欠損金の繰越控除・純損失の繰越控除とは
会計では利益の計算は期間損益計算を基本とし、会計原則に基づき正規の簿記の原則に従って計算したその期間の純利益又は純損失の金額及びその期間終了時点における財産状態を外部の利害関係者にわかりやすく見せることを目的のひとつとしています。
税法はこの期間損益計算に加え、課税公平性の確保や担税力の考慮を主目的として、期間損益計算の例外規定が設けられています。このページでは法人税法の「欠損金の繰越控除」及び所得税法の「純損失の繰越控除」について解説します。
それぞれの適用要件と計算上の留意点を確認し、実務に活用してください。
1.概要
法人税及び所得税はいずれも所得(≒利益)に対する課税であり、その所得は、法人であれば事業年度、個人であれば一暦年という人為的に区切った期間の行為結果に基づいて計算されます。この計算結果がマイナス(≒損失)になった場合の税負担の過重性や担税力の減少を考慮し、一定の要件のもとにこのマイナスの金額を他の期間の所得から控除する旨の規定があります。
法人税法では、前期以前に生じた欠損金額は「欠損金の繰越控除」の規定により当期の損金の額に算入します。この欠損金額は会計上の当期純損失に法人税法上の調整項目を加減算した後の金額であり、その金額がマイナスとなる場合に、後の事業年度の所得金額の計算の基礎になります。
所得税法では、損失の金額を控除する規定として、「純損失の繰越控除」、「損益通算」、「雑損失の繰越控除」がありますが、このページでは「純損失の繰越控除」について解説します。
2.適用要件
この規定を適用するためには、次の要件を満たしていなければなりません。これを適用要件といいます。
(1)法人の場合
- ① 各事業年度開始の日前9年(※)以内に開始した事業年度において生じた欠損金額であること
※平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金額の繰越期間は10年 - ② 青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額であること
- ③ ②の後において連続して確定申告書を提出していること
- ④ 欠損金額の生じた事業年度に係る帳簿書類を保存していること
(2)個人の場合
- ① この年の前年3年内の各年において生じた純損失の金額があること
- ② 純損失の金額の生じた年分につき確定申告書を提出していること
- ③ ②の後において連続して確定申告書を提出していること
法人の場合と異なり、「繰越する期間が帳簿書類の法定保存期間を超えないため法人の④のような要件はない」また、「純損失の生じた年分から白色申告書による確定申告書の提出で差し支えない」といったところが主な違いです。
しかし、個人は純損失の金額の生じた年分にかかる確定申告書が白色申告書であった場合、繰越される純損失が「変動所得の損失(※1)」と「被災事業用資産の損失(※2)」とに制限されるため、こちらも実務上はおおむね青色申告書を提出することが通常です。
- ※1 一定の漁業、原稿料、作曲料などに係る事業の損失をいいます。
- ※2 事業所得等に係る棚卸資産・固定資産の災害による損失をいいます。
3.控除金額(大法人に係る控除金額の制限)
大きな欠損金額を一度に当事業年度の所得の金額から控除してしまうと国としては徴税資金の確保ができないなどの懸念もあるため、事業規模の大きな法人(これを法人税法上「中小法人等(※)以外の法人」と言います)の場合、その事業年度の所得の金額を計算の基礎として、控除される欠損金額に制限があります。具体的には以下のようになります。
- (1)平成30年3月31日までに開始する事業年度…所得金額の55%
- (2)平成30年4月 1日までに開始する事業年度…所得金額の50%
例えば、平成30年1月1日から平成30年12月31日を一事業年度とする中小法人等以外の法人で、その事業年度の所得の金額が1億円であった場合、前年以前9年間に発生し繰越された欠損金額の合計が1億5,000万円であったとしても、控除される金額は5,500万円(1億円×55%)までであり、4,500万円(1億円△5,500万円)については課税されます。
法人による支配関係のない資本金1億円以下の会社は一般的にはこの中小法人等に該当するため、通常、当事業年度の所得の金額がゼロになるまで欠損金の繰越控除を適用します。
また、個人についても上記2(2)の要件を満たせば所得による制限はありません。
※中小法人等とは
- ①普通法人(投資法人、特定目的会社及び受託法人を除く)のうち、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金の額もしくは出資金の額が5億円以上の法人などによる完全支配関係があるものその他一定のものを除く)
- ②公益法人等
- ③協同組合等
- ④人格のない社団等
をいいます。
4.この規定の立ち位置と「繰戻し還付」規定との関係
「欠損金の繰越控除」「純損失の繰越控除」はいずれも“できる”規定ではなく、“する”規定であり、恣意性は排除されています。「今年度は税金このくらい払ってもいいから控除金額はこれくらいにして、残りは次年度に控除しよう」ということはできず、適法に取り扱わないと税務署の更正事由になります。
また、損失の金額に関する期間損益計算の例外規定として、法人税法においては「欠損金の繰戻し還付」、所得税法においては「純損失の金額の繰戻し還付」の規定があります。これら「繰戻し還付」の規定は、生じた欠損金額を前期(前年)以前の所得金額から控除し、その控除後の金額に基づいて計算した税額と既に納めた税金との差額について還付を受けることができるというものです。「繰越控除」の規定とは異なる“できる”規定であり、実際に還付を受ける(が戻ってく還付される)規定でもあるため、適用対象や金額計算について細かな要件があります。「繰越控除」の適用はあるが「繰戻し還付」の適用はできない状況もあり得るため、その適用可否の判断や金額計算にはより注意が必要です。
実務において正しい処理ができるようになるために
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