妻は該当しません。
  • ➁ 配偶者相続人のほか血族相続人として、第一順位は被相続人の子、子がいなければ、第二順位は被相続人の直系尊属(具体的には被相続人の父母、祖父母、曽祖父母など、被相続人と血のつながりのある上の世代の者)、直系尊属がいなければ、第三順位として被相続人の兄弟姉妹になります。
  • ➂ なお、被相続人の相続開始前に、推定相続人(相続が起こった場合に相続人になると推定される人)である第一順位の子が死亡している場合、子が相続できる分を子に代わって被相続人の孫が相続することができます。これを代襲相続と言います。第一順位の子及び第三順位の兄弟姉妹に代襲相続原因(死亡のほか欠格、廃除により相続権を失います)が生じた場合、第一順位の子であれば、その子の相続権は被相続人から見て孫に相続されます。もしその孫にも代襲相続原因が発生していればその孫の子(被相続人からみて曾孫)に再代襲されます。一方、第三順位の兄弟姉妹の場合、代襲は一代限りとされているため、被相続人の甥姪までとなることに注意が必要です。
遺産分割とは

(2)相続分

遺産分割にあたり、遺言による相続分の指定がある場合を除いて、誰がどの程度財産を取得するかの基準が下記のように定められています。遺産分割協議で相続人全員の合意があれば、この割合によらず分割することも可能です。

①配偶者と子(第一順位)が相続人の場合 配偶者:1/2 子:1/2
②配偶者と直系尊属(第二順位)が相続人の場合 配偶者:2/3 直系尊属:1/3
③配偶者と兄弟姉妹(第三順位)が相続人の場合 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4
④配偶者のみが相続人の場合 配偶者が単独で相続
⑤配偶者がいない場合
  • 1.第一順位の子が相続
  • ↓子が不在
  • 2.第二順位の直系尊属が相続
  • ↓直系尊属が不在
  • 3.第三順位の兄弟姉妹が相続

子、直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合、各自の相続分は均等として扱います。半血兄弟姉妹(被相続人と父又は母の一方のみを同じくする兄弟姉妹)は全血兄弟姉妹の1/2が相続分となります。

また代襲相続分は、代襲相続人が1人の場合、被代襲者が受けるべきであった相続分、2人以上いる場合には、被代襲者が受けるべきであった相続分を、その被代襲者の代襲相続人が均等に分割します。

3.遺言書の存在

被相続人に相続が開始したらはじめに遺言書の有無を確認します。遺言書がある場合、基本的にその内容に基づいて相続することになります。しかし、相続人全員の同意があれば、遺言書と異なる形で遺産分割することも可能となります。

また、遺言書において特定の者などに相続させる旨の記載があると、法定相続人の地位にある者であっても十分な財産を取得できなくなるため、民法で遺留分を定めています。

遺留分とは、相続財産の最低限の取得分を言い、相続人が直系尊属のみの場合その割合は1/3、その他の場合は1/2となります。

遺留分の権利を有する者は、被相続人の配偶者、子(代襲相続人を含む)及び直系尊属のみで、兄弟姉妹にはありません。この遺留分の権利を侵害された場合には、遺留分減殺請求権を行使することで遺留分相当の遺産を取り戻すことができますが、平成30年民法改正によりこの遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権へ改められることとなりました。

現行法では遺留分相当の現物財産の取戻しをすることができる権利だった遺留分減殺請求権が、改正により遺留分を侵害された額に相当する金銭の支払いを請求することができる権利に、すなわち遺留分侵害額請求権は金銭債権として取り扱われることになりました。

4.遺産分割の方法

➀現物分割

現物というように、被相続人の財産そのものを現状のまま相続人などに分けていく方法が現物分割です。例えば、被相続人の自宅(家屋及び敷地)は妻に、預貯金のうちA銀行普通預金口座は長男、B銀行普通預金口座は次男というように分割する場合です。

➁代償分割

特定の相続人が相続分を超える財産を取得した場合、その者が他の共同相続人に対し代償金として金銭を支払う方法が代償分割です。例えば個人で不動産賃貸業を営んでいた被相続人が死亡し、長男がその業務を承継することからその不動産のすべてを取得する代わりに、長男は次男に一定額を金銭で支払うというような場合です。

➂換価分割

被相続人の財産を譲渡等により換価し、その換価代金を共同相続人で分配する方法が換価分割です。例えば被相続人の相続財産である自宅について、その共同相続人は皆住まいを持っているため自宅は不要と考えている場合、自宅を譲渡し、その譲渡代金を相続人で分割するような場合です。なお、この場合自宅を譲渡することから譲渡所得税等が生じるケースが考えられるため、実行するには慎重に進める必要があります。

5.遺産分割協議書の作成

遺産分割がすべての共同相続人の合意に至ったときに遺産分割協議書を作成します。なお、代償分割又は換価分割による分割を行う場合には、必ずその旨を記載しなければいけません。この作成した遺産分割協議書は法務局への不動産の名義変更、金融機関への預貯金の名義変更その他税務署へ相続税申告に必要となります。

6.遺産分割の効力

遺産分割は、相続開始の時に遡りその効力が発生します。すなわち、被相続人の権利・義務は、相続開始時に取得した相続人に直接承継されたこととなります。

7.遺産分割の期限と相続税申告の関係

遺産分割に特に期限は設けられていませんが、相続税申告において遺産分割協議が成立していないと税負担の面でデメリットがあることに注意が必要です。

(1)相続税の申告期限までに遺産分割が未了の場合

相続税申告書の提出期限は相続開始から10か月となりますが、ここまでに遺産分割が済んでいないと配偶者の相続税額の軽減や小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例などの優遇措置を適用することができません。

この場合には未分割であるものとし、前述の優遇措置を適用しないところで相続税の申告、納付及び「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出します。優遇措置の不適用により納付すべき税負担が一時的に過大となります。

(2)相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議が成立した場合

その遺産分割が成立した日から4か月以内に更正の請求を行い、配偶者の相続税額の軽減や小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例などを適用することで過大納付した税金の還付を請求することとなります。

(3)相続税の申告期限から3年以内に遺産分割が成立していない場合

相続税の申告期限から3年が経過する日の翌日から2か月を経過する日までに遺産分割未了であることにつきやむを得ない事情がある場合、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出し所轄税務署長の承認を受けることが必要です。

その後、判決の確定の日などの一定の日の翌日から4か月以内に分割がされたとき、その分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで特例の適用を受け過大に納付した相続税の還付を請求することができます。

但し、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出が特例適用において必須となるため、提出を失念しないよう十分留意しなければなりません。

8.民法改正により新設される項目のうち主なもの

約40年ぶりに民法改正され相続法に関する規定が見直されました。前述した遺留分侵害額請求権のほか、遺産分割に関連する主なものをここで紹介します。

下記に掲げる民法改正は、原則として公布の日(平成30年7月13日)から1年を超えない範囲内(配偶者居住権、配偶者短期居住権は公布の日から2年を超えない範囲内)で政令で定める日から施行されることとなっています(原則として2019年7月1日から施行)。

(1)配偶者短期居住権(2020年4月1日から施行)

現行法では、例えば第三者に居住建物が遺贈されてしまうと配偶者の居住権が短期的にも保護されないことを踏まえ新設されたもので、配偶者が被相続人の建物(居住建物)に相続開始時点に無償で居住していた場合、次の①と②のいずれか遅い日までその居住建物を無償で使用することができる権利をいいます。

  • ① 遺産分割により居住建物の取得者が確定する日
  • ② 相続開始時点から6か月間を経過する日

なお、配偶者が相続放棄した場合又は居住建物が第三者に遺贈された場合には居住建物の所有者より消滅請求を受けてから6か月間配偶者はこの権利を取得することができます。最低限の期間配偶者の居住が保護されることとなります。

(2)配偶者居住権(2020年4月1日から施行)

配偶者居住権とは、原則として配偶者の終身の間(遺産分割協議、審判、遺言により一定期間を定めることも可能です。)その居住建物を無償で使用収益できる権利をいいますが、この権利が成立するには次の要件を満たさなければなりません。

  • ➀ 配偶者が被相続人の建物(居住建物)に相続開始時点に居住していたこと。
  • ➁ その居住建物は相続開始時点において被相続人と配偶者以外の者の共有になっていないこと。
  • ➂ 遺産分割又は遺言等により配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたこと。

配偶者は居住建物を完全な所有権として取得する場合と比較して、配偶者居住権の財産的価値に相当する価額は低くなるので居住建物の他に今後の生活費にあたる預貯金等の金融資産等を相続することができるものとされています。

(3)婚姻期間20年以上の夫婦間でなされた居住用不動産の贈与等の保護

現行規定では、被相続人から遺贈や一定の目的として生前贈与を受けた場合、原則遺産の先渡しとして取り扱われるため、最終的に取得する財産額はその分だけ差し引した額をもって相続分とされます。(これを特別受益といいます。)よって、遺産分割で取得できる財産はその分少なくなってしまいます。

今回の民法改正で、婚姻関係が20年以上である配偶者の一方が他方に居住用不動産(建物又はその敷地)を遺贈又は贈与した場合には、原則遺産の先渡し(特別受益)として取り扱わなくて良いこととなりました。これにより配偶者はより多く遺産分割で多くの財産を取得することができることになりました。

(4)遺産分割前における預貯金債権の行使

相続の現場においてよく問題になることとして、被相続人の死亡により被相続人の預貯金遺産分割が終了しないと払い戻しができないことから、葬儀費用や生活費の支払い、相続債務の弁済が困難になる場合がありました。

今回の改正により、遺産分割前であっても預貯金債権のうち一定額は、家庭裁判所の判断を待たず金融機関で払い戻しが受けられることとなりました。

(5)遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

例えば一部の相続人により被相続人の預貯金が遺産分割前に引き出された場合、遺産分割において対象資産をどうみるかという問題がありました。

共同相続人の全員の同意(その財産を処分した共同相続人の同意を得る必要はありません。)をもって、その処分された財産が遺産分割時に遺産として存在していたものとみなすことができるものとされました。

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