理由付記の不備をめぐる事例研究
【第30回】
「有価証券評価損」
~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~
千葉商科大学商経学部講師
泉 絢也
今回は、青色申告法人X社に対して行われた「有価証券評価損の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成元年9月25日判決(行集40巻9号1205頁。以下「本判決」という)を素材とする。
1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)
更正の理由
貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
(損金の額に算入されない有価証券評価損の額 〇〇〇円)
貴法人は、貴法人の有する米国に所在する子会社の株式(以下「本件株式」といいます。)に係る評価損の額〇〇〇円を当事業年度の損金の額に算入しています。しかしながら、本件株式の発行法人に対する増資が×1年6月30日に行われていること及び評価損計上日(×2年5月20日)は増資払込日(×1年6月30日)から11か月しか経過していないことから、増資による新株を引受けて払込みをした後、相当の期間を経過しているとは認められず、法人税法33条2項、施行令68条1項2号ロに掲げられている評価損の計上ができる特定の事実に該当するものとは認められません。
したがって、貴法人が子会社株式評価損として計上した〇〇〇円については、当事業年度の損金の額に算入されません。
(注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。
2 本件理由付記から読み取ることができる関係図
3 本判決の判断
本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(この判断は、控訴審である東京高裁平成3年6月26日判決・行集42巻6=7号1033頁でも維持されている)。
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