公開日: 2017/04/13 (掲載号:No.214)
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平成29年度税制改正における『組織再編税制』改正事項の確認 【第1回】

筆者: 佐藤 信祐

平成29年度税制改正における

『組織再編税制』改正事項の確認

【第1回】

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

1 概要

本誌198号で述べたように、平成28年12月8日に公表された与党税制改正大綱では、組織再編税制を大幅に見直すこととされており、具体的には、以下の点を改正することが明記されていた。

(1) スピンオフ税制

(2) スクイーズアウト税制

(3) 支配関係継続要件の見直し

(4) 株式継続保有要件の見直し

(5) 2段階組織再編成の見直し

(6) 資産調整勘定の償却の見直し

(7) 繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の見直し

このうち、(2)から(5)までの改正は、平成29年10月1日の施行が予定されており、それ以外は、平成29年4月1日に施行されている。そして、平成29年3月31日の官報では、改正法人税法施行令が公表され、改正内容の全貌が明らかになった。

本稿は全5回にわたり、改正組織再編税制の解説を行うこととする。

 

2 スピンオフ税制

改正前法人税法では、支配株主の存在しない新設分割型分割や子会社株式の現物分配は、グループ内の組織再編にも該当せず、共同事業を営むための組織再編にも該当しないことから、非適格組織再編として取り扱われている。これに対し、改正法人税法では、以下の組織再編を対象としてスピンオフ税制が導入された。

(1) 単独新設分割型分割

(2) 100%子会社株式を対象とした現物分配

(3) 単独新設分社型分割又は単独新設現物出資後に、分割承継法人株式又は被現物出資法人株式の現物分配が行うことが見込まれている場合における当該単独新設分社型分割又は単独新設現物出資

本誌198号で述べたように、これらはいずれも、他の者による支配関係がないことを前提としていることから、非上場会社で適用されることは稀であり、実務上、上場会社がbad事業を切り離す場合にのみ適用される手法であると思われる。

まず、(1)単独新設分割型分割であるが、法人税法2条12号の11ニにおいて、

その分割(一の法人のみが分割法人となる分割型分割に限る。)に係る分割法人の当該分割前に行う事業を当該分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割として政令で定めるもの

と規定したうえで、同法施行令4条の3第9項において以下の要件が定められている。

 分割の直前に当該分割に係る分割法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、当該分割後に当該分割に係る分割承継法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと。

 分割前の当該分割に係る分割法人の役員等(当該分割法人の重要な使用人(当該分割法人の分割事業に係る業務に従事している者に限る。)を含む。)のいずれかが当該分割後に当該分割に係る分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること。

 分割により当該分割に係る分割法人の分割事業に係る主要な資産及び負債が当該分割に係る分割承継法人に移転していること。

 分割に係る分割法人の当該分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該分割後に当該分割に係る分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること。

 分割に係る分割法人の分割事業が当該分割後に当該分割に係る分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること。

なお、上記であるが、「他の者」には、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。すなわち、任意組合形式のファンドが支配している会社に対しては、スピンオフ税制を適用することができないこととなる。

次に、(2)100%子会社株式を対象とした現物分配であるが、法人税法2条12号の15の2において、株式分配の定義を

現物分配(剰余金の配当又は利益の配当に限る。)のうち、その現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人(次号において「完全子法人」という。)の当該発行済株式等の全部が移転するもの(その現物分配により当該発行済株式等の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における当該現物分配を除く。)をいう。

と規定している。

なお、完全支配関係のある株主のみに対して現物分配を行うものは、株式分配に該当しないことから、同法2条12号の15に規定する適格現物分配に該当するかどうかを検討することになる。そのため、支配株主が法人である場合には適格現物分配、支配株主が個人である場合には非適格現物分配として処理されることになる。

このように定義された株式分配に対して、同法2条12号の15の3において、適格株式分配の定義を

完全子法人の株式のみが移転する株式分配のうち、完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うための株式分配として政令で定めるもの(当該株式が現物分配法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該現物分配法人の各株主等の有する当該現物分配法人の株式の数(出資にあっては、金額)の割合に応じて交付されるものに限る。)をいう。

と規定したうえで、同法施行令4条の3第16項において以下の要件が定められている。

 株式分配の直前に当該株式分配に係る現物分配法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、当該株式分配後に当該株式分配に係る法2条12号の15の2に規定する完全子法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと。

 株式分配前の当該株式分配に係る完全子法人の特定役員の全てが当該株式分配に伴って退任をするものでないこと。

 株式分配に係る完全子法人の当該株式分配の直前の従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること。

 株式分配に係る完全子法人の当該株式分配前に行う主要な事業が当該完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること

なお、の「他の者」については、(1)と同様に、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。

最後に、(3)であるが、単独新設分社型分割については、法人税法施行令4条の3第6項1号ハにおいて、単独新設現物出資については、同条第13項において、それぞれ、完全支配関係継続要件の特例が定められている。

すなわち、適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、その直前の時まで完全支配関係が継続していればよく、その後の完全支配関係の継続は要求されないこととされた。

(次号(4/20)に続く)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

平成29年度税制改正における

『組織再編税制』改正事項の確認

【第1回】

 

公認会計士 佐藤 信祐

 

連載の目次はこちら

1 概要

本誌198号で述べたように、平成28年12月8日に公表された与党税制改正大綱では、組織再編税制を大幅に見直すこととされており、具体的には、以下の点を改正することが明記されていた。

(1) スピンオフ税制

(2) スクイーズアウト税制

(3) 支配関係継続要件の見直し

(4) 株式継続保有要件の見直し

(5) 2段階組織再編成の見直し

(6) 資産調整勘定の償却の見直し

(7) 繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の見直し

このうち、(2)から(5)までの改正は、平成29年10月1日の施行が予定されており、それ以外は、平成29年4月1日に施行されている。そして、平成29年3月31日の官報では、改正法人税法施行令が公表され、改正内容の全貌が明らかになった。

本稿は全5回にわたり、改正組織再編税制の解説を行うこととする。

 

2 スピンオフ税制

改正前法人税法では、支配株主の存在しない新設分割型分割や子会社株式の現物分配は、グループ内の組織再編にも該当せず、共同事業を営むための組織再編にも該当しないことから、非適格組織再編として取り扱われている。これに対し、改正法人税法では、以下の組織再編を対象としてスピンオフ税制が導入された。

(1) 単独新設分割型分割

(2) 100%子会社株式を対象とした現物分配

(3) 単独新設分社型分割又は単独新設現物出資後に、分割承継法人株式又は被現物出資法人株式の現物分配が行うことが見込まれている場合における当該単独新設分社型分割又は単独新設現物出資

本誌198号で述べたように、これらはいずれも、他の者による支配関係がないことを前提としていることから、非上場会社で適用されることは稀であり、実務上、上場会社がbad事業を切り離す場合にのみ適用される手法であると思われる。

まず、(1)単独新設分割型分割であるが、法人税法2条12号の11ニにおいて、

その分割(一の法人のみが分割法人となる分割型分割に限る。)に係る分割法人の当該分割前に行う事業を当該分割により新たに設立する分割承継法人において独立して行うための分割として政令で定めるもの

と規定したうえで、同法施行令4条の3第9項において以下の要件が定められている。

 分割の直前に当該分割に係る分割法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、当該分割後に当該分割に係る分割承継法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと。

 分割前の当該分割に係る分割法人の役員等(当該分割法人の重要な使用人(当該分割法人の分割事業に係る業務に従事している者に限る。)を含む。)のいずれかが当該分割後に当該分割に係る分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること。

 分割により当該分割に係る分割法人の分割事業に係る主要な資産及び負債が当該分割に係る分割承継法人に移転していること。

 分割に係る分割法人の当該分割の直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該分割後に当該分割に係る分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること。

 分割に係る分割法人の分割事業が当該分割後に当該分割に係る分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること。

なお、上記であるが、「他の者」には、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。すなわち、任意組合形式のファンドが支配している会社に対しては、スピンオフ税制を適用することができないこととなる。

次に、(2)100%子会社株式を対象とした現物分配であるが、法人税法2条12号の15の2において、株式分配の定義を

現物分配(剰余金の配当又は利益の配当に限る。)のうち、その現物分配の直前において現物分配法人により発行済株式等の全部を保有されていた法人(次号において「完全子法人」という。)の当該発行済株式等の全部が移転するもの(その現物分配により当該発行済株式等の移転を受ける者がその現物分配の直前において当該現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における当該現物分配を除く。)をいう。

と規定している。

なお、完全支配関係のある株主のみに対して現物分配を行うものは、株式分配に該当しないことから、同法2条12号の15に規定する適格現物分配に該当するかどうかを検討することになる。そのため、支配株主が法人である場合には適格現物分配、支配株主が個人である場合には非適格現物分配として処理されることになる。

このように定義された株式分配に対して、同法2条12号の15の3において、適格株式分配の定義を

完全子法人の株式のみが移転する株式分配のうち、完全子法人と現物分配法人とが独立して事業を行うための株式分配として政令で定めるもの(当該株式が現物分配法人の発行済株式等の総数又は総額のうちに占める当該現物分配法人の各株主等の有する当該現物分配法人の株式の数(出資にあっては、金額)の割合に応じて交付されるものに限る。)をいう。

と規定したうえで、同法施行令4条の3第16項において以下の要件が定められている。

 株式分配の直前に当該株式分配に係る現物分配法人と他の者との間に当該他の者による支配関係がなく、かつ、当該株式分配後に当該株式分配に係る法2条12号の15の2に規定する完全子法人と他の者との間に当該他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと。

 株式分配前の当該株式分配に係る完全子法人の特定役員の全てが当該株式分配に伴って退任をするものでないこと。

 株式分配に係る完全子法人の当該株式分配の直前の従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該完全子法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること。

 株式分配に係る完全子法人の当該株式分配前に行う主要な事業が当該完全子法人において引き続き行われることが見込まれていること

なお、の「他の者」については、(1)と同様に、親族が保有している株式、組合契約に係る他の組合員が保有している株式を含めて判定することとしている。

最後に、(3)であるが、単独新設分社型分割については、法人税法施行令4条の3第6項1号ハにおいて、単独新設現物出資については、同条第13項において、それぞれ、完全支配関係継続要件の特例が定められている。

すなわち、適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、その直前の時まで完全支配関係が継続していればよく、その後の完全支配関係の継続は要求されないこととされた。

(次号(4/20)に続く)

この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。

連載目次

平成29年度税制改正における

『組織再編税制』改正事項の確認

  • 【第1回】 ★無料公開中★
    1 概要
    2 スピンオフ税制
  • 【第2回】
    3 スクイーズアウト税制
    (1) 対価要件の見直し
  • 【第3回】
    (2) 全部取得条項付種類株式、株式併合及び株式等売渡請求
    ①  基本的な取扱い
    ② 無対価スクイーズアウト
    ③ 連結納税制度への影響
  • 【第4回】
    4 支配関係継続要件の見直し
    5 株式継続保有要件の見直し
  • 【第5回】
    6 2段階組織再編成の見直し
    7 資産調整勘定の償却の見直し
    8 繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の見直し
    9 むすび

筆者紹介

佐藤 信祐

(さとう・しんすけ)

公認会計士・税理士、法学博士
公認会計士・税理士 佐藤信祐事務所 所長

平成11年 朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)入所
平成13年 公認会計士登録、勝島敏明税理士事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人)入所
平成17年 税理士登録、公認会計士・税理士佐藤信祐事務所開業
平成29年 慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了(法学博士)

【主な著書】
・『ケース別に分かる企業再生の税務』(共著、中央経済社)
・『企業買収・グループ内再編の税務─ストラクチャー選択の有利不利判定─』(共著、中央経済社)
・『組織再編税制 申告書・届出書作成と記載例』(共著、清文社)
・『制度別逐条解説 企業組織再編の税務』(共著、清文社)
・『組織再編における株主課税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社)
・『債務超過会社における組織再編の会計・税務』(共著、中央経済社)
・『グループ法人税制における無対価取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『組織再編・グループ内取引における消費税の実務Q&A』(共著、中央経済社)
・『実務詳解 組織再編・資本等取引の税務Q&A』(共著、中央経済社)
・『これだけ!組織再編&事業承継税制』(共著、中央経済社)
・『無対価組織再編・資本等取引の税務』(中央経済社)
・『グループ法人税制・連結納税制度における組織再編成の税務詳解』(共著、清文社)
・『消費税 個別対応方式の実務 プラス 100Q&A』(共著、清文社)
・『組織再編による 事業承継対策』(共著、清文社)
・『組織再編の会計と税務の相違点と別表四・五(一)の申告調整』(共著、清文社)
・『中小企業のための組織再編・資本等取引の会計と税務』(共著、清文社)
・『条文と制度趣旨から理解する 合併・分割税制』(清文社)
・『事業承継M&Aの実務』(共著、清文社)
・『組織再編税制大全』(清文社)
・『新版 サクサクわかる! 超入門 中小企業再編の税務』(清文社)
・『サクサクわかる! 超入門 合併の税務』(清文社)
・『サクサクわかる!M&Aの税務』(清文社)
・『サクサクわかる!株主対策の税務』(清文社)
・『ドリル式 組織再編成の確定申告書 別表四・五(一)徹底攻略』(清文社)
・『不動産M&Aの税務』(日本法令)
・『みなし配当の税務』(日本法令)

その他M&A、グループ内再編、事業再生及び事業承継に関する書籍多数。

        

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有限責任監査法人トーマツ 編

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